(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010937
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】CFRP製搬送用部材及びその製造方法、ロボットハンド部材、被覆剤、並びにCFRP製搬送用部材の被覆方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20220107BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220107BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20220107BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20220107BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C08J7/04 C
B05D7/00 K
B05D7/02
B05D3/02 Z
B05D7/24 302V
B05D7/24 303E
B05D7/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111743
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹村 振一
(72)【発明者】
【氏名】古俣 歩
(72)【発明者】
【氏名】青井 慈喜
【テーマコード(参考)】
4D075
4F006
【Fターム(参考)】
4D075AC57
4D075BB01X
4D075BB26Z
4D075BB65X
4D075BB69X
4D075BB92Y
4D075BB93Z
4D075BB95Z
4D075CA17
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA13
4D075DA23
4D075DA31
4D075DA34
4D075DB11
4D075DB31
4D075DB61
4D075DC16
4D075EA05
4D075EB35
4D075EB51
4D075EC08
4D075EC30
4D075EC37
4D075EC54
4F006AA53
4F006AB32
4F006AB34
4F006BA11
4F006CA08
4F006EA05
(57)【要約】
【課題】粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたCFRP製搬送用部材を製造することができるCFRP製搬送用部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】機械加工面を備えるCFRP製の部材の機械加工面に被覆剤を塗布する工程と、被覆剤を加熱することにより硬化させる工程と、を備える、CFRP製搬送用部材の製造方法であって、被覆剤が、(A)分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンのうち少なくとも一方を含む樹脂と、(B)配位子を有する金属錯体触媒と、(C)溶剤と、を含む、CFRP製搬送用部材の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工面を備えるCFRP製の部材の前記機械加工面に被覆剤を塗布する工程と、
前記被覆剤を加熱することにより硬化させる工程と、
を備える、CFRP製搬送用部材の製造方法であって、
前記被覆剤が、(A)分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンのうち少なくとも一方を含む樹脂と、(B)配位子を有する金属錯体触媒と、(C)溶剤と、を含む、CFRP製搬送用部材の製造方法。
【請求項2】
前記被覆剤における前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.01~0.5質量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記被覆剤における前記(C)成分の含有量が、前記被覆剤の全量に対して20~75質量%である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記被覆剤を加熱する温度が150℃以上200℃以下であり、前記被覆剤を加熱する時間が1時間以上4時間以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記機械加工面に前記被覆剤を塗布する際に、前記被覆剤の厚さが10~300μmとなるように塗布する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法によって得られる、CFRP製搬送用部材。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法によって得られる、ロボットハンド部材。
【請求項8】
(A)分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンのうち少なくとも一方を含む樹脂と、(B)配位子を有する金属錯体触媒と、(C)溶剤と、を含む、CFRP製搬送用部材用被覆剤。
【請求項9】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.01~0.5質量部である、請求項8に記載の被覆剤。
