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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109348
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】溝加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/34 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
B23C3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004592
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 憲一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 学
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 章
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022EE01
3C022EE11
3C022EE12
(57)【要約】
【課題】等速ジョイントのインナーレースにおいて高精度な溝成形加工を実現することが可能な溝加工装置を提供する。
【解決手段】溝加工装置が備える制御部は、ボールエンドミルの回転軸線をワークの加工面の法線に対して傾斜させた状態で、回転中の刃部がボール溝の成形方向に沿って直線溝底部の加工領域と曲線溝底部の加工領域とを連続して研削するように相対移動を制御し、中心断面において、法線と回転軸線とのなす角度であって回転軸線の法線からの傾きを加工角度とすると、直線溝底部の加工領域における加工角度である直線加工角度が、曲線溝底部の加工領域における加工角度である曲線加工角度よりも小さくなるように、ワークと刃部とのうち少なくとも一方の姿勢を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を有する回転体である等速ジョイント用インナーレースのワークの外周面に、前記中心軸線方向へ延びるボール溝を成形する等速ジョイント用インナーレースの溝加工装置であって、
前記ボール溝は、前記中心軸線を含む平面での断面である中心断面における溝底形状が直線状をなす直線溝底部と、前記直線溝底部に連続し前記溝底形状が前記中心軸線側へ湾曲した曲線状をなす曲線溝底部と、を含み、
回転軸線まわりに回転するシャフトと、前記シャフトの先端に形成される刃部と、を有し、前記回転軸線を含む平面における回転軌跡形状において、前記刃部が外側に凸となる湾曲形状をなすボールエンドミルと、
前記ワークに対する前記刃部の相対移動の制御と、前記ワークと前記刃部とのうち少なくとも一方の姿勢の制御と、を実行する制御部と、
を備え、前記制御部は、
前記ボールエンドミルの前記回転軸線を前記ワークの加工面の法線に対して傾斜させた状態で、回転中の前記刃部が前記ボール溝の成形方向に沿って前記直線溝底部の加工領域と前記曲線溝底部の加工領域とを連続して研削するように前記相対移動を制御し、
前記中心断面において、前記法線と前記回転軸線とのなす角度であって前記回転軸線の前記法線からの傾きを加工角度とすると、前記直線溝底部の加工領域における前記加工角度である直線加工角度が、前記曲線溝底部の加工領域における前記加工角度である曲線加工角度よりも小さくなるように、前記姿勢を制御する溝加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記刃部が前記直線溝底部の加工領域から前記曲線溝底部の加工領域へ、または、前記曲線溝底部の加工領域から前記直線溝底部の加工領域へ相対移動する際に、前記加工角度が徐々に変化するように、前記姿勢を制御する請求項1に記載の溝加工装置。
【請求項3】
前記刃部は、
