(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109683
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/521 20170101AFI20220721BHJP
【FI】
G06T7/521
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005133
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102717
【氏名又は名称】NTTテクノクロス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】神谷 英樹
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 小春
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 宏行
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA03
5L096AA06
5L096AA09
5L096BA03
5L096CA27
5L096DA02
5L096FA64
5L096FA65
5L096FA66
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】豚の増体を判定すること。
【解決手段】一実施形態に係る推定装置は、豚の増体を判定するための胸囲を推定する推定装置であって、前記豚を撮影した撮影データを入力する入力部と、前記撮影データから前記豚の胸幅を推定する胸幅推定部と、前記撮影データから前記豚の体高を推定する体高推定部と、前記胸幅と前記体高とを少なくとも用いて、予め学習されたモデルにより前記豚の胸囲を推定する胸囲推定部と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚の増体を判定するための胸囲を推定する推定装置であって、
前記豚を撮影した撮影データを入力する入力部と、
前記撮影データから前記豚の胸幅を推定する胸幅推定部と、
前記撮影データから前記豚の体高を推定する体高推定部と、
前記胸幅と前記体高とを少なくとも用いて、予め学習されたモデルにより前記豚の胸囲を推定する胸囲推定部と、
を有する推定装置。
【請求項2】
前記撮影データには、前記豚を赤外線カメラで撮影した赤外線画像と、前記撮影範囲内の各点における前記豚の深度を深度センサで測定した結果を表す点群データとが含まれ、
前記胸幅推定部は、
前記赤外線画像の各ピクセル値を2値化した2値化画像を作成する2値化部と、
前記2値化画像から前記豚の肩の位置を特定する肩特定部と、
前記点群データに含まれる各点を所定の間隔に整列し、2次元平面に投影した点群画像を作成する点群画像作成部と、
前記2値化画像と前記点群画像とを用いて、前記肩の位置から特定される胸の位置における前記豚の領域の幅を前記胸幅として計算する胸幅計算部と、を有する請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記豚はストールに収容された繁殖雌豚であり、
前記体高推定部は、
前記ストールの高さと、前記豚を撮影した撮影装置から前記ストールまでの距離と、前記撮影装置から前記豚までの距離とを用いて、前記体高を推定する、請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記体高は、前記豚の肩の位置における体高であり、
前記体高推定部は、
前記点群データに含まれる各点の深度の値のうち、最小の値を前記ストールまでの距離とし、
前記点群データに含まれる各点の深度の値のうち、前記肩の位置における深度の値を前記豚までの距離として、前記体高を推定する、請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記モデルは、前記胸幅と前記体高さとを説明変数、前記胸囲を目的変数とする重回帰式で表される、請求項1乃至4の何れか一項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記モデルは、前記豚の産歴と交配後日数とを更に説明変数とする重回帰式で表される、請求項5に記載の推定装置。
【請求項7】
豚の増体を判定するための胸囲を推定する推定方法であって、
前記豚を撮影した撮影データを入力する入力手順と、
前記撮影データから前記豚の胸幅を推定する胸幅推定手順と、
前記撮影データから前記豚の体高を推定する体高推定手順と、
前記胸幅と前記体高とを少なくとも用いて、予め学習されたモデルにより前記豚の胸囲を推定する胸囲推定手順と、
