(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109968
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】セルピン融合ポリペプチド及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20220721BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220721BHJP
C07K 14/76 20060101ALI20220721BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20220721BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220721BHJP
A61K 38/57 20060101ALI20220721BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220721BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220721BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220721BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220721BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220721BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220721BHJP
C12N 15/14 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/18
C07K14/76
C07K16/24
C07K14/47
A61K38/57
A61K47/64
A61K47/68
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P37/02
A61P31/00
C12N15/12 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/14
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069976
(22)【出願日】2022-04-21
(62)【分割の表示】P 2020018783の分割
【原出願日】2012-06-28
(31)【優先権主張番号】61/502,055
(32)【優先日】2011-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/570,394
(32)【優先日】2011-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/577,204
(32)【優先日】2011-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/638,168
(32)【優先日】2012-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519050439
【氏名又は名称】インヒブルクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダン ピー.エッケルマン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン シー.ティマー
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エル.ヌイ
(72)【発明者】
【氏名】グラント ビー.ゲンター
(72)【発明者】
【氏名】クイン ディベロー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC05
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA18
4C084DC32
4C084DC34
4C084MA05
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC411
4C084ZC412
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA70
4H045DA76
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】より強力な抗炎症性タンパク質及び抗感染症タンパク質を提供する。
【解決手段】分子、特にポリペプチド、より特にセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列と、次の:Fcポリペプチド又はFcポリペプチドに由来するアミノ酸配列;サイトカイン標的ポリペプチド又はサイトカイン標的ポリペプチドに由来する配列;WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAP含有ポリペプチドに由来する配列;或いはアルブミンポリペプチド又は血清アルブミンポリペプチドに由来するアミノ酸配列、のうちの少なくとも1種類を含む第二のポリペプチドを含んでいる融合タンパク質を提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の:
免疫グロブリンFcポリペプチド又は免疫グロブリンFcポリペプチドに由来するアミノ酸配列;
サイトカイン標的ポリペプチド又はサイトカイン標的ポリペプチドに由来する配列;
WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAPドメイン含有ポリペプチドに由来する配列;又は
アルブミンポリペプチド又は血清アルブミンポリペプチドに由来するアミノ酸配列、
のうちの少なくとも1つから成る第二のポリペプチドに作動できるように連結された、少なくとも1つのヒトセルピンポリペプチドを含んでいる単離された融合タンパク質。
【請求項2】
次の:
免疫グロブリンFcポリペプチド;
サイトカイン標的ペプチド;
ヒト分泌白血球プロテイナーゼインヒビター(SLPI)ポリペプチド;及び
免疫グロブリンFcポリペプチド及びヒトSLPIポリペプチド、ここで、該SLPIポリペプチドはヒトSLPIのWAP2ドメインを含む;又は
ヒト血清アルブミン(HSA)ポリペプチド、
のうちの少なくとも1つから成る第二のポリペプチドに作動できるように連結された、少なくとも1つのα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチドを含んでいる単離された融合タンパク質。
【請求項3】
次の:
免疫グロブリンFcポリペプチド;
サイトカイン標的ペプチド;
ヒトElafinポリペプチド;
ヒトElafinポリペプチド及び免疫グロブリンFcポリペプチド、ここで、該ElafinポリペプチドはヒトElafinのWAPドメインを含む;又は
ヒト血清アルブミン(HSA)ポリペプチド、
のうちの少なくとも1つから成る第二のポリペプチドに作動できるように連結された、少なくとも1つのα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチドを含んでいる単離された融合タンパク質。
【請求項4】
前記ヒトセルピンポリペプチドが、ヒトα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチドであるか、又はヒトAATポリペプチドに由来する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記AATポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を含んでいる、請求項2~4のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項6】
前記AATポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列を含むAATの反応部位ループを含んでいるか、又は配列番号32若しくは33のアミノ酸配列を含むAATの突然変異反応部位ループを含んでいる、請求項2~4のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項7】
前記免疫グロブリンFcポリペプチドが、ヒトFcポリペプチドである、請求項2~4のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項8】
前記ヒトFcポリペプチドが、ヒトIgMポリペプチド又はヒトIgG Fcポリペプチドである、請求項7に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項9】
前記ヒトIgG Fcポリペプチドが、ヒトIgG1 Fcポリペプチド、ヒトIgG2 Fcポリペプチド、ヒトIgG3 Fcポリペプチド、又はヒトIgG4 Fcポリペプチドである、請求項8に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項10】
前記免疫グロブリンFcポリペプチドが、配列番号3、4、5、6、及び7から成る群から選択されるアミノ酸配列を含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項11】
前記セルピンポリペプチド及び免疫グロブリンFcポリペプチドが、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して作動できるように連結される、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項12】
前記AATポリペプチド及び免疫グロブリンFcポリペプチドが、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して作動できるように連結される、請求項2~4のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項13】
前記ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方が、ペプチド配列を含んでいる、請求項11又は請求項12に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項14】
前記融合タンパク質が、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、及び配列番号21から選択されるアミノ酸配列を含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項15】
前記サイトカイン標的ポリペプチドが、ヒトサイトカイン受容体ポリペプチド若しくはヒトサイトカイン受容体ポリペプチドの誘導体、サイトカイン受容体に結合するサイトカイン標的ポリペプチド、又はヒトサイトカインに結合するサイトカイン標的ポリペプチドである、請求項1~6のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項16】
前記ヒトサイトカイン受容体ポリペプチドが、複数のサブユニットを含んでいる、請求項15に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項17】
前記ヒトサイトカイン受容体が、TNFα、IgE、IL-12、IL-23、IL-6、IL-1α、IL-1β、IL-17、IL-13、IL-12及びIL-23のp40サブユニット、IL-4、IL-10、IL-2、IL-18、IL-27、又はIL-32の受容体である、請求項15又は16に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項18】
前記サイトカイン受容体が、ヒトTNFαの受容体である、請求項17に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項19】
前記ヒトサイトカインが、TNFα、IgE、IL-12、IL-23、IL-6、IL-1α、IL-1β、IL-17、IL-13、IL-12及びIL-23のp40サブユニット、IL-4、IL-10、IL-2、IL-18、IL-27、又はIL-32である、請求項15に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項20】
前記サイトカインがヒトTNFαである、請求項19に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項21】
前記サイトカイン標的ポリペプチドが、抗体又は抗体断片である、請求項15に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項22】
前記抗体又は抗体断片が、キメラ、ヒト化、或いは完全なヒト抗体又は抗体断片である、請求項21に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項23】
前記融合タンパク質が、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、及び配列番号27から選択されるアミノ酸配列を含んでいる、請求項1~6のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項24】
前記WAPドメイン含有ポリペプチド配列が、配列番号8、9及び10から成る群から選択されるアミノ酸配列を含むSLPIポリペプチド配列を含んでいる、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項25】
前記WAPドメイン含有ポリペプチド配列が、配列番号11、12及び13から成る群から選択されるアミノ酸配列を含むエラフィンポリペプチド配列を含んでいる、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項26】
前記融合タンパク質が、セルピンポリペプチド、WAPドメイン含有ポリペプチド、及び免疫グロブリンFcポリペプチドを、該セルピンポリペプチド、WAPドメイン含有ポリペプチド、及び免疫グロブリンFcポリペプチドのうちの少なくとも2つが、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して作動できるように連結されるように含んでいる、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項27】
前記融合タンパク質が、AATポリペプチド、SLPIポリペプチド、及び免疫グロブリンFcポリペプチドを、該AATポリペプチド、SLPIポリペプチド、及び免疫グロブリンFcポリペプチドのうちの少なくとも2つが、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して作動できるように連結されるように含んでいる、請求項2に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項28】
前記融合タンパク質が、AATポリペプチド、Elafinポリペプチド、及び免疫グロブリンFcポリペプチドを、該AATポリペプチド、Elafinポリペプチド、及び免疫グロブリンFcポリペプチドのうちの少なくとも2が、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して作動できるように連結されるように含んでいる、請求項3に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項29】
前記融合タンパク質が、2つのAATポリペプチドと免疫グロブリンFcポリペプチドを含んでいる、請求項2~4のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項30】
2つのAATポリペプチドのそれぞれが、融合タンパク質がN末端からC末端に向かって:AATポリペプチド-免疫グロブリンFcポリペプチド-AATポリペプチド、の構造配置を有するように、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して免疫グロブリンFcポリペプチドに作動できるように連結されている、請求項29に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項31】
ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方が、ペプチド配列を含む、請求項26~30のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項32】
前記融合タンパク質が、配列番号28のアミノ酸配列を含んでいる、請求項2に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項33】
前記融合タンパク質が、配列番号29のアミノ酸配列を含んでいる、請求項2に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項34】
前記アルブミンポリペプチドが、ヒト血清アルブミン(HSA)ポリペプチドであるか、又はHSAポリペプチドに由来する、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項35】
前記HSAポリペプチドが、配列番号14のアミノ酸配列又は配列番号15のアミノ酸配列を含んでいる、請求項2、3又は34のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項36】
前記HSAポリペプチドが、HSAのドメイン3を含んでいる、請求項2、3又は34のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項37】
前記セルピンが、アルブミン結合ポリペプチドを介してHSAに作動できるように連結されている、請求項34に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項38】
前記AATポリペプチドが、アルブミン結合ポリペプチドを介してHSAに作動できるように連結されている、請求項2又は3に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項39】
