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  • 特開-自律神経活動の抑制剤 図1
  • 特開-自律神経活動の抑制剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110349
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】自律神経活動の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20220722BHJP
   A61K 36/38 20060101ALI20220722BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220722BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220722BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220722BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20220722BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220722BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220722BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/38
A61P25/02 105
A61P25/02 107
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/02
A61K9/70 401
A61K9/72
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005685
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】593012228
【氏名又は名称】株式会社希松
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】小松 千紘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉純
(72)【発明者】
【氏名】小松 令以子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA14
4C076AA72
4C076AA93
4C076BB31
4C076CC01
4C076EE53A
4C076FF11
4C076FF68
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083CC02
4C083CC06
4C083DD30
4C083EE06
4C088AB12
4C088AC03
4C088CA09
4C088MA02
4C088MA16
4C088MA28
4C088MA31
4C088MA32
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA26
4C088ZA28
(57)【要約】
【課題】 オトギリソウ属のエキスの自律神経全体に対する効果を明らかにし、もって、オトギリソウ属のエキスの新規な用途を提供することを目的とする。
【解決手段】 オトギリソウ属のエキスを有効成分とする、自律神経活動の抑制剤。本発明によれば、交感神経および副交感神経の両方の活動、あるいは、自律神経全体の活動を抑制することができる。本発明によれば、自律神経全体の活動を一時的に沈静化できるため、心身状態をリセットし、切り替えることに寄与することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オトギリソウ属のエキスを有効成分とする、自律神経活動の抑制剤。
【請求項2】
前記エキスが非極性溶媒による抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
外用剤であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の抑制剤。
【請求項4】
前記オトギリソウ属が、セントジョーンズワート(Hypericum perforatum、セイヨウオトギリ)であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オトギリソウ属のエキスを有効成分とする、自律神経活動の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経は、末梢神経(中枢神経と体全体とをつなぎ情報伝達を行う)のうち、意識的な努力を必要とせず、自動的(自律的)に機能する神経系である。一方、末梢神経のうち、脳からの命令を受け、骨格筋を働かせて運動を行う神経系は運動神経という。
【0003】
自律神経は、血管や胃、腸管、肝臓、腎臓、膀胱、性器、肺、瞳孔、心臓、汗腺、唾液腺、消化腺など全身に分布していていて、血圧、心拍数と脈拍数、体温、消化、代謝、水分と電解質(ナトリウムやカルシウムなど)のバランス、体液(唾液、汗、涙)の分泌、排尿、排便、性的反応のような体内プロセスを制御している。
【0004】
