(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011051
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】含油排水の浄化システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20220107BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D65/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111922
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】余田 充
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA93
4D006JA53Z
4D006JA58Z
4D006KC03
4D006KC13
4D006KC16
4D006KD04
4D006KD15
4D006KD16
4D006KD17
4D006KD24
4D006KE06R
4D006MB09
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC63
4D006PB04
4D006PB09
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】含油設備からの漏水または含油設備の浸水で生じた含油排水を浄化する含油排水の浄化システムを提供する。
【解決手段】
含油排水の浄化システム21は、含油設備を有する施設22に設けられ、含油設備からの漏水または含油設備の浸水で生じた含油排水を保持する含油排水保持部23と、含油排水保持部23に保持された含油排水をろ過する膜ろ過装置25と、含油排水保持部23に保持された含油排水を膜ろ過装置25に供給する第1の配管と、膜ろ過装置25で処理されたろ過水を放水設備に供給する第2の配管と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油設備を有する施設に設けられ、前記含油設備からの漏洩または前記含油設備の浸水で生じた含油排水を保持する含油排水保持部と、
前記含油排水保持部に保持された前記含油排水をろ過する膜ろ過装置と、
前記含油排水保持部に保持された前記含油排水を前記膜ろ過装置に供給する第1の配管と、
前記膜ろ過装置で処理されたろ過水を放水設備に供給する第2の配管と、
を有する含油排水の浄化システム。
【請求項2】
前記施設は、さらに水力発電機を有し、
外部の取水源と接続され、前記第1の配管に合流する第3の配管と、
前記第2の配管から分岐し、前記水力発電機に接続され、前記水力発電機に冷却水とシール水を供給する第4の配管と、を有する、請求項1に記載の浄化システム。
【請求項3】
前記含油排水が前記膜ろ過装置で処理され、前記放水設備から前記ろ過水として放水される含油排水処理モードと、前記取水源で取水された水が前記膜ろ過装置で処理され、前記冷却水及び前記シール水として前記水力発電機に供給される通常運転モードとを切り替えるように、前記第1~第4の配管を切り替える切替手段を有する、請求項2に記載の浄化システム。
【請求項4】
前記水力発電機の冷却水出口と接続され、前記水力発電機の冷却水入口に戻る、前記冷却水の循環流路を有する、請求項2または3に記載の浄化システム。
【請求項5】
前記膜ろ過装置は、槽内に浸漬される、請求項1から4のいずれか1項に記載の浄化システム。
【請求項6】
前記膜ろ過装置は可搬式である、請求項1から4のいずれか1項に記載の浄化システム。
【請求項7】
前記膜ろ過装置は、膜ろ過モジュールと、前記膜ろ過モジュールに前記含油排水を供給する移送ポンプと、前記膜ろ過モジュールを逆洗する逆洗設備と、がユニット化されている、請求項6に記載の浄化システム。
【請求項8】
前記膜ろ過装置の薬品洗浄手段を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の浄化システム。
【請求項9】
前記膜ろ過装置のろ過圧力は100kPa以下である、請求項1から8のいずれか1項に記載の浄化システム。
【請求項10】
