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特開2022-109639窯業サイディングボード用嵩高剤およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109639
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】窯業サイディングボード用嵩高剤およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/00 20060101AFI20220721BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220721BHJP
   C04B 16/02 20060101ALI20220721BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C04B24/00
C04B28/02
C04B16/02 Z
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005047
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 尊生
(72)【発明者】
【氏名】田邊 玲太
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA11
4G056AA19
4G056CB15
4G056CB25
4G056CB32
4G112PA22
4G112PB14
(57)【要約】
【課題】窯業サイディングボードの嵩高性を向上できる技術を提供する。
【解決手段】セメントとパルプとを含有する窯業サイディングボードに用いられる嵩高剤は、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とし、窯業サイディングボードは、セメントと、パルプと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とし、窯業サイディングボードの製造方法は、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、パルプと、セメントとを混合する混合工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとパルプとを含有する窯業サイディングボードに用いられる嵩高剤であって、
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする、
窯業サイディングボード用嵩高剤。
【請求項2】
請求項1に記載の窯業サイディングボード用嵩高剤において、
前記有機ホスホン酸は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸を含んでいることを特徴とする、
窯業サイディングボード用嵩高剤。
【請求項3】
窯業サイディングボードであって、
セメントと、
パルプと、
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、を含むことを特徴とする、
窯業サイディングボード。
【請求項4】
窯業サイディングボードの製造方法であって、
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、パルプと、セメントと、を混合する混合工程を含むことを特徴とする、
窯業サイディングボードの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の窯業サイディングボードの製造方法において、
前記混合工程は、
前記パルプを含有するパルプスラリーと、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方とを混合する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記セメントを混合する第2工程と、
を含むことを特徴とする、
窯業サイディングボードの製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の窯業サイディングボードの製造方法において、
前記有機ホスホン酸は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸を含むことを特徴とする、
窯業サイディングボードの製造方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれか一項に記載の窯業サイディングボードの製造方法において、
前記混合工程では、パルプスラリーに含まれる前記パルプの固形分質量に対して、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方をリン酸換算質量で100mg/kg以上25,000mg/kg以下の割合で混合することを特徴とする、
窯業サイディングボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業サイディングボード用嵩高剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材としての窯業サイディングボードにおいて、材料価格の高騰、環境保護の必要性および資源の有効利用等の観点から、嵩高さに重要なパルプの使用量を減らしつつも、窯業サイディングボードの厚みを維持することが望まれている。
