(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110717
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】作業機械及び作業機械用手摺装置
(51)【国際特許分類】
A01D 67/00 20060101AFI20220722BHJP
A01D 41/02 20060101ALI20220722BHJP
B62D 49/00 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
A01D67/00 G
A01D41/02 D
B62D49/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006300
(22)【出願日】2021-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】北岡 治正
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晋輔
【テーマコード(参考)】
2B074
2B076
【Fターム(参考)】
2B074AA01
2B074BA05
2B074BA11
2B074DE09
2B074GE05
2B076BA05
2B076CD04
(57)【要約】
【課題】より多くの搭乗者にとって搭乗部に対する乗り降りを行いやすい作業機械及び作業機械用手摺装置を提供する。
【解決手段】作業機械4は、搭乗者が搭乗可能な搭乗部47を備える。搭乗部47は、乗降口30と、前側手摺部1と、を有する。乗降口30は、左右方向の少なくとも一方に配置され、搭乗者が通る。前側手摺部1は、乗降口30の前端部に配置される。前側手摺部1は、乗降口30の周縁部のうちの前方側に位置する支持部213から、後方側と左右方向における搭乗部47の中心側との少なくとも一方に突出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗可能な搭乗部を備え、
前記搭乗部は、
左右方向の少なくとも一方に配置され、前記搭乗者が通る乗降口と、
前記乗降口の前端部に配置される前側手摺部と、を有し、
前記前側手摺部は、
前記乗降口の周縁部のうちの前方側に位置する支持部から、後方側と左右方向における前記搭乗部の中心側との少なくとも一方に突出する、
作業機械。
【請求項2】
前記搭乗部は、前記乗降口の後端部に配置される後側手摺部を更に備え、
前記後側手摺部は、前記乗降口の後端部から前方側に突出する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記後側手摺部の少なくとも一部は、前記前側手摺部と同一高さにある、
請求項2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記前側手摺部の下端は、前記後側手摺部の下端よりも低い位置にあり、
前記後側手摺部の上端は、前記前側手摺部の上端よりも高い位置にある、
請求項2又は3に記載の作業機械。
【請求項5】
前記乗降口の幅方向において、前記後側手摺部の少なくとも一部は、前記前側手摺部と対向する、
請求項2~4のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項6】
前記搭乗部は、前記乗降口の下端よりも下方に配置され、前記搭乗部に乗り降りする前記搭乗者の足を支持するための足踏部を更に有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項7】
前記前側手摺部は、前記支持部から、後方側、かつ左右方向における前記搭乗部の中心側に突出する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項8】
前記前側手摺部は、
把持部と、
前記支持部及び前記把持部間を連結する脚部と、を含み、
前記脚部は、後方側ほど、左右方向における前記搭乗部の中心に近づくように、前後方向に対して傾斜する、
請求項7に記載の作業機械。
【請求項9】
前記搭乗部は、キャビンルーフと、前記キャビンルーフを支持するキャビンフレームと、を有し、
前記支持部は、前記キャビンフレームの一部である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項10】
前記前側手摺部は、前記キャビンフレームで囲まれるキャビン空間内に配置される、
請求項9に記載の作業機械。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の作業機械に前記前側手摺部として用いられる、
作業機械用手摺装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭乗者が搭乗可能な搭乗部を備える作業機械及び作業機械及び作業機械用手摺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術として、走行装置、刈取装置及び脱穀装置等を備えるコンバインが知られている(例えば、特許文献1参照)。関連技術に係るコンバインのような作業機械では、搭乗者(オペレータ)が搭乗可能な搭乗部(運転部)が設けられており、搭乗部には、搭乗者が着座する運転座席及び種々の操作具が配置されている。
【0003】
関連技術に係る作業機械においては、搭乗部にはキャビンが備わっており、搭乗者は、キャビンドアが設けられた乗降口を通って乗り降りする。関連技術においては、搭乗部に乗降用の手摺が設けられている。この手摺は、キャビンフレームの右前部に固定されており、キャビンフレームから左右方向の外側(右方)に向けて、かつ前方に向けて突出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記関連技術の構成では、搭乗部の中心から離れる向き(右方かつ前方)に突出しているため、搭乗者の体格等によっては、搭乗部に対する乗降時において、手摺をつかむ姿勢をとりにくい可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、より多くの搭乗者にとって搭乗部に対する乗り降りを行いやすい作業機械及び作業機械用手摺装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る作業機械は、搭乗者が搭乗可能な搭乗部を備える。前記搭乗部は、乗降口と、前側手摺部と、を有する。前記乗降口は、左右方向の少なくとも一方に配置され、前記搭乗者が通る。前記前側手摺部は、前記乗降口の前端部に配置される。前記前側手摺部は、前記乗降口の周縁部のうちの前方側に位置する支持部から、後方側と左右方向における前記搭乗部の中心側との少なくとも一方に突出する。