前記ろ過装置のろ過膜は親水性である、請求項1から9のいずれか1項に記載の浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含油排水の浄化システムに関し、特に含油設備からの漏水または含油設備の浸水で生じた含油排水を浄化する浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所では、作動や操作のために必要となる作動油や潤滑油などの油を内蔵するポンプ等の設備(以下、含油設備という)が浸水した際に、水が含油設備と接触することで含油排水が発生することがある。特許文献1には、発電所の排水ピットの水面に浮上・浮遊している油を回収する発電所の浮上油回収設備が開示されている。発電所の浮上油回収設備は、発電機からの排気を排水ピット側に導き、浮上油を排水ピット内の所定位置に寄せ集める吹き出し手段と、排水ピット内の所定位置に設けられ、寄せ集められた浮上油を取り出す取り出し手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、気候変動に起因して、台風や豪雨などによる降雨量が増大する傾向がみられ、建屋の浸水等が発生しやすくなっている。建屋に侵入した雨水等は、建屋の排水設備で建屋外に排水することができるが、雨水等が含油設備と接触して含油排水となった場合は、直接建屋外に排水することができないため、産業廃棄物として処理することが必要となる場合がある。
【0005】
本発明は、含油設備からの漏洩または含油設備の浸水で生じた含油排水を浄化する含油排水の浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の含油排水の浄化システムは、含油設備を有する施設に設けられ、含油施設からの漏水または含油設備の浸水で生じた含油排水を保持する含油排水保持部と、含油排水保持部に保持された含油排水をろ過する膜ろ過装置と、含油排水保持部に保持された含油排水を膜ろ過装置に供給する第1の配管と、膜ろ過装置で処理されたろ過水を放水設備に供給する第2の配管と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、含油排水保持部で保持される含油排水は第1の配管を通って膜ろ過装置に供給され、膜ろ過装置で処理された含油排水は第2の配管を通って放水設備に送られ、放水設備から放水される。従って、本発明によれば、含油設備からの漏水または含油設備の浸水で生じた含油排水を浄化する含油排水の浄化システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る水力発電システムの概略構成図であり、通常運転モードの状態を示している。
【
図2】
図1に示す水力発電システムにおいて、非含油排水送水モードの状態を示す図である。
【
図3】
図1に示す水力発電システムにおいて、含油排水処理モードの状態を示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る水力発電システムの概略構成図であり、通常運転モードの状態を示している。
【
図5】
図4に示す水力発電システムにおいて、非含油排水送水モードの状態を示す図である。
【
図6】
図4に示す水力発電システムにおいて、含油排水処理モードの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態に係る含油排水の浄化システムについて説明する。
図1~3は、水力発電システム1と、水力発電システム1が備える含油排水の浄化システム21の概略構成を示している。各図において網掛け部は河川水または冷却水が流通する部位を示している。
図1は通常運転時、
図2は非含油排水送水時、
図3は含油排水処理時の状態を示している。
【0010】