【0003】
製紙の分野で用いられるパルプ嵩高剤としては、高級アルコールや、そのアルキレンオキシド付加物を含有する紙用嵩高剤(特許文献1)、油脂または糖アルコール系非イオン界面活性剤を含有する紙用嵩高剤(特許文献2)、脂肪酸のアルキレンオキシド付加物を含有する紙用嵩高剤(特許文献3)、カチオン性化合物、アミン、アミンの酸塩、両性化合物を含有する紙用嵩高剤(特許文献4)、更には多価アルコール脂肪酸エステルの紙用嵩高剤(特許文献5)や、脂肪族カルボン酸とポリアミンから得られる化合物にエピハロヒドリンを反応して得られる化合物を含有する紙用嵩高剤(特許文献6)が知られている。
【0004】
特許文献7には、嵩高な無機質板の製造方法として、スラリーにアルコキシシラン類を添加し、混合撹拌で発泡を促して微細気泡を含ませる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第98/03730号パンフレット
【特許文献2】特開平11-200283号公報
【特許文献3】特開平11-200284号公報
【特許文献4】特開平11-269799号公報
【特許文献5】特開平11-350380号公報
【特許文献6】特開2000-273792号公報
【特許文献7】特開2004-255618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~6に記載の紙用嵩高剤は、酸性~中性のスラリーに添加される。このため、スラリーの液性がアルカリ性であることも多い窯業サイディングボードにおいては、十分な嵩高効果が得られないことを本願発明者らは見出した。また、窯業サイディングボードのスラリーは、カルシウムイオン濃度が極めて高い。このため、カルシウムイオン濃度が高くない対象物に適用される紙用嵩高剤を窯業サイディングボードに用いても、十分な嵩高効果が得られないことを本願発明者らは見出した。
【0007】
また、特許文献7に記載の方法では、混合撹拌時の泡立ちの制御が必要であるため、品質の安定した窯業サイディングボードの製造が困難となるおそれがあり、その結果、安定した嵩高効果が得られないことを本願発明者らは見出した。加えて、特許文献7に記載の方法では、気泡の混入により加圧成型時に水走りが生じて成型材に切れが生じるおそれがあり、窯業サイディングボードの品質を損なうおそれがある。
【0008】
したがって、窯業サイディングボードの嵩高性を向上できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
【0010】
(1)本発明の一形態によれば、窯業サイディングボード用嵩高剤が提供される。この窯業サイディングボード用嵩高剤は、セメントとパルプとを含有する窯業サイディングボードに用いられる嵩高剤であって、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする。この形態の窯業サイディングボード用嵩高剤によれば、窯業サイディングボードの嵩高性を向上できる。
【0011】
(2)上記形態の窯業サイディングボード用嵩高剤において、前記有機ホスホン酸は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸を含んでいてもよい。この形態の窯業サイディングボード用嵩高剤によれば、経済性、汎用性および嵩高性に優れる。
【0012】
(3)本発明の他の形態によれば、窯業サイディングボードが提供される。この窯業サイディングボードは、セメントと、パルプと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、を含むことを特徴とする。この形態の窯業サイディングボードによれば、嵩高性に優れる。
【0013】
(4)本発明の他の形態によれば、窯業サイディングボードの製造方法が提供される。この窯業サイディングボードの製造方法は、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、パルプと、セメントと、を混合する混合工程を含むことを特徴とする。この形態の窯業サイディングボードの製造方法によれば、窯業サイディングボードの嵩高性を向上できる。
【0014】
(5)上記形態の窯業サイディングボードの製造方法において、前記混合工程は、前記パルプを含有するパルプスラリーと、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方とを混合する第1工程と、前記第1工程の後に、前記セメントを混合する第2工程と、を含んでいてもよい。この形態の窯業サイディングボードの製造方法によれば、窯業サイディングボードの嵩高性をより向上できる。
【0015】
(6)上記形態の窯業サイディングボードの製造方法において、前記有機ホスホン酸は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸を含んでいてもよい。この形態の窯業サイディングボードの製造方法によれば、経済性と汎用性に優れ、窯業サイディングボードの嵩高化を向上できる。
【0016】
(7)上記形態の窯業サイディングボードの製造方法において、前記混合工程では、パルプスラリーに含まれる前記パルプの固形分質量に対して、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方をリン酸換算質量で100mg/kg以上25,000mg/kg以下の割合で混合してもよい。この形態の窯業サイディングボードの製造方法によれば、窯業サイディングボードの嵩高性をより向上できる。
