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特開2022-110818温度測定装置、体温計、温度測定方法及び温度減衰測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110818
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】温度測定装置、体温計、温度測定方法及び温度減衰測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/42 20060101AFI20220722BHJP
   G01K 13/20 20210101ALI20220722BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
G01K7/42 A
G01K13/20 361G
G01K13/20 341G
A61B5/01 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006457
(22)【出願日】2021-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】390024729
【氏名又は名称】SEMITEC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101834
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 順一
(72)【発明者】
【氏名】圓山 重直
(72)【発明者】
【氏名】井関 祐也
(72)【発明者】
【氏名】古川 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】野中 崇
(72)【発明者】
【氏名】細川 靖
(72)【発明者】
【氏名】岡部 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】田畑 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】松舘 直史
(72)【発明者】
【氏名】中島 利憲
(72)【発明者】
【氏名】東 雅也
(72)【発明者】
【氏名】折戸 学
【テーマコード(参考)】
2F056
4C117
【Fターム(参考)】
2F056HD01
2F056HD03
2F056HD06
2F056HG03
2F056HG05
2F056HX04
4C117XA01
4C117XB01
4C117XD05
4C117XE03
4C117XE23
(57)【要約】
【課題】高速応答性が実現可能であり、被測定体の温度を短時間で高精度及び高確度で計測することができる温度測定装置、体温計、温度測定方法及び温度減衰測定方法を提供する。
【解決手段】温度を感知する感温部41と、感温部41を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な感温部41に設けられた測定用の温度センサ1と、感温部41を被測定体に接触させたときから、測定用の温度センサ1の初期温度との差異を測定用の温度センサ1が検知した時間及びその時の測定用の温度センサ1の計測温度を検出し、差異を検知した時間から、一定時間後の時間及びその時の測定用の温度センサの計測温度を検出する温度検出手段と、差異を検知した時間及び一定時間後の時間、その時の計測温度から感温部が被測定体に接触した時間を推定する推定手段と、温度検出手段及び推定手段の出力情報に基づいて計測温度を推定する熱伝導解析手段と、を具備する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を感知する感温部と、
前記感温部を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な前記感温部に設けられた測定用の温度センサと、
前記感温部を被測定体に接触させたときから、前記測定用の温度センサの初期温度との差異を前記測定用の温度センサが検知した時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出し、前記差異を検知した時間から、一定時間後の時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出する温度検出手段と、
前記差異を検知した時間及び一定時間後の時間、その時の計測温度から前記感温部が被測定体に接触した時間を推定する推定手段と、
前記温度検出手段及び推定手段の出力情報に基づいて計測温度を推定する熱伝導解析手段と、
を具備することを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
少なくとも前記熱伝導解析手段によって推定された計測温度まで、測定用の温度センサを加熱する加熱手段を具備することを特徴とする請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記測定用のセンサと断熱層を介して熱交換可能に配置され、前記測定用の温度センサと温度が等しくなるように制御される保護加熱用の温度センサを具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサは、薄膜サーミスタであることを特徴とする請求項3に記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサは、基板と、この基板上に形成された導電層及び薄膜素子層とを有し、前記基板の厚さ寸法は200μm以下に形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の温度測定装置。
【請求項6】
前記測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサは、同じ仕様及び特性のものであることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の温度測定装置。
【請求項7】
