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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110417
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20220722BHJP
   B60T 17/02 20060101ALI20220722BHJP
   B60T 8/40 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T17/02
B60T8/40 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005816
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 駿
(72)【発明者】
【氏名】▲葛▼谷 賢
【テーマコード(参考)】
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D049BB02
3D049CC02
3D049HH12
3D049HH13
3D049HH39
3D049KK18
3D049RR11
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA01
3D246HA38A
3D246LA52Z
3D246LA56Z
3D246MA09
(57)【要約】
【課題】 車輪制動器に作動液を協調して供給可能な2つのブレーキシステムを備えた液圧ブレーキシステムの実用性を向上させる。
【解決手段】 第1ブレーキシステム12には、第1ポンプ装置22とアキュムレータ24とを有する高圧源装置26を設け、通常時には、アキュムレータ圧Paccが設定上限圧以下設定下限圧以上となるように第1ポンプ装置を間欠的に駆動する。また、通常時には、第1ブレーキシステム,第2ブレーキシステム14の両方に、「主電源」から電力を供給し、主電源が失陥したときには、「補助電源」から、第1ブレーキシステムにだけ電力を供給しつつ、第1ポンプ装置を、アキュムレータ圧に拘わらず連続的に駆動する。突入電流が複数回発生することを回避し、補助電源の負担を軽減することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられた車輪制動器と、
第1ポンプ装置とその第1ポンプ装置から吐出される作動液を貯留するアキュムレータとを有してそのアキュムレータに貯留された作動液の圧力が設定下限圧以上設定上限圧以下となるように前記第1ポンプ装置が間欠的に駆動されるように構成された高圧源装置を備え、その高圧源装置からの作動液に依存して調圧した作動液を前記車輪制動器に供給する第1ブレーキシステムと、
第2ポンプ装置を備え、その第2ポンプ装置からの作動液に依存して調圧した作動液を前記車輪制動器に供給する第2ブレーキシステムと、
前記第1ブレーキシステムと前記第2ブレーキシステムとに電力を供給する主電源と
を含んで構成され、車両に搭載される液圧ブレーキシステムであって、
前記主電源の失陥時に前記第1ブレーキシステムに電力を供給する補助電源を、さらに備えるとともに、前記主電源の失陥時には、前記アキュムレータに貯留された作動液の圧力に拘わらず、前記第1ポンプ装置が連続的に駆動されるように構成された液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記補助電源が、前記主電源に対して容量が小さく、前記主電源によって充電されるように構成された請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
当該車両が自動運転中には、前記主電源が失陥していなくても、前記主電源に代わって前記補助電源から前記第1ブレーキシステムに電力が供給されるように構成された請求項1または請求項2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記第1ブレーキシステム,前記第2ブレーキシステムが、それぞれ、自身の制御を司る第1コントローラ,第2コントローラを含んで構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
前記主電源が、前記第1ブレーキシステム,前記第2ブレーキシステム以外の他の車載システムに電力を供給し、前記補助電源が、前記主電源の失陥時には、前記他の車載システムの少なくとも一部に電力を供給するように構成された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項6】
当該液圧ブレーキシステムが、前記第1ブレーキシステムから前記第2ブレーキシステムに作動液が導入されるように構成され、
前記第2ブレーキシステムが、前記第1ブレーキシステムから供給される作動液の圧力である第1液圧より高い第2液圧の作動液を前記車輪制動器に供給可能に構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項7】
前記第2ポンプ装置が、前記第2ブレーキシステムが前記第2液圧の作動液を前記車輪制動器に供給するときに駆動される請求項6に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項8】
前記第1ブレーキシステムが、
前記アキュムレータに貯留された作動液の圧力が前記設定上限圧より高く設定されたリリーフ圧に到達したときに、その圧力を逃がすためのリリーフ弁を含んで構成された請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項9】
主電源と、
補助電源と、
車輪に設けられた車輪制動器と、
前記主電源から電力を供給され、モータを駆動することによって移動する作動液に依存して前記車輪制動器に供給される作動液を調圧するブレーキシステムと、
を含んで構成され、車両に搭載される液圧ブレーキシステムであって、
前記ブレーキシステムは、前記主電源の失陥時に前記補助電源によって電力を供給され、前記主電源の失陥時には、前記モータが連続的に駆動されるように構成された液圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される液圧ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の液圧ブレーキシステムに関し、例えば、下記特許文献に記載されたようなシステム、詳しく言えば、車輪に設けられた車輪制動器と、その車輪制動器に個別に若しくは協調して作動液を供給する2つのブレーキシステムとを備えた液圧ブレーキシステムが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-32962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液圧ブレーキシステムは、一般的に、電源から電力が供給されるが、その電源が失陥することも予想され、その失陥に対処する手段を設けることで、その液圧ブレーキシステムの実用性が向上させられる。ちなみに、上記特許文献に記載された液圧ブレーキシステムは、2つのブレーキシステムを備えているため、電源の失陥に対処するための手段に工夫を凝らす余地は多い。また、2つのブレーキシステムを備えているか否かに拘わらず、主電源の失陥に対処することは有意義である。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い液圧ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の液圧ブレーキシステムは、
