(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110066
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】低酸素透過速度を有する薬剤包装及び他の包装
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
A61J1/05 313
A61J1/05 311
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022078339
(22)【出願日】2022-05-11
(62)【分割の表示】P 2018508654の分割
【原出願日】2016-08-18
(31)【優先権主張番号】62/206,637
(32)【優先日】2015-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512082716
【氏名又は名称】エスアイオーツー・メディカル・プロダクツ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】2250 Riley Street,Auburn,Alabama 36832 U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ウィルズ
(72)【発明者】
【氏名】アーマッド・タハ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ヴァイカルト
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB11
4C047BB12
4C047BB17
4C047BB19
4C047BB20
4C047BB24
4C047BB30
4C047BB35
4C047CC01
4C047DD32
4C047DD35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】タイコート皮膜又は層の塗布とバリア皮膜又は層の塗布との間で内腔内の部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された対応する容器より低い内腔内へのガス透過速度定数を有する被覆容器を提供する。
【解決手段】タイコート皮膜又は層、バリア皮膜又は層、及び任意選択的に1つ又は複数の追加の皮膜又は層を塗布するプラズマ化学気相成長による、真空排気された血液試料採取管又は他の容器の処理。部分真空下でSiOxCyのタイコート皮膜又は層が塗布され、及び内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、バリア皮膜又は層が塗布される。その後、任意選択的に、内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、SiOxCyのpH保護皮膜又は層が塗布され得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器を処理する方法であって、
a.内腔を画定する、本質的に熱可塑性ポリマー材料からなる壁を含む容器を提供するステップであって、前記壁が前記内腔に面する内部表面と外部表面とを有する、ステップと、
b.前記内腔内に部分真空を引くステップと、
c.前記内腔内で前記部分真空を遮断されない状態で維持しながら、タイPECVD被覆プロセスによってSiOxCyのタイコート皮膜又は層を塗布するステップであって、前記タイPECVD被覆プロセスが、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含むガスを供給しながら、前記内腔内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加し、前記内部表面にSiOxCy(式中、それぞれX線光電子分光法(XPS)によって求められた場合にxが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)のタイコート皮膜又は層を生成することを含む、ステップと、
d.前記内腔内で前記部分真空を遮断されない状態で維持しながら、前記プラズマを消滅させるステップと、
e.前記内腔内で前記部分真空を遮断されない状態で維持しながら、バリアPECVD被覆プロセスによってバリア皮膜又は層を塗布するステップであって、前記バリアPECVD被覆プロセスが、直鎖シロキサン前駆体及び酸素を含むガスを供給しながら、前記内腔内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加し、前記タイコート皮膜又は層と前記内腔との間にSiOx(式中、XPSによって求められた場合にxが1.5~2.9である)のバリア皮膜又は層を生成することを含む、ステップと、
f.任意選択的に、前記内腔内で前記部分真空を遮断されない状態で維持しながら、前記プラズマを消滅させるステップと、
g.任意選択的に、pH保護PECVD被覆プロセスにより、前記バリア皮膜又は層と前記内腔との間にSiOxCy(式中、それぞれXPSによって求められた場合にxが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)のpH保護皮膜又は層を塗布するステップであって、前記pH保護PECVD被覆プロセスが、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含むガスを供給しながら、前記内腔内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加することを含む、ステップと
を含み、それにより、前記タイコート皮膜又は層の塗布と前記バリア皮膜又は層の塗布との間で前記内腔内において前記部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された対応する容器より低い前記内腔内へのガス透過速度定数を有する被覆容器を形成する、方法。
【請求項2】
前記ステップfが実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップgが実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップcが、前記内腔内にプラズマを発生させるためにパルス状電力を印加することによって実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップeが、前記内腔内にプラズマを発生させるためにパルス状電力を印加することによって実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップgが、前記内腔内にプラズマを発生させるためにパルス状電力を印加することによって実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップdと前記ステップeとの間に、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及びに任意選択的に不活性ガス希釈剤を含む前記ガスの前記供給を停止することを更に含むプロセスによって形成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップfと前記ステップgとの間に、直鎖シロキサン前駆体及び酸素を含む前記ガスの前記供給を停止することを更に含むプロセスによって形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記内腔内に流体組成物を提供する後続のステップを更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記流体組成物が血液抗凝固試薬、例えば、クエン酸ナトリウム緩衝液を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
各被覆プロセスで同じ直鎖シロキサン前駆体が使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
各直鎖シロキサン前駆体がHMDSO又はTMDSO、好ましくはHMDSOである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記壁がポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオレフィン、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)又はポリカーボネート、好ましくはCOPを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記容器内腔が2~12mL、任意選択的に3~5mL、任意選択的に8~10mLの容量を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記バリア皮膜又は層を塗布するために前記内腔内でプラズマを発生させるために提供される前記電力が1-Upコータでは30~80ワット、任意選択的に40~80ワット、任意選択的に50~80ワット、任意選択的に55~65ワット、又は任意選択的に4-Upコータでは175~200ワット、任意選択的に180~190ワットである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記バリア皮膜又は層を塗布するために発生される前記プラズマが12~20秒間、任意選択的に15~20秒間にわたって印加される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記バリア皮膜又は層が、0.5~2sccm、任意選択的に0.7~1.3sccmの、任意選択的にHMDSOのシロキサン前駆体供給速度を用いて塗布される、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記バリア皮膜又は層が0.5~3.5トル、任意選択的に1~2.5トルの分圧を用いて塗布される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記被覆容器が0.002~0.1、任意選択的に0.01~0.1、任意選択的に0.14~0.05、任意選択的に0.002~0.02、任意選択的に0.003~0.12μmol/日/cm2/atmの酸素透過速度定数(OPRC)を有する、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記被覆容器が0.5~12、任意選択的に3~22、任意選択的に3.4~12、任意選択的に0.5~3、任意選択的に0.7~2cc/m2/日の酸素移動速度を有する、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記壁が50℃及び90%相対湿度で2.5g/m2/日未満の水蒸気透過速度を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
真空排気された採血管であって、熱可塑性容器壁(214)を含み、前記熱可塑性容器壁(214)が、
開口部を画定する頂部(295)と、
内腔(212)を画定する内側面(303)と、
外側面(305)と、
前記頂部に隣接する前記内側面上のストッパ接触領域(291)であって、0~1.3度、任意選択的に0~1度、任意選択的に0~0.9度、任意選択的に0~0.8度、任意選択的に0~0.7度、任意選択的に0~0.6度、任意選択的に0~0.5度、任意選択的に0.3~1.3度、任意選択的に0.3~1度、任意選択的に0.3~0.9度、任意選択的に0.3~0.8度、任意選択的に0.3~0.7度、任意選択的に0.3~0.6度、任意選択的に0.3~0.5度、任意選択的に0.5~1.3度、任意選択的に0.5~1度、任意選択的に0.5~0.9度、任意選択的に0.5~0.8度、任意選択的に0.5~0.7度、任意選択的に0.5~0.6度、任意選択的に0.5度だけ内向きにテーパが付けられたストッパ接触領域(291)と
を有する、真空排気された採血管。
【請求項23】
前記ストッパ接触領域(291)の下方の前記内側面(303)の少なくとも一部が、
少なくとも0.7度、任意選択的に少なくとも1度、任意選択的に少なくとも1.5度だけテーパが付けられ、且つ
前記ストッパ接触領域より少なくとも0.1度だけ更にテーパが付けられている、請求項22に記載の真空排気された採血管。
【請求項24】
真空排気された採血管であって、熱可塑性容器壁(214)を含み、前記熱可塑性容器壁(214)が、頂部(295)と、内腔(212)を画定する内側面(303)と、外側面(305)と、前記内側面から半径方向内向きに突出する保持リップ(293)と、前記保持リップに隣接し且つその下方の前記内側面上のストッパ接触領域(291)とを有する、真空排気された採血管。
【請求項25】
前記保持リップが、前記頂部295の開口部に対して内向きテーパ、任意選択的に湾曲内向きテーパ、任意選択的に凸状湾曲内向きテーパを画定する上部傾斜部(301)を含み、前記上部傾斜部が下端(307)を有し、及び前記保持リップが、前記下端(307)に対して外向きテーパ、任意選択的に湾曲外向きテーパ、任意選択的に凸状湾曲外向きテーパを画定する下部傾斜部(299)を更に含む、請求項24に記載の真空排気された採血管。
【請求項26】
前記内腔を封止するクロージャを含み、前記クロージャが、患者の静脈から前記内腔内に血液を引き込むのに十分である、海面の周囲圧力に対する真空レベルを前記内腔内において維持する、請求項22~25のいずれか一項に記載の真空排気された採血管。
【請求項27】
前記クロージャが前記ストッパ接触領域において周囲圧力より97.5kPa低い真空レベルで着座したままである、請求項26に記載の真空排気された採血管。
【請求項28】
