(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109750
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】油性ボールペン用インク組成物、インクリフィル及び油性ボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20220721BHJP
B43K 7/08 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005231
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 良介
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KA10
2C350NA10
4J039AD03
4J039AD07
4J039AD09
4J039AD14
4J039AE01
4J039AE02
4J039BA21
4J039BC07
4J039BC13
4J039BC20
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE23
4J039CA07
4J039EA48
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しを抑制させることができる油性ボールペン用インク組成物、インクリフィル及び油性ボールペンを提供すること。
【解決手段】溶剤と、樹脂と、着色剤と、微粒子とを含む油性ボールペン用インク組成物であって、微粒子が600nm以上の平均粒径を有し、25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が1500mPa・s未満である油性ボールペン用インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤と、樹脂と、着色剤と、微粒子とを含む油性ボールペン用インク組成物であって、
前記微粒子が600nm以上の平均粒径を有し、
25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が1500mPa・s未満である、油性ボールペン用インク組成物。
【請求項2】
前記油性ボールペン用インク組成物中の前記微粒子の含有率が0.01質量%以上である、請求項1に記載の油性ボールペン用インク組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油性ボールペン用インク組成物を収容するインクリフィル。
【請求項4】
請求項3に記載のインクリフィルを含む油性ボールペン。
【請求項5】
前記インクリフィルが、ボールと、前記ボールを保持するボールペンチップと、前記ボールペンチップに接続されるインク収容管とを有し、
前記油性ボールペン用インク組成物が前記インク収容管内に収容され、
前記ボールペンチップにおいて、前記インク収容管の長手方向に沿った前記ボールの移動量が5~20μmである、請求項4に記載の油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性ボールペン用インク組成物、インクリフィル及び油性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
油性ボールペンに使用されるインク組成物は一般には、25℃において6000~15000mPa・sの高い粘度を有する。このため、このようなインク組成物を用いた油性ボールペンにおいては書き味が重くなりやすく、紙にインクを転写させるために高い筆圧を必要とする。
【0003】
このため、近年になって、油性ボールペンの使用時において軽い書き味を実現するために、低粘度化されたインク組成物が提案されるようになっている。
【0004】
例えば下記特許文献1には、油性ボールペン用インク組成物として、着色剤、溶剤、及び、1~100nmの一次粒子径を有する無機微粒子を含有し、剪断速度38.30/秒で粘度を100~3000mPa・sとしたボールペン用油性インキ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1に記載された油性ボールペン用インク組成物は、インクリフィルの製造時において以下の課題を有していた。
【0007】
すなわち、インクリフィルの製造時には、インクリフィルに油性ボールペン用インク組成物が充填された状態で、インクリフィル内の空気を抜くためにインクリフィルに対して遠心分離が行われる。しかし、上記特許文献1記載された油性ボールペン用インク組成物は、その遠心分離によりインクリフィルの先端から漏れ出す場合があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しを抑制させることができる油性ボールペン用インク組成物、インクリフィル及び油性ボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題が生じる原因について、油性ボールペン用インク組成物の粘度が低いためではないかと考えた。しかし、本発明者は、油性ボールペン用インク組成物の粘度が低くても上記課題を解決できるようにするべく鋭意研究を重ねた。その結果、インク組成物中に、特定の値以上の平均粒径を有する微粒子を含有させることで、25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が低くても上記課題を解決し得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、溶剤と、樹脂と、着色剤と、微粒子とを含む油性ボールペン用インク組成物であって、前記微粒子が600nm以上の平均粒径を有し、25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が1500mPa・s未満である、油性ボールペン用インク組成物である。
