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特開2022-110766水素イオン放出性固体殺菌剤及び殺菌方法
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  • 特開-水素イオン放出性固体殺菌剤及び殺菌方法 図1
  • 特開-水素イオン放出性固体殺菌剤及び殺菌方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110766
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】水素イオン放出性固体殺菌剤及び殺菌方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20060101AFI20220722BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20220722BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220722BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C02F1/50 531A
C02F1/50 510A
C02F1/50 520B
C02F1/50 532Z
C02F1/50 540D
C02F1/50 540F
A01N25/08
A01P3/00
A01N59/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006378
(22)【出願日】2021-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】319002072
【氏名又は名称】株式会社SCMソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】松枝 直人
(72)【発明者】
【氏名】エルニ ジョハン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェロニカ アメリコ アントニオ フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】光延 聖
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA02
4H011DC10
(57)【要約】
【課題】ゼオライトを用いることで手軽に水素イオンを利用でき、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、水素イオンによって部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に、病原微生物が直接接触することで病原微生物を不活化又は死滅させることができる水素イオン放出性固体殺菌剤及び殺菌方法を提供すること。
【解決手段】本発明の水素イオン放出性固体殺菌剤は、水素イオンを吸着させたゼオライトを用いることで病原微生物を不活化又は死滅させることを特徴とし、特に水素イオンの吸着に伴うゼオライト骨格構造の破壊を生じさせることなく多くの水素イオンを吸着させるためにはSi/Al比が2~10であるゼオライトを用い、ゼオライトへの水素イオンの吸着量を増やして取り扱いやすくするためにはゼオライトの微粉末を不織布に担持させることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオンを吸着させたゼオライトを用いることで病原微生物を不活化又は死滅させることを特徴とする水素イオン放出性固体殺菌剤。
【請求項2】
前記ゼオライトのSi/Al比を2~10とした
ことを特徴とする請求項1に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤。
【請求項3】
前記ゼオライトの微粉末が不織布に担持されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤。
【請求項4】
前記不織布が、芯材として第1樹脂を用い、前記第1樹脂よりも融点の低い第2樹脂で前記第1樹脂の表面を覆っている
ことを特徴とする請求項3に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤。
【請求項5】
前記ゼオライトを水中に浸けることで、前記水中の前記病原微生物を不活化又は死滅させる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤。
【請求項6】
水素イオンを吸着させたゼオライトを用いて、病原微生物を不活化又は死滅させることを特徴とする殺菌方法。
【請求項7】
前記ゼオライトのSi/Al比を2~10とした
ことを特徴とする請求項6に記載の殺菌方法。
【請求項8】
前記ゼオライトの微粉末が不織布に担持されている状態で用いる
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の殺菌方法。
【請求項9】
前記ゼオライトを水中に浸けることで、前記水中の前記病原微生物を不活化又は死滅させる
ことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の殺菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素イオン放出性固体殺菌剤及び殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2は、大気中の水分から水素イオンを発生させる殺菌装置を提案している。
このように、水素イオンを利用した殺菌方法が従来より提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-264106号公報
【特許文献2】特開2006-212414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水素イオンを発生させるためには、プラズマ放電や電気分解などを行うための装置が必要である。また、水素イオン水として保管や輸送することもできるが、重くかさばることから保管や輸送に適さない。