前記断熱層は、空気層であり、層厚寸法は0.05mm~1mmに形成されていることを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれか一項に記載の温度測定装置。
【請求項8】
前記制御処理部は、前記測定用の薄膜感温素子に一定電力の第1の熱パルスを印加するとともに前記測定用の薄膜感温素子に前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加するように制御することを特徴とする請求項1乃至請求7のいずれか一項に記載の温度測定装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の温度測定装置を用いた体温計。
【請求項10】
温度を感知する感温部と、前記感温部を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な前記感温部に設けられた測定用の温度センサとを備え、
前記感温部を被測定体に接触させたときから、前記測定用の温度センサの初期温度との差異を前記測定用の温度センサが検知した時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出する第1の検出ステップと、
前記差異を検知した時間から、一定時間後の時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出する第2の検出ステップと、
前記差異を検知した時間及び一定時間後の時間、その時の計測温度から前記感温部が被測定体に接触した時間を推定する接触時間推定ステップと、
第1の検出ステップと第2の検出ステップで検出した時間及び計測温度並びに前記接触時間推定ステップで推定した時間から、非定常熱伝導解析によって被測定体の温度を推定する温度推定ステップと、
を具備することを特徴とする温度測定方法。
【請求項11】
温度を感知する感温部と、前記感温部を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な前記感温部に設けられた測定用の温度センサとを備え、
非定常熱伝導解析によって被測定体の温度を推定し、その後、少なくとも前記推定された温度まで測定用の温度センサを加熱し、前記感温部と被測定体とを熱的平衡状態として被測定体の温度を計測することを特徴とする温度測定方法。
【請求項12】
請求項11に記載の温度測定方法を備え、
感温部を被測定体に接触させるステップと、
測定用の温度センサに一定電力の第1の熱パルスを印加するステップと、
第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に測定用の温度センサの温度減衰特性を検出するステップと、
測定用の温度センサに前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加するステップと、
第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に前記測定用の温度センサの温度減衰特性を検出するステップと、
を具備することを特徴とする温度減衰測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定装置、体温計、温度測定方法及び温度減衰測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業分野や医療分野においては、物体の表面温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することが望まれている。
【0003】
例えば、被測定体として生体の体温を計測する一般家庭用の電子体温計が普及している。このような電子体温計における体温の測定時間は、脇下で計る場合、実測式においては、10分程度の時間を必要とする。
【0004】
また、予測式と呼ばれる電子体温計がある。この予測式の電子体温計は、温度の上昇が停止する平衡温度を予測して、温度を表示するものであり、1分~2分程度で測定が可能となっている。このように計測時間を短時間とする構成や方法がいろいろ提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7-111383号公報
【特許文献2】特許第3558397号公報
【特許文献3】特許第3920662号公報
【特許文献4】特許第4949648号公報
【特許文献5】特開2016-217885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、短時間と雖も計測時間を費やすのは、測定者にとって煩わしく負担となる場合が多い。
【0007】
本発明の実施形態は、一層の高速応答性が実現可能であり、被測定体の温度を短時間で高精度及び高確度で計測することができる温度測定装置、体温計、温度測定方法及び温度減衰測定方法を提供することを目的とする。
また、他の目的は、例えば、生体の皮膚癌等の診断に有効な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態による温度測定装置は、温度を感知する感温部と、前記感温部を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な前記感温部に設けられた測定用の温度センサと、前記感温部を被測定体に接触させたときから、前記測定用の温度センサの初期温度との差異を前記測定用の温度センサが検知した時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出し、前記差異を検知した時間から、一定時間後の時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出する温度検出手段と、前記差異を検知した時間及び一定時間後の時間、その時の計測温度から前記感温部が被測定体に接触した時間を推定する推定手段と、前記温度検出手段及び推定手段の出力情報に基づいて計測温度を推定する熱伝導解析手段と、を具備することを特徴とする。このような温度測定装置は、体温計に好適に用いることができる。
【0009】
