(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011053
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】歯科材料調製袋
(51)【国際特許分類】
A61C 9/00 20060101AFI20220107BHJP
A61C 13/34 20060101ALI20220107BHJP
B65D 81/32 20060101ALI20220107BHJP
B65D 81/36 20060101ALI20220107BHJP
A61K 6/90 20200101ALI20220107BHJP
A61K 6/73 20200101ALI20220107BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20220107BHJP
A61K 6/898 20200101ALI20220107BHJP
A61K 6/858 20200101ALI20220107BHJP
【FI】
A61C9/00 Z
A61C13/34 Z
B65D81/32 D
B65D81/36 Z
A61K6/90
A61K6/73
A61K6/60
A61K6/898
A61K6/858
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111924
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】392012283
【氏名又は名称】有限会社坂本石灰工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達宣
(72)【発明者】
【氏名】高木 泰憲
【テーマコード(参考)】
3E013
4C089
【Fターム(参考)】
3E013AA05
3E013AB10
3E013AC11
3E013AC19
3E013AD36
3E013AE12
3E013AF02
3E013AF17
3E013AF26
3E013BA21
3E013BB12
3E013BC14
3E013BD20
3E013CA10
3E013CB01
3E013CC12
4C089AA14
4C089BA18
4C089BE14
4C089CA02
4C089CA03
4C089CA07
(57)【要約】
【課題】袋内で水と硬化材との均一接触を可能にすると共に水と硬化材との混和を段階的にして“継粉”の形成を防止し、混練性の良好なペースト状の歯科用混練材を誰でも簡単且つ迅速に調製できる歯科材料調製袋を提供する。
【解決手段】水を収容した水収容部と、水収容部に隣接して形成され、硬化材を収容した硬化材収容部と、水収容部と硬化材収容部との間を仕切ると共に水収容部の内圧の高まりにより破断して水収容部と硬化材収容部とを連通し、水収容部から硬化材収容部へ水を流入させる仕切部と、を備え、硬化材は、硬化粉体を造粒成形した複数の顆粒状塊体で構成してなることとした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と水に反応して硬化する歯科用の硬化材とを袋内に密封収容すると共に袋内で撹拌・混練してペースト状の歯科用の混練材を得るための歯科材料調製袋であって、
前記水を収容した水収容部と、
前記水収容部に隣接して形成され、前記硬化材を収容した硬化材収容部と、
前記水収容部と前記硬化材収容部との間を仕切ると共に前記水収容部の内圧の高まりにより破断して前記水収容部と前記硬化材収容部とを連通し、前記水収容部から前記硬化材収容部へ水を流入させる仕切部と、を備え、
前記硬化材は、硬化粉体を造粒成形した複数の顆粒状塊体で構成したことを特徴とする歯科材料調製袋。
【請求項2】
前記顆粒状塊体は、吸水により固形塊形状を保持しつつ前記硬化粉体同士の結合力を弱めた脆弱状態となる水への浸漬静置時間を10秒~120秒とするように成形したことを特徴とする請求項1に記載の歯科材料調製袋。
【請求項3】
前記顆粒状塊体は、打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3となるように打圧成形したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歯科材料調製袋。
【請求項4】
前記顆粒状塊体は、錠剤型に打圧成形したことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科材料調製袋。
【請求項5】
前記仕切部は、
前記水収容部の内圧の高まりにより剥離される剥離始端側の低溶着強度領域と、
前記低溶着強度領域よりも高い溶着強度とし、前記低溶着強度領域に連なる高溶着強度領域と、
を有するように熱溶着して形成したことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科材料調製袋。
【請求項6】
前記仕切部は、前記水収容部の内圧の高まりにより破断した場合に、前記水収容部の水を前記硬化材収容部へ流入可能とする一方、前記硬化材収容部の内容物を前記水収容部へ逆流させることを防止する逆止弁機能を果たす破断片を形成するようにしたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科材料調製袋。
【請求項7】
前記硬化材は、石膏又はアルジネートであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科材料調製袋。
【請求項8】
前記硬化材は、前記水1重量部に対して1.0~5.5重量部であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科材料調製袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯科材料調製袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科医療現場では、歯科材料として、石膏やアルジネートなどの水と反応して硬化する硬化粉体と水とを撹拌・混練して調製したペースト状の混練材を、歯型模型を作製するための模型材や看者の歯型を型取りするための印象材として使用している。
【0003】
一般的に、混練材の調製は、水と硬化粉体とをそれぞれ計量し、同計量された水と硬化粉体とをボール等の撹拌容器に収容し、開放された室内環境の下でヘラ等により均一に撹拌・混練することにより行われている。
【0004】
かかる従来の混練材の調製にあたって、撹拌・混練作業前には、不正確な混練比で調製された混練材は硬化時の収縮・膨張差を大きくして硬化物の形状を歪にするなどの品質不良を招く虞があるために、水と硬化粉体とを正確な混練比とするようにそれぞれ精密な計量作業を行う必要がある。
【0005】
また、撹拌・混練作業時には、硬化粉体が微細なパウダー状であるが故に撹拌・混練に伴って不用意に舞い上がり飛散してまい、同飛散した粉塵を作業者が不用意に吸入して健康被害が生じる虞がある。
【0006】
また、撹拌・混練作業後には、撹拌・混練作業時に混練材に不用意に混入した気泡が硬化後の硬化物表面で複数の凹状穴となって表れたり硬化物内部に封入されて硬化物の密度を不均一にしたりするなどの“ヒケ”を生じさせて同じく品質不良を招くため、消泡剤やバイブレータをなどを使用して硬化前の混練材から気泡を抜く脱泡作業を行う必要がある。
【0007】
さらに、撹拌・混練作業後に余った混練材を廃棄処理するには、排水管に混練材トラップを導入したり同トラップから混練材残渣を取り除くメンテナンスを定期的に行わなければならないなど、多くのコストを要する問題あった。
【0008】
このように従来の歯科用の混練材の調製には、水と硬化材との撹拌・混練作業の前後を通じて、作業者に作業負担を強いたり健康上の思わぬ被害となったり余剰混練材の処理に多くのコストを要するなどの種々の問題があった。
【0009】
これらの問題に対し、予め正確な混練比で計量された水と硬化粉体とを、密閉された袋内で仕切部を介して別々に形成した水収容部と粉末収容部とにそれぞれ収容して構成した、一回使い切りの歯科材料調製袋(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【0010】