【0008】
本発明の他の局面に係る作業機械用手摺装置は、前記作業機械に前記前側手摺部として用いられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より多くの搭乗者にとって搭乗部に対する乗り降りを行いやすい作業機械及び作業機械用手摺装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る作業機械の搭乗部を示し、前側手摺部及び後側手摺部を拡大した概略図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る作業機械の概略左側面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る作業機械の概略平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る作業機械の搭乗部の概略斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る作業機械の搭乗部の概略右側面図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る作業機械の搭乗部に搭乗者が登場する様子を示す概略説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る作業機械の前側手摺部を示す概略三面図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る作業機械の前側手摺部及び後側手摺部を示す概略右側面図である。
【
図9】
図9は、実施形態1に係る作業機械の前側手摺部及び後側手摺部を示し、
図8のA1-A1線断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態2に係る作業機械の搭乗部を示し、前側手摺部及び後側手摺部を拡大した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0012】
(実施形態1)
[1]全体構成
まず、本実施形態に係る作業機械4の全体構成について、
図2及び
図3を参照して説明する。作業機械4は、少なくとも搭乗者H1(
図6参照)が搭乗可能な搭乗部47を備えている。
【0013】
本開示でいう「作業機械」は、例えば圃場等の作業領域において各種の作業を行う機械を意味し、一例として、収穫機械(コンバインを含む)、トラクタ、田植機、散布機、噴霧機、播種機及び移植機等の作業車両である。つまり、作業機械4は作業車両を含む。作業機械4は、「車両」に限らず、例えば、作業用飛翔体又は作業用船舶等であってもよい。さらに、作業機械4は農業機械(農機)に限らず、例えば、建設機械(建機)等であってもよい。本実施形態では、特に断りが無い限り、作業機械4が乗用タイプの収穫機械である場合を例に挙げて説明する。
【0014】
また、本開示でいう「収穫機械」は、圃場にて作物の収穫作業を行う機械であって、一例として、収穫作業に加えて脱穀及び選別をも行うコンバイン(コンバインハーベスタ)等を含む。コンバインは、主として穀物の収穫作業に用いられ、圃場内を移動(走行)しながら、作物の刈り取りを行い、刈り取った作物を収穫する。特に、コンバインには、刈り取った作物全体を脱穀機に送り込む普通型(汎用)コンバインと、刈り取った作物の穂先のみを脱穀機に送り込む自脱型コンバインとがあるところ、本実施形態では、屋外の圃場(畑)で生育されている小麦を収穫対象とする普通型コンバインを作業機械4の例として説明する。また、本実施形態では一例として、搭乗部47に搭乗する搭乗者H1が操作者(オペレータ)であって、作業機械4は搭乗者H1の操作により動作することとする。ただし、搭乗者H1は操作者に限らず、例えば、作業機械4が遠隔操作又は自動運転により動作する場合、搭乗者H1は、監視又は点検(メンテナンス)等の目的で作業機械4に搭乗する人であってもよい。
【0015】
また、本実施形態では、説明の便宜上、作業機械4が使用可能な状態での鉛直方向を上下方向D1と定義する。さらに、
図3に示すように、作業機械4(の搭乗部47)に乗っている人(搭乗者H1)から見た方向を基準として、前後方向D2及び左右方向D3を定義する。言い換えれば、本実施形態で用いられる各方向は、いずれも作業機械4を基準として規定される方向であって、作業機械4の前進時に作業機械4の機体が移動する方向が「前方」、作業機械4の後退時に作業機械4の機体が移動する方向が「後方」となる。同様に、作業機械4の右旋回時に作業機械4の機体の前端部が移動する方向が「右方」、作業機械4の左旋回時に作業機械4の機体の前端部が移動する方向が「左方」となる。ただし、これらの方向は、作業機械4の使用方向(使用時の方向)を限定する趣旨ではない。
【0016】
本実施形態に係る作業機械4は、搭乗部47に加えて、走行装置41、刈取装置42、脱穀装置43、選別装置44、貯留装置45及び動力装置46等を備える。本実施形態では、作業機械4は、制御装置、通信端末、燃料タンク及びバッテリ等を更に備える。
【0017】
走行装置41は、作業機械4を前後方向D2及び左右方向D3に移動させることができる。例えば、作業機械4は、畑又は田んぼ等の圃場内を蛇行しながら収穫作業を実施する。一例として、作業機械4は、圃場内を外側から内側に向かって右(又は左)に旋回しながら移動してもよく、この場合、作業機械4の移動軌跡は渦巻き状の経路となる。
【0018】
刈取装置42は、圃場の作物(本実施形態では一例として小麦)を刈り取る。刈取装置42は、リール421、カッター422、掻込オーガ423、搬送コンベア424、ロータ425及びフィーダハウス426等を有する。リール421は、回転することによって作物の穀稈をカッター422へ案内する。カッター422は、リール421によって案内された穀稈を切断する。これにより、圃場に生育されている作物は穀稈の途中で切断されることになり、少なくとも穂先を含む穀稈が作業機械4によって刈り取られることになる。
【0019】
掻込オーガ423は、このようにして刈り取られた穀稈をフィーダハウス426に掻き込む。具体的には、掻込オーガ423は、刈り取られた穀稈を、左右方向D3に搬送し、フィーダハウス426の前方位置に集合させる横送りスクリューである。
【0020】