少なくとも6か月、代替的に6~12か月、代替的に12~18か月、代替的に18~24か月、代替的に24~30か月、代替的に30~36か月、代替的に36~42か月の保管寿命を有し、前記保管寿命が、真空排気後に前記管が同じ種類の新たに真空排気された容器の引込体積容量の少なくとも90%の前記引込体積容量を維持する時間によって定義される、請求項22~27のいずれか一項に記載の真空排気された採血管。
【請求項29】
前記内腔内に流体組成物、代替的に水性流体組成物を更に含み、代替的に血液抗凝固試薬、例えばクエン酸ナトリウム緩衝液を含む、請求項22~28のいずれか一項に記載の真空排気された採血管。
【請求項30】
0.0001~0.01、代替的に0.0002~0.005、代替的に0.0005~0.003、代替的に0.0016~0.003マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の酸素透過速度定数を有する、請求項22~29のいずれか一項に記載の真空排気された採血管。
【請求項31】
0.0001、代替的に0.00016、代替的に0.0002、代替的に0.0005、代替的に0.001、代替的に0.0016、代替的に0.002マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の最小酸素透過速度定数を有する、請求項22~30のいずれか一項に記載の真空排気された採血管。
【請求項32】
0.01、代替的に0.005、代替的に0.002マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の最大酸素透過速度定数を有する、請求項31に記載の真空排気された採血管。
【請求項33】
前記壁が50℃及び90%相対湿度で2.5g/m2/日の水蒸気透過速度を有する、請求項22~32のいずれか一項に記載の真空排気された採血管。
【請求項34】
前記容器が試料保存管、遠心管、クロマトグラフィバイアル又は管を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~21のいずれか一項に記載の方法に従って作製された真空排気された採血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2015年8月18日出願の米国仮特許出願第62/206,637号明細書の優先権を主張する。米国仮特許出願第62/206,637号明細書の明細書及び図面、並びに米国特許第7,985,188号明細書及び2015年6月26日出願の米国特許出願第14/751,435号明細書の明細書及び図面は、参照によりその内容全体が本明細書に援用される。それらの援用される特許及び明細書は、場合により本明細書で変更のうえ、本発明の実施に一般的に使用することができる装置、容器、前駆体、皮膜又は層、及び方法(特に被覆方法、及び皮膜又は層を検査するための試験方法)について記載している。それらはまた、本明細書で参照するSiOxCyタイコート皮膜又は層、及びpH保護皮膜又は層、及びSiOxバリア皮膜又は層についても記載している。
【0002】
本発明は、バリア被覆表面の技術分野に関し、例えば、保管又は他の流体との接触用の薬剤パッケージ又は他の容器の内部表面に関する。適切な流体の例は、食品、栄養補助食品、薬物、吸引麻酔薬、診断試験物質、又は生物学的に活性の化合物又は体液、例えば、血液を含む。本発明は、また、ガスバリア皮膜、及び任意選択的にガスバリア皮膜を保護するpH保護皮膜を有する採血管又は他の容器に関する。
【0003】
本開示は、また、薬剤パッケージ又は他の容器、例えば、製剤保管及び送達、静脈穿刺及び他の医療サンプル採集(例えば、真空排気された血液試料採集管)並びに他の目的のために使用される複数の同一薬剤パッケージ又は他の容器を加工するための改良された方法に関する。
【0004】
本開示は、また、結果的に得られるパッケージ、薬剤パッケージ又は他の容器に関する。このような薬剤パッケージ又は他の容器は、多数において使用され、製造が比較的経済的でなければならないが、保管及び使用において非常に信頼性の高いものでなければならない。
【背景技術】
【0005】
保管又は他の流体との接触用の薬剤パッケージ又は他の容器、例えば、バイアル、プレフィルドシリンジ、又は試料採集管の製造において重要な考慮事項の1つは、薬剤パッケージ又は他の容器の内容が望ましくは相当な保管寿命を有することである。この保管寿命中、薬剤パッケージ又は他の容器に含まれる任意の物質を、それを含む容器壁から、又は薬剤パッケージ又は他の容器壁に塗布されたバリア層、又は他の機能層から分離し、薬剤パッケージ又は他の容器壁、バリア層、又は他の機能層から充填済み内容物に又はその逆に物質が抜き出されることを回避することが重要である。
【0006】
ガラスと比較して寸法公差が大きく、破損の少ないプラスチック薬剤パッケージ又は他の容器に転換した企業もあるが、プラスチックはガス(酸素)透過速度(permeation rate)が比較的高いため、即ち、プラスチックは小分子ガスを物品内に(又は物品外に)透過させるため、プラスチックの一次薬剤包装としての使用は依然として限定されている。プラスチックのガスに対する透過速度定数は、ガラスの透過速度定数よりきわめて大きく、多くの場合(エピネフリンなどの酸素感受性薬物のように)、プラスチックは、このような理由からこれまで容認されてこなかった。
【0007】
熱可塑性容器の透過速度定数が比較的高いという問題は、容器壁にバリア皮膜又は層を付加することによって対処されてきた。こうしたバリア層の1つは、下記で定義されるSiOxの非常に薄い皮膜であり、それは、内腔を画定する壁の内部表面にプラズマ化学気相成長によって塗布される。しかしながら、PECVDによってパッケージに堆積させる現在のSiOxバリア層は、4より高いpH値、特により高いpH値を有する容器の水性内容物により腐食して除去される。これにより、容器の有用な保管寿命は、そのバリア効果が低下するために短くなる。
【0008】
より詳細には、内腔が真空排気された状態で販売されている真空排気された血液試料採取管を考慮する。真空を用いて患者の体内から管内に血液を引き込み、真空のレベルにより、その引込体積容量(draw volume capacity)、即ち、圧力が等化し流れが停止する前に管がどの程度の血液を引き込み得るかが決まる。ポリマー熱可塑性材料から作製された真空排気された血液試料採取管は、時間が経過するにつれて管内の真空レベルを低下させる空気などの大気ガス、又は酸素及び窒素などのその成分ガスに対して透過性がある。真空レベルが低下しすぎると、試料管の仕様を満たすのに十分な血液が引き込まれなくなる。一般的な仕様は、真空排気された血液試料採取管がその保管寿命を通して、同じ種類の新たに真空排気された容器の引込体積容量の少なくとも90%の引込体積容量を維持しなければならないというものである。熱可塑性ポリマー容器の保管寿命中にその中に大気ガスが入るのを防止し、従って、望ましい程度に長い保管寿命にわたってこの仕様を満たす管を提供するために、バリア皮膜又は層は有用である。
【0009】
多くのこのような試料管は試薬も収容し、それは、製造時に導入され、血液又は別の試料が導入されてその試薬と接触するまで内腔内に留まる。この試薬は、試料採取管の保管寿命中、容器壁及びその壁の任意の皮膜と接触する可能性がある。多くのこのような水性試薬、例えば、血液試料採取管内に導入される血液の凝固を防止するために一般に使用されるクエン酸ナトリウム緩衝試薬は、SiOxバリア皮膜又は層と直接接触した場合、そのバリア皮膜又は層に損傷を与える可能性がある。従って、バリア皮膜又は層と内腔内の試薬又は他の内容物との間の直接的な接触を防止するために、バリア保護皮膜又は層の上にpH保護皮膜又は層を塗布することが有用であることが分かった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、タイコート皮膜又は層(289)、バリア皮膜又は層、及び任意選択的に1つ又は複数の追加の皮膜又は層を塗布するために容器を処理する方法である。
【0011】
このプロセスを行うために、内腔を画定する、本質的に熱可塑性ポリマー材料からなる壁を含む容器が提供される。壁は、内腔に面する内側面(303)と外側面とを有する。
【0012】
プロセス中、内腔内に部分真空が引かれる。内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、タイPECVD被覆プロセスにより、SiOxCyのタイコート皮膜又は層が塗布される。タイPECVD被覆プロセスは、皮膜を形成するために好適なガスを供給しながら、内腔内でプラズマを発生させるのに十分な電力を印加することによって実施される。供給ガスは、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含む。x及びyの値は、X線光電子分光法(XPS)によって求められる場合のものである。その後、内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、プラズマを消滅させる。その結果、内側面にSiOxCy(式中、xが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)のタイコート皮膜又は層が生成される。
【0013】
その後、プロセス中、内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、バリアPECVD被覆プロセスにより、バリア皮膜又は層が塗布される。バリアPECVD被覆プロセスは、ガスを供給しながら内腔内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加することによって実施される。供給ガスは、直鎖シロキサン前駆体及び酸素を含む。その結果、タイコート皮膜又は層と内腔との間にSiOx(式中、XPSによって求められた場合にxが1.5~2.9である)のバリア皮膜又は層が生成される。
【0014】
その後、任意選択的に、内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、プラズマを消滅させる。
【0015】
その後、更なる選択肢として、SiOxCyのpH保護皮膜又は層を塗布することができる。同様に、この式では、それぞれXPSによって求められた場合にxは約0.5~約2.4であり、及びyは約0.6~約3である。pH保護皮膜又は層は、任意選択的に、pH保護PECVD被覆プロセスにより、バリア皮膜又は層と内腔との間に塗布される。このプロセスは、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含むガスを供給しながら、内腔内にプラズマを発生させるのに十分な電力を印加することを含む。
【0016】
この処理の結果、タイコート皮膜又は層の塗布とバリア皮膜又は層の塗布との間で内腔内の部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された対応する容器より低い内腔内へのガス透過速度定数(gas permeation rate constant)を有する被覆容器が生成される。
【0017】
本発明の別の態様は、上述した方法のうちの任意のものに従って作製された真空排気された採血管である。
【0018】
本発明の別の態様は、後に定義するプロセスによって作製される、壁と、タイコート皮膜又は層と、バリア皮膜又は層と、任意選択的にpH保護皮膜又は層とを含む被覆容器である。
【0019】
壁は、本質的に熱可塑性ポリマー材料からなり、内腔を画定する。壁は、内腔に面する内部表面と外部表面とを有する。
【0020】
タイコート皮膜又は層は、内側表面において、本質的にSiOxCy(式中、それぞれX線光電子分光法(XPS)によって求められた場合にxが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)からなる。
【0021】
バリア皮膜又は層は、タイコート皮膜又は層と内腔との間において本質的にSiOx(式中、XPSによって求められた場合にxが1.5~2.9である)からなる。
【0022】
任意選択的なpH保護皮膜又は層は、バリア皮膜又は層と内腔との間において、本質的にSiOxCy(式中、それぞれXPSによって求められた場合にxが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)からなる。
【0023】
被覆容器は、幾つかのステップを含むプロセスによって形成される。壁を含む容器が提供される。内腔内に部分真空が引かれる。内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含むガスを供給しながら、内腔内でプラズマを発生させるのに十分な電力(代替的に、本明細書では同じ概念を「エネルギ」と呼ぶ)を印加することを含むタイPECVDプロセスにより、SiOxCyのタイコート皮膜又は層が塗布される。
【0024】
その後、内腔内で部分真空が遮断されない状態で維持しながら、プラズマを消滅させる。その後、依然として内腔内で部分真空が遮断されない状態で維持しながら、直鎖シロキサン前駆体又は酸素を含むガスを供給しながら、内腔プラズマを発生させるのに十分な電力を印加することを含むバリアPECVDプロセスにより、バリア皮膜又は層が塗布される。
【0025】
任意選択的なpH保護皮膜又は層が塗布される場合、これは、以下のプロセスに従って任意選択的に行うことができる。
【0026】
任意選択的に、バリア皮膜又は層を塗布した後、内腔内で部分真空が遮断されない状態で維持しながら、プラズマを消滅させる。
【0027】
その後、任意選択的に、内腔内で部分真空が遮断されない状態で維持しながら、pH保護PECVDプロセスにより、SiOxCyのpH保護皮膜又は層が塗布される。pH保護PECVDプロセスは、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含むガスを供給しながら、内腔内でプラズマを発生させるのに十分な電力を印加することを含む。
