(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109515
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】簡易構造物の壁面構造及び簡易構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20220721BHJP
E04B 1/343 20060101ALI20220721BHJP
E04H 1/12 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
E04B2/56 651C
E04B1/343 F
E04B2/56 602N
E04B2/56 604G
E04H1/12 307
E04B2/56 611B
E04H1/12 A
E04B2/56 622B
E04B2/56 622K
E04B2/56 632B
E04B2/56 632D
E04B2/56 632L
E04B2/56 651W
E04B2/56 643A
E04B2/56 643B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004886
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000140007
【氏名又は名称】株式会社稲葉製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】祢津 泰介
(72)【発明者】
【氏名】石井 葵
【テーマコード(参考)】
2E002
2E025
【Fターム(参考)】
2E002EB15
2E002FA02
2E002FB08
2E002FB25
2E002HA02
2E002HA04
2E002HB04
2E002JA01
2E002JA03
2E002LA01
2E002LA02
2E002LB13
2E002LC01
2E002MA12
2E002MA13
2E025CA01
2E025CB02
2E025CC01
(57)【要約】
【課題】風圧力や地震力に係る水平力に対し、拘束材と壁面パネルとが一体に抵抗することによって高い水平耐力を発揮可能な簡易構造物の壁面構造、及びこれを用いた簡易構造物を提供すること。
【解決手段】本発明の簡易構造物の壁面構造1は、上桁11と、下桁12と、2本の支柱13と、からなる壁枠体10と、壁枠体10内の幅方向に並列した複数の壁面パネル20と、壁枠体10の四隅に架け渡し、支柱13と、上桁11又は下桁12を連結した4本の拘束材30と、を備え、複数の壁面パネル20はそれぞれ、正面視矩形の壁面部21と、壁面部21の幅方向両側の側縁を曲げ加工してなる2本の連結リブ22と、を有し、壁面部21の上辺が上桁11と連結し、壁面部21の下辺が下桁12と連結し、連結リブ22が隣接する壁面パネル20の連結リブ22又は支柱13と連結することを特徴とする。本発明の簡易構造物Aは、薄板鋼板を曲げ加工した部品を主として構成し、複数の壁面の内少なくとも一面に本発明の壁面構造1を設けたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板鋼板を曲げ加工した部品を主として構成した簡易構造物に係る、簡易構造物の壁面構造であって、
上桁と、下桁と、2本の支柱と、からなる壁枠体と、
前記壁枠体内の幅方向に並列した複数の壁面パネルと、
前記壁枠体の四隅に架け渡し、前記支柱と、前記上桁又は前記下桁を連結した4本の拘束材と、を備え、
前記複数の壁面パネルはそれぞれ、正面視矩形の壁面部と、前記壁面部の幅方向両側の側縁を曲げ加工してなる2本の連結リブと、を有し、
前記壁面部の上辺が前記上桁と連結し、前記壁面部の下辺が前記下桁と連結し、前記連結リブが隣接する壁面パネルの連結リブ又は前記支柱と連結し、
前記4本の拘束材によって、前記壁面パネルを、前記壁枠体を介して壁面方向に拘束したことを特徴とする、
壁面構造。
【請求項2】
前記拘束材の内少なくとも1本が、杆状部と、前記杆状部の両端に設けた2つの固定部と、を備え、前記2つの固定部がそれぞれ、前記壁枠体の壁面方向の側面に接面する当接片と、前記当接片に設けた複数のボルト孔と、を有し、前記ボルト孔に通した連結ボルトによって、前記拘束材を前記壁枠体に固定したことを特徴とする、請求項1に記載の壁面構造。
