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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011035
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】木管楽器用リード及び木管楽器
(51)【国際特許分類】
   G10D 9/035 20200101AFI20220107BHJP
   G10D 7/06 20200101ALI20220107BHJP
【FI】
G10D9/035
G10D7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111898
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】福田 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】安藤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】小林 和幸
(72)【発明者】
【氏名】東儀 温
(72)【発明者】
【氏名】安部 詠司
(72)【発明者】
【氏名】中村 康敬
(72)【発明者】
【氏名】平山 祐介
(57)【要約】
【課題】人工的に形成されながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れた木管楽器用リード及びそれを備えた木管楽器を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る木管楽器用リードは、第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層とを備え、前記第1層及び前記第2層が幅方向に交互に配置される木管楽器用リードであって、幅方向の弾性率に対する長手方向の弾性率の比が2以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層と、
第2樹脂を含む1又は複数の第2層と
を備え、
前記第1層及び前記第2層が幅方向に交互に配置される木管楽器用リードであって、
幅方向の弾性率に対する長手方向の弾性率の比が2以上である木管楽器用リード。
【請求項2】
前記繊維が前記長手方向に配向される請求項1に記載の木管楽器用リード。
【請求項3】
前記第2層は発泡樹脂層である請求項1又は請求項2に記載の木管楽器用リード。
【請求項4】
前記第2層の空隙率が10%以上90%以下である請求項3に記載の木管楽用リード。
【請求項5】
前記第1層の層数が1層以上であり、
前記第2層の層数が2層以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の木管楽器用リード。
【請求項6】
前記第1樹脂及び前記第2樹脂が同種である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の木管楽器用リード。
【請求項7】
木管楽器用リードを備える木管楽器であって、
前記木管楽器用リードが、
第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層と、
第2樹脂を含む1又は複数の第2層と
を備え、
前記第1層及び前記第2層が幅方向に交互に配置され、
前記木管楽器用リードにおける幅方向の弾性率に対する長手方向の弾性率の比が2以上である木管楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木管楽器用リード及び木管楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばサクソフォン、クラリネット等の木管楽器は、奏者が息を吹き込む唄口に取り付けられる例えば帯板状のリードを振動させることによって音を発生させる。木管楽器用リード(以下、単に「リード」ともいう。)は、一般に葦などの天然素材から形成され、奏者が口に咥える側の長手方向端部(先端部)に向かって厚さを徐々に減少させるよう表面を削り落としたヴァンプ(Vamp)が設けられている。
【0003】
このような天然素材から形成される木管楽器用リード(以下、「天然リード」ともいう。)は、個々のばらつきが大きいという難点がある。このため、ユーザーが熟練者ではない比較的低練度の奏者であっても、複数のリードの中から満足な音色が得られるリードを選択し、満足な音色が得られないリードを使用せずに廃棄しているのが実情である。具体的には、木管楽器用リードは、10本を一組として販売されることが多いが、一般ユーザーであっても、実際には10本中で2本乃至3本程度しか使用できないと判断する場合が少なくない。
【0004】
また、木管楽器用リードには、奏者の唾液や息に含まれる水分が付着することが避けられない。葦から形成される木管楽器用リードは、このような水分に晒されることによって劣化が促進されるため、寿命が比較的短いという不都合がある。このため、合成樹脂から形成された耐久性に優れるリードが市販されている。なお、以下、人工的に製造された木管楽器用リードを「人工リード」ともいう。
【0005】
しかし、合成樹脂製リードは、その振動特性等の物性が天然素材から形成されるリードとは異なるため、音色や演奏性が十分とはいえない。
【0006】
そこで、合成樹脂製リードを形成する樹脂組成物に繊維を配合することで、合成樹脂製リードの振動特性等を向上することが提案されている(例えば米国特許第4355560号明細書参照)。
【0007】
また、金属製のリブと、このリブよりも密度が小さい合成樹脂製の材料とを幅方向に積層することで、リードの振動特性を向上することが提案されている(例えば米国特許第3759132号明細書参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4355560号明細書
【特許文献2】米国特許第3759132号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記特許文献1の人工リードは、音色や演奏性が未だ十分とはいい難い。
【0010】
一方、前記特許文献2の人工リードは、耐久性及び製造性に優れているとはいい難い。
【0011】
