(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109819
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法
(51)【国際特許分類】
F28D 20/00 20060101AFI20220721BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
F28D20/00 G
F28D20/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005375
(22)【出願日】2021-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】平田 一弘
(57)【要約】 (修正有)
【課題】化学蓄熱において化学蓄熱材の反応に用いる反応液の液化工程及び気化工程に係るエネルギー損失を抑制し、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能な化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法を提供する。
【解決手段】内部に化学蓄熱材2を保持する反応器3と、化学蓄熱材2の反応に用いる反応液を保持する液体保持部4と、反応液に係る凝縮又は蒸発を行う熱交換部5とを備え、液体保持部4と熱交換部5が分離して設けられるとともに、反応器3と熱交換部5の間の気体の移動は圧力差であり、熱交換部5と液体保持部4の間の液体の移動は重力による化学蓄熱装置1、及びこの化学蓄熱装置1Aを用いた化学蓄熱材2の蓄熱方法である。これによれば、反応液の液化工程及び気化工程におけるエネルギー損失を低減させ、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に化学蓄熱材を保持する反応器と、
前記化学蓄熱材の反応に用いる反応液を保持する液体保持部と、
前記反応液に係る凝縮又は蒸発を行う熱交換部と、を備え、
前記液体保持部と前記熱交換部は分離して設けられるとともに、
前記反応器と前記熱交換部の間の気体の移動が圧力差によるものであり、
前記熱交換部と前記液体保持部の間の液体の移動が重力によるものであることを特徴とする、化学蓄熱装置。
【請求項2】
前記熱交換部は、凝縮部及び蒸発部を独立して備え、
前記凝縮部、前記液体保持部、前記蒸発部の順に物質移動するように接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の化学蓄熱装置。
【請求項3】
前記液体保持部と前記熱交換部は、重力方向に積層されており、上から順に前記凝縮部、前記液体保持部、前記蒸発部となるように積層されていることを特徴とする、請求項2に記載の化学蓄熱装置。
【請求項4】
反応器の内部に保持された化学蓄熱材に熱を蓄積する化学蓄熱材の蓄熱方法において、
前記化学蓄熱材を反応させる反応工程と、
前記化学蓄熱材の反応に用いる反応液を保持する液体保持工程と、
前記反応液に係る凝縮又は蒸発を行う熱交換工程と、を備え、
前記液体保持工程と前記熱交換工程は分離して行われるとともに、
前記反応工程と前記熱交換工程の間の気体の移動が圧力差によるものであり、
前記熱交換工程と前記液体保持工程の間の液体の移動が重力によるものであることを特徴とする、化学蓄熱材の蓄熱方法。
【請求項5】
前記熱交換工程は、前記反応液に係る凝縮工程と前記反応液の蒸発工程が独立して含まれており、
前記凝縮工程、前記液体保持工程、前記蒸発工程の順に物質移動することを特徴とする、請求項4に記載の化学蓄熱材の蓄熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を利用した蓄熱及び放熱を行い、常温での熱エネルギー保管を可能とする化学蓄熱は、エンジンなどの駆動機関のほか、工場や燃焼処理を行う設備(ごみ焼却施設等)など、稼働に際して熱の発生を伴う熱源からの排熱(廃熱)を有効活用する観点から研究開発が進められている。
【0003】
化学蓄熱を行うための化学蓄熱装置は、一般に固体の化学蓄熱材を用い、この化学蓄熱材に熱を加えて生成気体を分離する際の吸熱反応による熱を蓄熱する一方、化学蓄熱材に反応気体を供給して発熱反応を起こすことで、装置外部への放熱が可能となるように構成されている。このとき、生成気体を凝縮して液化したものを反応液とし、この反応液を蒸発させることで反応気体として利用することが知られている。
【0004】
このような化学蓄熱装置としては、例えば、特許文献1に記載されるように、化学蓄熱材が内蔵された反応器と、反応器へ反応気体(反応液の蒸気)を供給し、かつ、反応器からの生成気体(蒸気)を凝縮して反応液として回収する蒸発・凝縮器とを備える化学蓄熱装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される化学蓄熱装置では、反応器へ供給するための反応気体(反応液の蒸気)の生成(気化工程)と、反応器からの生成気体(蒸気)の凝縮及び反応液としての回収(液化工程)を蒸発・凝縮器の1カ所で行っている。つまり、この蒸発・凝縮器では、反応液の液化・気化工程において蒸発・凝縮器を構成する容器全体の冷却・加熱が必要となる。このため、容器自体の顕熱等により、反応液の液化・気化工程に係るエネルギー損失が生じるという問題がある。また、この蒸発・凝縮器内には、液化工程によって生成した反応液が全て貯留される。このため、反応液を貯留した状態においては容器自体の顕熱の影響が更に増大するとともに、特に気化工程においては、容器内にある液体全体を加熱することになるため、反応器への供給に必要となる反応気体量(蒸気量)に対し、必要以上にエネルギーを消費して、反応気体の生成を行うことになるという問題が生じる。