フィーダハウス426は、刈取装置42(の掻込オーガ423)と脱穀装置43との間に、刈り取られた作物(穀稈)を通すための経路の外郭を構成する。本実施形態では、脱穀装置43は刈取装置42の斜め上後方に位置する。フィーダハウス426は、一例として、断面矩形状である中空筒状(角筒状)であって、刈取装置42から脱穀装置43に向けて斜め上方に延びるように配置されている。刈取装置42で刈り取られた穀稈は、フィーダハウス426の前方側に開口する取込口からフィーダハウス426へと掻き込まれ、フィーダハウス426の内部空間を通して脱穀装置43へと送られる。
【0021】
搬送コンベア424は、フィーダハウス426内に配置されている。搬送コンベア424は、掻込オーガ423によってフィーダハウス426の取込口の前方位置に集められ、取込口からフィーダハウス426に掻き込まれた穀稈を、フィーダハウス426の内部を通してロータ425まで搬送する。ロータ425は、搬送コンベア424により搬送されてくる穀稈を脱穀装置43へ送り込む。
【0022】
脱穀装置43は、刈取装置42により刈り取られた穀稈に対する脱穀処理を実行する。脱穀処理では、穀稈から穀粒を含む脱穀物を分離する。脱穀物は脱穀装置43から下方の選別装置44へ落下する。
【0023】
選別装置44は、脱穀装置43から落下する脱穀物から、穀粒を選別する選別処理を実行する。選別装置44は、例えば、脱穀物に対して斜め下方から風を当てつつ脱穀物をふるいにかけることにより、脱穀物から穀粒を選別する。
【0024】
脱穀装置43は、例えば、穀稈を脱穀装置43の前部から後方へ搬送しつつ穀稈に対する脱穀処理を実行する。同様に、選別装置44は、例えば、脱穀物を選別装置44の前部から後方へ搬送しつつ脱穀物に対する選別処理を実行する。
【0025】
貯留装置45は、縦搬送ダクト451、縦搬送コンベア452、グレンタンク453及び排出オーガ454等を有する。縦搬送ダクト451は、選別装置44とグレンタンク453の上部の入口とをつなぐダクトである。縦搬送コンベア452は、縦搬送ダクト451内で回転することにより穀粒を選別装置44からグレンタンク453内へ搬送するスクリューコンベアである。排出オーガ454は、グレンタンク453内の穀粒を作業機械4の周囲の任意の場所へ排出する。
【0026】
動力装置46は、走行装置41、刈取装置42、脱穀装置43、選別装置44及び貯留装置45等の駆動源である。動力装置46は、動力源として、例えばディーゼルエンジン等のエンジンを有する。また、動力装置46は、動力源としてモータ(電動機)を有していてもよいし、エンジンとモータとを含むハイブリッド式の動力源を有していてもよい。
【0027】
搭乗部47には、搭乗者H1が着席する運転座席31(
図1参照)、並びに、搭乗者H1により操作されるハンドル32、各種の操作レバー及び各種の操作スイッチ等の操作装置が設けられている。制御装置は、操作装置が受け付ける操作に応じて、走行装置41、刈取装置42、脱穀装置43、選別装置44、貯留装置45及び動力装置46等を制御する。例えば、操作装置には、エンジンON/OFFキーが含まれており、制御装置は、エンジンON/OFFキーがオンに切り替えられた場合に動力装置46のエンジンを始動させ、エンジンON/OFFキーがオフに切り替えられた場合にエンジンを停止させる。
【0028】
通信端末は、作業機械4の外部のサーバ等と通信を行う。ここでは、通信端末は、作業機械4の稼働状況、作業機械4の現在位置、作物の収穫量(収量)、作物の食味(タンパク質含有量又は水分含有量等を含む)、作業時間又は作業効率等に関する情報を、サーバ等に適宜送信する。本実施形態では、通信端末は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)等の衛星測位システムを用いて、作業機械4の現在位置を検出可能に構成されている。また、通信端末は、作業機械4の運転支援又は自動運転等に係る制御情報をサーバ等から受信してもよい。一例として、収穫量に関する情報(収量データ)は、作業機械4に備わっているセンサー(穀粒センサー)により、収穫された穀粒量を検出することで取得可能である。この種のセンサーは、一例として、グレンタンク453の上面に取り付けられる歪みゲージ又は圧電素子等の衝撃検出部を含み、縦搬送コンベア452によってグレンタンク453へ向けて搬送された穀粒が、衝撃検出部に衝突した際の衝撃力を検出する。もちろん、作業機械4の収穫量の取得手法は、これに限定されない。
【0029】
[2]搭乗部の具体的構成
次に、本実施形態に係る作業機械4の搭乗部47の具体的構成について、
図1、
図4~
図6を参照して説明する。
【0030】
コンバイン等の作業機械4の搭乗部47の種類としては、キャビンタイプ、キャノピータイプ及びフロアタイプ等がある。キャビンタイプの搭乗部47は、キャビン2を備え、キャビン2の内部のキャビン空間20に搭乗者H1が搭乗する。キャノピータイプの搭乗部47は、キャノピー(屋根)を備え、キャノピーの下方の空間に搭乗者H1が搭乗する。フロアタイプの搭乗部47は、キャビン2及びキャノピー等を備えておらず、上方に開放された空間に搭乗者H1が搭乗する。本実施形態では、搭乗部47がキャビンタイプである場合を例として説明する。
【0031】
本実施形態では、搭乗部47は、作業機械4の機体の右側部分におけるグレンタンク453の前方(
図3参照)に配置されている。さらに、搭乗部47は、刈取装置42の後方であって、かつ動力装置46の上方(
図2参照)に位置する。このような配置により、搭乗者H1は搭乗部47の右側から、搭乗部47に対して乗り降りすることになる。そのため、本実施形態では、搭乗者H1が通る乗降口30は、搭乗部47における左右方向D3の一方である右方(右側)に配置されている。つまり、搭乗者H1は、搭乗部47の右側に開口した乗降口30を通って、搭乗部47に搭乗し、また、搭乗部47から降りることになる。搭乗部47は、
図1に示すように、フロア33を備えており、搭乗者H1は、フロア33に足をつけた状態で搭乗部47に搭乗する。
【0032】
搭乗部47は、運転座席31、及びハンドル32を含む各種の操作装置に加えて、ディスプレイ(モニタ)及び計器類等を備えている。これら運転座席31、各種の操作装置、ディスプレイ及び計器類等は、いずれもフロア33よりも上方に配置されている。
図1等では、キャビン空間20内の各種の操作装置、ディスプレイ及び計器類の図示を適宜省略する。
【0033】
キャビンタイプの搭乗部47は、
図1、
図4及び
図5に示すように、フロア33を覆う形状のキャビン2を備えている。キャビン2は、キャビンフレーム21、キャビンルーフ22及び扉体23(キャビンドア)等を有している。キャビン2の内部(内側)のキャビン空間20には、運転座席31、各種の操作装置、ディスプレイ及び計器類等が配置される。言い換えれば、キャビン2は搭乗部47の外郭を構成し、キャビン2の内部(内側)に搭乗者H1が搭乗することになる。
【0034】