水力発電システム1はランナ3と発電機4とを備えた水車発電機2を有している。ランナ3は水圧鉄管6に接続されたケーシング5に収容されている。ランナ3には主軸7が取り付けられており、主軸7はケーシング5を貫通している。主軸7の上端部はカップリング(図示せず)を介して発電機4に連結されている。水圧鉄管6から供給された河川水がランナ3を回転させることによって、発電機4による発電が行われる。水圧鉄管6には水車発電機2のメンテナンス時に河川水の供給を止めるための入口弁8が設けられている。ケーシング5の下端は放水管9に接続されており、ランナ3を回転させた河川水は放水管9を介して河川などに放水される。水圧鉄管6の入口弁8の上流側に取水配管L1の先端部が開口している。先端部には異物を除去するフィルタを備えた取水口28が設けられている。取水配管L1は発電機4と軸受部11(後述)に供給する冷却水、及びシール部14(後述)に供給するシール水を取水する。取水配管L1は膜ろ過装置25(後述)に接続されている。取水配管L1には第1の弁V1が設けられている。取水配管L1は放水管9または河川水以外の任意の水源に接続されてもよい。
【0011】
主軸7には上から下に向かって、上部軸受11aと下部軸受11bと水車軸受11c(以下、これらをまとめて軸受部11という)とが設けられている。発電機4と軸受部11は蛇管12(コイル状の管)を備えており、蛇管12に冷却水を通すことによって発電機4と軸受部11の冷却が行われる。水車軸受11cの下方には、ケーシング5の主軸7の貫通部13を軸封するシール部14が設けられている。シール部14は、軸受水槽15と、軸受水槽15の主軸7の貫通部13に設けられた軸封部16とを有している。軸受水槽15はシール水で満たされている。軸受水槽15の内部には水中軸受17が収容されており、水中軸受17はシール水によって潤滑され冷却される。主軸7と軸受部11とシール部14は水車発電機2の構成要素の一部である。
【0012】
水車発電機2を含む水力発電システム1の主要設備は建屋22に収容されている。建屋22の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態の建屋22は地上階と地下階とを有している。雨水の侵入等によって建屋22内に発生する非含油排水を排水するため、各階には排水ピット23が設けられている。排水ピット23は床の一般面から掘り下げられており、各階における最も低い部位となっている。排水ピット23は、建屋22の床面24に設けられ、含油設備からの漏水または含油設備の浸水で生じた含油排水を保持する含油排水保持部23としても機能する。すなわち、含油排水を処理する際も、含油排水は排水ピット23に集められる。非含油排水及び含油排水の集水が可能であれば、排水ピット23はピットの形状を有していなくてもよく、例えば凹部のような形状のものであってもよい。各階の排水ピット23にはドレン配管L3が接続されており、ドレン配管L3は鉛直方向に延びるヘッダ配管L4に接続されている。ヘッダ配管L4は建屋22の最地下階から地上階まで貫通し、各階に設けられた排水ピット23はドレン配管L3によってヘッダ配管L4に接続されている。ヘッダ配管L4から移送配管L5が分岐している。移送配管L5には移送ポンプP1が設けられている。移送ポンプP1は水没を防止するために地上階に設置することが好ましい。ヘッダ配管L4を設けることによって、配管物量と移送ポンプP1の台数を削減することができる。
【0013】
浄化システム21は膜ろ過装置25を有している。膜ろ過装置25は、通常運転時は河川から採取した冷却水及びシール水をろ過し、建屋22の漏水または浸水で生じた含油排水を処理するときは、含油排水をろ過する。膜ろ過装置25は精密ろ過膜モジュールまたは限外ろ過膜モジュールを有する。含油排水は乳化によって粒子径0.1~100μm程度の乳化油粒子を含むことがあるが、膜ろ過装置25はこのような乳化油粒子を捕捉する性能を有している。本実施形態の膜ろ過装置25は、ろ過膜モジュールが槽に浸漬された浸漬方式のろ過装置である。槽としては、水力発電機2の冷却水及びシール水が貯留される貯留槽26を用いている。貯留槽26は、水力発電システム1に設けられることが多いため、浸漬方式の膜ろ過装置25を用いた場合に新たに槽を設ける必要はない。
【0014】
膜ろ過装置25の出口はろ過水配管L2に接続されている。ろ過水配管L2に吸引ポンプP2が設けられており、吸引ポンプP2で吸引することによってろ過圧力(膜ろ過装置25の入口と出口の圧力差)が得られる。浸漬方式の代わりに加圧方式の膜ろ過装置25を用いてもよい。加圧式の場合、膜ろ過装置25の上流にポンプが設けられ、ろ過圧力はポンプの加圧力によって得られる。膜ろ過装置25のろ過膜は親水性であることが好ましい。材料として例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PAN(ポリアクリロニトリル)などが挙げられる。PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は比較的疎水性の高い材料であるが、親水化材を混ぜ込むなどの親水化処理をしていれば、主たる素材がPVDFでもよい。親水性のろ過膜は油分をはじくため、ろ過膜に油分が付着しにくく、ろ過性能の低下が抑制される。ろ過水配管L2のシール水供給配管L6の分岐部の手前には第2の弁V2が設けられている。
