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特開2022-111105排出ガス用消臭剤及び排出ガスの消臭方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111105
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】排出ガス用消臭剤及び排出ガスの消臭方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20220722BHJP
   A61L 9/013 20060101ALI20220722BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20220722BHJP
   B01D 53/38 20060101ALI20220722BHJP
   B01D 53/72 20060101ALI20220722BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
A61L9/01 H ZAB
A61L9/013
A61L9/14
B01D53/38 120
B01D53/72 200
B01D53/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005919
(22)【出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021006120
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】島田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇摩
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】根本 康成
(72)【発明者】
【氏名】道中 敦子
【テーマコード(参考)】
4C180
4D002
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180BB01
4C180BB02
4C180BB04
4C180BB05
4C180BB08
4C180BB09
4C180BB11
4C180CB04
4C180EB06Y
4C180EB07X
4C180EB08X
4C180EB15Y
4C180EB26X
4C180EB27X
4C180EB29Y
4C180EC01
4C180GG07
4D002AA05
4D002AA06
4D002AA32
4D002AA33
4D002AA40
4D002AB02
4D002AC01
4D002AC04
4D002AC07
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA01
4D002DA19
4D002DA33
4D002DA70
4D002GA01
4D002GB08
4D002GB09
4D002GB20
(57)【要約】
【課題】排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して、効果的に消臭することが可能な技術を提供する。
【解決手段】多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられる消臭剤であって、グリフィン法によるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液状の排出ガス用消臭剤を提供する。また、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスと、上記の排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む、排出ガスの消臭方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられる消臭剤であって、
グリフィン法によるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液状の排出ガス用消臭剤。
【請求項2】
前記ノニオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項3】
前記ノニオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項4】
前記HLB値が異なる複数種の前記ノニオン性界面活性剤を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項5】
さらにシクロデキストリンを含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項6】
さらに2-フェノキシエタノールを含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項7】
さらに香料と、消臭剤中の前記香料の分離を抑制するための分離抑制剤とを含有し、
前記分離抑制剤は、2-フェノキシエタノール、エタノール、及びアセトニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項8】
水で希釈されてから噴霧されるものである請求項1~7のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項9】
粘度が25℃において500mPa・s以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項10】
前記多環式芳香族化合物は、ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、ビフェニル、ベンゾチオフェン、キノリン、及びアセナフチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~9のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項11】
前記多環式芳香族化合物は、少なくともナフタレンを含む請求項1~10のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤。
【請求項12】
多環式芳香族化合物を含有する排出ガスと、請求項1~11のいずれか1項に記載の排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む、排出ガスの消臭方法。
【請求項13】
前記排出ガスを湿式集塵処理する湿式スクラバー、又は噴霧装置を用いて、前記排出ガスと前記排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む請求項12に記載の排出ガスの消臭方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排出ガス用消臭剤及び排出ガスの消臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の工場、事業所、及び焼却施設等から生じうる、多環芳香族炭化水素(PAHs)を含有する排出ガスは、多環芳香族炭化水素に起因する特有の臭気を有している。その臭気が、各種の工場、事業所、及び処理施設等において問題の原因となりうる。そのため、多環芳香族炭化水素を除去する技術がこれまでにも種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、多環芳香族炭化水素を含む排ガスを、PAHs分解触媒を担持した多孔質セラミックスフィルタからなるPAHs分解触媒体に透過させ、排ガス中のダストを除去するとともに前記PAHsを分解する排ガス処理方法が提案されている。また、特許文献2には、有機物質の燃焼で発生する多環芳香族炭化水素を非晶質鉄水酸化物および/または活性炭で吸着する多環芳香族炭化水素の除去方法が提案されている。
【0004】