前記事情に鑑み、本発明は、人工的に形成されながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れた木管楽器用リード及びそれを備えた木管楽器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するためになされた発明は、第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層とを備え、前記第1層及び前記第2層が幅方向に交互に配置される木管楽器用リードであって、幅方向の弾性率に対する長手方向の弾性率の比が2以上である木管楽器用リードである。
【0013】
前記第2層が発泡樹脂層であるとよい。
【0014】
前記第2層の空隙率が10%以上90%以下であるとよい。
【0015】
前記第1層の層数が1層以上であり、前記第2層の層数が2層以上であるとよい。
【0016】
前記第1樹脂と前記第2樹脂とが同種であるとよい。
【0017】
前記課題を解決するためになされた他の発明は、木管楽器用リードを備える木管楽器であって、前記木管楽器用リードが、第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層とを備え、前記第1層及び前記第2層が幅方向に交互に配置され、前記木管楽器用リードにおける幅方向の弾性率に対する長手方向の弾性率の比が2以上である木管楽器である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の木管楽器用リードは、人工的に形成されながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。本発明の木管楽器は、人工的に形成された木管楽器用リードを用いながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る木管楽器用リードが取り付けられたサクソフォンを示す模式的斜視図である。
図2図2は、図1のサクソフォンのマウスピースを示す模式的断面図である。
図3図3は、図1のサクソフォンの木管楽器用リードを示す模式的長手方向断面図である。
図4図4は、図3の木管楽器用リードの模式的IV-IV断面図である。
図5図5は、図1の木管楽器用リードの製造方法を説明するための模式的平面図である。
図6図6は、図5のVI-VI断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究したところ、以下の知見を得た。すなわち、本発明者らは、人工リードの音色及び演奏性を天然リードに近づけるべく鋭意研究を行ったところ、リードの音色及び演奏性には、弾性率が大きく影響することが判明した。特に、リードの音色及び演奏性には、リードの長手方向の弾性率(Ex)と、リードの幅方向の弾性率(Ey)に対する前記長手方向の弾性率(Ex)の比(Ex/Ey)とが大きく影響することが判明した。具体的には、人工リードの弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づける程、その音色及び演奏性が天然リードに近づくことが判明した。
【0021】
この点に関し、前記特許文献1のように樹脂中に繊維を配合するだけでは、人工リード全体中に繊維がランダムに配置されるため、人工リードの弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけることが困難である。
【0022】
前記弾性率に関する知見に基づいて本発明者らがさらに鋭意研究したところ、樹脂マトリクス中に繊維を配合した層(第1層)と、樹脂を含む層(第2層)とを幅方向に積層してリードを形成することで、リードの弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を調整することができることを見出した。そして、弾性率比(Ex/Ey)を2以上に調整することにより、人工リードの弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけることが可能になることを見出した。このように繊維を含む第1層を第2層と幅方向に積層することで、リード全体における繊維の分布が第2層によって幅方向に分断されるため、リード全体における繊維の幅方向のランダム性が規制され、リード全体として繊維が長手方向に配向されることになる。
【0023】
加えて、各層を積層する際、樹脂同士を接着させることで、金属と樹脂とを接着する(異種の材料を接着する)場合と比較して、接着が容易であり、しかも経時的に剥れ難いため、製造性及び耐久性に優れることを見出した。
【0024】
この点に関し、前記特許文献2のように金属層と樹脂層とを積層する場合には、前記の通り、製造性及び耐久性が十分であるとはいい難い。
【0025】
一方、前記第1層と前記第2層とを厚さ方向に交互に積層する場合、ヴァンプを有するリードの形状の特性上、ヴァンプの先端に向かう程、層数が小さくなる。このため、人工リードの層構成が長手方向に全体として均一にならず、音色及び演奏性を天然リードに近づけることが困難になる。加えて、ヴァンプの先端側が耐久性に劣るおそれがある。
【0026】
前記知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0027】
すなわち、本発明の一態様に係る木管楽器用リードは、第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層とを備え、前記第1層及び前記第2層が幅方向に交互に配置される木管楽器用リードであって、幅方向の弾性率に対する長手方向の弾性率の比が2以上である。
【0028】
当該木管楽器用リードは、前記第1層と前記第2層とが幅方向に交互に積層されることで、前述の通り、リードの長手方向の弾性率(Ex)、及びリードの幅方向の弾性率(Ey)に対する前記長手方向の弾性率(Ex)の比(Ex/Ey)を調整することができる。そして、弾性率比(Ex/Ey)を2以上に調整することで、リードの弾性率(Ex)及び(Ex)/Ey)を天然リードに近づけることが可能になる。よって、当該木管楽器用リードの音色及び演奏性を天然リードに近づけることが可能になる。なお、上記弾性率は、みかけの弾性率であり、後述する実施例に記載される方法で測定される。
【0029】
加えて、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とを積層する際、樹脂同士を接着することができるため、前述の通り、製造性及び耐久性に優れる。
【0030】
従って、当該木管楽器用リードは、人工的に形成されながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。
【0031】
前記第2層が発泡樹脂層であるとよい。
【0032】
