(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109771
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】噴霧シミュレーション装置、噴霧シミュレーション方法、及び、噴霧シミュレーション用プログラム
(51)【国際特許分類】
F02M 65/00 20060101AFI20220721BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20220721BHJP
【FI】
F02M65/00 306Z
B05B12/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005271
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】川那辺 洋
(72)【発明者】
【氏名】林 潤
【テーマコード(参考)】
4F035
【Fターム(参考)】
4F035AA04
4F035BB21
(57)【要約】
【課題】ノズル出口近傍に生じる微細な液滴の存在を予測することにより噴霧シミュレーションの精度を向上する。
【解決手段】液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション装置100であって、ノズルのノズル出口における液体の速度勾配を取得する速度勾配取得部2と、液体の密度及び液体の表面張力を取得する物性値取得部3と、速度勾配と液体の密度及び表面張力とに基づいて、ノズル出口から噴霧される液滴の粒径を算出する液滴粒径算出部4と、算出された液滴の粒径に基づいて、ノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション部5とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション装置であって、
前記ノズルのノズル出口における前記液体の速度勾配を取得する速度勾配取得部と、
前記液体の密度及び前記液体の表面張力を取得する物性値取得部と、
前記速度勾配と前記液体の密度及び表面張力とに基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出する液滴粒径算出部と、
算出された液滴の粒径に基づいて、前記ノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション部とを備える、噴霧シミュレーション装置。
【請求項2】
前記液滴粒径算出部は、以下の式に基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出する、請求項1に記載の噴霧シミュレーション装置。
ここで、dは液滴の粒径であり、β
vは速度分布であり、ρは液体の密度であり、γは液体の表面張力である。なお、αは定数である。
【請求項3】
前記ノズル出口における前記液体のWeber数が28.8以上である、請求項2に記載の噴霧シミュレーション装置。
【請求項4】
液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション方法であって、
前記ノズルのノズル出口における前記液体の速度勾配を取得し、
前記液体の密度及び前記液体の表面張力を取得し、
前記速度勾配データと前記液体の密度及び表面張力とに基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出し、
算出された液滴の粒径に基づいて、前記ノズルの噴霧シミュレーションを行う、噴霧シミュレーション方法。
【請求項5】
液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション用プログラムであって、
前記ノズルのノズル出口における前記液体の速度勾配を取得する速度勾配取得部と、
前記液体の密度及び前記液体の表面張力を取得する物性値取得部と、
前記速度勾配データと前記液体の密度及び表面張力とに基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出する液滴粒径算出部と、
算出された液滴の粒径に基づいて、前記ノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション部と、としての機能をコンピュータに備えさせる、噴霧シミュレーション用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧シミュレーション装置、噴霧シミュレーション方法、及び、噴霧シミュレーション用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の噴霧シミュレーションでは、液体がノズルから噴出した後に、周辺流体との速度せん断に基づく不安定によって液滴に分裂するとして取り扱うもの、又は、ノズル内部流における乱流特性によって決まるとして取り扱うもの等が提案されている。