【0028】
プロセスの結果は被覆容器である。
【0029】
驚くべきことに、このプロセスにより作製された被覆容器は、タイコート皮膜又は層の塗布とバリア皮膜又は層の塗布との間に内腔において部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された対応する容器より低い内腔内へのガス透過速度定数を有する。代替的に、任意選択的なステップを含むこのプロセスによって作製された被覆容器は、タイコート皮膜の塗布又は層とバリア皮膜又は層の塗布との間に内腔内で部分真空を遮断し、且つバリア皮膜又は層の塗布とpH保護皮膜又は層の塗布との間に内腔内で部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された対応する容器より低い内腔内へのガス透過速度定数を有する。
【0030】
本発明の別の態様は、前記に定義される被覆容器と、内腔を封止するクロージャとを含む、真空排気された採血管である。内腔は、患者の静脈から内腔内に血液を引き込むのに十分な真空レベルを有する。
【0031】
本発明の更に別の態様は、開口部を画定する頂部と、内腔を画定する内側面と、外側面と、頂部に隣接する内側面のストッパ接触領域とを有する熱可塑性容器壁であり得る、真空排気された採血管である。ストッパ接触領域は、0度~1.3度だけ内向きにテーパが付けられている。
【0032】
本発明の更なる態様は、頂部と、内腔を画定する内側面と、外側面とを有する熱可塑性容器壁を含む、真空排気された採血管である。保持リップが内側面から半径方向内向きに突出している。内側面は、保持リップに隣接し且つその下方にストッパ接触領域を含む。
【0033】
本発明の更なる態様、特徴及び実施形態は、以下の説明及び特許請求の範囲において提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の任意の実施形態による容器の概略断面図である。
【
図2】
図1の容器壁及び皮膜の一部の拡大詳細図である。
【
図3】三層皮膜を有する本発明により作製された6mLバイアルに対する、層間に真空遮断があって作製された同様のバイアルと比較した、pH9リン酸緩衝液での酸素透過速度定数(OPRC)対保管時間のプロットである。
【
図4】真空排気された採血管として使用されるのに好適な
図1及び
図2の薬剤パッケージ又は容器のより詳細な実施形態の平面図である。
【
図5】
図4の切断線5-5に沿った
図4の実施形態の長手方向断面である。
【
図7】本明細書に従って作製されるpH保護層に対するフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面では以下の参照符号を使用する。
【0036】
【0037】
定義
本発明に関連して、以下の定義及び略語を使用する。
【0038】
RFは高周波である。
【0039】
用語「少なくとも(at least)」は、本発明に関連して、同用語に続く整数と「等しいかそれを超える(equal or more)」ことを意味する。「を含む(comprising)」という語は他の要素又はステップを排除するものではなく、また、不定冠詞「a」又は「an」は別段の定めがなければ複数形を排除するものではない。パラメータ範囲が示される場合、範囲の限界として提供するパラメータ値及び前記範囲内にあるパラメータの全ての値を開示することを意図する。
【0040】
任意のものに対する「第1の」及び「第2の」又は類似の言及は、存在する最小数のそのようなものを意味するものであり、必ずしもそのようなものの順序又は総数を示すとは限らず、又は記載された数を超えるそのようなものを要求するものではない。例えば、「第1の」堆積物は、本明細書に関連して、限定されることなく、唯一の堆積物であっても、又は複数の堆積物のいずれか1つであってもよい。換言すれば、「第1の」堆積物という記載は、第2の又は他の堆積物も有する実施形態を可能にするが、必要とするわけではない。
【0041】
本発明の目的では、「有機ケイ素化合物前駆体」は、酸素又は窒素原子及び有機炭素原子(有機炭素原子は少なくとも1個の水素原子と結合した炭素原子である)に結合した四価ケイ素原子である、以下の結合の少なくとも1つを有する化合物である。
【化1】
揮発性の有機ケイ素化合物前駆体は、PECVD装置に蒸気として供給され得る前駆体と定義され、任意の有機ケイ素化合物前駆体である。任意選択的に、有機ケイ素化合物前駆体は、直鎖シロキサン、単環シロキサン、多環シロキサン、ポリシルセスキオキサン、アルキルトリメトキシシラン、直鎖シラザン、単環シラザン、多環シラザン、ポリシルセスキアザン、及びこれら前駆体のいずれか2つ以上の複合体からなる群から選択される。
【0042】
明細書及び特許請求の範囲において、PECVD前駆体、気体反応物又はプロセスガス及びキャリアガスの供給量は「標準体積(standard volumes)」で表される場合がある。チャージガス又は他の一定量のガスの標準体積は、(実際の送達温度及び圧力を考慮しない)標準温度及び圧力において占める一定量のガスの体積である。標準体積は異なる体積の単位を使用して測定することができるが、それでもなお本開示及び特許請求の範囲の範囲内であり得る。例えば、同じ一定量のガスを、標準立方センチメートルの数値、標準立方メートルの数値、又は標準立方フィートの数値として表すことができる。標準体積も異なる標準温度及び圧力を使用して定義することができるが、それでもなお本開示及び特許請求の範囲の範囲内であり得る。例えば、標準温度が0℃、標準圧力が760トル(従来のまま)である可能性も、標準温度が20℃、標準圧力が1トルである可能性もある。しかし、特定の場合においてどのような標準を使用したとしても、2つ以上の異なるガスの相対体積を特定のパラメータを明示せずに比較する場合、特に明示しない限りは、各ガスに対して同じ体積、標準温度及び標準圧力の単位が使用される。
【0043】
本明細書では、PECVD前駆体、気体反応物又はプロセスガス及びキャリアガスの対応する供給速度は単位時間あたりの標準体積で表される。例えば、実施例において、流量は標準立方センチメートル/分として表され、sccmと略される。他のパラメータと同様、秒又は時間などの他の時間単位を使用できるが、2つ以上のガスの流量を比較する場合、特に明記されない限りは一貫したパラメータが使用される。
【0044】
「容器」は、本発明に関連して、内側又は内部表面を画定する壁を有する任意の種類の容器であり得る。本発明は特定の容量の試料採集管、薬剤パッケージ又は他の容器に必ずしも限定されるわけではないが、内腔が0.5~250mL、任意選択的に、1~20mL、任意選択的に、0.5~12mL、任意選択的に、1~3mLの空隙容量を有する薬剤パッケージ又は他の容器が企図される。基板表面は、少なくとも1つの開口部及び内側又は内部表面を有する容器の内側又は内部表面の一部又は全てであり得る。薬剤パッケージ及び他のパッケージ及び容器の幾つかの例としては、試料採取管、真空排気された血液試料採取管(一般的に、約6mLを収容する小型又は約12mLを収容する大型で提供される)、試料保存管、バイアル、プラスチック被覆バイアル、シリンジ、プラスチック被覆シリンジ、ブリスターパック、アンプル、プラスチック被覆アンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチック被覆ボトル、遠心管、クロマトグラフィバイアル、管、パウチ、ポンプ、噴霧器、ストッパ、針、プランジャ、キャップ、ステント、カテーテル又はインプラントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
更に、本発明による容器は、例えば、血液又は尿などの生物学的流体を採集又は保管するためのサンプルチューブ、生物学的に活性の化合物又は組成物、例えば、薬剤又は薬剤組成物を保管又は送達するためのシリンジ部分、例えば、シリンジバレル、生物学的材料又は生物学的に活性の化合物又は組成物を保管するためのバイアル、導管又は管、例えば、生物学的材料又は生物学的に活性の化合物又は組成物を輸送するためのカテーテル、又は流体を保持するための、例えば、生物学的材料又は生物学的に活性の化合物又は組成物を保持するためのキュベットとすることができる。
【0046】
容器はあらゆる形状のものとすることができる。その開端部の少なくとも1つに隣接する、実質的に円筒状の壁を有する容器が好適である。一般に、容器の内部壁は、例えば、サンプルチューブ又はシリンジバレル内のように円筒状の形状である。サンプルチューブ及びシリンジ又はそれらの部品(例えば、シリンジバレル)が考えられる。
【0047】
w、x、y及びzの値は、本明細書を通じて実験組成物SiwOxCyHzに適用可能であり、x及びyの同じ値は、本明細書を通じて実験組成物SiOXCyに適用可能である。w、x、y及びzの値は、分子内の原子の数又はタイプに対する限定としてではなく、(例えば、皮膜又は層に対する)比率又は実験式として理解すべきである。例えば、分子組成物Si4O4C8H24を有するオクタメチルシクロテトラシロキサンは、分子式のx、y、z及びzのそれぞれを最大公約数である4で割ることにより得た以下の実験式、Si1O1C2H6によって記載され得る。w、x、y及びzの値は、また、整数に限定されない。例えば、(非環式)オクタメチルトリシロキサンの分子組成Si3O2C8H24はSi1O0.67C2.67H8に可約である。
【0048】
SiwOxCyHzの原子比率は、H原子がXPSによって検出可能でないため、XPSにより部分的にのみ求めることができる。しかしながら、異なる分析、例えば、ラザフォード後方散乱法又はラザフォード前方散乱法を用いて検出可能である。従って、特定の皮膜又は層は、一態様では、式SiwOxCyHzによって表すことができ、例えば、式中、wは1であり、xは約0.5~約2.4であり、yは約0.6~約3であり、zは約2~約9である。代替的に、同じ特定の皮膜又は層は、水素を考慮することなく、XPSのみで特徴付けることができ、従って、式SiOxCyによって表すことができる。式中、xは約0.5~約2.4であり、yは約0.6~約3である。SiOxCyは、Siに続く下付き文字を有しておらず、それは、式SiwOxCyHzにおける1という下付き文字wと同じ意味を有する。本明細書では、XPSは、概して、水素を考慮せずに使用され、原子比率は、SiOxCyとして表される。通常、このような皮膜又は層は、従って、100%の炭素+酸素+ケイ素に対して正規化された、36%~41%の炭素を含有する。
【0049】
「シリンジ」という用語は、カートリッジ、「ペン」型注射器、及び他の1つ又は複数の構成要素と共に組み立てられて機能的なシリンジを提供するようになっている他の種類のバレル又はリザーバを含むように広く定義される。「シリンジ」はまた、内容物を分注するための機構を提供する、オートインジェクタなどの関連物品を含むように広く定義される。
【0050】
「容器の内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら」容器を処理することは、容器の圧力を実質的に周囲大気圧、厳密に周囲大気圧、又は周囲大気圧を超える圧力にするのに十分なガスを内腔内に導入することなく、容器の処理を続けることを意味する。
【0051】
内腔内へのガス透過速度定数(GPRCと略す)は、容器壁の特徴であり、1cm2の壁表面積及び壁を横切る1気圧(標準大気圧)のガス分圧差に対する、閉鎖容器の外側から容器の内腔内へのその壁を通る大気又は他の何らかの指定ガスの瞬間透過速度(μmol又はマイクロモル/日)を意味する。ガス透過速度定数は、μmol/(日×cm2×atm)の単位で測定され得る。この項は、壁とクロージャとの間を漏れるか又はクロージャを透過することによるような、壁を迂回するガスを含まない。
【0052】
「接着皮膜又は層の塗布とバリア皮膜又は層の塗布との間に内腔において部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された対応する容器より低い内腔内へのガス透過速度定数を有する被覆容器」は、主として説明を要しない。この文言に関連して、「内腔において部分真空を遮断すること」は、容器の圧力を実質的に周囲大気圧、厳密に周囲大気圧、又は周囲大気圧を超える圧力にするのに十分なガスを内腔内に導入することを意味する。
【0053】
容器の保管寿命は、容器が使用され且つ適切に機能し得る、製造日後の期間として定義される。例えば、真空排気された採血管の保管寿命は、真空排気された採血管が同じ種類の新たに真空排気された容器の引込体積容量の少なくとも90%の引込体積容量を維持する真空排気日後の期間である。
【0054】
引込体積容量の変化は、引込体積対時間の物理学的測定によって直接測定されてもよく、又は対象の容器の窒素透過速度定数を考慮するために酸素透過速度定数(OPRC)に乗数を与え、その後、結合された酸素+窒素透過速度定数を求めることによって推定されてもよい。周囲空気における残っているガスは、通常、この計算で求められないほど希釈している。
【0055】
経験則として、窒素透過速度定数と酸素透過速度定数との比は、広範囲のポリマーに対して非常に一定である(D.W.van Krevelen,Properties of Polymers,1990,Table 18.6)。酸素の透過速度定数は、同じポリマーにおける窒素の透過速度定数の約3.8倍である。
【0056】
【0057】
ここで、幾つかの実施形態を示す添付の図面を参照して本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で具現化することができ、ここで説明する実施形態に限定されるものと解釈すべきではない。むしろ、これら実施形態は本発明の例であり、特許請求の範囲の文言により示される全範囲を有する。全体にわたり同様の数は同様の要素又は対応する要素を意味する。以下の開示は、特定の実施形態に特に限定されない限りは全実施形態に関連する。
