(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110113
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の減退、低下及び筋萎縮の予防、改善または治療用の薬学組成物、食品組成物及び食品添加剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20220721BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220721BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220721BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220721BHJP
【FI】
A61K35/744
A61P21/00
A61P21/04
A61P43/00 105
A23L33/135
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081930
(22)【出願日】2022-05-18
(62)【分割の表示】P 2020522295の分割
【原出願日】2017-10-18
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520131543
【氏名又は名称】コリア ベルム シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】KOREA BERM CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】402 6, Bongeunsa-ro 84-gil Gangnam-gu Seoul 06163 (KR)
(71)【出願人】
【識別番号】519154438
【氏名又は名称】ヨンセ大学ウォンジュウ産学協力団
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY INDUSTRY FOUNDATION, YONSEI UNIVERSITY WONJU CAMPUS
【住所又は居所原語表記】1,Yeonsedae-gil,Heungeop-myeon Wonju-si Gangwon-do 26493 (KR)
(71)【出願人】
【識別番号】597155376
【氏名又は名称】日本ベルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】キム、テクジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ミョンホン
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 正弘
(72)【発明者】
【氏名】ハン、クォンイル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ワンジェ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD86
4B018ME14
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087BC62
4C087CA09
4C087CA10
4C087MA52
4C087MA55
4C087NA14
4C087ZA94
4C087ZB21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】筋肉の減退、低下及び筋萎縮の予防、改善または治療用の薬学組成物、食品組成物及び食品添加剤を提供する。
【解決手段】エンテロコッカス・フェカーリス、中でも、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する。エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の死菌体は、酸化ストレス(Oxidative stress)による筋肉細胞の損傷を抑制して顕著な筋肉の減退、低下及び筋萎縮の治療効果を示すことから、本発明の乳酸菌死菌体エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001またはその培養液は、筋萎縮、筋肉の減少の予防のための薬学組成物、食品組成物及び食品添加剤の有効成分として有効に用いることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記エンテロコッカス・フェカーリスは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001(Enterococcus fecalis EF-2001)であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項3】
前記エンテロコッカス・フェカーリスは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の死菌体であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項4】
前記エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の死菌体は、エンテロコッカス・フェカーリスを種菌培養した後、中性または弱酸性の下で、且つ、20~40℃の温度範囲において本培養した後、熱処理を施して得られることを特徴とする請求項3に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項5】
前記組成物は、筋肉細胞内のHSP70タンパク質またはSOD1タンパク質の発現を増加させることを特徴とする請求項1に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項6】
前記疾患は、サルコペニアまたは筋萎縮症であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項7】
前記筋萎縮症は、廃用性萎縮(disuse atrophy)、重症筋無力症(myasthenia gravis)、筋ジストロフィー(dystrophy)、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular amyotrophy)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)及び球脊髄性筋萎縮症(sphinobulbar muscular atrophy)からなる群より選ばれる疾患であることを特徴とする請求項6に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項8】
前記薬学組成物は、カプセル、錠剤、粉末、顆粒、液状、丸、片状、ペースト状、シロップ、ゲル、ジェリー及びバーからなる群より選ばれる形態の製剤であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項9】
エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項10】
前記エンテロコッカス・フェカーリスは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001であることを特徴とする請求項9に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項11】
