(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011073
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】差動排気装置および集束エネルギービーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/18 20060101AFI20220107BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20220107BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20220107BHJP
H01J 37/16 20060101ALI20220107BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20220107BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20220107BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H01J37/18
H01J37/28 B
H01J37/317 D
H01J37/16
H01J37/305 B
G03F7/20 504
H01L21/30 541G
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111959
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏成
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】竹下 琢郎
【テーマコード(参考)】
5C033
5C034
5F056
【Fターム(参考)】
5C033KK09
5C033UU03
5C034BB06
5C034BB10
5C034DD09
5F056EA12
(57)【要約】
【課題】反りやうねりのある被処理基板であっても確実に差動排気機能を保持できる差動排気装置、および良好な処理が行える集束エネルギービーム装置を提供すること。
【解決手段】ヘッド部または被処理基板を変位させて、被処理面と対向面との平行度および距離の調整が可能な変位駆動部と、ヘッド部の対向面の周縁に沿って少なくとも3箇所以上にそれぞれ配置されたギャップ測定部と、ギャップ測定部が検出した情報に基づき、対向面と被処理面とが所定の距離を隔てて平行となるように変位駆動部を制御するギャップ制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板の被処理面に対して、該被処理面の任意領域に対向するように相対移動可能なヘッド部を備え、
前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、前記ヘッド部の中心を囲むように複数の環状溝が形成され、
前記ヘッド部における、前記複数の環状溝のうち最も内側の前記環状溝の内側領域に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、
前記複数の環状溝のうち少なくとも1つ以上の前記環状溝に真空ポンプが連結され、
前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記環状溝からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空度にする、差動排気装置であって、
前記ヘッド部または前記被処理基板を変位させて、前記被処理面と前記対向面との平行度および距離の調整が可能な変位駆動部と、
前記ヘッド部の前記対向面の周縁に沿って少なくとも3箇所以上にそれぞれ配置された、前記対向面と前記被処理面と間の距離を検出可能なギャップ測定部と、
前記ギャップ測定部が検出した、前記対向面と前記被処理面との距離情報に基づき、前記対向面と前記被処理面とが所定の距離を隔てて平行となるように前記変位駆動部を制御するギャップ制御部と、
を備える差動排気装置。
【請求項2】
前記ギャップ測定部は、前記被処理面との間の空間の圧力を検出し、
前記ギャップ制御部は前記圧力の情報に基づいて前記変位駆動部を制御する、
請求項1に記載の差動排気装置。
【請求項3】
前記被処理基板はX-Y方向に縦横の辺を有する長方形であり、
前記ヘッド部は、前記被処理基板のX-Y方向に沿って相対移動可能であり、
前記ギャップ測定部は、前記ヘッド部における最も外側に形成された前記環状溝の外側の4箇所に備えられ、
当該4箇所の前記ギャップ測定部の群は、前記対向面における前記開口部の中央を中心としてX方向の両側方に配置された対と、前記開口部の中央を中心としてY方向の両側方に配置された対と、の2対で構成される、
請求項1または請求項2に記載の差動排気装置。
【請求項4】
前記ギャップ測定部は、レーザ変位計で構成され、
該レーザ変位計は、前記対向面よりも前記被処理面から離れる方向にオフセット配置され、前記被処理面との距離が前記レーザ変位計の高精度測定領域となるように設定されている、
請求項1または請求項3に記載の差動排気装置。
【請求項5】
前記被処理基板に形成されたアライメントマークを検出する光学顕微鏡を備える、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の差動排気装置。
【請求項6】
前記ヘッド部の近傍にオフセット距離を隔てて、前記被処理基板の被処理領域を観察するための観察用顕微鏡を備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の差動排気装置。
【請求項7】
前記複数の環状溝のうち最も外側の前記環状溝は、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該環状溝から被処理基板側へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の差動排気装置。
【請求項8】
前記ヘッド部の前記対向面の外側に、当該対向面の外周縁に沿って配置される浮上パッドが、前記ヘッド部と一体的に設けられ、
前記浮上パッドは、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該浮上パッドは前記被処理面へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成して前記ヘッド部を前記被処理面から離れる方向へ付勢する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の差動排気装置。
【請求項9】
被処理基板の被処理面に対して、該被処理面の任意領域に対向するように相対移動可能なヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、前記ヘッド部の中心を囲むように複数の環状溝が形成され、前記ヘッド部における、前記複数の環状溝のうち最も内側の前記環状溝の内側領域に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、前記複数の環状溝のうち少なくとも1つ以上の前記環状溝に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記環状溝からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空度にする、差動排気装置と、
前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束エネルギービーム系を内蔵して集束エネルギービームが前記開口部内を通るように出射する集束エネルギービームカラムと、
を備える集束エネルギービーム装置であって、
前記ヘッド部または前記被処理基板を変位させて、前記被処理面と前記対向面との平行度および距離の調整が可能な変位駆動部と、
前記ヘッド部の前記対向面の周縁に沿って少なくとも3箇所以上にそれぞれ配置された、前記対向面と前記被処理面と間の距離を検出可能なギャップ測定部と、
前記ギャップ測定部が検出した、前記対向面と前記被処理面との距離情報に基づき、前記対向面と前記被処理面とが所定の距離を隔てて平行となるように前記変位駆動部を制御するギャップ制御部と、
を備えた集束エネルギービーム装置。
【請求項10】
前記ギャップ測定部は、前記被処理面との間の空間の圧力を検出し、
前記ギャップ制御部は前記圧力の情報に基づいて前記変位駆動部を制御する、
請求項9に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項11】
前記被処理基板はX-Y方向に縦横の辺を有する長方形であり、
前記ヘッド部は、前記被処理基板のX-Y方向に沿って移動可能であり、
前記ギャップ測定部は、前記ヘッド部における最も外側に形成された前記環状溝の外側の4箇所に備えられ、
