(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109417
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】意匠シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/20 20060101AFI20220721BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20220721BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20220721BHJP
D06M 17/00 20060101ALI20220721BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20220721BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220721BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
B29C43/20
B32B5/26
B32B7/12
D06M17/00 L
B29K101:12
B29K105:08
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004707
(22)【出願日】2021-01-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年1月17日、同年6月15日及び同年6月22日に株式会社サン・クレアに販売 〔刊行物等〕 令和2年3月9日、ダイセン株式会社発行、繊維ニュース、令和2年3月9日付、第7面にて発表 〔刊行物等〕 令和2年3月10日、セイショク株式会社が自社ホームページ(https://nunous.jp)にて発表 〔刊行物等〕 令和2年3月17日、同年7月14日及び同年11月10日に篠原テキスタイル株式会社に販売 〔刊行物等〕 令和2年3月23日、株式会社繊研新聞社発行、繊研新聞、令和2年3月23日付、第1面にて発表 〔刊行物等〕 令和2年4月10日、セイショク株式会社が、株式会社マクアケのウェブサイト(https://www.makuake.com/)にて、発明品の財布を発表し、クラウドファンディングを募集し、令和2年7月31日~同年8月19日に、応募者67名に財布を発送 〔刊行物等〕 令和2年4月15日、ダイセン株式会社発行、繊維ニュース、令和2年4月15日付、第10面にて発表 〔刊行物等〕 令和2年4月16日及び同年8月6日に株式会社リクリエに販売 〔刊行物等〕 令和2年4月21日、株式会社山陽新聞社発行、山陽新聞、令和2年4月21日付朝刊、第7面にて発表 〔刊行物等〕 令和2年5月7日、株式会社瀬戸内海経済レポート発行、VISION OKAYAMA、通巻第2097号、第12頁にて発表 〔刊行物等〕 令和2年7月6日、株式会社瀬戸内海経済レポート発行、VISION OKAYAMA、通巻第2103号、表紙及び第2~3頁にて発表 〔刊行物等〕 令和2年8月6日に株式会社カイタックトレーディングに販売 〔刊行物等〕 令和2年8月25日に有限会社玉木新雌に販売 〔刊行物等〕 令和2年8月27日及び同年9月17日にジーク株式会社に販売 〔刊行物等〕 令和2年9月14日にsobiブランディング小尾野香織に販売 〔刊行物等〕 令和2年9月15日に株式会社観光企画設計社に販売 〔刊行物等〕 令和2年9月18日にダイセン株式会社に販売 〔刊行物等〕 令和2年10月16日に島田商事株式会社に販売 〔刊行物等〕 令和2年10月16日に株式会社アシックスに販売 〔刊行物等〕 令和2年10月30日に株式会社羽田未来総合研究所に販売
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔刊行物等〕 令和2年11月15日に有限会社napに販売 〔刊行物等〕 令和2年11月18日及び同年12月2日に株式会社hitohiに販売
(71)【出願人】
【識別番号】503080969
【氏名又は名称】セイショク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西崎 誠一郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
4L032
【Fターム(参考)】
4F100AJ02B
4F100AJ02D
4F100AK06C
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
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4F100DG12B
4F100DG12D
4F100EJ30B
4F100EJ39
4F100GB81
4F100HB21A
4F100JA13
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4F100JL11C
4F100JL12
4F100JL16B
4F100YY00B
4F204AA03
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG03