前記エンテロコッカス・フェカーリスは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の死菌体であることを特徴とする請求項9に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項12】
前記エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の死菌体は、エンテロコッカス・フェカーリスを種菌培養した後、中性または弱酸性の下で、且つ、20~40℃の温度範囲において本培養した後、熱処理を施して得られることを特徴とする請求項11に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項13】
前記疾患は、サルコペニアまたは筋萎縮症であることを特徴とする請求項9に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項14】
前記筋萎縮症は、廃用性萎縮、重症筋無力症、筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症及び球脊髄性筋萎縮症からなる群より選ばれる疾患であることを特徴とする請求項13に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項15】
前記食品に、栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤、天然風味剤、着色剤、増進剤、ペクチン酸、ペクチン酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸化剤及び果肉のうちから選ばれるいずれか一種以上の添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項16】
エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品添加物。
【請求項17】
前記エンテロコッカス・フェカーリスは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の死菌体であることを特徴とする請求項16に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品添加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、その培養液またはその死菌体の新規な用途に関し、さらに詳しくは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001(Enterococcus faecalisEF-2001)、その培養液またはその死菌体を有効成分として含む筋肉の減退、低下及び筋萎縮の予防及び治療/改善用の薬学組成物、食品組成物及び食品添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
筋力の低下を誘発する疾患は、加齢とともに進行するサルコペニア(sarcopenia)、タンパク質代謝の不均衡や筋肉使用の減少により誘発される筋萎縮症(muscle atrophy)、飢餓、消耗性疾患(癌等)、加齢と共に進行する心臓萎縮症(acardiotrophy)などがある。
【0003】
サルコペニア(sarcopenia)とは、老化が進行する間、筋肉量(skletal muscle mass)の減少に伴う筋力の低下をいう。サルコペニアの最大の特徴である筋肉量の減少だけでなく、筋線維の種類の変化も観察される。加齢と共にタイプ1とタイプ2とが類似した割合で減少するのに対し、サルコペニアが発症するとタイプ2の筋線維の厚さにはそれほど変化がないが、タイプ1の筋線維の厚さは顕著に減少する。そのようなサルコペニアは、高齢者の間で起こる老衰及び機能障害を誘発すると報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
サルコペニアは、様々な要因によって誘発されるが、それぞれの要因についての研究は未だ十分ではない。成長ホルモンの減少または神経学的変化(neurological change)、生理活性(physical activity)の変化、代謝の変化、性ホルモンの量または脂肪やカタボリックサイトカイン(catabolic cytokines)の増加とタンパク質の合成と分化のバランス変化とにより誘導される(例えば、非特許文献2参照)。サルコペニアの最大の特徴である筋肉量の減少の原因としては、衛星細胞の活性(satellite cell activation)の減少が重要な原因として挙げられる。衛星細胞とは、基底膜(basement membrane)と筋鞘(sarcolemma)との間に位置する小さな単核細胞である。これらは負傷または運動のような刺激により活性化され、筋芽細胞として増殖し、分化が進むと、他の細胞と融合して多核の筋線維を形成する。したがって、衛星細胞の活性が減少することにより、破損した筋肉を再生する能力または分化信号に対する反応が低下し、その結果、筋肉の形成が低下する。
【0005】
その一方、筋萎縮(muscle atrophy)は、筋肉使用の減少のような機械的な刺激の不在による筋肉組織の損傷、直接的な傷害や物理的な要因による筋肉の破壊、加齢に伴う筋肉細胞の修復力障害、且つ、筋肉の作用を調節する神経の損傷による筋肉使用の障害などの要因により発症する(例えば、非特許文献11参照)。通常の場合、障害や事故により長期間にわたって当該部位と周辺部の筋肉を使用しなくても、筋肉強度の消失により次第に筋萎縮に進行する廃用性萎縮(disuse atrophy)が発症され、筋肉それ自体の疾病による重症筋無力症(myasthenia gravis)、筋ジストロフィー(dystrophy):進行性筋ジストロフィー、筋緊張性筋ジストロフィー、デュシェンヌ型、ベッカー型、肢帯型、顔面肩甲上腕型、筋肉それ自体に発生する炎症、筋肉を支配する神経の損傷による筋萎縮である脊髄性筋萎縮(spinal muscular amyotrophy):ウェルドニッヒ・ホフマン型、クーゲルベルグ、ウェランダー病、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS):ルー・ゲーリック病、球脊髄性筋萎縮(spinobulbar muscular atrophy):ケネディ病などの形態でも発病される。
【0006】
今日、潤沢になったライフの質と生活を基に、人々の関心は、衣食住に集中していた過去に比べて次第に福祉とレジャー・余暇生活に集中しており、運動を通した健やかなライフを営むために努力を注いでいる。また、このような生活を営むためには、隨意筋の自由自在な調節と使用が前提となっていなければならず、筋肉機能の異常により隨意筋が使用できない状況は、人々の活動範囲を限定し、これによりライフの質を低下させる結果を招く。
【0007】
サルコペニアの治療方法としては、大まかに3つの方法を挙げることができる。第一の方法は運動である。運動は、短期的に骨格筋のタンパク質合成能を増加させ、高齢者の筋肉の力や運動性を増加させると報告されている。しかし、長期の治療方法としては不適切である(例えば、非特許文献5参照)。第二の方法は、薬物治療としてテストステロン(Testosterone)またはアナボリックステロイド(anabolic steroid)の使用が可能であるが、これは女性には男性化を誘導し、男性の場合、前立腺症状(prostate symptoms)などの副作用が現われる。他に承認された処方としてデヒドロエピアンドロステロン(DHEA:dehydroepiandrosterone)と成長ホルモンとがあるが、選択的アンドロゲン受容体調節剤(SARMs:Selective Androgen Receptor Modulators)を含む部位での治療法として可能であるという研究が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。最近では、衛星細胞を分離してin vitroで分化させた後、体内に導入させる幹細胞治療法(stem cell therapy)と、直接体内の衛星細胞を活性化して筋肉の分化(myogenesis)を促進させて筋肉を維持したり、強化させたりする方法がサルコペニアのような筋力低下を治療する方法として浮上している(例えば、非特許文献4参照)。