当該4箇所の前記ギャップ測定部の群は、前記対向面における前記開口部の中央を中心としてX方向の両側方に配置された対と、前記開口部の中央を中心としてY方向の両側方に配置された対と、の2対で構成される、
請求項9または請求項10に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項12】
前記ギャップ測定部は、レーザ変位計で構成され、
該レーザ変位計は、前記対向面よりも前記被処理面から離れる方向にオフセット配置され、前記被処理面との距離が前記レーザ変位計の高精度測定領域となるように設定されている、
請求項9または請求項11項に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項13】
前記被処理基板に形成されたアライメントマークを検討する光学顕微鏡を備える、
請求項9から請求項12のいずれか一項に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項14】
前記ヘッド部の近傍にオフセット距離を隔てて、前記被処理基板の被処理領域を観察するための観察用顕微鏡を備える、
請求項9から請求項13のいずれか一項に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項15】
前記複数の環状溝のうち最も外側の前記環状溝は、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該環状溝から被処理基板側へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成する、
請求項9から請求項14のいずれか一項に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項16】
前記ヘッド部の前記対向面の外側に、当該対向面の外周縁に沿って配置される浮上パッドが、前記ヘッド部と一体的に設けられ、
前記浮上パッドは、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該浮上パッドは前記被処理面へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成して前記ヘッド部を前記被処理面から離れる方向へ付勢する、
請求項9から請求項14のいずれか一項に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項17】
前記鏡筒の先端部内に前記集束エネルギービームが通過するビーム通過口が形成されたマイクロチャネルプレートを配置し、前記マイクロチャネルプレートにおける前記ビーム通過口の周辺を、前記被処理基板から発生した2次荷電粒子を捕捉可能な検出部とした、
請求項9から請求項16のいずれか一項に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項18】
先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束エネルギービームカラムを複数備え、前記被処理基板の前記被処理面を複数に分割した領域に、それぞれの前記集束エネルギービームカラムが対向するように配置した、
請求項9から請求項17のいずれか一項に記載の集束エネルギービーム装置。
【請求項19】
前記被処理基板の位置を固定し、先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束エネルギービームカラムを、前記被処理基板に対してX-Y方向に移動可能とした、
請求項9から請求項18のいずれか一項に記載の集束エネルギービーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動排気装置および集束エネルギービーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
集束エネルギービーム装置は、集束イオンビーム装置、電子線描画装置、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)などに適用されている。集束イオンビーム装置は、集束したイオンビームを試料表面で走査することにより、試料から放出される2次粒子(2次電子、2次イオンなど)を検出して顕微鏡像を観察したり、試料表面を加工したりすることのできる装置である。具体的には、集束イオンビーム装置には、試料観察、エッチング(スパッタリング)、CVD(化学気相成長)を行う機能などがある。
【0003】
集束イオンビーム装置は、
図15に示すようなリペア装置100に適用される。このリペア装置100は、集束イオンビーム光学系101と、CVD(Chemical Vapor Deposition)用ガスを供給する供給ノズル102と、2次粒子検出部103と、被修正基板104を載せる基板支持盤105と、が真空チャンバ106内に配置されている。リペア装置100では、イオンビームを基板表面に照射して被修正基板から放出された2次電子または2次イオンを2次粒子検出部103で検出し、2次元分布を求めることにより、基板表面の顕微鏡像が作成できる。
【0004】
このリペア装置100では、上記の顕微鏡像からの情報に基づき、被修正基板表面の必要箇所にイオンビームを照射することにより、加工や観察ができる。また、同時に供給ノズル102からCVD用ガスを供給することにより、局所的な成膜を行って加工や修正を行うことができる。真空チャンバ106内が低真空の場合には、残留ガス分子とイオンが衝突してイオンが直進できないため、真空チャンバ106内を高真空とする必要がある。
【0005】
近年、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイなどの薄型ディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)において、パネルサイズの大型化が進んでいる。しがたって、上述したようなリペア装置では、大型の真空チャンバが必要となってしまうという問題がある。
【0006】
上記の問題を解決する従来技術として、被修正基板の表面に局所的に真空空間を形成する局所排気装置(以下、差動排気装置ともいう)を備えた、真空チャンバを必要としない加工装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この加工装置は、集束イオンビーム鏡筒の先端部(下端部)に、被修正基板に対して集束イオンビーム鏡筒を浮上させる機能を備えた局所排気装置が一体に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
FPDの製造では、複数のパネルを含むサイズのマザーガラスが用いられている。マザーガラス1枚当たりのパネル配置数(面付数)を増やすことが生産性向上のための手法として一般化している。マザーガラスの大型化に伴って、フォトマスクも必然的に大型化している。因みに、近年ではマザーガラスの一辺が約3m前後の長さに達している。したがって、フォトマスクにおいては、この大型化に伴ってうねりや反りが発生する。
【0009】
図16は、集束イオンビーム鏡筒202の先端部に局所排気装置203を備えたリペア装置200を用いて、大型のフォトマスク201を修理する工程を示している。
図16に示すように、フォトマスク201のうねりや反りに起因して、局所排気装置203の下端面がフォトマスク201の表面に対して噴射エアーの付勢力により平行な対向状態を保つことが困難になるという課題がある。このため、局所排気装置203の下端面外周縁において、フォトマスク201の表面に対して、近い部分のギャップG1と遠い部分のギャップG2との差が大きくなり、局所排気(差動排気)により内部の真空状態が保てなくなるという問題がある。したがって、フォトマスク201表面の観察や、フォトマスク201の表面への修正が良好に行えないという課題がある。また、従来のリペア装置200では、集束イオンビーム鏡筒202の光軸が通る局所排気装置203の下端面中央とフォトマスク201とのギャップG3が変動し易くなる。このギャップG3が変動すると、成膜条件に影響が及び成膜の不均一化が生じる。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、反りやうねりのある被処理基板(被観察基板、被修正基板など)であっても確実に差動排気機能を保持できる差動排気装置および良好な処理が行える集束エネルギービーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の態様は、被処理基板の被処理面に対して、該被処理面の任意領域に対向するように相対移動可能なヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、前記ヘッド部の中心を囲むように複数の環状溝が形成され、前記ヘッド部における、複数の前記環状溝のうち最も内側の前記環状溝の内側領域に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、前記複数の環状溝のうち少なくとも1つ以上の前記環状溝に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記真空ポンプに連絡された前記環状溝からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空度にする、差動排気装置であって、前記ヘッド部または前記被処理基板を変位させて、前記被処理面と前記対向面との平行度および距離の調整が可能な変位駆動部と、前記ヘッド部の前記対向面の周縁に沿って少なくとも3箇所以上にそれぞれ配置された、前記対向面と前記被処理面と間の距離を検出可能なギャップ測定部と、前記ギャップ測定部が検出した、前記対向面と前記被処理面との距離情報に基づき、前記対向面と前記被処理面とが所定の距離を隔てて平行となるように前記変位駆動部を制御するギャップ制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記態様としては、前記ギャップ測定部は、前記被処理面との間の空間の圧力を検出し、前記ギャップ制御部は前記圧力の情報に基づいて前記変位駆動部を制御することが好ましい。
