IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ハム株式会社の特許一覧

特開2022-110191豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム
<>
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図1
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図2
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図3
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図4
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図5
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図6
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図7
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図8
  • 特開-豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110191
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20220722BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20220722BHJP
【FI】
A01K29/00
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005450
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 翔
(72)【発明者】
【氏名】森下 直樹
(72)【発明者】
【氏名】助川 慎
(72)【発明者】
【氏名】内田 大介
(72)【発明者】
【氏名】奥田 雅貴
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ペン内で集団飼育されている豚のうち体表が汚れている汚損豚の増減を、過度なコストや労力を要することなく飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置を提供する。
【解決手段】豚飼育支援装置は、豚302が集団飼育されているペン301に向けて設置されたカメラ210によって撮像された画像の画像データを取得する取得部と、取得部が取得した画像データの画像から豚302の体表に表れる汚損を評価する評価部と、評価部による評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する出力部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラによって撮像された画像の画像データを取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記画像データの画像から前記豚の体表に表れる汚損を評価する評価部と、
前記評価部による評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する出力部と
を備える豚飼育支援装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記豚の体表のうち肩部、側腹部、背部および後頭部の少なくとも1つの領域に対象を限定して前記汚損を評価する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項3】
前記評価部は、評価対象である体表の面積に対する汚損状態と認識される領域の面積に基づいて当該豚が汚損豚であるかを評価し、
前記出力部は、予め設定された時間ごとに前記評価部が評価した前記汚損豚の頭数を集計して出力する請求項1または2に記載の豚飼育支援装置。
【請求項4】
前記評価部は、汚損状態と認識される豚が写った教師画像によって学習された学習モデルを用いて評価対象である豚の汚損を評価する請求項1から3のいずれか1項に記載の豚飼育支援装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記ペンから退出させた豚に関する記録を前記変化情報に付加して出力する請求項1から4のいずれか1項に記載の豚飼育支援装置。