【0008】
一般に、日常生活の中で筋萎縮の発病を予防するために取られる最も良い方法は、持続的な筋肉使用を通した筋肉の消失の予防であるが、怪我や障害などのように本人の意地とは無関係に筋肉が使用できなくなる場合にも、筋肉の退化による筋萎縮が発症することがある。この場合にも、筋肉に刺激を与えたり筋肉の退化を予防したりして筋萎縮を防げる対応策を工夫し、且つ、それへの取り組みを行う必要がある。
【0009】
活性酸素種(reactive oxygen species)は、化学的に反応性が大きな分子集団であり、周りの物質と電子をやり取りしようとする酸化還元反応に対する性質が強いため、高い反応性を示す物質である。このような活性酸素種の反応性により細胞内のタンパク質分子やDNAなどの周りの物質は電子を失って酸化されて変異を示してしまって正しい機能を行うことができず、正しい機能を行うことができなくなった細胞は、生存が不可能になって細胞の死滅が誘導される虞がある。このようなストレスの色々な要因のうち、活性酸素種による酸化ストレス(酸化的ストレス)は筋肉細胞でも現れ、このような酸化ストレスにより筋肉細胞の消失と筋萎縮が誘導される虞がある。様々なストレス要因は、筋肉組織の損傷だけでなく、生体内の色々な組織に影響を与えると認められ、色々な疾病の要因として注目を集めている(例えば、非特許文献12参照)。
【0010】
エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001(Enterococcus faecalis EF-2001)は、2歳の女児の腸内細菌フローラのスクリーニングを行うことにより同定された。このようなエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を熱処理して死滅させ、菌体成分を回収したものがエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体である。
【0011】
エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の生理活性について報告された研究によれば、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS:Dextran sulfate sodium)により誘導された大腸炎で悩んでいるマウスの場合、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を摂取したマウスにおいてDSS緩和効果を示し、移植した肉腫癌細胞(Sarcoma-180)の増殖が抑えられ、NK細胞が活性化されることが報告された(例えば、非特許文献6参照)。また、生化学的には、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を摂取させたマウスの場合、高脂肪食餌を摂取した後にも、総コレステロール及び中性脂肪の割合が低下することが報告された(例えば、非特許文献7参照)。さらに、有害菌の抑制及び整腸作用に関し、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001は、白苔の原因であるカンジダ・アルビカン(Candida albican)の活動性を抑制して症勢の改善及び予防の効果を示し(例えば、非特許文献8参照)、抗生剤を投与したマウスにおいて腸内対照群に比べて有益菌は速やかに増殖し、有害菌は抑えるといった効能が開示されている(例えば、非特許文献9参照)。エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の様々な生理活性は、死菌体の特性からみて、熱とpHに影響されないことから、様々な形態の製剤への加工が可能であるというメリットがある(例えば、非特許文献10参照)。なお、1グラム当たりに7兆5千憶匹の菌体を含有することから、少量でも多量の乳酸菌体を摂取することが可能である。
【0012】
その一方で、筋萎縮症の治療剤に関する先行文献としての特許文献1には、ヘテロ核リボタンパク質(hnRNP M:Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein M)またはこれをコードするポリヌクレオチドを有効成分として含む脊髄性筋萎縮症の治療用の組成物が開示されており、特許文献3には、哺乳動物の臍帯由来の幹細胞を有効成分として含む筋萎縮疾患の改善または治療用の組成物が開示されており、特許文献4には、チコリー(Cichorium intybus)エキスを有効成分として含む筋萎縮の予防及び治療用の医薬組成物が開示されており、特許文献2には、ヒヨドリバナ(Eupatorium chinensis var. simplicifolium)エキスを有効成分として含む筋萎縮の予防及び治療用の医薬組成物が開示されているだけであり、エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体の筋萎縮に対する効果については全く知られていない。
【0013】
このため、本発明者らは、細胞毒性がなく、人体への安全性が確保された新規な筋肉の減退、低下及び筋萎縮症の治療剤を開発するための鋭意努力した結果、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体が、細胞毒性がなく、人体への安全性が確保されており、酸化ストレス(Oxidative stress)による筋肉細胞の損傷及び細胞の死滅を抑制して顕著な筋肉の減退、低下及び筋萎縮の治療効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】大韓民国登録特許第1560799号公報(登録日:2015年10月8日)
【特許文献2】大韓民国登録特許第1349361号公報(登録日:2014年1月2日)
【特許文献3】大韓民国登録特許第1468123号公報(登録日:2014年11月26日)
【特許文献4】大韓民国登録特許第1385191号公報(登録日:2014年4月8日)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Roubenoff R., Can. J. Appl. Physiol. 26, 78-89, 2001
【非特許文献2】Roubenoff R. and Hughes V.A., J. Gerontol. A. Biol. Sci. Med. Sci. 55, M716-M724, 2000
【非特許文献3】D.D. Thompson, J. Musculoskelet Neuronal Interact 7, 344-345, 2007
【非特許文献4】Shihuan Kuang, and Michael A. Rudnicki, Trends in Molecular Medicine 14, 82-31, 2008
【非特許文献5】Timothy J. Doherty, J. Appl. Physiol. 95, 1717-1727, 2003
