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  • 特開-気体貯蔵放出化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109513
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】気体貯蔵放出化合物
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20220721BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20220721BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220721BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220721BHJP
   C08G 69/00 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01J20/34 H
B01J20/34 E
B01J20/30
C09K3/00 110B
C08G69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004878
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】有村 智朗
【テーマコード(参考)】
4G066
4J001
【Fターム(参考)】
4G066AB05A
4G066AB06A
4G066AB10A
4G066AB21A
4G066AC26B
4G066AC33A
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA22
4G066BA38
4G066CA21
4G066CA27
4G066CA31
4G066CA35
4G066CA38
4G066CA39
4G066CA51
4G066DA01
4G066GA01
4G066GA14
4G066GA16
4G066GA18
4G066GA40
4J001DA01
4J001DB01
4J001DC05
4J001EB24
4J001EC23
4J001GA13
4J001GD02
4J001GD08
4J001JA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水素貯蔵・放出特性が非常に優れ、水素貯蔵合金よりも水素を多量に貯蔵できて単位体積当たりの重量が小さく、水素を貯蔵させる場合の冷却や放出させる際の加温のエネルギーが小さく、水素貯蔵・放出の制御が容易な気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料として、新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供する。
【解決手段】式(1)で表される構造単位を有する、気体貯蔵放出化合物を提供する。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構造単位を有する、気体貯蔵放出化合物。
【化1】
【請求項2】
少なくとも、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物とを反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【化2】
【化3】
(式(3)中、X1は、OH、ハロゲン、OR11(R11は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR12(R12は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。Xは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR21(R21は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR22(R22は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。)
【請求項3】
請求項1に記載の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
【請求項4】
ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項3に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項5】
ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、請求項3又は4に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項6】
ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体のいずれかである、請求項3~5のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを貯蔵及び放出することができる気体貯蔵放出化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化のような環境問題を解決するために、これまでの化石燃料に代わる、クリーンなエネルギー源の開発が進められている。このうち、水素は、資源が多様かつ豊富であり、燃焼性能特性・発熱量が良好であり、燃料電池や内燃機関による発電時に二酸化炭素が排出されない低環境負荷であることから、エネルギー源として有望なものの一つとされている。
【0003】
水素をエネルギー源として用いるためには、変動する需要に柔軟に対応して供給を行うことができる、水素の貯蔵・放出システムの構築が必要である。例えば、余剰電力を用いて水を電気分解して得られた水素を、利用施設へ輸送する水素サプライチェーンの構築が必要である。
しかし、水素は常温常圧で気体であるため、現在、タンクやボンベ等の容器を用い高圧水素ガスとして貯蔵されている。そのため、これまで水素を利用する場合、高圧水素や液化水素をタンクローリーにより輸送する必要があった。また、水素貯蔵施設においても、高圧水素ガスタンクなどの大規模なインフラの整備が必要であった。
【0004】
