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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110302
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】収差測定方法および電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20220722BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
H01J37/153 A
H01J37/22 501A
H01J37/22 501Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005612
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】森下 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】佐川 隆亮
(72)【発明者】
【氏名】植松 文徳
(72)【発明者】
【氏名】中道 智寛
(72)【発明者】
【氏名】相原 啓人
【テーマコード(参考)】
5C033
【Fターム(参考)】
5C033HH08
(57)【要約】
【課題】容易に収差を測定できる収差測定方法を提供する。
【解決手段】電子顕微鏡における収差測定方法であって、前記電子顕微鏡において収差を測定するための画像を取得する工程と、前記画像を用いて収差を測定する工程と、を含み、前記収差を測定する工程では、前記電子顕微鏡の光学系の構成と前記光学系の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する、収差測定方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡における収差測定方法であって、
前記電子顕微鏡において収差を測定するための画像を取得する工程と、
前記画像を用いて収差を測定する工程と、
を含み、
前記収差を測定する工程では、前記電子顕微鏡の光学系の構成と前記光学系の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する、収差測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記画像は、ディフラクトグラムタブローである、収差測定方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記画像は、ロンキグラムである、収差測定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記収差を測定する工程では、前記残留収差に基づいてデフォーカスの向きを特定し、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める、収差測定方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記光学系は、収差補正装置を含み、
前記残留収差は、前記収差補正装置で生じる収差である、収差測定方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記光学系は、対物レンズを含み、
前記残留収差は、前記対物レンズで生じる収差である、収差測定方法。
【請求項7】
電子線を放出する電子源と、
前記電子線に作用する光学系と、
収差を測定するための画像を取得するための検出器と、
前記画像を用いて収差を計算する収差計算部と、
を含み、
前記収差計算部は、前記光学系の構成と前記光学系の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する、電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項7において、
前記画像は、ディフラクトグラムタブローである、電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項7において、
前記画像は、ロンキグラムである、電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、
前記収差計算部は、前記残留収差に基づいてデフォーカスの向きを特定し、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める、電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1項において、
前記光学系は、収差補正装置を含み、
前記残留収差は、前記収差補正装置で生じる収差である、電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項7ないし10のいずれか1項において、
前記光学系は、対物レンズを含み、
前記残留収差は、前記対物レンズで生じる収差である、電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項7ないし12のいずれか1項において、