かかる実施形態の温度測定装置により、高速応答性が実現可能であり、被測定体の温度を短時間で高精度及び高確度で計測することができる。なお、温度測定装置は、生体に好適に適用されるが、これに限るものではない。産業分野における物体の表面温度を測定する場合においても適用可能であり、被測定体が格別限定されるものではない。
【0010】
本発明の実施形態による温度測定方法は、温度を感知する感温部と、前記感温部を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な前記感温部に設けられた測定用の温度センサとを備え、前記感温部を被測定体に接触させたときから、前記測定用の温度センサの初期温度との差異を前記測定用の温度センサが検知した時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出する第1の検出ステップと、前記差異を検知した時間から、一定時間後の時間及びその時の前記測定用の温度センサの計測温度を検出する第2の検出ステップと、前記差異を検知した時間及び一定時間後の時間、その時の計測温度から前記感温部が被測定体に接触した時間を推定する接触時間推定ステップと、第1の検出ステップと第2の検出ステップで検出した時間及び計測温度並びに前記接触時間推定ステップで推定した時間から、非定常熱伝導解析によって被測定体の温度を推定する温度推定ステップと、を具備することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の実施形態による温度測定方法は、温度を感知する感温部と、前記感温部を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な前記感温部に設けられた測定用の温度センサとを備え、非定常熱伝導解析によって被測定体の温度を推定し、その後、少なくとも前記推定された温度まで測定用の温度センサを加熱し、前記感温部と被測定体とを熱的平衡状態として被測定体の温度を計測することを特徴とする。
かかる実施形態による温度測定方法により、被測定体の温度を短時間で計測することができる。
【0012】
また、本発明の実施形態による温度減衰測定方法は、感温部を被測定体に接触させるステップと、測定用の温度センサに一定電力の第1の熱パルスを印加するステップと、第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に測定用の温度センサの温度減衰特性を検出するステップと、測定用の温度センサに前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加するステップと、第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に前記測定用の温度センサの温度減衰特性を検出するステップと、を具備することを特徴とする。
【0013】
かかる実施形態の温度減衰測定方法により、例えば、生体の表皮部分から真皮中に至るまでの温度減衰特性を検出して熱伝導率を算出することにより、非侵襲で患部の診断を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、一層の高速応答性が実現可能であり、被測定体の温度を短時間で高精度及び高確度で計測することができる温度測定装置、体温計、温度測定方法及び温度減衰測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る温度測定装置の要部を示し、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図である。
図2】同温度測定装置の要部を示す断面図である。
図3】温度センサを示す断面図である。
図4】温度センサの基本的な接続状態を示す結線図である。
図5】温度測定装置を示すブロック構成図である。
図6】温度測定時の各部の温度を示すグラフである。
図7】温度測定時の皮膚内部の温度分布を示すグラフである。
図8】被測定体と測定用の温度センサとの接触面の温度を示す説明用のグラフである。
図9】温度測定の動作を示す機能ブロック図である。
図10】測定用の温度センサを加熱する状態を示すグラフである。
図11】加熱後の皮膚内部の温度分布を示すグラフである。
図12】温度測定における温度センサの動作を示す説明図である。
図13】温度減衰測定における温度センサの動作を示す説明図である
図14】温度測定装置を体温計に適用した例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る温度測定装置について図1乃至図5を参照して説明する。図1は、温度測定装置の要部を模式的に示す斜視図及び分解斜視図であり、図2は、温度測定装置の要部を模式的に示す断面図である。また、図3は、温度センサを示す断面図であり、図4は、温度センサの基本的な接続状態を示す結線図であり、図5は、温度測定装置を示すブロック構成図である。なお、図1及び図2においてはリード線等の配線関係の図示は省略している。各図では、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している場合がある。また、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1及び図2に示すように温度測定装置10は、測定用の温度センサ1と、保護加熱用の温度センサ2と、ヒートシンク3と、これら各構成要素が収容されるパイプ状の外郭4と、各構成要素を制御する制御処理部5(図5参照)とを備えている。
【0018】
測定用の温度センサ1は、後述する保護加熱用の温度センサ2と基本的に同じ仕様及び特性を有している。測定用の温度センサ1は、薄膜感温素子であり、薄膜サーミスタである。測定用の温度センサ1は、図3を併せて参照して示すように、素子基板11と、この基板11上に形成された導電層12と、薄膜素子層13と、保護絶縁層14とを備えている。また、この測定用の温度センサ1は、熱伝導性が良好な材料、例えば、アルミニウム等で形成された配設板15上に配設されている。
【0019】
素子基板11は、略長方形状をなしていて、絶縁性のアルミナ材料で形成されている。なお、基板11を形成する材料は、窒化アルミニウム、ジルコニア等のセラミックス又は半導体のシリコン、ゲルマニウム等の材料を用いてもよい。この基板11の一面(図示上、上側)上には、絶縁性薄膜がスパッタリング法によって成膜して形成されている。基板11は極薄で厚さ寸法が200μm以下で、具体的には50μm~200μm、好ましくは150μm以下に形成されている。