容器を用いた高圧水素ガスの貯蔵・放出システムに代えて、オンサイトで水素を使用する場合、水素と材料間の相互作用により低圧で大量かつ安全に貯蔵・放出できる、水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵・放出システムが検討されている。水素貯蔵材料は、水素を選択的かつ可逆的に貯蔵及び放出できる材料である。水素貯蔵材料としては、水素貯蔵合金が有望とされているが、水素貯蔵能力に問題がある。また、不純物ガスによる性能低下や、レアメタルや高純度金属を原材料として使用することに伴うコスト上昇等の点において、改善の余地がある。さらに、水素貯蔵合金は、加工性が悪く、構成するチタンやマンガンなどの密度が4~8g/cmと高いため貯蔵体の重量が大きくなり、水素貯蔵時には冷却が、水素放出時には加熱が必要であり、取扱性の点で問題がある。
【0005】
特許文献1には、電子スピン共鳴法で測定される電子スピン密度が特定の範囲にある、ポリ(フェニルアセチレン)系ポリマー、ポリチオフェン系ポリマー、及び、ポリ(フェニレンビニレン)系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の共役系高分子からなる水素吸蔵材料が記載されている。しかし、この水素吸蔵材料は、ポリマー1gに吸着される水素の吸着量が0.25質量%以下と低い値にとどまっている。
特許文献2には、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの多孔質材料の表面に、ポリビニルアルコールをコーティングして得られる水素貯蔵放出材料が記載されている。しかし、この水素貯蔵放出材料は、水素貯蔵放出能力が低く実用的ではない。
特許文献3には、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム等のホウ素系化合物の水素錯体を水素貯蔵放出材料とすることが記載されている。しかしながら、このような水素貯蔵放出材料を製造するためには、高温で粉砕機を用いて原料を混錬粉砕する等の大きなエネルギーが必要である。
特許文献4には、キノキド類構造等の水素貯蔵部を有機ポリマーの主鎖および/又は側鎖に含み、該水素貯蔵部は、触媒存在下で水素分子を発生するとともに酸化還元活性部になり、該酸化還元活性部は、還元と、プロトン源への接触とにより、水素を貯蔵して前記水素貯蔵部になる、水素担体が記載されている。しかしながら、触媒の使用、還元及びプロトン源への接触が必須であることから、取扱性に劣るものである。
【0006】
近年、多孔性配位高分子(PCP;Porous Coordination Polymer)や有機金属構造体(MOF;Metal―Organic Framework)に関する基礎研究が盛んになって来ている。これらは、負電荷を帯びた有機化合物イオン(モノマー)と正電荷を帯びた金属イオンとの間に生じる相互作用により、両イオン性化合物が近傍に配位する性質を用いて、有機化合物イオンと金属イオンが整然と立体的に配置した構造を有する物質である。
特許文献5には、フタル酸型の配位子と金属イオンにより形成された三次元のネットワーク構造を有する多孔性高分子金属錯体(多孔性配位高分子;PCP)を、ガス貯蔵放出材料とすることが記載されている。しかしながら、特許文献5に記載されているフタル酸などの有機化合物と金属イオンから成る多孔性高分子金属錯体は、有機化合物と金属イオンとの相互作用が弱いため、ガス貯蔵放出材料として用いた場合に耐久性の点で問題がある。
特許文献6には、遷移金属イオン、イソフタル酸イオン配位子及ピラジン配位子から構成される多孔性高分子金属錯体(多孔性配位高分子;PCP)が記載されている。この多孔性高分子金属錯体は、窒素、酸素あるいは一酸化炭素などの各種ガスを吸着する機能を有し、これを用いることでガス分離膜を形成することが可能であるとされている。しかしながら、特許文献6に記載されている多孔性高分子金属錯体は、金属イオンとイソフタル酸イオン配位子及びピラジン配位子とが配位結合したもので、炭素原子―炭素原子間又は炭素原子-窒素原子間等が強固に共有結合した高分子主鎖を有するものではない。このような配位結合を有する化合物の構造は弱いので、例えば、水分子によって加水分解を起こしやすく、耐久性がの点で問題がある。また、気体吸着を発現させる前に、100℃以上の高温で3日間以上の減圧乾燥が必要であり、使用前の前処理に多大なエネルギーを必要とする。さらに、窒素等の様々なガス吸着に応用できる旨記載されているが、水素等の気体の貯蔵放出特性について記載されていない。
特許文献7には、1,3,5-ベンゼントリカルボキシ酸トリス[N-(4-ピリジル)アミド]と遷移金属イオンからなる多孔性配位高分子(PCP)が記載されている。
しかしながら、特許文献7に記載されている多孔性配位高分子は、1,3,5―ベンゼントリカルボキシ酸トリス[N-(4-ピリジル)アミド]配位子中に含まれるアミド基を有するだけであり、モノマー同士を共有結合して高分子化合物を構成するポリアミド結合ではない。さらに1,3,5―ベンゼントリカルボキシ酸トリス[N-(4-ピリジル)アミド]配位子と遷移金属イオンとが配位結合しているだけであり、その相互作用は弱く、高い結合エネルギーを持つ共有結合によって形成されたポリアミド化合物と、その化学構造が全く異なる。また、特許文献7の多孔性配位高分子は、クネベナーゲル反応、アルドール反応又はマイケル付加といった低分子の有機合成反応を行うための触媒として用いられるものであり、水素等の気体の貯蔵放出特性について記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-199106号公報
【特許文献2】特開2010-89987号公報
【特許文献3】特表2016-502968号公報
【特許文献4】国際公開第2015/005280号
【特許文献5】特開2017-149683号公報
【特許文献6】特許第6761257号公報
【特許文献7】特開2006-248989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、各種のガスの貯蔵・放出特性に優れた新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、特定の構造単位を有する気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が、各種のガス、特に水素の貯蔵・放出特性に優れており、これを用いることにより上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
項1: 式(1)で表される構造単位を有する、気体貯蔵放出化合物。
