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  • 特開-金属接合部の磁気的非破壊検査装置 図1
  • 特開-金属接合部の磁気的非破壊検査装置 図2
  • 特開-金属接合部の磁気的非破壊検査装置 図3
  • 特開-金属接合部の磁気的非破壊検査装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111003
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】金属接合部の磁気的非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20220722BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021035816
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】720008405
【氏名又は名称】塚田 啓二
(72)【発明者】
【氏名】塚田 啓二
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA02
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
2G053DA07
(57)【要約】
【課題】スポット溶接や摩擦攪拌接合法などによって金属間を接合した接合部の品質を非破壊で検査する検査装置を提供する。
【解決手段】磁気的非破壊検査装置は、高透磁率の2つの芯材にそれぞれ交流磁場を印加する印加コイルと交流磁場を検出する検出コイルを巻き回した第1磁気プローブと第2磁気プローブの2つを設け、第1磁気プローブの第1印加コイルと第2磁気プローブの第2印加コイルを複数の周波数を発生する交流電源に直列に接続して駆動し、第1磁気プローブの第1検出コイルと第2磁気プローブの第2検出コイルは逆相になるように差動接続して出力差を計測し、出力差を各周波数で検波し位相を算出する計測部を具備し、第1磁気プローブを計測用として、第2磁気プローブを参照用として用い、各周波数での第1磁気プローブで被検査体を測定した時の検査体位相変化量と、標準検査体を測定した時の標準位相変化量を求め、検査体位相変化量を標準位相変化量で標準化する解析部を具備することとしている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料間に形成された接合部を磁気的に検査する非破壊検査装置において、
第1印加コイルと第1検出コイルを高透磁率の第1芯材に巻き回した第1磁気プローブと、第2芯材に第2印加コイルと第2検出コイルを巻き回した第2磁気プローブの2つを具備し、
前記第1磁気プローブの前記第1印加コイルと前記第2磁気プローブの前記第2印加コイルを複数の周波数を発生する交流電源に直列に接続して駆動し、前記第1磁気プローブの前記第1検出コイルと前記第2磁気プローブの前記第2検出コイルは逆相になるように差動接続して出力差を計測し、出力差を各周波数で検波し位相を算出する計測部を具備し、
前記第1磁気プローブを計測用として、前記第2磁気プローブを参照用として用い、各周波数での前記第1磁気プローブで被検査体を測定した時の検査体位相変化量と、標準検査体を測定した時の標準位相変化量を求め、前記検査体位相変化量を前記標準位相変化量で規格化する解析部を具備する磁気的非破壊検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接や摩擦攪拌接合法によって形成した金属同士の接合部を、磁気を用いた非破壊で検査する非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属構造体を製造するに当たり、金属材料間をスポット溶接や摩擦攪拌接合法により結合する製造法が広く使われている。スポット溶接は重ね合わせた金属材料を対向した電極で挟み、電極間に電流を流して発生する抵抗熱で接合する方法である。また摩擦攪拌接合法はツールを接合部に押し当てて回転させることにより摩擦熱で材料を軟化させ材料を混ぜることにより接合する方法である。これらの方法は自動車ボディや部品、家電製品、電気機器等の筐体などを接合する方法として広く使われている。
【0003】
接合の品質を非破壊で検査する方法はまだ確立されてなく、サンプリングしたものを引張試験などで検査する方法がとられている。引張試験は破壊検査であり、全製品を検査することができず、また検査として手間がかかっていた。非破壊検査としてスポット溶接の検査に超音波検査法があるが、これは接合部の内部にできたナゲットの大きさを判定するものであった。また磁気による非破壊検査では、漏洩磁束法を用いたものや(非特許文献1)、印加コイルと検出コイルを組み合わせた磁気プローブを溶接部の表と裏から挟み込んで磁気的に計測する方法(特許文献1)がある。製造後ではなく製造中にスポット溶接に使う対向した電極に高周波磁場印加コイルと検出コイルを取り付け、スポット溶接電極間に通電が終了してから検出磁場強度の時間変化を計測するものもある(特許文献2)。
【0004】
磁気的検査法において複数の周波数を使って、深さ分布を磁気的な画像としてみている方法がある(非特許文献1)。この方法は周波数によって、印加磁場が侵入できる深さが違い、周波数が低いほど深いところに侵入できる表皮深さの周波数依存性を使っている。画像として縦軸を周波数、横軸を走査した位置で、データとして色あるいは等高線で磁場強度あるいは磁場位相を表現していた。これによって、溶接部表面だけでなく内部の状態を調べている。
【0005】
