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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011033
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】衣服内空間の温湿度を推定する方法
(51)【国際特許分類】
   G09B 25/00 20060101AFI20220107BHJP
   G09B 23/28 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G09B25/00 Z
G09B23/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111896
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】594137960
【氏名又は名称】株式会社ゴールドウイン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】釜谷 美翔子
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】衣服内空間における温度及び湿度の適切な値を推定し得る方法を提供する。
【解決手段】この方法は、取得ステップS1と、測定ステップS2と、推定ステップS3と、を備える。取得ステップは、発汗サーマルマネキンを人工気象室へ配置し、人工気象室の温度及び湿度と、表面の温度の制御に要した第1熱量、及び、複数の発汗孔から吐出される水分のうちの表面及び表面層に残留している第1水分量と、を関連付けた基準データを取得する。測定ステップは、発汗サーマルマネキンに、評価対象の衣服を装着し、表面の温度の制御に要した熱量である第2熱量、及び、複数の発汗孔から吐出される水分のうちの表面及び表面層に残留している第2水分量を測定する。推定ステップは、第2熱量及び第2水分量に基づき、基準データの第1熱量及び第1水分量を参照し、評価対象の衣服の衣服内空間の温度及び湿度を推定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服内空間の温湿度を推定する方法であって、
表面の温度、及び、前記表面に設けられた複数の発汗孔から吐出される水分の量を制御可能であり、前記表面を覆うように、親水性且つ速乾性の素材で形成された表面層が装着された発汗サーマルマネキンを人工気象室へ配置したときの、当該人工気象室の温度及び湿度と、前記表面の温度の制御に要した熱量である第1熱量、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分のうちの前記表面及び前記表面層に残留している水分の量である第1水分量と、を関連付けた基準データを取得する取得ステップと、
人工気象室において、前記発汗サーマルマネキンに、評価対象の衣服を装着し、前記表面の温度、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分の量を制御しつつ、前記表面の温度の制御に要した熱量である第2熱量、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分のうちの前記表面及び前記表面層に残留している水分の量である第2水分量を測定する測定ステップと、
測定された前記第2熱量及び前記第2水分量に基づいて、前記基準データの前記第1熱量及び前記第1水分量を参照して、前記発汗サーマルマネキンと前記評価対象の衣服とで形成される衣服内空間の温度及び湿度を推定する推定ステップと、
を備える、
方法。
【請求項2】
前記取得ステップは、
前記発汗サーマルマネキンが配置された前記人工気象室の温度及び湿度を、それぞれ所定温度及び所定湿度に調整するステップと、
前記所定温度及び前記所定湿度に調整され前記人工気象室において、前記第1熱量及び前記第1水分量を計測するステップと、
を含み、
前記所定温度として、複数の温度が設定され、前記所定湿度として、複数の湿度が設定され、前記複数の温度の各々及び前記複数の湿度の各々において、前記第1熱量及び前記第1水分量が計測されて、前記基準データとして記憶される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記取得ステップは、
前記基準データにおいて、前記温度が一定のときの、前記複数の湿度における前記第1熱量と前記第1水分量との関係を示す関数を導出するステップを含み、
前記推定ステップは、測定された前記第2熱量及び前記第2水分量に基づいて、前記基準データの前記関数を参照して、前記衣服内空間の温度及び湿度を推定するステップを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記取得ステップは、
前記基準データにおいて、前記湿度が一定のときの、前記複数の温度における前記第1熱量と前記第1水分量との関係を示す関数を導出するステップを含み、
前記推定ステップは、測定された前記第2熱量及び前記第2水分量に基づいて、前記基準データの前記関数を参照して、前記衣服内空間の温度及び湿度を推定するステップを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記取得ステップは、
前記表面層が装着された前記発汗サーマルマネキンに、前記表面層を覆うように、疎水性のメッシュ素材で形成された被覆層を装着させるステップと、
前記表面層及び前記被覆層が装着された前記発汗サーマルマネキンを前記人工気象室へ配置したときの、前記基準データを取得するステップと、を含み、
前記測定ステップは、
前記被覆層が装着された前記発汗サーマルマネキンに、前記評価対象の衣服を装着して、前記第2熱量及び前記第2水分量を測定するステップを含む、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服内空間の温湿度を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣服の開発では、開発中の衣服と皮膚との間の空間である衣服内空間における温度や湿度の測定が行われる場合がある。衣服内空間の温度や湿度は、衣服の温熱的快適性と密接な関係があり、衣服の開発における非常に重要な指標である。衣服内空間の温度や湿度を測定する方法としては、例えば、汗を模した水分を表面から放出する発汗サーマルマネキン(以下、単に「マネキン」ともいう。)に衣服を着用させて、衣服内空間の温度や湿度を測定する方法が知られている。
