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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110173
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】水性コート材
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/08 20060101AFI20220722BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220722BHJP
   C09D 123/08 20060101ALI20220722BHJP
   C09D 131/04 20060101ALI20220722BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220722BHJP
【FI】
C09D1/08
C09D5/02
C09D123/08
C09D131/04
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005411
(22)【出願日】2021-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】521025027
【氏名又は名称】株式会社フェイス21
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基信
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038AA011
4J038CB051
4J038CF031
4J038HA026
4J038HA281
4J038HA491
4J038KA05
4J038KA19
4J038KA20
4J038MA08
4J038MA10
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】鉄鋼材の表面に塗布して三酸化二鉄の錆の発生を長期的に押さえ、塗膜の耐久性に優れ、また鉄鋼材表面に三種ケレン程度の錆が残存している上に塗布しても、三酸化二鉄を四酸化三鉄に変化させる性能のある錆止め用の水性コート材を提供する。
【解決手段】重量割合で、100部のエチレン-酢酸ビニル樹脂20~60%エマルジョンに対して、120~190部の白色ポルトランドセメントの粉末と、70~110部の珪砂の粉末とが混合されてなる錆止め用の水性コート材が提供される。さらに、上記水性コート材に対して、繊維径が10~15μmで平均繊維長が1.0~6.0mmの炭素繊維がコンパウンドの0.1~1.0重量%の分量添加されて、塗膜のひび割れにくい錆止め用の水性コート材が構成される。さらに、メチルセルロースが0.05~0.5重量%の分量添加されて、塗膜のたれにくい錆止め用の水性コート材が構成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色ポルトランドセメントの粉末および珪砂の粉末を主成分として含むコンパウンドと、
エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンと、
が混合されてなる錆止め用水性コート材。
【請求項2】
請求項1に記載の水性コート材において、
前記白色ポルトランドセメントは、CAS番号65997-15-1に規定される白色ポルトランドセメントであり、
前記珪砂は、CAS番号14808-60-7に規定される珪砂であり、
前記エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンは、CAS番号24937-78-8に規定されるエチレン-酢酸ビニル樹脂20~60%エマルジョンであり、
前記エチレン-酢酸ビニル樹脂20~60%エマルジョン100重量部に対して、前記白色ポルトランドセメントは120~190重量部含有されており、前記珪砂は70~110重量部含有されている
ことを特徴とする水性コート材。
【請求項3】
請求項2に記載の水性コート材に対して、さらに、
繊維径が10~15μmで平均繊維長が1.0~6.0mmの炭素繊維(CAS番号7440-44-0に規定)が前記コンパウンドの0.1~1.0重量%の分量添加されている
ことを特徴とする水性コート材。
【請求項4】
請求項3に記載の水性コート材に対して、さらに、
メチルセルロース(CAS番号9004-65-3に規定)の粉体が、コンパウンドの0.05~0.5重量%の分量添加されている
ことを特徴とする水性コート材。
【請求項5】
請求項4に記載の水性コート材に対して、さらに、
炭酸カルシウム(CAS番号471-34-1に規定)の粉体が、コンパウンドの0.5~5.0重量%の分量添加されている
ことを特徴とする水性コート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性コート材に関し、より具体的には、屋内外大気部に置かれる鋼構造物、および鉄・鋼等の建築などの金属部分の表面に錆止めのために塗布する水性コート材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄鋼材料は、他の材料に比べて強度が強い点とコストが安価な点から各種の構造物に使用されており、特に強靱な強度が要求される建築構造物を構成する部材として広く使用されている。しかしながら、鉄鋼材料は、錆びやすいという欠点があり、赤錆と称する三酸化二鉄(Fe2O3)として錆びると腐食が進行してその部分が破損していき、構造物の強度が保たれなくなるという問題がある。そのため、鉄鋼部材を使用する構造物では、鉄鋼部材の表面に防錆塗料を施して錆が発生しにくくしておく必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、現場で粉体と水性合成樹脂分散体を混合して防錆塗料を作製する技術が開示されており、この他にも、古くから多くの種々の防錆塗料が発明され開発されて産業界で広く使用されている。