【0013】
上記態様としては、前記被処理基板はX-Y方向に縦横の辺を有する長方形であり、前記ヘッド部は、前記被処理基板のX-Y方向に沿って相対移動可能であり、前記ギャップ測定部は、前記ヘッド部における最も外側に形成された前記環状溝の外側の4箇所に備えられ、当該4箇所の前記ギャップ測定部の群は、前記対向面における前記開口部の中央を中心としてX方向の両側方に配置された対と、前記開口部の中央を中心としてY方向の両側方に配置された対と、の2対で構成されることが好ましい。
【0014】
上記態様としては、前記ギャップ測定部は、レーザ変位計で構成され、該レーザ変位計は、前記対向面よりも前記被処理面から離れる方向にオフセット配置され、前記被処理面との距離が前記レーザ変位計の高精度測定領域となるように設定されていることが好ましい。
【0015】
上記態様としては、前記被処理基板に形成されたアライメントマークを検出する光学顕微鏡を備えることが好ましい。
【0016】
上記態様としては、前記ヘッド部の近傍にオフセット距離を隔てて、前記被処理基板の被処理領域を観察するための観察用顕微鏡を備えることが好ましい。
【0017】
上記態様としては、前記複数の環状溝のうち最も外側の前記環状溝は、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該環状溝から被処理基板側へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成することが好ましい。
【0018】
上記態様としては、前記ヘッド部の前記対向面の外側に、当該対向面の外周縁に沿って配置される浮上パッドが、前記ヘッド部と一体的に設けられ、前記浮上パッドは、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該浮上パッドは前記被処理面へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成して前記ヘッド部を前記被処理面から離れる方向へ付勢することが好ましい。
【0019】
本発明の他の態様は、上記の差動排気装置と、前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束エネルギービーム系を内蔵して集束エネルギービームが前記開口部内を通るように出射する集束エネルギービームカラムと、を備える集束エネルギービーム装置であって、前記ヘッド部または前記被処理基板を変位させて、前記被処理面と前記対向面との平行度および距離の調整が可能な変位駆動部と、前記ヘッド部の前記対向面の周縁に沿って少なくとも3箇所以上にそれぞれ配置された、前記対向面と前記被処理面と間の距離を検出可能なギャップ測定部と、前記ギャップ測定部が検出した、前記対向面と前記被処理面との距離情報に基づき、前記対向面と前記被処理面とが所定の距離を隔てて平行となるように前記変位駆動部を制御するギャップ制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
上記態様としては、前記ギャップ測定部は、前記被処理面との間の空間の圧力を検出し、前記ギャップ制御部は前記圧力の情報に基づいて前記変位駆動部を制御することが好ましい。
【0021】
上記態様としては、前記被処理基板はX-Y方向に縦横の辺を有する長方形であり、前記ヘッド部は、前記被処理基板のX-Y方向に沿って移動可能であり、前記ギャップ測定部は、前記ヘッド部における最も外側に形成された前記環状溝の外側の4箇所に備えられ、当該4箇所の前記ギャップ測定部の群は、前記対向面における前記開口部の中央を中心としてX方向の両側方に配置された対と、前記開口部の中央を中心としてY方向の両側方に配置された対と、の2対で構成されることが好ましい。
【0022】
上記態様としては、前記ギャップ測定部は、レーザ変位計で構成され、
該レーザ変位計は、前記対向面よりも前記被処理面から離れる方向にオフセット配置され、前記被処理面との距離が前記レーザ変位計の高精度測定領域となるように設定されていることが好ましい。
【0023】
上記態様としては、前記被処理基板に形成されたアライメントマークを検討する光学顕微鏡を備えることが好ましい。
【0024】
上記態様としては、前記ヘッド部の近傍にオフセット距離を隔てて、前記被処理基板の被処理領域を観察するための観察用顕微鏡を備えることが好ましい。
【0025】
上記態様としては、前記複数の環状溝のうち最も外側の前記環状溝は、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該環状溝から被処理基板側へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成することが好ましい。
【0026】
上記態様としては、前記ヘッド部の前記対向面の外側に、当該対向面の外周縁に沿って配置される浮上パッドが、前記ヘッド部と一体的に設けられ、前記浮上パッドは、不活性ガスを供給する吐出ポンプに接続され、当該浮上パッドは前記被処理面へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成して前記ヘッド部を前記被処理面から離れる方向へ付勢することが好ましい。
【0027】
上記態様としては、前記鏡筒の先端部内に前記集束エネルギービームが通過するビーム通過口が形成されたマイクロチャネルプレートを配置し、前記マイクロチャネルプレートにおける前記ビーム通過口の周辺を、前記被処理基板から発生した2次荷電粒子を捕捉可能な検出部としたことが好ましい。
【0028】
上記態様としては、先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束エネルギービームカラムを複数備え、前記被処理基板の被処理面を複数に分割させた領域に、それぞれの前記集束エネルギービームカラムが対向するように配置することが好ましい。
【0029】
上記態様としては、前記被処理基板の位置を固定し、先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束エネルギービームカラムを、前記被処理基板に対してX-Y方向に移動可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、反りやうねりのある被処理基板であっても確実に差動排気機能を保持できる差動排気装置、および良好な処理が行える集束エネルギービーム装置を実現できる。このため、本発明によれば、ヘッド部における処理用空間の高真空を確実に維持できるため、この処理用空間での処理作業の質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の断面説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置に備えられた差動排気装置の下面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置におけるヘッド部と基板支持台との関係を示す平面説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の制御および動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施の形態の変形例1に係る集束イオンビーム装置の断面説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施の形態の変形例2に係る集束イオンビーム装置に備えられた差動排気装置の下面図である。
【
図7】
図7は、