すなわち、本実施形態では、搭乗部47は、キャビンルーフ22と、キャビンルーフ22を支持するキャビンフレーム21と、を有している。キャビンフレーム21は、キャビン2の骨格としての構造体であって、キャビン空間20を囲むように形成されている。キャビンルーフ22は、キャビンフレーム21の上方に配置され、キャビンフレーム21によってフロア33上に支持される。キャビンルーフ22は、平面視矩形状であって、搭乗部47の全体を覆う大きさに形成されている。本実施形態では一例として、キャビンフレーム21及びキャビンルーフ22は、いずれも金属製であることとするが、この例に限らず、キャビンフレーム21及びキャビンルーフ22の少なくとも一部に、例えば樹脂又は木材等が適宜用いられてもよい。
【0035】
キャビンフレーム21は、少なくとも前側フレーム211(フロントピラー)及び後側フレーム212を有している。前側フレーム211と後側フレーム212とは、搭乗部47の右端部において前後方向D2に対向する形で配置される。前側フレーム211は、乗降口30の外周縁のうち、乗降口30の前方側の部位(前縁部)を構成する。後側フレーム212は、乗降口30の外周縁のうち、乗降口30の後方側の部位(後縁部)を構成する。さらに、乗降口30の外周縁のうち、乗降口30の上方側の部位はキャビンルーフ22にて構成され、乗降口30の下方側の部位はフロア33にて構成される。つまり、搭乗部47の右側面において、前側フレーム211と後側フレーム212とキャビンルーフ22とフロア33にて囲まれた部位が乗降口30となる。前側フレーム211は、後側フレーム212に対して乗降口30を挟んで前方に位置する。
【0036】
本実施形態では一例として、前側フレーム211は、上下方向D1に沿って延長された角筒状の部材である。前側フレーム211は、上下方向D1の中央部より下方の位置に配置される支持部213を含んでいる。支持部213は、下端側ほど前方に位置するように、上下方向D1に対して傾斜する。また、後側フレーム212は、上下方向D1に沿って延長された角筒状の部材である。後側フレーム212は、上下方向D1の中央部に配置される後側支持部214を含んでいる。後側支持部214は、下端側ほど前方に位置するように、上下方向D1に対して傾斜する。
【0037】
扉体23は、乗降口30に設けられており、乗降口30を覆う「閉位置」と、搭乗者H1が通過可能な状態に乗降口30を開放する「開位置」との間で回転可能である。扉体23は、回転軸Ax1(
図5参照)を中心に回転可能な状態で、ヒンジ231によってキャビンフレーム21に支持されている。乗降口30は、搭乗部47の左右方向D3の少なくとも一方に配置されるので、扉体23についても同様に、搭乗部47の左右方向D3の少なくとも一方に配置される。本実施形態では、乗降口30が搭乗部47の右側に配置されているので、扉体23についても搭乗部47の右側に配置される。
図1では、扉体23の図示を省略し、ヒンジ231を想像線(二点鎖線)で示している。
【0038】
このような扉体23の種類としては、前後方向D2の前側が開く「前開きタイプ」、後側が開く「後開きタイプ」がある。本実施形態では一例として扉体23は前開きタイプである。そのため、扉体23は、乗降口30の後方側に位置する後側フレーム212に、複数(ここでは2つ)のヒンジ231によって支持されている。これにより、扉体23は、扉体23の後端縁に位置する回転軸Ax1を中心に回転可能に支持される。さらに、本実施形態では、扉体23は外開きであって、搭乗部47外側における扉体23の正面(本実施形態では右側)から見て、扉体23の自由端となる前端部を手前(搭乗部47外側)に引く操作によって、扉体23が開く。つまり、扉体23は、上面視(平面視)において、時計回りに回転することによって閉位置から開位置に移動する。本実施形態では、扉体23が閉位置にある状態では、前側フレーム211及び後側フレーム212は、扉体23に覆われる。
【0039】
キャビン2は、フロントガラスとしてのガラスパネル24を含む各種のパネル材を更に有している。これら各種のパネル材は、キャビンフレーム21の前後方向D2の両側及び左右方向D3の両側に適宜取り付けられており、扉体23と共にキャビン空間20を四方から囲んでいる。
【0040】
さらに、キャビンルーフ22(又はキャビンフレーム21)には、ミラー34等の外装品が装着されている。本実施形態では、ミラー34は、キャビンルーフ22の右前部から下方に延びるミラーステー35に支持されている。
【0041】
上述したような構成により、搭乗部47に搭乗するに際し、搭乗者H1は、扉体23を開けた(開位置にある)状態で、乗降口30からキャビン2内部のキャビン空間20に乗り込み、扉体23を閉じる(閉位置にする)ことで、搭乗部47への搭乗が完了する。一方、搭乗部47から降りる際には、搭乗者H1は、扉体23を開けた(開位置にある)状態で、乗降口30からキャビン2外へ出て、扉体23を閉じる(閉位置にする)ことで、搭乗部47から降りることができる。特に、本実施形態のようにキャビン2を備えるキャビンタイプの搭乗部47においては、少なくともキャビンフレーム21が、キャビン2の骨格としての機能を有し、キャビンルーフ22及び扉体23等を支持するのに十分な強度(剛性)を有している。また、キャビン2は作業機械4の機体から取り外し可能であってもよい。
【0042】
ところで、上述したような作業機械4の搭乗部47は、例えば操作者(オペレータ)である搭乗者H1の視界の確保、又は搭乗部47が動力装置46の上方に位置する等の理由で、地面(地上)から比較的高い位置にあることが多い。そのため、搭乗部47は、搭乗者H1の乗り降りを補助する手摺を備えることが好ましい。ただし、例えば、手摺が搭乗部47の中心から離れる向き(右方かつ前方)に突出していると、搭乗者H1の体格等によっては、搭乗部47に対する乗降時において、手摺をつかむ姿勢をとりにくい可能性がある。
【0043】
本実施形態では、手摺に関して以下の構成を採用することによって、より多くの搭乗者H1にとって搭乗部47に対する乗り降りを行いやすい作業機械4を実現する。
【0044】
すなわち、本実施形態に係る作業機械4は、
図1に示すように、搭乗者H1が搭乗可能な搭乗部47を備える。搭乗部47は、乗降口30と、前側手摺部1と、を有する。乗降口30は、(搭乗部47における)左右方向D3の少なくとも一方に配置され、搭乗者H1が通る部位である。前側手摺部1は、乗降口30の前端部に配置される。ここで、前側手摺部1は、支持部213から、後方側と左右方向D3における搭乗部47の中心側との少なくとも一方に突出する。支持部213は、乗降口30の周縁部のうちの前方側に位置する。
【0045】
