(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110628
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】転負荷計画立案装置および転負荷計画立案プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20220722BHJP
H02J 3/12 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006150
(22)【出願日】2021-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】日下 稔浩
(72)【発明者】
【氏名】森安 邦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 悦生
(72)【発明者】
【氏名】中田 肇
(72)【発明者】
【氏名】山口 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 英彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】若林 良茂
(72)【発明者】
【氏名】上 敬次
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配電線での停電作業実施の際に配電線の転負荷に係る計画を的確に立案することが可能な、転負荷計画立案装置及び転負荷計画立案プログラムを提供する。
【解決手段】転負荷計画立案プログラム19が実行されることにより、配電系統を構成する配電線での停電を伴う作業の内容を設定する停電作業設定タスク151と、所定の推計地点ごとの電流値を推計する電流値推計タスク152と、作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順を生成する転負荷操作タスク153と、配電系統を構成する各配電設備の通過電流を計算して通過電流が当該の配電設備の通過電流許容値よりも大きいか否かを判定する電流超過検出タスク154と、配電系統を構成する各配電設備間の区間ごとの電圧降下量を計算して電圧降下量が当該の区間の電圧降下許容量よりも大きいか否かを判定する電圧逸脱検出タスク)155と、を有するメインタスク15が構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統を構成する配電線での停電を伴う作業の内容を設定する手段と、
所定の推計地点ごとの電流値を推計する手段と、
前記作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順を生成する手段と、
前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備の通過電流を計算して前記通過電流が当該の配電設備の通過電流許容値よりも大きいか否かを判定する手段と、
前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備間の区間ごとの電圧降下量を計算して前記電圧降下量が当該の区間の電圧降下許容量よりも大きいか否かを判定する手段と、を有し、
前記通過電流が前記通過電流許容値よりも大きい地点や前記電圧降下量が前記電圧降下許容量よりも大きい箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順を出力する、
ことを特徴とする転負荷計画立案装置。
【請求項2】
前記推計地点ごとの前記電流値が、電流値要因と電流値との実績の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、前記電流値要因を入力とするとともに前記電流値を出力とする予測モデルに従って推計される、
ことを特徴とする請求項1に記載の転負荷計画立案装置。
【請求項3】
前記転負荷操作の対象のフィーダの選定において、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と、前記作業の内容に基づいて決定される停電範囲と、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態と、の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と停電範囲とを入力とするとともに前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を出力とする学習モデルに従って特定される前記配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダが優先的に選定される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の転負荷計画立案装置。
【請求項4】
コンピュータを、
配電系統を構成する配電線での停電を伴う作業の内容を設定する手段、
所定の推計地点ごとの電流値を推計する手段、
前記作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順を生成する手段、
前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備の通過電流を計算して前記通過電流が当該の配電設備の通過電流許容値よりも大きいか否かを判定する手段、および、
前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備間の区間ごとの電圧降下量を計算して前記電圧降下量が当該の区間の電圧降下許容量よりも大きいか否かを判定する手段、として機能させ、
前記通過電流が前記通過電流許容値よりも大きい地点や前記電圧降下量が前記電圧降下許容量よりも大きい箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順を出力する、
ことを特徴とする転負荷計画立案プログラム。
【請求項5】
前記推計地点ごとの前記電流値を、電流値要因と電流値との実績の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、前記電流値要因を入力とするとともに前記電流値を出力とする予測モデルに従って推計する、
ことを特徴とする請求項4に記載の転負荷計画立案プログラム。
【請求項6】