前記回転軸線上にない中心点を中心とするR形状をなすR形状部を含み、前記R形状部の曲率半径は、前記シャフトの半径より大きい請求項1または請求項2に記載の溝加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溝加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のドライブシャフトのジョイント部に、速度を維持したまま回転力を伝達できる等速ジョイント(CVJ)が採用されている。等速ジョイントは、内周面に複数の溝が成形されたアウターレース(外輪)と、外周面に複数の溝が成形されたインナーレース(内輪)と、アウターレースおよびインナーレースに成形されたボール溝に嵌合するボールと、で構成されている。
【0003】
インナーレースのボール溝は、軸方向断面が略半円形状をなしており、特許文献1に記載されるように、例えば、略円筒形状をなすワークの外周を砥石車により切削することで成形される。また、5軸マシニングセンタ等のNC加工機が有するボールエンドミルにより、ボール溝を成形するものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-39699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車等に用いられる等速ジョイントは長期間に亘って駆動力を効率良く伝達することが要求されるため、等速ジョイントを構成する部品はいずれも高い寸法精度と耐摩耗性が要求される。しかし、これまでの溝加工装置ではこうした高精度な要求に十分に対応できていないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本開示の第1の形態によれば、中心軸線を有する回転体である等速ジョイント用インナーレースのワークの外周面に、前記中心軸線方向へ延びるボール溝を成形する等速ジョイント用インナーレースの溝加工装置が提供される。
この溝加工装置では、前記ボール溝は、前記中心軸線を含む平面での断面である中心断面における溝底形状が直線状をなす直線溝底部と、前記直線溝底部に連続し前記溝底形状が前記中心軸線側へ湾曲した曲線状をなす曲線溝底部と、を含み、回転軸線まわりに回転するシャフトと、前記シャフトの先端に形成される刃部と、を有し、前記回転軸線を含む平面における回転軌跡形状において、前記刃部が外側に凸となる湾曲形状をなすボールエンドミルと、前記ワークに対する前記刃部の相対移動の制御と、前記ワークと前記刃部とのうち少なくとも一方の姿勢の制御と、を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、前記ボールエンドミルの前記回転軸線を前記ワークの加工面の法線に対して傾斜させた状態で、回転中の前記刃部が前記ボール溝の成形方向に沿って前記直線溝底部の加工領域と前記曲線溝底部の加工領域とを連続して研削するように前記相対移動を制御し、前記中心断面において、前記法線と前記回転軸線とのなす角度であって前記回転軸線の前記法線からの傾きを加工角度とすると、前記直線溝底部の加工領域における前記加工角度である直線加工角度が、前記曲線溝底部の加工領域における前記加工角度である曲線加工角度よりも小さくなるように、前記姿勢を制御することを特徴とする。
この形態の溝加工装置によれば、直線加工角度が、曲線加工角度よりも小さくなるように制御される。直線加工角度を曲線加工角度より小さくすることで、成形されるボール溝の軸方向断面(中心軸線に直交する断面)において、直線溝底部と曲線溝底部との軸方向断面幅の差を小さくできる。すなわち、本構成の溝加工装置では、ボール溝の直線溝底部の軸方向断面と曲線溝底部の軸方向断面との形状の相違が小さくなるように、直線溝底部の加工領域と曲線溝底部の加工領域とで、ボールエンドミルがワークに当たる加工形状を変化させている。このため、直線溝底部と曲線溝底部との軸方向断面幅が成形方向に沿って安定し、等速ジョイントのインナーレースにおいて高精度な溝成形加工を実現することができる。
(2)上記形態において、前記制御部は、前記刃部が前記直線溝底部の加工領域から前記曲線溝底部の加工領域へ、または、前記曲線溝底部の加工領域から前記直線溝底部の加工領域へ相対移動する際に、前記加工角度が徐々に変化するように、前記姿勢を制御するものとしてもよい。