【非特許文献6】Tadano et al., J. Japan Mibyou System association, 2011
【非特許文献7】Ku et al., Medicine and biology, 2007
【非特許文献8】Ishijima et al., Med. Mycol. J, 2014
【非特許文献9】Simohashi et al., Medicine and biology, 2002
【非特許文献10】Kan, Food industry, 2001
【非特許文献11】Booth FW., J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol., 1982
【非特許文献12】MCKinnell IW., and Rudnicki MA., Cell, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来、エンテロコッカス・フェカーリスの筋肉の筋力低下関連疾患の治療用途については全く知られていない。したがって、本発明は、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の人体への安全性を裏付け、酸化ストレス(Oxidative stress)に起因する筋肉細胞の損傷を抑制して顕著な筋肉の減退、低下及び筋萎縮の治療効果があることを確認した。したがって、本発明の目的は、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体及びその培養液の筋肉の減退、低下及び筋萎縮疾患の治療効能を裏付けて新規な筋肉の減退、低下及び筋萎縮の予防及び治療用の薬学組成物、食品組成物及び食品添加剤を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明は、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品添加物を提供する。
【0020】
さらにまた、本発明は、薬学的に有効な量のエンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を筋肉の筋力低下関連疾患にかかった個体、または個体に投与するステップを含む筋肉の筋力低下関連疾患の治療または予防方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001(Enterococcus faecalis EF-2001)死菌体は、細胞毒性がなく、酸化ストレス(Oxidative stress)による筋肉細胞の損傷を抑制して顕著な筋肉の減退、低下及び筋萎縮の治療効果を示すことから、本発明のエンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体は、筋肉の減退、低下及び筋萎縮の予防または治療用の組成物の有効成分、食品組成物及び食品添加剤として有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001(Enterococcus faecalis EF-2001)の細胞毒性を確認した図である。
【
図2】酸化ストレス(Oxidative stress)により誘導された筋肉細胞の損傷に対するエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の効果を確認した図である。なお、NACは、陽性対照群であるN-アセチルシステイン処理群である。
【
図3】酸化ストレスの環境下で、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の筋肉細胞内のHSP70(Heat Shock Protein)タンパク質の発現の変化の比較を確認した図である。
【
図4】鼠の右後ろ脚の坐骨神経を切除して筋肉の動きを制限して筋萎縮を誘導する手術を行った後、2mg/kgと30mg/kgの二つの互いに異なる濃度のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を経口投与する時期及び実験計画を示す図である。
【
図5】鼠の右後ろ脚の坐骨神経を切除して筋肉の動きを制限して筋萎縮を誘導する手術を行った後、手術の1週前からエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を毎日摂取させた予防群と手術後3週間に毎日エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を摂取させた治療群の筋肉を手術後3週後に微細断層撮影装置を用いて撮像した筋肉画像を示す図である。
【
図6】
図5に示す撮像された画像に基づいて、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の摂取有無に応じて、筋萎縮に及ぼす影響と違いを比較分析して示す図である。
【
図7】H
2O
2により誘導される細胞死において、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の効果を確認した図である。
【
図8】酸化ストレスの環境下で、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の筋肉細胞内のスーパーオキシドディスムターゼ1(SOD1)タンパク質の発現変化の比較を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳述する。
【0024】
本発明は、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物を提供する。
【0025】
前記エンテロコッカス属微生物は、自然系に広く存在し、炭水化物を好気的に用いる。一般に、エンテロコッカス属微生物のような細菌は、生体内の拮抗作用や分泌抗菌性物質により病原性微生物による被害を予防すると知られている。
【0026】
前記エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体は、市販中のもの、または公知の死菌体の製造法により製造されたもののどちらを用いても差し支えなく、毒性を示さず、しかも、人体に無害である。
【0027】
前記培養液とは、エンテロコッカス・フェカーリスを培養培地において培養して水に溶かした培養液、濃縮培養液、培養液乾燥物、培養ろ過液、濃縮培養ろ過液、または培養ろ過液の乾燥物を意味するものであり、前記菌株を含むもの、培養した後に菌株を除去した培養ろ液であってもよい。
【0028】
前記死菌体は、対応する生菌体を熱処理したりホルマリンもしくはその他の殺菌剤とともに処理したりして製造することができ、死菌体は、実質的に死んでいるものであっても用いることができる。なお、本発明において用いた前記死菌体は、下記のような方法に従って製造することができるが、これに限定されない:
【0029】
1)エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)を種菌培養した後、中性または弱酸性の下で、且つ、20~40℃の温度範囲において本培養するステップ;
2)前記1)の本培養を行った後、熱処理を施してから乾燥させるステップ。
【0030】
前記筋肉の「筋力低下」とは、1つまたはそれ以上の筋肉の力が減少した状態を意味する。前記筋力低下は、いずれか一つの筋肉や、体の片側、上肢や下肢などに限定されることもあり、全身に亘って現れることもある。なお、筋疲労や筋肉痛を含む主観的な筋力低下の症状は、理学的検査によって、客観的な方法により定量化されてもよい。
【0031】
