(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109797
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】漬物用の容器
(51)【国際特許分類】
A23B 7/10 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
A23B7/10 D
A23B7/10 Z
A23B7/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005328
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】521022299
【氏名又は名称】有限会社ソーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100146732
【弁理士】
【氏名又は名称】横島 重信
(72)【発明者】
【氏名】関 廣志
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169DC02
4B169DC10
(57)【要約】
【課題】各種の食材の漬物を製造しようとする際や、その後に漬物を保存する際に、実質的に漬け込まれる食材に荷重を付与しない一方で、食材を容易に漬け汁の中に保持することが可能な漬物用容器を提供すること。
【解決手段】被漬物を収納するための桶部と、当該桶部の上部に取り付け可能な蓋部を有する漬物用容器であって、当該桶部内には体積が可変の容積体であって、当該容積体の内部と容積体の外部を連通可能とする連通路を有する容積体が設けられており、当該容積体は、当該連通路に設けられた遮蔽手段を開いて連通路を連通させることで体積が変更できると共に、当該遮蔽手段を閉じることによって連通を遮断可能であることを特徴とする漬物用容器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被漬物を収納するための桶部と、当該桶部の上部に取り付け可能な蓋部を有する漬物用容器であって、
当該桶部内には体積が可変の容積体であって、当該容積体の内部と容積体の外部を連通可能とする連通路を有する容積体が設けられており、
当該容積体は、当該連通路に設けられた遮蔽手段を開いて連通路を連通させることで体積が変更できると共に、当該遮蔽手段を閉じることによって連通を遮断可能であることを特徴とする漬物用容器。
【請求項2】
上記容積体は、上記桶部内において上記遮蔽手段を開いて連通路を連通させた際に気体を吸引し、体積を増加可能であることを特徴とする請求項1に記載の漬物用容器。
【請求項3】
上記容積体は、上記桶部内に漬け汁が存在する状態で上記遮蔽手段を開いて連通路を連通させた際に、上記容積体の体積が増加して当該容積体の少なくとも一部が漬け汁に侵入可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の漬物用容器。
【請求項4】
上記容積体に設けられた連通路は、当該容積体の内部と漬物用容器の外部とを連通していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の漬物用容器。
【請求項5】
上記容積体は、蛇腹状に形成された袋状体であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の漬物用容器。
【請求項6】
上記被漬物が収納される空間が密閉可能であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の漬物用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種食材を食塩や砂糖等の各種の漬け込み材料と共存した状態で保持することで漬物とし、また当該漬物とされた食材を保存する用途に適した容器に係るものである。
【背景技術】
【0002】
野菜、果物、肉、魚等の様々な食材を使用し、当該食材を食塩、酢、酒粕、砂糖等の漬込み材料と混合し接触した状態で所定の時間保持することにより、風味を良くしたり、保存性を高めたりする処理が広く行われている。そして、当該処理を行った食品は広く「漬物」と呼ばれており、当該漬物を製造する処理は「漬物を漬け込む」等と称される。