このように、前記第2層が発泡樹脂層であることで、当該木管楽器用リードの弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)をより天然リードに近づけ易くなる。従って、当該木管楽器用リードが、より音色及び演奏性に優れる。
【0033】
前記第2層の空隙率が10%以上90%以下であるとよい。
【0034】
このように、前記第2層の空隙率が前記範囲内であることで、当該木管楽器用リードの弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)をより天然リードに近づけ易くなる。従って、当該木管楽器用リードが、より音色及び演奏性に優れる。
【0035】
前記第1層の層数が1層以上であり、前記第2層の層数が2層以上であるとよい。
【0036】
このように、前記各層数が前記各範囲内であることで、当該木管楽器用リードの弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)をより天然リードに近づけ易くなる。従って、当該木管楽器用リードが、より音色及び演奏性に優れる。
【0037】
前記第1樹脂と前記第2樹脂とが同種であるとよい。
【0038】
このように、前記第1樹脂と前記第2樹脂とが同種であることで、第1層と第2層とをより接着し易くなり、また、第1層と第2層とがより剥れ難くなる。従って、当該木管楽器用リードが、より製造性及び耐久性に優れる。
【0039】
本発明の他の一態様に係る木管楽器は、木管楽器用リードを備える木管楽器であって、前記木管楽器用リードが、第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層とを備え、前記第1層及び前記第2層が幅方向に交互に配置され、前記木管楽器用リードにおける幅方向の弾性率に対する長手方向の弾性率の比が2以上である。
【0040】
当該木管楽器は、前述した当該木管楽器用リードを備えるため、前述の通り、人工的に形成された木管楽器用リードを用いながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。
【0041】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0042】
[サクソフォン]
図1に、本発明の一実施形態に係る木管楽器用リード1を用いる木管楽器の一種であるサクソフォンを示す。
【0043】
図1のサクソフォンは、サクソフォン本体2の一端に当該木管楽器用リード1を取り付けたマウスピース3が装着されている。
【0044】
サクソフォン本体2は、一端にマウスピース3が装着され、他端が径を拡大するようにして開放する屈曲した管体部4を備え、この管体部4に形成される複数の音孔をそれぞれ封止可能に設置される複数のキイ5と、これらのキイ5を操作するためのレバー6等を有する。このサクソフォン本体2の構成は、従来のサクソフォン本体の構成と同様とすることができる。
【0045】
マウスピース3は、サクソフォン本体2の一端に装着され、奏者がサクソフォン本体2に息を吹き込み、当該木管楽器用リード1を振動させるために使用される。
【0046】
マウスピース3は、図2に示すように、概略筒状に形成され、奏者が口に咥える一端側が平たく押し潰されたような形状を有し、奏者の下唇に接触する側が大きく開口し、この開口を封止するよう当該木管楽器用リード1が取り付けられる。当該木管楽器用リード1は、マウスピース3の外周に装着されるリガチャ7によってマウスピース3に固定される。これらのマウスピース3及びリガチャ7としては、従来の構成のものを使用することができる。
【0047】
なお、当該木管楽器用リード1は、図1のようなサクソフォンに限らず、例えばクラリネット等の他の木管楽器にも使用することができ、例えばオーボエ、ファゴット等の2枚のリードを使用する木管楽器にも使用することができる。2枚のリードを使用する木管楽器の場合、2枚のリードの両方に当該木管楽器用リード1を用いてもよいし、2枚のリードのうち一方にのみ当該木管楽器用リード1を用い、他方に当該木管楽器用リード1以外のリードを用いてもよい。
【0048】
[木管楽器用リード]
図3及び図4に、当該木管楽器用リード1を詳細に示す。当該木管楽器用リード1は、第1樹脂を有する樹脂マトリクス、及び前記樹脂マトリクス中に含有される繊維を含む1又は複数の第1層9と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層10とを備え、前記第1層9及び前記第2層10が幅方向に交互に配置される。当該木管楽器用リード1は、帯板状に形成され、図示するように長手方向(図3のX方向)一端側にヴァンプ8を有する。
【0049】
当該木管楽器用リード1は、ヴァンプ8が形成されていない部分の表面(マウスピース3に取り付けられる側と反対側の面)が円筒面の一部をなすように湾曲している。この湾曲面は、裏面(マウスピース3に取り付けられる側の面)と平行な長手方向の軸を有し、表面側に膨出するものとされる。これにより、当該木管楽器用リード1は、図1及び図2に示すように、ヴァンプ8が形成されていない部分がリガチャ7で緊締されることによってマウスピース3の外面に表面が連続するようマウスピース3と一体に保持される。
【0050】
ヴァンプ8は、奏者が口に咥える側の長手方向端部(以下、単に「先端部」ともいう。)に向かって当該木管楽器用リード1の厚さを徐々に減少させるよう形成されている。より詳しくは、ヴァンプ8は、一般に当該木管楽器用リード1のヒール(ヴァンプ8が形成されていない方の長手方向端部)側程傾斜角度が大きくなるよう湾曲し、先端側は略平面状に伸びるよう形成される。このヴァンプ8の湾曲形状としては、従来のリードに形成されるヴァンプの湾曲形状と同様とされる。
【0051】
すなわち、当該木管楽器用リード1の概略形状としては、葦等から形成される従来のリードと同様の形状とされる。当該木管楽器用リード1の概略形状の具体的な寸法としては、当該木管楽器用リード1がアルトサックス用のリードである場合、幅を約15mm程度、長さを約71mm程度、ヴァンプ8が形成されていない部分の最大厚さを約4mm程度、ヴァンプ8の先端における厚さを約0.05~0.5mm程度とすることができる。なお、その他、例えば当該木管楽器用リードがクラリネット用のリードである場合、幅を約13mm程度、長さを約67mm程度、ヴァンプが形成されていない部分の最大厚さを約3mm程度、ヴァンプ8の先端における厚さを約0.05~0.5mm程度とすることができる。
【0052】