【0015】
膜ろ過装置25の薬品洗浄手段が設けられている。薬品としては界面活性剤とアルカリ剤(例えば、苛性ソーダ等)と次亜塩素酸ナトリウムの混合液が好適に用いられる。金属成分(鉄、マンガン、アルミニウム等)が高濃度に含まれる場合には、酸剤(例えば、シュウ酸、クエン酸等)が好適に用いられる。薬品洗浄手段は貯留槽26または貯留槽26の入口側若しくは出口側の配管に接続された薬品貯蔵タンク27を有している(図示の例では、薬品貯蔵タンク27は貯留槽26に接続されている)。膜ろ過装置25を薬品洗浄する際は、貯留槽26を隔離し、貯留槽26の内部を薬品で置換する。ろ過膜を所定の時間薬品に浸漬することで、ろ過膜に付着した油分や塵埃が剥離し再生が行われる。薬品洗浄はろ過膜の通水流量が低下したときに適宜行うことが好ましい。特に、含油排水を処理した後はろ過膜が油分で汚染されている可能性が高いことから、通常運転に復帰する前に薬品洗浄を行うことが好ましい。
【0016】
ろ過水配管L2から、シール部14にシール水を供給するシール水供給配管L6が分岐している。軸封部16にはケーシング5に流入する河川水の水圧が作用する。このため、河川水が軸封部16からシール部14に流入することを防止ないし抑制するため、シール部14に高圧のシール水が供給される。シール水は軸封部16から徐々に漏洩してケーシング5に流出し、最終的に河川に放水される。シール水供給配管L6はシール部14で失われるシール水を補填する。ろ過水配管L2の端部は発電機4と軸受部11に冷却水を供給する冷却水供給配管L7に接続されている。冷却水は発電機4及び軸受部11を冷却した後、河川に放出される。
【0017】
ろ過水配管L2の膜ろ過装置25とシール水供給配管L6の分岐部との間から、排水配管L8が分岐している。排水配管L8は放水口29に接続されている。放水口29は含油排水の処理水及び非含油排水の放水手段を構成する。ろ過水配管L2の排水配管L8の分岐部とシール水供給配管L6の分岐部との間には第2の弁V2が設けられている。排水配管L8のろ過水配管L2からの分岐部と流路切替配管L9(後述)の合流部との間には第3の弁V3が設けられている。
【0018】
移送配管L5は流路切替配管L9に接続されている。流路切替配管L9は一端で取水配管L1に接続され、他端で排水配管L8に接続されている。流路切替配管L9の移送配管L5との接続部と取水配管L1との合流部との間には第4の弁V4が設けられている。流路切替配管L9の移送配管L5との接続部と排水配管L8との合流部との間には第5の弁V5が設けられている。
【0019】
次に、
図1~3を参照して浄化システム21の各運転モードについて説明する。
図1は通常運転モードを示しており、第1及び第2の弁V1,V2が開き、第3~第5の弁V3~V5が閉じている。冷却水とシール水が取水配管L1から取水され、膜ろ過装置25でろ過され、冷却水供給配管L7及びシール水供給配管L6を通って、発電機4、軸受部11及シール部14に供給される。冷却水とシール水は河川に放出される。
図2を参照すると、
図1に示す通常運転モードにおいて第5の弁V5が開かれ、移送ポンプP1が起動される(非含油排水送水モード)。例えば建屋22に雨水が侵入したが、雨水が油で汚染されていない場合、水車発電機2の運転を続けながら、排水ピット23に溜まった雨水(非含油排水)を河川に放出することができる。排水ピット23に溜まった雨水は、ドレン配管L3、ヘッダ配管L4、移送配管L5、流路切替配管L9、排水配管L8を通って放水口29から放水される。非含油排水の排出は冷却水及びシール水の供給とは独立して行われるため、冷却水及びシール水の供給は何ら影響を受けない。
【0020】