【0058】
容器及び皮膜セット
図1、
図2及び
図4~
図6に示す容器を含む企図された被覆容器は、以下に定義するプロセスによって作製される、壁214と、内腔212に面する壁214の少なくとも一部における、タイコート皮膜又は層289、バリア皮膜又は層288、及び任意選択的にpH保護皮膜又は層286を含む容器皮膜又は層のセット285とを含む。
【0059】
容器は、より具体的には、真空排気された採血管、バイアル、シリンジ、ブリスターパック、アンプル、カートリッジ、ボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、ストッパ、針、プランジャ、キャップ、ステント、カテーテル若しくはインプラント、又は流体用の他の任意のタイプの容器若しくは導管など、試料採取管であり得る。
図1及び
図2は、少なくとも単一の開口部を有する容器を示し、シリンジなど、2つ以上の開口部を有する容器、又はパウチ、ブリスターパック若しくはアンプルなど、開口部のない容器を含むように理解すべきである。壁は、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN);ポリオレフィン、環状オレフィン重合体(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)又はポリカーボネート、好ましくはCOPを任意選択的に含む、任意の熱可塑性ポリマー材料から作製され得る。水透過性が酸素透過性より重要でない場合、PET壁が明示的に企図され、それは、PETがCOPより水透過性が高いが、酸素透過性がおよそ一桁低いためである。
【0060】
容器皮膜又は層のセット285の一実施形態は、
図1、
図2に示す少なくとも1つのタイコート皮膜又は層289と、少なくとも1つのバリア皮膜又は層288と、(任意選択的である)少なくとも1つのpH保護皮膜又は層286とである。全部で3つの層を含む容器皮膜又は層のセットのこの実施形態は、「三層皮膜」として知られることもあり、SiOxのバリア皮膜又は層288は、それぞれ本明細書に定義されるSiOxCyの有機層である、pH保護皮膜又は層286とタイコート皮膜又は層289との間に挟設されることにより、さもなければそれを除去するほど高いpHを有する内容物から保護される。本明細書では、この三層皮膜の具体的な例を提供する。
【0061】
pH保護皮膜又は層286は、その平均原子比が式SiOxCyによって表されることに加えて、FTIRスペクトルによって特徴付けることができ、その代表的な例を
図7に示す。pH保護皮膜又は層286に対するピーク割当は、以下の通りである。
【0062】
化学結合波数(cm-1)
・Si-O-Si(非対称伸縮) 1080~1200
・Si-O-Si(対称伸縮) 1020~1080
・C-H 2960
・Si-H 2100
・Si-CH3 1273
・Si-(CH3)
x 800~830
pH保護皮膜又は層286に対するFTIRスペクトルでは、通常、Si-O-Si対称伸縮ピーク及び非対称伸縮ピークは、融合して単純なピークを形成するように見え、一方で潤滑性皮膜に対するスペクトル(例えば、米国特許第7,985,188号明細書において言及されている)では、Si-O-Si対称伸縮ピーク及び非対称伸縮ピークは、波数の低い側(
図7の右側)に肩部を有する複合ピークを形成し、肩部は非対称伸縮を示す。
【0063】
表1の三層厚さにおいて、nmでの各層の企図される厚さ(括弧内は好ましい範囲)を示す。
【0064】
【0065】
三層皮膜セット285は、任意選択的に、第1の層として、バリア皮膜又は層のCOP基板への接着を促進する接着又はタイコート皮膜又は層289を含む。接着又はタイコート皮膜又は層289はまた、バリア皮膜又は層288に対する応力を緩和して、バリア層が熱膨張若しくは熱収縮又は機械的衝撃による損傷を受け難くすると考えられる。接着又はタイコート皮膜又は層289はまた、バリア皮膜又は層288とCOP基板との間の欠陥を分断すると考えられる。これは、接着又はタイコート皮膜又は層289が塗布されるときに形成され得るピンホール又は他の欠陥があっても、バリア皮膜又は層288が塗布されると連続しなくなり、このように1つの皮膜中のピンホール又は他の欠陥は他の皮膜中の欠陥と一列に並ばないため、起こると考えられる。接着又はタイコート皮膜又は層289はバリア層としての効果が幾らかあり、このように、バリア皮膜又は層289を通って延びる漏れ経路となる欠陥があっても接着又はタイコート皮膜又は層289で塞ぐことができる。
【0066】
三層皮膜セット285は、第2の層として、COPバリア壁を透過した酸素に対するバリアを提供するバリア皮膜又は層288を含む。バリア皮膜又は層288はまた、内腔214の内容物によるバリア壁214の組成物の抽出に対するバリアである。
【0067】
三層皮膜セット285は、任意選択的に、第3の層として、pH保護皮膜又は層286を含み、それは、界面活性剤が存在する場所を含む4~8以上のpHを有する容器の内容物に対して、下にあるバリア皮膜又は層288の保護を提供する。製造時から使用時まで容器の内容物と接触しているプレフィルド容器では、pH保護皮膜又は層286は、プレフィルド容器の所期の保管寿命にわたり有効な酸素バリアを維持するのに十分なほどバリア皮膜又は層288の攻撃を防止又は抑制する。
【0068】
5~9のpHを有する流体が直接接触した場合のpH保護皮膜又は層286の浸食速度、溶解速度、抽出速度又は浸出速度(関連する概念の異なる名称)は、5~9のpHを有する流体が直接接触した場合のバリア皮膜又は層288の浸食速度より低い。pH保護皮膜又は層286は、薬剤パッケージ又は他の容器210の保管寿命中、少なくともバリア皮膜がバリアとして作用するのに十分な時間にわたり、5~9のpHを有する流体218をバリア皮膜又は層288から隔離するのに有効である。
【0069】
酸素透過速度定数(OPRC)は、バリア皮膜の完全性を検証するために適切であると考えられる。
【0070】
皮膜又は層
タイコート皮膜又は層は、内部表面において本質的にSiOxCy(式中、それぞれX線光電子分光法(XPS)によって求められた場合にxが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)からなる。
【0071】
タイコート皮膜又は層289は少なくとも2つの機能を有する。タイコート皮膜又は層289の1つの機能は、基板、特に熱可塑性基板に対するバリア皮膜又は層288の接着を促進することであるが、タイコート層は、ガラス基板又は別の皮膜若しくは層への接着を促進するために使用することができる。例えば、接着層又は皮膜とも称されるタイコート皮膜又は層を基板に塗布することができ、基板へのバリア層又は皮膜の接着を促進するように接着層にバリア層を塗布することができる。
【0072】
皮膜又は層289の別の機能、即ち、バリア皮膜又は層288の下に塗布されたタイコート皮膜又は層289が、バリア皮膜又は層288の上に塗布されたpH保護皮膜又は層286の機能を改善し得ることが発見された。
【0073】
タイコート皮膜又は層289は、SiOxCy(式中、xが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)からなり、それを含み、又はそれから本質的に構成されてもよい。タイコート皮膜又は層289中のSi、O、及びCの原子比率は、幾つかの選択肢として、
Si 100:O 50~150:C 90~200(即ち、w=1、x=0.5~1.5、y=0.9~2)、
Si 100:O 70~130:C 90~200(即ち、w=1、x=0.7~1.3、y=0.9~2)、
Si 100:O 80~120:C 90~150(即ち、w=1、x=0.8~1.2、y=0.9~1.5)、
Si 100:O 90~120:C 90~140(即ち、w=1、x=0.9~1.2、y=0.9~1.4)、又は
Si 100:O 92~107:C 116~133(即ち、w=1、x=0.92~1.07、y=1.16~1.33)
である。原子比率は、XPSにより求めることができる。
【0074】
任意選択的に、タイコート皮膜又は層は、本明細書の他の箇所に記載されているpH保護皮膜又は層286と組成が類似していても又は同一であってもよいが、これは必要条件ではない。
【0075】
タイコート皮膜又は層289は、任意の実施形態において、特に化学気相成長により塗布される場合、概して5nm~100nmの厚さ、好ましくは5~20nmの厚さであると企図される。これらの厚さは重要ではない。タイコート皮膜又は層289は、その機能が基板の表面特性を変化させることであるため、一般的に比較的薄いが、必ずしもそうとは限らない。
【0076】
バリア層
バリア皮膜又は層は、タイコート皮膜又は層と内腔との間において本質的にSiOx(式中、XPSによって求められた場合にxが1.5~2.9である)からなる。
【0077】
バリア皮膜又は層288を、任意選択的に、薬剤パッケージ、特に熱可塑性パッケージの容器の上にプラズマ化学気相成長(PECVD)又は他の化学気相成長法により堆積させて、酸素、二酸化炭素、又は他のガスが容器に入ることを防止し、且つ/又はパッケージ壁内への若しくはパッケージ壁を通した医薬物質の浸出を防止することができる。
【0078】
本明細書において定義される任意の実施形態に対するバリア皮膜又は層は(特定の場合に別段の指定がある場合を除き)、米国特許第7,985,188号明細書に示されているように、任意選択的にPECVDにより塗布される皮膜又は層である。バリア層は、任意選択的に、「SiOx」皮膜として特徴付けられ、ケイ素、酸素、及び任意選択的に他の元素を含有し、式中、酸素原子対ケイ素原子の比率であるxは、約1.5~約2.9、又は1.5~約2.6、又は約2である。xのこれらの代替的な定義は、本明細書において項SiOxのいかなる使用にも適用される。バリア皮膜又は層は、例えば、薬剤パッケージ又は他の容器、例えば、試料採取管、シリンジバレル、バイアル又は別のタイプの容器に塗布される。
【0079】
バリア皮膜288は、2~1000nmの厚さのSiOx(式中、xが1.5~2.9である)を含み、又は本質的にそれからなり、SiOxのバリア皮膜288は、内腔212に面する内部表面220と、壁214、物品表面254に面する外面222とを有し、バリア皮膜288は、非被覆容器250と比較して、内腔212内への大気ガスの侵入を低減させるのに有効である。1つの好適なバリア組成物は、例えば、xが2.3のものである。例えば、288などの、任意の実施形態のバリア皮膜又は層は、少なくとも2nm、又は少なくとも4nm、又は少なくとも7nm、又は少なくとも10nm、又は少なくとも20nm、又は少なくとも30nm、又は少なくとも40nm、又は少なくとも50nm、又は少なくとも100nm、又は少なくとも150nm、又は少なくとも200nm、又は少なくとも300nm、又は少なくとも400nm、又は少なくとも500nm、又は少なくとも600nm、又は少なくとも700nm、又は少なくとも800nm、又は少なくとも900nmの厚さで塗布され得る。バリア皮膜又は層は、1000nm以下、又は最大で900nm、又は最大で800nm、又は最大で700nm、又は最大で600nm、又は最大で500nm、又は最大で400nm、又は最大で300nm、又は最大で200nm、又は最大で100nm、又は最大で90nm、又は最大で80nm、又は最大で70nm、又は最大で60nm、又は最大で50nm、又は最大で40nm、又は最大で30nm、又は最大で20nm、又は最大で10nm、又は最大で5nmの厚さであり得る。20~200nm、任意選択的に20~30nmの範囲が考えられる。前述の最小厚さのいずれか1つと、前述の最大厚さのいずれかの等しい又はより大きいものとで構成される特定の厚さ範囲が特に考えられる。
【0080】
SiOx又は他のバリア皮膜又は層の厚さは、例えば、透過電子顕微鏡法(TEM)により測定することができ、その組成はX線光電子分光法(XPS)により測定することができる。本明細書に記載のプライマー皮膜又は層は、プラスチック又はガラスから作製された種々の薬剤パッケージ又は他の容器、例えば、プラスチック管、バイアル及びシリンジに塗布することができる。
【0081】
xが1.5~2.9である、SiOxのバリア皮膜又は層286が、プラズマ化学気相成長(PECVD)により、熱可塑性壁214に直接又は間接的に塗布され(例えば、それらの間にタイコート皮膜又は層289を挿入することができる)、それにより、充填された薬剤パッケージ又は他の容器210において、バリア皮膜又は層286は、熱可塑性壁214の内面又は内部表面220と流体218との間に位置する。
【0082】
SiOxのバリア皮膜又は層286は、熱可塑性壁214によって支持される。任意の実施形態において、本明細書の別の箇所又は米国特許第7,985,188号明細書に記載されているバリア皮膜又は層286を用いることができる。
【0083】
本明細書で定義されるSiOxなどの特定のバリア皮膜又は層286は、本明細書の他の箇所に記載されている被覆容器、特にバリア皮膜又は層が内容物に直接接触する被覆容器の特定の比較的高いpHの内容物により攻撃されると、6ヶ月未満でバリア改善率が測定可能な程度低下するという特徴を有することが判明した。この組織は、本明細書において考察されるように、pH保護皮膜又は層を用いて対処することができる。
【0084】
pH保護皮膜又は層
任意選択的なpH保護皮膜又は層は、バリア皮膜又は層と内腔との間において本質的にSiOxCy(式中、それぞれXPSによって求められる場合にxが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)からなる。
【0085】