【0007】
本発明の課題は、化学蓄熱において、化学蓄熱材の反応に用いる反応液の液化工程及び気化工程に係るエネルギー損失を抑制し、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能な化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題について鋭意検討した結果、化学蓄熱装置において、化学蓄熱材の反応に用いる反応液を液体として保持する液体保持部と、反応液に係る凝縮・蒸発に係る熱交換部とを分けて設け、さらに化学蓄熱材の反応に係る気体や液体の移動について外力を加えることなく行うことにより、反応液の液化工程及び気化工程に係るエネルギー効率を向上させ、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能になることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の化学蓄熱装置は、内部に化学蓄熱材を保持する反応器と、化学蓄熱材の反応に用いる反応液を保持する液体保持部と、反応液に係る凝縮又は蒸発を行う熱交換部と、を備え、液体保持部と熱交換部は分離して設けられるとともに、反応器と熱交換部の間の気体の移動が圧力差によるものであり、熱交換部と液体保持部の間の液体の移動が重力によるものであることを特徴とする。
この化学蓄熱装置によれば、化学蓄熱材の反応に用いる反応液の保持に係る部分と、反応液に係る凝縮・蒸発を行う部分とを分離することで、反応液に係る凝縮・蒸発において、反応液全体を冷却・加熱する必要がなくなる。また、化学蓄熱材の反応に係る気体や液体の移動を圧力差や重力によるものとすることで、気体及び液体の物質移動に必要となるエネルギーを大幅に低減させることができる。これにより、反応液の液化工程及び気化工程におけるエネルギー損失を低減させ、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能となる。
【0010】
また、本発明の化学蓄熱装置の一実施態様としては、熱交換部は、凝縮部及び蒸発部を独立して備え、凝縮部、液体保持部、蒸発部の順に物質移動するように接続されていることを特徴とする。
この特徴によれば、凝縮部と蒸発部とを分け、冷却・加温操作を独立して行うことで、1カ所で冷却・加温操作を繰り返し行うよりも消費されるエネルギーを少なくすることができる。また、それぞれの操作に必要となる空間をコンパクトにすることが可能となるため、エネルギー損失をより一層抑制することが可能となる。
【0011】
更に、本発明の化学蓄熱装置の一実施態様としては、液体保持部と熱交換部は、重力方向に積層されており、上から順に凝縮部、液体保持部、蒸発部となるように積層されていることを特徴とする。
この特徴によれば、凝縮部で生成した反応液の液体保持部への移動や、液体保持部で保持されている反応液の蒸発部への移動について、重力を利用する移動とすることが容易となる。これにより、反応液の液化工程及び気化工程に係るエネルギー損失の抑制と併せて、物質移動に係るエネルギーを大幅に低減することができ、化学蓄熱に係るエネルギー損失をより一層抑制することが可能となる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の化学蓄熱材の蓄熱方法は、反応器の内部に保持された化学蓄熱材に熱を蓄積する化学蓄熱材の蓄熱方法において、化学蓄熱材を反応させる反応工程と、化学蓄熱材の反応に用いる反応液を保持する液体保持工程と、反応液に係る凝縮又は蒸発を行う熱交換工程と、を備え、液体保持工程と熱交換工程は分離して行われるとともに、反応工程と熱交換工程の間の気体の移動が圧力差によるものであり、熱交換工程と液体保持工程の間の液体の移動が重力によることを特徴とする。
この化学蓄熱材の蓄熱方法によれば、化学蓄熱材の反応に用いる反応液の保持に係る工程と、反応液に係る凝縮・蒸発を行う工程とを分離することで、反応液に係る凝縮・蒸発において、反応液全体を冷却・加熱する必要がなくなる。また、化学蓄熱材の反応に用いられる気体及び液体の物質移動に必要となるエネルギーを大幅に低減させることができる。これにより、反応液の液化工程及び気化工程におけるエネルギー損失を低減させ、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能となる。
【0013】
また、本発明の化学蓄熱材の蓄熱方法の一実施態様としては、熱交換工程は、反応液に係る凝縮工程と反応液の蒸発工程が独立して含まれており、凝縮工程、液体保持工程、蒸発工程の順に物質移動することを特徴とする。
