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  • 特開-燃料電池電極触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110799
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】燃料電池電極触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20220722BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220722BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220722BHJP
【FI】
H01M4/96
H01M4/92
H01M4/96 B
B01J23/42 M
B01J35/10 301J
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006426
(22)【出願日】2021-01-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】堀 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】松村 祐宏
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB18X
4G169EC02X
5H018AA06
5H018AS02
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB06
5H018BB11
5H018BB12
5H018BB13
5H018BB16
5H018BB17
5H018DD05
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE10
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH05
5H126BB06
5H126GG05
5H126GG06
5H126JJ01
5H126JJ02
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】燃料欠乏時のカーボン担体の劣化が抑制され、ECSA(電気化学活性面積)の維持性に優れる、燃料電池電極触媒を提供すること。
【解決手段】カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の個数が、4.3個/100nm以上16.0個/100nm以下である、燃料電池電極触媒。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の個数が、4.3個/100nm以上16.0個/100nm以下である、燃料電池電極触媒。
【請求項2】
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の個数が、6.0個/100nm以上10.0個/100nm以下である、請求項1に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項3】
前記触媒金属粒子の平均粒径が、5.0nm以下である、請求項1又は2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項4】
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.0nm以上3.5nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項5】
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の担持量が、6.0mg/m以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項6】
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の担持量が、6.5mg/m以上25.0mg/m以下である、請求項5に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項7】
前記カーボン担体が、黒鉛化カーボンの粒子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項8】
前記カーボン担体の比表面積が、10m/g以上100m/g以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項9】
前記カーボン担体の比表面積が、20m/g以上70m/g以下である、請求項8に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒を含む触媒層を有する、燃料電池のアノード。
【請求項11】
