(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110159
(43)【公開日】2022-07-28
(54)【発明の名称】血管形成の阻害を必要とする対象において血管形成を阻害するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220721BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220721BHJP
C07K 16/40 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
A61K39/395 P
A61P35/00
A61P27/02
C07K16/40
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086774
(22)【出願日】2022-05-27
(62)【分割の表示】P 2020075784の分割
【原出願日】2017-03-31
(31)【優先権主張番号】62/315,857
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.TWEEN
3.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】501472607
【氏名又は名称】オメロス コーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】513252367
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ レスター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デモプロス グレゴリー エー.
(72)【発明者】
【氏名】シュワエブル ハンス-ウィルヘルム
(72)【発明者】
【氏名】ドューラー トーマス
(72)【発明者】
【氏名】チョーカー ラリー
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085BB22
4C085CC02
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG10
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA71
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】血管形成依存性疾患もしくは血管形成依存性状態に罹患しているかまたはこれを発症するリスクがある哺乳動物対象において、血管形成を予防する、治療する、逆転させる、および/または遅延させるための方法の提供。
【解決手段】血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を該対象に投与する工程を含む、方法。MASP-2阻害物質は、MASP-2抗体またはその断片である。
【選択図】
図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態に罹患している哺乳動物対象において、血管形成を予防する、治療する、逆転させる、および/または遅延させるための方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
MASP-2阻害物質が、MASP-2抗体またはその断片である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
MASP-2阻害物質が、MASP-2モノクローナル抗体、またはSEQ ID NO:6の一部に特異的に結合するその断片である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態が、血管形成依存性癌である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態が、良性腫瘍である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態が、眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
対象が、固形腫瘍、血液由来腫瘍、ハイリスクカルチノイド腫瘍、および腫瘍転移からなる群より選択される血管形成依存性癌に罹患している、請求項4記載の方法。
【請求項8】
対象が1つまたは複数の固形腫瘍に罹患しており、前記方法が、腫瘍血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害因子を投与する工程を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
対象が、腫瘍転移に罹患しているかまたは腫瘍転移のリスクがあり、前記方法が、腫瘍転移を阻害するために有効な量のMASP-2阻害因子を投与する工程を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
対象が、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、カルチノイド腫瘍、および化膿性肉芽腫からなる群より選択される血管形成依存性良性腫瘍に罹患している、請求項5記載の方法。
【請求項11】
眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態がAMDでない、請求項6記載の方法。
【請求項12】
眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態が、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、増殖性糖尿病性網膜症に続発する硝子体出血、視神経脊髄炎、およびルベオーシスからなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項13】
抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項14】
組成物が、皮下投与されるか、腹腔内投与されるか、筋肉内投与されるか、動脈内投与されるか、静脈内投与されるか、または吸入剤として投与される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
AMD、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、およびルベオーシスからなる群より選択される眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態に罹患している対象を治療する方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項16】
MASP-2阻害物質が、MASP-2抗体またはその断片である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
MASP-2阻害物質が、MASP-2モノクローナル抗体、またはSEQ ID NO:6の一部に特異的に結合するその断片である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を、癌を有する対象に投与する工程を含む、腫瘍血管形成を阻害する方法。
【請求項20】
MASP-2阻害物質が、MASP-2抗体またはその断片である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
MASP-2阻害物質が、MASP-2モノクローナル抗体、またはSEQ ID NO:6の一部に特異的に結合するその断片である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年3月31日に出願された仮出願第62/315,857号の恩典を主張し、この全ては、その全体が本明細書に参照により組み入れられる。
【0002】
配列表に関する記載
本願に関連する配列表はハードコピーの代わりにテキスト形式で提供され、本明細書に参照により組み入れられる。配列表を含むテキストファイルの名前は、MP_1_0239_PCT_Sequence_Listing_20170321_ST25である。このテキストファイルは115 KBであり、2017年3月21日に作成され、本明細書の出願と共にEFS-Webを介して提出されている。
【背景技術】
【0003】
背景
補体系は、ヒトおよび他の脊椎動物において微生物感染症および他の急性侵襲に対する免疫応答を開始、増幅、および組織化するための初期作用機構を提供する(M.K. Liszewski and J. P. Atkinson, 1993, in Fundamental Immunology, Third Edition, W.E, Paul編, Raven Press, Ltd., New York)。補体活性化は潜在的な病原体に対する有益な第一線の防御を提供するが、防御免疫応答を促進する補体の活性は宿主にとって潜在的な脅威となることもある(K.R, Kalli, et al., Springer Semin. Immunopathol. 15:417-431, 1994; B.P. Morgan, Eur. J. Clinical Investig. 24:219-228, 1994)。例えば、C3およびC5タンパク質分解産物は好中球を動員および活性化する。活性化好中球は宿主防御に不可欠であるが見境なく破壊酵素を放出し、臓器損傷を引き起こすことがある。さらに、補体活性化によって、近くの宿主細胞ならびに微生物標的の表面に溶解性補体成分が沈着し、その結果、宿主細胞が溶解する場合がある。
【0004】
補体系はまた、心筋梗塞、脳卒中、ARDS、再灌流傷害、敗血症ショック、熱傷後の毛細血管漏出、心肺バイパス術後炎症、移植片拒絶、関節リウマチ、多発性硬化症、重症筋無力症、およびアルツハイマー病を含む、非常に多くの急性疾患状態および慢性疾患状態の発生に関係している。これらの状態のほぼ全てにおいて、補体は原因でないが、発生に関与するいくつかの因子の1つである。それにもかかわらず、補体活性化は主要な病理学的機構であると考えられ、これらの疾患状態の多くにおける臨床管理のための有効なポイントということになる。様々な疾患状態において補体媒介性組織損傷が重要であるという認識の高まりは、有効な補体阻害薬物の必要性を強調する。現在に至るまで、補体成分C5に対する抗体であるエクリズマブ(Solaris(登録商標))がヒトでの使用を認可されている唯一の補体標的化薬物である。だが、C5は、補体活性化カスケードの「下流」に位置する、いくつかのエフェクター分子の1つであり、C5が遮断されても補体系活性化は阻害されない。従って、補体活性化の開始工程の阻害因子は「下流」補体阻害因子よりもかなり優位に立っていると考えられる。
【0005】
現在、補体系は3つの異なる経路:古典経路、レクチン経路、および第二経路を介して活性化できることが広く認められている。古典経路は、通常、外来粒子(すなわち、抗原)に結合した宿主抗体からなる複合体によって誘発され、従って、特異的抗体反応を発生させるために抗原への前曝露を必要とする。古典経路の活性化は宿主による以前の獲得免疫応答に左右されるので、古典経路は後天免疫系の一部である。対照的に、レクチン経路および第二経路はいずれも獲得免疫とは無関係であり、自然免疫系の一部である。
【0006】
補体系の活性化により、セリンプロテアーゼ酵素前駆体の連続して起こる活性化がもたらされる。古典経路活性化の第一段階は、特異的認識分子C1qと、抗原に結合したIgG分子およびIgM分子との結合である。C1qは、C1と呼ばれる複合体としてC1rおよびC1sセリンプロテアーゼプロ酵素と結合する。C1qと免疫複合体が結合すると、C1rのArg-Ile部位が自己タンパク分解によって切断された後に、C1rによって媒介されるC1sの切断および活性化が起こり、それによって、C4およびC2を切断する能力が獲得される。C4は、C4aおよびC4bと呼ばれる2つの断片に切断され、同様に、C2はC2aおよびC2bに切断される。C4b断片は、隣接するヒドロキシル基またはアミノ基と共有結合を結合し、活性化C2のC2a断片との非共有結合的相互作用を介してC3コンバターゼ(C4b2a)を生成することができる。C3コンバターゼ(C4b2a)は、C5コンバターゼ(C4b2a3b)の生成をもたらす、C3aおよびC3b小成分へのタンパク質切断によって、C3を活性化し、C5コンバターゼ(C4b2a3b)は、C5を切断することによって、細胞膜を破壊して細胞溶解をもたらすことができる膜侵襲複合体(C5bがC6、C7、C8、およびC9ポリマーと組み合わされ、「MAC」とも呼ばれる)の形成をもたらす。C3およびC4の活性化型(C3bおよびC4b)は共有結合により外来標的表面に沈着し、複数の食細胞上にある補体受容体によって認識される。
【0007】
レクチン経路を介した補体系活性化における第一段階は、レクチン経路特異的パターン認識分子と、その標的リガンドとの結合である。このプロセスによってレクチン経路特異的セリンプロテアーゼプロ酵素の活性化が開始し、その結果、補体カスケードが開始する。レクチン経路にあるパターン認識分子は、炭水化物結合C型レクチン、すなわち、マンナン結合レクチン(MBL)、コレクチン-11(CL-11。CL-K1とも知られる)、コレクチン-10(CL-10。CL-L1とも知られる)、ならびにフィブリノゲン様結合ドメインを介して炭水化物およびタンパク質のアセチル化構造に結合する3つの異なるフィコリン、すなわち、H-フィコリン、M-フィコリン、およびL-フィコリンの群を含む(J. Lu et al., Biochim. Biophys. Acta 1572:387-400, (2002); Holmskov et al., Annu. Rev. Immunol. 21:547-578 (2003); Teh et al., Immunology 101:225-232 (2000), J. Luet et al., Biochim Biophys Acta 1572:387-400 (2002); Hansen et al, J. Immunol 185(10):6096-6104 (2010)、およびHendriksen et al., J Immunol 191(12):6117-27, 2013)。
【0008】
Ikedaらは、C1qと同様にMBLが酵母マンナンでコーティングされた赤血球と結合すると、C4依存的に補体系を活性化できることを初めて証明した(Ikeda et al., J. Biol. Chem. 262:7451-7454, (1987))。コレクチンタンパク質ファミリーのメンバーであるMBLは、3-ヒドロキシ基および4-ヒドロキシ基がピラノース環の赤道結合面に配向されている炭水化物と結合するカルシウム依存性レクチンである。従って、MBLの目立ったリガンドはD-マンノースおよびN-アセチル-D-グルコサミンであるのに対して、この立体的要件に合わない炭水化物はMBLに対して検出不可能な親和性を有する(Weis et al., Nature 360:127-134, (1992))。MBLと一価糖との相互作用は極めて弱く、解離定数は典型的に1桁のミリモル範囲内である。MBLは、アビディティによって、すなわち、互いに近くに位置する複数の単糖残基と同時に相互作用することによってグリカンリガンドと緊密で特異的な結合を達成する(Lee et al., Archiv. Biochem. Biophys. 299:129-136, (1992))。MBLは、一般的に、微生物、例えば、細菌、酵母、寄生生物、およびある特定のウイルスを装飾する炭水化物パターンを認識する。対照的に、MBLは、通常、哺乳動物の血漿糖タンパク質上および細胞表面糖タンパク質上に存在する「成熟」複合糖質を装飾する最後から2番目の糖および最後の糖であるD-ガラクトースおよびシアル酸を認識しない。この結合特異性は、「外来」表面の認識を促進し、「自己活性化」からの保護を助けると考えられる。しかしながら、MBLは、哺乳動物細胞の小胞体中およびゴルジ中で隔離されたN結合糖タンパク質および糖脂質における高マンノース「前駆」グリカンのクラスターに高親和性で結合する(Maynard et al., J. Biol. Chem. 257:3788-3794, (1982))。従って、損傷細胞は、MBL結合を介したレクチン経路活性化の潜在的な標的であり、より最近の研究では、CL-11は、傷害を受けた細胞または損傷細胞において、レクチン経路の活性化を開始させる別のレクチン経路認識サブコンポーネントであることが示されている(Farar et al., J Clin Invest 126:1911-1925, 2016)。
【0009】
フィコリンは、フィブリノゲン様ドメインと呼ばれる、MBLとは異なるタイプのレクチンドメインを有する。フィコリンはCa++非依存的に糖残基に結合する。ヒトでは、3種類のフィコリン(L-フィコリン、M-フィコリン、およびH-フィコリン)が同定されている。2種類の血清フィコリンであるL-フィコリンおよびH-フィコリンは共通してN-アセチル-D-グルコサミンに対する特異性を有する。しかしながら、H-フィコリンはN-アセチル-D-ガラクトサミンにも結合する。L-フィコリン、H-フィコリン、CL-11、およびMBLの糖特異性が異なることは、異なるレクチンが補い合い、重複によって異なる複合糖質を標的とし得ることを意味する。この考えは、レクチン経路にある公知のレクチンのうちL-フィコリンだけが、全てのグラム陽性細菌に見られる細胞壁複合糖質であるリポテイコ酸に特異的に結合するという最近の報告によって裏付けられている(Lynch et al., J. Immunol. 172:1198-1202, (2004))。コレクチン(すなわち、MBL、CL-11、CL-10、CL-11/CL-10複合体)およびフィコリンはアミノ酸配列において有意な類似性を有さない。しかしながら、これらの2つのタンパク質グループは、類似したドメイン構成を有し、かつ、C1qと同様に集合して、多部位結合の可能性を最大にするオリゴマー構造を構築する。
【0010】
MBLの血清中濃度は健常集団においてかなり変動し、これは、MBL遺伝子のプロモーター領域およびコード領域の両方にある多型/変異によって遺伝的に制御される。急性期タンパク質として、炎症中にMBL発現はさらに上方制御される。L-フィコリンは、MBLの濃度とほぼ同じ濃度で血清中に存在する。従って、レクチン経路のL-フィコリン分岐は、生理学的重要性が場合によってはMBL部門に匹敵する。MBLおよびフィコリンはオプソニンとしても機能することができる。このために、食細胞は、MBLによって装飾された表面およびフィコリンによって装飾された表面を標的とすることが可能になる(Jack et al., J Leukoc Biol., 77(3):328-36(2004), Matsushita and Fujita, Immunobiology, 205(4-5):490-7(2002), Aoyagi et al., J. Immunol, 174(1):418-25(2005)を参照されたい)。このオプソニン化は、これらのタンパク質と食細胞受容体との相互作用を必要とする(Kuhlman et al., J. Exp. Med. 169:1733, (1989); Matsushita et al., J. Biol. Chem. 271:2448-54, (1996))。食細胞受容体の正体は証明されていない。
【0011】
ヒトMBLは、そのコラーゲン様ドメインを介して、MBL関連セリンプロテアーゼ(MASP)と呼ばれる独特のC1r/C1s様セリンプロテアーゼと特異的な、かつ高親和性の相互作用を生じさせる。現在に至るまで、3種類のMASPが述べられている。第1に、単一の酵素「MASP」が、補体カスケードの開始(すなわち、C2およびC4の切断)を担う酵素として特定および特徴決定された(Matsushita et al., J Exp Med 176(6):1497-1502(1992):Ji et al., J. Immunol 150:571-578, (1993))。その後に、MASP活性が実際には、2種類のプロテアーゼ:MASP-1およびMASP-2の混合であることが明らかにされた(Thiel et al., Nature 386:506-510, (1997))。しかしながら、補体活性化にはMBL-MASP-2複合体だけでも十分であることが証明された(Vorup-Jensen et al., J. Immunol 165:2093-2100, (2000))。さらに、MASP-2だけが高い割合でC2およびC4を切断した(Ambrus et al., J. Immunol, 170:1374-1382, (2003))。従って、MASP-2は、C4およびC2を活性化してC3コンバターゼであるC4b2aを生成するのを担うプロテアーゼである。これは、2種類の特異的なセリンプロテアーゼ(C1rおよびC1s)の協調作用が補体系活性化につながる古典経路のC1複合体とは大きな違いである。さらに、第3の新規プロテアーゼであるMASP-3が単離されている(Dahl, M.R. et al., Immunity 15:127-35, 2001)。MASP-1およびMASP-3は同じ遺伝子のオルタナティブスプライシング産物である。
【0012】
MASPは、C1複合体の酵素成分であるC1rおよびC1sのドメイン構成と同一のドメイン構成を有する(Sim et al., Biochem. Soc. Trans. 28:545, (2000))。これらのドメインは、N末端C1r/C1s/ウニ(sea urchin)VEGF/骨形成タンパク質(CUB)ドメイン、上皮細胞成長因子様ドメイン、第2のCUBドメイン、補体制御タンパク質ドメインの縦列配列、およびセリンプロテアーゼドメインを含む。C1プロテアーゼと同様に、MASP-2の活性化は、セリンプロテアーゼドメインに隣接するArg-Ile結合の切断によって起こる。この切断によって、酵素はジスルフィド結合したA鎖およびB鎖に分けられる。後者はセリンプロテアーゼドメインからなる。
【0013】
MBLはまた、MASP-2の触媒活性を欠く、19kDaのMBL関連タンパク質(MAp19)または低分子MBL関連タンパク質(sMAP)として公知のオルタナティブスプライシング型MASP-2と結合することもできる(Stover, J. Immunol. 162:3481-90, (1999); Takahashi et al., Int. Immunol. 11:859-863, (1999))。MAp19は、MASP-2の最初の2つのドメインに続いて、4個の独特のアミノ酸からなる余分な配列を含む。Map19の機能は不明である(Degn et al., J. Immunol. Methods. 2011)。MASP-1遺伝子およびMASP-2遺伝子は、それぞれ、ヒト第3染色体および第1染色体に位置する(Schwaeble et al., Immunobiology 205:455-466, (2002))。
【0014】
いくつかの証拠から、異なるMBL-MASP複合体があり、かつ血清中のMASPの大部分がMBLと複合体を形成しないことが示唆されている(Thiel. et al., J. Immunol. 165:878-887, (2000))。H-フィコリンおよびL-フィコリンはいずれもMBLと同様に全てのMASPに結合し、レクチン補体経路を活性化する(Dahl et al., Immunity 15:127-35, (2001); Matsushita et al., J. Immunol. 168:3502-3506, (2002))。レクチン経路および古典経路はいずれも共通のC3コンバターゼ(C4b2a)を形成し、2つの経路はこの段階で1つになる。
【0015】
レクチン経路は、ナイーブな宿主における感染症に対する宿主防御において主な役割を有すると広く考えられている。宿主防御においてMBLが関与する強力な証拠が、機能的MBLの血清中レベルが低い患者の分析から得られた(Kilpatrick, Biochim. Biophys. Acta 1572:401-413, (2002))。このような患者は反復性の細菌感染症および真菌感染症に対して感受性を示す。これらの症状は、通常、若年期に、母系由来抗体価が漸減する時であるが抗体反応の全レパートリーが発達する前の見かけの(apparent)脆弱期間に現れる。この症候群は、MBLコラーゲン部分におけるいくつかの部位での変異に起因する場合が多く、該変異はMBLオリゴマーの適切な形成を妨害する。しかしながら、MBLは補体に関係なくオプソニンとして機能することができるので、感染症に対する感受性の増大がどの程度まで補体活性化の障害によるものであるかは分かっていない。
【0016】
古典経路およびレクチン経路とは対照的に、C1qおよびレクチンが他の2つの段階において果たす認識機能を、第二経路の開始因子が実行することは見出されていない。現在、第二経路は低レベルの代謝回転活性化を自発的に受けることが広く認められている。この代謝回転活性化は、自発的補体活性化を抑える適切な分子エレメントを欠く外来表面または他の異常表面(細菌、酵母、ウイルスに感染した細胞、または損傷組織)において容易に増幅することができる。第二経路活性化に直接関与する4種類の血漿タンパク質:C3、B因子およびD因子、ならびにプロペルジンがある。
【0017】
古典補体経路および第二補体経路の両方が非感染性ヒト疾患の発生に関係していることを示す幅広い証拠があるが、レクチン経路の役割は評価され始めたばかりである。最近の研究から、レクチン経路の活性化は虚血/再灌流傷害における補体活性化および関連炎症を担っている可能性があるという証拠が得られた。Collard et al.,(2000)は、酸化ストレスに供された培養内皮細胞はMBLに結合し、ヒト血清に曝露されるとC3沈着を示すと報告した(Collard et al., Am. J. Pathol 156:1549-1556,(2000))。さらに、ヒト血清を遮断抗MBLモノクローナル抗体で処理すると、MBL結合および補体活性化が阻害された。これらの知見をラット心筋虚血-再灌流モデルに広げた。このモデルでは、ラットMBLに対する遮断抗体で処置されたラットは、冠状動脈閉塞時に対照抗体処置ラットよりも有意に少ない心筋損傷を示した(Jordan et al., Circulation, 104:1413-1418,(2001))。酸化ストレス後の血管内皮とのMBL結合の分子機構は不明である。最近の研究から、酸化ストレス後のレクチン経路の活性化は血管内皮サイトケラチンとのMBL結合によって媒介されるが、複合糖質によって媒介されない可能性があることが示唆されている(Collard e al., Am. J. Pathol. 159:1045-1054,(2001))。他の研究は古典経路および第二経路が虚血/再灌流傷害の発生に関係していることを示しており、この疾患におけるレクチン経路の役割は議論の余地が残されている(Riedermann, N.C. et al., Am. J. Pathol. 162:363-367, 2003)。
【0018】
最近の研究により、第二経路活性化酵素であるD因子を酵素前駆体型から酵素活性型に変換するためにはMASP-1が(おそらくMASP-3も)必要とされることが示されている(Takahashi M. et al., J Exp Med 207(1):29-37(2010)を参照されたい)。このプロセスの生理学的重要性は、MASP-1/3欠損マウスの血漿中に機能的な第二経路活性が存在しないことで強調される。タンパク質分解によって天然C3からC3bが生成されるには第二経路が機能することが必要である。第二経路C3コンバターゼ(C3bBb)が必須のサブユニットであるC3bを含有するので、第二経路を介した最初のC3bの起源に関する疑問は不可解な問題であり、膨大な研究を活気づけてきた。
【0019】
C3は、(C4およびα-2マクログロブリンと共に)チオエステル結合として公知の稀な翻訳後修飾を含有するタンパク質のファミリーに属する。チオエステル基は、3アミノ酸離れたシステインのスルフヒドリル基とチオエステル共有結合を形成する末端カルボニル基を有するグルタミンからなる。この結合は不安定であり、求電子性グルタミル-チオエステルはヒドロキシル基またはアミノ基などの求核性部分と反応し、従って、他の分子と共有結合を形成することができる。チオエステル結合は、インタクトなC3の疎水性ポケットの中に隔離された場合にかなり安定している。しかしながら、タンパク質分解によってC3がC3aおよびC3bに切断されると、反応性の高いチオエステル結合がC3b上に露出し、ヒドロキシル基またはアミノ基を含む隣接する部分による求核攻撃後に、C3bは標的と共有結合する。C3チオエステルは、C3bと補体標的との共有結合における詳細に記録が残された役割に加えて、第二経路の誘発において中心的な役割も有すると考えられている。広く認められている「アイドリング理論(tick-over theory)」によれば、第二経路は、加水分解チオエステルを有するC3(iC3; C3(H2O))およびB因子から形成される液相コンバターゼiC3Bbの発生によって開始される(Lachmann, P.J., et al., Springer Semin. Immunopathol. 7:143-162, (1984))。C3b様C3(H2O)は、天然C3から、このタンパク質にある内部チオエステルのゆっくりとした自発性的加水分解によって生成される(Pangburn, M.K., et al., J. Exp. Med. 154:856-867, 1981)。C3(H2O)Bbコンバターゼの活性によってC3b分子は標的表面に沈着され、それによって、第二経路が開始される。
【0020】
第二経路活性化の開始因子についてはほとんど知られていない。活性化因子は、酵母細胞壁(ザイモサン)、多くの純粋多糖、ウサギ赤血球、ある特定の免疫グロブリン、ウイルス、菌類、細菌、動物腫瘍細胞、寄生生物、および損傷細胞を含むと考えられている。これらの活性化因子に共通する唯一の特徴は炭水化物の存在であるが、炭水化物構造の複雑性および多様性のために、認められた共通の分子決定基を証明することは難しい。第二経路活性化は、この経路の阻害調節成分、例えば、H因子、I因子、DAF、およびCR1と、第二経路の唯一の正の制御因子であるプロペルジンとの間の微妙なバランスによって制御されることが広く認められている(Schwaeble W.J. and Reid K.B., Immunol Today 20(1):17-21(1999)を参照されたい)。
【0021】
前記の明らかに無秩序な活性化機構に加えて、生成されたC3bがB因子と共に、さらなる第二経路C3コンバターゼ(C3bBb)の形成に関与することができるので、第二経路はレクチン/古典経路C3コンバターゼ(C4b2a)の強力な増幅ループも提供することができる。第二経路C3コンバターゼはプロペルジン結合によって安定化される。プロペルジンは、第二経路C3コンバターゼの半減期を6~10倍延長する。C3bを第二経路C3コンバターゼに添加すると、第二経路C5コンバターゼが形成される。
【0022】
3つ全ての経路(すなわち、古典経路、レクチン経路、および第二経路)は、複数の炎症誘発作用を有する産物を形成するために切断されるC5において1つになると考えられてきた。1つになった経路は終末補体経路と呼ばれてきた。C5aは、平滑筋緊張および血管緊張の変化ならびに血管透過性を誘導する最も強力なアナフィラトキシンである。それはまた好中球および単球の強力なケモタキシンおよび活性化因子である。C5aを介した細胞活性化は、サイトカイン、加水分解酵素、アラキドン酸代謝産物、および活性酸素種を含む複数種のさらなる炎症メディエーターの放出を誘導することによって、炎症反応を著しく増幅することができる。C5が切断されると、膜侵襲複合体(MAC)としても公知のC5b-9が形成される。現在、溶解を引き起こすのに十分でない(sublytic)MAC沈着が、溶解性ポア形成複合体としての役割に加えて炎症において重要な役割を果たし得るという強力な証拠がある。
【0023】
補体系は、免疫防御における必須の役割に加えて、多くの臨床状態における組織損傷の一因となる。従って、これらの副作用を阻止するために治療的に有効な補体阻害因子を開発する差し迫った必要性がある。
【0024】
血管形成が、固形腫瘍および転移を含む様々な障害、ならびに眼血管新生疾患、例えば、加齢黄斑変性(AMD)、増殖性糖尿病性網膜症、および血管新生緑内障の発病に関与するということは十分に実証されている。
【0025】
多くの疾患および障害における血管形成の役割を考慮すると、治療的に有効な血管形成阻害因子を開発する差し迫った必要性もある。
【発明の概要】
【0026】
概要
本概要は、以下の詳細な説明においてさらに説明される幅広い概念を簡単な形で紹介するために提供される。本概要は、特許請求の範囲に記載された対象の重要な特徴を特定することを意図されていることも、また、特許請求の範囲に記載された対象の範囲の決定を助けるものとして用いられることを意図されていることもない。
【0027】
一局面において、本発明は、血管形成依存性疾患もしくは血管形成依存性状態に罹患しているかまたはこれを発症するリスクがある哺乳動物対象において、血管形成を予防する、治療する、逆転させる、および/または遅延させるための方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。本発明のこれらの局面の一部の態様において、MASP-2阻害物質はMASP-2抗体またはその断片である。さらなる態様において、MASP-2抗体はエフェクター機能が低下している。一部の態様において、MASP-2阻害物質はMASP-2阻害ペプチドまたは非ペプチドMASP-2阻害因子である。
【0028】
別の局面において、本発明は、治療的有効量のMASP-2阻害物質および薬学的に許容される担体を含む、血管形成の副作用を阻害するための組成物を提供する。血管形成の副作用の阻害を必要とする生きている対象における血管形成の副作用の阻害において使用するための医薬を製造するための方法であって、薬学的な担体の中に治療的有効量のMASP-2阻害物質を含める工程を含む、方法も提供される。本明細書において以下に説明される状態、疾患、および障害のそれぞれの治療のための、血管形成の阻害において使用するための医薬を製造するための方法も提供される。
【0029】
本発明の方法、組成物、および医薬は、本明細書においてさらに説明されるように急性または慢性の病理学的状態または傷害に罹患しているヒトを含む哺乳動物対象において、インビボで血管形成の副作用を阻害するために有用である。
【0030】
本発明の別の局面において、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態に罹患している哺乳動物対象において血管形成を阻害するための方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を含む組成物を対象に投与する工程を含む、方法が提供される。一部の態様において、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態は、血管形成依存性癌、例えば、固形腫瘍、血液由来腫瘍、ハイリスクカルチノイド腫瘍、および腫瘍転移からなる群より選択される血管形成依存性癌である。一部の態様において、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態は、血管形成依存性良性腫瘍、例えば、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、カルチノイド腫瘍、および化膿性肉芽腫からなる群より選択される血管形成依存性良性腫瘍である。一部の態様において、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態は、眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態、例えば、加齢黄斑変性(AMD)、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片(primary pterygium)、HSV実質角膜炎(HSV stromal keratitis)、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、およびルベオーシスからなる群より選択される眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態である。
【0031】
別の局面において、本発明は、AMD、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、増殖性糖尿病性網膜症に続発する硝子体出血、視神経脊髄炎、およびルベオーシスからなる群より選択される眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態に罹患している対象を治療する方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。
【0032】
別の局面において、本発明は、腫瘍血管形成を阻害する方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を、癌を有する対象に投与する工程を含む、方法を提供する。
[本発明1001]
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態に罹患している哺乳動物対象において、血管形成を予防する、治療する、逆転させる、および/または遅延させるための方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1002]
MASP-2阻害物質が、MASP-2抗体またはその断片である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
MASP-2阻害物質が、MASP-2モノクローナル抗体、またはSEQ ID NO:6の一部に特異的に結合するその断片である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態が、血管形成依存性癌である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態が、良性腫瘍である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態が、眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態である、本発明1001の方法。
[本発明1007]
対象が、固形腫瘍、血液由来腫瘍、ハイリスクカルチノイド腫瘍、および腫瘍転移からなる群より選択される血管形成依存性癌に罹患している、本発明1004の方法。
[本発明1008]
対象が1つまたは複数の固形腫瘍に罹患しており、前記方法が、腫瘍血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害因子を投与する工程を含む、本発明1007の方法。
[本発明1009]
対象が、腫瘍転移に罹患しているかまたは腫瘍転移のリスクがあり、前記方法が、腫瘍転移を阻害するために有効な量のMASP-2阻害因子を投与する工程を含む、本発明1008の方法。
[本発明1010]
対象が、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、カルチノイド腫瘍、および化膿性肉芽腫からなる群より選択される血管形成依存性良性腫瘍に罹患している、本発明1005の方法。
[本発明1011]
眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態がAMDでない、本発明1006の方法。
[本発明1012]
眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態が、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、増殖性糖尿病性網膜症に続発する硝子体出血、視神経脊髄炎、およびルベオーシスからなる群より選択される、本発明1006の方法。
[本発明1013]
抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、本発明1002の方法。
[本発明1014]
組成物が、皮下投与されるか、腹腔内投与されるか、筋肉内投与されるか、動脈内投与されるか、静脈内投与されるか、または吸入剤として投与される、本発明1001の方法。
[本発明1015]
AMD、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、およびルベオーシスからなる群より選択される眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態に罹患している対象を治療する方法であって、血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1016]
MASP-2阻害物質が、MASP-2抗体またはその断片である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
MASP-2阻害物質が、MASP-2モノクローナル抗体、またはSEQ ID NO:6の一部に特異的に結合するその断片である、本発明1016の方法。
[本発明1018]
抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、本発明1016の方法。
[本発明1019]
血管形成を阻害するために有効な量のMASP-2阻害物質を、癌を有する対象に投与する工程を含む、腫瘍血管形成を阻害する方法。
[本発明1020]
MASP-2阻害物質が、MASP-2抗体またはその断片である、本発明1019の方法。
[本発明1021]
MASP-2阻害物質が、MASP-2モノクローナル抗体、またはSEQ ID NO:6の一部に特異的に結合するその断片である、本発明1020の方法。
[本発明1022]
抗体またはその断片が、組換え抗体、低下したエフェクター機能を有する抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群より選択される、本発明1020の方法。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明の前述の局面および付随する利点の多くは、添付の図面と共に用いられる際に以下の詳細な説明を参照することによってさらによく理解されるようになるので、さらに容易に認識されると考えられる。
【
図1】ヒトMASP-2のゲノム構造を示す図である。
【
図2】
図2Aは、ヒトMASP-2タンパク質のドメイン構造を示す模式図である。
図2Bは、ヒトMAp19タンパク質のドメイン構造を示す模式図である。
【
図3】マウスMASP-2ノックアウト戦略を示した図である。
【
図4】ヒトMASP-2ミニ遺伝子構築物を示した図である。