【請求項6】
豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記画像データの画像から前記豚の体表に表れる汚損を評価する評価ステップと、
前記評価ステップによる評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する出力ステップと
を有する豚飼育支援方法。
【請求項7】
豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記画像データの画像から前記豚の体表に表れる汚損を評価する評価ステップと、
前記評価ステップによる評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する出力ステップと
をコンピュータに実行させる豚飼育支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ペンで豚を集団飼育する場合、一旦豚をペンに投入すると成長してペンから退出させるまで、ペンの清掃および豚の洗浄はあまり行われないのが実情である。そこで、ペンができるだけ汚れないように、簀子状の床面が採用される場合がある。簀子状の床面が採用されると、健康な豚から排出される適正な水分量の硬便は隙間から落下し、たとえその一部が簀子の上に残ったとしてもいち早く乾燥して小片化し、やはり隙間から落下するので、床面の衛生はある程度維持される。しかし、体調不良の疾病豚が水分量の多い軟便あるいは下痢を排出すると、簀子に付着して床面が汚れてしまう。このように汚れた床面においては、健康な豚であっても横臥や伏臥等の動作や、ペン内の他の豚との接触によって体表が汚損する。
【0003】
これまでは、飼育員が定常的にペンを観察することによりペンの汚れを把握していた。また、豚に各種センサを装着し、そのセンサ出力を監視することにより疾病豚を検知していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-201930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
体表が汚れている汚損豚がペン内で増えてきた場合には、ペン内に疾病豚が発生していることが推測される。このような状況が観察された場合には、餌の調整、薬の投与、疾病豚の退出等の処置を取ることが望ましい。また、ペン内の汚損豚が減ってきた場合には、取った処置が有効であったことを確認できる。しかし、飼育員が多数の豚を継続的に観察することは多大な労力を要した。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、ペン内で集団飼育されている豚のうち体表が汚れている汚損豚の増減を、過度なコストや労力を要することなく飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様における豚飼育支援装置は、豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラによって撮像された画像の画像データを取得する取得部と、取得部が取得した画像データの画像から豚の体表に表れる汚損を評価する評価部と、評価部による評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する出力部とを備える。
【0008】
本発明の第2の態様における豚飼育支援方法は、豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、取得ステップで取得された画像データの画像から豚の体表に表れる汚損を評価する評価ステップと、評価ステップによる評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する出力ステップとを有する。
【0009】
本発明の第3の態様における豚飼育支援プログラムは、豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、取得ステップで取得された画像データの画像から豚の体表に表れる汚損を評価する評価ステップと、評価ステップによる評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する出力ステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ペン内で集団飼育されている豚のうち体表が汚れている汚損豚の増減を、過度なコストや労力を要することなく飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を示す図である。