【請求項3】
前記拘束材の前記上桁及び前記下桁との連結位置が、前記連結リブの上端部及び下端部と近接することを特徴とする、請求項1又は2に記載の壁面構造。
【請求項4】
前記壁面パネルにおける前記2本の連結リブの内、一方が断面略コの字状又は断面略ロの字状の角筒リブであり、他方が前記壁面部と直交する断面視略L字状の板状リブであり、隣接する2枚の前記壁面パネルにおいて、一方の前記壁面パネルの前記板状リブを、他方の前記壁面パネルの前記角筒リブに係合させたことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の壁面構造。
【請求項5】
前記壁面パネルが、前記壁面部の縦方向に延在する補強リブであって、前記壁面部を曲げ加工してなる1本又は複数本の補強リブを有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の壁面構造。
【請求項6】
薄板鋼板を曲げ加工した部品を主として構成した簡易構造物であって、
複数の壁面の内少なくとも一面に、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の壁面構造を設けたことを特徴とする、
簡易構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易構造物の壁面構造及び簡易構造物に関し、風圧力や地震力に係る水平力に対し、拘束材と壁面パネルとが一体に抵抗することによって高い水平耐力を発揮可能な簡易構造物の壁面構造、及びこれを用いた簡易構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
物置、ガレージ、防災倉庫等の用途に用いられる構造物として、薄板鋼板と鋼材を主材料とする簡易構造物が普及している(特許文献1~3)。
簡易構造物は、工場で量産した土台枠、根太、支柱、床パネル、屋根パネル、壁面パネル、鴨居、桁後、妻板、引き戸、棚板、等の規格化した部材を、現場で組み立ててなる簡易な構造物である。
簡易構造物は、引き戸側の面を除く3面の壁面を有し、各壁面は、支柱、土台枠、及び妻板等から構成される枠体の内部に、薄板鋼板の曲げ加工によって構成した壁面パネルを固定してなる。
枠体は、枠体を構成する各部材を互いに嵌合・係合した上でボルト締結する。壁面パネルは、壁面材の表面に複数の補強用の縦リブを備える。
【0003】
簡易構造物は、床面積や設置する地域によっては、建築基準法上の建築物に該当し、設置に先立ち建築確認申請が必要になる。
簡易構造物を建築基準法に適合させる場合、主要構造部に指定建築材料を用いて、積載荷重や固定荷重に対する鉛直耐力だけでなく、風力や地震力等の水平力に対する十分な水平耐力を確保する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3031549号公報
【特許文献2】特開2001-146850号公報
【特許文献3】特開2003-166359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
簡易構造物の壁面に強い水平力、例えば台風による風圧力が作用した場合、まず風に直面するX方向の壁面パネルの壁面材が風圧力を受ける(
図8)。
壁面材は薄板鋼板からなるが、壁面材と一体に形成した縦リブが水平力に抵抗することで、壁面材の座屈を防ぎ、壁面材が受けた風圧力を支柱や桁等の枠体に伝達する。
しかし、現場組立の要請から、枠体の連結部には僅かなクリアランスがあり、完全な剛結構造ではない。このため風圧力が所定量を超えると、枠体の歪みやねじれと共に、支柱や桁に伝達された水平力が、X方向の壁面パネルと直交するY方向の壁面パネルに、壁面直交方向の面内力として伝達される。
ここで、簡易構造物の壁面パネルは、壁面材が薄板鋼板からなるため、壁面直交方向の面内力に対して、壁面材が面外方向に撓み変形、孕み出し変形することがある。また、壁面パネルは縦リブを備えているものの、壁面材が面外方向に撓み変形し、縦リブにかかる壁面直交方向の面内力が面外方向に逃げることで、縦リブが、壁面直交方向の面内力に対して耐圧材として有効に機能しない。
このため、壁面直交方向の面内力によって、Y方向の壁面パネルが変形や面外座屈を起こすおそれがある。