【請求項10】
前記(C)成分の含有量が、被覆剤の全量に対して20~75質量%である、請求項8又は9に記載の被覆剤。
【請求項11】
機械加工面を備えるCFRP製の部材の前記機械加工面に請求項8~10のいずれか一項に記載の被覆剤を塗布し、
前記被覆剤を加熱することにより硬化させる、CFRP製搬送用部材の被覆方法。
【請求項12】
前記機械加工面に前記被覆剤を塗布する際に、前記被覆剤の厚さが10~300μmとなるように塗布する、請求項11に記載の被覆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CFRP製搬送用部材及びその製造方法、ロボットハンド部材、被覆剤、並びにCFRP製搬送用部材の被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料(以下、「CFRP」ともいう。)は、その軽さや剛性の高さから、各種産業の製造現場で使用されるロボットハンド部材等の搬送用部材に用いられている。ところで、CFRPを精密機器材料の搬送用部材として用いる場合には、精密機器材料は埃や塵等による汚染を極端に嫌うものが多いことから、CFRP製の搬送用部材には、精密機器材料を汚染しないことが求められる。特に、CFRP製の搬送用部材の加工面は、炭素繊維から炭素微粒子等の粉塵が発生しやすく、発生した炭素微粒子が精密機器材料を汚染する可能性がある。
【0003】
このような加工面からの発塵を抑制したCFRP製搬送用部材として、特許文献1には、極性溶剤に対して耐性を有しかつ70℃以下の低温で硬化する樹脂で加工面が被覆されていることを特徴とするCFRP製搬送用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
精密機器材料は、高真空環境下で搬送される場合もある。そのような環境下でCFRP製搬送用部材を用いた場合、CFRP製搬送用部材からは、吸着された水分等がアウトガスとして放出される。アウトガスは、精密機器材料等を汚染してしまうため、CFRP製搬送用部材には、アウトガスの発生量が少ないことが求められる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたCFRP製搬送用部材を製造することができるCFRP製搬送用部材の製造方法、並びに、それによって得られるCFRP製搬送用部材及びロボットハンド部材を提供することを目的とする。本発明はまた、CFRP製搬送用部材の加工面に塗布した場合に、該CFRP製搬送用部材は、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたものとなる、被覆剤、及びそれを用いた被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、機械加工面を備えるCFRP製の部材の機械加工面に被覆剤を塗布する工程と、被覆剤を加熱することにより硬化させる工程と、を備える、CFRP製搬送用部材の製造方法であって、被覆剤が、(A)分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンのうち少なくとも一方を含む樹脂(以下、「(A)成分」ともいう。)と、(B)配位子を有する金属錯体触媒(以下、「(B)成分」ともいう。)と、(C)溶剤(以下、「(C)成分」ともいう。)と、を含む、CFRP製搬送用部材の製造方法を提供する。
【0008】
上記CFRP製搬送用部材の製造方法によれば、特定の樹脂成分と、金属錯体触媒と、溶剤とを含む被覆剤をCFRP製の部材の機械加工面に塗布することで、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたCFRP製搬送用部材を製造することができる。
【0009】
本発明において、被覆剤における(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して0.01~0.5質量部であってよい。(B)成分の含有量が上記数値範囲である場合、被覆剤の硬化性と安定性とが両立されることで、得られる搬送用部材は、塗布むらが抑制され、且つ粉塵の発生が一層抑制されたものとなる。
【0010】
本発明において、被覆剤における(C)成分の含有量が、被覆剤の全量に対して20~75質量%であってよい。(C)成分の含有量が上記数値範囲である場合、得られる搬送用部材は、塗布むらが抑制され、且つ粉塵の発生が一層抑制されたものとなる。
【0011】
本発明において、被覆剤を加熱する温度が150℃以上200℃以下であり、被覆剤を加熱する時間が1時間以上4時間以下であってよい。被覆剤を加熱する温度及び時間が上記数値範囲である場合、得られる搬送用部材は、粉塵及びアウトガスの発生が一層抑制されたものとなる。
【0012】
本発明において、機械加工面に前記被覆剤を塗布する際に、被覆剤の厚さが10~300μmとなるように塗布してもよい。被覆剤の厚さが上記数値範囲であることで、得られる搬送用部材は、塗りむらが抑制され、また、粉塵の発生が一層抑制されたものとなる。
【0013】
本発明は、また、上記のCFRP製搬送用部材の製造方法によって得られるCFRP製搬送用部材を提供する。本発明は、また、上記のCFRP製搬送用部材の製造方法によって得られるロボットハンド部材を提供する。上記のCFRP製搬送用部材及びロボットハンド部材は、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたものとなる。