前記筋力低下関連疾患とは、筋力低下を原因として発病するあらゆる疾患を意味し、例えば、サルコペニアまたは筋萎縮症などが挙げられるが、これに制限されない。
【0032】
前記サルコペニアは、老化に伴う漸進的な骨格筋量の減少を意味するものであり、直接的に筋力の低下を誘発し、その結果、様々な身体の機能低下及び障害を引き起こす可能性がある状態を意味する。
【0033】
前記筋萎縮は、筋肉を使用しないことにより発生する筋肉組織の損失による筋萎縮、筋肉それ自体の病気による筋萎縮または筋肉を支配する神経の損傷による筋萎縮であることが好ましい。前記筋肉を使用しないことにより発生する筋肉組織の損失による筋萎縮は、廃用性萎縮(disuse atrophy)、前記筋肉それ自体の病気による筋萎縮は、重症筋無力症(myasthenia gravis)または筋ジストロフィー(dystrophy)、筋肉を支配する神経の損傷による筋萎縮は、脊髄性筋萎縮(spinal muscular amyotrophy)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)または球脊髄性筋萎縮(sphinobulbar muscular atrophy)であることがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0034】
本発明の具体的な実験例において、本発明者らは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体が細胞毒性を有さないことを確認し(
図1参照)、酸化ストレスにより誘導された筋肉細胞の損傷において、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の処理の際に濃度に応じて筋肉細胞の生存率が回復される効果を確認した(
図2参照)。また、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を添加した細胞において、HSP70及びSOD1タンパク質の量の変化を測定した結果、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体が筋肉細胞のHSP70及びSOD1タンパク質の発現量を増加させて筋萎縮の抑制を誘導することを見出し(
図3及び
図8参照)、筋肉の減少を誘導したマウスにエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を摂取させた後、減少した筋肉量が再び回復されることを確認した(
図4から
図6参照)。なお、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体は、筋肉細胞の酸化ストレスにより誘導された細胞死及び増加されたラジカルを暫定的に消去することにより、酸化的損傷である細胞死及び細胞の構造的な変化に対抗することを確認した(
図7参照)。
【0035】
要するに、本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体は、細胞毒性がなく、酸化ストレスにより誘導された筋肉細胞の損傷を抑制して顕著な筋萎縮の治療効果を示すことから、本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001、その培養液またはその死菌体は、筋萎縮、筋肉の減少などの筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物の有効成分として有効に用いることができる。
【0036】
本発明に係る組成物は、薬剤学的に有効な量にて投与する。本発明において、「薬剤学的に有効な量」とは、医学的な治療に適用可能な合理的なベネフィットまたはリスクの割合にて疾患を治療するうえで十分な量を意味し、有効容量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物への敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に用いられる薬物をはじめとする要素及びその他の医学分野においてよく知られている要素に応じて決定すればよい。本発明の組成物は、個別の治療剤として投与してもよく、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与されてもよく、単一または多重に投与されてもよい。これらの要素をいずれも考慮して、副作用なしに最小限の量にて最大の効果が得られるような量を投与することが重要であり、これは、当業者により容易に決定すればよい。
【0037】
具体的に、本発明に係る組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によるが、一般的には、体重1kg当たりに0.1mg~100mg、好ましくは、0.2mg~17mgを毎日または一日おきに投与してもよく、一日につき一回から三回に分けて投与してもよい。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などに応じて増減可能であるため、前記投与量がいかなる方法でも本発明の範囲を限定することはない。
【0038】
前記組成物を製剤化させる場合、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて製造される。
【0039】
経口投与のための固形の製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤などが含まれ、このような固形の製剤は、本発明の乳酸菌死菌体エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001に少なくとも一種以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)またはゼラチンなどを混ぜて調製される。また、単なる賦形剤に加えて、マグネシウムステアレート、タルクなどの潤滑剤も用いられる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤またはシロップ剤などが挙げられるが、頻繁に用いられる単なる希釈剤である水、流動パラフィンに加えて、色々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘未剤、芳香剤、保存剤などが挙げられる。
【0040】
非経口投与のための製剤としては、滅菌済みの水溶液、非水性溶剤、懸濁溶剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが挙げられる。
【0041】
非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどを用いることができる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロール、ゼラチンなどを用いることができる。
【0042】
また、本発明は、エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物を提供する。
【0043】
本発明において、筋肉の筋力低下関連疾患とは、筋力低下に起因して発病するあらゆる疾患を意味し、例えば、サルコペニアまたは筋萎縮症などが挙げられるが、これに制限されない。
【0044】
前記サルコペニアは、老化に伴う漸進的な骨格筋量の減少を意味するものであり、直接的に筋力の低下を誘発し、その結果、様々な身体の機能低下及び障害を引き起こす可能性がある状態を意味する。
【0045】