図3及び図4に例示されるように、当該木管楽器用リード1は、第1樹脂を有する樹脂マトリクス9a、及び前記樹脂マトリクス9a中に含有される繊維9bを含む1又は複数の第1層9と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層10とを備える。なお、第1層9の層数及び第2層10の層数は、あくまで例示であり、図3に示される数量に限定されない。
【0053】
(第1層)
第1層9は、第1樹脂を有する樹脂マトリクス9a、及び前記樹脂マトリクス9a中に含有される繊維9bを含む。
【0054】
前記第1樹脂としては、十分な剛性を有し、樹脂マトリクス9aを構成することが可能な樹脂であればよく、特に限定されない。このような第1樹脂としては、例えばポリエチレン、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリウレタン等を挙げることができる。前記第1樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0055】
1本又は複数本の繊維9bが樹脂マトリクス9a中に含有される。例えば、1本又は複数本の連続繊維である繊維9bが樹脂マトリクス9a中に含有される。その他、複数本の非連続繊維である繊維9bが樹脂マトリクス9a中に含有されてもよい。前記「連続繊維」とは、樹脂マトリクス9aの長手方向における一端縁から他端縁まで全体として連続している繊維をいう。前記「非連続繊維」とは、上記長手方向に一端縁から他端縁まで連続していない繊維をいう。なお、「繊維」には、束を構成していない状態の1本の繊維、束を構成していない状態の複数本の繊維、1本の束を構成している状態の複数本の繊維(1本の繊維束)、複数本の束を構成している状態の複数の繊維(複数本の繊維束)が含まれる。
【0056】
繊維9bとしては、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。前記繊維のうちの2種以上が樹脂マトリクス9a中に含有されてもよいが、第1層9全体の振動特性の均一化を図る点では、前記繊維のうちのいずれか1種のみを含むことが好ましい。第1層9が繊維9bを含むことで、当該木管楽器用リード1の剛性が向上する。前記アラミド繊維としては、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維等が挙げられる。また、前記ガラス繊維としては、例えばE-ガラス繊維、T-ガラス繊維、D-ガラス繊維等が挙げられる。
【0057】
樹脂マトリクス9a中(すなわち第1層9中)において、繊維9bが長手方向に配向されることが好ましい。例えば、樹脂マトリクス9a中に、繊維9bとしての前記1本又は複数本の連続繊維が、前記長手方向に沿って配置されることが好ましい。その他、樹脂マトリクス9a中に、繊維9bとしての前記複数本の非連続繊維が、前記長手方向を向くように配置されることが好ましい。
【0058】
第1層9の平均厚さは、第2層10の平均厚さとの関係で、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づくように適宜設定され得る。ここで、第1層9の平均厚さは、第1層9と第2層10の体積比に影響を及ぼし、この体積比は、後述するように弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)に影響を及ぼす。従って、例えばこのような観点を考慮して、弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づくことを可能にする上記体積比が得られるように、第1層9の平均厚さを適宜設定し得る。例えば、第1層9の平均厚さの下限としては、0.01mmが好ましい。一方、第1層9の平均厚さの上限としては、6mmが好ましい。第1層9の平均厚さが前記下限に満たない場合、及び第1層9の平均厚さが前記上限を超える場合、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけることが困難になるおそれがある。なお、「平均厚さ」は、任意の十点の断面観察による厚さを測定し、測定結果の平均値を算出することによって得られる。なお、以下において他の部材等の「平均厚さ」も、これと同様に測定される値である。
【0059】
なお、第1層9は、発泡したもの(発泡体)、すなわち発泡樹脂層であってもよい。この場合、例えば後述する第2層10と同様の方法で第1層9が発泡したものとすることができる。
【0060】
第1層9は、複数の層(第3層)を積層したものであってもよい。
【0061】
具体的には、例えば、第1層9は、複数層の第3層を有し、前記複数層の第3層が、互いに異なるタイプの層であってもよい。
【0062】
例えば、前記複数層の第3層が、同種の第1樹脂をそれぞれ有する複数の樹脂マトリクス、及び前記複数の樹脂マトリクス中にそれぞれ含有される互いに異なるタイプの繊維を含んでもよい。前記互いに異なるタイプの繊維としては、異種の繊維、同種であるが互いに平均長さや平均直径が異なる繊維等が挙げられる。
【0063】
例えば、前記複数層の第3層が、異種の第1樹脂をそれぞれ有する複数の樹脂マトリクス、及び前記複数の樹脂マトリクス中にそれぞれ含有される互いに同じタイプの繊維を含んでもよい。
【0064】
例えば、前記複数層の第3層が、異種の第1樹脂をそれぞれ有する複数の樹脂マトリクス、及び前記複数の樹脂マトリクス中にそれぞれ含有される前記互いに異なるタイプの繊維を含んでもよい。例えば、前記複数層の第3層が、互いに異なる平均厚さを有してもよい。
【0065】
前記の他、例えば、第1層9は、互いに同じタイプの複数層の第3層を有してもよい。
【0066】
前記複数層の第3層の各弾性率、各密度、各平均厚さ等は、特に限定されず、第2層10との関係で当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づくように適宜設定され得る。
【0067】
前記第3層の層数は、特に限定されず、適宜設定され得る。前記第3層の層数の下限としては、2層である。例えば、前記第3層の層数が大きくなる程、当該木管楽器用リード1の弾性率を詳細に調整し易くなる一方、当該木管楽器用リード1の製造が煩雑になり、その製造性が低下するおそれがある。例えばこの観点を考慮して、前記第3層の層数の上限を適宜設定し得る。
【0068】
このように、第1層9が前記複数層の第3層を有することで、当該木管楽器用リード1の弾性率をより詳細に調整することが可能になる。
【0069】
第1層9は、後述のようにして製造することができる。
【0070】
(第2層)