この特徴によれば、凝縮工程と蒸発工程とを分け、冷却・加温操作を独立して行うことで、1カ所で冷却・加温操作を繰り返し行うよりも消費されるエネルギーを少なくすることができる。また、それぞれの操作に必要となる空間をコンパクトにすることが可能となるため、エネルギー損失をより一層抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、化学蓄熱において、化学蓄熱材の反応に用いる反応液の液化工程及び気化工程に係るエネルギー損失を抑制し、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能な化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施態様の化学蓄熱装置の構造を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様の化学蓄熱装置における蓄熱時の流体の物質移動を示す概略説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施態様の化学蓄熱装置における放熱時の流体の物質移動を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の第2の実施態様の化学蓄熱装置の構造を示す概略説明図である。
【
図5】本発明の第3の実施態様の化学蓄熱装置の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法は、エンジンなどの駆動機関のほか、工場や燃焼処理を行う設備(ごみ焼却施設等)など、稼働に際して熱の発生を伴う熱源からの排熱(廃熱)を化学蓄熱材に貯蔵して、熱を必要とする際に蓄熱生成物から放熱することで熱の利用を可能にするものである。なお、本発明の化学蓄熱装置は、所定の位置に固定した状態で熱供給源として利用するものとしてもよく、輸送が可能な装置とし、熱を必要とする熱需要地に輸送して利用するものとしてもよい。
【0017】
また、本発明の化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法は、蓄熱時には、化学蓄熱材を加熱して蓄熱生成物と生成気体に分離し、放熱時には、蓄熱生成物と反応気体を反応させて化学蓄熱材を生成するものである。ここで、蓄熱時に発生する生成気体と、放熱時に供給する反応気体は同一種類の物質とすることが好ましい。そして、生成気体を凝縮し反応液として回収する液化工程と、液化工程で得られた反応液を蒸発させて反応気体として利用する気化工程により、化学蓄熱に係る反応が進行し、化学蓄熱材の蓄熱・放熱が可能となる。なお、以下、生成気体と反応気体を「反応媒体」と称することがある。
【0018】
本発明における化学蓄熱に係る一般的な反応としては、例えば、下記式(1)のような反応が例示される。
【数1】
固体である化学蓄熱材ABに熱Qを加えると、固体である蓄熱生成物Aと気体である反応媒体Bを生成し、このときの吸熱反応により蓄熱を行うことができる。この反応は可逆的な平衡反応であり、放熱時には、蓄熱生成物Aと反応媒体Bが反応する。なお、式中の「(s)」は、固体状態を表し、式中の「(g)」は、気体状態であることを表す。
【0019】
従来の化学蓄熱装置では、蓄熱時には、反応器内の化学蓄熱材ABに熱Qを加えることで生成した反応媒体B(生成気体)を蒸発・凝縮器に導入し、蒸発・凝縮器側において、反応媒体B(生成気体)の有する熱を放熱することにより、反応媒体B(生成気体)の温度が低下し、凝縮反応により反応媒体B(生成気体)が液化し、反応液として回収している。このとき、蒸発・凝縮器内に、回収した反応液を全て貯留することになるため、反応液を貯留するためには、蒸発・凝縮器を構成する容器として一定程度のスペースを有するものが必要となる。そのため、容器自体の顕熱等の影響を受け、反応媒体B(生成気体)の温度低下に対して必要となるエネルギー消費が大きくなる。
【0020】
また、放熱時には、蓄熱時と逆方向に反応を進行させるものであり、蒸発・凝縮器側において、反応液に熱を加えることにより反応媒体B(反応気体)へと気化させ、反応器側において、反応媒体B(反応気体)と蓄熱生成物Aとが反応し、化学蓄熱材ABを生成する発熱反応により熱が放熱されることになる。このとき、蒸発・凝縮器内にある反応液全てを加熱することになるため、反応器側における発熱反応に必要となる反応気体量を生成するために、必要以上のエネルギーを消費することになる。
【0021】
一方、本発明における化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法では、式(1)の反応に基づく蓄熱・放熱を行う際に、化学蓄熱材ABの反応に用いる反応液について、凝縮及び蒸発のような熱交換を行う箇所とは別に貯留することで、生成気体を凝縮し反応液として回収する液化工程と、液化工程で得られた反応液を蒸発させて反応気体として利用する気化工程において、必要以上のエネルギーを消費させることがなく、化学蓄熱に係る蓄熱・放熱を行うことができる。これにより、従来の化学蓄熱装置に比べ、エネルギー損失を抑制し、化学蓄熱に係る反応を有利に進めることが可能となる。
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明に係る好適な実施態様について詳細に説明する。尚、実施態様に記載する化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法については、本発明に係る化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法を説明するために例示したに過ぎず、同様の効果を奏する限り、これらに限定されるものではない。
【0023】
〔第1の実施態様〕
[化学蓄熱装置]
図1は、本発明の第1の実施態様の化学蓄熱装置1Aの構造を示す概略説明図である。この化学蓄熱装置1Aは、化学蓄熱材2と、化学蓄熱材2を保持する反応器3と、化学蓄熱材2の反応に用いる反応液Wを保持する液体保持部4と、反応液Wに係る凝縮・蒸発を行う熱交換部5とを備えている。また、熱交換部5は、反応器3から発生する生成気体g1を凝縮して反応液Wとする凝縮部51と、反応液Wを蒸発させて反応気体g2とする蒸発部52とを備えている。