図8のVII-VII断面図であり、本発明の第1の実施の形態の変形例3に係る集束イオンビーム装置の要部断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施の形態の変形例3に係る集束イオンビーム装置に備えられた差動排気装置の下面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の要部断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1の実施の形態の変形例5に係る集束イオンビーム装置に備えられた差動排気装置を示す下面説明図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を模式的に示す説明図である。
【
図12】
図12は、本発明の第2の実施の形態の変形例1に係る集束イオンビーム装置を模式的に示す説明図である。
【
図13】
図13は、本発明の第3の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す要部断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第4実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す構成説明図である。
【
図15】
図15は、本発明の第5の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す構成説明図である。
【
図16】
図16は、本発明の第6実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す構成説明図である。
【
図17】
図17は、本発明の第7実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す構成説明図である。
【
図18】
図18は、集束イオンビーム光学系を備える従来のリペア装置を示す説明図である。
【
図19】
図19は、従来のリペア装置を用いて大型のフォトマスクを修理する工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る集束エネルギービーム装置は、出射するエネルギービームの種類や被処理基板への処理用途に応じて、リペア装置としての集束イオンビーム装置、被処理基板への直接描画機能を有する電子線描画装置、被処理基板の表面状態の観察を可能にする走査電子顕微鏡などに適用できる。また、本発明に係る差動排気装置は、集束エネルギービーム装置に備えられている。以下に、本発明の実施の形態に係る集束エネルギービーム装置としては、イオンビームを被処理基板へ出射する集束イオンビーム装置に適用して説明する。
【0033】
以下、本発明の実施の形態に係る差動排気装置および集束エネルギービーム装置の詳細を図面に基づいて説明する。なお、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率や数、形状などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率や形状が異なる部分が含まれている。
【0034】
[第1の実施の形態]
(集束イオンビーム装置の概略構成)
図1は、第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の概略構成を示している。集束イオンビーム装置1は、差動排気装置2と、集束エネルギービームカラムとしての集束イオンビームカラム(以下、FIBカラムともいう)3と、基板支持台4と、ギャップ測定部としての4つのレーザ変位計5A,5B,5C,5D(
図2参照)と、変位駆動部6と、ギャップ制御部7と、を備える。
【0035】
基板支持台4は、被処理基板8を載せた状態で支持するようになっている。本実施の形態では、被処理基板8として大型のフォトマスクを適用する。基板支持台4は、X-Y方向に移動可能なステージである。変位駆動部6は、基板支持台4の傾きを自在に変化させる機能を備える。具体的には、変位駆動部6としては、例えば、基板支持台4の複数個所(例えば、4つのコーナ部)の下に昇降駆動手段を設けたものであってもよい。これらの昇降駆動手段により基板支持台4の各所の高さを調整することにより、被処理基板8を所望の傾斜状態に変化させることができる。
【0036】
(差動排気装置の構成)
以下に、
図1および
図2を用いて差動排気装置2の構成を説明する。なお、
図2は、差動排気装置2の下面図である。差動排気装置2は、ヘッド部9と、図示しない真空ポンプと、吐出ポンプと、を備える。
【0037】
ヘッド部9は、被処理基板8の被処理面8Aの面積に比較してごく小さな面積の円盤形状の金属プレートによって構成されている。ヘッド部9は、基板支持台4がX-Y方向に移動することにより、被処理面8Aの任意領域に対向し得るようになっている。
【0038】
図2に示すように、ヘッド部9の対向面(下面)9Aには、同心状(同心円上)に配置された4つの環状溝10A,10B,10C,10Dが形成されている。ヘッド部9における、これら複数の環状溝10A,10B,10C,10Dのうち最も内側の環状溝10Aの内側領域に、被処理基板8の被処理面8Aに対する処理(イオンビーム照射による成膜処理)を可能にする処理用空間Spを形成する開口部11が設けられている。この開口部11には、後述するFIBカラム3が連通するように連結される。なお、この説明では、ヘッド部9の中心を取り囲むように形成された溝を「環状溝」と称するが、円形のループ状の溝、方形のループ状の溝、またはループの一部が欠損した例えばC文字形状の溝、間欠的にループ状に並ぶ複数の溝なども含むものと定義する。
【0039】
これら複数の環状溝10A,10B,10C,10Dのうち少なくとも1つ以上(本実施の形態では3つ)の環状溝10B,10C,10Dは、連結パイプ12を介して図示しない真空ポンプに接続されている。最も内側の環状溝10Aは、連結パイプ13を介してデポガス(堆積用ガス、CVD用ガス)を供給する図示しないデポガス供給源に接続されている。ヘッド部9は、被処理面8Aに対向面9Aを対向させた状態で、環状溝10B,10C,10Dからの空気吸引作用により、処理用空間Spを高真空度にする機能を備える。また、ヘッド部9は、このように高真空度に調整された処理用空間Spへ、最も内側の環状溝10Aから堆積用ガスを確実に供給して、開口部11に対向する被処理面8Aの領域へCVD成膜を行うことを可能にしている。
【0040】
因みに、本実施の形態では、対向面9Aと被処理面8Aとが平行を保った状態において、ヘッド部9の対向面9Aと被処理面8Aとの実質ギャップGgを30μm程度に設定することにより、処理用空間Spの高真空な状態が破れずに内部の真空状態が維持可能となる。仮に、ヘッド部9が被処理面8Aに対して傾いて、ヘッド部9の外周部の一部が被処理面8Aから離れてギャップが例えば40μmを越えてしまう場合、その場所では差動排気機能による局所的な真空状態を維持できなくなってしまう。
【0041】
図2に示すように、ヘッド部9は、最も外側の環状溝10Dの外側領域に、対向面9Aの周縁に沿って4箇所に光透過用開口部14A,14B,14C,14Dが形成されている。これら光透過用開口部14A,14B,14C,14Dは、対向面9Aと反対側の開口端部側から透明な光透過板15A,15B,15C,15Dが埋設されている。
【0042】
(レーザ変位計)
レーザ変位計5A,5B,5C,5Dは、例えばともに図示しない投光素子とリニアイメージセンサ(Linear Image Sensor)との組み合わせで、測距(変位量の検出)を行う。一般に、レーザ変位計において、変位量が30μm以下の場合に測定精度が低下することが知られている。
【0043】
本実施の形態では、それぞれレーザ変位計5A,5B,5C,5Dは、それぞれの光透過板15A,15B,15C,15Dの上に配置されている。これらレーザ変位計5A,5B,5C,5Dは、光透過用開口部14A,14B,14C,14Dを通して、光透過板15A,15B,15C,15Dの下面と被処理面8Aと間の距離(以下、管理ギャップという)Gmを検出するように設定されている。すなわち、
図1に示すように、管理ギャップGmを検出することにより、対向面9Aから光透過板15A(15B,15C,15D)までのオフセットギャップGosを管理ギャップGmから減じることにより、実質ギャップGgを得ることができる。管理ギャップGmとしては、30μmよりも長いギャップでよいため、レーザ変位計の測定精度の良い領域で検出を行うことができる。
【0044】
(集束イオンビームカラム:FIBカラム)
FIBカラム3は、ヘッド部9における対向面9Aと反対側の面側(上面側)に配置され、ヘッド部9の開口部11に先端部が埋没するように嵌め込まれた状態で連結されている。
【0045】
FIBカラム3は、処理用空間Spに連通する鏡筒16と、鏡筒16内に内蔵された集束イオンビーム光学系17と、を備える。FIBカラム3の先端部からは、開口部11内を通るようにイオンビームIbを被処理基板8の被処理面8Aに向けて出射するようになっている。なお、本実施の形態では、鏡筒16の先端部が先端へ向けて細くなる形状に形成されている。
【0046】