【化1】
項2: 少なくとも、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物とを反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【化2】
【化3】
(式(3)中、X1は、OH、ハロゲン、OR11(R11は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR12(R12は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。Xは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR21(R21は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR22(R22は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。)
項3: 項1に記載の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
項4: ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、項3に記載のガス貯蔵放出材料。
項5: ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、項3又は4に記載のガス貯蔵放出材料。
項6: ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体のいずれかである、項3~5のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、各種のガスの貯蔵・放出特性に優れた新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が提供される。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、特に、水素貯蔵・放出特性が非常に優れている。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、水素貯蔵合金よりも水素を多量に貯蔵できて密度が低く、水素を貯蔵させる場合の冷却時や放出させる際の加温時に必要とするエネルギーが小さく、水素貯蔵・放出の制御が容易である。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、市販の化合物を用い、簡便な合成方法により得ることができ、安価で汎用性が高い。また、水素貯蔵合金よりも密度が低い高分子材料であるから、軽量で取扱性に優れ、効率の良い水素輸送が可能となる。さらに、水素の貯蔵・放出時に必要な加熱冷却、加圧減圧等の条件を温和なものにでき、低いエネルギー利用下にて使用できる。
これにより、余剰電力から得られた水素を利用施設に輸送する水素サプライチェーンを、安全に安価で構築することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料と、水素貯蔵合金との水素貯蔵・放出特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料について説明する。
[気体貯蔵放出化合物]
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位を有している。
【化4】
【0013】
式(1)で表される構造単位は、少なくとも、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物とを反応させることで得ることができる。
【化5】
【化6】
(式(3)中、X1は、OH、ハロゲン、OR11(R11は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR12(R12は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。Xは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR21(R21は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR22(R22は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。)
式(2)及び式(3)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、また合成して得ることができる。
【0014】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位以外に、共重合単位を含んでいてもよい。
本発明の気体貯蔵放出化合物が含んでいてもよい共重合単位としては、例えば、下記式(4)~(6)で表され、式(1)又は(2)で表される構造単位以外のものがあげられる。
-HN-R30(-NH-) ・・・(4)
-OC-R31(-CO-) ・・・(5)
(-CO-)32(-CO-) ・・・(6)
(式(5)~(7)中、wは1~3の整数、xは1~3の整数、yは1又は2、zは1又は2、R30はw+1価の有機基、R31はx+1価の有機基、R32はy+z価の有機基である。)
なお、式(1)、式(4)~(6)で表される構造単位は、それぞれ、アミド結合(-HN-CO-又は>N-CO-)を形成することで結合している。
本発明において、式(4)で表される構造単位は、式(2)で表される化合物以外のポリアミン化合物から、式(5)で表される構造単位は、式(3)で表される化合物以外のポリカルボン酸又はその反応性誘導体から、式(6)で表される構造単位は、(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸、その反応性誘導体又はラクタムから、それぞれ得ることができる。
【0015】
30、R31及びR32としては、それぞれ独立に、例えば、炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の2価の脂環族炭化水素基、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基及び炭素数6~20でN及び/又はO及び/又はSを有する芳香族複素環基があげられる。好ましくは、それぞれ独立に、炭素数2~6のアルキレン基、フェニレン基等があげられる。