次に、含油排水処理モードについて説明する。含油排水が発生する原因としては、漏水や浸水が考えられる。漏水は、建屋22の内部に設置される含油設備(ポンプ、タンク、配管、弁等)などの内蔵油が漏れ出す現象である。この現象は、含油設備が外部から建屋22内に侵入した雨水、河川水、地下水等と接触することで起こりうるが、含油設備自体の劣化や損傷でも発生する可能性がある。前者の場合、油だけでなく、油と接触した雨水等も含油排水となる。浸水は含油排水が建屋22に侵入する現象である。発電所敷地内の屋外タンク、屋外変圧器などの損傷により、内蔵油または内蔵油と雨水等の混合液が建屋22内に侵入することがある。
【0021】
例えば、建屋22に侵入した雨水が油で汚染されて含油排水が発生した場合、
図3に示すように、第1、第2、第5の弁V1,V2,V5が閉じられ、第3及び第4の弁V3,V4が開かれる。含油排水処理モードへは、
図1に示す通常運転モードと
図2に示す非含油排水送水モードのいずれからも移行することができる。通常運転モードから含油排水処理モードに移行する場合、移送ポンプP1が起動される。含油排水処理モードでは、水車発電機2の運転を停止し、含油排水を膜ろ過装置25で処理する。含油排水は排水ピット23に集められ、排水ピット23に溜まった含油排水は、ドレン配管L3、ヘッダ配管L4、移送配管L5、流路切替配管L9、取水配管L1を通って膜ろ過装置25に供給される。これらの配管(
図3における太線で示す配管のうち、膜ろ過装置25の上流側の部分)は、含油排水保持部(排水ピット23)を膜ろ過装置25に接続する第1の配管を構成する。膜ろ過装置25で処理された処理水(ろ過水)はろ過水配管L2、排水配管L8を通り、放水口29から放水される。これらの配管(
図3における太線で示す配管のうち、膜ろ過装置25の下流側の部分)は、膜ろ過装置25を放水設備に接続する第2の配管を構成する。取水配管L1のうち、取水口28から流路切替配管L9との合流部までの区間は、外部の取水源と接続され、第1の配管に合流する第3の配管を構成する。さらに、ろ過水配管L2のうち排水配管L8の分岐部より下流側の区間と、冷却水供給配管L7は、第2の配管から分岐し、建屋22に設置された被冷却物(発電機4、軸受部11)に接続され、被冷却物に冷却水を供給する第4の配管を構成する。移送配管L5,流路切替配管L9,第2~第4の弁V2,V3,V4は通常運転モードと含油排水処理モードとを切り替えるように、上記第1~第4の配管を切り替える切替手段を構成する。
図2と
図3を比べると、
図2では、膜ろ過装置25で処理する必要がない非含油排水がろ過装置25をバイパスしているのに対し、
図3では、膜ろ過装置25で処理する必要がある含油排水が膜ろ過装置25を通っており、この点を除けば、非含油排水と含油排水の流れは基本的に同じである。
図3において、膜ろ過装置25のろ過圧力は100kPa以下とすることが好ましい。ろ過圧力を低く抑えることによって、膜ろ過装置25から2次側(出口側)に漏洩する含油排水の量を抑制することができる。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、冷却水とシール水をろ過する膜ろ過装置25を用いて含油排水を浄化することができるため、設備の追加を最小限に抑えることができる。膜ろ過装置25が設けられている既設の水力発電システムを改造する場合、流路切替配管L9を追加するだけで本実施形態を実施することができる。膜ろ過装置25とドレン配管L3とヘッダ配管L4が設けられていない既設の水力発電システムを改造する場合、膜ろ過装置25とドレン配管L3とヘッダ配管L4と流路切替配管L9を追加するだけで本実施形態を実施することができる。後者の場合、冷却水とシール水を膜ろ過装置25でろ過することができるため、蛇管12等の目詰まりを抑制することも可能となる。
【0023】
(第2の実施形態)
本実施形態は、冷却水を循環利用するとともに、冷却水とシール水を冷却装置で冷却する点で第1の実施形態と異なる。その他の点については第1の実施形態と同様であるため、共通する構成や効果については第1の実施形態の説明を参照されたい。
図4~6はそれぞれ
