IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジャパンファインスチール株式会社の特許一覧

特開2022-110722マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード
<>
  • 特開-マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード 図1
  • 特開-マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード 図2
  • 特開-マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード 図3
  • 特開-マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード 図4
  • 特開-マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード 図5
  • 特開-マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110722
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】マルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置並びにマルチブレード
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/12 20060101AFI20220722BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20220722BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220722BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
H01L21/78 F
H01L21/304 611W
B24D3/00 320B
B24D3/00 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006306
(22)【出願日】2021-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】597150599
【氏名又は名称】ジャパンファインスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】末次 貴道
【テーマコード(参考)】
3C063
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA24
3C063BB02
3C063BC02
3C063BC03
3C063BG10
3C063CC13
3C063EE31
5F057AA23
5F057AA41
5F057BA30
5F057CA01
5F057CA03
5F057CA04
5F057DA15
5F057EB24
5F063AA21
5F063AA43
5F063DD02
5F063DD05
(57)【要約】
【課題】薄いブレードが所望の間隔で平行に配置された構造のマルチブレード及びそのマルチブレードを安価に効率良く製造することが可能なマルチブレードの製造方法並びにそれに用いられるマルチブレード製造装置を提供する。
【解決手段】本発明のマルチブレードの製造方法は、超硬合金(硬質の金属炭化物の粉末を焼結して作られる合金)からなる円柱体の周面に砥粒を固着させる工程(ステップS1)と、この円柱体の周面にマルチワイヤソーを用いて複数の環状溝を形成する工程(ステップS2)を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有する軸体が両端にそれぞれ設けられ円柱状又は円筒状をなすワークを加工してマルチブレードを製造する装置であって、
水平に設置された各回転軸を中心として回転可能に、互いに所定の間隔を空けて平行に設置された一対のローラと、
一対の前記ローラに対し、軸方向の一端から他端にかけて交互に往復するように螺旋状に巻き付けられたソーワイヤと、
前記ワークを前記中心軸と前記ローラの前記回転軸が平行をなすように保持するとともに、一対の前記ローラの間に前記ソーワイヤが複数回掛け渡されることによって一対の前記ローラの上下にそれぞれ形成された一対のワイヤ群の一方に対し、上下方向へ移動した場合に前記ワークが当接するように一対の前記ローラの上方又は下方に設置されたワークホルダと、
このワークホルダを鉛直上向き又は鉛直下向きに移動させる駆動機構と、を備え、
前記ソーワイヤはダイヤモンド砥粒が表面に固着されており、
前記ワークホルダは、
前記中心軸を中心として前記ワークを回転可能に前記軸体を保持する保持手段と、
この保持手段を介して前記ワークを回転駆動するモータと、からなることを特徴とするマルチブレード製造装置。
【請求項2】
中心軸を有する軸体が両端にそれぞれ設けられ円柱状又は円筒状をなすワークを加工してマルチブレードを製造する方法であって、
前記ワークの周面に砥粒をレジンボンドによって固着させる工程と、