【0016】
式(4)中のw+1価の有機基であるR30としては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノー1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等の脂環族ジアミン;2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のポリアミンフェノール;1,2,4-トリアミノベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル等の多官能アミン等からなる群より選ばれる1種類以上のポリアミン化合物から誘導される基が好ましい。
【0017】
式(5)中のx+1価の有機基であるR31としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸;シュウ酸、メチルマロン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ジグリコール酸等の脂肪族二塩基酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸;水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等からなる群より選ばれる1種類以上のポリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物、アミド化物、酸無水物等)から誘導される基が好ましい。
【0018】
式(6)中のy+z価の有機基であるR32としては、例えば、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンドデカン酸、アミノ安息香酸、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等からなる群より選ばれる1種類以上の(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸、その反応性誘導体又はラクタムから誘導される基が好ましい。
【0019】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位のみから構成されていてもよい。また、式(1)で表される構造単位に加えて、式(4)~(6)で表される構造単位を1種類以上含んでいてもよい。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位(式(1)で表される構造単位、式(4)で表される構造単位、式(5)で表される構造単位及び式(6)で表される構造単位、以下、これらをまとめて「全構造単位」という場合がある。)の合計量に対する、式(1)で表される構造単位の含有量は1~100モル%、好ましくは5~100モル%、より好ましくは10~100モル%である。1モル%未満の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0020】
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(4)で表される構造単位の含有量は0~99モル%、好ましくは0~95モル%、より好ましくは0~80モル%である。99モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(6)で表される構造単位の含有量は0~99モル%、好ましくは0~95モル%、より好ましくは0~80モル%である。99モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(7)で表される構造単位の含有量は0~99モル%、好ましくは0~95モル%、より好ましくは0~80モル%である。99モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0021】
本発明の気体貯蔵放出化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、10,000~1,000,000、好ましくは70,000~700,000、より好ましくは80,000~300,000である。重量平均分子量が10,000未満であると、化学結合の安定性が低下し、劣化しやすくなる。重量平均分子量が1,000,000を超えると、表面積が小さくなるおそれがあり、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0022】
[気体貯蔵放出化合物の製造方法]
前記気体貯蔵放出化合物は、少なくとも、式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分と、式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分とを、公知のポリアミド重合反応手段を用いて反応させて得ることができる。
【化7】
【化8】
(式(3)中、X1は、OH、ハロゲン、OR11(R11は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR12(R12は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。Xは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR21(R21は炭素数1~6のアルキル基である。)又はNHR22(R22は炭素数1~6のアルキル基である。)のいずれかを表す。)
式(2)及び式(3)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、また合成して得ることができる。
【0023】
<ポリアミン成分>
ポリアミン成分に含まれる式(2)で表される化合物は、式(3)で表される化合物と反応して、式(1)で表される構造単位を構成するモノマーである。
ポリアミン成分に含まれる式(2)で表される化合物以外のポリアミン又はその反応性誘導体を含んでいてもよい。このようなポリアミンとしては、例えば、ジアミン、ポリアミンフェノール、その他ポリアミンがあげられる。