一方、排気ガス中の揮発性有機化合物の消臭を目的として、特許文献3には、水性媒体中に、少なくとも1種以上のアニオン性界面活性剤を含み、該アニオン性界面活性剤が臨界ミセル濃度以上の濃度である揮発性有機化合物の消臭組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-265930号公報
【特許文献2】特開2012-020278号公報
【特許文献3】特開2017-221488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたようなPAHs分解触媒体を用いた技術や、特許文献2に開示されたような吸着材を用いた技術では、触媒の分解時や吸着材の洗浄作業時の安全性、反応塔の設置面積等を確保する必要がある。そのため、実際に実施するには解決すべき課題が数多くあり、実際に実施するのは困難である。
【0007】
また、特許文献3には、排気ガス中の揮発性有機化合物の消臭が可能となる技術が提案されているが、排出ガス中の多環芳香族炭化水素の消臭技術については知見がない。
【0008】
そこで本発明は、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して、効果的に消臭することが可能な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられる消臭剤であって、グリフィン法によるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液状の排出ガス用消臭剤を提供する。
【0010】
また、本発明は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスと、上記の排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む、排出ガスの消臭方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して、効果的に消臭することが可能な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明者らは、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して、効果的に消臭することが可能な技術の提供を目的として種々の検討を行った。前述の通り、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対する消臭技術については、これまで知見が少なかったように思われる。そのため、本発明者らは、多環式芳香族化合物に起因する臭気に対する消臭効果が期待できると考えられる消臭メカニズムの種類ごとに検討及び実験を行った。
【0014】
具体的には、本発明者らは、(1)高分子の架橋を利用した原理、(2)芳香環の間に働くπ-π相互作用を利用した原理、(3)包接化合物による包接作用を利用した原理、及び(4)界面活性剤のミセルを利用した原理を検討した。
【0015】
(1)高分子の架橋を利用した原理は、高分子、特に高分子凝集剤の中にはポリマー同士を連結させた架橋により、網目状を形成するものがあり、その網目に多環式芳香族化合物を捕らえられるのではないかとの考えによるものである。このような考えの下、後記試験例1Aに例示するように、本発明者らによって、種々の高分子凝集剤を用いた実験及び検討がなされた。
【0016】
(2)芳香環の間に働くπ-π相互作用を利用した原理に関し、有機化合物の芳香環は、2つの芳香環の間に働く分散力(π-π相互作用)により、積み重なる配置で安定化する傾向が知られており、スタッキング相互作用とも称されている。多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに、芳香環を有する化合物を接触させることにより、その化合物と多環式芳香族化合物とのπ-π相互作用(スタッキング相互作用)により、消臭が期待できるのではないかとの考えによるものが上記(2)の原理である。このような考えの下、後記試験例1Bに例示するように、本発明者らによって、π-π相互作用が起こると推測される各種のリグニンスルホン酸塩を用いた実験及び検討がなされた。
【0017】
(3)包接化合物による包接作用を利用した原理は、包接化合物における分子内部に別の化合物を取り込む作用(包接作用)により、包接化合物の分子内に、排出ガス中の多環式芳香族化合物を包接できないかとの考えによるものである。シクロデキストリンは、環状構造の内部が他の比較的小さな分子を包接できる程度の大きさの空孔になっており、かつ、疎水性となっているため、疎水性である多環式芳香族化合物を包接しやすいと考えられる。そのため、後記試験例1Cに例示するように、本発明者らによって、各種のシクロデキストリンを用いた実験及び検討がなされた。
【0018】
(4)界面活性剤のミセルを利用した原理に関し、界面活性剤により形成されるミセルは疎水性を示す疎水基と親水性を示す親水基の両方を有している。そこに疎水性の化合物が存在すると、その化合物をミセルが取り囲む。同様のことが多環式芳香族化合物についても生じ得るのではないかとの考えによるものが上記(4)の原理である。このような考えの下、後記試験例1Dに例示するように、本発明者らによって、各種の界面活性剤を用いた実験及び検討がなされた。
【0019】
本発明者らは、上述した各々の実験及び検討を鋭意行った。その結果、上記(4)の原理を狙った界面活性剤を用いた実験及び検討のなかでも、特定の界面活性剤を用いた技術によって、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して効果的に消臭することが可能であることを見出した。すなわち、当該技術は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられる消臭剤であって、グリフィン法によるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液状の排出ガス用消臭剤に関する。また、当該技術は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスと、上記の排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む排出ガスの消臭方法に関する。当該技術では、界面活性剤の中でも、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を用いた場合に効果があったことから、消臭メカニズムは、実際には上記(4)の原理とは異なり、疎水性の高いミセルが形成されることで多環式芳香族化合物を気相から除去することによるものと考えられる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態の「排出ガス用消臭剤」(以下、単に「消臭剤」と記載することがある。)、及び「排出ガスの消臭方法」(以下、単に「消臭方法」と記載することがある。)について、本発明の目的の観点から好ましい構成等を説明する。
【0021】
本技術において、消臭対象である「多環式芳香族化合物」とは、1分子内に芳香環を含む環を2以上有する有機化合物をいう。多環式芳香族化合物には、代表的には、ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した炭化水素である多環芳香族炭化水素(PAHs;縮合環式炭化水素とも称される)が含まれる。このほか、多環式芳香族化合物には、例えば、多環芳香族炭化水素に置換基を含むもの(置換縮合環式化合物)、環にヘテロ原子を含むもの(複素多環式芳香族化合物)、芳香環を含む2以上の環が縮合したもの、及び芳香環を含む2以上の環が連結したもの(連結型多環式芳香族化合物)、並びにそれらの複数に該当するもの(例えば、上記置換基及び上記ヘテロ原子を含むもの)等が含まれる。
【0022】
多環式芳香族化合物としては、例えば、アズレン、ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、サポタリン、インデン、インダン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、キノリン、ビフェニル、アセナフテン、アセナフチレン、インドール、フルオレン、1-ナフトール、2-ナフトール、スカトール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、イソキノリン、及びベンゾチアゾールチオール等を挙げることができる。