【0003】
マネキンを用いる装置としては、例えば、特許文献1に発汗人体模型装置が開示されている。この発汗人体模型装置は、本体壁と、複数の発汗孔と、模擬皮膚層と、加熱手段と、水量調整手段と、第1センサと、第2センサと、を備える。本体壁は、人体の外形を形成する。複数の発汗孔は、本体壁に設けられる。模擬皮膚層は、発汗孔を含む本体壁を覆うように設けられる。加熱手段は、本体壁の内面側に設けられる。水量調整手段は発汗孔に連通され、発汗孔に所定量の水分を送り込むための手段である。第1センサは、模擬皮膚層の表面温度を測定するためのセンサである。第2センサは、衣服を当該発汗人体模型装置に装着した場合に、模擬皮膚層と衣服との間に形成される空気層の温度および湿度(衣服内気候)を測定するためのセンサである。そのほか、例えば特許文献2に発汗マネキンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3633525号公報
【特許文献2】特開2019-215484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、センサを用いて衣服内空間における温度及び湿度を測定している。しかし、その測定値は、センサの位置の温度及び湿度であり、すなわち、ピンポイントの温度及び湿度である。そのため、その測定値は、各センサのローカルな要因に強く影響される可能性があり、適切な値とはいえないおそれがある。例えば、センサ付近の衣服の布地と皮膚とで形成される空間は、布地の柔らかさにより様々に変形し得るので、同じような空間を再現し難く、再現性の良い測定値を得難い可能性がある。したがって、衣服の性能を適切に評価するためには、適切な値を得ること、例えば、多数のセンサを衣服内空間に配置し、それら多数のセンサから得られる多数の測定値の平均値を求めること、等の工夫が必要である。しかし、もし仮に多数のセンサを用いて多数の測定値を得たとしても、空間の再現性が高くないため、測定値や平均値の再現性が高まるとは必ずしも言えない。それゆえ、衣服内空間における温度及び湿度の適切な値を得ることは容易ではない。特許文献2の発汗マネキンも同様である。
【0006】
本発明の目的は、衣服内空間における温度及び湿度の適切な値を推定することが可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明における衣服内空間の温湿度を推定する方法は、次のとおりである。(1)衣服内空間の温湿度を推定する方法であって、表面の温度、及び、前記表面に設けられた複数の発汗孔から吐出される水分の量を制御可能であり、前記表面を覆うように、親水性且つ速乾性の素材で形成された表面層が装着された発汗サーマルマネキンを人工気象室へ配置したときの、当該人工気象室の温度及び湿度と、前記表面の温度の制御に要した熱量である第1熱量、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分のうちの前記表面及び前記表面層に残留している水分の量である第1水分量と、を関連付けた基準データを取得する取得ステップと、人工気象室において、前記発汗サーマルマネキンに、評価対象の衣服を装着し、前記表面の温度、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分の量を制御しつつ、前記表面の温度の制御に要した熱量である第2熱量、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分のうちの前記表面及び前記表面層に残留している水分の量である第2水分量を測定する測定ステップと、測定された前記第2熱量及び前記第2水分量に基づいて、前記基準データの前記第1熱量及び前記第1水分量を参照して、前記発汗サーマルマネキンと前記評価対象の衣服とで形成される衣服内空間の温度及び湿度を推定する推定ステップと、を備える、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、衣服内空間における温度及び湿度の適切な値を推定することが可能な方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法に用いる機器の構成例を示す模式図である。
図2】発汗サーマルマネキンに表面層を装着した状態を示す模式図である
図3】実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法の例を示すフロー図である。
図4】実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法の取得ステップを説明する模式図である。
図5】取得ステップで取得される基準データの例を示すグラフである。
図6】実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法の測定ステップを説明する模式図である。
図7】表面層を装着した発汗サーマルマネキンに被覆層を更に装着した状態を示す模式図である。
図8】被覆層の細部の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態は、以下の態様に関する。
[態様1]
衣服内空間の温湿度を推定する方法であって、表面の温度、及び、前記表面に設けられた複数の発汗孔から吐出される水分の量を制御可能であり、前記表面を覆うように、親水性且つ速乾性の素材で形成された表面層が装着された発汗サーマルマネキンを人工気象室へ配置したときの、当該人工気象室の温度及び湿度と、前記表面の温度の制御に要した熱量である第1熱量、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分のうちの前記表面及び前記表面層に残留している水分の量である第1水分量と、を関連付けた基準データを取得する取得ステップと、人工気象室において、前記発汗サーマルマネキンに、評価対象の衣服を装着し、前記表面の温度、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分の量を制御しつつ、前記表面の温度の制御に要した熱量である第2熱量、及び、前記複数の発汗孔から吐出される水分のうちの前記表面及び前記表面層に残留している水分の量である第2水分量を測定する測定ステップと、測定された前記第2熱量及び前記第2水分量に基づいて、前記基準データの前記第1熱量及び前記第1水分量を参照して、前記発汗サーマルマネキンと前記評価対象の衣服とで形成される衣服内空間の温度及び湿度を推定する推定ステップと、を備える、方法。