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB22
4F204FN11
4F204FN15
4F204FW23
4L032AA03
4L032AA05
4L032AA07
4L032AB02
4L032AB03
4L032AB07
4L032AC02
4L032AC03
4L032BA05
4L032BB03
4L032BD01
4L032BD03
4L032DA00
4L032EA00
(57)【要約】
【課題】これまでにない意匠性や質感を有する新たなシート素材を提供するとともに、布地の製造時に発生する規格外品に付加価値を加える方法を提供する。
【解決手段】複数の布地が積層されて樹脂で接着されてなる成形品をスライスしてなる意匠シートであって;前記シートの厚さが0.1~3mmであり、前記シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15°未満であり、かつ前記シート表面に模様が形成された、意匠シート。あるいは、色調の異なる複数の布地が積層されて樹脂で接着されてなる成形品をスライスしてなる意匠シートであって;前記シートの厚さが0.1~3mmであり、前記シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15~90°であり、かつ前記シート表面に模様が形成された、意匠シート。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の布地が積層されて樹脂で接着されてなる成形品をスライスしてなる意匠シートであって;
前記シートの厚さが0.1~3mmであり、
前記シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15°未満であり、かつ
前記シート表面に模様が形成された、意匠シート。
【請求項2】
前記複数の布地の色調が異なる、請求項1に記載の意匠シート。
【請求項3】
色調の異なる複数の布地が積層されて樹脂で接着されてなる成形品をスライスしてなる意匠シートであって;
前記シートの厚さが0.1~3mmであり、
前記シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15~90°であり、かつ
前記シート表面に模様が形成された、意匠シート。
【請求項4】
前記布地が織布である請求項1~3のいずれかに記載の意匠シート。
【請求項5】
前記布地がニット地である請求項1~3のいずれかに記載の意匠シート。
【請求項6】
前記布地が、規格外品又はリサイクル品である請求項1~5のいずれかに記載の意匠シート。
【請求項7】
エンボスが形成された請求項1~6のいずれかに記載の意匠シート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載された意匠シートを縫製してなる縫製加工品。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載された意匠シートを基材に貼り付けてなるインテリア製品。
【請求項10】
布地と熱可塑性樹脂フィルムとを交互に重ねてから、加熱することによって熱可塑性樹脂を溶融させ、次いで加圧しながら冷却することによって布地中に含浸された熱可塑性樹脂を固化させ、厚さが5~500mmの成形品を形成し、得られた成形品をスライスして、厚さ0.1~3mmのシートを得ることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の意匠シートの製造方法。
【請求項11】
前記成形品を、突板製造用スライサーによってスライスする、請求項10に記載の意匠シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート表面に模様が形成された意匠シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インテリア製品、雑貨、文具、装飾用小物などの素材としては、布地、皮革、紙、木材、プラスチック、ガラス、金属など、様々なものが用途に応じて使い分けられているが、近年では、デザインの多様化に伴い、これまでにない意匠性や質感を有する新たな素材が求められている。
【0003】
従来から用いられている上記素材の中でも布地は、多様な色彩表現が可能であるとともに、優しい質感を有することから、壁紙、カーテン、絨毯、家具などのインテリア製品をはじめ、雑貨、文具、装飾用小物などにも広く用いられている。
【0004】
布地を複数枚重ねて厚地の積層体にすることは広く行われている。その際、接着剤を用いて積層することも知られている。特許文献1には、接着剤を染み込ませた織物を重ね合わせて板状の成形物を形成し、その後圧縮乾燥させて得られる織物成形品が記載されていて、建材などの代わりに利用できるとされている。しかしながら、当該積層体は材木や合板の代替品を目指したものであり、その意匠性については何ら記載されていない。
【0005】
特許文献2には、色調の異なる5枚以上の布地が積層されて熱可塑性樹脂で接着されてなり、該成形品の切断面に縞模様が形成されている成形品が記載されている。この成形品は、その断面に形成される模様により、意匠性に優れている。しかしながら、断面の意匠を活かすためには、厚みのある成形品でなければならない。