車輪に設けられた車輪制動器と、
第1ポンプ装置とその第1ポンプ装置から吐出される作動液を貯留するアキュムレータとを有してそのアキュムレータに貯留された作動液の圧力が設定下限圧以上設定上限圧以下となるように前記第1ポンプ装置が間欠的に駆動されるように構成された高圧源装置を備え、その高圧源装置からの作動液に依存して調圧した作動液を前記車輪制動器に供給する第1ブレーキシステムと、
第2ポンプ装置を備え、その第2ポンプ装置からの作動液に依存して調圧した作動液を前記車輪制動器に供給する第2ブレーキシステムと、
前記第1ブレーキシステムと前記第2ブレーキシステムとに電力を供給する主電源と
を含んで構成され、車両に搭載される液圧ブレーキシステムであって、
前記主電源の失陥時に前記第1ブレーキシステムに電力を供給する補助電源を、さらに備えるとともに、前記主電源の失陥時には、前記アキュムレータに貯留された作動液の圧力に拘わらず、前記第1ポンプ装置が連続的に駆動されるように構成される。
【0006】
また、もう一つの本発明の液圧ブレーキシステムは、
主電源と、
補助電源と、
車輪に設けられた車輪制動器と、
前記主電源から電力を供給され、モータを駆動することによって移動する作動液に依存して前記車輪制動器に供給される作動液を調圧するブレーキシステムと、
を含んで構成され、車両に搭載される液圧ブレーキシステムであって、
前記ブレーキシステムは、前記主電源の失陥時に前記補助電源によって電力を供給され、前記主電源の失陥時には、前記モータが連続的に駆動されるように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液圧ブレーキシステムは、上記主電源の失陥に対処すべく上記補助電源を備える。その補助電源は、第1ブレーキシステム,第2ブレーキシステム(以下、「第1システム」,「第2システム」と略す場合がある)の両方にではなく、それらの一方である第1システムにだけ電力を供給するようにされているため、充電容量を比較的小さくすることができる。
【0008】
一方で、第1ポンプ装置は、アキュムレータに貯留された作動液の圧力(以下、「アキュムレータ圧」という場合がある)が設定下限圧未満となって駆動を開始するときに、大きな電流を必要とする。端的に言えば、いわゆる突入電流が大きくなってしまう。したがって、第1ポンプ装置の間欠的駆動は、駆動の開始が繰り返されることから、補助電源からの電力が供給されている状態において、その補助電源に対して大きな負担となる。詳しく言えば、補助電源が二次電池,キャパシタ等を含んで構成されている場合、補助電源の充電量が少なくなってきた状態で大きな突入電流が流れれば、補助電源の電圧が大きく降下してしまうことになる。この電圧降下現象は、第1システムのコントローラの作動や、当該補助電源が他の車載システムに電力を供給している場合におけるその車載システムの作動に悪影響を与えることになる。そのことに鑑み、本発明の液圧ブレーキシステムでは、補助電源で第1ポンプ装置を駆動させる場合、通常時の間欠的駆動に代えて、アキュムレータ圧に拘わらない連続的駆動を行うようにされている。したがって、本発明の液圧ブレーキシステムによれば、主電源が失陥した場合においても、第1システムのコントローラや他の車載システム等の作動に対する上記悪影響を防止することが可能となる。
【0009】
また、もう一つの本発明の液圧ブレーキシステムによれば、主電源の失陥時に、ブレーキシステムにおいて作動液を移動するためのモータが、補助電源からの電力で、連続的に駆動されることから、モータが間欠的に駆動される場合と比べて、モータの突入電流の発生回数を減少させて補助電源の電圧降下量を減少させることができ、主電源の失陥に対して適切に対処することが可能となる。
【発明の態様】
【0010】
本発明の液圧ブレーキシステムにおける主電源は、例えば、オルタネータ(発電機)によって発電された電力を蓄電するための蓄電池を含むものを採用することができる。それに対して、補助電源は、主に、主電源の失陥に対処するためのものであり、比較的短い時間だけ電力を供給可能であればよく、主電源に対して容量が小さいことが望ましい。また、補助電源は、当該液圧ブレーキシステムの構成の簡素化に鑑みれば、オルタネータによって充電されるものでなく、コンバータ等を介して、主電源によって充電されるものであることが望ましい。なお、後に詳しく説明するが、たとえば、補助電源が、主電源が失陥していないときでも何等かのシステムに電流を供給するようにされている場合には、当該補助電源は、主電源によって常時充電されつつ何等かのシステムに電力を供給するようにされていることが望ましい。
【0011】
本発明の液圧ブレーキシステムが搭載されている車両が、自動運転可能な車両である場合、自動運転中において主電源が失陥したときは、運転者による手動運転中に主電源が失陥したときよりも、より適切な対処が必要とされる。そのことに鑑みれば、つまり、自動運転中の主電源の失陥への迅速,円滑な対処に鑑みれば、本発明の液圧ブレーキシステムは、自動運転中には、主電源が失陥していなくても、主電源に代わって補助電源から第1システムに電力が供給されるように構成されることが望ましい。
【0012】
液圧ブレーキシステムは、ポンプ装置,電磁弁等を含んで構成され、当該ブレーキシステムの制御は、一般的に、コンピュータ,ポンプ装置の駆動源となる電動モータのドライバ,電磁弁のドライバ等を含んで構成されるコントローラによって行われる。第1システムと第2システムとのうちの第1システムだけが主電源の失陥時に機能することに鑑みれば、第1システム,第2システムは、それぞれ、自身の制御を司る第1コントローラ,第2コントローラを含んで構成されることが望ましい。2つのコントローラにより、充分に冗長的な液圧ブレーキシステムが実現される。なお、通常時において、車輪制動器が発生させるブレーキ力を、2つのシステムが協調するように制御することが望ましい。その場合、第1コントローラ,第2コントローラは、例えば、通信によって、互いに情報をやり取りしつつ、自身の制御を実行するように構成することも可能である。
【0013】
主電源は、当該第1システムだけに電力を供給するものに限られない。つまり、主電源は、第1システム,第2システム以外の他の車載システムに電力を供給してもよいのである。そのような液圧ブレーキシステムの場合、主電源の失陥時に、補助電源が、第1システムだけでなく、他の車載システムの少なくとも一部にも電力を供給するように構成されてもよい。
【0014】