第2層10は、第2樹脂を含む。当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけるという点で、第2層10が繊維を含まないか、又は第2層10が繊維を含む場合には第2層10の繊維含有量が第1層9の繊維含有量よりも小さいことが好ましい。
【0071】
前記第2樹脂としては、第2層10を形成可能な樹脂であればよく、特に限定されない。このような第2樹脂としては、例えば前述した第1樹脂と同様、ポリエチレン、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリウレタン等を挙げることができる。前記第2樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0072】
前記第2樹脂としては、前記第1樹脂と同種の樹脂が好ましい。このように、前記第1樹脂と前記第2樹脂とが同種の樹脂であることで、第1層9と第2層10とをより接着し易くなり、また、第1層9と第2層10とがより剥れ難くなる。従って、当該木管楽器用リード1が、より製造性及び耐久性に優れる。
【0073】
当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づけることが容易であるという点で、第2層10が発泡された状態であることが好ましい。すなわち、第2層10が、発泡体、すなわち発泡樹脂層であることが好ましい。
【0074】
この場合、第2層10の空隙率の下限としては、例えば10%が好ましく、20%がより好ましく、30%がさらに好ましい。一方、第2層10の空隙率の上限としては、例えば90%が好ましく、80%がより好ましい。第2層10の空隙率が前記下限に満たない場合、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけることが困難になるおそれがある。一方、第2層10の空隙率が前記上限を超える場合にも、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけることが困難になるおそれがある。なお、後述するように第2層20が複数層の第4層を有する場合、各第4層の空隙率が前記範囲を満たすことが好ましい。
【0075】
ここで、「空隙率」は、当該木管楽器用リード1をその長手方向(図3のX方向)かつ厚さ方向(図3の紙面に垂直ば方向)に沿って任意の1の第2層10が露出するように切断し、露出した第2層10の断面における1mm×1mmの領域を顕微鏡で観察し、空隙(気泡)に相当する部分の面積を測定し、前記領域の総面積(100%)に対する空隙の部分の面積の比率(%)として算出される。
【0076】
このように、第2層10の空隙率が前記範囲内であることで、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)をより天然リードに近づけ易くなる。従って、当該木管楽器用リードが、より音色及び演奏性に優れる。
【0077】
第2層10の平均厚さは、第1層9の平均厚さとの関係で、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づくように適宜設定され得る。ここで、第2層10の平均厚さは、第1層9と第2層10の体積比に影響を及ぼし、この体積比は、後述するように弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)に影響を及ぼす。従って、例えばこのような観点を考慮して、弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づくことを可能にする上記体積比が得られるように、第2層10の平均厚さを適宜設定し得る。例えば、第2層10の平均厚さの下限としては、0.01mmが好ましい。一方、第2層10の平均厚さの上限としては、9mmが好ましい。第2層10の平均厚さが前記下限に満たない場合、及び第2層10の平均厚さが前記上限を超える場合、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけることが困難になるおそれがある。
【0078】
第2層10は、複数の層(第4層)を積層したものであってもよい。
【0079】
具体的には、例えば、第2層10は、複数層の第4層を有し、前記複数層の第4層が、互いに異なるタイプの層であってもよい。
【0080】
例えば、前記複数層の第4層が、同種の第2樹脂をそれぞれ有し、各第4層の空隙率が互いに異なるものであってもよい。例えば、前記複数層の第4層が、互いに異なる平均厚さを有してもよい。
【0081】
例えば、前記複数層の第4層が、異種の第2樹脂をそれぞれ有し、各第4層の空隙率が互いに異なるものであってもよい。例えば、前記複数層の第4層が、異種の第2樹脂をそれぞれ有し、各第2樹脂の密度が互いに異なるものであってもよい。
【0082】
前記の他、例えば、第2層10は、互いに同じタイプの複数層の第4層を有してもよい。
【0083】
前記複数層の第4層の各弾性率、各密度、各平均厚さ等は、特に限定されず、第1層9との関係で当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づくように適宜設定され得る。
【0084】
このように、第2層10が前記複数層の第4層を有することで、当該木管楽器用リード1の弾性率をより詳細に調整することが可能になる。
【0085】
前記第4層の層数は、特に限定されず、適宜設定される。例えば、前記第4層の層数が大きくなる程、当該木管楽器用リード1の弾性率を詳細に調整し易くなる一方、当該木管楽器用リード1の製造が煩雑になり、その製造性が低下するおそれがある。例えばこの観点を考慮して、前記第4層の層数の上限を設定することができる。一方、前記第4層の層数の下限は、2層である。
【0086】
第2層10は、後述のようにして製造することができる。
【0087】
(第1層及び第2層の関係)
前記1又は複数の第1層9及び前記1又は複数の第2層10は、幅方向に交互に配置される。第1層9の層数及び第2層10の層数は、それぞれ1層以上であればよく、特に限定されない。ここで、第1層9の層数とは、当該木管楽器用リード1の幅方向(図3のY方向)において第2層10と交互に配置される単位の数量を意味する。例えば第1層9が前記複数層の第3層を有する場合、これら複数層の第3層をまとめて1単位とする。第2層10の層数とは、当該木管楽器用リード1の幅方向(図3のY方向)において第1層9と交互に配置される単位の数量を意味する。例えば第2層が複数層の第4層を有する場合、これら複数層の第4層をまとめて1単位とする。
【0088】