請求項10に記載のアノードを含む、燃料電池電極接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の燃料電池電極接合体を含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、次世代の電池として期待されている。特に、固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、起動時間が短く、コンパクトである等の利点を有し、自動車の駆動用電源等の分野では、既に実用化が始まっている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、カソード(空気極)、固体高分子電解質膜、及びアノード(燃料極)がこの順に積層させた構造を有する。このような固体高分子形燃料電池では、カソードには酸素又は空気が供給され、アノードには燃料、例えば水素が供給されると、各極で酸化・還元反応が起こり、電力が発生する。
【0004】
燃料電池では、電極中に、上記の酸化・還元反応を促進するための燃料電池用触媒を含む。この燃料電池用触媒としては、炭素粉末担体上に、触媒粒子を担持させた構造のものが、広く用いられている。燃料電池用触媒の触媒粒子としては、Pt粒子及びPt合金粒子が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、担体粒子の存在下、液相にて、Pt前駆体化合物を還元する、Pt担持触媒の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、固体高分子形燃料電池のカソードの活性を向上するために、触媒粒子として、Pt合金粒子を用いることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3では、燃料電池のアノード側の触媒層に、カーボン担体上にPt又はPt合金を担持したアノード触媒と、IrO等の水電解触媒とを、共存させて用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08-084930号公報
【特許文献2】特開2003-142112号公報
【特許文献3】特開2009-152143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃料電池、特に固体高分子形燃料電池では、上述のとおり、カソードには酸素又は空気が供給され、アノードには燃料、例えば水素が供給され、これら両極で酸化・還元反応が起こり、電力が発生する。しかしながら、燃料電池の運転中には、例えば、カソードから浸透して来た窒素の影響により、或いは、燃料電池反応によって発生した水の凝集物の影響により、アノードへ供給される燃料が欠乏する事態が発生し得る。
【0009】
アノードにおいて燃料が欠乏した場合、不足のプロトン(H)を補うために、下記反応によって、プロトンを生成するとともに、カーボン担体が腐食して劣化する現象が起こる。
C+2HO→CO+4H+4e
【0010】
更に、アノードにおいて燃料が欠乏しても、上記の反応によってプロトンが補われている限り、燃料電池の発電電圧は維持される。そのため、カーボン担体の劣化は、初期の段階では検知し難い。そして、カーボン担体の初期劣化を看過して、カーボン担体の劣化が更に進行すると、カーボン担体から触媒金属粒子が脱落するに至り、燃料電池電極触媒の活性は急激に低下することになる。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料欠乏時のカーボン担体の劣化が抑制され、ECSA(電気化学活性面積)の維持性に優れる、燃料電池電極触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下のとおりである。
【0013】
《態様1》
カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の個数が、4.3個/100nm以上16.0個/100nm以下である、燃料電池電極触媒。
《態様2》
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の個数が、6.0個/100nm以上10.0個/100nm以下である、態様1に記載の燃料電池電極触媒。
《態様3》
前記触媒金属粒子の平均粒径が、5.0nm以下である、態様1又は2に記載の燃料電池電極触媒。
《態様4》
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.0nm以上3.5nm以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
《態様5》
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の担持量が、6.0mg/m以上である、態様1~4のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
《態様6》
前記カーボン担体の単位表面積当たりの前記触媒金属粒子の担持量が、6.5mg/m以上25.0mg/m以下である、態様5に記載の燃料電池電極触媒。
《態様7》
前記カーボン担体が、黒鉛化カーボンの粒子である、態様1~6のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
《態様8》
前記カーボン担体の比表面積が、10m/g以上100m/g以下である、態様1~7のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
《態様9》