【0004】
広く使用されている防錆塗料の一例として、JIS K 5551:2018およびJPMS 30:2016(一般社団法人日本塗料工業会規格)の鋼構造物用水性錆止めペイントについて説明すると、例えば、0.3~1.0mm厚の鋼板にウレタン系下地材(プライマー層)を厚さ0.1mm未満で塗布した上にこの錆止めペイントを0.1~0.2mmの膜厚で塗装した場合、塗装してから3~6年経過すると、赤錆(三酸化二鉄Fe2O3)が発生し、錆を落としてからの再塗装が必死となる。
【0005】
このように、従来の防錆塗料は、耐久性が十分でなく、長年月の使用のうちに下地の鉄鋼材に錆が生じ易く、さらには錆が成長し易く、一般的には数年ごとに塗り替えて頻繁な保守をしなければならなかった。特に、塩水にさらされるような環境では、鉄鋼材は非常に三酸化二鉄として錆び易いので、十分な耐久性のある防錆塗料が要求される。また、塗り替えの際には、その後の錆の進行のきっかけとならないように、下地の鉄鋼材表面に錆が残らないように錆を丁寧に削り取るケレン作業(二種ケレンまたは一種ケレン)が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-35007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、防錆塗料を塗布した鉄鋼材に三酸化二鉄の錆が発生するのを長期的に抑え、塗膜の耐久性に優れ、またそのような錆が発生した場合、塗り替えの際に鉄鋼材表面に三種ケレン程度の錆が残っていても、その上から塗布すれば経時的に三酸化二鉄の部分を四酸化三鉄(Fe3O4)に変化させて、下地の鉄鋼材を保護するような錆止め用の水性コート材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明による水性コート材は、白色ポルトランドセメントの粉末および珪砂の粉末を主成分として含むコンパウンドと、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンと、が混合されて構成される。混合されて出来る塗料は、pH12.0以上の強アルカリ性を呈する。
【0009】
より具体的には、白色ポルトランドセメントは、CAS番号65997-15-1により規定される白色ポルトランドセメントであり、珪砂は、CAS番号14808-60-7により規定される珪砂であり、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンは、CAS番号24937-78-8に規定されるエチレン-酢酸ビニル樹脂20~60%エマルジョンである。
【0010】
さらに、この発明の水性コート材は、エチレン-酢酸ビニル樹脂20~60%エマルジョン100重量部に対して、白色ポルトランドセメントは120~190重量部、珪砂は70~110重量部に選定すると、防錆性能、塗料性能および塗装作業の優れた水性コート材を構成することができる。
【0011】
また、この発明の水性コート材には、さらに、繊維径が10~15μmで平均繊維長が1.0~6.0mmの炭素繊維(CAS番号7440-44-0)をコンパウンドの0.1~1.0重量%の分量添加すると、塗膜の屈曲強度が向上するとともに塗膜のひび割れ防止となる。
【0012】
また、この発明の水性コート材に、メチルセルロース(CAS番号9004-65-3)の粉体をコンパウンドの0.05~0.5重量%の分量添加しておくと、塗装の際の塗膜のたれ防止となり、塗装作業性の向上になる。
【0013】
また、この発明の水性コート材に、炭酸カルシウム(CAS番号471-34-1)の粉体をコンパウンドの0.5~5.0重量%の分量添加しておくと、塗料の弾性が向上して塗膜の靭性が向上し、耐衝撃性、抗張力、引き裂き抵抗、剛性などの機能向上になる。
【発明の効果】
【0014】
この発明による水性コート材は、それを塗布した鉄鋼材に三酸化二鉄の錆の発生を長期的に抑える性能に優れ、またそのような錆が発生した場合、塗り替えの際に鉄鋼材表面に三種ケレン程度の錆が残っていても、その上から塗布することで経時的に三酸化二鉄の部分を四酸化三鉄に変化させて、下地の鉄鋼材を保護する働きをする。これにより、防錆塗料の塗り替え回数の削減につながり、メンテナンス工費が軽減される。
【0015】
使用するエチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンは、駆体への密着性が高いので、塗膜の強力な付着が維持される。また、弾性を有するので、駆体の変形に追従し、塗膜のひび割れが生じにくく、さらに、適度な揺変性を有するので、塗装時に塗面のたれが生じにくく、塗装作業性が向上する。この発明による水性コート材は、防水性を有しながら通気性能も有するので、塗装作業の際の乾燥が早い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明は、具体的な形態としては、粉体であるコンパウンドと液体であるエチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンとで構成され、コンパウンドとエチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンは、それぞれ別々に調製され、別々の容器に入れて販売され、保存され、塗装の現場で両者が混合されて塗料として配合され、防錆すべき鉄鋼材の表面に塗布される。