【0006】
一方、布地を製造する現場では、規格外品が生じることが避けられない。例えば、染色後の布地の色彩が製品規格から外れたものや、製織時に欠陥を生じたものについては、経済的な価値が極めて低く、廃棄するか、ボロ布としてフェルトに再加工するなどのダウンサイクリングの用途しかなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-77838号公報
【特許文献2】特開2018-34388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためにされたものであり、これまでにない意匠性や質感を有する新たなシート素材を提供しようとするものである。また、布地の製造時に発生する規格外品に付加価値を加える方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、複数の布地が積層されて樹脂で接着されてなる成形品をスライスしてなる意匠シートであって;前記シートの厚さが0.1~3mmであり、前記シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15°未満であり、かつ前記シート表面に模様が形成された意匠シートを提供することによって解決される。このとき、前記複数の布地の色調が異なることが好ましい。
【0010】
また上記課題は、色調の異なる複数の布地が積層されて樹脂で接着されてなる成形品をスライスしてなる意匠シートであって;前記シートの厚さが0.1~3mmであり、前記シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15~90°であり、かつ前記シート表面に模様が形成された意匠シートを提供することによっても解決される。
【0011】
前記意匠シートにおいて、前記布地が織布であることが好ましい。前記布地がニット地であることも好ましい。前記布地が、規格外品又はリサイクル品であることも好ましい。また、前記意匠シートにエンボスが形成されることも好ましい。
【0012】
本発明の好適な実施態様は、前記意匠シートを縫製してなる縫製加工品である。また、本発明の他の好適な実施態様は、前記意匠シートを基材に貼り付けてなるインテリア製品である。
【0013】
上記課題は、布地と熱可塑性樹脂フィルムとを交互に重ねてから、加熱することによって熱可塑性樹脂を溶融させ、次いで加圧しながら冷却することによって布地中に含浸された熱可塑性樹脂を固化させ、厚さが5~500mmの成形品を形成し、得られた成形品をスライスして、厚さ0.1~3mmのシートを得る、前記意匠シートの製造方法を提供することによっても解決される。このとき、前記成形品を突板製造用スライサーによってスライスすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の意匠シートは、これまでにない意匠性や質感を有するので、インテリア製品、雑貨、文具、装飾用小物などの分野に新たなシート素材を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、様々なデザイン上の要請に応えて、意匠性に優れた意匠シートを製造することができる。
【0015】
原料の布地として規格外品やリサイクル品を用いた場合には、価値の低い原料に付加価値を加えて意匠性に優れた製品を提供することが可能となる。すなわち、いわゆるアップサイクリングが可能となり、これまでダウンサイクリングや廃棄で処理せざるを得なかった規格外品やリサイクル品を有効活用することができ、社会全体のサステナビリティー(持続可能性)に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1において得られた成形品の外観である。
【
図2】実施例1において得られた意匠シートの外観である。
【
図3】実施例1において得られた意匠シートが水を弾いている写真である。
【
図4】実施例1において得られた意匠シートを切断して縫合して製作した財布を畳んだ写真である。
【
図5】実施例1において得られた意匠シートを切断して縫合して製作した財布を開いた写真である。
【
図6】実施例1において得られた意匠シートを切断して縫合して製作した財布のエンボス部分の写真である。
【
図7】実施例1において得られた意匠シートを切断して丸めて作成したくず入れの写真である。
【
図8】実施例2において得られた意匠シートの外観である。
【
図9】実施例3において得られた意匠シートの外観である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の意匠シートは、複数の布地が積層されて樹脂で接着されてなる成形品を厚さ0.1~3mmにスライスしてなるものであり、当該シート表面には模様が形成されている。
【0018】
まず、スライスする前の成形品について説明する。当該成形品は、複数の布地が積層されて樹脂で接着されたものである。
【0019】