【0011】
本方法では、衣服が装着されていない発汗サーマルマネキンを人工気象室へ配置したときの、人工気象室の温度及び湿度と、発汗サーマルマネキンの第1熱量及び第1水分量と、を関連付けた基準データを用いている。すなわち、発汗サーマルマネキンが配置された人工気象室内の空間を衣服内空間と仮定し、その空間内の温度及び湿度と第1熱量及び第1水分量との関係を、衣服内空間内の温度及び湿度と第1熱量及び第1水分量との関係と仮定した基準データを用いる。それにより、その基準データを参照することで、評価対象の衣服が装着された発汗サーマルマネキンについて測定された第2熱量及び第2水分量から、評価対象の衣服における衣服内空間の温度及び湿度、すなわち衣服気象を推定することができる。
このとき、衣服内空間と仮定された人工気象室は、通常の衣服内空間と比較して十分に広く、安定した形状を有している。そのため、その衣服内空間、すなわち人工気象室の温度及び湿度の測定のとき、測定箇所のローカルな要因、例えば、衣服の布地と皮膚とで形成される衣服内空間が狭く、変形し易いという要因を排除でき、それにより、測定値の再現性が高くない、という問題を解決できる。すなわち、基準データとして、衣服内空間における温度及び湿度の適切な値を得ることができる。そして、その基準データを参照することで、衣服内空間の温度及び湿度を多数のセンサで直接的に測定しなくても、第2熱量及び第2水分量に基づいて、衣服内空間における温度及び湿度の適切な値を推定することができる。
また、その際、発汗サーマルマネキンが親水性の表面層を装着している。そのため、発汗孔から放出された水分が、発汗孔の周囲に拡がるように表面層内を広く拡散することができる。加えて、その表面層が速乾性を有している。そのため、水分が表面層内に保持され難く、表面層の表面から蒸発し易くできる。これらにより、発汗サーマルマネキンからの発汗の状態を実際の人の発汗により近似することができる。したがって、適切な値に基づく基準データを得ることができ、衣服内空間における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。そして、温熱的に快適な衣服の開発を高効率化・高精度化することが出来る。
【0012】
[態様2]
前記取得ステップは、前記発汗サーマルマネキンが配置された前記人工気象室の温度及び湿度を、それぞれ所定温度及び所定湿度に調整するステップと、前記所定温度及び前記所定湿度に調整され前記人工気象室において、前記第1熱量及び前記第1水分量を計測するステップと、を含み、前記所定温度として、複数の温度が設定され、前記所定湿度として、複数の湿度が設定され、前記複数の温度の各々及び前記複数の湿度の各々において、前記第1熱量及び前記第1水分量が計測されて、前記基準データとして記憶される、態様1に記載の方法。
本方法では、基準データが、複数の温度の各々及び複数の湿度の各々の組み合わせにおいて、生成される。それにより、その基準データを参照することで、複数の温度及び複数の湿度をそれぞれ含む所定温度範囲及び所定湿度範囲において、衣服内空間における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0013】
[態様3]
前記取得ステップは、前記基準データにおいて、前記温度が一定のときの、前記複数の湿度における前記第1熱量と前記第1水分量との関係を示す関数を導出するステップを含み、前記推定ステップは、測定された前記第2熱量及び前記第2水分量に基づいて、前記基準データの前記関数を参照して、前記衣服内空間の温度及び湿度を推定するステップを含む、態様2に記載の方法。
本方法では、基準データにおいて、温度が一定のとき、複数の湿度における第1熱量と第1水分量との関係が所定の関数で表現されている。そのため、基準データにおいて、所定の温度における第1熱量及び第1水分量の値がない場合でも、その第1熱量及び第1水分量を所定の関数から求めることができる。それにより、基準データを参照することで、所定温度範囲及び所定湿度範囲において、衣服内空間における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0014】
[態様4]
前記取得ステップは、前記基準データにおいて、前記湿度が一定のときの、前記複数の温度における前記第1熱量と前記第1水分量との関係を示す関数を導出するステップを含み、前記推定ステップは、測定された前記第2熱量及び前記第2水分量に基づいて、前記基準データの前記関数を参照して、前記衣服内空間の温度及び湿度を推定するステップを含む、態様2に記載の方法。
本方法では、基準データにおいて、湿度が一定のとき、複数の温度における第1熱量と第1水分量との関係が所定の関数で表現されている。そのため、基準データにおいて、所定の湿度にける第1熱量及び第1水分量の値がない場合でも、その第1熱量及び第1水分量を所定の関数から求めることができる。それにより、基準データを参照することで、所定温度範囲及び所定湿度範囲において、衣服内空間における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0015】
[態様5]
前記取得ステップは、前記表面層が装着された前記発汗サーマルマネキンに、前記表面層を覆うように、疎水性のメッシュ素材で形成された被覆層を装着させるステップと、
前記表面層及び前記被覆層が装着された前記発汗サーマルマネキンを前記人工気象室へ配置したときの、前記基準データを取得するステップと、を含み、前記測定ステップは、前記被覆層が装着された前記発汗サーマルマネキンに、前記評価対象の衣服を装着して、前記第2熱量及び前記第2水分量を測定するステップを含む、態様1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
本方法では、表面層が装着された発汗サーマルマネキンに被覆層を装着してから、評価対象の衣服を装着して、基準データを取得し、第2熱量及び第2水分量を測定している。このように、表面層と衣服との間にメッシュ状の被覆層が装着されているため、被覆層がスペーサのように機能して、表面層と衣服との間の空間が再現性良く確保され易くなる。加えて、被覆層が疎水性を有するので、水分がメッシュを伝わり難くなる。それらにより、発汗孔の水分が表面層の表面から、水滴ではなく、水蒸気として放出され易くできる。すなわち、被覆層の装着により、より現実的な衣服内空間を生成でき、より現実的な衣服内気候を再現できる。それにより、基準データを参照することで、衣服内空間における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0016】