【
図5A】実施例2に記載のように、マンナン上へのC4b沈着の欠如によって測定された場合に、MASP-2欠損が、レクチン経路によって媒介されるC4活性化の消失につながることを証明した結果を示す。
【
図5B】実施例2に記載のように、ザイモサン上へのC4b沈着の欠如によって測定された場合に、MASP-2欠損が、レクチン経路によって媒介されるC4活性化の消失につながることを証明した結果を示す。
【
図5C】実施例2に記載のように、マンナン上およびザイモサン上へのC4b沈着によって測定された場合に、MASP-2+/-;MASP-2-/-および野生型系統から得られた血清試料の相対的C4活性化レベルを証明した結果を示す。
【
図6】実施例2に記載のように、マンナン上へのC4b沈着によって測定された場合に、マウス組換えMASP-2をMASP-2-/-血清試料に添加することによって、レクチン経路によって媒介されるC4活性化がタンパク質濃度依存的に回復することを証明した結果を示す。
【
図7】実施例8に記載のように、古典経路がMASP-2-/-系統において機能することを証明した結果を示す。
【
図8A】実施例10に記載のように、抗MASP-2 Fab2抗体番号11がC3コンバターゼ形成を阻害することを証明した結果を示す。
【
図8B】実施例10に記載のように、抗MASP-2 Fab2抗体番号11が天然のラットMASP-2に結合することを証明した結果を示す。
【
図8C】実施例10に記載のように、抗MASP-2 Fab2抗体番号41がC4切断を阻害することを証明した結果を示す。
【
図9】実施例10に記載のように、C3コンバターゼ形成を阻害した、試験された抗MASP-2 Fab2抗体の全てがC4切断も阻害することが見出されたことを証明した結果を示す。
【
図10】実施例11に記載のように、MASP-2遮断Fab2抗体のエピトープマッピングに用いられたラットMASP-2由来組換えポリペプチドを示した図である。
【
図11】実施例11に記載のように、抗MASP-2 Fab2番号40および番号60とラットMASP-2ポリペプチドとの結合を証明した結果を示す。
【
図12A】実施例12に記載のように、野生型(+/+)マウスおよびMASP-2(-/-)マウスから単離されたRPE-脈絡膜複合体中のベースラインVEGFタンパク質レベルを示した結果を示す。
【
図12B】実施例12に記載のように、黄斑変性モデルにおけるレーザー誘導性傷害後3日目の野生型(+/+)マウスおよびMASP-2(-/-)マウスにおけるRPE-脈絡膜複合体中のVEGFタンパク質レベルを示した結果を示す。
【
図13】実施例12に記載のように、野生型(+/+)マウスおよびMASP-2(-/-)マウスにおけるレーザー誘導性傷害後7日目の脈絡膜血管新生(CNV)体積の平均を示した結果を示す。
【
図14】実施例13に記載のように、WTマウスにおいて0.3mg/kgまたは1.0mg/kgのマウス抗MASP-2モノクローナル抗体を皮下(SC)投与した後、様々な時点で採取された試料中の、対照に対する%として測定されたC4b沈着レベルを図示する。
【
図15】実施例13に記載のように、WTマウスにおいて0.6mg/kgのマウス抗MASP-2モノクローナル抗体を腹腔内(IP)投与した後、様々な時点で採取された試料中の、対照に対する%として測定されたC4b沈着レベルを図示する。
【
図16】実施例14に記載のように、0.3mg/kgまたは1.0mg/kgのマウス抗MASP-2モノクローナル抗体の単回IP注射で前処置されたWT(+/+)マウスにおけるレーザー誘導性傷害後7日目の脈絡膜血管新生(CNV)体積の平均を図示する。
【
図17A】実施例15に記載のように、レクチン経路特異的アッセイ条件下、ヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。これから、OMS646は、IC
50値 約1nMで、レクチンを介したMAC沈着を阻害することが証明される。
【
図17B】実施例15に記載のように、古典経路特異的アッセイ条件下、ヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。これから、OMS646は、古典経路を介したMAC沈着を阻害しないことが証明される。
【
図17C】実施例15に記載のように、第二経路特異的アッセイ条件下、ヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。これから、OMS646は、第二経路を介したMAC沈着を阻害しないことが証明される。
【
図18】実施例15に記載のように、マウスにおけるヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)の薬物動態学的(PK)プロファイルを図示する。示された用量で投与した後の時間の関数としてのOMS646濃度(n=3動物/群の平均)を示した。
【
図19A】実施例15に記載のように、静脈内投与後のマウスにおける全身レクチン経路活性の低下として測定した、ヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)の薬力学的(PD)応答を図示する。
【
図19B】実施例15に記載のように、皮下投与後のマウスにおける全身レクチン経路活性の低下として測定した、ヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)の薬力学的(PD)応答を図示する。
【
図20】実施例16に記載のように、2mg/kg、5mg/kg、もしくは20mg/kgのヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)のSC投与で前処置したか、または抗VEGF抗体のIP投与で前処置したWT(+/+)マウスにおける傷害後7日目のレーザー誘導性病変部面積のパーセントとして脈絡膜血管新生(CNV)面積を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
配列表の説明
SEQ ID NO:1 ヒトMAp19 cDNA
SEQ ID NO:2 ヒトMAp19タンパク質(リーダーあり)
SEQ ID NO:3 ヒトMAp19タンパク質(成熟)
SEQ ID NO:4 ヒトMASP-2 cDNA
SEQ ID NO:5 ヒトMASP-2タンパク質(リーダーあり)
SEQ ID NO:6 ヒトMASP-2タンパク質(成熟)
SEQ ID NO:7 ヒトMASP-2 gDNA(エキソン1-6)
抗原:(MASP-2成熟タンパク質を基準にした)
SEQ ID NO:8 CUBI配列(aa1~121)
SEQ ID NO:9 CUBEGF配列(aa1~166)
SEQ ID NO:10 CUBEGFCUBII(aa1~293)
SEQ ID NO:11 EGF領域(aa122~166)
SEQ ID NO:12 セリンプロテアーゼドメイン(aa429~671)
SEQ ID NO:13 セリンプロテアーゼドメイン不活性(Ser618からAlaへの変異を有するaa610~625)
詳細な説明
ペプチド阻害因子:
SEQ ID NO:20 MBL完全長cDNA
SEQ ID NO:21 MBL完全長タンパク質
SEQ ID NO:22 OGK-X-GP(コンセンサス結合)
発現阻害因子:
SEQ ID NO:30 CUBI-EGFドメインのcDNA(SEQ ID NO:4のヌクレオチド22~680)
SEQ ID NO:31
MASP-2翻訳開始点を含むSEQ ID NO:4のヌクレオチド12~45(センス)
SEQ ID NO:32
MASP-2 MBL結合部位を含む領域をコードするSEQ ID NO:4のヌクレオチド361~396(センス)
SEQ ID NO:33
CUBIIドメインを含む領域をコードするSEQ ID NO:4のヌクレオチド610~642
クローニングプライマー:
SEQ ID NO:38~47は、ヒト化抗体用のクローニングプライマーである。
SEQ ID NO:48は、9aaペプチド結合である。
発現ベクター:
SEQ ID NO:49は、MASP-2ミニ遺伝子インサートである。
SEQ ID NO:50は、マウスMASP-2 cDNAである。
SEQ ID NO:51は、マウスMASP-2タンパク質(w/リーダー)である。
SEQ ID NO:52は、成熟マウスMASP-2タンパク質である。
SEQ ID NO:53は、ラットMASP-2 cDNAである。
SEQ ID NO:54は、ラットMASP-2タンパク質(w/リーダー)である。
SEQ ID NO:55は、成熟ラットMASP-2タンパク質である。
SEQ ID NO:56~59は、ヒトMASP-2Aを生成するために用いられるヒトMASP-2の部位特異的変異誘発用オリゴヌクレオチドである。
SEQ ID NO:60~63は、マウスMASP-2Aを生成するために用いられるマウスMASP-2の部位特異的変異誘発用オリゴヌクレオチドである。
SEQ ID NO:64~65は、ラットMASP-2Aを生成するために用いられるラットMASP-2の部位特異的変異誘発用オリゴヌクレオチドである。
SEQ ID NO:66 17D20_dc35VH21N11VL(OMS646)重鎖可変領域(VH)(シグナルペプチドなし)をコードするDNA
SEQ ID NO:67 17D20_dc35VH21N11VL(OMS646)重鎖可変領域(VH)ポリペプチド
SEQ ID NO:68 17N16mc重鎖可変領域(VH)ポリペプチド
SEQ ID NO:69 17D20_dc21N11VL(OMS644)軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド
SEQ ID NO:70 17N16_dc17N9(OMS641)軽鎖可変領域(VL)(シグナルペプチドなし)をコードするDNA
SEQ ID NO:71 17N16_dc17N9(OMS641)軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド
【0035】
詳細な説明
本発明は、古典経路を完全な状態のままにしておきながら、レクチン媒介MASP-2経路を阻害することが可能だという本発明者らによる驚くべき発見に基づく。本発明はまた、免疫系の古典的(C1q依存性)経路成分を完全な状態のままにしておきながら、レクチン媒介補体経路活性化に関連した細胞障害を阻害するための治療標的としてのMASP-2の使用について説明する。
【0036】
I.定義
本明細書において特に定義がない限り、本明細書において用いられる全ての用語は、本発明の当業者によって理解されるものと同じ意味を有する。本発明を説明するために明細書および特許請求の範囲において用いられる用語をわかりやすくするために、以下の定義が提供される。
【0037】
本明細書で使用する「MASP-2依存性補体活性化」という用語は、レクチン経路C3コンバターゼC4b2aの形成とそれに続く、C3切断産物C3bの蓄積時のC5コンバターゼC4b2a(C3b)nの形成につながる、生理学的条件下(すなわち、Ca++の存在下)で起こるレクチン経路のMASP-2依存性活性化を含み、主に、オプソニン化を引き起こすことが判明されている。
【0038】
本明細書で使用する「第二経路」という用語は、例えば、真菌細胞壁および酵母細胞壁に由来するザイモサン、グラム陰性細菌の外膜に由来するリポ多糖(LPS)、およびウサギ赤血球、ならびに多くの純粋な多糖、ウサギ赤血球、ウイルス、細菌、動物腫瘍細胞、寄生生物、および損傷細胞によって誘発され、従来、補体因子C3からC3bの自発的タンパク質分解生成から生じると考えられてきた補体活性化を指す。
【0039】
本明細書で使用する「レクチン経路」という用語は、マンナン結合レクチン(MBL)、CL-11、およびフィコリン(H-フィコリン、M-フィコリン、またはL-フィコリン)を含む血清炭水化物結合タンパク質および非血清炭水化物結合タンパク質の特異的結合を介して起こる補体活性化を指す。
【0040】
本明細書で使用する「古典経路」という用語は、外来粒子に結合している抗体によって誘発され、認識分子C1qの結合を必要とする補体活性化を指す。
【0041】
本明細書で使用する「MASP-2阻害物質」という用語は、MASP-2に結合するかまたはMASP-2と直接相互作用して、MASP-2依存性補体活性化を効果的に阻害する任意の物質を指し、抗MASP-2抗体およびそのMASP-2結合断片、天然ペプチドおよび合成ペプチド、低分子、可溶性MASP-2受容体、発現阻害因子、ならびに単離された天然阻害因子を含み、レクチン経路において別の認識分子(例えば、MBL、H-フィコリン、M-フィコリン、またはL-フィコリン)との結合においてMASP-2と競合するペプチドも包含するが、このような他の認識分子に結合する抗体を包含しない。本発明の方法において有用なMASP-2阻害物質は、MASP-2依存性補体活性化を20%超、例えば、50%超、例えば、90%超低下させ得る。一態様において、MASP-2阻害物質は、MASP-2依存性補体活性化を90%超低下させる(すなわち、MASP-2補体活性化を10%またはそれ未満しかもたらさない)。
【0042】
本明細書で使用する「血管形成」という用語は、既存の血管から新しい微小血管が成長することを指す。
【0043】
本明細書で使用する「新血管形成」という用語は、血管形成が疾患、または生理的でない状態もしくは病理学的な状態に関与する場合の血管形成を指す。
【0044】
本明細書で使用する「抗体」という用語は、標的ポリペプチド、例えば、MASP-2ポリペプチドまたはその一部に特異的に結合する、任意の抗体産生哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、およびヒトを含む霊長類)に由来するかあるいはハイブリドーマ、ファージセレクション、組換え発現、またはトランスジェニック動物(または抗体もしくは抗体断片を産生する他の方法)に由来する抗体およびその抗体断片を包含する。「抗体」という用語は、抗体源、または抗体が作製される手法の点で(例えば、ハイブリドーマ、ファージセレクション、組換え発現、トランスジェニック動物、ペプチド合成などによって)限定されることが意図されない。例示的な抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、および組換え抗体;汎(pan)特異的、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、三重特異性抗体);ヒト化抗体:マウス抗体;キメラ、マウス-ヒト、マウス-霊長類、霊長類-ヒトモノクローナル抗体;および抗イディオタイプ抗体を含み、任意のインタクトな抗体またはその断片でもよい。本明細書で使用する「抗体」という用語は、インタクトなポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体だけでなく、その断片(例えば、dAb、Fab、Fab'、F(ab') 2、Fv)、単鎖(ScFv)、その合成変種、天然変種、抗体部分と、必要とされる特異性の抗原結合断片を含む融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、および必要とされる特異性の抗原結合部位または断片(エピトープ認識部位)を含む免疫グロブリン分子の他の任意の改変された構成も包含する。
【0045】
「モノクローナル抗体」は均質な抗体集団を指し、モノクローナル抗体は、エピトープの選択的結合に関与するアミノ酸(天然および非天然)からなる。モノクローナル抗体は標的抗原に対して高度に特異的である。「モノクローナル抗体」という用語は、インタクトなモノクローナル抗体および完全長モノクローナル抗体だけでなく、その断片(例えば、Fab、Fab'、F(ab') 2、Fv)、単鎖(ScFv)、その変種、抗原結合部分を含む融合タンパク質、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、ならびに必要とされる特異性およびエピトープに結合する能力の抗原結合断片(エピトープ認識部位)を含む免疫グロブリン分子の他の任意の改変された構成も包含する。この用語は、抗体源、または抗体が作製される手法の点で(例えば、ハイブリドーマ、ファージセレクション、組換え発現、トランスジェニック動物などによって)限定されることが意図されない。この用語は、「抗体」の定義で前述された免疫グロブリン全体および断片などを含む。
【0046】
本明細書で使用する「抗体断片」という用語は、完全長抗体、例えば、抗MASP-2抗体に由来または関連する、一般的には、その抗原結合領域または可変領域を含む、部分を指す。抗体断片の例示的な例には、Fab、Fab'、F(ab) 2、F(ab') 2、およびFv断片、scFv断片、ダイアボディ、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0047】
本明細書で使用する「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインまたはVLドメインを含み、これらのドメインは1本のポリペプチド鎖に存在する。一般的に、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、このためにscFvは抗原結合のために望ましい構造を形成することができる。
【0048】
本明細書で使用する「キメラ抗体」は、非ヒト種(例えば、げっ歯類)抗体に由来する可変ドメインおよび相補性決定領域を含有するが、抗体分子の残りがヒト抗体に由来する、組換えタンパク質である。
【0049】
本明細書で使用する「ヒト化抗体」は、ヒト抗体フレームワークに移植された、非ヒト免疫グロブリンに由来する特異的な相補性決定領域に一致する最小配列を含むキメラ抗体である。ヒト化抗体は、典型的には、抗体相補性決定領域のみが非ヒトに由来する組換えタンパク質である。
【0050】
本明細書で使用する「マンナン結合レクチン」(「MBL」)という用語は、マンナン結合タンパク質(「MBP」)と同意義である。
【0051】
本明細書で使用する「膜侵襲複合体」(「MAC」)は、膜に入り込み、膜を破壊する、5種類の終末補体成分の複合体(C5bとC6、C7、C8、およびC9との組み合わせ)(C5b-9とも呼ばれる)を指す。
【0052】
本明細書で使用する「対象」は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウサギ、ブタ、およびげっ歯類を含むが、それに限定されるわけではない、全ての哺乳動物を含む。
【0053】
本明細書で使用するアミノ酸残基の略語は以下の通りである:アラニン(Ala;A)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、アルギニン(Arg;R)、システイン(Cys;C)、グルタミン酸(Glu;E)、グルタミン(Gln;Q)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L)、リジン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)、およびバリン(Val;V)。
【0054】
最も広い意味では、天然アミノ酸は、それぞれのアミノ酸の側鎖の化学特性に基づいてグループに分けることができる。「疎水性」アミノ酸とは、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Val、Ala、CysまたはProを意味する。「親水性」アミノ酸とは、Gly、Asn、Gln、Ser、Thr、Asp、Glu、Lys、Arg、またはHisを意味する。このアミノ酸グループは、以下のように、さらにサブグループに分けることができる。「無電荷親水性」アミノ酸とは、Ser、Thr、Asn、またはGlnを意味する。「酸性」アミノ酸とはGluまたはAspを意味する。「塩基性」アミノ酸とはLys、Arg、またはHisを意味する。
【0055】
本明細書で使用する「保存的アミノ酸置換」という用語は、以下のそれぞれのグループ内のアミノ酸間の置換によって例示される:(1)グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン、(2)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(3)セリンおよびスレオニン、(4)アスパラギン酸およびグルタミン酸、(5)グルタミンおよびアスパラギン、ならびに(6)リジン、アルギニンおよびヒスチジン。
【0056】
本明細書で使用する「オリゴヌクレオチド」という用語は、リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)またはその模倣物のオリゴマーまたはポリマーを指す。この用語は、天然のヌクレオチド、糖、およびヌクレオシド間(バックボーン)共有結合からなるオリゴヌクレオ塩基(oligonucleobase)、ならびに非天然改変を有するオリゴヌクレオチドもカバーする。
【0057】
本明細書で使用する「エピトープ」は、抗体が結合する、タンパク質(例えば、ヒトMASP-2タンパク質)上の部位を指す。「重複エピトープ」は、直鎖エピトープおよび非直鎖エピトープを含む、少なくとも1個(例えば、2個、3個、4個、5個、または6個)の共通アミノ酸残基を含む。
【0058】
本明細書で使用する「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は同義に用いられ、長さにも翻訳後修飾に関係なく任意のペプチド結合アミノ酸鎖を意味する。本明細書に記載のMASP-2タンパク質は野生型タンパク質を含有してもよく、野生型タンパク質でもよく、50個以下(例えば、1個以下、2個以下、3個以下、4個以下、5個以下、6個以下、7個以下、8個以下、9個以下、10個以下、12個以下、15個以下、20個以下、25個以下、30個以下、35個以下、40個以下、または50個以下)の保存的アミノ酸置換を有する変種でもよい。保存的置換は、典型的には、以下のグループ内の置換を含む;グリシンおよびアラニン;バリン、イソロイシン、およびロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン、およびスレオニン;リジン、ヒスチジン、およびアルギニン;ならびにフェニルアラニンおよびチロシン。
【0059】
一部の態様において、ヒトMASP-2タンパク質は、SEQ ID NO:5に示されたアミノ酸配列を有するヒトMASP-2タンパク質と70(例えば、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100)%同一、または70(例えば、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100)%超同一のアミノ酸配列を有してもよい。
【0060】
一部の態様において、ペプチド断片は、長さが少なくとも6個(例えば、少なくとも7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個、100個、110個、120個、130個、140個、150個、160個、170個、180個、190個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、500個、もしくは600個、またはそれ以上の)アミノ酸残基(例えば、SEQ ID NO:5の少なくとも6個の連続したアミノ酸残基)でもよい。一部の態様において、ヒトMASP-2タンパク質の抗原性ペプチド断片は、長さが500個未満(例えば、450個未満、400個未満、350個未満、325個未満、300個未満、275個未満、250個未満、225個未満、200個未満、190個未満、180個未満、170個未満、160個未満、150個未満、140個未満、130個未満、120個未満、110個未満、100個未満、95個未満、90個未満、85個未満、80個未満、75個未満、70個未満、65個未満、60個未満、55個未満、50個未満、49個未満、48個未満、47個未満、46個未満、45個未満、44個未満、43個未満、42個未満、41個未満、40個未満、39個未満、38個未満、37個未満、36個未満、35個未満、34個未満、33個未満、32個未満、31個未満、30個未満、29個未満、28個未満、27個未満、26個未満、25個未満、24個未満、23個未満、22個未満、21個未満、20個未満、19個未満、18個未満、17個未満、16個未満、15個未満、14個未満、13個未満、12個未満、11個未満、10個未満、9個未満、8個未満、7個未満、または6個未満)のアミノ酸残基(例えば、SEQ ID NO:5のいずれか1つにある500個未満の連続したアミノ酸残基)である。
【0061】
パーセント(%)アミノ酸配列同一性は、最大のパーセント配列同一性を達成するように配列をアラインメントし、必要であればギャップを導入した後の、参照配列中のアミノ酸と同一の候補配列中のアミノ酸のパーセントと定義される。パーセント配列同一性を求める目的で、当技術分野における技術の範囲内の様々な手法で、例えば、公的利用可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを用いて、アラインメントを行うことができる。比較されている配列の完全長にわたって最大アラインメントを行うために必要な、任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータは公知の方法によって決定することができる。
【0062】
II.本発明の概略
レクチン(MBL、M-フィコリン、H-フィコリン、L-フィコリン、およびCL-11)は先天的補体系を誘発する特異的認識分子であり、この系は、レクチン開始経路、およびレクチンによって開始される終末補体エフェクター分子活性化を増幅する関連する終末経路増幅ループを含む。C1qは後天的補体系を誘発する特異的認識分子であり、この系は、古典的開始経路、およびC1qによって開始される終末補体エフェクター分子活性化を増幅する関連する終末経路増幅ループを含む。本発明者らは、これらの2つの主要な補体活性化系を、それぞれ、レクチン依存性補体系およびC1q依存性補体系と呼ぶ。
【0063】
補体系は、免疫防御における必須の役割に加えて、多くの臨床状態における組織損傷の一因となる。従って、これらの副作用を阻止するために治療的に有効な補体阻害因子を開発する差し迫った必要性がある。古典経路を完全な状態のままにしておきながら、レクチン媒介MASP-2経路を阻害することが可能だという認識の下で、補体の免疫防御能力を完全に遮断することなく、ある特定の病態の原因となる補体活性化系のみを特異的に阻害することが極めて望ましいことに気がついた。例えば、補体活性化が主にレクチン依存性補体系によって媒介される疾患状態では、この系だけを特異的に阻害することが有利であると考えられる。このために、免疫複合体処理を取り扱い、かつ感染症に対する宿主防御を助けるためにC1q依存性補体活性化系は完全な状態のままになると考えられる。
【0064】
レクチン依存性補体系を特異的に阻害する治療剤の開発において対象となる好ましいタンパク質成分はMASP-2である。レクチン依存性補体系の公知の全てのタンパク質成分(MBL、H-フィコリン、M-フィコリン、L-フィコリン、MASP-2、C2-C9、B因子、D因子、およびプロペルジン)のうち、レクチン依存性補体系に特有にあり、かつ系が機能するために必要とされるものはMASP-2しかない。レクチン(MBL、H-フィコリン、M-フィコリン、L-フィコリン、およびCL-11)もレクチン依存性補体系において特有の成分である。しかしながら、これらのレクチン成分のいずれか1つが消失しても、レクチン重複性のために系の活性化は必ずしも阻害されるとは限らないと考えられる。レクチン依存性補体活性化系の阻害を保証するためには5種類全てのレクチンを阻害することが必要であると考えられる。さらに、MBLおよびフィコリンは補体とは無関係にオプソニン活性も有することが公知であるので、レクチン機能を阻害すると、感染症に対する、この有益な宿主防御機構が失われてしまうと考えられる。対照的に、MASP-2が阻害標的である場合には、この補体非依存的レクチンオプソニン活性は完全な状態のままであると考えられる。レクチン依存性補体活性化系を阻害する治療標的としてのMASP-2の付加的な利益は、補体タンパク質の最も低い血漿中濃度の中にMASP-2血漿中濃度(約500ng/ml)があることである。従って、完全な阻害を得るためには、それに応じた低い濃度の高親和性MASP-2阻害因子で十分である可能性がある(Moller-Kristensen, M., et al., J. Immunol Methods 282:159-167, 2003)。
【0065】
本明細書に記載のように、MASP-2阻害因子、例えば、ヒトMASP-2抗体(OMS646)は、加齢黄斑変性(AMD)のマウスモデルにおいて、マウスに全身送達された時に、少なくとも抗VEGF抗体と同じくらい脈絡膜血管新生(CNV)を低減するために有効なことが予期せずに確かめられた。従って、MASP-2阻害物質、例えば、MASP-2阻害抗体は、血管形成依存性癌、例えば、固形腫瘍、血液由来腫瘍、ハイリスクカルチノイド腫瘍、および腫瘍転移からなる群より選択される血管形成依存性癌の阻害において使用するための抗血管形成剤として有効なことも予想される。MASP-2阻害物質、例えば、MASP-2阻害抗体は、血管形成依存性良性腫瘍、例えば、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、カルチノイド腫瘍、および化膿性肉芽腫からなる群より選択される血管形成依存性良性腫瘍を阻害するための抗血管形成剤として有効なことも予想される。MASP-2阻害物質、例えば、MASP-2阻害抗体は、AMD、ならびに他の眼血管形成性疾患または眼血管形成性障害、例えば、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性(角膜)翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、およびルベオーシスにおける血管形成の阻害において使用するための抗血管形成剤として有効なことも予想される。
【0066】
III.血管形成依存性疾患および血管形成依存性状態におけるMASP-2の役割ならびにMASP-2阻害物質を用いた治療方法
血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態は、新生血管が不適切な場所(例えば、網膜色素上皮)で過剰に成長する時に、または新生血管が、漏れやすさ(leakiness)などの望ましくない特徴を有し、癌および眼の疾患などの疾患を含む時に起こる。これらの状態では新生血管は患部組織に栄養を与え、新生組織を破壊する可能性があり、癌の場合では新生血管があると腫瘍は成長し、腫瘍細胞は循環に入り、他の臓器に転移することが可能になる。過剰な血管形成は、罹患細胞が異常な量の血管新生増殖因子を産生し、それによって、天然の血管形成阻害因子の効果を打ち負かす時に起こる場合がある。
【0067】
血管形成における補体活性化の潜在的な役割は加齢黄斑変性(AMD)において示されている。AMDは、何百万人もの成人を苦しめる失明病であるが、AMDの発症につながる生化学事象、細胞事象、および/または分子事象の後遺症(sequelae)は十分に理解されていない。AMDは進行性の網膜黄斑破壊の原因となり、網膜黄斑破壊は、網膜黄斑の中と、その周囲にある、網膜の後ろにある、網膜色素上皮(RPE)と脈絡膜との間にあるドルーゼンと呼ばれる、タンパク質と脂質に富む細胞外沈着物の形成と相関付けられている。ドルーゼンは初期AMDおよび中期AMDに特有のものである。多くの患者は進行性AMDに進行し、これは、2つの形態である地図状萎縮と、血管新生AMDすなわち「ウェット型」AMDを含む。「ドライ型AMD」という用語は一般的に初期AMDおよび中期AMDならびに地図状萎縮を指す。ドルーゼンは、この疾患の初期型および中期型に存在し、かつ病的である可能性があるが、両方の進行型でも持続する(van Lookeren-Campagne et al., J. Pathol. 232:151, 2014; Ambati et al., Nat. Rev. Immunol. 13:438, 2013)。最近の研究から、炎症を介したプロセスおよび免疫を介したプロセスに関連するタンパク質がドルーゼン関連構成物の間でよく見られることが明らかになった。これらの多くの分子をコードする転写物が、網膜細胞、RPE細胞、および脈絡膜細胞において検出されている。これらのデータからまた、強力な抗原提示細胞である樹状細胞がドルーゼン発症と密接な関係があり、補体活性化が、ドルーゼン内と、RPE-脈絡膜境界面に沿って活発な重要な経路であることも証明された(Hageman, G.S., et al., Prog. Retin. Eye Res. 20:705-732, 2001); Ebrahimi and Handa, J. Lipid 2011:802059, 2011)。これらの観察から、局所炎症がAMDの早期発病における重要な因子である可能性が高いことが分かる。
【0068】
いくつかの独立した研究から、AMDと、補体因子H(CFH)遺伝子の遺伝子多型との間には強い関連性があり、このリスク対立遺伝子がホモ接合性の個体ではAMDの可能性は7.4倍増加することが分かっている(Klein, R.J. et al., Science 308:362-364, 2005; Haines et al., Science 308:362-364. 2005; Edwards et al., Science 308:263-264, 2005)。CFH遺伝子は、6つの独立した連鎖スキャン(linkage scan)によってAMDに結び付けられた領域である染色体1q31に位置付けられている(例えば、Schultz, D.W., et al., Hum. Mol. Genet. 12:3315, 2003を参照されたい)。CFHは補体系の重要な制御因子であることが知られている。細胞上および循環中にあるCFHは、C3からC3aおよびC3bへの活性化を阻害することによって、ならびに既存のC3bを不活化することによって補体活性を調節することが示されている。C5b-9の沈着が、AMD患者のブルッフ膜、毛細血管間柱(intercapillary pillar)において、およびドルーゼン内に観察されている(Klein et al., Science 308:362-364, 2005)。免疫蛍光実験から、AMDではCFH多型は脈絡膜毛細血管および脈絡膜血管に補体沈着を生じさせる可能性があることが示唆される(Klein et al., Science 308:362-364, 2005)。
【0069】
膜結合補体受容体1もドルーゼンに局在するが、RPE細胞では免疫組織化学的に検出されない。対照的に、膜補因子タンパク質である別の膜結合補体阻害因子がドルーゼン関連RPE細胞と、ドルーゼン内にある小さな球状の下部構造要素に存在する。これらの以前に同定されていなかった要素もまた、補体活性化部位に特徴的に沈着している補体成分C3タンパク質分解断片に対して強い免疫反応性を示す。これらの構造は、補体侵襲の標的である変成中のRPE細胞に由来する残留破片であると提唱されている(Johnson, L.V., et al., Exp. Eye Res. 73:887-896, 2001)。
【0070】
これらの複数の補体制御因子ならびに補体活性化産物(C3a、C5a、C3b、C5b-9)の同定および局在から、研究者らは、慢性補体活性化がドルーゼンバイオジェネシスのプロセスおよびAMDの病因において重要な役割を果たしていると結論を下している(Hageman et al., Progress Retinal Eye Res. 20:705-32, 2001)。ドルーゼンにおけるC3活性化産物およびC5活性化産物の同定からは、本発明に従って理解されるように、補体が古典経路を介して活性化されるか、レクチン経路を介して活性化されるか、または代替増幅ループ(alternative amplification loop)を介して活性化されるかどうかの洞察は得られない。なぜなら、C3とC5は両方とも3つ全てに共通して見られるからである。しかしながら、2つの研究が、古典経路の活性化に必須の認識成分であるC1qに特異的な抗体を用いてドルーゼン免疫標識を探し求めた(Mullins et al., FASEB J. 14:835-846, 2000; Johnson et al., Exp. Eye Res. 70:441-449, 2000)。両研究とも、ドルーゼンにおけるC1q免疫標識は通常、観察されなかったと結論を下した。これらのC1qを用いた否定的な結果から、ドルーゼンにおける補体活性化は古典経路を介して起こらないことが示唆される。さらに、Mullins et al., 2000の研究では、免疫複合体構成物(IgG軽鎖、IgM)に対するドルーゼンの免疫標識が弱いものから変化に富むものまで報告された。このことは、古典経路が、この疾患プロセスで起こる補体活性化において大した役割を果たさないことをさらに示している。従って、レクチン経路および/または代替経路が、AMDに関連する、補体を介したドルーゼンバイオジェネシスの全てではないにしてもほとんどの原因となっている可能性が高い。
【0071】
ドルーゼンと補体活性化との間の関係は特に初期AMDおよび中期AMDならびに地図状萎縮において強い。実際に、大きな、かつ融合性のドルーゼンは地図状萎縮の重大な危険因子である(van Lookeren-Campagne et al., 同書)。しかしながら、補体活性化はドルーゼン環境に限定されない。発表された最近の2つの研究は、ヒト脈絡膜血管新生(CNV)モデルであるマウスレーザー誘導性CNVの発症における補体の役割を評価した。免疫組織学的方法を用いて、Boraおよび同僚ら(2005)は、レーザー処置後の血管新生複合体に補体活性化産物C3bおよびC5b-9(MAC)がかなり沈着することを発見した(Bora et al., J. Immunol. 174:491-7, 2005)。重要なことに、CNVは、全ての補体活性化経路において必要とされる必須成分であるC3が遺伝的に欠損しているマウス(C3-/-マウス)では発症しない。レーザー誘導性CNV後のマウスに由来する眼組織において、CNVに結び付けられた3種類の血管形成因子であるVEGF、TGF-β2、およびβ-FGFのRNAメッセージレベルが上昇した。意味があることに、補体を枯渇させると、これらの血管形成因子のRNAレベルが著しく低下した。
【0072】
ELISA法を用いて、Nozakiおよび同僚らは、レーザー誘導性CNVの経過の初期に、強力なアナフィラトキシンであるC3aおよびC5aが生成されることを証明した(Nozaki et al., Proc. Natl. Acad Sci. U.S.A. 103:2328-33, 2006)。さらに、野生型マウスにおいて、これらの2つのC3生理活性断片およびC5生理活性断片は硝子体内注射後にVEGF発現を誘導した。これらの結果と一致して、Nozakiおよび同僚らはまた、C3a受容体およびC5a受容体の遺伝子破壊によってレーザー傷害後のVEGF発現およびCNV形成が低減し、抗体を介したC3aもしくはC5aの中和またはこれらの受容体の薬理学的遮断によってもCNVが低減することも示した。以前の研究から、白血球、特に、マクロファージの動員がレーザー誘導性CNVにおいて中心的な役割を果たすことが実証されている(Sakurai et al., Invest, Opthomol. Vis. Sci. 44:3578-85, 2003; Espinosa-Heidmann, et al., Invest. Opthomol. Vis. Sci. 44:3586-92, 2003)。Nozakiおよび同僚らは2006年の論文において、C3aR(-/-)マウスおよびC5aR(-/-)マウスではレーザー傷害後の白血球動員が非常に少ないと報告している。
【0073】
レクチン経路は、CNVモデルにおいて、網膜色素上皮上にある酸化的に修飾されたリン脂質の自然抗体認識後に補体カスケードを開始するのを担っているように思われる(Joseph et al. J. Biol. Chem. 288:12753, 2013)。代替経路も、このモデルでの網膜傷害にとって重大な意味を持つが、単独では十分でない(Rohrer et al., Mol Immunol. 48:e1, 2011)。重要なことに、KunchithapauthamおよびRohrer(J. Biol. Chem. 286:23717, 2011)によって、この補体活性化は、網膜色素上皮細胞によるVEGF分泌を誘発することが証明された。VEGFは重要な血管新生メディエーターである。
【0074】
本明細書の実施例12に記載のように、MASP-2(-/-)マウスのマウス黄斑変性モデルでは、野生型対照マウスと比べてMASP-2(-/-)マウスのVEGFベースラインレベルは少なく、さらに、レーザー誘導性傷害後の野生型マウスのVEGFレベルは有意に多いが、これに対して、レーザー誘導性傷害後のMASP-2(-/-)マウスのVEGFレベルは驚くほど少ないことが確かめられた。さらに、レーザー誘導性損傷後7日目のMASP-2(-/-)マウスのCNV面積は野生型マウスと比較して約30%少ないことが確かめられた。さらに実施例14において述べたように、補体活性化のレクチン経路を特異的に遮断する抗MASP-2モノクローナル抗体で前処置したマウスでは、レーザー処置の7日後に未処置マウスと比較して統計的に有意な(p<0.01)約50%のCNV低減が観察された。これにより、MASP-2モノクローナル抗体などの阻害因子を用いたMASP-2遮断には黄斑変性処置において予防効果および/または治療効果があると証明された。さらに実施例16において述べたように、補体活性化のレクチン経路を特異的に遮断するヒトMASP-2モノクローナル抗体で前処置したマウスでは、試験された全ての用量レベルで統計的に有意なCNV低減が観察され、CNV面積の相対的な低減は20%~50%であったのに対して、VEGF抗体は、CNV面積のわずかな(約15%)相対的低減を示した。AMDマウスモデルにおいて、MASP-2抗体などのMASP-2阻害因子が全身送達された時にCNVを低減するために少なくともVEGF抗体と同じくらい効果があるという実施例16に開示した思いもよらない結果を考慮して、MASP-2阻害物質は、下記で説明するように、血管形成依存性疾患および血管形成依存性状態、例えば、眼血管形成性疾患または眼血管形成性障害、血管形成依存性癌、および血管形成依存性良性腫瘍の処置において使用するための抗血管形成剤として有効だと予想される。
【0075】
眼血管形成性疾患または眼血管形成性障害を処置するためのMASP-2阻害因子