をコンピュータが実行する推定方法。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1乃至6の何れか一項に記載の推定装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
養豚経営の分野では5段階で示されるボディコンディションと呼ばれる指標が従来から知られている。ボディコンディションとは豚の肥満度を示す指標であり、繁殖雌豚の栄養管理によく利用されている。繁殖雌豚の栄養状態はその繁殖成績に影響するため、ボディコンディションを正確に把握することは重要である。このため、ボディコンディションを判定する方法が従来から知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】井口 元夫,「繁殖母豚の飼料給与量の目安としてのボディコンディションスコアの利用 -繁殖成績の向上はボディコンディションのコントロールにある!-」,生産技術セミナー
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来から知られている5段階のボディコンディションスコアは、繁殖雌豚の見た目や触診により主観的に決められるものであった。このため、ボディコンディションを判定する人の経験等によっては、判定精度が低い場合があった。
【0005】
本発明の一実施形態は、上記の点に鑑みてなされたもので、ボディコンディションスコアの代わりに、左記と同様に豚の栄養状態を表す増体を判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、一実施形態に係る推定装置は、豚の増体を判定するための胸囲を推定する推定装置であって、前記豚を撮影した撮影データを入力する入力部と、前記撮影データから前記豚の胸幅を推定する胸幅推定部と、前記撮影データから前記豚の体高を推定する体高推定部と、前記胸幅と前記体高とを少なくとも用いて、予め学習されたモデルにより前記豚の胸囲を推定する胸囲推定部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
豚の増体を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る推定システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】体重と胸囲の相関関係の一例を説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係る推定装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係るモデル学習処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係る推定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、繁殖雌豚を対象として、その胸囲を推定することで増体を判定することが可能な推定システム1について説明する。
【0010】
ここで、増体を判定する際に胸囲を推定するのは、一般に肥満度と体重との間には強い相関関係があることが知られており、また、後述するように豚の体重と胸囲との間には強い相関関係が認められるためである。
【0011】
<全体構成>
まず、本実施形態に係る推定システム1の全体構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る推定システム1の全体構成の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る推定システム1には、豚の胸囲の推定を行う推定装置10と、胸囲の推定対象(つまり、増体の判定対象)である繁殖雌豚Pを撮影する撮影装置20とが含まれる。また、推定装置10と撮影装置20は、例えば、無線若しくは有線又はその両方により通信可能に接続されている。
【0013】
撮影装置20は、例えば、養豚場の管理者や従業者等のユーザMが利用するスマートフォンやタブレット端末、デジタルカメラ等である。ユーザMは、撮影装置20を用いて、妊娠ストールC(以下、単に「ストールC」ともいう。)内の繁殖雌豚Pを上方から撮影する。なお、撮影装置20はストールCの上方に固定的に設置されたカメラであってもよい。
【0014】
ここで、撮影装置20には赤外線カメラ(又は赤外線センサ)と深度センサ(又は深度カメラ)とが少なくとも備えられており、ユーザMの撮影操作によって撮影範囲内の赤外線画像と点群データとが含まれる撮影データが生成されるものとする。点群データとは、撮影範囲内の水平方向をx軸、垂直方向をy軸、深度方向をz軸として、(x,y,z)の点群で表されるデータのことである。なお、ユーザMは、繁殖雌豚Pの背面のうち、少なくとも肩から胸の位置付近の領域が撮影範囲内に含まれ、かつ、繁殖雌豚Pの背骨と撮影範囲の垂直方向(y軸方向)とができるだけ平行になるように、当該繁殖雌豚Pを撮影するものとする。