漬物を漬ける過程においては、食材と接触する漬込み材料(漬け汁)の側において浸透圧が高いことが一般的であり、この浸透圧の作用によって食材に含まれる水分が漬込み材料の側に移動するために、漬物として漬けることによって食材の水分量を減少させ、一般に“萎びた状態”とすることが一般的である。そして、主に当該萎びた状態とする操作を効率的且つ均一に生じさせる目的で、漬け込まれる食材の上側に、いわゆる「漬物石」と呼ばれる重量物を載置することで食材内部に圧力を生じさせる操作が一般的に行われる。
【0003】
また、特に家庭において少量の野菜等を使用して、比較的短時間で漬物(浅漬け)とする際には、上記重量物である漬物石の使用に由来して生じる各種の問題を解消する目的で、例えば、特許文献1や、特許文献2に記載されるように、漬物石に代わる手段によって食材に加圧する漬物容器が知られている。当該漬物容器によれば、取り扱いの容易性と、食材への加圧を両立することが可能であり、冷蔵庫内等で漬物を漬ける際の手段として広く使用されている。
【0004】
一方、上記説明したような、食材に加圧することで漬物を製造する方法と異なり、食材に漬物石等による荷重をしない無加圧の状態で漬込み材料と混合して接触させることで漬物とする各種の手法が知られている。当該荷重をしない状態で製造される漬物の一例として、山形県置賜地方において「薄皮丸なす漬け」等の名称で製造される漬物が挙げられる。当該漬物は、地元特産の小型の茄子を保存ビン等を使用して漬込み材料と共存させることで浅漬けしたものであり、一般家庭で従来から広く製造されて消費されている(非特許文献1を参照)。
また、上記茄子漬は、保存ビン等に漬け込まれた状態で地元の特産品として各家庭から知人に発送される他、近年は通信販売によって各地に発送されるなど、消費が拡大している。
【0005】
非特許文献1に記載されるように、当該茄子漬けを製造する際には、保存ビン等を使用して、その中で丸茄子が移動できない程度に丸茄子を詰めると共に、所定の漬け汁で保存ビン内を満たすことによって、蓋をした際にビンの中に残留する空気層をなるべく少なくした状態で密閉し、無加圧の状態で茄子を漬け汁中に1日程度保持する操作が行われ、当該操作によって発色の良い美味な丸茄子漬けを漬けることができる。
上記方法で漬け込まれて製造される茄子漬けは、一般的な萎びた状態とされた漬物と異なり、漬け込まれた個々の茄子が漬け込む以前と同程度の大きさと形状を維持すると共に、特に皮の部分に張力を生じた状態とすることができる。そして、この状態の茄子漬けを食した際には、表皮が弾けるように破れて漬け汁が口中にあふれると同時に、一種の独特の清涼感を感じさせることが上記茄子漬けの魅力であると考えられる。
【0006】
上記「薄皮丸なす漬け」等の名称で知られる茄子漬が、比較的濃い塩分濃度で漬けた漬物でありながら“萎びた状態”とならず、原料の茄子の形状を維持し、むしろその表皮に張力を生じた状態になる理由は必ずしも明らかでない。
一方、上記茄子漬に使用される丸茄子を、漬物石等によって加重して漬け込んだ場合には、一般的な茄子漬けのように萎びた状態となって、上記の食感を得ることができないことから、上記茄子漬けの形態や食感を生じるためには、実質的に無加圧の状態で漬け込まれることが望まれる。
【0007】
更に、上記茄子漬けを漬け込む際や、漬け込まれた漬物を保存する間に漬け汁表面から露出した部分は、著しく食感が劣ることが観察される。一方、漬け込む前後の茄子は他の野菜等と同様に比較的大きな浮力を示し、単に漬け汁に投入したのみではその上部が漬け汁表面から露出するため、何らかの手段によって茄子の浮上を阻害して、漬け汁中に浸漬して保持することが求められる。
つまり、上記茄子漬けにおいては、茄子に実質的な圧力を生じない範囲で、浮上しようとする茄子を漬け汁中に押さえて保持するという一般の漬物の製造等には見られない独特の操作が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-245038号公報
【特許文献2】特開2004-357657号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】みらくる(2010.8,No.196,P.2) http://www.okitama-yt-ja.or.jp/publicity/pdf/mir2208.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記茄子漬けを良好に製造する方法として、従来は、上記で説明をしたように保存ビン等の密封が可能な容器を使用して、その中に丸茄子が移動できない程度に丸茄子を詰めると共に、所定の漬け汁でビンを満たした状態で蓋をすることによって空気層を排除して漬け込む方法が一般的に用いられている。当該方法によれば、丸茄子に実質的な圧力を付加しない状態で、丸茄子が漬け汁の表面から露出することを防止することができる。