前記アルブミン結合ポリペプチドが、抗体若しくは抗体断片であるか、又は抗体若しくは抗体断片に由来する、請求項37又は38に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項40】
前記抗体又は抗体断片が、キメラ、ヒト化、或いは完全なヒト抗体又は抗体断片である、請求項39に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項41】
前記アルブミン結合ポリペプチドがペプチドである、請求項37又は38に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項42】
前記アルブミン結合ポリペプチドが、連鎖球菌Gタンパク質のドメイン3であるか、又は連鎖球菌Gタンパク質のドメイン3に由来する配列である、請求項47に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項43】
前記セルピンが、HSAポリペプチドに共有結合で連結されている、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項44】
前記セルピンが、HSAポリペプチドに非共有結合で連結されている、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項45】
前記融合タンパク質が、配列番号30又は31のアミノ酸配列を含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項46】
前記免疫グロブリンFcポリペプチドが、FcRn結合を増強するように修飾されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項47】
前記免疫グロブリンFcポリペプチドが、突然変異:Met252Tyr、Ser254Thr、Thr256Glu、Met428Leu又はAsn434Serのうちの少なくとも1つを含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項48】
請求項1~47のいずれか1項に記載の融合タンパク質を投与することを含む、それを必要としている対象における異常なセリンプロテアーゼ発現又は活性に関連する疾患又は障害の症状を処置又は緩和する方法。
【請求項49】
請求項1~48のいずれか1項に記載の融合タンパク質を投与することを含む、それを必要としている対象における感染症の危険性を低減すると同時に、炎症性疾患又は障害の炎症又は症状を処置又は緩和する方法。
【請求項50】
請求項1~49のいずれか1項に記載の融合タンパク質を投与することを含む、それを必要としている対象における感染症の危険性を低減する方法。
【請求項51】
前記対象がヒトである、請求項48~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記炎症性疾患又は障害が、次の:肺気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、アレルギー性喘息、嚢胞性繊維症、肺癌、虚血再灌流障害、心臓移植後の虚血/再潅流障害、心筋梗塞、関節リウマチ、敗血症性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、I型及び/又はII型糖尿病、肺炎、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、創傷治癒、全身性エリテマトーデス、及び多発性硬化症から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記感染症が、細菌感染症、真菌感染症、又はウイルス感染症から選択される、請求項50に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2011年6月28日に出願された米国特許仮出願第61/502055号;2011年12月14日に出願された米国特許仮出願第61/570394号;及び2011年12月19日に出願された米国特許仮出願第61/577204号;並びに2012年4月25日に出願された米国特許仮出願第61/638168号の利益を主張する。これらの出願それぞれの内容全体を参照により本明細書中に援用する。
本発明の分野
【0002】
本願発明は、分子、特にポリペプチド、より特にセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列と第二のポリペプチドを含んでいる融合タンパク質に関する。さらに、本発明は、セルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列、第二のポリペプチド、及び第三のポリペプチドを含んでいる融合タンパク質に関する。特に、本願発明は、少なくとも1種類のセルピンポリペプチド及び第二のポリペプチドを含んでいる融合タンパク質、又は少なくとも1種類のセルピンポリペプチド、第二のポリペプチド、及び第三のポリペプチドを含んでいる融合タンパク質に関し、ここで、本発明の融合タンパク質の第二及び第三のポリペプチドが、以下の:Fcポリペプチド又はFcポリペプチドに由来するアミノ酸配列;サイトカイン標的ポリペプチド又はサイトカイン標的ポリペプチドに由来する配列;WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAP含有ポリペプチドに由来する配列;或いはアルブミンポリペプチド又は血清アルブミンポリペプチドに由来するアミノ酸配列の少なくとも1種類である。本願発明はまた、さまざまな治療及び診断指標にそのような分子の使用方法、及びそのような分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
異常セリンプロテアーゼ活性又はプロテアーゼ対プロテアーゼ阻害物質の不均衡が、プロテアーゼ媒介性の組織破壊及び炎症反応に通じる。従って、異常セリンプロテアーゼ活性及び/又はプロテアーゼ対プロテアーゼ阻害物質の不均衡を標的とする治療薬と治療法の必要性が存在している。さらに、促進された治療効果は、異常サイトカインシグナル及びセリンプロテアーゼ活性の減少によって得ることができる。加えて、セルピンタンパク質が抗感染症薬活性を実証した一方で、標的炎症性サイトカインが感染症の危険を増強することが示された。本願発明の融合タンパク質には、炎症性サイトカイン活性を抑制し、且つ、感染症の危険を制限する可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列(ポリペプチド1)及び第二のポリペプチド(ポリペプチド2)を含んでいる。さらに、本明細書中に記載した融合タンパク質は、セルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列(ポリペプチド1)、第二のポリペプチド(ポリペプチド2)、及び第三のポリペプチド(ポリペプチド3)を含んでいる。本明細書中で互換的に使用される場合、「融合タンパク質」と「融合ポリペプチド」という用語は、少なくとも第二のポリペプチド又は少なくとも第二のポリペプチドに由来するアミノ酸配列に作動できるように連結されたセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列を指す。融合タンパク質の個別化された要素は、例えば直接的な結合、中間体又はスペーサーペプチドの使用、リンカー領域の使用、ヒンジ領域の使用又はリンカーとヒンジ領域の両方の使用を含めたさまざまな方法のいずれでも連結できる。いくつかの実施形態において、リンカー領域は、ヒンジ領域の配列内に含まれていてもよいが、その代わりに、ヒンジ領域は、リンカー領域の配列内に含まれていてもよい。好ましくは、リンカー領域はペプチド配列である。例えば、リンカーペプチドは、0~40アミノ酸の範囲、例えば、0~35アミノ酸、0~30アミノ酸、0~25アミノ酸、又は0~20アミノ酸の範囲に含まれる。好ましくは、ヒンジ領域はペプチド配列である。例えば、ヒンジペプチドは、0~75アミノ酸の範囲、例えば0~70アミノ酸、0~65アミノ酸又は0~62アミノ酸の範囲に含まれる。融合タンパク質がリンカー領域及びヒンジ領域の両方を含む実施形態において、好ましくはリンカー領域及びヒンジ領域のそれぞれがペプチド配列である。これらの実施形態において、ヒンジペプチドとリンカーペプチドは一緒に、0~90アミノ酸の範囲、例えば、0~85アミノ酸又は0~82アミノ酸の範囲に含まれる。
【0005】
いくつかの実施形態において、セルピンポリペプチド及び第二のポリペプチドは、中間結合タンパク質(intermediate binding protein)を通して連結される。いくつかの実施形態において、融合タンパク質のセルピンベースの部分と第二のポリペプチド部分は、非共有結合により連結されてもよい。
【0006】
いくつかの実施形態において、本発明による融合タンパク質は、N末端からC末端方向へ又はC末端からN末端方向へ、以下の式のうちの1つを有している:
ポリペプチド1(a)-ヒンジm-ポリペプチド2(b)
ポリペプチド1(a)-リンカーn-ポリペプチド2(b)
ポリペプチド1(a)-リンカーn-ヒンジm-ポリペプチド2(b)
ポリペプチド1(a)-ヒンジm-リンカーn-ポリペプチド2(b)
ポリペプチド1(a)-ポリペプチド2(b)-ポリペプチド3(c)
ポリペプチド1(a)-ヒンジm-ポリペプチド2(b)-ヒンジm-ポリペプチド3(c)
ポリペプチド1(a)-リンカーn-ポリペプチド2(b)-リンカーn-ポリペプチド3(c)
ポリペプチド1(a)-ヒンジm-リンカーn-ポリペプチド2(b)-ヒンジm-リンカーn-ポリペプチド3(c)
ポリペプチド1(a)-リンカーn-ヒンジm-ポリペプチド2(b)-リンカーn-ヒンジm-ポリペプチド3(c)
式中、nは0~20の整数であり、mは1~62までの整数であり、そして、a、b、及びcは少なくとも1の整数である。これらの実施形態には、上記の式、及びその変形又は組み合わせのいずれもが含まれる。例えば、前記式のポリペプチドの順序には、ポリペプチド3(c)-ポリペプチド1(a)-ポリペプチド2(b)、ポリペプチド2(b)-ポリペプチド3(c)-ポリペプチド1(a)、又はその変形や組み合わせもまた含まれる。
【0007】
いくつかの実施形態において、ポリペプチド1配列としては、セルピンポリペプチドが挙げられる。セルピンは、プロテアーゼを阻害することができる1連のタンパク質として最初に同定された、類似構造を有するタンパク質の一群である。本明細書中に提供された融合タンパク質における使用に好適なセルピンタンパク質としては、制限されることのない例によると、α1アンチトリプシン(AAT)、アンチトリプシン関連タンパク質(SERPINA2)、α1抗キモトリプシン(SERPINA3)、カリスタチン(SERPINA4)、単球好中球エラスターゼ阻害剤(SERPINB1)、PI-6(SERPINB6)、アンチトロンビン(SERPINC1)、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1(SERPINE1)、α2抗プラスミン(SERPINF2)、補体1阻害物質(SERPING1)、及びニューロセルピン(SERPINI1)が挙げられる。
【0008】
いくつかの実施形態において、ポリペプチド1配列は、α1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチド配列又はAATに由来するアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、ポリペプチド1配列は、AATタンパク質の一部を含んでいる。いくつかの実施形態において、ポリペプチド1配列は、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分は、少なくとも以下のアミノ酸配列を含んでいる:
【化1】
【0009】
好ましい実施形態において、AATポリペプチド配列又はAATに由来するアミノ酸配列は、ヒトAATポリペプチド配列であるか又はヒトAATポリペプチド配列に由来する。
【0010】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、以下のアミノ酸配列を有する完全長のヒトAATポリペプチド配列を含んでいる:
【化2】
【0011】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。
【0012】
いくつかの実施形態において、AATポリペプチド配列又はAATポリペプチドに由来するアミノ酸配列は、GenBank受入番号AAB59495.1、CAJ15161.1、P01009.3、AAB59375.1、AAA51546.1、CAA25838.1、NP_001002235.1、CAA34982.1、NP_001002236.1、NP_000286.3、NP_001121179.1、NP_001121178.1、NP_001121177.1、NP_001121176.16、NP_001121175.1、NP_001121174.1、NP_001121172.1、及び/又はAAA51547.1に示されているヒトAATポリペプチド配列の1若しくは複数に由来する。
【0013】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、1若しくは複数の突然変異を含んでいる。例えば、融合タンパク質は、融合タンパク質のセルピン部分に少なくとも1つのメチオニン(Met)残基における突然変異を含んでいる。これらのMet突然変異において、Met残基は任意のアミノ酸によって置換される。例えば、Met残基は、例えば、ロイシン(Leu、L)などの疎水性側鎖を有するアミノ酸によって置換される。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、(単数若しくは複数の)Met突然変異が、本発明の融合タンパク質の酸化とその後の阻害活性の不活性化を予防する。いくつかの実施形態において、Met残基は、例えば、グルタミン酸(Glu、E)などの荷電残基で置換できる。いくつかの実施形態において、Met突然変異は、AATポリペプチドの358位である。例えば、Met突然変異は、Met358Leu(M358L)である。いくつかの実施形態において、Met突然変異は、AATポリペプチドの351位である。例えば、Met突然変異は、Met351Glu(M351E)である。いくつかの実施形態において、例えば、Met突然変異は、AATポリペプチドの351位及び358位におけるものであって、例えば、Met突然変異は、Met351Glu(M351E)及びMet358Leu(M358L)である。例えば、融合AATポリペプチドの反応部位ループのこの変異型は、以下の配列を有する:
【化3】
いくつかの実施形態において、Met突然変異は、AATポリペプチドの351位及び358位におけるものであって、例えば、Met突然変異は、Met351Leu(M351L)及びMet358Leu(M358L)である。例えば、融合AATポリペプチドの反応部位ループのこの変異型は、以下の配列を有する:
【化4】
【0014】
いくつかの実施形態において、セルピン融合タンパク質の第二のポリペプチド(ポリペプチド2)は、Fcポリペプチドであるか、又はFcポリペプチドに由来する。これらの実施形態は、本明細書中ではまとめて「セルピン-Fc融合タンパク質」と呼ばれる。本明細書中に記載したセルピン-Fc融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、及びFcポリペプチド又はFcポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-Fc融合タンパク質は、1つのセルピンポリペプチドを含んでいる。他の実施形態において、セルピン-Fc融合タンパク質は、2つ以上セルピンポリペプチドを含んでおり、そして、これらの実施形態は、本明細書中ではまとめて「セルピン(a’)-Fc融合タンパク質」と呼ばれ、その中で、(a’)は少なくとも2の整数である。いくつかの実施形態において、セルピン(a’)-Fc融合タンパク質内のそれぞれのセルピンポリペプチドは、同じアミノ酸配列を含んでいる。他の実施形態において、セルピン(a’)-Fc融合タンパク質内のそれぞれのセルピンポリペプチドは、異なったアミノ酸配列を有するセルピンポリペプチドを含んでいる。セルピン(a’)-Fc融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、その融合タンパク質内のあらゆる位置に配置できる。
【0015】
いくつかの実施形態において、セルピン-Fc融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分は、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-Fc融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型は、少なくとも配列番号32又は配列番号33のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-Fc融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくとも、配列番号2のアミノ酸配列を有する完全長のヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-Fc融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、配列番号2又は32若しくは33のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。
【0016】
いくつかの実施形態において、セルピン-Fc融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、AATポリペプチド配列を含んでおり、そしてそれ又はAATポリペプチドに由来するアミノ酸配列は、GenBank受入番号AAB59495.1、CAJ15161.1、P01009.3、AAB59375.1、AAA51546.1、CAA25838.1、NP_001002235.1、CAA34982.1、NP_001002236.1、NP_000286.3、NP_001121179.1、NP_001121178.1、NP_001121177.1、NP_001121176.16、NP_001121175.1、NP_001121174.1、NP_001121172.1、及び/又はAAA51547.1に示されているヒトAATポリペプチド配列の1若しくは複数に由来する。