この形態の溝加工装置によれば、刃部が直線溝底部の加工領域から曲線溝底部の加工領域へ、または、曲線溝底部の加工領域から直線溝底部の加工領域へ相対移動する際に、加工角度が徐々に、すなわち段階的にまたは漸次的に変化するため、加工領域が変わる境界に段差が生じることを抑制できる。このため、完成した等速ジョイントにおいて、ボールをボール溝においてより滑らかに移動させることができる。
(3)上記形態において、前記刃部は、前記回転軸線上にない中心点を中心とするR形状をなすR形状部を含み、前記R形状部の曲率半径は、前記シャフトの半径より大きいものとしてもよい。
この形態の溝加工装置によれば、ボール溝の軸方向断面の溝底形状が真円ではなく、楕円の一部を描くボール溝が形成される。等速ジョイントを構成し、ボール溝に介在される球形状をなすボールは、このボール溝に対して2点接触となる。このため、上記形態の溝加工装置によれば、摺動抵抗が低減されたボール溝を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態における溝加工装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】制御部のブロック図である。
図3】インナーレースを示す平面図である。
図4】加工時におけるインナーレースおよびボールエンドミルの断面図である。
図5】加工時におけるインナーレースおよびボールエンドミルの断面図である。
図6】各加工領域でのボールエンドミルの加工角度を説明する図である。
図7】インナーレースのボール溝部分を拡大して示す図であり、ボール溝の軸方向断面幅を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.溝加工装置の全体構成:
図1は、本開示の実施形態における溝加工装置100の概略構成を示す斜視図である。図2は、溝加工装置100が備える数値制御装置40のブロック図である。図3は、溝加工装置100による加工後の等速ジョイント用インナーレース60を示す平面図である。溝加工装置100は、等速ジョイント用インナーレース60の溝加工装置100であり、ワークWの外周面に、ワークWの中心軸線L方向へ延びるボール溝61(図3参照)を成形する。図3に示すように、ボール溝61の溝底形状は、軸方向断面が真円ではなく、楕円の一部を描く。ワークWは、中心に貫通穴64が形成された円筒部材である。本実施形態のインナーレース60は、周方向に等間隔に6つのボール溝61を有する。
【0010】
図1に示すように、溝加工装置100は、相互に直交する2つの直進軸(X軸およびZ軸)と1つの回転軸(B軸)を駆動軸として有する3軸マシニングセンタである。X軸は鉛直方向に一致し、Z軸は水平方向に一致している。溝加工装置100は、ベッド10と、工具保持装置20と、ワーク保持装置30と、数値制御装置40と、を備えている。ベッド10は、床上に配置されている。ベッド10の上面には、Z軸方向へ延びる一対のZ軸ガイドレール12が設けられている。
【0011】
工具保持装置20は、コラム21と、サドル23と、工具主軸台24と、工具主軸25と、X軸サーボモータ22と、Z軸サーボモータ26とを備えている。コラム21は、一対のZ軸ガイドレール12に案内されながらZ軸方向へ移動可能に設けられている。また、コラム21の側面には、X軸方向に沿って延びる一対のX軸ガイドレール27が設けられている。サドル23は、コラム21に対し、一対のX軸ガイドレール27に案内されながらX軸方向へ移動可能である。
【0012】
工具主軸台24には、工具主軸回転用モータ28が内蔵されている。工具主軸台24は、サドル23に取り付けられている。工具主軸25は、サドル23に対し、Z軸方向に平行なO軸まわりに回転可能に工具主軸台24に支持されている。工具主軸25の先端には、ワークWの加工に用いるボールエンドミル50が着脱可能に装着されている。ボールエンドミル50は、工具保持装置20に対してO軸周りに回転可能に保持されている。そして、ボールエンドミル50は、コラム21の移動に伴ってZ軸方向へ移動し、サドル23の移動に伴ってX軸方向へ移動する。
【0013】
図4は、加工時におけるインナーレース60(ワークW)およびボールエンドミル50の断面図であって、ボール溝61の長手方向の溝底形状およびボールエンドミル50の加工角度を説明する図である。また、図4は、インナーレース60(ワークW)の中心軸線Lを含む平面での断面(以下、「中心断面」という)図であり、ボール溝61の長手方向の溝底形状を表している。