【0005】
本発明は、手軽に水素イオンを利用できる水素イオン放出性固体殺菌剤及び殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の水素イオン放出性固体殺菌剤は、水素イオンを吸着させたゼオライトを用いることで病原微生物を不活化又は死滅させることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤において、前記ゼオライトのSi/Al比を2~10としたことを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤において、前記ゼオライトの微粉末1が不織布に担持されていることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤において、前記不織布が、芯材として第1樹脂を用い、前記第1樹脂よりも融点の低い第2樹脂で前記第1樹脂の表面を覆っていることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素イオン放出性固体殺菌剤において、前記ゼオライトを水中に浸けることで、前記水中の前記病原微生物を不活化又は死滅させることを特徴とする。
請求項6記載の本発明の殺菌方法は、水素イオンを吸着させたゼオライトを用いて、病原微生物を不活化又は死滅させることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載の殺菌方法において、前記ゼオライトのSi/Al比を2~10としたことを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項6又は請求項7に記載の殺菌方法において、前記ゼオライトの微粉末1が不織布に担持されている状態で用いることを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の殺菌方法において、前記ゼオライトを水中に浸けることで、前記水中の前記病原微生物を不活化又は死滅させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ゼオライトを用いることで手軽に水素イオンを利用でき、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、水素イオンによって部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に、病原微生物が直接接触することで病原微生物を不活化又は死滅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例による水素イオン放出性固体殺菌剤を示す写真
図2】本発明の実施例による水素イオン放出性固体殺菌剤の効果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による水素イオン放出性固体殺菌剤は、水素イオンを吸着させたゼオライトを用いることで病原微生物を不活化又は死滅させるものである。本実施の形態によれば、ゼオライトを用いることで手軽に水素イオンを利用でき、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、水素イオンによって部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に、病原微生物が直接接触することで病原微生物を不活化又は死滅させることができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による水素イオン放出性固体殺菌剤において、ゼオライトのSi/Al比を2~10としたものである。本実施の形態によれば、水素イオンの吸着に伴うゼオライト骨格構造の破壊を生じさせることなく多くの水素イオンを吸着できる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による水素イオン放出性固体殺菌剤において、ゼオライトの微粉末が不織布に担持されているものである。本実施の形態によれば、水中での取り扱いが容易となる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による水素イオン放出性固体殺菌剤において、不織布が、芯材として第1樹脂を用い、第1樹脂よりも融点の低い第2樹脂で第1樹脂の表面を覆っているものである。本実施の形態によれば、ゼオライトを第2樹脂に担持させることができ、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に病原微生物が直接接触しやすい。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4のいずれかの実施の形態による水素イオン放出性固体殺菌剤において、ゼオライトを水中に浸けることで、水中の病原微生物を不活化又は死滅させるものである。本実施の形態によれば、ゼオライトから離脱する水素イオンによって病原微生物の生育至適範囲外に水中のpHを低下させることができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態による殺菌方法は、水素イオンを吸着させたゼオライトを用いることで病原微生物を不活化又は死滅させるものである。本実施の形態によれば、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に、病原微生物が直接接触することで病原微生物を不活化又は死滅させることができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態による殺菌方法において、ゼオライトのSi/Al比を2~10としたものである。本実施の形態によれば、水素イオンの吸着に伴うゼオライト骨格構造の破壊を生じさせることなく多くの水素イオンを吸着できる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態は、第6又は第7の実施の形態による殺菌方法において、ゼオライトの微粉末が不織布に担持されている状態で用いるものである。本実施の形態によれば、水中での取り扱いが容易となる。
