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特開2022-110143ピラゾロキノリン誘導体とドネペジルの併用による認知症治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110143
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】ピラゾロキノリン誘導体とドネペジルの併用による認知症治療剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20220721BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20220721BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20220721BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220721BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C07D471/04 105A
C07D471/04 CSP
A61K31/445
A61K31/4745
A61P25/28
A61P43/00 121
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083947
(22)【出願日】2022-05-23
(62)【分割の表示】P 2019521248の分割
【原出願日】2018-05-30
(31)【優先権主張番号】62/513,692
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】宮本 舞
(72)【発明者】
【氏名】小谷 定治
【テーマコード(参考)】
4C065
4C086
【Fターム(参考)】
4C065AA05
4C065AA18
4C065BB05
4C065CC09
4C065DD03
4C065EE02
4C065HH01
4C065JJ04
4C065KK09
4C065LL01
4C065PP07
4C065PP12
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC21
4C086CB05
4C086GA13
4C086GA14
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルツハイマー病およびレビー小体型認知症の新たな治療剤の提供。
【解決手段】式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩、および式(II)で表されるドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩を併用する。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)で表されるドネペジル
【化1】

またはその薬剤学的に許容される塩と併用することによるアルツハイマー病またはレビー小体型認知症治療のための、式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化2】

またはその薬剤学的に許容される塩。
【請求項2】
ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である請求項1記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩。
【請求項3】
(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である請求項1または請求項2記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩。
【請求項4】
アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホジエステラーゼ9(PDE9)阻害作用を有するピラゾロキノリン誘導体またはその薬剤学的に許容される塩およびドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩の併用による認知症の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
【化1】
【0003】
式(I)で表されるピラゾロキノリン誘導体(以下、「化合物(I)」と言う。)は、ホスホジエステラーゼ9(PDE9)阻害作用を有し、アルツハイマー病における認知機能改善作用が期待されている(特許文献1)。
【0004】
一方、式(II)で表されるドネペジル(以下、「化合物(II)」と言う。)は、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有し、アルツハイマー病およびレビー小体型認知症に対する効果が報告されている(非特許文献1、2、3参照)。
【0005】
このほか、アルツハイマー病の治療薬として、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるガランタミン、リバスチグミン、NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンが適応承認されている。ドネペジルは軽度から高度のアルツハイマー病に対する適応があり、認知機能改善効果に加え、興奮、不安、無感情、妄想、うつ、脱抑制、幻覚、易刺激性、異常行動、アパシーなどの周辺症状(BPSD:Behavioral and psychological symptoms of dementia)に対する効果も報告されている(非特許文献4、5参照)。ガランタミン、リバスチグミンは軽度から中等度のアルツハイマー病に適応がある(非特許文献6、7参照)。メマンチンは中等度から高度のアルツハイマー病の認知機能改善とBPSD(興奮、易刺激性、攻撃性、行動障害)に対する有効性が報告されている(非特許文献8、9参照)。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤同士の併用は不可であるが、いずれかのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とメマンチンの併用は可能である。認知症疾患治療ガイドライン2010では、アルツハイマー病の中核症状に対してアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が推奨されており、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンのいずれかをまず選択し、効果や忍容性に問題があれば他のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤に変更する、との指針が示されている。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の効果が不十分な場合や忍容性に問題がある場合には、メマンチンとの併用またはメマンチンへの置き換えが検討される。
【0006】
しかしながら、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤には、消化器系の副作用や、パーキンソン症状を悪化させるとの報告がある(非特許文献10参照)。副作用、忍容性の点でアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が用いられないときには、中等度から高度アルツハイマー病患者に対してはメマンチンが選択可能であるが、それ以外の患者に対する有効な治療法は現在存在していない。効果不十分の患者に対しては、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤とメマンチンの併用が可能であるが、これらの併用による効果が報告されている一方で(非特許文献11参照)、併用による効果はないとする報告(非特許文献12参照)もあり、意見が分かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国登録特許公報第8563565号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Homma et al.,Dement. Geriatr. Cogn. Disord.,2000,vol.11,p.299
【非特許文献2】Homma et al.,Dement. Geriatr. Cogn. Disord.,2008,vol.25,p.399
【非特許文献3】Mori et al.,Ann.Neurol,vol.72,p.41 2012
【非特許文献4】Holmes at al.,Neurology,2004,vol.63,p.214
【非特許文献5】Gauthier et al.,Int Psychogeriatr,2002,vol.14,p.389
【非特許文献6】Raskind et al.,Neurology,2000,vol.54,p.226
【非特許文献7】Winblad et al.,Neurology,2007,vol.69,p.S14
【非特許文献8】Mecocci et al.,Int J Geriatr Psychiatry,vol.24、p.532
【非特許文献9】Grossberg et al.,Dement Geriatr Cogn Disord,2009,vol.27,p.164
【非特許文献10】Bourke et al., Ann. Pharmacother.,1998,vol.32,p.610
【非特許文献11】Lopez et al.,J Neurol Neurosurg Psychiatry,2009,vol.80,p.600
【非特許文献12】Howard et al.,New Eng J. Med.,2012,vol.366,p.893
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようにアルツハイマー病やレビー小体型認知症に対しては十分満足する治療法が存在しないのが現状であり、さらに有効な抗認知症剤の開発が待たれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、スコポラミン誘発認知機能障害ラットモデルを用いて精力的に研究を重ねた結果、化合物(I)またはその薬剤学的に許容される塩および化合物(II)またはその薬剤学的に許容される塩の併用が、驚くべきことに、それぞれ単独では無効であった用量で、スコポラミンにより誘発される認知機能障害を抑制する効果を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下<1>から<19.3>に関する。
<1>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化2】