【0011】
本発明の油性ボールペン用インク組成物は、インクリフィルに充填された状態でインクリフィル内の空気を抜くためにインクリフィルに対して遠心分離が行われて過大な加速度が加えられても、インクリフィルからの漏れ出しを抑制させることができる。
【0012】
本発明の油性ボールペン用インク組成物によって上記効果が得られる理由について、本発明者は以下のように推察している。
【0013】
すなわち、微粒子が上記のような平均粒径を有していると、微粒子が大きな体積を有することになる。このため、インク組成物がインクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われたときに、インク組成物の粘度が低くても、インク組成物において、微粒子が、溶剤、樹脂、着色剤の流れに対して抵抗となりやすくなってインクリフィルからインク組成物が漏れ出しにくくなるのではないかと考えられる。こうして、本発明の油性ボールペン用インク組成物によって上記効果が得られるのではないかと本発明者は推察している。
【0014】
上記油性ボールペン用インク組成物においては、前記油性ボールペン用インク組成物中の前記微粒子の含有率が0.01質量%以上であることが好ましい。
【0015】
この油性ボールペン用インク組成物は、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しを効果的に抑制させることができる。
【0016】
また、本発明は、上述した油性ボールペン用インク組成物を収容するインクリフィルである。
【0017】
このインクリフィルは、遠心分離が行われても、油性ボールペン用インク組成物の漏れ出しを抑制することができる。このため、本発明のインクリフィルは、インク組成物の充填量の減少を抑制することができる。また、本発明のインクリフィルは、インク組成物の漏れ出しを抑制することができるため、廃棄するインクリフィルの割合を減らすことができ、あるいはインク組成物の拭取り作業を減らすことができる。
【0018】
また、本発明は、上述したインクリフィルを含む油性ボールペンである。
【0019】
この油性ボールペンは、上述した油性ボールペン用インク組成物を含むインクリフィルを有し、上述したインクリフィルは、遠心分離が行われても、インクリフィルからの油性ボールペン用インク組成物の漏れ出しを抑制することができ、インク組成物の充填量の減少を抑制することができる。このため、本発明の油性ボールペンは、インク組成物を十分に含むことが可能となる。また、本発明の油性ボールペンによれば、インク組成物の漏れ出しが十分に抑制されている。このため、廃棄する油性ボールペンの割合を減らすことができ、あるいはインク組成物の拭取り作業を減らすことができる。
【0020】
上記油性ボールペンは、前記インクリフィルが、ボールと、前記ボールを保持するボールペンチップと、前記ボールペンチップに接続されるインク収容管とを有し、前記油性ボールペン用インク組成物が前記インク収容管内に収容され、前記ボールペンチップにおいて、前記インク収容管の長手方向に沿った前記ボールの移動量が5~20μmであることが好ましい。
【0021】
この場合、ボールの移動量が5μm未満である場合に比べて、インク組成物を油性ボールペンから容易に吐出させることができる。また、ボールの移動量が上記範囲にあると、20μmを超える場合に比べて、インク組成物が油性ボールペンから過剰に吐出されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しを抑制させることができる油性ボールペン用インク組成物、インクリフィル及び油性ボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
<油性ボールペン用インク組成物>
本発明の油性ボールペン用インク組成物(以下、単に「インク組成物」と呼ぶことがある)は、溶剤と、樹脂と、着色剤と、微粒子とを含む。ここで、微粒子は600nm以上の平均粒径を有し、インク組成物中の25℃、剪断速度7.5/秒における粘度は1500mPa・s未満である。
【0025】
本発明のインク組成物は、インクリフィルに充填された状態で、インクリフィル内の空気を抜くためにインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しを抑制させることができる。
【0026】
以下、上記インク組成物について詳細に説明する。
【0027】
(A)溶剤
溶剤は、有機溶剤を含む。
【0028】
有機溶剤としては、例えば、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エトキシトリグリコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、などのエーテル類;オクタノールなどの炭素数8以上の脂肪族系アルコールが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。有機溶剤は、インク組成物が染料を含む場合、染料の溶解性の観点から、分子内に芳香環を含むことが好ましい。また、有機溶剤は、さらに3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含むことが好ましい。有機溶剤が3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールをさらに含むと、インク組成物が、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しをより抑制させることができる。