前記筋萎縮は、筋肉を使用しないことにより発生する筋肉組織の損失による筋萎縮、筋肉それ自体の病気による筋萎縮または筋肉を支配する神経の損傷による筋萎縮であることが好ましい。前記筋肉を使用しないことにより発生する筋肉組織の損失による筋萎縮は、廃用性萎縮(disuse atrophy)、前記筋肉それ自体の病気による筋萎縮は、重症筋無力症(myasthenia gravis)または筋ジストロフィー(dystrophy)、筋肉を支配する神経の損傷による筋萎縮は、脊髄性筋萎縮(spinal muscular amyotrophy)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)または球脊髄性筋萎縮(sphinobulbar muscular atrophy)であることがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0046】
要するに、本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体またはその培養液は、細胞毒性がなく、酸化ストレスにより誘導された筋肉細胞の損傷を抑制して顕著な筋萎縮の治療効果を示すことから、本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001、その培養液またはその死菌体は、筋萎縮、筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物の有効成分として用いることができる。
【0047】
本発明の乳酸菌死菌体エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001が添加される食品の種類には、特に制限がない。前記物質が添加可能な食品の例としては、ドリンク剤、肉類、ソーセージ、パン、ビスケット、餅、チョコレート、キャンディ類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、アルコール飲料及びビタミン複合剤、乳製品及び乳加工製品などがあり、通常の意味での加工食品及び健康機能食品をすべて含む。
【0048】
本発明に係る食品組成物が飲料組成物である場合、必須成分が指示された割合にて前記化合物を含有することを除いては、他の成分には特に制限がなく、通常の飲料のように色々な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。上述した天然炭水化物の例は、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など;二糖類、例えば、マルトース、スクロースなど;及び多糖類、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどの通常の糖及びキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。上述したものの他の香味剤として、天然香味剤(ソーマチン、ステビアエキス、レバウジオシドA、グリチルリチンなど)及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を好適に用いることができる。前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100g当たりに、一般に、約1g~20g、好ましくは、約5g~10gである。
【0049】
また、本発明は、エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品添加剤を提供する。
【0050】
本発明に係る食品添加剤は、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含有することができる。その他、本発明の組成物は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含有することができる。このような成分は、独立してまたは組み合わせて用いることができる。このような添加剤の添加割合は、特に制限されないが、本発明のリノレン酸100重量部当たりに0.1~20重量部の範囲において選ばれることが一般的である。
【0051】
本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体は、食品にそのまま添加してもよく、他の食品または食品成分と併用してもよく、通常の方法に従って適宜に用いることができる。有効成分の混合量は、その使用目的(予防または改善用)に応じて好適に決定すればよい。一般に、健康機能食品内の本発明の組成物の量は、食品の全体の重量部当たりに0.1~90重量部にすればよい。しかし、健康及び衛星を目指して、あるいは、健康の調節を目指して長期にわたって摂取する場合、上記の量は上記の範囲以下であってもよく、安全性の面からみていかなる問題がないため、有効成分は上記の範囲以上の量にて用いてもよい。
【0052】
併せて、本発明は、薬学的に有効な量のエンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を筋肉の筋力低下関連疾患にかかった個体、または個体に投与するステップを含む筋肉の筋力低下関連疾患の治療または予防方法を提供する。
【0053】
前記個体とは、ヒトまたはヒト以外の生物、例えば、牛、猿、鳥、猫、マウス、ラット、ハムスター、豚、犬、兎、羊、馬などの非ヒト哺乳動物を意味するものであり、創傷を受けた、あるいは、皮膚組織が損傷された個体に用いることができる。
【0054】
また、前記処置は、目的とする方法に従って経口投与してもよく、非経口投与(例えば、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、または局所に適用)してもよく、投与量は、患者の状態及び体重、疾病の重篤度合い、薬物の形態、投与経路及び時間によるが、当業者により適宜に選択することができる。
【0055】
以下、本発明について実施例、実験例及び製造例により詳しく説明する。
【0056】
ただし、下記の実施例、実験例及び製造例は、単に本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例、実験例及び製造例に限定されることはない。
【0057】
<実施例1> エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の製造の準備
本発明において用いたエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を下記のようにして製造して用意した。
【0058】
具体的に、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を通常の乳酸菌の培養に用いられる培地において好気培養または嫌気培養し、種菌培養を行ってから本培養を行った。pHは、中性または弱酸性にし、且つ、培養温度は、20~40℃に保持しながら1~3日間培養した。最終原料を基準として、g(グラム)当たりの菌体の数が7兆5千憶以上に至るように発酵が進むと、熱処理を施した後に乾燥させる過程を経て粉末化させた。
【0059】
<実施例2> 細胞の培養
正常の筋肉細胞(C2C12)を5%のウシ胎児血清(fetal bovine serum;FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)で培養した。すなわち、75cm2のプラスチック製フラスコ(SPLライフサイエンス社製、韓国)に正常骨格の筋肉細胞を10%のFBS、7.5%のNaHCO3 150μg/ml、グルタミン58.4μg/ml及び抗生剤(antibiotic)/抗真菌剤(antimycotics)4.4μl/mlを含むDMEM培地で37℃、5%のCO2の条件下で培養した。2~3日おきに一回ずつ2次培養して細胞株を保持した。