前記中心軸を中心として前記ワークを回転させながら前記周面に、ダイヤモンド砥粒が表面に固着されているマルチワイヤソーを用いて複数の環状溝を形成する工程と、を備えていることを特徴とするマルチブレードの製造方法。
【請求項3】
前記レジンボンドに代えて電着によって前記砥粒を前記ワークの前記周面に固着させる工程を備えていることを特徴とする請求項2に記載のマルチブレードの製造方法。
【請求項4】
円筒状又は円柱状をなす本体部と、
平面視ドーナツ型円板状をなし、前記本体部の周面に半径方向へ突設するように設けられた複数枚のブレードと、を備え、
前記ブレードは、前記本体部の中心軸と直交し、かつ、所望のピッチで等間隔に配置されるとともに、レジンボンド又は電着によって外周面に砥粒が固着されていることを特徴とするマルチブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェハなどのワークを切断して個々のチップに分割する装置に用いられる切断刃(ブレード)に係り、特に、ワークに対して狭い幅の複数の溝を狭いピッチで同時に加工することが可能なマルチブレード及びそのマルチブレードの製造方法並びにそれに用いられるマルチブレード製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
板状のシリコンウェハを複数のチップに個片化する際に、円形の切断刃(ブレード)を備えたダイシング装置が用いられることがある。このダイシング装置は、シリコンウェハの分割時に用いられる格子状の溝を、回転する円形のブレードをワーク(シリコンウェハ)に押し当てるようにして形成する構造となっている。
近年では、半導体パッケージの小型化及び高集積化に伴って、ワーク(シリコンウェハ)に対して狭い幅の上記溝を狭いピッチで形成する技術が求められている。
【0003】
ワークに幅の狭い溝を形成するためには、ブレード自体が薄くなければならないが、薄いブレードを用いてワークを加工することについては、例えば、特許文献1に「希土類磁石のマルチ切断加工方法」という名称で、複数個の製品を多数個取りするためにブロック状の希土類磁石合金をマルチ切断する方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、希土類磁石の切断に、薄板円板状又は薄板ドーナツ円板状の台板の外周縁部に砥石外周刃を備えたブレードを用いるものであり、明細書には、台板の厚みが0.1~1.0mmであって砥粒部(砥石外周刃)の幅が(台板の厚さ+0.01~4)mmと記載されている。すなわち、特許文献1には、厚さが0.11mmのブレード(最も薄い場合)が開示されている。また、実験例1として、厚さ0.5mmの台板の外周に0.6mmの幅の砥粒部が形成された39枚の外周切断刃が厚さ2.1mmのスペーサを挟んで配置された構造のマルチ切断砥石ブレードが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、「ブレード加工装置及びブレード加工方法」という名称で、脆性材料からなるワークに対し、クラックや割れを発生させることなく、安定して精度良く切断加工を行うことができるブレードを加工する方法とそれに用いる加工装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示されたブレードの加工方法は、ダイヤモンド砥粒が焼結によって表面に固着されたブレードに対して加工を施すものであり、図4B及び明細書には、最も薄く形成される外周端部の厚みが10μmの切刃部を有するブレードが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、「レジン砥石切断刃及び希土類磁石のマルチ切断加工方法」という名称で、従来に比べて薄い切断刃を用いても希土類磁石を高い精度で高速にマルチ切断することができる加工方法とそれに用いられる上記切断刃に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示されたレジン砥石切断刃は、外周縁部に切り刃部を備えた薄板円板状又は薄板ドーナツ円板状の台板が回転軸方向に沿って所定の間隔で複数配設された構造であり、明細書には実施例1として、厚さ0.3mmの台板の外周に0.4mmの幅の切り刃部が形成された41枚の外周切断刃が厚さ2.1mmのスペーサを挟んで配置された構造のマルチ切断砥石ブレードが記載されている。このようなマルチ切断砥石ブレードを用いた場合、幅が0.4mmの41本の溝を同時に2.1mmの間隔でワークに形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-110966号公報
【特許文献2】特開2017-1105号公報
【特許文献3】特開2013-136143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された加工方法をワークの加工に用いた場合、ワークに対して複数本の溝を0.6mmの幅で同時に加工できるものの、スペーサの厚さが2.1mmであることから、ワークに対して上記溝を2.1mmより狭いピッチで加工することはできないものと考えられる。