【0023】
本発明の一実施形態の消臭剤は、上述の多環式芳香族化合物の1種又は2種以上を含有する排出ガスに用いることができる。また、本発明の一実施形態の消臭方法は、上述の多環式芳香族化合物の1種又は2種以上を含有する排出ガスを対象とすることができる。
【0024】
消臭剤は、多環式芳香族化合物のなかでも、ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、ビフェニル、ベンゾチオフェン、キノリン、及びアセナフチレン等の消臭により有効である。そのため、それらの1種又は2種以上を含有する排出ガスが、対象としてより好適である。この消臭剤は、上記の多環式芳香族化合物のなかでも、ナフタレンの消臭にさらに有効である。そのため、多環式芳香族化合物として少なくともナフタレンを含有する排出ガスが、対象としてさらに好適である。
【0025】
上記の多環式芳香族化合物(特にナフタレン)を含む排出ガスは、例えば、アスファルト製造業、コールタール蒸留・製品製造業、石油製品製造業、石炭製造業、農薬製造業、及び塗料製造業等の各種工場から生じることが考えられる。また、排出ガスとしては、例えば、火力発電所や廃棄物処理施設等において、石炭の乾留や石油蒸留で生じたガス、石炭・石油燃焼時に生じたガス、及び燃料の燃焼で生じたガス等が挙げられる。
【0026】
排出ガスには、上述の多環式芳香族化合物以外の化合物が含まれていてもよい。多環式芳香族化合物以外の典型的な化合物としては、例えば、単環式芳香族化合物、アルデヒド類、低級脂肪酸、及び有機硫黄化合物等が挙げられる。単環式芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ベンゾニトリル、トリエチルベンゼン、エチルメチルベンゼン、ピリジン、ジメチルピリジン、フェノール、及びクレゾール等が挙げられる。アルデヒド類としては、例えば、アセトアルデヒド、及びプロピオンアルデヒド等が挙げられる。低級脂肪酸としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、及び吉草酸等が挙げられる。有機硫黄化合物としては、例えば、メタンチオール、メチルチオフェン、硫化アリル、及びジメチルスルフィド等が挙げられる。本発明の一実施形態の消臭剤は、多環式芳香族化合物に起因する臭気に対する消臭効果に加えて、上記のような単環式芳香族化合物に起因する臭気に対する消臭効果を有していてもよい。
【0027】
消臭剤は、有効成分として、グリフィン法によるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤(本明細書において、単に「ノニオン性界面活性剤」と記載することがある。)を含有する。HLB値が10以下のノニオン性界面活性剤を用いることにより、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して効果的に消臭することが可能である。一方、ノニオン性界面活性剤のHLB値が4未満であると、水性液状の消臭剤において、固形の沈殿や相分離が生じる場合があるところ、HLB値が4以上のノニオン性界面活性剤を用いることにより、均一な水性液とすることが可能である。HLB値は、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値であり、親水親油バランスとも称されている。グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤における親水部の式量の総和/界面活性剤の分子量で求められる。
【0028】
HLB値によって界面活性剤の性質がある程度決まることから、主にそのHLB値に応じて、ノニオン性界面活性剤は、水性液状の消臭剤中で、分散若しくは溶解している状態、又はそれらの両方の状態で存在し、それらのような状態でミセルを形成しうると考えられる。
【0029】
排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して、より効果的に消臭することが可能であることから、ノニオン性界面活性剤のHLB値は、4~9であることが好ましく、5~9であることがより好ましく、6~9であることがさらに好ましい。
【0030】
HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールジオレエート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル(ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとも称される。);ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、及びソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンジオレイルエーテル、及びポリオキシエチレンジステアリルエーテル等)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル、及びポリオキシプロピレンステアリルエーテル等)、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、及びポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体;等を挙げることができる。
【0031】
上記のなかでも、ノニオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。それらのなかでも、ノニオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。上記のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるEO(エチレンオキシド)付加モル数(以下、「n」と記載することがある。)は、2~20が好ましく、4~12がより好ましく、6~10がさらに好ましい。
【0032】
上述のHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤の1種又は2種以上を消臭剤に含有させることができる。HLB値が4~10の範囲においてHLB値が異なる複数種のノニオン性界面活性剤を消臭剤に含有させれば、それらの特定のHLB値のノニオン性界面活性剤に応じて、排出ガス中の多環式芳香族化合物の様々な種類に効果的な消臭剤を得られることが期待できる。
【0033】
本発明の一実施形態の消臭剤は、上述したHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液状の組成物である。本技術において、「水性液状」とは、少なくとも水を含有する液状を意味する。したがって、この消臭剤は、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤及び水を少なくとも含有する。消臭剤に含有されるノニオン性界面活性剤や、消臭剤に任意に含有される後述の香料は、引火性を有する液体に該当しやすい成分であるところ、消臭剤が水を含有することにより、引火し難くなり、安全性を高めることが可能となる。この観点から、消臭剤中の水の含有量は、消臭剤の全質量を基準として、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
【0034】
消臭剤の流通性及び汎用性等の観点から、消臭剤は、流通時において、消臭剤中のノニオン性界面活性剤の濃度が比較的高く、水の濃度が比較的低い消臭剤であることが好ましく、使用時において、水で希釈されるものであることが好ましい。流通時における消臭剤中のノニオン性界面活性剤の含有量は、当該消臭剤の全質量を基準として、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることがさらに好ましい。また、この場合の流通時における消臭剤中の水の含有量は、当該消臭剤の全質量を基準として、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
