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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110429
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】合成スラブ端部構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/40 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
E04B5/40 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005840
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】郡 泰明
(57)【要約】
【課題】遮熱性を向上できる合成スラブ端部構造を提供する。
【解決手段】合成スラブ端部構造100において、合成スラブ1の端部1aには、ひびが当該合成スラブ1の上面1b側へ向かうことを抑制するひび割れ方向制御構造20が設けられる。このため、ひび割れが発生したとしても、ひびCRは、ひび割れ方向制御構造20によってひび割れ方向を制御されることで、合成スラブ1の上側へ向かうことを抑制される。従って、ひびCRが合成スラブの上面1bに到達することが抑制され、合成スラブ1の下面1dが加熱面となっても、ひびCRを介して上面1bの温度が上昇することが抑制される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレート及びコンクリートを有する合成スラブと、
前記合成スラブの端部と下面側で接合される梁と、を備える合成スラブ端部構造であって、
前記合成スラブの端部には、ひびが当該合成スラブの上側へ向かうことを抑制するひび割れ方向制御構造が設けられる、合成スラブ端部構造。
【請求項2】
前記ひび割れ方向制御構造は、前記合成スラブの内部に設けられたL字筋を備え、
前記L字筋の長辺部は、少なくとも前記デッキプレートよりも高い位置において水平方向に沿って配置され、
前記L字筋の短辺部は、前記合成スラブの外周縁側において、前記長辺部から下方へ延びる、請求項1に記載の合成スラブ端部構造。
【請求項3】
前記合成スラブの内部には、前記デッキプレートの上方にひび割れ拡大防止筋が設けられ、
前記L字筋の前記長辺部は、前記ひび割れ拡大防止筋上に載せられる、請求項2に記載の合成スラブ端部構造。
【請求項4】
前記合成スラブの内部には、前記デッキプレートの上方にひび割れ拡大防止筋が設けられ、
前記L字筋の前記長辺部は、前記ひび割れ拡大防止筋の下側の位置において、当該ひび割れ拡大防止筋に連結される、請求項2に記載の合成スラブ端部構造。
【請求項5】
前記合成スラブの内部には、前記デッキプレートの上方にひび割れ拡大防止筋が設けられ、
前記ひび割れ方向制御構造は、前記合成スラブの内部に設けられ、前記ひびの方向を制御するメッシュ状のひび割れ方向制御筋を有する、請求項1に記載の合成スラブ端部構造。
【請求項6】
前記ひび割れ方向制御筋は、前記デッキプレート上に載せられる、請求項5に記載の合成スラブ端部構造。
【請求項7】
前記ひび割れ方向制御筋は、前記ひび割れ拡大防止筋の下側の位置において、当該ひび割れ拡大防止筋に連結される、請求項5に記載の合成スラブ端部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成スラブ端部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合成スラブ端部構造として、特許文献1に記載されたものが知られている。この合成スラブ端部構造は、デッキプレート及びコンクリートを有する合成スラブと、合成スラブの端部と接合される梁と、を備える。合成スラブの内部には、メッシュ状のひび割れ拡大防止筋が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-41348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のような合成スラブは、耐火構造として設計される場合がある。このように、耐火構造として設計される場合、合成スラブにひび割れが発生する場合であっても、十分な遮熱性を確保することが望まれる。