【0014】
図4に示すように、ボールエンドミル50は、シャフト51と、刃部52とを有している。なお、図4図5において、ボールエンドミル50は、その回転軌跡形状を簡略的かつ模式的に図示している。シャフト51は回転軸線Mまわりに回転する。回転軸線Mは、上記O軸に一致する。刃部52は、シャフト51の先端に形成されている。本実施形態のボールエンドミル50は、シャフト51と刃部52とが一体となったソリッドタイプである。刃部52は、4枚の切刃53を有している。詳細な図面は省略するが、4枚の切刃53は、刃部52の先端の周方向に、回転軸線Mを中心に90度の略等間隔で設けられている。
【0015】
ボールエンドミル50は、回転軸線Mを含む平面における回転軌跡形状において、刃部52が外側に凸となる湾曲形状をなしている。任意の一つの切刃53は、回転軸線M上にない中心点Cを中心とした、曲率半径RのR形状をなすR形状部54を含む。曲率半径Rは、シャフト51の半径よりも大きい。他の3つの切刃53についても形状は同様である。本実施形態のボールエンドミル50は、所謂「楕円エンドミル」として構成されている。
【0016】
再び図1を参照する。ワーク保持装置30は、ワーク主軸割り出しモータ31と、旋回台32と、ワーク主軸台33と、ワーク主軸34と、支持台35と、旋回台割り出しモータ36と、チャック装置37と、旋回軸38とを備えている。旋回軸38は、旋回台32に連結され、支持台35に支持されている。チャック装置37は、ワーク主軸34に取り付けられ、ワークWを内周から把持する。旋回台割り出しモータ36は、支持台35に取り付けられ、旋回軸38に回転連結されている。支持台35は、側面視においてコの字形状をなしている。旋回台32は、平面視においてコの字形状をなしている。B軸の中心Vは、ワークWの中心と一致している。
【0017】
数値制御装置40は、図2に示すように、工具回転制御部41と、ワーク姿勢制御部42と、位置制御部43と、を備えている。数値制御装置40は、「制御部」に相当する。工具回転制御部41は、工具主軸回転用モータ28の駆動制御を行い、工具主軸25に装着されたボールエンドミル50を回転させる。ワーク姿勢制御部42は、ワーク主軸割り出しモータ31および旋回台割り出しモータ36の駆動制御を行い、B軸をコントロールしながらワークWをB軸まわりに揺動させる。これにより、ボールエンドミル50を基準としたワークWの姿勢、換言すると、ワークWとボールエンドミル50との相対的な姿勢が制御される。
【0018】
位置制御部43は、ワーク保持装置30の位置制御を行う。具体的に、位置制御部43は、Z軸サーボモータ26の駆動制御を行い、コラム21をZ軸方向へ移動させると共に、X軸サーボモータ22の駆動制御を行い、サドル23をX軸方向へ移動させる。これにより、工具保持装置20に保持されたボールエンドミル50は、ワーク保持装置30に保持されたワークWに対し、X軸方向およびZ軸方向へ相対移動する。すなわち、数値制御装置40は、ワークWに対する刃部52の相対移動の制御と、ワークWと刃部52の姿勢制御とを実行する。
【0019】
A2.ボール溝加工について:
次に、上記溝加工装置100によるボール溝加工について説明する。まず、ボール溝加工後のインナーレース60の溝底形状について説明する。図5は、図4と同様に、加工時におけるインナーレースおよびボールエンドミルの断面図である。但し、後述するように、図4図5では、ボールエンドミル50による加工対象部位が異なっている。なお、図4図5では、説明の便宜上、ボール溝61の形状については加工後の形状を図示している。
【0020】
図4図5に示すように、ボール溝61は、軸方向の一端(図4図5における左端)から、他端(図4図5における右端)へむけて、なだらかに傾斜している。ボール溝61は、直線溝底部62と、曲線溝底部63と、を含んでいる。直線溝底部62は、軸方向の一端側に位置し、中心断面における溝底形状が直線状をなす。曲線溝底部63は、軸方向の他端側に位置し、直線溝底部62に連続し中心軸線L側へ湾曲した曲線状をなす。
【0021】