非破壊検査用の磁気センサプローブとしては、印加コイルと検出コイルからなる渦電流探傷用のものが一般的に用いられている。また、検出コイルの他、低周波にも感度がある磁気センサを用いたものが最近使われている。ここで、検出コイルは測定対象からの磁場だけでなく、印加磁場も直接入ってくるので、それを打ち消すために検出コイルを差動型の、つまり微分型コイルとして構成されているものもある。また検出信号としては印加コイルの周波数に同期検波して、信号強度および位相を解析されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4756224号
【特許文献2】特許第3098193号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Keiji Tsukada,Kousuke Miyake,Daichi Harada,Kenji Sakai,Toshihiko Kiwa,“Magnetic nondestructive test for resistance spot welds using magnetic flux penetration and eddy current methods”,J.Nondestruct Eval,vol.32,pp.286-293(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スポット溶接の磁気的検査法における、検出磁場強度の時間変化をとらえる方法では内部の深さ方向における溶接状態の分布を把握することが困難であった。また、複数の周波数を印加して計測する方法では、溶接部を横切るように走査してその変化量を計測していた。このため、1回の検査に時間がかかる問題があった。また、磁場強度や位相で表現された磁場画像は、接合状態を可視化できる点では優れているが、パターン認識であり定量的にどのように判定するかは検査者の判断に任されていた。
【0009】
磁気センサプローブとして一本の磁気センサを用いた場合で印加コイルと検出コイルが組み合わせされたものでは、検出コイルに印加磁場そのものの信号が検査対象から発生した信号と一緒になり、しかも印加磁場の方が大きい。そのため、検出コイルの信号を読み込む計測回路としてダイナミックレンジが大きいものが必要とされる問題があった。検出コイルに微分コイルを用いたものは、ダイナミックレンジの問題が解決できるものの、一つの検出コイルつまりマグネトメータの構成のものと比べ検査対象との距離であるリフトオフによる信号減衰が大きい問題があった。このため、一本の磁気センサに印加コイルと微分型の検出コイルを用いたものでは、表面の形状依存性が大きくなってしまう問題があった。スポット溶接により接合した箇所ではスポット溶接の電極が押し当てられるので変形してくぼんだ形状になる。このため、リフトオフ依存性の高い微分コイルを使った場合には、溶接接合部の状態を反映した信号だけでなく、表面の凸凹に影響された大きな信号変化として検出されてしまう。
【0010】
本発明者は、このような現状に鑑み、接合の状態を画像認識ではなく定量検査でき、しかも大きなリフトオフの検査条件でも影響が少ない検査磁気プローブとそのデータ処理法の開発を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の磁気的非破壊検査装置は、高透磁率の2つの芯材にそれぞれ交流磁場を印加する印加コイルと交流磁場を検出する検出コイルを巻き回した第1磁気プローブと第2磁気プローブの2つを設け、第1磁気プローブの第1印加コイルと第2磁気プローブの第2印加コイルを複数の周波数を発生する交流電源に直列に接続して駆動し、第1磁気プローブの第1検出コイルと第2磁気プローブの第2検出コイルは逆相になるように差動接続して出力差を計測し、出力差を各周波数で検波し位相を算出する計測部を具備し、第1磁気プローブを計測用として、第2磁気プローブを参照用として用い、各周波数での第1磁気プローブで被検査体を測定した時の検査体位相変化量と、標準検査体を測定した時の標準位相変化量を求め、検査体位相変化量を標準位相変化量で規格化する解析部を具備することとしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面の凸凹に影響が少なく、溶接部の深さ方向での状態を定量的に把握することができ、溶接の良品、不良品を容易に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る磁気的非破壊検査装置の概略説明図である。
図2】各周波数における強度と位相のリフトオフ依存性
図3】スポット溶接でサイクル数が異なる被検査体を用いて周波数変化による検査体位相変化量の計測結果のグラフである。
図4】標準位相変化量により図3を規格化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の実施形態を、添付する図面を参照して詳細に説明する。同様の用途及び機能を有する部材には同符号を付してその説明を省略する。
【0015】
本発明の非破壊検査装置は、図1に示すように、第1磁気プローブ1-1と第2磁気プローブ1-2を具備しており、第1磁気プローブは被検査体Tを計測する計測用として用いている。第1磁気プローブは芯材として太さ4mmφの円柱状の高透磁率の第1ヨーク材2-1を用いており、このヨーク材2-1に巻き回した第1印加コイル3-1と第1検出コイル4-1を具備している。ここでは、第1印加コイルとして銅線で60巻き、第1検出コイルとして200巻きとした。各芯材、各コイルの設計条件は、溶接される被検査体の材料や、大きさに合わせて適時調整してよい。第2磁気プローブは第1磁気プローブと同じ構造を持っており参照用として用いている。
【0016】