前記カーボン担体の比表面積が、20m/g以上70m/g以下である、態様8に記載の燃料電池電極触媒。
《態様10》
態様1~9のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒を含む触媒層を有する、燃料電池のアノード。
《態様11》
態様10に記載のアノードを含む、燃料電池電極接合体。
《態様12》
態様11に記載の燃料電池電極接合体を含む、燃料電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、燃料欠乏時のカーボン担体の劣化が抑制され、ECSA(電気化学活性面積)の維持性に優れる、燃料電池電極触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例で得られた触媒における、カーボン担体の単位比表面積当たりのPt粒子の個数(個/100nm)と、耐久試験後のECSAとの関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例で得られた触媒における、カーボン担体の単位比表面積当たりのPt粒子の個数(個/100nm)と、耐久試験後のECSA維持率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《燃料電池電極触媒》
本発明の燃料電池電極触媒は、
カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、
カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の個数が、4.3個/100nm以上16.0個/100nm以下である、
燃料電池電極触媒である。
【0017】
本発明の燃料電池電極触媒は、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の個数が、所定の範囲に制限されている。
【0018】
燃料電池電極触媒において、触媒金属粒子は、カーボン担体の吸着活性点上に担持されたとき、カーボン担体に強く吸着して、高い触媒活性を発現すると考えられる。
【0019】
ここで、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子が多すぎると、カーボン担体の吸着活性点に保持されずに、カーボン担体への吸着が弱い触媒金属粒子が多くなって、触媒金属粒子の粗大化による触媒活性の低下が起こると考えられる。この粗大化のメカニズムとしては、触媒金属粒子の溶解・再析出による粗大化、触媒金属粒子が担体上で移動して凝集することによる粗大化等が想定されている。一方、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子が少なすぎると、カーボン担体上に、触媒金属粒子で保護されていない吸着活性点が多く残存して、カーボン担体が分解され易くなり、したがって、水素欠乏時にカーボン担体が劣化し易くなると考えられる。
【0020】
本発明の燃料電池電極触媒では、上記の考察に基づいて、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の個数が所定の範囲に制限されており、このことによって、燃料欠乏時のカーボン担体の劣化が抑制され、ECSA(電気化学活性面積)の維持性に優れることになるのである。
【0021】
以下、本発明の燃料電池電極触媒の構成要件について、順に説明する。
【0022】
〈カーボン担体〉
本発明の燃料電池電極触媒におけるカーボン担体は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、アモルファス炭素、ナノカーボン材料等であってよい。ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等を包含する。
【0023】
本発明におけるカーボン担体としては、特に、黒鉛を用いてよい。黒鉛は、天然黒鉛でも人造黒鉛でもよい。天然黒鉛は、塊状黒鉛、土状黒鉛、鱗片状黒鉛等を包含する。人造黒鉛は、任意のカーボン材料を黒鉛化した、黒鉛化カーボン等を包含する。本発明におけるカーボン担体は、黒鉛化カーボンの粒子であってよい。
【0024】
本発明におけるカーボン担体は、窒素を吸着質としてBET法によって測定した比表面積が、10m/g以上、20m/g以上、30m/g以上、40m/g以上、又は50m/g以上であってよく、100m/g以下、90m/g以下、80m/g以下、70m/g以下、又は60m/g以下であってよい。
【0025】
カーボン担体の比表面積は、例えば、10m/g以上100m/g以下であってよく、20m/g以上70m/g以下であってもよい。
【0026】
カーボン担体の粒径は、電子顕微鏡観察によって測定された個数平均の一次粒径として、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、又は50nm以上であってよく、500nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってよい。
【0027】
カーボン担体の粒径は、燃料電池電極触媒について撮影された電子顕微鏡像に基づいて、等価直径の個数平均として計算することができる。なお、「等価直径」とは、測定対象図形の外周長さと等しい外周長さを有する正円の直径をいう。
【0028】
〈触媒金属粒子〉