以下、本発明に係る発汗サーマルマネキンを用いて行われる衣服内空間の温湿度を推定する方法の実施形態について説明する。
【0017】
まず、本方法で用いる機器について説明する。図1は、実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法に用いる機器の構成例を示す模式図である。本方法では、人工気象室50と、発汗サーマルマネキン1とが用いられる。
【0018】
人工気象室50は、温度、湿度、気圧、日射、霧、雨、空気組成のような気象環境因子を所望の条件に制御可能な室である。本実施形態では、例えば、温度を一定にして湿度を変化させた場合、及び、湿度を一定にして温度を変化させた場合について試験を行う(気圧、日射、霧、雨、空気組成などは所定条件で一定とする)。その場合、人工気象室50として、恒温恒湿室を用いてもよい。
【0019】
本実施形態では、人工気象室50は、人工気象室本体31と、温度センサ32と、湿度センサ33と、環境調整装置(図示されず)と、制御装置40と、を備える。人工気象室本体31は、その内部の空間CR0において、所望の気象条件(例示:温度、湿度)が再現される。温度センサ32は、空間CR0の温度Tを計測するセンサである。湿度センサ33は、空間CR0の湿度Hを計測するセンサである。環境調整装置(図示されず)は、空間CR0の気象条件(例示:温度T、湿度H)を調整する機器である。制御装置40は、温度センサ32や湿度センサ33のようなセンサの計測値に基づいて、空間CR0の気象条件(例示:温度T、湿度H)が所望の値となるように、環境調整装置を制御する。制御装置40としてはコンピュータに例示される情報処理装置が挙げられる。
【0020】
発汗サーマルマネキン1(以下、単に「マネキン」ともいう。)は、表面の温度、及び、表面に設けられた複数の発汗孔11から吐出される水分の量を制御可能である。ただし、表面の温度は体温を模擬し、水分は汗を模擬している。本実施形態では、マネキン1は、そのままの状態で、又は、評価対象の衣服を装着されて、人工気象室50(の空間CR0)に配置される。
【0021】
本実施形態では、マネキン1は、マネキン本体10と、複数の発汗孔11と、ヒーター12(図示されず)と、制御装置20と、を備える。マネキン本体10は、人体形状の模型である。複数の発汗孔11は、マネキン本体10の表面に開口し、水分を吐出する。ヒーター12は、マネキン本体10の表面の内側に埋め込まれ、その表面を加熱する。制御装置20は、マネキン本体10における表面の温度Tx(ヒーター12に供給する電力q)、及び、表面に設けられた複数の発汗孔11から吐出される水分の量pを制御する。制御装置20としては、コンピュータに例示される情報処理装置が挙げられる。
【0022】
本実施形態では、制御装置20は、測定された表面の温度Txに基づいて、ヒーター12に供給する電力(単位時間当たり)qを制御することにより、表面の温度Txを、予め設定された温度に制御する。また、制御装置20は、ポンプのような給水装置(図示されず)を制御することにより、水分の量pを、予め設定された単位時間当たりの水分の量に制御する。マネキン1としては、例えば、特許文献1に記載の発汗人体模型装置や特許文献2の発汗マネキンが挙げられる。
【0023】
図2は、発汗サーマルマネキン1に表面層2を装着した状態を示す模式図である。表面層2は、親水性且つ速乾性の素材で形成されており、マネキン本体10の表面を覆うように装着される。表面層2が親水性を有することで、発汗孔11から吐出された水分を、表面層2内で、マネキン本体10の表面に沿って広く拡散でき、表面層2が速乾性を有することで、表面層2内でマネキン本体10の表面に沿って広く拡散された水分を素早く蒸散できる。したがって、表面層2は、マネキン本体10の表面における発汗孔11の無い部分からも水分を蒸散させることができるので、マネキン本体10の皮膚のように機能する人工皮膚又は模擬皮膚といえる。そして、マネキン本体10と表面層2により、現実の人体に近い発汗状態を再現でき、マネキン本体10を現実の人体に近いマネキンにできる。
【0024】
表面層2は、マネキン本体10の表面にフィットし易い下着やTシャツのような衣服の形態を有している。表面層2の素材としては、親水処理を施された合成繊維、例えば親水処理を施されたポリエステル繊維で構成された編物や織物等の布帛が挙げられる。素材は、水分の蒸散し易さの観点から、繊維自体に水分を保持するような保水性を有さないことが好ましい。素材の厚さは、例えば0.1~5mmが挙げられ、0.5~3mmが好ましい。厚さが薄過ぎると、水分が十分に広く拡散し難くなり、厚さが厚過ぎると、水分が素早く蒸散し難くなる。素材の坪量は、例えば、40~300g/mが挙げられ、80~150g/mが好ましい。坪量が小さ過ぎると、水分が十分に広く拡散し難くなり、坪量が大き過ぎると、水分が素早く蒸散し難くなる。本実施形態では、表面層2は、親水処理を施されたポリエステル繊維製の布帛で形成されたTシャツの形態を有している。
【0025】
なお、本実施形態では、衣服内空間の温湿度を推定する方法における評価対象の衣服は上半身に装着されるものであり、したがって、表面層2(図2)も同様に上半身に装着される。ただし、本発明は、それに限定されず、例えば、衣服内空間の温湿度を推定する方法おける評価対象の衣服は下半身又は上半身と下半身の両方に装着されるものでもよく、その場合、表面層2も同様に下半身又は上半身と下半身の両方に装着される。
【0026】
次に、衣服内空間の温湿度を推定する方法について説明する。図3は、実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法の例を示すフロー図である。衣服内空間の温湿度を推定する方法は、取得ステップS1と、測定ステップS2と、推定ステップS3と、を備えている。本実施形態では、取得ステップS1は、調整ステップS11と、計測ステップS12と、導出ステップS13と、を含んでいる。なお、本実施形態では、評価対象の衣服は上半身に装着されるものとする。以下、各ステップについて説明する。
【0027】