前記光学系の光学条件と前記残留収差の情報とが関連付けられて登録されたテーブルが記憶されている記憶部を含む、電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収差測定方法および電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(TEM)や走査透過電子顕微鏡(STEM)などの電子顕微鏡において、高分解能観察を行うためには、光学系に生じる収差の補正が極めて重要である。
【0003】
収差を補正するためには、収差を測定する必要がある。収差を測定する手法としては、ディフラクトグラムタブローを用いて収差を測定する方法や、ロンキグラム(Ronchigram)を用いて収差を測定する方法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ロンキグラムを用いて収差を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-180013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディフラクトグラムは、収差を反映しやすいパターンであるため、収差の測定に用いられる。しかしながら、ディフラクトグラムは、1つのパターンだけではデフォーカスの向き、すなわち、オーバーフォーカスであるのかそれともアンダーフォーカスであるのかを判断できない。そのため、事前に別の手段でデフォーカスの向きを調べたり、デフォーカスを変えた複数のディフラクトグラムを用いて収差を計算したりする必要があった。
【0007】
例えば、ディフラクトグラムタブローを用いて収差を測定する場合、試料の高さや対物レンズの励磁を変えたときのデフォーカスの変化の様子からデフォーカスの向きを判断し、ディフラクトグラムを取得する。このとき、デフォーカスの向きの判断が誤っていると、ディフラクトグラムタブローから収差を正しく計算することができない。
【0008】
また、ロンキグラムにおいても、同様に、1つのパターンだけではデフォーカスの向きを判断できないため、事前に別の手段でデフォーカスの向きを調べたり、デフォーカスを変えた複数のロンキグラムを用いて収差を計算したりする必要があった。
【0009】
ロンキグラムを用いた収差の測定方法としては、例えば、SRAM(Segmental-Ronchigram-Autocorrelation function-Matrix)法が知られている。SRAM法では、デフォーカスが異なる複数のロンキグラムを用いて収差を計算する。
【0010】
このように、収差を測定するためには、事前にデフォーカスの向きの情報を得るか、収差を測定するための画像をデフォーカスを変えて複数枚取得する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る収差測定方法の一態様は、
電子顕微鏡における収差測定方法であって、
前記電子顕微鏡において収差を測定するための画像を取得する工程と、
前記画像を用いて収差を測定する工程と、
を含み、
前記収差を測定する工程では、前記電子顕微鏡の光学系の構成と前記光学系の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する。
【0012】
このような収差測定方法では、光学系の構成と光学系の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する。そのため、事前にデフォーカスの向きの情報を得たり、収差を測定するための画像をデフォーカスを変えて複数枚取得したりすることなく、容易に収差を測定できる。
【0013】
本発明に係る電子顕微鏡の一態様は、
電子線を放出する電子源と、
前記電子線に作用する光学系と、
収差を測定するための画像を取得するための検出器と、
前記画像を用いて収差を計算する収差計算部と、
を含み、
前記収差計算部は、前記光学系の構成と前記光学系の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する。
【0014】
このような電子顕微鏡では、収差計算部は、光学系の構成と光学系の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する。そのため、事前にデフォーカスの向きの情報を得たり、収差を測定するための画像をデフォーカスを変えて複数枚取得したりすることなく、容易に収差を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】制御装置の構成を示す図。
図3】第1実施形態における収差測定方法の一例を示すフローチャート。
図4】正の球面収差がある場合のディフラクトグラムタブローのシミュレーション結果。
図5】正の球面収差がある場合のディフラクトグラムタブローのシミュレーション結果。
図6】ディフラクトグラムタブローのシミュレーション結果の一例。
図7】収差測定処理および収差補正処理の一例を示すフローチャート。
図8】第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図9】第2実施形態における収差測定方法の一例を示すフローチャート。
図10】6回非点がある場合のロンキグラムのシミュレーション結果。
図11】コマ収差がある場合のロンキグラムのシミュレーション結果の一例。
図12】収差測定処理および収差補正処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0018】
電子顕微鏡100は、透過電子顕微鏡(TEM)である。電子顕微鏡100では、電子