前記転負荷操作の対象のフィーダの選定において、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と、前記作業の内容に基づいて決定される停電範囲と、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態と、の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と停電範囲とを入力とするとともに前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を出力とする学習モデルに従って特定される前記配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダを優先的に選定する、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の転負荷計画立案プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転負荷計画立案装置および転負荷計画立案プログラムに関し、具体的には、配電線での停電作業実施の際に配電線の転負荷に係る計画を立案する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧制御装置の整定値を設定して配電系統の制御電圧を調整する従来の技術として、制御電圧の実測データに基づいて第1の計算方法により整定値を算出する整定値算出部と、整定値を電圧制御装置に設定した後に制御電圧の実測データに基づいて制御電圧の実測分布の計算値を取得する実測処理部と、整定値を電圧制御装置に設定した後の系統パラメータを用いて第2の計算方法で制御電圧の仮想分布の計算値を取得する仮想処理部とを備え、整定値算出部は、実測分布の計算値と仮想分布の計算値との差異に基づいて整定値を更新する調整装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、配電線での停電作業(即ち、停電を伴う作業)の実施の際には、負荷(即ち、電力需要家設備)を停電させないようにするため、開閉器を制御して配電線の経路を変更する転負荷操作(具体的には、配電線を一旦ループ状態にして切替を行うループ切替)が行われる。しかしながら、太陽光発電装置や風力発電装置などの分散型電源が連系している箇所が多い場合には特に、切替による電流超過や適正電圧範囲逸脱が発生する箇所が配電線路において存在しないような、間違いのない適切な配電線の系統切替手順(具体的には、開閉器の操作手順)の作成には多大な手間と労力とを要する、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、配電線での停電作業実施の際に配電線の転負荷に係る計画を的確に立案することが可能な、転負荷計画立案装置および転負荷計画立案プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、配電系統を構成する配電線での停電を伴う作業の内容を設定する手段と、所定の推計地点ごとの電流値を推計する手段と、前記作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順を生成する手段と、前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備の通過電流を計算して前記通過電流が当該の配電設備の通過電流許容値よりも大きいか否かを判定する手段と、前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備間の区間ごとの電圧降下量を計算して前記電圧降下量が当該の区間の電圧降下許容量よりも大きいか否かを判定する手段と、を有し、前記通過電流が前記通過電流許容値よりも大きい地点や前記電圧降下量が前記電圧降下許容量よりも大きい箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順を出力する、ことを特徴とする転負荷計画立案装置である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の転負荷計画立案装置において、前記推計地点ごとの前記電流値が、電流値要因と電流値との実績の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、前記電流値要因を入力とするとともに前記電流値を出力とする予測モデルに従って推計される、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の転負荷計画立案装置において、前記転負荷操作の対象のフィーダの選定において、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と、前記作業の内容に基づいて決定される停電範囲と、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態と、の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と停電範囲とを入力とするとともに前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を出力とする学習モデルに従って特定される前記配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダが優先的に選定される、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、コンピュータを、配電系統を構成する配電線での停電を伴う作業の内容を設定する手段、所定の推計地点ごとの電流値を推計する手段、前記作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順を生成する手段、前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備の通過電流を計算して前記通過電流が当該の配電設備の通過電流許容値よりも大きいか否かを判定する手段、および、前記推計地点ごとの前記電流値と前記転負荷操作の後の前記配電系統の状態とに基づいて前記配電系統を構成する各配電設備間の区間ごとの電圧降下量を計算して前記電圧降下量が当該の区間の電圧降下許容量よりも大きいか否かを判定する手段、として機能させ、前記通過電流が前記通過電流許容値よりも大きい地点や前記電圧降下量が前記電圧降下許容量よりも大きい箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順を出力する、ことを特徴とする転負荷計画立案プログラムである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の転負荷計画立案プログラムにおいて前記推計地点ごとの前記電流値を、電流値要因と電流値との実績の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、前記電流値要因を入力とするとともに前記電流値を出力とする予測モデルに従って推計する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項4または5に記載の転負荷