この歯科材料調製袋によれば、水収容部に手指で外圧をかけることにより袋内で仕切部を剥離破損させて粉末収容部に連通する開口を形成し、同開口から粉末収容部内へ流入した水を硬化粉体に含浸させ、同袋を外側から手指で揉み込む手揉み操作により水と硬化粉体を撹拌・混練してペースト状の混練材を調製できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来の歯科材料調製袋では、袋内で硬化粉体が水と均一に接触できずに混和度を悪化させ、均一な撹拌・混合を実現できずに混練性の良好なペースト状の混練材を得ることが出来ない虞があった。
【0013】
一般的に、水を粉体へ一度に供給すると、偏って水を吸収した粉体部分が「高粘稠性」を有した“継粉”(通称、ダマ)となる。“継粉”は、その「高粘稠性」により、内部に未溶解の粉体や気泡を閉じ込めたり他の未溶解の粉体への水の供給を遮断したりして、水と粉体との接触機会を不用意に奪い完全混和を阻害する。
【0014】
すなわち、従来の歯科材料調製袋によれば、仕切部に剥離形成した開口を介して水収容部から粉末収容部へ流入した流入水は流入直後に開口近傍にある硬化粉体へ即座に含浸吸収されることとなるため、粉末収容部の開口近傍部で局所的に"継粉"を形成する虞がある。
【0015】
特に撹拌・混練作業の手揉み操作の際には袋を持ち上げて行うために、硬化粉体は粉末収容部内において自重で落下して集合した粉溜まり状態となる。すなわち、粉末収容部に流入する水は粉溜まりの上層部分に優先して含浸吸収されるために、上層部分には"継粉"が形成される。
【0016】
このように局所的に形成された"継粉"は、その「高粘稠性」により、粉末収容部の対向する袋内面同士を不用意に隙間なく密着させ、仕切部の開口から遠方にある粉溜まりの下層部分等の未混和の粉体への給水経路を偏奇遮断する。
【0017】
すなわち、給水直後に生じた“継粉”は、粉末収容部の硬化粉体全域へ給水の障害となるばかりか偏奇した給水経路を形成して新たな"継粉"の形成を助長し、結果、流入水を硬化粉体の全域に均一に接触させることができずに撹拌・混練作業を困難なものとしていた。
【0018】
このように従来の歯科材料調製袋では、粉末収容部に“継粉”を不用意に形成して水と硬化粉体との混練性を悪化させるだけなく撹拌・混練作業に多くの時間を要し、印象採得や歯型模型へ良好な状態で硬化する混練材を調製できない虞があった。
【0019】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、作業者の健康に配慮しつつ撹拌・混練作業前後の材料の精密な計量作業や混練材からの脱泡作業を省略でき、余剰混練材の処理を容易にしつつも低コスト化を図ることができることは勿論、袋内で水と硬化材との均一接触を可能にすると共に水と硬化材との混和を段階的にして不用意な“継粉”の形成を防止し、混練性の良好なペースト状の歯科用混練材を誰でも簡単且つ迅速に調製できる歯科材料調製袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る歯科材料調製袋は、(1)水と水に反応して硬化する歯科用の硬化材とを袋内に密封収容すると共に袋内で撹拌・混練してペースト状の歯科用の混練材を得るための歯科材料調製袋であって、前記水を収容した水収容部と、前記水収容部に隣接して形成され、前記硬化材を収容した硬化材収容部と、前記水収容部と前記硬化材収容部との間を仕切ると共に前記水収容部の内圧の高まりにより破断して前記水収容部と前記硬化材収容部とを連通し、前記水収容部から前記硬化材収容部へ水を流入させる仕切部と、を備え、前記硬化材は、硬化粉体を造粒成形した複数の顆粒状塊体で構成したことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る移植針は、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記顆粒状塊体は、吸水により固形塊形状を保持しつつ前記硬化粉体同士の結合力を弱めた脆弱状態となる水への浸漬静置時間を10秒~120秒とするように成形したこと。
(3)前記顆粒状塊体は、打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3となるように打圧成形したこと。
(4)前記顆粒状塊体は、錠剤型に打圧成形したこと。
(5)前記仕切部は、前記水収容部の内圧の高まりにより剥離開始される剥離始端側の低溶着強度領域と、前記低溶着強度領域よりも高い溶着強度とし、前記低溶着強度領域に連なる高溶着強度領域と、を有するように熱溶着して形成したこと。
(6)前記仕切部は、前記水収容部の内圧の高まりにより破断した場合に、前記水収容部の水を前記硬化材収容部へ流入可能とする一方、前記硬化材収容部の内容物を前記水収容部へ逆流させることを防止する逆止弁機能を果たす破断片を形成するようにしたこと。
(7)前記硬化材は、石膏又はアルジネートであること。
(8)前記硬化材は、前記水1重量部に対して1.0~5.5重量部であること。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明によれば、水と水に反応して硬化する歯科用の硬化材とを袋内に密封収容すると共に袋内で撹拌・混練してペースト状の歯科用の混練材を得るための歯科材料調製袋であって、前記水を収容した水収容部と、前記水収容部に隣接して形成され、前記硬化材を収容した硬化材収容部と、前記水収容部と前記硬化材収容部との間を仕切ると共に前記水収容部の内圧の高まりにより破断して前記水収容部と前記硬化材収容部とを連通し、前記水収容部から前記硬化材収容部へ水を流入させる仕切部と、を備え、前記硬化材は、硬化粉体を造粒成形した複数の顆粒状塊体で構成したため、作業者の健康に配慮しつつ撹拌・混練作業前後の材料の精密な計量作業や混練材からの脱泡作業を省略でき、余剰混練材の処理を容易にしつつも低コスト化を図ることができることは勿論、袋内で水と硬化材との均一接触を可能にすると共に水と硬化材の混和を段階的にして“継粉”の形成を防止し、混練性の良好なペースト状の歯科用混練材を誰でも簡単且つ迅速に調製できる。
【0023】
具体的には、硬化材を複数の顆粒状塊体で構成してるため、複数の顆粒状塊体はその顆粒形状により互いの塊体同士の間に「隙間」を形成した状態で硬化材収容部に収容される。
【0024】
そして、水収容部を外側から手指で押圧して内圧を高めることにより仕切部を剥離破断して連通した硬化材収容部へ水を流入した場合、同流入水は顆粒状塊体同士の間の隙間を通って満遍なく硬化材収容部内に行き渡る。
【0025】
換言すれば、複数の顆粒状塊体の間の隙間は、流入水を複数の顆粒状塊体へ満遍なく行き渡らせて硬化材収容部内に貯溜させる給水路の役割を果たしている。これにより各顆粒状塊体は、水収容部から流入し硬化材収容部内に貯溜された流入水により外表面全体を包みこまれた浸漬状態となる。
【0026】
しかも、各顆粒状塊体は、硬化粉体を塊粒状に圧縮して造粒成形しているために、水に一度に崩壊して硬化粉体に形態変化して継粉を形成することなく、顆粒外形を保持した状態で外周部から中心部へと水を漸次含浸する。
【0027】
すなわち、各顆粒状塊体は、その顆粒形状を可及的保持したまま、外周部から中心部にかけて水を吸収して粉体同士の圧縮結合力を弱め、水でふやかされた脆弱状態となる。
【0028】
換言すれば、顆粒状塊体は、水でふやけた脆弱状態でも粉体同士の間に所定量の水を蓄積しつつ顆粒形状を保持しており、外力負荷により固形塊状から低粘性の粘稠物質状へと容易に崩壊し、緩慢的且つ段階的に水と混和する。
【0029】
さらに袋の手揉み操作をした際には、水でふやけた脆弱状態の各顆粒状塊体は、互いに外側で当接摺動しながら複雑に擦れ合うこととなり、容易に崩壊してその内外から水との混和度を高める。
【0030】
特に、顆粒状塊体は、外周部を水との接触部としているために中心部よりも外周部の方が脆弱となっており、したがって外周部から中心部へ向かって固形塊状から粘稠物質状へ漸次解舒するように漸次縮小摩耗し、最終的に塊全体を粘稠物質状にして摩減し、水との完全混和を完了する。
【0031】
すなわち、本発明は、“継粉”の原因となる細かい粉体を硬化材収容部に予め存在させず、撹拌・混練作業時に顆粒形状を可及的保持した水含浸状態の各顆粒状塊体を外周部から中心部にかけて固形塊状から粘稠物質状へと段階的に解舒する構成としており、硬化材収容部内で貯溜された水との混和度を均一化しながら徐々に高める緩慢且つ速やかな混和を実現する。したがって、水と硬化材とが均一に混練されたペースト状の混練材を誰でも簡単且つ迅速に調製できる効果がある。