【0017】
この発明の実施形態では、一方で、CAS番号24937-78-8に規定されるエチレン-酢酸ビニル樹脂20~60%エマルジョンを1kg用意する。他方、コンパウンドとして、CAS番号65997-15-1に規定される白色ポルトランドセメントの粉末0.9kgとCAS番号14808-60-7に規定される珪砂の粉末1.4kgとの混合物(計2.3kg)を用意する。エマルジョンとコンパウンドを混合して出来る塗料は、pH12.0以上の強アルカリ性を呈する。この場合、好ましい配合割合としては、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン100gに対して、白色ポルトランドセメントの粉末は120~190g、珪砂の粉末は70~110gが適当である。また、白色ポルトランドセメントの粉末と珪砂の粉末は、粒径が小さい方が塗装の際の作業性がよく、また塗膜面が滑らかになるので、防錆塗料として優れており、白色ポルトランドセメントの粉末粒径は3.0μm以下および珪砂の粉末粒径は60μmが好ましい。
【0018】
この発明の水性コート材の塗膜の屈曲強度を向上させるとともに塗膜のひび割れ防止を図るために、上記実施形態のコンパウンドに炭素繊維を添加した。炭素繊維は、CAS番号7440-44-0に規定されるもので、繊維径が10~15μmで平均繊維長が1.0~6.0mmのものをコンパウンドの0.1~1.0重量%の分量添加するのが適当であった。
【0019】
また、この発明の水性コート材の塗膜のたれ防止を図るために、上記実施形態のコンパウンドにメチルセルロースの粉体を添加した。メチルセルロースの粉体は、CAS番号9004-65-3に規定されるもので、当該粉体をコンパウンドの0.05~0.5重量%の分量添加するのが適当であった。
【0020】
また、この発明の水性コート材の塗料の弾性を向上させ塗膜の靭性を向上させて、耐衝撃性、抗張力、引き裂き抵抗、剛性などの機能向上を図るために、上記実施形態のコンパウンドに炭酸カルシウムの粉体を添加した。炭酸カルシウムの粉体は、CAS番号471-34-1に規定されるもので、当該粉体をコンパウンドの0.5~5.0重量%の分量添加するのが適当であった。
【0021】
次に、この発明の水性コート材を鉄鋼材の表面に防錆塗料として塗布する場合の塗布方法について説明する。まず、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョンと、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン100gに対して白色ポルトランドセメントの粉末150gと珪砂の粉末80gの割合で混合したコンパウンドとを、塗装現場で配合して防錆塗料を作製する。ごく一般的な防錆塗装例として、0.8mm厚鋼板の表面を#80~#180のサンドペーパーを使用して目荒し(三種ケレン)をした上に、当該防錆塗料を1回目塗布(リシンガン、刷毛、ローラー、コテを使用)、1回目乾燥(気温・湿度により変わるが、60~120分程度)、2回目塗布、2回目乾燥(約60分)、上塗り剤塗布(水性塗料使用)をする。なお、当該防錆塗料の1回分の塗布量は、300~400g/m2 で、厚さが約0.3~0.4mmとなる。
【0022】
また、別の塗装例としては、同様に配合した防錆塗料を、0.8mm厚鋼板の表面を#80~#180のサンドペーパーを使用して目荒し(三種ケレン)をした上に、当該防錆塗料を1回目塗布(リシンガン、刷毛、ローラー、コテを使用)、1回目乾燥(気温・湿度により変わるが、60~120分程度)、2回目塗布、2回目乾燥(約60分)、3回目塗布、3回目乾燥(約60分)、上塗り剤塗布(水性塗料使用)をする。当該防錆塗料の1回分の塗布量は、300~400g/m2 で、厚さが約0.3~0.4mmとなる。
【0023】
さらに別の塗装例として、腐食した鋼板を補修塗装する場合について説明すると、0.8mm厚鋼板の表面を#80~#180のサンドペーパーを使用して目荒し(三種ケレン)をし、不織布にこの防錆塗料を含浸させたもので腐食箇所を覆って塞いで、その後、当該防錆塗料を1回目塗布(リシンガン、刷毛、ローラー、コテを使用)、1回目乾燥(60~120分程度)、2回目塗布、2回目乾燥(約60分)、3回目塗布、3回目乾燥(約60分)、上塗り剤塗布(水性塗料使用)をする。当該防錆塗料の1回分の塗布量は、300~400g/m2 で、厚さが約0.3~0.4mmとなる。鋼構造物の強度上問題ない程度の腐食であれば、このような補修塗装で十分である。
【0024】
この発明の水性コート材は、塗膜のアルカリ性が持続するので、塗膜の下に赤錆(三酸化二鉄)が発生しても、還元作用が働いて黒錆(四酸化三鉄)に変化させて黒錆を保ち、鉄鋼駆体の長期間の防錆性能が得られる。この発明による水性コート材と従来の防錆塗料をサイクル腐食性試験(JIS K 5551:2018の7.17による)で比較して、防錆性能が優れていることが分かった。
【0025】
また、上記で説明したように、腐食による穴の空いた駆体に対して、不織布をこの発明の水性コート材に含浸したものを貼り合わせて事前に穴を塞いでその上にこの発明による水性コート材を塗布することにより、従来工法のような鋼板加工による腐食箇所の穴塞ぎをすることなく、表面修正を伴う防錆塗装が施工可能である。