計画立案プログラムにおいて、前記転負荷操作の対象のフィーダの選定において、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と、前記作業の内容に基づいて決定される停電範囲と、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態と、の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって構築される、転負荷操作前の前記推計地点ごとの電流値と停電範囲とを入力とするとともに前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を出力とする学習モデルに従って特定される前記配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダを優先的に選定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1や請求項4の発明によれば、配電線での停電を伴う作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順として通過電流が通過電流許容値よりも大きい地点や電圧降下量が電圧降下許容量よりも大きい箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順が出力されるので、配電線での停電作業実施の際の、配電線の系統切替時における通過電流の適正制御や適正電圧の確保のチェックを迅速に且つ確実に行うことが可能となり、延いては、間違いのない適切な配電線の系統切替手順(具体的には、開閉器の操作手順)の作成にかかる手間と労力とを大幅に低減させることが可能となる。
【0013】
請求項2や請求項5の発明によれば、電流値要因を入力とするとともに電流値を出力として機械学習によって構築される予測モデルを用いて電流値を推計地点ごとに推計するので、過去の電流値に関する実績情報が反映された一層実際的な電流値を推計することが可能となり、延いては配電線での停電作業実施の際の配電線の転負荷に係る計画を立案する技術としての信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0014】
請求項3や請求項6の発明によれば、転負荷操作前の推計地点ごとの電流値と停電範囲とを入力とするとともに前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を出力として機械学習によって構築される学習モデルに従って特定される配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダが優先的に選定されるので、過去の転負荷操作に関する実績情報が反映された一層実際的な転負荷操作の手順を立案することが可能となり、延いては配電線での停電作業実施の際の配電線の転負荷に係る計画を立案する技術としての信頼性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態に係る転負荷計画立案装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】転負荷操作を説明するための配電系統の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
はじめに、配電系統における転負荷操作の概要を説明する。説明用の配電系統の模式図として、
図2に示すように、配電用変電所50から配電線51が延設しており、配電用変電所50に配置されて母線(図示省略)に接続される遮断器52を介して配電線51へと電力が供給される。配電線51に、遮断器52に近い方から順に、第1の開閉器53a,第2の開閉器53b,および第3の開閉器53cが配設されている。前記の3つの開閉器53a,53b,および53c(3つをまとめて単に「開閉器53」とも表記する)は「区分用開閉器」とも呼ばれる。
【0018】
配電系統に配置・配設される遮断器52や開閉器53は電流,電圧,および力率などの所定の計測データを計測可能な計測器(図示省略)を備え、前記計測器は、所定時刻ごと(例えば、毎正時や各時15分ごと)に、計測データを計測時刻と対応づけたうえで(換言すると、計測データと計測時刻との組み合わせデータを)外部へと出力/送信可能であるように構成される。なお、遮断器52や開閉器53の他にも、配電系統に計測機器が設置されて、配電系統に関する所定の計測データが取得されるようにしてもよい。
【0019】
図2に示す配電系統における配電線51について、3つの開閉器53a,53b,および53cによって区分される4つの区間を、遮断器52に近い方から順に、第1区間51a,第2区間51b,第3区間51c,および第4区間51dとする。
【0020】
図2に示す配電系統において、例えば、同図(A)に示すように、第1の開閉器53a,第2の開閉器53b,および第3の開閉器53cがすべて「入」である場合に、第1区間51a,第2区間51b,第3区間51c,および第4区間51dのそれぞれに80〔A〕の電流が流れているとする。この場合、遮断器52の電流は320〔A〕であり、第1の開閉器53aの通過電流は240〔A〕、第2の開閉器53bの通過電流は160〔A〕、さらに第3の開閉器53cの通過電流は80〔A〕である。また、第1区間51aの区間電圧は6600〔V〕であり、第2区間51bの区間電圧は6570〔V〕、第3区間51cの区間電圧は6550〔V〕、さらに第4区間51dの区間電圧は6540〔V〕であるとする。
【0021】
図2(A)に示す状態から、同図(B)に示すように、第3の開閉器53cを「切」へと切り替えるとともに開閉器54(尚、「連系用開閉器」とも呼ばれる)を「入」へと切り替える制御を行うと、第4区間51dは、開閉器54を介して接続する他フィーダへと転負荷される(即ち、他の配電用変電所から送電される;尚、第4区間51dを含むフィーダのことを「転負荷元のフィーダ」と呼び、開閉器54を介して接続する他フィーダのことを「転負荷先のフィーダ」と呼ぶ)。この場合、遮断器52の電流は240〔A〕になり、第1の開閉器53aの通過電流は160〔A〕、第2の開閉器53bの通過電流は80〔A〕、さらに第3の開閉器53cの通過電流は0〔A〕になる。また、第1区間51aの区間電圧は6600〔V〕になり、第2区間51bの区間電圧は6580〔V〕、第3区間51cの区間電圧は6565〔V〕、さらに第4区間51dの区間電圧は6560〔V〕になる(尚、区間電圧は実際には電圧解析を行うことによって求められる)。
【0022】
このように、フィーダの一部区間を他フィーダへと転負荷することにより、開閉器53(特に、区分用開閉器)それぞれの通過電流を調整したり、開閉器53によって区分される区間それぞれの区間電圧を調整したりすることができる。
【0023】
