(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110226
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】表面張力測定方法、表面張力測定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/40 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
G01N3/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005491
(22)【出願日】2021-01-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:一般社団法人 日本機械学会 関西支部、刊行物名:日本機械学会関西支部第95期定時総会講演会 講演論文集DVD、発行年月日:令和2(2020)年3月11日
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 淳
(72)【発明者】
【氏名】グエン ドアンツアン
(57)【要約】
【課題】試料の表面張力を簡易且つ高精度に測定することができる表面張力測定方法、表面張力測定装置およびプログラムを提供する。
【解決手段】表面張力測定方法は、試料SP1に圧子15を押し込むことにより試料SP1の表面張力を測定する方法であって、圧子15を試料SP1に押し込んだときの圧子15の押込量δと、圧子15に作用する押込荷重Fと、から、試料SP1の表面張力を算出する。また、この表面張力測定方法では、圧子15を第1押込量だけ押し込んだときに圧子15に作用する第1押込荷重と、圧子15を第1押込量とは異なる第2押込量だけ押し込んだときに圧子15に作用する第2押込荷重と、に基づいて、試料SP1の表面張力を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に圧子を押し込むことにより前記試料の表面張力を測定する表面張力測定方法であって、
前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込量と、前記圧子に作用する押込荷重と、から、前記試料の表面張力を算出する、
表面張力測定方法。
【請求項2】
前記圧子を第1押込量だけ押し込んだときに前記圧子に作用する第1押込荷重と、前記圧子を前記第1押込量とは異なる第2押込量だけ押し込んだときに前記圧子に作用する第2押込荷重と、に基づいて、前記試料の表面張力を算出する、
請求項1に記載の表面張力測定方法。
【請求項3】
下記式(A)の関係式を用いて、前記圧子を第1押込量だけ押し込んだときに前記圧子に作用する第1押込荷重と、前記第2押込量だけ押し込んだときに前記圧子に作用する第2押込荷重と、前記試料と前記圧子とが接触していない状態から前記圧子を前記試料に近づけたときに初めて前記圧子が前記試料に接触するときの押込量を表す基準押込量と、から、前記試料の表面張力を算出する、
請求項2に記載の表面張力測定方法。
【数1】
ここで、F
1は前記第1押込荷重、F
2は前記第2押込荷重、δ
1は、前記第1押込量、δ
2は、前記第2押込量、δ
0は、前記基準押込量、Gは、予め設定された係数である。
【請求項4】
前記式(A)におけるGは、0.319以上且つ0.409以下である、
請求項3に記載の表面張力測定方法。
【請求項5】
前記試料は、シート状であり、厚さが1mm以下である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の表面張力測定方法。
【請求項6】
試料に圧子を押し込むことにより前記試料の表面張力を測定する表面張力測定装置であって、
前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込量と、前記圧子に作用する押込荷重と、から、前記試料の表面張力を算出する表面張力算出部を備える、
表面張力測定装置。
【請求項7】
前記圧子が前記試料に押し込まれたときの前記押込荷重を検出するロードセルと、
前記押込量を検出するポテンショメータと、を更に備える、
請求項6に記載の表面張力測定装置。
【請求項8】
コンピュータを、
圧子を試料に押し込んだときの前記圧子の押込量と、前記圧子に作用する押込荷重と、から、前記試料の表面張力を算出する表面張力算出部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面張力測定方法、表面張力測定装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