眼血管形成性疾患または眼血管形成性障害は、視力喪失、出血、または他の眼の機能障害、例えば、AMD、またはブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性(角膜)翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、増殖性糖尿病性網膜症に続発する硝子体出血、視神経脊髄炎、およびルベオーシスからなる群より選択される眼血管形成性疾患もしくは眼血管形成性障害の一因となり得る異常または過剰な血管形成が眼に起こる眼疾患または眼障害である(例えば、Rivera et al., Neonatology 100(4):343-53, 2011; Hosseini et al., Cornea 31:322-34, 2012; Leyvraz et al., Curr Opin Oncol 162-9 (2012); Bock et al., Prog Retin Eye Res 34:89-124, 2013、およびKim et al., Am J Pathol 181(2):376-9, 2012を参照されたい)。
【0076】
実施例14および実施例16に記載のように、本願は、補体活性化のレクチン経路を特異的に阻害するMASP-2抗体の全身投与が、血管新生AMDを処置するための有効な療法となることを証明する。現在認可されている眼状態の抗血管形成療法は、VEGFを阻害する生物製剤である。現在認可されている眼疾患の抗血管形成治療剤は3種類:抗VEGFアプタマー(ペガプタニブ、Macugen(登録商標))、VEGF-Aに対して作られたモノクローナル抗体のFab断片(ラニビズマブ、Lucentis(登録商標))、ならびにVEGF-A、VEGF-B、および胎盤増殖因子に結合する融合タンパク質(アフリベルセプト、Eylea(登録商標))あり、これらは全て硝子体内注射を介して投与される。従って、硝子体内注射と必要とする、AMDならびに他の眼血管形成性疾患および眼血管形成性障害に対する現行の治療剤および出現しつつある治療剤とは異なり、MASP-2抗体処置は皮下投与された場合に有効である。
【0077】
従って、本発明の局面は、眼血管形成性疾患または眼血管形成性障害を処置するために血管形成を阻害するための方法であって、薬学的な担体の中に治療的有効量のMASP-2阻害物質を含む組成物を、血管形成の阻害を必要とする対象に投与する工程を含む、方法を提供する。一部の態様において、眼血管形成性疾患または眼血管形成性障害は、AMD、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、増殖性糖尿病性網膜症に続発する硝子体出血、視神経脊髄炎、およびルベオーシスからなる群より選択される。MASP-2阻害組成物は、例えば、ゲル、軟膏、または点眼薬の形で組成物を直接注射、灌注、または適用することによって、眼に局所投与されてもよい。または、MASP-2阻害物質は、例えば、動脈内投与、静脈内投与、筋肉内投与、吸入投与、経鼻投与、皮下投与、もしくは他の非経口投与によって対象に全身投与されてもよく、潜在的には非ペプチド物質の場合には経口投与によって対象に投与されてもよい。MASP-2阻害物質組成物は、1種類または複数種のさらなる治療剤、例えば、さらなる抗血管形成剤と組み合わされてもよい。投与は、状態が回復するまで、または管理されるまで医師によって決められたように繰り返されてもよい。
【0078】
血管形成依存性癌を処置するためのMASP-2阻害因子
血管形成が癌の発症において重要な役割を果たすということは十分に実証されている。腫瘍は、血管新生を刺激するために血管形成促進因子を産生する。血管新生は固形腫瘍が進行するための主な機構の1つであり、また、腫瘍細胞が遊走して、体循環にアクセスすることで遠方への転移を確立するのも可能にする。腫瘍血管形成のプロセスは、主に、成長している腫瘍塊が、酸素と栄養分の拡散によって維持できる最大容積を上回った場合に活性化される。血管形成の増加と腫瘍の攻撃性(aggressiveness)との間に相関関係があることが観察されている(Ferrara et al., Curr Top Microbiol Immunol 237:1-30, 1999)。血管形成は白血病および他の血液腫瘍の成長および生存において役割を果たすことも知られている(Ribatti et al., Neoplasia 15(3):231-238, 2013; Vacca et al., Br J Haematol 87:503-508, 1994)。様々な細胞タイプが血管新生に寄与するが、内皮細胞は血管形成プロセスにおける中心的なプレーヤーだと一般に認められている。
【0079】
VEGFが腫瘍血管形成において重要な役割を果たすことは十分に実証されている。VEGFは、腫瘍細胞によって分泌される血管透過性因子であると突き止められ(Mattei et al., Genomics 32:168-169, 1996)、内皮細胞の遊走および増殖を刺激することで、ならびに内皮細胞における血管形成関連遺伝子の発現を刺激することで血管形成において役割を果たすことが証明されている。例えば、ヒト結腸癌、腎臓癌、および肺癌における可溶性VEGFアイソフォーム189発現が微小血管の増加、癌転移、および予後不良と強く関連付けられている(Tokunaga et al., Br J Cancer 77:998-1002, 1998; Yuan et al., J Clin Oncol 19:432-441, 2001)。高レベルのVEGFアイソフォーム165が卵巣癌における生存率の悪さと関連付けられている(Mahner et al., BMC Cancer 10:139, 2010)。第3相臨床試験において、VEGF-Aを阻害するヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブは、卵巣癌に罹患している女性の無増悪生存期間を改善することが証明された(Perren et al., N Engl J Med 365:2484-2496, 2011)。
【0080】
癌という面に関して、研究者らは従来より腫瘍細胞のタギングおよび排除における補体の役割に焦点を合わせてきた。しかしながら、最近の研究は、この考え方に異議を唱えている。例えば、Markiewskiら(Nature Immunol vol 9:1225-1235, 2008)は、補体タンパク質C3、C4、およびC5aが免疫抑制性微小環境を促進することで腫瘍成長を助ける可能性があるという予想もしなかった発見を報告した。Markiewskiらにおいて述べられたように、腫瘍微小環境における補体C5aの生成は、CD8+T細胞を介した抗腫瘍応答を抑制することによって腫瘍成長を強化した。さらに、Markiewskiらにおいて述べられたように、C5aRアンタゴニストであるヘキサペプチドAcF(OP(D)ChaWr)は野生型マウスにおいて腫瘍成長を損なうことにパクリタキセル(タキソール)と同じくらい効果があり、それによって、癌の処置において補体阻害に治療機能があることが実証された。Gunnら(J Immunol 189:2985, 2012)に記載のように、高C5a産生の同系リンパ腫細胞を持つ野生型マウスは腫瘍進行を有意に加速し、脾臓にある骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)が増え、腫瘍、腫瘍-流入領域リンパ節、および脾臓にあるCD4+T細胞およびCD8+T細胞が全体的に減少した。対照的に、低C5a産生リンパ腫細胞を持つ担癌マウスは腫瘍量を有意に低減し、脾臓および腫瘍-流入領域リンパ節にある、インターフェロン-γを産生するCD4+T細胞およびCD8+T細胞が増加した。さらに、Corrales et al. (J Immunol 189:4674-4683, 2012)において述べられたように、非小細胞肺癌(NSCLC)患者に由来する血漿においてC5aが健常対象と比較して有意に増加することが見出された。C5aが内皮細胞走化性および血管形成を誘導することも確かめられた。ルイス肺癌モデルでは、C5a受容体アンタゴニストで処置したマウスのマウスルイス肺癌(3LL)細胞同系腫瘍はゆっくりと成長した。
【0081】
さらに、Nunez-Cruzら(Neoplasia 14:994-1004, 2012)において述べられたように、卵巣癌進行中の補体の役割を評価するために、C3に補体欠損があるマウスの系統またはC5a受容体(C5aR)に補体欠損があるマウスの系統を、上皮卵巣癌を発症するマウス系統(TgMISIIR-TAg)と交雑させた。完全または部分的にC3が欠損しているか、またはC5aRが完全に欠損しているTgMISIIR-Tagマウスは卵巣腫瘍を発症しなかったか、または野生型TgMISIIR-TAg同腹子と比較して小さく、十分に血管形成していない腫瘍を発症した。これによって、C3またはC5aRの欠損は卵巣腫瘍表現型を有意に弱めることが証明された。さらに、血管形成におけるCD31+内皮細胞機能がC3(-/-)マウスとC5aR(-/-)マウスの両方で損なわれたことが証明された。
【0082】
補体系の活性化はまた悪性腫瘍の発病にも結び付けられる場合がある。ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体とストレプトアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ技法を用いて、C5b-9補体複合体、IgG、C3、C4、S-プロテイン/ビトロネクチン、フィブロネクチン、およびマクロファージのネオアンチゲンが17の乳癌試料および6つの良性乳腺腫瘍試料において局在することが突き止められた。それぞれのTNM分類にある癌腫がある組織試料は全て腫瘍細胞の膜にC5b-9沈着物を示し、細胞残遺物上に薄い顆粒を示し、壊死領域においてびまん性沈着物(diffuse deposit)を示した(Niculescu, F., et al., Am. J. Pathol. 140:1039-1043, 1992)。さらに、Rutkowskiら(Mol Cancer Res 8:1453, 2010)において述べられたように、補体タンパク質C3、C3a、C5a、およびMACについて、腫瘍血管形成、浸潤、および遊走を含む潜在的な発がん性の役割が述べられている。補体活性化のレクチン経路は健常対象と比較した場合に結腸直腸癌患者の血清において有意に上昇することが見出され(Ytting et al., 2004, Scand J. Gastroenterol 39:674)、高レベルのMASP-2活性は結腸癌再発と生存率の悪さを予測する独立した予後バイオマーカーであると報告されている(Ytting et al., Clin Cancer Res 11:1441, 2005)。
【0083】
血清MBLおよび/またはMASP-2が、急性リンパ芽球性リンパ腫(ALL)、非ホジキンリンパ腫、CNS腫瘍、およびCNS外の固形腫瘍を含む、ある特定の小児癌において上昇することも確かめられている(Fisch et al., 2011, Swiss Med Wkly 141:w13191)。MASP-2が食道扁平上皮癌(ESCC)および異形成(前癌性)組織試料において過剰発現することも確かめられている(Verma et al., Int J Cancer 118:2930, 2006)。
【0084】
上述の研究に加えて、非常に多くの研究からMBL多型と癌の関連性が報告されている。例えば、Swierzko et al., Mol Immunol 55:16, 2013に概要が述べられているように、MBL遺伝子多型とMBL2遺伝子多型の関連性が、胃癌(Baccarelli et al, International J Cancer 119:1970-1975, 2006; Scudiero et al., Clin Chem 52:1625-1626, 2006; Wang et al., Digestive Diseases and Sciences 53:2904-2908, 2008)、肝臓癌(Eurich et al., Liver International 31:1006-1012, 2011);膵臓癌(Rong et al., BMC Gastroenterology 10:68, 2010)、結腸/結腸直腸癌(Ytting et al., Scan J Gastroenterology 39:670-674, 2004; Ytting et al., Scan J Gastroenterology 73:122-127, 2011; Zanetti et al.,Cancer Res 72:1467-1677, 2012)、卵巣癌(Swierzko et al., Immunotherapy 56:959-971, 2007); Nevadunsky et al., European J of Obstetrics and Gynecology and Reproductive Biology 163:216-218, 2012);乳癌(Bernig et al., Carcinogenesis 28:828-836、2007);肺癌(Pine et al., Journal of NCI 99:1401-1409, 2007; Olivo-Marston et al., Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention 18:3375-3383, 2009);および急性リンパ芽球性リンパ腫(Schmiegelow et al., Blood 100:3757-3760, 2002)について報告されている。
【0085】
以下の表1に示したように、補体成分がヒト癌患者生物体液(biofluid)においてアップレギュレートされることも確かめられている。
【0086】
(表1)ヒト癌患者生物体液においてアップレギュレートされる補体成分
【0087】
さらに、補体活性化は化学療法または放射線療法の結果である場合があり、従って、補体活性化の阻害は、医原性炎症を低減するための、悪性腫瘍の処置における補助手段として有用であろう。化学療法および放射線療法が外科手術の前に行われた場合には、C5b-9沈着物は濃くなり、拡大した。良性病変部を含む試料には全てC5b-9沈着物は存在しなかった。S-プロテイン/ビトロネクチンが結合組織マトリックス中の線維性沈着物として、腫瘍細胞周囲のびまん性沈着物として存在し、フィブロネクチンよりは濃くなく、拡大していなかった。IgG、C3、およびC4沈着物は癌腫試料にしか存在しなかった。C5b-9沈着物の存在は、乳癌において補体が活性化されることと、その後に、補体活性化には病気を起こす影響があることを示している(Niculescu, et al., Am. J. Pathol. 140:1039-1043, 1992)。
【0088】
補体活性化のレクチン経路を特異的に阻害するMASP-2抗体の全身投与が、少なくとも抗VEGF抗体と同じくらい血管新生を阻害するという実施例16に記載のデータを考慮すると、MASP-2阻害物質の全身送達が腫瘍血管形成の阻害において有効であり、それによって、血管形成依存性癌に罹患している対象における腫瘍成長および/または転移が低減すると予想される。
【0089】
血管形成依存性癌には、上皮由来もしくはニューロン由来の癌、あるいは癌腫または固形腫瘍または肉腫または液体腫瘍(liquid tumor)、例えば、白血病もしくはリンパ腫が含まれる。血管新生抑制化合物(例えば、VEGFアンタゴニスト)で処置されることが既に知られているか、またはこれで処置される方法が開発途中の任意の癌が本発明の方法の範囲内に含まれる。これに関連する好ましい癌には、結腸直腸癌、乳癌(転移性乳癌、炎症性乳癌を含む)、肺癌、腎臓癌、肝臓癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、および胃癌、ならびに神経膠腫、消化管間質腫瘍、リンパ腫、黒色腫、およびカルチノイド腫瘍が含まれる(NCI臨床試験データベース:www_cancer_gov_clinicaltrials/searchで見つかる。2014年3月25日にアクセスした)。これらの癌の多くは、VEGFとその受容体との結合を遮断し、腫瘍血管形成を阻害するヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブ(アバスチン(登録商標))による処置に応答することが示されている(例えば、Amit et al., PLoS One 8(1):e51780 (2013)。
【0090】
前述に従って、本発明の別の局面では、血管形成依存性癌に罹患している対象において腫瘍血管形成および/または腫瘍転移を阻害するための方法が提供される。この方法は、腫瘍血管形成および/または腫瘍転移を阻害するために有効な量のMASP-2阻害因子を含む組成物を、血管形成依存性癌に罹患している対象に投与する工程を含む。一部の態様において、対象は、結腸直腸癌、乳癌、肺癌、腎臓癌、肝臓癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、および胃癌、ならびに神経膠腫、消化管間質腫瘍、リンパ腫、黒色腫、およびカルチノイド腫瘍からなる群より選択される血管形成依存性癌に罹患している。一部の態様において、血管形成依存性癌は、抗VEGF剤、例えば、抗VEGF抗体アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ、Genentech, CA)による処置によって利益を得ると予想される癌タイプ、例えば、例えば、肝臓に転移する進行癌、黒色腫、卵巣癌、神経芽細胞腫、膵臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、前立腺癌、血管肉腫、転移性のまたは切除不能な血管肉腫、再発性卵巣性索間質性腫瘍、食道癌、胃癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、再発性または転移性の頭頚部癌、腫瘍性髄膜炎、子宮頚癌、子宮癌、進行性腹膜癌腫症(advanced peritoneal carcinomatosis)、神経膠肉腫、神経内分泌癌、頭蓋外ユーイング肉腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、頭蓋内髄膜腫、進行性カポジ肉腫、中皮腫、胆道癌、転移性カルチノイド腫瘍、および進行性尿路癌を含む、血管新生抑制化合物(例えば、VEGFアンタゴニスト)で処置されることが既に知られているか、またはこれで処置される方法が開発途中の任意の癌である。これに関連する好ましい癌には、結腸直腸癌、乳癌(転移性乳癌、炎症性乳癌を含む)、肺癌、腎臓癌、肝臓癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、および胃癌、ならびに神経膠腫、消化管間質腫瘍、リンパ腫、黒色腫、およびカルチノイド腫瘍が含まれる。
【0091】
MASP-2阻害組成物は腫瘍領域に局所投与されてもよく、例えば、外科手術中または局所注射中に、直接、または離れた場所から、例えば、カテーテルによって組成物を局所適用することによって腫瘍領域に局所投与されてもよい。または、MASP-2阻害物質は対象に全身投与されてもよく、例えば、動脈内投与、静脈内投与、筋肉内投与、吸入投与、経鼻投与、皮下投与、もしくは他の非経口投与によって、または潜在的には非ペプチド物質の場合は経口投与によって全身投与されてもよい。MASP-2阻害物質組成物は、1種類または複数種のさらなる治療剤、例えば、さらなる抗血管形成剤および/またはさらなる化学療法剤と組み合わされてもよい。投与は、状態が回復するまで、または管理されるまで医師によって決定されるように繰り返されてもよい。
【0092】
OMS646がマウスに全身送達された時に、試験した全ての用量レベルにおいて、少なくとも抗VEGF抗体と同じくらいCNVを低減するために有効なことを証明した本研究のデータを考慮すると、MASP-2阻害物質、例えば、OMS646は、血管形成依存性状態、例えば、骨髄線維症および遺伝性出血性末梢血管拡張症の阻害において使用するための抗血管形成剤として有効なことも予想される。
【0093】
IV.MASP-2阻害物質
様々な局面において、本発明は、MASP-2阻害物質を、血管形成の副作用の阻害を必要とする対象に投与することによって血管形成の副作用を阻害する方法を提供する。MASP-2阻害物質は、生きている対象においてMASP-2依存性補体活性化を阻害するために有効な量で投与される。本発明のこの局面の実施において、代表的なMASP-2阻害物質には、MASP-2の生物学的活性を阻害し、それによって、MASP-2がレクチン補体経路を活性化しないようにする分子(例えば、低分子阻害因子、抗MASP-2抗体、またはMASP-2と相互作用する、もしくはタンパク質間相互作用を妨害する遮断ペプチド)、ならびにMASP-2発現を減少させ、それによって、MASP-2がレクチン補体経路を活性化しないようにする分子(例えば、MASP-2アンチセンス核酸分子、MASP-2特異的RNAi分子、およびMASP-2リボザイム)が含まれる。MASP-2阻害物質は一次療法として単独で用いられてもよく、他の医学的処置の治療利益を向上させる補助療法として他の治療剤と併用されてもよい。
【0094】
MASP-2依存性補体活性化の阻害は、本発明の方法に従うMASP-2阻害物質の投与の結果として生じた補体系成分の以下の変化:MASP-2依存性補体活性化系産物C4b、C3a、C5a、および/もしくはC5b-9(MAC)の生成もしくは産生の阻害(例えば、実施例2に記載のように測定される)、C4切断およびC4b沈着の低減(例えば、実施例2に記載のように測定される)、またはC3切断およびC3b沈着の低減(例えば、実施例2に記載のように測定される)の少なくとも1つを特徴とする。
【0095】
本発明によれば、血管形成の阻害において有効であり、かつ検出可能な抗血管形成活性を示す、および/または新血管形成の減少を誘導するMASP-2阻害物質が用いられる。本発明の文脈の中で、抗血管形成活性は、以下:新血管形成の低減もしくは減少、血管の正常化、および/または発病領域における血管数の低減の少なくとも1つまたは複数を含んでもよい。
【0096】
新血管形成およびMASP-2阻害物質などの抗血管形成剤の評価は、当業者に公知の任意の技法を用いて検出することができる。例えば、新血管形成および抗血管形成剤の評価は、(本明細書中の実施例12、実施例14、および実施例16に記載のように)動物ではCNVのレーザー誘導性傷害モデルにおいて評価されてもよく、インサイチューでは患者または腫瘍において、非侵襲的技法、例えば、PET(ポジトロン放出断層撮影法)、MRI(磁気共鳴画像法)、DCE-MRI(ダイナミック造影、MRI)またはCT(コンピュータ断層撮影法)画像法によって評価されてもよい。これらの技法は、腫瘍における脈管構造の漏出増加に基づいて腫瘍量をモニタリングするために用いられる場合がある。MRIまたはPETを用いると、例えば、α5β3-インテグリン、血漿VEGF、またはbFGFなどの血管形成マーカーの存在を追跡することができる。
【0097】
または、新血管形成は、血管形成依存性状態に罹患している患者の発病領域から採取した腫瘍生検材料または切片と、その後の、腫瘍生検材料または切片の活性を評価し、その活性と、健常対象に由来する正常内皮細胞、または患者に由来するが、体内の別の場所に隔離されている内皮細胞の活性を比較するための内皮細胞に対する免疫組織化学的分析を用いて評価される場合がある。このような免疫組織化学的分析は、微小血管密度を評価するために内皮細胞共通の(pan-endothelial cell)抗体、例えば、抗CD31および抗CD34を用いて行われてもよい。組織切片は、組織内にある腫瘍内皮細胞と腫瘍増殖細胞との比を探索するために内皮細胞マーカーと増殖マーカーを組み合わせて用いて染色することができる。内皮マーカーの例はCD31およびCD34である。増殖マーカーの一例は、ある特定の細胞集団の増殖画分を確かめるための優れたマーカーであるKi67である。Ki-67陽性腫瘍細胞の画分(Ki-67標識指標)は癌の臨床経過と相関付けられることが多い。微小血管密度(MVD)が、例えば、抗CD31で染色された腫瘍切片において、MVDを定量するために染色強度を用いて評価される場合がある。MVDは、好ましくは、腫瘍切片1枚あたり4~5枚の代表的な画像にある陽染された管腔構造を計数することによって定量される。腫瘍切片1枚あたり少なくとも4~5枚の代表的な画像において評価されたMVDの減少、好ましくは、統計的に有意な減少は、好ましくは、投与された分子が抗血管形成活性を有するか、または新血管形成の減少を誘導できることを示しているとみなされる。
【0098】
新血管形成はまた、細胞、好ましくは、腫瘍、健常対象、または内皮細胞株に由来する内皮細胞を用いて評価される場合がある。腫瘍に由来する内皮細胞は好ましくは腫瘍内皮と呼ばれる。腫瘍内皮細胞は、内皮マーカーとしてCD31を用いて腫瘍組織のFACS(蛍光標示式細胞分取(Fluoresence Activated Cell Sorting))によって単離される場合がある。これは、van Beijnum et al., Nat Protoc. 3(6):1085-91, 2008に記載のように行うことができる。インビトロで新血管形成を評価するための好ましい内皮細胞はHUVECおよびRF24である。インビトロでの新血管形成の評価は、内皮細胞の増殖活性を評価する場合はMTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル-)-2H-テトラゾリウム)アッセイを用いて行われる場合がある。または、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)、クリスタルバイオレット、およびWST-1(水溶性テトラゾリウム)などの当業者に公知の他の生存アッセイが用いられる場合がある。
【0099】
さらに、スフェロイド出芽アッセイ(spheroid sprouting assay)およびマトリゲル管形成アッセイ(matrigel tube formation assay)などの他のタイプの血管形成活性アッセイを使用することができる。マトリゲル管形成アッセイでは、細胞、特に、内皮細胞が合成の半天然ゲルマトリックス(例えば、BD Biosciencesのマトリゲル、またはコラーゲン-ゲル、または場合によってはフィブリンゲル)上に播種される。両アッセイとも、内皮細胞、好ましくはHUVECが用いられる。一定期間の後に、細胞培養条件に応じて、細胞は管様構造を形成し始める。管様構造の形成は新生血管の生成に向けた第一段階とみなされる。読み取りパラメータは単位面積あたりの血管の節(vessel-knot)の数である。スフェロイド出芽アッセイの場合、細胞スフェロイド(例えば、内皮細胞)がゲル(例えば、マトリゲルおよびコラーゲンゲル)上に置かれる。一定期間の後に、出芽形成を観察することができる。出芽の程度は細胞の血管形成能を評価するための基準とみなされる。読み取りパラメータはスフェロイド1つあたりの出芽数である。一定期間にわたって、処理された細胞においてスフェロイド1つあたりの出芽数が、未処理細胞でのスフェロイド1つあたりの出芽数と比較することによって低減または減少した場合に、抗血管形成活性が存在する可能性がある。減少または低減は、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の減少でもよい。腫瘍組織における抗血管形成活性はまた、血管の正常化が視覚化された場合に、および/または発病領域における血管数が減少した場合にも存在してよい。
【0100】
好ましい態様では、処理開始時の血管数と比較することによって、発病領域における血管数が減少したと見出されたらすぐに、検出可能な抗血管形成活性がある。減少は、発病領域における血管数の検出可能な減少でもよく、発病領域における血管の5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%の減少でもよい。発病領域とは、腫瘍領域の近くにある周囲組織を含む腫瘍領域である。これに関連して、近いとは、数センチメートルまでを意味することがある。
【0101】
血管の正常化とは、好ましくは、血管または微小血管の三次元構造の変化である。例えば、腫瘍内皮における新血管形成活性に関連する病理学的血管または病理学的微小血管は、対照血管または対照微小血管よりも規則正しくない場合がある、および/または蛇行しているよう見える場合がある、および/または漏出しているように見える場合がある。対照血管は、健常個体に由来する血管でもよく、患者に由来するが、この患者の発病領域にはない血管でもよい。好ましい態様において、血管の三次元構造が対照血管よりも規則正しい、蛇行していない、および/または漏出していないように見えたらすぐに、抗血管形成活性が検出されたと言われる。好ましくは、処理開始時よりも規則正しくない、蛇行している、および/または漏出している血管が発病領域において検出される。より好ましくは、ない(less)とは、5%少ない、10%少ない、20%少ない、30%少ない、40%少ない、50%少ない、60%少ない、70%少ない、80%少ない、90%少ない、または100%少ないことを意味する。最も好ましくは、不規則な、蛇行している、および/または漏出している血管は発病領域では検出されない。血管の正常化および/または発病領域における血管数は、PET、MRI、またはCT画像化などの非侵襲的画像化法によって評価される場合がある。
【0102】
新血管形成に関連する眼疾患または眼状態の場合、MASP-2阻害物質などの試験される薬物によって誘導された、検出可能な抗血管形成活性および/または新血管形成の低減もしくは減少を評価するために、いくつかのアッセイが開発されている。これらの様々な疾患モデルでは、物理的傷害(ブルッフ膜のレーザー誘導性破裂)(Shen et al, 2006 Gene therapy 13: 225-234)などの様々な刺激によって、またはトランスジェニックマウスにおけるVEGFなどの特定の血管成長因子の過剰発現(Miki et al, 2009, Ophthalmology 2009 September 116(9): 1748-1754)によって血管形成を誘発することができる。MASP-2阻害物質を用いて、検出可能な抗血管形成活性および/または血管形成の低減もしくは減少が評価されたら、このようなMASP-2阻害物質は、血管形成、または血管形成に関連する疾患もしくは状態を予防する、治療する、逆転させる、治癒させる、および/または遅延させるための医薬として用いられると言われる。
【0103】
新血管形成および/または抗血管形成活性の評価は、定期的に、例えば、毎週または毎月行われてもよい。従って、新血管形成の増加/減少および/または抗血管形成活性の存在は、定期的に、例えば、毎週または毎月評価されてもよい。この評価は、好ましくは、ある特定の対象について、いくつかの時点で、またはある特定の対象および健常対照について、いくつかの時点で行われる。評価は、一定の時間間隔を開けて、例えば、毎週または毎月行われてもよい。MASP-2阻害物質に関連する新血管形成または血管形成活性の評価が新血管形成の減少または抗血管形成活性の存在の発見につながったら、抗MASP-2抗体などのMASP-2阻害物質は、検出可能な抗血管形成活性を示す、および/または新血管形成の低減もしくは減少を誘導すると言われる。
【0104】
新血管形成活性の検出可能な減少および/または抗血管形成活性の存在は、好ましくは、少なくとも1つの時点で、新血管形成の減少および/または抗血管形成活性の存在が検出された時に検出される。好ましくは、新血管形成の減少および/または抗血管形成活性の存在は少なくとも2個、3個、4個、5個の時点について検出されている。
【0105】
本発明のこの局面の実施において有用なMASP-2阻害物質には、例えば、MASP-2抗体およびその断片、MASP-2阻害ペプチド、低分子、MASP-2可溶性受容体、ならびに発現阻害因子が含まれる。MASP-2阻害物質は、MASP-2の生物学的機能を遮断することによってMASP-2依存性補体活性化系を阻害してもよい。例えば、阻害物質はMASP-2タンパク質間相互作用を効果的に遮断してもよく、MASP-2の二量体化または集合を妨害してもよく、Ca2+結合を遮断してもよく、MASP-2セリンプロテアーゼ活性部位を妨害してもよく、MASP-2タンパク質発現を低減してもよい。
【0106】
一部の態様において、MASP-2阻害物質は、C1q依存性補体活性化系の機能を損なわずにMASP-2補体活性化を選択的に阻害する。
【0107】
一態様において、本発明の方法において有用なMASP-2阻害物質は、補体系の他の抗原の少なくとも10倍の親和性で、SEQ ID NO:6を含むポリペプチドに特異的に結合する特異的MASP-2阻害物質である。別の態様において、MASP-2阻害物質は、補体系の他の抗原の少なくとも100倍の結合親和性で、SEQ ID NO:6を含むポリペプチドに特異的に結合する。一態様において、MASP-2阻害物質は、(i)CCP1-CCP2ドメイン(SEQ ID NO:6のaa300-431)またはMASP-2のセリンプロテアーゼドメイン(SEQ ID NO:6のaa445-682)の少なくとも1つに特異的に結合し、MASP-2依存性補体活性化を阻害する。一態様において、MASP-2阻害物質は、MASP-2モノクローナル抗体、またはMASP-2に特異的に結合するその断片である。MASP-2阻害物質の結合親和性は適切な結合アッセイを用いて確かめることができる。
【0108】
MASP-2ポリペプチドは、C1補体系のプロテアーゼであるMASP-1、MASP-3、ならびにC1rおよびC1sに類似した分子構造を示す。SEQ ID NO:4に示されたcDNA分子は、MASP-2(SEQ ID NO:5に示されたアミノ酸配列からなる)の代表例をコードし、分泌後に切断されて成熟型ヒトMASP-2(SEQ ID NO:6)を生じる、リーダー配列(aa1~15)を有するヒトMASP-2ポリペプチドを提供する。
図2に示したように、ヒトMASP2遺伝子は12個のエキソンを含む。ヒトMASP-2 cDNAは、エキソンB、C、D、F、G、H、I、J、K、およびLによってコードされる。
図2に示したように、オルタナティブスプライスから、エキソンB、C、D、およびEから生じる(SEQ ID NO:1)によってコードされるMBL関連タンパク質19(「MAp19」、「sMAP」とも呼ばれる)(SEQ ID NO:2)と呼ばれる20kDaタンパク質が生じる。SEQ ID NO:50に示されたcDNA分子はマウスMASP-2(SEQ ID NO:51に示されたアミノ酸配列からなる)をコードし、分泌後に切断されて成熟型マウスMASP-2(SEQ ID NO:52)を生じる、リーダー配列を有するマウスMASP-2ポリペプチドを提供する。SEQ ID NO:53に示されたcDNA分子はラットMASP-2(SEQ ID NO:54に示されたアミノ酸配列からなる)をコードし、分泌後に切断されて成熟型ラットMASP-2(SEQ ID NO:55)を生じる、リーダー配列を有するラットMASP-2ポリペプチドを提供する。
【0109】
当業者であれば、SEQ ID NO:4、 SEQ ID NO:50、およびSEQ ID NO:53に開示される配列は、それぞれ、ヒトMASP-2、マウスMASP-2、およびラットMASP-2の単一の対立遺伝子であり、対立遺伝子変化およびオルタナティブスプライシングが生じると予想されることを認めると考えられる。サイレント変異を含有する対立遺伝子変種および変異によってアミノ酸配列が変化する対立遺伝子変種を含む、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:50、およびSEQ ID NO:53に示したヌクレオチド配列の対立遺伝子変種は本発明の範囲内である。MASP-2配列の対立遺伝子変種は、標準的な手順に従って、異なる個体に由来するcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーをプローブすることによってクローニングすることができる。
【0110】
ヒトMASP-2タンパク質(SEQ ID NO:6)のドメインが
図1および
図2Aに示され、N末端C1r/C1s/ウニVegf/骨形成タンパク質(CUBI)ドメイン(SEQ ID NO:6のaa1~121)、上皮細胞成長因子様ドメイン(aa122~166)、別のCUBIドメイン(aa167~293)、ならびに補体対照タンパク質ドメインの縦列配列およびセリンプロテアーゼドメインを含む。MASP2遺伝子のオルタナティブスプライシングから
図1に示したMAp19が得られる。MAp19は、
図1に示したように、MASP-2のN末端CUBI-EGF領域とエキソンEに由来する4個のさらなる残基(EQSL)を含有する非酵素タンパク質である。
【0111】
いくつかのタンパク質が、タンパク質間相互作用を介してMASP-2に結合するかまたはMASP-2と相互作用することが示されている。例えば、MASP-2は、レクチンタンパク質であるMBL、H-フィコリン、およびL-フィコリンに結合し、これらとCa2+依存性複合体を形成することが公知である。それぞれのMASP-2/レクチン複合体は、タンパク質C4およびC2のMASP-2依存性切断を介して補体を活性化することが示されている(Ikeda, K., et al., J. Biol Chem. 262:7451-7454, 1987; Matsushita, M., et al., J. Exp. Med 176:197-2284, 2000; Matsushita, M., et al., J. Immunol.168:3502-3506, 2002)。研究により、MASP-2のCUB1-EGFドメインはMASP-2とMBLとの結合に不可欠なことが示されている(Thielens, N.M., et al., J. Immunol. 166:5068, 2001)。CUB1EGFCUBIIドメインは、活性MBL複合体の形成に必要なMASP-2二量体化を媒介することも示されている(Wallis, R., et al., J. Biol. Chem. 275:30962-30969, 2000)。従って、MASP-2依存性補体活性化に重要なことが公知であるMASP-2標的領域に結合するMASP-2阻害物質、または該MASP-2標的領域を妨害するMASP-2阻害物質を同定することができる。
【0112】
抗MASP-2抗体
本発明のこの局面の一部の態様において、MASP-2阻害物質は、MASP-2依存性補体活性化系を阻害する抗MASP-2抗体を含む。本発明のこの局面において有用な抗MASP-2抗体は、任意の抗体産生哺乳動物に由来するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、または組換え抗体を含み、多重特異的、キメラ、ヒト化、抗イディオタイプ、および抗体断片でもよい。抗体断片には、本明細書においてさらに説明されるように、Fab、Fab'、F(ab) 2、F(ab') 2、Fv断片、scFv断片、および単鎖抗体が含まれる。
【0113】
MASP-2抗体は、MASP-2依存性補体活性化系を阻害する能力および抗血管形成活性について、本明細書に記載のアッセイを用いてスクリーニングすることができる。いくつかのMASP-2抗体が文献に記載されており、一部が新たに作製されており、このうちのいくつかを以下の表2に列挙した。例えば、本明細書の実施例10および実施例11に記載のように、MASP-2依存性補体活性化を遮断する抗ラットMASP-2 Fab2抗体が同定されている。実施例14に示したように、抗ラットMASP-2 Fab2抗体に由来するモノクローナル抗体には、レーザー誘導性CNVのマウスモデルにおいて抗血管形成活性がある。実施例15においてさらに説明するように、および本明細書に参照により組み入れられるUS2012/0282263にさらに説明されるように、MASP-2依存性補体活性化を遮断する完全ヒトMASP-2 scFv抗体が同定されている。実施例16に記載のように、レクチン経路の機能を遮断する代表的なヒトMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)には、レーザー誘導性CNVのマウスモデルにおいて抗血管形成活性がある。従って、一態様において、本発明の方法において使用するためのMASP-2阻害物質はヒト抗体、例えばOMS646を含む。従って、一態様において、本発明の組成物および方法において使用するためのMASP-2阻害物質は、ヒトMASP-2(SEQ ID NO:6)からなるポリペプチドに結合するヒト抗体を含み、この抗体は、I)a)i)SEQ ID NO:67もしくはSEQ ID NO:68の31-35からのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1;およびii)SEQ ID NO:67もしくはSEQ ID NO:68の50-65からのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2およびiii)SEQ ID NO:67もしくはSEQ ID NO:68の95-102からのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む、重鎖可変領域、ならびにb)i)SEQ ID NO:69もしくはSEQ ID NO:71の24-34からのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1;およびii)SEQ ID NO:69もしくはSEQ ID NO:71の50-56からのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2;およびiii)SEQ ID NO:69もしくはSEQ ID NO:71の89-97からのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む、軽鎖可変領域を含むか、またはII)前記重鎖可変領域の前記CDR領域内にある合計で6個までのアミノ酸置換と、前記軽鎖可変領域の前記CDR領域内にある合計で6個までのアミノ酸置換以外は前記可変ドメインと同一の、その変種を含み、前記抗体またはその変種はMASP-2依存性補体活性化を阻害する。一態様において、本発明の方法において使用するためのMASP-2阻害物質はヒト抗体OMS646を含む。
【0114】
【0115】
低下したエフェクター機能を有する抗MASP-2抗体
本発明のこの局面の一部の態様では、古典的補体経路の活性化から生じ得る炎症を緩和するために、抗MASP-2抗体は低下したエフェクター機能を有する。IgG分子が古典的補体経路を誘発する能力は、この分子のFc部分内にあることが示されている(Duncan, A.R.. et al., Nature 332:738-740 1988)。この分子のFc部分が酵素切断によって除去されているIgG分子には、このエフェクター機能がない(Harlow, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1988を参照されたい)。従って、エフェクター機能を最小化する遺伝子操作Fc配列を有することによって、またはヒトIgG2もしくはIgG4アイソタイプにすることによって、この分子のFc部分を欠いた結果としてエフェクター機能が低下した抗体を作製することができる。
【0116】