触媒金属粒子は、Pt又はPt合金から成り、カーボン担体に担持されている。
【0029】
触媒金属粒子がPt合金から成っているとき、該Pt合金は、
Ptと、
Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Hf、Ru、Ir、Pd、Os、及びRhから成る群から選択される1種又は2種以上の金属と
を含む合金であってよい。
【0030】
Pt合金は、典型的には、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、又はPt-Ni合金であってよい。
【0031】
Pt合金中のPt原子の割合は、Pt合金中の金属原子のモル数の合計に対してPt原子のモル数が占める百分率として、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、又は85モル%以上であってよく、99モル%以下、95モル%以下、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、又は75モル%以下であってよい。
【0032】
触媒金属粒子の平均粒径は、5.0nm以下、4.5nm以下、4.0nm以下、3.5nm以下、3.0nm以下、又は2.5nm以下であってよく、1.0nm以上、1.5nm以上、2.0nm以上、又は2.5nm以上であってよい。平均粒径が5.0nm以下の触媒金属粒子は、ECSAが高い利点を有する。平均粒径が1.0nm以上の触媒金属粒子は、燃料電池を長期間稼働したときのECSAの維持性に優れる利点を有する。これらの利点は、本発明の燃料電池触媒をアノード(燃料極)に用いたときに、特に有利に発現する。
【0033】
触媒金属粒子の平均粒径は、例えば、2.0nm以上3.5nm以下であってよい。
【0034】
本発明の燃料電池電極触媒における触媒金属粒子の平均粒径は、燃料電池電極触媒の粉末XRD測定における回折ピークの線幅から、シェラー式によって算出することができる。例えば、触媒金属粒子がPt粒子である場合、触媒金属粒子の平均粒径は、燃料電池電極触媒の粉末XRD測定におけるPtの(220)面の回折ピークの線幅から、シェラー式によって算出されてよい。一方、触媒金属粒子がPt合金である場合、触媒金属粒子の平均粒径は、小角X線散乱又は透過型電子顕微鏡(TEM)によって算出されてよい。
【0035】
本発明の燃料電池電極触媒において、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の個数は、4.3個/100nm以上16.0個/100nm以下である。上述したように、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子が多すぎると、カーボン担体の吸着活性点に保持されずに、カーボン担体への吸着が弱い触媒金属粒子が多くなって、触媒金属粒子の粗大化による触媒活性の低下が起こると考えられる。一方、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子が少なすぎると、カーボン担体上に、触媒金属粒子で保護されていない吸着活性点が多く残存して、カーボン担体が分解され易くなり、したがって、水素欠乏時にカーボン担体が劣化し易くなると考えられる。
【0036】
この観点から、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の個数は、4.4個/100nm以上、4.5個/100nm以上、5.0個/100nm以上、6.0個/100nm以上、80.0個/100nm以上、10.0個/100nm以上、又は12.0個/100nm以上であってよく、15.0個/100nm以下、13.0個/100nm以下、11.0個/100nm以下、10.0個/100nm以下、8.0個/100nm以下、又は6.0個/100nm以下であってよい。
【0037】
カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の個数は、典型的には、6.0個/100nm以上10.0個/100nm以下であってよい。
【0038】
カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の個数は、触媒金属粒子の平均粒径と、カーボン担体の比表面積とから、算出される値であってよい。
【0039】
触媒金属粒子の担持密度、すなわち、カーボン担体の単位表面積当たりの触媒金属粒子の担持量(質量)は、6.0mg/m以上、6.5mg/m以上、7.0mg/m以上、8.0mg/m以上、10mg/m以上、12mg/m以上、又は15mg/m以上であってよく、25mg/m以下、22mg/m以下、20mg/m以下、18mg/m以下、15mg/m以下、12mg/m以下、又は10mg/m以下であってよい。
【0040】
触媒金属粒子の担持密度は、典型的には、6.5mg/m以上25.0mg/m以下であってよい。
【0041】
触媒金属粒子の担持率、すなわち、触媒金属粒子の単位質量当たりの触媒金属粒子の担持量(質量)は、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であってよく、75質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0042】
〈任意成分〉