【0015】
推定装置10は、撮影装置20が生成した撮影データから繁殖雌豚Pの胸囲を推定するコンピュータ又はコンピュータシステムである。推定装置10は、予め準備した学習用データセットを用いて学習したモデル(以下、「胸囲推定モデル」ともいう。)により繁殖雌豚Pの胸囲を推定する。したがって、本実施形態に係る推定装置10には、胸囲推定モデルのパラメータ(後述する偏回帰係数)を学習する学習フェーズと、学習済みのパラメータを設定した胸囲推定モデルにより実際に繁殖雌豚Pの胸囲を推定する推定フェーズとがある。
【0016】
また、推定装置10は、撮影データから推定した繁殖雌豚Pの胸囲とその標準的な範囲(以下、「標準レンジ」ともいう。)との推移に関するグラフを撮影装置20(又は、ユーザMが利用する任意の端末等)に表示させる。これにより、ユーザMは、繁殖雌豚Pの増体が適切であるか否か(つまり、例えば、胸囲が標準レンジに収まっているか否か等)を判定することができるようになる。
【0017】
なお、
図1に示す推定システム1の全体構成は一例であって、他の全体構成であってもよい。例えば、推定システム1には上記のグラフが表示される端末等が含まれていてもよい。また、例えば、学習フェーズにおける推定装置10と推定フェーズにおける推定装置10とが異なる装置で実現されていてもよい。また、例えば、推定装置10と撮影装置20とが一体で構成されていてもよい(特に、推定フェーズにおける推定装置10と撮影装置20とが一体で構成されていてもよい。)。
【0018】
<胸囲推定モデル>
ここで、本実施形態に係る胸囲推定モデルについて説明する。上述したように、増体とは肥満度を示す指標であり、一般に肥満度と体重との間には強い相関関係があることが知られている。また、豚の体重と胸囲との間にも強い相関関係が認められる。例えば、初回交配日から経過日数を横軸、体重及び胸囲を縦軸として、或る繁殖雌豚の体重及び胸囲をプロットしたグラフを
図2(a)~
図2(c)に示す。
図2(a)~
図2(c)はそれぞれ異なる種類の繁殖雌豚の体重及び胸囲をプロットしたグラフであるが、いずれの種類の繁殖雌豚にも体重と胸囲との間に強い相関関係がある(つまり、体重が重く(又は軽く)なれば胸囲も大きく(又は小さく)なる傾向があり、逆に胸囲が大きく(又は小さく)なれば体重も重く(又は軽く)なる傾向がある)ことが認められる。
【0019】
したがって、繁殖雌豚の胸囲を正確に推定することができれば、その増体も正確に判定することが可能になる。そこで、本実施形態では、以下の式(1)に示す重回帰式を胸囲推定モデルとして繁殖雌豚の胸囲を推定する。
【0020】
y=β1x1+β2x2+β3x3+β4x4 (1)
ここで、yは胸囲を表す目的変数である。一方で、x1~x4はそれぞれ説明変数であり、x1は胸幅、x2は体高、x3は産歴、x4は交配後日数を表す。また、β1~β4は偏回帰係数であり、学習用データセットから学習される。説明変数として胸幅及び体高を用いるのは、これらが胸幅と強い相関関係があると考えられるためである。なお、体高は繁殖雌豚の胸の位置における体高とすることが好ましいが、一般に胸の位置は動作が大きく、姿勢の変化により体高の値の変動が大きいため、本実施形態では、肩の位置における体高を用いるものとする。
【0021】
なお、上記の式(1)に示す胸囲推定モデルは一例であって、胸幅及び体高以外の説明変数に関しては、適宜、追加又は削除されてもよい。例えば、産歴及び交配後日数の少なくとも一方の説明変数を用いなくてもよいし、産歴及び交配後日数以外の任意の説明変数が用いられてもよい。
【0022】
<機能構成>
次に、本実施形態に係る推定装置10の機能構成について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係る推定装置10の機能構成の一例を示す図である。
【0023】
図3に示すように、本実施形態に係る推定装置10は、読込部101と、胸幅推定部102と、体高推定部103と、胸囲推定部104と、学習部105と、表示制御部106とを有する。これら各部は、例えば、推定装置10にインストールされた1以上のプログラムが、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置に実行させる処理により実現される。なお、当該各部のうちの一部が、例えば、クラウドサービス等が提供する機能によって実現されていてもよい。
【0024】