低下したエフェクター機能を有する抗体は、本明細書の実施例9に記載のように、ならびにJolliffe et al., Int'l Rev. Immunol. 10:241-250, 1993およびRodrigues et al., J. Immunol. 151:6954-6961, 1998にも記載のように、IgG重鎖のFc部分の標準的な分子生物学的操作によって作製することができる。低下したエフェクター機能を有する抗体はまた、補体を活性化しかつ/またはFc受容体と相互作用する能力が低下したヒトIgG2およびIgG4アイソタイプも含む(Ravetch, J. V., et al., Annu. Rev. Immunol. 9:457-492, 1991 ; Isaacs, J.D., et al., J. Immunol. 148:3062-3071, 1992; van de Winkel, J.G., et al., Immunol Today 14:215-221, 1993)。IgG2またはIgG4アイソタイプからなる、ヒトMASP-2に特異的なヒト化抗体または完全ヒト抗体は、Vaughan, T.J., et al., Nature Biotechnical 16:535-539, 1998に記載のように当業者に公知のいくつかの方法の1つによって作製することができる。
【0117】
抗MASP-2抗体の作製
抗MASP-2抗体は、MASP-2ポリペプチド(例えば、完全長MASP-2)または抗原性MASP-2エピトープ含有ペプチド(例えば、MASP-2ポリペプチドの一部)を用いて作製することができる。免疫原性ペプチドは5アミノ酸残基と小さくてもよい。例えば、本発明の方法において有用な抗MASP-2抗体を誘導するために、SEQ ID NO:6の全アミノ酸配列を含むMASP-2ポリペプチドが用いられてもよい。タンパク質間相互作用に関与することが公知である特定のMASP-2ドメイン、例えば、CUBIおよびCUBIEGFドメイン、ならびにセリン-プロテアーゼ活性部位を含む領域が、実施例3に記載のように組換えポリペプチドとして発現され、抗原として用いられてもよい。さらに、MASP-2ポリペプチド(SEQ ID NO:6)の少なくとも6アミノ酸の部分を含むペプチドもまた、MASP-2抗体を誘導するために有用である。MASP-2抗体を誘導するために有用なMASP-2由来抗原のさらなる例を以下の表2に示した。抗体を産生させるために用いられるMASP-2ペプチドおよびポリペプチドは、実施例5~7にさらに記載されるように、天然ポリペプチドまたは組換えペプチドもしくは合成ペプチドおよび触媒的に不活性な組換えポリペプチド、例えば、MASP-2Aとして単離されてもよい。本発明のこの局面の一部の態様において、抗MASP-2抗体は、実施例8および9に記載されるように、ならびに以下でさらに記載されるように、トランスジェニックマウス系統を用いて得られる。
【0118】
抗MASP-2抗体の作製において有用な抗原はまた、融合ポリペプチド、例えば、MASP-2またはその一部と免疫グロブリンポリペプチドまたはマルトース結合タンパク質との融合も含む。ポリペプチド免疫原は完全長分子またはその一部でもよい。ポリペプチド部分がハプテン様である場合には、このような部分は、免疫のために、都合よく、巨大分子担体(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、または破傷風トキソイド)に接合または連結されてもよい。
【0119】
【0120】
ポリクローナル抗体
MASP-2に対するポリクローナル抗体は、当業者に周知の方法を用いて、動物をMASP-2ポリペプチドまたはその免疫原性部分で免疫することによって調製することができる。例えば、Green et al.,「Production of Polyclonal Antisera」, Immunochemical Protocols(Manson, ed.), 105頁を参照されたい。MASP-2ポリペプチドの免疫原性は、ミネラルゲル、例えば、水酸化アルミニウムまたはフロイントアジュバント(完全もしくは不完全)、界面活性物質、例えば、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、油エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、およびジニトロフェノールを含むアジュバントを用いて高まることができる。ポリクローナル抗体は、典型的には、動物、例えば、ウマ、ウシ、イヌ、ニワトリ、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ヤギ、またはヒツジにおいて産生される。または、本発明において有用な抗MASP-2抗体はまた、ヒトに近い霊長類に由来してもよい。ヒヒにおいて診断および治療に有用な抗体を産生するための一般的な技法は、例えば、Goldenberg et al.,国際特許公報WO91/11465、およびLosman, M.J., et al., Int. J. Cancer 46:310, 1990において見られ得る。次いで、免疫学的に活性な抗体を含有する血清が、当技術分野において周知の標準的な手順を用いて、このような免疫動物の血液から生成される。
【0121】
モノクローナル抗体
一部の態様において、MASP-2阻害物質は抗MASP-2モノクローナル抗体である。抗MASP-2モノクローナル抗体は、単一のMASP-2エピトープに対して作製されているので高度に特異的である。本明細書で使用する「モノクローナル」という修飾語は、抗体が実質的に均一な抗体集団から得られているという特徴を示し、特定の方法による抗体の作製を必要とすると解釈してはならない。モノクローナル抗体は、連続培養細胞株による抗体分子の作製を提供する任意の技法、例えば、Kohler, G., et al., Nature 256:495, 1975に記載のハイブリドーマ法を用いて得ることができる。または、モノクローナル抗体は、組換えDNA法(例えば、Cabillyに対する米国特許第4,816,567号を参照されたい)によって作製されてもよい。モノクローナル抗体は、Clackson, T., et al., Nature 352:624-628, 1991、およびMarks, J.D., et al., J. Mol Biol. 222:581-597, 1991に記載の技法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。このような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDを含む任意の免疫グロブリンクラスおよびその任意のサブクラスの抗体でよい。
【0122】
例えば、モノクローナル抗体は、適切な哺乳動物(例えば、BALB/cマウス)に、MASP-2ポリペプチドまたはその一部を含む組成物を注射することによって得ることができる。予め決められた期間の後に、脾臓細胞をマウスから取り出し、細胞培地に懸濁する。次いで、脾臓細胞を不死細胞株と融合して、ハイブリドーマを形成する。形成されたハイブリドーマを細胞培養において増殖させ、MASP-2に対するモノクローナルを産生する能力についてスクリーニングする。抗MASP-2モノクローナル抗体の作製についてさらに述べている実施例が、本願明細書(例えば、実施例10および13)に提供される(Current Protocols in Immunology, Vol.1., John Wiley & Sons, 2.5.1-2.6.7頁, 1991も参照されたい)。
【0123】
抗原曝露に反応して特異的ヒト抗体を産生するように操作されたトランスジェニックマウスを用いて、ヒトモノクローナル抗体を得ることができる。この技法では、ヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座および軽鎖遺伝子座の要素を、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座および軽鎖遺伝子座の標的破壊を含有する胚性幹細胞株に由来するマウスの系統に導入する。このトランスジェニックマウスは、ヒト抗原、例えば、本明細書に記載のMASP-2抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、実施例7においてさらに述べられるように従来のケーラー・ミルステイン技術を用いて、このような動物に由来するB細胞を適切なミエローマ細胞株と融合することによってヒトMASP-2抗体分泌ハイブリドーマを作製するために使用することができる。ヒト免疫グロブリンゲノムを有するトランスジェニックマウスは、(例えば、Abgenix, Inc., Fremont, CA.およびMedarex, Inc., Annandale, N.J.から)市販されている。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得るための方法は、例えば、Green, L.L. et al., Nature Genet. 7:13, 1994; Lonberg, N. et al., Nature 368:856, 1994;およびTaylor, L.D. et al., Int. Immun. 6:579, 1994によって述べられている。
【0124】
モノクローナル抗体は、十分に確立した様々な技法によってハイブリドーマ培養物から単離および精製することができる。このような単離法には、プロテインA Sepharoseを用いたアフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが含まれる(例えば、Coliganの2.7.1-2.7.12頁および2.9.1-2.9.3頁; Baines et al., 「Purification of Immunoglobulin G(IgG)」, Methods in Molecular Biology, The Humana Press, Inc., Vol.10, 79-104頁, 1992を参照されたい)。
【0125】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはファージ由来抗体が作製されたら、最初に特異的MASP-2結合について試験される。MASP-2に特異的に結合する抗体を検出するために、当業者に公知の様々なアッセイ法を使用することができる。例示的なアッセイ法には、標準的な方法によるウエスタンブロットまたは免疫沈降分析(例えば、Ausubel et al.,に記載)、免疫電気泳動、酵素結合免疫吸着測定法、ドットブロット、阻害アッセイ法または競合アッセイ法、およびサンドイッチアッセイ法(Harlow and Land, Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988に記載)が含まれる。MASP-2に特異的に結合する抗体が同定されたら、抗MASP-2抗体は、いくつかのアッセイ法の1つ、例えば、レクチン特異的C4切断アッセイ法(実施例2に記載)、C3b沈着アッセイ法(実施例2に記載)、またはC4b沈着アッセイ法(実施例2に記載)においてMASP-2阻害物質として機能する能力について試験される。
【0126】
抗MASP-2モノクローナル抗体の親和性は当業者によって容易に決定することができる(例えば、Scatchard, A., NY Acad. Sci. 51:660-672, 1949を参照されたい)。一態様において、本発明の方法に有用な抗MASP-2モノクローナル抗体は、<100nM、好ましくは、<10nM、最も好ましくは<2nMの結合親和性でMASP-2に結合する。
【0127】
キメラ/ヒト化抗体
本発明の方法において有用なモノクローナル抗体には、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来する抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であるが、鎖の残りが、別の種に由来する抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である、キメラ抗体、ならびに、このような抗体の断片が含まれる(Cabillyに対する米国特許第4,816,567号;およびMorrison, S.L. et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 81:6851-6855, 1984)。
【0128】
本発明において有用なキメラ抗体の一形態は、ヒト化モノクローナル抗MASP-2抗体である。非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。ヒト化モノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの可変重鎖および可変軽鎖に由来する非ヒト(例えば、マウス)相補性決定領域(CDR)をヒト可変ドメインに導入することによって作製される。次いで、典型的に、非ヒト対応物のフレームワーク領域においてヒト抗体残基が代用される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含んでもよい。これらの改変は、抗体の性能にさらに磨きをかけるためになされる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、および典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、Fvフレームワーク領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFvフレームワーク領域に対応する。ヒト化抗体はまた、任意で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的には、ヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を含む。さらなる詳細については、Jones, P.T, et al., Nature 321:522-525, 1986; Reichmann, L., et al., Nature 332:323-329, 1988;およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596, 1992を参照されたい。
【0129】
本発明において有用なヒト化抗体には、少なくともMASP-2結合CDR3領域を含むヒトモノクローナル抗体が含まれる。さらに、IgA抗体またはIgM抗体ならびにヒトIgG抗体を作製するためにFc部分が交換されてもよい。このようなヒト化抗体は、ヒトMASP-2を特異的に認識するが、ヒトにおいて抗体それ自体に対する免疫応答を引き起こさないので特に臨床において有用であると考えられる。その結果、このようなヒト化抗体は、ヒトでのインビボ投与に特に反復投与または長期投与が必要な場合にはより適している。
【0130】
マウス抗MASP-2モノクローナル抗体からヒト化抗MASP-2抗体の作製の一例が本明細書の実施例6において示される。ヒト化モノクローナル抗体を作製する技法は、例えば、Jones, P.T, et al., Nature 321:522, 1986; Carter, P., et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:4285, 1992; Sandhu, J.S., Crit. Rev. Biotech. 12:437, 1992; Singer, I.I., et al., J. Immun. 150:2844, 1993; Sudhir (ed.), Antibody Engineering Protocols, Humana Press, Inc., 1995; Kelley, 「Engineering Therapeutic Antibodies」, Protein Engineering:Principles and Practice, Cleland et al.(eds.), John Wiley & Sons, Inc., 399-434頁, 1996;およびQueen, 1997に対する米国特許第5,693,762号にも記載されている。さらに、Protein Design Labs (Mountain View, CA)などの特定のマウス抗体領域からヒト化抗体を合成する商業的実体がある。
【0131】
組換え抗体
抗MASP-2抗体は組換え法を用いて作製することもできる。例えば、ヒト抗体断片(VH、VL、Fv、Fd、Fab、またはF(ab') 2)を作製するようにヒト免疫グロブリン発現ライブラリー(例えば、Stratagene, Corp., La Jolla, CAから入手可能)を用いてヒト抗体を作製することができる。次いで、キメラ抗体の作製法に類似した技法を用いて、これらの断片を用いてヒト抗体全体を構築する。
【0132】
抗イディオタイプ抗体
望ましい阻害活性を有する抗MASP-2抗体が同定されたら、これらの抗体を用いて、当技術分野において周知の技法を用いてMASP-2の一部に似ている抗イディオタイプ抗体を生成することができる。例えば、Greenspan, N.S., et al., FASEB J. 7:437, 1993を参照されたい。例えば、MASP-2に結合し、補体活性化に必要とされるMASP-2タンパク質相互作用を完全に阻害する抗体を用いて、MASP-2タンパク質上のMBL結合部位に似ている、従って、MASP-2の結合リガンド、例えば、MBLに結合し、これを中和する抗イディオタイプを生成することができる。
【0133】
免疫グロブリン断片
本発明の方法において有用なMASP-2阻害物質は、インタクトな免疫グロブリン分子だけでなく、抗体断片から形成された、Fab、Fab'、F(ab) 2、F(ab') 2、およびFv断片、scFv断片、ダイアボディ、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ならびに多重特異性抗体を含む周知の断片も包含する。
【0134】
抗体とそのエピトープの結合には抗体分子の小さな部分であるパラトープしか関与しないことは当技術分野において周知である(例えば、Clark, W.R., The Experimental Foundations of Modern Immunology, Wiley & Sons, Inc., NY, 1986を参照されたい)。抗体のpFc'およびFc領域は古典的補体経路のエフェクターであるが、抗原結合に関与しない。pFc'領域が酵素切断されている抗体、またはpFc'領域なしで作製されている抗体はF(ab')2断片と呼ばれ、インタクトな抗体の抗原結合部位を両方とも保持する。単離されたF(ab') 2断片は、その2つの抗原結合部位のために二価モノクローナル断片と呼ばれる。同様に、Fc領域が酵素切断されている抗体、またはFc領域なしで作製されている抗体はFab断片と呼ばれ、インタクトな抗体分子の抗原結合部位のうちの1つを保持する。
【0135】
抗体断片は、従来の方法による抗体全体のタンパク質加水分解、例えば、ペプシン消化またはパパイン消化によって得ることができる。例えば、抗体断片は、抗体をペプシンで酵素切断して、F(ab') 2と呼ばれる5S断片を得ることによって作製することができる。この断片は、3.5S Fab'一価断片を生じるチオール還元剤を用いてさらに切断することができる。任意で、ジスルフィド結合を切断する、スルフヒドリル基のブロック基を用いて、切断反応を行うことができる。代替として、ペプシンを用いた酵素切断によって、2つの一価Fab断片および1つのFc断片が直接、生成される。これらの方法は、例えば、Goldenbergに対する米国特許第4,331,647号; Nisonoff, A., et al., Arch. Biochem. Biophys. 89:230, 1960; Porter, R.R., Biochem, J. 73:119, 1959; Edelman, et al., Methods in Enzymology 1:422, Academic Press, 1967;ならびにColiganの2.8.1~2.8.10頁および2.10.~2.10.4頁に記載されている。
【0136】
一部の態様において、FcとFcγ受容体が結合すると開始する古典的補体経路の活性化を回避するためには、Fc領域の無い抗体断片を使用することが好ましい。Fcγ受容体相互作用を回避するMoAbを作製することができる、いくつかの方法がある。例えば、モノクローナル抗体のFc領域をタンパク質分解酵素による部分消化(例えば、フィシン消化)を用いて化学的に除去し、それによって、例えば、抗原結合抗体断片、例えば、Fab断片またはF(ab) 2断片を生成することができる(Mariani, M., et al., Mol. Immunol. 28:69-71, 1991)。または、Fcγ受容体に結合しないヒトγ4 IgGアイソタイプを、本明細書に記載のようにヒト化抗体の構築中に使用することができる。Fcドメインの無い抗体、単鎖抗体、および抗原結合ドメインはまた、本明細書に記載の組換え法を用いて操作することもできる。
【0137】
単鎖抗体断片
代替的に、重鎖Fv領域および軽鎖Fv領域が接続されている、MASP-2に特異的なペプチド単鎖結合分子を作製することができる。Fv断片は、単鎖抗原結合タンパク質(scFv)を形成するようにペプチドリンカーで接続されてもよい。これらの単鎖抗原結合タンパク質は、オリゴヌクレオチドで接続されている、VHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む、構造遺伝子を構築することによって調製される。構造遺伝子は発現ベクターに挿入され、その後に、大腸菌などの宿主細胞に導入される。組換え宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する1本のポリペプチド 鎖を合成する。scFvを作製するための方法は、例えば、Whitlow, et al.,「Methods:A Companion to Methods in Enzymology」2:97, 1991; Bird, et al., Science 242:423, 1988; Ladnerに対する米国特許第4,946,778号; Pack, P., et al., Bio/Technology 11:1271, 1993に記載されている。
【0138】
例示的な例として、MASP-2特異的scFvは、インビトロでリンパ球をMASP-2ポリペプチドに曝露し、(例えば、固定化または標識されたMASP-2タンパク質またはペプチドを使用することによって)ファージベクター中または類似ベクター中の抗体ディスプレイライブラリーを選択することによって得ることができる。潜在的なMASP-2ポリペプチド結合ドメインを有するポリペプチドをコードする遺伝子は、ファージまたは細菌、例えば、大腸菌にディスプレイされたランダムペプチドライブラリーをスクリーニングによって得ることができる。これらのランダムペプチドディスプレイライブラリーを用いて、MASP-2と相互作用するペプチドをスクリーニングすることができる。このようなランダムペプチドディスプレイライブラリーを作製およびスクリーニングするための技法は当技術分野において周知である(Lardnerに対する米国特許第5,223,409号; Ladnerに対する米国特許第4,946,778号; Ladnerに対する米国特許第5,403,484号; Ladnerに対する米国特許第5,571,698号;およびKay et al., Phage Display of Peptides and Proteins Academic Press, Inc., 1996)。このようなライブラリーをスクリーニングするためのランダムペプチドディスプレイライブラリーおよびキットは、例えば、CLONTECH Laboratories, Inc.(Palo Alto, Calif.)、Invitrogen Inc.(San Diego, Calif.)、New England Biolabs, Inc.(Beverly, Mass.)、およびPharmacia LKB Biotechnology Inc.(Piscataway, N.J.)から市販されている。
【0139】
本発明のこの局面において有用な抗MASP-2抗体断片の別の形態は、MASP-2抗原上のエピトープに結合し、MASP-2依存性補体活性化を阻害する、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識ユニット」)は、関心対象の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。このような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することによって調製される(例えば、Larrick et al., Methods; A Companion to Methods in Enzymology 2:106, 1991; Courtenay-Luck, 「Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies」, Monoclonal Antibodies:Production, Engineering and Clinical Application, Ritter et al., (eds.), 166頁, Cambridge University Press, 1995;およびWard et al.,「Genetic Manipulation and Expression of Antibodies」, Monoclonal Antibodies:Principles and Applications, Birch et al., (eds,), 137頁, Wiley-Liss, Inc., 1995を参照されたい)。
【0140】
MASP-2依存性補体活性化を阻害するために、本明細書に記載のMASP-2抗体は、それを必要とする対象に投与される。一部の態様において、MASP-2阻害物質は、エフェクター機能が低下した、高親和性ヒトまたはヒト化モノクローナル抗MASP-2抗体である。
【0141】
ペプチド阻害因子
本発明のこの局面の一部の態様において、MASP-2阻害物質は、MASP-2依存性補体活性化系を阻害する、単離された天然ペプチド阻害因子および合成ペプチド阻害因子を含む単離されたMASP-2ペプチド阻害因子を含む。本明細書で使用する「単離されたMASP-2ペプチド阻害因子」という用語は、MASP-2に結合することによって、レクチン経路の別の認識分子(例えば、MBL、H-フィコリン、M-フィコリン、もしくはL-フィコリン)への結合についてMASP-2と競合することによって、および/またはMASP-2と直接相互作用してMASP-2依存性補体活性化を阻害することによって、MASP-2依存性補体活性化を阻害するペプチドを指し、該ペプチドは実質的に純粋であり、かつ天然で一緒に見出され得る他の物質を現実的でかつ目的の用途に適した程度まで本質的に含まない。
【0142】
ペプチド阻害因子は、タンパク質間相互作用および触媒部位を妨害するためにインビボで首尾よく用いられてきた。例えば、最近、LFA-1と構造上関連する接着分子に対するペプチド阻害因子が凝固障害における臨床使用に認可された(Ohman, E.M., et al., European Heart J. 16:50-55, 1995)。インテグリン依存性接着を阻止または妨害する短い直鎖ペプチド(<30アミノ酸)が述べられている(Murayama, O., et al., J. Biochem. 120:445-51, 1996)。インテグリン依存性接着を遮断するために、長さが25~200アミノ酸残基に及ぶ長いペプチドも首尾よく用いられてきた(Zhang, L., et al., J. Biol. Chem. 271(47):29953-57, 1996)。一般的に、長いペプチド阻害因子は短いペプチドよりも高い親和性および/またはゆっくりとしたオフレート(off-rate)を有し、従って、強力な阻害因子になり得る。環式ペプチド阻害因子もまたヒト炎症疾患治療のためのインビボで有効なインテグリン阻害因子であると示されている(Jackson, D.Y., et al., J. Med. Chem. 40:3359-68, 1997)。環式ペプチドを作製する方法の1つは、ペプチドの末端アミノ酸がシステインであり、それによって、末端アミノ酸間のジスルフィド結合によってペプチドが環状形態で存在することが可能になるペプチド合成を伴う。この環状形態は、造血性新生物の治療のためにインビボでの親和性および半減期を改善することが示されている(例えば、Larsonに対する米国特許第6,649,592号)。
【0143】
合成MASP-2ペプチド阻害因子
本発明のこの局面の方法において有用なMASP-2阻害ペプチドは、MASP-2機能に重要な標的領域を模倣するアミノ酸配列によって例示される。本発明の方法の実施において有用な阻害ペプチドはサイズが約5アミノ酸~約300アミノ酸に及ぶ。表4は、本発明のこの局面の実施において有用であり得る例示的な阻害ペプチドのリストを提供する。例えば、レクチン特異的C4切断アッセイ法(実施例2に記載)およびC3b沈着アッセイ法(実施例2に記載)を含む、いくつかのアッセイ法の1つにおいて、候補MASP-2阻害ペプチドがMASP-2阻害物質として機能する能力を試験することができる。
【0144】
一部の態様において、MASP-2阻害ペプチドはMASP-2ポリペプチドに由来し、完全長成熟MASP-2タンパク質(SEQ ID NO:6)、またはMASP-2タンパク質の特定のドメイン、例えば、CUBIドメイン(SEQ ID NO:8)、CUBIEGFドメイン(SEQ ID NO:9)、EGFドメイン(SEQ ID NO:11)、およびセリンプロテアーゼドメイン(SEQ ID NO:12)より選択される。前記のように、CUBEGFCUBII領域は二量体化およびMBLとの結合に必要なことが示されている(Thielens et al., 前記)。特に、MASP-2のCUBIドメインにあるペプチド配列TFRSDYN(SEQ ID NO:16)は、Asp105からGly105へのホモ変異を有し、その結果、MBL複合体からMASP-2が失われるヒトを同定した研究においてMBLとの結合に関与することが示されている(Stengaard-Pedersen, K., et al., New England J. Med. 349:554-560, 2003)。
【0145】
一部の態様において、MASP-2阻害ペプチドは、MASP-2に結合し、レクチン補体経路に関与するレクチンタンパク質に由来する。マンナン結合レクチン(MBL)、L-フィコリン、M-フィコリン、およびH-フィコリンを含む、この経路に関与する、いくつかの異なるレクチンが同定されている(Ikeda, K., et al., J. Biol. Chem. 262:7451-7454, 1987; Matsushita, M., et al., J. Exp. Med. 176:1497-2284, 2000; Matsushita, M., et al., J. Immunol. 168:3502-3506, 2002)。これらのレクチンは、それぞれが炭水化物認識ドメインを有するN末端コラーゲン様繊維を有するホモ三量体サブユニットのオリゴマーとして血清中に存在する。これらの異なるレクチンはMASP-2に結合することが示されており、レクチン/MASP-2複合体はタンパク質C4およびC2を切断することによって補体を活性化する。H-フィコリンは、24アミノ酸のアミノ末端領域、11個のGly-Xaa-Yaaリピートを有するコラーゲン様ドメイン、12アミノ酸のネック(neck)ドメイン、および207アミノ酸のフィブリノゲン様ドメインを有する(Matsushita, M., et al., J. Immunol. 168:3502-3506, 2002)。H-フィコリンはGlcNAcに結合し、ネズミチフス菌(S.typhimurium)、S.ミネソタ(S.minnesota)、および大腸菌に由来するLPSでコーティングされたヒト赤血球を凝集させる。H-フィコリンはMASP-2およびMAp19に結合し、レクチン経路を活性化することが示されている。すなわち、L-フィコリン/P35もまたGlcNAcに結合し、ヒト血清中のMASP-2およびMAp19に結合することが示されている。この複合体はレクチン経路を活性化することが示されている(Matsushita, M., et al., J. Immunol. 164:2281, 2000)。従って、本発明において有用なMASP-2阻害ペプチドは、MBLタンパク質(SEQ ID NO:21)、H-フィコリンタンパク質(GenBankアクセッション番号NM_173452)、M-フィコリンタンパク質(GenBankアクセッション番号O00602)、およびL-フィコリンタンパク質(GenBankアクセッション番号NM_015838)より選択される少なくとも5個のアミノ酸の領域を含んでもよい。
【0146】
より具体的には、科学者達は、MBL上のMASP-2結合部位が、MBPのコラーゲン様ドメインのC末端部分にあるヒンジとネックとの間にある12個のGly-X-Yトリプレット
内にあることを同定した(Wallis, R. et al., J. Biol Chem. 279:14065, 2004)。このMASP-2結合部位領域はまたヒトH-フィコリンおよびヒトL-フィコリンにおいても高度に保存されている。アミノ酸配列「OGK-X-GP」(SEQ ID NO:22)を含む、3種類全てのレクチンタンパク質において存在し、文字「O」がヒドロキシプロリンを表しかつ文字「X」が疎水残基である、コンセンサス結合部位が記載されている(Wallis et al., 2004, 前記)。従って、一部の態様において、本発明のこの局面において有用なMASP-2阻害ペプチドは長さが少なくとも6個のアミノ酸であり、SEQ ID NO:22を含む。アミノ酸配列
を含む、MBLに由来するペプチドは、インビトロでMASP-2に結合することが示されている(Wallis, et al., 2004, 前記)。MASP-2との結合を増強するために、天然のMBLタンパク質において見られるような三重らせんの形成を増強する、各末端に2個のGPOトリプレットが隣接するペプチドを合成することができる
(Wallis, R., et al., J. Biol. Chem. 279:14065, 2004においてさらに説明される)。
【0147】
MASP-2阻害ペプチドはまた、H-フィコリンのコンセンサスMASP-2結合領域に由来する配列
を含む、ヒトH-フィコリンに由来してもよい。L-フィコリンのコンセンサスMASP-2結合領域に由来する配列
を含む、ヒトL-フィコリン由来ペプチドも含まれる。
【0148】
MASP-2阻害ペプチドはまた、抗トロンビンIIIのC末端部分と連結したC4切断部位である
などのC4切断部位に由来してもよい(Glover, G.I., et al., Mol. Immunol. 25:1261(1988))。
【0149】
(表4)例示的なMASP-2阻害ペプチド
注:文字「O」はヒドロキシプロリンを表す。文字「X」は疎水残基である。
【0150】
C4切断部位に由来するペプチドならびにMASP-2セリンプロテアーゼ部位を阻害する他のペプチドは、不可逆的プロテアーゼインヒビターになるように化学的に改変することができる。例えば、適切な改変は、C末端、Asp、もしくはGluにおける、または官能側鎖に付加されるハロメチルケトン(Br、Cl、I、F);アミノ基または他の官能側鎖にあるハロアセチル(または他のαハロアセチル)基;アミノ末端もしくはカルボキシ末端または官能側鎖にあるエポキシド含有基またはイミン含有基;あるいはアミノ末端もしくはカルボキシ末端または官能側鎖にあるイミデートエステルを含んでもよいが、必ずしもこれに限定されない。このような改変を行えば、ペプチドの共有結合によって酵素を永久に阻害するという利点が得られると考えられる。これによって有効量が少なくなる可能性があり、かつ/またはペプチド阻害因子の投与頻度の低下が必要になる可能性がある。
【0151】
前記の阻害ペプチドに加えて、本発明の方法において有用なMASP-2阻害ペプチドには、本明細書に記載のように得られた抗MASP-2 MoAbのMASP-2結合CDR3領域を含有するペプチドが含まれる。ペプチド合成において使用するためのCDR領域の配列は、当技術分野において公知の方法によって決定することができる。重鎖可変領域は、一般的に長さが100~150アミノ酸のペプチドである。軽鎖可変領域は、一般的に長さが80~130アミノ酸のペプチドである。重鎖可変領域内および軽鎖可変領域内のCDR配列には、当業者によって容易に配列決定され得る、たった約3~25アミノ酸の配列が含まれる。
【0152】
当業者であれば、MASP-2阻害ペプチドの実質的に相同なバリエーションもMASP-2阻害活性を示すことを認めると考えられる。例示的なバリエーションには、本ペプチドのカルボキシ末端部分またはアミノ末端部分に挿入、欠失、交換、および/またはさらなるアミノ酸を有するペプチド、ならびにその混合物が含まれるが、必ずしもこれに限定されない。従って、MASP-2阻害活性を有する相同なペプチドは本発明の方法において有用だとみなされる。記載のペプチドはまた、重複モチーフおよび保存的置換による他の改変も含んでよい。保存的変種は本明細書の他の場所において説明され、あるアミノ酸を、類似した電荷、サイズ、または疎水性などのアミノ酸と交換することを含む。
【0153】
インタクトなタンパク質中のセグメントにさらによく似せるために、MASP-2阻害ペプチドは、溶解度を増加するように、および/または正電荷もしくは負電荷を最大にするように改変されてもよい。誘導体は、望ましいMASP-2阻害特性を機能的に保持する限り、本明細書において開示されたペプチドの正確な一次アミノ酸構造を有してもよく、有さなくてもよい。改変は、一般的に公知である20種類のアミノ酸の1つまたは別のアミノ酸を用いたアミノ酸置換、補助的な望ましい特徴、例えば、酵素分解に対する耐性を有する誘導体化アミノ酸もしくは置換アミノ酸またはDアミノ酸を用いたアミノ酸置換、あるいは天然コンフォメーションおよび1個のアミノ酸、複数のアミノ酸、またはペプチドの機能を模倣する別の分子もしくは化合物、例えば、炭水化物を用いた置換;アミノ酸欠失;一般的に公知である20種類のアミノ酸の1つまたは別のアミノ酸を用いたアミノ酸挿入、補助的な望ましい特徴、例えば、酵素分解に対する耐性を有する誘導体化アミノ酸もしくは置換アミノ酸またはDアミノ酸を用いたアミノ酸挿入、あるいは天然コンフォメーションおよび1個のアミノ酸、複数のアミノ酸、またはペプチドの機能を模倣する別の分子もしくは化合物、例えば、炭水化物を用いた置換;あるいは天然コンフォメーション、電荷分布、および親ペプチドの機能を模倣する別の分子または化合物、例えば、炭水化物または核酸モノマーを用いた置換を含んでもよい。ペプチドはまたアセチル化またはアミド化によって改変されてもよい。
【0154】
誘導体阻害ペプチドの合成は、ペプチド生合成、炭水化物生合成などの公知の技法に頼ってもよい。出発点として、当業者は、関心対象のペプチドのコンフォメーションを決定するために適切なコンピュータプログラムに頼ることがある。本明細書において開示されたペプチドのコンフォメーションが分かったら、当業者は、親ペプチドの基本コンフォメーションおよび電荷分布を保持するが、親ペプチドに存在しない特徴または親ペプチドに見られる特徴以上に強化された特徴を有し得る誘導体を作製するために、合理的設計のやり方で、1つまたは複数の部位に、どんな種類の置換を加えることができるかを決定することができる。候補誘導体分子が同定されたら、MASP-2阻害物質として機能するかどうか判定するために、本明細書に記載のアッセイ法を用いて誘導体を試験することができる。
【0155】
MASP-2阻害ペプチドのスクリーニング
MASP-2の重要な結合領域の分子構造を模倣し、MASP-2の補体活性を阻害するペプチドを生成およびスクリーニングするために、分子モデリングおよび合理的分子設計も使用することができる。以前に述べられたように、モデリングに用いられる分子構造には、抗MASP-2モノクローナル抗体のCDR領域、ならびに二量体化に必要な領域、MBLとの結合に関与する領域、およびセリンプロテアーゼ活性部位を含む、MASP-2機能に重要なことが公知の標的領域が含まれる。ある特定の標的に結合するペプチドを同定する方法は当技術分野において周知である。例えば、ある特定の分子に結合する巨大分子構造、例えば、ペプチドの新規構築のために分子インプリンティングを使用することができる。例えば、Shea, K.J.,「Molecular Imprinting of Synthetic Network Polymers:The De Novo synthesis of Macromolecular Binding and Catalytic Sties」, TRIP 2(5) 1994を参照されたい。
【0156】
例示的な例として、MASP-2結合ペプチドの模倣物を調製する方法の1つは以下の通りである。公知のMASP-2結合ペプチド、またはMASP-2阻害を示す抗MASP-2抗体の結合領域の機能的モノマー(鋳型)が重合される。次いで、鋳型は取り出され、その後に、鋳型によって残された空隙の中に別のクラスのモノマーが重合されて、鋳型に類似した、1つまたは複数の望ましい特性を示す新たな分子が得られる。このようにペプチドを調製することに加えて、MASP-2阻害物質である他のMASP-2結合分子、例えば、多糖、ヌクレオシド、薬物、核タンパク質、リポタンパク質、炭水化物、糖タンパク質、ステロイド、脂質、および他の生物学的に活性な材料も調製することができる。この方法は、天然対応物よりも安定性が高い多種多様な生物学的模倣物の設計に有用である。なぜなら、これらの生物学的模倣物は、典型的に、機能的モノマーのフリーラジカル重合によって調製され、その結果、非生分解性バックボーンを有する化合物が得られるからである。
【0157】
ペプチド合成
MASP-2阻害ペプチドは、当技術分野において周知の技法、例えば、J. Amer. Chem. Soc. 85:2149-2154, 1963においてMerrifieldによって最初に述べられた固相合成技法を用いて調製することができる。自動合成は、例えば、Applied Biosystems 431 A Peptide Synthesizer(Foster City, Calif.)を用いて、製造業者により提供される説明書に従って行うことができる。他の技法は、例えば、Bodanszky, M., et al., Peptide Synthesis, 第二版, John Wiley & Sons, 1976ならびに当業者に公知の他の参照文献において見られ得る。
【0158】