図2】豚飼育支援装置と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。
図3】各豚の評価対象部位を説明する図である。
図4】汚損豚か否かの判断手法の概念を説明する図である。
図5】学習モデルを用いた汚損豚の検知手順を説明する図である。
図6】評価ログの一例を示す図である。
図7】変化情報を受けた飼育員端末の表示例を示す図である。
図8】変化情報を受けた飼育員端末の別の表示例を示す図である。
図9】演算部の処理手順を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施形態に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を示す図である。養豚場は、壁や柵によって区分された複数のペン301を備える。それぞれのペン301には複数(例えば10頭程度)の豚302が収容され、集団で飼育されている。なお、それぞれのペン301で飼育される豚302の頭数は、豚302の品種や飼育環境等に応じて調整され得る。ペン301の床面は簀子状の構造を有し、その隙間301aから豚302が排出する糞尿や飼料かす等が落下することにより床面の衛生が保たれるように工夫されている。隙間301aから落下した糞尿等は、主に、収容されている豚302全体の入替時に実施される清掃において回収される。
【0014】
収容された豚302を観察するためのカメラユニット210が、ペン301ごとに設置されている。カメラユニット210は、観察対象であるペン301の全体を俯瞰して撮像できるように当該ペン301に向けて、例えば天井から吊り下げられて設置されている。カメラユニット210は、撮像した画像を画像データに変換し、ネットワーク200を介してサーバ100へ送信する。具体的には、施設内に設置された無線ユニット230がネットワーク200と接続されており、カメラユニット210は、無線ユニット230と無線通信を確立することにより、画像データをサーバ100へ送信することができる。もちろん、有線接続によって通信を確立するように構成してもよい。なお、カメラユニット210とサーバ100を接続するネットワーク200は、インターネットやイントラネットを用いてもよいし、サーバ100が設置される管理施設が養豚場内に設けられるような場合には、近距離無線通信を採用してもよい。
【0015】
豚302を世話する飼育員は、飼育員端末220を所持し得る。飼育員端末220は、例えば、タブレット端末やスマートフォンであり、無線ユニット230およびネットワーク200を介してサーバ100との間で各種情報の授受を行うことができる。飼育員は、例えば飼育記録を飼育員端末220へ入力してサーバ100へ転送することもできるし、サーバ100に蓄積された飼育記録を呼び出すこともできる。また、飼育員端末220は、後述する変化情報を受け取った場合には、体表が汚れている汚損豚に関する情報を表示する。
【0016】
管理施設には、豚飼育支援装置としてのサーバ100が設置されている。サーバ100は、ネットワーク200と接続されている。サーバ100は、ペン301ごとに設置されているカメラユニット210から順次画像データを取得して、当該画像データに基づいて豚302の体表に表れる汚損を評価する。サーバ100は、管理者や飼育員の要求に応じてその結果を表示モニタ150へ表示することができる。表示モニタ150は、例えば液晶パネルを備えるモニタである。また、サーバ100は、管理者や飼育員の操作を受け付ける入力デバイス160と接続される。入力デバイス160は、キーボード、マウス、表示モニタ150の表示面に重畳されたタッチパネル等によって構成される。
【0017】
さて、ペン301で豚302を集団飼育する場合、一旦豚302をペン301に投入すると成長してペン301から退出させるまで、ペン301の清掃および豚302の洗浄はあまり行われないのが実情である。そのため、上述のようにペン301の床面を簀子状にして、ペン301ができるだけ汚れないようにしている。簀子状の床面が採用されると、健康な豚302から排出される適正な水分量の硬便は隙間301aから落下し、たとえその一部が簀子の上に残ったとしてもいち早く乾燥して小片化し、やはり隙間301aから落下するので、床面の衛生はある程度維持される。しかし、体調不良の豚302が水分量の多い軟便あるいは下痢を排出すると、簀子に付着して床面が汚れてしまう。このように汚れた床面においては、健康な豚302であっても横臥や伏臥等の動作や、ペン内の他の豚との接触によって体表が汚損する。