本発明の燃料電池電極触媒は、カーボン担体及び触媒金属粒子以外に、これら以外の任意成分を含んでいてもよい。本発明の燃料電池電極触媒に、含まれてもよい任意成分は、例えば、カーボン担体以外の炭素材料、Ir粒子、Ir・Ru合金粒子、Ir酸化物等から選択される、1種又は2種以上の成分であってよい。カーボン担体以外の炭素材料は、触媒金属粒子を担持していない炭素材料であり、例えば、黒鉛、炭素繊維、黒鉛化カーボンブラック、カーボンナノチューブ等から選択されてよい。
【0043】
《燃料電池電極触媒の製造方法》
本発明の燃料電池電極触媒は、例えば、カーボン担体と触媒金属前駆体とを接触させること(前駆体接触工程)、及び触媒金属前駆体を還元して、カーボン担体上に触媒金属粒子を担持すること(担持工程)を含む方法によって、製造されてよい。
【0044】
触媒金属粒子がPt粒子であるときは、触媒金属前駆体としてPt前駆体を用い、適当な溶媒中で、カーボン担体とPt前駆体とを接触させた後、Pt前駆体を還元して、カーボン担体上にPt粒子を担持することにより、燃料電池電極触媒を得ることができる。
【0045】
使用されるカーボン担体は、所望の燃料電池電極触媒におけるカーボン担体に応じて、適宜選択して使用してよい。
【0046】
Pt前駆体は、溶媒可溶のPt化合物から適宜選択して使用してよい。Pt前駆体としては、例えば、PtCl、PtCl、PtBr、PtS、Pt(CN)、PtCl(NH(ジニトロジアンミン白金)等から適宜選択して使用してよい。
【0047】
溶媒は、使用するPt前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。例えば、Pt前駆体が、PtClであるときには塩酸を使用してよく、PtBrであるときには臭化水素酸水溶液を使用してよく、PtCl(NHであるときには硝酸水溶液を使用してよく、PtCl、PtS、又はPt(CN)であるときには水を使用してよい。
【0048】
Pt前駆体の還元は、適当な還元剤を使用して行ってよい。還元剤は、例えば、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等であってよい。還元は、10℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。還元温度は、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、10℃以上50℃以下とすることが好ましく、還元剤は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、又はヒドラジンを用いる場合には、60℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0049】
このようにして、カーボン担体上にPt粒子が担持された、燃料電池電極触媒が得られる。
【0050】
一方、触媒金属粒子がPt合金粒子であるときは、例えば、以下のいずれかの方法によって、燃料電池電極触媒を得ることができる。
(1)Ptと合金金属とを順次に還元担持する方法(方法1):
適当な溶媒中で、カーボン担体とPt前駆体とを接触させた後、Pt前駆体を還元し、カーボン担体上にPt粒子を担持して、Pt担持カーボンを得ること;
適当な溶媒中で、Pt担持カーボンと合金金属前駆体とを接触させた後、合金金属前駆体を還元し、Pt担持カーボン上に合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持カーボンを得ること;及び
Pt-合金金属担持カーボンを加熱し、Ptと合金金属とを合金化することにより、カーボン担体上にPt合金粒子が担持された、燃料電池電極触媒を得ること。
【0051】
(2)Ptと合金金属とを同時に還元担持する方法(方法2):
適当な溶媒中で、カーボン担体と、Pt前駆体及び合金金属前駆体とを接触させた後、Pt前駆体及び合金金属前駆体を還元して、カーボン担体上にPt粒子及び合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持カーボンを得ること;
Pt-合金金属担持カーボンを加熱して、Ptと合金金属とを合金化することにより、カーボン担体上にPt合金粒子が担持された、燃料電池電極触媒を得ること。
【0052】
本明細書において、「合金金属」とは、触媒金属粒子を構成するPt合金のうちの、Pt以外の金属を意味する。
【0053】
以下、触媒金属粒子がPt合金粒子である、燃料電池電極触媒を製造するための方法1及び方法2について、順に説明する。
【0054】
(1)カーボン担体上に、Ptと合金金属とを順次に担持する方法(方法1)
方法1では、先ず、適当な溶媒中で、カーボン担体とPt前駆体とを接触させた後、Pt前駆体を還元し、カーボン担体上にPt粒子を担持して、Pt担持カーボンを得る。この工程は、触媒金属粒子がPt粒子であるときの、燃料電池電極触媒の製造と同様に行われてよい。
【0055】
次いで、適当な溶媒中で、得られたPt担持カーボンと合金金属前駆体とを接触させた後、合金金属前駆体を還元し、Pt担持カーボン上に合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持カーボンを得る。
【0056】