ペプチドはまた、当業者に公知の標準的な遺伝子工学的技法を用いて調製することもできる。例えば、ペプチドは、ペプチドをコードする核酸を発現ベクターに挿入し、DNAを発現させ、必要とされるアミノ酸の存在下でDNAをペプチドに翻訳することによって酵素的に作製することができる。次いで、ペプチドを、クロマトグラフィー法もしくは電気泳動法を用いて精製するか、またはペプチドをコードする配列を、担体タンパク質をコードする核酸配列とインフレーム(in phase)で発現ベクターに挿入することによって、ペプチドと融合し、後で切断することができる担体タンパク質によって精製する。融合タンパク質ペプチドは、クロマトグラフィー法、電気泳動法、または免疫学的技法(例えば、抗体を介した樹脂と担体タンパク質との結合)を用いて単離されてもよい。ペプチドは、化学的方法論を用いて、または酵素的に、例えば、加水分解酵素によって切断することができる。
【0159】
本発明の方法において有用なMASP-2阻害ペプチドはまた、従来技法に従って組換え宿主細胞において産生することもできる。MASP-2阻害ペプチドをコードする配列を発現させるために、ペプチドをコードする核酸分子を、発現ベクター内で転写発現を制御する調節配列に機能的に連結し、次いで、宿主細胞に導入しなければならない。プロモーターおよびエンハンサーなどの転写調節配列に加えて、発現ベクターは、翻訳調節配列、および発現ベクターを有する細胞の選択に適したマーカー遺伝子を含んでもよい。
【0160】
MASP-2阻害ペプチドをコードする核酸分子は、「遺伝子合成機(gene machine)」によりホスホルアミダイト法などのプロトコールを用いて合成することができる。遺伝子または遺伝子断片の合成などの適用に化学合成二本鎖DNAが必要である場合には、それぞれの相補鎖が別々に作製される。短い遺伝子(60~80塩基対)の作製は技術的に簡単であり、相補鎖を合成し、次いで、これらをアニーリングすることによって達成することができる。さらに大きな遺伝子を作製するために、合成遺伝子(二本鎖)がモジュール形式で、長さが20~100ヌクレオチドの一本鎖断片から組み立てられる。ポリヌクレオチド合成に関する総説については、例えば、Glick and Pasternak,「Molecular Biotechnology, Principles and Applications of Recombinant DNA」, ASM Press, 1994; Itakura, K., et al., Annu. Rev, Biochem. 53:323, 1984;およびClimie, S., et al., Proc. Nal'l Acad. Sci. USA 87:633, 1990を参照されたい。
【0161】
低分子阻害因子
一部の態様において、MASP-2阻害物質は、低分子量を有する天然物質および合成物質を含む低分子阻害因子、例えば、ペプチド、ペプチドミメティック、および非ペプチド阻害因子(オリゴヌクレオチドおよび有機化合物を含む)である。MASP-2低分子阻害因子は、抗MASP-2抗体の可変領域の分子構造に基づいて作製することができる。
【0162】
低分子阻害因子はまた、コンピュータ計算薬物設計(computational drug design)を用いて、MASP-2結晶構造に基づいて設計および生成されてもよい(Kuntz I.D., et al., Science 257:1078, 1992)。ラットMASP-2の結晶構造は説明されている(Feinberg, H., et al., EMBO J. 22:2348-2359, 2003)。Kuntzらに記載の方法を用いて、MASP-2に結合すると予想される低分子構造のリストを出力するコンピュータプログラム、例えば、DOCKの入力として、MASP-2結晶構造座標が用いられる。このようなコンピュータプログラムの使用は当業者に周知である。例えば、プログラムDOCKを用いて、CambridgeCrystallographicデータベースに見られる化合物と酵素結合部位とのフィット(fit)を評価することによってHIV-1プロテアーゼインヒビターである独特の非ペプチドリガンドを同定するために、HIV-1プロテアーゼインヒビターの結晶構造が用いられた(Kuntz, I.D., et al., J. Mol. Biol. 161:269-288, 1982; DesJarlais, R.L., et al., PNAS 87:6644-6648, 1990)。
【0163】
コンピュータ計算方法によって潜在的なMASP-2阻害因子として同定された低分子構造のリストは、MASP-2結合アッセイ法、例えば、実施例10に記載のMASP-2結合アッセイ法を用いてスクリーニングされる。次いで、MASP-2に結合すると見出された低分子は、MASP-2依存性補体活性化を阻害するかどうか判定するために、機能アッセイ法、例えば、実施例2に記載の機能アッセイ法においてアッセイされる。
【0164】
MASP-2可溶性受容体
他の適切なMASP-2阻害物質は、当業者に公知の技法を用いて作製することができるMASP-2可溶性受容体を含むと考えられる。
【0165】
MASP-2の発現阻害因子
本発明のこの局面の別の態様において、MASP-2阻害物質は、MASP-2依存性補体活性化を阻害することができるMASP-2発現阻害因子である。本発明のこの局面の実施において、代表的なMASP-2発現阻害因子には、MASP-2アンチセンス核酸分子(例えば、アンチセンスmRNA、アンチセンスDNA、またはアンチセンスオリゴヌクレオチド)、MASP-2リボザイム、およびMASP-2 RNAi分子が含まれる。
【0166】
アンチセンスRNA分子およびDNA分子は、MASP-2 mRNAにハイブリダイズし、MASP-2タンパク質の翻訳を阻止することによってMASP-2 mRNAの翻訳を直接遮断するように働く。アンチセンス核酸分子はMASP-2の発現を妨害することができるという条件で、多数の異なる手法で構築されてもよい。例えば、アンチセンス核酸分子は、MASP-2 cDNA(SEQ ID NO:4)のコード領域(またはその一部)の相補鎖を転写できるように、正常な転写方向に対して、MASP-2 cDNA(SEQ ID NO:4)のコード領域(またはその一部)を逆にすることによって構築することができる。
【0167】
アンチセンス核酸分子は、通常、1つの標的遺伝子または複数の標的遺伝子の少なくとも一部と実質的に同一である。しかしながら、発現を阻害するために核酸は完全に同一である必要はない。一般的に、高い相同性を用いて、短いアンチセンス核酸分子の使用を補うことができる。最小パーセント同一性は典型的には約65%超であるが、さらに高いパーセント同一性によって、内因性配列の発現がより効果的に抑制される場合がある。約80%超のかなり高いパーセント同一性が典型的に好ましいが、約95%~完全同一性が典型的に最も好ましい。
【0168】
アンチセンス核酸分子は、標的遺伝子と同じイントロンパターンまたはエキソンパターンを有する必要はない。標的遺伝子の非コードセグメントが、標的遺伝子発現のアンチセンス抑制を達成する点でコードセグメントと等しく有効な場合がある。少なくとも約8個かそれくらいのヌクレオチドのDNA配列がアンチセンス核酸分子として用いられ得るが、さらに長い配列が好ましい。本発明において、有用なMASP-2阻害物質の代表例は、SEQ ID NO:4に示された核酸配列からなるMASP-2 cDNAの相補鎖と少なくとも90パーセント同一のアンチセンスMASP-2核酸分子である。SEQ ID NO:4に示された核酸配列は、SEQ ID NO:5に示されたアミノ酸配列からなるMASP-2タンパク質をコードする。
【0169】
MASP-2 mRNAに結合するアンチセンスオリゴヌクレオチドの標的化は、MASP-2タンパク質合成のレベルを低下させるために用いられ得る別の機構である。例えば、ポリガラクツロナーゼおよびムスカリン2型アセチルコリン受容体の合成は、それぞれのmRNA配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによって阻害される(Chengに対する米国特許第5,739,119号、およびShewmakerに対する米国特許第5,759,829号)。さらに、アンチセンス阻害の例は、核タンパク質サイクリン、多罪耐性遺伝子(MDG1)、ICAM-1、E-セレクチン、STK-1、線条体GABAA受容体、およびヒトEGFを用いて証明されている(例えば、Baracchiniに対する米国特許第5,801,154号; Bakerに対する米国特許第5,789,573号; Considineに対する米国特許第5,718,709号;およびReubensteinに対する米国特許第5,610,288号を参照されたい)。
【0170】
どのオリゴヌクレオチドが本発明において有用であるか当業者が判断することができるシステムが述べられている。このシステムは、転写物内の配列の到達性の指標としてRnaseH切断を用いて標的mRNA内の適切な部位をプローブすることを伴う。Scherr, M., et al., Nucleic Acids Res. 25:5079-5085, 1998; Lloyd, et al., Nucleic Acids Res. 29:3665-3673, 2001。RNAseHに対して脆弱な部位を作製するために、MASP-2転写物のある特定の領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの混合物が、MASP-2を発現する細胞抽出物、例えば、肝細胞に添加され、ハイブリダイズされる。この方法は、宿主細胞内の標的mRNAとの特異的結合を減少させるかまたは防止する二量体、ヘアピン、または他の二次構造を形成する相対的な能力に基づいて、アンチセンス組成物の最適配列選択を予測することができるコンピュータ支援配列選択と組み合わせることができる。これらの二次構造分析および標的部位選択の検討は、OLIGOプライマー分析ソフトウェア(Rychlik, I., 1997)およびBLASTN 2.0.5アルゴリズムソフトウェア(Altschul, S.F., et al., Nucl. Acids Res. 25:3389-3402, 1997)を用いて行うことができる。標的配列に対するアンチセンス化合物は好ましくは長さが約8~約50のヌクレオチドを含む。約9~約35などのヌクレオチドを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドが特に好ましい。本発明者らは、アンチセンスオリゴヌクレオチドに基づく本発明の方法の実施のために、9~35ヌクレオチド(すなわち、長さが9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、または35塩基ほど)の範囲内の全てのオリゴヌクレオチド組成物が非常に好ましいことを意図する。MASP-2 mRNAの非常に好ましい標的領域は、AUG翻訳開始コドンにあるかまたはAUG翻訳開始コドンの近くにある標的領域、およびmRNAの5'領域に実質的に相補的なこれらの配列、例えば、MASP-2遺伝子ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:4)の-10~+10領域である。例示的なMASP-2発現阻害因子を表5に示した。
【0171】
【0172】
前述のように、本明細書で使用する「オリゴヌクレオチド」という用語は、リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)またはその模倣物のオリゴマーまたはポリマーを指す。この用語はまた、天然ヌクレオチド、糖、および共有結合のヌクレオシド間(バックボーン)結合からなるオリゴヌクレオ塩基、ならびに非天然の改変を有するオリゴヌクレオチドをカバーする。これらの改変があると、天然オリゴヌクレオチドでは提供されない、ある特定の望ましい特性、例えば、低い毒性、ヌクレアーゼ分解に対する高い安定性、および多量の細胞取り込みを導入することが可能になる。例示的な態様において、本発明のアンチセンス化合物は、リン酸置換基がホスホロチオエートによって置換されている、アンチセンスオリゴヌクレオチドの寿命を延ばすホスホジエステルバックボーン改変だけ天然DNAと異なる。同様に、オリゴヌクレオチドの一端または両端は、核酸鎖内の隣接する塩基対の間にインターカレートする1種類または複数種のアクリジン誘導体で置換されてもよい。
【0173】
アンチセンスに代わる別のものは「RNA干渉」(RNAi)の使用である。二本鎖RNA(dsRNA)はインビボで哺乳動物において遺伝子サイレンシングを誘発することができる。RNAiおよびコサプレッションの天然機能は、レトロトランスポゾンなどの可動遺伝要素、および活性化した場合に宿主細胞内で異常なRNAまたはdsRNAを産生するウイルスによる侵入からのゲノムの保護であるように思われる(例えば、Jensen, J., et al., Nat. Genet. 27:209-12, 1999を参照されたい)。二本鎖RNA分子は、それぞれの長さが約19~25(例えば、19~23ヌクレオチド)である、二本鎖RNA分子を形成することができる2本のRNA鎖を合成することによって調製することができる。例えば、本発明の方法において有用なdsRNA分子は、表4に列挙された配列およびその相補鎖に対応するRNAを含んでもよい。好ましくは、少なくとも1本のRNA鎖は1~5ヌクレオチドの3'オーバーハングを有する。合成されたRNA鎖は、二本鎖分子を形成する条件下で組み合わされる。このRNA配列は、25ヌクレオチドまたはそれ未満の全長でSEQ ID NO:4の少なくとも8個のヌクレオチド部分を含んでもよい。ある特定の標的に対するsiRNA配列の設計は当技術分野における通常の技術の範囲内である。siRNA配列を設計し、少なくとも70%の発現ノックダウンを保証する商業サービスが利用可能である(Qiagen, Valencia, Calif)。
【0174】
dsRNAは薬学的組成物として投与され、核酸が望ましい標的細胞に導入される公知の方法によって実施することができる。一般的に用いられる遺伝子導入法には、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、およびウイルス法が含まれる。このような方法は、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., 1993に開示される。
【0175】
MASP-2の量および/または生物学的活性を減少させるために、リボザイム、例えば、MASP-2 mRNAを標的とするリボザイムも利用することができる。リボザイムは、リボザイム配列に完全または部分的に相同な配列を有する核酸分子を切断することができる触媒RNA分子である。標的RNAと特異的に対になり、特定の位置のホスホジエステルバックボーンを切断し、それによって、標的RNAを機能的に不活化するRNAリボザイムをコードするリボザイムトランスジーンを設計することができる。この切断を実施する際に、リボザイムそのものは変化せず、従って、再利用し、他の分子を切断することができる。アンチセンスRNAの中にリボザイム配列を含めると、RNA切断活性がアンチセンスRNAに付与され、それによって、アンチセンス構築物の活性が増大する。
【0176】
本発明の実施において有用なリボザイムは、典型的には、標的MASP-2 mRNAの少なくとも一部とヌクレオチド配列において相補的な、少なくとも約9個のヌクレオチドのハイブリダイズ領域、および標的MASP-2 mRNAを切断するように適合された触媒領域を含む(一般的に、EPA No.0321201; WO88/04300; Haseloff, J., et al., Nature 534:585-591, 1988; Fedor, M.J., et al., Proc. Natl. Acad, Sci. USA 87:1668-1672, 1990; Cech, T.R., et al., Ann. Rev, Biochem. 55:599-629, 1986を参照されたい)。
【0177】
リボザイムは、リボザイム配列を組み込んだRNAオリゴヌクレオチドの形で細胞に直接、標的化されてもよく、望ましいリボザイムRNAをコードする発現ベクターとして細胞に導入されてもよい。リボザイムは、アンチセンスポリヌクレオチドについて述べられた手法とほとんど同じ手法で使用および適用することができる。
【0178】
本発明の方法において有用なアンチセンスRNAおよびDNA、リボザイム、ならびにRNAi分子は、DNA分子およびRNA分子を合成するための当技術分野において公知の任意の方法によって調製することができる。これらには、当技術分野において周知のオリゴデオキシリボヌクレオチドおよびオリゴリボヌクレオチドを化学合成するための技法、例えば、固相ホスホルアミダイト化学合成が含まれる。または、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のインビトロ転写およびインビボ転写によって作製されてもよい。このようなDNA配列は、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーターなどの適切なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込んだ多種多様なベクターに組み込まれてもよい。または、使用されるプロモーターに応じて構成的または誘導的にアンチセンスRNAを合成するアンチセンスcDNA構築物を細胞株に安定して導入することができる。
【0179】
安定性を増大させかつ半減期を延長する手段として、DNA分子の様々な周知の改変を導入することができる。有用な改変には、分子の5'末端および/もしくは3'末端へのリボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドの隣接配列の付加、またはオリゴデオキシリボヌクレオチドバックボーン内のホスホジエステラーゼ結合ではなくホスホロチオエートもしくは2'O-メチルの使用が含まれるが、これに限定されない。
【0180】
V.薬学的組成物および送達方法
投薬
別の局面において、本発明は、治療的有効量のMASP-2阻害物質および薬学的に許容される担体を含む組成物を対象に投与することを含む、本明細書において開示された疾患または状態に罹患している対象におけるMASP-2依存性補体活性化の副作用を阻害するための組成物を提供する。MASP-2依存性補体活性化に関連した状態を治療または寛解させるために、MASP-2阻害物質を、治療的に有効な用量で、それを必要とする対象に投与することができる。治療的に有効な用量は、疾患または状態に関連した症状を寛解させるために十分なMASP-2阻害物質の量を指す。
【0181】
MASP-2阻害物質の毒性および治療有効性は、実験動物モデル、例えば、実施例1に記載のヒトMASP-2トランスジーンを発現するマウスMASP-2-/-マウスモデルを用いた標準的な薬学的手順によって求めることができる。このような動物モデルを用いて、NOAEL(無毒性量)およびMED(最小有効量)を標準的な方法を用いて求めることができる。NOAEL効果とMED効果との用量比が治癒比であり、比NOAEL/MEDとして表される。大きな治癒比または指数を示すMASP-2阻害物質が最も好ましい。細胞培養アッセイ法および動物研究から得られたデータを、ヒトでの使用のために、ある範囲の投与量の処方において使用することができる。MASP-2阻害物質の投与量は、好ましくは、毒性がほとんどない、または毒性がない、MEDを含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。
【0182】
任意の化合物製剤について、動物モデルを用いて、治療的に有効な用量を評価することができる。例えば、MEDを含む循環血漿中濃度範囲に達する用量を動物モデルにおいて処方することができる。血漿中のMASP-2阻害物質の定量レベルはまた、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0183】
毒性研究に加えて、有効投与量はまた、生きている対象に存在するMASP-2タンパク質の量およびMASP-2阻害物質の結合親和性に基づいて評価されてもよい。正常ヒト対象におけるMASP-2レベルは500ng/mlの範囲内の低レベルで血清中に存在し、ある特定の対象におけるMASP-2レベルは、Moller-Kristensen M. et al., J. Immunol Methods 282:159-167, 2003に記載の定量MASP-2アッセイ法を用いて決定することができる。
【0184】
一般的に、MASP-2阻害物質を含む、投与される組成物の投与量は、対象の年齢、体重、身長、性別、全身状態(general medical condition)、および既往歴などの要因に応じて変化する。例示として、抗MASP-2抗体などのMASP-2阻害物質は、約0.010~10.0mg/kg対象体重、好ましくは0.010~1.0mg/kg対象体重、より好ましくは0.010~0.1mg/kg対象体重の投与量範囲内で投与することができる。一部の態様において、組成物は、抗MASP-2抗体およびMASP-2阻害ペプチドの組み合わせを含む。
【0185】
ある特定の対象における本発明のMASP-2阻害組成物および方法の治療有効性、ならびに適切な投与量は、当業者に周知の補体アッセイ法に従って決定することができる。補体は非常に多くの特異的産物を生成する。過去十年間に、小さな活性化断片C3a、C4a、およびC5a、ならびに大きな活性化断片iC3b、C4d、Bb、およびsC5b-9を含む、これらの活性化産物の大部分について高感度かつ特異的なッセイが開発され、市販されている。これらのアッセイ法の大部分は、断片の上に露出しているが、新抗原(ネオ抗原)が形成される天然タンパク質の上には露出していない新抗原(ネオ抗原)と反応するモノクローナル抗体を利用する。このために、これらのアッセイ法は非常に簡単かつ特異的である。大部分はELISA技術に頼っているが、C3aおよびC5aの場合は、ラジオイムノアッセイ法が依然として用いられる場合もある。これらの後者のアッセイ法は、処理されていない断片、および循環中に見られる主な形態である、これらの「desArg」断片を両方とも測定する。処理されていない断片およびC5adesArgは細胞表面受容体と結合することによって迅速に切断され、従って、非常に低い濃度で存在する。これに対して、C3adesArgは細胞に結合せず、血漿中に蓄積する。C3a測定は、高感度の経路依存的な補体活性化指標を提供する。第二経路活性化はBb断片を測定することによって評価することができる。膜侵襲経路活性化の液相産物であるsC5b-9の検出は、補体が最後まで活性化されているという証拠を提供する。レクチン経路および古典経路はいずれも同じ活性化産物であるC4aおよびC4dを生成するので、これらの2つの断片を測定しても、これらの2つの経路のどちらが活性化産物を生成したかという情報は得られない。
【0186】
MASP-2依存性補体活性化の阻害は、本発明の方法によるMASP-2阻害物質の投与の結果として生じる補体系成分の以下の変化のうちの少なくとも1つを特徴とする:MASP-2依存性補体活性化系の産物C4b、C3a、C5a、および/もしくはC5b-9(MAC)の生成または産生の阻害(例えば、実施例2に記載のように測定される)、C4切断およびC4b沈着の減少(例えば、実施例10に記載のように測定される)、またはC3切断およびC3b沈着の減少(例えば、実施例10に記載のように測定される)。
【0187】
さらなる物質
MASP-2阻害物質を含む組成物および方法は、任意で、MASP-2阻害物質の活性を増大し得る、または関連する治療機能を相加的もしくは相乗的に提供し得る1種類または複数種のさらなる治療剤を含んでもよい。例えば、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態に罹患している対象を処置する状況において、1種類または複数種のMASP-2阻害物質は、1種類もしくは複数種のさらなる抗血管形成剤(血管新生抑制剤とも呼ばれる)および/または1種類もしくは複数種の化学療法剤と組み合わせて(同時投与を含めて)投与されてもよい。
【0188】
MASP-2阻害物質は、他の抗血管形成剤、例えば、VEGFアンタゴニスト、例えば、VEGFに結合する抗体、例えば、「ベバシズマブ(BV)」として知られる抗体(アバスチン(登録商標)とも知られる)、VEGF-A、もしくはVEGF-C、もしくはVEGF-A受容体(例えば、KDR受容体もしくはFlt-1受容体)に結合する抗体、抗PDGFR阻害物質、例えば、Gleevec(登録商標)(メシル酸イマチニブ)、VEGF受容体シグナル伝達を遮断する低分子(例えば、PTK787/ZK2284、SU6668、SUTENT.RTM./SU11248(リンゴ酸スニチニブ))、AMG706、または、例えば、国際特許出願WO2004/113304に記載のものと併用することができる。抗血管形成剤はまた、天然の血管形成阻害物質、例えば、アンギオスタチン、エンドスタチンなども含む。例えば、Klagsbrun and D'Amore (1991) Annu. Rev. Physiol. 53:217-39; Streit and Detmar (2003) Oncogene 22:3172-3179(例えば、悪性黒色腫における抗血管形成療法を列挙している表3); Ferrara & Alitalo (1999) Nature Medicine 5(12):1359-1364; Tonini et al. (2003) Oncogene 22:6549-6556(例えば、公知の抗血管形成因子を列挙している表2)、およびSato (2003) Int. J. Clin. Oncol. 8:200-206(例えば、臨床試験で用いられる抗血管形成剤を列挙している表1)を参照されたい。
【0189】
MASP-2阻害物質は、他の抗癌剤および/または化学療法剤、例えば、アバレリックス、アクチノマイシンD、アドリアマイシン、アルデスロイキン、アレムツズマブ、アリトレチノイン、アロプリノール、アルトレタミン、アミホスチン、アナキンラ、アナストロゾール、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ、アザシチジン、BCG Live、ベバクジマブ(bevacuzimab)、ベキサロテン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カルステロン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セツキシマブ、クロランブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダルテパリン(例えば、ナトリウム)、ダルベポエチンアルファ、ダサチニブ、ダウノルビシン、ダウノマイシン、デシタビン、デニロイキン、デニロイキンジフチトクス、デクスラゾキサン、ドセタキセル、ドキソルビシン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エクリズマブ、エピルビシン(例えば、HCl)、エポエチンアルファ、エルロチニブ、エストラムスチン、エトポシド(例えば、リン酸塩)、エキセメスタン、フェンタニル(例えば、クエン酸塩)、フィルグラスチム、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、5-FU、フルベストラント、ゲフィチニブ、ゲムシタビン(例えば、HCl)、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴセレリン(例えば、酢酸塩)、ヒストレリン(例えば、酢酸塩)、ヒドロキシウレア、イブリツモマブチウキセタン、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ(例えば、メシル酸塩)、インターフェロンアルファ-2b、イリノテカン、ラパチニブジトシラート、レナリドマイド、レトロゾール、ロイコボリン、リュープロリド(例えば、酢酸塩)、レバミゾール、ロムスチン、CCNU、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、メゲストロール、メルファラン(L-PAM)、メルカプトプリン(6-MP)、メスナ、メトトレキセート、メトキサレン、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン、フェンプロピオン酸ナンドロロン、ネララビン、ノフェツモマブ(nofetumomab)、オプレルベキン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パリフェルミン、パミドロネート、パニツムマブ、ペガデマーゼ、ペグアスパルガーゼ、ペグフィルグラスチム、ペグインターフェロンアルファ-2b、ペメトレキセド(例えば、二ナトリウム)、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、ポルフィマー(例えば、ナトリウム)、プロカルバジン、キナクリン、ラスブリカーゼ、リツキシマブ、サルグラモスチム、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、スニチニブ(例えば、マレイン酸塩)、タルク、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド(VM-26)、テストラクトン、サリドマイド、チオグアニン(6-TG)、チオテパ、チオテパ、チオテパ、トポテカン(例えば、hcl)、トレミフェン、トシツモマブ/I-131(トシツモマブ)、トラスツズマブ、トレチノイン(ATRA)、ウラシルマスタード、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ボリノスタット、ゾレドロネート、およびゾレドロン酸と併用することができる。
【0190】
薬学的担体および送達ビヒクル
一般的に、他の任意の選択された治療剤と組み合わされた本発明のMASP-2阻害物質組成物は、適宜、薬学的に許容される担体中に含まれる。担体は、無毒で、生体適合性があり、MASP-2阻害物質(およびそれと組み合わされた他の任意の治療剤)の生物学的活性に悪影響を及ぼさないように選択される。ペプチド用の例示的な薬学的に許容される担体は、Yamadaに対する米国特許第5,211,657号に記載されている。本発明において有用な抗MASP-2抗体および阻害ペプチドは、経口投与、非経口投与、または外科的投与を可能にする、固体、半固体、ゲル、液体、または気体の形をした調製物、例えば、錠剤、カプセル、散剤、顆粒、軟膏、溶液、デポジトリ(depository)、吸入剤、および注射剤に処方されてもよい。本発明はまた、医療装置などをコーティングすることによる組成物の局所投与も意図する。
【0191】
注射、注入、または灌注、および局部送達を介した非経口送達に適した担体には、蒸留水、生理的リン酸緩衝食塩水、通常のリンガー液もしくは乳酸加リンガー液、デキストロース液、ハンクス液、またはプロパンジオールが含まれる。さらに、溶媒または分散媒として滅菌不揮発性油が使用されることもある。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、任意の生体適合性油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸が注射液の調製において有用である。担体および物質は、液体、懸濁液、重合可能もしくは重合不可能なゲル、ペースト、または軟膏として配合されてもよい。
【0192】
担体はまた、物質の送達を持続(すなわち、延長、遅延、もしくは調節)するために、または治療剤の送達、取り込み、安定性、もしくは薬物動態を増強するために送達ビヒクルを含んでもよい。このような送達ビヒクルは、非限定的な例として、タンパク質、リポソーム、炭水化物、合成有機化合物、無機化合物、ポリマーまたはコポリマーのヒドロゲル、およびポリマーミセルからなる、微粒子、マイクロスフェア、ナノスフェア、またはナノ粒子を含んでもよい。適切なヒドロゲルおよびミセル送達システムには、WO2004/009664A2に開示されるPEO:PHB:PEOコポリマーおよびコポリマー/シクロデキストリン複合体、ならびに米国特許出願公開第2002/0019369A1号に開示されるPEOおよびPEO/シクロデキストリン複合体が含まれる。このようなヒドロゲルは目的の作用部位に局所に注射されてもよく、持効性デポーを形成するように皮下または筋肉内に注射されてもよい。
【0193】
関節内送達の場合、MASP-2阻害物質は、注射可能な前記の液体担体もしくはゲル担体、注射可能な前記の持効性送達ビヒクル、またはヒアルロン酸もしくはヒアルロン酸誘導体の中に入れて運ばれてもよい。
【0194】
非ペプチド物質の経口投与の場合、MASP-2阻害物質は、スクロース、コーンスターチ、またはセルロースなどの不活性な増量剤または希釈剤の中に入れて運ばれてもよい。
【0195】
局部投与の場合、MASP-2阻害物質は、軟膏、ローション剤、クリーム、ゲル、点眼薬、坐剤、スプレー、液体もしくは粉末の中に入れて運ばれてもよく、ゲルまたはマイクロカプセル送達システムの中に入れて経皮パッチを介して運ばれてもよい。
【0196】
エアゾール剤、定量吸入器、ドライパウダー吸入器、およびネブライザーを含む様々な鼻送達システムおよび肺送達システムが開発中であり、それぞれ、エアゾール剤、吸入剤、または噴霧送達ビヒクルの中に入れて本発明の送達に適切に合わることができる。
【0197】
くも膜下腔内(IT)送達または脳室内(ICV)送達の場合、適切に滅菌した送達システム(例えば、液体;ゲル、懸濁液など)を用いて、本発明の組成物を投与することができる。
【0198】
本発明の組成物はまた、生体適合性の賦形剤、例えば、分散剤または湿潤剤、懸濁剤、希釈剤、緩衝液、浸透促進剤、乳化剤、結合剤、増粘剤、調味料(経口投与の場合)を含んでもよい。
【0199】
抗体およびペプチドのための薬学的担体
抗MASP-2抗体および阻害ペプチドに関してより具体的には、例示的な製剤を、水、油、食塩水、グリセロール、またはエタノールなどの滅菌液体でもよい薬学的担体と共に、生理学的に許容される希釈剤に溶解した化合物の注射投与量の溶液または懸濁液として非経口投与することができる。さらに、抗MASP-2抗体および阻害ペプチドを含む組成物中には、補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質などが存在してもよい。薬学的組成物のさらなる成分には、石油(例えば、動物由来、野菜由来、または合成由来の石油)、例えば、ダイズ油および鉱油が含まれる。一般的に、グリコール、例えば、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールが注射液に好ましい液体担体である。
【0200】
抗MASP-2抗体および阻害ペプチドはまた、活性物質を徐放または拍動放出(pulsatile release)するように処方することができるデポー注射剤または移植片調製物の形で投与することができる。
【0201】
発現阻害因子のための薬学的に許容される担体
本発明の方法において有用な発現阻害因子に関してより具体的には、前記の発現阻害因子および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む組成物が提供される。該組成物はコロイド分散系をさらに含んでもよい。
【0202】
発現阻害因子を含む薬学的組成物には、溶液、エマルジョン、およびリポソーム含有製剤が含まれ得るが、これに限定されない。これらの組成物は、前もって形成された液体、自己乳化固体、および自己乳化半固体を含むが、これに限定されない様々な成分から生成することができる。このような組成物の調製は、典型的には、発現阻害因子を、以下のうちの1つまたは複数と組み合わせることを含む:緩衝液、酸化防止剤、低分子量ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、グルコース、スクロース、またはデキストリンを含む炭水化物、EDTAなどのキレート剤、グルタチオン、ならびに他の安定剤および賦形剤。適切な希釈剤の例は、中性緩衝食塩水または非特異的血清アルブミンと混合された食塩水である。
【0203】
一部の態様において、前記組成物は、典型的には、ある液体を液滴の形で別の液体の中に分散させた不均一系であるエマルジョンとして調製および処方することができる(Idson, Pharmaceutical Dosage Forms, Vol.1, Rieger and Banker (eds.), Marcek Dekker, Inc., N.Y., 1988を参照されたい)。エマルジョン製剤において用いられる天然乳化剤の例には、アラビアゴム、蜜ろう、ラノリン、レシチン、およびホスファチドが含まれる。
【0204】
一態様において、核酸を含む組成物をマイクロエマルジョンとして処方することができる。本明細書で使用するマイクロエマルジョンは、単一の、光学的に等方な、かつ熱力学的に安定した液体溶液である、水、油、および両親媒性物質の系を指す(Rosoff, Pharmaceutical Dosage Forms, Vol.1を参照されたい)。本発明の方法はまた、アンチセンスオリゴヌクレオチドを望ましい部位に導入および送達するためにリポソームを使用することがある。
【0205】
局部投与用の発現阻害因子の薬学的組成物および製剤は、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム、ゲル、点眼薬、坐剤、スプレー、液体、および粉末を含んでもよい。従来の薬学的担体、ならびに水性、粉末、または油性の主剤および増粘剤などが用いられてもよい。
【0206】
投与の方法
MASP-2阻害物質を含む薬学的組成物は、局所投与方法または全身投与方法が、治療されている状態に最も適しているかどうかに応じて多くの手法で投与することができる。さらに、本発明の組成物を移植可能な医療装置の表面に、または移植可能な医療装置にコーティングするかまたは組み込むことによって、本発明の組成物を送達することができる。
【0207】
全身送達
本明細書で使用する「全身送達」および「全身投与」という用語は、筋肉内(IM)投与経路、皮下投与経路、静脈内(IV)投与経路、動脈内投与経路、吸入投与経路、舌下投与経路、頬投与経路、局部投与経路、経皮投与経路、鼻投与経路、直腸投与経路、腟投与経路、および送達物質を1つまたは複数の目的の治療作用部位に効果的に分散させる他の投与経路を含む、経口経路および非経口経路を含むが、これに限定されないことが意図される。本組成物の好ましい全身送達経路には、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、および吸入経路が含まれる。本発明の特定の組成物において用いられる選択された物質の正確な全身投与経路は、部分的には、ある特定の投与経路に関連した代謝変換経路に対する物質感受性を説明するように決定されることが理解されると考えられる。例えば、ペプチド物質は、最も適切には、経口以外の経路によって投与することができる。
【0208】
MASP-2阻害抗体およびポリペプチドを、それを必要とする対象に任意の適切な手段によって送達することができる。MASP-2抗体およびポリペプチドの送達方法は、経口投与経路、肺投与経路、非経口投与経路(例えば、筋肉内投与経路、腹腔内投与経路、静脈内(IV)投与経路、もしくは皮下注射投与経路)、吸入投与経路(例えば、細粉製剤を介した吸入投与経路)、経皮投与経路、鼻投与経路、腟投与経路、直腸投与経路、または舌下投与経路を含み、それぞれの投与経路に適した剤形で処方することができる。
【0209】
代表的な例として、ポリペプチドを吸収することができる身体の膜、例えば、鼻、胃腸、および直腸の膜に適用することによって、MASP-2阻害抗体およびペプチドを生体内に導入することができる。ポリペプチドは典型的には浸透促進剤と共に吸収性の膜に適用される(例えば、Lee, V.H.L., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Sys. 5:69, 1988; Lee, V.H.L., J. Controlled Release 13:213, 1990; Lee, V.H.L,, Ed., Peptide and Protein Drug Delivery, Marcel Dekker, New York(1991); DeBoer, A.G., et al., J. Controlled Release 13:241, 1990を参照されたい)。例えば、STDHFは、胆汁塩と構造が類似し、鼻送達用の浸透促進剤として用いられてきたステロイド性界面活性剤であるフシジン酸合成誘導体である(Lee, W.A., Biopharm. 22, Nov./Dec. 1990)。
【0210】
酵素分解からポリペプチドを保護するために、MASP-2阻害抗体およびポリペプチドを脂質などの別の分子と結合させて導入することができる。例えば、ある特定のタンパク質を体内の酵素加水分解から保護し、従って、半減期を延長するために、ポリマー、特にポリエチレングリコール(PEG)の共有結合が用いられてきた(Fuertges, P., et al., J. Controlled Release 11:139, 1990)。タンパク質送達のための多くのポリマー系が報告されている(Bae, Y.H., et al., J. Controlled Release 9:271, 1989; Hori, R., et al., Pharm. Res. 6:813, 1989:Yamakawa, L, et al., J. Pharm. Sci. 79:505, 1990; Yoshihiro, I., et al., Controlled Release 10:195, 1989; Asano, M., et al., J. Controlled Release 9:111, 1989; Rosenblatt, J., et al., J. Controlled Release 9:195, 1989; Makino, K., J. Controlled Release 12:235, 1990; Takakura, Y., et al., J. Pharm. Sci. 78:117, 1989; Takakura, Y., et al., J. Pharm. Sci. 78:219, 1989)。
【0211】
最近、血清安定性および循環半減期が改善したリポソームが開発された(例えば、Webbに対する米国特許第5,741,516号を参照されたい)。さらに、潜在的な薬物担体としてのリポソームおよびリポソーム様調製の様々な方法が詳しく調べられている(例えば、Szokaに対する米国特許第5,567,434号;Yagiに対する米国特許第5,552,157号;Nakamoriに対する米国特許第5,565,213号;Shinkarenkoに対する米国特許第5,738,868号;およびGaoに対する米国特許第5,795,587号を参照されたい)。
【0212】
経皮適用の場合、MASP-2阻害抗体およびポリペプチドは担体および/またはアジュバントなどの他の適切な成分と組み合わされてもよい。このような他の成分が、目的の投与のために薬学的に許容される必要があり、かつ組成物の活性成分の活性を分解することができないことを除けば、該成分がどういったものかには制限はない。適切なビヒクルの例には、精製コラーゲンを含む、または含まない、軟膏、クリーム、ゲル、または懸濁液が含まれる。MASP-2阻害抗体およびポリペプチドはまた、好ましくは、液体または半液体の形で、経皮パッチ、硬膏、および包帯に含浸されてもよい。