このように、本実施形態に係る作業機械4では、乗降口30の前端部に配置される前側手摺部1を備えている。そのため、乗降口30を通って搭乗部47への乗り降りを行う搭乗者H1は、前側手摺部1をつかむ等、前側手摺部1を補助に用いることで、前側手摺部1が無い場合に比べて、搭乗部47に対する乗り降りがしやすくなる。そして、前側手摺部1は、乗降口30の周縁部のうちの前方側に位置する支持部213から、後方側と左右方向D3における搭乗部47の中心側(つまり内側)との少なくとも一方に突出する。そのため、乗降口30を通る搭乗者H1からすると、比較的近い位置に前側手摺部1が位置することになり、前側手摺部1に手が届きやすくなる。したがって、例えば、平均身長よりも小柄、又は手が比較的短い等、様々な体格の搭乗者H1からしても、比較的自然な姿勢で、前側手摺部1をつかみやすくなり、前側手摺部1を補助に用いて搭乗部47への乗り降りを行うことができる。結果的に、より多くの搭乗者H1にとって搭乗部47に対する乗り降りを行いやすい作業機械4を実現することができる。
【0046】
さらに詳細に説明すると、前側手摺部1は、
図1の吹き出し内に示すように、搭乗者H1がつかむ(握ることを含む)ための把持部11を含んでいる。本実施形態では一例として、前側手摺部1は、円筒状の金属部材(金属パイプ)からなり、その長さに直交する断面における外周形状が円形状(真円)に形成されている。前側手摺部1は、把持部11と、脚部12と、を含んでいる。脚部12は、上側脚部121及び下側脚部122を含み、これら上側脚部121及び下側脚部122が支持部213から一方向に向けて突出する。把持部11は、上側脚部121及び下側脚部122の先端間を連結する形で設けられており、前側手摺部1は、把持部11と脚部12とで全体として略C字状に形成されている。
【0047】
把持部11は、上下方向D1に沿って長さを有する直線状の部位であって、脚部12(上側脚部121及び下側脚部122)は、把持部11の長手方向の両端部(上端部及び下端部)から支持部213に向けて延びる部位である。ここで、上側脚部121は把持部11の上端部につながっており、下側脚部122は把持部11の下端部につながっている。これにより、把持部11は、脚部12を介して支持部213に支持されるのであって、支持部213との間に隙間W1を確保した状態で、支持部213に対して固定される。
【0048】
前側手摺部1のうちの少なくとも把持部11の断面形状及び外径(太さ)は、搭乗者H1が握りやすい形状及び寸法に設定される。本実施形態では一例として、日本人の一般的な成人の手の大きさ、並びに手指の長さ及び太さ等のデータから、片手で握りやすいと想定される断面形状及び外径が、把持部11に採用される。
【0049】
一例として、把持部11の握り方としては、5本の手指のうちの母指を把持部11と支持部213との間の隙間W1に挿入する「順手」と、5本の手指のうちの母指以外の4指を把持部11と支持部213との間の隙間W1に挿入する「逆手」と、がある。順手と逆手といずれで把持部11を握るかは搭乗者H1次第であって、搭乗者H1が自らの体格等に合わせて握りやすい握り方で把持部11を握ることが好ましい。もちろん、把持部11の握り方を順手及び逆手に限定する趣旨ではなく、その他の握り方であってもよい。
【0050】
さらに本実施形態では、脚部12(上側脚部121及び下側脚部122)と把持部11とは、湾曲形状によって継ぎ目なく連続する。このようなシームレスに連続する脚部12及び把持部11は、例えば、1本の金属パイプに対する曲げ加工により実現可能である。把持部11と脚部12とがシームレスに連続していれば、搭乗者H1は、把持部11をつかんだ手を脚部12にかかる位置までスライドさせるように、手を移動させながら前側手摺部1をつかむことできる。これにより、更に多様な前側手摺部1の使い方に対応することが可能である。
【0051】
ここで、本実施形態においては、前側手摺部1は、キャビンフレーム21の前側フレーム211(フロントピラー)に固定されている。つまり、キャビンフレーム21における前側フレーム211の一部が、前側手摺部1を支持する支持部213として機能する。すなわち、上述したように、キャビンフレーム21のうち、乗降口30の前縁部を構成する前側フレーム211(フロントピラー)は、上下方向D1の中央部より下方の位置に配置される支持部213を含んでいる。この支持部213によって、前側手摺部1が支持される。
【0052】
このように、本実施形態では、支持部213は、キャビンフレーム21の一部である。キャビンフレーム21は、十分な強度を有するので、キャビンフレーム21の一部を支持部213とすることで、前側手摺部1を強固に支持しやすくなる。そのため、搭乗者H1が前側手摺部1に体重をかけやすくなり、前側手摺部1を用いた搭乗部47への乗り降りがより簡単になる。
【0053】
さらに、前側手摺部1は、少なくとも把持部11が、キャビンフレーム21の支持部213に対して平行となるように構成されている。本実施形態では、キャビンフレーム21の支持部213は、上述したように下端側ほど前方に位置するように、上下方向D1に対して傾斜するので、把持部11についても同様に、下端側ほど前方に位置するように、上下方向D1に対して傾斜する。これにより、把持部11と支持部213との間に、把持部11の全長にわたって同一幅の隙間W1を確保しやすくなる。隙間W1の幅は、一例として30mm以上であることが好ましい。
【0054】
また、本実施形態に係る作業機械4においては、
図1に示すように、搭乗部47は、後側手摺部5を更に備えている。後側手摺部5は、乗降口30の後端部に配置される。後側手摺部5は、乗降口30の後端部から前方側に突出する。すなわち、本実施形態では、乗降口30の前端部に配置される前側手摺部1に加えて、乗降口30の後端部に配置される後側手摺部5が設けられている。これにより、乗降口30の幅方向(前後方向D2)の両側に、手摺(前側手摺部1及び後側手摺部5)が配置されることになり、搭乗者H1は、搭乗部47に対する乗り降りが一層やりやすくなる。要するに、乗降口30を通って搭乗部47への乗り降りを行う搭乗者H1は、例えば前側手摺部1を右手、後側手摺部5を左手でつかむ等、前側手摺部1及び後側手摺部5を両手でつかむことで、身体を支えやすくなり、搭乗部47に対してより乗り降りしやすくなる。
【0055】
ここで、搭乗者H1が前側手摺部1及び後側手摺部5を両手でつかめるように、前側手摺部1と後側手摺部5との間隔が設定されている。つまり、搭乗者H1の両手が、余裕をもって前側手摺部1及び後側手摺部5に届くように、一例として、日本人の一般的な成人の手の長さ及び身長等のデータから、両手で握りやすいと想定される間隔で前側手摺部1及び後側手摺部5が配置される。
【0056】
さらに詳細に説明すると、後側手摺部5は、