【0014】
本発明は、また、(A)分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンのうち少なくとも一方を含む樹脂と、(B)配位子を有する金属錯体触媒と、(C)溶剤と、を含む、CFRP製搬送用部材用被覆剤を提供する。
【0015】
本発明において、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.01~0.5質量部であってもよい。これにより、被覆剤の硬化性と安定性とが両立される。
【0016】
本発明において、(C)成分の含有量は、被覆剤の全量に対して20~75質量%であってもよい。これにより、被覆剤をCFRP製の部材の機械加工面に塗布した際に、塗りむらが発生しづらく、また、機械加工面を十分に被覆できるため、得られるCFRP製搬送用部材は、粉塵の発生が一層抑制されたものとなる。
【0017】
本発明は、また、機械加工面を備えるCFRP製の部材の機械加工面に上記の被覆剤を塗布し、被覆剤を加熱することにより硬化させる、CFRP製搬送用部材の被覆方法を提供する。上記CFRP製搬送用部材の被覆方法によれば、被覆後のCFRP製搬送用部材は、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたものとなる。
【0018】
本発明において、機械加工面に被覆剤を塗布する際に、被覆剤の厚さが10~300μmとなるように塗布してもよい。これにより、被覆後のCFRP製搬送用部材は、塗りむらが抑制され、また、粉塵の発生が一層抑制されたものとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたCFRP製搬送用部材を製造することができるCFRP製搬送用部材の製造方法、並びに、それによって得られるCFRP製搬送用部材及びロボットハンド部材が提供される。また、本発明によれば、CFRP製搬送用部材の加工面に塗布した場合に、該CFRP製搬送用部材は、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたものとなる、被覆剤、及びそれを用いた被覆方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る製造方法に用いられるCFRP製の部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
<CFRP製搬送用部材の製造方法>
本実施形態に係るCFRP製搬送用部材の製造方法(以下、「本実施形態に係る製造方法」ともいう。)は、機械加工面を備えるCFRP製の部材の機械加工面に被覆剤を塗布する工程(以下、「塗布工程」ともいう。)と、被覆剤を加熱することにより硬化させる工程(以下、「硬化工程」ともいう。)と、を備える。
【0023】
(塗布工程)
以下、本実施形態に係る製造方法の塗布工程について説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る製造方法に用いられるCFRP製の部材の斜視図である。部材100は、主面1及び側面2と、長手方向の両端に矩形の端面22とを備える、中空の角パイプである。主面1には、搬送する対象を吸着する吸着パッドを取り付けるための取り付け穴11が設けられている。取り付け穴11を構成する内壁21と、端面22は、機械加工面である。
【0025】
本実施形態に係る製造方法に用いられるCFRP製の部材の形状は、特に制限されず、例えば、長手方向の両端における端面の形状が台形等の矩形以外の四角形の角パイプであってもよいし、端面の形状が三角形、五角形等の矩形以外の多角形の角パイプであってもよいし、端面形状が円形の丸パイプであってもよい。本実施形態に係る製造方法に用いられるCFRP製の部材は、中実であってもよい。また、本実施形態に係る製造方法に用いられるCFRP製の部材は、取り付け穴11が設けられていなくてもよい。
【0026】
機械加工面(内壁21及び端面22)に被覆剤を塗布する方法は、特に制限されず、例えば、刷毛塗り、エアスプレー、エアレススプレー及びローラー塗りが挙げられる。被覆剤の詳細については後述する。
【0027】
機械加工面(内壁21及び端面22)に被覆剤を塗布する際の被覆剤の厚さは、粉塵の発生を一層抑制することから、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。機械加工面に被覆剤を塗布する際の被覆剤の厚さは、塗りむらの発生を抑制することから、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0028】
<硬化工程>
以下、本実施形態に係る製造方法の硬化工程について説明する。
【0029】
硬化工程は、被覆剤を加熱することにより硬化させる工程である。被覆剤を加熱する温度は、粉塵及びアウトガスの発生が一層抑制されることから、150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。また、被覆剤を加熱する温度は、得られる硬化物が劣化せず、アウトガスの発生が一層抑制されることから、200℃以下であることが好ましく、185℃以下であることがより好ましい。
【0030】