【0213】
本発明の組成物は、望ましいレベルの治療効果を維持するよう決定された間隔で定期的に全身投与されてもよい。例えば、組成物は、例えば、皮下注射によって2~4週間ごとにまたはそれより少ない頻度で投与されてもよい。投与計画は、物質の組み合わせの作用に影響を及ぼし得る様々な要因を考慮して医師によって決定されると考えられる。これらの要因は、治療されている状態の進行の程度、患者の年齢、性別、および体重、ならびに他の臨床要因を含むと考えられる。それぞれの個々の物質の投与量は、組成物に含まれるMASP-2阻害物質、ならびに任意の薬物送達ビヒクル(例えば、持効性送達ビヒクル)の存在および内容の関数として変化すると考えられる。さらに、送達物質の投与頻度および薬物動態学的挙動の変動の原因となるように投与量を調節することができる。
【0214】
局所送達
本明細書で使用する「局所」という用語は、目的の限局作用の部位の中に、または目的の限局作用の部位の周囲に薬物を適用することを包含し、例えば、皮膚または他の患部組織への局部送達、眼送達、くも膜下腔内(IT)、脳室内(ICV)、関節内、洞内、頭蓋内、もしくは小胞内の投与、留置、または灌注を含んでもよい。局所投与は、低用量の投与が全身副作用を回避するために、ならびに局所送達部位に活性物質を送達および濃縮するタイミングをより正確に制御するために好ましい場合がある。局所投与は、代謝、血流などの患者間のばらつきに関係なく標的部位において既知濃度を供給する。改善された投与量制御は直接的な送達方法によっても提供される。
【0215】
MASP-2阻害物質の局所送達は、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態を処置するための外科的方法の状況において、例えば、眼の手術または癌に関連する手術などの処置中に行うことができる。
【0216】
治療レジメン
予防用途では、MASP-2阻害物質を含む薬学的組成物は、血管形成依存性疾患もしくは血管形成依存性状態にかかりやすい対象、またはそうでなければ血管形成依存性疾患もしくは血管形成依存性状態のリスクのある対象に、血管形成を阻害し、それによって、状態の症状を無くすか、または状態の症状を発症するリスクを小さくするために十分な量で投与される。一部の態様において、薬学的組成物は、血管形成依存性疾患もしくは血管形成依存性状態に罹患していると疑われる対象、または血管形成依存性疾患もしくは血管形成依存性状態に既に罹患している対象に、状態の症状を軽減するか、または少なくとも部分的に低減するために十分な治療的有効量で投与される。予防レジメンおよび治療レジメンの両方において、MASP-2阻害物質を含む組成物は、対象において十分な治療アウトカムが得られるまで、いくつかの投与量に分けて投与されてもよい。本発明のMASP-2阻害組成物の適用は、血管形成に関連する急性状態の処置の場合は、組成物の単回投与によって、または限定された一連の投与によって行われてもよい。または、組成物は、血管形成に関連する慢性状態の処置の場合は、長期間にわたって定期的な間隔で投与されてもよい。
【0217】
予防レジメンおよび治療レジメンの両方において、MASP-2阻害物質を含む組成物は、対象において十分な治療アウトカムが得られるまで、いくつかの投与量に分けて投与されてもよい。本発明の一態様において、MASP-2阻害物質はMASP-2抗体を含み、MASP-2抗体は、適切には、0.1mg~10,000mg、さらに適切には1.0mg~5,000mg、さらに適切には10.0mg~2,000mg、さらに適切には10.0mg~1,000mg、さらにより適切には50.0mg~500mgの投与量で成人患者(例えば、70kgの平均成人体重)に投与されてもよい。小児患者の場合、投与量は患者の体重に比例して調節することができる。本発明のMASP-2阻害組成物の適用は、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態、例えば、血管形成依存性癌、血管形成依存性良性腫瘍、または眼血管形成性疾患もしくは眼血管形成性状態に罹患している対象あるいはこれを発症するリスクがある対象の処置の場合は、組成物の単回投与によって、または限定された一連の投与によって行われてもよい。または、前記組成物は、血管形成依存性疾患または血管形成依存性状態、例えば、血管形成依存性癌、血管形成依存性良性腫瘍、または眼血管形成性疾患もしくは眼血管形成性状態に罹患している対象あるいはこれを発症するリスクがある対象の処置の場合は、長期間にわたって定期的な間隔で、例えば、毎日、週2回、毎週、隔週、毎月、または隔月、投与されてもよい。
【0218】
予防レジメンおよび治療レジメンの両方において、MASP-2阻害物質を含む組成物は、対象において十分な治療アウトカムが得られるまで、いくつかの投与量に分けて投与されてもよい。
【0219】
一態様において、MASP-2阻害物質を含む薬学的組成物は、血管形成を阻害するために有効な量で、眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態に罹患している対象に投与される。一態様において、眼血管形成性疾患または眼血管形成性状態は、AMD、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、およびルベオーシスからなる群より選択される。
【0220】
別の態様において、MASP-2阻害物質を含む薬学的組成物は、血管形成を阻害するために有効な量で、血管形成依存性癌に罹患している対象に投与される。一態様において、血管形成依存性癌は、固形腫瘍、血液由来腫瘍、ハイリスクカルチノイド腫瘍、および腫瘍転移からなる群より選択される。一態様において、前記組成物は、腫瘍血管形成を阻害するために有効な量で投与される。一態様において、対象は腫瘍転移に罹患しているか、または腫瘍転移のリスクがあり、前記組成物は、腫瘍転移を阻害するために有効な量で投与される。一態様において、対象は、結腸直腸癌、乳癌、肺癌、腎臓癌、肝臓癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌、神経膠腫、消化管間質癌、リンパ腫、黒色腫、およびカルチノイド腫瘍からなる群より選択される血管形成依存性癌に罹患している。一態様において、対象は良性腫瘍に罹患しており、前記組成物は、良性腫瘍の血管形成を阻害するために有効な量で投与される。
【実施例0221】
VI.実施例
以下の実施例は、本発明の実施について意図された最良の形態の単なる例示であり、本発明を限定すると解釈してはならない。本明細書中の全ての文献引用が明確に参照により組み入れられる。
【0222】
実施例1
本実施例は、MASP-2が欠損しているが(MASP-2-/-)MAp19は十分な(MAp19+/+)マウス系統の生成について述べる。
【0223】
材料および方法:
図3に示したように、セリンプロテアーゼドメインをコードするエキソンを含む、マウスMASP-2のC末端をコードする3つのエキソンを破壊するために、ターゲティングベクターpKO-NTKV1901を設計した。pKO-NTKV1901を用いて、マウスES細胞株E14.1a(SV129Ola)をトランスフェクトした。ネオマイシン耐性およびチミジンキナーゼ感受性のクローンを選択した。600個のESクローンをスクリーニングした。このうち4個の異なるクローンが同定され、
図3に示したように、サザンブロットによって、予想された選択的標的化および組換え事象を含むことが立証された。胚移植によって、これら4個の陽性クローンからキメラを生成した。次いで、キメラを遺伝的バックグラウンドC57/BL6において戻し交配して、トランスジェニック雄を作製した。トランスジェニック雄を雌と交配させてF1を得た。子孫の50%は、破壊されたMASP-2遺伝子についてヘテロ接合性を示した。ヘテロマウスを交雑させて、ホモMASP-2欠損子孫、ヘテロマウス、および野生型マウスをそれぞれ1:2:1の比で得た。
【0224】
結果および表現型:結果として生じたホモMASP-2-/-(すなわち、遺伝子標的化欠損)マウスは生存可能であり、生殖能力があることが見出され、正しい標的化事象を確認するためにサザンブロットによって、MASP-2 mRNAの非存在を確認するためにノザンロットによって、MASP-2タンパク質の非存在を確認するためにウエスタンブロットによって、MASP-2欠損であることが立証された(データ示さず)。LightCycler装置による時間分解型RT-PCRを用いて、MAp19 mRNAの存在およびMASP-2 mRNAの非存在がさらに確認された。MASP-2-/-マウスは、予想通り、MAp19、MASP-1、およびMASP-3のmRNAおよびタンパク質を発現し続ける(データ示さず)。MASP-2-/-マウスにおけるプロペルジン、B因子、D因子、C4、C2、およびC3のmRNAの存在および量をLightCycler分析によって評価し、野生型同腹仔対照のものと同一であることが見出された(データ示さず)。ホモMASP-2-/-マウスに由来する血漿は、実施例2にさらに記載のように、レクチン経路を介した補体活性化が完全に欠損している。
【0225】
純粋なC57BL6バックグラウンドのMASP-2-/-系統の生成:MASP-2-/-マウスをC57BL6純系と9世代にわたって戻し交配した後に、MASP-2-/-系統を実験動物モデルとして使用した。
【0226】
マウスMASP-2-/-, MAp19+/+であり、ヒトMASP-2トランスジーン(マウスMASP-2ノックアウトおよびヒトMASP-2ノックイン)を発現するトランスジェニックマウス系統も以下のように生成した。
【0227】
材料および方法:
図4に示したように、最初の3つのエキソン(エキソン1~エキソン3)を含むヒトMASP2遺伝子のプロモーター領域の後に、次の8つのエキソンからなるコード配列に相当するcDNA配列を含み、それによって、その内因性プロモーターによって駆動される完全長MASP-2タンパク質をコードする「ミニhMASP-2」と呼ばれるヒトMASP-2をコードするミニ遺伝子(SEQ ID NO:49)を構築した。欠損マウスMASP2遺伝子を、遺伝子導入により発現されるヒトMASP-2で置換するために、ミニhMASP-2構築物をMASP-2-/-受精卵に注入した。
【0228】
実施例2
本実施例はレクチン経路を介した補体活性化にはMASP-2が必要であることを証明する。
【0229】
方法および材料:
レクチン経路特異的C4切断アッセイ法:C4切断アッセイ法は、Petersen, S.V., et al., J. Immunol Methods 257:107(2001)によって述べられており、L-フィコリンに結合する黄色ブドウ球菌由来リポテイコ酸(LTA)に起因するレクチン経路活性化を測定する。下記のようにプレートをLPSおよびマンナンまたはザイモサンでコーティングした後に、MASP-2-/-マウスに由来する血清を添加することによって、Petersen et al., (2001)に記載のアッセイ法がMBLを介したレクチン経路活性化を測定するように適合化された。このアッセイ法を、古典経路によるC4切断の可能性を取り除くようにも変更した。これは、レクチン経路認識成分とそのリガンドとの高親和性結合を可能にするが、内因性C4の活性化を阻止し、それによって、C1複合体を解離することによって古典経路の関与を排除する、1M NaClを含有する試料希釈緩衝液を使用することによって達成された。簡単に述べると、変更されたアッセイ法では、血清試料(高塩(1M NaCl)緩衝液で希釈した)をリガンドコーティングプレートに添加した後に、生理学的濃度の塩を含む緩衝液に溶解した一定量の精製C4を添加した。MASP-2を含有する結合した認識複合体はC4を切断し、その結果、C4bが沈着する。
【0230】
アッセイ方法:
(1)Nunc Maxisorbマイクロタイタープレート(Maxisorb, Nunc, カタログ番号442404, Fisher Scientific)を、コーティング緩衝液(15mM Na2CO3, 35mM NaHCO3, pH9.6)で希釈した1μg/mlマンナン(M7504 Sigma)または他の任意のリガンド(例えば、以下の列挙したリガンド)でコーティングした。
【0231】
以下の試薬をアッセイ法において使用した:
a.マンナン(100μlコーティング緩衝液中に1μg/ウェルのマンナン(M7504 Sigma));
b.ザイモサン(100μlコーティング緩衝液中に1μg/ウェルのザイモサン(Sigma));
c.LTA(100μlコーティング緩衝液中に1μg/ウェルまたは20μlメタノール中に2μg/ウェル);
d.コーティング緩衝液中に1μgのH-フィコリン特異的Mab 4H5;
e.エロコッカス・ビリダンス(Aerococcus viridans)に由来するPSA(100μlコーティング緩衝液中に2μg/ウェル);
f.コーティング緩衝液中に100μl/ウェルのホルマリン固定黄色ブドウ球菌DSM20233(OD550=0.5)。
【0232】
(2)プレートを4℃で一晩インキュベートした。
【0233】
(3)一晩のインキュベーション後、プレートを0.1%HSA-TBSブロッキング緩衝液(0.1%(w/v)HSAを含む10mM Tris-CL、140mM NaCl、1.5mM NaN3、pH7.4)とともに1~3時間インキュベートし、次いで、プレートをTBS/tween/Ca2+(0.05%Tween20および5mM CaCl2、1mM MgCl2、pH7.4を含むTBS)で3回洗浄することによって、残存するタンパク質結合部位を飽和させた。
【0234】
(4)試験しようとする血清試料をMBL結合緩衝液(1M NaCl)で希釈し、希釈試料をプレートに添加し、4℃で一晩インキュベートした。緩衝液だけが入っているウェルを陰性対照として使用した。
【0235】
(5)4℃で一晩のインキュベーション後、プレートをTBS/tween/Ca2+で3回洗浄した。次いで、ヒトC4(100μl/ウェル。1μg/ml。BBS(4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、pH7.4)で希釈した)をプレートに添加し、37℃で90分間インキュベートした。プレートをTBS/tween/Ca2+で3回、再洗浄した。
【0236】
(6)C4b沈着を、アルカリホスファターゼ結合ニワトリ抗ヒトC4c(TBS/tween/Ca2+で1:1000に希釈した)で検出し、アルカリホスファターゼ結合ニワトリ抗ヒトC4cをプレートに添加し、室温で90分間インキュベートした。次いで、プレートをTBS/tween/Ca2+で3回、再洗浄した。
【0237】
(7)100μlのp-ニトロフェニルリン酸基質溶液を添加し、室温で20分間インキュベートし、マイクロタイタープレートリーダーにおいてOD405を読み取ることによって、アルカリホスファターゼを検出した。
【0238】
結果:
図5A~Bは、MASP-2+/+(十字)、MASP-2+/-(黒丸)、およびMASP-2-/-(黒三角)の血清希釈液中のマンナン(
図5A)およびザイモサン(
図5B)におけるC4b沈着の量を示す。
図5Cは、野生型血清に対して正規化されたC4b沈着量の測定に基づく、野生型マウス(n=5)と比較した、MASP-2-/+マウス(n=5)およびMASP-2-/-マウス(n=4)の、ザイモサン(白色の棒)またはマンナン(影付きの棒)でコーティングされたプレート上での相対的C4コンバターゼ活性を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図5A~Cに示したように、MASP-2-/-マウスに由来する血漿は、マンナンコーティングプレート上およびザイモサンコーティングプレート上でのレクチン経路を介した補体活性化が完全に欠損している。これらの結果から、MASP-2はレクチン経路のエフェクター成分であることがはっきりと証明される。
【0239】
組換えMASP-2はMASP-2-/-マウスに由来する血清中でレクチン経路依存性C4活性化を再構成する
MASP-2の非存在がMASP-2-/-マウスにおけるレクチン経路依存性C4活性化消失の直接の原因であることを証明するために、血清試料への組換えMASP-2タンパク質の添加の効果を前記のC4切断アッセイ法において調べた。機能的に活性なマウスMASP-2組換えタンパク質および触媒不活性マウスMASP-2A(セリンプロテアーゼドメイン中の活性部位セリン残基がアラニン残基で置換された)組換えタンパク質を以下の実施例3に記載のように産生および精製した。4匹のMASP-2-/-マウスからプールされた血清を、漸増タンパク質濃度の組換えマウスMASP-2または不活性組換えマウスMASP-2Aとプレインキュベートし、C4コンバターゼ活性を前記のようにアッセイした。
【0240】
結果:
図6に示したように、機能的に活性なマウス組換えMASP-2タンパク質(白三角として示した)をMASP-2-/-マウスから得られた血清に添加すると、レクチン経路依存性C4活性化がタンパク質濃度依存的に回復したのに対して、触媒不活性マウスMASP-2Aタンパク質(星として示した)はC4活性化を回復しなかった。
図6に示した結果は、プールされた野生型マウス血清を用いて観察されたC4活性化(点線として示した)に対して正規化されている。
【0241】
実施例3
本実施例は、組換え完全長ヒトMASP-2、ラットおよびマウスのMASP-2、MASP-2に由来するポリペプチド、ならびに触媒不活化変異型MASP-2の組換え発現およびタンパク質産生について述べる。
【0242】
完全長ヒトMASP-2、マウスMASP-2、およびラットMASP-2の発現:
ヒトMASP-2の完全長cDNA配列(SEQ ID NO:4)を、CMVエンハンサー/プロモーター領域の制御下で真核生物発現を駆動する哺乳動物発現ベクターpCI-Neo(Promega)にもサブクローニングした(Kaufman R.J. et al., Nucleic Acids Research 19:4485-90, 1991; Kaufman, Methods in Emymology, 185:537-66(1991)に記載)。完全長マウスcDNA(SEQ ID NO:50)およびラットMASP-2 cDNA(SEQ ID NO:53)をそれぞれpED発現ベクターにサブクローニングした。次いで、Maniatis et al., 1989に記載の標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション手順を用いて、MASP-2発現ベクターを、付着性のチャイニーズハムスター卵巣細胞株DXB1にトランスフェクトした。これらの構築物でトランスフェクトされた細胞は非常にゆっくりと増殖した。このことは、コードされたプロテアーゼが細胞傷害性であることを意味する。
【0243】
別のアプローチでは、MASP-2の内因性プロモーターによって駆動されるヒトMASP-2 cDNAを含有するミニ遺伝子構築物(SEQ ID NO:49)をチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)に一過的にトランスフェクトした。ヒトMASP-2タンパク質を培養培地に分泌させ、下記のように単離した。
【0244】
完全長触媒不活性MASP-2の発現:
原理:認識小成分MBLまたはフィコリン(L-フィコリン、H-フィコリン、もしくはM-フィコリンのいずれか)がそれぞれの炭水化物パターンに結合した後に、MASP-2は自己触媒切断によって活性化される。血清からのMASP-2の単離手順中に、または組換え発現後の精製中に、MASP-2を活性化する自己触媒切断が起こることが多い。抗原として使用するための、より安定したタンパク質調製物を得るために、ラットではプロテアーゼドメインの触媒三残基(catalytic triad)に存在するセリン残基をアラニン残基で(SEQ ID NO:55 Ser617からAla617)、またはマウスでは(SEQ ID NO:52 Ser617からAla617)で;ヒトでは(SEQ ID NO:3 Ser618からAla618)で置換することによって、MASP-2Aと呼ばれる触媒不活性型MASP-2を作製した。
【0245】
触媒不活性なヒトMASP-2Aタンパク質およびマウスMASP-2Aタンパク質を生成するために、表6に示したオリゴヌクレオチドを用いて部位特異的変異誘発を行った。酵素的に活性なセリンをコードするヒトcDNAおよびマウスcDNAの領域にアニーリングするように表6のオリゴヌクレオチドを設計した。セリンコドンをアラニンコドンに変えるためにオリゴヌクレオチドはミスマッチを含有する。例えば、開始コドンから酵素的に活性なセリンまで、このセリンから停止コドンまでの領域を増幅して、Ser618からAla618への変異を含有する変異MASP-2Aからの完全オープンリーディングフレームを生成するために、PCRオリゴヌクレオチドSEQ ID NO:56~59をヒトMASP-2 cDNA(SEQ ID NO:4)と組み合わせて使用した。アガロースゲル電気泳動およびバンド調製の後にPCR産物を精製し、標準的なテーリング手順を用いて単一アデノシン重複を作製した。次いで、アデノシン尾部のあるMASP-2AをpGEM-T easyベクターにクローニングし、形質転換によって大腸菌に導入した。
【0246】
SEQ ID NO:64およびSEQ ID NO:65をキナーゼ処理し、これらの2つのオリゴヌクレオチドを等モル量で組み合わせ、100℃で2分間、加熱し、室温までゆっくりと冷却することによってアニーリングすることによって、触媒不活性ラットMASP-2Aタンパク質を生成した。結果として生じたアニーリング断片はPst1およびXba1適合末端を有し、野生型ラットMASP-2 cDNA(SEQ ID NO:53)のPst1-Xba1断片の代わりに挿入して、ラットMASP-2Aを生成した。
【0247】
下記のように、ヒトMASP-2A、マウスMASP-2A、およびラットMASP-2Aをそれぞれ哺乳動物発現ベクターpEDまたはpCI-Neoにさらにサブクローニングし、チャイニーズハムスター卵巣細胞株DXB1にトランスフェクトした。
【0248】
別のアプローチでは、Chen et al., J. Biol. Chem., 276(28):25894-25902, 2001に記載の方法を用いて触媒不活性型MASP-2を構築する。簡単に述べると、完全長ヒトMASP-2 cDNAを含有するプラスミド(Thiel et al., Nature 386:506, 1997に記載)をXho1およびEcoR1で消化し、MASP-2 cDNA(SEQ ID NO:4として本明細書に記載)をpFastBac1バキュロウイルストランスファーベクター(Life Technologies, NY)の対応する制限部位にクローニングする。次いで、ペプチド領域アミノ酸610~625をコードする二本鎖オリゴヌクレオチド(SEQ ID NO:13)を天然領域アミノ酸610~625で置換して、不活性プロテアーゼドメインを有するMASP-2完全長ポリペプチドを作製することによって、Ser618にあるMASP-2セリンプロテアーゼ活性部位をAla618に変える。
【0249】
ヒトMasp-2に由来するポリペプチド領域を含有する発現プラスミドの構築
MASP-2の様々なドメインを分泌させるために、MASP-2シグナルペプチド(SEQ ID NO:5の残基1-15)を用いて以下の構築物を作製する。MASP-2(SEQ ID NO:6)の残基1~121をコードする領域(N末端CUBIドメインに対応する)を増幅するPCRによって、ヒトMASP-2 CUBIドメイン(SEQ ID NO:8)を発現する構築物を作製する。MASP-2(SEQ ID NO:6)の残基1~166をコードする領域(N末端CUB1EGFドメインに対応する)を増幅するPCRによって、ヒトMASP-2 CUBIEGFドメイン(SEQ ID NO:9)を発現する構築物を作製する。MASP-2(SEQ ID NO:6)の残基1~293をコードする領域(N末端CUBIEGFCUBIIドメインに対応する)を増幅するPCRによって、ヒトMASP-2 CUBIEGFCUBIIドメイン(SEQ ID NO:10)を発現する構築物を作製する。確立されたPCR法に従って、Vent
Rポリメラーゼおよび鋳型としてpBS-MASP-2を用いたPCRによって前述のドメインを増幅する。センスプライマーの5'プライマー配列
は、PCR産物の5'末端にBamHI制限部位(下線)を導入する。以下の表6に示した、それぞれのMASP-2ドメインのアンチセンスプライマーは、それぞれのPCR産物の末端に停止コドン(太字体)の後にEcoRI部位(下線)を導入するように設計されている。DNA断片を増幅したら、BamHIおよびEcoRIで消化し、pFastBac1ベクターの対応する部位にクローニングする。結果として生じた構築物を制限酵素マッピングによって特徴決定し、dsDNA配列決定によって確認する。
【0250】
【0251】
MASP-2の組換え真核生物発現、ならびに酵素的に不活性なマウスMASP-2A、ラットMASP-2A、およびヒトMASP-2Aのタンパク質産生
標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション手順(Maniatis et al., 1989)を用いて、前記のMASP-2発現構築物およびMASP-2A発現構築物をDXB1細胞にトランスフェクトした。調製物が他の血清タンパク質で確実に汚染されないようにするために、MASP-2Aを無血清培地中で産生させた。1日おきに(計4回)、培地をコンフルエント細胞から回収した。組換えMASP-2Aレベルの平均は、3種類の種それぞれについて培地1リットルにつき約1.5mgであった。
【0252】
MASP-2Aタンパク質の精製:MASP-2A(前記のSer-Ala変異体)を、MBP-A-アガロースカラムでのアフィニティクロマトグラフィーによって精製した。この戦略によって、外部タグを使用することなく迅速な精製が可能になった。MASP-2A(等量のローディングバッファー(150mM NaClおよび25mM CaCl2を含有する50mM Tris-Cl, pH7.5で希釈した培地100~200ml)を、10mlのローディングバッファーで予め平衡状態にしたMBP-アガロースアフィニティカラム(4ml)にロードした。さらに10mlのローディングバッファーで洗浄した後に、1.25M NaClおよび10mM EDTAを含有する50mM Tris-Cl, pH7.5を用いて、タンパク質を1ml画分中に溶出させた。MASP-2Aを含有する画分をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって同定した。必要に応じて、MASP-2Aを、MonoQカラム(HR5/5)でのイオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製した。タンパク質を、50mM NaClを含有する50mM Tris-Cl pH7.5を用いて透析し、同じ緩衝液で平衡状態にしたカラムにロードした。洗浄後、結合しているMASP-2Aを、10mlにわたって0.05~1MのNaCl勾配で溶出させた。
【0253】
結果:収量0.25~0.5mgのMASP-2Aタンパク質を培地200mlから得た。MALDI-MSによって求められた分子量77.5kDaは、グリコシル化のために非修飾ポリペプチドの算出値(73.5kDa)よりも大きい。それぞれのN-グリコシル化部位におけるグリカンの付着が、観察された質量の原因となっている。MASP-2AはSDS-ポリアクリルアミドゲル上でシングルバンドとして移動し、このことから、MASP-2Aは生合成中にタンパク質分解処理されないことが証明される。平衡超遠心分離によって求められた重量平均分子量はグリコシル化ポリペプチドのホモ二量体の算出値と一致する。
【0254】
組換えヒトMASP-2ポリペプチドの産生
組換えMASP-2およびMASP2A由来ポリペプチドを産生するための別の方法は、Thielens, N.M., et al., J. Immunol 166:5068-5077, 2001に記載されている。簡単に述べると、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)昆虫細胞(Novagen, Madison, WIから得たReady-Plaque Sf9細胞)を、50IU/mlペニシリンおよび50mg/mlストレプトマイシン(Life Technologies)を添加したSf900II無血清培地(Life Technologies)中で増殖および維持する。イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)(High Five)昆虫細胞(Jadwiga Chroboczek, Institut de Biologie Structurale, Grenoble, Franceにより提供された)を、50 IU/mlペニシリンおよび50mg/mlストレプトマイシンで添加した、10%FCS(Dominique Dutscher, Brumath, France)を含有するTC100培地(Life Technologies)中で維持する。組換えバキュロウイルスを、Bac-to-Bacシステム(Life Technologies)を用いて生成する。バクミドDNAを、Qiagen midiprep精製システム(Qiagen)を用いて精製し、製造業者のプロトコールに記載のようにSf900 II SFM培地(Life Technologies)に溶解したセルフェクション(cellfectin)を用いてSf9昆虫細胞をトランスフェクトするために使用する。組換えウイルス粒子を4日後に収集し、ウイルスプラークアッセイ法によって滴定し、King and Possee, The Baculovirus Expression System:A Laboratory Guide, Chapman and Hall Ltd., London, pp.111-114, 1992に記載のように増幅する。
【0255】
High Five細胞(1.75×107細胞/175cm2組織培養フラスコ)に、Sf900 II SFM培地中、感染効率2で、MASP-2ポリペプチドを含有する組換えウイルスを28℃で96時間、感染させる。上清を遠心分離によって収集し、ジイソプロピルホスホロフルオリデートを1mMの最終濃度まで添加する。
【0256】
MASP-2ポリペプチドを培地中に分泌させる。培養上清を、50mM NaCl、1mM CaCl2、50mM塩酸トリエタノールアミン, pH8.1に対して透析し、同じ緩衝液で平衡状態にしたQ-Sepharose Fast Flowカラム(Amersham Pharmacia Biotech)(2.8×12cm)に1.5ml/minでロードする。溶出は、同じ緩衝液に溶解した350mM NaClまでの1.2リットル直線勾配を適用することによって行う。組換えMASP-2ポリペプチドを含有する画分をウエスタンブロット分析によって同定し、60%(w/v)まで(NH4) 2SO4を添加することによって沈降させ、4℃で一晩静置する。ペレットを、145mM NaCl、1mM CaCl2、50mM塩酸トリエタノールアミン, pH7.4に再懸濁し、同じ緩衝液で平衡状態にしたTSK G3000 SWGカラム(7.5×600mm)(Tosohaas, Montgomeryville, PA)に適用する。次いで、精製されたポリペプチドを、Microsepマイクロコンセントレーター(microconcentrator)(m.w.カットオフ=10,000)(Filtron, Karlstein, Germany)での限外濾過によって0.3mg/mlまで濃縮する。
【0257】
実施例4
本実施例はMASP-2ポリペプチドに対するポリクローナル抗体を作製する方法について述べる。
【0258】
材料および方法:
MASP-2抗原:以下の単離されたMASP-2ポリペプチドを用いてウサギを免疫することによって、ポリクローナル抗ヒトMASP-2抗血清を作製する:血清から単離されたヒトMASP-2(SEQ ID NO:6);実施例3に記載の組換えヒトMASP-2(SEQ ID NO:6)、不活性プロテアーゼドメイン(SEQ ID NO:13)を含有するMASP-2A;ならびに前記の実施例3に記載のように発現された、組換えCUBI(SEQ ID NO:8)、CUBEGFI(SEQ ID NO:9)、およびCUBEGFCUBII(SEQ ID NO:10)。
【0259】
ポリクローナル抗体: BCG(カルメット・ゲラン杆菌ワクチン)で初回刺激を受けた6週齢ウサギを、滅菌食塩水に溶解した100μgのMASP-2ポリペプチド100μg/mlの注射によって免疫する。注射を4週間ごとに行い、実施例5に記載のようにELISAアッセイ法によって抗体価をモニタリングする。プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによる抗体精製のために、培養上清を収集する。
【0260】
実施例5
本実施例は、ラットMASP-2ポリペプチドまたはヒトMASP-2ポリペプチドに対するマウスモノクローナル抗体を作製するための方法について述べる。
【0261】
材料および方法:
雄A/Jマウス(Harlan, Houston, Tex.)、8~12週齢に、完全フロイントアジュバント(Difco Laboratories, Detroit, Mich.)を含む200μlのリン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.4に溶解したヒトまたはラットのrMASP-2またはrMASP-2Aポリペプチド(実施例3に記載のように作った)100μgを皮下注射する。2週間の間隔で2回、マウスに、不完全フロイントアジュバントに溶解したヒトまたはラットのrMASP-2またはrMASP-2Aポリペプチド50μgを皮下注射する。4週目に、マウスに、PBSに溶解したヒトまたはラットのrMASP-2またはrMASP-2Aポリペプチド50μgを注射し、4日後に融合する。
【0262】
それぞれの融合について、免疫したマウスの脾臓からシングルセル懸濁液を調製し、Sp2/0ミエローマ細胞との融合に使用する。50%ポリエチレングリコール(M.W.1450)(Kodak, Rochester, N.Y.)および5%ジメチルスルホキシド(Sigma Chemical Co., St. Louis. Mo.)を含有する培地中で、5×108個のSp2/0および5×108個の脾臓細胞を融合する。次いで、10%胎仔ウシ血清、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMヒポキサンチン、0.4μMアミノプテリン、および16μMチミジンを添加したIscove培地(Gibco, Grand Island, N.Y.)に溶解して、細胞を1.5×105個の脾臓細胞/懸濁液200μlの濃度まで調節する。200マイクロリットルの細胞懸濁液を、約20個の96ウェルマイクロカルチャープレートの各ウェルに添加する。約10日後に、ELISAアッセイ法における精製因子MASP-2との反応性についてスクリーニングするために培養上清を取り出す。
【0263】
ELISAアッセイ法: 50ng/mlの精製hMASP-2 50μlまたはラットrMASP-2(もしくはrMASP-2A)を室温で一晩、添加することによって、Immulon2(Dynatech Laboratories, Chantilly, Va.)マイクロテストプレートのウェルをコーティングする。コーティング用のMASP-2濃度が低いので、高親和性抗体の選択が可能である。プレートをパチンとはじくことによって、コーティング溶液を除去した後に、非特異的部位をブロックするために、PBSに溶解した200μlのBLOTTO(無脂肪ドライミルク)を各ウェルに1時間、添加する。次いで、1時間後、ウェルを緩衝液PBST(0.05%Tween20を含有するPBS)で洗浄する。それぞれの融合ウェルから50マイクロリットルの培養上清を収集し、50μlのBLOTTOと混合し、次いで、マイクロテストプレートの個々のウェルに添加する。1時間のインキュベーション後に、ウェルをPBSTで洗浄する。次いで、結合したマウス抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG(Fc特異的)(Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, Pa.)との反応によって検出し、BLOTTOで1:2,000に希釈する。発色させるために、0.1%3,3,5,5テトラメチルベンジジン(Sigma, St. Louis, Mo.)および0.0003%過酸化水素(Sigma)を含有するペルオキシダーゼ基質溶液をウェルに30分間、添加する。反応を50μlの2M H2SO4/ウェルを添加することによって止める。反応混合物の450nmでの光学密度をBioTek ELISA Reader(BioTek Instruments, Winooski, Vt.)で読み取る。
【0264】
MASP-2結合アッセイ法:
前記のMASP-2 ELISAアッセイ法の試験において陽性と判定された培養上清を、MASP-2に対するMASP-2阻害物質の結合親和性を決定するために結合アッセイ法において試験することができる。阻害物質が補体系の他の抗原に結合するかどうか判定するために類似アッセイ法も使用することができる。
【0265】
ポリスチレンマイクロタイタープレートウェル(96ウェル培地結合プレート, Corning Costar, Cambridge, MA)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.4に溶解したMASP-2(20ng/100μl/ウェル, Advanced Research Technology, San Diego, CA)で4℃において一晩コーティングする。MASP-2溶液を吸引した後に、ウェルを、1%ウシ血清アルブミン(BSA; Sigma Chemical)を含有するPBSで室温において2時間ブロックする。MASP-2コーティングのないウェルはバックグラウンド対照として役立つ。ブロッキング溶液に溶解した様々な濃度のハイブリドーマ上清または精製抗MASP-2 MoAbのアリコートをウェルに添加する。室温で2時間のインキュベーション後に、ウェルをPBSで大規模にリンスする。ブロッキング溶液に溶解したペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(Sigma Chemical)を添加し、室温で1時間インキュベートすることによって、MASP-2に結合した抗MASP-2 MoAbを検出する。プレートをPBSで徹底的に再度リンスし、100μlの3,3',5,5'テトラメチルベンジジン(TMB)基質(Kirkegaard and Perry Laboratories, Gaithersburg, MD)を添加する。TMBの反応を、100μlの1Mリン酸を添加することによってクエンチし、プレートをマイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX 250, Molecular Devices, Sunnyvale, CA)において450nmで読み取る。
【0266】
次いで、陽性ウェル由来の培養上清を、機能アッセイ法、例えば、実施例2に記載のC4切断アッセイ法において補体活性化を阻害する能力について試験する。次いで、陽性ウェル中の細胞を限界希釈によってクローニングする。MoAbを、前記のようにELISAアッセイ法においてhMASP-2との反応性について再試験する。選択されたハイブリドーマをスピナーフラスコの中で増殖させ、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによる抗体精製のために、使用済みの培養上清を収集する。
【0267】
実施例6
本実施例は、ヒト化マウス抗MASP-2抗体および抗体断片の生成および作製について述べる。
【0268】
実施例5に記載のように、雄A/Jマウスにおいてマウス抗MASP-2モノクローナル抗体を生成する。次いで、マウス抗体は、マウス抗体の免疫原性を弱めるために、マウス定常領域をそのヒト対応物で置換して抗体のキメラIgGおよびFab断片を生成することによって、下記のようにヒト化され、これは、本発明によるヒト対象におけるMASP-2依存性補体活性化の副作用を阻害するために有用である。
【0269】
1.マウスハイブリドーマ細胞に由来する抗MASP-2可変領域遺伝子のクローニング
RNAzolを用いて製造業者のプロトコール(Biotech, Houston, Tex.)に従って、総RNAを、抗MASP-2 MoAbを分泌するハイブリドーマ細胞(実施例7に記載のように得た)から単離する。プライマーとしてオリゴdTを用いて第一鎖cDNAを総RNAから合成する。免疫グロブリン定常C領域に由来する3'プライマー、および5'プライマーとしてリーダーペプチドまたはマウスV
H遺伝子もしくはV
K遺伝子の最初のフレームワーク領域に由来する縮重プライマーセットを用いてPCRを行う。アンカーPCRは、Chen and Platsucas(Chen, P.F., Scand. J. Immunol. 35:539-549, 1992)に記載のように行う。V
K遺伝子をクローニングするために、Not1-MAK1プライマー
を用いて二本鎖cDNAを調製する。アニーリングされたアダプター
を二本鎖cDNAの5'末端および3'末端の両方に連結する。3'末端にあるアダプターをNot1消化によって除去する。次いで、消化産物を、5'プライマーとしてAD1オリゴヌクレオチドおよび3'プライマーとしてMAK2
を使用するPCRにおける鋳型として使用する。約500bpのDNA断片をpUC19にクローニングする。クローニングされた配列が、予想されたマウス免疫グロブリン定常領域を含むことを確認するために、配列分析用に、いくつかのクローンを選択する。Not1-MAK1およびMAK2オリゴヌクレオチドはV
K領域に由来し、それぞれ、Cκ遺伝子の最初の塩基対から182bpおよび84bp下流にある。完全なV
Kおよびリーダーペプチドを含むクローンを選択する。
【0270】
V
H遺伝子をクローニングするために、Not1 MAG1プライマー
を用いて二本鎖cDNAを調製する。アニーリングされたアダプターAD1およびAD2を、二本鎖cDNAの5'末端および3'末端の両方に連結する。3'末端にあるアダプターをNot1消化によって除去する。消化産物を、プライマーとしてAD1オリゴヌクレオチドおよびMAG2
を使用するPCRにおける鋳型として使用する。長さが500~600bpのDNA断片をpUC19にクローニングする。Notl-MAG1およびMAG2オリゴヌクレオチドはマウスCγ.7.1領域に由来し、それぞれ、マウスCγ.7.1遺伝子の最初の塩基対から180bp下流および93bp下流にある。完全なV
Hおよびリーダーペプチドを含むクローンを選択する。
【0271】
2.キメラMASP-2 IgGおよびFab用の発現ベクターの構築