また、本実施形態に係る推定装置10は、記憶部107を有する。記憶部107は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により実現される。なお、記憶部107は、例えば、推定装置10と通信ネットワークを介して接続される記憶装置(例えば、データベースサーバ等)により実現されていてもよい。
【0025】
記憶部107は、学習フェーズや推定フェーズで用いられる各種データを記憶する。例えば、記憶部107には、学習フェーズで用いられる学習用データセットが記憶される。また、例えば、記憶部107には、推定フェーズで胸囲の推定対象となる繁殖雌豚Pを撮影した撮影データや当該繁殖雌豚Pの産歴、交配後日数等が記憶される。更に、例えば、記憶部107には、胸囲推定モデルのパラメータ(偏回帰係数)も記憶される。なお、後述するように、学習用データセット中の各学習用データには、或る繁殖雌豚を撮影した撮影データや当該繁殖雌豚の撮影時点の産歴及び交配後日数、胸囲等が含まれる。
【0026】
読込部101は、学習フェーズにおいて、学習用データセット中の各学習用データを記憶部107から読み込む。また、読込部101は、推定フェーズにおいて、胸囲の推定対象となる繁殖雌豚Pの撮影データや産歴、交配後日数等を記憶部107から読み込み。
【0027】
胸幅推定部102は、学習フェーズ及び推定フェーズにおいて、撮影データから胸幅を推定する。
【0028】
体高推定部103は、学習フェーズ及び推定フェーズにおいて、撮影データから体高を推定する。
【0029】
胸囲推定部104は、学習フェーズ及び推定フェーズにおいて、胸幅と体高と産歴と交配後日数とを用いて、胸囲推定モデルにより胸囲を推定する。
【0030】
学習部105は、学習フェーズにおいて、胸囲推定部104で推定された胸囲と、この胸囲の推定に用いられた学習用データに含まれる胸囲(つまり、正解となる実際の胸囲)との誤差から胸囲推定モデルのパラメータを学習する。
【0031】
表示制御部106は、推定フェーズにおいて、胸囲推定部104で推定された胸囲と標準レンジとの推移に関するグラフ(以下、「増体推移グラフ」ともいう。)を撮影装置20(又は、ユーザMが利用する任意の端末等)に表示させる。ここで、繁殖雌豚には、例えば、交配期、妊娠期、分娩期、及び離乳期といったステージがあり、各ステージで標準レンジが異なる。また、繁殖雌豚は一般にこれらのステージを1サイクルとして、このサイクルを繰り返すのが通常である。このため、増体推移グラフでは、例えば、繁殖雌豚Pの現在のステージを含む1サイクル程度(又は数ステージ程度)にわたる胸囲と標準レンジの推移が含まれることが好ましい。
【0032】
なお、
図3に示す推定装置10の機能構成は一例であって、他の機能構成であってもよい。例えば、学習フェーズにおける推定装置10は表示制御部106を有していなくてもよい。また、例えば、推定フェーズにおける推定装置10は学習部105を有していなくてもよい。
【0033】
<学習用データセット>
次に、学習用データセットについて、
図4を参照しながら説明する。
図4は、学習用データセットの一例を示す図である。
【0034】
図4に示すように、学習用データセットは1以上の学習用データ(一般には数十から数百以上の大量の学習用データ)で構成されており、各学習用データには、豚IDと、撮影データと、産歴と、交配後日数と、胸囲とが含まれる。
【0035】
豚IDは、繁殖雌豚を識別するID(例えば、個体識別番号等)である。撮影データは、当該繁殖雌豚を撮影した撮影データである。なお、撮影データは妊娠ストール内の繁殖雌豚を上方から撮影したものであり、当該繁殖雌豚の背面のうち、少なくとも肩から胸の位置付近の領域が含まれ、かつ、当該繁殖雌豚の背骨と撮影範囲の垂直方向(y軸方向)とができるだけ平行になるように撮影されたものであるとする。また、上述したように、撮影データには赤外線画像と点群データとが含まれる。
【0036】
産歴は、当該撮影データの撮影時における当該繁殖雌豚の産歴(例えば、出産の有無や何回出産を経験しているか等)である。交配後日数は、当該撮影データの撮影時における当該繁殖雌豚の交配後の経過日数である。胸囲は、当該撮影データの撮影時における当該繁殖雌豚の実際の胸囲(つまり、正解の胸囲)である。正解の胸囲は種々の方法により測定すればよいが、例えば、巻尺等の種々の測定機器を用いて養豚場の管理者や従業者等により測定される。
【0037】
<モデル学習処理>
次に、学習フェーズにおいて胸囲推定モデルを学習する処理について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、本実施形態に係るモデル学習処理の一例を示すフローチャートである。なお、以降では、胸囲推定モデルのパラメータ(偏回帰係数)はランダムに又は既知の手法により初期化されているものとする。