【0024】
本実施態様における化学蓄熱装置1Aにおいて、反応器3と熱交換部5は、連通部6を介して気密に接続されている。反応器3と凝縮部51を接続する連通部6aには、生成気体g1の移動を制御可能なバルブV1を設けている。また、反応器3と蒸発部52を接続する連通部6bには、反応気体g2の移動を制御可能なバルブV2を設けている。
【0025】
また、
図1に示すように、本実施態様における化学蓄熱装置1Aにおいては、凝縮部51、液体保持部4、蒸発部52の順に物質移動するように接続されている。
さらに、
図1に示すように、本実施態様における化学蓄熱装置1Aにおいては、液体保持部4と熱交換部5は重力方向に積層されており、上から順に凝縮部51、液体保持部4、蒸発部52となるように配置されている。
【0026】
以下、各構成について詳細に説明する。
(化学蓄熱材)
化学蓄熱材2とは、加熱時に蓄熱生成物と生成気体g1に分離され、また、この逆の反応により熱を放出する化学物質である。例えば、蓄熱生成物と生成気体g1の組み合わせとしては、酸化カルシウム(CaO)と水蒸気(H2O)、塩化カルシウム(CaCl2)と水蒸気(H2O)、臭化カルシウム(CaBr2)と水蒸気(H2O)、ヨウ化カルシウム(CaI2)と水蒸気(H2O)、酸化マグネシウム(MgO)と水蒸気(H2O)、塩化マグネシウム(MgCl2)と水蒸気(H2O)、塩化亜鉛(ZnCl2)と水蒸気(H2O)、塩化ストロンチウム(SrCl2)とアンモニア(NH3)、臭化ストロンチウム(SrBr2)とアンモニア(NH3)、酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)、酸化マグネシウム(MgO)と二酸化炭素等(CO2)等が挙げられる。なお、調達や取り扱いが容易であるという観点から、化学蓄熱材2は、生成気体g1及び反応気体g2として水蒸気(H2O)を利用するものであることが好ましい。
【0027】
化学蓄熱材2の構造及び形状については、特に限定するものではなく、例えば、粉体状、粒状、顆粒状、ペレット状、フレーク状などが挙げられる。また、粉体を成型して得られる成型体、又は化学蓄熱材2を多孔質体に担持させたものであってもよい。表面積を大きくし、反応性を高めるという観点からは、化学蓄熱材2は粉体状であることが好ましい。
【0028】
さらに、粉体状の化学蓄熱材2を金属製のメッシュからなる容器又は袋体に充填したカートリッジとしてもよい。カートリッジとすることにより、粉体状の化学蓄熱材2が反応器3から流出することを防止したり、反応器3の内部における化学蓄熱材2の配置の偏りを防止したりすることができる。また、カートリッジとすることにより、化学蓄熱材2の交換が容易になり、取り扱い性に優れるという効果も奏する。
【0029】
(反応器)
反応器3は、化学蓄熱材2を保持するための構成であり、密閉可能な構造物からなる。反応器3の形状や材質は、特に制限されないが、耐圧性を有することが好ましい。耐圧性を有することにより、反応器3の内部の圧力の変化による内容積の変化が抑制されるため、内部の圧力を制御しやすいという効果を奏する。
【0030】
本実施態様における反応器3は、化学蓄熱材2から脱離する生成気体g1が流出する開口部31aを備えており、開口部31aは、連通部6aと接続されている。また、反応器3は、化学蓄熱材2と反応する反応気体g2を流入する開口部31bを備えており、開口部31bは、連通部6bと接続されている。
【0031】
また、本実施態様における反応器3は、内部に保持された化学蓄熱材2と外部との熱の伝達を行うための熱交換機構32を有する。この熱交換機構32を介して、化学蓄熱材2への蓄熱に係る反応を進行させたり、放熱に係る反応から放出される熱を外部に取り出したりすることが可能となる。
【0032】
熱交換機構32は、熱交換機構32内に導入した熱媒体を介して、反応器3の内部に収納された化学蓄熱材2と外部との熱の伝達を行うことができれば、どのような形状のものでもよく、例えば、反応器3の内部に蛇行して設置された熱交換チューブや、二重円筒型の反応器の内筒部などにより構成される。また、反応器3の外壁を介して熱交換を行うものとしてもよい。
【0033】
熱媒体としては、化学蓄熱材2への熱供給及び化学蓄熱材2からの熱回収ができるものであればよく、気体や液体等の流体や、固体であってもよい。熱の伝達の効率に優れるという観点から、流体を使用することが好ましい。
また、熱媒体の温度としては、化学蓄熱材2への熱供給ができるものであればよく、特に限定されない。
【0034】
反応器3は、化学蓄熱装置1Aから取り外し可能な構造物としてもよい。取り外し可能な構造物とすることにより、化学蓄熱材2を保持する反応器3のみを、放熱が必要な熱需要地に移送することができる。また、反応器3の内部の化学蓄熱材2のみを、密閉可能な容器や袋体に封入して熱需要地に移送してもよい。
【0035】
また、反応器3は、反応器3を保温するための保温部(不図示)を有してもよい。保温部は、断熱材や熱反射材などの放熱を抑制する部材からなり、反応器3の周囲を覆うように設けられているものである。断熱材は、反応器3の放熱を抑制する材質からなるものであり、例えば、発泡ポリエチレンや発泡スチロールなどの発泡樹脂、合成樹脂、無機材などが挙げられる。また、熱反射部材は、反応器3から放出される輻射熱を反射可能な材質からなるものである。輻射熱を反射可能な材質としては、例えば、金属としては、アルミニウム、鉄、銅、黄銅、銀、金、白金、ニッケル、ステンレス、クロム、タングステンなどが挙げられる。また、非金属としては、石英ガラス、アルミナセラミクス、マグネシアセラミクス、耐火レンガなどが挙げられる。