図9には、保存ビン等を使用した従来の茄子漬けの方法を模式的に示す。
図9(a)に示すように、漬け汁11でビン20を満たして蓋部2を取り付けて空気層を排除することにより、漬け汁中の茄子21は実質的に漬け汁から露出することがなく、良好な茄子漬けを製造することができる。
【0011】
しかしながら、上記方法で漬物を製造した場合、これを食するために蓋部2を開封した際に内部の漬け汁11が炭酸水状に激しく噴出し、一般家庭の流し台でこれを行った際には周囲の床等を汚してしまうという問題が発生する。これは、容器内が漬け汁11で満たされているために、漬物を漬ける過程で発生する炭酸ガス等の圧力によって漬け汁が開封部から押し出されるためと考えられる。
【0012】
また、上記のようにして空気に触れないように漬けられた漬物であっても、
図9(b)に示すように、開封して一部の漬物を食した後には当該ビン20等の中に空気層が生じるため、浮力を有する茄子漬け21等では漬物が浮遊することで漬け汁11から露出し、次に食する迄の間に食感が劣化する問題を生じる。当該問題を解消するために、従来は、茄子等が浮上して漬け汁から露出することを抑制する抑制手段として、丸めた食品用のラップをビン上部の空気層に詰めたり、ネットに入れたビー玉(ガラス玉)を茄子に載せる等の工夫により、漬物を漬け汁の中に維持することが行われている。しかしながら、当該手段によって茄子の浮上を良好に抑制するためには、その都度に適切な手段を準備する等の手間を要すると共に、衛生面での課題を含むものである。
【0013】
本発明は、上記のような問題を解消して、茄子をはじめとする各種の食材の漬物を製造しようとする際や、その後に漬物を保存する際に、実質的に漬け込まれる食材に荷重を付与しない一方で、容易に漬け汁の中に保持することが可能な漬物用の容器を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、被漬物を収納するための桶部と、当該桶部の上部に取り付け可能な蓋部を有する漬物用容器であって、当該桶部内には体積が可変の容積体であって、当該容積体の内部と容積体の外部を連通可能とする連通路を有する容積体が設けられており、当該容積体は、当該連通路に設けられた遮蔽手段を開いて連通路を連通させることで体積が変更できると共に、当該遮蔽手段を閉じることによって連通を遮断可能であることを特徴とする漬物用容器を提供する。
上記特徴を有する漬物用容器によれば、各種の漬け汁内の食材が漬け汁の表面から空気層に露出することを防止し、容易に食材を漬け汁内に保持することが可能となる。
【0015】
また、本発明は、上記容積体が、上記桶部内において上記遮蔽手段を開いて連通路を連通させた際に気体を吸引し、体積を増加可能であることを特徴とする。また、上記容積体の体積が増加した際に、当該容積体の少なくとも一部が漬け汁に侵入可能であることを特徴とする。
当該特徴を有することで、容積体が吸引する気体の量を調整することにより、食材を漬け汁内に保持する操作が可能となる。
【0016】
また、本発明は、上記容積体に設けられた連通路が、当該容積体の内部と漬物用容器の外部とを連通していることを特徴とする。更に、本発明は、上記容積体が、蛇腹状に形成された袋状体であることを特徴とする。更に、本発明は、上記被漬物が収納される空間が密閉可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
簡便な操作によって各種の食材を所定の漬け汁内に保持することを可能とする漬物用の容器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る漬物用の容器の実施形態の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る漬物用の容器の実施形態の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る漬物用の容器で使用する容積体の一例を示す模式図である。
【
図4】本発明に係る漬物用の容器を使用する際の操作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明に係る漬物用の容器の実施形態の一例を示す模式図である。