上述の消臭剤は、使用時において、水で希釈されてから噴霧されるものであることが好ましく、水で希釈された後の消臭剤(希釈消臭剤)が排出ガスに噴霧される態様で用いられることがより好ましい。水による希釈倍率としては、流通時の消臭剤に対して、質量基準で10~10000倍が好ましく、100~5000倍がより好ましく、100~1000倍がさらに好ましい。使用時における消臭剤(希釈消臭剤)中のノニオン性界面活性剤の含有量は、使用時の消臭剤(希釈消臭剤)の全質量を基準として、0.001~10質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。また、この場合の使用時における消臭剤(希釈消臭剤)中の水の含有量は、使用時の消臭剤(希釈消臭剤)の全質量を基準として、90質量%以上であることが好ましい。
【0036】
上述の流通時及び使用時の各消臭剤において、ノニオン性界面活性剤の含有量及び水の含有量が上記の好ましい範囲である場合、ノニオン性界面活性剤及び水以外の残余部分は、後述するその他の成分の1種又は2種以上とすることができる。当該残余部分は、後述する香料、溶媒、及び分離抑制剤を含むことが好ましく、香料、溶媒、及び分離抑制剤であることがより好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態の消臭剤の粘度、及びpH等の性状は、特に制限されない。消臭剤を噴霧等により使用しやすい観点から、消臭剤の25℃での粘度は、500mPa・s以下であることが好ましく、300mPa・s以下であることがより好ましく、100mPa・s以下であることがさらに好ましい。本明細書において、消臭剤の粘度は、温度25℃及び回転速度100rpmの条件において、回転粘度計を用いて測定された値をとる。後記試験例における粘度の値は、上記条件下、株式会社アタゴ製の商品名「デジタルB型粘度計 BASE L」(測定下限値:20mPa・s、ローター:L1~3)を用いて測定した値である。
【0038】
消臭剤の25℃でのpHは、5~9であることが好ましく、6~8であることがさらに好ましい。本明細書において、消臭剤のpHは、25℃において、pHメーターを用いて測定された値をとる。後記試験例におけるpHの値は、温度25℃において、東亜ディーケーケー株式会社製の商品名「HM-7J」を用いて測定した値である。
【0039】
本発明の一実施形態の消臭剤は、前述のノニオン性界面活性剤及び水以外のその他の成分を含有してもよい。消臭剤は、一態様において、その他の成分として、例えば、シクロデキストリンを含有することが好ましい。消臭剤が、前述のノニオン性界面活性剤とともに、シクロデキストリンを含有する場合、ノニオン性界面活性剤による消臭効果とともに、シクロデキストリンによる包接作用を利用した消臭効果も期待できる。また、その効果により、消臭剤における必須成分であるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤の必要量を少量化することが期待でき、有効成分の含有量を抑えることで消臭剤の低コスト化にも貢献しうる。シクロデキストリンとしては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリン、並びにそれらの誘導体等を挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
また、消臭剤は、一態様において、その他の成分として、消臭剤の粘度及び/又は凝固点を調整する目的、並びに香料をさらに含有させる場合における香料の分離を抑える目的等で芳香族アルコールを含有することが好ましい。芳香族アルコールとしては、例えば、2-フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルコール、アニシルアルコール、バニリルアルコール、シンナミルアルコール、ベンズヒドリルアルコール、及びフェネチルアルコール等を挙げることができる。それらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、芳香族アルコールによる上記に挙げた目的を達成しやすい観点、及び消臭効果を維持し、必須成分である前述のノニオン性界面活性剤の必要量を抑えられる観点から、消臭剤は、さらに2-フェノキシエタノールを含有することがより好ましい。消臭剤に2-フェノキシエタノールを含有させることで、消臭剤の粘度も低下させることが可能である。
【0041】
また、消臭剤は、一態様において、その他の成分として、臭気を緩和する目的で香料を含有することが好ましい。香料は、芳香を有し、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気をマスキングする効果を有しうる。また、消臭剤が香料を含有することで、必須成分であるノニオン性界面活性剤の必要量を抑えられることが期待できる。
【0042】
香料としては、植物精油等の天然香料、合成香料、及びそれらのうちの2種以上を混合した調合香料等を用いることができる。これらのなかでも調合香料が好ましい。調合香料には、香料(天然香料及び合成香料等の香料化合物)のほか、例えば、水、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコール等の1種又は2種以上の溶媒が含まれていてもよい。
【0043】
消臭剤に含有させうる香料(香料化合物)は特に限定されない。化合物類ごとにいくつか例を挙げると、例えば、α-ピネン、β-ピネン、及びリモネン等の炭化水素テルペン類;リナロール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、テルピネオール、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノール等のアルコール類;酢酸リナリル、酢酸ベンジル、酢酸イソボルニル、及びp-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート等のエステル類;シトラール、ゲラニアール、ネラール、及びヘキシルシンナムアルデヒド等のアルデヒド類;γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン、及びクマリン等のラクトン類;カンファー、メントン、γ-メチルイオノン、及びダマセノン等のケトン類;インドール;オレンジ精油、レモン精油、ライム精油、ユーカリ精油、及びミント精油等の植物精油(天然香料);等が挙げられる。
【0044】
消臭剤が香料を含有する場合、消臭剤は、香料とともに、2-フェノキシエタノール、エタノール、及びアセトニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することがより好ましい。これらのほか、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リモネン、プロピレングリコール、及び1,4-ブタンジオールを用いて本発明者らが検討を行ったところ、消臭剤が、2-フェノキシエタノール、エタノール、又はアセトニトリルを含有することで、水、ノニオン性界面活性剤、及び香料を混合した際の分離が生じ難いことがわかったためである。したがって、消臭剤が香料を含有する場合において、2-フェノキシエタノール、エタノール、及びアセトニトリルは、消臭剤中の香料の分離を抑制するための分離抑制剤として作用する。特に、引火性を低下させて安全性を高めるために消臭剤中に水を5質量%以上含有させた場合に香料も含有させると分離が生じやすくなるところ、さらに上記特定の分離抑制剤を含有させることで分離を抑制しやすくなる。分離抑制剤は、上述の香料の溶媒として調合香料に含有されている態様で消臭剤に含有させてもよいが、調合香料に含有される溶媒とは別に、消臭剤に分離抑制剤をさらに含有させることが好ましい。上記分離抑制剤のなかでも、エタノール(沸点78℃)及びアセトニトリル(沸点82℃)に比べて沸点が247℃と高く揮発し難いことで、保存安定性が良好で長期的な保管にも適する観点から、2-フェノキシエタノールがさらに好ましい。