【0036】
(熱交換部)
本発明の第1の実施態様の化学蓄熱装置1Aは、反応器3の接続先として反応液Wに係る凝縮・蒸発を行う熱交換部5を備える。熱交換部5は、反応液Wに係る凝縮あるいは蒸発を行うものであればよいが、
図1に示すように、熱交換部5が、反応器3から発生する生成気体g1を凝縮して反応液Wとする凝縮部51と、反応液Wを蒸発させて反応気体g2とする蒸発部52とを備えるものとすることが好ましい。凝縮部51と蒸発部52とを分けて設けることで、冷却・加温操作を独立して行うことができ、従来の化学蓄熱装置のように1カ所で冷却・加温操作を繰り返し行うよりも、消費されるエネルギーを少なくすることができる。また、それぞれの操作に必要となる空間をコンパクトにすることが可能となるため、エネルギー損失をより一層抑制することが可能となる。
【0037】
凝縮部51は、蓄熱時において、化学蓄熱材2から発生する生成気体g1を、液体状態の反応液Wとして凝縮・回収するためのものであり、凝縮部51の上部の気相部と反応器3の開口部31aが連通部6aにより連結されている。凝縮部51は、生成気体g1が凝縮する温度に調整されており、生成気体g1が凝縮部51に流入すると凝縮して液化する。このとき、凝縮部51の温度の調整手段は、特に制限されず、冷却装置等により冷却してもよいし、自然放熱により冷却してもよい。
【0038】
反応器3と凝縮部51は、連通部6aを介して気密に連通しており、凝縮部51で生成気体g1が凝縮して液化すると、凝縮部51の内圧が低下するため、反応器3で化学蓄熱材2から脱離した生成気体g1は、圧力差により自然と凝縮部51側に移動し続けることができる。これにより、物質移動に係るエネルギー消費を少なくすることが可能となる。
【0039】
また、凝縮部51は、生成気体g1の液化のみを行うことができるものであればよいため、従来の化学蓄熱装置における蒸発・凝縮器と異なり、液化後の反応液Wを保持するスペースは不要である。したがって、凝縮部51としての空間をよりコンパクトにして、生成気体g1の凝縮に係るエネルギー消費を低減するとともに、エネルギー損失を抑制することが可能となる。
【0040】
凝縮部51で凝縮され、液化した後の反応液Wは、後述する液体保持部4に送られる。このとき、
図1に示すように、凝縮部51の重力方向下方側に液体保持部4を配置することで、凝縮部51から液体保持部4への反応液Wの移動は、重力を利用することが可能となる。これにより、物質移動に係るエネルギー消費を少なくすることが可能となる。
なお、凝縮部51と液体保持部4の境界構造については後述する。
【0041】
蒸発部52は、放熱時において、液体状態の反応液Wを蒸発させ、気体状態の反応気体g2として反応器3の化学蓄熱材2に供給するためのものであり、蒸発部52の気相部と反応器3の開口部31bが連通部6bにより連結されている。蒸発部52は、反応液Wが蒸発し、反応気体g2が生成する温度に調整されており、液体保持部4から反応液Wが蒸発部52に流入すると蒸発して気化する。このとき、蒸発部52の温度の調整手段は、特に制限されず、加熱装置等により加熱することが挙げられる。また、蒸発部52において、反応気体g2を生成させる他の手段の例としては、圧力調整機構により蒸発部52の内圧を低下させ、反応液Wを気化させるもの等が挙げられる。
【0042】
反応器3と蒸発部52は、連通部6bを介して気密に連通しており、蒸発部52で反応液Wを加熱して反応気体g2を生成すると、蒸発部52の内圧が上昇するため、反応気体g2は、圧力差により自然と反応器3側に移動し続けることができる。これにより、物質移動に係るエネルギー消費を少なくすることが可能となる。また、圧力調整機構により、反応液Wの気化を行う場合、反応器3側の内圧が蒸発部52側の内圧より低い状態とすることが挙げられる。このとき、後述するように、連通部6bにバルブV2を設けることで、バルブV2の開口により蒸発部52側の内圧を低下させることができるため、熱を加えることなく反応液Wが気化して反応気体g2になるとともに、圧力差により反応気体g2が反応器3側に自然と移動することになる。
【0043】
また、蒸発部52は、放熱時において、反応器3への必要供給量を満たす反応気体g2を生成するための反応液Wの気化を行うことができるものであればよいため、従来の化学蓄熱装置における蒸発・凝縮器と異なり、液化後の反応液W全てを保持するスペースは不要である。したがって、蒸発部52としての空間をよりコンパクトにして、反応液Wの気化(反応気体g2の生成)に係るエネルギー消費を低減するとともに、エネルギー損失を抑制することが可能となる。
【0044】
蒸発部52で気化される反応液Wは、後述する液体保持部4から送られる。このとき、
図1に示すように、液体保持部4の重力方向下方側に蒸発部52を配置することで、液体保持部4から蒸発部52への反応液Wの移動は、重力を利用することが可能となる。これにより、物質移動に係るエネルギー消費を少なくすることが可能となる。
なお、蒸発部52と液体保持部4の境界構造については後述する。
【0045】
また、本実施態様における熱交換部5は、連通部6により、反応器3と気密に接続されている。
連通部6は、反応器3の内部と熱交換部5とを連通し、連通部6内部を流体が移動できるものであれば、特に制限されず、例えば、配管などが挙げられる。
本実施態様における連通部6としては、