【0032】
また、請求項2に係る発明によれば、前記顆粒状塊体は、吸水により固形塊形状を保持しつつ前記硬化粉体同士の結合力を弱めた脆弱状態となる水への浸漬静置時間を10秒~120秒とするように成形したため、各顆粒状塊体を固形塊状から粘稠物質状へと解舒する時間を短縮化できる。したがって、手揉み操作により各粘稠物質を一体化してペースト状の混練材へ調製でき、歯科現場で混練材を調製する調製作業を短縮化且つ効率化することができる効果がある。
【0033】
また、請求項3に係る発明によれば、前記顆粒状塊体は、打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3となるように打圧成形したため、一定の硬度を有して外周部を固形塊状から粘稠物質状へする摩耗解舒度合いを調節でき、解舒生成される硬化粉末量を一定化して“継粉“の形成をより堅実に防止しつつ水との混和速度をコントロールすることができる効果がある。
【0034】
また、請求項4に係る発明によれば、前記顆粒状塊体は、錠剤型に打圧成形したため、各顆粒状塊体が一定形状に保型されていることから、各顆粒状塊体のそれぞれの摩耗解舒度合いを略一致させて、解舒生成される硬化粉体量をより一定化することができ、水との混和速度をより精密にコントロールできる効果がある。
【0035】
また、請求項5に係る発明によれば、前記仕切部は、前記水収容部の内圧の高まりにより剥離開始される剥離始端側の低溶着強度領域と、前記低溶着強度領域よりも高い溶着強度とし、前記低溶着強度領域に連なる高溶着強度領域と、を有するように熱溶着して形成したため、仕切部に対して水収容部から内圧が負荷されない定常状態では高溶着強度領域で袋内部を水収容部と硬化材収容部とに安定して区画することができる効果がある。
【0036】
また、仕切部に対して水収容部から内圧が負荷された状態では低溶着強度領域が接合界面で正確に剥離することとなりその剥離応力を正確に高溶着強度領域の接合界面へ導いて高溶着強度領域を接合界面で安定して剥離することができる。したがって、高溶着強度領域の破断に伴う不用意な袋の損壊を防止することができる効果がある。
【0037】
また、請求項6に係る発明によれば、前記仕切部は、前記水収容部の内圧の高まりにより破断した場合に、前記水収容部の水を前記硬化材収容部へ流入可能とする一方、前記硬化材収容部の内容物を前記水収容部へ逆流させることを防止する逆止弁機能を果たす破断片を形成するようにしたため、袋の手揉み操作に伴い硬化材収容部内の水や硬化材、粘稠物質状の中間混練物が水収容部の内部へ不用意に逆流して移動することを防止し、予め正確な混練比となるように計量された水と硬化材とを硬化材収容部内に確実に留めて同硬化材収容部を撹拌・混練の作業中心として機能させることができる。したがって、正確な混練比を保持して水と硬化材とを混練することができ、良好な混練性を有するペースト状の混練材を調製できる効果がある。
【0038】
また、請求項7に係る発明によれば、前記硬化材は、石膏又はアルジネートであることとしたため、歯科医療現場で歯型模型や印象採得を作製する際に頻繁に使用される模型材や印象材といった混練材を安定した混和度で誰でも簡単且つ迅速に調製して得ることができる効果がある。
【0039】
また、請求項8に係る発明によれば、前記硬化材は、前記水1重量部に対して1.0~5.5重量部であることとしたため、水と硬化材との混和による硬化反応を可及的安定させることができる。したがって、硬化材の硬化時の収縮・膨張差を可及的抑制して、歯型模型や印象採得物などの硬化物の品質を安定させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施例1に係る歯科材料調製袋の構成を示す正面図である。
【
図2】実施例1に係る歯科材料調製袋の構成を示すA-A断面図である。
【
図3】実施例1に係る歯科材料調製袋の構成を示す部分拡大断面図である。
【
図4】実施例1に係る歯科材料調製袋の仕切部の構成を示す拡大断面図である。
【
図5】本発明に係る歯科材料調製袋の使用状態を示す模式的説明図である。
【
図6】本発明に係る顆粒状塊体の解舒過程を示す模式的説明図である。
【
図7】本発明に係る歯科材料調製袋による混練材の調製方法を示すフロー図である。
【
図8】実施例2に係る歯科材料調製袋の仕切部の構成を示す模式的拡大断面図である。
【
図9】実施例2に係る歯科材料調製袋の仕切部の構成を示す模式的拡大断面図である。
【
図10】実施例3に係る実施例2に係る歯科材料調製袋の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
この発明の要旨は、水と水に反応して硬化する歯科用の硬化材とを袋内に密封収容すると共に袋内で撹拌・混練してペースト状の歯科用の混練材を得るための歯科材料調製袋であって、前記水を収容した水収容部と、前記水収容部に隣接して形成され、前記硬化材を収容した硬化材収容部と、前記水収容部と前記硬化材収容部との間を仕切ると共に前記水収容部の内圧の高まりにより破断して前記水収容部と前記硬化材収容部とを連通し、前記水収容部から前記硬化材収容部へ水を流入させる仕切部と、を備え、前記硬化材は、硬化粉体を造粒成形した複数の顆粒状塊体で構成したことを特徴とする歯科材料調製袋を提供することにある。
【0042】
前記顆粒状塊体は、吸水により固形塊形状を保持しつつ前記硬化粉体同士の結合力を弱めた脆弱状態となる水への浸漬静置時間を10秒~120秒とするように成形したことを特徴とする。
【0043】
また、前記顆粒状塊体は、打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3となるように打圧成形したことを特徴とする。
【0044】
また、前記顆粒状塊体は、錠剤型に打圧成形したことを特徴とする。
【0045】
また、前記仕切部は、前記水収容部の内圧の高まりにより剥離開始される剥離始端側の低溶着強度領域と、前記低溶着強度領域よりも高い溶着強度とし、前記低溶着強度領域に連なる高溶着強度領域と、を有するように熱溶着して形成したことを特徴とする。
【0046】
また、前記仕切部は、前記水収容部の内圧の高まりにより破断した場合に、前記水収容部の水を前記硬化材収容部へ流入可能とする一方、前記硬化材収容部の内容物を前記水収容部へ逆流させることを防止する逆止弁機能を果たす破断片を形成するようにしたことを特徴とする。
【0047】
また、前記硬化材は、石膏又はアルジネートであることを特徴とする。
【0048】
また、前記硬化材は、前記水1重量部に対して1.0~5.5重量部であることを特徴とする。
【0049】
[実施例1]
以下、本発明に係る歯科材料調製袋の実施例1について、図面を参照しながら説明する。
図1は歯科材料調製袋の構成を示す正面図、
図2は歯科材料調製袋の構成を示すA-A断面図、
図3は歯科材料調製袋の構成を示す部分拡大図、
図4は仕切部の構成を示す拡大断面図、
図5は歯科材料調製袋の使用状態を示す模式的説明図、
図6は顆粒状塊体の解舒過程を示す模式的説明図である。
【0050】
本実施例に係る歯科材料調製袋Aは、水Wと水Wに反応して硬化する歯科用の硬化材Hとを袋内に密封収容すると共に袋内で撹拌・混練してペースト状の歯科用の混練材を得るために使用される。
【0051】
歯科材料調製袋Aは、密閉状の内部空間を有する正面視方形状の透明樹脂製の扁平袋体であって、
図1に示すように水Wを収容した水収容部10と、水収容部10に隣接して形成され、硬化材Hを収容した硬化材収容部20と、水収容部10と硬化材収容部20との間を仕切る仕切部30と、を備える。
【0052】
歯科材料調製袋Aの正面視形状は、所定容量の水Wと硬化材Hとをそれぞれ収容可能な水収容部10と硬化材収容部20とが内部空間に形成できれば特に限定されることはなく、例えば長方形状、三角形状、円形状であってもよい。なお、本実施例の歯科材料調製袋Aの正面視形状は略正方形状にしている。
【0053】
また、歯科材料調製袋Aの寸法は、水収容部10や硬化材収容部20に収容する水Wや硬化材Hの容量に応じて適宜設計することができる。例えば、硬化材H50g収容用の歯科材料調製袋Aの寸法であれば、縦100mm~200mm・横100mm~200mm、より好ましくは縦140mm・横140mm、硬化材H100g収容用の歯科材料調製袋Aの寸法であれば、縦100~250mm・横100~250mmである。なお、本実施例の歯科材料調製袋Aの寸法は、縦140mm・横140mmである。