【0045】
流通時の消臭剤中の香料の含有量は、当該消臭剤の全質量を基準として、1~70質量%であることが好ましく、1~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。また、使用時の消臭剤(希釈消臭剤)中の香料の含有量は、当該消臭剤の全質量を基準として、0.0001~7質量%であることが好ましく、0.001~1質量%であることがより好ましく、0.002~0.2質量%であることがさらに好ましい。香料として、調合香料等の香料組成物が使用される場合、上記の香料の含有量は、香料組成物中の香料(香料化合物)換算の含有量を意味する。
【0046】
流通時の消臭剤中の上記特定の分離抑制剤の合計の含有量は、当該消臭剤の全質量を基準として、5~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることがさらに好ましい。また、使用時の消臭剤(希釈消臭剤)中の上記特定の分離抑制剤の合計の含有量は、当該消臭剤の全質量を基準として、0.0001~8質量%であることが好ましく、0.001~1質量%であることがより好ましく、0.002~0.5質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態の消臭方法は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスと、前述の排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む。排出ガスと消臭剤とを接触させる方式としては、特に制限されない。例えば、湿式スクラバー又は噴霧装置を用いて、排出ガスと消臭剤とを接触させることができる。
【0048】
湿式スクラバーとしては、例えば、排出ガスの流れに加圧洗浄液を噴射する方式(加圧水式)や、溜水中に排出ガスをくぐらせる方式(溜水式)、洗浄液を回転体で分散させて排出ガスを接触させる方式(回転式)等の湿式スクラバーを用いることができる。これらの湿式スクラバーにおける洗浄液や溜水に前述の消臭剤を含有させたり、洗浄液と溜水を用いる手法と同様の手法で、洗浄液や溜水とは別途に前述の消臭剤を用いたりすることにより、前述の消臭剤と排出ガスとを接触させることができる。
【0049】
噴霧装置としては、ガスと液体とが接触可能に構成された装置を用いることができる。この噴霧装置は、ガスを噴霧して、噴霧されたガスが液体に接触することが可能に構成された装置であってもよいし、液体を噴霧して、噴霧された液体がガスに接触することが可能に構成された装置であってもよい。好ましくは、液体を噴霧して、噴霧された液体がガスに接触することが可能に構成された噴霧装置を用いることができ、この噴霧装置を用いて、排出ガスに消臭剤を噴霧して、排出ガスと消臭剤とを接触させることが好ましい。このような噴霧装置としては、例えば、動力噴霧器、動力散布器、及び手動式霧吹き等を挙げることができる。
【0050】
湿式スクラバーを用いる場合、排出ガスの湿式集塵処理等が行われている既存の排出ガス処理設備における湿式集塵装置を用い得る点でも利点がある。また、噴霧装置を用いる場合、既存の排出ガス処理設備において、既存の噴霧装置を大きく改造することなく、敷設することが可能である。本発明の一実施形態の排出ガスの消臭方法は、既存の排出ガス処理設備に導入しやすい観点、及び多環式芳香族化合物のみならず、単環式芳香族化合物に起因する臭気に対する消臭効果も発現しやすい観点から、排出ガスを湿式集塵処理する湿式スクラバー、又は噴霧装置を用いて、排出ガスと排出ガス用消臭剤とを接触させることを含むことが好ましい。
【0051】
消臭剤の使用量は特に制限されない。実際の排出ガスが生じる工場等の現場において、予備実験を通じて、排出ガスに対する消臭剤の使用量を適宜決定することが好ましい。本発明者らの実験及び検討の結果によれば、例えば、排出ガス1Lに対する消臭剤の使用量は、有効成分である薬剤(HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤等)換算の使用量で、0.01~2000mg/Lであることが好ましく、0.1~100mg/Lであることがより好ましく、0.2~10mg/Lであることがさらに好ましい。
【0052】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の消臭剤は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられる消臭剤であって、グリフィン法によるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液状の消臭剤である。また、本発明の一実施形態の消臭方法は、上記消臭剤と排出ガスとを接触させることを含む。そのため、本発明の一実施形態の消臭剤及び消臭方法によれば、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して、効果的に消臭することが可能な技術を提供することができる。
【0053】
また、上述した通り、本技術は、次の構成をとることが可能である。
[1]多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられる消臭剤であって、グリフィン法によるHLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液状の排出ガス用消臭剤。
[2]前記ノニオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]に記載の排出ガス用消臭剤。
[3]前記ノニオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]又は[2]に記載の排出ガス用消臭剤。
[4]前記HLB値が異なる複数種の前記ノニオン性界面活性剤を含有する上記[1]~[3]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[5]さらにシクロデキストリンを含有する上記[1]~[4]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[6]さらに2-フェノキシエタノールを含有する上記[1]~[5]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[7]さらに香料と、消臭剤中の前記香料の分離を抑制するための分離抑制剤とを含有し、前記分離抑制剤は、2-フェノキシエタノール、エタノール、及びアセトニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記[1]~[6]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[8]水で希釈されてから噴霧されるものである上記[1]~[7]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[9]粘度が25℃において500mPa・s以下である上記[1]~[8]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[10]前記多環式芳香族化合物は、ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、ビフェニル、ベンゾチオフェン、キノリン、及びアセナフチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[9]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[11]前記多環式芳香族化合物は、少なくともナフタレンを含む上記[1]~[10]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤。