緊張させた膜体における2点間の距離を、その2点を結ぶ直線上に位置する荷重点に膜体の膜面に対して垂直方向に荷重を負荷して撓ませる前後において測定することにより、膜体の張力を測定する張力測定方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、膜体を少なくとも2点で支持部により支持した状態で支持部分の間に荷重をかける作業が必要となるため測定に手間がかかる虞がある。また、表面張力の測定精度が膜体の2点間の距離の測定精度に依存するため、2点間の距離を精度良く測定する必要があり高い精度で測定するのが難しい。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、試料の表面張力を簡易且つ高精度に測定することができる表面張力測定方法、表面張力測定装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る表面張力測定方法は、
試料に圧子を押し込むことにより前記試料の表面張力を測定する表面張力測定方法であって、
前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込量と、前記圧子に作用する押込荷重と、から、前記試料の表面張力を算出する。
【0007】
他の観点から見た本発明に係る表面張力測定装置は、
試料に圧子を押し込むことにより前記試料の表面張力を測定する表面張力測定装置であって、
前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込量と、前記圧子に作用する押込荷重と、から、前記試料の表面張力を算出する表面張力算出部を備える。
【0008】
他の観点から見た本発明に係るプログラムは、
コンピュータを、
圧子を試料に押し込んだときの前記圧子の押込量と、前記圧子に作用する押込荷重と、から、前記試料の表面張力を算出する表面張力算出部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、 圧子を試料に押し込んだときの圧子の押込量と、圧子に作用する押込荷重と、から、試料の表面張力を算出する。これにより、圧子を試料に押し込むという簡単な作業を行うだけで試料の表面張力を測定することができるので、試料の表面張力を簡易且つ高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る圧子と試料との接触状態を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る圧子と試料との接触状態を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る押込み荷重と押込量との関係の一例を示す図である。
【
図4】実施の形態に係る有限要素モデルを説明するための図である。
【
図5】(A)実施の形態に係る解析結果を示す図であり、(B)は次数の試料の厚さに対する依存性を示す図である。
【
図6】(A)実施の形態に係る解析結果を示す図であり、(B)は次数の圧子の直径に対する依存性を示す図である。
【
図7】(A)実施の形態に係る解析結果を示す図であり、(B)は次数の表面張力に対する依存性を示す図である。
【
図8】(A)は実施の形態に係る係数Gの表面張力に対する依存性を示す図であり、(B)は実施の形態に係る係数Gの試料の厚さに対する依存性を示す図である。
【
図9】実施の形態に係る表面張力測定装置の概略構成図である。
【
図10】実施の形態に係る表面張力測定装置のブロック図である。
【
図11】実施の形態に係る押込量と押込み荷重との関係の一例を示す図である。
【
図12】実施の形態に係る解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係る表面張力測定方法では、圧子を試料に押し込んだときの圧子の押込量と、圧子に作用する押し込み荷重と、から、試料の表面張力を算出する。この表面張力測定方法では、例えば
図1に示すように、球状の圧子15をステージST1上に載置された試料SP1に押し込む。ここで、試料SP1としては、表面張力が加わった弾性材料から形成されており、例えば予め設定された大きさの張力が加わった状態でステージST1上に載置された布、樹脂製シート等が挙げられる。また、ステージST1は、例えばシリコーンゴムのような弾性材料から形成されている。
【0012】
ここで、本実施の形態に係る表面張力の算出方法について説明する。試料SP1の表面に圧子15を押し込んだ場合において、圧子15に作用する押込荷重をF、試料SP1およびステージST1の弾性力をFe、試料SP1の表面張力によって試料SP1の圧子15との接触面に生じる押し込み方向に沿った分力(以下、「張力分力」と称する。)をFtとすると、下記式(1)に示す関係式が成立するものとする。
【0013】
【0014】
また、Hertzの弾性接触理論から、試料SP1およびステージST1の弾性力Feについて、下記式(2)に示す関係式が導出される。
【0015】
【数2】
ここで、F
eは、圧子15に作用する試料SP1およびステージST1の弾性力、Eは試料SP1のヤング率、νは試料SP1のポアソン比、φは圧子15の直径、δは押込量である。また、試料SP1は、表面が平坦な半無限体であり、圧子15は試料SP1に対して十分に硬いものとする。
【0016】
そして、