【
図6】本発明に係る漬物用の容器の実施形態の一例を示す模式図である。
【
図7】本発明に係る漬物用の容器の実施形態の一例を示す模式図である。
【
図8】本発明に係る漬物用の容器の実施形態の一例を示す模式図である。
【
図9】従来の「薄皮丸なす漬け」の漬け込み等の手段を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一般的な漬物石等を使用する漬物の製造方法においては、食材に対して所定の重量を継続的に付加することにより漬物を製造するものである。このような漬物石等を使用する操作は、漬け込まれる食材に対する荷重の量を制御する「荷重制御」によって所望の漬物を製造するものであり、この方法は荷重によって食材を漬け汁中に確実に保持する点でも有効である。その一方で、当該荷重制御による操作によって上記荷重を嫌う茄子漬け等を製造しようとする際には、容器内の食材の量等に応じて食材を漬け汁中に保持するための荷重量をその都度調整するという必要性を生じ、これを日常的に行うことは煩雑である。
【0020】
これに対して、本発明者は食材が漬け汁表面から露出することを抑制するために、食材に対して「変位制御」することが可能な漬物用の容器を用いることにより、上記課題が良好に解決可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
つまり、本発明は、食材に接して、その浮上を抑制するための手段の位置を容易に調整可能としたことを特徴とする漬物用の容器であって、上記説明したような茄子等の食材に対して、実質的に無加圧の状態で当該食材が有する浮力に抗して漬け汁中に保持して漬物とし、また保存することを可能とするものである。
【0021】
本発明に係る漬物用の容器においては、上記食材を抑制する手段の位置を調整する手段として、特に内部の気体の量を調整することで所定の範囲で体積が可変であり、且つ、外部との連通を遮断することによって密閉可能な容積体を使用することを特徴とする。
【0022】
図1には、本発明に係る漬物用の容器の実施形態を示す模式図を示す。
図1に示すように、本発明に係る漬物用の容器では、被漬物である食材10や漬け汁11等を収納するための桶部1に対して蓋部2を取り付けた状態において、当該蓋部の下側に体積を適宜設定した容積体3を設置することにより、食材10を抑制するための抑制手段4の位置を設定可能であり、実質的に無加圧の状態で継続して食材10を漬け汁11中に保持する際に好ましく使用することができる。
【0023】
上記容積体3として、例えば、可撓性や伸縮性を有するエラストマーや合成樹脂等によって形成された袋状体を使用し、当該袋状体に空気を導入するための連通路5及び遮蔽手段6としての「栓」等を設けることで、その体積を適宜設定可能であり容積体3として使用することができる。また、当該袋状体として、例えば、「蛇腹」等のように、主に長さ方向の伸縮により体積変化を生じる筒状体を用いることで、桶部内への収納性が高まると共に、容積体3の体積の調整範囲が広くできる点で好ましい。
なお、本発明において、実質的に無加圧の状態と記載する際には、食材に実質的な変形を生じない状態で食材を抑制することを意味し、例えば、漬け汁中で食材が容器底に接触せずに維持されている状態を意味するものとする。
【0024】
本発明に係る漬物用の容器の使用方法の例として、例えば漬物を漬けようとする際においては、
図1(a)に示すように、桶部1内に漬物とされる食材10と当該食材が浸漬されるのに十分な量の漬け汁11を入れた状態で、適切な体積に調整した容積体3を蓋部2の下側に設けることで、桶部1内に空気層が存在する状態であっても、食材10を漬け汁11中に保持することが可能となる。桶部1の内部に所定量の空気層が存在することで、その後に蓋部2を取り外す際の漬け汁の噴き出し等を防止することができる。
【0025】
容積体3の体積の調整は、容積体3の内部に連通する連通路5に設けられた遮蔽手段6を開いて連通路5を連通させることで容積体の内部に気体を導入し、又は容積体の内部の気体を排出することによって行われ、適切な体積の状態で当該遮蔽手段6を閉じて連通路を遮断することで容積体3が密閉され体積が固定される。容積体3の体積を適宜調整することによって、食材に対して実質的に荷重を付加しない状態で漬け汁中に食材を保持することができる。
【0026】
また、