【0017】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、ヒトFcポリペプチド、例えばヒトIgG Fcポリペプチド配列又はヒトIgG Fcポリペプチド配列に由来するアミノ酸配列である。例えば、いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、ヒトIgG1 Fcポリペプチド又はヒトIgG1 Fcポリペプチド配列に由来するアミノ酸配列である。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、ヒトIgG2 Fcポリペプチド又はヒトIgG2 Fcポリペプチド配列に由来するアミノ酸配列である。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、ヒトIgG3 Fcポリペプチド又はヒトIgG3 Fcポリペプチド配列に由来するアミノ酸配列である。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、ヒトIgG4 Fcポリペプチド又はヒトIgG4 Fcポリペプチド配列に由来するアミノ酸配列である。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、ヒトIgM Fcポリペプチド又はヒトIgM Fcポリペプチド配列に由来するアミノ酸配列である。
【0018】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を有するヒトIgG1 Fcポリペプチド配列を含んでいる:
【化5】
【0019】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトIgG1 Fcポリペプチド配列を含んでいる。
【0020】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、FcRn結合を強化するために突然変異又は修飾されている。これらの実施形態において、突然変異又は修飾されたFcポリペプチドは、以下の突然変異を含んでいる:Kabat付番システムを使用すると、Met252Tyr、Ser254Thr、Thr256Glu(M252Y、S256T、T256E)又はMet428Leu、及びAsn434Ser(M428L、N434S)。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチド部分は、Fc媒介性二量体化を妨げるために、突然変異又は別の方法で修飾される。これらの実施形態において、融合タンパク質は、事実上、単量体である。
【0021】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を有するヒトIgG2 Fcポリペプチド配列を含んでいる:
【化6】
【0022】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、
融合タンパク質のFcポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトIgG2 Fcポリペプチド配列を含んでいる。
【0023】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を有するヒトIgG3 Fcポリペプチド配列を含んでいる:
【化7】
【0024】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトIgG3 Fcポリペプチド配列を含んでいる。
【0025】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を有するヒトIgG4 Fcポリペプチド配列を含んでいる:
【化8】
【0026】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトIgG4 Fcポリペプチド配列を含んでいる。
【0027】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を有するヒトIgM Fcポリペプチド配列を含んでいる:
【化9】
【0028】
本発明の融合タンパク質がFcポリペプチドを含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質のFcポリペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトIgM Fcポリペプチド配列を含んでいる。
【0029】
本明細書中に提供された融合タンパク質のいくつかの実施形態において、セルピン融合タンパク質の第二のポリペプチド(ポリペプチド2)は、サイトカイン標的ポリペプチドであるか、又はサイトカイン標的ポリペプチドに由来する。これらの実施形態は、本明細書中でまとめて「セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質」と呼ばれる。本明細書中に記載したセルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列、及びサイトカイン標的ポリペプチド、又はその誘導体を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質は、1つのセルピンポリペプチドを含んでいる。他の実施形態において、セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質は、2つ以上セルピンポリペプチドを含んでおり、そして、これらの実施形態は、本明細書中でまとめて「セルピン(a’)-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質」と呼ばれ、その中で、(a’)は少なくとも2の整数である。いくつかの実施形態において、セルピン(a’)-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質内のそれぞれのセルピンポリペプチドは、同じアミノ酸配列を含んでいる。他の実施形態において、セルピン(a’)-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質内のそれぞれのセルピンポリペプチドは、異なったアミノ酸配列を有するセルピンポリペプチドを含んでいる。
【0030】
いくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質のサイトカイン標的ポリペプチドは、サイトカイン受容体であるか、又はサイトカイン受容体に由来する。好ましい実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチド又はサイトカイン受容体に由来するアミノ酸配列は、ヒトサイトカイン受容体配列であるか、又はヒトサイトカイン受容体配列に由来する。他の実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、抗体又は抗体断片、例えば、抗サイトカイン抗体又は抗サイトカイン抗体断片である。好ましい実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチド又は抗体若しくは抗体断片に由来するアミノ酸配列は、キメラ抗体配列、ヒト化抗体配列、又は完全なヒト抗体配列に由来する。抗体断片という用語には、一本鎖、Fab断片、F(ab’)2断片、scFv、scAb、dAb、単一ドメイン重鎖抗体、及び単一ドメイン軽鎖抗体が含まれる。
【0031】
他の実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、サイトカイン受容体に結合し、その受容体へのサイトカインの結合を妨げる。他の実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、抗体又は抗体断片、例えば、抗サイトカイン受容体抗体又は抗サイトカイン受容体抗体断片である。
【0032】
いくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分は、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくとも、AATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型は、少なくとも配列番号32又は配列番号33のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくとも、配列番号2のアミノ酸配列を有する完全長のヒトAATポリペプチド配列を含んでいるか、又は少なくとも、配列番号2のアミノ酸配列を有する完全長のヒトAATポリペプチド配列に由来する。いくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、配列番号2又は32若しくは33のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。
【0033】
いくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、GenBank受入番号AAB59495.1、CAJ15161.1、P01009.3、AAB59375.1、AAA51546.1、CAA25838.1、NP_001002235.1、CAA34982.1、NP_001002236.1、NP_000286.3、NP_001121179.1、NP_001121178.1、ΝΡ_001121177.1、NP_001121176.16、NP_001121175.1、NP_001121174.1、NP_001121172.1、及び/又はAAA51547.1に示されたヒトAATポリペプチド配列であるか又はそれらのうちの1若しくは複数に由来する、AATポリペプチド配列又はAATポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。
【0034】
セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質には、セルピン-Fc融合タンパク質の一部を組み込むことができる。例えば、抗体はFcポリペプチドを含んでいる。そのため、サイトカイン標的ポリペプチドがサイトカイン標的抗体であるいくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質には、セルピン-Fc融合タンパク質の一部を組み込む。さらに、治療的に有用なものである受容体融合タンパク質のほとんどが、Fc融合タンパク質である。これにより、セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質がセルピン-サイトカイン受容体融合タンパク質であるいくつかの実施形態において、セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質には、セルピン部分及びサイトカイン受容体部分に加えて、Fcポリペプチドを組み込むこともできる。
【0035】
セルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質がFcポリペプチド配列を含んでいるいくつかの実施形態において、該Fcポリペプチド配列は、配列番号3、4、5、6、又は7のいずれか1つのアミノ酸配列を含んでいるか、又はそれに由来する。セルピン-サイトカイン標的融合タンパク質がFcポリペプチド配列を含んでいるいくつかの実施形態において、該Fcポリペプチド配列は、配列番号3、4、5、6、又は7のアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、セルピンポリペプチドとサイトカイン標的ポリペプチドは、リンカー領域、例えば、グリシン-セリンリンカー又はグリシン-セリンベースのリンカーを介して作動できるように連結されている。いくつかの実施形態において、セルピンポリペプチドとサイトカイン標的ポリペプチドは、ヒンジ領域を介して作動できるように連結されている。いくつかの実施形態において、セルピンポリペプチドとサイトカイン標的ポリペプチドは、リンカー領域及びヒンジ領域を介して作動できるように連結されている。他の実施形態において、セルピンポリペプチドとサイトカイン標的ポリペプチドは、直接結合されている。
【0036】
本明細書中に提供された融合タンパク質のいくつかの実施形態において、セルピン融合タンパク質の第二のポリペプチド(ポリペプチド2)は、乳清酸性タンパク質(WAP)ドメイン含有ポリペプチド、又はWAPドメイン含有ポリペプチドに由来するアミノ酸配列である。これらの実施形態は、本明細書中でまとめて「セルピン-WAPドメイン融合タンパク質」と呼ばれる。セルピン-WAPドメイン融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又は少なくともセルピンに由来するアミノ酸配列、WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAPドメイン含有ポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質は、1つのセルピンポリペプチドを含んでいる。他の実施形態において、セルピン-WAP標的ポリペプチド融合タンパク質は、2つ以上のセルピンポリペプチドを含んでいる。これらの実施形態は、本明細書中でまとめて「セルピン(a’)-WAPドメイン融合タンパク質」と呼ばれ、その中で、(a’)は少なくとも2の整数である。いくつかの実施形態において、セルピン(a’)-WAPドメイン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、同じアミノ酸配列を含んでいる。他の実施形態において、セルピン(a’)-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、異なったアミノ酸配列を有するセルピンポリペプチドを含んでいる。
【0037】
これらのセルピン-WAPドメイン融合タンパク質は、WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAPドメイン含有ポリペプチドであるポリペプチド配列若しくはWAPドメイン含有ポリペプチドに由来するポリペプチド配列を含んでいる。WAPドメインは、特徴的な4-ジスルフィドコア配置(4-ジスルフィドコアモチーフとも呼ばれる)内に見られる8つのシステインを含めた50アミノ酸から成る進化的に保存された配列モチーフである。WAPドメイン配列モチーフは、多くのタンパク質におけるセリンプロテアーゼ阻害活性によって特徴づけられる機能的モチーフである。
【0038】
本明細書中で提供された融合タンパク質での使用に好適なWAPドメイン含有ポリペプチドとしては、制限されることのない例によると、分泌型白血球プロテアーゼ阻害物質(SLPI)、Elafin、及びEppinが挙げられる。
【0039】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質のWAPドメイン含有ポリペプチド配列は、分泌型白血球プロテアーゼ阻害物質(SLPI)ポリペプチド配列又はSLPIに由来するアミノ酸配列を含んでいる。これらの実施形態は、本明細書中では「セルピン-SLPI由来融合タンパク質」と呼ばれる。いくつかの実施形態において、SLPIポリペプチド配列は、例えば、WAP2ドメイン又はその小部分などのSLPIタンパク質の一部を含む。好ましい実施形態において、SLPIポリペプチド配列又はSLPIに由来するアミノ酸配列は、ヒトSLPIポリペプチド配列であるか又はヒトSLPIポリペプチド配列に由来する。
【0040】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質のSLPI配列又はSLPI由来配列は、以下のアミノ酸配列を有する完全長のヒトSLPIポリペプチド配列を含んでいる:
【化10】
【0041】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質のSLPI配列又はSLPI由来配列は、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトSLPIポリペプチド配列を含んでいる。
【0042】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質のSLPI配列又はSLPI由来配列は、完全長のヒトSLPIポリペプチド配列の一部を含んでおり、そこで、該一部が以下のアミノ酸配列を有する:
【化11】
【0043】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質のSLPI配列又はSLPI由来配列は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトSLPIポリペプチド配列を含んでいる。
【0044】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質のSLPI配列又はSLPI由来配列は、完全長のヒトSLPIポリペプチド配列のWAP2ドメインを含んでおり、そこで、該WAP2ドメインは以下のアミノ酸配列を有する:
【化12】
【0045】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質のSLPI配列又はSLPI由来配列は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトSLPIポリペプチド配列を含んでいる。
【0046】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、SLPIポリペプチド配列又はSLPIポリペプチドに由来するアミノ酸配列は、GenBank受入番号CAA28187.1、NP_003055.1、EAW75869.1、P03973.2、AAH20708.1、CAB64235.1、CAA28188.1、AAD19661.1、及び/又はBAG35125.1に示されているヒトSLPIポリペプチド配列の1若しくは複数であるか又はそれらに由来する。
【0047】
本発明のセルピン-SLPI融合タンパク質のいくつかの実施形態において、SLPIポリペプチド配列又は融合タンパク質のSLPI由来配列は、メチオニン(Met)残基にて修飾されるヒトSLPIポリペプチド配列を含んでいる。これらのMet突然変異において、Met残基は任意のアミノ酸によって置換できる。例えば、Met残基は、例えば、ロイシン(Leu、L)又はバリン(Val、V)などの疎水性側鎖を有するアミノ酸によって置換できる。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、(単数若しくは複数の)Met突然変異は、本発明の融合タンパク質の酸化と、その後の阻害活性の不活性化を防ぐ。いくつかの実施形態において、Met突然変異は、SLPIポリペプチドの98位に存在する。例えば、セルピン-SLPIの修飾SLPIポリペプチド配列は、配列番号8に突然変異M98L又はM98Vを含んでいる。