なお、本発明の液圧ブレーキシステムにおいて、第1システム,第2システムに関し、「高圧源装置若しくは第2ポンプ装置からの作動液に依存して調圧した作動液」とは、「高圧源装置若しくは第2ポンプ装置から供給される作動液自体が調圧されたもの」であってもよく、「高圧源装置若しくは第2ポンプ装置から供給される作動液の圧力を利用してその作動液とは別の作動液が調圧されたもの」であってもよい。
【0015】
本発明の液圧ブレーキシステムにおいて、第1システム,第2システムの具体的構成や、それら2つのシステムの連携等については、特に限定されないが、例えば、本発明の液圧ブレーキシステムは、第1システムから第2システムに作動液が導入されるように構成され、第2システムが、第1システムから供給される作動液の圧力である第1液圧より高い第2液圧の作動液を車輪制動器に供給可能に構成することができる。このような構成の液圧ブレーキシステムであれば、第1システムと第2システムとが協調したブレーキ力の制御が容易に行えることになる。また、そのような液圧ブレーキシステムの場合、第2システムの第2ポンプ装置は、第2システムが第2液圧の作動液を車輪制動器に供給するとき、つまり、第1システムから供給される作動液の圧力より高い圧力を第2システムが車輪制動器に供給するときに、駆動されればよい。
【0016】
主電源の失陥時に、第1システムの第1ポンプ装置を連続的に駆動すると、アキュムレータ圧が高くなり過ぎることも懸念される。そのことに鑑みれば、第1システムは、アキュムレータに貯留された作動液の圧力が設定上限圧より高く設定されたリリーフ圧に到達したときに、その圧力を逃がすためのリリーフ弁を含んで構成されることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例の液圧ブレーキシステムの液圧回路図である。
図2】実施例の液圧ブレーキシステムおよび車両に搭載された他の車載システムと電源との関係を示すブロック図である。
図3】実施例の液圧ブレーキシステムにおいて実行される高圧源装置制御プロクラムおよびマスタシリンダ圧制御プログラムのフローチャートである。
図4】実施例の液圧ブレーキシステムにおいて実行されるホイールシリンダ圧制御プログラムのフローチャートである。
図5】実施例の液圧ブレーキシステムにおけるポンプ装置の駆動と、アキュムレータ圧,ポンプモータに供給される電流,ポンプ装置に電流を供給する電源の電圧の変化ととの関係を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例である液圧ブレーキシステムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、上記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例0019】
[A]液圧ブレーキシステムの構成
以下に、図1の液圧回路図を参照しつつ、実施例の液圧ブレーキシステムの構成について説明する。液圧ブレーキシステムは、前後左右4つの車輪のそれぞれにブレーキ力を付与するシステムであり、図から解るように、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ設けられた車輪制動器10FL,10FR,10RL,10RR(以下、「車輪制動器10」と総称する場合がある)を備えている。車輪制動器10は、車輪とともに回転するディスクロータと、車輪を回転可能に保持するキャリアに支持されたブレーキキャリパとを含んで構成される一般的なものであり、ブレーキキャリパは、ブレーキパッドと、作動液が供給されるホイールシリンダと、そのホイールシリンダに供給される作動液の圧力によってピストンを動かしてブレーキパッドをディスクロータに押し付けるアクチュエータとを含んで構成されている。以下、「車輪制動器10を構成するブレーキキャリパのホイールシリンダに作動液を供給する」ことを、単に、「車輪制動器10に作動液を供給する」という場合があることとする。
【0020】
実施例の液圧ブレーキシステム(以下、「本ブレーキシステム」という場合がある)は、2つのブレーキシステムである第1ブレーキシステム12(以下、「第1システム12」という場合がある)と、第2ブレーキシステム14(以下、「第2システム14」という場合がある)とを備えている。車輪制動器10に供給される作動液の流れに鑑みて、第1システム12を上流側システム(「サブシステム」と考えることができる)と、第2システム14を下流側システム(「メインシステム」と考えることができる)と、それぞれ呼ぶこともできる。後に詳しく説明するが、第1システム12から供給される作動液は、第2システム14を介して車輪制動器10に供給される。なお、液圧ブレーキシステムは、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル16を備えている。
【0021】
第1システム12は、大気圧で作動液が貯留されるリザーバ20と、そのリザーバ20の作動液を汲み上げて加圧する第1ポンプ装置22とアキュムレータ24とを有する一般的な高圧源装置26と、ブレーキペダル16が連結されるマスタシリンダ28と、調圧器としてのレギュレータ30と、電磁式の増圧用リニア弁SLAおよび減圧用リニア弁SLRとを含んで構成されている。ちなみに、第1ポンプ装置22は、プランジャ型のポンプ22aとそのポンプ22aを駆動する電動モータであるポンプモータ22bとを含んで構成されている。
【0022】
マスタシリンダ28は、簡単に説明すれば、ハウジング28aと、ハウジング28a内に配設された入力ピストン28b,第1加圧ピストン28c,第2加圧ピストン28dとを含んで構成されている。ハウジング28a内には、入力ピストン28bと第1加圧ピストン28cとの間に、ピストン間室R1が、第1加圧ピストン28cと第2加圧ピストン28dとの間に、第1加圧室R2が、第2加圧ピストン28dの前方(図の左方である)に、第2加圧室R3が、第1加圧ピストン28cの鍔部28eの後方(図の右方である)には、環状のサーボ室R4が、鍔部28eの前方には、環状の反力室R5が、それぞれ区画形成されている。なお、入力ピストン28bは、ロッド32を介して、ブレーキペダル16と連結している。
【0023】
第1システム12には、ピストン間室R1と反力室R5とを連通するための室間連通路34が設けられており、この室間連通路34には、常閉型(励磁されないときに閉弁しており、励磁されることによって開弁する型式)の電磁式開閉弁である室間連通弁SGHが配設されている。また、第1システム12には、室間連通路34における室間連通弁SGHと反力室R5との間の部分とリザーバ20とを連通するための反力室解放路36が設けられており、この反力室解放路36には、常開型(励磁されないときに開弁しており、励磁されることによって閉弁する型式)の電磁式開閉弁である二室封止弁SSAが配設されている。また、室間連通路34における室間連通弁SGHと反力室R5との間の部分には、ブレーキペダル16に操作反力を付与しつつそのブレーキペダル16の踏み込み操作を許容するためのストロークシミュレータ38が繋がれている。
【0024】