源10から放出された電子線は、照射系22で集束されて試料Sに照射される。試料Sを透過した電子線は、結像系24によって透過電子顕微鏡像(TEM像)を結像する。TEM像は、検出器40で撮影される。電子顕微鏡100では、収差補正装置246によって結像系24の収差を補正できるため、高分解能のTEM像を得ることができる。
【0019】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子源10と、光学系20と、試料ステージ30と、試料ホルダー32と、検出器40と、制御装置50と、を含む。
【0020】
電子源10は、電子を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0021】
光学系20は、電子源10から放出された電子線に作用する。光学系20は、照射系22と、結像系24と、を含む。
【0022】
照射系22は、電子源10から放出された電子線を試料Sに照射するための光学系である。照射系22は、集束レンズ220と、偏向器222と、を含む。
【0023】
集束レンズ220は、電子源10から放出された電子線を集束する。集束レンズ220は、複数の電子レンズで構成されていてもよい。
【0024】
偏向器222は、電子源10から放出された電子線を偏向させる。偏向器222は、2次元的に電子線を偏向させる。偏向器222で電子線を偏向させることによって、試料Sに対する電子線の入射角度を変更できる。
【0025】
結像系24は、試料Sを透過した電子線でTEM像を結像する。結像系24は、対物レンズ240と、中間レンズ242と、投影レンズ244と、収差補正装置246と、を含む。
【0026】
対物レンズ240は、試料Sを透過した電子線でTEM像を結像するための初段のレンズである。中間レンズ242および投影レンズ244は、対物レンズ240によって結像された像をさらに拡大し、検出器40上に結像する。
【0027】
収差補正装置246は、結像系24に組み込まれている。収差補正装置246は、結像系24の収差を補正する。
【0028】
収差補正装置246は、例えば、負の球面収差を発生させて、対物レンズ240の正の球面収差を打ち消す。収差補正装置246は、例えば、極性が反対の2つの六極子と、2つの六極子をつなぐ転送レンズと、を有している2段六極子場型の球面収差補正装置である。収差補正装置246では、2つの六極子で互いに向きの異なる3回対称磁場をつくり、球面収差等を補正する。収差補正電源コントローラ60は、収差補正装置246を動作させる。
【0029】
試料ステージ30は、試料ホルダー32に保持された試料Sを支持する。試料ステージ30によって、試料Sを位置決めすることができる。
【0030】
検出器40は、試料Sを透過した電子を検出する。検出器40は、結像系24によって結像された像を撮影する。検出器40は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等のデジタルカメラである。検出器コントロールシステム62は、検出器40を制御する。検出器コントロールシステム62は、検出器40で撮影された像を制御装置50に送る。
【0031】
制御装置50は、収差補正装置246を制御する。制御装置50は、収差補正装置246を制御するための制御信号を生成し、収差補正電源コントローラ60に送る。収差補正電源コントローラ60は、制御信号に基づいて、収差補正装置246を動作させる。
【0032】
図2は、制御装置50の構成を示す図である。
【0033】
制御装置50は、図2に示すように、処理部510と、操作部520と、表示部522と、記憶部524と、を含む。
【0034】
操作部520は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部510に送る処理を行う。操作部520の機能は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどにより実現できる。
【0035】
表示部522は、処理部510によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD(liquid crystal display)などのディスプレイにより実現できる。表示部522には、後述する収差補正装置246を制御するためのGUI(Graphical User Interface)が表示される。
【0036】
記憶部524は、処理部510が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部524は、処理部510の作業領域として用いられ、処理部510が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部524の機能は、ハードディスクや、RAM(random access memory)などにより実現できる。
【0037】
処理部510は、収差補正装置246を制御する処理を行う。処理部510の処理については後述する。処理部510の機能は、各種プロセッサ(CPU(Central Processing
Unit)等)でプログラムを実行することにより実現できる。処理部510は、画像取得部512と、収差計算部514と、収差補正装置制御部516と、を含む。
【0038】