[12]多環式芳香族化合物を含有する排出ガスと、上記[1]~[11]のいずれかに記載の排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む、排出ガスの消臭方法。
[13]前記排出ガスを湿式集塵処理する湿式スクラバー、又は噴霧装置を用いて、前記排出ガスと前記排出ガス用消臭剤とを接触させることを含む上記[12]に記載の排出ガスの消臭方法。
【実施例0054】
以下、試験例を挙げて、本発明の一実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0055】
<試験例1>
[模擬ガス]
多環式芳香族化合物、特にナフタレンを含有する排出ガス(例えば、アスファルト製造業、コールタール蒸留・製品製造業、石油製品製造業、石炭製造業、農薬製造業、塗料製造業等の工場からの排出ガス)を想定した模擬ガスを作製し、試験を行った。模擬ガスの成分には、単環式芳香族化合物として、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びスチレンを用い、多環式芳香族化合物として、インデン、ベンゾフラン、ナフタレン、ベンゾチオフェン、2-メチルナフタレン、1-メチルナフタレン、ビフェニル、キノリン、及びアセナフチレンを用いた。
【0056】
[試験方法]
容量3Lのポリエチレンテレフタレート製のにおい袋(商品名「におい袋 3L」、近江オドエアーサービス株式会社製)に、後述する薬剤を所定の濃度に調製した薬液を1mL入れた。におい袋に薬液を入れた後、そのにおい袋に模擬ガス1Lをガラス製注射器で注入した。におい袋への模擬ガスの注入後、薬液を模擬ガスに噴霧した状態に近づくことを想定して、におい袋内の薬液が液滴化するように、におい袋を200回振とう撹拌した。その30~40秒後、検知管(商品名「検知管 芳香族炭化水素 120」、株式会社ガステック製)を用いて、におい袋内の芳香族化合物の総量を検出し、検出された値(芳香族化合物の総量)を読み取り、芳香族化合物の除去率を評価した。なお、芳香族炭化水素の検知管を使用した理由は、多環式芳香族化合物のみを測定する検知管がなかったためである。
【0057】
[使用薬剤及び薬液]
(試験例1A)
試験例1Aでは、前述した(1)高分子の架橋を利用した原理による消臭効果を狙って、高分子凝集剤を上記薬剤として用いた。
【0058】
試験例1A-1では、カチオン性ポリアクリルアミド系高分子凝集剤を含有する液状高分子凝集剤製品(商品名「アロンフロック E3580」(有効成分濃度40質量%)、MTアクアポリマー株式会社製)を用いた。
【0059】
試験例1A-2では、両性ポリアクリル酸エステル系高分子凝集剤を含有する液状高分子凝集剤製品(商品名「ハイモロック MX-5354H」(有効成分濃度40質量%)、ハイモ株式会社製)を用いた。
【0060】
試験例1A-3では、粒状のアニオン性変性ポリアクリルアミド系高分子凝集剤製品(商品名「アコフロック A-245H」、MTアクアポリマー株式会社製)を用いた。
【0061】
実際の排出ガスと消臭剤とを接触させる際に使用しやすい粘度となるように、上記の各高分子凝集剤を用いた試験例1A-1~3では、各高分子凝集剤製品を純水で希釈又は溶解し、各高分子凝集剤の濃度を0.1質量%に調製した水性液を上記薬液として用いた。試験例1A-1~3ではいずれも、模擬ガス1Lに対して薬液を1mL使用したため、高分子凝集剤としての使用量は1mg/1L-模擬ガスである。試験例1A-1で用いた水性液は、25℃において、pHが7.5であり、粘度が107.0mPa・sであった。試験例1A-2で用いる水性液は、25℃において、pHが4.0であり、粘度が106.2mPa・sであった。試験例1A-3で用いる水性液は、25℃において、pHが7.3であり、粘度が373.2mPa・sであった。
【0062】
(試験例1B)
試験例1Bでは、前述した(2)芳香環の間に働くπ-π相互作用を利用した原理による消臭効果を狙って、リグニンスルホン酸塩を上記薬剤として用いた。
【0063】
試験例1B-1では、リグニンスルホン酸マグネシウムを含有する液状のリグニン製品(商品名「サンエキスM-100」(有効成分濃度50質量%)、日本製紙株式会社製、pH:4.6、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0064】
試験例1B-2では、粉末状のリグニンスルホン酸カルシウム(商品名「サンエキスP202」、日本製紙株式会社製)を用い、このリグニンスルホン酸カルシウムの濃度を純水で50質量%に調製した水性液(pH:6.2、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0065】
試験例1B-1及び試験例1B-2ともに、模擬ガス1Lに対して薬液を1mL使用したため、リグニンスルホン酸塩としての使用量は500mg/1L-模擬ガスである。
【0066】
(試験例1C)
試験例1Cでは、前述した(3)包接作用を利用した原理による消臭効果を狙って、シクロデキストリンを上記薬剤として用いた。
【0067】
試験例1C-1では、α-シクロデキストリンを純水に溶解し、α-シクロデキストリンの濃度が9.7質量%である水性液(pH:8.4、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0068】
試験例1C-2では、β-シクロデキストリンを純水に溶解し、β-シクロデキストリンの濃度が1.8質量%である水性液(pH:7.5、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0069】
試験例1C-3では、γ-シクロデキストリンを純水に溶解し、γ-シクロデキストリンの濃度が13.0質量%である水性液(pH:7.6、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0070】
試験例1C-4では、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの濃度が40質量%である水溶液(商品名「CAVASOL W7HPTL」、株式会社シクロケム製)を純水で希釈し、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの濃度を13.0質量%に調製した水性液(pH:11.6、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0071】
試験例1C-1~4ではいずれも、模擬ガス1Lに対して薬液を1mL使用したため、試験例1C-1でのα-シクロデキストリンとしての使用量は97mg/1L-模擬ガスである。同様に、試験例1C-2でのβ-シクロデキストリンとしての使用量は18mg/1L-模擬ガス、試験例1C-3でのγ-シクロデキストリンとしての使用量は130mg/1L-模擬ガス、試験例1C-4でのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとしての使用量は130mg/1L-模擬ガスである。
【0072】
(試験例1D)
試験例1Dでは、前述した(4)界面活性剤のミセルを利用した原理による消臭効果を狙って、各種の界面活性剤を上記薬剤として用いた。
【0073】
試験例1D-1では、カチオン性界面活性剤の1種である塩化ベンザルコニウム10質量%及び純水90質量%からなる水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0074】
試験例1D-2では、アニオン性界面活性剤の1種であるラウリル硫酸ナトリウム10質量%及び純水90質量%からなる水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0075】
試験例1D-3では、ノニオン性界面活性剤の1種である、n=8、HLB値=8.4のポリエチレングリコールジオレエート(以下、「ジオレイン酸PEG-8」と記載することがある。)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0076】