図1の吹き出し内に示すように、搭乗者H1がつかむ(握ることを含む)ための後側把持部51を含んでいる。本実施形態では一例として、後側手摺部5は、前側手摺部1と同様の円筒状の金属部材(金属パイプ)からなる。後側手摺部5は、後側把持部51と、後側脚部52と、を含んでいる。後側脚部52は、後側支持部214から前方側に向けて突出する。後側把持部51は、後側脚部52の先端と、支持台36との間にかけ渡されている。支持台36は、搭乗部47のフロア33上に設置されており、後側把持部51は、支持台36の上面から斜め上後方に突出するように、後側脚部52とは反対側の端部が支持台36にて支持されている。
【0057】
後側把持部51は、上下方向D1に沿って長さを有する直線状の部位であって、後側脚部52は、水平方向(前後方向D2)に沿って長さを有する直線状の部位である。これにより、後側把持部51は、後側脚部52を介して後側支持部214に支持されるのであって、後側支持部214との間に隙間W2を確保した状態で、後側支持部214に対して固定される。
【0058】
ここで、本実施形態においては、後側手摺部5は、(少なくとも一端部が)キャビンフレーム21の後側フレーム212に固定されている。つまり、キャビンフレーム21における後側フレーム212の一部が、後側手摺部5を支持する後側支持部214として機能する。すなわち、上述したように、キャビンフレーム21のうち、乗降口30の後縁部を構成する後側フレーム212は、上下方向D1の中央部に配置される後側支持部214を含んでいる。この後側支持部214によって、後側手摺部5が支持される。
【0059】
その他、後側手摺部5の後側把持部51の断面形状及び外径、更に握り方等の細部の構成については、前側手摺部1の把持部11と概ね同様である。
【0060】
前側手摺部1及び後側手摺部5は、キャビンフレーム21に対して適宜の手段で固定される。本実施形態では、一例として、前側手摺部1及び後側手摺部5は、いずれも溶接により、キャビンフレーム21に固定されていることとする。ただし、前側手摺部1及び後側手摺部5の固定方法はこれに限らず、前側手摺部1及び後側手摺部5は、例えば、接着によりキャビンフレーム21に固定されてもよいし、キャビンフレーム21と一体成型されてもよい。また、例えば、ねじ、ボルト若しくはナット等の締結具を用いることで、前側手摺部1及び後側手摺部5が、取り外し可能な状態でキャビンフレーム21に固定されてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、前側手摺部1及び後側手摺部5の各々は、基本的に金属製であって、必要な強度及び対候性等に応じて材質が選択される。ただし、前側手摺部1及び後側手摺部5に限らず、例えば、樹脂又は木材等が適宜用いられてもよい。一例として、前側手摺部1及び後側手摺部5の表面に、滑り止め用の樹脂コーティング層が設けられていてもよい。
【0062】
さらに、本実施形態に係る作業機械4においては、
図1に示すように、搭乗部47は、足踏部37を更に有している。足踏部37は、乗降口30の下端よりも下方に配置され、搭乗部47に乗り降りする搭乗者H1の足を支持するために用いられる。つまり、足踏部37は、搭乗者H1の足(片足)を掛けるための部位であって、例えば、凹形状、踏板状又は突起状等の、人の足を掛けることができる適宜の形状を採用する。
図1等では足踏部37を支持するための構造について図示を省略しているが、足踏部37は、例えば、キャビンフレーム21が固定されている作業機械4の機体(シャーシ)に支持される。本実施形態では一例として、足踏部37は、作業機械4の機体に支持される踏板状の部材であって、2段設けられている。また、日本人の一般的な成人の足の大きさ等のデータから、足を掛けやすいと想定される形状及び寸法が、足踏部37に採用される。
【0063】
このような足踏部37が設けられていることで、搭乗者H1は、搭乗部47に対する乗り降りが一層やりやすくなる。要するに、乗降口30を通って搭乗部47への乗り降りを行う搭乗者H1は、例えば前側手摺部1を右手でつかみながら、足踏部37に右足をかけることで、身体を支えやすくなり、搭乗部47に対してより乗り降りしやすくなる。特に、本実施形態のように、後側手摺部5が設けられている場合には、搭乗者H1は、前側手摺部1及び後側手摺部5を両手でつかみながら、足踏部37に片足をかけることで、3箇所で身体を支える「三点支持」の姿勢をとることができ、身体がより安定しやすい。
【0064】
次に、搭乗者H1による搭乗部47への乗り降りの手順を示す
図6を参照して、前側手摺部1、後側手摺部5及び足踏部37等の使い方について説明する。ただし、以下に説明する手順は一例に過ぎず、前側手摺部1、後側手摺部5及び足踏部37等の使い方を限定する趣旨ではない。また、
図6では、搭乗部47へ乗り込んでいる途中の搭乗者H1を想像線(二点鎖線)で模式的に示している。
【0065】
搭乗者H1は、搭乗部47に搭乗するに際し、扉体23を開けた状態で、背を左右方向D3の外側(右方側)に向け、まず右手で前側手摺部1をつかむ(
図6中のST1)。前側手摺部1は、扉体23の回転軸Ax1とは反対側である乗降口30の前端部に配置されているので、扉体23を全開にしなくても、搭乗者H1は前側手摺部1を比較的つかみやすい。次に、搭乗者H1は、前側手摺部1をつかんだまま、左手で後側手摺部5をつかむ(
図6中のST2)。これにより、搭乗者H1は、背を左右方向D3の外側(右方側)に向けた状態で、前側手摺部1及び後側手摺部5を両手でつかんだ姿勢をとる。
【0066】
次に、搭乗者H1は、前側手摺部1及び後側手摺部5を両手でつかんだまま、右足を足踏部37に掛ける(
図6中のST3)。このとき、搭乗者H1は、前側手摺部1及び後側手摺部5で体重を支えつつ、右足を上げることができるため、安定した姿勢で足踏部37に足を掛けることができる。これにより、搭乗者H1は、背を左右方向D3の外側(右方側)に向けた状態で、前側手摺部1、後側手摺部5及び足踏部37にて三点支持された姿勢をとる。この状態から、搭乗者H1は、前側手摺部1及び後側手摺部5を両手でつかんだまま身体を持ち上げ、左足を搭乗部47のフロア33につく。そして、搭乗者H1は身体を更に持ち上げ、右足も搭乗部47のフロア33につくことで、キャビン2内部のキャビン空間20に乗り込むことができる。最後に、搭乗者H1は、扉体23を閉じる(閉位置にする)ことで、搭乗部47への搭乗が完了する。
【0067】