【0054】
この歯科材料調製袋Aは、
図1及び
図2に示すように可撓性を有する正面視方形状の樹脂シート40を長手方向の中央で2つ折り形成した上端側の折曲部41と、折曲部41以外の三側方の樹脂シート40の重合側端部同士をそれぞれ熱溶着して形成した下端溶着部42と左端溶着部43Lと右端溶着部43Rと、により一定容積の内部空間を有した密閉袋状に形成している。
【0055】
また、樹脂シート40は、正面視方形状の外側フィルム44と、外側フィルム44と同じ正面視方形状の内側フィルム45とをそれぞれ面対向して積層重合することにより形成している。
【0056】
すなわち、歯科材料調製袋Aは、
図2~
図3(b)に示すように2枚の内外側フィルム44、45を積層重合した樹脂シート40により内外二重壁構造にして機械的強度を向上している。これにより、袋内圧の不用意な高まりや仕切部30の破断時や水Wと硬化材Hとの揉み込み操作時等、袋内外からの応力負荷により袋が不用意に破損して内容物が外部に漏れ出すことを防止している。なお、本実施例の樹脂シート40の正面視形状は、中央部で2つ折り重合した際に正面視略正方形となるように縦横比を約2:1とした長方形状としている。
【0057】
外側フィルム44と内側フィルム45とは、それぞれ同一樹脂素材で形成されたものであってもよいが、例えば、外側フィルム44は高強度の耐久樹脂製にすると共に内側フィルム45は互いに剥離しやすいイージーピール樹脂製とすることが好ましい。
【0058】
耐久樹脂としては例えばナイロン、ポリプロピレンポリエチレン、塩化ビニール樹脂を採用できる。また、イージーピール樹脂としては例えばポリエチレンを採用できる。なお、ポリエチレンは熱溶着温度がナイロンよりも低く、熱溶着後に歯科材料調製袋Aに外力を加えると容易に剥離破断し易い。
【0059】
本実施例の樹脂シート40は、内側フィルム45について外側フィルム44よりも熱溶着温度の低い樹脂を用いることにより、仕切部30の易破断性を向上して形成している。
【0060】
また、樹脂シート40は、歯科材料調製袋Aの揉み込み操作がしやすい可撓性を保持する厚みで形成しており、例えば、外側フィルム44の厚みを10~40μmとし、内側フィルム45の厚みを30~70μmにしている。
【0061】
また、仕切部30は、水収容部10と硬化材収容部20との間を仕切ると共に水収容部10の内圧の高まりにより破断して水収容部10と硬化材収容部20とを連通させ、水収容部10から硬化材収容部20へ水を流入させるように形成している。
【0062】
仕切部30は、
図1に示すように正面視で歯科材料調製袋Aの左右端溶着部43L、43Rの約1/3位置で左右方向へ樹脂シート40の表裏面同士を直線帯状に熱溶着して形成したイージーピール部であり、水収容部10と硬化材収容部20との隣接境界部に位置する。
【0063】
すなわち、仕切部30は、袋本体の上側(折曲部41側)に水収容部10を、袋本体の下側(下端溶着部42側)に硬化材収容部20を、それぞれ配置するように袋内空間を区画する。
【0064】
また、仕切部30は、歯科材料調製袋Aの三側方の各溶着部42、43L、43Rよりも低い溶着強度、且つ水収容部10から所定の圧力が加わった場合に剥離破断して開口形成する溶着強度で、
図2~
図3(b)に示すように樹脂シート40において表裏対向する内側フィルム45、45’の接合面45a、45a’同士を熱溶着して形成している。
【0065】
具体的には、仕切部30は、水収容部10の外側から押圧力をかけない水収容部内圧の定常圧状態では
図2及び
図3(a)に示すように内側フィルム45、45’同士の溶着状態を保持すると共に、水収容部10の外側から押圧力をかけた水収容部内圧の高圧状態では
図3(b)に示すように内側フィルム45、45’の対向する接合面45a、45a’同士を引き剥がして水収容部10と硬化材収容部20とを連通する連通口34を開口形成する溶着強度となるように熱溶着して形成している。
【0066】
連通口34は、仕切部30を破断することにより互いに離反した内側フィルム45、45’の接合面45a、45a’同士の間に形成される。連通口34は、仕切部30の任意の位置に開口形成され、水収容部10に収容した水Wを硬化材収容部20へ全容量流入させる。
【0067】
仕切部30の正面視形状は、袋の内部空間を水収容部10と硬化材収容部20とに区画形成できれば特に限定されることはなく、V字状、波形状であってもよい。例えば、仕切部30を水収容部10側に拡開すると共に硬化材収容部20へ向かって漸次狭幅して傾斜する正面視略V字状に形成した場合には、水収容部10へ外圧を加えた際にV字先端部に内圧が集中して仕切部30が開口し易くなる。
【0068】
換言すれば、水収容部10や硬化材収容部20の正面視形状は、前述の各溶着部42、43L、43Rや仕切部30の溶着形状を変更することにより所望とする形状にすることができ、例えば、円形状や三角形状等にすることができる。
【0069】
また、仕切部30の幅員は、不用意な外力によって部分的に破損或いは剥離しない程度の幅員にしており、本実施例では約5~15mmである。
【0070】
また、仕切部30は、水収容部10の内圧の高まりにより剥離される剥離始端側に沿って配置される低溶着強度領域32と、低溶着強度領域32よりも高い溶着強度で低溶着強度領域32に連なって配置される高溶着強度領域31と、を有するように熱溶着して形成している。
【0071】
具体的には、仕切部30は、
図1に示すように正面視帯状の幅方向中央を伸延する高溶着強度領域31としての中央シール領域31と、中央シール領域31の上下側(仕切部30の幅方向左右側)で平行に伸延し、中央シール領域31よりも溶着強度の低い低溶着強度領域32としての上下側シール領域32、33と、により形成している。
【0072】
中央シール領域31は、歯科材料調製袋Aの表裏面をローレット状の凹凸波状面とするローレットシール領域(
図1中、薄墨で示す領域。)として溶着強度を高めている。すなわち、中央シール領域31における内側フィルム45、45’同士の表裏対向する接合面45a、45a’は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように断面視で同位相の略波形状としている。
【0073】
また、上下側シール領域32、33は、歯科材料調製袋Aの表裏面を平坦面とする平坦シール領域にして中央シール領域31よりも溶着強度を低くすると共に剥離性を高めている。すなわち、上下側シール領域32、33における内側フィルム45、45’同士の対向する接合面45a、45a’は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように断面視で同位相の平坦形状としている。
【0074】
なお、中央シール領域31の幅員は、上下側シール領域32、33の幅員の総和に略等しく、本実施例では約2.5~7.5mmである。
【0075】
これら中央シール領域31と上下側シール領域32、33とは、加熱面を平坦面とするシール装置により平坦状に熱溶着して帯状シール部分を形成し、さらにこの帯状シール部分の中央部を加熱面を凹凸周面とするローラー式シール装置により熱圧着することによりそれぞれ形成される。
【0076】
これにより、仕切部30に対して水収容部10から内圧が負荷された場合には、まず仕切部30における水収容部10側の上側シール領域32が接合面45a、45a’同士を接合界面で正確に剥離し、次いで最も溶着度の高い中央シール領域31が上側シール領域32の剥離終端に連続して剥離し、最終的に硬化材収容部20側の下側シール領域33が中央シール領域31の剥離終端に連続して剥離することとなる。
【0077】
すなわち、低溶着強度領域32としての上側シール領域32や下側シール領域33は、仕切部30の破断の際に最も熱溶着強度の高い中央シール領域31の不用意なフィルム破損による袋の損壊を防止しつつ接合界面で正確に剥離するための剥離導入領域として機能する。
【0078】
水収容部10は、
図1に示すように上側の折曲部41と、下側の仕切部30と、仕切部30と折曲部41の間で伸延する左右側の左右端溶着部43L、43Rとにより囲まれた正面視略台形状の空間部分であって、所定容量の水Wを水密状に密封収容している。