集束イオンビーム光学系17は、イオンビームIbを発生させるイオン源36と、発生したイオンビームIbを収束させるコンデンサレンズ37と、イオンビームIbを走査する偏向器38と、イオンビームIbを収束させる対物静電レンズ39と、を備える。イオン源36としては、主にガリウム(Ga)イオン源を用いるが、アルゴン(Ar)など希ガスを誘導結合プラズマ(ICP)化したり、ガス電界イオン化したり、希ガスイオン源を用いたりすることも可能である。イオンビームIbのレンズとしては、電界レンズを用いることが好ましい。
【0047】
CVDのデポジション用ガスとしては、W(CO)6を用いることができる。基板近傍のW(CO)6に集束イオンビームが照射されると、WとCOに分解され、Wが基板上にデポジションされる。
【0048】
FIBカラム3の上端部には、FIBカラム3および差動排気装置2を昇降させる昇降手段18が設けられている。昇降手段18の上部は、支持部19により支持フレーム20に支持されている。この昇降手段18は、FIBカラム3および差動排気装置2を昇降して被処理基板8から集束イオンビーム装置1を引き離す機能を有する。なお、本実施の形態では、FIBカラム3の上部に昇降手段18を設けたが、支持フレーム20側に昇降機能を持たせてもよい。
【0049】
(ギャップ制御部)
ギャップ制御部7は、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dが検出した管理ギャップGmの検出値(距離情報)に基づき、それぞれのレーザ変位計5A,5B,5C,5Dが対応するヘッド部9の各箇所における対向面9Aと被処理面8Aとの実質ギャップGgが所定の均等な距離を隔てて、対向面9Aと被処理面8Aとが平行となるように、変位駆動部6に駆動制御信号を出力するようになっている。
【0050】
(第1の実施の形態の集束イオンビーム装置の制御および動作)
以下、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1において、ヘッド部9の対向面9Aに対して被処理基板8の被処理面8Aを所定のギャップを保って平行に対向配置させる動作について説明する。
図3に示すように、本実施の形態では、変位駆動部6は基板支持台4の下に4つの変位駆動部(E,F,G,Hで示す)設けられている。4つの変位駆動部E,F,G,Hは、黒丸で示すように正方形状に配置する。この正方形の対角線距離を2Lとする。基板支持台4の長方形の辺の向きをX方向、Y方向とする。そして、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dを
図2に示すような配置にする。すなわち、円形のヘッド9の半径rの同心円の上に、4点のレーザ変位計5A,5B,5C,5Dが配置されている。ここで、ヘッド部9の中心の座標を(hx、hy)とし、ヘッド部9の半径をrとする。
【0051】
次に、
図4に示すフローチャートを用いて、集束イオンビーム装置1の制御および動作について説明する。なお、以下に説明する制御は、被処理基板8に対して、観察、エッチング(スパッタリング)、CVD(化学気相成長)を行う場合に適用できる。
【0052】
まず、集束イオンビーム装置1においては、基板支持台4の上に、被処理基板8をセットし、予定された被処理箇所がヘッド部9の下方に位置するように移動させる。この状態でギャップ制御部7は、昇降手段18を駆動してヘッド部9の対向面9Aを被処理面8Aの上方の所定の高さ位置まで移動させる。
【0053】
次に、以下のような制御を行う。
(1)ヘッド部9の対向面9Aと、被処理面8Aと、のギャップの目標値hを設定する(ステップS1)。
【0054】
(2)レーザ変位計5A,5B,5C,5Dで、被処理面8Aとのギャップを測定する(ステップS2)。それぞれの変位の測定値をhA,hB,hC,hDとする。
【0055】
(3)ヘッド部9の被処理面8Aに対するX軸方向の傾きmxを以下の式で示すように計算する(ステップS3)。
mx=(hD-hB)/2r
【0056】
(4)X方向に並ぶ、変位駆動部Fと変位駆動部Hの高さを、上記傾きmxを加味して算出した、それぞれ下記の値で変位させる(ステップS4)。
ΔhF=-(L+hx)mx
ΔhH=(L-hx)mx
【0057】
(5)ヘッド部9の被処理面8Aに対するy軸方向の傾きmyを計算する(ステップS5)。
my=(hA-hC)/2r
【0058】
(6)Y方向に並ぶ、変位駆動部Aと変位駆動部Cの高さを、それぞれ下記の値で変位させる(ステップS6)。
ΔhA=(L-hy)my
ΔhC=-(L+hy)my
【0059】
(7)再度、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dで、被処理面8Aとのギャップを測定する(ステップS7)。それぞれのギャップの測定値をhA,hB,hC,hDとする。
【0060】
(8)4つのレーザ変位計5A,5B,5C,5Dでの4箇所におけるギャップの平均値havを算出し、hA,hB,hC,hDと、havと、の差をそれぞれ算出する(ステップS8)。
【0061】
上記差のうち、どれか一つの箇所(測定位置)での差が大きい場合は、すなわち平均値havから大きくはずれる箇所が一つ箇所でもある場合は、上記ステップS3に戻る(ステップS9)。
【0062】
(9)ステップS9において、いずれの箇所における平均値havからのはずれも小さい場合は、変位駆動部E,F,G,Hを、h-havだけ変位させて制御が終了する(ステップS10)。
【0063】
上記の制御は、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dからの検出情報に基づいてギャップ制御部7が変位駆動部E,F,G,Hを制御している。なお、集束イオンビーム装置1では、このような制御を、被処理基板8を移動させて、被処理箇所をヘッド部9の対向面9Aに対向させたときに行う。
【0064】
(第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の効果)
本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1によれば、フォトマスクなどの被処理基板8が大型化して、被処理基板8にうねりや反りが発生した場合でも、ヘッド部9が被処理面8Aと平行を保ちながら実質ギャップGgを所望のギャップに保持することが可能となる。
【0065】
また、被処理基板8が移動しても、ヘッド部9の対向面9Aを被処理面8Aに対して平行を保った状態で追従することができる。このため、ヘッド部9の外周縁で真空が破れることを防止でき、ヘッド部9と被処理面8Aとの間の真空状態を安定して保つことができる。したがって、処理用空間SpでのCVD成膜などのリペア処理を確実に行うことができる。
【0066】
また、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1では、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dにおいて、レーザ変位計5Aとレーザ変位計5Cと結ぶ線と、レーザ変位計5Bとレーザ変位計5Dとを結ぶ線が直交するように配置されている。すなわち、4箇所のレーザ変位計5A,5B,5C,5Dの群は、開口部11の中央を中心としてX方向の両側方に配置された対と、開口部11の中央を中心としてY方向の両側方に配置された対と、の2対で構成されている。
【0067】
このため、被処理基板8がX-Y方向に移動した際に、ヘッド部9が被処理面8Aの縁に位置し、被処理面8Aから1つのレーザ変位計が逸脱した状態であっても3つのレーザ変位計が被処理面8Aに対向している限り、その3つのレーザ変位計の検出量に基づいて変位駆動制御が可能となる。したがって、この集束イオンビーム装置1では、被処理基板8の辺縁においても処理を行うことが可能となる。すなわち、この集束イオンビーム装置1では、被処理基板8の広い範囲を有効に処理できるという効果がある。
【0068】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1では、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dが、対向面9Aよりも被処理面8Aから離れる方向に配置され、被処理面8Aとの距離がレーザ変位計5A,5B,5C,5Dの高精度測定領域となるようにオフセットされている。このため、これらレーザ変位計5A,5B,5C,5Dが設けられた4箇所における被処理面8Aと対向面9Aとの実質ギャップGgを精度良く求めることができる。
【0069】
本実施の形態では、鏡筒16の先端部を細くしたことにより、
図1に示すように、差動排気装置2のヘッド部9の対向面9Aの最も内側の環状溝10AをよりイオンビームIbに近づけることができる。このため、デポガスを処理用空間Spに確実に導くことができ、安定したCVD成膜を確実に作製することが可能になる。また、鏡筒16の先端部を細くしたことにより、複数の環状溝10A,10B,10C,10Dを小さな開口部11の近傍に近づけることが可能となり、差動排気装置2のコンパクト化を図ることができる。