【0017】
本発明の第9の実施の形態は、第6から第8のいずれかの実施の形態による殺菌方法において、ゼオライトを水中に浸けることで、水中の病原微生物を不活化又は死滅させるものである。本実施の形態によれば、ゼオライトから離脱する水素イオンによって病原微生物の生育至適範囲外に水中のpHを低下させることができる。
【実施例0018】
図1は本発明の一実施例による水素イオン放出性固体殺菌剤を示す写真であり、図1(a)は同水素イオン放出性固体殺菌剤として用いるゼオライトの微粉末、図1(b)は同ゼオライトの微粉末を担持させた不織布、図1(c)は同ゼオライトの微粉末を担持させる前の不織布、図1(d)は同ゼオライトの微粉末を担持させた不織布を示している。
【0019】
図1(a)に示すゼオライトは、70meshの篩を通過した約210μm以下の粒径の微粉末1である。ゼオライトの微粉末1の平均粒径は、例えば20μm~500μmで用いることができるが、200μm以下、好ましくは100μm以下で用いる。200μm以下、好ましくは100μm以下で用いることで、水素イオンの吸着量を増やすことができる。
ゼオライトは、自然界から採掘される天然鉱物以外に人工的に合成されたものであってもよい。ゼオライトのSi/Al比は2~10が好ましく、更には3~8が好ましい。Si/Al比が2を下回る場合には水素イオンの吸着によって骨格構造が壊れ、Si/Al比が10を超える場合には水素イオンの吸着量が減少する。
ゼオライトは、例えば希硝酸で洗浄することで水素イオンを吸着させることができる。
水素イオンを吸着させたゼオライトは、病原微生物を不活化又は死滅させることができ、水素イオン放出性固体殺菌剤として用いることができる。
病原微生物は、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に、直接接触することで不活化又は死滅する。また、病原微生物にはそれぞれ生育至適pHがあり、水素イオンを吸着させたゼオライトを水中に浸けることで、ゼオライトから水素イオンが離脱し、病原微生物の生育至適pH外に、水中のpHを低下させることができ、水中の病原微生物を不活化又は死滅させることができる。
ここで、病原微生物とは、細菌、リケッチア、ウイルスなどに分類され、その他に、真菌、原虫、寄生虫、有毒生物が存在する。
【0020】
図1(b)に示すように、ゼオライトの微粉末1は、不織布に担持されている状態で用いることができる。
ゼオライトの微粉末1は、例えば少なくとも表面が熱可塑性樹脂からなり平均繊維径が20μm~50μmの繊維2に担持させる。不織布としては、芯材として第1樹脂を用い、第1樹脂よりも融点の低い第2樹脂で第1樹脂の表面を覆っているものが好ましい。
図1(c)は、上記の不織布の顕微鏡写真である。
ゼオライトの微粉末1を不織布に塗布し、ゼオライトの微粉末1を塗布した不織布を加熱する。加熱温度は、不織布の繊維2の表面を覆う樹脂の溶融温度とする。芯材として第1樹脂を用い、不織布の繊維2が、第1樹脂よりも融点の低い第2樹脂で第1樹脂の表面を覆っている場合には、第2樹脂の溶融温度以上で、第1樹脂の溶融温度より低い加熱温度とする。加熱後に冷却することで、不織布の繊維2にゼオライトの微粉末1が担持される。
図1(d)は、ゼオライトの微粉末が担持された不織布の顕微鏡写真である。
【0021】
このように、ゼオライトを微粉末1にすることで水素イオンの吸着量を増やすことができ、不織布に担持させることで、特に水中での取り扱いが容易となる。
また、芯材として第1樹脂を用い、第1樹脂よりも融点の低い第2樹脂で第1樹脂の表面を覆っている不織布を用いることで、ゼオライトを第2樹脂に担持させることができ、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に病原微生物が直接接触しやすい。
【0022】
図2は本発明の実施例による水素イオン放出性固体殺菌剤の効果を示す図である。
病原微生物として大腸菌を用いた。本実施例では、Si/Al比が4.7のゼオライトの微粉末(210μm以下の粒径)1を不織布に担持させ、この不織布を希硝酸に浸けることで、担持させたゼオライトに水素イオンを吸着させ、その後乾燥させて水素イオン放出性固体殺菌剤とし、この不織布を水溶液中に浸した。
図2(a)に示すように、大腸菌を1000CFU/mLとした水中に水素イオン放出性固体殺菌剤不織布を入れたところ、pHが6.5から4に低下した。
図2(b)に示すように、水素イオンによって大腸菌に対する高い殺菌効果を得ることができる。
また、薬剤感受性試験によっても大腸菌に対する殺菌効果を確認することができた。
【0023】
以上のように、水素イオンを吸着させたゼオライトを用いることで病原微生物を不活化又は死滅させることができる。この殺菌方法によれば、ゼオライトに吸着されている水素イオンや、部分的に正電荷を帯びたゼオライト表面に、病原微生物が直接接触することで病原微生物を不活化又は死滅させることができる。
この殺菌方法において、ゼオライトのSi/Al比を2~10とすることで、水素イオンの吸着に伴うゼオライト骨格構造の破壊を生じさせることなく多くの水素イオンを吸着できる。
この殺菌方法において、ゼオライトを微粉末1にすることで水素イオンの吸着量を増やすことができ、不織布に担持させることで、特に水中での取り扱いが容易となる。
この殺菌方法は、ゼオライトを水中に浸けることで、ゼオライトから離脱する水素イオンによって病原微生物の生育至適範囲外に水中のpHを低下させることができ、水中の病原微生物を不活化又は死滅させることができる。
なお、ゼオライトに代えて土壌粘土を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、水中だけでなく大気中においても手軽に殺菌を行うことができ、特に途上国の飲料水を手軽に殺菌処理できる。
【符号の説明】
【0025】
1 微粉末
2 繊維

図1
図2