【0048】
他の実施形態において、融合タンパク質のWAPドメイン含有ポリペプチド配列は、エラフィンポリペプチド配列又はエラフィンに由来するアミノ酸配列を含んでいる。これらの実施形態は、本明細書中に「セルピン-エラフィン融合タンパク質」と呼ばれる。いくつかの実施形態において、エラフィンポリペプチド配列は、例えば、WAPドメイン又はその小部分などのエラフィンタンパク質の一部を含んでいる。好ましい実施形態において、エラフィンポリペプチド配列又はエラフィンに由来するアミノ酸配列は、ヒトエラフィンポリペプチド配列であるか又はそれらに由来する。
【0049】
セルピン-エラフィン融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質は、以下のアミノ酸配列を有する完全長のヒトエラフィンポリペプチド配列を含んでいる:
【化13】
【0050】
セルピン-エラフィン融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトエラフィンポリペプチド配列を含んでいる。
【0051】
セルピン-エラフィン融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質は、完全長のヒトエラフィンポリペプチド配列の一部を含んでおり、そこで、該一部が以下のアミノ酸配列を有する:
【化14】
【0052】
セルピン-エラフィン融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトエラフィンポリペプチド配列を含んでいる。
【0053】
セルピン-エラフィン融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質は、完全長のヒトエラフィンポリペプチド配列のWAPドメインを含んでおり、そこで、該WAPドメインは以下のアミノ酸配列を有する:
【化15】
【0054】
セルピン-エラフィン融合タンパク質のいくつかの実施形態において、融合タンパク質は、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトエラフィンポリペプチド配列を含んでいる。
【0055】
セルピン-エラフィン融合タンパク質のいくつかの実施形態において、エラフィンポリペプチド配列又はエラフィンポリペプチドに由来するアミノ酸配列は、GenBank受入番号P19957.3、NP_002629.1、BAA02441.1、EAW75814.1、EAW75813.1、Q8IUB2.1、及び/又はNP_542181.1に示されているヒトエラフィンポリペプチド配列の1若しくは複数に由来する。
【0056】
他の実施形態において、融合タンパク質のWAPドメイン含有ポリペプチド配列は、Eppinポリペプチド配列又はEppinに由来するアミノ酸配列を含んでいる。これらの実施形態は、本明細書中に「セルピン(a’)-Eppin融合タンパク質」と呼ばれる。いくつかの実施形態において、セルピン-Eppin融合タンパク質のEppinポリペプチド配列は、例えば、WAPドメイン又はその小部分などのEppinタンパク質の一部を含んでいる。好ましい実施形態において、Eppinポリペプチド配列又はEppinに由来するアミノ酸配列は、ヒトEppinポリペプチド配列であるか又はヒトEppinポリペプチド配列に由来する。
【0057】
セルピン-Eppin融合タンパク質のいくつかの実施形態において、Eppinポリペプチド配列又はEppinポリペプチドに由来するアミノ酸配列は、GenBank受入番号O95925.1、NP_065131.1、AAH44829.2、AAH53369.1、AAG00548.1、AAG00547.1、及び/又はAAG00546.1に示されているヒトEppinポリペプチド配列の1若しくは複数であるか又はそれらに由来する。
【0058】
いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分は、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-WAP融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型は、少なくとも配列番号32又は配列番号33のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有する完全長のヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、配列番号2又は32若しくは33のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。
【0059】
いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、GenBank受入番号AAB59495.1、CAJ15161.1、P01009.3、AAB59375.1、AAA51546.1、CAA25838.1、NP_001002235.1、CAA34982.1、NP_001002236.1、NP_000286.3、NP_001121179.1、NP_001121178.1、ΝΡ_001121177.1、NP_001121176.16、NP_001121175.1、NP_001121174.1、NP_001121172.1、及び/又はAAA51547.1に示されたヒトAATポリペプチド配列の1若しくは複数であるAATポリペプチド配列、又はそこに示されたヒトAATポリペプチド配列の1若しくは複数に由来するAATポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。
【0060】
いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質はまた、Fcポリペプチド又はFcポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。これらの実施形態は、本明細書中ではまとめて「セルピン-Fc-WAPドメイン融合タンパク質」と呼ばれる。これらの実施形態において、この専門用語によっていずれか特定の順序と解釈されないものとする。例えば、融合タンパク質の順序は、セルピン-Fc-WAPドメイン、セルピン-WAPドメイン-Fc、又はそれらの組み合わせのあらゆる変形形態であることができる。本明細書中に記載したセルピン-Fc-WAPドメイン融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAPドメイン含有ポリペプチドに由来するアミノ酸配列、及びFcポリペプチド又はFcポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。
【0061】
いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質がFcポリペプチド配列を含んでいるとき、Fcポリペプチド配列は、配列番号3~7のアミノ酸配列を有することができる。他の実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質がFcポリペプチド配列を含んでいるとき、Fcポリペプチド配列は、配列番号3~7のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であることができる。いくつかの実施形態において、セルピン-WAPドメイン融合タンパク質はまた、アルブミンポリペプチド又はアルブミンポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含むこともできる。これらの実施形態は、本明細書中ではまとめて「セルピン-アルブミン-WAPドメイン融合タンパク質」と呼ばれる。これらの実施形態において、この専門用語によって特定の順序と解釈されないものとする。例えば、融合タンパク質の順序は、セルピン-アルブミン-WAPドメイン、セルピン-WAPドメイン-アルブミン、又はそれらの組み合わせのあらゆる変形形態であることができる。本明細書中に記載したセルピン-アルブミン-WAPドメイン融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAPドメイン含有ポリペプチドに由来するアミノ酸配列、及びアルブミンポリペプチド又はアルブミンポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。
【0062】
セルピン-WAPドメイン融合タンパク質がアルブミンポリペプチド配列を含んでいるいくつかの実施形態において、アルブミンポリペプチド配列は、本明細書中に記載した配列番号14~15のアミノ酸配列を含んでいる。セルピン-WAPドメイン融合タンパク質がアルブミンポリペプチド配列を含んでいる他の実施形態において、アルブミンポリペプチド配列は、配列番号14又は15を有するアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0063】
いくつかの実施形態において、セルピン融合タンパク質の第二のポリペプチド(ポリペプチド2)は、アルブミンポリペプチドであるか又はアルブミンポリペプチドに由来する。これらの実施形態は、本明細書中ではまとめて「セルピン(a’)-アルブミン融合タンパク質」と呼ばれる。本明細書中に記載したセルピン-アルブミン融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、及びアルブミンポリペプチド又はアルブミンポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。加えて、本願発明は、セルピン-アルブミン結合ポリペプチド融合タンパク質に関し、そこで、該アルブミンは中間結合分子を介してセルピンに作動できるように連結されている。本明細書中では、セルピンは、ヒト血清アルブミンに非共有結合しているか又は共有結合している。
【0064】
本発明の融合タンパク質がアルブミンポリペプチド配列を含んでいる実施形態において、融合タンパク質のアルブミンポリペプチド配列は、ヒト血清アルブミン(HSA)ポリペプチド又はHSAに由来するアミノ酸配列である。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、以下のアミノ酸配列を有するHSAポリペプチド配列を含んでいる:
【化16】
【0065】
本発明の融合タンパク質がアルブミンポリペプチド配列を含んでいる実施形態において、融合タンパク質のアルブミンポリペプチド配列は、配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%の>、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒト血清アルブミンポリペプチド配列を含んでいる。
【0066】
本発明の融合タンパク質がアルブミンポリペプチド配列を含んでいる実施形態において、融合タンパク質のアルブミンポリペプチド配列は、以下のアミノ酸配列を有するヒト血清アルブミンポリペプチド配列のドメイン3を含んでいる:
【化17】
【0067】
本発明の融合タンパク質がアルブミンポリペプチド配列を含んでいる実施形態において、融合タンパク質のアルブミンポリペプチド配列は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%の>、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒト血清アルブミンポリペプチド配列を含んでいる。
【0068】
本発明の融合タンパク質がアルブミンポリペプチド配列を含んでいるいくつかの実施形態において、融合タンパク質は、中間アルブミン結合ポリペプチドを介してヒト血清アルブミンに連結される。アルブミン結合ポリペプチドは、抗体若しくは抗体断片であるか、又は抗体若しくは抗体断片に由来し得る。好ましい実施形態において、アルブミン結合ポリペプチド又は抗体若しくは抗体断片に由来するアミノ酸配列は、キメラ抗体配列、ヒト化抗体配列、又は完全なヒト抗体配列に由来する。抗体断片という用語には、一本鎖、Fab断片、F(ab’)2断片、scFv、scAb、dAb、単一ドメイン重鎖抗体、及び単一ドメイン軽鎖抗体が含まれる。加えて、アルブミン結合ポリペプチドはアルブミン結合ペプチドであり得る。本発明の別の実施形態は、セルピン-アルブミン結合ポリペプチド融合物であり、そこで、該アルブミン結合ポリペプチドは、連鎖球菌(Streptococcal)Gタンパク質のドメイン3であるか、又は連鎖球菌Gタンパク質のドメイン3に由来する配列である。
【0069】
いくつかの実施形態において、セルピン(a’)-アルブミン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分は、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-アルブミン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくともAATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、AATタンパク質の反応部位ループ部分の変異型は、少なくとも配列番号32又は配列番号33のアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-アルブミン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有する完全長のヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、セルピン-アルブミン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、配列番号2又は32若しくは33のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヒトAATポリペプチド配列を含んでいる。
【0070】
いくつかの実施形態において、セルピン-アルブミン融合タンパク質のセルピンポリペプチドは、GenBank受入番号AAB59495.1、CAJ15161.1、P01009.3、AAB59375.1、AAA51546.1、CAA25838.1、NP_001002235.1、CAA34982.1、NP_001002236.1、NP_000286.3、NP_001121179.1、NP_001121178.1、ΝΡ_001121177.1、NP_001121176.16、NP_001121175.1、NP_001121174.1、NP_001121172.1、及び/又はAAA51547.1に示されているヒトAATポリペプチド配列の1若しくは複数であるか、若しくはそれらに由来するAATポリペプチド配列又はAATポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。
【0071】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、例えば、1若しくは複数のタンパク分解性切断部位を突然変異させることによって、タンパク質分解性切断を増やすか、そうでなければ、阻害するように修飾される。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、融合タンパク質のFcエフェクター機能を変更するか、そうでなければ、調節するように修飾されてはいるが、変更のない融合タンパク質と比較して結合及び阻害機能を同時に持ち続けている。Fcエフェクター機能としては、制限されることのない例によると、Fc受容体結合性、Fc受容体結合時の炎症誘発性メディエータ放出の予防、食作用、修飾された抗体依存性細胞媒介細胞障害作用(ADCC)、修飾された補体依存性細胞障害作用(CDC)、FcポリペプチドのAsn297残基(Kabat付番のEUインデックス、Kabat et al 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest)における修飾されたグリコシル化反応が挙げられる。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、Fc受容体結合性に影響を及ぼすように突然変異されるか、そうでなければ、修飾される。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、FcRn結合を増強するように修飾される。FcRnへの結合を増強するFcポリペプチド突然変異の例は、Met252Tyr、Ser254Thr、Thr256Glu(M252Y、S256T、T256E)(Kabat付番、Dall'Acqua et al 2006, J. Biol Chem Vol 281(33) 23514-23524)、又はMet428Leu及びAsn434Ser(M428L、N434S)(Zalevsky et al 2010 Nature Biotech, Vol. 28(2) 157-159)(Kabat et al 1991 Sequences of Proteins of Immunological InterestのEUインデックス)である。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチド部分は、Fc媒介性二量体化を妨げるように突然変異されるか、そうでなければ、修飾される(Ying et al 2012 J. Biol Chem 287(23): 19399-19408)。これらの実施形態において、融合タンパク質は、事実上、単量体である。
【0072】