図1に示すように、反応器3と凝縮部51を接続し、生成気体g1が移動する連通部6aと、反応器3と蒸発部52を接続し、反応気体g2が移動する連通部6bとが挙げられる。
【0046】
本実施態様における連通部6a、6bには、生成気体g1の流出量及び反応気体g2の流入量を調整するためのバルブV1、V2を備えている。
ここで、生成気体g1の流出量をバルブV1で制限することにより、反応器3内の圧力を高めることができる。すなわち、バルブV1の開閉を制御することにより、反応器3内部の圧力をバルブV1の出口側(凝縮部51側)の圧力以上に維持するように調整することができる。これにより、反応器3から連通部6aを介した熱交換部5(凝縮部51)への生成気体g1の移動について、圧力差による移動を容易に行うことができる。
また、反応器3内部の圧力を出口側の圧力以上に維持することにより、化学蓄熱材2の温度を、反応器3の外部の圧力における反応温度よりも高い温度に維持することが可能となる。すなわち、生成気体g1の流出を制限することで反応器3における蓄熱反応を促進することができる。
また、上述したように、反応気体g2の流入量をバルブV2で制限することにより、蒸発部52の内圧と反応器3の内圧の圧力差を生じさせ、熱交換部5(蒸発部52)から連通部6bを介した反応器3への反応気体g2の移動について、圧力差による移動を容易に行うことができる。
【0047】
バルブV1、V2は、全開又は全閉の2段階で制御する制御弁でも、開口度を段階的に調整する制御弁でもよい。前者の制御弁では、簡素な構造で反応器3や熱交換部5の内圧を調整することができる。また、後者の制御弁では、反応器3や熱交換部5の内圧を厳密に調整できるという効果がある。
【0048】
(液体保持部)
液体保持部4は、化学蓄熱材2の反応に用いる反応液Wを保持するためのものである。また、液体保持部4は、熱交換部5と分離して設けられており、
図1に示すように、凝縮部51の重力方向下方側に配置され、蒸発部52の重力方向上方側に配置されている。
【0049】
液体保持部4は、反応液Wを保持することができるものであればよく、材質や構造については特に限定されない。例えば、気密性、耐圧性を有する貯水タンクとして公知の材質・構造を用いることができる。なお、本実施態様における液体保持部4は、反応液Wの保持に際し、温度及び圧力の測定や調節を行う各種設備を備えるものとしてもよいが、特に必須の構成ではなく、省略するものとしてもよい。
【0050】
液体保持部4と凝縮部51の境界構造としては、例えば、
図1に示すように、凝縮部51の下方側を漏斗状構造51aとし、この漏斗状構造51aから流出した反応液Wを、凝縮部51の下方側と液体保持部4の上方側を接続する配管L1を介し、液体保持部4内に導入するものが挙げられる。これにより、凝縮部51内で凝縮して液化した反応液Wが漏斗状構造51aにより集められ、重力により液体保持部4内に移動する。また、凝縮部51に漏斗状構造51aを設けることで、凝縮部51の空間を液体保持部4から一定程度区切るとともに、配管L1を介した反応液Wの移動をスムーズに行うことが可能となる。これにより、凝縮部51における冷却効率(液化効率)を高めるとともに、反応液Wの移動に係るエネルギー消費を低減させることが可能となる。
なお、凝縮部51の空間と液体保持部4との間を完全に区切るために、配管L1上にバルブV3を設けるものとしてもよい。このとき、バルブV3は、作業者の手動により適宜開口するものとしてもよく、バルブV3の開口に係る制御部を設け、定期的に開口する制御や、凝縮部51における液化効率に係るパラメータ(消費エネルギー量や反応液Wの液量等)を監視し、それに基づき開口する制御を行うものとしてもよい。
【0051】
液体保持部4と凝縮部51の境界構造については、液体保持部4と凝縮部51を分離し、凝縮部51から液体保持部4への反応液Wの移動を重力により行うことができるものであればよく、
図1に示すものに限定されない。なお、液体保持部4と凝縮部51の境界構造の他の例については、後述する。
【0052】
また、液体保持部4と蒸発部52の境界構造としては、
図1に示すように、液体保持部4の下方側を漏斗状構造4aとし、この漏斗状構造4aから流出した反応液Wを、液体保持部4の下方側と蒸発部52の上方側を接続する配管L2を介し、蒸発部52内に導入するものが挙げられる。これにより、液体保持部4に保持された反応液Wが漏斗状構造4aにより集められ、重力により蒸発部52内に移動する。また、液体保持部4に漏斗状構造4aを設け、配管L2を介した反応液Wの移動を行うことで、蒸発部52の上方における開口面を狭くし、蒸発部52の空間を液体保持部4から一定程度区切るとともに、配管L2を介した反応液Wの移動をスムーズに行うことが可能となる。これにより、蒸発部52における加熱効率(気化効率)を高めるとともに、反応液Wの移動に係るエネルギー消費を低減させることが可能となる。
なお、蒸発部52の空間と液体保持部4との間を完全に区切るために、配管L2上にバルブV4を設けるものとしてもよい。このとき、バルブV4は、作業者の手動により適宜開口するものとしてもよく、バルブV4の開口に係る制御部を設け、反応器3への必要供給量を満たす反応気体g2を供給するように開口する制御を行うものとしてもよい。なお、バルブV4の開口に係る制御部に入力するパラメータの種類については特に限定されない。例えば、反応器3本体あるいは熱交換機構32に設けられた温度計や圧力計の測定値を用いることなどが挙げられる。
【0053】
液体保持部4と蒸発部52の境界構造については、液体保持部4と蒸発部52を分離し、液体保持部4から蒸発部52への反応液Wの移動を重力により行うことができるものであればよく、