【0017】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、窯業サイディングボード用嵩高剤の製造方法、窯業サイディングボードを用いた建造物等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.窯業サイディングボード用嵩高剤
本発明の一実施形態である窯業サイディングボード用嵩高剤は、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする。有機ホスホン酸とは、分子中に少なくとも1つのホスホノ基を有する有機化合物を意味する。すなわち、有機ホスホン酸は、分子中に、C-PO(OH)の構造を含んでいる。有機ホスホン酸の塩は、ホスホノ基が塩の形態である化合物であり、塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。なお、遊離の有機ホスホン酸は、分子中に少なくとも1つのホスホノ基(-PO(OH))の電離基を有する。以下の説明では、便宜上、有機ホスホン酸とその塩とを総称して、「有機ホスホン酸化合物」とも呼ぶ。
【0019】
有機ホスホン酸化合物1分子あたりのホスホノ基の数は、分子中におけるホスホノ基が占める割合を増大させて嵩高性を効果的に向上させる観点から、2以上であることが好ましい。分子中におけるホスホノ基が占める割合が大きいことにより、有機ホスホン酸化合物の添加量を少なくできる。また、有機ホスホン酸化合物は、水への溶解性の観点から、ヒドロキシル基を有することが好ましい。
【0020】
有機ホスホン酸としては、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸や1-ヒドロキシメタン-1,1-ジホスホン酸のようなアルキリデンジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)やエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)のようなアルキレンホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸等が挙げられる。有機ホスホン酸化合物は、経済性や汎用性の観点から、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸またはその塩であることが特に好ましい。なお、有機ホスホン酸化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
窯業サイディングボード用嵩高剤は、有機ホスホン酸化合物が液状であればそのまま使用することもでき、また、取扱い性等の観点から、水等を用いて適宜希釈して調製されていてもよい。
【0022】
窯業サイディングボード用嵩高剤は、有機ホスホン酸化合物が溶媒に溶解されたものであってもよく、有機ホスホン酸化合物が分散媒に分散(例えば、懸濁、乳化)されたものであってもよい。かかる溶媒または分散媒としては、特に限定されないが、例えば、水、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール等のアルコール類、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化バリウム水溶液等のアルカリ水溶液、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ポリエーテルアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0023】
本実施形態の窯業サイディングボード用嵩高剤は、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、任意成分を含んでもよい。かかる任意成分としては、特に限定されないが、例えば、防腐剤、防カビ剤、殺菌剤、分散剤等が挙げられる。これらの任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
窯業サイディングボード用嵩高剤における有機ホスホン酸化合物の濃度は、嵩高効果を向上させる観点から、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、窯業サイディングボード用嵩高剤における有機ホスホン酸化合物の濃度は、取り扱い性の観点から、90質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態の窯業サイディングボード用嵩高剤は、有機ホスホン酸化合物を含有することにより、窯業サイディングボードの嵩高性を向上させることができる。このメカニズムは定かでないが、推定メカニズムとしては、有機ホスホン酸がセメントに付着して作用することにより、窯業サイディングボードの嵩高性を向上させることができると考えられる。
【0026】
本実施形態の窯業サイディングボード用嵩高剤によれば、嵩高性に優れる窯業サイディングボードを提供できる。このため、嵩高効果による原料コストの削減や、窯業サイディングボードの軽量化等に貢献できる。また、本実施形態の窯業サイディングボード用嵩高剤は、窯業サイディングボードを製造する際に、他の原料に混合して用いることができる。このため、窯業サイディングボードの製造工程が複雑化することを抑制できるので、大掛かりな設備変更を省略でき、また、工程管理の複雑化を抑制できる。したがって、窯業サイディングボードの嵩高性を容易に向上させることができる。