本明細書中に提供される融合タンパク質及びその変異型は、例えば、ヒト好中球エラスターゼ(NE)、炎症反応中に好中球によって分泌されるケモトリプシン折り畳みセリンプロテアーゼなどのセリンプロテアーゼを阻害することによって、阻害活性を提供した。本明細書中に提供された融合タンパク質は、セリンプロテアーゼ発現、又はセリンプロテアーゼ、例えば、ヒトセリンプロテアーゼとの結合、そうでなければ、相互作用による活性を、完全に又は部分的に低減するか、そうでなければ、調節する。セリンプロテアーゼの生物学的機能の低減又は調節は、完全に又は部分的に、融合タンパク質と、ヒトセリンプロテアーゼタンパク質、ポリペプチド、及び/又はペプチドとの相互作用によるものである。融合タンパク質の存在下でセリンプロテアーゼ発現又は活性のレベルが、本明細書中に記載した融合タンパク質との相互作用、例えば、結合がない場合のセリンプロテアーゼ発現又は活性のレベルと比較して、少なくとも95%、例えば、96%、97%、98%、99%又は100%減少するとき、融合タンパク質がセリンプロテアーゼの発現又は活性を完全に阻害すると見なされる。融合タンパク質の存在下でセリンプロテアーゼの発現又は活性のレベルが、本明細書中に記載した融合タンパク質との相互作用、例えば、結合がない場合のセリンプロテアーゼの発現又は活性のレベルと比較して、95%未満、例えば、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、75%、80%、85%又は90%減少するとき、融合タンパク質がセリンプロテアーゼの発現又は活性をに部分的に阻害したと見なされる。
【0073】
本明細書中に記載した融合タンパク質は、さまざまな治療学的、診断的、及び予防的適応症で有用である。例えば、融合タンパク質は、対象のさまざまな疾患及び障害を治療するのに有用である。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質を含めたセルピン融合タンパク質は、α1アンチトリプシン(AAT)欠乏、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、アレルギー性喘息、嚢胞性繊維症、肺癌、例えば、心臓移植後の虚血/再潅流損傷を含めた虚血再灌流障害、心筋梗塞、関節リウマチ、敗血症性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、I型及び/又はII型糖尿病、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、肺炎、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、創傷治癒、全身性エリテマトーデス、及び多発性硬化症から選択される疾患又は障害に罹患しているか又はその危険性が高いと判断された対象の疾患又は障害の症状を治療、緩和する、それらの進行を改善する及び/又は遅らせるのに有用である。
【0074】
本発明による医薬組成物は、修飾された融合タンパク質や他の変異型を含めた本発明の融合タンパク質を、好適な担体と共に含んでいる。これらの医薬組成物は、例えば、診断キットなどのキットに含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1A】本発明によるセルピン-Fc融合タンパク質のいくつかの実施形態の略図である。セルピンは、融合タンパク質内の任意の位置に配置できる。2つ以上のセルピンポリペプチドを組み込んだセルピン-Fc融合タンパク質もまた示されている。
【
図1B】血清由来AAT(レーン1)、AAT-Fc1(レーン2、ヒトIgG1 Fc)、及びAAT-EL-Fc1(レーン3、AAT内のMet351Glu、Met358Leu突然変異、ヒトIgG1 Fc)を示すSDS-PAGEゲルの写真である。
【
図1C】AAT-Fc融合タンパク質による好中球エラスターゼ活性の阻害を示すグラフである。
【
図1D】Fcポリペプチドあたり2つのAATポリペプチドを有する4価のAAT-Fc-AATを示すSDS-PAGEゲルの写真である。
【
図1E】4価のAAT-Fc-AAT融合タンパク質による好中球エラスターゼ活性の阻害を示すグラフである。
【
図1F】プロテインA樹脂からの低pH溶出の効果を実証するグラフであり、その中で、低pHで溶出されたAAT-Fc融合タンパク質のNE阻害能力は、大幅に減少している。
【
図1G】二重突然変異体であるAAT-EL-Fc(Met351Glu、Met358Leu突然変異)が、野性型AAT及び単独突然変異体AAT-EM-Fc(Met351Glu)と比較して、Η
2O
2不活性化(conc.)に対して耐性であることを示すグラフである。
【
図1H】10mg/kgタンパク質を投与したラット(3匹のラット/試験タンパク質)においてAAT-Fcと比較した、血清由来AAT(sdAAT)の血清クリアランス速度を示すグラフである。AAT-Fcの半減期は、sdAATの半減期より実質的に長い。
【0076】
【
図2A】本発明のセルピン-サイトカイン標的融合タンパク質のいくつかの実施形態の略図である。セルピンは、抗体の重鎖、軽鎖、又は両方に融合されることができる。セルピン-サイトカイン受容体融合タンパク質もまた示されている。
【
図2B】D2E7抗体(レーン1)、及び重鎖に融合した-AATを有するD2E7抗体(レーン2)を示すSDS-PAGEゲルの写真である。
【
図2C】AATに融合したD2E7抗体による好中球エラスターゼ活性の阻害を示すグラフである。血清由来AATが正の対照として示されている一方で、D2E7抗体単独はNE阻害の負の対照として示されている。
【0077】
【
図3A】セルピン-Fc-WAP融合タンパク質のいくつかの実施形態の略図である。
【
図3B】AAT-Fc-ELAFIN(レーン1)及びAAT-Fc-SLPI(レーン2)を示すSDS-PAGEゲルの写真である。
【
図3C】AAT-Fc-ELAFIN融合タンパク質及びAAT-Fc-SLPI融合タンパク質による好中球エラスターゼ活性の阻害を示すグラフである。AAT-Fc融合タンパク質及び血清由来AATが比較のために含まれている。
【0078】
【
図4A】AAT-HSA融合タンパク質のいくつかの実施形態の略図である。
【
図4B】AAT-HSA融合物を示すSDS-PAGEゲルの写真である。
【
図4C】血清由来AATと比較したAAT-HSAによる好中球エラスターゼ活性の阻害を示すグラフである。 発明の詳細な説明
【0079】
ヒト好中球エラスターゼ(NE)は、炎症中に好中球によって分泌されるキモトリプシン折り畳みセリンプロテアーゼである。NEの異常活性は、肺気腫及び肺線維症につながるエラスチン組織の進行性の分解及び肺の胞状構造の緩やかな破壊をもたらす(Lungarella et al 2008 Int. J. Biochem Cell Biol 40: 1287)。多くの場合、誤ったNE活性は、その天然の阻害物質であるα1アンチトリプシン(AAT)によるプロテアーゼの不均衡のためである。この不均衡は、喫煙者及び嚢胞性線維症(CF)又は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を患っている患者の肺で観察されるような、肺内への高い好中球浸入をもたらし得る。逆に、通常ATTが肝臓内に凝集し、蓄積させる点突然変異の結果としてのAATの欠乏は、肺を歯止めが利いていないNE活性に晒されたままにする。AAT欠乏を患っている個体は、肺気腫、COPD、肝臓疾患、及び他の多数の病状の危険性が高い。
【0080】
AAT欠乏は、(α1財団の概算によると)約10万人のアメリカ人に影響を及ぼし、そして、罹患者の多くが30代~40代で亡くなっている。現在、ATT欠乏の治療のためにFDAによって承認された薬物はほんの数種類しか存在していない(Prolastin(登録商標)、Aralast(商標)、Zemaira(登録商標)、Glassia(商標))。各薬物はプールされているヒト血漿に由来する天然のAATであるが、それは、予期された臨床的需要にこたえるには不十分であるように見える。さらに、これらの製品は、短い血清中半減期(約5日間のT1/2)しかないので、高い投与量(60mg/kg体重)での毎週の点滴を必要とする。これらの薬物の現在の市場は、約400百万ドルと見られている。AAT欠乏を患っている95%もの個人が診断されないままであるという推定、並びにこれらの薬物には、AAT欠乏ではない個人の高NE活性を特徴とする症状(例えば、嚢胞性繊維症(CF)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、喫煙誘発性肺気腫、及び/又はCOPD)の効果的な治療法になる可能性があるという事実に基づいて、AAT様薬物の市場は、実質的により大きいはずである。
【0081】
AATは、広範囲抗炎症活性を有することが示唆された(Tilg et al 1993 J Exp Med 178: 1629 - 1636, Libert et al 1996 Immunol 157:5126 -5129, Pott et al, Journal of Leukocyte Biology 85 2009, Janciauskiene et al 2007 J. Biol Chem 282(12): 8573-8582, Nita et al 2007 Int J Biochem Cell Biol 39: 1 165 -1176)。最近、AATには、一般的に推奨されている炎症性肺症状の他に、多くのヒトの病状の処置に有効である可能性があるとする証拠が増えてきた。ヒトAATが、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の臨床的及び組織病理学的徴候からマウスを保護することが示され、それが多発性硬化症又は全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患の治療候補であることが示唆された(Subramanian et al 201 1 Metab Brain Dis 26: 107-113)。血清AATは、移植片対宿主病(GVHD)の齧歯動物モデルにおいて活性を示し(Tawara et al 2011 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109: 564-569, Marcondes et al 2011 Blood Nov 3; 118(18):5031-9)、そしてそれが、ステロイド無反応性急性GVHDを患っている個人を処置するのにAATを使用するヒト臨床試験につながった(NCT01523821)。さらに、AATは、I型及びII型糖尿病の動物モデルにおいて有効であって、そして、炎症を緩和し、小島細胞をアポトーシスから保護し、小島細胞同種移植片を長持ちさせることを可能にした(Zhang et al 2007 Diabetes 56: 1316-1323, Lewis et al 2005 Proc Natl Acad Sci USA 102: 12153-12158, Lewis et al 2008 Proc Natl Acad Sci USA 105: 16236 -16241, Kalis et al 2010 Islets 2:185 - 189)。現在、血清由来AAT製品を使用したI型糖尿病の早期ヒト臨床試験が多数存在している(NCT01183468、NCT01319331、NCT01304537)。
【0082】
現在の血清由来AAT製品は、多くの精製を受け、且つ、病原性ウイルスの除去を確実にするために試験しているが、しかしながら、感染症性物質の伝播の危険性を完全に排除できていない。そのうえ、血清は限られており、そしてどれが、血清由来AATの生産能力を制限する。血清由来製品の懸念事項及び生産の問題に対処する試みは、遺伝子組み換えAATの発現を目指していた。しかしながら、作業から20年後であっても、治療的に実行可能な遺伝子組み換えAATの作出は上市に至っていない(Karnaukhova et al 2006 Amino Acids 30: 317)。血清由来製品のように、遺伝子組み換えバージョンのAATも短い血清中半減期、低い生産率、及び乏しい肺分布に悩まされている。
【0083】
本発明の融合タンパク質は、未修飾のAAT分子と比較して、機能性が高くなった。AATポリペプチドの、新生児Fcレセプター(FcRn)と相互作用する第二のポリペプチドとの融合が、血清中半減期を延長する役割を果たし、多くの必要な投薬利益を患者に提供する。融合タンパク質のこれらのFcRn相互作用ポリペプチドとしては、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、若しくはIgMに由来する免疫グロブリン(Ig)Fcポリペプチド、又はヒトアルブミンの誘導体が挙げられる。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、酸化による不活性化に対して分子をより耐性にする突然変異を有するAAT部分を組み込んでいる。例えば、Met351Glu、Met358Leu(AAT-EL-Fc)は、H
2O
2酸化による不活性化に対する抵抗性が実証している(
図1G)。AATが天然の抗炎症性タンパク質である一方で、本発明のいくつかの実施形態は、AATポリペプチドとサイトカイン標的ポリペプチドの融合によって高い炎症緩和能力を提供する。AAT及び第二のポリペプチドからの二元的な抗炎症性機能のカップリングは、それら自体のいずれかのポリペプチドに比べて、強力な治療用タンパク質をより多く提供する。さらに、AATが抗感染症活性をカップリングすることで、ほとんどのサイトカイン標的生物の感染症リスクが軽減する。いくつかの実施形態は、AATポリペプチドとWAPドメイン含有ポリペプチドの融合によって、より強力な抗炎症性タンパク質及び抗感染症タンパク質を提供する。
本発明の融合タンパク質は、すばらしい治療的有用性を有しており、且つ、現在の血清由来AAT製品より優れていると予想される。
【0084】
遺伝子組み換えAATの半減期を延長するために、予想されるタンパク質産物がFcドメインがあとに続いたAAT(AAT-Fc(IgG1)、AAT-Fc(IgG2)、AAT-Fc(IgG3)、AAT-Fc(IgG4)、AAT-Fc(IgM))、又はHSAがあとに続いたAATとなるように、組換えDNA技術を、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、又はHSAのFcドメインと融合したAAT遺伝子を作り出すのに使用した。いくつかのタンパク質、タンパク質領域又はペプチドへのHSAのFcドメインの融合が、それらの半減期を延長する場合があることは知られていたが(例えば、Jazayeri et al. BioDrugs 22, 11-26, Huang et al. (2009) Curr Opin Biotechnol 20, 692-699, Kontermann et al. (2009) BioDrugs 23, 93-109, Schmidt et al. (2009) Curr Opin Drug Discov Devel 12, 284-295を参照のこと)、AATに融合されたFcドメイン又はHSAが、適切な折り畳みとNE阻害活性の保持を可能にするか、又は遺伝子組み換えAATの半減期を延長する場合があるかは知られていなかった。本発明の融合タンパク質は、NEの強力な阻害物質であり、延長された血清中半減期を有し、且つ、いくつかの実施形態において酸化に対して耐性であることが示されている。他の実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、サイトカイン標的ポリペプチド、及びWAPドメイン含有ポリペプチドを含めた他の機能性ポリペプチドの取り込みによって異なった特性を有している。
【0085】
本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、及び第二のポリペプチドを含んでいる。いくつかの実施形態において、例えば、本発明は、ヒトIgG1-Fc、IgG2-Fc、IgG3-Fc、IgG4-Fc、IgM-Fc、又はHSA誘導体に融合したセルピンポリペプチドを提供する。本明細書中に記載したセルピン融合物は、制限されることのない例によると、α1アンチトリプシン(AAT)欠乏、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、アレルギー性喘息、嚢胞性繊維症、肺癌、例えば、心臓移植後の虚血/再潅流損傷を含めた虚血再灌流障害、心筋梗塞、関節リウマチ、敗血症性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、I型及び/又はII型糖尿病、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、肺炎、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、創傷治癒、全身性エリテマトーデス、及び多発性硬化症を含めたさまざまな適応症を処置するのに有用であると予想される。
【0086】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともα1アンチトリプシン(AAT)のポリペプチド又はAATに由来するアミノ酸配列、及び第二のポリペプチドを含んでいる。例えば、本発明は、ヒトIgG1-Fc、IgG2-Fc、IgG3-Fc、IgG4-Fc、IgM-Fc、又はHSA誘導体に融合させたα1アンチトリプシン(AAT)を提供する。
【0087】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来するアミノ酸配列、及びサイトカイン標的ポリペプチド又はサイトカイン標的ポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。例えば、本発明は、ヒトサイトカイン受容体又はその誘導体に融合されたセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来する配列を提供する。本発明の別の実施形態は、サイトカイン標的抗体、例えば、抗サイトカイン抗体、又はサイトカイン標的抗体に由来する配列、例えば、抗サイトカイン抗体、又はサイトカイン標的抗体の断片に由来する配列、例えば、抗サイトカイン抗体の断片に融合されたセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来する配列を提供する。例えば、本発明は、サイトカイン標的ポリペプチドに融合されたセルピンポリペプチド又はセルピンポリペプチドに由来する配列を提供するが、そこで、該サイトカイン標的ポリペプチドが以下のヒトサイトカイン:TNFα、IgE、IL-12、IL-23、IL-6、IL-1α、IL-1β、IL-17、IL-13、IL-4、IL-10、IL-2、IL-18、IL-27、又はIL-32のいずれかに結合する。
【0088】
例えば、いくつかの実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、TNFαを標的とし、以下のTNFα標的ポリペプチドに由来する又は以下のTNFα標的ポリペプチドに由来する配列のいずれかを含んでいる:Remicade(登録商標)、Humira(登録商標)、Simponi(登録商標)、Cimiza(登録商標)、Enbrel(登録商標)又はATN-103及びATN-192。