本発明で用いられる布地は特に限定されない。織布、ニット地、不織布のいずれを用いることもできる。布地の目付は特に限定されず、用途に応じて適宜選択されるが、通常50~1000g/m2である。布地を構成する繊維素材も特に限定されず、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロンなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維などを用いることができる。複数種類の繊維を含む布地を用いてもよい。また、異なる繊維を含む布地を複数種用いて、それらを重ねて積層体を得てもよい。
【0020】
合成繊維を含む布地を、熱可塑性樹脂を用いて接着する場合には、当該合成繊維の融点又は軟化点が、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移点よりも高いことが必要である。具体的には、合成繊維の融点又は軟化点は200℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましい。ここで、合成繊維が明確な融点を持っている場合には融点が、そうでない場合には軟化点が上記条件を満足していればよい。合成繊維の中でも、高融点かつ高強度であることから、ポリエステルが好ましく使用される。
【0021】
天然繊維や半合成繊維の場合には、通常、230℃未満では軟化しないので、熱可塑性樹脂を用いて接着する場合に好ましく用いられる。多くの場合、これらの繊維はさらに高温に加熱することによって分解する。なかでも、綿、麻などのセルロース繊維は、繊維が水分を含んでいて耐熱性が良好であることから、高周波誘電加熱やマイクロ波加熱を採用する場合に好適に用いられる。
【0022】
本発明で用いられる布地としては、新品の良品を用いても構わないが、規格外品やリサイクル品を用いることが、コスト面及び環境面の両面から好ましい。規格外品としては、染色後の布地の色彩が製品規格から外れたもの、製織時に欠陥を生じたもの、製品取り扱い時に破損や汚損したものなどが挙げられる。また、リサイクル品としては、縫製加工に供されなかった在庫品の布地、裁断時の余り布、縫製加工後の在庫品、消費者の使用後のリサイクル品などが挙げられる。本発明の意匠シートは、規格外品やリサイクル品を用いることで廃棄物を減らすことができるので、環境に優しい製品であるといえる。しかも、得られる意匠シートの価値は原料の規格外品やリサイクル品よりも格段に向上するので、いわゆるアップサイクリングが実現されることとなる。
【0023】
スライスする前の成形品では、複数の布地が積層されて樹脂で接着されている。それによって、剛性に優れた成形品を得ることができるとともに、スライスした表面に意匠性に優れた模様を形成することができる。積層される布地の枚数は、好適には10枚以上であり、より好適には20枚以上であり、さらに好適には50枚以上である。積層される布地の枚数の上限は特に限定されないが、生産性などを考慮すれば、好適には2000枚以下であり、より好適には1000枚以下である。
【0024】
本発明で用いられる複数の布地は、色調が異なっていることが好ましい。色調が異なっていることにより、色彩の変化による模様がスライス面に形成される。ここで、「色調が異なる」とは、全部の布地が同じ色調ではない、ということである。色調の異なる布地をランダムに配置してもよいし、規則正しく配置してもよい。目指す模様がスライス面に形成されるように色調の異なる布地を積み重ねればよい。色の種類は、2色であってもよいし、3色、4色、5色あるいはそれ以上の数の色であってもよく、目指すデザインに応じて適宜調整することができる。
【0025】
本発明で用いられる複数の布地は、色調が同じであってもよい。この場合であっても、後述する「平行スライス」の場合であれば、スライス面に現れる布地同士の距離が数mm以上になるので、肉眼で模様が観察される。本発明者は、濃色の布地を用いた場合に、布地と樹脂との色調の差が認識できることを確認した。また、白色の布地を用いた場合であっても、スライス面での光沢感の相違として模様が認識できることを確認した。インテリア製品などでは、このような僅かな色調や質感の相違による模様が好まれる場合も多い。
【0026】
複数の布地を相互に接着する樹脂は特に限定されないが、熱可塑性樹脂が好適である。熱可塑性樹脂を用いた場合、樹脂を加熱溶融して布地に含浸させてから冷却することによって布地同士を簡便に接着することができる。また、安価な樹脂を用いることができるので、コスト面からも有利である。
【0027】
このとき用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂などを例示することができる。なかでも、融点が比較的低くて安価なポリオレフィンが好適に用いられる。ポリオレフィンは、一般的に他の樹脂への接着性は良好ではないが、本発明では加熱することによって溶融した熱可塑性樹脂を、加圧することによって布地中の繊維集合体に含浸させているので、布地同士を十分に強固に接着することができる。ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレンや、ポリプロピレンを用いることができる。エチレン-プロピレン共重合体を用いることもできる。なかでも、融点が低くて安価であることから、低密度ポリエチレンが好適に用いられる。ここで、低密度ポリエチレンには、高圧法の低密度ポリエチレンだけでなく直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)も含まれる。また、壁紙などのインテリア用途に用いるのであれば、ポリ塩化ビニルを用いることが好ましい。それによって、意匠シートを難燃性にすることができる。また、樹脂の中に難燃剤を配合してもよいし、布地に難燃剤を付着させてから樹脂を用いて接着してもよい。