なお、配電用変電所50からの送出電圧は、負荷分布や設備的な制約などによって区間電圧を適正範囲内に保持することが困難な場合は、電力需要地の受電電圧を一定に保つため、配電系統の電圧降下の大小に応じてその影響を補償するように、配電系統に配設される電圧調整器によって調整される。電圧調整器は、予め設定された目標電圧値(「整定値」と呼ばれる)に基づいて、区間電圧の調整(即ち、昇圧/降圧)を行う。
【0024】
実際の配電系統では、複数の配電用変電所が配置されているとともに複数のフィーダが配設されており、また、太陽光発電装置や風力発電装置などの分散型電源が多数連系しているため、配電系統を構成する配電設備における通過電流の許容値の制限や規定された電圧を保持するなどの制約条件を満足するような、配電線での停電作業実施の際の配電線の転負荷に係る計画を立案する作業は多大な手間と労力とが必要とされる。
【0025】
この発明に係る転負荷計画立案装置は、具体的には、配電線での作業を行う際の停電範囲を設定した場合に、配電系統を構成する配電設備のうちの一部に大量の電流が流れたり、一部の区間の電圧が電圧降下によって適正電圧範囲を逸脱したりしないように、実際の配電系統を対象とする配電線の転負荷に係る計画を立案するための機序である。
【0026】
図1は、この発明の実施の形態に係る転負荷計画立案装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。転負荷計画立案装置1は、主として、入力部11、表示部12、記憶部13、メモリ14、メインタスク15、通信部17、およびこれらを制御などする中央処理部18を備える。
【0027】
転負荷計画立案装置1は、例えば、各種のコンピュータなどに、装置全体の制御プログラムや配電線の転負荷に係る計画の立案に纏わる各種処理を行うためのアプリケーション(転負荷計画立案プログラム19)がインストールされて実行されることによって構成される。
【0028】
入力部11は、利用者の命令などを受けて転負荷計画立案装置1へと入力する機能を備えるインターフェースであり、例えばキーボードやマウスによって構成される。
【0029】
表示部12は、入力部11を介して入力される内容を表示したり、転負荷計画立案装置1としての処理結果を表示したりなどする機能を備え、例えば液晶ディスプレイによって構成される。
【0030】
記憶部13は、各種の情報,プログラム,およびデータなどを記憶する機能を備える記憶領域/記憶装置であり、例えばハードディスク(HDD:Hard Disk Drive の略)によって構成される。
【0031】
記憶部13には、転負荷計画立案装置1全体の制御プログラムや転負荷計画立案プログラム19が格納されるとともに、配電系統データベース131および実績データベース132が格納される。
【0032】
配電系統データベース131は、配電系統の構成の情報が記録・蓄積されているデータベースであり、転負荷計画立案装置1が配電線の転負荷に係る計画の立案に纏わる各種処理を行う際に配電系統の構成について必要とされる情報を取得するために適宜参照される。
【0033】
配電系統データベース131には、具体的には例えば、配電線の転負荷計画の対象の配電系統に関する、配電用変電所の情報,配電用変電所内に配置される遮断器の情報,遮断器間における配電線の配設の態様の情報,配電線に配設される開閉器の情報,および電圧調整器の情報など、転負荷計画立案装置1が配電線の転負荷に係る計画の立案に纏わる各種処理を行う際に配電系統の構成について必要とされる種々の情報が記録・蓄積される。
【0034】
配電系統データベース131には、配電線の転負荷の操作を行う直前の配電系統の状態であって、配電線の転負荷に係る計画を立案する際の初期状態ともいえる配電系統の状態の情報(「配電系統の初期状態情報」と呼ぶ)も記録・蓄積される。配電系統の状態の情報としては、例えば、各遮断器の投入/開放の状態、各開閉器の入/切の状態、および各電圧調整器の整定値など、転負荷計画立案装置1が配電線の転負荷に係る計画の立案に纏わる各種処理を行う際に配電系統を構成する配電設備の状態について必要とされる種々の情報が記録・蓄積される。
【0035】
実績データベース132ついては後述する。
【0036】
なお、上記の配電系統データベース131と実績データベース132とのうちの一方もしくは両方がサーバなどの外部記憶装置に格納されるようにしてもよく、この場合には、転負荷計画立案装置1が、通信部17を介して外部記憶装置にアクセスして各種データや情報を取得するようにしてもよく、あるいは、種々の信号回線を介して外部記憶装置との間でデータや制御指令等の信号の送受信/入出力を行うための接続インターフェースを備えるようにして当該接続インターフェースを介して外部記憶装置にアクセスして各種データや情報を取得するようにしてもよい。
【0037】
メモリ14は、中央処理部18が配電線の転負荷に係る計画の立案に纏わる演算処理を実行する際に生成されるデータや情報を一時的に記憶などするための作業領域となる機能を備える記憶領域/記憶装置であり、例えばRAM(Random Access Memory の略)によって構成される。
【0038】
メインタスク15は、記憶部13に格納されている転負荷計画立案プログラム19が実行されることによって実現される、配電線の転負荷に係る計画の立案に纏わる各種処理を実行するためのタスク群である。
【0039】
通信部17は、例えばLAN(Local Area Network の略)やWAN(Wide Area Network の略)を含む各種の無線/有線通信回線網を介して伝送される信号・情報の送受信/入出力を行う機能を備える通信インターフェースである。
【0040】
中央処理部18は、転負荷計画立案装置1を構成する各部を統制して制御などする機能を備え、例えば、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)を含んで構成され、記憶部13に格納されている制御プログラムや転負荷計画立案プログラム19に従って各機能を実現する。
【0041】
そして、転負荷計画立案装置1は、配電系統を構成する配電線での停電を伴う作業の内容を設定する手段(停電作業設定タスク151)と、所定の推計地点ごとの電流値を推計する手段(電流値推計タスク152)と、前記作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順を生成する手段(転負荷操作タスク153)と、推計地点ごとの電流値と転負荷操作の後の配電系統の状態とに基づいて配電系統を構成する各配電設備の通過電流を計算して通過電流が当該の配電設備の通過電流許容値よりも大きいか否かを判定する手段(電流超過検出タスク154)と、推計地点ごとの電流値と転負荷操作の後の配電系統の状態とに基づいて配電系統を構成する各配電設備間の区間ごとの電圧降下量を計算して電圧降下量が当該の区間の電圧降下許容量よりも大きいか否かを判定する手段(電圧逸脱検出タスク155)と、を有し、通過電流が通過電流許容値よりも大きい地点や電圧降下量が電圧降下許容量よりも大きい箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順を出力する、ようにしている。