【0027】
B.窯業サイディングボード
本発明の他の形態である窯業サイディングボードは、セメントと、パルプと、上記の有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、を含むことを特徴とする。本実施形態の窯業サイディングボードは、繊維混入板の一種であり、例えば、家や店舗の外壁材や内壁材として利用される。
【0028】
〔窯業サイディングボードの原料〕
本実施形態において用いられるセメントとしては、特に限定されないが、例えば、普通、早強、超早強、低熱および中庸熱等の各種ポルトランドセメント、石灰石粉末等や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント等が挙げられる。セメントは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、セメントには、フライアッシュ、珪酸カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、高炉スラグ、シリカ等の無機粉末が混合されていてもよい。
【0029】
本実施形態のパルプは、天然繊維を含んで構成され、窯業サイディングボードにおいて補強繊維としての役割を有する。原料のパルプは、木材パルプであってもよく、非木材パルプであってもよい。木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば、針葉樹クラフトパルプ(NKP)や広葉樹クラフトパルプ(LKP)等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば、ケナフ、バガス、竹、麻、藁等が挙げられる。パルプは、漂白処理された晒パルプであってもよく、漂白処理されていない未晒パルプであってもよい。また、パルプは、木材や非木材から直接作られたバージンパルプであってもよく、既に紙等として製造されたものを回収して原料とした古紙パルプであってもよい。なお、パルプは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本実施形態の窯業サイディングボードは、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、任意成分を含んでもよい。かかる任意成分としては、特に限定されないが、例えば、消泡剤、炭化水素、防腐剤、防カビ剤、殺菌剤、防錆剤、皮張り防止剤等が挙げられる。これらの任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
〔窯業サイディングボードの製造方法〕
本実施形態の窯業サイディングボードの製造方法は、特に限定されず、流し込み、押し出し、抄造等の各種製造方法を適用することができる。本実施形態の窯業サイディングボードの製造方法では、上記の有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、パルプと、セメントと、を混合する混合工程を含む。混合工程では、水に上記の原料を加えたスラリーを、混合撹拌する。
【0032】
本実施形態の混合工程は、(i)パルプを含有するパルプスラリーに、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を混合する第1工程と、(ii)第1工程の後にセメントを混合する第2工程と、を含んでいてもよい。第1工程では、原料のパルプを水中に含むパルプスラリーと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方とを混合して撹拌する。第1工程において、パルプが離解される。パルプスラリーのpHは、アルカリ性(例えば、pH9~pH14)、もしくは中性(pH6~8)である。第2工程では、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方が混合された状態のパルプスラリーと、セメントとを混合して撹拌する。第2工程により、セメント混合スラリーが得られる。混合工程が上記第1工程と上記第2工程とを含むことにより、窯業サイディングボードの嵩高性をより向上できる。なお、第2工程では、セメントとともに無機粉末が混合されてもよい。
【0033】
混合工程は、上記第1工程と上記第2工程とに代えて、例えば、パルプスラリーにセメントを混合して得られたセメント混合スラリーに、有機ホスホン酸化合物を混合する工程であってもよい。パルプスラリーやセメント混合スラリーに対する有機ホスホン酸化合物の混合方法は、有機ホスホン酸化合物がスラリー中に分散される方法であれば特に制限されない。例えば、送液ポンプを用いて連続的に混合する方法や、一定期間毎に規定のバッチ量を混合する方法等が挙げられる。また、有機ホスホン酸化合物の混合場所としては、例えば、パルパーや、窯業サイディングボード成形時に排出される濾水の戻りライン、原料希釈水等であってもよい。また、必要に応じて、複数の箇所において、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方が添加されてもよい。
【0034】