また、特許文献2に開示されたブレード(外周端部の厚みが10μmの切刃部を有するブレード)をワークの加工に用いた場合、幅が10μmの溝をワークに形成できるものと考えられる。しかしながら、特許文献2には、ブレードを複数枚備えた構造について何も言及されていないことから、ワークに対してどの程度のピッチで上述の溝を形成できるか、不明である。
さらに、特許文献3に開示されたマルチ切断砥石ブレードでは、ワークに複数本の溝を0.4mmの幅で同時に加工できるものの、スペーサの厚さが2.1mmであることから、ワークに対して上記溝を2.1mmより狭いピッチで加工することはできないものと考えられる。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、薄いブレードが所望の間隔で平行に配置された構造のマルチブレード及びそのマルチブレードを安価に効率良く製造することが可能なマルチブレードの製造方法並びにそれに用いられるマルチブレード製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明に係るマルチブレード製造装置は、中心軸を有する軸体が両端にそれぞれ設けられ円柱状又は円筒状をなすワークを加工してマルチブレードを製造する装置であって、水平に設置された各回転軸を中心として回転可能に、互いに所定の間隔を空けて平行に設置された一対のローラと、一対のローラに対し、軸方向の一端から他端にかけて交互に往復するように螺旋状に巻き付けられたソーワイヤと、ワークを中心軸とローラの回転軸が平行をなすように保持するとともに、一対のローラの間にソーワイヤが複数回掛け渡されることによって一対のローラの上下にそれぞれ形成された一対のワイヤ群の一方に対し、上下方向へ移動した場合にワークが当接するように一対のローラの上方又は下方に設置されたワークホルダと、このワークホルダを鉛直上向き又は鉛直下向きに移動させる駆動機構と、を備え、ソーワイヤはダイヤモンド砥粒が表面に固着されており、ワークホルダは、中心軸を中心としてワークを回転可能に軸体を保持する保持手段と、この保持手段を介してワークを回転駆動するモータと、からなることを特徴とするものである。
なお、第1の発明に係るマルチブレード製造装置によって加工されるワークには、軸体が円柱体の両端にそれぞれ一体的に設けられた構造のワークだけでなく、円柱体とは別に形成された軸体が円柱体の両端にそれぞれ接合された構造のワークや円筒体の貫通孔に嵌設されて円筒体の両側に突出した丸棒の両端が軸体となる構造のワークも含まれるものとする。
【0010】
第1の発明に係るマルチブレード製造装置では、一対のワイヤ群を構成する各ソーワイヤがそれぞれ同じ方向に走行していることから、モータによって軸体の中心軸を中心としてワークを回転させながらワークホルダを下降させ、一対のローラの上下に形成された一対のワイヤ群の一方にワークを当接させると、ワークの周面に所定の幅を有する複数の環状溝が所定のピッチで同時に形成される。
なお、ワークの周面に形成された複数の環状溝のうち、隣り合う2つの環状溝の間の加工されていない部分(以下、柱部という。)はブレードとしての利用が可能である。この場合、周面に複数の環状溝が所定のピッチで形成されている上記ワークは、円筒状又は円柱状をなす本体部の周面に対し、平面視ドーナツ型円板状をなす複数枚のブレードが本体部の中心軸と直交し、かつ、半径方向へ突設するように等間隔で設けられた構造のマルチブレードとなる。このとき、ワークの周面に形成された環状溝の間隔及び環状溝の幅は、マルチブレードにおけるブレードの厚さ及びブレードの間隔にそれぞれ対応し、当該環状溝の間隔と幅は、ソーワイヤの間隔と太さによってそれぞれ規定される。
すなわち、第1の発明に係るマルチブレード製造装置においては、中心軸を有する軸体が両端にそれぞれ設けられ円柱状又は円筒状をなすワークからマルチブレードが容易に製造されるとともに、マルチブレードを構成する複数枚のブレードの厚さ及び間隔が、ワークの周面に形成される複数の環状溝の間隔及び幅をそれぞれ規定するソーワイヤの間隔及び太さによってそれぞれ決定されるという作用を有する。また、第1の発明においては、予め周面に砥粒が固着されたワークを加工することにより、外周面に砥粒が固着された複数枚のブレードを備えたマルチブレードが得られるという作用を有する。
また、第1の発明においては、ワークに対して環状溝を加工する際に、隣り合う2つの環状溝内に存在するソーワイヤによってその間の柱部の振動が抑制されるという作用を有する。
【0011】
第2の発明に係るマルチブレードの製造方法は、中心軸を有する軸体が両端にそれぞれ設けられ円柱状又は円筒状をなすワークを加工してマルチブレードを製造する方法であって、ワークの周面に砥粒をレジンボンドによって固着させる工程と、中心軸を中心としてワークを回転させながら周面に、ダイヤモンド砥粒が表面に固着されているマルチワイヤソーを用いて複数の環状溝を形成する工程と、を備えていることを特徴とするものである。
第2の発明においては、ワークの加工にマルチワイヤソーが用いられていることから、ワークの周面に所定の幅を有する複数の環状溝が所定のピッチで同時に効率良く形成されるという作用を有する。そして、ワークの周面に形成された複数の環状溝のうち、隣り合う2つの環状溝に挟まれた部分(柱部)がブレードとして機能するマルチブレードとして当該ワークを用いることができる。
【0012】