【0060】
<実施例3> 細胞の定量
細胞が生長した75cm2のプラスチック製フラスコから培地液を除去し、カルシウム、マグネシウム不含リン酸緩衝食塩水(CMF-PBS:calcium magnesium free-phosphate buffered saline)(pH 7.2)で洗浄した後、0.25%のトリプシン/EDTAで処理して細胞をフラスコの底面から掻き取り、細胞培養液で中和させた後に遠心分離(1200rpmにて5分間)した。残った細胞のペレット(pellet)に培養液を加えた後、滅菌ピペットにて繰り返し吸い込んで単一細胞の浮遊液を製造した。製造した細胞の浮遊液とトリパンブルー(trypan blue)とを1:1の比率にて混合して、光学顕微鏡の上で血球計算盤(hemocytometer)を用いて測定した。
【0061】
<実験例1> エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の細胞毒性(Cell viability)の確認
エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の筋肉細胞に対する毒性の測定は、EzCytoxキットを用いて行った。具体的に、正常の筋肉細胞(C2C12)を96ウェルプレートに2×l04細胞/ウェルになるように分注した。これを37℃、5%のCO2の条件の培養器で培養した後、0、25、50、100、250、500μg/mlの様々な濃度のリノレン酸を添加して24時間培養した。24時間培養した正常の筋肉細胞を対象として、EzCytoxキットを用いて細胞の生存率を計算することにより、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の細胞毒性を決定した。
【0062】
その結果、
図1に示すように、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を添加しなかった場合、筋肉細胞は100%の生存率を示し、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を色々な濃度にて添加した群においてもまた、リノレン酸を添加しなかった群とほぼ同じ生存率を示した。したがって、本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体は、筋肉細胞に対して細胞毒性を示さないことを確認した(
図1)。
【0063】
<実験例2> 酸化ストレスにより誘導された筋肉細胞の損傷に対するエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の効果の確認
H2O2により誘導された細胞死滅において、EF-2001死菌体の濃度別の効果を確認するために、まず、96ウェルプレートに筋肉細胞を2×l04細胞/ウェルになるように入れ、24時間をかけて37℃、5%のCO2の条件下で培養した。その後、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を0、25、50、100、250、500μg/mlの濃度にてそれぞれ添加した後、10%のFBSを含むDMEM培地で、全体の体積を195μlに調節して、37℃、5%のCO2の条件の培養器で24時間培養した。その培養液にH2O2を1mMの濃度にて全体の体積が200μlになるように添加した後、これを再び120分間培養した。培養後に、EzCytoxキット10μlを添加し、1時間後に吸光度を測定してその効果を決定した。
【0064】
その結果、
図2に示すように、H
2O
2を添加しなかった場合、筋肉細胞は100%の生存率を示し、H
2O
2で処理したときに細胞の生存率が低下することを確認することができた。なお、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体で処理したときに、濃度に応じて筋肉細胞の生存率が回復されるという効果を確認した(
図2)。
【0065】
したがって、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体は、濃度依存的に酸化ストレスに対する筋肉細胞の損傷を有意的に回復させることを確認した。
【0066】
<実験例3> HSP70(熱ショックタンパク質、Heat Shock Proein)及びSOD1タンパク質の発現変化の比較
エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を添加した添加群の細胞におけるHSP70(Heat Shock Proein)及びSOD1タンパク質量の変化をウェスタンブロット(western blot)を用いて測定した。すなわち、正常の筋肉細胞(C2C12)を96ウェルプレートに5×l04細胞/ウェルになるように分注した後、これを37℃、5%のCO2の条件の培養器で培養した。その後、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を25μg/ml添加した後、10%のFBSを含むDMEM培地で、全体の体積を2mlに調節して、37℃、5%のCO2の条件下で24時間培養した。この培養液にH2O2を1mMの濃度にて全体の体積が2mlになるように添加した後、これを再び60分間培養した後、細胞を破砕してタンパク質を得た。ウェスタンブロットを用いてHSP70とSOD1、及びβ-アクチン抗体を用いてHSP70タンパク質とSOD1タンパク質の発現量を検出した。
【0067】
その結果、
図3及び
図8に示すように、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を添加した添加群では、正常細胞のHSP70及びSOD1タンパク質の発現レベルまで回復された。すなわち、HSP70の発現を通じて、筋肉細胞の酸化ストレスに対する筋肉細胞の保護効果を示すことを確認した。なお、酸化ストレスである活性酸素の自由ラジカルをエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体が低減させて活性酸素に対して現れるSOD1の発現を回復させることを確認した。
【0068】
したがって、このエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体は、筋肉細胞のHSP70及びSOD1タンパク質の発現の増加を誘発することにより、筋萎縮を抑制して予防することができることを確認した(
図3及び
図8)。
【0069】
<実験例4> 筋肉減少を誘導したマウスにエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体を摂取させた後における筋肉減少の回復能の比較
エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の筋萎縮の予防及び回復の効果を確認するために、筋萎縮を誘発する前に初期の筋肉量を測定するために、微細断層撮影装置を用いて筋肉の画像を取得した。
【0070】
具体的に、筋萎縮を誘発するために、鼠の右後ろ脚の坐骨神経を切除して筋肉の動きを制限して筋萎縮を誘導した。
図4に示すデザインにて、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を2mg/kgと30mg/kgの二つの濃度にて鼠に経口投与方法で摂取させた。予防群に対しては、筋萎縮を誘導する手術の1週前からエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を毎日摂取させ、治療群に対しては、筋萎縮を誘導する手術を行ってから毎日3週間エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を摂取させた。手術後3週後に微細断層撮影装置を用いて筋肉の画像を取得して