【0089】
例えば、いくつかの実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、IgEを標的とし、以下のIgE標的ポリペプチド又は以下のIgE標的ポリペプチドに由来する配列のいずれかを含んでいる:Xolair又はFcεRI。
【0090】
例えば、いくつかの実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、IL-12及びIL-23の共有されたp40サブユニットを標的とし、Stelara(登録商標)ポリペプチド又はStelara(登録商標)ポリペプチドに由来する配列を含んでいる。
【0091】
例えば、サイトカイン標的ポリペプチドStelara(登録商標)は、IL-13を標的とし、CDP7766ポリペプチド又はCDP7766ポリペプチドに由来する配列を含んでいる。
【0092】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチド又はAATに由来するアミノ酸配列、及びサイトカイン標的ポリペプチド又はサイトカイン標的ポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。例えば、本発明は、サイトカイン標的ポリペプチドと融合されたα1アンチトリプシン阻害物質(AAT)を提供するが、そこで、該サイトカイン標的ポリペプチドが以下のヒトサイトカイン:TNFα、IgE、IL-6、IL-1α、IL-1β、IL-12、IL-17、IL-13、IL-23、IL-4、IL-10、IL-2、IL-18、IL-27、又はIL-32、のいずれかに結合する。
【0093】
いくつかの実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、サイトカイン受容体に結合し、サイトカインの結合を妨げる。例えば、本発明は、サイトカイン受容体標的抗体に融合されたセルピンを含んでいる。例えば、本発明は、サイトカイン標的ポリペプチドに融合されたα1アンチトリプシン阻害物質(AAT)を提供しりが、そこで、該サイトカイン標的ポリペプチドは、以下のヒトサイトカイン:TNFα、IgE、IL-6、IL-1α、IL-1β、IL-12、IL-17、IL-13、IL-23、IL-12及びIL-23のp40サブユニット、IL-4、IL-10、IL-2、IL-18、IL-27、又はIL-32、のいずれかの受容体に結合する。
【0094】
例えば、いくつかの実施形態において、サイトカイン標的ポリペプチドは、IL-6受容体を標的とし、Actemra(登録商標)ポリペプチド(特許公報EP0628639に記載)若しくはALX-0061ポリペプチド(WO2010/115998に記載)、又はActemra(登録商標)ポリペプチド若しくはALX-0061ポリペプチドに由来する配列を含んでいる。
【0095】
例えば、サイトカイン標的ポリペプチドActemra(登録商標)は、IL-6受容体を標的とし、トシリズマブポリペプチド又はトシリズマブポリペプチドに由来する配列を含んでいる。
【0096】
タンパク質治療による炎症性サイトカイン及び免疫刺激物質の標的化が、多数の炎症状における臨床的成功を実証した。サイトカイン標的作用物質に使用される最も一般的なタンパク質は、可溶性サイトカイン受容体、並びにモノクローナル抗体及びその断片である。TNFα標的生物製剤、Remicade(登録商標)、Humira(登録商標)、Simponi(登録商標)、Cimiza(登録商標)及びEnbrel(登録商標)、並びにIL-12/23p40標的抗体、Stelara(登録商標)によって証明されるように、サイトカインを標的化する顕著な欠点は、これらの患者における感染症の危険性の増大である。これは、患者で免疫抑制にをもたらす炎症性サイトカインの標的化の共通した問題になる。AAT及び他のセルピンタンパク質は、抗感染症活性及び消炎活性の両方が実証されているところが興味深い。これにより、本願発明のセルピン-サイトカイン標的ポリペプチド融合タンパク質は、異常なサイトカイン活性を抑制できる一方で、感染症の危険を緩和する。
【0097】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、セルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、WAPドメイン含有ポリペプチド又はWAPドメイン含有ポリペプチドに由来するアミノ酸配列、及びFcポリペプチド又はFcポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。例えば、本発明は、任意の機能的な組み合わせで一緒に作動できるように連結されたセルピンポリペプチド、WAPドメイン含有ポリペプチド及びヒトIgG1-Fc、IgG2-Fc、IgG3-Fc、IgG4-Fc又はIgM-Fc誘導体を提供する。いくつかの実施形態において、WAPドメイン含有タンパク質は、ヒトSLPIであるか又はヒトSLPIに由来する。他の実施形態において、WAPドメイン含有タンパク質は、ヒトELAFINであるか又はヒトELAFINに由来する。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチド又はAATに由来するアミノ酸配列、及びSLPIポリペプチド又はSLPIに由来するアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともAATポリペプチド又はAATに由来するアミノ酸配列、及びELAFINポリペプチド又はElafinに由来するアミノ酸配列を含んでいる。
【0098】
SPLI及びElafinは、セリンプロテアーゼ阻害活性を示すWAPドメイン含有タンパク質である。これらの両タンパク質は、機能が抗炎症性である。加えて、これらのタンパク質は、細菌、ウイルス、及び真菌の多くの株に対して広い抗感染症能力を有する。
【0099】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともセルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、及びヒト血清アルブミン(HSA)ポリペプチド又はHSAポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。本発明の更なる実施形態は、セルピン-アルブミン結合ポリペプチド融合タンパク質を含んでいて、そこで、該アルブミン結合ポリペプチドはセルピンとHSAの結合に関与する。その結果、本発明は、セルピンポリペプチド及びHSAポリペプチド、又はセルピンポリペプチド若しくはHSAポリペプチドに由来する配列の共有結合及び非共有結合の両方を含んでいる。例えば、本発明は、ヒトHSA、HSA誘導体、又はHSA結合ペプチド又はポリペプチドに融合されたセルピンポリペプチドを提供する。
【0100】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチド又はAATに由来するアミノ酸配列、及びHSAポリペプチド又はHSAポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。例えば、本発明は、HSA、HSAに由来する断片、又はアルブミン結合ポリペプチドに融合されたα1アンチトリプシン(AAT)を提供する。
【0101】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、
セルピンポリペプチド又はセルピンに由来するアミノ酸配列、HSAポリペプチド又はHSAポリペプチドに由来するアミノ酸配列、及びWAPドメイン含有ポリペプチド又はWAPドメイン含有ポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチド又はAATに由来するアミノ酸配列、HSAポリペプチド又はHSAポリペプチドに由来するアミノ酸配列、SLPIポリペプチド又はSLPIに由来するアミノ酸配列を含んでいる。他の実施形態において、本明細書中に記載した融合タンパク質は、少なくともα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチド又はAATに由来するアミノ酸配列、HSAポリペプチド又はHSAポリペプチドに由来するアミノ酸配列、及びElafinポリペプチド又はElafinに由来するアミノ酸配列を含んでいる。
【0102】
本発明の融合タンパク質は、哺乳動物細胞発現系において容易に製造できる。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞、COS細胞、PER.C6(登録商標)、NS0細胞、SP2/0、YB2/0が、本明細書中に記載したセルピン融合タンパク質の発現のために容易に使用できる。重要なことには、哺乳動物細胞発現系は、一般に、治療用途にとってより最適なタンパク質を生じる。細菌、昆虫、又は酵母ベースの発現系とは対照的に、哺乳動物細胞発現系は、天然ヒトタンパク質に見られるものと類似した又は同様のグリコシル化パターンを有するタンパク質をもたらす。タンパク質の本来のグリコシル化は、血清安定性、薬物動態、生体分布、タンパク質の折り畳み、及び機能性に大いに影響を及ぼす。そのため、哺乳動物発現系で治療用タンパク質を作り出す能力には、他の系を上回る明らかな利点がある。さらに、哺乳動物細胞発現系の大部分(例えば、CHO、NS0、PER.C6(登録商標)細胞)は、臨床的要求を満たすための治療用タンパク質を製造するために市販の製造設備で容易にスケーリングできる。本明細書中に記載した融合タンパク質は、天然型のAATを超える高い機能性を有し、且つ、臨床及び市販のために哺乳動物発現系で製造されることができる。本発明のいくつかの実施形態は、NEを阻害するそれらの能力を維持しているセルピン融合タンパク質の単離を可能にする精製システムを含んでいる。重要なことに、本発明の精製工程は、今日の市販の哺乳動物細胞ベースの製造工程に容易に組み入れることができる。
【0103】
別に明記しない限り、本発明に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらに、文脈によって特に必要とされない限り、単数形の用語は、複数の存在を含み、そして複数形の用語は、単数の存在を含む。一般に、本明細書中に記載される細胞及び組織培養、分子生物学、並びにタンパク質化学及びオリゴヌクレオチド化学又はポリヌクレオチド化学、並びにハイブリダイゼーションに関して利用される用語、並びにそれらの技術は、当該分野において周知であり、そして当該分野において一般的に使用される。標準的な技術が、組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、及び組織培養並びに形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)に使用される。酵素反応及び精製技術は、製造業者の指示書に従って行なわれるか、当該分野において一般的に実行されるように行なわれるか、又は本明細書中に記載されるように行われる。上述の技術及び手順は、一般に、当該分野で周知である従来の方法に従って行なわれ、そして本明細書全体を通して引用され、そして議論される種々の一般的、且つ、より具体的な参考文献に記載されるように行われる。例えば、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual(2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989))を参照のこと。本明細書中に記載される分析化学、合成有機化学、並びに医化学及び薬化学に関して利用される用語、並びにそれらの実験室手順及び技術は、周知であり、そして当該分野において一般的に使用される。標準的な技術は、化学合成、化学分析、薬学的な調製、処方、及び送達、並びに患者の処置に使用される。
【0104】
本発明に従う治療的実体の投与が、改善された輸送、送達、耐性などを提供するために処方物中に組み込まれる、適切な担体、賦形剤、及び他の薬剤と一緒に投与されることが、認識される。多くの適切な処方物が、全ての薬剤師において公知である処方集において見出され得る:Remington's Pharmaceutical Sciences(15th ed, Mack Publishing Company, Easton, PA (1975))、特にその中のBlaug, Seymourによる第87章。これらの処方物としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン又はアニオン)含有小胞(例えば、Lipofectin(商標))、DNA結合体、無水物吸着ペースト、水中油型エマルション及び油中水型エマルション、エマルションカルボワックス(carbowax)(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、及びカルボワックスを含む半固体混合物が挙げられる。任意の前述の混合物は、本発明に従う処置及び治療において適切であり得るが、処方物中の活性成分は、処方によって不活化されず、そして生理学的に適合性であり、且つ投与経路に関して許容され得る。Baldrick P. "Pharmaceutical excipient development: the need for preclinical guidance." Regul. Toxicol Pharmacol. 32(2):210-8 (2000), Wang W. "Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals." Int. J. Pharm. 203(1-2): 1-60 (2000), Charman WN "Lipids, lipophilic drugs, and oral drug delivery-some emerging concepts." J Pharm Sci. 89(8):967-78 (2000), Powell et al. "Compendium of excipients for parenteral formulations" PDA J Pharm Sci Technol. 52:238-311 (1998)、並びに薬剤師に公知である処方物、賦形剤、及び担体に関連するさらなる情報に関する本明細書中の引用を参照のこと。
【0105】
本発明の融合タンパク質を含む本発明の治療用製剤は、対象における異常セリンプロテアーゼ活性に関連している疾患又は障害に関する症状を処置するか、又は緩和するために使用される。本発明はまた、対象における異常セリンプロテアーゼ活性に関連している疾患又は障害に関する症状を処置する方法又は緩和する方法を提供する。治療レジメンは、対象における異常セリンプロテアーゼ活性に関連している疾患又は障害を罹患する(又は疾患又は障害を発症する危険性がある)対象(例えば、ヒト患者)を、さまざまな臨床的及び/又は実験的手順のいずれかを含めた標準的な方法を使用して同定することによって実施される。患者という用語は、ヒト及び動物の対象を含んでいる。対象という用語は、ヒトと他の哺乳動物を含んでいる。
【0106】
処置の効力は、特定の対象における異常セリンプロテアーゼ活性に関連している疾患又は障害を診断するか、又は処置するための任意の公知の方法に関連して決定される。対象における異常セリンプロテアーゼ活性に関連している疾患又は障害の1つ以上の症状の緩和は、融合タンパク質が臨床上の利益を提供することを示す。
【0107】
所望の特異性を有する融合タンパク質のスクリーニングのための方法としては、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)及び当該分野において公知である免疫学的に媒介される技術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
本明細書中に記載した融合タンパク質は、セリンプロテアーゼなどの標的の局在性及び/又は定量化に関連する分野において公知の方法において使用され得る(例えば、適切な生理学的サンプル内のそれらの標的のレベルの測定に使用するため、診断方法において使用するため、上記タンパク質の画像化に使用するためなど)。本明細書中に互換的に使用される「生理学的サンプル」及び「生物学的サンプル」という用語は、対象から分離された組織、細胞、及び生体液、並びに対象体内に存在していた組織、細胞、及び体液を含むことを意図する。そのため、「生理学的サンプル」及び「生物学的サンプル」という用語の語法の中に含まれるのは、血液、及び血清、血漿又はリンパを含めた血液の画分又は成分である。
【0109】
所定の実施形態において、標的結合ドメインを含めた、所定の標的、又はその誘導体、断片、アナログ若しくはホモログに対して特異的な融合タンパク質が、薬理学的に活性な化合物(以下、本明細書中で「治療薬」と呼ばれる)として利用される。
【0110】
本発明の融合タンパク質は、イムノアフィニティー、クロマトグラフィー又は免疫沈降などの標準的な技術を使用して特定の標的を単離するために使用され得る。検出は、その融合タンパク質を検出可能な物質にカップリングする(すなわち、物理的に結合する)ことによって促され得る。検出可能な物質の例としては、種々の酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生体発光材料、及び放射性材料が挙げられる。適切な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;適切な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ;適切な蛍光材料の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリスリンが挙げられ;発光材料の例としては、ルミノールが挙げられ;生体発光材料の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが挙げられ、そして適切な放射性材料の例としては、125I、131I、35S又は3Hが挙げられる。
【0111】
本発明の融合タンパク質の治療有効量は、一般に、治療対象を達成するのに必要とされる量に関連する。上に記載されるように、これは、特定の場合において、上記標的の機能することを妨害する、融合タンパク質とその標的との間の結合相互作用であり得る。さらに、投与されるのに必要とされる量は、その特定の標的に対する上記融合タンパク質の結合親和性に依存し、そしてその量はまた、投与される融合タンパク質がその抗体が投与される他の対象の自由体積(free volume)から枯渇する速度に依存する。本発明の融合タンパク質又はその断片の治療的に有効な投薬のための一般的な範囲は、約0.1mg/kg体重~約250mg/kg体重であり得るが、これに限定されない。一般的な投薬頻度は、例えば、1日2回~月に1回の範囲であり得る。