図2に示すように、圧子15が試料SP1に押し込まれた状態における、圧子15と試料のSP1との接触面の接触半径をaとすると、Hertzの弾性接触理論から、下記式(3)の関係式が導出される。
【0017】
【数3】
ここで、F
eは、圧子15に作用する試料SP1の弾性力、Eは試料SP1のヤング率、νは試料SP1のポアソン比、φは圧子15の直径である。
【0018】
そして、式(3)に式(2)の関係式を代入して整理すると下記式(4)の関係式が導出される。
【0019】
【0020】
ここで、張力分力Ftは、圧子15と試料SP1とが接触した場合の表面張力をγとすると、圧子15と試料SP1との接触部分の周縁全体に表面張力γの押し込み方向に沿った成分γsinθが加わるとすれば、下記式(5)の関係式で表される。
【0021】
【数5】
ここで、θは、圧子15と試料SP1との接触部分の周縁と圧子15の中心C1とを結ぶ直線と、圧子15の中心C1から試料SP1の接触面に垂直に伸ばした直線とのなす角度に相当する。
【0022】
また、
図2に示すように、sinθ=a/(φ/2)の関係が成立するので、張力分力F
tは、下記式(6)の関係式で表される。
【0023】
【数6】
つまり、圧子15と試料SP1との接触部分の周縁が、半径aの円形であり且つ接触部分の周縁全体に表面張力γの押し込み方向に沿った成分γsinθが均等に加わるとすれば、張力分力F
tは、式(6)に示すような押込量δの一次関数で表される。
【0024】
そして、本実施の形態に係る表面張力測定方法では、
図3に示すように、圧子15を第1押込量δ
1だけ押し込んだときに圧子15に作用する第1押込荷重F
1と、圧子15を第1押込量δ
1とは異なる第2押込量δ
2だけ押し込んだときに圧子15に作用する第2押込荷重F
2と、基準押込量δ
0と、から試料SP1の表面張力を算出する。ここで、基準押込量δ
0は、試料SP1と圧子15とが接触していない状態から圧子15を試料SP1に近づけたときに初めて圧子15が試料SP1に接触するときの押込量を表す。第1押込量δ
1と第1押込荷重F
1との間には、下記式(7)に示す関係式が成立し、第2押込量δ
2と第2押込荷重F
2との間には、下記式(8)に示す関係式が成立する。
【0025】
【0026】
【数8】
ここで、δ
0は、基準押込量を示す。また、A、Bは、それぞれ、下記式(9)、式(10)の関係式で表される。
【0027】
【0028】
【数10】
ここで、式(7)および式(8)を用いてBを消去すると、下記式(11)の関係式が導出される。
【0029】
【数11】
式(11)の右辺の第2項を左辺へ移項した後、両辺にδ
2を乗ずることにより下記式(12)の関係式が導出される。
【0030】
【数12】
そして、式(12)の関係式を変形すると、下記式(13)の関係式が導出される。
【0031】
【数13】
ここで、式(13)の左辺に、式(9)を代入して整理すると、下記式(14)に示すヤングEを算出する関係式が導出される。
【0032】
【数14】
また、式(7)および式(8)を用いてAを消去すると、下記式(15)の関係式が導出される。
【0033】
【数15】
式(15)の右辺の第2項を左辺へ移項した後、両辺にδ
2を乗ずることにより下記式(16)の関係式が導出される。
【0034】
【数16】
ここで、前述のように、圧子15と試料SP1との接触部分の周縁が半径aの円形であり且つ接触部分の周縁全体に表面張力γの圧子15の押し込み方向に沿った成分γsinθが均等に加わるとする。この場合、式(16)の左辺に、式(10)を代入して整理して、下記式(17)に示す表面張力γを算出する関係式が導出される。
【0035】
【0036】
ところで、実際の表面張力γの測定では、前述のように、圧子15と試料SP1との接触部分の周縁が半径aの円形であり且つ接触部分の周縁全体に表面張力γの圧子15の押し込み方向に沿った成分γsinθが均等に加わるという前提が成立していない可能性がある。この場合、張力分力Ftは、押込量δに対して非線形な依存性を示す可能性がある。そこで、発明者らは、表面張力γが存在する試料SP1に圧子15を押し込んだ場合に発生する張力分力Ftの挙動について、有限要素法による数値解析を行い張力分力Ftの振る舞いを確認した。
【0037】
有限要素法による数値解析では、
図4に示すような、高さh、幅lのステージST1上に試料SP1が載置された有限要素モデルを採用した。ここで、試料SP1には、熱歪みによる張力が発生するものとし、熱歪みは、試料SP1の温度と熱歪み係数との積で表されるものとした。また、ステージST1の高さhを33mm、ステージST1の幅lを100mmとし、ステージST1試料SP1およびステージST1のヤング率を0.1Mpa、ポアソン比を0.45とし、有限要素モデルを構成するメッシュのノード数を851個、要素数を850個とし、熱歪み係数を-5.0×10
-5[1/K]とした。そして、押込量δを変化させたときの圧子15に作用する押込荷重F[i](i=0,1,2・・・)と、試料SP1およびステージST1の弾性力F
e[i]と、を解析的に算出した。
【0038】