【0042】
配電線の転負荷に係る計画の立案に纏わる各種処理を実行するために、記憶部13に格納されている転負荷計画立案プログラム19が実行されることにより、メインタスク15が構成される。メインタスク15は、停電作業設定タスク151,電流値推計タスク152,転負荷操作タスク153,電流超過検出タスク154,および電圧逸脱検出タスク155を含む。
【0043】
停電作業設定タスク151は、配電線での停電作業(即ち、停電を伴う作業)の内容を設定するタスクである。
【0044】
停電作業設定タスク151は、具体的には、入力部11を介して利用者によって入力される停電作業の日時、停電作業の日の曜日および当該日が休日であるか否か、ならびに、停電作業の日の気象の予報を受け付ける。停電作業の日時は、1つのみ指定されるようにしてもよく、或いは、複数の候補が指定されるようにしてもよい。
【0045】
停電作業設定タスク151は、また、例えば、配電系統データベース131に記録・蓄積されている配電系統の構成に対応する配電系統図を表示部12に表示して入力部11を介して利用者によって入力/指定される停電範囲(具体的には、停電対象の区間)を受け付けたり、入力部11を介して利用者によって入力/指定される、停電範囲(停電対象の区間)に該当する配電線や配電設備ごとの識別番号などを受け付けたりする。
【0046】
そして、停電作業設定タスク151は、停電作業の実施内容に関する情報(「停電作業情報」と呼ぶ)を出力する。
【0047】
なお、停電範囲が指定されることにより、配電線に配設される開閉器のうちの少なくとも一部の開閉器については、転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための入/切の状態が決定づけられて転負荷操作の条件として固定される。
【0048】
電流値推計タスク152は、電流値を適宜の地点(「推計地点」と呼ぶ)ごとに推計するタスクである。
【0049】
推計地点は、配電系統に関する所定の計測データ(特に、電流)が計測・取得されている地点のことであり、具体的には例えば、配電系統に配置・配設されて配電系統に関する所定の計測データを計測している遮断器52や開閉器53の設置地点、および、配電系統に設置されて配電系統に関する所定の計測データを取得している計測機器の設置地点などである。
【0050】
電流値推計タスク152は、具体的には、電流値要因を説明変数とするとともに電流値を目的変数とする重回帰式に従って、電流値を推計地点ごとに推計するようにしてもよい。この場合は、配電線の転負荷計画の対象の配電系統についての過去から現在にかけての複数時点における推計地点ごとの電流値要因と電流値との実績の組み合わせデータ群が用いられて予め求められる重回帰式に従って電流値が推計地点ごとに推計される。
【0051】
重回帰式の説明変数である電流値要因は、特定の項目に限定されるものではなく、例えば、電力需要地における需要電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどしたうえで適当な項目が適宜選択されたり、さらに、太陽光発電装置や風力発電装置などの分散型電源の出力電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどして適合な項目が適宜選択されたりして設定される。
【0052】
重回帰式の説明変数である電流値要因として、例えば、外気温,降水量,日照時間,風速,推計地点ごとの所定期間(例えば、1年間)における電流値の平均値,推計地点ごとの当該の推計地点に関係する分散型電源の発電容量の合計(尚、分散型電源の種類別の発電容量の合計でもよい),ならびに推計地点ごとの当該の推計地点に関係する電圧調整器の整定値が挙げられる。
【0053】
なお、重回帰式は、所定のカテゴリー別に求められたり、所定のカテゴリーを表すダミー変数が組み込まれたりするようにしてもよい。重回帰式のカテゴリー/ダミー変数は、特定の分類に限定されるものではなく、例えば、電力需要地における需要電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどしたうえで適当な分類が適宜選択されたり、さらに、太陽光発電装置や風力発電装置などの分散型電源の出力電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどして適合な分類が適宜選択されたりして設定される。
【0054】
重回帰式のカテゴリー/ダミー変数としては、例えば、月(尚、季節の4区分でもよい),曜日(尚、平日と休日の2区分や、平日,土曜日,および日曜・休日の3区分でもよい),昼間夜間の別(尚、日照時間帯とその他時間帯の2区分でもよい),および地域(例えば、住宅地,工場地域,農地,および商業地の区分や、平野部,臨海部,および山間部の区分)が挙げられる。
【0055】
電流値推計タスク152は、或いは、電流値要因を入力とするとともに電流値を出力とする予測モデルに従って、電流値を推計地点ごとに推計するようにしてもよい。この場合は、配電線の転負荷計画の対象の配電系統についての過去から現在にかけての複数時点における推計地点ごとの電流値要因と電流値との実績の組み合わせデータ群が用いられて機械学習によって予め構築される予測モデル(学習モデル)に従って電流値が推計地点ごとに推計される。
【0056】
予測モデル(学習モデル)としては、特に連続値の予測に好適な機械学習の手法が用いられることが考えられ、具体的には例えば、エクストリームラーニングマシン(ELM:Extreme Learning Machine の略),ニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワーク(DNN:Deep Neural Network の略),サポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine の略)などが用いられ得る。
【0057】
機械学習によって構築される予測モデルの入力である電流値要因は、特定の項目に限定されるものではなく、例えば、電力需要地における需要電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどしたうえで適当な項目が適宜選択されたり、さらに、太陽光発電装置や風力発電装置などの分散型電源の出力電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどして適合な項目が適宜選択されたりして設定される。
【0058】
