(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110339
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/02 20060101AFI20220722BHJP
C07C 323/54 20060101ALI20220722BHJP
C07C 381/02 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C07C319/02 CSP
C07C323/54
C07C381/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005672
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000180586
【氏名又は名称】株式会社ケミクレア
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米島 楓花
(72)【発明者】
【氏名】角田 敏政
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴昌
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC63
4H006BB11
4H006BB14
4H006BC14
4H006BE01
4H006TA04
(57)【要約】
【課題】医薬品や種々の樹脂組成物の製造原料として有用なα-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法の新たな製造法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rは炭化水素基を示し、MはNa、K、Li、1/2Ca、1/2Mg、1/2Ba、1/3Al又はNH
4を示す)
で表されるブンテ塩を加水分解することを特徴とする、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rは炭化水素基を示し、MはNa、K、Li、1/2Ca、1/2Mg、1/2Ba、1/3Al又はNH
4を示す)
で表されるブンテ塩を加水分解することを特徴とする、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法。
【請求項2】
Rがアルキル基である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
MがNaである請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
α-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステルにチオ硫酸塩を反応させ、次いで加水分解することを特徴とする、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法。
【請求項5】
下記一般式(2)
【化2】
(式中、Rは炭化水素基を示し、MはNa、K、Li、1/2Ca、1/2Mg、1/2Ba、1/3Al又はNH
4を示す)
で表されるブンテ塩。
【請求項6】
Rがアルキル基である請求項5記載のブンテ塩。
【請求項7】
MがNaである請求項5又は6記載のブンテ塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-(メルカプトメチル)アクリル酸誘導体は、医薬品として有用なα-(メルカプトメチル)アクリル酸プロリルアミドの製造中間体として知られている(特許文献1)。そしてまた、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの一部は、感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物や放射線硬化型インクジェット記録用インクの原料としても知られている(特許文献2、3)。
【0003】
そして、α-(メルカプトメチル)アクリル酸誘導体の製造法としては、特許文献1にβ,β´-ジハロゲノイソブチル酸を塩基で処理してα-(ハロゲノメチル)アクリル酸とした後、塩基の存在下に硫化水素を反応させて得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-46961号公報
【特許文献2】国際公開第2020/129683号
【特許文献3】特開2007-177057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1には、β,β´-ジハロゲノイソブチル酸を塩基で処理してα-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステルとした後、塩基の存在下に硫化水素を反応させた実施例は記載されていない。参考例として、α-(ブロムメチル)アクリル酸にチオ酢酸カリウムを反応させてα-(アセチルチオ)アクリル酸を得たこと、β,β´-ジブロムイソブチル酸に無水炭酸カリウムを反応させた後、無水炭酸カリウムの存在下にチオ安息香酸カリウムを反応させてα-(ベンゾイルチオメチル)アクリル酸を得たことが記載されているのみである。
従って、本発明の課題は、医薬品や種々の樹脂組成物の製造原料として有用なα-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法の新たな製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、アクリル酸のα位にアセチルチオメチル等のアシルチオメチル基でなく、メルカプトメチル基を有するα-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルを直接製造する方法をについて種々検討した結果、原料として容易に入手可能なα-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステルを用い、チオ硫酸塩を反応させるとブンテ塩が得られ、得られたブンテ塩を加水分解すれば、高収率でα-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は次の発明[1]~[7]を提供するものである。
[1]下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rは炭化水素基を示し、MはNa、K、Li、1/2Ca、1/2Mg、1/2Ba、1/3Al又はNH
4を示す)
で表されるブンテ塩を加水分解することを特徴とする、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法。
[2]Rがアルキル基である[1]記載の製造法。
[3]MがNaである[1]又は[2]記載の製造法。
[4]α-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステルにチオ硫酸塩を反応させ、次いで加水分解することを特徴とする、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法。
[5]下記一般式(2)
【0008】
【0009】
(式中、Rは炭化水素基を示し、MはNa、K、Li、1/2Ca、1/2Mg、1/2Ba、1/3Al又はNH4を示す)
で表されるブンテ塩。
[6]Rがアルキル基である[5]記載のブンテ塩。