【0112】
融合タンパク質断片が使用される場合、標的に特異的に結合する最も小さい阻害性断片が、好ましい。例えば、上記標的を結合する能力を保持するペプチド分子が、設計され得る。このようなペプチドは、化学的に合成され得るか、そして/又は組換えDNA技術によって産生され得る。(例えば、Marasco et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 7889-7893 (1993)を参照のこと)。処方物はまた、処置される特定の適応に必要であるような1種より多い活性化合物(好ましくは、互いに不利に影響しない補完的な活性を有する化合物)を含み得る。代替的か、又はそれに加えて、上記組成物は、その機能を増強する薬剤(例えば、細胞傷害性薬剤、サイトカイン、化学療法剤、増殖阻害剤、抗炎症剤又は抗感染症剤など)を含み得る。このような分子は、意図される目的に対して有効である量で、組み合わせにおいて安定に存在する。
【0113】
上記活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技術、又は界面重合によって調製されるマイクロカプセル中に捕捉され得、そのマイクロカプセルは、例えば、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、及びナノカプセル)又はマクロエマルションにおいて、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース-マイクロカプセル又はゼラチン-マイクロカプセル、及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)である。
【0114】
インビボ投与のために使用される処方物は、無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成される。
【0115】
持続放出調製物が、調製され得る。持続放出調製物の適切な例としては、上記融合タンパク質を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、そのマトリックスは、成形された物品の形態(例えば、フィルム、又はマイクロカプセル)である。持続放出マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートとのコポリマー、非分解性のエチレン-ビニルアセテート、分解性の乳酸-グリコール酸コポリマー(例えば、LUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なマイクロスフェア))、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン-ビニルアセテート及び乳酸-グリコール酸などのポリマーが、100日間以上にわたって分子の放出を可能にする一方で、特定のヒドロゲルは、より短い期間にわたってタンパク質を放出する。
医薬組成物
【0116】
本発明の融合タンパク質又は可溶性キメラポリペプチド(本明細書中で「活性化合物」とも称される)、並びにその誘導体、フラグメント、アナログ及びホモログは、投与に適した医薬組成物中に組み込まれ得る。このような組成物は、代表的に、上記融合タンパク質及び医薬的に受容可能な担体を含む。本明細書中で使用される場合、用語「医薬的に受容可能な担体」は、医薬投与に適合性である、任意、且つ、全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤などを含むことが意図される。適切な担体は、Remington's Pharmaceutical Sciences(当該分野における標準的な参考の教科書)の最新版(本明細書中に参考として援用される)に記載される。このような担体又は希釈剤の好ましい例としては、水、食塩水、リンガー液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。リポソーム及び非水性ビヒクル(例えば、固定油)もまた、使用され得る。医薬的に活性な物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は、当該分野において周知である。任意の従来の媒体又は薬剤が上記活性化合物と不適合である限りを除いて、上記組成物におけるその使用が企図される。補足の活性化合物もまた、上記組成物中に組み込まれ得る。
【0117】
本発明の医薬組成物は、その意図された投与経路に適合するように処方され得る。投与経路の例としては、非経口投与(例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与)、経口投与(例えば、吸入)、経皮投与(すなわち、局所投与)、経粘膜投与、及び直腸投与が挙げられる。非経口適用、皮内適用、又は皮下適用のために使用される溶液又は懸濁液は、以下の成分を含み得る:無菌の希釈剤(例えば、注射用水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成の溶液);抗菌剤(例えば、ベンジルアルコール又はメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA));緩衝剤(例えば、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩)及び張度の調整のための薬剤(例えば、塩化ナトリウム又はデキストロース)。pHは、酸又は塩基(例えば、塩酸又は水酸化ナトリウム)を用いて調整され得る。非経口調製物は、ガラス製若しくはプラスチック製のアンプル、使い捨て可能な注射器又は複数用量バイアルに入れられ得る。
【0118】
注射可能な用途に適した医薬組成物としては、無菌の水溶液(水溶性である)又は分散物、及び無菌の注射可能な溶液又は分散物の即時調製のための無菌の粉末が挙げられる。静脈内投与について、適切な担体は、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,N.J.)又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、上記組成物は、無菌でなければならず、そしてその組成物は、容易な注射器通過性(syringeability)が存在する限りは流体であるはずである。それは、製造及び保管の条件下において安定でなければならず、そして微生物(例えば、細菌及び真菌)の汚染作用に対して保護されなければならない。上記担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの適切な混合物を含む溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動率は、例えば、コーティング剤(例えば、レシチン)の使用、必要とされる粒径の維持(分散物の場合)、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成され得る。多くの場合において、組成物中に等張化剤(例えば、糖類、ポリアルコール(例えば、マンニトール)、ソルビトール、塩化ナトリウム)を含むことが、好ましい。注射可能な組成物の延長した吸収は、その組成物中に吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)を含めることによってもたらされ得る。
【0119】
無菌の注射可能な溶液は、必要とされる量で活性化合物を、上に列挙される成分の1つ又はその組み合わせと一緒に適切な溶媒中に取り込み、必要とされる場合、次いで濾過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散物は、基礎の分散媒及び上に列挙されるものからの必要とされる他の成分を含む無菌のビヒクル中に上記活性化合物を取り込むことによって調製される。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌の粉末の場合において、調製の方法は、活性成分に任意のさらなる所望の成分を加えた粉末を、その予め濾過滅菌した溶液から生じる、真空乾燥及び凍結乾燥である。
【0120】
経口組成物は、一般に、不活性な希釈剤又は食用担体を含む。それらは、ゼラチンカプセル中に封入され得るか、又は錠剤へと圧縮され得る。経口の治療的投与の目的のために、上記活性化合物は、賦形剤と一緒に組み込まれ得、そして錠剤、トローチ剤、又はカプセル剤の形態で使用され得る。経口組成物はまた、含そう剤として使用するための流体担体を使用して調製され得、その流体担体中の化合物は、経口的に適用され、そしてスウィッシュ(swish)されて、吐き出されるか、又は嚥下される。医薬的に適合性の結合剤及び/又はアジュバント材料が、上記組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、任意の以下の成分、又は同様の性質の化合物を含み得る:バインダー(例えば、微結晶性セルロース、トラガカントゴム又はゼラチン);賦形剤(例えば、デンプン又は乳糖)、崩壊剤(例えば、アルギン酸、Primogel、又はトウモロコシデンプン);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム又はSterotes;流動促進剤(glidant)(例えば、コロイド状二酸化ケイ素);甘味剤(例えば、スクロース又はサッカリン);又は香味剤(例えば、ペパーミント、メチルサリチレート、又はオレンジ香味料)。
【0121】
吸入による投与について、化合物は、適切な噴霧剤(例えば、二酸化炭素などの気体)を含む加圧された容器若しくはディスペンサー、又は噴霧器からエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0122】
全身投与はまた、経粘膜手段又は経皮手段によるものであり得る。経粘膜投与又は経皮投与に関して、透過されるべき障壁に適切な浸透剤が、上記処方物において使用される。このような浸透剤は、一般に、当該分野において公知であり、そしてその浸透剤としては、例えば、経粘膜投与については、洗浄剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレー又は坐剤の使用によって達成され得る。経皮投与に関して、上記活性化合物は、一般に、当該分野において公知であるような、軟膏(ointment)、軟膏(salve)、ゲル、又はクリーム中に処方される。
【0123】
上記化合物はまた、直腸送達のために坐剤(例えば、従来の坐剤の基剤(例えば、カカオ脂及び他のグリセリド)を用いる)又は保留浣腸の形態で調製され得る。
【0124】
1つの実施形態において、上記活性化合物は、その化合物を、身体からの迅速な排泄に対して保護する担体を用いて調製される(例えば、インプラント及びマイクロカプセル化した送達システムを含む制御放出処方物)。生分解性の、生体適合性ポリマーが、使用され得る。このような処方物の調製のための方法は、当業者にとって明らかである。その材料はまた、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Incから市販され得る。リポソーム懸濁物(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体によって感染症細胞を標的化するリポソームが挙げられる)もまた、医薬的に受容可能な担体として使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるような、当業者に公知である方法に従って調製され得る。
【0125】
経口組成物又は非経口組成物を投与の容易さ及び投薬の均一性のために投薬単位形態で処方するとこは、特に有益である。本明細書中で使用されるような投薬単位形態とは、処置される対象に対する統一された投薬として適した物理的に別個の単位をいう;必要とされる医薬担体と共同して所望の治療効果をもたらすために算出される所定の量の活性化合物を含む各単位。本発明の投薬単位形態についての明細は、上記活性化合物の独特な特徴及び達成されるべき特定の治療効果、並びに個体の処置のためにこのような活性化合物を調合する分野における固有の制限によって決定付けられる。
【0126】
上記医薬組成物は、投与のための指示書と一緒に容器、パック、又はディスペンサー中に含まれ得る。
【0127】
本発明は、以下の実施例においてさらに記載され、特許請求の範囲において記載される本発明の範囲を限定しない。
【実施例0128】
実施例1:AAT-Fc融合タンパク質と変異型
代表的ではあるが、制限されることのない本発明によるAAT-Fc融合タンパク質の例には以下の配列が含まれる。これらの例はヒンジ配列及び/又はリンカー配列を含んでいるが、本発明の融合タンパク質は、長さ及び/又は柔軟性の点で好適な任意のヒンジ配列及び/又はリンカー配列を使用して作製できる。あるいは、融合タンパク質は、ヒンジ及び/又はリンカー配列を使用せずに作製できる。例えば、ポリペプチド成分を直接結合することができる。
【0129】
代表的なAAT-Fc融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-hFc1(ヒトIgG1 Fc)である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、そして、融合タンパク質のIgG-Fcポリペプチド部分をイタリック体にした(配列番号3)。
AAT-hFc1(ヒトIgG1 Fc)
【化18】
【0130】
代表的なAAT-Fc融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-hFc2(ヒトIgG2 Fc)である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、そして、融合タンパク質のIgG-Fcポリペプチド部分をイタリック体にした(配列番号4)。
AAT-hFc2(ヒトIgG2 Fc)
【化19】
【0131】
代表的なAAT-Fc融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-MM-EL-hFc1(ヒトIgG1 Fc、Met351Glu/Met358Leu)である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号34)、融合タンパク質のIgG-Fcポリペプチド部分をイタリック体にし(配列番号3)、Met351Glu突然変異を四角で囲み、そして、Met358Leu突然変異に灰色で陰影をつけた。
AAT-MM-EL-hFc1(ヒトIgG1 Fc、Met351Glu/Met358Leu)
【化20】
【0132】
代表的なAAT-Fc融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-MM-EL-hFc2(ヒトIgG2 Fc、Met351Glu/Met358Leu)である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号34)、融合タンパク質のIgG-Fcポリペプチド部分をイタリック体にし(配列番号4)、Met351Glu突然変異を四角で囲み、そして、Met358Leu突然変異に灰色で陰影をつけた。
AAT-MM-EL-hFc2(ヒトIgG2 Fc、Met351Glu/Met358Leu)
【化21】
【0133】
代表的なAAT-Fc融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-MM-LL-hFc1(ヒトIgG1 Fc、Met351Leu/Met358Leu)である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号35)、融合タンパク質のIgG-Fcポリペプチド部分をイタリック体にし(配列番号3)、Met351Leu突然変異に黒色で陰影をつけ、そして、Met358Leu突然変異に灰色で陰影をつけた。
AAT-MM-LL-hFc1(ヒトIgG1 Fc、Met351Leu/Met358Leu)
【化22】
【0134】
代表的なAAT-Fc融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-MM:LL-hFc2(ヒトIgG2 Fc、Met351Leu/Met358Leu)である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号35)、融合タンパク質のIgG-Fcポリペプチド部分をイタリック体にし(配列番号4)、Met351Leu突然変異に黒色で陰影をつけ、そして、Met358Leu突然変異に灰色で陰影をつけた。
AAT-MM:LL-hFc2(ヒトIgG2 Fc、Met351Leu/Met358Leu)
【化23】
【0135】
代表的なAAT-Fc融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-hFc1-AAT(ヒトIgG1)である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、融合タンパク質のIgG-Fcポリペプチド部分をイタリック体にした(配列番号3)。
AAT-hFc1-AAT(ヒトIgG1)
【化24】
【0136】
これらの代表的なAAT-Fc融合タンパク質を、以下の技術を使用して作製した。
【0137】
ヒトAATをコードする遺伝子を、ヒト肝臓cDNA(Zyagen)からPCR増幅した。AAT又はFc領域をコードする遺伝子内の特異的点突然変異を、オーバーラップPCRによって作り出した。AATコード遺伝子を、ヒンジ領域をコードする遺伝子を有するフレーム内にクローニングし、それに続いて、AAT遺伝子挿入部位の上流に哺乳動物分泌シグナル配列を含んでいる哺乳動物発現ベクター内にヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、又はIgMのCH2ドメイン、そして、CH3ドメインをクローニングした。これらの発現ベクターを、哺乳動物細胞(具体的には、HEK293又はCHO細胞)内にトランスフェクトし、37℃にて8%のCO
2中で数日間培養した。遺伝子組み換えAAT-Fc融合タンパク質を、発現細胞上清からプロテインAクロマトグラフィーによって精製した。重要なことに、中性pH付近のバッファーを、プロテインA樹脂からAAT-Fc融合タンパク質を溶出するのに使用した(Gentle Ag/Ab Elution Buffer、Thermo Scientific)。おそらくAATの低pH媒介性オリゴマー化のため、NEを阻害するAATの能力が低pH処理後に低下するので、AAT-Fc融合タンパク質は、標準的な低pH溶出を使用してプロテインA樹脂から溶出できない。