被覆剤を加熱する時間は、粉塵及びアウトガスの発生が一層抑制されることから、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましい。被覆剤を加熱する時間は、例えば、4時間以下であってよい。被覆剤を加熱する方法は、特に制限されないが、例えば、硬化炉を用いることができる。
【0031】
被覆剤を硬化することで得られる硬化物の質量損失(Total Mass Loss、略称:「TML」)は、0.5%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることが更に好ましい。被覆剤の硬化物の質量損失は、ASTM E595に準拠して測定される値である。
【0032】
被覆剤を硬化することで得られる硬化物の再凝縮物質量(Collected Volatile Condensable Materials、略称:「CVCM」)は、0.010%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましく、0.003%以下であることが更に好ましい。被覆剤の硬化物の再凝縮物質量は、ASTM E595に準拠して測定される値である。
【0033】
<被覆剤>
以下、上記実施形態に係る製造方法で用いられる被覆剤について説明する。被覆剤に含まれる成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
被覆剤は、(A)分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンのうち少なくとも一方を含む樹脂(以下、「(A)成分」ともいう。)と、(B)配位子を有する金属錯体触媒(以下、「(B)成分」ともいう。)と、(C)溶剤(以下、「(C)成分」ともいう。)と、を含む。
【0035】
((A)成分)
(A)成分は、分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンのうち少なくとも一方を含む樹脂である。分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化1】
[式(I)中、nは2以上の整数を表し、A
1はn価の有機基を表す。]
【0037】
上記一般式(I)で表されるシアネートエステル樹脂としては、例えば、1,3-ジシアネートベンゼン、1,4-ジシアネートベンゼン、4,4’-ジシアネートビフェニル、及び下記一般式(II)で表されるオルト置換ジシアネートエステル、下記一般式(III)で表されるポリフェニレンオキシドシアネートエステル、下記一般式(IV)で表されるトリシアネートエステル、及び下記一般式(V)で表されるポリシアネートエステルが挙げられる。
【0038】
【化2】
[式(II)中、R
1~R
4はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、X
1は、炭素数1~4のアルキレン基、フェニレン基、芳香族基を有するアルキレン基、-O-、-S-、-SO
2-、又は-CO-を表す。]
【0039】
【化3】
[式(III)中、R
5~R
12はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、hは0以上の整数を表し、iは1以上の整数を表し、X
2は、炭素数1~4のアルキレン基、フェニレン基、芳香族基を有するアルキレン基、-O-、-S-、-SO
2-、又は-CO-を表す。R
5、R
6、R
11及びR
12がそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR
5、R
6、R
11及びR
12は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
【0040】
【化4】
[式(IV)中、R
13~R
17はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。]
【0041】
【化5】
[式(V)中、kは1以上の整数を表し、R
18~R
20はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、Y
1及びY
2はそれぞれ独立に、炭素数1~6のアルキレン基を表す。R
19が複数存在する場合、複数存在するR
19は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Y
2が複数存在する場合、複数存在するY
2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
【0042】
分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂は、上述したモノマーのみからなるものであってもよく、いくつかの分子が重合してオリゴマーとなったもののみからなるものであってもよく、モノマーとオリゴマーの混合物であってもよい。
【0043】
分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂より誘導されるポリトリアジンは、上述した一般式(I)~(V)で表されるシアネートエステル樹脂より誘導されるポリトリアジンであってよい。ポリトリアジンは、シアネートエステル樹脂が有するシアネート基がトリアジン環を形成することで生成される。例えば、上記一般式(I)で表されるシアネートエステル樹脂から誘導されるポリトリアジンは、以下の一般式(VI)で表される部分構造を有する。