すなわち、周面に複数の環状溝が所定のピッチで形成されているワークは、平面視ドーナツ型円板状をなすとともに、円筒状又は円柱状をなす本体部の周面に対して半径方向へ突設するように等間隔で設けられた複数枚のブレードを備えたマルチブレードとして利用可能な構造となっている。この場合、ワークの周面に形成された環状溝の間隔及び環状溝の幅は、マルチブレードにおけるブレードの厚さ及びブレードの間隔にそれぞれ対応し、当該環状溝の間隔と幅は、マルチワイヤソーに用いられるソーワイヤの間隔と太さによってそれぞれ規定されることになる。
したがって、第2の発明においては、中心軸を有する軸体が両端にそれぞれ設けられ円柱状又は円筒状をなすワークからマルチブレードが容易に製造されるとともに、マルチブレードを構成する複数枚のブレードの厚さ及び間隔がワークの周面に形成される複数の環状溝の間隔及び幅によってそれぞれ規定され、さらに当該環状溝の間隔及び幅がマルチワイヤソーに用いられるソーワイヤの間隔及び太さによってそれぞれ決定されるという作用を有する。
また、第2の発明では、ワークの周面に砥粒をレジンボンドによって固着させる工程を備えていることから、当該ワークの加工によって、外周面に砥粒が固着された複数枚のブレードを備えたマルチブレードが得られるという作用を有する。
さらに、第2の発明においては、マルチワイヤソーを用いてワークに環状溝を加工する際に、隣り合う2つの環状溝内に存在するソーワイヤによってその間の柱部の振動が抑制されるという作用を有する。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、レジンボンドに代えて電着によって砥粒をワークの周面に固着させる工程を備えていることを特徴とするものである。
第3の発明においては、砥粒をワークの周面に固着させる方法のみが第2の発明と異なるものであるため、第2の発明の作用が同様に発揮される。
【0014】
第4の発明に係るマルチブレードは、円筒状又は円柱状をなす本体部と、平面視ドーナツ型円板状をなし、本体部の周面に半径方向へ突設するように設けられた複数枚のブレードと、を備え、ブレードは、本体部の中心軸と直交し、かつ、所望のピッチで等間隔に配置されるとともに、レジンボンド又は電着によって外周面に砥粒が固着されていることを特徴とするものである。
第4の発明においては、複数枚のブレードが本体部と一体化していることから、使用中にブレードと本体部の位置関係及びブレード同士の間隔が変化し難いという作用を有する。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明では、中心軸を有する軸体が両端にそれぞれ設けられ円柱状又は円筒状をなすワークを加工することにより、円筒状又は円柱状をなす本体部の周面に対して、平面視ドーナツ型円板状をなす複数枚のブレードが本体部の中心軸と直交し、かつ、半径方向へ突設するように等間隔で設けられた構造のマルチブレードが製造される。このように、第1の発明によれば、特許文献1又は特許文献3に記載された従来技術に係るマルチブレードとは異なり、スペーサを介して円板状の複数枚のブレード同士を連結する工程を必要としないため、従来技術よりもマルチブレードを短時間で容易に製造することができる。このとき、予め周面に砥粒が固着されたワークを用いると、外周面に砥粒が固着された複数枚のブレードが同時に形成される。したがって、第1の発明によれば、各ブレードに対して外周部に砥粒を固着させる作業を個別に行う必要がある従来技術の場合よりも安価に効率良くマルチブレードを製造することができる。
【0016】
また、第1の発明によれば、ワークの周面に環状溝を加工する際に用いられるソーワイヤの間隔と太さの設定をそれぞれ変更することにより、所望の厚さの複数枚のブレードが所望の間隔で配置されたマルチブレードを上記ワークから容易に製造することができる。例えば、第1の発明において太さ100μmのソーワイヤを使用するとともにソーワイヤの間隔を30μmに設定した場合、ワークから製造されるマルチブレードは、厚さ30μmの複数枚のブレードが100μmの間隔で平行に配置された構造となる。このように、第1の発明によれば、薄い複数枚のブレードが所望の間隔で平行に配置された構造のマルチブレードを製造することができる。
【0017】
ブレードを備えた従来のダイシングマシンを用いて上述のワークを加工する場合、マルチブレードのブレードに相当する部分(前述の柱部)が振動し、左右に振れる結果、隣の柱部に接触して折れてしまうことがある。また、隣の柱部に接触しない場合でも柱部が振動していると高精度に加工することが難しい。
これに対し、第1の発明によれば、ワークに環状溝を加工する際に、隣り合う2つの環状溝内に存在するソーワイヤによってその間の柱部の振動が抑制されるため、柱部の加工を高い精度で行うことができるとともに、左右に振れた柱部が他の柱部に接触して折れてしまうという事態を回避することができる。
【0018】
第2の発明によれば、特許文献1又は特許文献3に記載された従来技術に係るマルチブレードを製造する場合とは異なり、スペーサを介して円板状の複数枚のブレード同士を連結する工程が不要であるため、従来技術よりもマルチブレードを短時間で容易に製造することが可能である。また、第2の発明では、ワークの周面に砥粒をレジンボンドによって固着させる工程を備えており、当該ワークの加工によって、外周面に砥粒が固着された複数枚のブレードを備えたマルチブレードが得られることから、第2の発明によれば、各ブレードに対して外周部に砥粒を固着させる作業を個別に行う必要がある従来技術の場合に比べてマルチブレードの製造に要する時間と費用が低減されるという効果を奏する。