【0003】
ところが、上記の手法では、可視化実験などで観察されるようなノズル出口近傍に生じる微細な液滴の存在を予測できない。このため、これらの液滴については無視するか、又は、経験的に与えられる場合が多い。また、これらの微細な液滴の存在は、例えばエンジンにおける燃料噴霧であれば、その後の蒸発及び混合気形成過程に大きく影響を与えることが考えられる。
【0004】
ここで、特許文献1に示すように、ノズル部の噴孔から噴射される燃料の初期平均粒径を算出し、算出した初期平均粒径を用いて噴孔から噴射される燃料の粒度分布関数を作成するものが考えられている。
【0005】
しかしながら、初期平均粒径を用いて粒度分布関数を作成するものであっても、ノズル出口近傍に生じる微細な液滴の存在を正確に予測することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ノズル出口近傍に生じる微細な液滴の存在を予測することにより噴霧シミュレーションの精度を向上することをその主たる課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ノズル出口近傍における液滴生成過程(いわゆる一次分裂過程)を新たなモデルにより記述することにより、噴霧シミュレーションの精度の大幅向上を図ることを目的としている。すなわち、本発明は、ノズル内部における流体の運動エネルギーの一部が液滴の表面自由エネルギーに転換するという考え方に基づき、初期液滴径を与える方法を提案するものである。ここでは、速度勾配を持つ液体流れが自由空間に放出された際に、瞬間的に液滴を形成すると仮定する。このとき、一般に質量及び運動量が保存すれば、運動エネルギーが小さくなる。そこで、本発明では、この失った運動エネルギーが形成された液滴の表面自由エネルギーになると考えてその液滴直径を求める。
【0009】
すなわち、本発明に係る噴霧シミュレーション装置は、液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション装置であって、前記ノズルのノズル出口における前記液体の速度勾配を取得する速度勾配取得部と、前記液体の密度及び前記液体の表面張力を取得する物性値取得部と、前記速度勾配と前記液体の密度及び表面張力とに基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出する液滴粒径算出部と、算出された液滴の粒径に基づいて、前記ノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション部とを備えることを特徴とする。
【0010】
この噴霧シミュレーション装置によれば、速度勾配と液体の密度及び表面張力とに基づいて、ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出し、当該液滴の粒径に基づいて、ノズルの噴霧シミュレーションを行うので、ノズル出口近傍に生じる微細な液滴の存在を予測することができ、噴霧シミュレーションの精度を向上することができる。
【0011】
前記液滴粒径算出部の具体的な実施の態様としては、以下の式に基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出することが考えられる。
ここで、dは液滴の粒径であり、β
vは速度分布であり、ρは液体の密度であり、γは液体の表面張力である。なお、αは定数である。また、上記式を用いる場合には、前記ノズル出口における前記液体のWeber数が28.8以上であることが望ましい。
【0012】
また、本発明に係る噴霧シミュレーション方法は、液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション方法であって、前記ノズルのノズル出口における前記液体の速度勾配を取得し、前記液体の密度及び前記液体の表面張力を取得し、前記速度勾配と前記液体の密度及び表面張力とに基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出し、算出された液滴の粒径に基づいて、前記ノズルの噴霧シミュレーションを行うことを特徴とする。
【0013】