Kozakコンセンサス配列をヌクレオチド配列の5'末端に付加し、スプライスドナーを3'末端に添加するためのPCR反応の鋳型として、前記のクローニングされたV
H遺伝子およびV
K遺伝子を使用する。PCRエラーが存在しないことを確認するために配列を分析した後に、V
H遺伝子およびV
K遺伝子を、それぞれ、ヒトC.γ1を含有する発現ベクターカセットおよびヒトC.κを含有する発現ベクターカセットに挿入して、pSV2neoV
H-huCγ1およびpSV2neoV-huCγを得る。重鎖ベクターおよび軽鎖ベクターのCsCl勾配精製プラスミドDNAを用いて、エレクトロポレーションによってCOS細胞をトランスフェクトする。48時間後に、約200ng/mlのキメラIgGの存在を確認するために、培養上清をELISAによって試験する。細胞を回収し、総RNAを調製する。プライマーとしてオリゴdTを用いて、総RNAから第一鎖cDNAを合成する。Fd DNA断片およびκDNA断片を生成するために、このcDNAをPCRにおける鋳型として使用する。Fd遺伝子の場合、5'プライマーとして
およびCH1由来3'プライマー
を用いてPCRを行う。DNA配列は、ヒトIgG1の完全なV
HドメインおよびヒトCH1ドメインを含有することが確認される。適切な酵素で消化した後に、Fd DNA断片を、発現ベクターカセットpSV2dhfr-TUSのHindIII制限部位およびBamHI制限部位に挿入して、pSV2dhfrFdを得る。pSV2プラスミドは市販されており、様々な供給源に由来するDNAセグメントからなる。pBR322DNA(薄い線)は、pBR322のDNA複製起点(pBRori)およびラクタマーゼアンピシリン耐性遺伝子(Amp)を含有する。幅広のハッチングによって表され、印が付けられているSV40 DNAは、SV40 DNA複製起点(SV40ori)、初期プロモーター(dhfr遺伝子およびneo遺伝子の5'側)、ならびにポリアデニル化シグナル(dhfr遺伝子およびneo遺伝子の3'側)を含有する。SV40由来ポリアデニル化シグナル(pA)もFd遺伝子の3'末端に配置される。
【0272】
κ遺伝子の場合、5'プライマーとして
およびC
K由来3'プライマー
を用いてPCRを行う。DNA配列は、完全なV
K領域およびヒトC
K領域を含有することが確認される。適切な制限酵素を用いた消化後に、κDNA断片を発現ベクターカセットpSV2neo-TUSのHindIII制限部位およびBamHI制限部位に挿入して、pSV2neoKを得る。Fd遺伝子およびκ遺伝子の発現は、HCMV由来エンハンサーおよびプロモーターエレメントによって駆動される。Fd遺伝子は、鎖間ジスルフィド結合に関与するシステインアミノ酸残基を含まないので、この組換えキメラFabは、非共有結合により連結された重鎖および軽鎖を含有する。このキメラFabはcFabと呼ばれる。
【0273】
重鎖と軽鎖の間のジスルフィド結合を有する組換えFabを得るために、ヒトIgG1のヒンジ領域に由来する9個のさらなるアミノ酸(EPKSCDKTH SEQ ID NO:48)のコード配列を含むように、前記のFd遺伝子を延長することができる。Fd遺伝子の3'末端にある30アミノ酸をコードするBstEII-BamHI DNAセグメントを、延長したFdをコードするDNAセグメントと取り替えて、pSV2dhfrFd/9aaを得ることができる。
【0274】
3.キメラ抗MASP-2 IgGの発現および精製
キメラ抗MASP-2 IgGを分泌する細胞株を生成するために、NSO細胞を、エレクトロポレーションによってpSV2neoVH-huC.γ1およびpSV2neoV-huCκの精製プラスミドDNAでトランスフェクトする。トランスフェクト細胞を、0.7mg/ml G418の存在下で選択する。細胞を、血清含有培地を用いて250mlスピナーフラスコ中で増殖させる。
【0275】
100mlスピナー培養物の培養上清を、10ml PROSEP-Aカラム(Bioprocessing, Inc., Princeton, N.J.)にロードする。カラムを10ベッド体積のPBSで洗浄する。結合している抗体を50mMクエン酸緩衝液, pH3.0で溶出させる。pHを7.0に調節するために、等量の1M Hepes, pH8.0を、精製抗体を含有する画分に添加する。残留塩を、Millipore膜限外濾過(M.W.カットオフ:3,000)によるPBSを用いた緩衝液交換によって除去する。精製抗体のタンパク質濃度をBCA法(Pierce)によって求める。
【0276】
4.キメラ抗MASP-2 Fabの発現および精製
キメラ抗MASP-2 Fabを分泌する細胞株を生成するために、CHO細胞を、エレクトロポレーションによってpSV2dhfrFd(またはpSV2dhfrFd/9aa)およびpSV2neoκの精製プラスミドDNAでトランスフェクトする。トランスフェクト細胞をG418およびメトトレキセートの存在下で選択する。選択された細胞株を漸増濃度のメトトレキセートの中で増幅する。細胞を限界希釈によってシングルセルサブクローニングする。次いで、高産生シングルセルサブクローニング細胞株を、無血清培地を用いて100mlスピナーフラスコ中で増殖させる。
【0277】
キメラ抗MASP-2 Fabを、MASP-2 MoAbに対するマウス抗イディオタイプMoAbを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって精製する。抗イディオタイプMASP-2 MoAbは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合したマウス抗MASP-2 MoAbでマウスを免疫し、ヒトMASP-2と競合することができる特異的MoAb結合をスクリーニングすることによって作製することができる。精製のために、cFabまたはcFab/9aaを産生するCHO細胞のスピナー培養物由来の上清100mlを、抗イディオタイプMASP-2 MoAbと結合したアフィニティカラムにロードする。次いで、カラムをPBSで徹底的に洗浄した後に、結合しているFabを50mMジエチルアミン、pH11.5で溶出させる。残留塩を前記のように緩衝液交換によって除去する。精製Fabのタンパク質濃度をBCA法(Pierce)によって求める。
【0278】
キメラMASP-2 IgG、cFab、およびcFAb/9aaがMASP-2依存性補体経路を阻害する能力は実施例2または実施例7に記載の阻害アッセイ法を用いることによって求めることができる。
【0279】
実施例7
本実施例は、L-フィコリン/P35、H-フィコリン、M-フィコリン、またはマンナンを介したMASP-2依存性補体活性化を遮断することができるMASP-2阻害物質を同定するための機能スクリーニングとして用いられるインビトロC4切断アッセイ法について述べる。
【0280】
C4切断アッセイ法: C4切断アッセイ法は、Petersen, S.V., et al., J. Immunol. Methods 257:107, 2001によって述べられており、L-フィコリンに結合する黄色ブドウ球菌由来リポテイコ酸(LTA)に起因するレクチン経路活性化を測定する。
【0281】
試薬:ホルマリン固定黄色ブドウ球菌(DSM20233)を以下のように調製する。細菌をトリプティックソイ血液培地中で37℃において一晩増殖させ、PBSで3回洗浄し、次いで、PBS/0.5%ホルマリン中で室温において1時間固定し、PBSでさらに3回洗浄した後に、コーティング緩衝液(15mM Na2Co3、35mM NaHCO3、pH9.6)に再懸濁する。
【0282】
アッセイ法:Nunc MaxiSorbマイクロタイタープレート(Nalgene Nunc International, Rochester, NY)のウェルを、コーティング緩衝液に溶解した1μgのL-フィコリンと共に、コーティング緩衝液に溶解した100μlのホルマリン固定黄色ブドウ球菌DSM20233(OD550=0.5)でコーティングする。一晩のインキュベーション後、ウェルを、TBS(10mM Tris-HCl、140mM NaCl pH7.4)に溶解した0.1%ヒト血清アルブミン(HSA)でブロックし、次いで、0.05%Tween20および5mM CaCl2を含有するTBS(洗浄液緩衝液)で洗浄する。ヒト血清試料を、内因性C4の活性化を阻止し、C1複合体(C1q、C1r、およびC1sからなる)を解離する、20mM Tris-HCl、1M NaCl、10mM CaCl2、0.05%Triton X-100、0.1%HSA、pH7.4で希釈する。抗MASP-2 MoAbおよび阻害ペプチドを含むMASP-2阻害物質を様々な濃度で血清試料に添加する。希釈試料をプレートに添加し、4℃で一晩インキュベートする。24時間後、プレートを洗浄緩衝液で徹底的に洗浄する。次いで、100μlの4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、pH7.4に溶解した、0.1μgの精製ヒトC4(Dodds, A.W., Methods Enzymol. 223:46, 1993に記載のように得た)を各ウェルに添加する。37℃で1.5時間後に、プレートを再洗浄し、C4b沈着をアルカリホスファターゼ結合ニワトリ抗ヒトC4c(Immunsystem, Uppsala, Swedenから得た)を用いて検出し、比色分析基質ρ-ニトロフェニルリン酸を用いて測定する。
【0283】
マンナン上でのC4アッセイ法:MBLを介したレクチン経路活性化を測定するために、プレートをLSPおよびマンナンでコーティングした後に、様々なMASP-2阻害物質と混合した血清を添加することによって、前記のアッセイ法を適合化させる。
【0284】
H-フィコリン(Hakata Ag)上でのC4アッセイ法:H-フィコリンを介したレクチン経路活性化を測定するために、プレートをLPSおよびH-フィコリンでコーティングした後に、様々なMASP-2阻害物質と混合した血清を添加することによって、前記のアッセイ法を適合化させる。
【0285】
実施例8
以下のアッセイ法は、野生型マウスおよびMASP-2-/-マウスにおける古典経路活性化の存在を証明する。
【0286】
方法:マイクロタイタープレート(Maxisorb, Nunc, カタログ番号442404, Fisher Scientific)を、10mM Tris、140mM NaCl、pH7.4に溶解した0.1%ヒト血清アルブミンで室温において1時間コーティングした後に、TBS/tween/Ca2+で1:1000に希釈したヒツジ抗全血清(whole serum)抗血清(Scottish Antibody Production Unit, Carluke, Scotland)と4℃で一晩インキュベートすることによって、免疫複合体をインサイチューで生成した。血清試料を野生型およびMASP-2-/-マウスから得て、コーティングされたプレートに添加した。野生型血清試料およびMASP-2-/-血清試料からC1qを枯渇させた対照試料を調製した。C1q枯渇マウス血清は、ウサギ抗ヒトC1q IgG(Dako, Glostrup, Denmark)でコーティングされたプロテインA結合Dynabeads(Dynal Biotech, Oslo, Norway)を用いて供給業者の説明書に従って調製した。プレートを37℃で90分間インキュベートした。結合しているC3bを、TBS/tw/Ca++で1:1000に希釈したポリクローナル抗ヒトC3c抗体(DakoA062)を用いて検出した。二次抗体はヤギ抗ウサギIgGである。
【0287】
結果:
図7は、野生型血清、MASP-2-/-血清、C1q枯渇野生型血清、およびC1q枯渇MASP-2-/-血清中のIgGでコーティングされたプレート上の相対的C3b沈着レベルを示す。これらの結果からMASP-2-/-マウス系統において古典経路は損なわれていないことが証明される。
【0288】
実施例9
以下のアッセイ法を用いて、免疫複合体によって古典経路が開始する条件下でMASP-2阻害物質の効果を分析することによって、MASP-2阻害物質が古典経路を遮断するかどうか試験する。
【0289】
方法:免疫複合体によって古典経路が開始する補体活性化の状態に対するMASP-2阻害物質の効果を試験するために、90%NHSを含有する3つ組の試料50μlを、10μg/ml免疫複合体(IC)またはPBSの存在下で37℃においてインキュベートする。37℃でのインキュベーション中に、200nM抗プロペルジンモノクローナル抗体を含有する3つ組の対応する試料(+/-IC)も含める。37℃で2時間のインキュベーション後に、さらなる補体活性化を止めるために、13mM EDTAを全ての試料に添加し、すぐに、試料を5℃まで冷却する。次いで、試料を-70℃で保管した後に、ELISAキット(Quidelカタログ番号A015およびA009)を用いて製造業者の説明書に従って補体活性化産物(C3aおよびsC5b-9)をアッセイする。
【0290】
実施例10
本実施例はMASP-2活性を遮断する高親和性抗MASP-2 Fab2抗体断片の同定について述べる。
【0291】
背景および原理:MASP-2は、MBLおよびフィコリンの結合部位、セリンプロテアーゼ触媒部位、タンパク質分解基質C2の結合部位、タンパク質分解基質C4の結合部位、MASP-2酵素前駆体自己活性化のためのMASP-2切断部位、ならびに2つのCa++結合部位を含む、多くの別個の機能ドメインを有する複合タンパク質である。高親和性でMASP-2に結合するFab2抗体断片を同定し、同定されたFab2断片がMASP-2機能活性を遮断できるかどうか判定するために機能アッセイ法において試験した。
【0292】
MASP-2機能活性を遮断するためには、抗体またはFab2抗体断片は、MASP-2機能活性に必要とされるMASP-2上の構造エピトープに結合し、これを妨害しなければならない。従って、高親和性結合抗MASP-2 Fab2の多くまたは全ては、それらが、MASP-2機能活性に直接関与するMASP-2上の構造エピトープに結合する場合を除いて、MASP-2機能活性を阻害しないことがある。
【0293】
レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能アッセイ法を用いて、抗MASP-2 Fab2の「遮断活性」を評価した。レクチン経路におけるMASP-2の最も重要な生理学的役割は、レクチン媒介補体経路の次の機能成分、すなわち、レクチン経路C3コンバターゼを生成することであることが公知である。レクチン経路C3コンバターゼは、C3をC3aおよびC3bにタンパク分解によって切断する重要な酵素複合体(C4bC2a)である。MASP-2はレクチン経路C3コンバターゼ(C4bC2a)の構造成分ではない。しかしながら、レクチン経路C3コンバターゼを構成する2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するために、MASP-2の機能活性が必要とされる。さらに、MASP-2がレクチン経路C3コンバターゼを生成するためには、前記で列挙されたMASP-2の別個の機能活性の全てが必要であるように見える。これらの理由で、抗MASP-2 Fab2の「遮断活性」の評価において使用するための好ましいアッセイ法は、レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能アッセイ法だと考えられる。
【0294】
高親和性Fab2の生成:ヒト軽鎖抗体可変配列および重鎖抗体可変配列のファージディスプレイライブラリー、ならびに関心対象の選択されたリガンドと反応するFab2を同定するための自動抗体選択技術を用いて、ラットMASP-2タンパク質(SEQ ID NO:55)に対する高親和性Fab2を作製した。抗体スクリーニングのために、既知量のラットMASP-2(約1mg、>85%純粋)タンパク質を利用した。親和性が最も高い抗体を選択するために3回の増幅を利用した。ELISAスクリーニングのために、抗体断片を発現する約250個の異なるヒットを選んだ。この後に、異なる抗体の固有性(uniqueness)を決定するために高親和性ヒットを配列決定した。
【0295】
50個の固有の抗MASP-2抗体を精製し、以下でさらに詳述するように、それぞれの精製Fab2抗体250μgをMASP-2結合親和性の特徴決定および補体経路の機能試験に使用した。
【0296】
抗MASP-2 Fab2の阻害(遮断)活性の評価に用いられるアッセイ法
1.レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定するためのアッセイ法:
背景:レクチン経路C3コンバターゼは、C3を2つの強力な炎症誘発断片であるアナフィラトキシンC3aおよびオプソニンC3bにタンパク分解によって切断する酵素複合体(C4bC2a)である。C3コンバターゼの形成は、炎症を媒介する点でレクチン経路の重要な段階であるように思われる。MASP-2はレクチン経路C3コンバターゼ(C4bC2a)の構造成分ではない。従って、抗MASP-2抗体(またはFab2)は、既にあるC3コンバターゼの活性を直接阻害しない。しかしながら、レクチン経路C3コンバターゼを構成する2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するために、MASP-2セリンプロテアーゼ活性が必要とされる。従って、MASP-2機能活性を阻害する抗MASP-2 Fab2(すなわち、遮断抗MASP-2 Fab2)はレクチン経路C3コンバターゼの新規形成を阻害する。C3は、その構造の一部として、珍しく、かつ高反応性のチオエステル基を含有する。このアッセイ法ではC3がC3コンバターゼによって切断されると、C3b上のチオエステル基は、エステル結合またはアミド結合を介してプラスチックウェルの底に固定化された巨大分子上のヒドロキシル基またはアミノ基と共有結合を形成することができ、従って、ELISAアッセイ法におけるC3bの検出が容易になる。
【0297】
酵母マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子である。C3コンバターゼ形成を測定する以下の方法では、マンナンでコーティングされたプラスチックウェルを希釈ラット血清と37℃で30分間インキュベートして、レクチン経路を活性化した。次いで、ウェルを洗浄し、標準的なELISA法を用いて、ウェル上に固定化されたC3bについてアッセイした。このアッセイ法において生成されたC3bの量は、レクチン経路C3コンバターゼの新規形成を直接反映するものである。このアッセイ法では、選択された濃度の抗MASP-2 Fab2がC3コンバターゼ形成を阻害し、その結果として起きるC3b生成を阻害する能力を試験した。
【0298】
方法:
96ウェルCostar Medium Bindingプレートを、1ug/50Tl/ウェルで、50mM炭酸緩衝液、pH9.5で希釈したマンナンと5℃で一晩インキュベートした。一晩のインキュベーション後、200Tl PBSで各ウェルを3回洗浄した。次いで、ウェルを、PBSに溶解した100Tl/ウェルの1%ウシ血清アルブミンでブロックし、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。次いで、各ウェルを200TlのPBSで3回洗浄した。抗MASP-2 Fab2試料を、5Cで、Ca++およびMg++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl2、2.0mM CaCl2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で選択された濃度まで希釈した。0.5%ラット血清を5Cで前記の試料に添加し、100Tlを各ウェルに移した。プレートに蓋をし、補体活性化を可能にするために37C水浴中で30分間インキュベートした。37C水浴から、氷と水の混合物を含む容器にプレートを移すことによって、反応を止めた。各ウェルを、PBS-Tween20(0.05%Tween20を含むPBS)で200Tlで5回洗浄し、次いで、200TlのPBSで2回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含有するPBSに溶解した100Tl/ウェルの一次抗体(ウサギ抗ヒトC3c、DAKO A0062)1:10,000希釈液を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを5×200TlのPBSで洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含有するPBSに溶解した、100Tl/ウェルの二次抗体(ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG, American Qualex A102PU)1:10,000希釈液を添加し、シェーカーに載せて穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルをPBSで200Tlで5回洗浄した。100Tl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加し、室温で10分間インキュベートした。100Tl/ウェルの1.0M H3PO4を添加することによってペルオキシダーゼ反応を止め、OD450を測定した。
【0299】
2.MASP-2依存性C4切断の阻害を測定するためのアッセイ法:
背景:MASP-2のセリンプロテアーゼ活性は高度に特異的であり、MASP-2のタンパク質基質はC2およびC4の2種類しか同定されていない。C4の切断によってC4aおよびC4bが生成される。抗MASP-2 Fab2は、C4切断に直接関与するMASP-2上の構造エピトープ(例えば、C4のMASP-2結合部位;MASP-2セリンプロテアーゼ触媒部位)に結合し、それによって、MASP-2のC4切断機能活性を阻害する可能性がある。
【0300】
酵母マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子である。MASP-2のC4切断活性を測定する以下の方法では、マンナンでコーティングされたプラスチックウェルを希釈ラット血清と37Cで30分間インキュベートして、レクチン経路を活性化した。このELISA法において用いられる一次抗体はヒトC4しか認識しないので、希釈ラット血清にヒトC4(1.0Tg/ml)も添加した。次いで、ウェルを洗浄し、標準的なELISA方法を用いて、ウェルに固定化されたヒトC4bについてアッセイした。このアッセイ法において生成されたC4bの量はMASP-2依存性C4切断活性の尺度である。このアッセイ法では、選択された濃度の抗MASP-2 Fab2がC4切断を阻害する能力を試験した。
【0301】
方法:96ウェルCostar Medium Bindingプレートを、1.0Tg/50Tl/ウェルで、50mM炭酸緩衝液、pH9.5で希釈したマンナンと5Cで一晩インキュベートした。200Tl PBSで各ウェルを3回洗浄した。次いで、ウェルを、PBSに溶解した100Tl/ウェルの1%ウシ血清アルブミンでブロックし、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200TlのPBSで3回洗浄した。抗MASP-2 Fab2試料を、5Cで、Ca++およびMg++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl2、2.0mM CaCl2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で選択された濃度まで希釈した。これらの試料に1.0Tg/mlヒトC4(Quidel)も含めた。前記の試料に0.5%ラット血清を5Cで添加し、100Tlを各ウェルに移した。プレートに蓋をし、補体を活性化するために37C水浴中で30分間インキュベートした。37C水浴から、氷と水の混合物を含む容器にプレートを移すことによって、反応を止めた。各ウェルを、PBS-Tween20(0.05%Tween20を含むPBS)で200Tlで5回洗浄した。次いで、各ウェルを200TlのPBSで2回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBSに溶解した、100Tl/ウェルのビオチン結合ニワトリ抗ヒトC4c(Immunsystem AB, Uppsala, Sweden)1:700希釈液を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200TlのPBSで5回洗浄した。2.0mg/ml BSAを含有するPBSに溶解した、100Tl/ウェルの0.1Tg/mlのペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Pierce Chemical番号21126)を添加し、シェーカーに載せて穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200TlのPBSで5回洗浄した。100Tl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加し、室温で16分間インキュベートした。100Tl/ウェルの1.0M H3PO4を添加することによってペルオキシダーゼ反応を止め、OD450を測定した。
【0302】
3.抗ラットMASP-2 Fab2と「天然」ラットMASP-2との結合アッセイ法
背景:MASP-2は、通常、特異的レクチン分子(マンノース結合タンパク質(MBL)およびフィコリン)も含むMASP-2二量体複合体として血漿中に存在する。従って、抗MASP-2 Fab2と生理学的に関連する形態のMASP-2との結合の研究に興味があるのであれば、精製組換えMASP-2ではなく、Fab2と血漿中の「天然」MASP-2との相互作用が用いられる結合アッセイ法を開発することが重要である。この結合アッセイ法では、最初に、10%ラット血清に由来する「天然」MASP-2-MBL複合体をマンナンコーティングウェルに固定化した。次いで、標準的なELISA法を用いて、固定化「天然」MASP-2に対する様々な抗MASP-2 Fab2の結合親和性を研究した。
【0303】
方法:96ウェルCostar High Bindingプレートを、1Tg/50Tl/ウェルで、50mM炭酸緩衝液、pH9.5で希釈したマンナンと5℃で一晩インキュベートした。200TlのPBSで各ウェルを3回洗浄した。ウェルを100Tl/ウェルの、PBST(0.05%Tween20を含むPBS)に溶解した0.5%無脂肪ドライミルクでブロックし、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200TlのTBS/Tween/Ca++洗浄緩衝液(5.0mM CaCl2を含有するTris緩衝食塩水、0.05%Tween20、pH7.4)で3回洗浄した。High Salt Binding Buffer(20mM Tris、1.0M NaCl、10mM CaCl2、0.05%Triton-X100、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン、pH7.4)に溶解した10%ラット血清を氷上で調製した。100Tl/ウェルを添加し、5℃で一晩インキュベートした。ウェルを200TlのTBS/Tween/Ca++洗浄緩衝液で3回洗浄した。次いで、ウェルを200TlのPBSで2回洗浄した。Ca++およびMg++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl2、2.0mM CaCl2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で希釈した100Tl/ウェルの選択された濃度の抗MASP-2 Fab2を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200TlのPBSで5回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含むPBSで1:5000に希釈した100Tl/ウェルのHRP結合ヤギ抗Fab2(Biogenesisカタログ番号0500-0099)を添加し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200TlのPBSで5回洗浄した。100Tl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加し、室温で70分間インキュベートした。100Tl/ウェルの1.0M H3PO4を添加することによってペルオキシダーゼ反応を止め、OD450を測定した。
【0304】
結果:
ELISAスクリーニングのために、高親和性でラットMASP-2タンパク質と反応した約250個の異なるFab2を選んだ。異なる抗体の固有性を決定するために、これらの高親和性Fab2を配列決定した。さらなる分析のために、50個の固有の抗MASP-2抗体を精製した。それぞれの精製Fab2抗体250μgを、MASP-2結合親和性の特徴決定および補体経路の機能試験に使用した。この分析の結果を以下の表7に示した。
【0305】
(表7)レクチン経路補体活性化を遮断する抗MASP-2 FAB2
【0306】
表7に示したように、試験した50個の抗MASP-2 Fab2のうち17個のFab2が、10nM Fab2に等しい、または10nM Fab2未満のIC
50でC3コンバターゼ形成を強力に阻害するMASP-2遮断Fab2であると同定された(34%の陽性ヒット率)。17個のFab2のうち8個のIC
50はnM以下の範囲である。さらに、表7に示したMASP-2遮断Fab2のうち17個全てが、レクチン経路C3コンバターゼアッセイ法においてC3コンバターゼ形成の本質的に完全な阻害を示した。
図8Aは、試験された他のFab2抗体を代表するFab2抗体番号11についてのC3コンバターゼ形成アッセイ法の結果を図示する。この結果を表7に示した。それぞれのMASP-2分子がFab2に結合している場合でも、「遮断」Fab2がMASP-2機能をほんのわずかにしか阻害しない場合があるのは理論上可能なので、これは重要な考慮事項である。
【0307】
マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子であるが、ラット血清中に抗マンナン抗体が存在することでも古典経路が活性化し、古典経路C3コンバターゼを介してC3bが生成され得ることも理論上可能である。しかしながら、本実施例において列挙された17個の遮断抗MASP-2 Fab2はそれぞれC3b生成を強力に阻害する(>95%)。従って、このことから、レクチン経路C3コンバターゼに対する、このアッセイ法の特異性が証明される。
【0308】
それぞれの遮断Fab2の見かけのK
dを算出するために、17個全ての遮断Fab2を用いて結合アッセイ法も行った。遮断Fab2のうちの6個についての、天然ラットMASP-2に対する抗ラットMASP-2 Fab2の結合アッセイ法の結果も表7に示した。
図8Bは、Fab2抗体番号11を用いた結合アッセイ法の結果を図示する。他のFab2についても同様の結合アッセイ法を行った。この結果を表7に示した。一般的に、6個のFab2のそれぞれと「天然」MASP-2の結合について得られた見かけのK
dは、C3コンバターゼ機能アッセイ法におけるFab2のIC
50と妥当によく一致する。MASP-2はそのプロテアーゼ活性が活性化されると「不活性」型から「活性」型へとコンフォメーション変化を受けるという証拠がある(Feinberg et al., EMBO J 22:2348-59(2003); Gal et al., J. Biol.Chem. 250:33435-44(2005))。C3コンバターゼ形成アッセイ法において用いられる正常ラット血漿中には、MASP-2は主に「不活性な」酵素前駆体コンフォメーションの状態で存在する。対照的に、結合アッセイ法では、MASP-2は、固定化マンナンと結合したMBLとの複合体の一部として存在する。従って、MASP-2は「活性」コンフォメーション状態にあると考えられる(Petersen et al., J. Immunol Methods 257:107-16, 2001)。その結果、これらの2つの機能アッセイ法において試験された17個の遮断Fab2のそれぞれについてIC
50とK
dの間に厳密な対応関係が予想されるとは限らないと考えられる。なぜなら、それぞれのアッセイ法において、Fab2は異なるコンフォメーション型のMASP-2を結合するからである。にもかかわらず、Fab2番号88を除いて、2つのアッセイ法において試験された他の16個のFab2のそれぞれについてIC
50と見かけのK
dの間に妥当に密接な対応関係があるように思われる(表7を参照されたい)。
【0309】
MASP-2によって媒介されるC4切断の阻害について遮断Fab2のいくつかを評価した。
図8Cは、Fab2番号41による阻害、IC
50=0.81nMを示すC4切断アッセイ法の結果を図示する(表7を参照されたい)。
図9に示したように、試験されたFab2の全てが、C3コンバターゼアッセイ法において得られたIC
50とほぼ同じIC
50でC4切断を阻害することが見出された(表7を参照されたい)。
【0310】
マンナンはレクチン経路の公知の活性化因子であるが、ラット血清中に抗マンナン抗体が存在することでも古典経路が活性化し、それによって、C1sを介したC4切断によってC4bが生成され得ることも理論上可能である。しかしながら、C4b生成を強力に阻害する(>95%)、いくつかの抗MASP-2 Fab2が同定されている。従って、このことから、MASP-2によって媒介されるC4切断に対する、このアッセイ法の特異性が証明される。C4はC3と同様に、その構造の一部として、珍しく、かつ高反応性のチオエステル基を含有する。このアッセイ法においてC4がMASP-2によって切断されると、C4b上のチオエステル基は、エステル結合またはアミド結合を介してプラスチックウェルの底に固定化された巨大分子上のヒドロキシル基またはアミノ基と共有結合を形成することができ、従って、ELISA法におけるC4bの検出が容易になる。
【0311】
これらの結果から、C4およびC3コンバターゼ活性を両方とも機能的に遮断する、ラットMASP-2タンパク質に対する高親和性FAB2が作製され、それによって、レクチン経路活性化が阻止されることがはっきりと証明される。
【0312】
実施例11
本実施例は、実施例10に記載のように生成された遮断抗ラットMASP-2 Fab2抗体のいくつかのエピトープマッピングについて述べる。
【0313】
方法:
図10に示したように、全てN末端6×Hisタグを有する以下のタンパク質を、pED4ベクターを用いてCHO細胞において発現させた:
ラットMASP-2A、活性中心にあるセリンをアラニンに変えることによって不活性化された完全長MASP-2タンパク質(S613A);
ラットMASP-2K、自己活性化を低下させるように変えられた完全長MASP-2タンパク質(R424K);
CUBI-II、CUBIドメイン、EGF様ドメイン、およびCUBIIドメインしか含まないラットMASP-2 N末端断片;ならびに
CUBI/EGF様、CUBIドメインおよびEGF様ドメインしか含まないラットMASP-2 N末端断片。
【0314】
以前に述べられたように(Chen et al., J. Biol. Chem. 276:25894-02(2001))、これらのタンパク質をニッケル-アフィニティクロマトグラフィーによって培養上清から精製した。
【0315】
ラットMASP-2のCCPIIおよびセリンプロテアーゼドメインを含有するC末端ポリペプチド(CCPII-SP)を、pTrxFus(Invitrogen)を用いてチオレドキシン融合タンパク質として大腸菌において発現させた。タンパク質を、Thiobondアフィニティ樹脂を用いて細胞溶解産物から精製した。チオレドキシン融合パートナーを陰性対照として空のpTrxFusから発現させた。
【0316】
全ての組換えタンパク質をTBS緩衝液で透析し、280nmのODを測定することによって濃度を求めた。
【0317】
ドットブロット分析:
前述したおよび
図10に示した5個の組換えMASP-2ポリペプチドの段階希釈液(ならびにCCPII-セリンプロテアーゼポリペプチドの陰性対照としてチオレドキシンポリペプチド)をニトロセルロース膜上にスポットした。スポットされたタンパク質の量は5倍段階で100ng~6.4pgであった。後の実験において、スポットされたタンパク質の量は、再度、5倍段階で50ng~16pgであった。膜を、TBS(ブロッキング緩衝液)に溶解した5%スキムミルク粉末でブロックし、次いで、ブロッキング緩衝液(5.0mM Ca
2+を含有する)に溶解した1.0μg/mlの抗MASP-2 Fab2とインキュベートした。結合しているFab2を、HRP結合抗ヒトFab(AbD/Serotec;1/10,000に希釈した)およびECL検出キット(Amersham)を用いて検出した。1枚の膜を、陽性対照としてポリクローナルウサギ抗ヒトMASP-2 Ab(Stover et al., J Immunol 163:6848-59(1999)に記載)とインキュベートした。この場合、結合しているAbを、HRP結合ヤギ抗ウサギIgG(Dako; 1/2,000に希釈した)を用いて検出した。
【0318】
MASP-2結合アッセイ法
ELISAプレートを、炭酸緩衝液(pH9.0)に溶解した1.0μg/ウェルの組換えMASP-2AまたはCUBI-IIポリペプチドで4℃において一晩コーティングした。ウェルを、TBSに溶解した1%BSAでブロックし、次いで、5.0mM Ca2+を含有するTBSに溶解した抗MASP-2 Fab2の段階希釈液を添加した。プレートをRTで1時間インキュベートした。TBS/tween/Ca2+で3回洗浄した後、TBS/Ca2+で1/10,000に希釈したHRP結合抗ヒトFab(AbD/Serotec)を添加し、プレートをRTでさらに1時間インキュベートした。結合している抗体を、TMBペルオキシダーゼ基質キット(Biorad)を用いて検出した。
【0319】
結果:
Fab2と様々なMASP-2ポリペプチドとの反応性を証明したドットブロット分析の結果を以下の表8に示した。表8に示した数値は、ほぼ最大半量のシグナル強度を得るために必要とされる、スポットされたタンパク質の量を示す。示したように、(チオレドキシン融合パートナー単独を除く)全てのポリペプチドが、陽性対照Ab(ポリクローナル抗ヒトMASP-2血清、ウサギにおいて産生された)によって認識された。
【0320】
(表8)ドットブロットにおける様々な組換えラットMASP-2ポリペプチドとの反応性
NR=反応なし。陽性対照抗体は、ウサギにおいて産生されたポリクローナル抗ヒトMASP-2血清である。
【0321】
全てのFab2がMASP-2AならびにMASP-2Kと反応した(データ示さず)。Fab2の大半はCCPII-SPポリペプチドを認識したが、N末端断片を認識しなかった。2つの例外はFab2番号60およびFab2番号57である。Fab2番号60はMASP-2AおよびCUBI-II断片を認識するが、CUBI/EGF様ポリペプチドもCCPII-SPポリペプチドも認識しない。このことから、Fab2番号60は、CUBII中のエピトープまたはCUBIIとEGF様ドメインにまたがるエピトープに結合することが示唆される。Fab2番号57は、MASP-2Aを認識するが、試験されたいかなるMASP-2断片も認識することはなく、このFab2がCCP1中のエピトープを認識することを示す。Fab2番号40および番号49は完全なMASP-2Aにしか結合しなかった。
図11に示したELISA結合アッセイ法において、Fab2番号60は、わずかに低い見かけの親和性ではあるがCUBI-IIポリペプチドにも結合した。
【0322】
これらの知見から、MASP-2タンパク質の複数の領域に対する固有の遮断Fab2が同定されたことが証明される。
【0323】
実施例12
本実施例はマウス黄斑変性モデルにおけるMASP-2-/-の結果について述べる。
【0324】
原理/背景:加齢黄斑変性(AMD)は、先進国における55歳以降の失明の第1位の原因である。AMDは、2つの主な型:新生血管型(ウェット)AMDおよび萎縮型(ドライ)AMDで発生する。新生血管型(ウェット)型はAMDに関連した重篤な失明の90%を占めるが、AMD個体の約20%しかウェット型を発症しない。AMDの臨床上の顕著な特徴には、複数のドルーゼン、地図状萎縮、および脈絡膜血管新生(CNV)が含まれる。2004年12月に、FDAは、ウェット(新生血管)型AMDを治療するための、血管内皮増殖因子(VEGF)を特異的な標的とし、その作用を遮断する新種の眼用薬物であるMacugen(ペガプタニブ)を認可した(Ng et al., Nat Rev. Drug Discov 5:123-32(2006))。Macugenは、AMD患者サブグループを対象とした有望な新しい治療選択肢であるが、依然として、この複雑な疾患のさらなる治療法を開発することが差し迫って必要とされている。複数の独立した研究分野が、補体活性化の中心的な役割をAMD発生に結びつけている。最も重篤な型のAMDである脈絡膜血管新生(CNV)の発生には補体経路の活性化が関与している可能性がある。
【0325】
25年以上前に、Ryanは、動物におけるCNVのレーザー誘導性傷害モデルについて述べた(Ryan, S.J., Tr. Am. Opth. Soc. LXXVII:707-745, 1979)。当初、このモデルはアカゲザルを用いて開発されたが、その後、類似のCNVモデルを開発するために、マウスを含む様々な研究動物において同じ技術が使用されてきた(Tobe et al., Am. J. Pathol. 153:1641-46, 1998)。このモデルでは、ブルッフ膜を破壊するためにレーザー光凝固が用いられ、これはCNV様の膜を形成する行為である。レーザー誘導性モデルはヒト状態の重要な特徴の多くを捕らえる(最近の総説については、Ambati et al., Survey Ophthalmology 48:251-293, 2003を参照されたい)。現在、レーザー誘導性マウスモデルは十分に確立しており、大規模な、かつ増加し続けている研究プロジェクトにおける実験基盤として用いられる。レーザー誘導性モデルは、このモデルを用いた発生および薬物阻害の前臨床試験がヒトにおけるCNVに関連するほどヒトCNVと十分な生物学的類似性を共有すると一般に受け入れられている。
【0326】
方法:
MASP-2-/-マウスを実施例1に記載のように生成し、10世代にわたってC57Bl/6と戻し交配した。本研究では、新生血管AMDの促進モデルであるレーザー誘導性CNVの経過においてMASP-2(-/-)雄マウスおよびMASP-2(+/+)雄マウスを評価した場合の結果を、組織傷害の尺度としての走査型レーザー共焦点顕微鏡観察によるレーザー誘導性CNVの体積、ならびにレーザー傷害後のELISAによる網膜色素上皮(RPE)/脈絡膜におけるCNVに関与する強力な血管新生因子であるVEGFレベルの決定に焦点を当てて比較した。
【0327】