このような極薄の基板11を薄膜サーミスタに用いることで、熱容量が小さくなり高感度で、かつ熱応答性の優れた感温素子の実現が可能となる。
【0020】
導電層12は、配線パターンを構成するものであり、基板11上に形成されている。導電層12は、金属薄膜をスパッタリング法によって成膜して形成されものであり、その金属材料には、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の貴金属やこれらの合金、例えば、Ag-Pd合金等が適用される。また、基板11の両端部には、導電層12と一体的に、導電層12と電気的に接続された一対の電極部12aが形成されている。
【0021】
薄膜素子層13は、サーミスタ組成物であり、負の温度係数を有する酸化物半導体から構成されている。薄膜素子層13は、前記導電層12の上に、スパッタリング法等によって成膜して導電層12と電気的に接続されている。なお、薄膜素子層は、正の温度係数を有する酸化物半導体から構成してもよい。
【0022】
前記薄膜素子層13は、例えば、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等の遷移金属元素の中から選ばれる2種又はそれ以上の元素から構成されている。保護絶縁層14は、薄膜素子層13及び導電層12を被覆するように形成されている。保護絶縁層14は、ホウケイ酸ガラスによって形成された保護ガラス層である。
【0023】
また、前記電極部12aには、金属製のリード線12bが接合されて電気的に接続されている。具体的には、リード線12bは、例えば、コンスタンタンやハステロイ(登録商標)のような熱伝導率が低い材料から形成されていて、その熱伝導率は5W/m・K~25W/m・Kが好ましい。これらは半田等のろう材を使うことによって、又はレーザー溶接によって接続することができる。さらに、リード線12bの線径は、φ20μm~φ100μm程度であることが好ましい。このようにリード線12bを構成することで、リード線12bによるサーミスタの熱容量及び熱放散量を小さくし、高感度で、かつ熱応答性を向上することができる。
【0024】
測定用の温度センサ1が配設される配設板15は、略円形状をなしていて、外郭4の先端部に配設されている。したがって、測定用の温度センサ1は外郭4の先端部に配設されることとなる。配設板15は、熱伝導性が良好なアルミニウム等の材料で形成され、測定用の温度センサ1に高速熱応答性をもって伝熱が可能なように熱容量が小さくなっている。具体的には、配設板15の寸法は、φ0.7mm~φ1.7mmであり、厚さ寸法は0.08mm~0.15mm、好ましくはφ1.2mm、厚さ寸法は0.1mm程度に形成されている。
【0025】
保護加熱用の温度センサ2は、薄膜感温素子であり、薄膜サーミスタである。測定用の温度センサ1と同じ素子であり、同じ仕様及び特性を有している。したがって、測定用の温度センサ1と同一又は相当部分には同一又は相当の符号を付し、詳細な説明は省略する。
保護加熱用の温度センサ2は、素子基板21と、この基板21上に形成された導電層22と、薄膜素子層23と、保護絶縁層24とを備えている。
【0026】
保護加熱用の温度センサ2は、測定用の温度センサ1と同様に、熱伝導性が良好な材料、例えば、アルミニウム等で形成された配設板25上に配設されている。配設板25は、略円形状をなしていて、外郭4の先端部であって、テーパ状に拡径する外郭4の内径に沿うように配設されている。したがって、配設板25の外形寸法は、測定用の温度センサ1が配設される配設板15より大きく形成され、測定用の温度センサ1とは断熱層Sを介して熱交換可能であり、外郭4の長手方向に沿って後端部側に配置されている。
【0027】
具体的には、配設板25の寸法は、φ1mm~φ2mmであり、厚さ寸法は0.08mm~0.15mm、好ましくはφ1.5mm、厚さ寸法は0.1mm程度に形成されている。
【0028】
断熱層Sは気体層であり、具体的には空気層であり、断熱層Sの層厚寸法は0.05mm~1mm、好ましくは0.5mmの微小間隔に設定されている。このように層厚寸法を設定することにより、測定用の温度センサ1からの熱が保護加熱用の温度センサ2に伝わるのを抑制して、適度な断熱性能を保ちつつ、測定用の温度センサ1と保護加熱用の温度センサ2との熱交換を可能にして双方の温度を等しくすることができる。
【0029】
なお、断熱層Sは、空気層が好ましいが、不活性ガスの窒素やアルゴン等の気体層であってもよく、また、断熱材によって構成することもできる。さらに、保護加熱用の温度センサ2の薄膜素子層23側が、測定用の温度センサ1と対向するように配置してもよい。
【0030】
保護加熱用の温度センサ2の後端側には、ヒートシンク3が配設されている。ヒートシンク3は円柱形状をなしていて、所定の熱伝導率及び電気的絶縁性を確保できるアルミナ材料によって形成されている。ヒートシンク3は、φ1.8mm、長さ寸法が4.5mmであり、外郭4の内径に嵌合するように配設されている。なお、ヒートシンク3の後端面に、ヒートシンク3と熱的に結合するように図示しない温度制御素子としてのペルチェ素子を配置するのが好ましい。この場合、ヒートシンク3を一定の低い温度にして、環境温度を低下させ、延いては測定用の温度センサ1を被測定体の温度より一定温度低い温度状態に保つことが可能となる。
【0031】
また、保護加熱用の温度センサ2とヒートシンク3との間には断熱層Sが介在している。断熱層Sは、前述の断熱層Sと略同様に構成されていて、空気層であり、断熱層Sの層厚寸法は0.05mm~1mm、好ましくは0.5mmの間隔に設定されている。なお、断熱層Sは、空気層が好ましいが、不活性ガスの窒素やアルゴン等の気体層であってもよく、また、断熱材によって構成することもできる。
【0032】
外郭4は、全体形状がパイプ状のカバー部材であり、その先端から後端側へ向かってテーパ状に拡径する部位を有して形成されている。既述のように、外郭4の先端部には測定用の温度センサ1、保護加熱用の温度センサ2及びヒートシンク3が収容されて組み込まれていて、外郭4の先端部は温度を感知する感温部41でありプローブとして機能するようになっている。