【0070】
(第1の実施の形態の変形例1)
図5に示す集束イオンビーム装置1Aは、上記した第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の変形例1である。この集束イオンビーム装置1Aは、FIBカラム3の上に4つの変位駆動部6Aを備える。4つの変位駆動部6Aは、FIBカラム3の上部に設けたカラム吊り下げ装置の中に組み込まれている。変位駆動部6Aの上部には、第1の実施の形態と同様の昇降手段18が設けられている。4つの変位駆動部6Aは、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dの直上に配置されている。
【0071】
変位駆動部6Aは、FIBカラム3および差動排気装置2の傾斜状態を変動させる手段である。この変形例1では、上記第1の実施の形態のように基板支持台4側に変位駆動部6を備えず、差動排気装置2側の対向面9Aと被処理面8Aとの平行をFIBカラム3側に設けた4つの変位駆動部6Aで調整する構成である。
【0072】
(第1の実施の形態の変形例1の制御および動作)
(1)ヘッド部9の対向面9Aと、被処理面8Aと、のギャップの目標値hを設定する。
【0073】
(2)レーザ変位計5A,5B,5C,5Dで、被処理面8Aとのギャップを測定する。それぞれの変位の測定値をhA,hB,hC,hDとする。
【0074】
(3)ヘッド部9の被処理面8Aに対するX軸方向の傾きmxを以下の式で示すように計算する。
mx=(hD-hB)/2r
【0075】
(4)X方向に並ぶ、一対の変位駆動部6Aの高さを、上記傾きmxを加味して算出した、それぞれ下記の値で変位させる。
ΔhF=-(L+hx)mx
ΔhH=(L-hx)mx
【0076】
(5)ヘッド部9の被処理面8Aに対するy軸方向の傾きmyを計算する。
my=(hA-hC)/2r
【0077】
(6)Y方向に並ぶ、一対の変位駆動部6Aの高さを、それぞれ下記の値で変位させる。
ΔhA=(L-hy)my
ΔhC=-(L+hy)my
【0078】
(7)再度、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dで、被処理面8Aとのギャップを測定する。それぞれのギャップの測定値をhA,hB,hC,hDとする。
【0079】
(8)4つのレーザ変位計5A,5B,5C,5Dでの4箇所におけるギャップの平均値havを算出し、hA,hB,hC,hDと、havと、の差をそれぞれ算出する。
【0080】
上記差のうち、どれか一つの箇所(測定位置)での差が大きい場合は、すなわち平均値havから大きくはずれる箇所が一つ箇所でもある場合は、上記(3)の工程に戻る。
【0081】
(9)上記(8)において、いずれの箇所における平均値havからのはずれが小さい場合は、それぞれの変位駆動部6Aを、h-havだけ変位させて制御が終了する。
【0082】
この変形例1に係る集束イオンビーム装置1Aの他の構成、効果は、上記第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1と同様である。
【0083】
なお、この変形例1では、4つのレーザ変位計5A,5B,5C,5Dの直上にそれぞれ変位駆動部6Aを備える構成としたが、3つのレーザ変位計の直上にそれぞれ変位駆動部6Aを備える構成としてもよい。
【0084】
このように、3つのレーザ変位計を備える場合は、以下のような制御を行えばよい。まず、ギャップの目標値hを設定する。次に、3つのレーザ変位計5A,5B,5Cで、被処理面8Aとのギャップを測定する。それぞれの変位の測定値をhA,hB,hCとする。各変位駆動部を、それぞれh-hA,h-hB,h-hCだけ変位させる。最後に、レーザ変位計5A,5B,5Cで、被処理面8Aとのギャップを測定して確認する。
【0085】
(第1の実施の形態の変形例2)
図6は、本発明の第1の実施の形態の変形例2に係る差動排気装置2Aの下面図である。この差動排気装置2Aは、ヘッド部9の外周に沿って等間隔に3つの光透過用開口部14E,14F,14Gを備え、これら光透過用開口部14E,14F,14Gに対応してレーザ変位計5E,5F,5Gを備える。
【0086】
この変形例2に係る差動排気装置2Aにおいても、3箇所のレーザ変位計5E,5F,5Gの3点での管理ギャップGmを測定することで対向面9Aと被処理面8Aとの平行を出すための変位駆動制御が可能である。本発明に係る差動排気装置および集束イオンビーム装置においては、ヘッド部9において、3箇所以上にギャップ測定部としてのレーザ変位計を備える構成であればよい。
【0087】
(第1の実施の形態の変形例3)
図7および
図8は、第1の実施の形態の変形例3に係る集束イオンビーム装置1Bを示している。
図7は、
図8のVII-VII断面図である。
図8は、変形例3に係る差動排気装置2Bの下面図である。この変形例3では、上記第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1のように、レーザ変位計を後方にオフセットして配置せずに、ヘッド部9の外周部に設け、レーザ変位計の先端部の位置をヘッド部9の対向面9Aと同レベルに設定している。この変形例3では、レーザ変位計5H,5I,5J,5Kを用いたが、他のギャップセンサをギャップ測定部として用いても勿論よい。
【0088】
また。この変形例3では、ヘッド部9における最も外側の環状溝10Dから被処理面8Aに不活性ガスとしての窒素ガス(N2)を吹き付けてガスカーテンが生じるようにしている。このように、不活性ガスを使用することで、鏡筒16内を不活性ガスでパージ可能とし、環境改善となる。また、不活性ガスの吹き付けにより、ヘッド部9を被処理面8Aから離れる方向へ付勢してヘッド部9を浮上させる効果がある。このため、この変形例3では、差動排気による真空圧を相殺する効果がある。
【0089】
(第1の実施の形態の変形例4)
図9は、第1の実施の形態の変形例4に係る集束イオンビーム装置1Cを示している。
【0090】
本実施の形態では、ヘッド部9における最も外側の環状溝10Dにおいて斜め外側へ向けて乾燥した窒素ガス(N2)を噴き出すように設定されている。環状溝10Dは、外側へ傾くように形成されている。また、窒素ガス(N2)が速い速度で環状溝10Dから噴射されるように、送出圧力が設定されている。
【0091】
このため、環状溝10Dから噴射された窒素ガス(N2)が高速で大気中に排気されることにより、処理用空間Sp側の気体を高速の窒素ガスの流れとともに排気することができる。このような作用によって、大気側からの空気が処理用空間Sp内へ流入することを防止でき、処理用空間Sp内の気体分子を排気することで処理用空間Spをさらに高真空にすることができる。
【0092】
さらに、この変形例4では、乾燥した窒素ガスを噴射することで、処理用空間Sp内に水分が混入することを低減させることができる。また、被処理面8Aに不活性ガスとしての窒素ガス(N2)を吹き付けてガスカーテンが生じるため、鏡筒16内を不活性ガスでパージ可能とし、環境改善となる。また、不活性ガスの吹き付けにより、ヘッド部9を被処理面8Aから離れる方向へ付勢してヘッド部9を浮上させる効果がある。このため、この変形例4においても、差動排気による真空圧を相殺する効果がある。
【0093】
(第1の実施の形態の変形例5)
図10は、第1の実施の形態の変形例5に係る集束イオンビーム装置の差動排気装置2Cを示す。
図10の一点鎖線示す部分は、被処理基板8である。この変形例5では、ヘッド部9の平面形状が正方形であり、その4辺のそれぞれの中央の側方にレーザ変位計5L,5M,5N,5Oが設けられている。
【0094】
この変形例5では、被処理基板8がX-Y方向に移動した際に、ヘッド部9が被処理基板8の縁に位置し、4つのレーザ変位計のうちのいずれか1つが縁から逸脱した状態であっても、残りの3つのレーザ変位計が被処理基板8に対向している限り、その3つのレーザ変位計の検出量に基づいて変位駆動制御が可能となる。したがって、被処理基板8の縁部に近い領域であっても処理を行うことが可能となる。
【0095】
[第2の実施の形態]
図11は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Eを模式的に示す説明図である。
図11おいては、レーザ変位計などを図示しないが、上記第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1と同様にギャップ測定部としてのレーザ変位計などを備える。また、
図11においては、環状溝を排気系と吸気系の2つ環状溝10A,10Dに簡略化している。
【0096】
特に、本実施の形態では、鏡筒16の先端部内に集束イオンビーム光学系17の対物静電レンズ17Aと、マイクロチャネルプレート21と、を備えている。マイクロチャネルプレート21は、対物静電レンズ17Aよりもビーム下流側(鏡筒16の先端に近い位置)に配置されている。マイクロチャネルプレート21には、