例えば、単一層の第1層9と、単一層の第2層10又は前記複数層の第4層を有する第2層10とが交互に配置される場合、第1層9の層数は、前記単一層の数量である。例えば、第1層9が前記複数層の第3層を有し、前記複数層の第3層と、単一層の第2層10又は前記複数層の第4層を有する第2層10とが交互に配置される場合、第1層9の層数は、前記複数層の第3層を1単位として捉えたときの単位数である。
【0089】
例えば、単一層の第2層10と、単一層の第1層9又は前記複数層の第3層を有する第1層9とが交互に配置される場合、第2層10の層数は、前記単一層の数量である。例えば、第2層10が前記複数層の第4層を有し、前記複数層の第4層と、単一層の第1層9又は前記複数層の第3層を有する第1層9とが交互に配置される場合、第2層10の層数は、前記複数層の第4層を1単位として捉えたときの単位数である。
【0090】
前記第1層9の層数及び第2層10の層数は、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)が天然リードに近づくように適宜設定され得る。
【0091】
前記のように、第1層9の層数としては、1層以上が好ましく、第2層10の層数としては、2層以上が好ましい。このように、第1層9の層数と第2層10の層数の合計としては、3層以上が好ましい。第1層9及び第2層10の各層数が大きい程、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を細かく調整することができるため、これらを天然リードに近づけやすくなる傾向にある。加えて、第1層9及び第2層10の層数が大きい程、当該木管楽器用リード1全体がより一体となって振動することができるため、好ましい。従って、例えばこのような観点を考慮して第1層9及び第2層10の各層数を適宜設定することができる。
【0092】
さらに、第1層9の層数及び第2層10の層数の合計が大きい程、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を細かく調整することができるため、これらを天然リードに近づけやすくなる傾向にある。加えて、前記合計の層数が大きい程、当該木管楽器用リード1全体がより一体となって振動することができるため、好ましい。従って、例えばこのような観点を考慮して、前記した第1層9及び第2層の各層数に加えて、第1層9の層数及び第2層10の層数の合計を適宜設定し得る。
【0093】
ここで、当該木管楽器用リード1は、第1層9及び第2層10によって形成される複合材料とみなすことができる。この場合、当該木管楽器用リード1の長手方向の弾性率(Ex)については、下記式(1)で示されるVoigt則の適用が可能であり、幅方向の弾性率(Ey)については、下記式(2)で示されるReuss則の適用が可能であると考えられる。これら下記式(1)、(2)に示されるように、弾性率(Ex)及び弾性率(Ey)は、当該木管楽器用リード1の全体の体積Vtに対する第1層9の全層の体積V1の比Vf(=V1/Vt)による影響を受ける。Vfは、当該木管楽器用リード1に含まれる第1層及び第2層10の全層の体積を1とした場合の第1層9の全層の体積比である。従って、当該木管楽器用リード1の弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を適切に調整するうえで、下記式(1)、(2)を考慮して前記体積比Vfを適切に調整することが好ましい。
Ex=Vf×Ef+(1-Vf)×Em ・・・(1)
1/Ey=Vf/Ef+(1-Vf)/Em ・・・(2)
Ef:第1層9の弾性率
Em:第2層10の弾性率
【0094】
[木管楽器用リードの製造方法]
当該木管楽器用リード1は、第1層9と第2層10とを接着することによって製造することができる。すなわち、当該木管楽器用リード1の製造方法は、第1層9と第2層10とを接着する工程(接着工程)を備える。
【0095】
前記接着工程として、切り出すことによって第1層9を形成することが可能な板状の第1原反30、及び切り出すことによって第2層を形成することが可能な板状の第2原反40とを接着して積層体20を形成する工程(積層体形成工程)と、得られた積層体20を切り出す工程(切り出し工程)とを行ってもよい。
【0096】
前記積層体形成工程では、例えば第1原反30として、第1樹脂としての熱硬化性樹脂を有し、半硬化の状態(完全に硬化していない状態)である樹脂マトリクス9a中に繊維9bが含有されているシート状のプリプレグを用いることができる。例えば第2原反40として、第2樹脂としての熱硬化性樹脂を有し、半硬化の状態(完全に硬化していない状態)であって、かつ未発泡の状態である第1シート体を用いることができる。その他、例えば第2原反40として、第2樹脂としての熱硬化性樹脂を有し、半硬化又は完全硬化の状態であり、かつ発泡した状態である第2シート体を用いることができる。
【0097】
金型50としては、例えば図5及び図6に示すように、矩形板状の平坦な底部51、矩形の開口を有する筒状の側部53、及び矩形板状の平坦な蓋部55を有する金型50を用いることができる。金型50における底部51及び側部53とで形成された空間に、複数の第1原反30及び複数の第2原反40を、厚さ方向(図6の上下方向)に交互に重ねて収容し、蓋部55を被せた後、加熱する。この加熱によって半硬化状態の第1樹脂及び第2樹脂を硬化させ、これらの硬化によって第1原反30及び第2原反40を接着させることができ、これにより、積層体20を作製することができる。加熱温度は、第1原反30及び第2原反40が接着するように適宜設定され得る。第2原反30として前記第1シート体を用いる場合には、前記加熱温度は、前記第1シート体が発泡するように適宜設定され得る。蓋部55によって、積層体20の厚さが、側部53の高さに調整される。第2原反30として完全硬化の状態の前記第2シート体を用いる場合には、半硬化の状態である上記プリプレグの硬化により、このプリプレグと第2シート体とが接着される。
【0098】
前記プリプレグは、例えば液状の熱硬化性樹脂である第1樹脂と、繊維9bと、硬化剤とを混合し、第1樹脂が完全に硬化しない状態(半硬化状態)を保ちながらシート状に押し出すことによって、製造することができる。硬化剤としては、従来公知の硬化剤を用いることができる。このようなプリプレグとしては、市販品を用いることができる。
【0099】
互いの異なるタイプの前記複数の第1原反30を用いる場合には、第1樹脂の種類、又は繊維の種類、平均厚み等が適宜変更された各第1原反を用いればよい。
【0100】