以上のように、従来技術の簡易構造物は、台風等による強い水平力に対し、壁面が、壁面方向の面外力には抵抗するものの、壁面直交方向の面内力に対しては有効に抵抗しえない場合があり、いかにして建築物として十分な水平耐力を確保するかが、本技術分野の課題となっている。
【0006】
本発明の目的は、以上のような課題を解決するための簡易構造物の壁面構造及び簡易構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の簡易構造物の壁面構造は、上桁と、下桁と、2本の支柱と、からなる壁枠体と、壁枠体内の幅方向に並列した複数の壁面パネルと、壁枠体の四隅に架け渡し、支柱と、上桁又は下桁を連結した4本の拘束材と、を備え、複数の壁面パネルはそれぞれ、正面視矩形の壁面部と、壁面部の幅方向両側の側縁を曲げ加工してなる2本の連結リブと、を有し、壁面部の上辺が上桁と連結し、壁面部の下辺が下桁と連結し、連結リブが隣接する壁面パネルの連結リブ又は支柱と連結し、4本の拘束材によって、壁面パネルを、壁枠体を介して壁面方向に拘束したことを特徴とする。
この構成によれば、壁面パネルの連結リブを壁面直交方向の面内力に対する抵抗力要素として機能させることで、壁枠体、壁面パネル、及び拘束材を、壁面直交方向の水平力に対して協働して抵抗させ、これによって、簡易構造物に高い水平耐力を発揮させることが可能となる。
【0008】
本発明の簡易構造物の壁面構造は、拘束材の内少なくとも1本が、杆状部と、杆状部の両端に設けた2つの固定部と、を備え、2つの固定部がそれぞれ、壁枠体の壁面方向の側面に接面する当接片と、当接片に設けた複数のボルト孔と、を有し、ボルト孔に通した連結ボルトによって、拘束材を壁枠体に固定していてもよい。
この構成によれば、当接片を、支柱や桁の壁面方向の側面に接面させた状態でボルト連結することによって、壁枠体の壁面方向の変位やねじれを有効に規制することができる。
【0009】
本発明の簡易構造物の壁面構造は、拘束材の上桁及び下桁との連結位置が、連結リブの上端部及び下端部と近接していてもよい。
この構成によれば、拘束材と連結リブとを壁面直交方向の水平力に対して高い一体性をもって抵抗させることができる。
【0010】
本発明の簡易構造物の壁面構造は、壁面パネルにおける2本の連結リブの内、一方が断面略コの字状又は断面略ロの字状の角筒リブであり、他方が壁面部と直交する断面視略L字状の板状リブであり、隣接する2枚の壁面パネルにおいて、一方の壁面パネルの板状リブを、他方の壁面パネルの角筒リブに係合させてもよい。
この構成によれば、壁面パネルと一体構造の角筒リブと板状リブの組合せによって、上桁と下桁の間に柱状の耐圧材を構成できるとともに、簡易な構造で以て2枚の壁面パネルを確実に連結できる。
【0011】
本発明の簡易構造物の壁面構造は、壁面パネルが、壁面部の縦方向に延在する補強リブであって、壁面部を曲げ加工してなる1本又は複数本の補強リブを有していてもよい。
この構成によれば、補強リブが連結リブと協働して、壁面方向及び壁面直交方向の水平力に対して効果的に抵抗することができる。
【0012】
本発明の簡易構造物は、薄板鋼板を曲げ加工した部品を主として構成し、複数の壁面の内少なくとも一面に本発明の壁面構造を設けたことを特徴とする。
この構成によれば、壁面パネルの連結リブを壁面直交方向の面内力に対する抵抗力要素として機能させることで、壁枠体、壁面パネル、及び拘束材を、壁面直交方向の水平力に対して協働して抵抗させ、これによって、簡易構造物に高い水平耐力を発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の簡易構造物の壁面構造及び簡易構造物は、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>壁枠体の隅部に設けた拘束材によって、壁面パネルを壁面方向に拘束することで、壁面方向の面外力に対する抵抗要素であった連結リブを、壁面水平方向の面内力に対する耐圧材及び引張材として有効に機能させることができる。
<2>壁枠体を介して拘束材と連結リブとを一体に抵抗させることで、壁面直交方向の水平力に対して、高い水平耐力を発揮することができる。