図1に示すものに限定されない。例えば、液体保持部4における漏斗状構造4aを省略し、単に配管L2により、液体保持部4と蒸発部52を接続するものとしてもよい。これにより、装置構造が簡略化される。
【0054】
[化学蓄熱装置を用いた蓄熱・放熱に係る操作]
図2及び
図3に基づき、本実施態様の化学蓄熱装置1Aにおける蓄熱・放熱に係る操作について説明する。なお、本操作に係る説明は、本発明の化学蓄熱材の蓄熱方法に係る説明に相当するものである。
【0055】
図2及び
図3は、本実施態様における化学蓄熱装置1Aにおける流体の物質移動に係る概略説明図である。ここで、
図2は、本実施態様における化学蓄熱装置1Aにおける蓄熱時の物質移動に係る概略説明図であり、
図3は、本実施態様における化学蓄熱装置1Aにおける放熱時の物質移動に係る概略説明図である。
図2及び
図3における矢印は、流体が物質移動する方向を示すものである。なお、
図2及び
図3における化学蓄熱装置1Aの構造は、
図1に示した構造と同様であり、各構造についての説明は省略する。
【0056】
まず、蓄熱に係る操作について説明する。
図2に示すように、蓄熱時には、反応器3における熱交換機構32に対し、熱供給用の熱媒体を供給する。また、バルブV1を開口し、反応器3と凝縮部51を連通する。これにより、熱交換機構32に供給された熱媒体により化学蓄熱材2が加熱され、蓄熱生成物と生成気体g1に分離して、化学蓄熱材2の反応工程が進行する。
生成気体g1は、連通部6a及びバルブV1を通過し、凝縮部51に移動する。凝縮部51に流入した生成気体g1は冷却され、液体状態の反応液Wを得る凝縮工程が進行する。このとき、凝縮部51では、コンパクトな空間で冷却操作を行うことが可能であり、冷却効率(液化効率)を高めるとともに、エネルギー損失を抑制することができる。また、凝縮部51において生成気体g1が凝縮して液化することで、反応器3の内圧よりも凝縮部51内の圧力が低下するため、生成気体g1は圧力差により凝縮部51内へ容易に移動する。これにより、移動に係るエネルギー消費を低減させることができる。
そして、凝縮部51で得られた反応液Wは、配管L1を介して液体保持部4に移動し、液体保持工程が進行する。このとき、反応液Wは重力により移動するため、移動に係るエネルギー消費を低減させることができる。
このように、反応器3における化学蓄熱材2の反応により生成した生成気体g1を凝縮部51で凝縮して、液化することで反応液Wを得た後、配管L1を介して反応液Wを液体保持部4に移動させることで、蓄熱反応が進行し、化学蓄熱材2への蓄熱が可能となる。
【0057】
なお、蓄熱反応を停止・終了させるタイミングについては特に限定されない。例えば、蓄熱反応が十分進行すると、化学蓄熱材2の反応による生成気体g1の発生が停止する。したがって、反応器3や連通部6a上に流量計や圧力計を設け、生成気体g1の流量や流速が低下あるいはゼロになった時点で蓄熱反応が終了したものとみなし、バルブV1を閉口し、反応器3の加熱を止めて蓄熱反応を終了させる操作を行うことが挙げられる。また、他の例としては、反応器3に温度計を設け、使用した熱媒体に由来する上限温度に達した時点で、蓄熱反応が終了したものとみなし、蓄熱反応を終了させる操作を行うことなどが挙げられる。
【0058】
次に、放熱に係る操作について説明する。
図3に示すように、放熱時には、液体保持工程により液体保持部4内に保持された反応液Wを蒸発部52に供給し、蒸発部52で反応液Wを気化させる手段(本実施態様では加熱装置)を作動させる。これにより、蒸発部52内の反応液Wが気化して、反応気体g2が生成し、蒸発工程が進行する。このとき、反応液Wは、配管L2を介して重力により液体保持部4から蒸発部52に移動するため、移動に係るエネルギー消費を低減させることができる。また、蒸発部52では、コンパクトな空間で加熱操作を行うことが可能であり、加熱効率(気化効率)を高めるとともに、エネルギー損失を抑制することができる。
そして、バルブV2を開口し、反応器3と蒸発部52を連通する。これにより、反応気体g2は、連通部6b及びバルブV2を通過し、反応器3に移動する。このとき、蒸発部52において反応液Wが蒸発して気化することで、反応器3の内圧よりも蒸発部52内の圧力が上昇するため、反応気体g2は圧力差により反応器3内へ容易に移動する。これにより、移動に係るエネルギー消費を低減させることができる。
さらに、反応器3内に流入した反応気体g2は、蓄熱生成物となった化学蓄熱材2と接触して、発熱反応が起こる。この発熱反応で得られた熱を、熱交換機構32を介して熱回収用の熱媒体により熱回収を行い、外部に放熱することで、化学蓄熱装置1Aを熱供給源として用いることができる。
このように、液体保持部4に保持した反応液Wを蒸発部52に供給し、蒸発部52で蒸発させて、気化することで反応気体g2を得た後、連通部6bを介して反応気体g2を反応器3に移動させることで、発熱反応が進行し、外部への放熱が可能となる。
【0059】
なお、発熱反応を停止・終了させるタイミングについては特に限定されない。例えば、発熱反応が十分進行すると、化学蓄熱材2の反応による熱の発生が停止する。したがって、反応器3に温度計を設け、使用した熱媒体に由来する下限温度に達した時点で、発熱反応が終了したものとみなし、バルブV2を閉口し、蒸発部52における気化(加熱)を止めて、発熱反応を終了させる操作を行うことなどが挙げられる。
【0060】