取得ステップS1は、表面層2が装着されたマネキン1を人工気象室50(の空間CR0)へ配置したときの、当該人工気象室50の温度T及び湿度Hと、マネキン本体10の表面の温度Tの制御に要した熱量である第1熱量Q0、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分のうちの表面及び表面層2に残留している水分の量である第1水分量R0と、を関連付けた基準データを取得する。
【0028】
本実施形態では、まず、表面の温度T、及び、表面に設けられた複数の発汗孔11から吐出される水分の量pが制御可能なマネキン1を準備して、人工気象室50(の空間CR0)に配置する(図1)。このとき、マネキン1には、表面を覆うように、親水性且つ速乾性の素材で形成された表面層2が予め装着されていている(図2)。本実施形態では、表面層2は、評価対象の衣服が覆うマネキン1の表面領域を含んだ、より広いマネキン1の表面領域を覆う。なお、表面層2は、マネキン1が準備された後に、マネキン1に装着されてもよい。このとき、マネキン1が配置された人工気象室50(の空間CR0)は、衣服内空間と仮定される。
【0029】
次に、発汗サーマルマネキンが配置された人工気象室50(の空間CR0)の温度T及び湿度Hを、それぞれ所定温度及び所定湿度に調整する(調整ステップS11)。したがって、マネキン1が配置された人工気象室50(の空間CR0)の温度T及び湿度H(所定温度及び所定湿度)は、衣服内空間の温度及び湿度と仮定している。
【0030】
そして、温度T及び湿度Hが所定温度及び所定湿度に調整され人工気象室50(の空間CR0)において、マネキン1における第1熱量Q0及び第1水分量R0を計測する(計測ステップS12)。具体的には、所定時間t0において、マネキン1における表面の温度TX0、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分の量(単位時間当たり)pを制御する。そのとき、所定時間t0内での、表面の温度TX0の制御に要した熱量である第1熱量Q0と、複数の発汗孔11から吐出される水分のうちの表面及び表面層2に残留している水分の量である第1水分量R0とを測定する。
【0031】
図4は、実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法の取得ステップS1(計測ステップS12)を説明する模式図である。この図は、計測ステップS12において、表面層2を装着され、人工気象室50の空間CR0に配置されたマネキン1の断面の一部を模式的に示している。
【0032】
本実施形態では、第1熱量Q0及び第1水分量R0を計測するとき、空間CR0に配置されたマネキン1において、表面の温度TX0を、予め設定された表面の温度(例示:33℃)に制御するべく、ヒーター12に供給する電力qを制御する。ただし、マネキン1の表面の温度TX0は、表面に配置された温度センサ5で測定される。この場合、表面の温度TX0は表面層2の温度ということもできる。また、マネキ1ンの発汗孔11から吐出される水分Wの量pを、予め設定された単位時間当たりの水分の量(例示:200g/mh)に制御する。
【0033】
水分Wは、発汗孔11から表面層2へ吐出され、表面層2内をマネキン本体10の表面に沿って発汗孔11の周囲に広く拡散する(水分W1)。そして、広く拡散された水分W1は、表面層2の表面から蒸発して、空間CR0へ到達する(水分W2)。すなわち、空間CR0に不感蒸泄の状態を形成できる。そのとき、空間CR0における温度T及び湿度Hは、温度センサ32及び湿度センサ33により計測されている。これらの温度T及び湿度H(所定温度及び所定湿度)は、衣服内空間の温度及び湿度とみなされる。
【0034】
予め設定された所定時間t0(例示:60分)が経過した後、表面の温度TX0を予め設定された温度に制御するのに要した第1熱量Q0、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分Wのうちの表面及び表面層2に残留している第1水分量R0を測定する。ただし、表面の温度TX0を予め設定された温度に制御するのに要した第1熱量Q0は、例えば、供給された電力q(単位時間当たり)と所定時間t0とから計算される(例示:qのt0での積分)。表面及び表面層2に残留している第1水分量R0は、例えば、所定時間t0経過後に、マネキン1内に残留している水分量から得られる。
【0035】
上記の調整ステップS11及び計測ステップS12において、所定温度として、複数の温度Tが設定され、所定湿度として、複数の湿度Hが設定され、複数の温度Tの各々及び複数の湿度Hの各々において、第1熱量Q0及び第1水分量R0が計測される。そして、複数の温度Tの各々と、複数の湿度Hの各々と、第1熱量Q0と、第1水分量R0との組み合わせにより、基準データが生成される。したがって、基準データは、温度Tと、湿度Hと、第1熱量と、第1水分量と、を関連付けている。そして、基準データを参照すると、第1熱量Q0及び第1水分量R0の値から、衣服内空間の温度及び湿度を求めることができる。ただし、複数の温度Tは、例えば、10~50℃の温度範囲における2℃間隔の温度が挙げられ、複数の湿度Hは、例えば、10~95%RHの湿度範囲における5%RH間隔の湿度が挙げられる。基準データは、コンピュータのような情報処理装置の記憶装置又はデータベースに記憶される。
【0036】
計測ステップS12では、表面の温度TX0、水分の量p、所定時間(評価時間)t0を様々に変更して計測したものを、基準データとして含んでいてもよい。したがって、基準データは、バリエーションとして、所定の表面の温度TX0、水分の量p、及び所定時間t0における温度T及び湿度Hのほかに、様々な表面の温度TX0、水分の量p、及び所定時間t0における温度T及び湿度Hを有していてもよい。
【0037】
図5は、取得ステップS1で取得される基準データの例を示すグラフである。このグラフは、温度TR1及びTR2の各々にて、湿度Hを変化させて第1熱量Q0及び第1水分量R0を取得して基準データとしたものをグラフ化したものである。縦軸は、第1水分量R0であり、単位は例えばg(グラム)である。横軸は、第1熱量Q0であり、単位は例えばKJ(キロジュール)である。丸印は、温度TR1において、湿度Hを変化させたときの第1熱量Q0及び第1水分量R0の値を示す。三角印は、温度TR2(<TR1)において、湿度Hを変化させたときの第1熱量Q0及び第1水分量R0の値を示す。
【0038】