図1~3に対応する。冷却水供給配管L7は発電機4及び軸受部11の入口側で分岐し、出口側で再び合流し、再循環配管L10に接続されている。再循環配管L10はろ過水配管L2のシール水供給配管L6の分岐部より上流でろ過水配管L2に合流している。再循環配管L10がろ過水配管L2に合流する位置は、排水配管L8の上流側でも下流側でもよい。再循環配管L10のろ過水配管L2との合流部の近傍に第6の弁V6が設けられている。発電機4及び軸受部11の冷却水は再循環配管L10を通って再利用される。一方、シール水は第1の実施形態と同様、河川に放出され再利用されない。従って、取水配管L1からは、軸受部16から漏洩するシール水に相当する流量の水が取水される。軸受部16から漏洩するシール水の流量は少ないため、河川から取水する水の流量はそれほど多くない。何らかの理由により冷却水の循環ができないときは、再循環配管L10から分岐する排水配管L12に切り替え(切り替えのための弁は図示せず)、冷却水を放水してもよい。
【0024】
再循環配管L10には冷却水の冷却装置30と移送ポンプP3が設けられている。冷却装置30は例えばヒートポンプで構成することができる。ヒートポンプは低温の冷却水を容易に作ることができる。このため、冷却水供給配管L7と再循環配管L10を流れる冷却水の流量を抑制することができ、これらの配管の小口径化、冷却水流量の低減、膜ろ過装置25の小型化及び設置スペースの削減が可能となる。ヒートポンプが冷却水から奪った熱は発電所内の熱供給(図示せず)の他、発電所外の熱供給(図示せず)にも利用することができる。発電所内の熱供給としては給湯、暖房、敷地内の融雪などの用途が挙げられる。発電所外の熱供給としては給湯、暖房、融雪などの他、農業用水、ビニールハウスの暖房などの用途が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
ろ過水配管L2から取水配管L1にろ過水の一部を戻す還流配管L11が設けられている。還流配管L11は、再循環配管L10のろ過水配管L2との合流部の下流側で、ろ過水配管L2から分岐している。還流配管L11は、排水配管L8のろ過水配管L2との合流部の上流側でろ過水配管L2から分岐しているが、合流部の下流側でろ過水配管L2から分岐してもよい。還流配管L11は循環配管L10から分岐してもよい。還流配管L11には第7の弁V7が設けられている。冷却水は膜ろ過装置25で繰り返し処理されることによって高い清浄度となっているため、その都度全量を膜ろ過装置25で処理する必要はない。しかし、循環経路を循環中に鉄クラッドなどの含有量が徐々に増加することがあるため、冷却水の一部が膜ろ過装置25で処理される。なお、河川からの取水は全量が膜ろ過装置25で処理される。
【0026】
次に、
図4~6を参照して浄化システム21の各運転モードについて説明する。
図4は通常運転モードを示しており、第1、第2、第6、第7の弁V1,V2,V6,V7が開き、第3~第5の弁V3~V5が閉じている。冷却水とシール水は取水配管L1から取水され、膜ろ過装置25でろ過されて、発電機4、軸受部11及シール部14に供給される。冷却水は再循環配管L10を通って冷却装置30で冷却され、発電機4、軸受部11及シール部14に供給される。冷却水の一部は、還流配管L11を通って膜ろ過装置25でろ過される。シール水は河川に放出される。
図5を参照すると、
図4に示す通常運転モードにおいて第5の弁V5が開かれ、移送ポンプP1が起動される(非含油排水送水モード)。
図5に示す状態は
図2に示す状態と同じである。
【0027】
図6を参照すると、第1、第2、第5~7の弁V1,V2,V5~V7が閉じられ、第3及び第4の弁V3,V4が開かれる(含油排水処理モード)。
図6に示す状態は
図3に示す状態と同じである。ドレン配管L3、ヘッダ配管L4、移送配管L5、流路切替配管L9及び取水配管L1(
図6における太線で示す配管のうち、膜ろ過装置25の上流側の部分)は、含油排水保持部(排水ピット23)を膜ろ過装置25に接続する第1の配管を構成する。ろ過水配管L2及び排水配管L8(
図6における太線で示す配管のうち、膜ろ過装置25の下流側の部分)は、膜ろ過装置25を放水設備に接続する第2の配管を構成する。取水配管L1のうち、取水口28から流路切替配管L9との合流部までの区間は、外部の取水源と接続され、第1の配管に合流する第3の配管を構成する。さらに、ろ過水配管L2のうち排水配管L8の分岐部より下流側の区間と、冷却水供給配管L7は、第2の配管から分岐し、建屋22に設置された被冷却物(発電機4、軸受部11)に接続され、被冷却物に冷却水を供給する第4の配管を構成する。さらに、冷却水供給配管L7の被冷却物(発電機4、軸受部11)の出口から下流側の部分と再循環配管L10は、第1の配管、第2の配管及び第4の配管とともに、冷却水の循環流路を形成する。冷却水の循環流路は、被冷却物の冷却水出口と接続され、被冷却物の冷却水入口に戻る。