図1Fは、好中球エラスターゼを阻害するAATの能力に対する低pH溶出の影響を示している。AAT-Fc融合タンパク質は、プロテインAと中性pH付近の溶出バッファーによるか、又はCaptureSelect(登録商標)Alpha-1 Antitrypsinアフィニティーマトリックス(BAC BV)によって精製される。
【0138】
精製したAAT-Fc融合タンパク質を、好中球エラスターゼ(NE)を阻害するそれらの能力を測定することによって活性について試験した。
図1B及び1Dは、精製した血清由来AAT(sdAAT)及びAAT-Fc融合タンパク質(
図1B-レーン1:sdAAT、レーン2:AAT-Fc(配列番号16)、レーン3:AAT-EL-Fc(配列番号18)、
図1D AAT-Fc-AAT(配列番号20)の還元SDS-PAGEゲルを示している。タンパク質を、クマシーブルーで染色することによって可視化した。
【0139】
ヒト好中球エラスターゼ(NE)活性を観察するために、蛍光ミクロプレートアッセイを使用した。阻害活性を、以下のアッセイを使用した残留NE活性の同時に起こる減少によって評価した。このアッセイバッファーは、100mMのTris pH7.4、500mMのNaCl、及び0.0005%のTriton X-100で構成されている。ヒトNEを、5nM(しかし、1~20nMでも使用できる)の終濃度で使用する。アッセイでは、蛍光ペプチド基質AAVP-AMCを100μΜの終濃度で使用する。Molecular Devices製のGemini EMプレートリーダを使用して、それぞれ370nm及び440nmの励起及び発光波長、及び420nmのカットオフを使用してアッセイ動態を読みとった。アッセイを、室温にて10分間読みとり、そして、5~10秒毎にスキャンした。毎秒のVmaxは残留NE活性に相当し、そしてそれを阻害物質の各濃度に対してプロットした。X軸との切片は、アッセイにおいて開始濃度のNEを完全に不活化するのに必要である阻害物質の濃度を示している。これらのアッセイにおいて、ヒト血清由来AAT(sdAAT)を、正の対照として使用した。AAT-Fc融合タンパク質は、
図1Cに示されるように、強力なNE阻害活性を示す。1つのFcポリペプチドに2つのAATポリペプチドが存在する融合物(AAT-Fc-AAT)は、1つのAATポリペプチドを含むsdAAT及びAAT-Fc融合タンパク質の両方を超える高い効力を示す(
図1E)。ここに提示したこれらの知見は、AATがFc領域に融合でき、且つ、NEを阻害するその能力を維持できることを初めて実証する。特に興味深いことに、AAT-Fc-AAT融合タンパク質が、より強力なNE阻害物質であることがわかった。
【0140】
図1Fは、酸化による不活性化に対するAAT-EL-Fc(M351E、M358L)融合タンパク質の抵抗性を実証している。AAT融合タンパク質、AAT-Fc(wt)、AAT-EL-Fc(M351E、M358L)、及びAAT-EM-Fc(M351E)を、33mMのH
2O
2で処理し、NE阻害アッセイにおいて未処理の融合タンパク質と比較した。AAT-EL-FcによるNEの阻害は、酸化によって構成されることなく、試験した他のタンパク質と逆であった。
【0141】
さらに、血清由来AATと比較して、AAT-Fc融合タンパク質はラットにおいてより長い血清中半減期を示した(
図1H)。これらの試験では、それぞれの試験タンパク質あたり3匹のラットに、10mg/kgのsdAAT又はAAT-FcをI.V.に注射した。血清サンプルを48時間の期間にわたって様々な時点で採取した。血清ATT濃度にはELISAを使用した。これらの知見は、本発明の融合タンパク質が、多くのヒト炎症状及び感染症を処置するための、薬物動力学的特性を改善し、且つ、血清由来AATを超える優れた治療学的フォーマットであることを実証している。
実施例2:AAT-TNFα標的分子融合タンパク質
【0142】
本明細書中に示した試験は、抗TNFα抗体又はTNFα受容体の誘導体に融合されたヒトAATを含めた遺伝子組み換えAAT誘導体のいくつもの制限されることのない例を記載している。これらの例を以下に提供して、本発明の様々な特徴を更に例示している。実施例はまた、本発明を実施するために有用な方法論も例示している。これらの実施例は、請求の範囲に記載した本発明を限定するものではなく、そして、限定することを意図したものでもない。
【0143】
以下の融合タンパク質は、(i)抗TNFα抗体D2E7(Adalimumab又はHumira(登録商標)としても知られている)又は(ii)2型TNFα受容体(TNFR2-ECD)の細胞外ドメイン、からの又はそれらに由来するサイトカイン標的ポリペプチド配列を含んでいる。融合タンパク質のAATポリペプチド部分には下線を引き、抗体定常領域(CH1-ヒンジ-CH2-CH3、又はCL)をイタリック体にし、そして、D2E7-VH、D2E7-VK、及びTNFR2-ECDを太字で表示した。これらの実施例がヒンジ配列及び/又はリンカー配列を含んでいるのに対して、本発明の融合タンパク質は、長さ及び/又は柔軟性が好適な任意のヒンジ配列及び/又はリンカー配列を使用して作製できる。あるいは、融合タンパク質は、ヒンジ及び/又はリンカー配列を使用しなくても作製できる。
【0144】
代表的なAAT-TNFα融合タンパク質は、本明細書中に記載したD2E7-軽鎖-AAT(G
3S)
2リンカーである。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、D2E7-VKを太字で表示し(配列番号37)、そして、抗体定常領域をイタリック体にした(配列番号38)。
D2E7-軽鎖-AAT(G
3S)
2リンカー
【化25】
【0145】
代表的なAAT-TNFα融合タンパク質は、本明細書中に記載したD2E7-軽鎖-AAT ASTGSリンカーである。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、D2E7-VKを太字で表示し(配列番号37)、そして、抗体定常領域をイタリック体にした(配列番号38)。
D2E7-軽鎖-AAT ASTGSリンカー
【化26】
【0146】
代表的なAAT-TNFα融合タンパク質は、本明細書中に記載したD2E7-重鎖--AAT(G
3S)
2リンカーである。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、D2E7-VHを太字で表示し(配列番号39)、そして、抗体定常領域をイタリック体にした(配列番号40)。
D2E7-重鎖-AAT(G
3S)
2リンカー
【化27】
【0147】
代表的なAAT-TNFα融合タンパク質は、本明細書中に記載したD2E7-重鎖--AAT ASTGSリンカーである。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、D2E7-VHを太字で表示し(配列番号39)、そして、抗体定常領域をイタリック体にした(配列番号40)。
D2E7-重鎖-AAT ASTGSリンカー
【化28】
【0148】
代表的なAAT-TNFα融合タンパク質は、本明細書中に記載したTNFR2-ECD-Fc1-AAT(G
3S)
2リンカーである。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、TNFR2-ECDを太字で表示し(配列番号41)、そして、抗体定常領域をイタリック体にした(配列番号42)。
TNFR2-ECD-Fc1-AAT(G
3S)
2リンカー
【化29】
【0149】
代表的なAAT-TNFα融合タンパク質は、本明細書中に記載したTNFR2-ECD-Fc1-AAT ASTGSリンカーである。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、TNFR2-ECDを太字で表示し(配列番号41)、そして、抗体定常領域をイタリック体にした(配列番号42)。
TNFR2-ECD-Fc1-AAT ASTGSリンカー
【化30】
【0150】
これらの代表的なAAT-TNFα標的分子融合タンパク質を、以下の技術を使用して作製した。
【0151】
抗TNFα抗体(D2E7)の可変重(VH)領域及び可変κ(VK)領域をコードする遺伝子を、遺伝子合成で作り出した。D2E7-VH遺伝子を、VHドメイン挿入部位の上流に哺乳動物分泌シグナル配列を含んでいる哺乳動物発現ベクター内にCH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメインから成るヒトIgG1抗体重鎖定常領域をコードする遺伝子を伴ったフレーム内にクローニングした(D2E7-HC)。D2E7-VK遺伝子を、VKドメイン挿入部位の上流に哺乳動物分泌シグナル配列を含んでいる哺乳動物発現ベクター内のヒト抗体κ軽鎖定常(CL)ドメインを伴ったフレーム内にクローニングした(D2E7-LC)。AATコード遺伝子及び隣接5’リンカー配列を、先に記載した哺乳動物発現ベクター内のD2E7重鎖遺伝子(D2E7-HC-AAT)のCH3ドメイン又はD2E7軽鎖遺伝子(D2E7-LC-AAT)のCLドメインのいずれかのコード配列の3’末端のフレーム内にクローニングした。TNFα受容体2(TNFR2-ECD)の細胞外ドメインを、遺伝子合成によって作り出し、そして、TNFR2-ECD挿入部位の上流に哺乳動物分泌シグナル配列を含んでいる哺乳動物発現ベクター内のヒンジ領域をコードする遺伝子を伴ったフレーム内にクローニングし、それに続いて、ヒトIgG1(hFc1)のCH2ドメイン及びCH3ドメインをクローニングした。AATコード遺伝子及び隣接5’リンカー配列を、哺乳動物発現ベクター内のTNFR2-ECD-hFc1をコードする遺伝子の3’末端のフレーム内にクローニングした(TNFR2-ECD-hFc1-AAT)。
【0152】
D2E7-HC-AAT発現ベクターを、哺乳動物細胞(具体的には、HEK293又はCHO細胞)内にD2E7-LC又はD2E7-LC-AAT発現ベクターのいずれかと同時にトランスフェクトして、それぞれ重鎖のC末端又は重鎖と軽鎖の両方のC末端に融合したAATを有するD2E7抗体を作り出した。D2E7-LC-AATを、哺乳動物細胞内にD2E7-HC発現ベクターと同時にトランスフェクトして、軽鎖のC末端に融合したAATを有するD2E7抗体を作り出した。TNFR2-hFc1-AAT発現ベクターを、哺乳動物細胞内にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を、37℃にて8%のCO2中で数日間培養した。
【0153】
遺伝子組み換えAAT-TNFα標的融合タンパク質を、発現細胞上清からプロテインAクロマトグラフィーによって精製した。中性pH付近のバッファーを、プロテインA樹脂からAAT-TNFα標的融合タンパク質を溶出するのに使用した(Gentle Ag/Ab Elution Buffer、Thermo Scientific)。
【0154】
図2Bは、D2E7抗体単独(レーン1)、及びAATがD2E7の重鎖に融合されている変異型(レーン2)のSDS-PAGEゲルを示す。タンパク質を、クマシーブルーで染色することによって可視化した。
【0155】
精製したAAT-TNFα標的分子融合タンパク質を、好中球エラスターゼを阻害するそれらの能力を測定することによって、活性について試験した。これらのアッセイにおいて、ヒト血清由来AAT(sdAAT)を正の対照として使用した。NE阻害アッセイを、先に記載したように実施した。
図2Cは、sdAATと比較して、AAT-TNFα標的分子融合タンパク質が同様の好中球エラスターゼ阻害を示すことを実証し、AATの阻害能力は、抗体とそれが融合することによって支障をきたさないことを示唆している。
実施例3:AAT-Fc-SLPI及びAAT-Fc-Elafin
【0156】
本明細書中に示した試験は、WAPドメイン含有タンパク質を融合したヒトAATを含めた遺伝子組み換えAAT誘導体のいくつもの制限されることのない例を記載している。これらの例を以下に提供して、本発明の様々な特徴を更に例示している。実施例はまた、本発明を実施するために有用な方法論も例示している。融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き、Fc部分をイタリック体にし、そして、WAPドメイン含有ポリペプチドを太字フォントにした。これらの実施例がヒンジ配列及び/又はリンカー配列を含んでいるのに対して、本発明の融合タンパク質は、長さ及び/又は柔軟性が好適な任意のヒンジ配列及び/又はリンカー配列を使用して作製できる。あるいは、融合タンパク質は、ヒンジ及び/又はリンカー配列を使用しなくても作製できる。例えば、ポリペプチド成分を、直接結合できる。
【0157】
代表的なAAT-Fc-SLPI融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-hFc1SLPIである(ヒトIgG1 Fc)。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、Fc部分をイタリック体にし(配列番号3)、そして、WAPドメイン含有ポリペプチドを太字フォントにした(配列番号9)。
AAT-hFc1-SLPI(ヒトIgG1 Fc)
【化31】
【0158】
代表的なAAT-Fc-SLPI融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-hFc1SLPIである(ヒトIgG1 Fc)。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、Fc部分をイタリック体にし(配列番号3)、そして、WAPドメイン含有ポリペプチドを太字フォントにした(配列番号12)。
AAT-hFc1-エラフィン(ヒトIgG1 Fc)
【化32】
【0159】
SLPIとElafinをコードした遺伝子を、ヒト脾臓cDNA(Zyagen)からPCR増幅した。これらの遺伝子を、SLPI又はElafinの遺伝子をAAT-Fc遺伝子を有するフレーム内に挿入した実施例1の哺乳動物発現ベクター内にクローニングした。これらの発現ベクターを、哺乳動物細胞(具体的には、HEK293又はCHO細胞)内にトランスフェクトし、37℃にて8%のCO2中で数日間培養した。遺伝子組み換えAAT-Fc-WAPドメイン融合タンパク質を、発現細胞上清からプロテインAクロマトグラフィーによって精製した。中性pH付近のバッファーを、プロテインA樹脂からAAT-Fc-WAPドメイン融合タンパク質を溶出するのに使用した(Gentle Ag/Ab Elution Buffer、Thermo Scientific)。
【0160】
図3Bは、AAT-Fc-WAP融合タンパク質(レーン1:AAT-Fc-Elafin、レーン2:AAT-Fc-SLPI)のSDS-PAGEゲルを示す。タンパク質を、クマシーブルーで染色することによって可視化した。精製したAAT-Fc-WAPドメイン融合タンパク質を、好中球エラスターゼを阻害するそれらの能力を測定することによって活性について試験した。NE阻害アッセイを、先に記載したように実施した。これらのアッセイにおいて、ヒト血清由来AAT(sdAAT)及びAAT-Fc融合タンパク質を、正の対照として使用した。sdAATと比較して、AAT-Fc-WAP標的分子融合タンパク質は、好中球エラスターゼのNE阻害の高い能力を示した(
図3C)。
実施例4:AAT-アルブミン
【0161】
本明細書中に示した試験は、アルブミンポリペプチドを融合したヒトAATを含めた遺伝子組み換えAAT誘導体のいくつもの制限されることのない例を記載している。これらの例を以下に提供して、本発明の様々な特徴を更に例示している。実施例はまた、本発明を実施するために有用な方法論も例示している。これらの実施例は、請求の範囲に記載した本発明を限定するものではなく、そして、限定することを意図したものでもない。AAT部分に下線を引き、そして、アルブミン部分をイタリック体にした。例えば、ポリペプチド成分を、直接結合できる。
【0162】
代表的なAATアルブミン融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-HSAである。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、そして、アルブミンポリペプチドをイタリック体にした(配列番号14)。
AAT-HSA
【化33】
【0163】
代表的なAATアルブミン融合タンパク質は、本明細書中に記載したAAT-HSAドメイン3である。以下に示すように、融合タンパク質のAATポリペプチド部分に下線を引き(配列番号2)、そして、アルブミンポリペプチドをイタリック体にした(配列番号15)。
AAT-HSAドメイン3
【化34】
【0164】
ヒト血清アルブミン(HSA)をコードする遺伝子を、ヒト肝臓cDNA(Zyagen)からPCR増幅した。HSA又はHSAのドメイン3をコードする遺伝子を、AATの上流に哺乳動物分泌シグナル配列を含んでいる、AATコード遺伝子の3’末端へとフレーム内にクローニングした哺乳動物発現ベクターを作製した。
【0165】
これらの発現ベクターを、哺乳動物細胞(具体的には、HEK293又はCHO細胞)内にトランスフェクトし、8%のCO2中で37℃にて数日間培養した。遺伝子組み換えAAT-HSA融合タンパク質を、結合バッファーが20mMのTris、150mMのNaCl、pH7.4から成り、そして、溶出バッファーが20mMのTris、2MのMgCl2、pH7.4から成る、CaptureSelect(登録商標)Alpha-1 Antitrypsinアフィニティーマトリックス(BAC BV)を使用して発現細胞上清から精製した。
【0166】
図4Bは、AAT-HSA融合タンパク質のSDS-PAGEゲルを示す。タンパク質を、クマシーブルーで染色することによって可視化した。精製したAAT-HSA融合タンパク質を、好中球エラスターゼを阻害するそれらの能力を測定することによって活性について試験した。NE阻害アッセイを、先に記載したように実施した。これらのアッセイにおいて、ヒト血清に由来するAAT(sdAAT)を、正の対照として使用した。sdAATと比較して、AAT-HS融合タンパク質が、同様のNE阻害能力を示し、アルブミンへの融合がNEを阻害するAATの能力を抑制しないことを実証した(
図4C)。
他の実施形態
【0167】
本発明は、その詳細な説明に関連して記載されているが、上述の説明は、例示を目的とし、且つ添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではない。他の態様、利点、及び変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内である。