図1(a)の状態で漬け込まれた食材10の一部を取り出す等して桶部内の内容物が減少した場合にも、上記容積体3の体積を再調整して適宜の体積で固定することにより、残った食材10を漬け汁11中に保持することが可能となる(
図1(b))。
【0027】
上記本発明に係る漬物用の容器で使用される上記容積体3は、その内部に導入する空気(気体)の量に応じて所定の範囲で体積を設定可能であり、且つ、外部との連通を遮断することによって設定された体積を保持可能なものであれば適宜使用することが可能である。また、当該容積体3として、内部に所定の量で空気を含むことで、桶部内で使用される際に漬け汁11に浮かぶことができる密度を有するものを使用することで、桶部内の食材10に対して自重に起因する荷重を負荷することがない点で好ましい。
【0028】
例えば、漬物に使用する漬け汁等の成分等を考慮した際に悪影響を生じないようにポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)から選択されるプラスチック素材等を用いて当該容積体3である袋状体を形成することで、容積体3内の全ての空気を排気した際にも漬け汁11に浮かぶために、漬け汁11内の食材10に対して自重に起因する荷重を負荷することがない点で好ましい。
【0029】
また、上記容積体3として、
図1等に示すように桶部1内で抑制手段4の位置を決定するために使用される際の体積と比較して、容積体3内の空間を大気に開放した際の容積(自由容積)が大きいものを使用し、桶部1内で当該容積体3を圧縮した状態で使用することにより、
図1に示す動作をより簡便に行うことが可能となる。
【0030】
図2には、本発明に係る漬物用の容器の実施形態の一例を模式的に示す。
図2に示す形態では、容積体3として、内部を大気に開放した際に桶部の高さと同程度以上の自由長を有する袋状体を使用し、予め当該容積体を圧縮して体積を縮小した状態で蓋部2の下部に配置した後、遮蔽手段6を開放することで容積体3が自由容積(自由長)に戻ろうとする展伸力によって容積体3が容器外から空気を吸引することを利用して、その体積を調整することが可能である。
【0031】
図3には、
図2に示す形態の漬物用の容器に使用される容積体3の例を示す。
図2に示す形態では、予め圧縮することで内部の気体を排除した状態で桶部1内において連通路5を連通させた際に、連通路5を通じて空気を吸引して漬け汁等を排除してその内部に侵入可能な程度の展伸力を示す容積体3が好ましく使用される。当該容積体3として、例えば、
図3(a)に示すような可撓性を有するプラスチック素材を使用してブロー成形等により蛇腹状に形成された袋状体15を用いることで、その肉厚や材質に応じて適切な展伸力を生じる容積体3を構成することができる。蛇腹状の袋状体15を用いることで、その容量の変化によって主に長さ方向への伸縮を生じると共に、当該伸縮の程度を大きくすることができる点で好ましい。
【0032】
また、容積体3の他の構造として、例えば、
図3(b)に示すようなコイル状のバネ14を伸縮性のエラストマー等で形成された袋状体13で包むことにより、全体として所定の自由容積を有すると共に、バネ14の長さ方向に伸縮性を有する容積体3とすることができる。また、上記蛇腹状に形成した袋状体15の内部にコイル状のバネ14を組み合わせることによって、容積体3の弾性率等を調整することも可能である。
本発明に係る漬物用の容器において使用される容積体3は、内部の気体を抜いて圧縮した状態においても水中で沈降を生じない程度の密度を有することで、容積体3の状態に関わらず、食材に荷重を生じることが避けられる点で好ましい。
【0033】
図3に示すような容積体3を使用し、当該容積体を圧縮して内部を負圧にした状態においては、容積体3が吸引する気体の量を制限することによってその長さを制限可能であり、その下部に設けた抑制手段4の位置を適宜に決定することが可能である。その際に、当該容器体3の少なくとも一部が漬け汁11中に侵入して、桶部内で漬け汁の液面を上昇可能な程度の展伸力を有する容積体3を使用することにより、食材10を漬け汁中に保持することができる。
【0034】
図4には、
図2に記載する漬物用の容器を使用する際の操作の一例を示す。
図2に記載する漬物用の容器を使用する際には、まず、連通路5の遮蔽手段6を開放した状態(
図4A)で、容積体3を外部から圧縮して内容積を減少させ(
図4B)、その状態で連通路5の遮蔽手段6を閉じて容積体3の内容積を固定する(