本発明者らは、SiOxのバリア層又は皮膜が一部の流体、例えば、約4より高い、任意選択的に約5より高いpHを有する水性組成物により浸食又は溶解されることを見出した。化学気相成長法により塗布される皮膜は非常に薄く-厚さ数十~数百ナノメートルになり得るため、浸食速度が比較的遅くても製品パッケージの所望の保管寿命よりも短い時間でバリア層の有効性が失われる又は低下するおそれがある。これは、水性流体医薬組成物の多くが血液及びヒト又は動物の他の体液のpHと類似のおよそ7のpH、又はより広く5~9の範囲のpHを有するため、流体医薬組成物では特に問題となる。医薬製剤のpHが高いほどSiOx皮膜の侵食又は溶解が速くなる。任意選択的に、バリア皮膜若しくは層288、又は他のpH感受性材料をpH保護皮膜又は層286で保護することにより、この問題に対処することができる。
【0086】
任意選択的に、pH保護皮膜又は層286は、SiwOxCyHz(若しくはその均等なSiOxCy)又はSiwNxCyHz若しくはその均等なSi(NH)xCy)、から構成され、それを含み、又は本質的にそれからなってもよい。Si:O:C又はSi:N:Cの原子比率は、XPS(X線光電子分光法)によって求めることができる。従って、pH保護皮膜又は層は、一態様では、式SiOxCy(式中、xが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)を有してもよい。従って、別の態様では、同じpH保護皮膜又は層が式SiOxCyHz(式中、xが約0.5~約2.4であり、yが約0.6~約3であり、及びzが約2~約9である)を有してもよい。
【0087】
通常、式SiwOxCy(式中、w=1)として表されると、Si、P及びCの原子比率は、幾つかの選択肢として、
・Si 100:O 50~150:C 90~200(即ち、w=1、x=0.5~1.5、y=0.9~2)、
・Si 100:O 70~130:C 90~200(即ち、w=1、x=0.7~1.3、y=0.9~2)、
・Si 100:O 80~120:C 90~150(即ち、w=1、x=0.8~1.2、y=0.9~1.5)、
・Si 100:O 90~120:C 90~140(即ち、w=1、x=0.9~1.2、y=0.9~1.4)、
・Si 100:O 92~107:C 116~133(即ち、w=1、x=0.92~1.07、y=1.16~1.33)、又は
・Si 100:O 80~130:C 90~150
である。
【0088】
代替的に、pH保護皮膜又は層は、50%未満の炭素及び25%超のケイ素のX線光電子分光(XPS)によって決定される、炭素、酸素及びケイ素の100%に正規化した原子濃度を有し得る。代替的に、原子濃度は、25~45%炭素、25~65%ケイ素、及び10~35%酸素である。代替的に、原子濃度は、30~40%炭素、32~52%ケイ素、及び20~27%酸素である。代替的に、原子濃度は、33~37%炭素、37~47%ケイ素、及び22~26%酸素である。
【0089】
pH保護膜又は層の厚さは、例えば、10nm~1000nm;代替的に10nm~1000nm;代替的に10nm~900nm;代替的に10nm~800nm;代替的に10nm~700nm;代替的に10nm~600nm;代替的に10nm~500nm;代替的に10nm~400nm;代替的に10nm~300nm;代替的に10nm~200nm;代替的に10nm~100nm;代替的に10nm~50nm;代替的に20nm~1000nm;代替的に50nm~1000nm;代替的に10nm~1000nm;代替的に50nm~800nm;代替的に100nm~700nm;代替的に300~600nmである。
【0090】
任意選択的に、X線光電子分光(XPS)によって決定される、炭素、酸素及びケイ素の100%に正規化した保護層における炭素の原子濃度は、有機ケイ素化合物前駆体の原子式における炭素の原子濃度を超えることができる。例えば、炭素の原子濃度が、1~80原子百分率、代替的に10~70原子百分率、代替的に20~60原子百分率、代替的に30~50原子百分率、代替的に35~45原子百分率、代替的に37~41原子百分率だけ増加する実施形態が企図される。
【0091】
任意選択的に、pH保護皮膜又は層における炭素対酸素の原子比率は有機ケイ素化合物前駆体と比べて増加させることができる、及び/又は酸素対ケイ素の原子比率は有機ケイ素化合物前駆体と比べて減少させることができる。
【0092】
任意選択的に、pH保護皮膜又は層は、X線光電子分光(XPS)によって決定される、炭素、酸素及びケイ素の100%に正規化したケイ素の原子濃度を有することができ、これは、供給ガスの原子式におけるケイ素の原子濃度よりも小さい。例えば、ケイ素の原子濃度が1~80原子百分率、代替的に10~70原子百分率、代替的に20~60原子百分率、代替的に30~55原子百分率、代替的に40~50原子百分率、代替的に42~46原子百分率だけ減少する実施形態が企図される。
【0093】
別の選択肢として、有機ケイ素化合物前駆体の合計式と比べて、原子比率C:Oを増加することができる、及び/又は原子比率Si:Oを減少することができる合計式を特徴とし得るpH保護皮膜又は層がいずれの実施形態においても企図される。
【0094】
pH保護皮膜又は層286は、一般的に、完成物品においてバリア皮膜又は層288と流体218との間に位置する。pH保護皮膜又は層286は、熱可塑性壁214によって支持される。
【0095】
pH保護皮膜又は層286は、任意選択的に、少なくとも6か月の期間にわたり、流体218による攻撃の結果としてバリア皮膜又は層288を少なくとも実質的に非溶解状態で維持するのに有効である。
【0096】
pH保護皮膜又は層は、X線反射率(XRR)によって決定されるように、1.25~1.65g/cm3、代替的に1.35~1.55g/cm3、代替的に1.4~1.5g/cm3、代替的に1.4~1.5g/cm3、代替的に1.44~1.48g/cm3の密度を有し得る。任意選択的に、有機ケイ素化合物はオクタメチルシクロテトラシロキサンとすることができ、pH保護皮膜又は層は、同じPECVD反応条件下で有機ケイ素化合物としてHMDSOから作製されたpH保護皮膜又は層の密度よりも高くされ得る密度を有することができる。
【0097】
pH保護皮膜又は層は、任意選択的に、非被覆面、及び/又は前駆体としてHMDSOを用いるバリア被覆面と比較して、化合物又は組成物の成分の沈殿を防止するか又は低減させることができ、特にインスリン沈殿又は血液凝固を防止するか又は低減させることができる。
【0098】
pH保護皮膜又は層は、任意選択的に、約5~約9、任意選択的に約6~約8、任意選択的に約6.4~約7.8の(AFMによって測定された)RMS表面粗さ値を有し得る。AFMによって測定されたpH保護皮膜又は層のRa表面粗さ値は、約4~約6、任意選択的に、約4.6~約5.8であり得る。AFMによって測定されたpH保護皮膜又は層のRmax表面粗さ値は、約70~約160、任意選択的に、約84~約142、任意選択的に、約90~約130であり得る。
【0099】
pH保護の内部表面は、任意選択的に、ASTM D7334-08「前進接触角測定による皮膜、基板及び顔料の表面濡れ性に関する標準的技法(Standard Practice for Surface Wettability of Coatings, Substrates and Pigments by Advancing Contact Angle Measurement)」に準拠して、pH保護面上の水滴のゴニオメーター角度測定により測定した場合、90°~110°、任意選択的に80°~120°、任意選択的に70°~130°の接触角(蒸留水との)を有し得る。
【0100】
不動態化層又はpH保護皮膜又は層286(「不動態化層」と「pH保護皮膜又は層」とは、同じものに対する2つの異なる名称である)は、任意選択的に、
【数1】
として測定された、減衰全反射(ATR)フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で測定した0.4未満のOパラメータを示す。
【0101】
Oパラメータは、最も広くは0.4~0.9のOパラメータ値を請求する米国特許第8,067,070号明細書において定義される。Oパラメータは、上記式の分子及び分母を見出すためのFTIR振幅対波数プロットの物理的分析から測定され得る。Oパラメータは、また、デジタル波数対吸光度データから測定され得る。
【0102】
米国特許第8,067,070号明細書では、請求されるOパラメータ範囲が優れたpH保護皮膜又は層を提供すると主張する。驚くべきことに、本発明者らは、米国特許第8,067,070号明細書において請求された範囲外のOパラメータが、米国特許第8,067,070号明細書において得られるものよりも更に良好な結果を提供し得ることを発見した。
【0103】
代替的に、
図1及び
図2の実施形態では、Oパラメータは、0.1~0.39、又は0.15~0.37、又は0.17~0.35の値を有する。
【0104】
本発明の更に別の態様は、
図1~
図5において例示される、上述のような複合材料であり、そこでは、不動態化層は、
【数2】
として測定される、減衰全反射(ATR)フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)によって測定される0.7未満のNパラメータを示す。
【0105】
Nパラメータも米国特許第8,067,070号明細書に記載されており、2つの特定波数(これら波数のどちらも範囲ではない)における強度が使用されること以外はOパラメータと同様に測定される。米国特許第8,067,070号明細書は、0.7~1.6のNパラメータを有する不活性化層を請求する。同じく、本発明者は、上述のように、0.7を下回るNパラメータを有するpH保護皮膜又は層286を用いてより良好な皮膜を作製した。代替的に、Nパラメータは、少なくとも0.3、又は0.4~0.6、又は少なくとも0.53の値を有する。
【0106】
流体218が直接接触した場合のpH保護皮膜又は層286の浸食速度、溶解速度、抽出速度又は浸出速度(関連する概念の異なる名称)は、流体が直接接触した場合のバリア皮膜又は層288の浸食速度、溶解速度、抽出速度又は浸出速度より低い。
【0107】
pH保護皮膜又は層の厚さは、任意の実施形態では、50~500nmであるように企図され、好ましい範囲は100~200nmである。
【0108】
pH保護皮膜又は層286は、少なくとも、薬剤パッケージ又は他の容器210の保管寿命中にバリア皮膜がバリアとして作用するのを可能にするのに十分な時間にわたり、バリア皮膜又は層288から流体218を隔離するのに有効である。
【0109】
本発明者らは、pH保護皮膜又は層がかなりの有機成分を有する、シロキサン前駆体から形成されるSiOxCy又はSi(NH)xCyの特定のpH保護皮膜又は層が流体に曝露されても急速に浸食せず、実際、流体が5~9の範囲内の相対的に高いpHを有するとき、浸食又は溶解が比較的遅いことを更に見出した。例えば、pH8では、pH保護皮膜又は層の溶解速度は非常に遅い。従って、SiOxCy又はSi(NH)xCyのこれらのpH保護皮膜又は層を、SiOxのバリア層を覆うのに使用することができ、それを薬剤パッケージ内の流体から保護することによりバリア層の利点を保持する。保護層はSiOx層の少なくとも一部の上に塗布され、さもなければ内容物がSiOx層と接触することになる、容器内に保管される内容物からSiOx層を保護する。
【0110】
有効なSiOxCy又はSi(NH)xCy pH保護皮膜又は層は、例えば、直鎖シロキサン前駆体又は直鎖シラザン前駆体、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)若しくはテトラメチルジシロキサン(TMDSO)、又は環状シロキサン前駆体、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)から堆積させることができる。
【0111】
任意選択的に、任意の実施形態のpH保護皮膜又は層286のFTIR吸光度スペクトルは、通常、約1000~1040cm-1に位置するSi-O-Si対称伸縮ピークの最大振幅と、通常、約1060~約1100cm-1に位置するSi-O-Si非対称伸縮ピークの最大振幅との比率が0.75より大きい。代替的に、任意の実施形態では、この比は、少なくとも0.8、又は少なくとも0.9、又は少なくとも1.0、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.2であり得る。代替的に、任意の実施形態では、この比は、最大で1.7、又は最大で1.6、又は最大で1.5、又は最大で1.4、又は最大で1.3であり得る。
図1~
図5の本発明の代替実施形態として、本明細書で述べる任意の最小比を本明細書で述べる任意の最大比と組み合わせることができる。
【0112】
任意選択的に、任意の実施形態におけるpH保護被覆又は層286について、注射用水で希釈され、濃縮硝酸でpH8に調整され、0.2wt.%ポリソルベート80界面活性剤を含有し(溶解試薬の変化を回避するために薬剤のない状態で測定した)、40℃である50mMリン酸カリウム緩衝液によるケイ素溶解速度は170ppb/日未満である。(ポリソルベート80は、例えば、Tween(登録商標)-80としてUniqema Americas LLC,Wilmington Delawareから入手可能な一般的な製剤の原料である。)代替的に、この段落の試験における企図される溶解試薬は、
・pH3についてリン酸カリウム緩衝液、
・pH6についてクエン酸ナトリウム緩衝液、
・pH7についてリン酸カリウム緩衝液、
・pH8についてリン酸カリウム緩衝液、
・pH9についてトリス緩衝液、
・pH12についてリン酸カリウム緩衝液
である。
【0113】
任意選択的に、任意の実施形態におけるpH保護被覆又は層286について、ケイ素溶解速度は、160ppb/日未満、又は140ppb/日未満、又は120ppb/日未満、又は100ppb/日未満、又は90ppb/日未満、又は80ppb/日未満である。任意選択的に、