ジアミンとしては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノー1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等の脂環族ジアミン;2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のポリアミンフェノール;1,2,4-トリアミノベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル等の多官能アミン等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
式(2)で表される化合物以外のポリアミン又はその反応性誘導体は、式(4)で表される構造単位である共重合単位を構成するモノマーである。
【0024】
ポリアミン成分中における、式(2)で表される化合物の含有量は、1~100モル%、好ましくは5~100モル%、より好ましくは10~100モル%である。1モル%未満であると、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0025】
<ポリカルボン酸成分>
ポリカルボン酸成分に含まれる式(3)で表される化合物は、式(2)で表される化合物と反応して、式(1)で表される構造単位を構成するモノマーである。
本発明において用いられる式(3)で表される化合物以外のポリカルボン酸又はその反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物、アミド化物、酸無水物等)を含んでいてもよい。このようなポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸;シュウ酸、メチルマロン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ジグリコール酸等の脂肪族二塩基酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸;水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の多塩基酸等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体ではない、ポリカルボン酸又はその反応性誘導体は、式(6)で表される構造単位である共重合単位を構成するモノマーである。
【0026】
ポリカルボン酸成分中における、式(3)で表される化合物の含有量は、1~100モル%、好ましくは5~100モル%、より好ましくは10~100モル%である。1モル%未満であると、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0027】
<その他の反応成分>
本発明においては、ポリアミド重合反応の際には、ポリカルボン酸成分及びポリアミン成分以外に、必要に応じて、(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸化合物(ジアミノカルボン酸化合物、ジアミノジカルボン酸化合物、アミノジカルボン酸化合物)、ラクタム等をその他の反応成分として用いることができる。(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸及びラクタムは、式(6)で表される構造単位である共重合単位を構成するモノマーである。
【0028】
(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸化合物としては、例えば、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンドデカン酸、アミノ安息香酸、ジアミノ安息香酸、アミノテレフタル酸、ジアミノテレフタル酸、アミノイソフタル酸、ジアミノイソフタル酸等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
【0029】
<各成分の反応比率>
本発明において、式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分と、式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分との反応モル比は、式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分1モルに対して、式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分が0.8~1.7モル、好ましくは0.9~1.6モル、より好ましくは0.95~1.15モルである。式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分の量が1.7モル超又は0.8モル未満であると、気体貯蔵放出化合物の分子量が十分に大きくならず、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物とのモル比は、式(2):式(3)=1:1.6~1:0.8、好ましくは1:1.5~1:0.9である。
また、式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分1モルに対する前記「その他の反応成分」の量は、0~9モル、好ましくは0~2モルの範囲である。
【0030】
[重合方法]
本発明において、少なくとも、式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分と、式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分とを反応させる方法としては、公知のポリアミド重合反応手段を用いることができる。
例えば、
(i)式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分を酸塩化物とし、式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分と有機溶媒中又は無溶媒で反応させる方法、
(ii)式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分をジカルボン酸ジエステルとし、金属触媒存在下において式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分と有機溶媒中又は無溶媒で反応させる方法、
(iii)式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分をジカルボン酸とし、カルボジイミド触媒存在下において式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分と有機溶媒中又は無溶媒で反応させる方法、