予測モデルの入力である電流値要因として、例えば、外気温,降水量,日照時間,風速,推計地点ごとの所定期間(例えば、1年間)における電流値の平均値,推計地点ごとの当該の推計地点に関係する分散型電源の発電容量の合計(尚、分散型電源の種類別の発電容量の合計でもよい),ならびに推計地点ごとの当該の推計地点に関係する電圧調整器の整定値が挙げられる。
【0059】
なお、予測モデルは、所定のカテゴリー別に構築されたり、所定のカテゴリーを表すダミー変数を含んで構築されたりするようにしてもよい。予測モデルのカテゴリー/ダミー変数は、特定の分類に限定されるものではなく、例えば、電力需要地における需要電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどしたうえで適当な分類が適宜選択されたり、さらに、太陽光発電装置や風力発電装置などの分散型電源の出力電力量に対する影響が有意であるか否かが考慮されるなどして適合な分類が適宜選択されたりして設定される。
【0060】
予測モデルのカテゴリー/ダミー変数としては、例えば、月(尚、季節の4区分でもよい),曜日(尚、平日と休日の2区分や、平日,土曜日,および日曜・休日の3区分でもよい),昼間夜間の別(尚、日照時間帯とその他時間帯の2区分でもよい),および地域(例えば、住宅地,工場地域,農地,および商業地の区分や、平野部,臨海部,および山間部の区分)が挙げられる。
【0061】
ここで、電流値推計タスク152は、例えば上記に挙げたような電流値要因を説明変数としたり入力としたりする重回帰式や予測モデル(学習モデル)に従って電流値を推計することにより、太陽光発電装置や風力発電装置などの分散型電源の出力電力量や電力需要地での需要電力量が内包された電流値を推計していることになる。
【0062】
電流値推計タスク152は、推計地点ごとの電流値について、例えば、時間帯別に推計するようにしてもよく、或いは、1日における最大値を推計するようにしたり、昼間(日照時間帯)における最大値と夜間(非日照時間帯)における最大値とをそれぞれ推計するようにしたりしてもよい。
【0063】
そして、電流値推計タスク152は、停電作業設定タスク151から出力される停電作業情報を利用しつつ、上記の重回帰式または予測モデルに従って電流値を推計地点ごとに推計して、推計地点ごとの電流値を出力する。なお、停電作業の日時における電流値要因やカテゴリー/ダミー変数を特定するために必要な情報(例えば、気象の予報など)は停電作業情報に含められる。
【0064】
なお、既に推計などされている電流値のデータが用いられたり、大幅には変化しないとして現在の(もしくは、最近の,過去の)電流値が用いられたりするようにしてもよい。
【0065】
転負荷操作タスク153は、停電作業の実施内容(特に、停電範囲)に応じて、負荷(即ち、電力需要家設備)を停電させないようにするために必要とされる、開閉器の入/切を制御して配電線の経路を変更する転負荷操作の手順(言い換えると、転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための入/切の状態が決定づけられる開閉器の前記入/切の状態を達成するための手順)を生成するタスクである。
【0066】
転負荷操作タスク153は、具体的には、配電線の経路を変更するに際して転負荷が必要とされるフィーダの区間と、前記フィーダと例えば連系用開閉器54を介して接続するフィーダとを選定する。転負荷操作タスク153は、すなわち、転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための、転負荷元のフィーダ(の区間)と転負荷先のフィーダとの組み合わせを選定する。
【0067】
転負荷操作タスク153によって選定される転負荷先のフィーダについて、基本的には、転負荷元のフィーダと転負荷先のフィーダとを接続させる際に介在する連系用開閉器54の個数が少ないフィーダが優先して選定される。
【0068】
転負荷操作タスク153によって選定される転負荷先のフィーダについて、また、転負荷先のフィーダの接続条件/制約条件として、転負荷元のフィーダと転負荷先のフィーダとを接続させる際に介在する連系用開閉器54の最大数が設定されるようにしてもよい。
【0069】
転負荷操作タスク153は、配電系統データベース131に記録・蓄積されている配電系統の初期状態情報に基づいて特定される開閉器(具体的には、区分用開閉器および連系用開閉器)それぞれの入/切の状態から、停電作業の実施内容(特に、停電範囲)に応じて配電線の経路を変更するに際して必要とされる転負荷のすべてが行われるまでの開閉器の入/切を切り替える制御手順(つまり、転負荷操作の手順)を作成する。
【0070】
そして、転負荷操作タスク153は、開閉器の入/切を切り替える制御手順を1つ進めるたびに(つまり、転負荷操作の手順ごとに)、開閉器の入/切の状態の情報が更新された配電系統の状態の情報を出力する。
【0071】
電流超過検出タスク154は、配電線の転負荷計画の対象の配電系統について、電流過負荷が発生している地点を検出するタスクである。
【0072】
電流超過検出タスク154は、具体的には、電流値推計タスク152から出力される推計地点ごとの電流値の入力を受けるとともに転負荷操作タスク153から出力される配電系統の状態(特に、開閉器の入/切の状態を含む)の情報の入力を受け、前記電流値および前記配電系統の状態の情報に基づいて、各配電設備の通過電流〔A〕を計算し、前記各配電設備の通過電流が当該の配電設備の通過電流許容値〔A〕よりも大きい場合に当該の配電設備において電流過負荷が発生していると判定する。
【0073】
各配電設備の通過電流の計算の仕法は、特定の手法に限定されるものではなく、また、従来周知の計算手順であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0074】
配電設備は、通過電流の計算が可能な地点/設備のことであり、例えば、配電系統に関する所定の計測データを計測している遮断器52や開閉器53の設置地点、および、配電系統に設置されて配電系統に関する所定の計測データを取得している計測機器の設置地点など(即ち、推計地点に該当する設備)を含む。
【0075】
電流過負荷が発生している地点を検出する処理は、電流値推計タスク152による電流値の推計に合わせて、例えば、時間帯別に行われるようにしてもよく、或いは、1日における最大電流値に対応して行われるようにしたり、昼間における最大電流値と夜間における最大電流値とのそれぞれに対応して行われるようにしたりしてもよい。
【0076】
そして、電流超過検出タスク154は、電流過負荷が発生している地点(具体的には、配電設備)の情報を出力する。
【0077】
電圧逸脱検出タスク155は、配電線の転負荷計画の対象の配電系統について、適正電圧範囲逸脱が発生している箇所を検出するタスクである。
【0078】