【0033】
具体的には、外郭4は、アクリル樹脂等の合成樹脂から形成されており、厚さ寸法は0.08mm~0.15mm、好ましくは0.1mm程度に形成されている。また、先端部の外径はφ1.4mm、テーパ状に拡径する部位の長さ寸法は1.5mm程度に形成されている。なお、測定用の温度センサ1が設けられた配設板15が外郭4における先端部の内面に貼着されている。
【0034】
したがって、感温部41を被測定体に接触させた場合、被測定体の熱を厚さ寸法の薄い外郭4及び配設板15を経て、測定用の温度センサ1としての薄膜サーミスタへ高感度で、かつ高速熱応答性をもって伝熱させることができる。
【0035】
制御処理部5(図5参照)には、感温部41から後端側へ導出されるリード線が接続されるようになっている。詳しくは、制御処理部5には、保護加熱用の温度センサ2が配設される配設板25やヒートシンク3に形成される図示しないリード線通過孔を通過して、後端側へ導出されるリード線が接続される。
【0036】
図4は、温度センサRthの基本的な接続状態を示しており、測定用の温度センサ1及び保護加熱用の温度センサ2の温度測定のための結線図である。電源Vに直列に温度センサRthと制限抵抗器としての固定抵抗器Rとが接続され、温度センサRthと固定抵抗器Rとの中間に出力端子が接続されている。出力端子の電圧を出力電圧Voutとして測定し、この測定結果に基づいて温度センサRthが感知した温度を計測する。
次に、図5を参照して温度測定装置10のブロック構成について説明する。
【0037】
本実施形態では、全体の制御を制御処理部5であるマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」という)が所定のプログラムを実行して情報を処理するようになっている。マイコンは、概略的には、演算部及び制御部を有するCPU51と、記憶手段であるROM52及びRAM53と、入出力制御手段54とから構成されている。そして、入出力制御手段54には、電源回路55が接続されている。また、電源回路55には、図4に示す回路が接続されている。
【0038】
電源回路55は、前記電源Vを含んでいて、電源Vの電圧を各温度センサRthに印加して温度センサRthに電力を供給制御する機能を有している。具体的には、マイコンの記憶手段に格納されたプログラムによって電源回路55における電源からの供給電力が制御される。出力電圧Voutは、マイコンに入力され、演算処理されて電源回路55へフィードバックされたり、計測出力として計測出力部O/Pに出力されたりして処理される。計測出力部O/Pは、表示手段や印刷手段である。さらに、入出力制御手段54には、入力部I/Pが接続されている。入力部I/Pは、例えばスイッチやキーボード等の入力手段であり、必要に応じ温度、電圧値や時間等の情報を入力して設定できるようになっている。
次に、温度測定装置10の動作を、被測定体の温度を測定する場合及び温度の減衰を測定する場合について図6乃至図13を参照して説明する。
[温度測定]
(1)測定方法
【0039】
図6乃至図12を参照して温度測定の測定方法について説明する。本実施形態は、図1及び図2に示す感温部41の構成に基づいた伝熱モデルを用いて、1次元の非定常熱伝導解析により被測定体である皮膚の温度、例えば体温を測定する例を示している。温度測定は、高速応答性を重視して瞬時的に皮膚の温度を計測する第1フェーズと、皮膚と感温部とが短時間で熱的平衡状態になるように測定用の温度センサを加熱する第2フェーズとにより行われる。なお、これらの動作は主として図5に示す制御処理部5のプログラムによって実行される。
(第1フェーズ)
第1フェーズは、計測温度を推定し予測する予測フェーズであり、以下のように実行される。
【0040】
感温部41(測定用の温度センサ1)を皮膚表面としての接触面に接触させたときから、感温部41が皮膚に接触する前における測定用の温度センサ1の初期温度とこの測定用の温度センサ1の初期温度との差異を測定用の温度センサ1が検知した時間(t)及びその時の測定用の温度センサ1の計測温度を検出する。
【0041】
次いで、測定用の温度センサ1の温度をモニターし、差異を検知した時間(t)から一定時間後の時間(t)及びその時の測定用の温度センサ1の計測温度を検出する。
【0042】
検出結果である2つの時間(t)及び(t)その時の計測温度から感温部41が皮膚に接触した時間(t)を推定する。これらの時間(t)、(t)及び(t)並びに計測温度から皮膚の温度を推定し計測する。
具体的には、非定常熱伝導解析に基づく下記の熱伝導方程式の式(1)によって皮膚の温度を推定し計測する。
【0043】
【数1】
【0044】
は測定用の温度センサが皮膚に接触した直後の皮膚表面と測定用の温度センサ表面との接触面の温度、ρ、c、kは皮膚と測定用の温度センサにおける接触部位の材料の密度、比熱、熱伝導率であり、例えば、ρは皮膚の密度、ρは測定用の温度センサにおける接触部位の材料の密度を示している。また、Tは皮膚の初期温度、Tは測定用の温度センサの初期温度を示している。したがって、添え字「s」は接触面、「1」は皮膚、「2」は測定用の温度センサであることを表している。
【0045】
ここでρ、c、kは皮膚と測定用の温度センサにおける接触部位の材料の固有の値であり、Tは測定用の温度センサの初期温度であり温度計測前に検出可能である。したがって、接触直後の接触面の温度Tが分かれば、皮膚の初期温度Tを求めることができ、皮膚の温度を推定し計測することができる。
【0046】
図6及び図7は伝熱モデルを用いて、熱伝導の数値シミュレーションや熱応答性の実験を行い解析した結果の一例を示しており、図6は温度測定時の各部の温度を示すグラフであり、図7は温度測定時の皮膚内部の温度分布を示すグラフである。また、図8は被測定体と測定用の温度センサとの接触面の温度を模式的に示す説明用のグラフであり、図9は、温度測定の動作を示す機能ブロック図である。なお、以降において指し示す構成要素が明確である場合、その符号を適宜省略している。
【0047】