【0018】
すなわち、体表が汚れている汚損豚の増減は、疾病豚の存在の変化を示す指標となる。汚損豚がペン内で増えてきた場合には、ペン内に疾病豚が発生している、さらにはペン内の疾病豚が増えていることが推測される。このような状況が観察された場合には、飼育員は餌の調整、薬の投与、疾病豚の退出等の処置を取ることが望ましい。一方、ペン内の汚損豚が減ってきた場合には、取った処置が有効であったことを確認できる。しかし、飼育員が多数の豚を継続的に観察することは多大な労力を要する作業であった。特に、ペンが豚舎内に複数設置されているような比較的規模の大きな養豚においては、その負担が更に大きかった。本実施形態における豚飼育支援装置は、ペン301内の汚損豚を検知して、その増減を飼育員へ知らせることにより飼育作業を支援する。
【0019】
飼育員は、汚損豚の時間経過に対する変化を知らされるだけでも、多くの労力を削減することができる。例えば、ペンを観察する作業の頻度を下げたり注視する時間を削減したりすることができる。経験の浅い飼育員であっても、いずれのペンで汚損豚の急激な増減があったかを知ることができれば、そのペンに限定して疾病豚を探索するなど、容易に対処することができる。
【0020】
図2は、豚飼育支援装置としてのサーバ100と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。サーバ100は、上述のように、表示モニタ150、入力デバイス160、カメラユニット210、飼育員端末220と接続可能である。
【0021】
サーバ100は、主に、演算部110、記憶部120、通信ユニット130によって構成される。演算部110は、サーバ100の制御とプログラムの実行処理を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)である。プロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理チップと連携する構成であってもよい。演算部110は、記憶部120に記憶された豚飼育支援プログラムを読み出して、豚飼育の支援に関する様々な処理を実行する。
【0022】
記憶部120は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)によって構成されている。記憶部120は、サーバ100の制御や処理を実行するプログラムの他にも、制御や演算に用いられる様々なパラメータ値、関数、表示要素データ、ルックアップテーブル等を記憶し得る。記憶部120は、特に、評価用ニューラルネットワーク121と評価ログ122を記憶している。評価用ニューラルネットワーク121は、カメラユニット210が撮像した画像を入力すると、その画像内に存在するそれぞれの豚の汚染豚である確率を出力する。評価ログ122は、主に、検出された汚損豚の頭数を時間経過と共に記録する記録ファイルである。これらについては、後にそれぞれ具体的に説明する。なお、記憶部120は、複数のハードウェアで構成されていても良く、例えば、プログラムを記憶する記憶媒体と評価用ニューラルネットワーク121を記憶する記憶媒体が別々のハードウェアで構成されてもよい。
【0023】
通信ユニット130は、例えばLANユニットを含み、ネットワーク200を介して、演算部110が生成する撮像制御信号をカメラユニット210へ送信したり、カメラユニット210から送られてくる画像データを演算部110へ引き渡したりする。また、飼育員端末220と演算部110の間で実行されるデータの授受を中継する。なお、通信ユニット130は、他の外部装置との間でデータや制御信号の授受を中継することもできる。例えば、豚飼育支援プログラムや評価用ニューラルネットワーク121の更新データを外部サーバから取り込む場合にも利用され得る。
【0024】
演算部110は、豚飼育支援プログラムが指示する処理に応じて様々な演算を実行する機能演算部としての役割も担う。演算部110は、取得部111、評価部112、出力部113として機能し得る。取得部111は、主に、カメラユニット210によって撮像された画像の画像データを取得し、評価部112へ引き渡す。評価部112は、主に、取得部111から受け取った画像データの画像から豚の体表に表れる汚損を評価する。出力部113は、評価部112による評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を出力する。
【0025】