等があげられる。
本発明においては、式(3)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分を酸塩化物とし、式(2)で表される化合物を含むポリアミン成分と有機溶媒中で反応させる方法を用いることが好ましい。
【0031】
有機溶媒としては、特に限定されないが、用いる原料に対して溶解性を有する溶媒を広く適用できる。例えば、テトラヒドロフラン、N,N’-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、テトラメチル尿素、N,N′-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、ヘキサメチレンホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、キシレン、トルエン、トルエン等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0032】
本発明の気体貯蔵放出化合物について、本発明者は以下のように推測している。
本発明の気体貯蔵放出化合物に含まれる式(1)で表される構造単位は、分極することで微小プラス部位(δ+)を生じる部分と、分極することで微小マイナス部位(δ-)を生じる部位を有している。高分子鎖中のδ+とδ-とが誘電的に引き合うことで、高分子鎖間に網目状構造が形成され、形成された網目状構造が、気体分子を保持する孔・小部屋のような役割を果たすこととなる。これにより、気体、例えば、水素分子(水素ガス)を貯蔵放出する機能が発現するのではないかと推測されるが、この推測により本発明は何ら限定されない。
【0033】
[ガス貯蔵放出材料]
本発明のガス貯蔵放出材料は、前記気体貯蔵放出化合物の1種類以上を1~100質量%、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%含んでいる。前記気体貯蔵放出化合物の含有量が1質量%未満であると、ガス貯蔵特性を十分に発揮することができない場合がある。
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれていてもよい、前記式(1)で表される繰返し単位を有する気体貯蔵放出化合物以外の成分としては、例えば、樹脂、充填剤、各種添加剤等をあげることができる。
【0034】
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂等があげられる。充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラスフレーク、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、有機繊維、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、金属ナノファイバー等があげられる。各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、ゼオライトや活性炭等の吸着剤、可塑剤、抗菌剤、導電材等があげられる。
【0035】
ガス貯蔵放出材料の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体等のいずれかとすることができる。
粒子である場合は、例えば、平均粒子径1μm~1mmの範囲で任意に調節することができる。
繊維である場合は、例えば、長さ1mm~10m、直径0.1mm~5mmの範囲で任意に調節することができる。
フィルムである場合、例えば、厚さ10μm~1mmの範囲で任意に調整することができる。フィルムの幅及び長さは、任意の大きさとすることができる
不織布又は織布である場合は、例えば、目付20g/m~120g/mの範囲で任意に調整することができる。
多孔質体である場合は、例えば、見かけ密度0.04g/m~1.2g/m、空隙率5~80vol%の範囲で任意に調整することができる。
成形体である場合は、例えば、押出成形、射出成形等の任意の成形手段を用い、任意の形状の成形体に調整することができる。
本発明のガス貯蔵放出材料は、粒子、多孔質体、不織布、フィルム、繊維の形状であることが、製造の容易性、水素等とのガスと接触する面積の調整、取扱性の向上等の点から好ましい。
【0036】
[気体(ガス)]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が貯蔵・放出する気体(ガス)は、特に限定されない。例えば、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、ラドン)、炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等)、酸素、ハロゲンガス(フッ素、塩素)等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。好ましくは、水素、窒素、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、アセチレンからなる群より選ばれる1種類以上であり、特に好ましくは水素である。
【0037】
[気体の貯蔵・放出方法]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料における気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)方法は、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料、特に、水素貯蔵材料において、水素を貯蔵・放出させる公知の方法を用いることができる。
例えば、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線、赤外線などのエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。
【0038】
貯蔵手段として、好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、加圧手段を含む方法が用いられる。
放出手段として、好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、減圧手段を含む方法が用いられる。
【0039】