本実施形態では、取得ステップS1は、計測ステップS12の後、基準データにおいて、温度(所定温度)Tが一定のときの、複数の湿度(所定湿度)Hにおける第1熱量Q0と第1水分量R0との関係を示す関数を導出するステップ(導出ステップS13)を実行する。関数は、得られた値に基づいて回帰的に求められる。本実施形態では、温度TR1の関数は、複数の湿度Hにおける複数の第1熱量Q0及び第1水分量R0の値に基づいて、最小二乗法により求めている。同様に、温度TR2の関数は、複数の湿度Hにおける複数の第1熱量Q0及び第1水分量R0の値に基づいて、最小二乗法により求めている。基準データとして、これらの関数を含んでもよい。
【0039】
グラフに示すように、所定温度が一定の場合(例示:TR1)、所定湿度が高い程、水分が蒸散し難くなるので、表面及び表面層2に残留している第1水分量R0は多くなる。それに伴い、表面及び表面層2から失われる熱量も少なくなるので、表面の温度Tを予め設定された温度(例示:TX0)に制御するのに要した第1熱量Q0は少なくなる。逆に、所定湿度が低い程、第1水分量R0は少なくなり、第1熱量Q0は多くなる。よって、例えば、所定温度がTR1の関数では、左上の直線部分は所定湿度が高い範囲であり、右下の直線部分は所定湿度が低い範囲である。所定温度がTR2の関数も同様である。
【0040】
なお、取得ステップS1は、計測ステップS12の後、基準データにおいて、湿度(所定湿度)Hが一定のときの、複数の温度(所定温度)Tにおける第1熱量Q0と第1水分量R0との関係を示す関数を導出するステップ(導出ステップS13)を実行してもよい。例えば、所定湿度の関数は、複数の所定温度における複数の第1熱量Q0及び第1水分量R0の値に基づいて、最小二乗法により求めることができる。
【0041】
次に、測定ステップS2は、人工気象室50(の空間CR0)において、マネキン1に、評価対象の衣服を装着し、マネキン本体10の表面の温度、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分の量を制御しつつ、マネキン本体10の表面の温度の制御に要した熱量である第2熱量Q1、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分のうちの表面及び表面層2に残留している水分の量である第2水分量R1を測定する。
【0042】
本実施形態では、人工気象室50(の空間CR0)の温度T及び湿度Hは、評価対象の衣服で評価したい環境に応じて適宜設定される。そして、評価対象の衣服を装着されたマネキン本体10の表面の温度TX1、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分の量(単位時間当たり)pを制御する。そのとき、所定時間t1内で、表面の温度TX1の制御に要した熱量である第2熱量Q1、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分のうちの表面及び表面層2に残留している水分の量である第2水分量R1を測定する。
【0043】
ただし、測定ステップS2での表面の温度TX1、水分の量p、所定時間(評価時間)t1は、計測ステップS12で取得された基準データに含まれる表面の温度TX0、水分の量p、所定時間(評価時間)t0と同じとする。
【0044】
図6は、実施形態に係る衣服内空間の温湿度を推定する方法の測定ステップS2を説明する模式図である。この図は、測定ステップS2において、表面層2及び衣服4をその順番で装着され、人工気象室50の空間CR0に配置されたマネキン1の断面の一部を模式的に示している。
【0045】
本実施形態では、第2熱量Q1及び第2水分量R1を計測するとき、空間CR0に配置され、評価対象の衣服4を着用したマネキン1において、表面の温度TX1を、予め設定された表面の温度(例示:33℃)に制御するべく、ヒーター12に供給する電力qを制御する。ただし、マネキン1の表面の温度TX1は、表面に配置された温度センサ5で測定される。この場合、表面の温度TX1は表面層2の温度ということもできる。また、評価対象の衣服4を着用したマネキ1ンの発汗孔11から吐出される水分Wxの量pを、予め設定された単位時間当たりの水分の量(例示:200g/mh)に制御する。
【0046】
水分Wは、発汗孔11から表面層2へ吐出され、表面層2内をマネキン本体10の表面に沿って発汗孔11の周囲に広く拡散する(水分W1)。そして、広く拡散された水分W1は、表面層2の表面から蒸発して、表面層2と評価対象の衣服4との間の衣服内空間CR1へ到達する(水分W2)。すなわち、衣服内空間CR1に不感蒸泄の状態を形成できる。そのときの衣服内空間CR1における温度及び湿度については後述される。
【0047】
予め設定された所定時間t1(例示:60分)が経過した後、表面の温度TX1を所定の温度に制御するのに要した第2熱量Q1、及び、複数の発汗孔11から吐出される水分Wxのうちの表面及び表面層2に残留している第2水分量R1を測定する。ただし、表面の温度TX1を所定の温度に制御するのに要した第2熱量Q1は、例えば、供給された電力q(単位時間当たり)と所定時間t1とから計算される(例示:qのt1での積分)。表面及び表面層2に残留している第2水分量R1は、例えば、所定時間t1経過後に、マネキン1内に残留している水分量から得られる。
【0048】
次に、推定ステップS3は、測定された第2熱量Q1及び第2水分量R1に基づいて、基準データの第1熱量Q0及び第1水分量R0を参照して、マネキン1と評価対象の衣服4とで形成される衣服内空間CR1の温度及び湿度を推定する。すなわち、測定された第2熱量Q1及び第2水分量R1と同一の値を有する第1熱量Q0及び第1水分量R0を基準データから抽出し、そのときの温度(所定温度)T及び湿度(所定湿度)Hを、衣服内空間CR1の温度及び湿度であると推定する。
【0049】
なお、基準データに、第2熱量Q1及び第2水分量R1と同一の値を有する第1熱量Q0及び第1水分量R0がない場合には、例えば、第2熱量Q1及び第2水分量R1に基づいて、上述された関数を参照して、衣服内空間CR1の温度及び湿度を推定してもよい。あるいは、第2熱量Q1及び第2水分量R1に基づいて、基準データを利用した補間法や内挿法により、衣服内空間CR1の温度及び湿度を推定してもよい。
【0050】
以上のようにして、衣服内空間の温湿度を推定する方法が実行される。そして、推定された衣服内空間CR1の温度及び湿度により、評価対象の衣服の温熱機能を評価できる。
【0051】