さらに本発明に係る噴霧シミュレーション用プログラムは、液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション用プログラムであって、前記ノズルのノズル出口における前記液体の速度勾配を取得する速度勾配取得部と、前記液体の密度及び前記液体の表面張力を取得する物性値取得部と、前記速度勾配と前記液体の密度及び表面張力とに基づいて、前記ノズル出口から噴射される液滴の粒径を算出する液滴粒径算出部と、算出された液滴の粒径に基づいて、前記ノズルの噴霧シミュレーションを行う噴霧シミュレーション部と、としての機能をコンピュータに備えさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このように構成した本発明によれば、ノズル出口近傍に生じる微細な液滴の存在を予測することにより噴霧シミュレーションの精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る噴霧シミュレーション装置の機器構成図である。
【
図2】同実施形態の噴霧シミュレーション装置の機能ブロック図である。
【
図4】同実施形態の速度勾配β
vと液滴の粒径dとの関係を示すグラフである。
【
図5】同実施形態の燃料の燃焼シミュレーションのフローチャートである。
【
図6】(a)ノズル流計算に用いる格子を示す図、(b)ノズル出口における速度分布、及び、(c)ノズル出口における乱れ強度分布を示す図である。
【
図7】噴霧上流部における発達過程の(a)本モデルのシミュレーション結果、(b)可視化画像、(c)従来モデルのシミュレーション結果である。
【
図8】(a)可視化領域の概略図、(b)ディーゼル噴霧燃焼過程の本モデルのシミュレーション結果、(c)従来モデルのシミュレーション結果、(d)直接撮影画像、及び、(e)OH
*自発光の撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、
図1は本実施形態の噴霧シミュレーション装置100の機器構成図であり、
図2は噴霧シミュレーション装置100の機能ブロック図である。
【0017】
<装置構成>
本実施形態に係る噴霧シミュレーション装置100は、液体を噴霧するノズルの噴霧シミュレーションを行うものである。例えばこの噴霧シミュレーション装置100により、ディーゼルエンジンに設けられる燃料噴射装置のノズルの噴霧シミュレーションを行うことができる。また、噴霧シミュレーション装置100は、例えば20MPa以上2500MPa以下の圧力で例えば0.1mm程度の噴孔を有するノズルから噴射される液滴の噴霧をシミュレーションすることができる。
【0018】
具体的に噴霧シミュレーション装置100は、
図1に示すように、CPU101に加えて揮発メモリやHDD等の記憶装置102を備え、さらにマウスやキーボード等の入力手段103、演算結果を出力するためのディスプレイやプリンタ等からなる出力手段105を接続するための入出力インターフェイス104等を有した汎用又は専用のコンピュータである。
【0019】
そして、所定のプログラムを記憶装置102にインストールし、そのプログラムに基づいてCPU101や周辺機器を協働させることにより、この噴霧シミュレーション装置100は、
図2の機能ブロック図に示すように、速度勾配取得部2、物性値取得部3、液滴粒径算出部4、噴霧シミュレーション部5、燃焼シミュレーション部6等としての機能を発揮する。
【0020】
以下、各部2~6について説明する。
速度勾配取得部2は、ノズル出口(噴孔)の各位置における液体の速度勾配を示す速度勾配データを取得するものである。ここで、速度勾配取得部2は、ノズルの形状に基づいてノズル内部における流体の流動を数値シミュレーションすることにより、ノズル出口における液体の速度勾配データを取得することが考えられる。その他、速度勾配取得部2は、外部のコンピュータ(例えば別のシミュレーション装置)又は別のアプリケーションソフトの数値シミュレーションにより得られた速度勾配データを取得するようにしてもよい。
【0021】
物性値取得部3は、ノズルに供給される液体の密度を示す密度データ及び表面張力を示す表面張力データを取得するものであり、ここでは、ユーザが入力手段103を用いて入力することが考えられる。その他、例えば燃料等の液体の種類毎に、それらの密度データ及び表面張力データをデータ格納部7に格納しておき、ユーザが液体の種類の選択指令を入力することにより、物性値取得部3がデータ格納部7から選択された液体の密度データ及び表面張力データを取得するように構成してもよい。
【0022】
液滴粒径算出部4は、速度勾配取得部2により取得された速度勾配データと物性値取得部3により取得された液体の密度データ及び表面張力データとに基づいて、ノズル出口から噴射される液滴の粒径を示す粒径データを算出するものである。
【0023】