またはその薬剤学的に許容される塩および式(II)で表されるドネペジル
【化3】

またはその薬剤学的に許容される塩を併用するアルツハイマー病またはレビー小体型認知症の治療剤。
<2>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<1>記載の治療剤。
<3>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<1>または<2>記載の治療剤。
<4>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<1>~<3>のいずれかに記載の治療剤。
<5>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化4】

またはその薬剤学的に許容される塩および式(II)で表されるドネペジル
【化5】

またはその薬剤学的に許容される塩を同時にまたは別々に投与するアルツハイマー病またはレビー小体型認知症の治療剤。
<6>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<5>記載の治療剤。
<7>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<5>または<6>記載の治療剤。
<8>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<5>~<7>のいずれかに記載の治療剤。
<9>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化6】

またはその薬剤学的に許容される塩および式(II)で表されるドネペジル
【化7】

またはその薬剤学的に許容される塩を含むアルツハイマー病またはレビー小体型認知症の治療剤。
<10>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<9>記載の治療剤。
<11>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<9>または<10>記載の治療剤。
<12>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<9>~<11>のいずれかに記載の治療剤。
<13>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化8】

またはその薬剤学的に許容される塩と併用することによるアルツハイマー病またはレビー小体型認知症治療のための、式(II)で表されるドネペジル
【化9】

またはその薬剤学的に許容される塩。
<13.1>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<13>記載のドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩。
<13.2>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<13>または<13.1>記載のドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩。
<13.3>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<13>~<13.2>のいずれかに記載のドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩。
<14>式(II)で表されるドネペジル
【化10】

またはその薬剤学的に許容される塩と併用することによるアルツハイマー病またはレビー小体型認知症治療のための、式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化11】

またはその薬剤学的に許容される塩。
<14.1>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<14>記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩。
<14.2>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<14>または<14.1>記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩。
<14.3>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<14>~<14.2>のいずれかに記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩。
<15>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化12】

またはその薬剤学的に許容される塩および式(II)で表されるドネペジル
【化13】

またはその薬剤学的に許容される塩を併用するアルツハイマー病またはレビー小体型認知症の治療方法。
<15.1>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<15>記載の治療方法。
<15.2>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<15>または<15.1>記載の治療方法。
<15.3>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<15>~<15.2>のいずれかに記載の治療方法。
<16>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化14】

またはその薬剤学的に許容される塩、式(II)で表されるドネペジル
【化15】

またはその薬剤学的に許容される塩および賦形剤を含む医薬組成物。
<16.1>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<16>記載の医薬組成物。
<16.2>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<16>または<16.1>記載の医薬組成物。
<17>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化16】

またはその薬剤学的に許容される塩および賦形剤を含む医薬組成物と、式(II)で表されるドネペジル
【化17】

またはその薬剤学的に許容される塩および賦形剤を含む医薬組成物とを含むキット。
<17.1>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<17>記載のキット。
<17.2>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<17>または<17.1>記載のキット。
<18>式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化18】