【0079】
水収容部10の歯科材料調製袋Aの(折曲部41側)の左右上側隅部11L、11Rは、正面視略円弧状に形成している。これにより、左右上側隅部11L、11Rに集中して内圧がかかった場合であっても、同部分での左右端溶着部43L、43Rの不用意な剥離を防止することができる。
【0080】
すなわち、水収容部10は、円弧状の左右上側隅部11L、11Rにより、左右端溶着部43L、43Rをそれぞれ上側の折曲部41から下側の仕切部30に向かって漸次拡開させて幅員を拡大するように形成している。
【0081】
水収容部10の正面視寸法は、後述する水Wと硬化材Hとの混合比によって適宜変更されるものであるが、例えば縦20~40mm・横9mm~12mmであり、本実施例では縦辺30mm・上横辺10mm・下横辺11.5mmとしている。
【0082】
ここで、水収容部10の各周端部の接合強度の関係は、「樹脂シート40が連続する折曲部41>樹脂シート40の自由端同士を高熱溶着強度で溶着して形成した左右端溶着部43L、43R>樹脂シート40の自由端同士を低熱溶着強度で溶着して形成した仕切部30」となっている。
【0083】
すなわち、水収容部10に外圧をかけて水収容部10内で発生させた内圧は、狭幅側の折曲部41に集中することとなり、同折曲部41を樹脂シート40の可撓性により外方に向けて湾曲膨出させる。
【0084】
この状態でさらに水収容部10に外圧をかけると湾曲膨出変形した折曲部41に弾性反力が生じる。この弾性反力を生起した折曲部41により内圧が増幅されると共に応力方向を左右端溶着部43L、43Rにより仕切部30側に案内し、同内圧応力を仕切部30の溶着方向に直交する方向の破断応力へ変換する。
【0085】
すなわち、水収容部10は内部で発生した内圧応力を破断応力へ効果的に変換する外縁部形状を備えることにより、仕切部30における表裏の内側フィルム45、45’の接合面45a、45a’に対し、接合界面に水平な破断応力を集中作用させ、
図3(b)に示すように表裏の内側フィルム45、45’同士を剥離させて、水収容部10と硬化材収容部20とを連通する連通口34を確実に形成することができる。
【0086】
硬化材収容部20は、
図1に示すように上側の仕切部30と、下側の下端溶着部42と、左右側の左右端溶着部43L、43Rとにより囲まれた正面視幅広長形状の空間部分であって、所定容量の硬化材Hを水密状に密封収容している。
【0087】
硬化材収容部20は、硬化材Hを収容するだけでなく、水収容部10から流入する水Wを貯溜させると共に同貯留水と硬化材Hとを撹拌・混練する混練部としても機能する。
【0088】
すなわち、硬化材収容部20は、後述するように所望とする混練比で計量された水Wと硬化材Hの総量よりも大きくなる内容積を有するように形成している。このような内容積を有する硬化材収容部20の正面視寸法は、例えば縦80~90mm・横110~120mmであり、本実施例では縦85mm・横11.5mmとしている。
【0089】
硬化材収容部20の右下側隅部21Rは、正面視略円弧状とし、硬化材Hを溜まり難くすると共に未混練の硬化材を可及的なくすようにしている。
【0090】
また、硬化材収容部20の左下側隅部は、歯科材料調製袋Aに吐出口を開口形成するための吐出口形成部22にしており、撹拌・混練後のペースト状の混練材を硬化材収容部20から絞り出し吐出可能としている。
【0091】
吐出口形成部22は、
図1に示すように左端溶着部43Lの下部を内方突出した凸状部43aLとして拡幅すると共に最下端部を外方へ正面視細長状に突出して狭幅させることにより、硬化材収容部20の左下側隅部を幅狭細長状に形成している。
【0092】
具体的には、吐出口形成部22は、歯科材料調製袋Aの外方に向けて漸次狭幅する正面視横置きの細長台形状に形成しており、幅員を硬化材収容部20全体の幅員(上下長さ)の1/9~1/5としている。
【0093】
本実施例の吐出口形成部22の寸法は、正面視台形の上底辺に相当する左側縁部の長さを約10mm、上底辺である右側縁部の長さを約15mm、台形の高さに相当する下側縁部の長さ1.5mmとしている。
【0094】
また、歯科材料調製袋Aの左下側角部近傍の下側縁部には、
図1に示すように吐出口形成部22を横断して吐出口を開口形成するための直線状の開封用ノッチ23を切り込み形成している。
【0095】
開封用ノッチ23は、歯科材料調製袋Aの下側縁部において、同ノッチ23から袋内方へカットした場合のカットライン23a(
図1中、一点鎖線で示す。)が下端溶着部42と吐出口形成部22と左端溶着部43Lの凸状部43aLとを横断してそれぞれに交差する位置に形成している。換言すれば、吐出口24は、吐出口形成部22を横断するカットライン23a上に開口形成される。
【0096】
なお、吐出口形成部22は、別途、着脱自在のキャップ付き吐出ノズルを取付けて構成することとしてもよい。吐出ノズルとしては、例えば硬質樹脂筒であって、ノズル開口を吐出口とし、同吐出口をキャップにより水密状に開閉可能とするものを用いることができる。
【0097】
また、吐出口形成部22には、硬化材収容部20内での水Wと硬化材Hとの撹拌・混練時に不用意に混入した気泡を混練生成されたペースト状の混練材から脱泡する消泡手段を備えることとしてもよい。
【0098】
消泡手段としては、例えば、吐出口形成部22の吐出口24を閉塞するようにして、一定のメッシュ孔を複数有するメッシュ材を設けて構成できる。これにより、硬化材収容部20で撹拌・混練された混練材はメッシュ材により濾し出されるようにして吐出口から吐出されるため、メッシュ材通過時に混練材内の気泡を破泡・脱泡することができる。
【0099】
このように構成した歯科材料調製袋Aの水収容部10と硬化材収容部20とにはそれぞれ、調製目的とする所望の混練材の正確な混練比で計量された水Wと硬化材Hとが収容されている。
【0100】
水Wは、例えば、精製水、純水、水道水であり、所定の硬化促進剤、硬化遅延剤を溶解しておくこともできる。
【0101】
硬化材Hが石膏である場合、硬化促進剤としては、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩、塩化カルシウム、塩化ナトリウム等を採用できる。また、石膏の硬化遅延剤としては、例えば澱粉、にかわなどのコロイド性物質、酢酸などの有機酸、ホウ酸等を採用することができる。
【0102】
また、水Wは、常温水であってもよいが、温水とすることにより硬化材Hとの混練性を向上させることができ、混練材の硬化時間を短縮化できる。一方で、冷水とすることにより混練材の硬化時間を遅延化できる。
【0103】
硬化材Hは、水Wに反応して硬化するものであって、歯科用に使用される所望の混練材に応じて採用することができる。所望とする混練材が、例えば歯型模型を作製するための模型材であれば硬化材Hとしては石膏を、印象採得に使用する印象材であれば硬化材Hとしてはアルジネートをそれぞれ採用する。
【0104】
また、硬化材Hは、水1重量部に対して1.0~5.5重量部の混練比となるように計量して硬化材収容部20に収容している。硬化材Hが石膏である場合、水1重量部に対して2.0~5.0重量部の混練比とすることが好ましい。
【0105】
硬化材Hが、水1重量部に対して1.0重量部より少ないと、水Wと硬化材Hとの良好な撹拌・混練がなされないばかりか、混練された混練材が水分不足で粉っぽくなり、硬化後の硬化物が壊れやすくなる虞がある。
【0106】
硬化材Hが、水1重量部に対して5.5重量部より多いと、混練材が水分過多でスラリー状となり目的とする硬化物への成形作業を行うことができなくなるばかりか、硬りににくくなり硬化不備となる虞がある。したがって、硬化材Hは、水1重量部に対して1.0~5.5重量部の混練比とすることが好ましい。
【0107】
ここで、本発明に特筆すべき点として、硬化材Hは、硬化粉体を圧縮造粒して一定粒状に成形した複数の顆粒状塊体H1で構成していることにある。
【0108】
すなわち、硬化粉体に外圧をかけることにより粉体同士を圧着させて一定の顆粒状とした固形塊体に形成している。以下、顆粒状塊体H1が、硬化材Hとして硬化材収容部20に複数収容されて水Wへ均一に分散混合される混練メカニズムについて詳細に説明する。
【0109】