画像取得部512は、収差を測定するための画像を取得する。収差を測定するための画像は、例えば、ディフラクトグラムタブローである。ディフラクトグラムタブローは、結像系24の収差を測定するための画像である。ディフラクトグラムタブローは、試料Sへの電子線の入射角度の異なる複数のディフラクトグラムを2次元的に表示したものである。ディフラクトグラムは、アモルファス試料の高倍率像をフーリエ変換して得られた図形である。
【0039】
収差計算部514は、収差を測定するための画像を用いて光学系20の収差を測定する。ここでは、収差計算部514は、ディフラクトグラムタブローを用いて結像系24の収差を測定する。収差計算部514は、まず、光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいてデフォーカスの向きを特定し、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める。収差計算部514の処理の詳細については後述する。
【0040】
収差補正装置制御部516は、収差計算部514で算出された収差に基づいて、収差補正装置246を動作させる。収差補正装置制御部516は、収差計算部514で算出された収差を打ち消す収差が発生するように収差補正装置246を動作させる。これにより、結像系24の収差を補正できる。
【0041】
1.2. 収差測定方法
次に、第1実施形態における収差測定方法について説明する。以下では、ディフラクトグラムタブローを用いた収差測定方法について説明する。
【0042】
ディフラクトグラムタブローを用いた収差測定方法では、通常、測定時のデフォーカスの向き、すなわち、アンダーフォーカスかオーバーフォーカスかの情報が必要となる。したがって、事前に、別の手段でデフォーカスの向きを調べたり、デフォーカスを変えた複数のディフラクトグラムを用いて収差を計算したりする必要がある。
【0043】
これに対して、以下に説明する第1実施形態における収差測定方法では、事前に、デフォーカスの向きの情報が得られなくても、収差を正しく計算できる。
【0044】
例えば、収差補正装置246では、高次の収差が残留収差として生じる。収差補正装置246が2段6極子場型の球面収差補正装置である場合、収差補正装置246では、6回非点、または6次スリーローブ収差が生じる。これらの高次の収差は、他の低次の収差とは異なり、光学素子の調整では補正できない。すなわち、これらの高次の収差は、光学系20の構成と光学系20の光学条件が決まれば変化しない。
【0045】
光学系20の構成は、光学系20に含まれる各光学素子(レンズ、絞り、多極子、および収差補正装置を含む)の構成、および各光学素子の寸法および位置を含む。光学条件は、加速電圧、各光学素子の条件を含む。
【0046】
例えば、収差補正装置246で生じる6回非点の向きおよび6次スリーローブ収差の向きは、光学系20の構成(例えば、極子の数、多極子の向き等)、多極子に印加される励磁電流、加速電圧、光学系20を構成する各光学素子の条件によって一意に決まる。そのため、収差補正装置246で生じる6回非点の向きおよび6次スリーローブ収差の向きは、事前に知ることができる。
【0047】
第1実施形態における収差測定方法では、この光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差を利用してデフォーカスの向きを特定し、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める。
【0048】
図3は、第1実施形態における収差測定方法の一例を示すフローチャートである。以下では、収差補正装置246の残留収差として6回非点が生じる場合について説明する。
【0049】
まず、光学系20の構成および光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差の情報を取得する(S10)。
【0050】
例えば、電子顕微鏡100において、光学系20の光学条件を変更しながら収差を測定することによって、光学系20の光学条件と収差補正装置246の残留収差(6回非点)の向きとが関連付けられて登録されたテーブルを作成する。
【0051】
次に、ディフラクトグラムタブローを取得する(S12)。
【0052】
具体的には、試料Sに対する電子線の入射角度を変えながら、高倍率のアモルファス像を取得し、取得したアモルファス像をフーリエ変換する。これにより、電子線の入射角度が互いに異なる複数のディフラクトグラムを取得できる。この複数のディフラクトグラムを2次元的に配置してディフラクトグラムタブローを得ることができる。
【0053】
次に、光学系20の構成と光学系20の光学条件に基づいて一意に決まる残留収差に基づいてデフォーカスの向きを特定し(S14)、特定されたデフォーカスの向きに基づい
てデフォーカス以外の収差を求める(S16)。
【0054】
収差補正装置246の残留収差である6回非点が存在していることを前提(拘束条件)として、工程S12で取得したディフラクトグラムタブローからデフォーカスの向きを特定する。
【0055】
例えば、まず、アンダーフォーカスと仮定して、ディフラクトグラムタブローから収差を計算する。次に、オーバーフォーカスと仮定して、ディフラクトグラムタブローから収差を計算する。次に、工程S10で作成したテーブルを参照して、工程S12でディフラクトグラムタブローを取得したときの光学条件に応じた収差補正装置246の6回非点の向きの情報を取得する。次に、アンダーフォーカスと仮定した場合の収差の計算結果と、オーバーフォーカスと仮定した場合の収差の計算結果のうち、6回非点の向きが一致する方を、正しい計算結果として採用する。