【0044】
【化6】
[式(VI)中、nは2以上の整数を表し、A
1はn価の有機基を表す。]
【0045】
分子中にシアネート基を2個以上有するシアネートエステル樹脂及び該樹脂より誘導されるポリトリアジンの市販品としては、例えば、以下のものを使用することができる。
・ビスフェノールAのジシアネート(2,2’-ビス(4-シアネートフェニル)イソプロピリデン):プライマセットBADCy(Lonza社製の商品名)、B-10(Huntsman社製の商品名)
・ビスフェノールAのジシアネートと、ビスフェノールAのジシアネートから誘導されるポリトリアジンとの混合物:プライマセットBA200、プライマセットBA3000(以上、Lonza社製の商品名)、B-30(Huntsman社製の商品名)
・ビスフェノールADのジシアネート(1,1’-ビス(4-シアネートフェニル)エタン):プライマセットLECy(Lonza社製の商品名)、L-10(Huntsman社製の商品名)
・置換ビスフェノールFのジシアネート:METHYLCy(Lonza社製の商品名)、M-10(Huntsman社製の商品名)
・置換ビスフェノールFのジシアネートと、置換ビスフェノールFのジシアネートから誘導されるポリトリアジンとの混合物:M-30(Huntsman社製の商品名)
・フェノールジシクロペンタジエン付加物のシアネートエステル:XU-71787-02(Huntsman社製の商品名)
・フェノールノボラック型シアネートエステルと、フェノールノボラック型シアネートエステルより誘導されるポリトリアジンとの混合物:プライマセットPT-15、プライマセットPT-30、プライマセットPT-60(以上、Lonza社製の商品名)
・ジシクロペンタジエン変性フェノール型シアネートエステルと、ジシクロペンタジエン変性フェノール型シアネートエステルより誘導されるポリトリアジンとの混合物:プライマセットDT-4000、プライマセットDT-7000(以上、Lonza社製の商品名)
【0046】
((B)成分)
(B)成分は、配位子を有する金属錯体触媒である。(B)成分としては、例えば、銅アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート(以下、「Co(acac)3」ともいう。)、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸錫、ステアリン酸亜鉛、並びに鉄、コバルト、亜鉛、銅、マンガン及びチタンとカテコールのような2座配位子とのキレート化合物が挙げられる。被覆剤の硬化性及び成形性、ポットライフのバランスの観点から、(B)成分としては、Co(acac)3が好ましい。
【0047】
被覆剤における(B)成分の含有量は、被覆剤の硬化性と安定性との両立の観点から、(A)成分100質量部に対して、0.01~0.5質量部であることが好ましく、0.03~0.3質量部であることがより好ましい。(B)成分の含有量が0.01質量部以上であると、硬化時間を短縮することができる。(B)成分の含有量が0.5質量部以下であると、被覆剤を硬化させる際にゲル化せず、均一に硬化するため、ボイドの発生を抑制できる。
【0048】
被覆剤における(A)成分及び(B)成分の合計含有量は、被覆剤の全量を基準として、粉塵の発生を一層抑制することから、25質量%以上であることが好ましく、40質量%であることがより好ましい。(A)成分及び(B)成分の合計含有量は、被覆剤の全量を基準として、塗布むらを抑制することから、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
((C)成分)
(C)成分は、溶剤である。(C)成分としては、例えば、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼン、メチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう。)、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドが挙げられる。アウトガスの発生を一層抑制することから、(C)成分は、トルエン及びメチルエチルケトンであることが好ましく、トルエンであることがより好ましい。
【0050】
被覆剤における(C)成分の含有量は、被覆剤の全量を基準として、塗布むらを抑制することから、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。被覆剤における(C)成分の含有量は、被覆剤の全量を基準として、粉塵の発生を一層抑制することから、75質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
(その他成分)
被覆剤は、靱性向上剤を更に含んでいてもよい。そのような靱性向上材としては、例えば、共重合ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルスルホン、アクリル系樹脂、ブタジエン-アクリロニトリル樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物及びアクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0052】
靱性向上剤は、(A)成分に溶解するものであってもよく、溶解しないものであってもよい。靱性向上剤が(A)成分に溶解しない場合、靱性向上剤を微粒子として分散させてもよい。そのような微粒子の平均粒径は、100μm以下であってよい。