[7]MがNaである[5]又は[6]記載のブンテ塩。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、医薬品や種々の樹脂組成物の製造原料として有用なα-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルが高収率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のα-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法を、出発原料であるα-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステルから反応式で示せば、次のとおりである。
【0012】
【0013】
(式中、Rは炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、MはNa、K、Li、1/2Ca、1/2Mg、1/2Ba、1/3Al又はNH4を示す)
【0014】
上記反応式中、一般式(2)で表されるブンテ塩は、新規化合物であり、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造中間体として有用である。
本発明は、前記下記一般式(2)で表されるブンテ塩を加水分解することを特徴とする、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法である。
また、本発明は、α-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステルにチオ硫酸塩を反応させ、次いで加水分解することを特徴とする、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルの製造法である。
【0015】
式中、Rは炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~6の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基などがさらに好ましい。
【0016】
Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、反応性の点から、塩素原子、臭素原子が好ましく、臭素原子がより好ましい。
【0017】
Mとしては、Na、K、Li、1/2Ca、1/2Mg、1/2Ba、1/3Al又はNH4が挙げられるが、Naが好ましい。
【0018】
原料であるα-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステル(1)は、例えば特許文献1に記載のようにβ,β´-ジブロムイソブチル酸に無水炭酸カリウムなどの塩基を反応させる方法により容易に製造できる。
原料の具体例としては、α-(ブロモメチル)アクリル酸アルキルエステル、α-(クロロメチル)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、α-(ブロモメチル)アクリル酸C1-6アルキルエステル、α-(クロロメチル)アクリル酸C1-6アルキルエステルがより好ましい。
【0019】
最初の反応に用いられるチオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸リチウム、チオ硫酸カルシウム、チオ硫酸マグネシウム、チオ硫酸バリウム、チオ硫酸アルミニウムなどのチオ硫酸金属塩またはチオ硫酸アンモニウムが挙げられ、経済性の観点から特にチオ硫酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
α-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステル(1)とチオ硫酸塩との反応は、溶媒中、α-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステルに1~1.5当量のチオ硫酸塩を反応させることにより実施できる。
反応溶媒としては、水を用いれば良いが、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒;エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒を混合して用いても良い。
【0021】
チオ硫酸塩の使用量は、α-(ハロゲノメチル)アクリル酸エステル1当量当たり1~1.5当量が好ましく、さらに1~1.2当量がより好ましい。
反応温度は特に限定されないが、省エネルギーの点から、5~50℃が好ましく、5~35℃がより好ましい。また反応時間も特に限定されないが相当するブンテ塩が生成されるまで反応を実施すればよく、生産効率および省エネルギーの観点から10時間以内がより好ましい。
【0022】
この反応により、一般式(2)で表されるブンテ塩が得られる。得られるブンテ塩(2)は、新規化合物である。
このブンテ塩(2)は、単離してもよいが、単離せずに次の反応を行ってもよい。
【0023】
次いで、ブンテ塩(2)を加水分解すれば、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステル(3)が得られる。
この加水分解反応は、水溶媒中で行うことも可能であるが、アルキルエステルを加水分解しない条件が好ましく、例えば、水-アルコールを任意の割合で混合した溶媒中で反応を行う、または無水アルコール溶媒中で反応を行うことが好ましい。
ブンテ塩(2)を加水分解させる酸の種類は特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、スルホン酸及びp-トルエンスルホン酸から選ばれる酸触媒又はカチオン性のイオン交換樹脂などを用いることができ、また、塩化水素ガス等をアルコールをはじめとする溶媒に溶解して用いても良い。反応温度および反応時間は特に限定されないが、前述のアルキルエステルの加水分解を抑制するために0℃~100℃、5分~30時間反応を行うのが好ましい。
【0024】
反応終了後は、特に限定はされないが任意の有機溶媒による目的物の抽出、減圧濃縮またはカラムクロマトグラフィ等の手段により、α-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルを単離、精製することができる。
【0025】
本発明方法によれば、医薬品や種々の樹脂組成物の製造原料として有用なα-(メルカプトメチル)アクリル酸エステルが高収率で製造できる。
【実施例0026】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例1(ブンテ塩(2)-1の合成)
【0028】
【0029】
150mlの四つ口フラスコに水54g、チオ硫酸ナトリウム5水和物12.9g(チオ硫酸ナトリウムとして52ミリモル相当)、α-(ブロモメチル)アクリル酸メチル9.3g(52ミリモル)を入れ、室温下、1時間撹拌した。反応液にトルエン40gを入れ、撹拌後に水層(下層)を分取した。水層の溶媒を留去した後、残渣をメタノールで洗浄してブンテ塩(2)-1を10g得た(収率:82%)。
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ6.15(s,1H,CH2=C),5.76(s,1H,CH2=C),3.69(s,3H,CH3),3.51(s,2H,CH2);13C NMR(100MHz,DMSO-d6)δ165.6,135.1,128.4,52.07,38.21;IR(KBr):ν~=1708,1231,1194,1141,1034cm?1;HRMS-ESI:calcd for C5H7O5S2[M-Na]-:210.9735.Found:210.9731.