さらに、第2の発明によれば、マルチワイヤソーに用いられるソーワイヤの間隔と太さの設定をそれぞれ変更することにより、薄い複数枚のブレードが所望の間隔で配置されたマルチブレードを容易に製造することができる。
加えて、第2の発明によれば、マルチワイヤソーを用いてワークに環状溝を加工する際に、隣り合う2つの環状溝内に存在するソーワイヤによってその間の柱部の振動が抑制されるため、柱部の加工を高い精度で行うことができるとともに、左右に振れた柱部が他の柱部に接触して折れてしまうという事態を回避できるという第1の発明の効果が同様に発揮される。
【0019】
第3の発明は、砥粒をワークの周面に固着させる方法のみが第2の発明と異なるものであるため、第3の発明によれば、第2の発明の効果が同様に発揮される。
【0020】
第4の発明に係るマルチブレードは、使用中にブレードと本体部の位置関係及びブレード同士の間隔が変化し難いため、製品寿命が長いという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)乃至(c)は本発明のマルチブレードの製造方法を示した工程図である。
図2】一般的なマルチワイヤソーの要部を示した模式図である。
図3】(a)は本発明のマルチブレード製造装置を用いて加工されるワークの外観斜視図であり、(b)及び(c)はそれぞれ同図(a)におけるA-A線矢視断面図及びB-B線矢視断面図であり、(d)は同図(c)におけるワークの変形例を示した図である。
図4】(a)は図3(a)に示したワークを保持するワークホルダの外観側面図であり、(b)は同図(a)に示したモータ及びチャック部材の外観斜視図である。
図5】本発明のマルチブレード製造装置の要部を示した模式図である。
図6】(a)は本発明のマルチブレードの外観斜視図であり、(b)は同図(a)におけるC-C線矢視断面図であり、(c)は同図(b)に示したD部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のマルチブレードの製造方法について図1を用いて説明し、本発明のマルチブレード製造装置の構造並びにその作用及び効果について図2乃至図5を用いて説明する。さらに、本発明のマルチブレードについて図6を用いて説明する。
なお、マルチブレード製造装置に関する説明では、ローラの回転軸が水平に設置されている状態、すなわち、マルチワイヤソーが実際に使用される状態を想定して、「上側」や「下側」などの表現を用いている。
【実施例0023】
図1(a)乃至図1(c)は本発明のマルチブレードの製造方法を示した工程図である。
図1(a)に示すように、本発明のマルチブレードの製造方法は、超硬合金(硬質の金属炭化物の粉末を焼結して作られる合金)からなる円柱体の側面に砥粒を固着させる工程(ステップS1)と、この円柱体の側面にマルチワイヤソーを用いて複数の環状溝を形成する工程(ステップS2)を備えていることを特徴とする。なお、上述の超硬合金としては、例えば、WC、TiC、MoC、NbC、TaC、Crなどの金属の炭化物粉末をFe、Co、Ni、Mo、Cu、Pb、Sn又はそれらの合金を用いて焼結結合した合金を用いることができる。
【0024】
円柱体の側面に砥粒を固着させるには、図1(b)及び図1(c)にそれぞれ示すようにレジンボンドを用いて行う方法と電着によって行う方法の2種類がある。まず、レジンボンドを用いて円柱体の側面に砥粒を固着させる方法について図1(b)を用いて説明する。
図1(b)のステップS1-1に示すように、アルカリ洗浄液と水による洗浄を繰り返し行い、表面の汚れを除去する。つぎに、円柱体を乾燥させ(図1(b)に示したステップS1-2の乾燥工程)、さらに、円柱体の側面にセラミックスやダイヤモンド等の粒子からなる砥粒とフェノール樹脂を主成分とするレジンボンドを含む塗料を塗布する(図1(b)に示したステップS1-3の塗布工程)。その後、塗料に含まれる溶媒を熱で気化させることにより、塗料を硬化させる(図1(b)に示したステップS1-4の硬化処理工程)。ただし、レジンボンドが光硬化性樹脂によって形成されている場合には、塗料に含まれる溶媒を熱で気化させる代わりに、紫外線を照射することによって塗料を硬化させる。このようにして、ダイヤモンド砥粒がレジンボンドによって側面に固着された円柱体が形成される。
【0025】
つぎに、電着によって円柱体の側面に砥粒を固着させる方法について図1(c)を用いて説明する。
図1(c)に示したステップS1-1では、図1(b)に示したステップS1-1の場合と同様に、表面の汚れを除去するためにアルカリ洗浄液と水を用いて円柱体を繰り返し洗浄する。そして、側面以外の部分にメッキ層が形成されないように円柱体にマスキングを施す(図1(c)に示したステップS1-2のマスキング処理工程)。その後、円柱体に対するメッキ層の密着性を高めるため、円柱体が浸漬されたメッキ液に陽極を接続するとともに陰極を円柱体に接続して電気メッキを行うことにより、円柱体の側面に薄いニッケルメッキ層を形成する(図1(c)に示したステップS1-3のストライクメッキ処理工程)。