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方は、嵩高効果を向上させる観点から、パルプスラリーに含まれるパルプの固形分質量に対して、リン酸換算質量で100mg/kg以上の割合で混合されることが好ましく、1,000mg/kg以上の割合で混合されることがより好ましく、5,000mg/kg以上の割合で混合されることが特に好ましい。また、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方は、経済性の観点から、パルプスラリーに含まれるパルプの固形分質量に対して、リン酸換算質量で25,000mg/kg以下の割合で混合されることが好ましく、20,000mg/kg以下の割合で混合されることがより好ましい。例えば、有機ホスホン酸化合物を、パルプスラリーに含まれるパルプの固形分質量に対してリン酸換算質量で5,000mg/kg以上20,000mg/kg以下の割合で混合することにより、嵩高性に優れつつ、材料コストの増大を抑制できる。
【0035】
パルプの固形分質量に対する有機ホスホン酸化合物の上記の好ましい質量は、パルプスラリーに有機ホスホン酸化合物を混合する場合に限らず、セメント混合スラリー等に有機ホスホン酸化合物を混合する場合等においても同様である。なお、パルプスラリーにおけるパルプの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1~10質量%であってもよい。
【0036】
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方は、嵩高性を向上させる観点から、セメント混合スラリーの質量に対して、リン酸換算質量で3mg/kg以上の割合で混合されることが好ましく、15mg/kg以上の割合で混合されることがより好ましい。また、経済性の観点から、セメント混合スラリーの質量に対して、リン酸換算質量で75mg/kg以下の割合で混合されることが好ましく、リン酸換算質量で60mg/kg以下の割合で混合されることがより好ましい。なお、セメント混合スラリーにおけるセメントの濃度は、特に限定されないが、例えば、2~15質量%であってもよい。
【0037】
抄造製造により窯業サイディングボードを製造する場合は、混合工程によって得られたセメント混合スラリーを、抄造する抄造工程をさらに含む。抄造工程では、セメント混合スラリーを、紙のように抄き取って板状の成形板を作製する。より具体的には、例えば、セメント混合スラリーを網上に流し出した後、ろ過し脱水したセメントケーキを生成する。生成したセメントケーキをプレスして成型し、乾燥・硬化させて窯業サイディングボードを作製する。
【0038】
本実施形態において、有機ホスホン酸化合物をスラリーに分散した後の、抄造工程までの時間経過には制限がない。一般に、調製後のセメント混合スラリー及びパルプスラリーは、1~30分程度で抄造工程へと送られるが、有機ホスホン酸化合物混合後の経過時間の長短によらず、嵩高性に優れた窯業サイディングボードを製造することができる。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」との記載は、特に限定のない限り質量%を意味する。
【0040】
以下の表に示す実施例用の化合物1~5および比較例用の化合物6~9を用いて、実施例1~11および比較例1~14の窯業サイディングボードを、以下のように作製した。なお、実施例および比較例におけるパルプスラリーのpHは、それぞれ以下の表に示すとおりであった。
【0041】
〔実施例1〕
古紙パルプを水中に3.7%含むパルプスラリー250gに、原料のパルプに対してリン酸換算で25,000mgPO/kgとなるように化合物1(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸)を加えて、5分間撹拌した。その後、水1250g、フライアッシュ(JIS A6201-II種相当品)75g、ポルトランドセメント45gを加えて1分間強撹拌し、セメント混合スラリーを得た。得られたセメント混合スラリーを、No.1濾紙を用いて、直径100mmサイズの濾過器で吸引濾過した。水分量が40%程度になるまで吸引濾過を行ない、濾過残渣のセメントケーキを回収した。回収されたセメントケーキを直径100mmサイズの型枠に入れ、18kgf/cmの圧力でプレスし、成型した。成型物を50℃飽和水蒸気圧下で12時間程度静置した後、160℃飽和水蒸気圧下で5時間処理して水和反応により硬化させて養生を行なった。その後、120℃で24時間静置して乾燥させることにより、実施例1の窯業サイディングボードを得た。
【0042】
〔実施例2~10〕
以下の表1に記載された含有量となるように化合物1を含有させた以外は、実施例1と同様な製造方法にて、実施例2~6の窯業サイディングボードを得た。また、化合物1に代えて化合物2(2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸)、化合物3(ニトリロトリス(メチレンホスホン酸))、化合物4(N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸))、化合物5(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))を用いた以外は、実施例4と同様に実施例7~10の窯業サイディングボードを得た。
【0043】
〔実施例11〕
古紙パルプに代えて、バージンパルプを用いた以外は、実施例4と同様に実施例11の窯業サイディングボードを得た。
【0044】
〔比較例1〕