自律神経は、一般に、交感神経および副交感神経の2つに分けられる。上記体内プロセスの機能を刺激(促進)するには主に交感神経、機能を抑制するには主に副交感神経が使われる。多くの臓器は、交感神経と副交感神経のどちらか一方によって主に制御されているが、1つの臓器に対して両方の神経がそれぞれ反対の作用を及ぼしている場合もある。全体として、2つの神経が協調して機能することで、体は様々な状況に対して適切に反応できるようになっている(非特許文献1)。
【0005】
一方、オトギリソウ属(Hypericum)は、ユーラシア大陸の温帯から亜熱帯を中心に約300種が分布する多年草である。本属の数種は、古来より薬用植物として利用されてきた。例えば、セントジョーンズワート(H. perforatum、セイヨウオトギリ)は、欧米を中心に止血、月経不順、打撲、痛風、関節炎、生理痛、うつ病などに用いられてきた。また、日本では、オトギリソウ(H. erectum)やトモエソウ(H. ascyron)、キンシバイ(H. patulum)が切り傷などに用いられてきた(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Merck Sharp & Dohme Corp., a subsidiary of Merck & Co., Inc., Kenilworth, NJ, USA, MSDマニュアル 家庭版 / 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 / 自律神経疾患 / 自律神経系の概要、[online], [令和2年12月2日検索], インターネット<URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/09-%E8%84%B3%E3%80%81%E8%84%8A%E9%AB%84%E3%80%81%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81>
【非特許文献2】寺嶋昌代、St.John's Wort:抗うつ作用をもつ機能性食品としてのハーブ、東海学院大学紀要 5、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オトギリソウ属については、上述のようにいくつかの生理作用が知られ、薬用に利用されてきた。しかしながら、これまでに、オトギリソウ属の自律神経全体、あるいは交感神経および副交感神経の両方に対する効果は知られていない。本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、オトギリソウ属のエキスの自律神経全体に対する効果を明らかにし、もって、オトギリソウ属のエキスの新規な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、オトギリソウ属のエキスが、交感神経および副交感神経の両方の活動、あるいは、自律神経全体の活動を抑制できることを見出した。そこで、係る知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係る自律神経活動の抑制剤は、オトギリソウ属のエキスを有効成分とする。
【0010】
(2)本発明において、オトギリソウ属のエキスは非極性溶媒による抽出物であってもよい。
【0011】
(3)本発明において、自律神経活動の抑制剤は、外用剤として用いられるものであってもよい。
【0012】
(4)本発明において、オトギリソウ属の植物は、セントジョーンズワートであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、交感神経および副交感神経の両方の活動、あるいは、自律神経全体の活動を抑制することができる。
【0014】
本発明によれば、オトギリソウ属のエキスの使用中あるいは使用開始からの短時間に限って、自律神経活動を抑制することができる。
【0015】
本発明によれば、自律神経全体の活動を一時的に沈静化できるため、心身への負担をかけることなく、あるいは心身への悪影響なく、心身状態をリセットし、切り替えることに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】オトギリソウ属エキスを含むオイル(被験オイル)または含まないオイル(対照オイル)を用いてハンドマッサージを行っている最中の、自律神経活動の各種指標の変化率(マッサージを行う前に対する変化率)を示す棒グラフである。
図2】被験オイルまたは対照オイルを用いてハンドマッサージを行った後の、自律神経活動の各種指標の変化率(マッサージを行う前に対する変化率)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、オトギリソウ属のエキスを有効成分とする、自律神経活動の抑制剤(以下、「本発明の剤」あるいは「本剤」という場合がある)を提供する。
【0018】
本発明において、「自律神経活動を抑制する」とは、交感神経および副交感神経の両方の活動を抑制すること、あるいは、自律神経全体の活動を抑制することをいう。
【0019】
自律神経活動が抑制されたか否かは、例えば、後述する実施例で示すように、市販の心拍センサを用いて心拍データを取得し、心拍変動スペクトル解析を行うことにより確認できる。心拍変動スペクトル解析では、低周波成分値(0.04Hz~0.15Hzのパワー積算、Low frequency;LF)およびR-R間隔の変動係数(CVRR)を算出する。一般に、LFは交感神経および副交感神経の両活動を反映し、値が大きいほど、交感神経および副交感神経の活動が大きいことを示す。また、CVRRは自律神経の全体活性を反映し、値が大きいほど、自律神経全体の活性が大きいことを示す。したがって、本剤を用いた場合と用いない場合、あるいは、用いる前と用いた後とでLFおよび/またはCVRRの値を比較し、前者の方が値が小さければ、本剤により自律神経が抑制されたと判断することができる。