【0038】
まず、読込部101は、記憶部107に記憶されている学習用データセットの中から1件の学習用データを読み込む(ステップS101)。
【0039】
次に、胸幅推定部102は、上記のステップS101で読み込まれた学習用データに含まれる撮影データから胸幅を推定する(ステップS102)。ここで、胸幅推定部102は、例えば、以下のStep1~Step5により撮影データから胸幅を推定する。ただし、Step1~Step2の処理と、Step3の処理との処理順は順不同である。
【0040】
Step1:まず、胸幅推定部102は、当該撮影データに含まれる赤外線画像の各ピクセルを2値化する。例えば、
図6に示すように、胸幅推定部102は、撮影データに含まれる赤外線画像G100の各ピクセルを2値化して、2値化後の赤外線画像G110を作成する。2値化とは、例えば、グレースケール(多値)で表された赤外線画像の各ピクセルを、その値が閾値以上の場合は1、閾値未満の場合は0とする処理のことである。赤外線画像を2値化することで、繁殖雌豚の領域が抽出される。
【0041】
なお、
図6に示す赤外線画像G100は垂直上方向(y軸の正の方向)が頭側、垂直下方向(y軸の負の方向)が尻側となるように繁殖雌豚が撮影された画像である。このことは、
図6に示す他の画像についても同様である。
【0042】
Step2:次に、胸幅推定部102は、2値化後の赤外線画像から肩の位置を特定する。例えば、
図6に示すように、胸幅推定部102は、2値化後の赤外線画像G110中の繁殖雌豚の領域のうち、水平方向の幅が最も大きいy座標値を肩の位置と特定する。これは、一般に、少なくとも豚の上半身(首から腹のあたりまで)では肩幅(又はその付近)が最も横幅が大きいという特徴があるためである。
【0043】
Step3:また、胸幅推定部102は、当該撮影データに含まれる点群データの各点を所定の間隔に整列して点群画像を作成する。例えば、
図6に示すように、胸幅推定部102は、当該点群データの各点を2次元平面に投影した後、その投影後の各点を1cm間隔に整列することで点群画像G200を作成する。整列とは、2次元平面上の各点に対して補間や削除等を行うことで、各点間の距離が所定の間隔(例えば、1cm間隔)となるようにする処理のことである。
【0044】
Step4:次に、胸幅推定部102は、2値化後の赤外線画像と点群画像とを重ね合わせた重ね合わせ画像を作成し、ピクセル数と距離との関係を計算する。例えば、
図6に示すように、胸幅推定部102は、2値化後の赤外線画像G110と点群画像G200とを重ね合わせて重ね合わせ画像G300を作成し、点間に含まれるピクセル数を計算することで1cmあたりのピクセル数を計算する。
【0045】
Step5:そして、胸幅推定部102は、ピクセル数と距離との関係を用いて、重ね合わせ画像(又は2値化後の赤外線画像)から胸の位置を特定し、胸幅を計算する。例えば、
図6に示すように、胸幅推定部102は、肩の位置から垂直下方向にL(cm)にあるy座標値を胸の位置と特定し、その位置における繁殖雌豚の領域の水平方向の幅(cm)を胸幅として計算する。これらはピクセルと距離との関係から特定及び計算することができる。
【0046】
なお、Lは予め決められた値であり、繁殖雌豚には肩の位置から垂直下方向(つまり、尻尾方向)に向かって所定の距離にある位置(又はその付近)に胸があるという特徴から決定される値である。ただし、これ以外にも、例えば、胸の位置はその付近よりも横幅が少し小さい(言い換えれば、少し凹んでいる)という特徴を利用して、カーブフィッティング(特に、円フィッティング)等の手法により胸の位置を特定してもよい。
【0047】
図5に戻る。ステップS102に続いて、体高推定部103は、当該撮影データに含まれる点群データから体高を推定する(ステップS103)。例えば、
図7に示すように、体高推定部103は、ストールCの高さをH
c、ストールCまでの距離をD
1、撮影対象である繁殖雌豚Pまでの距離をD
2として、H
c-(D
2-D
1)により当該繁殖雌豚Pの体高を計算及び推定する。ここで、H
cは記憶部107に予め記憶された情報であり、例えば、養豚場の管理者や従業者等がストールCの高さを巻尺等の測定機器で測定したものであってもよいし、ストールCのカタログ情報等から取得したものであってもよい。
【0048】
また、D1は点群データに含まれる点のz座標値のうち、最も値が小さいz座標値とすればよい。これは、ストールC内の繁殖雌豚Pを撮影する場合、撮影装置20からストールCまでに障害物等が無いのが通常であるためである。なお、z座標は撮影装置20のカメラ位置を原点であり、撮影方向が正の方向である。
【0049】