またはその薬剤学的に許容される塩と併用することによるアルツハイマー病またはレビー小体型認知症治療剤製造のための、式(II)で表されるドネペジル
【化19】

またはその薬剤学的に許容される塩の使用。
<18.1>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<18>記載のドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩の使用。
<18.2>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<18>または<18.1>記載のドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩の使用。
<18.3>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<18>~<18.2>のいずれかに記載のドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩の使用。
<19>式(II)で表されるドネペジル
【化20】

またはその薬剤学的に許容される塩と併用することによるアルツハイマー病またはレビー小体型認知症治療剤製造のための、式(I)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン
【化21】

またはその薬剤学的に許容される塩の使用。
<19.1>ドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩が、ドネペジル塩酸塩である<19>記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩の使用。
<19.2>(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンまたはその薬剤学的に許容される塩が、(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン マレイン酸塩である<19>または<19.1>記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩の使用。
<19.3>アルツハイマー病が、軽度、中等度または高度のアルツハイマー病である<19>~<19.2>のいずれかに記載の式(I)で表される化合物またはその薬剤学的に許容される塩の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明はPDE9阻害作用を有する式(I)で表されるピラゾロキノリン誘導体またはその薬剤学的に許容される塩およびアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有するドネペジルまたはその薬剤学的に許容される塩の併用によるアルツハイマー病およびレビー小体型認知症の治療剤を提供する。かかる併用による治療剤は、単独で使用した場合と比較して、動物モデルにおいて著しい認知機能改善作用を示し、アルツハイマー病およびレビー小体型認知症の治療剤としての利用可能性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
【0014】
本明細書における「薬剤学的に許容される塩」とは、本発明に係る化合物と塩を形成されるものであれば特に限定されず、具体的には例えば、無機酸塩、有機酸塩または酸性アミノ酸塩等の酸付加塩が挙げられる。
【0015】
本明細書における「薬剤学的に許容される塩」とは、特に限定する記載がない限り、適宜な比で塩を形成しさえすれば、形成された塩において、当該化合物1分子に対する酸の分子数は特に限定されないが、一態様としては該化合物1分子に対して酸は、約0.1~約5分子であり、別の態様としては該化合物1分子に対して酸は約0.5~約2分子であり、さらに別の態様としては、当該化合物1分子に対して酸は、約0.5、約1、または約2分子である。
【0016】
無機酸塩の具体的な一態様としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が挙げられ、有機酸塩の具体的な一態様としては、例えば酢酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0017】
酸性アミノ酸塩の具体的な一態様としては、例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などが挙げられる。
【0018】
[製剤]
本発明に係る医薬組成物は、薬剤学的に許容される添加物を化合物(I)もしくはその薬剤学的に許容される塩および/または化合物(II)もしくはその薬剤学的に許容される塩と混和することにより製造することができる。本発明に係る医薬組成物は例えば第十六改正日本薬局方の製剤総則に記載の方法など既知の方法に従って製造することができる。
本発明に係る医薬組成物は、その剤形に応じて適切に患者に投与することができる。
【0019】
本発明に係る化合物(I)またはその薬剤学的に許容される塩および化合物(II)またはその薬剤学的に許容される塩の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態・塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて異なるが、通常、成人の場合は1日あたり経口投与で約30μg~10g、一態様としては100μg~5g、別の態様としては100μg~1gを、注射投与で約30μg~1g、一態様としては100μg~500mg、別の態様としては100μg~300mgをそれぞれ1回または数回に分けて投与する。