つぎに、導電性を有するダイヤモンド砥粒とニッケルメッキ液の混合液中に円柱体を浸漬して、電着によりダイヤモンド砥粒を円柱体の側面に固着させる(図1(c)に示したステップS1-4のダイヤ仮固定処理工程)。さらに、ダイヤモンド砥粒の円柱体に対する固着力を高めるため、円柱体を上記ニッケルメッキ液中に浸漬するとともに、不溶性の金属若しくは個体のニッケルを陽極に用いて、陰極である円柱体の側面にニッケルを析出させる(図1に示したステップS1-5のダイヤ本固定処理工程)。その後、円柱体を水洗槽で洗浄する(図1に示したステップS1-6の洗浄処理工程)。このようにして、ダイヤモンド砥粒が電着によって側面に固着された円柱体が形成される。
【0026】
図1(b)のステップS1-1乃至S1-4又は図1(c)のステップS1-1乃至S1-6に示した方法によって側面に砥粒が固着された円柱体は、マルチワイヤソーを用いて当該側面に複数の環状溝が形成される(図1(a)のステップS2)。
ここで、マルチワイヤソーの構造について図2を用いて説明する。なお、図2は一般的なマルチワイヤソーの要部を模式的に示した図である。
図2に示すように、マルチワイヤソー50は、遊離砥粒用ワイヤ又は固定砥粒用ワイヤからなるソーワイヤ51と、このソーワイヤ51の繰り出しや巻き取りを行うリールボビン52a、52bと、互いに所定の間隔をあけて平行に設置されるとともにソーワイヤ51が巻回されたローラ53、53と、加工液をワーク56とソーワイヤ51の間に供給するための一対の加工液噴射ノズル54、54と、ワーク56を保持するとともに、ねじ送り機構やモータなどからなる駆動機構(図示せず)によって駆動されて上下方向へ移動するワークホルダ55と、ソーワイヤ51の張力を一定に保つための張力発生手段(図示せず)を備えている。
【0027】
ローラ53、53は、支持手段(図示せず)によって、水平に設置された回転軸(図示せず)を中心として回転可能に支持されており、外周面53aには環状の溝(図示せず)が所定のピッチで形成されている。また、ローラ53、53の間にソーワイヤ51が何回も架け渡されることによって一対のワイヤ群57a、57bがローラ53、53の上下にそれぞれ形成されるように、ソーワイヤ51はローラ53、53に対し、軸方向の一端から他端にかけて交互に往復するように螺旋状に巻き付けられている。そして、ソーワイヤ51がローラ53の外周面53aに巻回される箇所では、隣り合う2本のソーワイヤ51の間の距離(ピッチ)が一定に保たれるように、上述の溝の内部にソーワイヤ51が配置されている。
さらに、ワークホルダ55は、下降した場合に、ワーク56の表面がワイヤ群57aに当接するようにローラ53、53の上方に設置されている。
【0028】
図2に矢印Xで示すように、リールボビン52a、52bをそれぞれ回転させると、リールボビン52aから繰り出されたソーワイヤ51は、ローラ53、53の外周面に形成された環状の溝に沿って走行した後、リールボビン52bによって巻き取られる。このとき、ワイヤ群57a、57bを構成する各ソーワイヤ51は、それぞれ同じ方向に走行している。そのため、ワークホルダ55を下降させて、ローラ53、53の上側に形成されたワイヤ群57aにワーク56を当接させると、ワーク56の表面に所定の幅を有する複数本の溝が一定のピッチで同時に形成される。
【0029】
図3(a)は本発明のマルチブレード製造装置を用いて加工されるワークの外観を示した斜視図であり、図3(b)及び図3(c)はそれぞれ図3(a)におけるA-A線矢視断面図及びB-B線矢視断面図である。また、図3(d)は図3(a)乃至図3(c)に示したワークの変形例に係るワークの断面図であり、図3(c)に対応している。
なお、図3(b)乃至図3(d)では、砥粒を模式的に示すとともに、図が煩雑になるのを避けるため、全ての砥粒に対して符号を付すことはせずに、1つの砥粒に対してのみ符号を付している。また、図3(a)乃至図3(d)ではレジンボンド、メッキ層及び砥粒をワークに対して実際よりも大きい比率で描くとともに、図3(a)では砥粒の図示を省略している。さらに、既に説明したように、図1(b)のステップS1-1乃至ステップS1-4又は図1(c)のステップS1-1乃至ステップS1-6に示した工程によって側面にダイヤモンド砥粒が固着された円柱体を得ることができる。そこで、この円柱体を円柱体11とし、図3(b)乃至図3(d)では、メッキ層の符号に括弧を付けた状態でレジンボンドの符号とともに併記している。
【0030】
図3(a)乃至図3(c)に示すように、ワーク10は、超硬合金からなる円柱体11の側面に、レジンボンド12又はメッキ層13を介して砥粒14が固着されるとともに、軸体11a、11aが両端にそれぞれ設けられた構造となっている。
なお、両端に軸体11a、11aが設けられた円柱体11については、例えば、旋盤による丸棒の段付き加工等によって、容易に形成することができる。この場合、軸体11a、11aは円柱体11と一体として形成されることになるが、軸体11a、11aは、必ずしも円柱体11と同一部材でなくとも良い。