試験例1D-4では、ノニオン性界面活性剤の1種である、n=12、HLB値=10.4のポリエチレングリコールジオレエート(以下、「ジオレイン酸PEG-12」と記載することがある。)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液(pH:6.3、粘度:352.6mPa・s)を上記薬液として用いた。
【0077】
試験例1D-5では、ノニオン性界面活性剤の1種である、n=20、HLB値=12.9のポリエチレングリコールジオレエート(以下、「ジオレイン酸PEG-20」と記載することがある。)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液(pH:6.5、粘度:218.8mPa・s)を上記薬液として用いた。
【0078】
試験例1D-6では、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値=15.0のポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレエート(別名Tween80)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液(pH:7.0、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0079】
試験例1D-7では、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値=17.0のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(別名Tween20)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液(pH:7.0、粘度:20mPa・s未満)を上記薬液として用いた。
【0080】
試験例1D-1~7ではいずれも、模擬ガス1Lに対して薬液を1mL使用したため、界面活性剤としての使用量は100mg/1L-模擬ガスである。
【0081】
[試験結果]
試験例1A、1B、1C、及び1Dの各シリーズにおける、検知管による検出値(芳香族化合物の総量;vol.ppm)の結果を表1~4に示す。各表には、各試験例において行ったブランク試験の結果と、ブランク試験の結果を基準とした除去率(芳香族化合物の除去率;%)もあわせて示した。ブランク試験は、模擬ガス1Lに対して、薬液を何も使用しなかった場合(無添加)の試験である。なお、薬液と同量の水(純水1mL)を使用した場合の試験結果と、上記ブランク試験の結果とを比較すると、差が確認されなかったことから、薬液を何も使用しなかった場合の試験をブランク試験(対照試験)とした。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
試験例1の結果より、HLB値が8.4のジオレイン酸PEG-8を用いた場合、芳香族化合物の除去率が高いことが示された。この結果から、特定のノニオン性界面活性剤は、芳香族化合物に起因する臭気に対して消臭効果を有することが推察された。
【0087】
<試験例2>
試験例1(試験例1C及び1D)において、芳香族化合物の除去能が比較的高かったノニオン性界面活性剤、及び各種のシクロデキストリンについて、模擬ガスに含まれる、どの芳香族化合物に効果が高いのか確認する試験を行った。
【0088】
[模擬ガス]
試験例2においても、試験例1で使用したものと同じ模擬ガスを用いた。試験例1で用いた検知管で測定した芳香族化合物の総量(10vol.ppm)を模擬ガスに含有されている芳香族化合物の総量とした。そして、後述するガスクロマトグラフ-質量分析計(以下、「GC-MS」と記載することがある。)を用いて求めた、模擬ガス中の各成分(芳香族化合物)のピーク面積値の比を模擬ガス中のその成分の存在量として算出した。この算出値を模擬ガス中の各芳香族化合物の推定濃度(vol.ppm)とし、表5に示す。
【0089】
【0090】
[試験方法]
容量3Lのポリエチレンテレフタレート製のにおい袋(商品名「におい袋 3L」、近江オドエアーサービス株式会社製)に、前述の試験例1C-1~3及び試験例1D-3~7のいずれかで用いた薬液を1mL入れた。におい袋に薬液を入れた後、そのにおい袋に模擬ガス1Lをガラス製注射器で注入した。におい袋への模擬ガスの注入後、薬液を模擬ガスに噴霧した状態に近づくことを想定して、におい袋内の薬液が液滴化するように、におい袋を200回上下に振って撹拌した。その後、小型ポンプ(商品名「ミニポンプ MP-W5P型」、柴田科学株式会社製)を用いて0.5L/minの条件でにおい袋内の気体を吸引してTenax吸着管に吸着させ、Tenax吸着管に吸着させた気体をGC-MSにより測定した。また、ブランク試験として、上記のにおい袋に、薬液の代わりに純水を1mL入れ、上記と同様の手順でGC-MSにより測定した。
【0091】
各試験において、GC-MSによる測定で得られたピークを使用し、検出された各成分(芳香族化合物)の除去率(%)を下記式により算出した。
除去率(%)={ブランク試験のGC測定ピーク面積値-試験例の薬液添加後のGC測定ピーク面積値}/ブランク試験のGC測定ピーク面積値
【0092】
[使用薬剤及び薬液]
(試験例2A-1~3)
試験例2Aでは、前述の試験例1C-1~3で用いた薬液を使用した。具体的には、試験例2A-1では、試験例1C-1で用いたα-シクロデキストリンの濃度が9.7質量%である水性液を上記薬液として用いた。試験例2A-2では、試験例1C-2で用いたβ-シクロデキストリンの濃度が1.8質量%である水性液を上記薬液として用いた。試験例2A-3では、試験例1C-3で用いたγ-シクロデキストリンの濃度が13.0質量%である水性液を上記薬液として用いた。
【0093】
(試験例2B-1~5)
試験例2Bでは、前述の試験例1D-3~7で用いた薬液を使用した。具体的には、試験例2B-1では、試験例1D-3で用いた、ジオレイン酸PEG-8(n=8、HLB値=8.4)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液を上記薬液として用いた。試験例2B-2では、試験例1D-4で用いた、ジオレイン酸PEG-12(n=12、HLB値=10.4)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液を上記薬液として用いた。試験例2B-3では、試験例1D-5で用いた、ジオレイン酸PEG-20(n=20、HLB値=12.9)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液を上記薬液として用いた。試験例2B-4では、試験例1D-6で用いたポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレエート(別名:Tween80、HLB値=15.0)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液を上記薬液として用いた。試験例2B-5では、試験例1D-7で用いた、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(別名:Tween20、HLB値=17.0)10質量%、及び純水90質量%からなる水性液を上記薬液として用いた。
【0094】
上記のGC-MSの測定条件は、以下の通りである。
・ガスクロマトグラフ(GC):商品名「7890A」、Agilent Technologies社製
・質量分析計(MS):商品名「5975C」、Agilent Technologies社製
・カラム:商品名「DB-WAX」(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)、Agilent Technologies社製
・インジェクター:キューリーポイントインジェクター:商品名「JCI-22」、日本分析工業株式会社製
・オーブン:40℃(8分)-昇温速度10℃/分-220℃(18分) total40分
・GC流入口:220℃、splitlessカラム流量:1mL/分
・MSインターフェース:300℃
・MS検出条件:SCAN測定(m/z20~600)
【0095】
[試験結果]