【0028】
熱可塑性樹脂を加熱溶融して布地に含浸させてから冷却して接着する方法は特に限定されないが、布地と熱可塑性樹脂フィルムとを交互に重ねてから、加熱することによって熱可塑性樹脂を溶融させ、次いで加圧しながら冷却することによって布地中に含浸された熱可塑性樹脂を固化させる方法が好ましい。こうすることによって布地中の繊維集合体に熱可塑性樹脂が均一に含浸され、布地同士が強固に接着された成形品が得られる。
【0029】
布地と重ねられる熱可塑性樹脂フィルムは、布地に含まれる繊維の融点あるいは軟化点よりも低い融点又はガラス転移点を有する。ここで、熱可塑性樹脂フィルムが明確な融点を持っている場合には融点が、そうでない場合にはガラス転移点が上記条件を満足していればよい。加熱する際に繊維の強度を低下させないためには、熱可塑性樹脂フィルムの融点又はガラス転移点が、布地に含まれる繊維の融点又は軟化点よりも、40℃以上低いことが好ましく、80℃以上低いことがより好ましい。フィルムに含まれる熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移点は、60~180℃であることが好ましく、80~160℃であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移点が上記範囲に含まれることによって、繊維強度の低下を抑制しながら布地を接着することができるとともに、成形品の耐熱性を確保することができる。
【0030】
布地の間に配置される熱可塑性樹脂フィルムの厚さは特に限定されず、通常10~500μmであり、好適には20~300μmである。フィルムの厚さは、重ねられる布地の目付や厚さなどに応じて調整される。布地と布地の間に挟まれるフィルムは1枚だけであってもよく、複数枚であってもよい。複数枚のフィルムからなる場合には、合計の厚さが上記厚さの範囲に含まれていればよい。
【0031】
布地と熱可塑性樹脂フィルムとを交互に重ねて得られた積層体を、加熱することによって熱可塑性樹脂を溶融させる。加熱する温度は、熱可塑性樹脂フィルムの融点又はガラス転移点よりも高く、布地に含まれる繊維の融点又は軟化点よりも低い温度とすることが好ましい。加熱方法としては、オーブン中で加熱する方法や、熱プレスの熱盤からの伝熱で加熱する方法や、高周波誘電加熱やマイクロ波加熱による方法などが挙げられる。オーブンや熱プレス装置を用いて加熱する場合には、伝熱によって積層体を加熱しなければならないが、布地は内部に空気を含んでいるために伝熱係数が小さい。したがって、高周波誘電加熱やマイクロ波加熱による方法が望ましい。特に、伝熱係数が低く厚みのある成形体を効率的に加熱できる点からは、高周波誘導加熱がより好ましい。さらに、高周波誘電加熱やマイクロ波加熱とヒーターによる加熱とを併用して中心部も外側も効率的に加熱することが特に好ましい。高周波誘電加熱やマイクロ波加熱によって効率よく加熱するためには、布地が水分などの極性分子を含んでいることが好ましいので、セルロース繊維、羊毛、絹、ナイロンなどの含水率の高い繊維を含んでいることが好ましく、セルロース繊維を含んでいることが特に好ましい。このとき、布地中のセルロース繊維の含有率は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
【0032】
このようにして加熱した積層体を、加圧しながら冷却することによって布地中に含浸された熱可塑性樹脂を固化させる。熱可塑性樹脂を固化させる方法は特に限定されないが、冷却プレスを用いることが好ましい。このとき、予め加熱して熱可塑性樹脂を溶融させた積層体を、冷却しながら加圧して、布地中に熱可塑性樹脂を含浸させながら固化させる方法が好ましい。また、熱プレスなどを用いて加熱しながら加圧して、熱可塑性樹脂を溶融させながら布地中に含浸させ、引き続き冷却しながら加圧して熱可塑性樹脂を固化させる方法も採用できる。溶融した熱可塑性樹脂を加圧下で固化させることによって、溶融した熱可塑性樹脂が布地中の繊維の隙間に十分に含浸された状態で固化して布地同士が強固に接着される。冷却する際に積層体に加える圧力は、成形品の用途に応じて適宜調整すればよく、スライスしても剥がれない程度に接着させるためには、圧力が、1N/cm2以上であることが好ましい。より強固に接着させるためには、プレス圧力が5N/cm2以上であることが好ましく、10N/cm2以上であることがより好ましい。プレス圧力の上限値は特に限定されないが装置やエネルギーのコストなどを考慮すれば、10000N/cm2以下とすることが現実的である。熱可塑性樹脂が固化した後で除圧して、成形品が得られる。
【0033】