図6において、横軸は時間t(s)、縦軸は温度T(℃)を示している。ここで各曲線は感温部が皮膚に接触した時間tを基点とした場合の温度変化を示しており、Tは皮膚の温度、Tは皮膚表面と測定用の温度センサ表面との接触面の温度、Tは皮膚と測定用の温度センサとが接している差分要素の温度、Tは測定用の温度センサの温度である。
【0048】
測定用の温度センサの初期温度を20℃とする。その温度センサがt=tで温度37℃の皮膚表面に接触したとする。詳細を後述するように測定用の温度センサは、それと等温度に保たれた保護加熱用の温度センサによって、後端側は断熱状態に保たれている。
【0049】
測定用の温度センサ、すなわち、感温部が皮膚表面に接触したとき、皮膚温度より低い感温部が接触したために皮膚表面と感温部表面との接触面の温度は28.5℃に低下する。感温部が皮膚表面に接触したときから10ms後に測定用の温度センサの温度は0.7℃上昇する。この時間をtとする。その後10msで測定用の温度センサの温度は2.7℃上昇する。この時間をtとする。測定用の温度センサの初期温度が計測されていればその変化量と時間t、tから、測定用のセンサが皮膚に接触した時間tが推定できる。また、これらのデータと非定常熱伝導解析から、皮膚表面の初期温度、つまり、皮膚温度を20msで推定できる。
【0050】
図7は皮膚内部の温度分布を示しており、横軸は皮膚表面からの位置(m)、縦軸は温度(℃)を示している。各曲線は感温部が皮膚に接触した時間tから経過した時点における温度変化を示しており、経過時間が長くなるに従い曲線のカーブが緩やかになることが分かる。
【0051】
次に、上述の熱伝導方程式の式(1)における接触面の温度Tの推定について図8を参照して説明する。図8において、横軸は時間t、縦軸は温度T(t)を示している。時間tにおける接触面の温度T(t)から、その後の時間tにおける接触面の温度T(t)を把握する。これらを繋ぐ極微小な温度勾配をなす延長線上において、測定用のセンサが皮膚に接触した時間tの時点が、測定用の温度センサが皮膚に接触した直後の皮膚表面と測定用の温度センサ表面との接触面の温度T=T(t)として推定できる。
【0052】
なお、接触面の温度T(t)及びT(t)は、時間t及びtにおける測定用の温度センサの計測温度に基づいて、実験データや数値解析の評価結果等の推定要素情報から推定され取得できる。また、接触した時間tについても推定要素情報から推定され取得できる。この推定要素情報は、予め制御処理部5の記憶手段に格納されて演算処理されるようになっている。
【0053】
したがって、接触直後の接触面の温度Tが推定でき、前記非定常熱伝導解析に基づく式(1)によって皮膚の初期温度Tを求めることができ、皮膚の温度を推定し計測することが可能となる。
【0054】
また、前述のように測定用の温度センサ1の温度と保護加熱用の温度センサ2との温度が等しくなるように制御されている。すなわち、感温部41(測定用の温度センサ1)を被測定体としての皮膚に接触させたとき、保護加熱用の温度センサ2の電気抵抗を、測定用の温度センサ1の電気抵抗と等しくなるように制御処理部5により制御する。そして、保護加熱用の温度センサ2を、測定用の温度センサ1の温度と等しい温度に発熱させる。これにより、皮膚の表面の温度と測定用の温度センサ1の温度と保護加熱用の温度センサ2との温度とが等しくなるため、測定用の温度センサ1から保護加熱用の温度センサ2に、また、皮膚の表面から測定用の温度センサ1へ熱が移動するのを防ぐことができる。
【0055】
このように、温度測定装置10は、測定用の温度センサ1に対する保護加熱用の温度センサ2を適切な層厚寸法の断熱層Sを介して設け、皮膚の表面から測定用の温度センサ1及びリード線等へ沿って流入する熱を相殺し、損失する熱量を最小限に抑えることが可能となり、被測定体の状態を変化させることなく温度を測定することができる。
【0056】
以上のように本実施形態の温度測定装置10(図9参照)は、制御処理部5に温度検出手段、推定手段及び熱伝導解析手段を備えて、制御処理部5で推定要素情報が演算処理される。つまり、温度測定装置10は、感温部41(測定用の温度センサ1)を被測定体としての皮膚表面に接触させたときから、測定用の温度センサ1の初期温度との差異を測定用の温度センサ1が検知した時間t及びその時の測定用の温度センサ1の計測温度を検出し、前記差異を検知した時間tから一定時間後の時間t及びその時の測定用の温度センサ1の計測温度を検出する温度検出手段と、前記差異を検知した時間t及び一定時間後の時間t、その時の計測温度から感温部41が皮膚に接触した時間tを推定する推定手段と、前記温度検出手段及び推定手段の出力情報に基づいて計測温度を推定する熱伝導解析手段と、を備えて構成されている。
【0057】
また、本実施形態の温度測定方法は、温度を感知する感温部41と、前記感温部41を被測定体に接触させることにより、温度を測定可能な前記感温部41に設けられた測定用の温度センサ1とを備え、前記感温部41を被測定体に接触させたときから、前記測定用の温度センサ1の初期温度との差異を前記測定用の温度センサ1が検知した時間t及びその時の前記測定用の温度センサ1の計測温度を検出する第1の検出ステップと、前記差異を検知した時間tから、一定時間後の時間t及びその時の前記測定用の温度センサ1の計測温度を検出する第2の検出ステップと、前記差異を検知した時間t及び一定時間後の時間t、その時の計測温度から前記感温部41が被測定体に接触した時間tを推定する接触時間推定ステップと、第1の検出ステップと第2の検出ステップで検出した時間t、t及び計測温度並びに前記接触時間推定ステップで推定した時間tから、非定常熱伝導解析によって被測定体の温度を推定する温度推定ステップと、を具備している。
【0058】
したがって、温度測定装置10を例えば、体温計に適用する場合、第1フェーズによって瞬時に温度の計測可能であり、測定者にとって著しく負担が軽減される。
(第2フェーズ)
第2フェーズは、第1フェーズに続いて皮膚と感温部とが短時間で熱的平衡状態になるように測定用の温度センサを加熱する加熱フェーズである。
【0059】