また、張力分力Ftは、押込量δのn乗に比例するとして、下記式(18)で表されるとした。
【0039】
【数18】
そして、解析により求めた押込荷重F[i](i=0,1,2・・・)と、試料SP1およびステージST1の弾性力F
e[i]とから、式(1)の関係式に基づいて、張力分力F
t[i]を算出した。そして、下記式(19)に示す目的関数fを用いた最小二乗法により、式(18)の係数Gと次数nを算出した。
【0040】
【0041】
試料SP1の厚さtを0.001mm、0.01mm、0.1mm、1mm、10mmに設定した場合の解析結果は、
図5(A)に示すようになった。ここで、試料SP1に発生する表面張力γを65.3[N/m]とし、圧子15の直径を10mmとした。なお、
図5(A)中の「t」は、試料SP1の厚さを示し、「Num.」は、有限要素解析により得られる曲線を示し、「Aprox.」は、式(18)に示す関数で表される近似曲線を示す。そして、式(19)に示す関係式を用いた最小二乗法により得られる次数nの試料SP1の厚さ依存性は
図5(B)に示すようになった。
図5(B)に示すように、厚さが1mm以下では、次数が0.99乃至1.22の間の値となることから、張力分力F
tが押込量δの一次関数で近似できることが判る。一方、厚さが10mmとなると、次数が2.62に増加し、張力分力F
tが押込量δの一次関数で近似できなくなることが判る。
【0042】
また、圧子15の直径を5mm、10mm、20mmに設定した場合の解析結果は、
図6(A)に示すようになった。ここで、試料SP1の厚さtを0.001mmとし、表面張力γを65.3[N/m]とした。なお、
図6(A)中の「γ」は、試料SP1に発生する表面張力を示し、「Num.」は、有限要素解析により得られる曲線を示し、「Aprox.」は、式(18)に示す関数で表される近似曲線を示す。そして、式(19)に示す関係式を用いた最小二乗法により得られる次数nの試料SP1の厚さ依存性は
図6(B)に示すようになった。
図6(B)に示すように、表面張力γの大きさに関わらず、次数nが0.97乃至1.02の間の値となった。このことから、張力分力F
tが圧子15の大きさに関わらず押込量δの一次関数で近似できることが判る。
【0043】
更に、試料SP1に発生する表面張力γを20[N/m]、40[N/m]、65.3[N/m]、100[N/m]、140[N/m]に設定した場合の解析結果は、
図6(A)に示すようになった。ここで、試料SP1の厚さtを0.001mmとし、圧子15の直径を10mmとした。なお、
図7(A)中の「γ」は、試料SP1に発生する表面張力を示し、「Num.」は、有限要素解析により得られる曲線を示し、「Aprox.」は、式(18)に示す関数で表される近似曲線を示す。そして、式(19)に示す関係式を用いた最小二乗法により得られる次数nの試料SP1の厚さ依存性は
図7(B)に示すようになった。
図7(B)に示すように、表面張力γの大きさに関わらず、次数nが0.99乃至1.09の間の値となった。このことから、張力分力F
tが表面張力γの大きさに関わらず押込量δの一次関数で近似できることが判る。
【0044】
また、各表面張力γにおける係数2πGは、
図8(A)に示すように、2.62乃至2.40の間の値となった。このことから、係数2πGは、2.4以上且つ2.62以下の値に設定すればよいことが判る。そして、試料SP1の厚さtを0.001mm、0.01mm、0.1mm、1mm、10mmに設定した場合の係数Gは、
図8(B)に示すようになった。ここで、試料SP1に発生する表面張力γを65.3[N/m]とし、圧子15の直径を10mmとした。
図8(B)に示すように、試料SP1の厚さtが1mm以下では、係数Gが0.319乃至0.409の間の値となることが判った。一方、厚さtが10mmの場合、係数Gが0.004まで減少した。
【0045】
このように、有限要素法による解析結果から、張力分力Ftが試料SP1の厚さが1mm以下の場合、押込量δの一次関数で表されることが判る。このことから、前述の式(17)の関係式は、前述の係数Gを用いて下記式(20)に示す関係式に修正することができる。
【0046】
【数20】
そして、係数Gについては、試料SP1の厚さが1mm以下の場合、前述の解析結果から0.319以上且つ0.409以下の範囲内の値に設定されるのが好ましいことが判った。
【0047】
本実施の形態に係る表面張力測定方法では、前述の式(20)および式(21)の関係式を用いて、圧子15を第1押込量δ1だけ押し込んだときに圧子15に作用する第1押込荷重F1と、圧子15を第2押込量δ2だけ押し込んだときに圧子15に作用する第2押込荷重F2と、基準押込量δ0と、から、試料SP1の表面張力を算出する。
【0048】
次に、本実施の形態に係る表面張力測定装置について説明する。
図9に示すように、本実施の形態に係る表面張力測定装置100は、計測ユニット10と、制御ユニット20と、解析ユニット30と、を備える。計測ユニット10は、圧子15と、荷重軸14と、ヘッド12と、ロードセル13と、アクチュエータ11と、ポテンショメータ17と、を有する。アクチュエータ11は、ヘッド12を予め設定された方向へ駆動する(