【0056】
図4および図5は、正の球面収差がある場合のディフラクトグラムタブローのシミュレーション結果である。図4は、アンダーフォーカスの場合であり、図5は、オーバーフォーカスの場合である。
【0057】
同じ正の球面収差がある場合でも、デフォーカスの向きが異なると、ディフラクトグラムタブローのパターンは変わる。第1実施形態における収差測定方法では、収差補正装置246の残留収差の向きの情報を利用することによって、いずれのデフォーカスの向きでディフラクトグラムタブローを取得しても、収差を測定できる。
【0058】
図6は、ディフラクトグラムタブローのシミュレーション結果の一例である。図6に示すディフラクトグラムタブローから収差を計算すると以下のように解Aと解Bが得られる。
【0059】
・解A
デフォーカス:-300nm
コマ収差:200nm,0deg
6回非点:5mm,0deg
・解B
デフォーカス:+300nm
コマ収差:200nm,180deg
6回非点:5mm,30deg
【0060】
ここで、収差補正装置246に生じる6回非点の向きが30degであることが知っていれば、解Bが正しい収差の測定結果であることがわかる。
【0061】
なお、上記では、収差補正装置246で生じる6回非点の向きが一意に決まることを利用したが、収差補正装置246で生じる6次スリーローブ収差の向きも、光学系20の構成および光学系20の光学条件で一意に決まる。したがって、収差補正装置246の残留収差である6次スリーローブ収差が存在していることを前提(拘束条件)として、工程S12で取得したディフラクトグラムタブローからデフォーカスの向きを特定することもできる。
【0062】
1.3. 処理
電子顕微鏡100では、制御装置50が、結像系24の収差を測定する収差測定処理を行う。また、制御装置50は、収差の測定結果に基づいて、収差補正装置246を制御して収差を補正する収差補正処理を行う。記憶部524には、あらかじめ光学系20の光学条件と6回非点の向きとが関連付けられて登録されたテーブルが記憶されている。
【0063】
図7は、収差測定処理および収差補正処理の一例を示すフローチャートである。
【0064】
処理部510は、ユーザーが収差補正を開始する開始指示を行ったか否かを判定する(S100)。例えば、ユーザーが操作部520において収差補正を開始する指示を入力するための操作を行った場合に、開始指示が行われたと判定する。
【0065】
開始指示が行われたと判定された場合(S100のYes)、画像取得部512は、ディフラクトグラムタブローを取得する処理を行う(S102)。例えば、画像取得部512は、光学系20を制御して試料Sに対する電子線の入射角度を変えながら、検出器40で撮影された高倍率のアモルファス像を取得する。そして、画像取得部512は、取得した互いに入射角度の異なるアモルファス像をフーリエ変換してディフラクトグラムを生成し、2次元的に配置する。これにより、ディフラクトグラムタブローを取得できる。
【0066】
次に、収差計算部514は、画像取得部512が取得したディフラクトグラムタブローを用いて収差を測定する。
【0067】
具体的には、まず、収差計算部514は、光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差の情報を取得する(S104)。
【0068】
収差計算部514は、記憶部524に記憶されたテーブルを参照して、画像取得部512がディフラクトグラムタブローを取得したときの光学条件に応じた6回非点の向きの情報を取得する。次に、収差計算部514は、ディフラクトグラムタブローにおいて、取得した6回非点の向きの情報に基づいてデフォーカスの向きを特定し(S106)、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める(S108)。以上の処理により、光学系20の収差を測定できる。収差の測定結果は、例えば、表示部522に表示されてもよい。処理S108の後、処理部510は、収差測定処理を終了する。
【0069】
収差測定処理の後、収差補正装置制御部516は、測定された収差の情報に基づいて、当該収差が補正されるように収差補正装置246を動作させる(S110)。以上の処理により、結像系24の収差を補正できる。処理S110の後、処理部510は収差補正処理を終了する。
【0070】
1.4. 効果
電子顕微鏡100では、収差計算部514は、光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する。そのため、事前にデフォーカスの向きを調べたり、デフォーカスを合わせたりすることなく、容易に収差を測定することができる。また、ディフラクトグラムタブローを複数枚取得することなく、1つのディフラクトグラムタブローから収差を測定できる。
【0071】
1.5. 変形例
上記では、球面収差を補正する収差補正装置246に生じる6回非点の向きまたは6次スリーローブ収差の向きが一意に決まることを利用したが、色収差やその他の収差を補正する収差補正装置に生じる高次の残留収差も、同様に、一意に決まる。そのため、色収差やその他の収差を補正する収差補正装置に生じる残留収差を利用して、デフォーカスの向きを特定してもよい。
【0072】
また、例えば、対物レンズ240には、通常、正の球面収差(3次の球面収差)が生じ