前記第1シート体は、例えば液状の熱硬化性樹脂である第2樹脂と、発泡剤と、硬化剤とを、発泡剤が発泡せず、かつ第2樹脂が完全に硬化しない状態(半硬化状態)を保つように加熱しながら混合し、シート状に押し出すことによって、製造することができる。発泡剤及び硬化剤としては、従来公知の発泡剤及び硬化剤を用いることができる。前記発泡剤としては、従来公知の化学発泡剤、熱膨張性マイクロカプセル等が挙げられる。このような第1シート体としては、市販品を用いることができる。
【0101】
前記第2シート体は、例えば液状の熱硬化性樹脂である第2樹脂と、発泡剤と、硬化剤とを、発泡剤が発泡し、かつ第2樹脂が完全に硬化しない状態(半硬化状態)を保つように、又は完全に硬化した状態となるように加熱しながら混合し、シート状に押し出すことによって、製造することができる。発泡剤及び硬化剤としては、従来公知の発泡剤及び硬化剤を用いることができる。前記発泡剤としては、従来公知の化学発泡剤、熱膨張性マイクロカプセル等が挙げられる。このような第2シート体としては、市販品を用いることができる。なお、前記第2シート体と同じ材質であってこれよりも平均厚さが大きく、既発泡の状態であり、かつ半硬化又は完全硬化の状態である市販のブロック体を所望の厚さに切断することにより、第2シート体を得ることもできる。
【0102】
互いに異なるタイプの前記複数の第2原反40を用いる場合には、第2樹脂の種類、空隙率、又は平均厚さ等が適宜変更された各第2原反を用いればよい。
【0103】
なお、図6に示された第1原反30及び第2原反40の層数は、あくまで例示であり、図6に示された数量に限定されない。
【0104】
当該木管楽器用リード1の第1層9が複数層の第3層を有する場合には、前記各第3層に応じた複数の第1原反を1単位とし、各単位と第2原反とを交互に重ね合わせればよい。
【0105】
当該木管楽器用リード1の第2層10が複数層の第4層を有する場合には、前記各第4層に応じた複数の第2原反を1単位とし、各単位と第1原反とを交互に重ね合わせればよい。
【0106】
前記切り出し工程では、積層体20の積層方向(図6のY方向)が当該木管楽器用リード1の幅方向(図3のY方向)と一致し、積層体20の長手方向(図5のX方向)が当該木管楽器用リード1の長手方向(図3のX方向)と一致し、かつ積層体20の幅方向(図5及び図6のZ方向)が当該木管楽器用リード1の厚さ方向(図3の紙面に垂直な方向)と一致するように切り出す。切り出しに用いる装置としては、従来公知のカッター装置等(図示せず)を用いることができる。
【0107】
<利点>
当該木管楽器用リード1は、第1層9及び第2層10が幅方向に交互に配置し、リードの長手方向の弾性率(Ex)、リードの幅方向の弾性率(Ey)に対する前記長手方向の弾性率(Ex)の比(Ex/Ey)を調整することができる。そして、弾性率比(Ex/Ey)を2以上に調整することで、リードの弾性率(Ex)及び(Ex)/Ey)を天然リードに近づけることが可能になる。よって、当該木管楽器用リードの音色及び演奏性を天然リードに近づけることが可能になる。
【0108】
加えて、第1層9と第2層10とを積層する際、樹脂同士を接着することができるため、前述の通り、製造性及び耐久性に優れる。
【0109】
従って、当該木管楽器用リード1は、人工的に形成されながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。
【0110】
[第2実施形態]
<木管楽器>
本実施形態の木管楽器は、図1に例示されるように、当該木管楽器用リード1を備える。当該木管楽器用リード1は、前述の通り、第1樹脂を有する樹脂マトリクス9a、及び前記樹脂マトリクス9a中に含有される繊維9bを含む1又は複数の第1層9と、第2樹脂を含む1又は複数の第2層10とを備え、前記第1層9及び前記第2層10が幅方向に交互に配置される。前述の通り、前記木管楽器用リード1における幅方向の弾性率(Ey)に対する長手方向の弾性率(Ex)の比(Ex/Ey)が2以上である。
【0111】
<利点>
当該木管楽器は、前述した当該木管楽器用リード1を備えるため、人工的に形成された当該木管楽器用リード1を用いながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。
【0112】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0113】
例えば当該木管楽器用リードは、当該木管楽器用リードの製造方法によって製造されるものに限られない。
【0114】
例えば前記実施形態では、第1層の第1樹脂及び第2層の第2樹脂として、それぞれ熱硬化性樹脂を用いる場合を具体的に示したが、前記第1樹脂及び前記第2樹脂として、それぞれ熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【実施例0115】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
(使用材料)
・第1原反
下記表1に示すように、エポキシ樹脂マトリクス中に連続繊維である複数本の炭素繊維を有するプリプレグとして、三菱ケミカル社製のパイロフィルTR352R100Sを用いた。エポキシ樹脂マトリクス中に連続繊維であるガラス繊維を有するプリプレグとして、三菱ケミカル社製のGE352G135Sを用いた。各第1原反の繊維含有量、及び後述する加熱後の各第1原反の平均厚さを、表1に示す。
【0117】
・第2原反
下記表1に示すように第2樹脂としてのエポキシ樹脂と、熱膨張性バルーンとを含有する第1シート体として、サンユレック社製のDRS-127を用いた。各第2原反の後述する加熱後(発泡後)の平均厚さを表1に示す。後述する加熱後の各第2原反の空隙率を、後述する測定方法で測定した。結果を表1に示す。
【0118】
(積層体の製造)
表1に示す組み合わせで、第1原反及び第2原反を厚さ方向に交互に重ね合わせて前述と同様の金型に収容し、130℃で1時間加熱して、実験例1~12の積層体を製造した。この加熱により、第1原反及び第2原反が硬化し、かつ第2原反が発泡した状態となった。具体的には、以下のようにして各積層体を製造した。
【0119】
・実験例1、3、4、6~8の積層体の製造
表1に示すように、1枚の第1原反及び1枚の第2原反の組み合わせを1周期とした。この組み合わせを20周期(第1原反が20枚、第2原反が20枚)又は40周期(第1原反が40枚、第2原反が40枚)となるようにさらに重ね合わせて前述した金型に収容し、前記のように加熱して、実験例1、3、4、6~8の積層体を作製した。この各積層体では、複数の第1原反及び複数の第2原反が、第1原反、第2原反、第1原反、第2原反、第1原反、第2原反・・・の順に交互に積層された。この各積層体では、1枚の第1原反が第1層に相当するものであり、1枚の第2原反が第2層に相当するものであった。各第2原反は、前記加熱によって発泡した状態となった。得られた各積層体の全体の質量、平均長さ(X方向)、平均幅(Z方向)、平均厚さ(Y方向)を測定した。結果を表1に示す。