【0053】
被覆剤が靱性向上剤を含む場合、被覆剤における靱性向上剤の含有量は、(A)成分の全量を基準として、1~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましい。靱性向上剤の含有量が1質量%以上であることで、十分な靱性向上効果を得ることができる。靱性向上剤の含有量が20質量%以下であることで、被覆剤の硬化物は、耐変形性が一層向上したものとなる。
【0054】
被覆剤は、(A)成分以外の樹脂成分を含有していてもよい。そのような樹脂成分としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂及びベンゾオキサジン樹脂等の熱硬化性樹脂、並びにナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂及び熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。なお熱硬化性樹脂は、モノマー又はオリゴマーを一部に含んでいてもよい。
【0055】
被覆剤が(A)成分以外の樹脂成分を含有する場合、(A)成分以外の樹脂成分の含有量は、(A)成分及び(A)成分以外の樹脂成分の合計を基準として、0質量%超10質量%以下であってもよい。しかし、得られるCFRP製搬送用部材が発塵及びアウトガスの発生が一層抑制されたものとなることから、被覆剤は、(A)成分以外の樹脂成分を含まないことが好ましい。
【0056】
被覆剤の調製方法は、特に制限されないが、(A)成分~(C)成分を同時に混合してもよく、(A)成分及び(B)成分を先に混合し樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物と、(C)成分とを混合してもよい。各種成分を混合する方法は、特に制限されないが、例えば、ニーダー、プラネタリーミキサー、及び2軸押出機等を用いる方法が挙げられる。また、被覆剤が靱性向上剤を含む場合には、靱性向上剤を分散させるため、ホモミキサー、3本ロール、ボールミル、ビーズミル及び超音波等で、靱性向上剤を予め(A)成分に分散させておくことが好ましい。(A)成分~(C)成分の混合時、及び靱性向上剤を予め(A)成分に分散させる際には、必要に応じて加熱・冷却、加圧・減圧してもよい。保存安定性の観点から、混練後は、速やかに冷蔵・冷凍庫で保管することが好ましい。
【0057】
<CFRP製搬送用部材>
以下、上記実施形態に係る製造方法により得られるCFRP製搬送用部材について説明する。
【0058】
本実施形態に係る製造方法により得られるCFRP製搬送用部材は、機械加工面を備え、該機械加工面が上述した被覆剤の硬化物により被覆されている。硬化物の厚さは、例えば、10~300μmであってよい。
【0059】
このような搬送用部材は、部品又は製品の製造工程で、組み立て部品等の搬送に使用されるロボットハンド部材として好適に用いることができ、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたものであるから、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、半導体ウェハ、有機EL装置等の精密品の製造工程に用いられるロボットハンド部材として、特に好適に用いることができる。また、本実施形態に係る製造方法により得られるロボットハンド部材は、粉塵及びアウトガスの発生が十分に抑制されたものであるから、有機EL装置の搬送等のように、高真空環境下での搬送において特に好適に用いることができる。
【0060】
<CFRP製搬送用部材の被覆方法>
本発明の一側面は、CFRP製搬送用部材の被覆方法であってよい。この方法では、機械加工面を備えるCFRP製の部材の機械加工面に被覆剤を塗布し、被覆剤を加熱することにより硬化させる。被覆剤は、上述した被覆剤を用いることができる。
【0061】
上記方法において、機械加工面を備えるCFRP製の部材は、上述のCFRP製搬送用部材の製造方法においてCFRP製の部材として例示されたものを用いることができる。
【0062】
上記方法において、機械加工面に被覆剤を塗布する方法は、上述のCFRP製搬送用部材の製造方法において例示された方法であってよい。
【0063】
上記方法において、機械加工面に被覆剤を塗布する際の被覆剤の厚さは、上述のCFRP製搬送用部材の製造方法において例示された厚さとすることができる。
【0064】
上記方法において、被覆剤を加熱することにより硬化させる際の加熱温度及び加熱時間は、上述のCFRP製搬送用部材の製造方法において例示された加熱温度及び加熱時間とすることができる。
【0065】
上記方法において、被覆剤を硬化することで得られる硬化物の質量損失及び再凝縮物質量は、上述のCFRP製搬送用部材の製造方法において例示された質量損失及び再凝縮物質量とすることができる。
【実施例0066】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
<被覆剤の調製>
(実施例1~5、比較例1~3)
表1に示す樹脂成分、(B)成分、及びその他硬化剤をプラネタリーミキサーにより混合し、樹脂組成物を得た。次いで、得られた樹脂組成物と、表1に示す(C)成分とを混合し、被覆剤を得た。それぞれの成分の配合量は表1に示す値とした。得られた被覆剤の全量に対する、樹脂成分、(B)成分及びその他硬化剤の合計濃度と、得られた被覆剤の全量に対する(C)成分の濃度を表1に示した。表1に示した材料の詳細は、以下のとおりである。