【0029】
インク組成物中の溶剤の含有率は、特に制限されるものではないが、30~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。この場合、インク組成物中の溶剤の含有率が30質量%未満である場合に比べて、インク組成物の粘度がより低下するため、油性ボールペンの使用時において、より軽い書き味を実現させることが可能となる。また、インク組成物中の樹脂の含有率は、15質量%以下であることが好ましい。この場合、インク組成物中の樹脂の含有率が15質量%を超える場合に比べて、インク組成物の粘度が高くなりすぎるのを抑制できるため、油性ボールペンの使用時において、より軽い書き味を実現させることが可能となる。
【0030】
(B)樹脂
樹脂は、溶剤に可溶な樹脂であり、インク組成物の粘度調整剤として用いられる。このような樹脂としては、例えばマレイン樹脂、ケトン樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂、フェノール樹脂、アミド樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ブチラール樹脂などが挙げられる。
【0031】
なお、マレイン樹脂は、マレイン酸又は無水マレイン酸に由来する構成単位を含有する樹脂であり、単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0032】
ケトン樹脂は、ケトン基を有する樹脂である。
【0033】
インク組成物中の樹脂の含有率は特に制限されるものではないが、通常は20質量%以下である。また、インク組成物中の樹脂の含有率は、15質量%以下であることが好ましい。この場合、インク組成物中の樹脂の含有率が15質量%を超える場合に比べて、インク組成物の粘度が増加しすぎることを抑制できるため、油性ボールペンの使用時において、より軽い書き味を実現させることが可能となる。
【0034】
(C)着色剤
着色剤は、顔料及び染料の少なくとも一方を含む。
【0035】
(顔料)
顔料は、有機溶剤中に分散され得るものであれば特に制限されるものではなく、顔料としては、有機顔料及び無機顔料が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
有機顔料としては、例えば不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、キナクドリン顔料、ジケトピロロピロール系顔料などが挙げられる。
【0037】
無機顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、金属粉などが挙げられる。
【0038】
着色剤中の顔料の含有率は特に制限されず、希望する色の状態に応じて適宜決定すればよい。
【0039】
(染料)
染料は、溶剤中に溶解され得るものであれば特に制限されるものではなく、染料としては、例えばSPIRIT BLACK 61F、VALIFAST VIOLET 1701、VALIFAST VIOLET 1704、VALIFAST YELLOW1109、VALIFAST YELLOW 1151、VALIFAST YELLOW 1171、OIL YELLOW 107、VALIFAST BLUE 1605、VALIFAST BLUE 1621、VALIFAST BLUE 1623、VALIFAST BLUE 2620、OIL BLUE 613、VALIFAST RED 1308、VALIFAST RED 1320、VALIFAST RED 1364、VALIFAST RED 2320、VALIFAST BLACK 3830、VALIFAST BLACK 3870(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、Aizen Spilon BLACK GHMSpecial、Aizen Spilon VIOLET C-RH、Aizen Spilon YELLOW C-GH new、Aizen Spilon BLUE C-RH、Aizen Spilon S.P.T.BLUE -111、Aizen Spilon S.P.T.BLUE -121(以上、保土谷化学工業株式会社製)などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
着色剤中の染料の含有率は特に制限されず、希望する色の状態に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
(D)微粒子
微粒子としては、有機物粒子及び無機物粒子が挙げられる。有機物粒子を構成する有機物としては、樹脂などが挙げられる。樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、シリコーン系樹脂などが挙げられる。中でも、スチレンアクリル系樹脂が好ましい。この場合、微粒子が有機溶剤中に均一に分散されやすくなる。
【0042】