図5に示し、撮像された画像に基づいて、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の摂取有無に応じて筋萎縮に及ぼす影響との違いを比較分析した。
【0071】
その結果、
図6に示すように、3~4週間エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001を摂取させた結果、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001摂取群の筋肉の量が筋萎縮群(除神経)に比べて回復されたことを確認した(
図5及び
図6)。
【0072】
<実験例5> 酸化ストレスにより誘導された筋肉細胞のアポトーシスに対するエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の効果の確認
H2O2により誘導される細胞死において、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の効果を確認するために、DAPI(4′,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)固定染色を行い、染色質の凝縮及び断片化の形状の変化を用いて確認した。
【0073】
具体的に、H
2O
2で処理した実験群においては、処理しなかった対照群に比べて染色質の凝縮及び断片化の形状の細胞数が高く観察され、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体の濃度別に処理した群においては、染色質の凝縮及び断片化の形状の細胞数が濃度依存的に減少することを確認した(
図7)。H
2O
2により誘導された筋肉細胞の場合、細胞内の高いラジカル濃度を維持してタンパク質またはDNAに損傷を与えてしまい、これは、細胞外膜、細胞内の構造タンパク質、核内のDNAなどにおいて酸化をさせて構造的な変化による損傷を誘発することにより、細胞死を誘導する。
【0074】
したがって、この実験を通じて、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体は、筋肉細胞の酸化ストレスにより誘導された細胞死及び増加されたラジカルを暫定的に消去することにより、酸化的な損傷である細胞死及び細胞の構造的な変化に対抗することを確認した。
【0075】
<製造例1> 薬剤の製造
1.散剤の製造
本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体:1mg~10g
乳糖:1g
上記の成分を混合し、気密布に充填して散剤を製造した。
【0076】
2.錠剤の製造
本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体:1mg~10g
トウモロコシ澱粉:100mg
乳糖:100mg
ステアリン酸マグネシウム:2mg
上記の成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法に従って打錠して錠剤を製造した。
【0077】
3.カプセル剤の製造
本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体:1mg~10g
トウモロコシ澱粉:100mg
乳糖:100mg
ステアリン酸マグネシウム:2mg
上記の成分を混合した後、通常のカプセル剤の製造方法に従ってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0078】
4.注射剤の製造
エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体:1mg~10g
マンニトール:180mg
Na2・HPO4・2H2O:26mg
蒸留水:2974mg
通常の注射剤の製造方法に従って、上記の成分を提示された含量にて含有させて注射剤を製造した。
【0079】
<製造例2> 健康食品の製造
1.健康食品の製造
本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体:1mg~10g
ビタミン混合物:適量
ビタミンAアセテート:70μg
ビタミンE:1.0mg
ビタミン:0.13mg
ビタミンB2:0.15mg
ビタミンB6:0.5mg
ビタミンB12:0.2μg
ビタミンC:10mg
ビオチン:10μg
ニコチン酸アミド:1.7mg
葉酸:50mg
パントテン酸カルシウム:0.5mg
無機質混合物:適量
硫酸第一鉄:1.75mg
酸化亜鉛:0.82mg
炭酸マグネシウム:25.3mg
第一リン酸カリウム:15mg
第二リン酸カルシウム:55mg
クエン酸カリウム:90mg
炭酸カルシウム:100mg
塩化マグネシウム:24.8mg
【0080】
上記のビタミン及びミネラル混合物の組成比は、比較的に健康食品に適した成分を好適な実施例を用いて混合し且つ醸成して得られたが、その配合比を任意に変更して実施しても差し支えなく、通常の健康食品の製造方法に従って上記の成分を混合した後、顆粒を製造し、通常の方法に従って健康食品の組成物の製造に用いることができる。
【0081】
2.健康飲料の製造
本発明のエンテロコッカス・フェカーリスEF-2001死菌体:1mg~10g
クエン酸:1000mg
オリゴ糖:100g
梅濃縮液:2g
タウリン:1g
精製水を加えた全体:900ml
【0082】
通常の健康飲料の製造方法に従って上記の成分を混合した後、約1時間かけて85℃で攪拌し且つ加熱した後、製造された溶液をろ過して滅菌済み容器にとって密封滅菌した後、冷蔵保管した後、健康飲料の組成物の製造に用いた。
【0083】
前記組成比は、比較的に嗜好飲料に適した成分を好適な実施例を用いて混合し且つ醸成して得られたが、需要層や需要国、使用用途など地域的、民族的な嗜好度に応じてその配合比を任意に変更して実施しても差し支えない。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記エンテロコッカス・フェカーリスは、エンテロコッカス・フェカーリスEF-2001の死菌体であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項3】
前記疾患は、サルコペニアまたは筋萎縮症であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項4】
前記筋萎縮症は、廃用性萎縮(disuse atrophy)、重症筋無力症(myasthenia gravis)、筋ジストロフィー(dystrophy)、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular amyotrophy)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)及び球脊髄性筋萎縮症(sphinobulbar muscular atrophy)からなる群より選ばれる疾患であることを特徴とする請求項6に記載の筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物。
【請求項5】
エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品組成物。
【請求項6】
エンテロコッカス・フェカーリス、その培養液またはその死菌体を有効成分として含有する筋肉の筋力低下関連疾患の予防及び改善用の食品添加物。