例えば、図3(d)に示すように貫通孔15aが中心に設けられた円筒体15を円柱体11の代わりに用いて、円筒体15よりも長い丸棒を貫通孔15aに嵌設した際に円筒体15の両側に突出した丸棒の両端がそれぞれ軸体11a、11aとなる構造であっても良い。あるいは、円柱体11とは別部材の軸体11aが円柱体11の両端面にそれぞれ接合された構造や円柱体11の両端面に形成された有底孔に当該軸体11aの一部が嵌め込まれた構造とすることもできる。また、軸体11aの断面は円形に限らず、多角形をなしていても良い。
【0031】
図4(a)は図3(a)に示したワークを保持するワークホルダの外観を示した側面図であり、図4(b)は図4(a)に示したモータ及びチャック部材の斜視図である。
図4(a)に示すように、ワークホルダ1は、所定の厚みを有する板状のベース部材2と、互いに対向するように配置されてワーク10の軸体11a、11aをそれぞれ保持する一対のチャック部材3、3と、ベース2の一方の面上に立設されるとともに一対のチャック部材3、3が軸体11aの中心軸11bを中心としてそれぞれ回転可能に設置される一対の保持板4、4と、からなり、一対の保持板4、4の一方には、この保持板4に設置されたチャック部材3を回転駆動するモータ5が固定されている。
すなわち、チャック部材3及び保持板4は、ワーク10を軸体11aの中心軸11bを中心として回転可能に保持する保持手段を構成している。そして、ワークホルダ1は、この保持手段を介してワーク10を回転駆動するモータ5を稼働させることにより、ワーク10が軸体11aの中心軸11bを中心として回転する構造となっている。
なお、軸体11a、11aは、ワーク10が円柱状をなす場合には円柱軸に中心軸11bが一致し、ワーク10が円筒状をなす場合には円筒軸に中心軸11bが一致するように形成されている。
【0032】
図4(b)に示すように、チャック部材3は、いわゆる「スクロールチャック」と呼ばれるものであり、平面視略円形をなし、渦巻き(スクロール)状の溝を有するカムが内蔵されるとともにチャック穴3bが中心に設けられたチャック本体3aと、チャック穴3bの中心軸を中心とする円の周方向へ均等に配置され、チャック本体3aの周面に設けられた締付けネジ3cを回すことによって半径方向へ移動可能にチャック本体3aの片面に設置された3つの爪3dを備えている。すなわち、チャック部材3は、締付けネジ3cを回すと、チャック穴3bに挿通された棒状の対象物が3つの爪3dによって3方向から同時に挟み付けられるようにして固定される構造となっている。
なお、チャック部材3は図4(b)に示した構造に限らず、適宜、変形可能である。例えば、爪3dの数は4つであっても良い。そして、そもそもチャック部材3もスクロールチャックに限定されるものではなく、例えば、爪3dが個別に動作するインデペンデントチャックであっても良い。
【0033】
つぎに、本発明のマルチブレード製造装置及びそれを用いて製造されるマルチブレードについて図5及び図6を用いて説明する。
図5は本発明のマルチブレード製造装置の要部を模式的に示した図である。また、図6(a)は本発明のマルチブレードの外観を示した斜視図であり、図6(b)は図6(a)におけるC-C線矢視断面図であり、図6(c)は図6(b)に示したD部の拡大図である。なお、図6(a)乃至図6(c)では、砥粒の図示を省略するとともに、図が煩雑になるのを避けるため、ブレード及び環状溝について、それらの全てに対して符号を付すことはせずに、それぞれ1つのブレード及び環状溝に対してのみ符号を付している。また、図2乃至図4に示した構成要素については、同一の符号を付すことにより適宜その説明を省略する。
【0034】
図5に示すように、マルチブレード製造装置6は、図2に示したマルチワイヤソー50において、ワークホルダ55の代わりに、図4(a)及び図4(b)を用いて説明したワークホルダ1を備えたことを特徴とする。
すなわち、マルチブレード製造装置6は、水平に設置された各回転軸を中心として回転可能に、互いに所定の間隔をあけて平行に設置された一対のローラ53、53と、固定砥粒用ワイヤからなり、電着若しくはレジンボンドによってダイヤモンド砥粒が表面に固着されており、ローラ53、53に対して軸方向の一端から他端にかけて交互に往復するように螺旋状に巻き付けられたソーワイヤ51と、円柱状又は円筒状をなし、両端にそれぞれ軸体11a、11a(図3(a)参照)を有するワーク10を保持するとともに、ローラ53、53の間にソーワイヤ51が複数回掛け渡されることによりローラ53、53の上に形成されるワイヤ群57aに対し、下方へ移動した場合にワーク10が当接するようにローラ53、53の上方に設置されたワークホルダ1と、ねじ送り機構やモータなどからなり、ワークホルダ1を鉛直上向き又は鉛直下向きに移動させる駆動機構(図示せず)を備えた構造となっている。
なお、図5では、ワークホルダ1が下方へ移動した場合にワーク10がワイヤ群57aに当接するように、ローラ53、53の上方にワークホルダ1が設置された構造となっているが、本発明のマルチブレード製造装置は、このような構造に限定されるものではない。例えば、ワークホルダ1は、上方へ移動した場合に、ローラ53、53の間にソーワイヤ51が複数回掛け渡されることによりローラ53、53の下に形成されるワイヤ群57bに対してワーク10が当接するように、ローラ53、53の下方に設置されていても良い。
【0035】
上記構造のマルチブレード製造装置6において、図5に矢印Xで示すように、リールボビン52a、52bをそれぞれ回転させると、リールボビン52aから繰り出されたソーワイヤ51がローラ53、53の外周面に形成された環状の溝に沿って走行した後、リールボビン52bによって巻き取られる。