複数の布地を相互に接着するための樹脂は、上記熱可塑性樹脂に限定されない。常温で液体の接着剤を固化させて、布地同士を接着して成形品を得ることもできる。そのような接着剤としては、各種の接着剤を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂あるいはシリコーン樹脂のように、化学反応によって固化する反応型接着剤を用いることもできるし、アクリル樹脂エマルジョンやポリ酢酸ビニルエマルジョンのようなエマルジョン接着剤を用いることもできるし、PVA糊のような水溶性接着剤や、ゴム系接着剤などのように有機溶媒に溶解した溶剤型接着剤を用いることもできる。しかしながら、分散媒や溶媒を含む場合には、乾燥に多大なエネルギーと時間を要するので、反応型接着剤を用いることが好ましい。なお、ここでいう接着剤は本発明において布地同士を接着することができるものであればよく、一般的に接着剤として用いられているものでなくてもよい。
【0034】
常温で液体の接着剤を含浸させてから固化させる方法は特に限定されない。予め接着剤を含浸させた布地を重ねて積層体を作製してもよいし、1枚ずつ布地を積層しては塗布する作業を繰り返してもよいし、予め重ねた布地に対してまとめて接着剤を含浸させてもよい。接着剤が含浸された積層体に対し、布地に対して垂直の方向から加圧しながら固化させることが好ましい。室温反応型の接着剤であれば、硬化反応を開始させてから固化するまでの時間内に上記操作を行うことになるし、加熱硬化型の接着剤であれば、積層体を加圧しながら加熱することが好ましい。これらの中では、操作の容易性や生産性の観点から、加熱硬化型の接着剤を用いることが好ましい。積層体を加圧しながら固化させることによって成形品が得られる。
【0035】
以上のようにして得られた成形品の好適な厚さは5~500mmである。成形品が厚いほど、広い面積の意匠シートを製造できて生産性がよい。成形品の厚さは、より好適には10mm以上であり、さらに好適には20mm以上である。一方、成形品が厚すぎると、加熱や冷却に時間がかかってかえって生産効率が低下するおそれがあるし、製造装置のコストも上昇する場合がある。成形品の厚さはより好適には300mm以下であり、さらに好適には200mm以下である。得られた成形品をスライスする前に、成形品の周囲を鋸などで切断して、必要に応じて直方体状に形状を整えることが好ましく、さらに必要に応じて研磨やバリ取りを行ってもよい。
【0036】
成形品を、厚さ0.1~3mmにスライスすることによって、本発明の意匠シートが製造される。本発明者が鋭意検討した結果、スライサーを用いて薄く平滑にスライスできることが明らかになった。当該成形品には布地由来の硬くて異方性を有する成分と、布地を接着する比較的柔らかく等方性の成分が含まれていて、まとめてスライスするのは困難だと予想されたが、適切なスライサーを選択すれば、きれいにスライスできることが明らかになった。例えば、木材加工において天然木からスライスして突板を得るための突板製造用スライサーによってスライスできることがわかった。特に、切削力の大きい縦突きスライサーを用いてスライスすることが好ましい。シートのスライス面には、複数枚の布地に由来する模様が現れる。
【0037】
本発明の意匠シートの厚さは0.1~3mmである。薄くスライスすることによって、意匠シートの単位面積当たりのコストが下がるので好ましい。本発明者は実施例1に記載されているような比較的目付が大きい織布を用いたケースにおいて、厚さ0.25mmであればきれいにスライスでき、厚さ0.2mmであってもどうにかスライスできることを確認している。意匠シートに含まれる布地の目付が小さいほど薄くスライスすることが容易であることを考慮すると、現実的なスライス可能厚さの限界値は0.1mm程度だと考えられる。スライス工程の安定性や、得られるシートの強度などを考慮すれば、シートの厚さは0.15mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましい。単層で縫製加工する場合など、特に強度が必要な場合には、0.3mm以上であることが好ましい。一方、意匠シートの厚さが3mmを超えたのでは、単位面積当たりのコストが高くなりすぎるし、可撓性が要求される用途に用いることができなくなる。意匠シートの厚さは、好適には2mm以下であり、より好適には1.5mm以下であり、さらに好適には1mm以下である。
【0038】
本発明の意匠シートの好適な態様の一つは、当該シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15°未満であり、当該シート表面に模様が形成された意匠シートである。この態様について、以下、「平行スライス」と称する。後述の実施例1や3に記載されるように、積み重ねられた布地と平行の方向にスライスしても、プレス成形時の僅かな傾きや、切削時の僅かな傾きや、成形品内での布地のたわみなどの影響があるので、意図的に傾けなくても、スライス面に不規則で曲線的な模様が形成される(
図2、
図9)。このとき形成される代表的な模様は波模様である。もちろん、意図的に傾けたり撓ませたりすることで模様の調整も可能である。作業性や、歩留まり向上の観点からも布地に平行にスライスすることが好ましい。また、こうして得られる意匠シートの表面に形成される模様は一枚ごとに異なるので、シートを並べて使用する際に自然である。布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15°以上であると、模様のピッチが細かくなるので、単色の布地を用いた場合には模様を視認しにくくなる。当該角度は、より好適には10°以下であり、さらに好適には5°以下である。平行スライスにおける波模様のピッチは3~450mmであることが好ましい。模様のピッチが比較的大きいので、視認性が良好である。