一方、搭乗者H1は、搭乗部47から降りるに際し、扉体23を開けた状態で、背を左右方向D3の外側(右方側)に向け、まず左手で後側手摺部5をつかむ。次に、搭乗者H1は、後側手摺部5をつかんだまま、右手で前側手摺部1をつかむ。次に、搭乗者H1は、前側手摺部1及び後側手摺部5を両手でつかんだまま、身体をゆっくり下降させて、右足を足踏部37に掛ける。このとき、搭乗者H1は、背を左右方向D3の外側(右方側)に向けた状態で、前側手摺部1、後側手摺部5及び足踏部37にて三点支持された姿勢をとる。この状態から、搭乗者H1は、左足を地面に下ろし、更に右足も地面に下すことで、乗降口30からキャビン2外へ出ることができる。最後に、搭乗者H1は、扉体23を閉じる(閉位置にする)ことで、搭乗部47からの降車が完了する。
【0068】
ところで、上述した作業機械4に前側手摺部1として用いられる部品は、作業機械用手摺装置として、それ単独でも流通する。例えば、前側手摺部1を装着するか否かを作業機械4のユーザ(所有者又は管理者等)が決定する場合、前側手摺部1としての作業機械用手摺装置がオプションとして用意される。言い換えれば、本実施形態に係る作業機械用手摺装置は、作業機械4に前側手摺部1として用いられる。
【0069】
[3]前側手摺部の具体的構成
次に、本実施形態に係る前側手摺部1の具体的構成について、
図7を参照して説明する。
【0070】
図7は、前側手摺部1及び支持部213について、三方向から見た概略三面図である。つまり、
図7では、前側手摺部1及び支持部213について、右方から見た「右側面視」、上方から見た「上面視」、及び後方から見た「背面視」を示している。
【0071】
図7から明らかなように、本実施形態では、前側手摺部1は、支持部213から、後方側、かつ左右方向D3における搭乗部47の中心側に突出する。すなわち、本実施形態では、支持部213が搭乗部47の右前部に位置するので、支持部213から見て、左右方向D3における搭乗部47の中心側、つまり搭乗部47の内側は左方側となる。そして、前側手摺部1は、支持部213から見て後方側(
図7の上面視及び右側面視を参照)と、支持部213から見て左方側(
図7の上面視及び背面視を参照)との両方に突出する。
【0072】
要するに、前側手摺部1は、支持部213から、後方側と、左右方向D3における搭乗部47の中心側(つまり左方側)との少なくとも一方に突出する構成であるところ、本実施形態ではその両方に突出する。これにより、前側手摺部1は、乗降口30の前端部(支持部213)から、平面視(上面視)における搭乗部47の中心に近づく向きに突出して設けられることになる。そのため、例えば、平均身長よりも小柄、又は手が比較的短い等、様々な体格の搭乗者H1からしても、より近くにある前側手摺部1をつかむことで、より自然な姿勢で前側手摺部1をつかみやすくなる。
【0073】
また、
図7から明らかなように、本実施形態では、前側手摺部1は、把持部11と、脚部12と、を含む。脚部12は、支持部213及び把持部11間を連結する。脚部12は、後方側ほど、左右方向D3における搭乗部47の中心に近づくように、前後方向D2に対して傾斜する。すなわち、その脚部12(上側脚部121及び下側脚部122)が、支持部213から斜め後方に延びていることで、前側手摺部1全体として、支持部213から、後方側、かつ左右方向D3における搭乗部47の中心側に突出する。具体的には、脚部12は、支持部213から見て、後方側、かつ左右方向D3における搭乗部47の中心側である左方側に向けて、左斜め後方に延びている(
図7の上面視を参照)。このように、前後方向D2に対して傾斜する脚部12を有することで、脚部12の長さが同一であれば、把持部11と支持部213との間の隙間W1を比較的大きく確保できる。そのため、把持部11をつかみやすくなる。
【0074】
さらに、本実施形態では、前側手摺部1は、キャビンフレーム21で囲まれるキャビン空間20内に配置される。つまり、前側手摺部1は、乗降口30から見てキャビン空間20の外側ではなく、キャビン空間20内に収まる(
図9参照)。そのため、例えば、前側手摺部1がキャビン空間20の外側に突出する場合に比べて、搭乗部47の外側への突起物を減らすことができる。また、例えば、後側が開く「後開きタイプ」の扉体23であっても、搭乗者H1は、乗降口30を通る際に扉体23に遮られずに前側手摺部1をつかむことができる。
【0075】
[4]前側手摺部及び後側手摺部の位置関係
次に、前側手摺部1と後側手摺部5との位置関係について、
図8及び
図9を参照して説明する。
図8では、乗降口30の周辺の構成を示しており、前側手摺部1及び後側手摺部5に関係のない構成の図示を適宜省略する。
図9は、
図8のA1-A1線断面図であって、こちらも前側手摺部1及び後側手摺部5に関係のない構成の図示を適宜省略する。
【0076】
まず、前側手摺部1と後側手摺部5との高さの関係に着目すると、
図8に示すように、後側手摺部5の少なくとも一部は、前側手摺部1と同一高さにある。すなわち、後側手摺部5と前側手摺部1とでは、上下方向D1の位置が少なくとも一部で重複する。本実施形態では一例として、後側手摺部5の下端部のみが、前側手摺部1(の上端部)と同じ高さにある。つまり、
図8に距離L1で示す分だけ、後側手摺部5と前側手摺部1とで、上下方向D1の位置が重複する。これにより、後側手摺部5と前側手摺部1とで上下方向D1の位置が重複しない場合に比べると、搭乗者H1においては、前側手摺部1と後側手摺部5とを両手でつかみやすくなる。
【0077】
ここで、後側手摺部5の少なくとも一部が、前側手摺部1と同一高さにあればよいので、
図8の位置関係に限らず、例えば、後側手摺部5の全体が、前側手摺部1の少なくとも一部と同一高さにあってもよい。反対に、前側手摺部1の全体が、後側手摺部5の少なくとも一部と同一高さにあってもよい。もちろん、前側手摺部1の全体と、後側手摺部5の全体とが同一高さにあってもよい。ただし、本実施形態では、前側手摺部1と後側手摺部5とで上下方向D1の位置をずらすことにより、乗降口30の幅方向(前後方向D2)に沿った前側手摺部1と後側手摺部5との間隔を比較的大きく確保する。
【0078】
すなわち、本実施形態では、
図8に示すように、前側手摺部1の下端は、後側手摺部5の下端よりも低い位置にある。後側手摺部5の上端は、前側手摺部1の上端よりも高い位置にある。このように、後側手摺部5が前側手摺部1に対して上方にずれた位置に配置されることで、後側手摺部5と前側手摺部1との間隔を比較的大きく確保でき、結果的に、搭乗者H1が後側手摺部5と前側手摺部1との間を通りやすくなる。さらに、例えば、搭乗者H1は、搭乗部47から降りるに際し、まず高い位置にある後側手摺部5をつかみやすくなる、といった利点もある。
【0079】
具体的には、前側手摺部1の下端は、後側手摺部5の下端から、距離L2だけ下方に下がった位置にある。後側手摺部5の上端は、前側手摺部1の上端から、距離L3だけ上方に上がった位置にある。