通常、室間連通弁SGH,二室封止弁SSAは、励磁されて、それぞれ、開弁状態,閉弁状態とされる。つまり、ピストン間室R1と反力室R5とは、それらが封止された状態で互いに連通させられる。第1加圧ピストン28cのピストン間室R1に対する受圧面積と、第1加圧ピストン28cの鍔部28eの反力室R5に対する受圧面積とが、等しくされているため、室間連通弁SGH,二室封止弁SSAが励磁された状態では、ブレーキペダル16の操作によってピストン間室R1の作動液を加圧しても、第1加圧ピストン28cは前進しない。この状態において、サーボ室R4に作動液が導入されると、その作動液の圧力、つまり、サーボ圧Psrvに応じた力によって、第1加圧ピストン28cは前進し、その前進によって第2加圧ピストン28dも前進する。それら第1加圧ピストン28c,第2加圧ピストン28dの前進によって、それぞれ、第1加圧室R2,第2加圧室R3において、作動液が、サーボ圧Psrvに応じた圧力であるマスタシリンダ圧Pmcに加圧され、それら加圧された作動液が、マスタ液通路40f,40r(以下、「マスタ液通路40」と総称する場合がある)を介して、第2システム14に供給される。
【0025】
なお、電気的失陥が生じている場合には、室間連通弁SGH,二室封止弁SSAが励磁されないため、ピストン間室R1が密閉されつつ、反力室R5が解放される。その状態では、サーボ圧Psrvに依らずとも、ブレーキペダル16に加えられた運転者の操作力によって、第1加圧ピストン28b,第2加圧ピストン28cは前進し、その操作力に応じたマスタシリンダ圧Pmcの作動液が、第2システム14に供給される。
【0026】
レギュレータ30は、スプール弁機構を含む調圧器であり、簡単に説明すれば、ケーシング30aと、ケーシング30a内に配設されたピストン30b,スプール30cとを含んで構成されている。ピストン30b,スプール30cは、ばねによって、それぞれ、前方(図の左方である)に向かって付勢されている。ケーシング30a内には、ピストン30bとスプール30cとの間に、第1パイロット室R6が、ピストン30bの前方に、第2パイロット室R7が、それぞれ区画形成されている。ちなみに、第2パイロット室R7は、上述のマスタ液通路40fの一部となっている。
【0027】
ハウジング30aには、低圧ポートP1,高圧ポートP2,調圧ポートP3が設けられており、低圧ポートP1は、リザーバ20に、高圧ポートP2は、高圧源装置26に、調圧ポートP3は、マスタシリンダ28のサーボ室R4に、それぞれ、液通路を介して繋がっている。図に示す状態は、第1パイロット室R6に圧力が導入されてない状態であり、この状態では、スプール30cが前方端に位置し、低圧ポートP1と調圧ポートP3とが連通され、高圧ポートP2と調圧ポートP3との連通は断たれている。第1パイロット室R6の作動液の圧力を第1パイロット圧Pp1と呼べば、比較的高い第1パイロット圧Pp1の作動液が第1パイロット室R6に導入されれば、スプール30cは後方に向かって移動し、低圧ポートP1と調圧ポートP3との連通が断たれ、高圧ポートP2と調圧ポートP3とが連通される。つまり、簡単に説明すれば、本レギュレータ30は、第1パイロット圧Pp1に応じた高さの圧力の作動液を、調圧ポートP3からマスタシリンダ28のサーボ室R4に供給する。言い換えれば、サーボ圧Psrvを、第1パイロット圧Pp1に応じた高さにする機能を有しているのである。
【0028】
ちなみに、第1システム12では、第2パイロット室R7の作動液の圧力である第2パイロット圧Pp2(マスタシリンダ圧Pmc と等しい)は、第1パイロット圧Pp1よりも若干低くなるようにされているので、通常、ピストン30bは機能しない。しかし、電気的失陥等によって第1パイロット圧Pp1が導入されないような状況下では、高圧源装置26から供給される作動液の圧力(以下、「アキュムレータ圧Pacc」という場合がある)がある程度低くなるまでは、第2パイロット圧Pp2に応じた高さのサーボ圧Psrvの作動液が、レギュレータ30からマスタシリンダ26に供給されることになる。
【0029】
増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLRは、高圧源装置26とリザーバ20とを繋ぐ液通路に直列的に配置されており、それら増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLRの間の作動液の圧力、すなわち、第1パイロット圧Pp1を調整する。増圧用リニア弁SLAは、常閉型のリニア弁であり、自身の上流側の作動液の圧力と下流側の圧力との差、すなわち、差圧を、励磁電流に応じて、励磁電流が大きくなればなる程小さくなるように、調整する。減圧用リニア弁SLRは、常開型のリニア弁であり、差圧を、励磁電流に応じて、励磁電流が大きくなればなる程大きくなるように、調整する。詳しい説明は省略するが、それら増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLRへの励磁電流を制御することによって、レギュレータ30に導入される第1パイロット圧Pp1が制御される。
【0030】
第2システム14は、2つのマスタ液通路40f,40rに対応して、2つの系統である前輪系統50f,後輪系統50r(以下、それぞれを「系統50」と総称する場合がある)によって構成され、各系統50において、電磁式の調圧用リニア弁SMF,SMRを、また、左右の車輪制動器10に対応して、2対の電磁式の開閉弁、詳しくは、2対の圧力保持弁SFLH,SFRH,SRLH,SRRHおよび減圧弁SFLR,SFRR,SRLR,SRRRを有している。以下、調圧用リニア弁SMF,SMRを、調圧用リニア弁SMと総称し、圧力保持弁SFLH,SFRH,SRLH,SRRHを圧力保持弁SHと、減圧弁SFLR,SFRR,SRLR,SRRRを、減圧弁SRと、それぞれ総称する場合があることとする。
【0031】
前輪系統50f,後輪系統50rの各々において、マスタ液通路40は、左右の車輪制動器10の各々に対して作動液を供給するために、2つの対車輪供給路52L,52R(以下、「対車輪供給路52」と総称する場合がある)に分岐されており、その分岐点より上流側に、調圧用リニア弁SMが配設されている。各対車輪供給路52に、圧力保持弁SHが配設され、また、各対車輪供給路52における圧力保持弁SHと車輪制動器10との間の部分とリザーバ54とを繋ぐ減圧路56に、減圧弁SRが配設されている。
【0032】
また、前輪系統50f,後輪系統50rの各々には、詳しい説明は省略するが、ポンプとそのポンプを駆動するポンプモータとを含んで構成される第2ポンプ装置58が配設されている。第2ポンプ装置58は、リザーバ54から作動液を汲み上げ、その作動液を加圧するとともに、その加圧された作動液を、対車輪供給路52における圧力保持弁SHの上流側の部分に、逆止弁60を介して供給する。一方、マスタ液通路40における調圧用リニア弁SMの上流側の部分と、リザーバ54とは、リザーバ54内の作動液の量が設定量未満となっている状態でそのリザーバ54への作動液の受け入れを許容する受入許容弁62を介して、繋げられている。
【0033】