化合物1を添加しなかった以外は、実施例1と同様な製造方法にて、比較例1の窯業サイディングボードを得た。
【0045】
〔比較例2、3〕
化合物1に代えて化合物6(リグニンスルホン酸ナトリウム)を添加した以外は、実施例5,4と同様に、比較例2、3の窯業サイディングボードを得た。なお、比較例2,3は、化合物6の含有量が互いに異なる。
【0046】
〔比較例4、5〕
化合物1に代えて化合物7(ラウリルアルコール)を添加した以外は、実施例5,4と同様に、比較例4、5の窯業サイディングボードを得た。なお、比較例4,5は、化合物7の含有量が互いに異なる。
【0047】
〔比較例6、7〕
化合物1に代えて化合物8(テトラブトキシシラン)を添加した以外は、実施例5,4と同様に、比較例6、7の窯業サイディングボードを得た。なお、比較例6,7は、化合物8の含有量が互いに異なる。
【0048】
〔比較例8、9〕
化合物1に代えて化合物9(リン酸)を添加した以外は、実施例5,4と同様に、比較例8、9の窯業サイディングボードを得た。なお、比較例8,9は、化合物9の含有量が互いに異なる。
【0049】
〔比較例10〕
古紙パルプに代えて、バージンパルプを用いた以外は、比較例1と同様な製造方法にて、比較例10の窯業サイディングボードを得た。
【0050】
〔比較例11~14〕
古紙パルプに代えて、バージンパルプを用いた以外は、比較例3,5,7,9と同様に、比較例11~14の窯業サイディングボードを得た。
【0051】
実施例1~11および比較例1~14の窯業サイディングボードを用いて、下記の方法に従い、各特性を求めた。
【0052】
<窯業サイディングボードの厚み>
窯業サイディングボードを120℃で24時間乾燥させ、乾燥後の窯業サイディングボードの厚み(ボード厚)を、ノギスを用いて測定した。
【0053】
<窯業サイディングボードの嵩高率>
比較例1を基準とした実施例1~10および比較例2~9の嵩高率と、比較例10を基準とした実施例11および比較例11~14の嵩高率の各々を、上記の方法で測定されたボード厚を用いて算出した。より具体的には、比較例1の窯業サイディングボードの厚みを100%とした場合の、実施例1~10および比較例2~9の窯業サイディングボードの厚みから、嵩高率を算出した。同様に、比較例10を基準とした実施例11および比較例11~14の嵩高率を算出した。
【0054】
以下に、得られた結果を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
上述の結果から以下のことが分かった。実施例1~6と比較例1との比較から、有機ホスホン酸化合物の含有量の増大に伴って窯業サイディングボードの厚みが増加する傾向にあり、窯業サイディングボードの嵩高性が向上することがわかった。
【0058】
また、実施例4、7~10の比較から、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(化合物2)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(化合物3)、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(化合物4)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(化合物5)のいずれにおいても、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(化合物1)と同様な嵩高効果が得られることがわかった。すなわち、有機ホスホン酸化合物の種類にかかわらず、窯業サイディングボードの厚みが増加する傾向にあり、嵩高効果が得られることがわかった。
【0059】
また、実施例4と実施例11との比較から、原料パルプとして古紙パルプとバージンパルプとのいずれのパルプを用いた場合においても、窯業サイディングボードの嵩高性を向上できることがわかった。
【0060】
他方、比較例2、3、11において添加されたリグニンスルホン酸ナトリウム(化合物6)は、一般にAE減水剤としてセメントボードに添加される物質である。リグニンスルホン酸ナトリウムのようなAE減水剤として用いられる物質では、窯業サイディングボードの嵩高性を向上させる効果は認められなかった。
【0061】
比較例4、5、12において添加されたラウリルアルコール(化合物7)は、一般に紙用嵩高剤として製紙工程において添加される代表的な物質である。ラウリルアルコールのような製紙用嵩高剤として用いられる物質では、窯業サイディングボードの嵩高性を向上させる効果は認められなかった。
【0062】
比較例6、7、13において添加されたテトラブトキシシラン(化合物8)は、建材ボード製造時に泡を含ませることで嵩高効果が得られることが公知の物質である。しかしながら、窯業サイディングボードの製造方法において泡を含ませる工程がなかったため、嵩高効果は認められなかった。
【0063】
比較例8、9、14において添加されたリン酸(化合物9)は、コンクリートの凝結遅延剤として用いられることがある無機酸である。表2に示されるように、リン酸の添加では嵩高効果が得られなかった。
【0064】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の窯業サイディングボード用嵩高剤、窯業サイディングボード、窯業サイディングボードの製造方法によれば、嵩高性に優れる窯業サイディングボードを提供できる。このため、嵩高効果による原料コストの削減等に貢献できる。