図13~26の任意の実施形態では、ケイ素溶解速度は、10ppb/日超、又は20ppb/日超、又は30ppb/日超、又は40ppb/日超、又は50ppb/日超、又は60ppb/日超である。任意の実施形態におけるpH保護被覆又は層286について、ここで記載した任意の最低速度はここで記載した任意の最大速度と組み合わせることができる。
【0114】
任意選択的に、任意の実施形態におけるpH保護被覆又は層286について、容器からpH8の試験組成物への溶解時のpH保護皮膜又は層及びバリア皮膜の総ケイ素含有量は、66ppm未満、又は60ppm未満、又は50ppm未満、又は40ppm未満、又は30ppm未満、又は20ppm未満である。
【0115】
任意の実施形態のpH保護皮膜又は層の特性
作用理論
本発明者らは、本明細書に記載のpH保護皮膜又は層の以下の作用理論を提供する。本発明は、この理論の精度にも、この理論の使用により予測可能な実施形態にも限定されるものではない。
【0116】
SiOxバリア層の溶解速度は、層内のSiO結合に依存するものと考えられる。酸素結合部位(シラノール)は溶解速度を増加させると考えられる。
【0117】
pH保護皮膜又は層は、SiOxバリア層と結合してSiOx表面を「修復」、即ち不動態化し、従って、溶解速度を大幅に減少させると考えられる。この仮説では、pH保護皮膜又は層の厚さは主要な保護手段ではなく、主要な手段はSiOx表面の不動態化である。任意の実施形態において、本明細書に記載のpH保護皮膜又は層は、pH保護皮膜又は層の架橋結合密度を増加させることにより改善され得ると考えられる。
【0118】
任意選択的に任意の実施形態では、タイコート皮膜又は層及びバリア皮膜又は層、並びに任意選択的にpH保護皮膜又は層も堆積させるために使用される、各直鎖シロキサン前駆体は、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)又はテトラメチルジシロキサン(TMDSO)、好ましくはHMDSOであり得る。任意選択的に任意の実施形態では、例えば、タイPECVD被覆プロセス、バリアPECVD被覆プロセス、及び任意選択的にpH保護PECVD被覆プロセスであり得る各被覆プロセスで同じ直鎖シロキサン前駆体が使用される。同じシロキサンを使用することにより、異なるシロキサンを供給するためのバルブ調節構成を必要とすることなく同じ被覆機器を使用することができ、1つ又は複数の被覆ステップにおいて、皮膜が塗布された後に検出することが困難である可能性がある不適切な前駆体が使用される製造の誤りも回避される。
【0119】
任意選択的に任意の実施形態では、本技術は、本明細書又は特許請求の範囲に記載されるプロセスを採用して、複数の皮膜を生成するために任意の前駆体を用いる任意のプラズマ化学気相成長の使用に更に一般化することができる。
【0120】
本技術の別の態様は、上記に定義される被覆容器と内腔を封止するクロージャとを含む真空排気された採血管である。内腔は、患者の静脈から内腔内に血液を引き込むのに十分な真空レベルを有する。
【0121】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、少なくとも6か月の保管寿命を有し、保管寿命は、その製造時の引込体積容量の少なくとも90%を維持することによって定義される。
【0122】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、同じ定義の下で、少なくとも12か月、代替的に少なくとも18か月、代替的に少なくとも24か月、代替的に6か月~12か月、代替的に12か月~18か月、代替的に18か月~24か月、代替的に24か月~30か月、代替的に30か月~36か月、代替的に36か月~42か月の保管寿命を有する。より長い保管寿命も企図される。
【0123】
本明細書で定義されるように、保管寿命は、(通常)同様に製造された真空排気された採血管の集まりが、1気圧の空気又は雰囲気中の通常の分圧での酸素などの外部ガスに暴露され、製造時レベルと比較した真空度の低下に対して何回か試験される、従来の破壊方法によって測定され得る。保管寿命はまた、例えば、外圧が上昇し、真空度のより小さい低下がより短い期間後に測定されてより長い時間にわたって外挿され、試薬又は管の所期の内容物が管内で封入され、任意選択的に、真空度の減少を加速させることが既知であるより過酷な条件で維持される、他の通常加速式の測定方法及び本技術分野において既知である他の測定方法により測定され得る。本明細書で企図される他の特定の加速式試験方法は、酸素透過速度定数試験である。
【0124】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、0.0001、代替的に0.00016、代替的に0.0002、代替的に0.0005、代替的に0.001、代替的に0.0016、代替的に0.002マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の最小酸素透過速度定数(OPRC)を有する。任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、0.01、代替的に0.005、代替的に0.002マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の最大OPRCを有する。任意の最小OPRCを任意の等しいか又はより大きい最大OPRCと組み合わせて、ある範囲を構成することができる。
【0125】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、0.0001~0.01、代替的に0.0002~0.005、代替的に0.0005~0.003、代替的に0.0016~0.003マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の酸素透過速度定数を有する。
【0126】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、内腔内において、例えば血液抗凝固試薬を含む流体組成物を有する。任意選択的に任意の実施形態では、血液抗凝固試薬は、例えば、クエン酸、例えば、クエン酸ナトリウム緩衝液を含む。この目的に対して、採血管での使用が既知である他の試薬も企図される。
【0127】
三層被覆のPECVDプロセス
本明細書に記載のPECVD三層被覆は、例えば、真空排気された血液試料採取管として有用な血液試料採取管などの1~5mL容器に対して、以下のように適用され得る。より大きいか又は小さい容器では、当業者が本明細書の教示を考慮して実施することができるパラメータの調整が必要となる。
【0128】
使用する装置及びプロセスは、
図2及び添付の本文に記載のPECVD装置、並びに米国特許第7,985,188号明細書のPECVDプロトコルであるが、接着皮膜又は層の塗布とバリア皮膜又は層の塗布との間又は任意選択的にバリア皮膜又は層の塗布とpH保護皮膜又は層の塗布との間に真空の遮断なしに、同じ装置において、少なくともタイコート又は接着皮膜又は層及びバリア皮膜又は層、並びに任意選択的にpH保護層が適用されることが異なる。米国特許第7,985,188号明細書の本文及び図面全体が参照により本明細書に援用される。
【0129】
PECVD三層プロセス特定パラメータ表2(1mLバイアル)及び表3(5mLバイアル)において、1mL容器及び5mLバイアルに使用されてきた特定の被覆パラメータの例を示す。
【0130】
【0131】
【0132】
前述のように1mL容器に塗布されたpH保護皮膜又は層のOパラメータ値及びNパラメータ値は、それぞれ0.34及び0.55である。
【0133】
5mL容器に塗布されたpH保護皮膜又は層のOパラメータ値及びNパラメータ値は、それぞれ0.24及び0.63である。
【0134】
図1、
図2及び
図4~
図6を参照すると、本発明の別の態様は、タイコート皮膜又は層289、バリア皮膜又は層288、及び任意選択的に1つ又は複数の追加の皮膜又は層を塗布する、容器210を処理する方法である。任意選択的に任意の実施形態では、容器210は、試料採取管、例えば真空排気された採血管;試料保存管、遠心管、クロマトグラフィ管又は管として構成され得る。幾つかのプロセスを含むプロセスにより、被覆容器を形成することができる。
【0135】
プロセスを実施するために、内腔212を画定する、本質的に熱可塑性ポリマー材料からなる壁214を含む容器210が提供される。任意選択的に任意の実施形態では、壁は、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオレフィン、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)又はポリカーボネート、好ましくはCOPを含む。任意選択的に任意の実施形態では、容器内腔は、2~12mL、任意選択的に3~5mL、任意選択的に8~10mLの容量を有する。
【0136】
壁214は、内腔に面する内側面303と外側面305とを有する。
【0137】
内腔内に部分真空が引かれる。内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含むガスを供給しながら、内腔内でプラズマを発生させるために十分な電力(代替的に、本明細書では同じ概念を「エネルギ」と呼ぶ)を印加することを含むPECVDプロセスにより、SiOxCyのタイコート皮膜又は層289が塗布される。x及びyの値は、X線光電子分光法(XPS)によって求められる場合のものである。
【0138】
その後、内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、プラズマを消滅させ、それには、SiOxCyのタイコート皮膜又は層の塗布を停止する効果がある。任意選択的に任意の実施形態では、タイPECVD被覆プロセスで使用したプラズマが消滅した後、且つバリアPECVD被覆プロセスが開始される前に、タイPECVD被覆プロセスで使用されたガスの供給を停止することができる。その結果、内側面303に、SiOxCy(式中、xが約0.5~約2.4であり、及びyが約0.6~約3である)のタイコート皮膜又は層が生成される。
【0139】
その後、プロセス中、依然として内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、直鎖シロキサン前駆体又は酸素を含むガスを供給しながら、内腔内でプラズマを発生させるのに十分な電力(代替的に、本明細書では同じ概念を「エネルギ」と呼ぶ)を印加することを含むバリアPECVDプロセスにより、バリア皮膜又は層288が塗布される。
【0140】
任意選択的に任意の実施形態では、バリア皮膜又は層を塗布するために内腔内でプラズマを発生させるために提供される電力は、1-Upコータでは30~80ワット、任意選択的に40~80ワット、任意選択的に50~80ワット、任意選択的に55~65ワットであり、又は任意選択的に4-Upコータでは175~200ワット、任意選択的180~190ワットである。
【0141】
任意選択的に任意の実施形態では、バリア皮膜又は層を塗布するために発生させるプラズマは、12~20秒間、任意選択的に15~20秒間にわたって印加される。
【0142】
任意選択的に任意の実施形態では、バリア皮膜又は層は、0.5~2sccm、任意選択的に0.7~1.3sccmの、任意選択的にHMDSOのシロキサン前駆体供給速度を用いて塗布される。
【0143】
任意選択的に任意の実施形態では、バリア皮膜又は層は、0.5~3.5トル、任意選択的に1~2.5トルの圧力を用いて塗布される。
【0144】
任意選択的に、バリア皮膜又は層を塗布した後、内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、プラズマを消滅させ、それには、バリア皮膜又は層の塗布を停止する効果がある。任意選択的に任意の実施形態では、バリアPECVD被覆プロセスで使用したプラズマが消滅した後、且つ使用される場合には任意選択的なpH保護PECVD被覆プロセスが開始される前に、バリアPECVD被覆プロセスで使用されたガスの供給を停止することができる。バリア被覆の結果、タイコート皮膜又は層と内腔との間に、SiOx(式中、XPSによって求められた場合にxが約1.5~約2.9である)のバリア皮膜又は層が生成される。
【0145】
その後、任意選択的に、内腔内で部分真空を遮断されない状態で維持しながら、その後、pH保護PECVDプロセスにより、SiOxCyのpH保護皮膜又は層286が塗布される。この式では、それぞれXPSによって求められた場合にxは約0.5~約2.4であり、及びyは約0.6~約3である。pH保護皮膜又は層は、任意選択的に、バリア皮膜又は層と内腔との間にpH保護PECVD被覆プロセスによって塗布される。pH保護PECVDプロセスは、直鎖シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に不活性ガス希釈剤を含むガスを供給しながら、内腔内でプラズマを発生させるのに十分な電力(代替的に、本明細書では同じ概念を「エネルギ」と呼ぶ)を印加することを含む。
【0146】
驚くべきことに、この処理の結果として、このプロセスによって作製された被覆容器210は、タイコート皮膜又は層の塗布とバリア皮膜又は層の塗布との間で内腔内において部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された容器210より低い内腔内へのガス透過速度定数を有する。
【0147】
代替的に、任意選択的なステップを含むこのプロセスによって作製された被覆容器は、タイコート皮膜又は層の塗布とバリア皮膜又は層の塗布との間で内腔内において部分真空を遮断すること、及びまたバリア皮膜又は層の塗布とpH保護皮膜又は層との間で内腔内における部分真空を遮断することを除き、同じプロセスによって作製された対応する容器より低い内腔内へのガス透過速度定数を有する。任意選択的に任意の実施形態では、被覆容器210は、0.002~0.1、任意選択的に0.01~0.1、任意選択的に0.14~0.05、任意選択的に0.002~0.02、任意選択的に0.003~0.12μmol/日/cm2/atmの酸素透過速度定数(OPRC)を有する。