電圧逸脱検出タスク155は、具体的には、電流値推計タスク152から出力される推計地点ごとの電流値の入力を受けるとともに転負荷操作タスク153から出力される配電系統の状態の情報の入力を受け、前記電流値および前記配電系統の状態の情報に基づいて、各配電設備間の区間ごとの電圧降下量〔V〕を計算し、前記区間ごとの電圧降下量が当該の区間の電圧降下許容量〔V〕よりも大きい場合に当該の区間において適正電圧範囲逸脱が発生していると判定する。
【0079】
各配電設備間の区間ごとの電圧降下量の計算(即ち、電圧解析)の仕法は、特定の手法に限定されるものではなく、また、従来周知の計算手順であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0080】
適正電圧範囲逸脱が発生している箇所を検出する処理は、電流値推計タスク152による電流値の推計に合わせて、例えば、時間帯別に行われるようにしてもよく、或いは、1日における最大電流値に対応して行われるようにしたり、昼間における最大電流値と夜間における最大電流値とのそれぞれに対応して行われるようにしたりしてもよい。
【0081】
そして、電圧逸脱検出タスク155は、適正電圧範囲逸脱が発生している箇所(具体的には、各配電設備間の区間)の情報を出力する。
【0082】
ここで、電流超過検出タスク154による処理と電圧逸脱検出タスク155による処理とは、転負荷操作タスク153が開閉器の入/切を切り替える制御手順を1つ進めるたびに(つまり、転負荷操作の手順ごとに)行われる。
【0083】
そのうえで、電流過負荷が発生している地点や適正電圧範囲逸脱が発生している箇所がある場合には、転負荷操作タスク153が、電流過負荷や適正電圧範囲逸脱を解消するために転負荷させるフィーダを選定する。具体的には例えば、直前の、開閉器の入/切を切り替える制御手順を取り消して(換言すると、制御手順を1つ戻して)異なるフィーダを選定するようにしたり、直前の、開閉器の入/切を切り替える制御手順はそのままで別のフィーダをさらに選定して制御手順をさらに1つ進めるようにしたりする。
【0084】
この際、上述のとおり、転負荷元のフィーダと転負荷先のフィーダとを接続させる際に介在する連系用開閉器54の個数が少ないフィーダが転負荷先として優先して選定されるようにしてもよく、また、転負荷先のフィーダの接続条件/制約条件として、転負荷元のフィーダと転負荷先のフィーダとを接続させる際に介在する連系用開閉器54の最大数が設定されるようにしてもよい。
【0085】
上記を踏まえ、転負荷操作タスク153は、すなわち、停電作業の実施内容(特に、停電範囲)に応じて配電線の経路を変更するに際して必要とされる転負荷のすべてが行われるように転負荷元のフィーダおよび転負荷先のフィーダを選定して開閉器の入/切を切り替える手順を生成するとともに、電流超過検出タスク154から出力される電流過負荷が発生している地点の情報や電圧逸脱検出タスク155から出力される適正電圧範囲逸脱が発生している箇所の情報の入力を受けて前記電流過負荷や前記適正電圧範囲逸脱に関係するフィーダを転負荷させるフィーダを選定して開閉器の入/切を切り替える手順を生成し、開閉器の入/切を切り替える制御手順を1つ進めるたびに(つまり、転負荷操作の手順ごとに)、開閉器の入/切の状態の情報が更新された配電系統の状態の情報を出力する。
【0086】
電流過負荷が発生している地点や適正電圧範囲逸脱が発生している箇所が検出されなくなることが確認されつつ、配電線の経路を変更するに際して必要とされる転負荷のすべてが行われるまで、転負荷操作タスク153によるフィーダの選定処理と電流超過検出タスク154による電流過負荷の検出処理および電圧逸脱検出タスク155による適正電圧範囲逸脱の検出処理とが交互に行われる。
【0087】
そして、転負荷操作タスク153は、配電線の経路を変更するに際して必要とされる転負荷のすべてが行われるまでの開閉器の入/切を切り替える制御手順(つまり、転負荷操作の手順)を出力する。なお、電流過負荷が発生している地点や適正電圧範囲逸脱が発生している箇所が完全にはなくならない場合には、前記地点や前記箇所の個数が最も少ない制御手順が出力されたり、前記地点や前記箇所の個数について許容される値以下の制御手順が出力されたりするようにしてもよい。転負荷操作タスク153は、すなわち、電流過負荷が発生している地点や適正電圧範囲逸脱が発生している箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順を出力する。
【0088】
ここで、転負荷操作タスク153は、配電線の経路を変更するに際して必要とされる転負荷のすべてを行うとともに電流過負荷や適正電圧範囲逸脱を解消するためのフィーダの選定(また、入/切を切り替える開閉器の選定)を、例えばフィーダ同士を接続させる際に介在する連系用開閉器54の個数が少ないフィーダが転負荷先として優先して選定されつつ試行錯誤的に行うようにしてもよいが、過去の転負荷操作の実績データを用いて機械学習・深層学習(ディープラーニング)の技術を利用して行うようにしてもよい。
【0089】
この場合、転負荷操作タスク153は、具体的には、配電線の経路変更に伴う開閉器の入/切の切り替えに纏わる実績データ群が用いられて機械学習によって構築される学習モデルを利用して操作対象のフィーダ(また、入/切を切り替える開閉器)を選定する。
【0090】
学習モデルとしては、具体的には例えば、決定木,エクストリームラーニングマシン(ELM),ニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワーク(DNN),サポートベクターマシン(SVM)などが用いられ得る。
【0091】
機械学習によって構築される学習モデルの入力としての配電線の経路変更に伴う開閉器の入/切の切り替えに纏わる実績データとして、例えば、転負荷操作前の推計地点/配電設備ごとの電流値と、停電範囲と、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態(即ち、前記停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態)と、の組み合わせデータ群が挙げられる。この場合、学習モデルは、推計地点/配電設備ごとの様々な電流値の分布のもとで所定の停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態を学習する。
【0092】
これにより、転負荷操作タスク153は、配電線の経路を変更するに際して必要とされる転負荷が行われるように転負荷先のフィーダ(また、入/切を切り替える開閉器)を選定する際に、推計地点/配電設備ごとの電流値の分布をふまえつつ、所定の停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダ(開閉器)を優先的に選定するようにすることができる。
【0093】