る。この正の球面収差は、光学系20の構成および光学系20の光学条件によって一意に決まる。そのため、対物レンズ240に生じる球面収差を利用してデフォーカスの向きを特定してもよい。同様に、四極子場型の収差補正装置や八極子場型の収差補正装置で生じる5次スター収差(もしくは7次スター収差)も、光学系20の構成および光学系20の光学条件によって一意に決まる。また、同様に、3段六極子場型の収差補正装置で生じる6次スリーローブ収差も、光学系20の構成および光学系20の光学条件によって一意に決まる。したがって、これらの収差を利用してデフォーカスの向きを特定してもよい。
【0073】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。図8は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0074】
上述した図1に示す電子顕微鏡100では、結像系24に収差補正装置246が組み込まれていた。これに対して、図8に示す電子顕微鏡200では、照射系22に収差補正装置224が組み込まれている。照射系22は、収差補正装置224を含む。
【0075】
また、電子顕微鏡200では、照射系22は、走査コイル226を含む。走査コイル226は、電子線で試料Sを走査するために用いられる。
【0076】
電子顕微鏡200は、走査透過電子顕微鏡(STEM)である。電子顕微鏡200では、電子源10から放出された電子線は、集束レンズ220および対物レンズ240によって集束され、電子プローブを形成する。そして、形成された電子プローブは、走査コイル226によって2次元的に偏向される。これにより、試料S上を電子プローブで走査することができる。電子プローブによる走査と同期して、試料S上を透過した電子を検出器40で検出することで、走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を取得することができる。
【0077】
収差補正装置224は、照射系22の収差を補正する。収差補正装置224は、例えば、収差補正装置246と同様に、2段六極子場型の球面収差補正装置である。
【0078】
検出器40は、試料Sを透過した電子を検出する。検出器40は、試料Sで散乱された電子を検出する円環状の検出器であってもよい。
【0079】
2.2. 収差測定方法
次に、第2実施形態における収差測定方法について説明する。以下では、ロンキグラムを用いた収差測定方法について説明する。
【0080】
ロンキグラムを用いた収差測定方法では、通常、測定時のデフォーカスの向きの情報が必要となる。したがって、事前に、別の手段でデフォーカスの向きを調べたり、デフォーカスを変えた複数のロンキグラムを用いて収差を計算したりする必要がある。
【0081】
これに対して、以下に説明する第2実施形態における収差測定方法では、事前に、デフォーカスの向きの情報が得られなくても、収差を正しく計算できる。
【0082】
例えば、収差補正装置224では、高次の収差が残留収差として発生する。収差補正装置224が2段6極子場型の球面収差補正装置である場合、収差補正装置224では、6回非点、または6次スリーローブ収差が発生する。
【0083】
第2実施形態における収差測定方法では、第1実施形態に係る収差測定方法と同様に、光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差を利用してデフォーカスの向きを特定し、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める。
【0084】
図9は、第2実施形態における収差測定方法の一例を示すフローチャートである。
【0085】
まず、光学系20の構成および光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差の情報を取得する(S20)。
【0086】
例えば、電子顕微鏡200において、光学系20の光学条件を変更しながら収差を測定することによって、光学系20の光学条件と6回非点の向きとが関連付けられて登録されたテーブルを作成する。
【0087】
次に、ロンキグラムを取得する(S22)。
【0088】
ロンキグラムは、照射系22で電子線を試料S付近に集束させることによって、回折面上にできる試料Sの投影像である。
【0089】
次に、光学系20の構成と、光学系20の光学条件に基づいて一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定し(S24)、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める(S26)。
【0090】
図10は、6回非点がある場合のロンキグラムのシミュレーション結果である。図10には、アンダーフォーカスで6回非点の向きが0degの場合のロンキグラム、オーバーフォーカスで6回非点の向きが0degの場合のロンキグラム、アンダーフォーカスで6回非点の向きが30degの場合のロンキグラム、およびオーバーフォーカスで6回非点の向きが30degの場合のロンキグラムを示している。
【0091】
図10に示すように、アンダーフォーカスで6回非点が0degの場合のロンキグラムとオーバーフォーカスで6回非点が30degの場合のロンキグラムとは、同じパターンとなり、区別ができない。また、オーバーフォーカスで6回非点が0degの場合のロンキグラムとアンダーフォーカスで6回非点が30degの場合のロンキグラムとは、同じパターンとなり、区別ができない。