図3は、各豚の評価対象部位を説明する図である。本実施形態における豚飼育支援装置は、豚302の体表に表れる汚損を評価して、評価対象の豚を汚損豚か非汚損豚のいずれかに振り分ける。疾病豚の軟便や下痢に起因する、当該疾病豚や他の豚の体表に付着する汚れを評価する場合には、汚れが短時間に付着したり剥落したりを繰り返す体表の領域よりは、本来は汚れにくく一旦汚れたら落ちにくい領域の方が評価対象として好ましい。そこで、本実施形態においては、汚損を評価する対象領域を、図示するように、後頭部、肩部、背部、側腹部に限定する。これらの領域は、正常な環境下での豚の通常行動においてはあまり汚れることがないので、床面の汚れがより反映される領域であると言える。後頭部、肩部、背部、側腹部の領域は、豚302の輪郭に対して予めそれぞれ定義されている。具体的には、耳、脚の付け根、尻尾等を基準として、相対的に定め得る。なお、本実施形態においては、こられ4つの表面領域を評価の対象領域とするが、少なくともいずれか1つの領域、あるいは2つ以上を組み合わせた領域を対象として評価を行ってもよい。
【0026】
本実施形態においては、床面の汚れを直接評価するのではなく、飼育されている豚302の体表に表れる汚損を評価する。これは、ペン301の床面は、収容されている多くの豚302に踏み荒らされたり飼料や水が飛散したりして、汚れたり拭われたりの変化が激しく、疾病豚の存在を推定する根拠としては利用しづらいからである。一方で、豚302の体表のあまり汚れることのない部位を対象として汚損を継続的に評価すれば、疾病豚の便に起因する床面の汚れの変化を適切に捉えることができる。すなわち、そのような汚れは、豚302の評価対象部位に一旦付着すると、多くの場合、乾燥し小片化して飛散するまで留まり続ける。そして、その変化は、仮に踏み荒らし等がない場合の、床面に付着した疾病豚の便による汚れの変化とよく対応し、すなわち疾病豚の存在の変化と強い相関を有する。そこで、本実施形態においては、飼育されている豚302の体表に表れる汚損を継続的に評価して、その評価結果の経時に対する変化を変化情報として出力する。
【0027】
図4は、汚損豚か否かの判断手法の概念を説明する図である。本実施形態においては、豚302の体表のうち評価対象である領域の面積に対する汚損状態と認識される領域の面積に基づいてその豚302が汚損豚であるか否かを評価する。ただし、ペン301に収容されている豚302は、カメラユニット210の向きに対して様々な姿勢を取り得るので、評価対象である領域は全体が観察できるとは限らない。例えば、図4(A)に示すように豚302をほぼ側方から捉えた画像であると、背部である対象領域304は背の稜線までしか観察できず、同じく背部に存在する汚損領域303も、背の稜線の手前側しか観察できない。
【0028】
このような場合であっても、本実施形態においては、観察されている対象領域304が、豚302の輪郭に囲まれた全体領域に対して予め設定された閾値以上の割合を占めるのであれば、評価の対象とする。全体領域に対する対象領域304の閾値となる割合は、対象領域304ごとに設定するとよい。例えば、肩部の領域は、背部の領域よりも元々狭いので、評価対象にするそれぞれの閾値となる割合も、肩部の割合を背部の割合よりも小さく設定するとよい。そして、評価の対象と判断した場合には、評価部112は、対象領域304の面積に対する汚損領域303の割合を計算し、当該割合が汚損と判断される基準割合以上である場合は当該評価対象の豚を汚損豚と評価し、基準割合未満である場合は非汚損豚と評価する。
【0029】
図4(B)は、豚302をほぼ上方から見下ろした様子であり、背部として設定された対象領域304は、その全体を観察できる。このように全体が観察できる場合は、豚302の輪郭と対象領域304の関係を考慮することなく、単純に対象領域304の面積に対する汚損領域303の割合を計算して評価すればよい。なお、実際の豚302の体表は三次元曲面であるが、本実施形態のように画像を用いて評価する場合には、それぞれの領域の輪郭を基準として二次元平面としての面積を計算すればよい。なお、汚損領域であるか否かは、例えば、予め設定される豚の体表の平均的な色相と、同じく予め設定される軟便等によって生じる汚損の平均的な色相に対して、評価対象である領域の色相がいずれに近いかによって判断される。
【0030】
撮像画像に写る豚302が汚損豚であるか否かを判断する処理は上述のような解析的手法を用いることにより実現し得るが、本実施例において評価部112は、評価用ニューラルネットワーク121を用いてこの一連の処理を実行する。図5は、学習モデルである評価用ニューラルネットワーク121を用いた汚損豚の検知手順を説明する図である。
【0031】