<3>壁面方向及び壁面直交方向の水平力に対し、拘束材が単独で抵抗するのではなく、拘束材、壁枠体、及び壁面パネルが一体に抵抗することで、ブレース構造等の過剰設計を排した合理的設計が可能となる。
<4>壁面構造が壁面方向の水平力だけでなく、壁面直交方向の水平力に対しても有効に抵抗することで、簡易構造物全体として高い水平耐力を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の簡易構造物の壁面構造及び簡易構造物について詳細に説明する。
本明細書等における「縦」「横」「上」「下」「右」「左」等の方向性の用語は、地盤に立設した簡易構造物の壁面パネルを正面視した状態における各方位を意味する。
【実施例0016】
<1>簡易構造物。
本発明の簡易構造物Aは、薄板鋼板と鋼材を主な部品とする組立て式の構造物である。
ここで「薄板」とは概ね0.5mm~1.5mm程度の厚みを意味する。また、「主な部品」とは、一部の部品においてこれ以外の素材や構造を許容することを意味する。例えば、支柱13は薄板鋼板ではなく、アルミニウムの押出成形品としてもよい。
簡易構造物Aは、複数の壁面の内少なくとも一面に後述する壁面構造1を備える。
本例では簡易構造物Aとして、基礎上に配置した土台枠と、土台枠内に配置した根太と、土台枠の四隅に立設した支柱と、土台枠内に配置した床パネルと、支柱上部に配置した鴨居・桁後・妻板と、鴨居等の上に配置した屋根パネルと、支柱間の3面に配置した壁面パネルと、前面に配置した引き戸と、で構成した鋼製物置を採用する。
これらの部材は、他の部材との接続箇所に適宜の数のボルト孔を備え、部材同士を互いに嵌合又は係合した上でボルト連結することで組み立てる。
本例の鋼製物置は、例えばJISA6603等の規格によることができるが、これに限るものではない。また、簡易構造物Aは物置に限らず、ガレージ、防災倉庫その他の構造物であってもよい。
【0017】
<2>壁面構造(
図1)。
本発明の壁面構造1は、簡易構造物Aにおける壁面の構造である。
壁面構造1は、壁枠体10と、壁枠体10内の幅方向に並列した複数の壁面パネル20と、壁枠体10の四隅に架け渡した4本の拘束材30と、を少なくとも備える。
壁面パネル20の枚数に限定はないが、本例では壁枠体10内に4枚の壁面パネル20を並列する。
壁面パネル20は、壁枠体10内に固定される。隣り合う壁面パネル20は、相互に幅方向に連結する。
【0018】
<3>壁枠体。
壁枠体10は、壁面パネル20を保持する枠状部材である。
壁枠体10は、上桁11と、下桁12と、2本の支柱13と、を枠状に組んでなる。
ここで、上桁11と下桁12は、必ずしも独立した桁状の部材である必要はなく、2本の支柱13を連結して、内部に面状の空間を構成可能な構造であればよい。
本例では、簡易構造物Aにおける妻板を上桁11とし、土台枠の枠部を下桁12とし、これらと連結した2本の支柱13によって壁枠体10を構成する。なお図示の便宜上、図面では上桁11と下桁12を桁状の部材として表示している。
支柱13は、本例では外角を構成する直交する2枚の外角片13aと、各外角片13aの側辺を更に支柱13の内側方向に90度折り曲げてなる2枚の係合片13bと、の組合せからなる。
下桁12の土台枠内に、2本の支柱13の下端部を嵌合して立設し、2本の支柱13の上端部を上桁11の妻板で連結する。
上桁11、下桁12、及び2本の支柱13は、直接又は他の部品を介してボルト連結によって相互に固定する。
【0019】
<4>壁面パネル(
図2)。
壁面パネル20は、簡易構造物Aの側面を構成する部材である。
壁面パネル20は、薄板鋼板からなる矩形の壁面部21と、壁面部21の幅方向両側に設けた2本の連結リブ22と、を少なくとも備える。
本例では壁面部21として厚さ0.6mmの溶融亜鉛メッキ鋼板を採用する。
壁面部21の上辺及び下辺は壁面部21と直交するようにL字状に折り曲げ、上辺を壁枠体10の上桁11と、下辺を壁枠体10の下桁12と、それぞれボルト連結する。
左右の連結リブ22は、隣接する壁面パネル20の連結リブ又は壁枠体10の支柱13と係合した上でボルト連結する。
本例では壁面パネル20における連結リブ22の形状が左右で異なり、隣接する壁面パネル20を連結リブ22で相互に係合可能な構造としている。
【0020】
<4.1>連結リブ(
図2)。