【0148】
任意選択的に任意の実施形態では、被覆容器210は、0.5~12、任意選択的に3~22、任意選択的に3.4~12、任意選択的に0.5~3、任意選択的に0.7~2cc/m2/日の酸素移動速度(oxygen transfer rate)を有する。
【0149】
任意選択的に任意の実施形態では、壁は、50℃及び90%相対湿度で2.5g/m2/日未満の水蒸気透過速度を有する。
【0150】
任意選択的に任意の実施形態では、タイコート皮膜又は層、バリア皮膜又は層及び/又はpH保護皮膜又は層、又はこれらのうちの2つ以上の任意の組合せを塗布するPECVDプロセスは、内腔内にプラズマを発生させるためにパルス状電力(代替的に、本明細書では同じ概念を「エネルギ」と呼ぶ)を印加することによって実施される。
【0151】
代替的に、タイPECVD被覆プロセス、又はバリアPECVD被覆プロセス、又はpH保護PECVD被覆プロセス、又はこれらのうちの2つ以上の任意の組合せを、内腔内にプラズマを発生させるために連続電力を印加することによって実施することができる。
【0152】
更なる代替形態として、幾つかのステップに対してパルス状電力を使用することができ、他のステップに対して連続電力を使用することができる。例えば、タイコート皮膜又は層、バリア皮膜又は層及びpH保護皮膜又は層から構成された三層皮膜又は層を準備するとき、タイPECVD被覆プロセスに対して且つpH保護PECVD被覆プロセスに対して具体的に企図される選択肢は、パルス状電力であり、対応するバリア層に対して企図される選択肢は、内腔内にプラズマを発生させるために連続電力を使用することである。
【0153】
任意選択的に任意の実施形態では、本プロセスは、内腔内に流体組成物を提供する後続のステップを更に含む。
【0154】
任意選択的に任意の実施形態では、流体組成物は、血液抗凝固試薬、例えば、クエン酸ナトリウム緩衝液を含む。
【0155】
本発明の別の態様は、ストッパ保持機能を組み込んだ試料採取管に関する。以下の説明は、血液試料採取管に焦点を当てるが、他のタイプの医学的試料を採取する管に等しく適用可能である。
【0156】
1つの場所において血液又は別の体液の試料を採取した後、別の場所に輸送するために試料を準備するように包装すること、例えば、分析のために中央研究所において、又は分析後に保管するために中央貯蔵所において、地理的に異なる場所から多数の試料を収集することが望ましいか又は必要な場合がある。医療診断用途で採取される血液又は他の体液は、感染性物質であることが多いため、輸送中に試料が漏れないように試料を慎重に包装することが重要である。
【0157】
この問題に影響する医学的試料採取の1つの特定の態様は、ストッパ付き容器内の医学的試料が、一般に、採取の時点及び場所において実質的に周囲大気圧で収容されるものである。一般的に真空排気された採血管に採取された血液試料であっても、採取の直後には大気圧又は略大気圧にあり、それは、試料管内の初期真空が、容器内に試料を引き込むことによって消費されるためである。
【0158】
カテゴリA及びB感染性物質の輸送に関する49CFR173.196によれば、感染性物質の包装は、「95kPa(0.95バール、14psi)以上の圧力差をもたらす内圧に漏れなしに耐えることができなければならない」。これは、70,000フィートの高度につながる。
【0159】
従って、標準試料採取管は、望ましくは、この輸送規格を満足させるように設計され、そのため、これは、感染性病原体である可能性がある医学的試料を輸送するために有用となる。
【0160】
本発明の幾つかの態様は、49CFR173.196の要件に従って漏れなしに試料を搬送するように特に適合させる、
図1及び
図2並びに
図4~
図6に示す容器210の様々な適合である。
【0161】
ここで、
図4~
図6を参照されたい。図示する実施形態では、容器210は熱可塑性壁214を有することができるが、容器210は、代わりに、限定なしにガラス、熱硬化性プラスチック又は他の材料から作製することができる。ただし、透明材料が一般に好ましい。容器210は、開口部を画定する頂部295と、内腔212を画定する内側面303と、外側面305と、頂部295に隣接する内側面303のストッパ接触領域291とを有する。
【0162】
単独で又は他の機能と組み合わせて使用することができる容器の1つの保持機能は、ストッパ接触領域291が、例えば、血液試料採取管に対して典型的な成形逓減率(taper)より小さい、0度~1.3度だけ内向きにテーパが付けられているものである。「内向きにテーパが付けられている」とは、内腔212の直径が、ストッパ接触領域291の頂部(容器の頂部295に最も近い)から底部まで軸方向に進んで規則的に低減することを意味し、そのため、ストッパ接触領域291における内側面303は、円錐台の側壁を画定する。本目的のために、ゼロの「逓減率」は、実際にはまったくテーパが付けられてない円筒であるが、厳密にゼロ度の「逓減率」は、0~1.3度の「間」として定義される。更に、厳密に1.3度の逓減率を含む、任意の程度だけゼロ度より大きく且つ1.3度を超えない任意の逓減率が本発明のこの範囲内にある。換言すれば、本定義による2つの極限数値の「間」は、両極限値を含む。
【0163】
ゼロの逓減率は絶対下限ではなく、本発明によれば負の逓減率(外向きにテーパが付けられている)が有効であり得ることも企図されるが、場合により、負のテーパ部の製作は、2部分(two-part)コア若しくは多部分(multi-part)コア、機械加工又はロストワックス鋳造など、周知ではあるがより専門の技法が必要となるため、それほど好ましくない。
【0164】
代替的に、ストッパ接触領域291は、0~1度、任意選択的に0~0.9度、任意選択的に0~0.8度、任意選択的に0~0.7度、任意選択的に0~0.6度、任意選択的に0~0.5度、任意選択的に0.3~1.3度、任意選択的に0.3~1度、任意選択的に0.3~0.9度、任意選択的に0.3~0.8度、任意選択的に0.3~0.7度、任意選択的に0.3~0.6度、任意選択的に0.3~0.5度、任意選択的に0.5~1.3度、任意選択的に0.5~1度、任意選択的に0.5~0.9度、任意選択的に0.5~0.8度、任意選択的に0.5~0.7度、任意選択的に0.5~0.6度、任意選択的に0.5度だけ内向きにテーパが付けられ得る。
【0165】
好ましくは、テーパリング変化は、ストッパ接触領域291のみにある。テーパリング低減は、好ましくは、それが内部容積を変化させるため、実質的にストッパ接触領域291の下方にはない。しかしながら、所与の場合、内部容積の変化は重要ではないため、テーパリング変化は、ストッパ接触領域291より更に延在することができる。更に、テーパリング低減は、ストッパ接触領域291を通して延在する必要はなく、それは、ストッパ接触領域291の少なくとも一部にわたるテーパリング低減が所望の保持を提供するのに十分であり得るためである。
【0166】
更に、任意の実施形態では、ストッパ接触領域291へのテーパリング低減の制限を実施するために、ストッパ接触領域291の下方に位置する真空排気された採血管の内側面303の少なくとも一部が、少なくとも0.7度、任意選択的に少なくとも1度、任意選択的に少なくとも1.5度だけテーパが付けられ、別個に選択される選択肢として、ストッパ接触領域291より少なくとも0.1度だけ更にテーパが付けられ得る。ストッパ接触領域291の下方の逓減率が相対的に大きいことには、容器210が射出成形されるときに金型からの1部分(one-part)コアの簡単な取出しを容易にするという利点がある。
【0167】
ストッパ接触領域291において内向き逓減率を低減することによって達成される効果は、ストッパ216がストッパ接触領域291に対して上方に移動する場合に緩む傾向を低減させるか又はなくすことである。ストッパ接触領域291によって圧縮される弾性ストッパは、横方向外向きに拡張し、従って、ストッパ接触領域291内のわずかに直径が大きい領域に向かって上方に移動するように付勢される。この付勢力は、ストッパ接触領域291において逓減率を低減させることによって低減する。
【0168】
単独で又は他の保持機能と組み合わせて使用することができる容器210の別の保持機能は、保持リップ293が内側面305から半径方向内向きに突出するものである。内側面305は、保持リップ293に隣接して且つその下方にストッパ接触領域291を含む。保持リップ293は、ストッパ接触領域に留まるストッパ216に対して圧力をかけることによって機能し、ストッパ216が保持リップ293を横切って軸方向に通過する場合にストッパ216は更に圧縮されることを必要とする。
【0169】
任意選択的に任意の実施形態では、保持リップ293は、頂部295の開口部に対して内向きテーパ、任意選択的に湾曲内向きテーパ、任意選択的に凸状湾曲内向きテーパを画定する上部傾斜部301を含み、上部傾斜部は下端307を有する。任意選択的に任意の実施形態では、保持リップは、下端307に対して外向きテーパ、任意選択的に湾曲外向きテーパ、任意選択的に凸状湾曲外向きテーパを画定する下部傾斜部299を更に含む。
【0170】
任意選択的に任意の実施形態では、ストッパ216は、使用前に、互いに貼り付くのを防止するためにタンブラ内でシリコーン処理される。
【0171】
各開示する実施形態に適用される他の幾つかの特徴は以下である。任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、内腔を封止するクロージャを含む。任意選択的に、クロージャは、内腔内において、海面の周囲圧力に対して、患者の静脈から内腔内に血液を引き込むのに十分な真空レベルを維持する。
【0172】
任意選択的に任意の実施形態では、クロージャは、ストッパ接触領域291において周囲圧力より97.5kPa低い真空レベルで着座し続ける。
【0173】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、少なくとも6か月の保管寿命を有する。これに関連して用いる「保管寿命」は、真空排気後、管が同じ種類の新たに真空排気された容器210の引込体積容量の少なくとも90%の引込体積容量を維持する時間によって定義される。
【0174】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、6~12か月、代替的に12~18か月、代替的に18~24か月、代替的に24~30か月、代替的に30~36か月、代替的に36~42か月の保管寿命を有する。
【0175】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、内腔内に流体組成物、代替的に水性流体組成物を更に含み、代替的に血液抗凝固試薬、例えばクエン酸ナトリウム緩衝液を含む。
【0176】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、0.0001~0.01、代替的に0.0002~0.005、代替的に0.0005~0.003、代替的に0.0016~0.003マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の酸素透過速度定数を有する。
【0177】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、0.0001、代替的に0.00016、代替的に0.0002、代替的に0.0005、代替的に0.001、代替的に0.0016、代替的に0.002マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の最小酸素透過速度定数を有する。
【0178】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、0.01、代替的に0.005、代替的に0.002マイクロモルO2/(日×cm2×atm)の最大酸素透過速度定数を有する。
【0179】
任意選択的に任意の実施形態では、真空排気された採血管は、50℃及び90%相対湿度で2.5g/m2/日未満の水蒸気透過速度を有する。
【実施例0180】
実施例1
単一の有機ケイ素モノマー(HMDSO)及び酸素の流量を調整し、また各層間のPECVD発生電力を(いかなる2つの層間の真空も遮断することなく)変更することにより、本明細書に記載の三層皮膜を塗布する。
【0181】
容器(ここでは、6mL COPバイアル)を容器ホルダの上に配置し、封止し、容器内に真空を引く。バイアルを用いて、後述するように流体を収容する間に保管を容易にする。血液試料採取管が使用される場合、比例する結果が企図される。真空を引いた後、前駆体、酸素及びアルゴンの供給ガスを導入し、その後、「プラズマ遅延」の最後に、13.56MHzでの連続(即ち、非パルス状)RF電力をオンにして、タイコート皮膜又は層を形成する。その後、電力をオフにし、ガス流量を調整し、プラズマ遅延後、第2の層、即ちSiOxバリア皮膜又は層のために電力をオンにする。その後、第3の層に対してこれを繰り返した後、ガスを停止し、真空シールを破壊し、真空ホルダから容器を取り除く。タイ、次いでバリア、次いでpH保護という順序で層を置く。プロセス設定を表4に示す。
【0182】
【0183】
対照実施例として、各層が堆積した後、容器内に周囲空気を導入することによって真空を遮断する(「真空遮断」をもたらす)ことを除き、同様の被覆プロセスを再度実施する。各真空遮断後、次の層を塗布する前に容器を真空排気する。
【0184】
最初に酸素透過速度定数を測定したものを除く各バイアルに40℃でpH9の標準量のリン酸緩衝水溶液(PBS)を装填し、
図3に示す日数での時間にわたり保持する。その後、
図3に示す各時間間隔後、バイアル群を冷却し、排出し、μmol(マイクロモル)O2/(日×cm2×atm)として報告される、周囲温度での酸素透過速度定数(OPRC)を測定する。結果を