図9の矢印AR1の下方向)。荷重軸14は、ヘッド12に取り付けられており、アクチュエータ11がヘッド12を駆動すると、それに伴い、荷重軸14の位置も変更される。圧子15は、球状であり、荷重軸14の先端部に取り付けられている。アクチュエータ11がヘッド12をステージST1上に載置された試料SP1に近づく方向(矢印AR1の下方向)へ移動させると、圧子15が試料SP1に接触し押し込まれる。
【0049】
ロードセル13は、荷重軸14に取り付けられ、荷重軸14から圧子15に作用する荷重を計測する。ロードセル13は、試料SP1より圧子15に作用する荷重を計測し、この荷重情報を解析ユニット30へ出力する。ポテンショメータ17は、ヘッド12の移動量を計測する。このヘッド12の移動量は、圧子15の試料SP1への押込量に相当する。ポテンショメータ17は、計測した圧子15の押込量を示す押込量情報を、制御ユニット20へ出力する。
【0050】
制御ユニット20は、アクチュエータ11へ制御信号を出力することによりアクチュエータ11を制御する。制御ユニット20は、CPU(Central Processing Unit)と記憶部とを有する。また、制御ユニット20は、アクチュエータ11へ制御信号を出力する際、圧子15の試料SP1への押込み動作の開始を通知する試験開始信号を解析ユニット30へ出力する。そして、制御ユニット20は、圧子15を予め設定された押込量まで押込むと、圧子15の押込み動作を終了する旨を通知する試験終了信号を解析ユニット30へ出力する。更に、制御ユニット20は、ポテンショメータ17から入力される押込量情報を解析ユニット30へ出力する。制御ユニット20は、CPUが記憶部に記憶されたアクチュエータ11の制御用のプログラムを実行することにより実現されている。
【0051】
解析ユニット30は、
図10に示すように、CPU31と記憶部32と表示部33とを有する。表示部33は、例えば液晶表示装置である。CPU31は、記憶部32が記憶する解析用のプログラムを実行することにより、データ取得部311、基準押込量特定部312、表面張力算出部314および出力部315として機能する。また、記憶部32は、計測ユニット10から取得された押込み荷重を示す荷重情報と、押込量を示す押込量情報とを時系列で記憶する計測情報記憶部321を有する。更に、記憶部32は、前述の式(20)に示す関係式の情報を記憶する関係式記憶部322と、算出された表面張力を示す情報を記憶する表面張力記憶部323と、を有する。ここで、関係式記憶部322は、前述の式(20)における係数Gを示す情報も記憶する。係数Gは、前述の式(21)の条件を満足する値に予め設定されている。
【0052】
データ取得部311は、制御ユニット20から試験開始信号が入力されたことを契機として、計測ユニット10から荷重情報と押込量情報とを順次取得する物理量履歴取得部である。ここで、押込量情報は圧子15の押込量を示す情報であり、荷重情報は圧子15に作用する押込み荷重を示す情報である。そして、データ取得部311は、押込量情報と荷重情報とを取得した順に計測情報記憶部321に記憶させていく。また、データ取得部311は、制御ユニット20から試験終了信号が入力されると、データの取得を停止する。
【0053】
基準押込量特定部312は、押込量の初期値である基準押込量を特定する。ここで、基準押込量は、
図11に示すように、圧子15が試料SP1に接触していない状態から押込量を増加させていったときに、押込み荷重が初めて0レベルよりも大きくなった時点における押込量δ
0に相当する。そして、基準押込量特定部312は、特定した基準押込量δ
0を示す基準押込量情報を、計測情報記憶部321に記憶させる。
【0054】
表面張力算出部314は、前述の式(20)の関係式を用いて、圧子15を第1押込量δ1だけ押し込んだときに圧子15に作用する第1押込荷重F1と、圧子15を第2押込量δ2だけ押し込んだときに圧子15に作用する第2押込荷重F2と、基準押込量δ0と、から、試料SP1の表面張力を算出する。表面張力算出部314は、算出した表面張力を表面張力記憶部323に記憶させる。
【0055】
出力部315は、表面張力記憶部323が記憶する表面張力を示す情報を表示部33へ出力する。このとき、表示部33は、出力部315から入力される表面張力を示す情報を表示する。
【0056】
次に、本実施の形態に係る表面張力測定装置100の解析ユニット30が実行する解析処理について
図12を参照しながら説明する。この解析処理は、例えば制御ユニット20から試験開始信号が入力されたことを契機として実行される。
【0057】
まず、データ取得部311は、計測ユニット10から荷重情報と押込量情報とを順次取得して、計測情報記憶部321に記憶させていく(ステップS1)。そして、データ取得部311は、制御ユニット20から試験終了信号が入力されると、データの取得を停止する。
【0058】