第1フェーズによって大まかな皮膚の初期温度が推定できることになるが、高精度な温度計測は難しい。そこで、第1フェーズにおける熱伝導数値解析によって、皮膚内部の温度分布が図7に示すように分かるので、それを積分することによって時間tまでに、皮膚から測定用の温度センサ1に流入した熱量が計算できる。その熱量と、測定用の温度センサ1を推定された皮膚温度Tまで加熱する熱量を瞬間的に測定用の温度センサ1に加えることによって、測定用の温度センサ1の周りの温度を急速に一様にする。皮膚は瞬間的に加熱されるが瞬時に周りと同一温度になり、測定用の温度センサ1で正確な皮膚温度の計測が可能となる。
【0060】
感温部41が皮膚温度よりも低いため、感温部41を皮膚に接触させた瞬間に皮膚温度が低下する。そのまま皮膚温度が回復するのを待機すると数秒かかってしまうこととなる。感温部41が皮膚に接触して下がった温度を補うように測定用の温度センサ1を発熱させ加熱することにより、極短時間で温度平衡状態を作り出すことができる。
したがって、第2フェーズでは、少なくとも熱伝導解析手段によって推定された計測温度まで測定用の温度センサ1を加熱する加熱手段を有している。
【0061】
図10及び図11において、図10は、時間的に図6に継続するグラフであり、測定用の温度センサを加熱する状態を示しており、図11は加熱後の皮膚内部の温度分布を示すグラフである。
【0062】
図10に示すように各曲線は時間t=20msを基点とした温度変化を示しており、Tは測定用の温度センサの温度、Tは皮膚表面と測定用の温度センサ表面との接触面の温度である。時間t=20msを基点として、数msの間、測定用の温度センサを加熱しその後加熱を停止する。また、測定用の温度センサの温度と保護加熱用の温度センサとの温度が等しくなるように制御して損失する熱量を最小限に抑えている。
【0063】
具体的には、初期温度20℃の感温部(測定用の温度センサ)が温度37℃の皮膚表面に接触してから20ms後に測定用の温度センサの加熱を始め、数msの間、1mm 当たり74mWのパワーを供給して加熱する。加熱終了直後は測定用の温度センサの温度は60℃まで上昇するが、その後測定用の温度センサと皮膚の温度は熱的平衡状態となり等しくなる。この間、測定用の温度センサの温度と保護加熱用の温度センサとの温度は同じ温度に制御され後端側への熱漏洩が防止される。したがって、約1秒以内で皮膚と測定用の温度センサが等温となり短時間で熱的平衡状態となって高精度な温度計測が可能となる。
【0064】
図11は皮膚内部の温度分布を示しており、横軸は皮膚表面からの位置(m)、縦軸は温度(℃)を示している。各曲線は測定用の温度センサを加熱した時間tから経過した時点における温度変化を示しており、経過時間が長くなるに従い曲線のカーブが緩やかになり、皮膚表面からの位置に関して短時間で一様の温度になることが分かる。
【0065】
したがって、第2フェーズの温度測定方法は、第1フェーズで非定常熱伝導解析によって被測定体の温度が推定された後、少なくとも前記推定された温度まで測定用の温度センサ1を加熱し、前記感温部41と被測定体とを熱的平衡状態として被測定体の温度を計測するものである。
【0066】
以上のように測定用の温度センサ1を加熱するので従来の温度計に比し被測定体としての皮膚温度の計測時間を短縮でき、また、保護加熱用の温度センサによって損失する熱量を最小限に抑えることができ、10mKオーダーの高精度の温度計測が可能となる。
(2)実施例
【0067】
図12を参照して温度測定の具体的な実施例について説明する。図12は測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサの動作の概略を示す説明図である。図12中、「表」は時間の進行に伴う測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサの動作の工程を示し、「グラフ」は時間の進行に伴う測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサの温度変化を示している。
【0068】
また、グラフにおいて、横軸は時間t(ms)、縦軸は温度T(℃)を示し、T(t)は測定用の温度センサの時間tにおける温度、T(t)は測定用の温度センサの時間tにおける温度、Tは皮膚表面と測定用の温度センサ表面との接触面の温度、Tは皮膚の温度(推定又は計測温度)を示している。なお、設定された解析条件は、被測定体としての皮膚の温度を35℃一定とし、環境温度を33℃としている。
【0069】
図12に示すようにステップ1では、温度測定装置10の電源を投入し装置を起動する。ステップ2では、測定用の温度センサ1で温度をモニタリングし、保護加熱用の温度センサ2を発熱させて感温部41の先端が例えば、皮膚の温度付近の33℃で一定となるまでプレヒーティングする。これにより計測時間を短縮できる。ステップ3では、感温部41を皮膚に接触させて計測、診断を開始する。
【0070】
ステップ4では、測定用の温度センサ1で温度をモニタリングし、測定用の温度センサ1の温度と保護加熱用の温度センサ2との温度が等しくなるように制御する。したがって、保護加熱用の温度センサ2によって損失する熱量を最小限に抑えることができる。ステップ5では、測定用の温度センサ1の温度T(t)を計測し記録する。ステップ6では、測定用の温度センサ1の温度T(t)を計測し記録し、前述の第1フェーズによって皮膚の温度Tを推定し計測する。また、この推定結果に基づいて測定用の温度センサ1を加熱する印加電力を決定する。以降は前述の第2フェーズが実行される。
【0071】
ステップ7では、測定用の温度センサ1に決定された電力を供給し、測定用の温度センサ1を加熱する。保護加熱用の温度センサ2は測定用の温度センサ1の温度に追随するように変化する。これにより皮膚と測定用の温度センサ1との熱的平衡状態を短時間で作り出すことができる。ステップ8では、測定用の温度センサ1で温度をモニタリングする。保護加熱用の温度センサ2は測定用の温度センサ1の温度に追随するようになる。ステップ9では、測定用の温度センサ1は、皮膚温度Tと熱的平衡状態となって高精度な温度が計測される。
以上のように本実施例によれば、被測定体としての皮膚の温度を短時間で、かつ高精度で計測することができる。
[温度減衰測定]
【0072】
一例として、被測定体の生体組織における皮膚癌や臓器癌の状態を診断する温度減衰測定方法について図13を参照して説明する。温度の減衰測定は、いわゆる熱パルス減衰法によって被測定体の熱伝導率を推定するものである。