以上のように、本実施態様における化学蓄熱装置1A及び化学蓄熱材の蓄熱方法により、化学蓄熱材の反応に用いる反応液の保持に係る部分と、反応液に係る凝縮・蒸発を行う部分とを分離することで、反応液に係る凝縮・蒸発において、反応液全体を冷却・加熱する必要がなくなる。これにより、反応液の液化工程及び気化工程におけるエネルギー損失を低減させ、化学蓄熱の反応を有利に進めることが可能となる。
また、特に、化学蓄熱装置1Aの熱交換部が、凝縮部及び蒸発部を独立して備えることで、冷却・加温操作を独立して行うことができ、1カ所で冷却・加温操作を繰り返し行うよりも消費されるエネルギーを少なくすることができる。また、それぞれの操作に必要となる空間をコンパクトにすることが可能となるため、エネルギー損失をより一層抑制することが可能となる。
【0061】
[化学蓄熱装置のその他の態様]
以下に、本発明の化学蓄熱装置の別の態様について例示する。
〔第2の実施態様〕
図4は、本発明の第2の実施態様の化学蓄熱装置1Bの構造を示す概略説明図である。
この化学蓄熱装置1Bは、凝縮部51と液体保持部4の境界構造として、第1の実施態様の化学蓄熱装置1Aにおける漏斗状構造51a及び配管L1に代えて、容器C内に仕切り板51bを設けるものである。なお、第1の実施態様における化学蓄熱装置1Aと同様の構造については説明を省略する。
【0062】
本実施態様における仕切り板51bは、1つの容器C内を2つの空間に区画する仕切り部材として機能する。これにより、凝縮部51と液体保持部4を1つの容器C内で分離して設けることが可能となり、装置構造が簡略化される。
【0063】
仕切り板51bは、凝縮部51と液体保持部4を分離するとともに、凝縮部51で生成した反応液Wを液体保持部4に移動させる機構を有するものであればよい。
例えば、仕切り板51bとしては、開閉可能な構造やスライド移動が可能な構造とし、凝縮部51と液体保持部4を連通する開口部が定期あるいは不定期に形成されるようにすることが挙げられる。これにより、仕切り板51bにより凝縮部51と液体保持部4の間が区切られている間、凝縮部51では凝縮工程を効率的に進行させることが可能となる。一方、仕切り板51bが定期あるいは不定期に移動して開口部が形成されることで、生成した反応液Wは重力により液体保持部4に移動させることが可能となる。このとき、仕切り板51bにより形成される開口部の大きさについては、容易に変更することが可能となる。したがって、凝縮部51から液体保持部4への反応液Wの移動効率を高めることが容易となる。
【0064】
また、仕切り板51bの他の例としては、複数の孔を有する構造とすることが挙げられる。これにより、仕切り板51bを移動させる機構を設けることなく、凝縮部51と液体保持部4を1つの容器C内で分離することができるとともに、凝縮部51で生成した反応液Wは仕切り板51bの孔を介し、重力により液体保持部4に連続的に移動させることができる。
【0065】
この化学蓄熱装置1Bによれば、1つの容器C内において、凝縮部51と液体保持部4を簡便な構造で分離させることができ、化学蓄熱装置の省スペース化や低コスト化を図ることが可能となる。
【0066】
〔第3の実施態様〕
図5は、本発明の第3の実施態様の化学蓄熱装置1Cの構造を示す概略説明図である。
この化学蓄熱装置1Cは、第1の実施態様の化学蓄熱装置1Aにおける連通部6a、6bに代えて、三方バルブV5を備えた連通部6cを設けるものである。なお、第1の実施態様における化学蓄熱装置1Aと同様の構造については説明を省略する。
【0067】
本実施態様における化学蓄熱装置1Cは、反応器3の上部に設けた1つの開口部31cと、凝縮部51と、蒸発部52とを三方バルブV5を備えた連通部6cにより接続するものである。これにより、蓄熱・放熱に係る操作の切り替えが容易になる。
【0068】
また、
図5に示すように、開口部31cと三方バルブV5の間に、バルブV6を設けることで、反応器3と、熱交換部5(及び液体保持部4)とを切り離すことが容易となり、反応器3は、化学蓄熱装置1Cから取り外し可能な構造物とすることができる。反応器3を取り外し可能な構造物とすることにより、化学蓄熱材2を保持する反応器3のみを、放熱が必要な熱需要地に移送することができる。
【0069】
この化学蓄熱装置1Cによれば、蓄熱・放熱に係る操作の切り替えが容易になる。また、反応器3を化学蓄熱装置1Cから取り外すことが容易となるため、反応器3の熱供給源としての利用価値を高めることが可能となる。
【0070】
なお、上述した実施態様は化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法の一例を示すものである。本発明に係る化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法を変形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の化学蓄熱装置及び化学蓄熱材の蓄熱方法は、エンジンなどの駆動機関のほか、工場や燃焼処理を行う設備(ごみ焼却施設等)など、稼働に際して熱の発生を伴う熱源からの排熱(廃熱)を有効利用する手段として好適に利用される。
【符号の説明】
【0072】
1A,1B,1C…化学蓄熱装置、2…化学蓄熱材、3…反応器、31a,31b,31c…開口部、32…熱交換機構、4…液体保持部、4a…漏斗状構造、5…熱交換部、51…凝縮部、51a…漏斗状構造、51b…仕切り板、52…蒸発部、6,6a,6b,6c…連通部、C…容器、g1…生成気体、g2…反応気体、L1,L2…配管、V1,V2,V3,V4,V5,V6…バルブ、W…反応液