次に、基準押込量特定部312は、計測情報記憶部321から試料SP1について取得された一連の荷重情報および押込量情報を読み込む(ステップS2)。続いて、基準押込量特定部312は、読み込んだ一連の荷重情報および押込量情報を用いて基準押込量を特定する(ステップS3)。ここで、基準押込量特定部312は、圧子15が試料SP1に接触していない状態から押込量を増加させていったときに、押込み荷重が初めて0レベルよりも大きくなった時点における押込量δ0を基準押込量として特定する。また、基準押込量特定部312は、特定した基準押込量を示す情報を計測情報記憶部321に記憶させる。
【0059】
その後、表面張力算出部314は、前述の式(20)の関係式を用いて、圧子15を第1押込量δ1だけ押し込んだときに圧子15に作用する第1押込荷重F1と、圧子15を第2押込量δ2だけ押し込んだときに圧子15に作用する第2押込荷重F2と、基準押込量δ0と、から、試料SP1の表面張力を算出する。そして、表面張力算出部314は、算出した表面張力を示す情報を表面張力記憶部323に記憶させる(ステップS4)。
【0060】
続いて、出力部315は、表面張力記憶部323が記憶する表面張力を示す情報を、表示部33へ出力する(ステップS5)。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態に係る表面張力方法によれば、圧子15を試料SP1に押し込んだときの圧子15の押込量δ1、δ2と、圧子に作用する押込荷重F1、F2と、から、試料SP1の表面張力を算出する。これにより、圧子15を試料SP1に押し込むという簡単な作業を行うだけで試料SP1の表面張力を測定することができるので、試料SP1の表面張力を簡易且つ高精度に測定することができる。
【0062】
また、本実施の形態に係る表面張力測定方法によれば、シート状の試料SP1を弾性材料から形成されたステージST1上に載置した状態で試料SP1の表面張力を測定することができる。これにより、例えば人が被服を着ている状態で、被服の上から圧子15を押し込むだけで、人が被服を着た状態での被服に発生している表面張力を測定することができるので、被服の着圧を容易に見積もることができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の各実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、計測ユニット10および制御ユニット20を備える計測装置と、計測装置とは別体の解析ユニット30を備える解析装置とから、表面張力測定システムが構成されてもよい。
【0064】
また、本発明に係る制御ユニット20および解析ユニット30の各種機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現されてもよい。この場合、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述され、記憶部32に記憶される。また、本発明に係る制御ユニット20および解析ユニット30の各種機能は、専用のシステムによらず、コンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、ネットワークに接続されているコンピュータに、上記動作を実行するためのプログラムを、コンピュータシステムが読み取り可能な非一時的な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、MO(Magneto-Optical Disc)等)に格納して配布し、当該プログラムをコンピュータシステムにインストールすることにより、上述の処理を実行する制御ユニット20および解析ユニット30を構成してもよい。
【0065】
また、コンピュータにプログラムを提供する方法は任意である。例えば、プログラムは、通信回線のサーバにアップロードされ、通信回線を介してコンピュータに配信されてもよい。そして、コンピュータは、このプログラムを起動して、OS(Operating System)の制御の下、他のアプリケーションと同様に実行する。これにより、コンピュータは、上述の処理を実行する制御ユニット20および解析ユニット30として機能する。
【0066】
以上、本発明の実施の形態および変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態および変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、人が被服を着た状態での被服の着圧の評価並びに人の肌のハリの評価に好適である。
【符号の説明】
【0068】
10:計測ユニット、11:アクチュエータ、12:ヘッド、13:ロードセル、14:荷重軸、15:圧子、17:ポテンショメータ、20:制御ユニット、30:解析ユニット、31:CPU、32:記憶部、33:表示部、100:表面張力測定装置、311:データ取得部、312:基準押込量特定部、314:表面張力算出部、315:出力部、321:計測情報記憶部、322:関係式記憶部、323:表面張力記憶部、SP1:試料、ST1:ステージ