【0039】
平行スライスの場合、意匠シートの中に布地が平行に近い角度で存在しているので、隣接する布地同士の剥離強度が高いし、シート全体の引張強度も高い。したがって、意匠シート単層で強度と可撓性を活かした用途に用いることができる。例えば、皮革が用いられている用途にも適用することができる。しかも、樹脂で固めているために、
図3に示すように耐水性にも優れているので、耐水性の問題で皮革が使用できなかったところに用いることもできる。縫製加工やエンボス加工をすることもできて、
図4~6に示すような財布を製造することもできる。また、薄くても剛性が高いので、しっかりした筒状の形状にしてくず入れにすることもできる(
図7)。
【0040】
平行スライスの場合、織布を用いることで、ニット地や不織布に比べて強度や剛性を向上させることができる。一方ニット地は、織布よりもコシが弱いので、成形品中で布地が撓みやすく、模様がより不規則なものになりやすく、織布を用いて波模様が形成された場合(
図2)と比べて、より不規則な模様となって独特の風合いを有する意匠シート(
図9)を得ることができる。
【0041】
また、本発明の意匠シートの好適な態様の他の一つは、色調の異なる複数の布地が積層され、当該シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15~90°であり、当該シート表面に模様が形成された意匠シートである。この態様について、以下、「非平行スライス」と称する。平均的面方向と、シート表面とがなす角度が15°以上の場合には、シート表面における布地のピッチが小さくなり、単色の場合には模様を視認しにくい。したがってこの場合には、色調の異なる複数の布地が積層される。後述の実施例2に記載されるように、積み重ねられた布地と垂直の方向にスライスした場合、地層のような直線的な縞模様が形成されて少し離れた位置からは精細なグラデーションが観察された(
図8)。傾きを調整することによって、縞模様のピッチを調整することができる。作業性や、廃棄物量削減の観点からは、布地に垂直(すなわち90°)にスライスすることが好ましい。布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度は、好適には45°以上であり、より好適には70°以上であり、さらに好適には80°以上である。なおこの角度は、布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度のうち、鋭角の角度のことを言い、最大値が90°である。非平行スライスの場合、一度にスライスする面積が平行スライスに比べて狭いので、複数の成形品を予め重ねて接着剤を用いて接着しておいてからまとめてスライスすることが、生産性の面から好ましい。非平行スライスにおける波模様のピッチは0.1~3mmであることが好ましい。模様のピッチが小さいので、縞模様のグラデーションが観察される。
【0042】
非平行スライスの場合には、意匠シートに含まれる布地がシートの面方向に長く繋がっていないので、引張強度が低くなる。したがって、基材に貼り付けて用いることが好ましい。例えば、紙、布、木材、プラスチック、金属などの表面に貼り付けて使用することが好ましい。もちろん、水平スライスの場合にも、同様に基材に貼り付けて用いることができる。
【0043】
以上説明したように、本発明の意匠シートは、これまでにない意匠性や質感を有する新たなシート素材である。壁紙、家具、家電などインテリア製品やその表面の装飾に好適である。さらに、雑貨、文具、装飾用小物など、様々な用途に用いて、優れた意匠性を発揮することができる。
【実施例0044】
実施例1[織布を用いた平行スライス]
布地として、綿100質量%で、目付が368g/m2である綾織の織布を用いた。熱可塑性樹脂フィルムとして、厚さ100μmの低密度ポリエチレンフィルムを用いた。前記織布と前記フィルムをそれぞれ50cm×50cmの大きさに切断し、織布が最下面と最上面に配置されるように、織布123枚とフィルム122枚を交互に重ねた。ここで用いた織布には、色調の異なるものが2色含まれており、所望する表面デザインに応じて配列して重ねた。得られた積層体を、ヒーターを内蔵した高周波誘電加熱装置(13.56MHz)で16分間加熱して、前記フィルムを溶融させた。ヒーターの温度は170℃とした。
【0045】
このようにして加熱された積層体を、プレス圧力が50N/cm2の冷却プレスに挟み、ポリエチレンを固化させてから荷重を除いて、両表面に織布が露出した厚さ50mmの成形品を得た。得られた成形品は硬く、十分な剛性を有していた。ここで、厚さ100μmの低密度ポリエチレン(密度0.92/cm3)フィルムの目付は92g/m2であるから、成形品全体の重量に対して20質量%の低密度ポリエチレンを含んでいる。
【0046】
得られた成形品の周囲をパネルソーで垂直に切断してから2分割して、縦46cm、横23cm、厚さ4.7cmの直方体状の成形品を得た。得られた成形品の外観を
図1に示す。この成形品を、布地が水平になるように縦突きスライサーのステージ上にセットし、布地と平行の方向にスライスし、厚さ0.56mmの意匠シートを、合計で30枚得た。シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度は5°未満であった。