硬化材Hは、硬化粉体を造粒成形して一定の固形塊状にした複数の顆粒状塊体H1で構成しているために、水Wと接触しても即座に混和されることなく“継粉”を形成する虞がない。
【0110】
各顆粒状塊体H1は、
図1~
図5に示すように硬化材収容部20に収容された状態で互いの間に一定の「隙間」を形成している。
【0111】
このため水収容部10から硬化材収容部20へ流入する水Wは、「隙間」を通じて各顆粒状塊体H1の外表面全域に接触した状態で硬化材収容部20に貯溜される。
【0112】
各顆粒状塊体H1は、
図5に示すように硬化材収容部20内に流入して貯溜された水Wに対して外表面全域で満遍なく接触浸漬され、水Wを外周部から中心部に向かって含浸しつつ顆粒状形態を可及的保持する。
【0113】
すなわち、顆粒状塊体H1は、水Wへの浸漬状態において、その外周部から中心部にかけて水Wを漸次含浸することにより、一定の顆粒状形態を保持しつつ硬化粉体同士の圧縮結合力を弛緩させた脆弱状態となる。
【0114】
換言すれば、顆粒状塊体H1は、水Wを含浸吸収して粉体同士の圧着結合力を弱めた状態で、外力負荷が無い場合には顆粒状外形を可及的保持すると共に外力負荷がある場合には解舒崩壊するように粉体同士を圧縮して形成している。
【0115】
具体的には、顆粒状塊体H1は、水Wと接触した場合に、外周部を含浸した水Wにより硬化粉体同士の結合力を弱めた速解舒部とする共に中心部を水Wの含浸を遅延させて硬化粉体同士の結合力を可及的保持する徐解除部とするように構成している。
【0116】
これにより、顆粒状塊体H1は、水Wでふやかされた脆弱状態で、
図6(a)に示す一定の顆粒形状に保型されつつも粉体同士の間で結合力を緩めるように所定量の水Wを蓄えるため、外力が負荷された場合には粘稠物質状形態へと容易に解されてその内外から水Wと混和され、即時的且つ効率的な水Wと硬化材Hとの混練が行うことを可能としている。
【0117】
なお、顆粒状塊体H1における外周部から中心部への水Wの含浸速度は、打圧密度と略反比例する関係にある。すなわち、顆粒状塊体H1は、打圧密度を高くするほど水Wの含浸速度を遅める一方、打圧密度を低くするほど水Wの含浸速度を早める。詳細については後述するが、換言すれば、顆粒状塊体H1は、一定の打圧密度の下、水Wへの浸漬静置時間に比例して水を含浸吸収して崩壊性を高める。
【0118】
特に水Wと常時接触する顆粒状塊体H1の外表面側の最外周部は、水Wを最初に含浸する部分であって粉体同士の圧着結合力を最も弛緩させた最脆弱部としており、
図6(b)に示すように固形塊状から粘稠物質状へ形態変化する解舒作用を受けやすい。
【0119】
さらに、袋の手揉み操作を実行した場合には、各顆粒状塊体H1は、互いに外周部で当接しながら複雑に擦れ合って摺動するため、より外周部での解舒作用が助長されることとなる。
【0120】
このように各顆粒状塊体H1の外周部を解舒して生成した硬化粉体は含浸水だけでなく周囲の水Wと混合されることとなり、硬化材収容部20内には水Wと硬化材Hとの粘稠物質状の中間混練物が生成される。
【0121】
中間混練物は、最終調製物である混練材に比べて水分が多く硬化材濃度が低い、所謂低粘稠性の"水様性"のスラリー状である。すなわち、中間混練物は、硬化材量に比して水分量が多いため、硬化材の均一な完全混和を実現して硬化材収容部20内で局所的な"継粉"を形成する虞がない。
【0122】
具体的には、各顆粒状塊体H1は、硬化材収容部20内には、水Wでふやけた状態の顆粒状塊体がスポット的に複数点在することとなる。
【0123】
これら複数の顆粒状塊体同士をそれぞれ崩壊させて一体的に混練する際には、各顆粒状塊体の間には水Wが存在しているために基本的に気泡の入る余地はなく、また不用意に気泡が混入した場合であっても、同気泡は中間混練物の"水様性"により容易に上昇して中間混練物から脱泡されることとなる。
【0124】
このようにして、顆粒状塊体H1は、外周部から中心部Cに向かって漸次水を含浸したり互いに摺動摩耗するに伴い、
図6(a)~
図6(c)に示すように最外周側の塊部分から解舒されて、中間混練物中の硬化材濃度、すなわち粘稠性を段階的に高めて、中間混練物を水様性のスラリー状から粘性のペースト状の混練材へと徐々に変様させる。
【0125】
特に、水Wの含浸度の低い顆粒状塊体H1は、
図6(b)~
図6(c)に示すように縮小に伴って表面積を小さくするため、相対的に外周部からの解舒量(
図6(b)及び
図6(c)中、白抜き矢印で示す。)、すなわち、中間混練物への硬化材の供給量を減少させる。このように、顆粒状塊体H1は、中間混練物に対して硬化材の過剰供給を抑制することにより、高粘性の"継粉"の不用意な形成を可及的抑制する。
【0126】
最終的に顆粒状塊体H1は、塊全体を粘稠物質状にするように摩減して消失し、硬化材Hと水Wとの完全混和を実現して良好な混練性を有するペースト状の混練材へと調製することを可能としている。
【0127】
このように、本発明では、硬化材Hを一定の硬さ・形状・密度を有した固形塊状の複数の顆粒状塊体H1で構成しているため、水Wへの硬化材の供給量をコントールしつつ段階的にすることができる。
【0128】
すなわち、歯科材料調製袋Aによれば、混練中途段階における中間混練物の性状を、“水様性”のスラリー状から“粘稠性”のペースト状へと段階的に変様させつつ、“継粉”の形成を防止して混和速度を促進させた混練性の良好なペースト状の混練材への調製を可能とする。
【0129】
以下、顆粒状塊体H1の具体的構成の説明に戻る。顆粒状塊体H1は、硬化粉体を押し固めて造粒成形したものであり、一定の硬さを有した固形状としている。
【0130】
硬化粉体の顆粒状塊体H1への造粒方法は、微細パウダー状の硬化粉体から一定硬さ及び一定の顆粒形状を有して水和反応を生じさせる顆粒状塊体H1を製造できれば特に限定されることはなく、例えば、湿式造粒法や乾式造粒法などが挙げられる。
【0131】
湿式造粒法であれば、例えば造粒機として転動式造粒機を使用する際の硬化粉体の造粒時のバインダーとして水和反応を生じさせないエタノール等の有機溶媒を用いることにより一定の顆粒状塊体H1を得ることができる。
【0132】
また、バインダーに水を使用すると共に原料としての石膏粉末を使用する場合には、焼石膏(CaSO4・1/2H2O)と無水石膏(CaO:39.54,SO3:58.63,H2O:0.04%)とを一定の混合比で混合した混合石膏原料に対してバインダーとしての水25~30(w%)添加して造粒する。なお、焼石膏(CaSO4・1/2H2O)と副生無水石膏(CaO:39.54,SO3:58.63,H2O:0.04%)との混合割合は、焼石膏:副生無水石膏=86~90:14~10(w%)とする。なお、無水石膏は、蛍石よりフッ酸を製造する際に副生する石膏であってもよい。
【0133】
特に本実施例に係る顆粒状塊体H1は、乾式造粒法により打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3となるように打圧成形したものを用いている。
【0134】
すなわち、顆粒状塊体H1は、回転式成形機等の打錠機を使用して圧縮成形したものであって、一定量の硬化粉体を打圧機の固定金型に充填し、上下杵により所定の打錠圧力で圧縮成形して固形金型から抜去して得たものである。なお、打錠圧力4.0KN~15.0KNで打圧することにより打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3の顆粒状塊体H1を得ることができる。
【0135】
顆粒状塊体H1の打圧密度が2.00g/cm3よりも小さいと、固形塊状から低粘稠状(スラリー状)への自然崩壊が起こりやすくなり、粒形の固形塊状を保持することが出来ない。また、顆粒状塊体H1の打圧密度が2.23g/cm3よりも大きいと、固形塊状から低粘稠状(スラリー状)への解舒が困難となり、却って水Wと硬化材Hとの撹拌・混合効率を悪化させる。
【0136】
また、顆粒状塊体H1は、前述したように吸水により顆粒の固形塊形状を保持しつつ硬化粉体同士の結合力を弱めた脆弱状態となる水への浸漬静置時間が10秒~120秒となるように打圧成形している。これにより、各顆粒状塊体を固形塊状から粘稠物質状へと解舒する時間を短縮化できる。
【0137】
また、顆粒状塊体H1の粒径は、特に限定されることはないが、例えば6mm~10mmとすることにより硬化材収容部20への顆粒状塊体H1の収納数を多くすると共に水Wとの接触面積を十分に担保しつつ袋の手揉み操作に伴う外周部の接触機会を増加させての混練性を高め、撹拌・混合効率を向上させることができる。