【0092】
第2実施形態における収差補正方法では、第1実施形態における収差補正方法と同様に、光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差を利用して、デフォーカスの向きを判断する。例えば、収差補正装置224で発生する6回非点の向きが30degであるという事前情報を得ることで、デフォーカスの向きを特定できる。
【0093】
図11は、コマ収差がある場合のロンキグラムのシミュレーション結果の一例である。
【0094】
図11に示すロンキグラムから収差を計算すると以下のように解Aと解Bが得られる。
【0095】
・解A
6回非点:0deg
デフォーカスの向き:アンダーフォーカス
コマ収差:0deg
・解B
6回非点:30deg
デフォーカスの向き:オーバーフォーカス
コマ収差:180deg
【0096】
ここで、収差補正装置224に生じる6回非点の向きが30degであることが知っていれば、解Bが正しい収差の測定結果であることがわかる。
【0097】
なお、上記の例では、収差補正装置224の残留収差である6回非点の向きから、コマ収差の向きを求める場合について説明したが、ロンキグラムでは、収差の大きさ(振幅)も測定できる。例えば、図11に示す例では、以下の解が得られる。
【0098】
・解
6回非点:10mm,30deg
デフォーカス:+200nm,オーバーフォーカス
コマ収差:2500nm,180deg
【0099】
なお、上記では、収差補正装置224で生じる6回非点の向きが一意に決まることを利用したが、収差補正装置224で生じる6次スリーローブ収差の向きも、光学系20の構成および光学系20の光学条件で一意に決まる。したがって、収差補正装置224の残留収差である6次スリーローブ収差が存在していることを前提(拘束条件)として、工程S22で取得したロンキグラムからデフォーカスの向きを特定することもできる。
【0100】
また、上記では、照射系22にコマ収差がある場合について説明したが、照射系22にコマ収差以外の収差(2回非点、3回非点、スター収差等)がある場合についても同様に収差を計算できる。
【0101】
2.3. 処理
電子顕微鏡200では、制御装置50が、照射系22の収差を測定する収差測定処理を行う。また、制御装置50は、収差の測定結果に基づいて、収差補正装置224を制御して収差を補正する収差補正処理を行う。記憶部524には、光学系20の光学条件と6回非点の向きとが関連付けられて登録されたテーブルが記憶されている。
【0102】
図12は、収差測定処理および収差補正処理の一例を示すフローチャートである。
【0103】
処理部510は、ユーザーが収差補正を開始する開始指示を行ったか否かを判定する(S200)。
【0104】
開始指示が行われたと判定された場合(S200のYes)、画像取得部512は、ロンキグラムを取得する処理を行う(S202)。
【0105】
次に、収差計算部514は、画像取得部512が取得したロンキグラムを用いて収差を測定する。
【0106】
具体的には、まず、収差計算部514は、光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差の情報を取得する(S204)。収差計算部514は、記憶部524に記憶されたテーブルを参照して、画像取得部512がロンキグラムを取得したときの光学条件に応じた6回非点の向きの情報を取得する。次に、収差計算部514は、ロンキグラムにおいて、取得した6回非点の向きの情報に基づいてデフォーカスの向きを特定し(S206)、特定されたデフォーカスの向きに基づいてデフォーカス以外の収差を求める(S208)。以上の処理により、光学系20の収差を測定できる。処理S208の後、処理部510は、収差測定処理を終了する。
【0107】
収差測定処理の後、収差補正装置制御部516は、測定された収差の情報に基づいて、当該収差が補正されるように収差補正装置224を動作させる(S210)。以上の処理により、照射系22の収差を補正できる。処理S210の後、処理部510は収差補正処理を終了する。
【0108】
2.4. 効果
電子顕微鏡200では、収差計算部514は、光学系20の構成と光学系20の光学条件で一意に決まる残留収差に基づいて、デフォーカスの向きを特定する。そのため、事前にデフォーカスの向きを調べたり、デフォーカスを合わせたりすることなく、容易に収差を測定することができる。また、ロンキグラムを複数枚取得することなく、1つのロンキグラムから収差を測定できる。
【0109】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0110】
10…電子源、20…光学系、22…照射系、24…結像系、30…試料ステージ、32…試料ホルダー、40…検出器、50…制御装置、60…収差補正電源コントローラ、62…検出器コントロールシステム、100…電子顕微鏡、200…電子顕微鏡、220…集束レンズ、222…偏向器、224…収差補正装置、226…走査コイル、240…対物レンズ、242…中間レンズ、244…投影レンズ、246…収差補正装置、510…処理部、512…画像取得部、514…収差計算部、516…収差補正装置制御部、520…操作部、522…表示部、524…記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12