[気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料の用途]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、気体(ガス)を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された気体(ガス)を簡便な手段で放出させることができる。本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、特に水素を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された水素を簡便な手段で放出できることから、水素貯蔵材料として有用である。
また、水素貯蔵合金が水素の貯蔵・放出特性を示さない大気圧未満の低圧状態においても、水素の貯蔵・放出特性に優れるものであるから、この点からも、水素貯蔵材料として有用である。
さらに、成形性に優れることから任意の形状に容易に加工することが可能であり、軽量であることから、運搬・保存を容易に行うことができる。
【0040】
例えば、風力発電所で発電した電気を使い、水電解水素製造装置で水素を製造し、車載コンテナに収納した本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料に水素を貯蔵する。水素を貯蔵した気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が収納されたコンテナを車両に搭載し、水素貯蔵材料タンクと純水素型燃料電池とを設備として有する温浴施設に運び、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料からこれら設備に水素を移送する。
燃料電池で発生する電気と温水は温浴施設で使用するとともに、水素移送時に「熱のカスケード利用」を行い、水素を貯蔵する側で発生する熱を、放出する側の加熱に利用する。また、水素貯蔵材料タンクから水素を放出するために必要な熱は、建物からの低温排熱を利用しエネルギー効率を向上させることができる。
【実施例0041】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
[実施例]
<気体貯蔵放出化合物の合成>
200ml丸底フラスコに、オキサミド 1.5g(0.017mol)、ジグリコリルクロリド 2.9g(0.017mol)及びジメチルスルホキシド 15mlを加え、25℃にてマグネチックスターラーを用いて2時間撹拌した。反応溶液にメタノール5mlを加え、沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を0.45μm孔のメンブレンフィルターにて濾過し、沈殿物と濾液とに分けた。沈殿物は風乾した後、真空乾燥を行い、目的の気体貯蔵放出化合物を得た。
【0043】
<構造の分析>
(FT-IR)
得られた気体貯蔵放出化合物について、Thermo Electron社製Nicolet 6700FT-IR装置を用い、一回反射ATR法によりFT-IRを測定した。結果は以下のとおりとなった。
C=O:1718、1738(cm-1
CH:1483、2868、2942(cm-1
NH:1732、1774(cm-1
C-O-C:1637、1676(cm-1
【0044】
(重量平均分子量)
得られた気体貯蔵放出化合物について、東ソー社製ゲルパーミュエーションクロマトグラフHLC-8321GPC/HTにTSKgel GMHHR-H(S)HT2カラムを装着し、o-ジクロロベンゼン溶媒に溶解させた気体貯蔵放出化合物を注入し、カラム保持時間を測定した。得られたカラム保持時間から、分子量が判明しているポリスチレンを測定することで予め作成した検量線と比較計算して、実施例に係る化合物のポリスチレン換算分子量を算出した。
【0045】
(構造の分析)
これらFT-IR及び重量平均分子量測定の結果より、実施例に係る気体貯蔵放出化合物は、下記式(1)で表される構造単位を有し、高分子分子鎖同士が網目状構造を形成している、重量平均分子量が135,000のポリアミド化合物であることが確認された。
【化9】
【0046】
[比較例]
<気体貯蔵放出化合物の合成>
200ml丸底フラスコに、フェニルアセチレン 1.0g(0.01mol)をエタノール 25mlに溶解させてモノマー溶液を得た。
四塩化チタン 20mgとメチルアミノキサン 15mgとをエタノール5mlに溶解させて触媒溶液を得た。
モノマー溶液と触媒溶液とを混合させ、50℃で混合溶液を撹拌した。得られた溶液をメタノール20ml中に滴下して沈殿物を得た。この沈殿物を、ガラスフィルタG3にて濾過し、黄色のポリフェニレンアセチレン粉末を得た。
【0047】
<水素貯蔵放出能力の評価>
実施例及び比較例で得られた各化合物の水素貯蔵放出能力の評価は、試験用粉末をSUS製サンプル菅に充填し、鈴木商館製PCT特性評価装置を用い25℃においてPCT曲線を観察することで行った。PCT特性測定装置は、物質が水素を吸放出するときの特性(P:圧力、C:貯蔵量(吸収量)、T:温度)を測定する装置で、ジーベルツ装置とも呼ばれるものである。
圧力に対する、実施例又は比較例に係る気体貯蔵放出化合物の水素の貯蔵量(Adsorption:質量%)及び放出量(Desorption:質量%)との関係は、図1のとおりとなった。なお、ここでいう貯蔵量及び放出量は、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)又は放出量を質量%として表したものである。
【0048】
実施例の気体貯蔵放出化合物の気体貯蔵放出特性が高い理由について、本発明者は次のように推察している。
比較例で示した気体貯蔵放出化合物(共役系芳香族高分子;ポリフェニルアセチレン)は、電子雲による気体吸着メカニズム(水素吸着メカニズム)となっており、電子スピン密度がより小さい条件で気体吸着能力(水素吸着能力)を発揮している。しかしながら、高分子化合物と水素分子間における相互作用は非常に弱いものとなっている。
一方、実施例の気体貯蔵放出化合物(式(1)で表される構造を有する高分子化合物;ポリアミド)は、0.8nm~1.5nm(8~15オングストローム)の長さを有する誘電性炭素の鎖で囲まれた網目状構造を形成している。そして、25℃において0.2nm(2オングストローム)程度の水素分子が、網目状構造の内部に包埋されることとなり、高分子と水素分子間で比較定期大きな相互作用を及ぼすこととなる。これにより、実施例の気体貯蔵放出化合物について、優れた気体貯蔵放出能力を示すことになると推察している。なお、本発明は、この推察に拘束されるものではない。
図1