圧力保持弁SHは、常開型の電磁式開閉弁であり、減圧弁SRは、常閉型の電磁式開閉弁である。通常、圧力保持弁SH,減圧弁SRのいずれもが励磁されておらず、当該液圧ブレーキシステムがABS(アンチロック)作動,TRC(トラクションコントロール)作動,VSC(車両安定化制御)作動等を行う場合において、車輪制動器10のホイールシリンダに供給される作動液の圧力であるホイールシリンダ圧Pwcf,Pwcr(以下、「ホイールシリンダ圧Pwc」と総称する場合がある)を解放するときに、それら圧力保持弁SH,減圧弁SRは励磁される。
【0034】
調圧用リニア弁SMは、常開型の電磁式リニア弁であり、差圧、すなわち、マスタシリンダ圧Pmcとホイールシリンダ圧Pwcとの差を、励磁電流に応じて、励磁電流が大きくなればなる程が大きくなるように、調整する。第2ポンプ装置58を駆動しつつ、調圧用リニア弁SMへの供給電流を制御することで、その供給電流に応じてマスタシリンダ圧Pmcより高く調圧された作動液が、各車輪制動器10に供給される。換言すれば、液圧ブレーキシステムが、第1システム12から第2システム14に作動液が導入されるように構成され、マスタシリンダ圧Pmcを第1液圧とし、ホイールシリンダ圧Pwcを第2液圧とした場合において、第2システム14は、第1システム12から供給される作動液の圧力である第1液圧より高い第2液圧の作動液を、車輪制動器10に供給可能に構成されているのである。
【0035】
第1システム12,第2システム14は、それぞれ、自身の制御を司る第1コントローラとしての第1ブレーキ電子制御ユニット(以下、「第1ブレーキECU」という場合がある)70,第2コントローラとしての第2ブレーキ電子制御ユニット(以下、「第2ブレーキECU」という場合がある)72を有している。第1ブレーキECU70は、第1ポンプ装置22のポンプモータ22b,増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLR,室間連通弁SGH,二室封止弁SSA等の作動を制御するものであり、コンピュータと、それらポンプモータ22b,増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLR,室間連通弁SGH,二室封止弁SSA等のドライバ(駆動回路)とを含んで構成されている。その一方で、第2ブレーキECU72は、前輪系統50f,後輪系統50rの各々の第2ポンプ装置58のポンプモータ,調圧用リニア弁SM,圧力保持弁SH,減圧弁SR等の作動を制御するものであり、コンピュータと、それらポンプモータ,調圧用リニア弁SM,圧力保持弁SH,減圧弁SR等のドライバ(駆動回路)とを含んで構成されている。第1ブレーキECU70,第2ブレーキECU72は、図示を省略するCAN(controllable area network or car area network)を介して互いに情報を送受信しつつ、それぞれ、第1システム12,第2システム14の制御を実行する。
【0036】
[B]電源と液圧ブレーキシステムおよび他の車載システムとの関係
図2に示すように、当該車両は、主電源80と、原則的には主電源80の失陥時に機能する補助電源82とを備えている。簡単に説明するが、主電源80は、発電機であるオルタネータ84によって発電された電気量を蓄電するようにされており、その容量は、比較的大きなものとされている。一方で、補助電源82は、DC-DCコンバータ86を介して主電源80に接続されており、主電源80によって常時充電される。補助電源82の容量は、主電源80と比較して相当に小さいものとされている。
【0037】
当該車両には、本液圧ブレーキシステム以外の他のシステムも搭載されている(以下、他のシステムを、「他の車載システム」という場合がある)。図では、自動運転システム、ステアリングシステムが例示されている。本液圧ブレーキシステムは、メインシステムとしての第2システム14,サブシステムとしての第1システム12を含んで構成される冗長的システムと考えることができ、同様に、自動運転システム,ステアリングシステムも冗長的システムとされている。具体的には、図に示すように、自動運転システムは、当該車両の自動運転を司る自動運転メイン自動運転電子制御ユニット(以下、メイン自動運転ECU」という場合がある)90mおよびサブ自動運転電子制御ユニット(以下、「サブ自動運転ECU」という場合がある)90s,ライダー,カメラ等に自動運転に関するセンサであるメイン認識センサ92mおよびサブ認識センサ92sを含んで構成され、また、ステアリングシステムは、自動運転によっても作動するようにされており、メインステアリングシステム94mおよびサブステアリングシステム94sを含んで構成されている。
【0038】
運転者の手動操作による運転(以下、「手動運転」という場合がある)時には、図2(a)に示すように、メイン自動運転ECU90m,メイン認識センサ92m,メインステアリングシステム94mには、当該液圧ブレーキシステムの第2システム14とともに、主電源80から電力が供給され、サブ自動運転ECU90s,サブ認識センサ92s,サブステアリングシステム94sにも、当該液圧ブレーキシステムの第1システム12とともに、主電源80から電力が供給される。
【0039】
自動運転時には、図2(b)に示すように、メイン自動運転ECU90m,メイン認識センサ92m,メインステアリングシステム94mには、当該液圧ブレーキシステムの第2システム14とともに、主電源80から電力が供給される。その一方で、DC-DCコンバータ84は、切換回路を有しており、自動運転時には、自動運転中に主電源80が失陥した際の冗長的システムの適切な作動を担保するために、サブ自動運転ECU90s,サブ認識センサ92s,サブステアリングシステム94sには、当該液圧ブレーキシステムの第2システム14とともに、補助電源82から電力が供給される。
【0040】
主電源80の失陥時について説明すれば、手動運転中に主電源80が失陥した場合には、補助電源82からいずれのシステムにも電力が供給されていないため、失陥した時点から、いずれのシステムに対しても電力は供給されなくなる。それに対して、自動運転中に主電源80が失陥した場合には、それまで、補助電源82から電力が供給されていたサブ自動運転ECU90s,サブ認識センサ92s,サブステアリングシステム94s,当該液圧ブレーキシステムの第1システム12に対して、その補助電源82からの電力の供給が継続される。つまり、図2(c)に示すように、サブ自動運転ECU90s,サブ認識センサ92s,サブステアリングシステム94sにだけ、当該液圧ブレーキシステムの第1システム12とともに、補助電源82から、その補助電源82に蓄えられている電気量が無くなるまで、電力が供給されることになる。
【0041】
[C]液圧ブレーキシステムの制御
(a)通常時の制御
通常時、すなわち、何らの失陥も生じていないときには、実施例の液圧ブレーキシステムでは、第1システム12の制御は、第1ブレーキECU70によって、第2システム14の制御は、第2ブレーキECU72によって、それぞれ、個別に実行される。以下に、第1システム12の制御,第2システム14の制御を、順に説明する。
【0042】
i)第1ブレーキシステムの制御