また、D2は点群データに含まれる点のうち、x座標値が肩幅の中央の位置、y座標値が肩の位置である点のz座標値とすればよい。肩幅の中央の位置は、胸幅と同様に肩幅を計算した上で、肩の位置において肩幅の中央値を取るx座標値を計算すればよい。なお、D2はx座標値が胸幅の中央の位置、y座標値が胸の位置である点のz座標値であってもよい。
【0050】
図5に戻る。ステップS103に続いて、胸囲推定部104は、上記のステップS102で推定された胸幅と、上記のステップS103で推定された体高と、当該学習用データに含まれる産歴及び交配後日数とを用いて、上記の式(1)により胸囲を推定する(ステップS104)。
【0051】
以上のステップS101~ステップS104は学習用データごとに繰り返し実行される。
【0052】
そして、例えば、学習用データセット中のすべての学習用データに対して胸囲が推定された場合(又は、或る所定の件数の学習用データに対して胸囲が推定された場合)、学習部105は、推定された胸囲と正解の胸囲との誤差とを用いて、上記の式(1)に示す胸囲推定モデルのパラメータ(偏回帰係数)を学習する(ステップS105)。すなわち、学習部105は、推定された胸囲と、この胸囲を推定した際に用いられた学習用データに含まれる正解の胸囲との誤差を最小化するように胸囲推定モデルのパラメータを学習する。なお、上記の誤差を最小化させるための目的関数としては既知のものを用いればよいが、例えば、平均二乗誤差等を用いることが考えられる。
【0053】
<推定処理>
次に、推定フェーズにおいて胸囲を推定すると共に増体推移グラフを表示させる処理について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、本実施形態に係る推定処理の一例を示すフローチャートである。なお、以降では、胸囲推定モデルのパラメータ(偏回帰係数)は、上記のモデル学習処理により学習済みであるものとする。
【0054】
まず、読込部101は、記憶部107に記憶されている撮影データ、産歴及び交配後日数を読み込む(ステップS201)。これらの撮影データ、産歴及び交配後日数は、胸囲の推定対象の繁殖雌豚Pの撮影データ、産歴及び交配後日数である。なお、産歴及び交配後日数の少なくとも一方はユーザMにより入力等されてもよい。
【0055】
以降のステップS202~ステップS204の処理は、
図5のステップS102~ステップS104の処理とそれぞれ同様であるため、その説明を省略する。
【0056】
ステップS204に続いて、表示制御部106は、ステップS204で推定された胸囲とその標準レンジとの推移に関する増体推移グラフを撮影装置20(又は、ユーザMが利用する任意の端末等)に表示させる(ステップS205)。なお、例えば、表示制御部106は、推定装置10が備えるディスプレイ等に増体推移グラフを表示させてもよい。
【0057】
ここで、増体推移グラフの一例を
図9に示す。
図9に示す増体推移グラフは、豚ID「No130」の豚に関する胸囲の推定値と標準レンジとの推移を表している。
図9中において、点P
1~P
7は各胸囲の推定値をグラフ上にプロットしたものであり、ユーザMは、これらの点P
1~P
7と標準レンジとの関係により増体が適切か否かを判定することができる。例えば、点P
1~P
2、P
3~P
6は標準レンジ内に収まっているため、それらの胸囲が推定された時のステージで増体が適切である判定することができる。一方で、例えば、点P
3は標準レンジを超えているため、妊娠期においては太り過ぎであると判定することができる。同様に、例えば、点P
7は標準レンジを下回っているため、分娩期においてはやせ過ぎであると判定することができる。ただし、これらの判定は一例であって、標準レンジを超えている又は下回っていても増体が適切であると判定される場合(例えば、あえて太り過ぎの豚を飼育しているような場合等)もある。
【0058】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係る推定装置10は、繁殖雌豚を対象として、その増体を判定するための胸囲を推定することができる。しかも、本実施形態に係る推定装置10は、体重と胸囲との間に強い相関関係があることに着目し、肥満度及び体重の代わりに、胸囲を推定する。このため、豚の体型的な特徴や繁殖雌豚がストール内に収容されるといった飼育上の特徴を利用して高い精度で胸囲を推定することが可能となり、その結果、増体が高い精度で判定することが可能となる。
【0059】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 推定システム
10 推定装置
20 撮影装置
101 読込部
102 胸幅推定部
103 体高推定部
104 胸囲推定部
105 学習部
106 表示制御部
107 記憶部