【実施例0020】
化合物(I)は、例えば、特許文献1に記載された方法により製造することができる。
【0021】
(薬理試験例)
本発明者らは、化合物(I)とドネペジル塩酸塩の併用効果を以下の動物モデルを用いて確認した。
【0022】
[試験例1]スコポラミン誘発認知機能障害ラットを用いた新奇物体認識試験
アルツハイマー病、レビー小体型認知症では、アセチルコリン神経系障害が見られることが報告されており(Whitehouse et al.,Science,1982,vol.215,p.1237、Shimada et al.,Neurology, vol.73,p.273, 2009、Tiraboschi et al.,Neurology 54(2000)407-411、Perry et. al.,NeuroReport,vol.5,pp.747-749(1994))、アルツハイマー病およびレビー小体型認知症の動物モデルとして、スコポラミンを投与した動物が利用可能である。スコポラミンはムスカリン受容体阻害剤であり、アセチルコリン神経系の伝達を遮断する。アセチルコリン神経系は記憶や注意力などに関与しており、スコポラミンを投与された健常人や動物は認知症様の健忘症状を示し、アルツハイマー病およびレビー小体型認知症の認知機能障害の治療に用いられる薬剤で減弱する(Snyder et al.,Alzheimer’s & Dementia 1(2005)126-135、Sambeth et al., European Journal of Pharmacology, vol.572(2007)pp.151-159)。
【0023】
材料と方法
6週齢の雄性Long Evansラット(一般財団法人動物繁殖研究所)を試験に供した。試験前2日間にわたり、実験手順への慣らし操作を1日1回行った。慣らし操作では、ラットに媒体投与を行い、その後、空の試験装置(40cm×30cm×高さ45cm)にラットを入れて3分間探索させ、控室(13cm×30cm×高さ45cm)に1分程度入れたのち、再び空の試験装置にラットを戻し5分間置いた。
試験日当日、獲得試行(T1)を行った。化合物(I)はT1の2時間前に経口投与した。ドネペジル塩酸塩はT1の1時間前に経口投与した。スコポラミン(和光純薬工業)は0.7mg/kg用量でT1の30分前に皮下投与した。T1では、ラットを3分間、空の試験装置に慣らした後、控室に入れた。試験装置に2つの同一の物体を設置した後、再びラットを試験装置に戻し、2つの同一の物体を5分間自由に探索させた。その後、ラットは飼育ケージに戻した。2時間後、保持試行(T2)を行った。ラットを空の試験装置に3分間入れて慣らした後、控室に移した。T1で使った物体(“familiar”物体)とT1で使っていない物体(“新奇”物体)を1つずつ試験装置に設置した後、再びラットを試験装置に戻し、これら物体を3分間自由に探索させた。匂いの手がかりが残らないよう、物体は実験のたびにエタノールを含んだウエットティシュでふき取った。T1とT2のラットの行動はデジタルビデオカメラで撮影し、各物体の総探索時間をストップウォッチを用いてマニュアルで計測した。ラットが鼻を物体の2cm以内に近づけ、鼻を物体に向けている行動を、探索行動と定義した。
新奇物体認識試験ではT2の新奇物体探索割合を既知物体と新奇物体の弁別を反映する健忘指標とみなす。新奇物体探索割合は以下の計算式で算出した。
新奇物体探索割合 (%) = N/(N+F)×100
F: 既知物体探索時間
N: 新奇物体探索時間
T1もしくはT2において物体の総探索時間が10秒以下のラット、または、T1においていずれかの物体に対する探索時間の割合が総探索時間の70%以上または30%以下のラットはデータ解析から除外した。
結果は平均値±標準誤差で表した。スコポラミン非処置の正常対照群とスコポラミン処置の病態対照群間の差は対応のないt検定で解析した(有意差あり:*)。病態対照群と薬剤単独処置群との差はDunnett型多重比較検定を用いて解析した(有意差あり:#)。併用処置群と薬剤単独処置群との差はDunnett型多重比較検定を用いて解析した(有意差あり:※)。p<0.05を統計学的有意差として判断した。統計解析はGraphPad Prism version 5.04 または6.02を用いて行った。結果を表1~表5に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
【表5】
【0029】
結果
T2において、病態対照群のラットは正常対照群のラットに比べて新奇物体探索割合の有意な低下を示した。これは、スコポラミンによってラットの記憶障害が誘発されたことを意味するものである。
化合物(I)は3.3mg/kgで新奇物体探索割合の有意な改善効果を示すが(表2)、1mg/kgでは有意な効果を示さなかった(表1)。ドネペジル塩酸塩は0.3mg/kgで新奇物体探索割合の有意な改善効果を示すが(表4)、0.03mg/kgでは有意な効果を示さなかった(表3)。それぞれ単独では効果を示さない用量において、化合物(I)とドネペジル塩酸塩の単独での効果と併用時の効果を比較したところ、化合物(I)(1mg/kg)とドネペジル塩酸塩(0.03mg/kg)の併用群はドネペジル塩酸塩(0.03mg/kg)単独群よりも有意に大きな新奇物体探索割合を示した(表5)。この結果は化合物(I)のドネペジル塩酸塩併用時の認知機能増強効果を示すものである。