第1システム12に対しては、高圧源装置26の制御と、当該第1システム12から第2システム14に供給される作動液の圧力、すなわち、マスタシリンダ圧Pmcの制御とが、並行して行われる。
【0043】
高圧源装置26の制御は、端的に言えば、当該高圧源装置26からの作動液の圧力、すなわち、アキュムレータ24に貯留された作動液の圧力であるアキュムレータ圧Paccが、設定下限圧PaccL以上、設定上限圧PaccU以下となるように、ポンプモータ22bの作動が制御される。この高圧源装置26の制御は、第1ブレーキECU70が、図3にフローチャートを示す高圧源装置制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数msec~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。
【0044】
高圧源装置制御プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様である。)において、アキュムレータ圧センサ100(図1参照)によって、アキュムレータ圧Paccが検出される。続くS2において、ポンプフラグFpumpが“1”であるか否かが判定される。ポンプフラグFpumpは、初期値、すなわち、第1ポンプ装置22が駆動されていないときの値が“0”とされ、第1ポンプ装置22が駆動されているときに、値が“1”とされるフラグである。
【0045】
ポンプフラグFpumpが“0”と判定された場合には、S3において、検出されたアキュムレータ圧Paccが設定下限圧PaccLより低いか否かが判定される。アキュムレータ圧Paccが設定下限圧PaccLより以上であると判定された場合には、第1ポンプ装置22は停止させられたままである。アキュムレータ圧Paccが設定下限圧PaccLより低いと判定された場合には、S4において、第1ポンプ装置22の駆動が開始される。つまり、ポンプモータ22bに電流が供給されてポンプモータ22bの作動が開始される。そして、S5において、ポンプフラグFpumpが、“1”とされる。
【0046】
一方、S2においてポンプフラグFpumpが“1”であると判定された場合には、S6において、検出されたアキュムレータ圧Paccが設定上限圧PaccUより高いか否かが判定される。アキュムレータ圧Paccが設定上限圧PaccU以下であると判定された場合には、第1ポンプ装置22の駆動は維持される。アキュムレータ圧Paccが設定上限圧PaccUより高いと判定された場合には、S7において、第1ポンプ装置22の駆動が停止される。つまり、ポンプモータ22bへの電流供給が停止されてポンプモータ22bの作動が停止される。そして、S8において、ポンプフラグFpumpが、“0”とされる。
【0047】
上述のような制御により、ブレーキ力を発生させることによってアキュムレータ圧Paccが設定下限圧PaccL未満となる度に、第1ポンプ装置22は、アキュムレータ圧Paccが設定上限圧PaccUに到達するまで、駆動されるのである。言い換えれば、第1ポンプ装置22は、間欠的に駆動され、アキュムレータ圧Paccが設定下限圧PaccL以上設定上限圧PaccU以下となるように制御される。
【0048】
マスタシリンダ圧Pmcの制御は、端的に言えば、ブレーキペダル16の操作量(踏込量)であるペダルストロークδに基づいて、増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLRに供給される電流を制御することによって行われる。このマスタシリンダ圧Pmcの制御は、第1ブレーキECU70が、図3にフローチャートを示すマスタシリンダ圧制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数msec~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。
【0049】
マスタシリンダ圧制御プログラムに従う処理では、まず、S11において、必要とされるブレーキ力Fb、つまり、発生させるべきブレーキ力Fbの目標となる必要ブレーキ力Fb*が決定される。手動運転の場合は、ブレーキペダル16の操作量(踏込量)であるペダルストロークδに基づいて、次式に従って決定される。
Fb*=α・δ α:ゲイン(係数)
ちなみに、実施例の液圧ブレーキシステムでは、ペダルストロークδを検出するセンサとして、冗長的に、2つのペダルストロークセンサ102a,102bが設けられており(図1参照)、マスタシリンダ圧Pmcの制御には、ペダルストロークセンサ102aによって検出されたペダルストロークδが、後に説明するホイールシリンダ圧Pwcの制御には、ペダルストロークセンサ102bによって検出されたペダルストロークδが、それぞれ、用いられる。なお、自動運転時には、先に説明したサブ自動運転ECU90sからの指令に基づいて、必要ブレーキ力Fb*が決定される。
【0050】
続くS12において、レギュレータ30からマスタシリンダ28のサーボ室R4に導入される作動液の圧力であるサーボ圧Psrvの目標として、目標サーボ圧Psrv*が、次式に従って、必要ブレーキ力Fb*に基づいて決定される。
Psrv*=β・Rp・Fb* β:ゲイン(係数)
ちなみに、Rpは、ブレーキ力Fbに関する第1システム12の寄与率である。
【0051】
ここで、寄与率Rpについて説明する。上述した構造によれば、本液圧ブレーキシステムは、第1システム12だけによってでも、第2システム14だけによっても、さらには、第1システム12,第2システム14が協調してブレーキ力Fbを制御することができる。簡単に説明すれば、第2システム14の調圧用リニア弁SMを開弁状態としたままで、第1システム12から供給される作動液の圧力、つまり、マスタシリンダ圧Pmcを制御することで、ブレーキ力Fbを制御することができる。また、マスタシリンダ圧Pmcが大気圧のままであっても、第2システム14の第2ポンプ装置58を駆動しつつ、調圧用リニア弁SMへの励磁電流を制御することで、ブレーキ力Fbを制御することができる。さらには、マスタシリンダ圧Pmcをそれだけで必要ブレーキ力Fb*を発生させる高さよりも低い高さとした状態で、ホイールシリンダ圧Pwcとマスタシリンダ圧Pmcとの差圧を、第2ポンプ装置58を駆動しつつ調圧用リニア弁SMへの励磁電流を制御することで制御し、ブレーキ力Fbを制御することも可能である。
【0052】
第1システム12によるブレーキ力Fbの制御(以下、「第1システム12による制御」と略す場合がある)と、第2システム14によるブレーキ力Fbの制御(以下、「第2システム14による制御」と略す場合がある)とは、特性において異なる。第2システム14による制御は、第1システム12による制御と比較して、ブレーキ力Fbの立ち上がりが早く、比較的ブレーキ力Fbが小さい領域における追従性(要求されるブレーキ力Fbに対して実際のブレーキ力Fbの遅れの少なさ)が良好である。一方で、第1システム14による制御は、車輪制動器10に比較的多量の作動液の供給が必要とされる比較的大きなブレーキ力Fbへの到達が、第2システム14による制御に比較して早い。このような特性の違いに考慮して、本液圧ブレーキシステムでは、第1システム12,第2システム14の協調制御の一例として、必要ブレーキ力Fb*が比較的小さいときには、第2システム14による制御の寄与を高め、必要ブレーキ力Fb*が比較的大きいときには、第1システム12による制御の寄与を高めるようにされている。詳しい説明は省略するが、そのため、上記寄与率Rpは、0~1の範囲で、必要ブレーキ力Fb*が大きくなればなる程高くなるように設定されている。