具体的に液滴粒径算出部4は、以下の式1に基づいて、ノズル出口から噴射される各位置の液滴の粒径データ、つまり、ノズル出口における液滴の粒径分布データを算出する。なお、以下の式の根拠は後述する。
ここで、dは液滴の粒径であり、β
vは速度勾配であり、ρは液体の密度であり、γは液体の表面張力である。なお、α(0<α≦1)は定数である。
【0024】
噴霧シミュレーション部5は、液滴粒径算出部4により算出された液滴の粒径データに基づいて、ノズルの噴霧シミュレーションを行うものである。この噴霧シミュレーションは、例えばRayleigh-Taylor不安定に基づく分裂機構などの既存のシミュレーション手法を用いることができる。また、噴霧シミュレーション部5により得られたノズルの噴霧シミュレーション結果は、ディスプレイ105に表示される。
【0025】
燃焼シミュレーション部6は、噴霧シミュレーション部5により得られた噴霧シミュレーション結果を用いて、燃料の燃焼シミュレーションを行うものである。この燃焼シミュレーションは、例えば渦消散燃焼モデルや特性時間燃焼モデルなどの既存のシミュレーション手法を用いることができる。また、燃焼シミュレーション部6により得られた燃料の燃焼シミュレーション結果は、ディスプレイ105に表示される。
【0026】
<液滴粒径算出部4による液滴粒径の算出式について>
ここでは、速度勾配を持つ液体が自然空間に放出された際に、瞬間的に液滴を形成すると仮定する。このとき、一般に質量及び運動量が保存すれば、運動エネルギーが小さくなる。そこで、この失った運動エネルギーのα(0<α≦1)が、形成された液滴の表面エネルギーになると考えてその液滴直径を求める。
【0027】
図3に示すように、底面がd×dの液体の正方領域が、x方向にβ
v(=dv/dx)の速度勾配を伴って、速度v
Lで上方に移動しており、これが自由空間に放出された際に直径dの液滴となって速度v
Dで飛行すると考える。この際、Δtにおいて放出される液体の体積V
Lと液滴体積V
Dは一致するので、
V
L=V
Dより、
【0028】
一方、運動量も保存すると考えると、噴射される液体の運動量M
Lは、
液滴の運動量M
Dは、
M
L=M
Dであるから、
すなわち、液滴の飛行速度v
Dは液体の流出速度v
Lよりもやや小さくなることがわかる。
【0029】
これら液体の運動エネルギーと液滴の運動エネルギーとの差を求める。まず、液体の運動エネルギーE
Lは、
液滴の運動エネルギーE
Dは、
これらの差を求めると、
一般にこの右辺第1項に比べて第2項は十分に小さいと考えられるので、
この失われた運動エネルギーのうちα分が表面自由エネルギーになる。
【0030】
まず液滴の表面自由エネルギーW
Sは、液体の表面張力γを用いて、
すなわち
となり、流体の密度ρ、表面張力γが物性値として決まると、速度勾配β
vに対して、液滴直径dが一意に求まる。
【0031】
これら流体の物性値にn-Hexadecane(密度ρ=0.77g/mL、表面張力γ=27.6mN/m)の値を用いるとともに、αを1として、速度勾配β
vに対する液滴粒径dを求めた結果は
図4であり、速度勾配β
vが大きいほど液滴直径dは小さくなる。また、ノズル出口の速度勾配β
vを考慮すると、液滴直径dはおおよそ1μm~数十μm程度であることがわかる。なお、
図4において、縦軸が液滴粒径であり、横軸が速度勾配である。
【0032】
ここで、本モデルの適用範囲について、求まる液滴直径dがノズル直径d
0以下の時に有効であると考える。生じる液滴直径dがd
0に等しい場合の臨界速度勾配をβ
vcとすると、
となる。ここで、代表速度をノズル出口流速u
0、代表長さをノズル直径d
0とするとβ
vc=u
0/d
0となり、これを上式に代入すると、ノズル出口におけるこの流体のWeber数We
0は以下のように表すことができる。
すなわち、ノズル出口における液体のWeber数が28.8以上の場合に本モデルは有効であると考えられる。
【0033】
<噴霧シミュレーション装置を用いた燃料の燃焼シミュレーションの手順>
次に、本実施形態の噴霧シミュレーション装置100を用いた燃料の燃焼シミュレーションの手順について、
図5を参照して簡単に説明する。
【0034】
まず、速度勾配取得部2が、ノズルの形状に基づいてノズル内部流動の数値シミュレーションを実施することにより、ノズル出口における速度勾配データを取得する(ステップS1)。また、物性値取得部3が、燃料の密度データ及び表面張力データを取得する(ステップS2)。なお、ステップ1とステップ2とはどちらが先であってもよい。
【0035】
次に、液滴粒径算出部4は、取得された速度勾配データと燃料の密度データ及び表面張力データとから、上記の(式1)に基づいて、ノズル出口から噴射される液滴の粒径データを算出する(ステップS3)。
【0036】