連結リブ22は、壁面パネル20の連結機能と、壁面パネル20の壁面直交方向の水平力に対する耐圧材の機能と、を併有する部材である。
連結リブ22は、壁面部21の側縁を曲げ加工してなる。
本例では連結リブ22として、断面略コの字状の角筒リブ22aと、壁面部21と直交する断面略L字状の板状リブ22bと、の組合せを採用する。
角筒リブ22aは、壁面部21における室外側に開口を向け、室内側に突起するように形成する。
板状リブ22bは、壁面部21における室内側に90度折れ曲がるように形成する。
ただし連結リブ22の構造は、角筒リブ22aと板状リブ22bの組合せに限らず、角筒リブ22a同士の組合せ、板状リブ22b同士の組合せ、その他の断面形状からなるリブの組合せであってもよい。
要は、ボルト等を用いて隣接する壁面パネル20を幅方向に連結可能であって、かつ壁面部21の壁面方向に突起して、耐圧材として機能する構造であればよい。
【0021】
<4.2>連結リブによる連結方法(
図3)。
隣り合う2枚の壁面パネル20を連結する場合、一方の壁面パネル20の角筒リブ22aの開口内に、他方の壁面パネル20の板状リブ22bを差し込むようにして両者を係合する。重ねた合わせた角筒リブ22a及び板状リブ22bのボルト孔にボルトを通し、板状リブ22bの背面側に配置したネジ板(不図示)にボルトを螺着することで連結する。
壁面パネル20を支柱13に連結する場合、壁面パネル20の角筒リブ22aの開口内に、支柱13の係合片13bを差し込むようにして両者を係合し、上記と同様の手順で連結する。
本例の場合、左右の支柱13に壁面パネル20の角筒リブ22aを連結するため、壁面の中央では2枚の壁面パネル20が互いに板状リブ22b側で対向する。そこで、対向する2枚の板状リブ22bを重ね合わせてボルト連結し、連結した2枚の板状リブ22bを室内側から断面略コの字状の柱状カバー(不図示)で挟み込んで、板状リブ22bの接合部を被覆する。
本例の場合、2枚の壁面パネル20の連結部、及び壁面パネル20と支柱13の連結部を、角筒リブ22aで室内側から被覆するため、室外側から室内側へ、連結部の隙間を通って風雨が浸入するのを防ぐことができる。
【0022】
<4.3>補強リブ。
補強リブ23は、壁面パネル20補強用のリブである。
補強リブ23は、壁面部21を幅方向に曲げ加工して、壁面部21の高さ方向に連続して1本または複数本形成する。
本例では、各壁面パネル20の表面に、幅方向等間隔に3本の補強リブ23を設ける。
補強リブ23は、連結リブ22と協働して、壁面方向の曲げ変形に抵抗すると共に、壁面直交方向の面内力に対して耐圧材及び引張材として機能する。
なお、補強リブ23は本願発明の必須の構成要素ではない。
【0023】
<5>拘束材(
図4)。
拘束材30は、壁面パネル20に対する壁面方向の拘束機能と、壁面直交方向の水平力に対する補強機能と、を共有する部材である。
4本の拘束材30は、壁枠体10の四隅、すなわち上桁11と左側の支柱13の間、上桁11と右側の支柱13の間、下桁12と左側の支柱13の間、及び下桁12と右側の支柱13の間に、それぞれ架け渡す。
本例では拘束材30として、長尺の杆状部31と、杆状部31の両端に設けた2つの固定部32と、からなるチャンネル材を採用する。
2つの固定部32はそれぞれ、板状の当接片32aと、当接片32aに穿設した複数のボルト孔32bと、を備え、当接片32aの一面を支柱13等の壁面方向の側面に接面し、ボルト孔32bに通した連結ボルトによって、支柱13等に固定する。
本例の場合、当接片32aと支柱13等の接面固定によって、壁枠体10の壁面方向の挙動を規制することで、壁面パネル20の壁面方向への拘束効果を高めることができる。
ただし拘束材30の構造は上記に限らず、例えば両端に固定部32を設けたアングル材や、鋼棒等であってもよい。
【0024】
<5.1>拘束材の連結位置。
拘束材30と上桁11及び下桁12の連結位置は、連結リブ22の上端部及び下端部に近接することが望ましい。
ここで「近接する」とは、壁面パネル20正面視において、拘束材30の上端部又は下端部が連結リブ22の上端部又は下端部と重なるか、連結リブ22の上端部又は下端部と重なる位置から、拘束材30の幅程度左右に離れている範囲にあることを意味する。