【0053】
設定された寄与率Rpに基づく目標サーボ圧Psrv*の決定の後、詳しい説明は省略するが、S13において、目標サーボ圧Psrv*に基づいて、レギュレータ30の第1パイロット室R6の作動液の圧力である第1パイロット圧Pp1の目標として、目標第1パイロット圧Pp1*が決定され、S14において、その目標第1パイロット圧Pp1*に基づいて、増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLRへそれぞれ供給すべき電流である増圧励磁電流Ia,減圧励磁電流Irが決定される。そして、S15において、増圧用リニア弁SLA,減圧用リニア弁SLRに、それぞれ、決定された増圧励磁電流Ia,減圧励磁電流Irが供給される。以上の処理によって、上記寄与率寄与率Rpに配慮しつつ必要ブレーキ力Fb*に応じたマスタシリンダ圧Pmcの作動液が、第1システム12から第2システム14に供給される。
【0054】
なお、以上説明したマスタシリンダ圧Pmcの制御は、比較的簡単なものを説明したが、第1システム12は、実際のサーボ圧Psrvを検出するサーボ圧センサ104を有しており(図1参照)、例えば、上述の目標第1パイロット圧Pp1*を、目標サーボ圧Psrv*に対する実際のサーボ圧Psrvの偏差に基づくフィードバック制御則に従って、決定してもよい。また、第1システム12には、ストロークシミュレータ38内の作動液の圧力を、反力圧Prctとして検出する反力圧センサ106を有しており、例えば、その反力圧rct、すなわち、運転者がブレーキペダル16に加えるブレーキ操作力に基づいて、必要ブレーキ力Fb*を決定してもよい。
【0055】
ii)第2ブレーキシステムの制御
第2システム14の制御は、端的には、各車輪制動器10のホイールシリンダに供給される作動液の圧力であるホイールシリンダ圧Pwcを、必要ブレーキ力Fb*に応じた高さにするための制御であり、この制御は、第2ブレーキECU72が、図4にフローチャートを示すホイールシリンダ圧制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数msec~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。ホイールシリンダ圧Pwcの制御は、前輪系統50f,後輪系統50rの各々ごとに行われるが、それら前輪系統50f,後輪系統50rの制御は同じであるため、以下、それらを一元化して説明することとする。
【0056】
ホイールシリンダ圧制御プログラムに従う処理では、マスタシリンダ圧制御プログラムに従う処理と同様に、まず、S21において、必要ブレーキ力Fb*が決定される。手動運転の場合は、ペダルストロークセンサ102bによって検出されたペダルストロークδに基づいて、上述の式に従って、必要ブレーキ力Fb*が決定される。自動運転時には、先に説明したメイン自動運転ECU90mからの指令に基づいて、必要ブレーキ力Fb*が決定される。なお、第1システム12における必要ブレーキ力Fb*の決定,第2システム14における必要ブレーキ力Fb*の決定の一方は、他方によって決定された値をCANを介した通信で受け取って、その値に基づいて行ってもよい。
【0057】
続くS22において、決定された必要ブレーキ力Fb*に基づいて、下記式に従って、ホイールシリンダ圧Pwcの目標となる目標ホイールシリンダ圧Pwc*が決定される。
Pwc*=γ・Fb* γ:ゲイン(係数)
次のS23において、第2システム14が有するマスタシリンダ圧センサ108(図1参照)によって、実際のマスタシリンダ圧Pmcが検出され、S24において、検出されたマスタシリンダ圧Pmcと目標ホイールシリンダ圧Pwc*とに基づいて、次式に従って、目標ホイールシリンダ圧Pwc*とマスタシリンダ圧Pmcとの差である差圧ΔPが、特定される。
ΔP=Pwc*-Pmc
【0058】
続くS25において、差圧ΔPが0より大きいか否かが判定される。差圧ΔPが0より大きいときには、S26において、第2ポンプ装置58が駆動される。つまり、第2システム14は、マスタシリンダ圧Pmcより高い圧力の作動液を車輪制動器10に供給するときにだけ駆動される。次のS27において、その差圧ΔPに基づいて、調圧用リニア弁SMに供給される励磁電流である調圧励磁電流Imが決定される。そして、S28において、その調圧励磁電流Imが、調圧用リニア弁SMに供給される。
【0059】
一方で、S25において差圧ΔPが0であると判定されたときには、S29において、第2ポンプ装置58が停止され、S30において、調圧励磁電流Imが0とされる。この処理によって、調圧用リニア弁SMには、励磁電流が供給されないことになる。
【0060】
なお、以上説明したホイールシリンダ圧Pwcの制御は、比較的簡単なものを説明したが、第2システム14は、実際のホイールシリンダ圧Pwcを検出するホイールシリンダ圧センサ110を有しており(図1参照)、例えば、上述の調圧励磁電流Imを、目標ホイールシリンダ圧Pwc*圧に対する実際のホイールシリンダ圧Pwcの偏差に基づくフィードバック制御則に従って、決定してもよい。また、第1システム12におけるマスタシリンダ圧Pmcの制御と同様に、反力圧rctに基づいて、必要ブレーキ力Fb*を決定してもよい。
【0061】
(b)主電源失陥時の制御
i)ブレーキ力の制御
先に説明したように、手動運転中に主電源80が失陥した場合、第1システム12,第2システム14のいずれにも電力が供給されなくなる。その場合、当該液圧ブレーキシステムの上記構造から解るように、運転者のブレーキペダル16に対する操作力(踏込力)に依存して、各車輪制動器10はブレーキ力Fbを発生させる。ちなみに、先に説明したように、第1システム12のアキュムレータ24内の作動液の圧力、すなわち、アキュムレータ圧Paccがある程度まで低下するまでは、そのアキュムレータ圧Paccによって操作力がアシストされて、ブレーキ力Fbが発生させられる。
【0062】
一方で、自動運転中に主電源80が失陥した場合には、補助電源82からの第1システム12への電力が継続される。言い換えれば、本液圧ブレーキシステムは、補助電源82から供給される電力だけによって、第1システム12だけが作動することになる。そのことに鑑みて、上述の寄与率Rpが常に1とされて、上記マスタシリンダ圧制御プログラムに従う処理が実行される。そのような第1システム12の制御が実行されることで、補助電源82に蓄えられた電気量がある程度少なくなるまでではあるが、第1システム12だけによっても、自動運転システムからの指示に基づいて、充分なブレーキ力Fbを発生させることが可能となる。
【0063】