図11に示すように、中央にイオンビーム通過口21Aが開けられおり、その周辺部は、被処理基板8から発生した2次荷電粒子Pを捕捉可能な検出部21Bとしている。
【0097】
なお、この集束イオンビーム装置1Eを用いて、被処理基板8の被処理面8Aを観察する場合は、デポガスの供給を停止させた状態でイオンビームIbを照射する。そして、イオンビームIbが入射した被処理面8Aから発生した2次荷電粒子Pが入射することにより検出部21Bで電子が生じる。このように、生じた電子をアバランシェ電流により増幅して被処理面8Aの表面の情報を得ることが可能となる。したがって、本実施の形態の集束エネルギービーム装置1Eによれば、被処理面8Aの状態を高感度で検出することができる。
【0098】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Eによれば、対物静電レンズ17Aのワーキングディスタンス(WD)を接近させることが可能となり、従来のように真空チャンバ内において、集束イオンビーム光学系から離れた位置にシンチレータを配置して検出する方法に比べて2次荷電粒子Pの捕捉効率を向上できる。このように対物静電レンズ17Aのワーキングディスタンスを短くすると鏡筒16の先端部近傍にデポガスのノズルなどの構造物を別途配置しにくくなる。しかし、本実施の形態では、デポガスを供給する環状溝10Aも鏡筒16の先端部に設けられている。このため、処理用空間Spへデポガスを充満させながらイオンビームIbを照射することができる。したがって、ワーキングディスタンスが短くなることに起因してデポガスの供給がしにくくなるという問題は発生しない。
【0099】
本実施の形態によれば、結果的には、対物静電レンズ17Aのワーキングディスタンスを短くできるので、集束イオンビーム光学系17の集束効率も向上し、微細なイオンビームIbを照射することも可能となる。また、本実施の形態では、イオンビームIbによる被処理面8Aの状態の観察を行う被処理基板8の位置と、CVD成膜を行うときの被処理基板8の位置は同じであるため、被処理基板8を移動させる必要がない。このため、被処理基板8の移動に伴って処理位置がずれるという問題を回避できる。
【0100】
(第2の実施の形態の変形例1)
図12に示すように、第2の実施の形態の変形例1に係る集束イオンビーム装置1Fでは、マイクロチャネルプレート21を用いずに、対物静電レンズ17Aのビーム下流側においてイオンビームIbの側方に検出器22を配置している。また、対物静電レンズ17Aのビーム上流側には、偏向器23を配置している。この集束イオンビーム装置1Fでは、被処理基板8の被処理面8Aを観察するときには、イオンビームIbを偏向器23で検出器22に近づく方向へ偏向させて、被処理基板8に対して斜めに入射させる。そして、被処理基板8にイオンビームIbが入射して発生した2次荷電粒子Pを検出器22で捕捉することにより、被処理基板8の表面状態の観察が可能となる。検出器22としては、シンチレータを用いることもできる。集束イオンビーム装置1Fの他の構成は、上記第1および第2の実施の形態の構成と略同様である。
【0101】
(第3の実施の形態)
図13は、本発明の第3の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Gを示している。
図13に示すように、この集束イオンビーム装置1Gは、差動排気装置2Dのヘッド部9の対向面9Aの外側に、この対向面9Aの外周縁に沿って浮上パッド24が周回して一体に設けられている。この浮上パッド24は、不活性ガスとしての窒素ガス(N
2)を供給する吐出ポンプに連結パイプ4025を介して接続されている。この浮上パッド24は、扁平な環状のパイプ形状であり、下面に複数のスリット状または円形状の開口が形成され、この開口から不活性ガスを吐出するようになっている。また、浮上パッド24の外周部の4箇所には、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dが配置されている。本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Gの他の構成は、上記した第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1と略同様である。
【0102】
浮上パッド24は、被処理面8Aへ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成する。このため、浮上パッド24は、ヘッド部9を被処理面8Aから離れる方向へ付勢する。このように、不活性ガスを使用することで、鏡筒16内を不活性ガスでパージ可能とし、環境改善となる。また、不活性ガスの吹き付けにより、ヘッド部9を被処理面8Aから離れる方向へ付勢してヘッド部9を浮上させる効果がある。このため、本実施の形態では、差動排気による真空圧を相殺する効果がある。
【0103】
(第4の実施の形態)
図14は、本発明の第4実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Hを示している。集束イオンビーム装置1Hは、X-Y精密ステージ25を備える。X-Y精密ステージ25は、四隅の下部のそれぞれに、上下に伸縮する変位駆動部としての傾斜調整用支持脚26が設けられている。これら傾斜調整用支持脚26は、図示しないギャップ制御部に接続されている。
【0104】
X-Y精密ステージ25の上には、X-Y方向の移動する基板支持台4が設けられている。この基板支持台4の上には、フォトマスクなどの被処理基板8が載せられる。
【0105】
図14に示すように、X-Y精密ステージ25の上には、支持フレーム20が架設されている。支持フレーム20の中央には、FIBカラム3が吊り下げられている。FIBカラム3の下端には、差動排気装置2が一体に設けられている。なお、FIBカラム3と差動排気装置2の構成は、上述の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の構成と略同様である。
【0106】
FIBカラム3には真空ポンプ27が接続され、真空ポンプ27には真空ポンプ制御電源28が接続されている。また、X-Y精密ステージ25には、ステージ制御電源29が接続されている。
【0107】
特に、本実施の形態では、X-Y精密ステージ25上の所定位置に配置された被処理基板8の四隅に形成されたアライメントマーク8Bに対応する上方位置に、それぞれ光学アライメント顕微鏡30が設けられている。
【0108】
従来の集束イオンビーム装置は、被処理基板および集束イオンビーム光学系を大きな真空チャンバ内に収容していた。そして、イオンビームが照射された被処理基板から放出される2次電子や2次イオンを、FIBカラムの外側に設置した電荷粒子検出器にて検出し、その強度の変化を見て被処理基板の表面形状を観察していた。同様に、真空中において、イオンビームの照射によりアライメントマークからの2次荷電粒子を取得してアライメントを行っていた。このため、真空チャンバ内にセットした被処理基板の四隅のアライメントマークをFIBカラムの照射位置まで移動する必要があった。このような移動は、被処理基板の約4倍の面積をX-Y精密ステージでカバーする必要があり、真空チャンバをさらに大きくするものであった。
【0109】
上記の従来の集束イオンビーム装置に比べて、本実施の形態では、差動排気装置2を使用して局所真空空間を実現したことにより、処理している領域以外は大気圧のため、光学アライメント顕微鏡を容易に設置できる。
図11に示すように、本実施の形態では、被処理基板8の四隅のアライメントマーク8Bを用いてアライメントを行い、光学アライメント顕微鏡30の位置と、FIBカラム3による処理位置と、の相対関係で座標を確定させることができる。このため、本実施の形態の集束イオンビーム装置1Hによれば、X-Y精密ステージ25によるアライメントのためのストロークが不要となる。加えて、集束イオンビーム装置1Hによれば、アライメントのための移動時間を短くできる。
【0110】
(第5の実施の形態)
図15は、本発明の第5の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Iを示している。本実施の形態の集束イオンビーム装置1Iは、上記第4の実施の形態の集束イオンビーム装置1Hと、略同様の構成を有する。上記第4の実施の形態と異なる構成は、FIBカラム3にオフセット距離を設定して光学顕微鏡31を設置した構成である。なお、本実施の形態では、光学アライメント顕微鏡30を備えていないが、付加しても勿論よい。
【0111】
従来の集束イオンビーム装置においては、被処理基板および集束イオンビーム光学系を大きな真空チャンバ内に収容していた。そして、真空中でイオンビームが照射された被処理基板から放出される2次電子や2次イオンを、FIBカラムの外側に設置した電荷粒子検出器にて検出し、その強度の変化を見て被処理基板の表面形状をイオン像として観察していた。一般的には、このイオン像を使用して照射位置確認などを行っていたが、2次荷電粒子は被処理基板の表面形状(傾斜角度)に依存しているため、表面形状のみイオン像として検出される。そのため、表面形状に起伏が少ない場合はコントラストの低いイオン像となってしまって照射位置を確認しづらくなり、位置精度が低下することがあった。