【0068】
BA-200:商品名、ビスフェノール型シアネートエステル、Lonza社製
Co(acac)3:コバルト(III)アセチルアセトナート、東京化成工業株式会社製
YD-128:商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社製
YH434L:商品名、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社製
セイカキュア-S:商品名、4、4’-ジアミノジェフェニルアミン、和歌山精化工業株式会社製
YD-011:商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社製
YDPN-638:商品名、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社製
ジシアンジアミド:東京化成工業株式会社製
DCMU:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素の略称、保土谷化学工業株式会社製
【0069】
<評価>
[発塵性]
(実施例1~5、比較例1~3)
CFRP製の部材として、
図1に示す角パイプ形状(長さ30cm×幅5cm×高さ2cm、厚さ(肉厚)0.3cm)をしたCFRP製の部材を準備した。CFRP製の部材は、長手方向の両端部と、主面上に設けられた吸着パッド取り付け穴の内壁とが機械加工面である。吸着パッド取り付け穴の形状は、矩形(縦5cm×横3cm)であり、主面を貫通している。
【0070】
エタノールを染み込ませた無塵のクリーンワイプ(ポリエステルニット)でCFRP製の部材の機械加工面を拭き上げた。次いで、該機械加工面に、厚さが50~100μmとなるように刷毛を用いて被覆剤を塗布した。次いで、CFRP製の部材を硬化炉の炉内に搬入し、表1に示す条件で炉内にて加熱することにより被覆剤を硬化させ、CFRP製搬送用部材を得た。
【0071】
得られたCFRP製搬送用部材の機械加工面を無塵のクリーンワイプ(ポリエステルニット)で拭き取った。拭き取り後のグリーンワイプを観察し、下記の基準に従い発塵性を評価した。結果を表1に示した。
〇:クリーンワイプに黒い汚れの付着がなく全く汚れていない(発塵無し)
△:クリーンワイプに線状の黒い汚れが付着している(やや発塵有り)
×:クリーンワイプの全面に黒い汚れが付着している(粉塵有り)
【0072】
なお、評価が「△」の場合には、機械加工面の角部における被覆が不足しているため、クリーンワイプに黒い汚れが線状に付着している。また、評価が「×」の場合には、機械加工面の全体における被覆が不足しているため、クリーンワイプの全面に黒い汚れが付着している。
【0073】
[アウトガス特性]
(実施例1~5、比較例1~3)
被覆剤についてASTM E595に準拠して質量損失と再凝縮物質量を測定した。具体的な方法は、以下のとおりである。
【0074】
まず、以下の手順により、被覆剤から被覆剤硬化板を作製した。すなわち、フッ素系離型フィルム(東レ株式会社製、商品名「トヨフロン」)を敷いた金属製トレイ(30cm×20cm×深さ5cm)を準備した。次いで、金属製トレイの離型フィルムの上に被覆剤を流し込んだ。次いで、金属製トレイをドラフト装置内に搬入し、6時間静置することで被覆剤から溶剤を揮発させた。その後、金属製トレイを硬化炉の炉内に搬入し、表1に示す条件で炉内にて加熱した。加熱により、被覆剤のみからなる硬化板(縦30cm×横20cm×厚さ0.1~0.15cm)を得た。得られた硬化板から縦2mm×横2mm×厚さ1~1.5mmのアウトガス特性の評価のための試験片を切り出した。切り出しには、水冷式の回転式ダイヤモンドカッターを用いた。
【0075】
試験片の質量(試験前試料質量)と、アウトガスを補足するプレートの重量(試験前プレート重量)を測定した。次いで、温度23±1℃、相対湿度50±5%の条件で24時間試験片を保管した。その後、アウトガス測定装置の冷却板にプレートを取り付け、庫内に試験片を搬入した。次いで、圧力が1.0×10-3~5.9×10-6Paとなるように庫内を減圧しつつ、試験片を温度125℃で24時間加熱した。次いで、加熱後の試験片の質量(試験後試料質量)と、プレートの重量(試験後プレート重量)を測定した。測定した試験片の質量と、プレートの重量を式(1)及び(2)に代入することで、被覆剤の硬化物の質量損失と、再凝縮物質量を算出した。結果を表1に示した。
【0076】
質量損失={(試験前試料質量-試験後試料質量)/試験前試料質量}×100・・・(1)
【0077】
再凝縮物質量={(試験後プレート重量-試験前プレート重量)/試験前試料質量}×100・・・(2)
【0078】
[塗布むら]
発塵性の評価で得られたCFRP製搬送用部材について塗布むらを評価した。塗布むらは、被覆後の機械加工面に光を照射しながら、その反射の状態を目視で観察し、下記の基準に従い評価した。結果を表1に示す。
〇:機械加工面の全面に均一な光沢がある
△:機械加工面の一部に光沢の無い領域が観察され、機械加工面の全面に占める光沢のない領域の割合が、20%以下である
×:機械加工面の一部に光沢の無い領域が観察され、機械加工面の全面に占める光沢のない領域の割合が20%を超え50%以下である
【0079】