【0020】
オトギリソウ属は、オトギリソウ科オトギリソウ属に属する植物をいう。オトギリソウ属としては、例えば、セントジョーンズワート(H. perforatum、セイヨウオトギリ)や、オトギリソウ(H. erectum)、トモエソウ(H. ascyron)、キンシバイ(H. patulum)などを例示することができる。
【0021】
オトギリソウ属のエキスとは、オトギリソウ属の植物体(全草、花、茎、根、葉など)からの抽出物をいう。エキスは、作製してもよいし、市販品を用いてもよい。作製する場合は、例えば、オトギリソウ属の植物体を溶媒に浸漬して、その含有成分を溶媒中に抽出した抽出液を作製することにより、得ることができる。ここで、植物体は、そのまま用いてもよいし、乾燥や粉砕といった前処理を施したものを用いてもよい。
【0022】
溶媒は、非極性溶媒(油脂類やロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、これらの混液など)または極性溶媒(水や低級アルコール、グリコール類、これらの混液など)のいずれも用いることができるが、非極性溶媒が好ましい。好ましい非極性溶媒として、より具体的には、オリーブ果実油やヒマワリ油、アボカド油、アーモンド油、ゴマ油、コムギ胚芽油、サフラワー(紅花)油、シアバター、ツバキ油、パーシック(アンズやモモの種子)油、ヒマシ油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヤシ油、ローズヒップ油などの植物性油脂、馬油やタートル油、ミンク油、卵黄油などの動物性油脂、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ミツロウやホホバ油などのロウ類、ワセリンや流動パラフィン、スクワランなどの炭化水素類、セタノールやイソステアリルアルコールなどの高級アルコールなどを例示することができる。
【0023】
抽出液は、そのまま用いてもよく、濾過や遠心分離などにより植物体残渣を除去したり、精製あるいは加熱殺菌などの処理を行ってから用いてもよい。また、必要に応じて希釈もしくは濃縮してもよく、スプレードライや凍結乾燥などの方法により固体化し、さらに必要に応じて粉砕して粉末状にするなどしてもよい。
【0024】
本発明の剤は、そのまま、化粧料や医薬品、医薬部外品等として用いても良く、化粧料や医薬品、医薬部外品等の原料として他の成分と併せてこれらに配合して用いてもよい。
【0025】
後述する実施例で示すように、オトギリソウ属のエキスは、経皮吸収されて自律神経抑制効果を発揮することができる。よって、本発明の剤は、皮膚や粘膜に直接塗ったり貼ったりする使用態様の製剤、すなわち外用剤として用いることができる。
【0026】
本剤を化粧料あるいはその原料とする場合、外用剤の剤型として、具体的には、ボディオイルやマッサージ料、化粧水、美容液、クリーム、乳液洗浄料、パック、化粧用油、フェイシャルリンス、ボディリンスなどの皮膚用化粧品、ヘアオイルやヘアクリーム、ヘアリキッド、ヘアローション、ヘアパック、頭皮用トリートメント、シャンプー、リンスなどの頭髪用化粧品、香水、オーデコロン、浴用化粧料、クレンジング料、ボディパウダーなどを例示することができる。
【0027】
また、本剤を医薬品や医薬部外品あるいはその原料とする場合、外用剤の剤型として、具体的には、軟膏、クリーム剤、外用液剤、点眼剤、点鼻剤、坐剤、貼付剤、吸入剤、舌下剤などを例示することができる。
【0028】
本発明の剤の使用量は、原料のオトギリソウ属の種や産地、収穫期、貯蔵法、エキスの抽出方法、保存方法、剤型、使用者の年齢や症状、健康状態、処方の部位などに応じて適宜設定することができる。例えば、オトギリソウ属の乾燥植物体1重量部に対して9重量部の液体油脂に浸漬した後、濾過して得られた抽出液を両手に塗布する態様で用いる場合であれば、1回につき抽出液約0.1~10gを例示することができる。あるいは、その他の皮膚に塗布する剤型で用いる場合、乾燥植物体の重量に換算して、1回につき0.01~1gを例示することができる。1日の使用回数の上限は特になく、例えば1日1~10回などとすることができる。
【0029】
本剤による自律神経活動の抑制効果は、その製剤形態や使用形態、使用量にもよるが、短時間のみ、一時的に得られるものとすることができる。この場合の神経活動の抑制時間は、例えば、本剤の使用中のみ、使用開始から数分間(1分、2分、3分、4分、分、6分、7分、8分、9分)~十数分間(11分、12分、13分、14分、15分、16分、17分、18分、19分)、使用開始から数十分間(10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分)、あるいは使用開始から1~10日間を例示することができる。
【0030】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0031】
<実施例1>オトギリソウ属のエキスの調製