そして、噴霧シミュレーション部5が、液滴の粒径データに基づいて、ノズルの噴霧シミュレーションを行い(ステップS4)、燃焼シミュレーション部6が、噴霧シミュレーション結果を用いて、燃料の燃焼シミュレーションを行う(ステップS5)。
【0037】
<噴霧形成及びディーゼル燃焼過程への適用例>
上記のモデルを実際のディーゼル噴霧条件に適用してシミュレーションを実施し、同条件の可視化結果と比較した。
まず、実験については常温中に置かれた容器中にインジェクションノズルよりノズル径0.123mm、噴射圧力200MPaで噴射された軽油の噴霧発達過程を高速度で可視化した。容器中は実際のディーゼルエンジンに近い密度とするために二酸化炭素を1MPaで封入した。
【0038】
噴霧発達過程のシミュレーションを実施する前に、本モデルを用いるためにはノズル出口における速度勾配が必要となる。そこで、本インジェクションノズルの形状に基づきノズル内部流動の数値シミュレーションを実施する。
図6(a)は、ノズル流計算に用いた格子であり、7噴孔のインジェクタの1噴孔についてセクターモデルで計算する。
図6(b)は、噴射開始より140μs後におけるインジェクションノズルにおける速度分布であり、
図6(c)は、その時の乱れ強度分布である。初期液滴径は、速度分布から求まる速度勾配を用いて、
図4の結果に基づき求める。
【0039】
図7(a)は、本モデルを用いて計算した結果の一例であり、インジェクションノズルより燃料は液滴として噴射されるとともに、噴霧周辺部ではノズル内部の速度勾配が大きいために比較的小さな液滴が分布していることが分かる。これは実験により観察される様子(
図7(b)参照)に類似しており、噴霧角が実験結果に比べてやや小さいものの、周辺には小さな液滴が分布する様子などが再現できることが分かる。
【0040】
一方、従来モデルにより計算された結果を
図7(c)に示しているが、この場合はノズル出口直後では比較的大きな液滴だけが与えられている。このような噴霧境界における小さな液滴の存在は、その後の燃料過程に大きな影響を与えると考えられる。なお、従来モデルは、インジェクションノズルからノズル径と同じサイズの液滴を射出し、その後、いわゆるKelvin-Helmholtz不安定及びRayleigh-Taylor不安定により小液滴に分裂するものとして取り扱って計算を実施したものである。
【0041】
次に、本モデルを用いてディーゼル燃焼について計算した結果を、可視化画像を比較した。ここで、可視化に用いたのは急速圧縮膨張装置を用いてヘッド側より噴霧3本分について可視化したものであり、
図8(a)に示すような領域について高速度カラーカメラにより直接撮影したものと、燃焼による高温部に対応するOH
*の自然光を撮影した。なお、噴霧角度は30°の場合について検討した。
【0042】
図8(b)に本モデルを用いて計算した結果、
図8(c)に従来モデルを用いて計算した結果を示している。また、
図8(d)は、高速度カラーカメラにより直接撮影した画像であり、
図8(e)は、OH
*の自然光を撮影した画像である。これによると、本モデルを用いて計算した場合(
図8(b))には、インジェクションノズルから噴霧外縁部に生じた高温部の最も上流となる位置までの距離、いわゆる“リフトオフ長さ”が実験に近い値として計算されていることが分かる。これは、従来モデルを用いて計算した場合(
図8(c))では、十分に予測できなかった。
【0043】
<本実施形態の効果>
このように構成した噴霧シミュレーション装置100によれば、速度勾配データと液体の密度データ及び表面張力データとに基づいて、ノズル出口から噴射される液滴の粒径データを算出し、当該液滴の粒径データに基づいて、ノズルの噴霧シミュレーションを行うので、ノズル出口近傍に生じる微細な液滴の存在を予測することができ、噴霧シミュレーションの精度を向上することができる。
【0044】
<本発明の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0045】
例えば、前記実施形態では燃焼シミュレーションも併せて行う構成であったが、燃焼シミュレーションを行うことなく噴霧シミュレーションまでを行うものであってもよい。
【0046】
また、本発明の噴霧シミュレーション装置は、ディーゼルエンジンに設けられる燃料噴射装置のノズルの噴霧シミュレーションを行う他に、種々のノズルから噴射される噴霧をシミュレーションすることができる。
【0047】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
100・・・噴霧シミュレーション装置
2 ・・・速度勾配取得部
3 ・・・物性値取得部
4 ・・・液滴粒径算出部
5 ・・・噴霧シミュレーション部