【0120】
・実験例2、5、10の積層体の製造
表1に示すように、1枚の第1原反及び2枚の第2原反の組み合わせを1周期とした。この組み合わせを10周期(第1各原反が10枚、第2原反が20枚)又は20周期(第1各原反が20枚、第2原反が40枚)となるように重ね合わせて前述した金型に収容し、前記のように加熱して、実験例2、5、10の積層体を作製した。この各積層体では、複数の第1原反及び複数の第2原反が、第1原反、第2原反、第2原反、第1原反、第2原反、第2原反・・・の順に交互に積層された。すなわち、1枚の第1原反と2枚の第2原反とが交互に積層された。この各積層体では、1枚の第1原反が第1層に相当するものであり、2枚の第2原反が第2層に相当するものであった。各第2原反は、前記加熱によって発泡した状態となった。得られた各積層体の全体の質量、平均長さ(X方向)、平均幅(Z方向)、平均厚さ(Y方向)を測定した。結果を表1に示す。
【0121】
・実験例9の積層体の製造
2枚の第1原反及び2枚の第2原反の組み合わせを1周期とした。この組み合わせを20周期(第1各原反が40枚、第1原反が40枚)となるように重ね合わせて前述した金型に収容し、前記のように加熱して、実験例9の積層体を作製した。この積層体では、20枚の第1原反及び20枚の第2原反が、第1原反、第1原反、第2原反、第2原反、第1原反、第1原反、第2原反、第2原反・・・の順に交互に積層された。すなわち、2枚の第1原反と2枚の第2原反とが交互に積層された。この積層体では、2枚の第1原反が第1層に相当するものであり、2枚の第2原反が第2層に相当するものであった。各第2原反は、前記加熱によって発泡した状態となった。得られた積層体の全体の質量、平均長さ(X方向)、平均幅(Z方向)、平均厚さ(Y方向)を測定した。結果を表1に示す。
【0122】
得られた積層体の長手方向(X方向、すなわちリードの長手方向)の弾性率(Ex)、及び厚さ方向(Y方向、すなわちリードの幅方向)の弾性率(Ey)を下記の測定方法よって測定した。また、得られた弾性率(Ex)及び弾性率(Ey)を用いて弾性率比(Ex/Ey)を算出した。結果を表1に示す。
【0123】
(積層体における幅方向及び長手方向の弾性率の測定方法)
一様な直交異方性素材(図6参照)である積層体を、その厚さ方向(図6のY方向)と平行に、その幅(図6のZ方向の長さ)が0.5mmとなるように切り出し、切り出し片を、図5のX方向の長さが30mm、図6のY方向の長さが15mm、図5及び図6のZ方向の長さが0.5mmになるように切り取って、測定用の試験片を得た。得られた試験片を、互いに間隔を空けて平行に配置された2本のワイヤ上に載置し、試験片の任意の1の角部をスピーカーによって疑似ランダム信号(10kHz以下)で音響加振し、積層体の面外振動の周波数応答をレーザードップラー振動計(製品名:スキャニング振動計、型番:PSV-500、Polytec社製)で検出した。検出した振動から、長手方向(X方向)の曲げ1次を示す第1振動モード、幅方向(Y方向)の曲げ1次を示す第2振動モード、及び平面視(x-y面内)でねじり1次を示す第3振動モードを少なくとも含む4以上の振動モードを、低い周波数から順次抽出した。抽出された4以上の振動モードについて、FEMモデルを用いた実固有値解析(有限要素法)結果と比較することにより、長手方向(X方向)及び幅方向(Y方向)における直交異方性弾性係数(GPa)を同定した。得られた直交異方性弾性係数のうち、幅方向の成分を積層体の幅方向の弾性率(Ey)とし、長手方向の成分を積層体の長手方向の弾性率(Ex)とした。ただし、ここで使用したFEMモデルにおいては、積層体の試験片が十分に薄い平板であることを考慮し、面外のせん断変形は起こらないと仮定した(ベルヌーイ・オイラーの仮定)。なお、弾性率を測定する際の切り出し寸法のうち、Y方向(リードの幅方向)の長さは、15mm程度(15mm±5mm)であれば、測定結果に影響しない。
【0124】
(空隙率の測定方法)
積層体を長手方向(図5のX方向)かつ幅方向(図5及び図6のZ方向)に沿って任意の1の第2層が露出するように切断した。露出した第2層の断面における1mm×1mmの領域を顕微鏡で観察し、空隙(気泡)に相当する部分の面積を測定した。前記領域の総面積(100%)に対する空隙の部分の面積の比率(%)を算出した。この比率を空隙率とした。顕微鏡の拡大倍率は、100倍とした。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に示すように、第1原反及び第2原反を交互に積層することで、弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を調整し得ることがわかった。加えて、弾性率比(Ex/Ey)を2以上に調整することで、弾性率(Ex)及び弾性率比(Ex/Ey)を天然リードに近づけ得ることがわかった。従って、前記のようにして得られた積層体から、積層体の積層方向(図6のY方向)がリードの幅方向(図3のY方向)と一致し、積層体の長手方向(図5のX方向)がリードの長手方向(図3のX方向)と一致し、かつ積層体の幅方向(図5及び図6のZ方向)がリードの厚さ方向(図3の紙面に垂直な方向)と一致するようにリードを切り出すことによって、音色及び演奏性が天然リードに近いリードが得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の木管楽器用リードは、人工的に形成されながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。本発明の木管楽器は、人工的に形成された木管楽器用リードを用いながら、音色及び演奏性に優れ、かつ耐久性及び製造性に優れる。従って、本発明の木管楽器用リード及び木管楽器は、サクソフォンだけでなく、リードを使用する他の木管楽器にも広く利用することができる。
【符号の説明】
【0128】
1 木管楽器用リード
2 サクソフォン本体
3 マウスピース
4 管体部
5 キイ
6 レバー
7 リガチャ
8 ヴァンプ
9 第1層
9a 樹脂マトリクス
9b 繊維
10 第2層
10a 気泡
20 積層体
30 第1原反
40 第2原反
50 金型
51 底部
53 側部
55 蓋部
図1
図2
図3
図4
図5
図6