拘束材30と上桁11及び下桁12の連結位置を連結リブ22と近接させることで、拘束材30と連結リブ22とが、壁面直交方向の水平力に対して、耐圧材又は引張材として高い一体性をもって機能するため、壁面の水平耐力を更に向上させることができる。
【0025】
<6>壁面構造の機能(
図5)。
簡易構造物Aの壁面に強い水平力が作用した場合、水平力に直面する方向の壁面パネル20から壁枠体10の支柱13等へと水平力が伝達され、この水平力が、水平力に直面する壁面パネル20と直交する壁面構造1へ、壁面直交方向の面内力として伝達される。
ここで、壁面構造1の壁枠体10は、上桁11、下桁12、及び2本の支柱13が、4本の拘束材30によって相互に固定されているため、壁枠体10の歪みや捩じれが生じにくい。
また、壁枠体10が、壁面パネル20を壁面方向に拘束しているため、壁面パネル20の壁面部21が、壁面直交方向の面内力に対して、面外方向に撓み変形、孕み出し変形しにくい。
このため、壁面直交方向の面内力を面外方向に逃がさず、柱状の連結リブ22に伝達させ、連結リブ22を、壁面直交方向の面内力に対する、耐圧材及び引張材として有効に機能させることができる。
詳細には、本発明の壁面構造1は、壁面直交方向の水平力に対し、受衝面側の上方の拘束材30と、壁枠体10上でこの拘束材30の対角線に位置する下方の拘束材30と、受衝面寄りの連結リブ22とが、引張材として一体に抵抗する。
同時に、受衝面側の下方の拘束材30と、この拘束材30の対角線に位置する上方の拘束材30と、受衝面から遠い側の連結リブ22とが、耐圧材として一体に抵抗する。
以上のように本発明の壁面構造1は、拘束材30と壁面パネル20とが、壁枠体10を介して、水平力に対して一体に抵抗することで、高い水平耐力を確保することができる。
【0026】
<7>ブレースによる補強との比較。
壁面構造を補強する方法として、従来技術の鉄骨造のように、壁枠体内に交差状に2本のブレースを架け渡す方法が考えられる。
ブレースで補強した壁面構造に、壁面直交方向の水平力が付与された場合、上端が受衝面に近い方のブレースが耐圧材、他方のブレースが引張材として、壁枠体の変形に抵抗する。
しかしブレースは、壁枠体の対向する隅部同士を連結する構造であるため、壁枠体の捩じれを有効に抑止することができない。このため、壁面パネルの壁面方向の孕み出し変形を防止することが難しい。
また、薄板鋼板からなる簡易構造物に対して、ブレースによる補強効果が強すぎるため、水平力に対してブレースのみが抵抗し、壁面パネルが抵抗要素として機能しない。
このため、台風の風圧力等の強力な水平力が壁面直交方向に作用した場合、ブレースの取付部に応力が集中することで、まず取付部が局部変形してブレースが機能を失い、続いてブレースによる補強を失った壁面パネルがせん断を受けて座屈変形する。
これに対し、本発明の壁面構造1は、壁面直交方向の水平力に対して拘束材30が単体で抵抗するのではなく、拘束材30による壁枠体10の拘束を介して、連結リブ22を耐圧材及び引張材として一部を分担させる合理的設計によって、簡易な構造でもって高い水平耐力を発揮することができる。
【0027】
<8>水平載荷試験。
本発明の壁面構造について、水平載荷試験を行った。
試験は、形鋼からなる構枠内に壁面構造を固定し、構枠の上部に対し静的ジャッキにより壁面直交方向に正負交番の載荷を所定回数行った。
図6A及び
図6Bは、壁面パネルを2枚連結した壁面構造において、拘束材を備える実施例1(
図6A)と、拘束材を備えない比較例1(
図6B)の対比を表す。
初期剛性の比較において、比較例1がおよそ1.9kNで10mmの変位量に対し、実施例1ではおよそ3kNで10mmの変位量となり、剛性向上についての効果がみられた。また、最大荷重においても、比較例1がおよそ4.2kNに対し、実施例1ではおよそ6.1kNとなり、終局耐力向上についても顕著な効果がみられた。
図7A及び
図7Bは、壁面パネルを7枚連結した壁面構造において、拘束材を備える実施例2(
図7A)と、拘束材を備えない比較例2(
図7B)の対比を表す。
初期剛性の比較において、比較例2がおよそ7.6kNで10mmの変位量に対し、実施例2ではおよそ10.5kNで10mmの変位量となり、剛性向上についての効果がみられた。また、最大荷重においても、比較例2がおよそ14.2kNに対し、実施例2ではおよそ15.0kNとなり、終局耐力向上についても顕著な効果がみられた。