【0112】
図15に示すように、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Iでは、差動排気装置2により局所で高真空度とすることができるため、被処理基板8全体を真空中に配置する必要がない。このためFIBカラム3の近傍に光学顕微鏡31を設置することができる。したがって、イオンビームにより処理すべき被処理基板8の表面部分を直接高分解能の光学顕微鏡31または図示しないレーザ顕微鏡などにより表面の起伏情報だけでなく、色などの情報も取得できる。このため、本実施の形態では、イオンビームにより処理すべき位置を容易に確認することができる。
【0113】
このような光学顕微鏡31にて確認した位置に対してイオンビーム照射位置の位置オフセットをあらかじめ確認しておけば、処理すべき位置の光学像で位置確認したままオフセットしてすぐにイオンビーム照射位置に被処理基板8をセットすることができる。このように、本実施の形態では、起伏の少ない被処理基板8の表面でも照射位置を特定でき、高精度にイオンビーム照射をすることが可能となる。
【0114】
(第6の実施の形態)
図16は、本発明の第6実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Jを示している。集束イオンビーム装置1Jは、X-Y精密ステージ25と、X-Y精密ステージ25の四隅の下部のそれぞれに設けられた上下に伸縮する傾斜調整用支持脚26と、基板支持台4と、支持フレーム20と、この支持フレーム20に吊り下げられた4つのFIBカラム3と、FIBカラム3の下端に設けられた差動排気装置2と、備える。
【0115】
それぞれのFIBカラム3は真空ポンプ27が接続され、真空ポンプ27には真空ポンプ制御電源28が接続されている。また、X-Y精密ステージ25には、ステージ制御電源29が接続されている。
【0116】
特に、本実施の形態では、4つのFIBカラム3が被処理基板8を4つに分割した領域に対応するように配置されている。従来は、1枚の被処理基板8に対して1つのFIBカラム3を使用した場合、基板面積の4倍のストロークが基板支持台4に必要であった。これに対して、本実施の形態では、4つのFIBカラム3を設置したことにより、X-Y精密ステージ25を稼働して基板支持台4の可動ストロークを低減することができ、装置のフットプリントを小さく抑えることができる。また、本実施の形態では、同時に複数の箇所にイオンビームを照射することができるため、高速に基板を処理することもできる。
【0117】
(第7の実施の形態)
図17は、本発明の第7の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Kを示している。集束イオンビーム装置1Kは、基板ステージ32を備える。基板ステージ32は、四隅の下部のそれぞれに、上下に伸縮する傾斜調整用支持脚26が設けられている。これら傾斜調整用支持脚26は、図示しないギャップ制御部に接続されている。
【0118】
基板ステージ32の上には、基板支持台4が設けられている。この基板支持台4の上には、フォトマスクなどの被処理基板8が載せられる。
【0119】
図17に示すように、基板ステージ32の上には、X-Yガントリステージ33が架設されている。X-Yガントリステージ33には、可動ブロック34がX-Y方向に移動可能に設けられている。可動ブロック34には、FIBカラム3と光学アライメント顕微鏡30とが固定されている。FIBカラム3の下端には、差動排気装置2が一体に設けられている。なお、FIBカラム3と差動排気装置2の構成は、上述の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の構成と略同様である。
【0120】
FIBカラム3には真空ポンプ27が接続されている。また、可動ブロック34は、ステージ制御電源35が接続されている。
【0121】
特に、本実施の形態では、X-Yガントリステージ33に可動ブロック34をX-Y方向に移動可能に設けたことにより、被処理基板8の位置を固定した状態で、可動ブロック34に設けたFIBカラム3と光学アライメント顕微鏡30を移動させることができる。このように被処理基板8の位置は固定できるため、装置のフットプリントを小さくできる。
【0122】
以上本発明に係る各実施の形態の集束イオンビーム装置では、反りやうねりのある大型の被処理基板であっても確実に差動排気機能を保持できる差動排気装置、および良好な処理が行える集束イオンビーム装置を実現できる。
【0123】
また、本発明によれば、ヘッド部9の処理用空間Spの高真空を確実に維持できるため、この処理用空間での処理作業の質を高めることができる。
【0124】
さらに、本発明によれば、装置のコンパクト化が図れるため、設備コストならびに管理コストを削減できる。
【0125】
また、本発明によれば、ヘッド部9の外周縁と被処理面8Aとのギャップを均一化してヘッド部9の対向面9Aと被処理基板8の被処理面8Aとを平行に保つことができ、外周縁部で高真空が破れることを防止できる。このため、処理用空間Spにおいて良好な処理(観察や成膜など)を行える。
【0126】
[その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0127】
例えば、上記の実施の形態に係る集束エネルギービーム装置は、リペア装置としての集束イオンビーム装置に適用して説明したが、この他に、被処理基板への直接描画機能を有する電子線描画装置、被処理基板の表面状態の観察を可能にする走査電子顕微鏡などに適用可能である。
【0128】
上記の実施の形態において、差動排気装置に形成する環状溝の数は、4本に限定されるものではなく、少なくとも排気と吹き出しを行う2本以上を備えればよい。
【0129】
上記の実施の形態の説明では、変位駆動部として変位駆動部6、6A、傾斜調整用支持脚26を用いたが、これらに限定されるものではなく、傾斜およびギャップを調整可能な他の手段を適用しても勿論よい。
【0130】
上記の実施の形態では、ギャップ測定部としてレーザ変位計5A,5B,5C,5Dを用いたが、これらに代えて圧力計を用いる構成としてもよい。この場合、これらの圧力計の圧力測定値に基づいて被処理面8Aとヘッド部9の対向面9Aとの間の傾きや距離を推定し、変位駆動部を制御することができる。
【0131】
上記の実施の形態では、ギャップ測定部として、レーザ変位計5A,5B,5C,5Dを適用したが、この他に、接触式センサ、超音波センサ、静電容量式センサなども適用可能である。なお、上記実施の形態のような差動排気で求められるμmオーダーの測定精度を考えると、上記のレーザ変位計5A,5B,5C,5Dが好ましい。また、上記の実施の形態では、4つのレーザ変位計5A,5B,5C,5Dを備える構成としたが、本発明は、ヘッド部9の周縁に沿って少なくとも3箇所以上のギャップ測定部を備える構成であればよい。
【0132】
上記の実施の形態では、エネルギービームとしてイオンビームIbを出射するFIBカラム3を適用して説明したが、局所的な真空空間を備え、レーザビームを照射して、配線の除去や形成を行うリペア装置などに本発明の差動排気装置を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0133】
Gg 実質ギャップ
Gm 管理ギャップ
Gos オフセットギャップ
Ib イオンビーム
P 2次荷電粒子
Sp 処理用空間
1A,1E,1F,1G,1H,1I,1J,1K 集束イオンビーム装置(集束エネルギービーム装置)
2,2A,2B,2C,2D 差動排気装置
3 集束イオンビームカラム(FIBカラム,集束エネルギービームカラム)
4 基板支持台
5A,5B,5C,5D レーザ変位計(ギャップ測定部)
6,6A 変位駆動部
7 ギャップ制御部
8 被処理基板
8A 被処理面
8B アライメントマーク
9 ヘッド部
9A 対向面
10A 環状溝(最も内側の環状溝)
10B,10C 環状溝
10D 環状溝(最も外側の環状溝)
11 開口部
12,13 連結パイプ
14A,14B,14C,14D 光透過用開口部
15A,15B,15C,15D 光透過板
16 鏡筒
17 集束イオンビーム光学系
17A 対物静電レンズ
18 昇降手段
19 支持部
20 支持フレーム
21 マイクロチャネルプレート
21A イオンビーム通過口
21B 検出部
22 検出器
23 偏向器
24 浮上パッド
25 X-Y精密ステージ
26 傾斜調整用支持脚(変位駆動部)
27 真空ポンプ
28 真空ポンプ制御電源
29 ステージ制御電源
30 光学アライメント顕微鏡
31 光学顕微鏡
32 基板ステージ
33 X-Yガントリステージ
34 可動ブロック
35 ステージ制御電源
40 連結パイプ