評価用ニューラルネットワーク121は、ペンの俯瞰画像に対して豚が写る矩形領域が指定され、それぞれの豚が汚損豚であるか否かの正解が紐づけられた教師画像データを相当数与えて学習させる教師あり学習によって予め作成された学習モデルである。教師画像データは、例えばオペレータが俯瞰画像に写り込む各豚を矩形で囲み、それぞれの豚が汚損豚であるか否かを判断して正解を与えることにより作成される。このように生成された学習モデルである評価用ニューラルネットワーク121は、豚飼育支援装置であるサーバ100に組み込まれて利用に供される。
【0032】
例えば養豚場に観察対象であるペン301が8つ設けられているとすると、それぞれのペン301を俯瞰する8つのカメラユニット210から順次画像データがサーバ100へ送られてくる。取得部111はそれらの画像データを受け取り、評価部112へ引き渡す。評価部112は、記憶部120から読み出した評価用ニューラルネットワーク121へ、取得部111から受け取った画像データの画像を順次入力する。
【0033】
評価用ニューラルネットワーク121は、画像が入力されるごとにその画像に写り込む豚を矩形で囲んで評価エリアを定め、定めた評価エリアごとにその豚が汚損豚である確率を出力する。具体的には、例えば図示するように7頭の豚302が画像中に写り込んでいる場合には、7つの評価エリアpig01~pig07を定め、それぞれの評価エリアに写る豚302が汚損豚である確率P01~P07を順次出力する。
【0034】
評価部112は、出力された確率が予め設定された閾値以上である場合には、当該評価エリアに写る豚302を汚損豚と判断し、閾値未満である場合には、当該評価エリアに写る豚302を非汚損豚と判断する。なお、閾値は、学習モデルの出力精度や汚損豚と認定する汚損度合い等に応じて、試行錯誤により事前に調整された値が設定される。評価部112は、このように判断した汚損豚の頭数と非汚損豚の頭数を集計して、評価ログ122へ記録する。評価部112は、このような一連の処理を、取得部111から受け取る画像ごとに繰り返す。
【0035】
なお、評価用ニューラルネットワーク121は、俯瞰画像から豚を見つけ出して評価エリアを定めるまでの第1ニューラルネットワークと、評価エリアに写る豚が汚損豚である確率を出力する第2ニューラルネットワークの2つによって構成されてもよい。この場合には、第1ニューラルネットワークは、複数の豚が写る画像に対して正解の評価エリアが与えられた教師画像データによって学習される。また、第2ニューラルネットワークは、一頭の豚が写る画像に対して汚損豚と評価されるべきものには正解が、非汚損豚と評価されるべきものには不正解が与えられた教師画像データによって学習される。
【0036】
図6は、評価ログ122の一例を模式的に示す図である。評価ログ122は、図示するように例えばそれぞれのペン301に1つずつ作成される。本実施形態においては、1日に1度、設定された時刻において、ペン301ごとにカメラユニット210による撮像を数回実行し、各撮像画像に対して図5を用いて説明した処理を行うことを想定している。
【0037】
ペン301ごとの評価ログ122は、ペンナンバー、収容頭数、ログリストを含む。ペンナンバーは、「第1ペン」のようにいずれのペンのログであるかを示す。収容頭数は、当該ペンに収容されている豚302の頭数を示す。ログリストは、項目として観察日、汚損豚頭数、非汚損豚頭数、前日比を含む。観察日の列は、例えば「1日目」のように、観察周期に合わせて経時を表す文字列が記述される。汚損豚頭数の列は、それぞれの観察日において汚損豚と評価された豚302の総数が記述される。非汚損豚頭数の列は、それぞれの観察日において非汚損豚と評価された豚302の総数が記述される。前日比の列は、汚損豚頭数について前日の対する観察日の増減頭数が記述される。
【0038】
なお、評価ログ122に少なくとも各観察日の汚損豚頭数が記述されていれば、経時に対する汚損豚の増減頭数は把握できるので、非汚損豚頭数や前日比が記述されていなくても構わない。一方で、各観察日の非汚損豚頭数が記述されていれば、飼育員等は、汚損豚頭数との合計および収容頭数を参照することにより、どれくらいの頭数が重複されて評価されたのか、あるいはどれくらいの頭数が評価されずに残ったのかを推測することができる。
【0039】
また、評価ログ122に記述する項目は、これらに限らず、さらに付加情報を記述してもよい。例えば、飼育員が当該ペン301から疾病が疑われる豚302を退出させた場合には、退出させた豚に関する記録として、退出させた頭数を示す退出豚頭数の項目をログリストに加えてもよい。
【0040】