遮熱性については、例えば「一般財団法人 日本建築総合試験所」の「防耐火性能試験・評価業務方法書」で評価方法が定められているように、合成スラブ端部構造にとって重要な性能である。これは、下階で火災が発生した場合でも床上の温度が可燃物の発火温度まで上昇しないことを確かめるものであり、合成スラブの上面にひび割れが入ってしまうと、発火温度まで早期に達してしまう恐れがある。遮熱性は、延焼拡大が起きてしまうことを防止するために重要な指標である。しかしながら、上述の合成スラブ端部構造では、梁側で発生したひびが、合成スラブの上面に達する場合がある。この場合、下面側が加熱された場合に、加熱面である下面のみならず、上面の温度も上昇する可能性がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、遮熱性を向上できる合成スラブ端部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る合成スラブ端部構造は、デッキプレート及びコンクリートを有する合成スラブと、合成スラブの端部と下面側で接合される梁と、を備える合成スラブ端部構造であって、合成スラブの端部には、ひびが当該合成スラブの上側へ向かうことを抑制するひび割れ方向制御構造が設けられる。
【0007】
本発明に係る合成スラブ端部構造において、合成スラブの端部には、ひびが当該合成スラブの上側へ向かうことを抑制するひび割れ方向制御構造が設けられる。このため、ひび割れが発生したとしても、ひびは、ひび割れ方向制御構造によってひび割れ方向を制御されることで、合成スラブの上側へ向かうことを抑制される。従って、ひびが合成スラブの上面に到達することが抑制され、合成スラブの下面が加熱面となっても、ひびを介して上面の温度が上昇することが抑制される。以上より、合成スラブ端部構造の遮熱性を向上することができる。
【0008】
ひび割れ方向制御構造は、合成スラブの内部に設けられたL字筋を備え、L字筋の長辺部は、少なくともデッキプレートよりも高い位置において水平方向に沿って配置され、L字筋の短辺部は、合成スラブの外周縁側において、長辺部から下方へ延びてよい。この場合、長辺部は、デッキプレートよりも高い位置を補強することにより、ひびが上面側へ向かって進行することを抑制できる。更に、短辺部は、合成スラブの外周縁付近において、合成スラブを上下方向に補強できる。従って、長辺部によって外周縁側へ誘導されたひびが、外周縁付近で上方へ向かうことを抑制できる。
【0009】
合成スラブの内部には、デッキプレートの上方にひび割れ拡大防止筋が設けられ、L字筋の長辺部は、ひび割れ拡大防止筋上に載せられてよい。この場合、長辺部をひび割れ拡大防止筋に載せるだけでL字筋の位置決めを行うことができるので、施工が容易となる。
【0010】
合成スラブの内部には、デッキプレートの上方にひび割れ拡大防止筋が設けられ、L字筋の長辺部は、ひび割れ拡大防止筋の下側の位置において、当該ひび割れ拡大防止筋に連結されてよい。この場合、ひび割れ拡大防止筋の下側の位置にて、L字筋を容易に位置決めすることができる。
【0011】
合成スラブの内部には、デッキプレートの上方にひび割れ拡大防止筋が設けられ、ひび割れ方向制御構造は、合成スラブの内部に設けられ、ひびの方向を制御するメッシュ状のひび割れ方向制御筋を有してよい。この場合、ひび割れ方向制御筋が、ひび割れ拡大防止筋と別の位置で合成スラブを補強することで、ひびが上側へ向かうことを抑制することができる。
【0012】
ひび割れ方向制御筋は、デッキプレート上に載せられてよい。この場合、ひび割れ方向制御筋をデッキプレート上に載せるだけで位置決めを行うことができるので、施工が容易となる。
【0013】
ひび割れ方向制御筋は、ひび割れ拡大防止筋の下側の位置において、当該ひび割れ拡大防止筋に連結されてよい。この場合、ひび割れ拡大防止筋の下側の位置にて、ひび割れ方向制御筋を容易に位置決めすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遮熱性を向上できる合成スラブ端部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図2】合成スラブ端部構造をスパン方向から見た図である。