本実施形態では、曲線溝底部63から直線溝底部62の方向へ向けて成形される。なお、本実施形態のボール溝加工は、1次加工としてのボール溝が予め成形された状態のワークWに対して2次加工の仕上げ加工として実施される。図1におけるワークWの形状については簡略化して図示してある。図4図5に示すように、ボール溝の加工は、ボールエンドミル50の回転軸線MをワークWの加工面の法線N1,N2に対して傾斜させた状態で行われる。本実施形態では、ボール溝61の成形方向(ボールエンドミル50のワークWに対する相対的な進行方向)とは反対側に傾斜させている。
【0022】
図6は、各加工領域S1,S2,S3でのボールエンドミル50の加工角度を説明する図である。数値制御装置40は、回転中の刃部52がボール溝61の成形方向に沿って曲線溝底部63の加工領域S1と、直線溝底部62の加工領域S2とを連続して研削するように相対移動を制御する。図6に示すように、曲線溝底部63の加工領域S1において、直線溝底部62の加工領域S2との境界Tを含む部分には、徐変区間S3が設けられている。
【0023】
ここで、中心断面において、法線N1,N2と回転軸線Mとのなす角度であって回転軸線Mの法線N1,N2からの傾きを「加工角度」と定義する。数値制御装置40は、直線溝底部62の加工領域S2における加工角度である直線加工角度θ2が、曲線溝底部63の加工領域S1における加工角度である曲線加工角度θcよりも小さくなるように、ワークWと刃部52とのうち少なくとも一方の姿勢を制御する。本実施形態において、曲線溝底部63の加工領域S1における曲線加工角度θcは、徐変区間S3ではθ2<θc<θ1であり、加工領域S1において徐変区間S3以外の領域ではθ1である。
【0024】
本実施形態では、ワーク姿勢制御部42と、位置制御部43とにより、加工角度が上述の加工角度となるように制御される。さらに、徐変区間S3での加工角度は、加工角度θ1から加工角度θ2へと徐々に変化するように数値制御装置40により制御される。なお、「徐々に」、とは、複数段階的な態様、または漸次的な態様を意味する。
【0025】
なお、加工角度の決定は、ワークWの寸法形状、ボールエンドミル50の形状、および成形するボール溝61の寸法形状等のデータに基づき、軸方向断面幅が加工領域S1から加工領域S2に亘って一定となるようにシミュレーションにより決定される。また、加工角度θ1と加工角度θ2との差は、概ね5度程度である。
【0026】
図7は、インナーレース60のボール溝部分を拡大して示す図であり、ボール溝61の軸方向断面幅を説明する図である。以上の制御により成形されたボール溝61は、図7に示すように、ボール溝61の軸方向断面の溝底形状が真円ではなく、楕円の一部を描く。このため、等速ジョイントを構成し、ボール溝61に介在される球形状をなす図示しないボールは、ボール溝61に対して2点接触となる。また、ボール溝61の軸方向断面幅aが、直線溝底部62と曲線溝底部63とで略同じである。かつ、図4図5に示すように、直線溝底部62と曲線溝底部63とがなだらかに連続し、境界部分に段差が形成されない。
【0027】
(1)上記したように、ボール溝61は、等速ジョイントが適用される仕様に対応するため、溝底形状が直線をなす直線溝底部62と、湾曲した曲線溝底部63とを有している。例えば、このボール溝61をボールエンドミル50で加工するとき、ボールエンドミル50の加工角度を変えずに行うと、直線溝底部62と曲線溝底部63とで軸方向断面幅(図7に示す軸方向断面幅a、b参照)に差異が生じる。図7では、仮にボールエンドミル50の加工角度を変えずに加工した場合の曲線溝底部の軸方向断面幅を「b」と図示している。このように、曲線溝底部の軸方向断面幅が直線溝底部の軸方向断面幅より小さくなり、ボール溝の幅が変化してしまうと、円滑なボールの動きが阻害される虞がある。
【0028】
その点、上記形態の溝加工装置100によれば、曲線溝底部63の加工領域S1と直線溝底部62の加工領域S2とで、直線加工角度θ2が、曲線加工角度θcよりも小さくなるようにボールエンドミル50の加工角度を変えている。直線加工角度θ2を曲線加工角度θcより小さくすることで、成形されるボール溝61の軸方向断面(中心軸線に直交する断面)において、直線溝底部62と曲線溝底部63との軸方向断面幅の差を小さくできる。
【0029】