図4C)。当該状態の容積体3を、漬物とされる食材10と漬け汁11を入れた桶部1内の上部に設置(
図4D)して、蓋部を桶部に取り付ける(
図2(a),
図4E)。
【0035】
次に、連通路8等を介して桶部1内の空気が外部に流出可能な状態で、連通路5の遮蔽手段6を開放して容積体3に適当量の空気を吸引させ(
図4F)、膨張した容積体3によって抑制手段4が下降することで食材10が抑制されて漬け汁11に浸漬した状態(
図2(b))で連通路5の遮蔽手段6を閉じて容積体3の内容積を固定する(
図4G)ことにより、無加圧の状態で食材10を漬け汁11中に保持することが可能である。また、更に容積体3を膨張させることにより、容積体3の下部を漬け汁11中に侵入させて漬け汁の液面を上げて、実質的に桶部1内の空気層を排除することも可能である。その際に、特に望ましくは、食材10の下部が桶部1の底部に接しない状態とすることにより、食材に荷重を付与しない範囲で食材を漬け汁中に保持することが可能となる。
【0036】
図2に記載する態様においては、予め圧縮した容積体3の展伸力を駆動力として、容積体3が連通路5を通じて吸引する空気量を調整することによって抑制手段4の位置を決定するための駆動手段としている。当該態様においては、外部に抑制手段4の位置を調整するための駆動手段を設ける必要がなく、単純な構造で簡便に抑制手段4の位置を調整することができる。このように使用される容積体3の内部は大気圧に対して負圧となり、当該圧力と容積体の展伸力が均衡することで、所定の容積を維持することが可能である。
【0037】
また、
図2に示す漬物用の容器において、容積体3の体積の調整が良好になされなかった際にも、食材10に付加される荷重は当該容積体3が有する展伸力等に対応する大きさに限定されるために、予め容積体3の展伸力等を適切に設定することにより安定して漬物の漬け込みや保存を行うことが可能となる。
【0038】
上記容積体3は、桶部1内において、蓋部2と食材10等の間に配置された状態で、連通路5を通じて空気を吸引することによって膨張して食材10を漬け汁11内に保持するための駆動力を生じるものであり、当該機能を生じる範囲において適宜の構造とすることができる。
特に当該容積体3の内部を漬物用の容器外部に連通する連通路5の取り回しに係る構造を単純化する観点から、容積体3を蓋部2と一体のものとすると共に、当該連通路5が蓋部2を貫通してなる構造とすることができる。当該構造とすることで、桶部の側を単純な構造にできると共に、蓋部2を桶部1に取り付ける操作によって容積体3を桶部1の内部に適切に設置することが可能になる。
【0039】
上記容積体3の自由容積や、特に蛇腹状とした際の自由長さは、桶部1の容積や高さに応じて適宜決定することができる。例えば、
図2に示す形態で使用する際には、容積体3が展伸した際の長さを桶部1の高さと同じ程度にすることにより、良好に食材10を漬け汁11内に保持することができる。また、桶部1内に相当量の漬け汁11が存在する場合には、容積体が展伸した際に桶部の高さの1/2~2/3程度の長さを有することにより良好に食材10を漬け汁内に保持することができる。
一方、桶部1の高さに対して使用する容積体3の自由長さ等が十分でない等の場合には、例えば、
図5に示すように、容積体3と食材10の間に配置する抑制手段4として、適宜の厚みを有する抑制手段4を使用することにより、良好に食材を漬け汁内に保持することができる。
【0040】
上記抑制手段4は、食材10が漬け汁11の上面から露出することを抑制するものであり、食材10が当該抑制手段4を回避して浮上することを防止できるものであれば、適宜の構成とすることができる。典型的には、桶部1の内部の横断面と略相似形の形状を有し、桶部1の内部を上下方向に円滑に移動可能な程度の大きさを有することが好ましい。
例えば、桶部1の横断面が略円形である場合には、抑制手段4を円盤状等として、その直径の差を50mm以下、望ましくは40mm、より好ましくは20mm以下とすることが望ましい。また、特に両者の直径の差を10mm以下とすることにより、食材10が小径である場合にも桶部1の壁と抑制手段4の隙間から食材10が浮上することを防止することができる。
【0041】
また、抑制手段4の比重が大きい場合には、当該抑制手段4の重量によって食材に荷重を発生するため、抑制手段4として漬け汁と比較した際の比重が1以下の素材によって構成されることが好ましい。また、桶部1内での漬け汁11の流通を阻害しないために、抑制手段4が食材10と接触する面等には適宜の大きさの穴部が設けられることも好ましい。