【0047】
こうして得られた意匠シートを曲げたときの外観を
図2に示す。シートの表面には、波模様が形成されており、平均的な波模様のピッチは10mm~200mmの範囲に収まり、目視で観察しやすいピッチの模様が形成されていた。プレス成形時の僅かな傾きや、切削時の僅かな傾きや、成形品内での布地のたわみなどの影響があるので、意図的に傾けなくても、適度な波模様が得られた。
【0048】
得られた意匠シートは、柔軟性を有していながら、十分な強靭性を有していた。また、ポリエチレンが含浸されているので、水を弾くことができて耐水性にも優れていた(
図3)。また、切断して縫製加工やエンボス加工をすることもでき、そのように加工した財布の写真を
図4~6に示す。また、薄くても剛性が高いことを活かし、意匠シートの一端に切り込みを入れて筒状に丸めて、他端を切り込みに挿入することで筒状の形状にし、底を取り付けてくず入れとした写真を
図7に示す(
図7)。なお、
図3、
図6及び
図7は同様に作成した別色の例を撮影したものである。
【0049】
実施例2[織布を用いた垂直スライス]
布地として、ポリエステル65質量%及び綿35質量%を含み、目付が160~260g/m2である綾織の織布を用いた。用いた織布の平均目付は220g/m2であった。熱可塑性樹脂フィルムとして、厚さ100μmの低密度ポリエチレンフィルムを用いた。前記織布と前記フィルムをそれぞれ50cm×50cmの大きさに切断し、織布が最下面と最上面に配置されるように、織布207枚とフィルム206枚を交互に重ねた。ここで用いた織布には、色調の異なるものが6色含まれており、所望する表面デザインに応じて配列して重ねた。得られた積層体を、ヒーターを内蔵した高周波誘電加熱装置(13.56MHz)で16分間加熱して、前記フィルムを溶融させた。ヒーターの温度は170℃とした。
【0050】
このようにして加熱された積層体を、プレス圧力が50N/cm2の冷却プレスに挟み、ポリエチレンを固化させてから荷重を除いて、両表面に織布が露出した厚さ55mmの成形品を得た。得られた成形品は硬く、十分な剛性を有していた。ここで、厚さ100μmの低密度ポリエチレン(密度0.92/cm3)フィルムの目付は92g/m2であるから、成形品全体の重量に対して29質量%の低密度ポリエチレンを含んでいる。
【0051】
得られた成形品の周囲をパネルソーで垂直に切断してから2分割して、縦46cm、横23cm、厚さ5.5cmの直方体状の成形品を得た。得られた成形品を、布地が垂直になるように縦突きスライサーのステージ上にセットし、布地と垂直の方向にシートを切り出し厚さ0.68mmの装飾シートを、合計で30枚得た。シートに含まれる布地の平均的面方向と、シート表面とがなす角度は85~90°であった。
【0052】
こうして得られた意匠シートの外観を
図8に示す。シートの表面には、地層のような直線的な縞模様が形成されていた。互いに離接して積層された布地同士のピッチは、0.17~0.36mmの範囲に収まり、少し離れた位置から観察すると、精細なグラデーションが観察された。得られた意匠シートは、柔軟性を有しているとともに、耐水性にも優れていた。
【0053】
実施例3[ニット地を用いた平行スライス]
布地として、綿を100質量%含み、目付が212g/m2であるニット地を用いた。熱可塑性樹脂フィルムとして、厚さ100μmの低密度ポリエチレンフィルムを用いた。前記ニット地と前記フィルムをそれぞれ50cm×50cmの大きさに切断し、ニット地が最下面と最上面に配置されるように、ニット地139枚とフィルム138枚を交互に重ねた。ここで用いたニット地には、色調の異なるものが5色含まれており、所望する表面デザインに応じて配列して重ねた。得られた積層体を、ヒーターを内蔵した高周波誘電加熱装置(13.56MHz)で16分間加熱して、前記フィルムを溶融させた。ヒーター温度は170℃であった。
【0054】
このようにして加熱された積層体を、プレス圧力が50N/cm2の冷却プレスに挟み、ポリエチレンを固化させてから荷重を除いて、両表面に織布が露出した厚さ40mmの成形品を得た。得られた成形品は硬く、十分な剛性を有していた。ここで、厚さ100μmの低密度ポリエチレン(密度0.92/cm3)フィルムの目付は92g/m2であるから、成形品全体の重量に対して約30質量%の低密度ポリエチレンを含んでいる。
【0055】
得られた成形品の周囲をパネルソーで垂直に切断してから2分割して、縦46cm、横23cm、厚さ3.5cmの直方体状の成形品を得た。この成形品を、布地が水平になるように縦突きスライサーのステージ上にセットし、布地と平行の方向にスライスし、厚さ0.6mmの装飾シートを、合計で5枚得た。
【0056】
こうして得られた意匠シートの外観を
図9に示す。シートの表面には、不規則に湾曲した模様が形成されており、平均的な模様のピッチは10mm~400mmの範囲に収まり、目視で観察しやすいピッチの模様が形成されていた。プレス成形時の僅かな傾きや、切削時の僅かな傾きや、成形品内での布地のたわみなどの影響があるので、意図的に傾けなくても、不規則な模様が形成された。実施例1で織布を用いて得られた意匠シートに比べて、布地にコシがないためか、より不規則な模様が形成され、独特の風合いを有していた。