【0138】
また、硬化材収容部20に収容される顆粒状塊体H1の数も特に限定されることはなく、調製対象とする所望の混練材の種類や打圧密度、粒径に応じて適宜変更することができる。
【0139】
特に本実施例の顆粒状塊体H1は、打圧機等によりボタン状の錠剤型に打圧成形している。具体的には、顆粒状塊体H1は、
図6(a)に示すように側面視で幅広円柱状の中央円柱部50と、中央円柱部50の上下面からドーム状に湾曲膨出する上下ドーム部51、52と、を有して形成している。中央円柱部50は、上下ドーム部51、52よりも硬化材量を多くするとともに表面積を拡大して形成している。
【0140】
また、硬化材収容部20や水収容部10は、
図1及び
図2に示すように指腹面で硬化材収容部20表面を押圧した際に弾性反力を感じる程度に、歯科材料調製袋Aを押圧しない外気圧環境下で、硬化材収容部20や10を内側から略膨出させて表面を略引張した略膨出状態で硬化材Hや水Wと共に一定量の空気Gを収容している。
【0141】
水収容部10は、内圧≦外気圧となるように所定容量の空気Gを水Wと共に密閉封入して収容している。本実施例では、空気Gは、水Wの全容量に対して約1/4~1/2容量として水収容部10に水Wと共に収容している。
【0142】
これにより、水収容部10は、外側から押圧した際に水収容部10の内圧を容易に生起させて、同内圧応力を仕切部30の破断応力とすることができると共に仕切部30の連通口を介して水収容部10から硬化材収容部20内へ水Wを強制的に圧送する圧送応力にすることができる。
【0143】
また、硬化材収容部20は、水収容部10と同様に、内圧≦外気圧となるように所定容量の空気Gを硬化材Hと共に密閉封入して収容している。具体的には、空気Gは、硬化材Hの全容量に対して約1/4~1/2容量として硬化材収容部20に硬化材Hと共に収容している。
【0144】
これにより、水Wや複数の顆粒状塊体H1の複雑な撹拌・混練動作を可能とするクリアランス空間を硬化材収容部20内に形成することができ、歯科材料調製袋Aを把手して振盪操作をしたり手揉み操作を行いやすくして撹拌・混練作業を効率化することができる。
【0145】
なお、水収容部10や硬化材収容部20へ収容された空気Gが水Wと硬化材Hとの撹拌・混練過程で水Wと硬化材Hの混練材に混入して気泡を形成する虞があるとも思える。しかし、前述の通り、本発明の硬化材Hは複数の顆粒状塊体H1にして水Wと硬化材Hとの混和を段階的とすることにより“継粉”の形成を防止可能に構成してことから、調製されるペースト状の混練材への“気泡”の形成が可及的抑制される。
【0146】
以下、本実施例の歯科材料調製袋Aによるペースト状の混練材の製造方法について説明する。
図7は、歯科材料調製袋Aによるペースト状の混練材の調製方法を示すフロー図である。
【0147】
まず、歯科材料調製袋Aの水収容部10をその表裏面から手指ではさみ込むようにして押圧することにより、
図5に示すように水収容部10の内圧を高めて仕切部30を破断する仕切部破断工程(ステップS1)を実行する。
【0148】
仕切部破断工程(ステップS1)では、前述の通り所定容量の水Wと空気Gとを収容した膨出状態にある水収容部10に表裏側から手指等で挟み込んで押圧力を負荷することにより、外気圧よりも高くした内圧を生起する。
【0149】
さらに水収容部10に外圧をかけると湾曲膨出変形した折曲部41で内側に向かう弾性反力が生じる。これにより内圧が増幅されると共に応力方向を左右端溶着部43L、43Rにより仕切部30側へ案内された破断応力が発生する
【0150】
破断応力は、
図3(a)に示すように仕切部30に向かうと共にフィルム同士の溶着方向に略直交して接合面45a、45a’に作用し、
図3(b)に示すように内側フィルム45、45’同士を押し広げるようにして剥離させる。
【0151】
その結果、仕切部30に水収容部10と硬化材収容部20とを連通する連通口34を開口形成する。なお、破断応力が足りない場合には、水収容部10に添える手指の数を多くして内圧を高める。
【0152】
次に、仕切部30に連通口34を形成した状態で、さらに水収容部10に外圧をかけて水収容部10内の水Wを硬化材収容部20へ流入させる水注入工程(ステップS2)を実行する。
【0153】
水注入工程(ステップS2)では、前述の通り所定容量の硬化材Hとして複数の顆粒状塊体H1と空気Gとを収容した膨出状態にある硬化材収容部20内へ水を流入移動させ、同流入水を硬化材収容部20に貯溜させる。
【0154】
硬化材収容部20に貯溜した水Wは、
図5に示すように硬化材収容部20に収容した顆粒状塊体H1の外表面全域に接触した状態で顆粒状塊体H1を浸漬状態とする。
【0155】
すなわち、各顆粒状塊体H1は、
図5に示すようにその顆粒形状により互いの塊体同士の間に「隙間」を形成した状態で硬化材収容部20に収容された水収容部10からの流入した水Wと外表面全域で満遍なく接触する。
【0156】
このような浸漬状態において、各顆粒状塊体H1は、一定密度に圧縮成形されているため、粉体へと一度に崩壊することなく水Wを含浸して脆弱状態としつつも一定の形状を可及的保持し、“継粉”を生じさせる虞がない。
【0157】
次に、硬化材収容部20に貯溜された水Wを顆粒状塊体H1に含浸吸収させる浸漬静置工程(ステップS3)を実行する。浸漬静置工程(ステップS3)は、一定時間、各顆粒状塊体H1の水Wへの浸漬状態を保持するように静置する工程である。
【0158】
この浸漬静置工程(ステップS3)により、各顆粒状塊体H1は、その顆粒形状を可及的保持したまま、外周部から中心部にかけて水Wを吸収して粉体同士の圧縮結合力を弱めると共に一定量の水を蓄えた脆弱状態となり崩壊性を高める。
【0159】
浸漬静置工程(ステップS3)において、顆粒状塊体H1に水Wを含浸吸収させる静置時間は、顆粒状塊体H1の打圧密度により異なり、水Wを含浸吸収する顆粒状塊体H1について所望とする脆弱状態及び施療状況にあわせて適宜選択することができる。
【0160】
顆粒状塊体H1は、浸漬静置工程(ステップS3)における静置時間が短い場合(ステップS3-1)には水Wの含浸度が低くなるため、外周部のみ水Wを含浸して崩壊性を高めた部分的脆弱状態となる。顆粒状塊体H1を部分脆弱状態とする静置時間は、例えば、打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3の顆粒状塊体H1であれば約10~60秒である。なお、歯科現場での施療状況に緊急性があって調製作業時間を出来るだけ短くしたい場合には、静置時間を短くする。
【0161】
一方で、顆粒状塊体H1は、水Wの含浸度が高めるべく浸漬静置工程(ステップS3)における静置時間を長時間とした場合(ステップS3-2)には、外周部から中心部まで水Wを完全に含浸して全体的に崩壊性を高めた完全脆弱状態となる。顆粒状塊体H1を完全脆弱状態とする静置時間は、例えば、打圧密度2.00g/cm3~2.23g/cm3の顆粒状塊体H1であれば約20~120秒である。なお、歯科現場での施療状況が通常である場合には、静置時間を長くする。
【0162】
特に、このような顆粒状塊体H1の完全脆弱状態では、顆粒状塊体H1は全体的に粉体同士の間に水Wを含浸蓄積していることから、指腹等で圧潰した際には顆粒固形塊状を粘稠物質状へと容易に崩壊させつつ、内外から水Wと混和されるために“継粉”を形成することなく完全混和が早くなる。
【0163】
次に、硬化材収容部20に貯溜された水Wへの各顆粒状塊体H1の浸漬状態において、各顆粒状塊体H1の外周部から粘稠物質状へと解舒させて水に緩慢的且つ段階的に混和する撹拌・混練工程(ステップS4)を実行する。
【0164】
撹拌・混練工程(ステップS4)には、歯科材料調製袋Aの振盪操作(ステップS4-1)、歯科材料調製袋Aの手揉み操作(ステップS4-2)を含む。撹拌・混練工程(ステップS4)では、これら2つの操作のうち、少なくとも手揉み操作(ステップS4-2)を必ず実行する。
【0165】
歯科材料調製袋Aの振盪操作(ステップS4-1)は、歯科材料調製袋Aを把手して持ち上げ、左右上下動することにより硬化材収容部20内の水収容部10と複数の顆粒状塊体H1とを撹拌・混練することにより行う。
【0166】