図3】変形例に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図4】比較例に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図5図1に示す合成スラブ端部構造のひび割れの様子を示す図である。
図6】比較例に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図7】変形例に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図8】変形例に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図9】変形例に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図10】変形例に係る合成スラブ端部構造を幅方向から見た図である。
図11】変形例に係る合成スラブ端部構造をスパン方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る合成スラブ端部構造100を幅方向D2から見た図である。図2は、合成スラブ端部構造100をスパン方向から見た図である。ただし、図1では、合成スラブ1の内部構造が示されるように、コンクリート2は任意の位置での断面が示されている。図1に示すように、合成スラブ端部構造100は、デッキプレート10及びコンクリート2を有する合成スラブ1と、合成スラブ1の端部1aと下面1d側で接合される梁3と、を備える。合成スラブ1は、平板状の構造物である。梁3は、その上面3aで、合成スラブ1の端部1aの下面1dを支持する。
【0018】
図2に示すように、デッキプレート10は、上方へ突出する山部10eと、一対の山部10e間の溝部10dと、を有する。山部10eの上端10cは、平板状に広がっている。また、溝部10dの下端も平板状に広がっている。溝部10dの下面は、梁3の上面上に載置される。なお、山部10e及び溝部10dが延びる方向をスパン方向D1と称し、山部10e及び溝部10dが並んでいる方向を幅方向D2と称する。
【0019】
コンクリート2は、デッキプレート10の溝部10dの内部に充填された状態で、山部10eの上端10cよりも高い位置まで充填される。コンクリート2は、デッキプレート10の上端10cから上方へ所定寸法だけ離間した位置に、水平方向に広がる上面を有する。コンクリート2の上面によって合成スラブ1の上面1bが構成される。図1に示すように、コンクリート2のスパン方向D1における端部は、デッキプレート10のスパン方向D1における端部10aよりも外周側に配置される。従って、コンクリート2のスパン方向D1の端部によって合成スラブ1の外周縁1cが構成される。コンクリート2のうち、デッキプレート10の端部10aよりも外周縁1c側の部分は、梁3の上面3aに接合される。
【0020】
合成スラブ1の内部の構造について説明する。合成スラブ1の内部には、梁3の上面3aから上方へ延びるスタッド11が設けられている。スタッド11は、上下方向に延びる軸部11aと、軸部11aの上端に設けられた頭部11bと、を有する。頭部11bは、軸部11aよりも外径が大きく形成された部分である。スタッド11は、スパン方向D1において、デッキプレート10の端部10aよりも外周縁1c側に設けられる。本実施形態では、スタッド11は、梁3のスパン方向D1において、例えば梁端から4cmより内側の位置に設けられる。スタッド11の頭部11bは、デッキプレート10の上端10cよりも高い位置に配置される。スタッド11は、幅方向D2においてデッキプレート10の溝部10dの中央位置に配置される(図2参照)。
【0021】
合成スラブ1の内部には、デッキプレート10の上方にひび割れ拡大防止筋12が設けられる。ひび割れ拡大防止筋12は、複数の鉄筋13を交差させて互いに接合させて組み合わせることによって構成されたメッシュ状の部材である。ひび割れ拡大防止筋12は、合成スラブ1のコンクリート2にひび割れが発生した場合、ひびが拡大することを防止するための部材である。ひび割れ拡大防止筋12は、「デッキプレート床構造設計・施工規準2018 2018年12月改定 一般社団法人 日本鋼構造協会」の26,27ページにおいて開示されている「ひび割れ拡大防止筋」と同趣旨のものである。ひび割れ拡大防止筋12は、デッキプレート10の上端10cよりも高い位置において、コンクリート2の略全域にわたってスパン方向D1及び幅方向D2に広がっている。なお、図においては、ひび割れ拡大防止筋12は、スタッド11よりも高い位置に配置されているが、スタッド11の頭部11bよりも低い位置に配置されてもよい。ひび割れ拡大防止筋12は、合成スラブ1の上面1bから下方へ離間した位置(特に限定されないが上面1bから30mm程度下方の位置)に配置される。ひび割れ拡大防止筋12の端部12aは、スタッド11よりも外周縁1c側の位置に配置され、外周縁1cから内側に離間した位置(特に限定されないが外周縁1cから30mm程度内側の位置)に配置される。