転負荷操作タスク153は、記憶部13に格納される実績データベース132に記録・蓄積されている配電線の経路変更に伴う開閉器の入/切の切り替えに纏わる実績データを用いて前記実績データに対して電流値の分布を考慮したうえでの停電範囲に応じた各開閉器の入/切の状態に関する学習処理を実行して、前記実績データに基づいて学習モデルを構築し、所定の情報・条件が入力された場合に的確な操作対象のフィーダ(また、入/切を切り替える開閉器)の選定結果が得られるように構成される。転負荷操作タスク153は、すなわち、所定の停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダ(開閉器)を、的確な操作対象のフィーダ(また、入/切を切り替える開閉器)として選定する。
【0094】
実績データベース132は、配電線の経路変更に伴う開閉器の入/切の切り替えに関する実績情報が記録・蓄積されているデータベースであり、例えば、転負荷操作前の推計地点/配電設備ごとの電流値と、停電範囲と、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態(即ち、前記停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態)と、の組み合わせデータ群が実績情報として記録・蓄積されている。
【0095】
転負荷操作タスク153が利用する学習モデルは、例えば、ニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワークを利用した機械学習・深層学習を用いて、実績データベース132に記録・蓄積されている実績情報から取得したデータに基づいて、転負荷操作前の推計地点/配電設備ごとの電流値と停電範囲とを入力層とするとともに、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態(即ち、前記停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態)を出力層とする、中間層を含むニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワークを作成する。
【0096】
そして、転負荷操作タスク153が利用する学習モデルは、実績としての、停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態(即ち、停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態)を学習データ(教師データ)として用いて中間層を作成して、中間層における各種パラメータについて学習を行う。転負荷操作タスク153が利用する学習モデルは、停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態の出力と、学習データ(教師データ)に含まれる停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態と、の誤差を最小化するように、中間層における各種パラメータの学習を行う。
【0097】
転負荷操作タスク153は、上記のようにして構築した学習モデルに停電作業設定タスク151から出力される停電作業情報(特に、停電範囲)と電流値推計タスク152から出力される推計地点/配電設備ごとの電流値とを入力して、前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態(即ち、前記停電範囲に応じた転負荷操作の完了状態としての配電線の経路を実現するための各開閉器の入/切の状態)を特定するとともに、前記各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダ(また、入/切を切り替える開閉器)を優先的に選定する。
【0098】
以上のように、この転負荷計画立案装置1および転負荷計画立案プログラム19によれば、配電線での停電を伴う作業の内容に応じて配電線の経路を変更する転負荷操作の手順として通過電流が通過電流許容値よりも大きい地点や電圧降下量が電圧降下許容量よりも大きい箇所が無いもしくはより少ない転負荷操作の手順が出力されるので、配電線での停電作業実施の際の、配電線の系統切替時における通過電流の適正制御や適正電圧の確保のチェックを迅速に且つ確実に行うことが可能となり、延いては、間違いのない適切な配電線の系統切替手順(具体的には、開閉器の操作手順)の作成にかかる手間と労力とを大幅に低減させることが可能となる。
【0099】
また、この転負荷計画立案装置1および転負荷計画立案プログラム19は、電流値要因を入力とするとともに電流値を出力として機械学習によって構築される予測モデルを用いて電流値を推計地点ごとに推計するようにした場合には、過去の電流値に関する実績情報が反映された一層実際的な電流値を推計することが可能となり、延いては配電線での停電作業実施の際の配電線の転負荷に係る計画を立案する技術としての信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0100】
また、この転負荷計画立案装置1および転負荷計画立案プログラム19は、転負荷操作前の推計地点ごとの電流値と停電範囲とを入力とするとともに前記停電範囲に応じた配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を出力として機械学習によって構築される学習モデルに従って特定される配電線の経路変更後の各開閉器の入/切の状態を達成するためのフィーダが優先的に選定されるようにした場合には、過去の転負荷操作に関する実績情報が反映された一層実際的な転負荷操作の手順を立案することが可能となり、延いては配電線での停電作業実施の際の配電線の転負荷に係る計画を立案する技術としての信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0101】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0102】
例えば、上記の実施の形態では区分用開閉器および連系用開閉器の入/切を切り替える操作を行うようにしているが、配電用変電所に配置される遮断器の入/切を切り替える操作も含めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 転負荷計画立案装置
11 入力部
12 表示部
13 記憶部
131 配電系統データベース
132 実績データベース
14 メモリ
15 メインタスク
151 停電作業設定タスク
152 電流値推計タスク
153 転負荷操作タスク
154 電流超過検出タスク
155 電圧逸脱検出タスク
17 通信部
18 中央処理部
19 転負荷計画立案プログラム
50 配電用変電所
51 配電線
52 遮断器
53a 第1の開閉器(区分用開閉器)
53b 第2の開閉器(区分用開閉器)
53c 第3の開閉器(区分用開閉器)
54 開閉器(連系用開閉器)