ii)高圧源装置の作動に関する問題とその問題からの回避
先に説明した高圧源装置制御プログラムに従う処理によれば、アキュムレータ圧Paccが設定下限圧PaccL以上設定上限圧PaccU以下となるように、第1ポンプ装置22は、間欠的に駆動される。アキュムレータ圧Paccが設定下限圧PaccL未満となて第1ポンプ装置22の駆動が開始されるときには、その第1ポンプ装置22のポンプモータ22bに対して比較的大きな電流が必要とされる。つまり、第1ポンプ装置22の駆動開始時の電流である突入電流が比較的大きくなってしまう。したがって、上記間欠的な駆動を行えば、駆動開始の度に比較的大きな突入電流が生じるため、主電源80の失陥時に比較的容量が小さい補助電源82から第1システム12に電力が供給される場合、その補助電源82への負担が大きくなる。
【0064】
時間の経過に対するアキュムレータ圧Pacc,第1ポンプ装置22の駆動状況,ポンプモータ電流Ip,補助電源82の電圧Vの変化を示す図5のチャートを参照しつつ詳しく説明すれば、図5(a)のチャートは、主電源80に失陥が生じている状態で第1ポンプ装置22を間欠的に駆動した場合の変化を示している。自動運転中において失陥発生時点tdにおいて主電源80の失陥が生じてから、アキュムレータ圧Paccが下降して設定下限圧PaccL未満となったときに、第1ポンプ装置22の駆動が開始され、第1ポンプ装置22の駆動によってアキュムレータ圧Paccが上昇し設定上限圧PaccUを超えたときに、第1ポンプ装置22の駆動が停止される。その後の時間tの経過において、再びアキュムレータ圧Paccが下降して設定下限圧PaccL未満となったときに、第1ポンプ装置22の駆動が、再び開始される。ちなみに、チャートでは、第1ポンプ装置22の駆動の開始時点をtsと表しており、また、第1ポンプ装置22のアキュムレータ圧Paccの変化を示す線において、実線の部分が、第1ポンプ装置22が駆動されていることを、破線の部分が、第1ポンプ装置22の駆動が停止されていることを、それぞれ、示している。
【0065】
ポンプモータ22bに流れる電流であるポンプモータ電流Ipは、図5(a)のチャートに示すように、第1ポンプ装置22の駆動の開始時に、比較的大きくなる。言い換えれば、比較的大きな突入電流がポンプモータ22bに流れる。一方で、補助電源82が充電されないことから、補助電源82の電圧Vは、蓄えられている電気量の減少に伴って降下しつつ、さらに、ポンプモータ電流Ipの変化に応じて変化する。詳しく言えば、ポンプモータ電流Ipが増加するときに、補助電源82の電圧Vの降下の程度が大きくなる。特に、ポンプモータ電流Ipが突入電流となるときに、補助電源82への負担は大きく、補助電源82の電圧Vは相当に大きく降下する。
【0066】
第1ポンプ装置22を間欠的に駆動すれば、突入電流が繰り返され、何回目(図では2回目である)かの突入電流の発生によって、補助電源82の電圧Vは、下限電圧Vlimを下回ることになる。この下限電圧Vlimは、第1システム12の作動や、サブ自動運転ECU90s,サブ認識センサ92s,サブステアリングシステム94s等の補助電源82から電力が供給されている他の車載システムの作動に悪影響を及ぼす電圧Vとして設定されている。つまり、補助電源82に蓄えられた電力によって第1ポンプ装置22を間欠的に駆動する場合には、第1システム12や他の車載システムの作動に悪影響を及ぼす可能性が高いのである。
【0067】
第1ポンプ装置22の間欠的な駆動に伴う上記現象を回避するために、実施例の液圧ブレーキシステムでは、自動運転中に主電源80が失陥が発生したときには、図5(b)のチャートに示すように、失陥発生時点tdから、第1ポンプ装置22を連続的に駆動させる。第1ポンプ装置22の連続的な駆動により、アキュムレータ圧Paccは上昇する。第1システム12には、設定上限圧PaccUより高く設定されたリリーフ圧(開弁圧)PaccRにアキュムレータ圧Paccが到達したときに、そのアキュムレータ圧Paccを逃がすためのリリーフ弁112が設けられており(図1参照)、アキュムレータ圧Paccは、そのリリーフ圧PaccRに維持される。
【0068】
図5(b)のチャートに示すように、主電源80に失陥が発生したときに1回だけしか第1ポンプ装置22の駆動が開始されないことで、そのときにしか突入電流は生じない。そのときには、補助電源82に蓄えられた電気量は比較的多いことから、その突入電流によって、補助電源82の電圧Vは、下限電圧Vlimを下回ることはない。再び突入電流が生じることがないことから、かなりの時間tが経過するまで、補助電源82の電圧Vは、下限電圧Vlimを下回ることはない。つまり、かなりの時間tの間、第1システム12や他の車載システムの作動に悪影響を及ぼすことはないのである。チャートには示されていないが、自動運転中に主電源80が失陥した場合には、運転者に、アラート(警報)が発せられ、手動運転への切換が促されるが、補助電源82の電圧Vが、かなりの時間、下限電圧Vlimを下回らないことで、その切換に対して、充分な時間的な余裕が与えられることになる。
【0069】
なお、本実施例の液圧ブレーキシステムでは、主電源80の失陥時において第1ポンプ装置22を連続的に駆動させる場合、いわゆるDuty駆動を行っている。Duty駆動により、100%ON駆動にて第1ポンプ装置22を連続的に駆動させる場合と比較して、補助電源82の電圧Vが下限電圧Vlimを下回るまでの時間を長くすることができる。
【変形例】
【0070】
上記実施例の液圧ブレーキシステムは、第1システム12,第2システム14という2つのブレーキシステムを備えた液圧ブレーキシステムである。本発明は、1つのブレーキシステムを備えた液圧ブレーキシステムにも適用できる。具体的には、例えば、上記液圧ブレーキシステムにおける第2システム14を備えず、かつ、第1システム12におけるアキュムレータ24を設けずに還流路を有して作動液を還流させるオンデマンド型のブレーキシステムを有する液圧ブレーキシステムに対しても適用可能である。その場合、主電源の失陥時には、そのブレーキシステムにおけるポンプ装置への電力供給を補助電源に切り換えるとともに、そのポンプ装置を、連続的に駆動させればよい。
【符号の説明】
【0071】
10:車輪制動器 12:第1ブレーキシステム 14:第2ブレーキシステム 16:ブレーキペダル 20:リザーバ 22:第1ポンプ装置 22a:ポンプ 22b:ポンプモータ 24:アキュムレータ 30:レギュレータ〔調圧器〕 40:マスタ液通路 52:対車輪供給路 54:リザーバ 56:減圧路 58:第2ポンプ装置 70:第1ブレーキ電子制御ユニット〔第1コントローラ〕 72:第2ブレーキ電子制御ユニット〔第2コントローラ〕 80:主電源 82:補助電源 84:オルタネータ 86:DC-DCコンバータ 90m:メイン自動運転電子制御ユニット 90s:サブ自動運転電子制御ユニット 92m:メイン認識センサ 92s:サブ認識センサ 94m:メインステアリングシステム 94s:サブステアリングシステム 112:リリーフ弁 SLA:増圧用リニア弁 SLR:減圧用リニア弁 SM:調圧用リニア弁
図1
図2
図3
図4
図5