【0022】
合成スラブ1の端部1aには、ひびが当該合成スラブ1の上側(上面1b側)へ向かうことを抑制するひび割れ方向制御構造20が設けられる。ひび割れ方向制御構造20は、ひびを上面1bに達しないように、外周縁1cへ向かわせるようにひび割れ方向を制御する。本実施形態では、ひび割れ方向制御構造20は、合成スラブ1の内部に設けられたL字筋30を備える。
【0023】
L字筋30は、長辺部31と、短辺部32と、を備える。短辺部32は、長辺部31よりも短く、且つ、長辺部31に直交するように接合された部分である。L字筋30は一本の鉄筋を屈曲させることによって構成される。あるいは、L字筋30は、複数の鉄筋同士溶接などの接合方法によって接合させることによって構成されてもよい。
【0024】
L字筋30の長辺部31は、少なくともデッキプレート10よりも高い位置において水平方向に沿って配置される。長辺部31は、スパン方向D1に対して平行をなすように延びる。長辺部31の水平方向の寸法は、200mm以上であってよい。L字筋30の短辺部32は、合成スラブ1の外周縁1c側において、長辺部31から下方へ延びる。短辺部32は、長辺部31の外周縁1c側の端部から上下方向と平行をなすように延びる。短辺部32の上下方向の寸法は、100mm以上であってよい。また、L字筋30を構成する鉄筋の外径は、D10以上であってよい。本実施形態では、L字筋30は、幅方向D2において、スタッド11と同じ位置に配置されているが、幅方向D2の位置は特に限定されない。
【0025】
本実施形態では、L字筋30の長辺部31は、ひび割れ拡大防止筋12上に載せられる。したがって、長辺部31は、合成スラブ1の上面1bとひび割れ拡大防止筋12との間であって、ひび割れ拡大防止筋12の直上に配置される。短辺部32は、合成スラブ1の外周縁1cとデッキプレート10の端部10aとの間の領域に配置されている。ここでは、短辺部32は、ひび割れ拡大防止筋12の幅方向D2に延びる鉄筋13のうち、最も外周縁1c側に配置されている鉄筋13と外周縁1c側で隣接するように配置される。短辺部32の下端部は、デッキプレート10の上端10c及びスタッド11の頭部11bよりも低い位置であって、梁3の上面3aから上方へ離間した位置に配置される。
【0026】
なお、上下方向において、長辺部31は、ひび割れ拡大防止筋12とデッキプレート10の上端10cとの間、あるいはひび割れ拡大防止筋12より高い位置に配置されていればよい。長辺部31は、スタッド11の頭部11bと同位置(図3の長辺部31)または頭部11bより高い位置に配置されていればよいし、スタッド11の頭部11bより低い位置に配置されてもよい。また、水平方向において、短辺部32は、デッキプレート10の端部10aより外周縁1c側の位置に配置されていればよい。水平方向において、短辺部32は、スタッド11と同位置(図3の短辺部32)またはスタッド11より外周縁1c側の位置に配置されていればよいし、スタッド11より端部10a側に配置されてもよい。なお、図3のように、長辺部31がひび割れ拡大防止筋12の下側の位置に配置される場合、ひび割れ拡大防止筋12に連結されてよい。長辺部31は、結束線などで結束されることで、ひび割れ拡大防止筋12に連結されてよい。
【0027】
次に、本実施形態に係る合成スラブ端部構造100の作用・効果について説明する。
【0028】