本方法では、衣服が装着されていないマネキン1を人工気象室50へ配置したときの、人工気象室50の温度T及び湿度Hと、マネキン1の第1熱量Q0及び第1水分量R0と、を関連付けた基準データを用いている。すなわち、本方法では、マネキン1が配置された人工気象室50内の空間CR0を衣服内空間と仮定し、空間CR0の温度T及び湿度Hと第1熱量Q0及び第1水分量R0との関係を、衣服内空間内の温度及び湿度と第1熱量及び第1水分量との関係と仮定する。それにより、その基準データを参照することで、評価対象の衣服4が装着されたマネキン1について測定された第2熱量Q1及び第2水分量R1から、評価対象の衣服4における衣服内空間CR1の温度及び湿度を推定することができる。
このとき、衣服内空間と仮定された人工気象室50(の空間CR0)は、通常の衣服内空間と比較して十分に広く、安定した形状を有している。そのため、その衣服内空間(人工気象室50の空間CR0)の温度T及び湿度Hの測定のとき、測定箇所のローカルな要因、例えば、衣服の布地と皮膚とで形成される衣服内空間が狭く、変形し易く、安定しないという要因を排除できる。それにより、衣服内空間における温度や湿度の測定値の再現性が高くない、という問題を解決できる。すなわち、基準データとして、衣服内空間における温度及び湿度の適切な値を得ることができる。そして、その基準データを参照することで、衣服内空間CR1の温度及び湿度を、多数のセンサで直接的に測定しなくても、第2熱量Q1及び第2水分量R1に基づいて、衣服内空間CR1における温度及び湿度の適切な値を推定することができる。
【0052】
その際、マネキン1が親水性の表面層2を装着している。そのため、発汗孔11から放出された水分が、発汗孔11の周囲に拡がるように表面層2内を広く拡散できる。加えて、その表面層2が速乾性を有している。そのため、水分が表面層2内に保持され難く、表面層2の表面から蒸発し易くできる。これらにより、マネキン1からの発汗の状態を実際の人の発汗により近似することができる。したがって、適切な値に基づく基準データを得ることができ、衣服内空間における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。そして、温熱的に快適な衣服の開発を高効率化・高精度化することが出来る。
【0053】
本実施形態の好ましい態様として、本方法では、基準データが、複数の温度Tの各々及び複数の湿度Hの各々の組み合わせにおいて、生成される。それにより、その基準データを参照することで、複数の温度T及び複数の湿度Hをそれぞれ含む所定温度範囲及び所定湿度範囲において、衣服内空間CR1における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0054】
本実施形態の好ましい態様として、本方法では、基準データにおいて、温度Tが一定のとき、複数の湿度Hにおける第1熱量Q0と第1水分量R0との関係が所定の関数で表現されている(図5)。そのため、基準データにおいて、所定の温度Tにおける第1熱量Q0及び第1水分量R0の値がない場合でも、その第1熱量Q0及び第1水分量R0を所定の関数から求めることができる。それにより、基準データを参照することで、所定温度範囲及び所定湿度範囲において、衣服内空間CR1における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0055】
本実施形態の好ましい態様として、本方法では、基準データにおいて、湿度Hが一定のとき、複数の温度Tにおける第1熱量Q0と第1水分量R0との関係が所定の関数で表現されている。そのため、基準データにおいて、所定の湿度Hにける第1熱量Q0及び第1水分量R0の値がない場合でも、その第1熱量Q0及び第1水分量R0を所定の関数から求めることができる。それにより、基準データを参照することで、所定温度範囲及び所定湿度範囲において、衣服内空間CR1における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0056】
本発明の別の実施形態として、取得ステップS1は、表面層2が装着されたマネキン1に、表面層2を覆うように、疎水性のメッシュ素材で形成された被覆層3を装着させるステップと、表面層2及び被覆層3が装着されたマネキン1を人工気象室50(空間CR0)へ配置したときの、基準データを取得するステップと、を含んでもよい。そして、測定ステップS2は、測定ステップS2は、被覆層3が装着されたマネキン1に、評価対象の衣服4を装着し、第2熱量Q1及び第2水分量R1を測定するステップを含んでもよい。なお、基準データの取得方法及び第2熱量Q1及び第2水分量R1の測定方法は被覆層3が装着されないマネキン1を用いる場合と同様である。
【0057】
図7は、表面層2を装着した発汗サーマルマネキンに被覆層3を更に装着した状態を示す模式図である。本実施形態では、被覆層3は、評価対象の衣服が覆うマネキン1の表面領域を含んだ、より広いマネキン1の表面領域を覆い、かつ、表面層2が覆うマネキン1の表面領域と同じかより狭いマネキン1の表面領域を覆う。
【0058】
被覆層3は、疎水性のメッシュ素材で形成されており、表面層2が装着されたマネキン1に、表面層2を覆うように装着される。被覆層3がメッシュ素材であることで、表面層2の表面と評価対象の衣服との接触を抑制しつつ蒸散し得る領域を確保でき、被覆層3が疎水性を有することで、表面層2の水分を被覆層3に保持することなく蒸散させることができる。したがって、被覆層3は、表面層2の上に表面層2の水分をより蒸散させやすい空間を形成することで、より現実の人体に近い発汗状態を再現でき、現実の人体に近いマネキン(マネキン本体10+表面層2)を、より現実の人体に近いマネキンにすることができる。なお、被覆層3は、マネキン1における表面層2で覆われている部分を覆うが、表面層2で覆われていない部分を覆わなくてよい。
【0059】
被覆層3は、表面層2が装着されたマネキン本体10の表面にフィットし易い下着やTシャツのような衣服の形態を有している。被覆層3の素材としては、合成繊維、例えばポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、EVA(Ethylene-vinyl acetate)繊維、ナイロン繊維、フッ素樹脂繊維などで構成された編物や織物等の布帛やプラスチックネットが挙げられる。メッシュ素材は、水分の蒸散し易さの観点から、繊維自体に水分を保持するような保水性を有さないことが好ましい。メッシュ素材の厚さは、例えば0.1~5mmが挙げられ、0.5~3mmが好ましい。厚さが薄過ぎると、表面層2の表面と評価対象の衣服との接触が容易になり、厚さが厚過ぎると、表面層2の表面と評価対象の衣服とで形成される空間が、実際に形成される衣服と皮膚とで形成される空間よりも広くなり過ぎる。メッシュ素材の坪量は、例えば、10~300g/mが挙げられ、80~150g/mが好ましい。坪量が小さ過ぎると、表面層2の表面と評価対象の衣服との接触が容易となり、坪量が大き過ぎると、水分が素早く蒸散し難くなる。本実施形態では、被覆層3は、疎水性のポリプロピレン繊維製のメッシュ素材で形成されたTシャツの形態を有している。