すなわち、本構成の溝加工装置100では、ボール溝61の直線溝底部62の軸方向断面と曲線溝底部63の軸方向断面との形状の相違が小さくなるように、直線溝底部62の加工領域S2と曲線溝底部63の加工領域S1とで、ボールエンドミル50がワークWに当たる加工形状を変化させている。このため、直線溝底部62と曲線溝底部63との軸方向断面幅aが成形方向に沿って安定し、等速ジョイントのインナーレース60において高精度な溝成形加工を実現することができる。
【0030】
(2)また、上記形態の溝加工装置100によれば、徐変区間S3において、曲線溝底部63の加工領域S1から直線溝底部62の加工領域S2へ、刃部52がワークWに対して相対移動する際に、加工角度が、加工角度θ2から加工角度θ1へと徐々に変化する。
【0031】
徐々に変化させずに加工角度を変更する場合、送り速度が一時的に遅くなることによって、加工面に対する加圧力が小さくなり、刃部52の加工位置が変わってワークWを削り込んでしまう。これにより、特に刃先方向(中心軸線Lと直交する方向)の段差が生じる虞がある。その点、上記実施形態によれば、徐変区間S3を設けることで、直線溝底部62と曲線溝底部63との境界Tに、特に中心軸線Lと直交する方向の段差が生じることを抑制できる。
【0032】
(3)上記形態の溝加工装置100によれば、ボールエンドミル50の刃部52は、回転軸線M上にない中心点Cを中心とするR形状部54を含み、R形状部54の曲率半径Rは、シャフト51の半径より大きい。このため、軸方向断面においてボールと2点で接触する楕円の一部の形状をなすボール溝61が成形される。すなわち、ボールの全面とボール溝61とが接触する形態と比較して、摺動抵抗が低減された好適なボール溝61を成形することができる。
【0033】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態において、ワークWは円筒形状としたが、中心軸線Lを有する回転体であればその他の形状であってもよい。また、予め1次加工の溝が切削されているものとしたが、切削されていなくてもよい。
【0034】
(B2)上記実施形態の溝加工装置100では、加工工具として刃部52が楕円形状をなすエンドミルとしたが、刃部52が、先端球面状であって、回転軌跡形状が半円形状をなすボールエンドミルでもよい。また、刃の数は4枚ではなく、2枚やその他の枚数でもよい。
【0035】
(B3)上記実施形態の溝加工装置100は、3軸マシニングセンタとしたが、ワークWに対する刃部52の相対移動制御と、ワークWと刃部52とのうち少なくとも一方の姿勢制御が可能であればその他の軸数によるマシニングセンタでもよい。
【0036】
(B4)上記実施形態の溝加工装置100では、曲線溝底部63から直線溝底部62へ向けてボール溝61を成形するものとしたが、逆に、直線溝底部62から曲線溝底部63へ向けて成形してもよい。
【0037】
(B5)上記実施形態の溝加工装置100では、ボールエンドミル50を、ボール溝61の成形方向とは反対方向へ傾斜させたが、成形方向側へ傾斜させてもよい。
【0038】
(B6)上記実施形態の溝加工装置100では、曲線溝底部63の加工領域S1に徐変区間S3を設けたが、設けなくてもよい。
【0039】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…ベッド、12…Z軸ガイドレール、20…工具保持装置、21…コラム、22…X軸サーボモータ、23…サドル、24…工具主軸台、25…工具主軸、26…Z軸サーボモータ、27…X軸ガイドレール、28…工具主軸回転用モータ、30…ワーク保持装置、31…ワーク主軸割り出しモータ、32…旋回台、33…ワーク主軸台、34…ワーク主軸、35…支持台、36…旋回台割り出しモータ、37…チャック装置、38…旋回軸、40…数値制御装置、41…工具回転制御部、42…ワーク姿勢制御部、43…位置制御部、50…ボールエンドミル、51…シャフト、52…刃部、53…切刃、54…R形状部、60…インナーレース、61…ボール溝、62…直線溝底部、63…曲線溝底部、64…貫通穴、100…溝加工装置、C…中心点、L…中心軸線、M…回転軸線、N1,N2…法線、S1…曲線溝底部の加工領域、S2…直線溝底部の加工領域、S3…徐変区間、T…境界、W…ワーク、θ2…直線加工角度、θc…曲線加工角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7