まず、図4を参照して比較例に係る合成スラブ端部構造200について説明する。合成スラブ端部構造200は、ひび割れ方向制御構造20を有していない点で、本実施形態に係る合成スラブ端部構造100と相違する。図4(a)に示すように、合成スラブ端部構造200では、高荷重・長スパンの荷重が作用した場合に、梁3側で発生したひびCRが、合成スラブ1の上面1bに達する場合がある。この場合、下面1d側が加熱された場合に、加熱面である下面1dのみならず、上面1bの温度も上昇する可能性がある。このように、十分な遮熱性を確保出来ないという問題がある。また、合成スラブ端部構造200では、合成スラブ1と梁3との縁が切れるようなひびCRが発生する可能性があり、この場合、本来の回転剛性を発揮できなくなるという問題がある。合成スラブ端部構造200の遮熱性及び非損傷性を確保するには、図4(b)に示すように、合成スラブ1と梁3との接合部分が破壊されるか、図4(c)に示すように、ひびCRが上面1bに到達することなく外周縁1cに逸れることが好ましい。
【0029】
これに対し、本実施形態に係る合成スラブ端部構造100において、合成スラブ1の端部1aには、ひびが当該合成スラブ1の上面1b側へ向かうことを抑制するひび割れ方向制御構造20が設けられる。このため、ひび割れが発生したとしても、ひびCRは、ひび割れ方向制御構造20によってひび割れ方向を制御されることで、合成スラブ1の上側へ向かうことを抑制される。従って、ひびCRが合成スラブの上面1bに到達することが抑制され、合成スラブ1の下面1dが加熱面となっても、ひびCRを介して上面1bの温度が上昇することが抑制される。以上より、合成スラブ端部構造100の遮熱性を向上することができる。
【0030】
ひび割れ方向制御構造20は、合成スラブ1の内部に設けられたL字筋30を備え、L字筋30の長辺部31は、少なくともデッキプレート10よりも高い位置において水平方向に沿って配置され、L字筋30の短辺部32は、合成スラブ1の外周縁1c側において、長辺部31から下方へ延びてよい。この場合、長辺部31は、デッキプレート10よりも高い位置を補強することにより、ひびCRが上面1b側へ向かって進行することを抑制できる。更に、短辺部32は、合成スラブ1の外周縁1c付近において、合成スラブ1を上下方向に補強できる。従って、長辺部31によって外周縁1c側へ誘導されたひびCRが、外周縁1c付近で上方へ向かうことを抑制できる。具体的には、図5に示すように、合成スラブ1と梁3との接合部分が破壊されるか、ひびCRが発生したとしても、上面1bに到達しないように制御される。
【0031】
合成スラブ1の内部には、デッキプレート10の上方にひび割れ拡大防止筋12が設けられ、L字筋30の長辺部31は、ひび割れ拡大防止筋12上に載せられてよい。この場合、長辺部31をひび割れ拡大防止筋12に載せるだけでL字筋30の位置決めを行うことができるので、施工が容易となる。
【0032】
合成スラブ1の内部には、デッキプレート10の上方にひび割れ拡大防止筋12が設けられ、L字筋30の長辺部31は、ひび割れ拡大防止筋12の下側の位置において、当該ひび割れ拡大防止筋12に連結されてよい。この場合、ひび割れ拡大防止筋12の下側の位置にて、L字筋30を容易に位置決めすることができる。
【0033】
なお、図6(a)(b)に示す比較例に係る合成スラブ端部構造300は、梁3の上面3aから上方にスペーサ301を立ち上げている。スペーサ301の下端は梁3の上面3aに溶接等によって固定され、スペーサ301の上端部はひび割れ拡大防止筋12と結束線などによって連結されている。このような、ひび割れ拡大防止筋12を単純に梁3と連結させただけの構造は、本実施形態におけるひび割れ方向制御構造20に含まれないものとする。スペーサ301は、合成スラブ1の端部1aを補強するものの、ひび割れが入らない様に機能するものであり、ひび割れが発生したときに、ひびの方向を制御するものではない。本願のひび割れ方向制御構造20は、コンクリート2内で梁3から離間した状態で配置された部材(ここではL字筋30)によって構成されている。
【0034】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0035】
例えば、図7に示すような合成スラブ端部構造400を採用してもよい。合成スラブ端部構造400では、ひび割れ方向制御構造20が、合成スラブ1の内部に設けられ、ひびの方向を制御するメッシュ状のひび割れ方向制御筋50を有している。ひび割れ方向制御筋50は、ひび割れ拡大防止筋12と同様なメッシュ状の部材によって構成されている。ひび割れ方向制御筋50は、ひび割れ拡大防止筋12とは異なる高さ位置に配置されている。また、平面方向においてひび割れ方向制御筋50が設けられる範囲は、合成スラブ1の端部1a付近の一部の領域である。