【0060】
図8は、実施形態に係る被覆層の細部の構成例を示す模式図である。ただし、図8(a)は被覆層3の一部を平坦な面に載置して上方から見た図、すなわち平面視での図である。図8(b)~図8(d)は図8(a)のIVb-IVb線に沿った種々の構成例の断面図である。被覆層3のメッシュ素材は、素材そのものが存在する素材部分3Uと、平面視で、素材部分3Uに囲まれたメッシュの開口部分3Vと、を含んでいる。メッシュの開口部分3Vの大きさ(目開き)は、開口部分3Vの形状を、一辺がDの正方形とすると、例えばD=0.1~10mmが挙げられ、D=1~5mmが好ましい。面積でいえば、例えばD=0.01~100mmが挙げられ、D=1~25mmが好ましい。開口部分3Vが小さ過ぎると、表面層2の表面と評価対象の衣服との間に形成される空間の容積が小さくなり過ぎ、表面層2から水分が蒸発し難くなり、開口部分3Vが大き過ぎると、表面層2の表面と評価対象の衣服との接触が容易となる。なお、開口部分3Vの形状が正方形でない場合、その開口部分3Vの面積と同一の面積を有する正方形と見なして開口部分の大きさを判断する。開口部分3Vの形状は、矩形(正方形を含む)、菱形、矩形や菱形の一部又は全部の角が丸まった形、円形、楕円形などが挙げられる。被覆層3のメッシュ素材の厚さKは、メッシュ素材がフラットな場合には図8(b)のように、被覆層3が段差を有する場合には図8(c)や図8(d)のように測定される。
【0061】
被覆層3のメッシュ素材のメッシュの開口率(%)は、開口部分3Vの形状を正方形とし、その一辺(目開き)をDとし、素材部分3Uの線幅(線径)をdとすると、以下の式(A)で表される。
開口率(%)=(D/(D+d))×100 … (A)
すなわち、開口率(%)は、被覆層3における平面視での開口部分3Vの面積率である。このとき、開口率は、例えば25~80%が挙げられ、35~60%が好ましい。メッシュの開口率、すなわち開口部分3Vが小さ過ぎると、表面層2の表面と評価対象の衣服との間に形成される空間の容積が小さくなり過ぎ、表面層2から水分が蒸発し難くなり、大き過ぎると、表面層2の表面と評価対象の衣服とが接触し易くなる。なお、開口部分の形状が正方形でない場合、その開口部分の面積と同一の面積を有する正方形と見なしてメッシュの開口率を判断する。本実施形態では、被覆層3におけるメッシュ素材の厚さKやメッシュの開口部分3Vの大きさや開口率は被覆層3全体としては概ね均一である。
【0062】
なお、本実施形態では、衣服内空間の温湿度を推定する方法における評価対象の衣服は上半身に装着されるものであり、したがって、表面層2(図2)及び被覆層3(図7)も同様に上半身に装着される。ただし、本発明は、それに限定されず、例えば、衣服の温熱機能を評価する方法おける評価対象の衣服は下半身又は上半身と下半身の両方に装着されるものでもよく、その場合、表面層2及び被覆層3も同様に下半身又は上半身と下半身の両方に装着される。
【0063】
本実施形態の方法では、表面層2が装着されたマネキン1に被覆層3を装着してから、基準データを取得し、評価対象の衣服4を装着して、第2熱量Q1及び第2水分量R1を測定している。このように、表面層2と衣服との間にメッシュ状の被覆層3が装着されているため、被覆層3がスペーサのように機能して、表面層2と衣服4との間の衣服内空間CR1が再現性良く確保され易くなる。加えて、被覆層3が疎水性を有するので、水分がメッシュを伝わり難くなる。それらにより、発汗孔11の水分が表面層2の表面から、水滴ではなく、水蒸気として放出され易くできる。すなわち、被覆層3の装着により、より現実的な衣服内空間CR1を生成できる。それにより、基準データを参照することで、衣服内空間CR1における温度及び湿度のより適切な値を推定することができる。
【0064】
本実施形態では、上記されているように、被覆層3のメッシュ素材のメッシュの開口部分3Vの大きさは、0.1~10mmであってもよい。そのため、各メッシュの内側(開口部分3V)において、表面層2と衣服4とが離間した状態をより維持し易く、よって、表面層2と衣服4との間に衣服内空間CR1をより確保できる。それゆえ、表面層2から放出されようとしている水分を、衣服4により接触し難くすることができ、その水分を、表面層2の表面から、水滴ではなく、より水蒸気として放出させ易くすることができる。0.1mm未満では、表面層2と衣服4との間に形成される衣服内空間CR1の容積が少なくなり過ぎて、表面層2から水分が蒸発し難くなり、表面層2に水滴が生じ易くなる。10mm超では、表面層2と衣服4とが接触し易くなり、表面層2から放出されつつある水分が、水滴の状態で衣服に付着し易くなる。
【0065】
本実施形態では、上記されているように、被覆層3のメッシュ素材の厚さKは、0.1~5mmであってもよい。そのため、各メッシュの内側(開口部分3V)において、表面層2と衣服4とが離間した状態をより維持し易く、よって、表面層2と衣服4との間に衣服内空間CR1をより確保できる。それゆえ、表面層2から放出されようとしている水分を、衣服4により接触し難くでき、その水分を、表面層2の表面から、水滴ではなく、より水蒸気として放出させ易くすることができる。0.1mm未満では、表面層2と衣服4とが接触し易くなり、表面層2から放出されつつある水分が、水滴の状態で衣服に付着し易くなる。5mm超では、表面層2と衣服4との間に形成される衣服内空間CR1の容積が大きくなり過ぎ、実際に形成される衣服4と皮膚との間の空間との相違が大きくなる。
【0066】
本発明の衣服内空間の温湿度を推定する方法は、上述した実施形態に制限されることなく、本発明の趣旨の範囲を逸脱しない限り、適宜他の構成を付加することや一部の構成を削除することや一部の構成を他の構成に置換すること等が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 発汗サーマルマネキン
2 表面層
4 衣服
11 発汗孔
S1 取得ステップ
S2 測定ステップ
S3 推定ステップ
50 人工気象室
Q0 第1熱量
R0 第1水分量
Q1 第2熱量
R1 第2水分量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8