なお、カメラユニット210が撮像を実行する回数や周期、あるいは取得部111がカメラユニット210から画像データを取得する回数や周期は、評価部112による評価精度やペン301に収容されている豚302の数等の事情に応じて適宜調整される。本実施形態においてはペン301に収容されている豚302の個体識別を行わないので、一度の観察期間に画像を繰り返し取得して評価を行うと、同一個体を重複してカウントする場合もある。しかし、全体として汚損豚の増減傾向が把握できる程度においては、そのような重複は無視し得る。すなわち、ペン301に収容されている豚302の頭数や、カメラユニット210の画角、ペン301内を豚302が動き回る時間帯などを考慮して調整すれば、多少の重複や逆に評価していない豚302が存在しても、汚損豚の増減の全体的な傾向を把握できる。
【0041】
出力部113は、例えば飼育員端末220からの要求信号や入力デバイス160からの表示指示を演算部110が受け付けた場合に、評価部112による評価結果の時間経過に対する変化を示す変化情報を、飼育員端末220や表示モニタ150へ出力する。図7は、変化情報を受けた飼育員端末220の表示例を示す図である。
【0042】
上述のように、出力部113が変化情報を出力すると、飼育員端末220は、当該変化情報を受信して、その内容を表示パネルに表示する。出力部113が出力する変化情報は、本実施形態においては評価ログ122である。評価ログ122は、上述のように、観察日ごとの汚損豚頭数の記録を含むので、評価部112による評価結果の時間経過に対する変化を示す情報である。変化情報は、評価ログ122の形式に限らず、評価部112による評価結果の時間経過に対する変化を直接的または間接的に含む情報であれば、いずれの形式であってもよい。
【0043】
飼育員端末220は、評価部112による評価結果の時間経過に対する変化が読み取れる態様に加工して、変化情報を表示パネルに表示する。具体的には、タイトル(図の例では「汚損豚頭数」)、ペンナンバー(図の例では「第1ペン」)、そのペンで収容されている収容頭数(図の例では「8」頭)、養豚場のペン配置に関する屋内地図(図の例では「第1ペン」の位置が認識されるように網掛けがされている)を表示する。
【0044】
また、ログリストの数値をグラフ化して表示する。ここでは、各観察日の汚損豚頭数と非汚損豚頭数を棒グラフで示している。飼育員は、このようなグラフにより汚損豚頭数の推移を確認できるので、汚損豚が増加傾向にあるのか、あるいは減少傾向にあるのか、また、どれくらい急峻に変化が生じているのかといった状況を、ペンごとに把握することができる。また、非汚損豚頭数と収容頭数も表示されているので、飼育員は、どれくらいの頭数が重複されて評価されたのか、あるいはどれくらいの頭数が評価されずに残ったのかを推測することができる。なお、飼育員が飼育員端末220に対して例えばフリック動作を行うと、次のペン(図の例では第2ペン)の変化情報が同じ態様によって表示される。
【0045】
図8は、変化情報を受けた飼育員端末220の別の表示例を示す図である。図8示す表示例も図7の表示例と同様に、タイトル(図の例では「汚損豚頭数推移(前日比)」)、ペンナンバー、そのペンで収容されている収容頭数、養豚場のペン配置に関する屋内地図を含む。また、ログリストの数値として各観察日における汚損豚頭数の前日比が、折線グラフによって示されている。このようなグラフによっても、飼育員は、汚損豚頭数の推移を確認できるので、汚損豚が増加傾向にあるのか、あるいは減少傾向にあるのか、また、どれくらい急峻に変化が生じているのかといった状況を、ペンごとに把握することができる。飼育員端末220は、フリック動作等を受け付けると、次のペンの変化情報を同じ態様によって表示する。
【0046】
次に、サーバ100を用いた豚飼育支援方法の処理手順について説明する。図9は、演算部110の処理手順を説明するフロー図である。フローは、観察開始の指示を受け付けた時点から開始される。
【0047】
取得部111は、ステップS101で、現時刻を確認し、現時点が予め設定された観察タイミングであるか否かを判断する。観察タイミングであると判断したらステップS102へ進み、観察タイミングでないと判断したらステップS105へ進む。観察タイミングは、カメラユニット210が撮像を実行する回数や周期、あるいは取得部111がカメラユニット210から画像データを取得する回数や周期に連動して設定されている。
【0048】
ステップS102へ進むと、取得部111は、第nペンのカメラユニット210から、imgnの画像データを、通信ユニット130を介して取得する。例えば、n=1である場合には、第1ペンに向けられたカメラユニット210から、img1の画像データを取得する。取得部111は、取得した画像データを評価部112へ引き渡す。nは、ステップS102が実行されるたびにインクリメントされる。取得部111は、取得した画像データを評価部112へ引き渡す。