図8の例では、上述したように、後側手摺部5と前側手摺部1とで、上下方向D1の位置が少なくとも一部で重複するが、この構成は必須ではない。すなわち、後側手摺部5と前側手摺部1とで上下方向D1の位置が少なくとも一部で重複しない場合には、後側手摺部5と前側手摺部1とを上下方向D1に、より大きくずらして配置できる。
【0080】
また、
図9に示すように、本実施形態では、乗降口30の幅方向において、後側手摺部5の少なくとも一部は、前側手摺部1と対向する。すなわち、後側手摺部5と前側手摺部1とでは、左右方向D3の位置が少なくとも一部で重複する。言い換えれば、前側手摺部1と後側手摺部5とは、(前方から見た)正面視、又は(後方から見た)背面視において、左右方向D3の位置が少なくとも一部で重複する位置関係にある。本実施形態では一例として、乗降口30の幅方向(前後方向D2)において、後側手摺部5の全体が、前側手摺部1と対向する。つまり、
図9に示すように、(前側手摺部1の左右方向D3の)幅W10内に収まるように、後側手摺部5が配置されている。これにより、後側手摺部5と前側手摺部1とで左右方向D3の位置が重複しない場合に比べると、搭乗者H1においては、前側手摺部1と後側手摺部5とを両手でつかみやすくなる。
【0081】
ここで、後側手摺部5の少なくとも一部が、乗降口30の幅方向において、前側手摺部1と対向すればよいので、
図9の位置関係に限らず、例えば、後側手摺部5の一部のみが、前側手摺部1の少なくとも一部と乗降口30の幅方向に対向してもよい。もちろん、前側手摺部1の全体と、後側手摺部5の全体とが乗降口30の幅方向に対向してもよい。
【0082】
[5]変形例
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0083】
前側手摺部1の形状及び寸法等は、実施形態1で説明した態様に限らない。例えば、前側手摺部1の断面形状は、円形状(真円)に限らず、楕円形状又は多角形状等であってもよい。
【0084】
また、搭乗部47は、キャビンタイプに限らず、例えば、キャノピータイプ又はフロアタイプ等であってもよい。キャンピータイプ又はフロアタイプの搭乗部47においては、扉体23(キャビンドア)を備えないものの、搭乗部47に対して搭乗者H1が乗り降りするための乗降口30は設けられている。例えば、フロアタイプの搭乗部47であれば、乗降口30の上辺側には構造物がないため、乗降口30は上方に開放された形態となる。つまり、乗降口30は、キャビンタイプのように四方が囲まれた構成に限らず、少なくとも一部が開放された構成であってもよい。
【0085】
また、乗降口30は、実施形態1のように、搭乗部47の右方(右側)に配置される構成に限らない。つまり、乗降口30は、搭乗部47における左右方向D3の少なくとも一方に配置されていればよく、例えば、搭乗部47の左方(左側)、又は、左右方向D3の両側に配置されてもよい。
【0086】
また、扉体23は、実施形態1のような前開きタイプに限らず、例えば、後側が開く後開きタイプ、又は下側が開く下開きタイプ等であってもよい。さらに、扉体23は、乗降口30を覆う「閉位置」と乗降口30を開放する「開位置」との間で移動可能であればよく、回転軸Ax1を中心に回転する構成に限らず、例えば、折れ戸タイプ又は引き戸タイプ等であってもよい。
【0087】
また、搭乗者H1の乗り降りを補助する、前側手摺部1、後側手摺部5及び足踏部37等の部品は、1つずつに限らず、複数設けられていてもよい。例えば、前側手摺部1が、乗降口30の前端部に2つ以上配置されていてもよい。
【0088】
また、脚部12が前後方向D2に対して傾斜することは必須の構成ではない。例えば、脚部12が上面視(平面視)において、前後方向D2に延びる部位、及び左右方向D3に延びる部位を備えるL字状である場合でも、前側手摺部1は、支持部213から、後方側、かつ左右方向D3における搭乗部47の中心側に突出可能である。さらに、脚部12は、上面視(平面視)において、例えばC字状のように湾曲した形状であってもよい。
【0089】
また、前側手摺部1は、支持部213から、後方側と、左右方向D3における搭乗部47の中心側(つまり左方側)との少なくとも一方に突出していればよく、後方側かつ左方側に突出することは必須ではない。例えば、前側手摺部1は、支持部213から、後方側にのみ突出してもよいし、又は左右方向D3における搭乗部47の中心側(つまり左方側)のみに突出してもよい。
【0090】
また、後側手摺部5及び足踏部37は、作業機械4に必須の構成ではなく、後側手摺部5及び足踏部37の少なくとも一方が適宜省略されてもよい。さらに、後側手摺部5を前側手摺部1の代わりに用いる場合には、前側手摺部1が省略されてもよい。
【0091】
(実施形態2)
本実施形態に係る作業機械4Aは、
図10に示すように、後側手摺部5Aの形状が、実施形態1に係る作業機械4と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0092】
本実施形態では、
図10の吹き出し内に示すように、後側手摺部5Aは、搭乗者H1がつかむ(握ることを含む)ための後側把持部51に加えて、横脚部53及び縦脚部54を含んでいる。横脚部53は、後側支持部214から前方側に向けて突出しており、水平方向(ここでは前後方向D2)に沿って延びる。縦脚部54は、支持台36から上方側に向けて突出しており、鉛直方向(ここでは上下方向D1)に沿って延びる。後側把持部51は、横脚部53及び縦脚部54の先端間を連結する形で設けられている。後側把持部51は、縦脚部54の先端部(上端部)から斜め上後方に突出するように、上下方向D1及び前後方向D2の両方に対して傾斜する形に形成されている。
【0093】
上記構成の後側手摺部5Aであれば、搭乗者H1は、後側把持部51だけでなく、横脚部53又は縦脚部54等もつかみやすくなる。そのため、例えば、搭乗者H1は、搭乗部47に搭乗する際に、後側手摺部5Aのうちの縦脚部54を最初につかみ、次に縦脚部54から後側把持部51に持ち換えて、最後に横脚部53をつかむ、といった後側手摺部5Aの使い方が可能である。そのため、より多様な後側手摺部5Aの使い方ができ、より多くの搭乗者H1にとって搭乗部47に対する乗り降りを行いやすい作業機械4Aを実現することができる。実施形態2の構成は、実施形態1で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 前側手摺部(作業機械用手摺装置)
4,4A 作業機械
5,5A 後側手摺部
11 把持部
12 脚部
20 キャビン空間
21 キャビンフレーム
22 キャビンルーフ
30 乗降口
37 足踏部
47 搭乗部
213 支持部
D3 左右方向
H1 搭乗者