合金金属前駆体は、所望の燃料電池電極触媒における合金金属の種類に応じて、適宜選択して使用してよい。合金金属前駆体は、所望の合金金属を含む、溶媒可溶の化合物から適宜選択して使用してよい。例えば、所望の合金金属の、水酸化物、塩化物、硫化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等であってよい。
【0057】
溶媒は、使用する合金金属前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。溶媒は、例えば、水であってよい。
【0058】
合金金属前駆体の還元は、適当な還元剤又は中和剤を使用して行ってよい。還元剤は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、水素ガス、ギ酸等であってよい。中和剤は、例えば、メタホウ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等であってよい。
【0059】
還元剤を用いる還元は、10℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。還元温度は、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、10℃以上50℃以下とすることが好ましく、還元剤は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、又はヒドラジンを用いる場合には、60℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0060】
合金金属前駆体の還元において、中和剤を用いる場合には、Pt担持カーボン上に、合金金属が一旦1価以上の価数を有する状態で担持された後、加熱されることによって、還元されるとともにPtとの合金を形成するものと考えられる。中和剤を用いる還元は、60℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。
【0061】
このようにして、Pt担持カーボン上に合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持カーボンが得られる。
【0062】
続いて、得られたPt-合金金属担持カーボンを加熱して、Ptと合金金属とを合金化することにより、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、燃料電池電極触媒が得られる。Ptと合金金属とを合金化するための加熱の条件については、方法(1)おける加熱の説明をそのまま適用してよい。
【0063】
以上のようにして、カーボン担体上にPt合金粒子が担持された、燃料電池電極触媒が得られる。
【0064】
本発明の燃料電池電極触媒媒は、例えば、上記の方法によって、又は上記の方法に当業者による適宜の変更を加えた方法によって、製造されてよい。
【0065】
《燃料電池のアノード》
本発明の別の観点では、本発明の燃料電池電極触媒を含む触媒層を有する、燃料電池のアノードが提供される。
【0066】
アノードは、適当な基材層と、該基材層上の触媒層とを有していてよく、触媒層は、本発明の燃料電池電極触媒を含む。
【0067】
基材層は、燃料電池電極触媒及び溶媒、並びに電極形成時に好ましく行われる加熱処理、加圧処理等に耐え得る、化学的及び機械的な安定性を有するものから適宜選択して使用してよい。具体的には、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン等のシートを使用してよい。
【0068】
触媒層は、本発明の燃料電池電極触媒を含むが、これ以外に、アイオノマーを含んでいてよく、例えばバインダー等の任意成分を、更に含んでいてよい。アイオノマーは、例えば、ナフィオン(テトラフルオロエチレン系(共)重合体のスルホン化物)であってよい。
【0069】
《燃料電池電極接合体》
本発明の更に別の観点では、上記のアノードを含む、燃料電池電極接合体が提供される。
【0070】
燃料電池電極接合体は、アノード、固体高分子電解質膜、及びカソードがこの順に積層させた構造を有していよく、アノードが、本発明の燃料電池電極触媒を含む電極であってよい。
【0071】
この燃料電池電極接合体における、固体高分子電解質膜及びカソードは、それぞれ、公知の固体高分子電解質膜及びカソードであってよい。
【0072】
本発明の燃料電池電極接合体は、アノードとして、本発明の燃料電池用電極触媒を含む電極を用いる他は、公知の方法により、製造されてよい。
【0073】
《燃料電池》
本発明の更に別の観点では、上記の燃料電池電極接合体を含む、燃料電池が提供される。本発明の燃料電池は、固体高分子形燃料電池であってよい。
【0074】
本発明の燃料電池は、本発明の燃料電池電極接合体を含む。これ以外に、例えば、アノード側に、燃料チェネルを有していてよく、カソード側に、空気チャネル又は酸素チャネルを有していてよい。
【0075】
本発明の燃料電池は、アノードとして、本発明の燃料電池電極触媒を含む電極を用いる他は、公知の方法により、製造されてよい。
【実施例0076】
《実施例1》
(1)触媒の調製
カーボン担体として、市販の黒鉛化カーボンブラック(東海カーボン(株)製、品名「トーカブラック#3845」)用いた。この黒鉛化カーボンブラックについて、窒素を吸着質としてBET法により測定した比表面積は、49m/gであった。
【0077】