【0030】
実施例2(ブンテ塩(2)-2の合成)
【0031】
【0032】
150mlの四つ口フラスコに水54g、チオ硫酸ナトリウム5水和物12.9g(チオ硫酸ナトリウムとして52ミリモル相当)、α-(ブロモメチル)アクリル酸エチル10g(52ミリモル)を入れ、室温下、1時間撹拌した。反応液にトルエン40gを入れ、撹拌後に水層(下層)を分取した。水層の溶媒を留去した後、残渣をメタノールで洗浄してブンテ塩(2)-2を12g得た(収率:93%)。
1H NMR(400MHz,CD3OD)δ6.26(d,J=0.8Hz,1 H,CH2=C),5.96(d,J=0.8Hz,1H,CH2=C),4.22(q,J=7.2Hz,2H,CH2-CH3),3.94(s,2H,CH2-S),1.30(t,J=7.2Hz,3H,CH3);13C NMR(100MHz,CD3OD)δ167.5,138.2,128.3,62.11,36.38,14.41;IR(KBr):ν~=1717,1200,1045cm?1;HRMS-ESI:calcd for C6H9O5S2[M-Na]-:224.9891.Found:224.9898.
【0033】
実施例3(ブンテ塩(2)-3の合成)
【0034】
【0035】
150mlの四つ口フラスコに水54g、チオ硫酸ナトリウム5水和物12.9g(チオ硫酸ナトリウムとして52ミリモル相当)、α-(ブロモメチル)アクリル酸イソプロピル10.8g(52ミリモル)を入れ、室温下、1時間撹拌した。反応液にトルエン40gを入れ、撹拌後に水層(下層)を分取した。水層の溶媒を留去した後、残渣をメタノールで洗浄してブンテ塩(2)-3を11.5g得た(収率:84%)。
1H NMR(400MHz,CD3OD)δ6.92(d,J=1.2Hz,1 H,CH2=C),6.54(d,J=1.2Hz,1H,CH2=C),5.76(sep,J=6.2Hz,1H,CH),4.31(s,2H,CH2),2.02(d,J=6.2Hz,6H,CH3);13C NMR(100MHz,CD3OD)δ174.1,145.3,137.2,77.68,48.05,31.02(2C);IR(KBr):ν~=1715,1234,1219,1191,1048,1032cm?1;HRMS-ESI:calcd for C7H11O5S2[M-Na]-:239.0048.Found:239.0052.
【0036】
実施例4(ブンテ塩(2)-2の合成)
【0037】
【0038】
150mlの四つ口フラスコに水54g、チオ硫酸ナトリウム5水和物12.9g(チオ硫酸ナトリウムとして52ミリモル相当)、α-(クロロメチル)アクリル酸エチル7.7g(52ミリモル)を入れ、室温下、1時間撹拌した。反応液にトルエン40gを入れ、撹拌後に水層(下層)を分取した。水層の溶媒を留去した後、残渣をメタノールで洗浄してブンテ塩(2)-2を11.7g得た(収率:91%)。ブンテ塩(2)-2の物性データは実施例2と同様であった。
【0039】
実施例5(α-(メルカプトメチル)アクリル酸エチルの合成)
【0040】
【0041】
300mlの三つ口フラスコにブンテ塩(2)-2を15g(60ミリモル)、3%塩化水素-エタノール溶液90gを入れ、65℃で6時間撹拌した。反応液にトルエン100gを入れた後、エタノールを留去してから水50gを加えて、撹拌後に有機層(上層)を分取した。分取した有機層を水で洗浄後、減圧により溶媒を留去してα-(メルカプトメチル)アクリル酸エチル6.2gを得た(収率:70%)。
【0042】
実施例6(α-(メルカプトメチル)アクリル酸エチルの合成)
【0043】
【0044】
150mlの四つ口フラスコに水54g、チオ硫酸ナトリウム5水和物14.2g(チオ硫酸ナトリウムとして57ミリモル相当)、α-(ブロモメチル)アクリル酸エチル10g(52ミリモル)を入れ、室温下、1時間撹拌した。反応液にトルエン50gを入れ、次いで濃塩酸5.7gを滴下し、85℃で6時間撹拌した。反応後に有機層(上層)を分取した。分取した有機層を水で洗浄後、減圧により溶媒を留去してα-(メルカプトメチル)アクリル酸エチル3.4gを得た(収率:45%)。