【0049】
評価部112は、ステップS103で、図5を用いて説明したように、受け取った画像データの画像imgnを評価用ニューラルネットワーク121へ入力する。そして、その出力から画像imgnに写り込む各豚の汚損豚である確率を取得し、予め設定された閾値を用いて評価対象のそれぞれの豚を汚損豚か非汚損豚のいずれかに振り分ける。そして、ステップS104へ進み、その結果を第nペンの評価ログ122へ記録する。評価ログ122への記録が終わったらステップS105へ進む。
【0050】
ステップS105へ進んだら、出力部113は、飼育員端末220等から変化情報の出力を要求する要求信号を受け付けたか否かを確認する。要求信号を受け付けていればステップS106へ進み、受け付けていなければステップS107へ進む。ステップS106へ進んだ場合には、出力部113は、記憶部120から評価ログ122を変化情報として読み出し、要求信号を発出した飼育員端末220等へ出力する。その後、ステップS107へ進む。
【0051】
ステップS107へ進んだら、演算部110は、終了の指示を受けたか否かを確認する。終了の指示は、管理者から入力デバイス160を介して終了の操作を受け付けたり、プログラムに予め設定された条件が満たされたりした場合に生成される。終了の指示を受けていないと判断したら、ステップS101へ戻る。終了の指示を受けたと判断したら、一連の処理を終了する。
【0052】
以上説明した本実施形態においては、それぞれのペン301に一つずつのカメラユニット210を設置したが、複数のペン301をまとめて俯瞰するカメラユニットを設置してもよい。その場合には、取得部111は、カメラユニットから取得した画像を各ペン301の境界に沿って分割し、分割したそれぞれの画像を順次評価部112へ引き渡せばよい。反対に、1つのペン301に対して複数のカメラユニット210を設置してもよい。例えば、ペン301内の豚302を側方から撮像するカメラユニット210を設置すれば、汚損豚の誤検知を軽減できる。また、1つのペン301に対して複数のカメラユニット210を設置すれば、ペン301内で動き回る豚を撮像する機会も増えるので、より精度よく汚損豚を検知することができる。
【0053】
また、本実施形態においては、評価部112は、評価対象の豚302が汚損豚であるか非汚損豚であるかに振り分ける評価を行ったが、画像から豚の体表に表れる汚損を評価する評価手法はこれに限らない。汚損豚か非汚損豚に振り分けて頭数を集計するのではなく、例えば、対象領域304の総和に対する汚損領域の総和の割合を汚損を評価する指標としてもよい。
【0054】
また、本実施形態においては、複数のペン301が一つの豚舎に設けられている場合を想定したが、複数の豚舎に亘って設けられているペン301を観察対象にしてもよい。また、変化情報の出力先は、飼育員端末220に限らない。例えば、無線ユニット230およびネットワーク200を介してサーバ100と接続された表示盤を、それぞれのペン301に隣接して一つずつ設置し、当該表示盤へ変化情報を出力してもよい。この場合、出力部113は、例えば第5ペンへは第5ペンの評価ログ122に限って変化情報を出力してもよい。また、出力部113は、サーバ100に接続された表示モニタ150に、変化情報を出力しても構わない。この場合、表示モニタ150で表示される表示画像に変換して出力するとよい。出力部113は、出力要求を受け付けた場合に限らず、例えば事前に設定された時刻や周期に合わせて変化情報を出力してもよい。また、評価ログ122が更新されるたびに変化情報を出力してもよい。
【0055】
また、以上説明した本実施形態においては、サーバ100が豚飼育支援装置として機能する場合を説明したが、ハードウェア構成はこれに限らない。飼育員端末220として説明した携帯端末がサーバ100と同様の処理を行えば、当該携帯端末が豚飼育支援装置として機能し得る。また、例えば、サーバ100の処理の一部を飼育員端末220が担うように構成すれば、サーバ100と飼育員端末220が連携するシステムが、豚飼育支援装置となり得る。
【符号の説明】
【0056】
100…サーバ、110…演算部、111…取得部、112…評価部、113…出力部、120…記憶部、121…評価用ニューラルネットワーク、122…評価ログ、130…通信ユニット、150…表示モニタ、160…入力デバイス、200…ネットワーク、210…カメラユニット、220…飼育員端末、230…無線ユニット、301…ペン、302…豚、303…汚損領域、304…対象領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9