脈絡膜血管新生(CNV)の誘導:0日目に、薬物群の割り付けが知らされていない一人の人が、それぞれの動物の両眼に対してレーザー光凝固(532nm、200mW、100ms、75μm; Oculight GL, Iridex, Mountain View, CA)を行った。標準的な手法で、スリットランプ送達系およびコンタクトレンズとしてカバーガラスを用いて視神経周囲にレーザースポットを適用した。レーザー傷害の形態エンドポイントは、ブルッフ膜の破壊と相関すると考えられている兆候であるキャビテーションバルブ(cavitation bubble)の出現であった。詳細な方法および評価されたエンドポイントは以下の通りである。
【0328】
フルオレセイン血管造影:レーザー光凝固の1週間後に、フルオレセイン血管造影をカメラおよびイメージングシステム(TRC 50 1Aカメラ; ImageNet 2.01システム; Topcon, Paramus, NJ)を用いて行った。0.1mlの2.5%フルオレセインナトリウムを腹腔内注射した後に、写真を、眼底カメラレンズと接触している20-Dレンズによって取り込んだ。レーザー光凝固または血管造影に関与していない網膜の専門家がフルオレセイン血管造影図を盲検形式で一気に評価した。
【0329】
脈絡膜血管新生(CNV)の体積:レーザー傷害の1週間後に、眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで4℃において30分間固定した。前区を取り出すことによって眼杯を得て、PBSで3回洗浄した後に、メタノール系列で脱水および再水和した。緩衝液(1%ウシ血清アルブミンおよび0.5%TritonX-100を含有するPBS)で2回、室温で30分間ブロッキングした後に、眼杯を、0.2%BSAおよび0.1%TritonX-100を含有するPBSで希釈した、0.5%FITC-イソレクチンB4(Vector laboratories, Burlingame, CA)と4℃で一晩インキュベートした。0.5%FITC-イソレクチンB4は内皮細胞の表面にある末端β-D-ガラクトース残基に結合し、マウス脈管構造を選択的に標識する。0.1%TritonX-100を含有するPBSで2回、洗浄した後に、神経感覚網膜をそっと剥がし、視神経から切り離した。4つの弛緩放射状切開部(relaxing radial incision)を作り、残っているRPE-脈絡膜-強膜複合体を、antifade培地(Immu-Mount Vectashield Mounting Medium; Vector Laboratories)に入れてフラットマウント(flatmount)し、カバーガラスをかけた。
【0330】
フラットマウントを走査型レーザー共焦点顕微鏡(TCS SP; Leica, Heidelberg, Germany)によって調べた。青色アルゴン波長(488nm)で励起し、515~545nmの発光を取り込むことによって血管を視覚化した。全てのイメージング研究に40×油浸対物レンズを使用した。RPE-脈絡膜-強膜複合体の表面から水平光学切片(1μm段階)を得た。病変とつながっている周囲の脈絡膜血管ネットワークを特定することができる最も深い焦平面が病変の床(floor)であると判断された。レーザーの標的となった領域内にあり、この基準面の表面にある任意の血管がCNVと判断された。それぞれの切片の画像をデジタル保存した。CNV関連蛍光の面積を、顕微鏡ソフトウェア(TCS SP; Leica)によるコンピュータ画像分析によって測定した。それぞれの水平切片にある全蛍光面積の合計をCNV体積の指数として使用した。治療群の割り付けが知らされていない作業者がイメージングを行った。
【0331】
CNVを発症している各レーザー病変の確率は、属する群(マウス、眼、およびレーザースポット)の影響を受けるので、病変体積の平均を、線形混合モデルとスプリットプロット反復測定(split plot repeated-measures)デザインを用いて比較した。全プロット因子(whole plot factor)は動物が属する遺伝群であったのに対して、スプリットプロット因子は眼であった。統計的有意性は0.05水準と決められた。平均のポストホック比較を、多重比較のためのボンフェローニ調整(Bonferroni adjustment)を用いて構築した。
【0332】
VEGF ELISA 12個のレーザースポットによる傷害の3日後に、RPE-脈絡膜複合体を、溶解緩衝液(20mMイミダゾールHCl、10mM KCl、1mM MgCL2、10mM EGTA、1%Triton X-100、10mM NaF、1mMモリブデン酸Na、および1mM EDTAとプロテアーゼインヒビター)に入れて氷上で15分間、超音波処理した。上清中のVEGFタンパク質レベルを、450~570nm(Emax; Molecular Devices, Sunnyvale, CA)で全てのスプライスバリアントを認識するELISAキット(R&D Systems, Minneapolis, MN)によって求め、総タンパク質に対して正規化した。光凝固にもイメージングにも血管造影にも関与しなかった作業者が、2つ組の測定を盲検形式で行った。VEGF数を少なくとも3回の独立した実験の平均+/-SEMとして表し、マン・ホイットニーU検定を用いて比較した。P<0.05で帰無仮説を棄却した。
【0333】
結果:
VEGFレベルの評価:
図12Aは、0日目にC57Bl6野生型マウスおよびMASP-2(-/-)マウスから単離されたRPE-脈絡膜複合体におけるVEGFタンパク質レベルを図示する。
図12Aに示したように、VEGFレベルの評価は、C57bl野生型対照マウスに対するMASP-2(-/-)マウスにおけるVEGFベースラインレベルの減少を示す。
図12Bは、レーザー誘導性傷害の3日後に測定されたVEGFタンパク質レベルを図示する。
図12Bに示したように、VEGFレベルはレーザー誘導性傷害の3日後に野生型(+/+)マウスでは有意に増加し、発表された研究(Nozaki et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:2328-33(2006))と一致する。しかしながら、驚いたことに、MASP-2(-/-)マウスでは非常に低レベルのVEGFが見られた。
【0334】
脈絡膜血管新生(CNV)の評価:
レーザー誘導性黄斑変性後のVEGFレベルの低下に加えて、レーザー傷害の前後にCNV面積が求められた。
図13は、レーザー誘導性傷害後7日目にC57bl野生型マウスおよびMASP-2(-/-)マウスにおいて測定されたCNV体積を図示する。
図13に示したように、MASP-2(-/-)マウスは、レーザー誘導性損傷後7日目に野生型対照マウスと比較してCNV面積の約30%の低減を示した。
【0335】
これらの知見により、MASP(-/-)マウス対野生型(+/+)対照から分かるようなVEGFに減少およびCNVの低減が示され、かつ、阻害因子によるMASP-2の遮断が黄斑変性治療において予防効果または治療効果を有することが示される。
【0336】
実施例13
本実施例は、実施例10に記載のように同定された代表的な高親和性抗MASP-2 Fab2抗体の薬力学的分析について述べる。
【0337】
背景/原理:
実施例10に記載のように、ラットレクチン経路を遮断する高親和性抗体を同定するために、ラットMASP-2タンパク質を用いてファージディスプレイライブラリーをパンニングした。このライブラリーは大きな免疫学的多様性を提供するように設計され、完全ヒトイムノグロビン(immunoglobin)遺伝子配列を用いて構築された。実施例10に記載のように、ラットMASP-2タンパク質と高親和性で結合する約250個の個々のファージクローンをELISAスクリーニングによって同定した。これらのクローンの配列決定によって、50個の固有のMASP-2抗体コードファージが同定された。これらのクローンからFab2タンパク質を発現させ、精製し、MASP-2結合親和性およびレクチン補体経路機能阻害について分析した。
【0338】
実施例10の表7に示したように、この分析の結果として、機能遮断活性を有する17個の抗MASP-2 Fab2を同定した(遮断抗体については34%のヒット率)。Fab2によるレクチン補体経路の機能阻害は、MASP-2によるC4切断の直接の尺度であるC4沈着のレベルにおいて明らかであった。重要なことに、C3コンバターゼ活性を評価した場合に、阻害は同じように明らかであった。このことから、レクチン補体経路の機能遮断が証明される。実施例10に記載のように同定された17個のMASP-2遮断Fab2は、10nM Fab2に等しい、または10nM Fab2未満のIC
50値でC3コンバターゼ形成を強力に阻害する。同定された17個のFab2のうち8個のIC
50はnM以下の範囲である。さらに、
図8A~Cに示したように、および実施例10の表7にまとめたように、MASP-2遮断Fab2のうち17個全てがレクチン経路C3コンバターゼアッセイ法においてC3コンバターゼ形成の本質的に完全な阻害を示した。さらに、表7に示した17個の遮断抗MASP-2 Fab2はそれぞれC3b生成を強力に阻害する(>95%)。従って、レクチン経路C3コンバターゼを対象としたこのアッセイ法の特異性が証明される。
【0339】
ラットIgG2cおよびマウスIgG2a完全長抗体アイソタイプ変種はFab2番号11から得られた。本実施例は、薬力学パラメータについての、これらのアイソタイプのインビボ特徴決定について述べる。
【0340】
方法:
実施例10に記載のように、ラットMASP-2タンパク質を用いてFabファージディスプレイライブラリーをパンニングした。これから、Fab2番号11を同定した。ラットIgG2cおよびマウスIgG2a完全長抗体アイソタイプ変種はFab2番号11から得られた。ラットIgG2cおよびマウスIgG2a完全長抗体アイソタイプを、以下の通り薬力学パラメータについてインビボで特徴決定した。
【0341】
マウスにおけるインビボ研究:
インビボでの血漿レクチン経路活性に対する抗MASP-2抗体投与の効果を調べるために、マウスにおいて薬力学的研究を行った。この研究では、0.3mg/kgまたは1.0mg/kgのマウス抗MASP-2 MoAb(Fab2番号11に由来するマウスIgG2a完全長抗体アイソタイプ)の皮下(SC)投与後および腹腔内(IP)投与後の様々な時点で、C4沈着をレクチン経路アッセイ法においてエクスビボで測定した。
【0342】
図14は、0.3mg/kgまたは1.0mg/kgのマウス抗MASP-2 MoAbの皮下投与後の様々な時点でマウス(n=3マウス/群)から採取された未希釈血清試料においてエクスビボで測定されたレクチン経路特異的C4b沈着を図示する。抗体投与前に収集されたマウス由来の血清試料は陰性対照(100%活性)として役立ったのに対して、100nMの同じ遮断抗MASP-2抗体をインビトロで添加した血清を陽性対照(0%活性)として使用した。
【0343】
図14に示した結果から、1.0mg/kg用量のマウス抗MASP-2 MoAbの皮下投与後に迅速かつ完全なC4b沈着阻害が証明される。0.3mg/kg用量のマウス抗MASP-2 MoAbの皮下投与後にC4b沈着の部分阻害が見られた。
【0344】
0.6mg/kgのマウス抗MASP-2 MoAbをマウスに単回IP投与した後、レクチン経路回復の時間経過が3週間続いた。
図15に示したように、抗体投与後に、レクチン経路活性が急激に低下し、それに続いて、IP投与後、約7日続く完全なレクチン経路阻害が生じた。レクチン経路活性のゆっくりとした回復が第2週および第3週にわたって観察され、抗MASP-2 MoAb投与後17日までにマウスにおいてレクチン経路が完全に回復した。
【0345】
これらの結果から、Fab2番号11に由来するマウス抗MASP-2 Moabは全身送達された場合に、マウスのレクチン経路を用量反応の様式で阻害することが証明される。
【0346】
実施例14
本実施例は、加齢黄斑変性のマウスモデルにおける有効性についてのFab2番号11に由来するマウス抗MASP-2 Moabの分析について述べる。
【0347】
背景/原理:
実施例10に記載のように、ラットMASP-2タンパク質を用いてFabファージディスプレイライブラリーをパンニングした。これから、Fab2番号11を機能的に活性な抗体として同定した。ラットIgG2cおよびマウスIgG2aアイソタイプの完全長抗体はFab2番号11から得られた。実施例13に記載のように、マウスIgG2aアイソタイプの完全長抗MASP-2抗体の薬力学パラメータについて特徴決定した。本実施例では、Fab2番号11に由来するマウス抗MASP-2完全長抗体を、Bora P.S. et al., J Immunol 174:491-497(2005)に記載の加齢黄斑変性(AMD)のマウスモデルにおいて分析した。
【0348】
方法:
実施例13に記載のようにFab2番号11に由来するマウスIgG2a完全長抗MASP-2抗体アイソタイプを、以下の変更を加えて実施例12に記載のように加齢黄斑変性(AMD)のマウスモデルにおいて試験した。
【0349】
マウス抗MASP-2 MoAbの投与
アイソタイプ対照MoAb処置と一緒に、2つの異なる用量(0.3mg/kgおよび1.0mg/kg)のマウス抗MASP-2 MoAbをCNV誘導の16時間前にWT(+/+)マウス(n=8マウス/群)にIP注射した。
【0350】
脈絡膜血管新生(CNV)の誘導
実施例12に記載のように、脈絡膜血管新生(CNV)の誘導およびCNV体積の測定をレーザー光凝固を用いて行った。
【0351】
結果:
図16は、アイソタイプ対照MoAbまたはマウス抗MASP-2 MoAb(0.3mg/kgおよび1.0mg/kg)で処置されたマウスにおけるレーザー傷害の7日後に測定されたCNV面積を図示する。
図16に示したように、1.0mg/kg抗MASP-2 MoAbで前処置されたマウスでは、レーザー処置の7日後に統計的に有意な(p<0.01)約50%のCNV低減が観察された。
図16にさらに示したように、0.3mg/kg用量の抗MASP-2 MoAbがCNV低減において有効でないことが観察された。実施例13に記載のように、およびに
図14に示したように、0.3mg/kg用量の抗MASP-2 MoAbは、皮下投与後に部分的および一過的なC4b沈着阻害を有すると示されたことに注目する。
【0352】
本実施例に記載の結果から、抗MASP-2 MoAbなどの阻害因子によるMASP-2の遮断には、黄斑変性の治療において予防効果および/または治療効果があることが証明される。これらの結果は、野生型対照マウスと比較してMASP-2(-/-)マウスにおいてレーザー処置の7日後に30%のCNV低減が観察された、実施例12に記載のMASP-2(-/-)マウスで行われた研究において観察された結果と一致することに注目する。さらに、本実施例の結果から、全身送達された抗MASP-2抗体は眼において局所的な治療利益を提供することがさらに証明され、それによって、全身投与経路がAMD患者を治療する可能性が強調される。要約すると、これらの結果から、AMD治療におけるMASP-2 MoAbの使用を支持する証拠が得られる。
【0353】
実施例15
本実施例は、免疫系の古典的(C1q依存的)経路成分を完全な状態のままにしておきながら、MASP-2に結合し、かつレクチンを介した補体活性化を阻害する完全ヒトscFv抗体をファージディスプレイを用いて同定することについて述べる。
【0354】
概略:
ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによって完全ヒト高親和性MASP-2抗体を同定した。抗体の可変軽鎖断片および可変重鎖断片をscFv形式および完全長IgG形式で単離した。ヒトMASP-2抗体は、免疫系の古典的(C1q依存的)経路成分を完全な状態のままにしておきながら、レクチン経路を介した補体第二経路活性化に関連する細胞傷害を阻害するために有用である。一部の態様において、このMASP-2阻害抗体は、以下の特徴を有する:(a)ヒトMASP-2に対する親和性が高い(例えば、KD 10nM以下)、および(b)IC50 30nM以下で90%ヒト血清中でMASP-2依存性補体活性を阻害すること。
【0355】
方法:
完全長触媒不活性MASP-2の発現:
ヒトMASP-2ポリペプチドをコードするヒトMASP-2完全長cDNA配列(SEQ ID NO:4)とリーダー配列(SEQ ID NO:5)を哺乳動物発現ベクターpCI-Neo(Promega)にサブクローニングした。哺乳動物発現ベクターpCI-Neo(Promega)は、CMVエンハンサー/プロモーター領域の制御下で真核生物において発現を駆動する(Kaufman R.J. et al., Nucleic Acids Research 19:4485-90, 1991; Kaufman, Methods in Enzymology, 185:537-66 (1991)に記載)。
【0356】
触媒不活性ヒトMASP-2Aタンパク質を作製するために、本明細書に参照により組み入れられるUS2007/0172483に記載のように部位特異的変異誘発を行った。アガロースゲル電気泳動後にPCR産物を精製し、バンド調製物および1アデノシンオーバーラップを標準的なテーリング法を用いて作製した。次いで、アデノシンテールMASP-2AをpGEM-T easyベクターにクローニングし、形質転換によって大腸菌(E.coli)に導入した。ヒトMASP-2Aを哺乳動物発現ベクターpEDまたはpCI-Neoのいずれかにさらにサブクローニングした。
【0357】
標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション法(Maniatis et al.,1989)を用いて、前記のMASP-2A発現構築物をDXB1細胞に導入した。確実に調製物が他の血清タンパク質で汚染されないように、MASP-2Aを無血清培地中で産生させた。培地をコンフルエント細胞から一日おきに収集した(合計4回)。組換えMASP-2Aレベルの平均は培養培地1リットルあたり約1.5mgであった。MBP-A-アガロースカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーによってMASP-2A(前記のSer-Ala変異体)を精製した。
【0358】
パニング/scFv変換およびフィルタースクリーニングによって同定したScFv候補クローンに対するMASP-2A ELISA
ヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域配列および重鎖可変領域配列のファージディスプレイライブラリーを抗原パニングに供し、その後に、ヒトMASP-2タンパク質に対する高親和性scFv抗体を同定するために自動抗体スクリーニングおよび選択を行った。HIS-タグ化MASP-2Aまたはビオチン-タグ化MASP-2Aに対するscFvファージライブラリーパニングを3回行った。3回目のパニングを最初にMBLで溶出させ、次いでTEA(アルカリ性)で溶出させた。標的MASP-2Aに対するscFv断片を示すファージの特異的濃縮をモニタリングするために、固定化MASP-2Aに対するポリクローナルファージELISAを行った。3回目のパニングからのscFv遺伝子をpHOG発現ベクターにクローニングし、MASP-2Aに対する特異的クローンを探すためにスモールスケールフィルタースクリーニングに供した。
【0359】
3回目のパニングからのscFv断片をコードするプラスミドを含有する細菌コロニーをつつき、ニトロセルロース膜上で格子状にし(grid)、非誘導培地上で一晩増殖させてマスタープレートを作製した。3回目のパニングから合計18,000個のコロニーをつつき、分析した。半分は競合的溶出由来であり、半分は、その後のTEA溶出由来であった。MASP-2Aに対するscFvファージミドライブラリーのパニングとそれに続くscFv変換およびフィルタースクリーニングによって137個の陽性クローンが得られた。137個のうち108個のクローンが、MASP-2結合についてのELISAアッセイ法において陽性であった(データは示さず)。このうち45個のクローンを、正常ヒト血清中でMASP-2活性を妨げる能力についてさらに分析した。
【0360】
レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定するためのアッセイ法
レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能アッセイ法を用いて、MASP-2 scFv候補クローンの「ブロッキング活性」を評価した。レクチン経路C3コンバターゼを構成する2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するためにはMASP-2セリンプロテアーゼ活性が必要とされる。従って、MASP-2機能活性を阻害するMASP-2 scFv(すなわち、ブロッキングMASP-2 scFv)はレクチン経路C3コンバターゼの新規形成を阻害する。C3は、その構造の一部として珍しい高反応性のチオエステル基を含有する。このアッセイ法においてC3コンバターゼによりC3が切断されると、C3b上にあるチオエステル基は、エステル結合またはアミド結合を介して、プラスチックウェルの底に固定化された高分子上にあるヒドロキシル基またはアミノ基と共有結合を形成することができ、従って、ELISAアッセイ法におけるC3b検出が容易になる。
【0361】
酵母マンナンは公知のレクチン経路アクチベーターである。C3コンバターゼの形成を測定する以下の方法では、マンナンでコーティングしたプラスチックウェルを希釈ヒト血清とインキュベートして、レクチン経路を活性化した。次いで、ウェルを洗浄し、標準的なELISA法を用いてウェル上に固定化したC3bについてアッセイした。このアッセイ法において生成したC3bの量は、レクチン経路C3コンバターゼの新規形成を直接反映したものである。このアッセイ法では、選択された濃度のMASP-2 scFvクローンが、C3コンバターゼ形成およびその結果として起きるC3b生成を阻害する能力を試験した。
【0362】
方法:
前記のように同定した45個の候補クローンを発現させ、精製し、同じストック濃度まで希釈し、確実に全クローンに等量の緩衝液があるように、Ca++およびMg++を含有するGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl2、2.0mM CaCl2、0.1%ゼラチン、pH7.4)で再希釈した。scFvクローンをそれぞれ、2μg/mLの濃度で3つ組で試験した。陽性対照はOMS100 Fab2であり、0.4μg/mLで試験した。scFv/IgGクローンの存在下および非存在下でC3c形成をモニタリングした。
【0363】
マンナンを、50mM炭酸緩衝液(15mM Na2CO3+35mM NaHCO3+1.5mM NaN3)、pH9.5で20μg/mL(1μg/ウェル)の濃度まで希釈し、ELISAプレートに4℃で一晩コーティングした。翌日、マンナンコーティングプレートをPBS 200μlで3回洗浄した。次いで、1%HSAブロッキング溶液100μlをウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートはPBS 200μlで3回洗浄され、かつ、試料の添加までPBS 200μlを加えて氷上で保管された。
【0364】
正常ヒト血清をCaMgGVB緩衝液で0.5%まで希釈し、この緩衝液に、scFvクローンまたはOMS100 Fab2陽性対照を0.01μg/mL;1μg/mL(OMS100対照のみ)および10μg/mLにおいて3つ組で添加し、氷上で45分間プレインキュベートした後に、ブロックされたELISAプレートに添加した。37℃で1時間インキュベートすることによって反応を開始した。プレートを氷浴に移すことによって反応を止めた。ウサギα-マウスC3c抗体の後にヤギα-ウサギHRPを用いてC3b沈着が検出された。陰性対照は、抗体を含まない緩衝液(抗体なし=最大C3b沈着)であった。陽性対照は、EDTAを含む緩衝液(C3b沈着なし)であった。バックグラウンドは、ウェルがマンナンを含まないこと以外は同じアッセイ法を行うことによって決定された。マンナンを含有するウェルのシグナルから、マンナンを含まないプレートに対するバックグラウンドシグナルを差し引いた。カットオフ基準は、関連のないscFvクローン(VZV)および緩衝液のみの活性の半分に設定した。
【0365】
結果:
カットオフ基準に基づいて、合計13個のクローンがMASP-2活性を妨げることが見出された。>50%の経路抑制を生じた13個全てのクローンを選択および配列決定して、10個の固有のクローンを得た。10個全てのクローンが同じ軽鎖サブクラス、λ3を有することが見出されたが、3つの異なる重鎖サブクラス:VH2、VH3、およびVH6を有することが見出された。機能アッセイ法において、10個の候補scFvクローンから5個が、0.5%ヒト血清を用いて、25nM目標基準よりも少ないIC50nM値を示した。
【0366】
有効性が向上した抗体を同定するために、前記のように同定した3個の母scFvクローンを軽鎖シャッフリングに供した。このプロセスには、6人の健常ドナーに由来するナイーブヒトλ軽鎖(VL)ライブラリーと対になった、母クローンそれぞれのVHからなるコンビナトリアルライブラリーの作製を伴った。次いで、結合親和性および/または機能が改善されたscFvクローンがあるかどうか、このライブラリーをスクリーニングした。
【0367】
(表9)主要な娘クローンおよびそれらのそれぞれの母クローン(全てscFv形式)のIC
50 (nM)で表した機能的有効性の比較
【0368】
上記の表9に示した母クローンおよび娘クローンの重鎖可変領域(VH)配列を以下に示した。
【0369】
Kabat CDR(31-35(H1)、50-65(H2)、および95-107(H3))を太字で示した。Chothia CDR(26-32(H1)、52-56(H2)、および95-101(H3))に下線を引いた。
【0370】
17D20_35VH-21N11VL重鎖可変領域(VH)(SEQ ID NO:66によってコードされる、SEQ ID NO:67)
【0371】
d17N9重鎖可変領域(VH)(SEQ ID NO:68)
【0372】
母クローンおよび娘クローンの軽鎖可変領域(VL)配列を以下に示した。
【0373】
Kabat CDR(24~34(L1);50~56(L2);および89~97(L3)を太字で示した。Chothia CDR(24~34(L1);50~56(L2);および89~97(L3)に下線を引いた。KabatシステムでナンバリングしてもChothiaシステムでナンバリングしても、これらの領域は同一である。
【0374】
17D20m_d3521N11軽鎖可変領域(VL)(SEQ ID NO:69)
【0375】
17N16m_d17N9軽鎖可変領域(VL)(SEQ ID NO:70によってコードされるSEQ ID NO:71)
【0376】
MASP-2抗体であるOMS100およびMoAb_d3521N11VL(SEQ ID NO:67に示した重鎖可変領域とSEQ ID NO:70に示した軽鎖可変領域を含む。「OMS646」とも呼ぶ)はいずれも高い親和性でヒトMASP-2に結合し、機能的補体活性を妨げる能力を有することが証明されており、これらをドットブロット分析によってエピトープ結合について分析した。これらの結果により、OMS646抗体およびOMS100抗体はMASP-2に対して高度に特異的であり、MASP-1/3に結合しないことが示される。どちらの抗体も、MAp19にも、MASP-2のCCP1ドメインを含有しないMASP-2断片にも結合しなかった。このことから結合部位はCCP1を含むと結論付けられた。
【0377】
MASP-2抗体OMS646は、C1s、C1r、またはMASP-1と比較して5000倍超の選択性で組換えMASP-2に強く結合することが決定された(Kd60~250pM)(以下の表10を参照されたい)。
【0378】
(表10)固相ELISA試験によって評価した場合のOMS646 MASP-2抗体-MASP-2相互作用の親和性および特異性
*平均±SD; n=12。
【0379】
OMS646はレクチン依存的な終末補体成分活性化を特異的に遮断する
方法:
膜侵襲複合体(MAC)沈着に及ぼすOMS646の影響を、レクチン経路、古典経路、および第二経路の経路特異的条件を用いて分析した。この目的のために、Wieslab Comp300補体スクリーニングキット(Wieslab, Lund, Sweden)を製造業者の説明書に従って使用した。
【0380】
結果:
図17Aは、レクチン経路特異的アッセイ条件下、抗MASP-2抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。
図17Bは、古典経路特異的アッセイ条件下、抗MASP-2抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。
図17Cは、第二経路特異的アッセイ条件下、抗MASP-2抗体(OMS646)の存在下または非存在下でのMAC沈着レベルを図示する。
【0381】
図17Aに示したように、OMS646は、レクチン経路を介したMAC沈着活性化をIC
50値 約1nMで遮断する。しかしながら、OMS646は、古典経路を介した活性化から生じたMAC沈着(
図17B)にも第二経路を介した活性化から生じたMAC沈着(
図17C)にも影響を及ぼさなかった。
【0382】
マウスに静脈内(IV)投与または皮下(SC)投与した後のOMS646の薬物動態学および薬物動力学
マウスにおける28日間の単回投与PK/PD試験においてOMS646の薬物動態学(PK)および薬物動力学(PD)を評価した。この試験では、5mg/kgおよび15mg/kgの用量レベルの皮下(SC)投与OMS646ならびに5mg/kgの用量レベルの静脈内(IV)投与OMS646を試験した。
【0383】
OMS646のPKプロファイルに関して、
図18は、示された用量のOMS646を投与した後の時間の関数としてのOMS646濃度(n=3動物/群の平均)を図示する。
図18に示したように、5mg/kg SCのOMS646は、投与してから約1~2日後に5~6ug/mLの最大血漿中濃度に達した。5mg/kg SCのOMS646のバイオアベイラビリティは約60%であった。
図18にさらに示したように、15mg/kg SCのOMS646は、投与してから約1~2日後に10~12ug/mLの最大血漿中濃度に達した。全群について、OMS646は体循環からゆっくりと除去され、終末相半減期(terminal half-life)は約8~10日であった。OMS646のプロファイルはマウスにおけるヒト抗体に典型的である。
【0384】
OMS646のPD活性を
図19Aおよび
図19Bに図示した。
図19Aおよび19Bは、5mg/kg IV(
図19A)群および5mg/kg SC(
図19B)群における、それぞれのマウスのPD応答(全身レクチン経路活性の低下)を示す。破線はアッセイ法のベースラインを示す(最大阻害;アッセイ前に、インビトロで過剰なOMS646が添加されたナイーブマウス血清)。
図19Aに示したように、5mg/kgのOMS646をIV投与した後に全身レクチン経路活性はすぐに、ほぼ検出不可能なレベルまで低下した。レクチン経路活性は28日間の観察期間にわたってわずかな回復しか示さなかった。
図19Bに示したように、5mg/kgのOMS646 SCが投与されたマウスでは、時間依存的なレクチン経路活性阻害が観察された。薬物を投与してから24時間以内にレクチン経路活性はほぼ検出不可能なレベルまで低下し、少なくとも7日間、低いレベルのままであった。レクチン経路活性は時間と共に徐々に増加したが、28日間の観察期間内に投与前のレベルに戻らなかった。15mg/kg SCを投与した後に観察されたレクチン経路活性対時間プロファイルは5mg/kg SC用量とほぼ同じであった(データは示さず)。これはPDエンドポイントの飽和を示している。さらに、データから、IVまたはSCのいずれかで投与された5mg/kgのOMS646の毎週用量が、マウスにおける全身レクチン経路活性の連続的な抑制を達成するために十分であることが示された。
【0385】
実施例16
本実施例は、加齢黄斑変性のマウスモデルにおいてレクチン経路の機能を遮断するヒトIgG4抗体であるMASP-2モノクローナル抗体(OMS646)の効力の分析について述べる。
【0386】
背景/原理:
実施例15に記載のように、ヒトレクチン経路の機能を特異的に遮断する完全ヒトモノクローナルMASP-2抗体(OMS646)を作製した。本実施例では、Bora et al. (J Immunol 174:491-497, 2005)に記載の一般的に用いられる加齢黄斑変性(AMD)モデルであるレーザー誘導性脈絡膜血管新生(CNV)のマウスモデルにおいてOMS646を、対照薬である抗VEGF抗体と一緒に分析した。
【0387】
方法:
本研究では、3つの用量レベルのOMS646(2mg/kg;5mg/kgおよび20mg/kg SC)の効果をビヒクル処置と比較して評価した。実施例14に記載のように作製した、Fab2番号11に由来する抗マウスMASP-2 mAb(3mg/kg SC)を正の対照処置として含め、マウスVEGF-Aに結合し、VEGF-A機能を遮断するラットモノクローナル抗体(5mg/kg IP。クローン2G11-2A05、BioLegend(登録商標), San Diego, CAから購入)を対照薬処置として含めた。本研究では実験群あたり9~10匹のマウスを含め、盲検形式で行った。一定した、かつ予測可能な薬物レベルで効力を評価するために、レーザー誘導の1日前と3日後に注射する抗VEGF抗体を除く全ての処置をレーザー誘導の8日前に投与し、次いで再度、レーザー誘導の1日前に投与した。レーザー傷害の7日後に、マウスを麻酔し、0.75mlのFITC-デキストランを全身に灌流し、マウスを屠殺した。眼をホルマリン固定し、傷害領域を含む眼の後方部分を解剖し、ProLong退色防止剤(Invitrogen)中でフラットマウント(flat mount)した。傷害領域の共焦点顕微鏡観察を行い、各領域から画像を取り込んだ。CNVおよび傷害領域の測定を、ImageJプログラム(National Institutes of Health, Bethesda, Maryland USA)を用いて行った。各眼についてCNV面積を傷害スポットサイズに対して基準化した。%CNVは、傷害スポットあたりの血管新生した面積の平均を表し、(CNV面積/スポット面積)X100として計算した。本研究は盲検形式で、コード化された被験物質(test article)溶液を用いて行った。
【0388】
結果:
本研究のアウトカムを
図20に示した。
図20に示したように、ビヒクル処置群と比較して、OMS646処置マウスは、試験した全用量レベルにおいて目に見えるほどのCNV阻害を示し、相対CNV低減は29%~50%であった。抗VEGF処置ははより少ないCNV低減(約15%)を示した。Fab2番号11に由来する抗マウスMASP-2 mAbもビヒクル処置と比較してCNVを約30%低減した(データ示さず)。このことは、実施例12に記載のMASP-2(-/-)マウスにおいて行った研究において観察された結果と一致する。実施例12では、MASP-2(-/-)マウスにおいて、レーザー処置の7日後に野生型対照マウスと比較して30%のCNV低減が観察された。
【0389】
本研究の結果から、OMS646の全身投与は血管新生AMDを処置するための有効な療法だという証拠が得られる。硝子体内注射と必要とする、AMDならびに他の眼血管形成性疾患および眼血管形成性障害に対する現行の治療剤および出現しつつある治療剤とは異なり、OMS646は皮下投与された時にも有効である。
【0390】
さらに、本研究において使用したVEGF-A抗体(BioLegend(登録商標), San Diego, CAのクローン2G11-2A05)は、Wuest et al. (J Exp Med 207:101, 2009)に記載のように、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生のマウスモデルにおいて100ug/mLの濃度で結膜下注射によって投与された時に角膜への血管伸張を低減することが以前に示されたことに注目する。Luら(Cancer Res 72:2239-50, 2012)による別の研究では、B16腫瘍を有するCeacam1-/-マウスを抗VEGF抗体(クローン2G11-2A05)で処置することによって、約3mg/kgで週2回IP投与時に結腸腫瘍モデルの腫瘍サイズと腫瘍脈管構造が有意に低減した。OMS646がマウスに全身送達された時に、試験した全ての用量レベルにおいて、少なくとも抗VEGF抗体と同じくらいCNVを低減するために有効なことを証明した本研究のデータを考慮すると、MASP-2阻害物質、例えば、OMS646も、血管形成依存性癌、例えば、固形腫瘍、血液由来腫瘍、ハイリスクカルチノイド腫瘍、および腫瘍転移からなる群より選択される血管形成依存性癌の阻害において使用するための抗血管形成剤として有効だと予想される。血管形成依存性癌の例は、抗VEGF剤、例えば、抗VEGF抗体アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ、Genentech, CA)による処置のために認可されている癌タイプである。例えば、ベバシズマブは、以下の血管形成依存性癌:転移性結腸直腸癌、非扁平上皮非小細胞肺癌、転移性腎細胞癌、およびグリア芽細胞腫の処置のために認可されている。
【0391】
血管形成依存性癌のさらなる例は、抗VEGF剤、例えば、抗VEGF抗体アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ、Genentech,CA)による処置によって利益を得ると予想される癌タイプ、例えば、肝臓に転移する進行癌、黒色腫、卵巣癌、神経芽細胞腫、膵臓癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、前立腺癌、血管肉腫、転移性のまたは切除不能な血管肉腫、再発性卵巣性索間質性腫瘍、食道癌、胃癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、再発性または転移性の頭頚部癌、腫瘍性髄膜炎、子宮頚癌、子宮癌、進行性腹膜癌腫症、神経膠肉腫、神経内分泌癌、頭蓋外ユーイング肉腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、頭蓋内髄膜腫、進行性カポジ肉腫、中皮腫、胆道癌、転移性カルチノイド腫瘍、および進行性尿路癌を含む、血管新生抑制化合物(例えば、VEGFアンタゴニスト)で処置されることが既に知られているか、またはこれで処置される方法が開発途中の任意の癌である。これに関連して、好ましい癌には、結腸直腸癌、乳癌(転移性乳癌、炎症性乳癌を含む)、肺癌、腎臓癌、肝臓癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、および胃癌、ならびに神経膠腫、消化管間質腫瘍、リンパ腫、黒色腫、およびカルチノイド腫瘍が含まれる。
【0392】
MASP-2阻害物質、例えば、OMS646は、血管形成依存性良性腫瘍、例えば、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、カルチノイド腫瘍、および化膿性肉芽腫からなる群より選択される血管形成依存性良性腫瘍を阻害するための抗血管形成剤として有効なことも予想される。MASP-2阻害物質、例えば、OMS646は、AMDおよび他の眼血管形成性疾患または眼血管形成性障害、例えば、ブドウ膜炎、眼内黒色腫、角膜血管新生、原発性翼状片、HSV実質角膜炎、HSV-1誘発性角膜リンパ脈管新生、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、増殖性糖尿病性網膜症に続発する硝子体出血、視神経脊髄炎、およびルベオーシスにおける血管形成の阻害において使用するための抗血管形成剤として有効なことも予想される。
【0393】
OMS646がマウスに全身送達された時に、試験した全ての用量レベルにおいて、少なくとも抗VEGF抗体と同じくらいCNVを低減するために有効なことを証明した本研究のデータを考慮すると、MASP-2阻害物質、例えば、OMS646も、血管形成依存性状態、例えば、骨髄線維症および遺伝性出血性末梢血管拡張症の阻害において使用するための抗血管形成剤として有効だと予想される。
【0394】
実施例17
本実施例は、大腿動脈結紮の動物モデルにおいて補体活性化のMASP-2依存性レクチン経路を阻害すると抗血管形成効果が誘導されることを確かめるために、MASP-2(-/-)系統およびMASP-2阻害抗体を使用することについて述べる。
【0395】
背景/原理:
ヒトMASP-2 mAb OMS646がAMDモデルにおいて、VEGF-A抗体より大きいといかないまでも少なくとも等しい程度までCNVを阻害するという実施例16に記載の驚くべき結果を考慮して、MASP-2欠損マウスでは血管形成が低減すること、また、OMS646などのレクチン経路を遮断するMASP-2抗体が全身投与された時に血管形成阻害物質としてインビボで使用するために有効だということも確かめるために、以下の研究を行った。
【0396】
方法:
研究番号1:側副動脈成長のプロセスがMASP-2欠損の影響を受けるかどうか見るために、MASP-2(-/-)マウス、野生型対照マウス、およびMASP-2阻害抗体で前処置した野生型マウスにおいて大腿動脈結紮によって動脈形成を誘導し、インビボでレーザドップラー灌流測定を行う。大腿動脈結紮を行った後、21日目まで灌流測定を行う。
【0397】
以下を分析するために、大腿動脈結紮を行った後、3日目に免疫組織化学を行う。
(a)動脈形成が起こる太腿では、血管周囲の白血球浸潤に及ぼすMASP-2欠損の影響(白血球が、成長中の側副動脈に増殖因子、サイトカインを供給する場合、動脈形成は白血球浸潤に強く依存する)と、
(b)大腿動脈結紮により虚血になる下腿では、MASP-2(-/-)マウス、抗MASP-2抗体処置野生型マウス、および対照野生型マウスにおける虚血組織損傷の重篤度、白血球浸潤、および血管形成。
(c)MASP-2(-/-)マウス、抗MASP-2抗体処置野生型マウス、および対照野生型マウスにおいて大腿動脈結紮を行って12時間後および24時間後に、単離された側副動脈においてRNAレベルおよびタンパク質レベルでの遺伝子発現研究も行う。
【0398】
前記の抗血管形成効果に基づいて、MASP-2阻害によって大腿での動脈形成が25~50%阻止されるか、または低減すると予想される。さらに、MASP-2阻害は、虚血後の補体によって動かされる病理学的応答を25%~50%低減することが証明されている(Schwaeble et al., PNAS 108(18):7523-7528)。従って、MASP-2阻害は下腿での脈管形成を、似たような程度まで阻害するとも予想することができる。
【0399】
例示的な態様が例示および説明されたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更が可能なことが理解されると考えられる。
排他的な権利または特権を主張する本発明の態様は、添付の特許請求の範囲において規定される。