上記の黒鉛化カーボンブラック1.0gを、純水49.4gに60質量%硝酸0.52gを加えた溶液中に加えて30分間撹拌し、分散液を得た。得られた分散液に、金属Pt0.33g相当量のジニトロジアンミン白金の硝酸溶液を加えて15分間撹拌した。その後、ここに、還元剤としてのエタノール7.63gを加えて15分間撹拌した後、90℃において2時間加熱撹拌することにより、Ptイオンを還元して、Pt粒子としてカーボンブラック上に析出させた。
【0078】
その後、反応系の温度が40℃以下になるまで撹拌下に放冷した後、固形分をろ取して回収した。
【0079】
回収した固形分を、60℃の純水1Lによる洗浄を繰り返した。洗浄は、ろ液の導電率が5μS/cm以下になるまで、繰り返し行った。
【0080】
洗浄後の固形分を、80℃において15時間乾燥した後、粉砕することにより、触媒粉末を得た。
【0081】
得られた触媒粉末について測定したXRD測定において、Ptの(220)面の回折ピークの線幅からシェラー式によって算出したPt粒子の平均粒径は、2.3nmであった。また、この平均粒径と、カーボン担体の比表面積とから、担体単位面積当たりのPt粒子数を算出した。
【0082】
(2)高電圧耐久試験用単セルの製造
得られた触媒粉末をエタノール中に分散させた後、アイオノマーとしてのナフィオンを含む水分散液を添加し、超音波分散して、アノード触媒層形成用塗工液を調製した。得られたアノード触媒層形成用塗工液を、テフロン(登録商標)製のシートの片面上に塗布した後、乾燥して、シート上にアノード触媒層を形成した。
【0083】
上記の触媒粉末の代わりに、ケッツェンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)製、品名「EC300」)上にPtを担持した触媒粉末を用いた他は、アノード触媒層形成用塗工液の調製と同様にして、カソード触媒層形成用塗工液を調製し、これを用いてシート上にカソード触媒層を形成した。このカソード触媒層に用いた触媒粉末中のPtの担持量は、触媒粉末の質量を基準として、30質量%出あった。
【0084】
高分子電解質膜の両面に、上記で得られたアノード触媒層及びカソード触媒層を有するテフロンシートを、触媒層形成面を対向させて積層し、ホットプレスによって転写した後、テフロンシートを剥離して、アノード触媒層、高分子電解質膜、及びカソード触媒層が、この順に積層された積層体を得た。次いで、各触媒層の表面上に拡散層を設置することにより、高電圧耐久試験用単セルを製造した。
【0085】
(3)高電圧耐久試験
セル温度40℃、加湿度128%の環境下で、カソード側に水素を供給し、アノード側に窒素を供給しつつ、ポテンショスタット(北斗電工(株)製、型名「HZ-5000」)を用いて、1.8Vの電圧を4,400秒間印加した。上記セル条件下のCV測定により、高電圧耐久試験前後のECSA(電気化学活性面積)を測定した。
【0086】
《実施例2~7、並びに比較例1~4》
カーボン担体の種類、及びジニトロジアンミン白金の使用量(金属Pt相当量)を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にして、触媒粉末を調製し、これを用いて高電圧耐久試験用単セルを製造して、高電圧耐久試験を行った。
【0087】
《実施例8及び比較例5》
実施例3で得られた触媒粉末をアルゴン気流中で熱処理したものを用いた他は、実施例1と同様にして、高電圧耐久試験用単セルを製造して、高電圧耐久試験を行った。熱処理の条件は、実施例8では250℃、2時間とし、比較例5では300℃、2時間とした。
【0088】
以上の実施例及び比較例の結果を表1に示す。また、各触媒における、カーボン担体の単位比表面積当たりのPt粒子の個数(個/100nm)と、耐久試験後のECSAとの関係を示すグラフを、図1に示す。更に、各触媒における、カーボン担体の単位比表面積当たりのPt粒子の個数(個/100nm)と、耐久試験後のECSA維持率との関係を示すグラフを、図2に示す。
【0089】
なお、比較例5については、高電圧耐久試験前のECSAの値が低かったため、以降の試験を行わなかった。
【0090】
【表1】
【0091】
表1中のカーボン担体の種類の略所は、それぞれ、以下の意味である。
#3845:トーカブラック#3845、東海カーボン(株)製、比表面積49m/g(BET法(N))
FCX80:FCX80、CABOT社製、比表面積73m/g
600JD:Ketjen600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、比表面積300m/g)を黒鉛化したもの
Li435:
【0092】
また、表1中のジニトロジアンミン白金量の量は、金属Pt換算質量(g-Pt)として示した。
【0093】
表1、並びに図1及び図2から、以下のことが理解される。
【0094】
Ptの担持密度が6.0mg/m未満である比較例1~4の触媒は、高電圧耐久試験後にはECSAを有さなかった。
【0095】
これらに対して、Ptの担持密度が6.0mg/m以上16.0個/100nm以下の実施例1~8の触媒は、高電圧耐久試験後にも有意のECSAを示し、ECSA維持率が高く、優れた耐久性を示すことが検証された。特に、Pt粒子の平均粒径が6.0nm以下の実施例1~7の触媒は、高電圧耐久試験後のECSAが大きく、極めて優れた耐久性を示した。
図1
図2