無機物粒子を構成する無機物としては、シリカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化アルミニウムなどの無機酸化物などが挙げられる。
【0043】
微粒子は、中実状でも中空状であってもよい。
【0044】
微粒子の形状は、球状であっても非球状であってもよい。
【0045】
微粒子は、600nm以上の平均粒径を有する。ここで、「平均粒径」は、体積基準でレーザー回折式粒度分布測定法によって測定することができる。
【0046】
微粒子の平均粒径は、インク組成物の漏れ出しを抑制する観点からは、700nm以上であることが好ましい。微粒子の平均粒径は、1000nmより大きくてもよい。
【0047】
インク組成物中の微粒子の含有率は特に制限されるものではないが、0.01質量%以上であることが好ましい。この場合、インク組成物は、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しを効果的に抑制させることができる。
【0048】
インク組成物中の微粒子の含有率は0.1質量%以上であることが好ましい。この場合、インク組成物中の微粒子の含有率が0.1質量%未満である場合に比べて、インク組成物が、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しをより効果的に抑制させることができる。
【0049】
また、インク組成物中の微粒子の含有率は、インク組成物中で微粒子を安定して分散させる観点からは、3質量%以下であることが好ましい。
【0050】
インク組成物中の微粒子の含有率は1質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
(E)その他の成分
インク組成物は、上記(A)~(D)のほか、インク組成物の特性を損なわない範囲で、必要に応じ、分散剤、曳糸性付与剤、潤滑剤、渋り防止剤、防錆剤などの公知の添加剤を必要に応じて含んでもよい。
【0052】
(F)インク組成物の粘度
インク組成物の25℃、剪断速度7.5/秒における粘度は1500mPa・s未満である。
【0053】
この場合、インク組成物の粘度が低いため、油性ボールペンの使用時において、軽い書き味を実現することができる。
【0054】
インク組成物の粘度は、1200mPa・s未満であることがより好ましい。この場合、インク組成物の粘度がより低くなり、油性ボールペンの使用時において、より軽い書き味を実現することができる。但し、インク組成物の粘度は、50mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましく、500mPa・s以上であることが特に好ましい。
【0055】
<インクリフィル>
次に、本発明のインクリフィルについて説明する。
本発明のインクリフィルは、上述した油性ボールペン用インク組成物を収容するインクリフィルである。
【0056】
インクリフィルは、ボールと、ボールを保持するボールペンチップと、ボールペンチップに接続されるインク収容管とを有している。そして、上述した油性ボールペン用インク組成物は、インク収容管内に収容されている。
【0057】
このインクリフィルによれば、遠心分離が行われても、インクリフィルのボールチップからの油性ボールペン用インク組成物の漏れ出しを抑制することができる。このため、本発明のインクリフィルは、インク組成物の充填量の減少を抑制することができる。また、本発明のインクリフィルは、インク組成物の漏れ出しを抑制することができるため、廃棄するインクリフィルの割合を減らすことができ、あるいはインク組成物の拭取り作業を減らすことができる。
【0058】
<油性ボールペン>
次に、本発明の油性ボールペンについて説明する。
本発明の油性ボールペンは、上述したインクリフィルと、インクリフィルを収容する外装体とを備えている。
【0059】
この油性ボールペンは、上述した油性ボールペン用インク組成物を収容するインクリフィルを有し、上述したインクリフィルは、遠心分離が行われても、インク組成物の漏れ出しを抑制することができ、インク組成物の充填量の減少を抑制することができる。このため、本発明の油性ボールペンは、インク組成物を十分に含むことが可能となる。また、本発明の油性ボールペンによれば、インク組成物の漏れ出しが十分に抑制されている。このため、廃棄する油性ボールペンの割合を減らすことができ、あるいはインク組成物の拭取り作業を減らすことができる。
【0060】
上記油性ボールペンにおいては、ボールペンチップにおいて、インク収容管の長手方向に沿ったボールの移動量(可動範囲)は、5~20μmであることが好ましく、7~17μmであることがより好ましく、10~15μmであることが特に好ましい。
【0061】
この場合、ボールの移動量が5μm未満である場合に比べて、インク組成物を油性ボールペンから容易に吐出させることができる。また、ボールの移動量が上記範囲にあると、20μmを超える場合に比べて、インク組成物が油性ボールペンから過剰に吐出されることを抑制することができる。
【実施例0062】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例又は比較例で用いられる有機溶剤、樹脂、着色剤、微粒子、潤滑剤、曳糸性付与剤及び渋り防止剤としては、具体的に以下のものを使用した。
【0064】
<有機溶剤>
・ベンジルアルコール
・エチレングリコールモノフェニルエーテル
・3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール
・プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0065】
<樹脂>
・ケトン樹脂(商品名「TEGO(登録商標)VariPlus AP」、エボニック インダストリーズ株式会社製)
・マレイン樹脂(商品名「マルキードNo33」、荒川化学工業株式会社製)
・テルペンフェノール樹脂(商品名「YS ポリスター K125」、ヤスハラケミカル株式会社製)
【0066】
<着色剤>
(染料)
・VALIFAST RED 1308(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
・OIL YELLOW 107(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
(顔料)
・有機顔料(Pigment Red 254)
【0067】
<微粒子>
・スチレン系樹脂粒子1(商品名「グロスデールTM240V」、三井化学株式会社製、平均粒径500nm、非球状(赤血球型)、固形分43質量%)
・スチレン系樹脂粒子2(商品名「グロスデールTM207S」、三井化学株式会社製、平均粒径700nm、球状、固形分52質量%)
・スチレンアクリル系樹脂粒子1(商品名「ニッポールMH-8055」、日本ゼオン株式会社社製、平均粒径800nm、中空状、固形分30質量%)
・スチレンアクリル系樹脂粒子2(商品名「ニッポールMH-8109」、日本ゼオン株式会社製、平均粒径1000nm、中空状、固形分27質量%)
・シリカ微粒子1(商品名「シーホスターKE-P100」、株式会社日本触媒製、平均粒径1000nm、球状、固形分100質量%)
・シリカ微粒子2(商品名「シーホスターKE-P150」、株式会社日本触媒製、平均粒径1500nm、球状、固形分100質量%)
・シリカ微粒子3(商品名「シーホスターKE-P250」、株式会社日本触媒製、平均粒径2500nm、球状、固形分100質量%)
【0068】
<潤滑剤>
リン酸エステル(商品名「プライサーフA207H」、第一工業製薬株式会社製)
【0069】
<曳糸性付与剤>
・ポリビニルピロリドン(商品名「PVP K-90」、株式会社日本触媒製)
・ブチラール樹脂
【0070】
<渋り防止剤>
・変性ひまし油脂肪酸エステル(商品名「リックサイザーGR301」、伊藤製油株式会社製)
【0071】
(実施例1~11及び比較例1~3)
往復回転式撹拌機アジター(株式会社島崎エンジニアリング製)を周波数50Hzで用いて、有機溶剤、樹脂、着色剤、微粒子、潤滑剤、曳糸性付与剤及び渋り防止剤を表1~3に示す含有率で混合し、60℃で5時間加熱しながらインク組成物を得た。
【0072】
そして、得られたインク組成物について、25℃、剪断速度7.5/秒の条件において、デジタル粘度計(製品名「DV-2+PRO」、ブルックフィールド社製)を用いて粘度を測定した。結果を表1~3に示す。
【0073】
<インク組成物の漏れ出し抑制効果>
実施例1~11及び比較例1~3で得られたインク組成物について、以下のようにしてインクリフィルに充填した状態でインクリフィルに対して遠心分離を行った場合におけるインク組成物の漏れ出し抑制効果を評価した。
【0074】
すなわち、インクリフィルは、ボールと、ボールを保持するボールペンチップと、ボールペンチップに接続されるインク収容管とを有している。ここで、ボールはステンレスで構成され、ボール径は0.7mmである。そして、実施例1~11及び比較例1~3で得られたインク組成物をインクリフィルのインク収容管に充填した。こうして、各実施例又は比較例ごとにインクリフィルを50本ずつ用意した。このとき、インクリフィルにおいて、インク収容管の長手方向に沿ったボールの移動量(可動範囲)は12μmであった。
【0075】
次に、上記インクリフィルのペン先にキャップを被せ、遠心分離装置(SEJONG MACHINE社製)に固定し、550G(5390m/s2)の加速度で20分間にわたって遠心分離操作を行い、チップ先端からインク組成物が漏れ出たインクリフィルの本数を計測した。このとき、キャップ内にインクが付着した状態をもって、インク組成物が漏れ出たと判定した。そして、チップからインク組成物が漏れ出たインクリフィルの本数と下記式とに基づいて、インク組成物の漏れ出し率を算出した。
インク組成物の漏れ出し率(%)
=100×チップからインク組成物が漏れ出たインクリフィルの本数/遠心分離操作が行われたインクリフィルの本数
【0076】
そして、以下の基準に基づいて、油性ボールペンにおけるインク組成物の漏れ出し抑制効果を評価した。結果を表1~3に示す。
〇・・・インク組成物の漏れ出し率が30%以下
×・・・インク組成物の漏れ出し率が30%より大きい
【表1】
【表2】
【表3】
【0077】
表1~3に示す結果より、実施例1~11のインク組成物はいずれも、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われた場合における漏れ出し率が小さく、インク組成物の漏れ出し抑制効果については「〇」であった。一方、比較例1~3のインク組成物は、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われた場合における漏れ出し率が大きく、インク組成物の漏れ出し抑制効果については「×」であった。
【0078】
以上のことから、本発明の油性ボールペン用インク組成物は、インクリフィルに充填された状態でインクリフィルに対して遠心分離が行われても、インクリフィルからの漏れ出しを抑制させることができることが確認された。