このとき、ワイヤ群57a、57bを構成する各ソーワイヤ51は、それぞれ同じ方向に走行している。したがって、モータ5によってワーク10を軸体11aの中心軸11bを中心として回転させながらワークホルダ1を下降させて、ローラ53、53の上側に形成されたワイヤ群57aにワーク10を当接させると、ワーク10の周面に所定の幅を有する複数の環状溝10a(図6(a)参照)が一定のピッチで同時に形成される。
【0036】
上述のとおり、マルチブレード製造装置6を用いてワーク10を加工すると、ワーク10の周面に所定の幅を有する複数の環状溝10a(図6(a)参照)が所定のピッチで同時に形成される。この複数の環状溝10aのうち、隣り合う2つの環状溝の間の加工されていない部分(柱部10b)はブレード8として利用することができる。この場合、周面に複数の環状溝10aが所定のピッチで形成されているワーク10は、図6(a)及び図6(b)に示すように、円柱状をなす本体部7の周面に対して、平面視ドーナツ型円板状をなす複数枚のブレード8が本体部7の中心軸(円柱軸)と直交し、かつ、半径方向へ突設するように等間隔で設けられた構造のマルチブレード9となる。
このようにマルチブレード製造装置6を用いると、本体部7を介して連結される複数枚のブレード8が同時に形成されることから、特許文献1又は特許文献3に記載された従来技術に係るマルチブレードとは異なり、スペーサを介して円板状の複数枚のブレード同士を連結する工程を必要としない。そのため、マルチブレード製造装置6によれば、従来技術よりもマルチブレード9を短時間で容易に製造することができる。そして、このマルチブレード9は、複数枚のブレード8が本体部7と一体化した構造であるため、使用中にブレード8と本体部7の位置関係や隣り合う2つのブレード8の間隔が変化し難い。したがって、マルチブレード9は製品寿命が長いという優れた効果を有している。
このとき、ワーク10の周面に形成された環状溝10aの間隔とその幅は、マルチブレード9におけるブレード8の厚さとその間隔にそれぞれ対応し、環状溝10aの間隔とその幅は、マルチワイヤソー50に用いられるソーワイヤ51の間隔と太さによってそれぞれ規定される。
【0037】
したがって、例えば、太さ100μmのソーワイヤ51を使用するとともに、その間隔を30μmに設定した状態でマルチブレード製造装置6を用いて、ワーク10を加工すると、図6(c)に示すように、厚さ30μmの複数枚のブレード8が100μmの間隔で平行に配置されたマルチブレード9が得られる。
すなわち、マルチブレード製造装置6を用いれば、厚さが30μmという薄い複数枚のブレード8が所望の間隔で平行に配置された構造のマルチブレード9を製造することができる。
【0038】
また、ワーク10は予め周面に砥粒が固着されていることから、上述のブレード8は外周面に砥粒が固着された状態となる。したがって、ワーク10の周面に砥粒をレジンボンド又は電着によって固着させる工程を備えている本発明に係るマルチブレードの製造方法によれば、各ブレードに対して外周部に砥粒を固着させる作業を個別に行う必要がある従来技術の場合に比べてマルチブレード9の製造に要する時間と費用が低減されるという効果を奏する。
【0039】
なお、ブレードを備えた従来のダイシングマシンを用いて上述のワークを加工する場合、マルチブレードのブレードに相当する部分(前述の柱部10b)が振動し、左右に振れる結果、隣の柱部10bに接触して折れてしまうおそれがある。また、隣の柱部10bに接触しない場合でも柱部10bが振動していると高精度に加工することが難しい。
これに対し、ワーク10の加工にマルチブレード製造装置6を用いると、ワーク10に環状溝10aを加工する際に、隣り合う2つの環状溝10aの内部に存在するソーワイヤ51、51によって、その間の柱部10bの振動が抑制される。そのため、マルチブレード製造装置6を用いれば、柱部10bの加工を高い精度で行うことが可能であるとともに、左右に振れた柱部10bが他の柱部10bに接触して折れてしまうという事態を回避することができる。
なお、上述の作用及び効果は、本発明に係るマルチブレードの製造方法においても同様に発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のマルチブレードは、シリコンウェハなどのワークを切断する場合に用いられ、本発明のマルチブレードの製造方法及びマルチブレード製造装置は、そのマルチブレードを製造する場合に用いられる。
【符号の説明】
【0041】
1…ワークホルダ 2…ベース部材 3…チャック部材 3a…チャック本体 3b…チャック穴 3c…締付けネジ 3d…爪 4…保持板 5…モータ 6…マルチブレード製造装置 7…本体部 8…ブレード 9…マルチブレード 10…ワーク 10a…環状溝 10b…柱部 11…円柱体 11a…軸体 11b…中心軸 12…レジンボンド 13…メッキ層 14…砥粒 15…円筒体 15a…貫通孔 50…マルチワイヤソー 51…ソーワイヤ 52a、52b…リールボビン 53…ローラ 53a…外周面 54…加工液噴射ノズル 55…ワークホルダ 56…ワーク 57a、57b…ワイヤ群
図1
図2
図3
図4
図5
図6