【0028】
以上、本発明の含油排水の浄化システム21を実施形態により説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるわけではない。一例として、膜ろ過装置は可搬式としてもよい。
図7には可搬式膜ろ過装置41の構成を示す。
図7(a)の太線は通常運転時、
図7(b)の太線は逆洗時の水の流れを示している。通常運転と逆洗運転は図示しない弁によって切り替えられる。膜ろ過装置41は、精密ろ過膜モジュールまたは限外ろ過膜モジュール(以下、膜モジュール42という)と、含油排水を膜モジュール42に供給する移送ポンプ43と、膜モジュール42で処理されたろ過水を貯蔵するろ過水タンク44と、送水・逆洗ポンプ45と、を有している。ろ過水タンク44と送水・逆洗ポンプ45は膜モジュール42を逆洗する逆洗設備46を構成する。これらの設備41~46はハウジング47の内部でユニット化されている。ハウジング47はその頂部に設けられた吊り治具(図示せず)を用いて、トラック等で輸送することができる。含油排水の供給口48と、処理水の排出口49と、逆洗水の排出口50は外部から配管がつなぎ込めるようにされ、ハウジング47をトラックに収容した状態でも運転できるように、ハウジング47の同じ面に設けられている。通常運転時は、含油排水は供給口48から供給され、移送ポンプ43で加圧されて膜モジュール42に上向流で供給される。膜モジュール42で処理された処理水(ろ過水)はろ過水タンク44に貯蔵され、送水・逆洗ポンプ45により排出口49から排出される。また、ろ過水タンク44に油検知器を設けて、ろ過水中に油が検知された場合は、切替ライン(図示せず)によってろ過水をさらに膜モジュール42に送るようにしてもよい。切替ラインはハウジング47の供給口48、排出口49、排出口50と同じ側に設けることが好ましい。逆洗時はろ過水タンク44に貯蔵されたろ過水(逆洗水)が、送水・逆洗ポンプ45で加圧されて膜モジュール42に下向流で供給される。使用済みの逆洗水は排出口50から排出される。排出口49にろ過水を送水するポンプと逆洗水を膜モジュール42に送るポンプはそれぞれ設けられてもよい。膜ろ過装置41は第1及び第2の実施形態の貯留槽26、膜ろ過装置25及び薬品貯蔵タンク27の代替設備として用いることができる。建屋22の浸水等による含油排水の発生が予想される場合、可搬式のろ過装置41を予め
図1~6の貯留槽26の位置に設置し、含油排水の発生に備えることができる。建屋22の地下階が浸水した後であっても、ろ過装置41は地上に設置されることから、大きな困難なく搬入及び据付けを行うことができる。可搬式の膜ろ過装置41は複数の水力発電システムで共用することができるため、コストの削減が可能である。
【0029】
本発明は既設の水力発電システムの改造に用いることができる。追加設置する配管や設備は既設の配管や装置によるが、上述した通り、膜ろ過装置25、41は非含油排水と含油排水で共通化できるため、追加設置する設備は限られる。なお、非含油排水と含油排水で別々のろ過設備を設けることも可能である。
【0030】
本発明は建屋22内で発生した含油排水の処理に好適に適用できるが、屋外で発生した含油排水、例えば、屋外設置のポンプ、タンク、配管等の含油設備から内蔵油が漏れ出し、屋外に含油排水が発生した場合にも適用できる。つまり、本発明は建屋22内及び屋外の含油排水に対応可能であり、水力発電所の様々な施設に適用できる。本発明は水力発電システム以外の用途にも用いることができる。すなわち、被冷却物は水力発電機に限定されず、作動油または潤滑油を含む含油設備であればよい。
【符号の説明】
【0031】
1 水力発電システム
2 水力発電機
21 浄化システム
22 建屋
23 含油排水保持部(排水ピット)
25 膜ろ過装置
26 貯留槽
27 薬品洗浄手段
29 放水設備(放水口)
41 可搬式膜ろ過装置
L1 取水配管
L2 ろ過水配管
L3 ドレン配管
L4 ヘッダ配管
L5 移送配管
L6 シール水供給配管
L7 冷却水供給配管
L8 排水配管
L9 流路切替配管
L10 再循環配管
L11 還流配管
L12 排水配管