本発明に係る漬物用の容器においては、必ずしも独立して抑制手段4を設ける必要はなく、上記容積体3の下端を食材10を抑制する抑制手段4としても良く、また容積体3と抑制手段4を一体に成形する等も可能である。
【0042】
本発明に係る漬物用の容器に使用される桶部1は、従来の漬物容器等として使用されている各種容器を含め、漬け込もうとする漬け物の量等に応じて適宜の大きさや形状のものを使用できる。例えば、上記茄子漬けの場合には、その賞味期間内に漬け込まれた全量が消費できるという観点から、容積が500mL~3L程度であり、直径として10~20cm程度の大きさの桶部1が好ましく使用される。また、桶部1を構成する材質は、食品の安全性を考慮して一般の漬物用の容器と同様のものが使用可能であり、例えば、ガラス製、陶器性、樹脂製(PVC、PET、PC等)等のものが好ましく使用される。
【0043】
本発明に係る漬物用の容器に使用される桶部1の上部には、蓋部2を取り付けるための手段が設けられていることが好ましい。当該手段としては、従来の漬物容器等において蓋を取り付けるために用いられている手段を特に制限無く使用することが可能であり、例えば、らせん状の凹凸を相互にねじ込む形式の他、両者に設けた凹凸を相互に嵌め込む形式や、両者を所定の位置に載置した状態で金具等によって固定する等の手段を適宜使用することができる。
なお、本発明において、桶部1に蓋部2を取り付けると記載する場合には、例えば、上記の容積体3に空気を吸引させて展伸させる際に、その展伸力によって桶部1と蓋部2が解離しない程度の強度で固定されることを意味するものとする。
【0044】
また、本発明に係る漬物用の容器において、上記容積体3に空気を吸引させて展伸させる際には、当該吸引された空気と略同量の気体を桶部1の外部に放出する必要があることから、
図2に示すように、桶部1や蓋部2等に桶部の内外を連通する連通路8を設けることができる。一方、連通路8を設けず、例えば、桶部1に蓋部2を取り付ける手段として上記ねじ込む形式を用いることで、桶部1と蓋部2の間が密閉されない程度に蓋部2をねじ込むことで取り付けた状態で容積体3を展伸させ、桶部1と蓋部2の間の隙間から桶部内の空気を逃がして、その後に桶部1と蓋部2の間を密閉する等の方法を用いることで、桶部内の空間を密閉可能することができる。
【0045】
本発明に係る漬物用の容器に使用される蓋部2は、上記桶部1に取り付け可能であり、桶部1に取り付けた状態で上記容積体3の展伸力に耐える強度を有するものであれば、適宜の材質、構造のものを使用することができる。蓋部2を構成する材質として、例えば、金属製、ガラス製、陶器性、樹脂製(PVC、PET、PC等)等が好ましく挙げられる。
【0046】
上記で説明した茄子漬けにおいては、一般の保存ビン等を利用して、食材(茄子)と漬け汁を入れた当該ビン等を密閉した状態として漬け込みが行われる。そして、当該漬け込みを1日間程度行った後に当該ビンを開封した際には、一般に漬け汁から炭酸水状の発泡を生じることが観察される。
【0047】
当該発泡現象は、漬け込みを行う間に漬け汁や食材において炭酸ガス等を生じる何らかの反応を生じていることを示すものであり、当該炭酸ガス等が漬け込まれた食材(茄子)の内部に存在することによって、その圧力の作用によって漬け込む以前と同程度の大きさや形状が維持され、特に皮の部分に張力を生じた状態になるものと考えられる。また、当該茄子漬けを食した際の清涼感についても、当該炭酸ガス等が関係するものと考えられ、このような状態の漬物とするために密閉が可能な保存ビン等が使用されるものと推測される。
【0048】
本発明に係る漬物用の容器においても、漬け込みを行う間に発生する炭酸ガス等を容器内に保持する観点から、容器内を密閉可能な構造とすることが好ましい。このために、例えば、桶部1と蓋部2の間の密閉性を高めるために、両者間に各種の樹脂やエラストマー等から構成されたパッキンを設置することも可能である。
また、例えば、
図6に示すように、桶部1内の空間を外部と連通可能とする連通路8に遮蔽手段6を設けることで、連通路5の遮蔽手段6を操作して容積体3を展伸させる際の他は容器内を密閉可能とすることも好ましい。
【0049】
図7には、本発明に係る漬物用の容器の実施形態を模式的に示す。