【0073】
図13は上述の[温度測定]の(第2フェーズ)における熱的平衡状態以降の動作を示しており、図13中、「表」は時間の進行に伴う測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサの動作の工程を示し、「グラフ」は時間の進行に伴う測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサの温度変化を示している。また、グラフにおいて、横軸は測定時間t(s)、縦軸は温度センサの測定温度T(℃)を示している。なお、測定用の温度センサ及び保護加熱用の温度センサは同期して動作するようになっている。
【0074】
本実施形態では、一定電力の短時間熱パルスと長時間熱パルスとの時間が異なる複数の熱パルスを測定用の温度センサ1に供給し、所定の温度で発熱させる。その後、測定用の温度センサ1で被測定体の表面の温度変化を測定し、その加熱後の温度減衰から熱伝導率を算出する。この場合、保護加熱用の温度センサ2も測定用の温度センサ1と同様に発熱させる。
【0075】
癌組織は、代謝や血流等の生物活性が健常組織より大きく、熱を与えたときに奪われるエネルギーが増えるので、見かけ上測定される熱伝導率が高くなり、癌組織の体積が大きくなるほど見かけ上の熱伝導率が高くなることが確認されている。したがって、患部の温度減衰より推定した見かけ上の熱伝導率を測定することにより腫瘍の診断が可能となる。具体的には、短時間熱パルスを患部に与え、その温度減衰より推定した見かけ上の熱伝導率から表皮部分の癌活性の状態を測定し、同様に長時間熱パルスを患部に与え、その温度減衰による熱伝導率から真皮中の癌活性の状態を測定する。真皮中の癌活性の状態の測定では、熱浸透深さが大きくなったとしても、表皮の影響は大きいので、より深部の組織の情報を含む見かけ上の熱伝導率を測定するようにする。
【0076】
図13に示すようにステップ1では、測定用の温度センサ1で温度をモニタリングしている。ステップ2では、測定用の温度センサ1に、第1の熱パルスとして時間幅数msの一定電力、例えば3mJの短時間熱パルス(ショートパルス)を印加する。この場合、熱的に保護加熱用の温度センサ2は測定用の温度センサ1に追随するようになる。
【0077】
ステップ3では、印加停止後の一定時間、すなわち、数秒間、測定用の温度センサ1をモニタリングして温度減衰特性を検出して熱伝導率を計算する。次いで、ステップ4では、測定用の温度センサ1に、第2の熱パルスとして、前記第1の熱パルスより時間幅の長い時間幅数秒の一定電力、例えば3mJの長時間熱パルス(ロングパルス)を印加する。同様にこのとき、熱的に保護加熱用の温度センサ2は測定用の温度センサ1に追随するようになる。
【0078】
ステップ5では、印加停止後の一定時間、すなわち、数秒間、測定用の温度センサ1をモニタリングして温度減衰特性を検出して熱伝導率を計算する。そして、以上のステップ3及びステップ5の熱伝導率の計算結果やその熱伝導率に基づく診断結果を出力する。
【0079】
したがって、温度減衰測定方法の主要な工程は、感温部41を被測定体に接触させるステップと、測定用の温度センサ1に一定電力の第1の熱パルスを印加するステップと、第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に測定用の温度センサ1の温度減衰特性を検出するステップと、測定用の温度センサ1に前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加するステップと、第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に前記測定用の温度センサ1の温度減衰特性を検出するステップと、を備えている。
【0080】
以上のような温度減衰測定方法によれば、生体の表皮部分から真皮中に至るまでの温度減衰特性を検出して熱伝導率を算出することにより、非侵襲で患部の診断を行うことができる。
【0081】
次に、図14を参照して上記のような温度測定装置10を体温計に用いた一例について説明する。本例は、生体の体温を測定する一般家庭用の電子体温計を示している。
【0082】
電子体温計6は、本体ケース61を備えていて、その本体ケース61の一端側からは棒状の測温部62が延出されている。測温部62の先端には金属製のセンサキャップ63が設けられている。さらに、本体ケース61には表示部64や操作スイッチ65が配設されている。
【0083】
このような電子体温計6の本体ケース61内には、電源としての電池や既述の制御処理部5が内蔵されており、また、センサキャップ63内には感温部41が配設されている。
【0084】
したがって、本例の電子体温計6によれば、上記温度測定装置10が有する効果を奏することができ、体温を短時間で、かつ高精度で計測することができる。特に、第1フェーズの温度測定方法により、瞬時的に体温の計測を行うことができる。
【0085】
なお、前述してきた本発明の温度測定装置、体温計、温度測定方法及び温度減衰測定方法は、生体の温度の測定に好適に適用されるが、これに限るものではない。産業分野における物体の表面温度を測定する場合においても適用可能である。
【0086】
本発明は、上記各実施形態の構成に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1・・・・・・測定用の温度センサ
2・・・・・・保護加熱用の温度センサ
3・・・・・・ヒートシンク
4・・・・・・外郭
5・・・・・・制御処理部
6・・・・・・電子体温計
11・・・・・基板
12・・・・・導電層
12a・・・・電極部
12b・・・・リード線
13・・・・・薄膜素子層
14・・・・・保護絶縁層
15・・・・・配設板
41・・・・・感温部
51・・・・・CPU
52・・・・・ROM
53・・・・・RAM
54・・・・・入出力制御手段
55・・・・・電源回路
61・・・・・本体ケース
62・・・・・測温部
63・・・・・センサキャップ
64・・・・・表示部
65・・・・・操作スイッチ
、S・・・断熱層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14