セントジョーンズワート(Hypericum perforatum、セイヨウオトギリ)の花を収穫し、乾燥させて乾燥花とした。乾燥花1重量部に対して9重量部のオリーブ果実油に、乾燥花を約60日間漬け込んだ。その後、ろ過して残渣を除去し、回収した濾液を「オトギリソウ属エキス」とした。
【0032】
<実施例2>自律神経に対する効果の検証
(1)セルフハンドマッサージ
実施例1のオトギリソウ属エキスを被験オイルとし、オリーブ果実油を対照オイルとした。被験者22名(男性14名、女性8名、20歳代5名、30歳代6名、40歳代6名、50歳代4名、60歳代1名)を無作為に群1および群2の2群に割り付けた。各群の被験者にて、以下のとおり、実験日の午前および午後にそれぞれ1回ずつ、ガイダンス動画を視聴しながらオイルを用いてセルフハンドマッサージを行った。セルフハンドマッサージの手順は以下1-9のとおりとした。本試験は二重盲検法により行った。
群1:午前/被験オイル、午後/対照オイル
群2:午前/対照オイル、午後/被験オイル
【0033】
《セルフハンドマッサージの手順》(所要約10分)
1.オイルを約1g手に取る。手のひらを擦り合わせて、オイルを軽く手で温める。手にひらを顔に近づけ、1回深呼吸して香りを嗅ぐ。
2.手の甲を逆の手の平で円を描くように5回なで、オイルを手の甲になじませる。逆の手も同様になじませる。
3.手の甲を、手首側からそれぞれの指に向かって、逆の手の親指を使って、軽く押しながらマッサージする。これを3回繰り返す。逆の手も同様にする。
4.手の平を、逆の手の親指を使ってマッサージする。親指側から小指側に円を描くようにマッサージする。これをゆっくり5回繰り返す。逆の手も同様にする。
5.手の平を返し、それぞれの指を付け根から指先に向かって、逆の手の指でつまむようにマッサージする。親指から小指を1本ずつ丁寧にマッサージする。
6.爪の両脇を軽く押し、ツボを刺激する。さらに爪を上下から軽く押し、マッサージする。
7.親指と人差し指の間を逆の手の親指で押し、ツボを刺激する。少し痛いくらいの圧がちょうどよい。逆の手も同様にする。
8.最後に手首の内側を5回、円を描くように逆の手の親指を使ってマッサージする。
逆の手も同様にする。
9.タオルでオイルを軽くふき取り終了。
【0034】
(2)評価
本実施例2(1)のセルフハンドマッサージの前(処方前)、最中(処方中)および後(処方後)において、心拍センサ(myBeat、ユニオンツール)を用いて心拍データを取得した。取得したデータに基づき心拍変動スペクトル解析を行い、心拍数(Heart rate;HR)、高周波成分値(0.15Hz~0.4Hzのパワー積算、high frequency;HF)、低周波成分値(0.04Hz~0.15Hzのパワー積算、Low frequency;LF)、高周波成分値と低周波成分値とのパワー比(LFをHFで除したもの;LF/HF)およびR-R間隔の変動係数(CVRR)を算出した。これらは一般に、下記の指標として用いられる。
HR:心拍数(交感神経活動が亢進していると値が大きくなる)。
HF:副交感神経の活動を反映(副交感神経活動が亢進しているほど値が大きくなる)。
LF:交感神経および副交感神経の両活動を反映(交感神経活動および/または副交感神経活動が亢進しているほど値が大きくなる)。
LF/HF:交感神経の活動を反映(交感神経活動が亢進しているほど値が大きくなる)。
CVRR:自律神経全体の活動状態を反映(自律神経全体の活動状態が亢進しているほど値が大きくなる)。
【0035】
続いて、HR、HF、LF、LF/HFおよびCVRRの平均値(N=22)を求め、処方前の値に対する変化率(Log値)を算出した。すなわち、変化率が正の値であれば、各指標が示す自律神経の活動が、オイルを用いたセルフハンドマッサージにより亢進されたと判断できる。一方、変化率が負の値であれば、各指標が示す自律神経の活動が、セルフハンドマッサージにより抑制されたと判断できる。また、変化率について、ウィルコクソンの符号付き順位検定を用いて統計学的有意差(処方前と処方中または処方後との間の有意差、被験オイルと対照オイルとの間の有意差)を評価した。処方中における各指標の変化率を図1に、処方後における各指標の変化率を図2に、それぞれ示す。
【0036】
図1に示すように、処方中の変化率は、被験オイルを用いた場合にHF、LFおよびCVRRが負の値であり、LF/HFは正の値であった。これらのうち、HFおよびLF/HFは、被験オイルと対照オイルとの間で変化率に有意差が無かったことから、マッサージ自体による効果と考えられた。これに対して、LFおよびCVRRは、被験オイルと対照オイルとの間で変化率に有意差があった。特に、被験オイルを用いた場合のCVRRの変化率は、極めて有意であった。すなわち、マッサージ中に、被験オイルにより、交感神経および副交感神経の両方の活動、ないし、自律神経全体の活動が抑制されたことが明らかになった。
【0037】
次に、図2に示すように、処方後の変化率は、被験オイルを用いた場合にHR、HFおよびCVRRが負の値であった。しかし、これらHR、HFおよびCVRRはいずれも、被験オイルと対照オイルとの間で変化率に有意差が無かったことから、マッサージ自体による効果と考えられた。すなわち、図1で示された被験オイルによる交感神経および副交感神経の両方の活動、ないし、自律神経全体の活動に対する抑制効果は、マッサージ中(被験オイルを肌に塗布した後の数分~十数分間)にのみ得られる、一時的なものであることが明らかになった。
【0038】
以上の図1および図2に示す結果から、オトギリソウ属のエキスは、自律神経活動を抑制できることが明らかになった。
図1
図2