検査装置は、図1に示すように第1磁気プローブ1-1と第2磁気プローブ1-2の他に、第1印加コイル3-1と第2印加コイル3-2を直列に接続して複数の周波数を時系列的にあるいは重畳させて交流電流を印加する交流電源5と、第1検出コイル4-1と第2検出コイル4-2の出力を逆相になるように差動接続して出力差を計測する計測部6での増幅器7と、増幅器7からの信号を交流電源5からのトリガー信号を受け取り検波する検波器8を備える。検波器8によって得られた磁気信号の強度と位相を検出する。これらの強度と位相の内、特に位相を使い、その位相変化量を解析する解析部9も検査装置に具備している。
【0017】
位相と強度のパラメータを用いた時のリフトオフの依存性を調べた結果が図2である。鋼板を第1磁気プローブで調べたのもので、リフトオフを密着させた0mmから2mmまで距離を変化させて強度と位相の変化を示している。結果から強度では距離を離すにつれて減衰が大きいことがわかる。一方、位相の方では変化が小さいことからリフトオフが変動しても、影響が小さい。このため、本発明では、位相を使って検査した。もちろん、リフトオフ変動が少ない検査では、位相だけでなく、強度の変化量も使っても良い。
【0018】
位相の情報を使って、溶接の評価を行った。本検査装置を用いて被検査体Tとして0.7mm厚と1.6mm厚および同じ1.6mm厚の鋼板を3枚積層した鋼板でのスポット溶接したものを調べた。被検査体Tとして溶接の通電時間としてのサイクル数を変化させて溶接条件の異なるものを用いた。ここでサイクル数が10以上のものが引張試験でも良好な結果を示したので、サイクル数10のものを良品判定する標準として標準検査体Sとした。交流磁場の周波数としては400Hzから1kHzまでの周波数を用いた。検査方法としては、まず被検査体Tとして溶接されてないものを計測した信号を基準としたのち、第1磁気プローブ1-1に標準の溶接状態と判断される標準検査体Sを当てて測定した時の位相の変化量である標準位相変化量ΔθSを各周波数で求めた。同様に、サイクル数が異なる各被検査体Tの検査体位相変化量ΔθTを各周波数で求めた。ここで、基準とした位相は溶接されてないものを測定した値を使わなくても、任意に設定した値でも良い。
【0019】
各被検査体Tにおける周波数による検査体位相変化量ΔθTをグラフにしたものを図3に示す。サイクル数の違いによって検査体位相変化量ΔθTが変化していることが分かる。また、サイクル数が増えてくることによって、検査体位相変化量ΔθTが増加してきており、接合により金属がまじりあった部分の組織が変わってきたとともに実効的な厚さも違ってきたのでこの変化が表れている。また周波数が大きくなると検査体位相変化量ΔθTは増えてくる。ここで複数の周波数を用いている理由は、印加磁場が表面から減衰していき1/eに減衰する深さとして定義される表皮深さの周波数依存性が1/√(πfμσ)であることを利用している。ここでfは周波数、μは透磁率、σは導電率を表している。表皮探さは、周波数が低くなるにつれて深くなるので、つまり低い印加磁場の周波数ほど深いところの情報がとれる。しかし、周波数の高いところでは検査体位相変化量ΔθTが大きく差がはっきりと見えるが、本来知りたいところの接合部である内部の変化をはっきり判断できない問題がある。このように、周波数によって検査体位相変化量ΔθTの度合いが異なるため、良品か不良品かを定量的に判定することが困難である。
【0020】
定量的に判定できる方法として、各周波数における検査体位相変化量ΔθTを規格化する方法をとった。規格化として、まず標準検査体Sの標準位相変化量ΔθSを求め、その値に対する検査体位相変化量ΔθTの比ΔθT/ΔθSを求めた。その結果を図4に示す。当然ながらサイクル数10の被検査体Tは標準値であるので数値が1になっている。またサイクル数12でもほとんどサイクル数10と同じ結果であった。サイクル数が10より大きい16,18,20のものは全ての周波数で1より大きくなっている。これらの被検査体Tでは磁気的な検査が終わったのち引張試験の結果、十分な強度を示し良品であったことが分かった。一方、サイクル数が小さい2,4,6,などは全ての周波数で1より小さく、引張強度でも不十分な強度であった。サイクル数が少ないということは十分な加熱がされていなく溶け込みがほとんどないため金属間の接合ができていないので、これらの結果は、本磁気検査方法が接合強度と相関していることを示している。またサイクル数4,8,14では周波数が2kHz以上ではほとんど1に近いあるいは1以上であるが、それ以下の周波数では低くなっている。これは表面近傍では十分な溶け込みが得られているが、深いところではまだ不十分であることを示している。
【0021】
このように規格化した位相変化量比ΔθT/ΔθSを用いることにより定量的に溶接の良品、不良品を判定することが容易であることが分かった。検査法としては、ここでは周波数を多く使ったが、たとえば数kHzの周波数と数100Hzの周波数の2つの周波数だけを使い、表面層と内部の情報をとるだけでも良い。また、計測方法としても、第1磁気プローブで被検査体Tと標準検査体Sを計測したが、第1磁気プローブに被検査体Tを、第2磁気プローブに標準検査体Sを当てて同時に計測してもよい。この場合、それぞれの位相変化量が必要なため、第1磁気プローブと第2磁気プローブに溶接していない被検査体測定時の位相、あるいは任意の基準値を設定しておく必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、自動車や、家電製品、電気機器などの構造体の製造に使われているスポット溶接や摩擦攪拌接合などの接合部の接合強度を非破壊で評価するのに適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1-1 第1磁気プローブ
1-2 第2磁気プローブ
2-1 第1ヨーク材
2-2 第2ヨーク材
3-1 第1印加コイル
3-2 第2印加コイル
4-1 第1検出コイル
4-2 第2検出コイル
5 交流電源
6 計測部
7 増幅器
8 検波器
9 解析部
T 被検査体
S 標準検査体
図1
図2
図3
図4