図7においては、蓋部2と容積体3が一体のものとされており、桶部1の内部と外部を連通する連通路8、及び、容積体3の内部と外部を連通する連通路5が当該蓋部2に設けられている。当該桶部1内部と外部を連通する連通路8は、主に上記容積体3が外部から空気を吸引して展伸する際の容積の増加分に対応する気体を外部に放出するために使用されるものであり、連通路5,8は同時に連通される機会が多い。
【0050】
このため、
図7に示すように、桶部1の内部と外部を連通する連通路8と、容積体3と外部を連通する連通路5にそれぞれ設けられる遮蔽手段6の開閉手段7を共通にすることで、桶部1に蓋部2を取り付けて密封した状態で容易に容積体3を展伸して食材10を漬け汁11中に抑制して保持することが可能になる。
上記操作によって、容積体3を展伸させて桶部1の内部の空気層を実質的に排除することで、内部の食材10等の酸化等を防止することができる。一方、桶部1の内部に所定量の空気層を残留させることで、その後に蓋部2を取り外す際の漬け汁の噴き出しを防止することができる。
【0051】
図7に示す形態において、容積体3の体積を予め減少させる際には、連通路5に設けた遮蔽手段6を開いた状態で容積体3を圧縮することで容積体3内の気体を放出することができる。その他、容積体3内の気体を放出可能な方向性を有する逆止弁9を有する連通路5を別に設けることにより、単に容積体3を圧縮することによって容積体3内の気体が放出し、その状態が維持されるようにすることも可能である。
【0052】
更に、
図7に示すように、容積体3と外部を連通する連通路5に排気装置12を付加することも可能である。上記のように、漬物を漬け込む過程において炭酸ガス等を生じることにより漬物容器の内部が陽圧となって、その状態で蓋部2を外した際には漬け汁の噴き出し等を生じる場合がある。一方、上記のように連通路5に設けた排気装置12により、容器を開栓する前に容積体3の内部を排気して容積体3の体積を減少し、漬け汁11の水位を下げることにより、開栓時の噴き出し等を防止することができる。
【0053】
図8には、本発明に係る漬物用の容器の別の実施形態を模式的に示す。容積体3の内部と外部間の連通路5に設けられる遮蔽手段6を、
図8に示すように、バネ等により付勢された開閉手段7により当該連通路5の外部側にパッキン等を押し当てる構造とすることで、当該開閉手段7を操作してパッキンを連通路5から引き離すことで容積体3に空気を吸引させると共に、容積体3を圧縮した際には内部の気体が放出可能な逆止弁としても機能させることができる。
【0054】
また、
図8に示すように、容器内部と外部を連通する連通路8の開口部に対しても、同時に上記パッキン等を押し当てる構造とすることも可能である。
図8に示す構造によれば、容積体3と蓋部2を桶部1に取り付けて密封した状態で開閉手段7を操作することで、圧縮した容積体3に空気を吸引させると共に、容器内の空気を外部に放出する操作を同時に行うことが可能となり、密閉容器内で手軽に食材10を漬け汁11中に抑制することが可能である。
【0055】
本発明に係る漬物用の容器は、上記茄子漬け以外にも、特にラッキョウ漬けや、オリーブの実の漬け物など、食材の形態を維持した状態で漬物とされ、漬け汁中に保持される各種の食材に対して好ましく使用することができる。また、本発明に係る漬物用の容器において使用される漬け汁は、各種の成分を含む一般的な塩水等の他に、オリーブオイル等の油分を用いることも可能である。更に、いわゆるぬか漬けや味噌漬けのように、粘性物を漬け汁として、当該粘性物中に漬物とする食材を保持する用途にも使用することが可能である。
【0056】
更に、一般的な漬物以外にも、煮豆等の煮物と称されるものや、主に保存性を高めるために水煮の形態で保持される食材であって、加熱後に煮汁等の中に保持されることが望まれる食品等についても、当該煮汁等を漬け汁として、本発明に係る漬物用の容器を使用することによって簡便に保存を行うことができる。
【0057】
また、特に桃やサクランボ、リンゴ、柑橘類等の果肉等を保存する等の目的で、一般に缶詰や保存ビン等の形態で食材をシロップ等の漬け汁内に保持した形態で外気との接触を避けて保存される食品に対しても、保存ビン等に代えて本発明に係る漬物用の容器を使用することによって、容易に外気を排除した状態で保存することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 桶部
2 蓋部
3 容積体
4 抑制手段
5 連通路
6 遮蔽手段
7 開閉手段
8 連通路
9 逆止弁
10 食材
11 漬け汁
12 排気装置
13 袋状体
14 バネ
15 袋状体(蛇腹)
20 ビン
21 茄子漬け