すなわち、硬化材収容部20内には空気Gを一緒に封入しているために水Wと顆粒状塊体H1とが内部で上下左右動するクリアランスがある。
【0167】
したがって、各顆粒状塊体H1は、歯科材料調製袋Aの振盪操作に伴って互いに複雑に擦れあい、外周部から粘稠物質状へ解舒されると共に含浸水や周囲の水と混練されて低粘稠性の中間混練物を生成し、さらに同中間混練物中の硬化剤濃度を高めながら硬化材の均一分散を実現する。
【0168】
また、歯科材料調製袋Aの手揉み操作(ステップS4-2)は、歯科材料調製袋Aの硬化材収容部20を外側から手指で把握して硬化材収容部20内の水Wと複数の顆粒状塊体H1とを撹拌・混練することにより行う。この手揉み操作(ステップS3-2)により、顆粒状塊体H1の解舒を促進させると共に中間混練物同士を一体化させて硬化材濃度を高めつつ段階的に粘稠性を高め、硬化材の均一分散性をさらに向上させる。
【0169】
特に、浸漬静置工程(ステップS3)で顆粒状塊体H1を完全脆弱状態とした場合には、顆粒形状で保型された各顆粒状塊体H1を袋前後側から手指の指腹面で押しつぶすようにして手揉み操作(ステップS4-2)を実行することにより水Wと硬化材Hとの混練性を向上することができる。
【0170】
このような各種操作を含む撹拌・混練工程(ステップS4)を実行することにより、粘稠物質状としての各中間混練物同士を一体化させ、段階的に硬化材濃度、すなわち粘稠性を高めつつ、最終的に硬化材収容部20内の全ての顆粒状塊体H1を水Wに完全混和させて硬化材が均一に分散されたペースト状の混練材を撹拌・混練して調製する。なお、ペースト硬さは硬化材の種類、混水比等によって異なる。
【0171】
次に、硬化材収容部20の吐出口形成部22に吐出口を形成し、同吐出口から硬化材収容部20内で調製したペースト状の混練材を絞り出す吐出口形成工程(ステップS5)を実行する。
【0172】
吐出口形成工程(ステップS5)では、歯科材料調製袋Aの左下側角部近傍の下側縁部の開封用ノッチ23を介して吐出口形成部22をカットし、吐出口を開口形成する。
【0173】
そして、硬化材収容部20を絞るようにしてペースト状の混練材を吐出口形成部22へと寄せていき、同混練材を吐出口から所要量吐出して所望とする歯科用の印象採得用のトレーに盛ったり歯型模型用の型に流し込む。なお、混練材が余った場合には歯科材料調製袋Aごと不燃物として廃棄処理する。
【0174】
[実施例2]
次に、本発明に係る歯科材料調製袋A2の実施例2について図面を参照しながら説明する。
図8(a)~
図9(b)は、それぞれ本実施例に係る仕切部300の構成及び破断過程を示す模式的部分断面図である。なお、以下において、実施例1に係る歯科材料調製袋Aと同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0175】
本実施例に係る歯科材料調製袋A2は、仕切部300が破断して連通口34を開口形成した場合に、同連通口34の硬化材収容部20側の下側開口縁部に逆止弁機能を有する破断片60を形成するように構成している。
【0176】
すなわち、仕切部300は、水収容部10の内圧の高まりにより破断した場合に、
図8(b)に示すように、水収容部10の水を硬化材収容部20へ流入可能とする一方、硬化材収容部20の内容物を水収容部10へ逆流させることを防止する逆止弁機能を果たす破断片60を形成するようにしている。
【0177】
具体的には、仕切部300は、前後側の内側フィルム45、45’の対向する接合面45a、45a’同士の融解度を増してフィルム同士を熱溶着することにより、
図8(a)に示すように、前後側の内側フィルム45、45’同士を一体化させ、接合界面を無くした融合部301を有して形成している。
【0178】
融合部301は、前後側2枚の内側フィルム45、45’と略同じ厚みを有し、水収容部10からの内圧負荷により、
図8(b)及び
図9(a)に示すように硬化材収容部20側へ膨出するように引張伸延されて肉薄状に膨出変形し、同膨出変形部の略頂部で破断して、
図9(b)に示すように破断片60を形成する。なお、融合部301は、実施例1に係る仕切部30の中央シール領域31や上下側シール領域32、33のいずれかに形成することができるのは勿論である。
【0179】
破断片60、60'は、
図8(b)に示すように、先端先細り状の弁本体部63、63’として前後側に略対向した状態で2つ形成され、それぞれ基端としての固定端61、61'を水収容部10側に配置すると共に先端としての自由端62、62'を硬化材収容部20側へ配置して構成している。
【0180】
なお、弁本体部63の内側面は、水収容部10(内側フィルム45)の内面に連続している。また、破断片60は、融合部301の引張膨出破断によって形成された起毛をも含む。
【0181】
これにより、対向する破断片60、60’同士が、面接触した状態で、硬化材収容部20内の硬化材Hや水W、これらの中間混練物といった内容物が硬化材収容部20から水収容部10へ不用意に逆流すること防止する逆止弁機能を果たす。
【0182】
したがって、本実施例に係る歯科材料調製袋A2によれば、予め正確な混練比となるように計量された水Wと硬化材Hとを硬化材収容部20内に確実に留めて同硬化材収容部20を撹拌・混練の作業中心として機能させることができる。したがって、正確な混練比を保持して水と硬化材とを混練することができ、良好な混練性を有するペースト状の混練材を調製できる効果がある。
【0183】
[実施例3]
次に、本発明に係る歯科材料調製袋A3の実施例3について図面を参照しながら説明する。
図10は、本実施例に係る歯科材料調製袋A3の構成を示す正面図である。
【0184】
本実施例に係る歯科材料調製袋A3は、仕切部310が破断した場合に、所定間隔を隔てて複数の連通口340を開口形成するように構成している。
【0185】
すなわち、仕切部310は、
図10に示すように伸延方向に間欠的に破断して複数の連通口340を開口形成するように熱溶着して形成している。
【0186】
具体的には、仕切部310は、水収容部10の内圧の高まりにより破断して水収容部10と硬化材収容部20とを連通する連通口340を形成する破断溶着部70と、同連通口形成部に隣接し、水収容部10の内圧の高まりによっても破断しない固定溶着部71と、をそれぞれ伸延方向に沿って交互に熱溶着形成して構成している。
【0187】
破断溶着部70は、固定溶着部71よりも熱溶着度を低くして形成している。なお、本実施例の破断溶着部70は3つ形成している。すなわち連通口340は3つ形成される。
【0188】
これにより、仕切部310を全て開放させることなく破断溶着部70を介して部分的に複数形成した連通口340により、水収容部10からの硬化材収容部20への水の流入量を微調整することができ、したがって、各顆粒状塊体H1への水の供給量を調節することができ、硬化材収容部内で貯溜された水との混和度を均一化しながら徐々に高める緩慢且つ速やかな混和をより効率的に行うことができる効果がある。
【0189】
以上、説明してきたように、本発明によれば作業者の健康に配慮しつつ撹拌・混練作業前後の材料の精密な計量作業や混練材からの脱泡作業を省略でき、余剰混練材の処理を容易にしつつも低コスト化を図ることができることは勿論、袋内で水と硬化材との均一接触を可能にすると共に水と硬化材との混和を段階的にして“継粉”の形成を防止し、混練性の良好なペースト状の歯科用混練材を誰でも簡単且つ迅速に調製できる。
【0190】
すなわち、本発明は、“継粉”の原因となる細かい粉体を硬化材収容部に予め存在させず、撹拌・混練作業時に顆粒形状を可及的保持した水含浸状態の各顆粒状塊体を外周部から中心部にかけて固形塊状から粘稠物質状へと解舒する構成としており、硬化材収容部内で貯溜された水との混和度を均一化しながら徐々に高める緩慢且つ速やかな混和を実現する。したがって、水と硬化材とが均一に混練された混練性の良好なペースト状の混練材を誰でも簡単且つ迅速に調製できる効果がある。
【符号の説明】
【0191】
A 歯科材料調製袋
H 硬化材
H1 顆粒状塊体
W 水
G 空気
10 水収容部
11L 左上側隅部
11R 右上側隅部
20 硬化材収容部
21R 右下側隅部
22 吐出口形成部
23a カットライン
24 吐出口
30 仕切部
31 中央シール領域
32 上側シール領域
33 下側シール領域
40 樹脂シート
41 折曲部
42 下端溶着部
43L 左端溶着部
43R 右端溶着部
43aL 凸状部