図3に示し、表5にまとめる(概要)。
【0185】
真空遮断なしに準備した容器(
図3の右側の「全結合」実験)を、真空遮断ありで準備した容器(
図3の左側の「全分離」実験)と、それらの酸素透過速度定数に関して比較する。
【0186】
【0187】
驚くべきことに、
図3及び表5のまとめられた概要に示すように、各保管時間において、中間真空遮断なしで処理したバイアルは、中間真空遮断ありで処理したバイアルよりはるかに低い(良好な)OPRCを有する。対応する非被覆バイアルの通常の酸素透過速度定数は、約0.122μmol O2/(日×cm2×atm)であるため、中間真空遮断なしで処理したバイアルは、4週間の保管後、非被覆バイアルのOPRCの約5%を有することに留意すべきである。
【0188】
実施例2
6mL血液試料採取管に対して同様の試験を実施し、1回の試験では、本「結合」プロセスに従って被覆した管のOPRCは0.00344μmol O2/(日×cm2×atm)であり、標準偏差は0.0011である。
【0189】
プラズマ生成電力(代替的に、本明細書では同じ概念を「エネルギ」と呼ぶ)を連続的に印加する代わりに、5Hzの周波数及び50%のデューティサイクルを有するパルスで印加することを除き、全ての条件が同じである並列試験を実施する。これは、0.1秒間、(W)で示す最大電力を印加し、次いで0.1秒間にわたり電力はオフであり、次いで0.1秒間にわたりオンに戻り、次いで0.1秒間にわたりオフに戻ることを意味する。その結果は、0.00380μmol O2/(日×cm2×atm)のOPRCであり、パルス化電力下で標準偏差は0.0015である。いずれの場合も、OPRCは、同様の非被覆容器のOPRCの約8%である。
【0190】
実施例3
プラズマ生成電力(代替的に、本明細書では同じ概念を「エネルギ」と呼ぶ)を連続的に印加する代わりに、5Hzの周波数及び50%のデューティサイクルを有するパルスで印加し、表6に示す総時間に対して繰り返すことを除き、実施例1と同様の試験を実施する。
【0191】
【0192】
連続電力で得られたOPRC結果におよそ比例するOPRC結果が観察される。
【0193】
実施例4
この検査は、皮膜又は層の結果としての酸素透過速度(OTR)又は酸素透過速度定数(OPRC)に対する、被覆プロセス中の印加電力の影響を求めるために実施した。
【0194】
1-Upユニットに対して表7に示すプロセス設定を使用してタイコート層を塗布し、次いで表8に示すプロセス設定を使用してバリア層を塗布し、最後に1-Upユニットに対して表7に示すプロセス設定を使用してpH保護層を塗布することにより、容器(ここでは、4mL COP血液試料採取管、及び他の試験では別段示すことを除き同じ)に対して、本明細書に記載の三層皮膜又は層を塗布した。1-Up被覆ユニットは、1つの個々の物品に供給真空、プロセスガス及びRF電力を供給して前記物品の内側にバリア皮膜又は層システムを堆積させるPECVDステーションであった。
【0195】
三層皮膜又は層の各層間で(いかなる2つの層間の真空も遮断することなく)、PECVD発生電力及び他のプロセス設定を変更した。三層皮膜プロセス中、タイコート層及びpH保護層(即ち、第1の層及び第3の層)に対する電力は変更せずに維持した。バリア皮膜又は層に対する電力を、それが(酸素透過速度(OTR)又は酸素透過速度定数(OPRC)として表される)バリア性能に対してどのように影響を与えるかを見るために、表8に示すように変更した。
【0196】
【0197】
被覆プロセスは、以下のように実施した。容器を容器ホルダの上に配置し、封止し、容器内に真空を引いた。真空を引いた後、前駆体、酸素及びアルゴンの供給ガスを導入し、次いでプラズマ遅延後、RF電力をパルス状でオンにしてプラズマを発生させ、タイコート皮膜又は層を形成した。電力は、5Hzの周波数及び50%のデューティサイクルを有するパルスで印加した。これは、0.1秒間にわたり(W)で示す最高電力を印加し、次いで0.1秒間にわたり電力はオフであり、次いで0.1秒間にわたりオンに戻り、次いで0.1秒間にわたりオフに戻ることを意味する。次いで、電力をオフにし、ガス流量を調整し、プラズマ遅延後、第2の層、即ちSiOxバリア皮膜又は層に対して同じユニットでRF電力をオンにした。バリア皮膜又は層に対するRF電力は連続して印加した。その後、第3の層に対してタイコート皮膜又は層に対するものと同じパルス状RF電力を繰り返した後、ガスを停止し、真空シールを破壊し、容器ホルダから容器を取り除いた。タイ、次いでバリア、次いでpH保護という順序で層を置いた。
【0198】
μmol(マイクロモル)O2/(日×cm2×atm)として報告される、周囲温度での酸素透過速度定数(OPRC)について、各血液試料採取管を測定した。OPRC及びOTRの結果を
図3A及び
図3Bに示し、表8にまとめた。表8における「部品圧力」は、1つの部品又は容器内の全ての成分の全圧である。
【0199】
表8は、電力が高いほどOPRCの低い(即ち、バリア性能の優れた)バリア皮膜又は層がもたらされることを示す。60W後、電力を連続して増大させることにより、バリア性能は、物品、この場合には血液試料採取管の容積によって決まるようにそれ以上改善されない。
【0200】
【0201】
実施例5
この検査は、皮膜又は層の結果としての酸素透過速度(OTR)又は酸素透過速度定数(OPRC)に対する被覆時間の影響を求めるものであった。
【0202】
被覆時間を調整して(いかなる2つの層間の真空も遮断することなく)、本明細書に記載の三層皮膜又は層を塗布し、結果としてのOPRC及びOTRを比較した。三層プロセス中、タイコート層及びpH保護層(即ち、第1の層及び第3の層)に対する被覆パラメータは、1-Upユニットに対する表7の被覆パラメータであった。バリア皮膜又は層(即ち、第2の層)に対する被覆パラメータは、
図9の被覆パラメータであった。バリア皮膜又は層に対する被覆時間を、それが(酸素透過速度(OTR)又は酸素透過速度定数(OPRC)として表される)バリア性能に対してどのように影響を与えるかを見るために、表9に示すように変更した。結果を表9並びに
図5A及び
図5Bに示す。
【0203】
【0204】
結果により、バリア皮膜又は層の性能は、被覆時間が15秒間に達するまで被覆時間の増大によって改善されたことが示される。15秒後、被覆時間の連続した増大により、バリア性能は、物品、この場合には血液管の容積によって決まるようにそれ以上改善されなかった。
【0205】
実施例6
この検査は、三層皮膜の結果としての酸素透過速度(OTR)又は酸素透過速度定数(OPRC)に対する、バリア被覆プロセス中の皮膜又は層前駆体HMDSOの供給速度の影響を求めるものであった。
【0206】
タイコート皮膜又は層及びpH保護皮膜又は層に対して表7の条件を用い、バリア皮膜又は層に対して表10の条件を用いて、いかなる2つの層間の真空も遮断することなく、本質的に前述通りに、本明細書に記載の三層皮膜又は層を塗布した。バリア層に対する異なるHMDSO供給速度の影響を比較した。
【0207】
これらの試験は、上述した1-Upユニット及び4-Upユニットの両方を使用して実施した。4-Upユニットは1-Upユニットに類似しているが、供給真空、プロセスガス及びRF電力が均一に分割され、4つの個々の容器に供給された。供給真空及びプロセスガスとの均一性を維持することにより、4-Upの各容器内の圧力は1-Upの単一容器と同じままである。
【0208】
三層被覆プロセス中、タイコート層及びpH保護層(即ち、第1の層及び第3の層)に対するHMDSO供給速度はそのままにした。バリア皮膜又は層に対するHMDSO供給速度を、それが(酸素透過速度(OTR)又は酸素透過速度定数(OPRC)として表される)バリア性能にどのように影響を与えるかを見るために、変更した。
【0209】
結果を表10に示す。バリア皮膜又は層の性能は、HMDSO供給速度が1sccmに達するまでその供給速度の低下によって改善された。1sccm後、連続して低下するHMDSO供給速度により、バリア性能は、物品、この場合には血液試料採取管の容積によって決まるようにそれ以上改善されなかった。
【0210】
【0211】
実施例7
この例では、最良のバリア皮膜又は層性能(即ち、最低のOPRC及びOTR)を得るように被覆条件を最適化するように、電力、HMDSO供給速度及び被覆時間を変更した。プロセス情報は、タイコート皮膜又は層及びpH保護皮膜又は層に対して表7(4-Up)に、バリア層に対して表11に示す。結果を表11に示す。最良の結果は、第2の試験で1.0sccm HMDSOの供給、185.0ワットの電力及び15.0秒の時間で達成された。
【0212】
【0213】
実施例8
この検査は、三層皮膜又は層の結果としての酸素透過速度(OTR)又は酸素透過速度定数(OPRC)に対する、被覆プロセス中の加えられた圧力の影響を求めるものであった。加えられる圧力が3.92トルであった実施例4~実施例7と比較して、実施例8では、加えられる圧力は1.6トルであった。結果を表12に示した。
【0214】
【0215】
結果により、圧力が低いほどバリア皮膜又は層の性能が改善されたことが示される。
【0216】
実施例9
これは、圧力差試験であり、試験条件を、70,000フィートの高度での周囲大気圧を模擬するように設定した。この試験は、本明細書に記載の保持機能を備えた三層被覆血液管が無傷のままであり且つ圧力変化に耐えることができるか否かを判断するために行った。この試験は、本発明の血液管が感染性血液試料を輸送するのに適しているか否かを予測するために重要であった。それは合否試験であった。
【0217】
上述した保持機能両方(保持リップ293、及びストッパ接触領域291における約0.5度のテーパ)を含む10mL三層被覆COP血液試料採取管を、互いに貼り付くのを防止するためにタンブラ内でシリコーン処理された(シリコーンオイルで被覆された)ストッパで封止した。封止した血液試料採取管を真空排気し、9.33mL±0.03mLの赤色水で充填し、その後、直立して配置し、逆さにして700mLビーカ内に入れ、その後、ビーカを加圧/真空のために金属キャニスタ内に配置した。一度に最大量10個の充填された血液試料採取管を試験した。金属キャニスタを封止すると、真空弁を徐々に開放して圧力を-28.8水銀柱インチゲージ(-14.1psig、又は97.5kPaの圧力差)まで低減した。この方法は、海面周囲圧力で容器を充填して栓をし、その後、海面より70,000フィート上まで真空排気する影響を近似し、それは、管が充填される真空排気又は気圧とは無関係に、標準化された圧力差が加えられるためである。
【0218】
充填された血液試料採取管サンプルを30分間にわたりこの真空レベルで保持した。30分間が経過した後、真空レベルを周囲圧力まで徐々に上昇させた。その後、サンプルを取り除き、ストッパの移動及び漏れに対して検査した。
【0219】
本明細書に記載した保持機能を含む血液試料採取管は、漏れなしに圧力差試験に合格した。保持機能のない同じ血液試料採取管は圧力差試験に不合格であった。
三層皮膜セット285は、第2の層として、COPバリア壁を透過した酸素に対するバリアを提供するバリア皮膜又は層288を含む。バリア皮膜又は層288はまた、内腔212の内容物によるバリア壁214の組成物の抽出に対するバリアである。
バリア皮膜288は、2~1000nmの厚さのSiOx(式中、xが1.5~2.9である)を含み、又は本質的にそれからなり、SiOxのバリア皮膜288は、内腔212に面する内部表面220と、壁214に面する外面222とを有し、バリア皮膜288は、非被覆容器250と比較して、内腔212内への大気ガスの侵入を低減させるのに有効である。1つの好適なバリア組成物は、例えば、xが2.3のものである。例えば、288などの、任意の実施形態のバリア皮膜又は層は、少なくとも2nm、又は少なくとも4nm、又は少なくとも7nm、又は少なくとも10nm、又は少なくとも20nm、又は少なくとも30nm、又は少なくとも40nm、又は少なくとも50nm、又は少なくとも100nm、又は少なくとも150nm、又は少なくとも200nm、又は少なくとも300nm、又は少なくとも400nm、又は少なくとも500nm、又は少なくとも600nm、又は少なくとも700nm、又は少なくとも800nm、又は少なくとも900nmの厚さで塗布され得る。バリア皮膜又は層は、1000nm以下、又は最大で900nm、又は最大で800nm、又は最大で700nm、又は最大で600nm、又は最大で500nm、又は最大で400nm、又は最大で300nm、又は最大で200nm、又は最大で100nm、又は最大で90nm、又は最大で80nm、又は最大で70nm、又は最大で60nm、又は最大で50nm、又は最大で40nm、又は最大で30nm、又は最大で20nm、又は最大で10nm、又は最大で5nmの厚さであり得る。20~200nm、任意選択的に20~30nmの範囲が考えられる。前述の最小厚さのいずれか1つと、前述の最大厚さのいずれかの1つに等しい又はそれより大きいものとで構成される特定の厚さ範囲が特に考えられる。
任意選択的に、任意の実施形態におけるpH保護被覆又は層286について、ケイ素溶解速度は、160ppb/日未満、又は140ppb/日未満、又は120ppb/日未満、又は100ppb/日未満、又は90ppb/日未満、又は80ppb/日未満である。任意選択的に、任意の実施形態では、ケイ素溶解速度は、10ppb/日超、又は20ppb/日超、又は30ppb/日超、又は40ppb/日超、又は50ppb/日超、又は60ppb/日超である。任意の実施形態におけるpH保護被覆又は層286について、ここで記載した任意の最低速度はここで記載した任意の最大速度と組み合わせることができる。
μmol(マイクロモル)O2/(日×cm2×atm)として報告される、周囲温度での酸素透過速度定数(OPRC)について、各血液試料採取管を測定した。OPRC及びOTRの結果を、表8にまとめた。表8における「部品圧力」は、1つの部品又は容器内の全ての成分の全圧である。