【0036】
ひび割れ方向制御筋50の鉄筋径及びピッチは、φ6mmで150mm以下であってよく、D10で200mm以下であってよい。また、ひび割れ方向制御筋50の水平方向の位置について、当該ひび割れ方向制御筋50の外周縁1c側の端部50aが、デッキプレート10の端部10aよりも外周縁1c側に配置されてよい。また、反対側の端部50bは、デッキプレート10の端部10aから内周側へ200mm以上離れた位置に配置されてよい。なお、ひび割れ方向制御筋50は、幅方向D2において、ひび割れ拡大防止筋12と同じ範囲に設けられてよい。ひび割れ方向制御筋50は、上下方向において、梁3の上面3aから30mm以上の範囲に配置されてよい。また、ひび割れ方向制御筋50はデッキプレート10の上端10cと同じ位置または上端10cよりも高い位置に配置されてよい。また、ひび割れ方向制御筋50はひび割れ拡大防止筋12と同位置またはひび割れ拡大防止筋12より低い位置に配置されてよい。
【0037】
図7に示す例では、ひび割れ方向制御筋50は、デッキプレート10上に載せられている。すなわち、ひび割れ方向制御筋50は、デッキプレート10の上端10cの上に載置された状態で、当該デッキプレート10に下方から支持されている。外周縁1c側の端部50aは、ひび割れ拡大防止筋12とスパン方向D1において略同位置に配置されている。
【0038】
このような合成スラブ端部構造400によれば、ひび割れ方向制御構造20は、合成スラブ1の内部に設けられ、ひびの方向を制御するメッシュ状のひび割れ方向制御筋50を有している。この場合、ひび割れ方向制御筋50が、ひび割れ拡大防止筋12と別の位置で合成スラブ1を補強することで、ひびが上側へ向かうことを抑制することができる。例えば、図7(b)に示すように、梁3から上方へ向かうひびCRは、ひび割れ方向制御筋50で補強された箇所において、上方へ向かうことが抑制されており、ひびCRは、外周縁1c側へ逸れて当該外周縁1cに到達している。
【0039】
また、ひび割れ方向制御筋50は、デッキプレート10上に載せられてよい。この場合、ひび割れ方向制御筋50をデッキプレート10上に載せるだけで位置決めを行うことができるので、施工が容易となる。
【0040】
また、ひび割れ方向制御筋50は、図8に示すような配置とされてもよい。すなわち、ひび割れ方向制御筋50は、ひび割れ拡大防止筋12の下側の位置において、当該ひび割れ拡大防止筋12に連結されてよい。この場合、ひび割れ拡大防止筋12の下側の位置にて、ひび割れ方向制御筋50を容易に位置決めすることができる。なお、連結方法は特に限定されないが、ひび割れ方向制御筋50は、結束線でひび割れ拡大防止筋12に連結されてよい。
【0041】
また、上述の各形態では、コンクリート2の内部にはスタッド11が設けられていたが、例えば、図9に示すように、スタッド11が省略されてもよい。図9では、図1の構造からスタッド11を省略したものを例示したが、他の形態の構造からスタッド11を省略してもよい。
【0042】
また、図10及び図11に示す合成スラブ端部構造500が採用されてよい。合成スラブ端部構造500では、ひび割れ方向制御構造20が、合成スラブ1の内部に設けられ、上下方向に延びるように設けられるU字筋530を有している。この場合、U字筋530が、ひび割れの方向を制御することができる。U字筋530のスパン方向における位置は特に限定されないが、デッキプレート10の端部10aよりも合成スラブ1の外周縁1c側に配置されてよい。U字筋530の長さは、L字筋30の短辺部32と同様の長さに設定されてよく、例えば100mm以上に設定してよい。U字筋530の幅方向における位置は、特に限定されず、L字筋30と同様であってよい。U字筋530は、ひび割れ拡大防止筋12を跨いた状態で下方へ延びるように設けられてよい。U字筋530は、ひび割れ拡大防止筋12の一本の鉄筋を跨いた状態で、互いに並んだ状態で下方へ延びる辺部531及び辺部532を有する。
【符号の説明】
【0043】
1…合成スラブ、2…コンクリート、3…梁、10…デッキプレート、12…ひび割れ拡大防止筋、20…ひび割れ方向制御構造、30…L字筋、31…長辺部、32…短辺部、50…ひび割れ方向制御筋、100,400,500…合成スラブ端部構造。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11