試験例2A及び2Bの各シリーズにおける、芳香族化合物の除去率(%)の結果を表6及び表7に示す。なお、上記表5に示す通り、模擬ガス中のビフェニル、キノリン、及びアセナフチレンは推定濃度が0.1vol.ppm未満であったため、試験例2及び3の試験結果においては省略した。
【0096】
【0097】
【0098】
試験例2の結果より、HLB値が8.4のジオレイン酸PEG-8は、模擬ガス中のナフタレン等の多環式芳香族化合物に対する除去能に優れることが確認された。この結果から、特定のノニオン性界面活性剤を含有する水性液(消臭剤)は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられた際に、多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して消臭効果があることが推察された。
【0099】
<試験例3>
試験例1で用いた模擬ガスを、ナフタレン及びインデンを含有する模擬ガスに変更し、かつ、試験例1で用いた薬液を以下に述べる薬液に変更したこと以外は、試験例1と同様の方法により、試験を行った。ブランク試験として、使用した模擬ガスについて、上記検知管を用いて芳香族化合物の総量を測定した結果、10vol.ppmであった。
【0100】
(試験例3.1)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が4.3のモノオレイン酸ソルビタン(商品名「イオネット S-80」、三洋化成工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:8.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0101】
(試験例3.2)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が5.1のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(商品名「ペポール A-0638」、東邦化学工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0102】
(試験例3.3)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が6.1のポリオキシアルキレンアルキルエーテル(商品名「セドラン SF-506」、三洋化成工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:7.6、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0103】
(試験例3.4)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が6.4のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(商品名「ソルポール HC-10」、東邦化学工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0104】
(試験例3.5)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が8.4のポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名「ナロアクティー CL-40」、三洋化成工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:6.4、粘度:81.0mPa・s)を用いた。
【0105】
(試験例3.6)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が8.4のジオレイン酸PEG-8(商品名「イオネット DO-400」、三洋化成工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0106】
(試験例3.7)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が10.4のジオレイン酸PEG-12(商品名「イオネット DO-600」、三洋化成工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:6.3、粘度:352.6mPa・s)を用いた。
【0107】
(試験例3.8)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が12.9のジオレイン酸PEG-20(商品名「イオネット DO-1000」、三洋化成工業株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:6.5、粘度:218.8mPa・s)を用いた。
【0108】
(試験例3.9)
薬剤として、ノニオン性界面活性剤の1種である、HLB値が15.0のショ糖ラウリン酸エステル(商品名「リョートー シュガーエステル LWA-1570」、三菱ケミカルフーズ株式会社製)の濃度(有効成分)を水で10質量%に調整した水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0109】
(試験例3.10)
薬剤として、γ-シクロデキストリン及び上記のHLB値が8.4のジオレイン酸PEG-8の濃度をそれぞれ、水で0.7質量%及び5.0質量%に調整した水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0110】
(試験例3.11)
薬剤として、上記のHLB値が8.4のジオレイン酸PEG-8及び上記のHLB値が5.1のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルの濃度をそれぞれ、水で5.0質量%及び5.0質量%に調整した水性液(pH:6.2、粘度:25.8mPa・s)を用いた。
【0111】
(試験例3.12)
薬剤として、上記のHLB値が5.1のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル及び上記のHLB値が8.4のポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度をそれぞれ、水で5.0質量%及び5.0質量%に調整した水性液(pH:6.3、粘度:40.2mPa・s)を用いた。
【0112】
(試験例3.13)
薬剤として、上記のHLB値が8.4のジオレイン酸PEG-8及び2-フェノキシエタノールの濃度をそれぞれ、水で5.0質量%及び5.0質量%に調整した水性液(pH:7.2、粘度:20mPa・s未満)を用いた。
【0113】
試験例3(試験例3.1~3.13)の結果を表8に示す。
【0114】
【0115】
試験例1~3の結果より、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤は、模擬ガス中のナフタレン等の多環式芳香族化合物に対する除去能に優れることが確認された。この結果から、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液(消臭剤)は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられた際に、多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して消臭効果があることが確認された。
【0116】
<試験例4>
試験例4では、湿式スクラバーを用いて、排出ガスと消臭剤とを接触させる態様を想定して、インピンジャーを用いた試験を行った。多環式芳香族化合物を含有するガスには、試験例1及び2で用いたものと同じ模擬ガスを用いた。消臭性能の確認は、試験例2で用いたものと測定条件を含めて同じGC-MSにより行った。
【0117】
[試験方法]
容量250mLのインピンジャーに、後述する薬液200mLを充填した。インピンジャーへの薬液の充填後、模擬ガス500mLをインピンジャーに注入し、インピンジャー内部の空気を模擬ガスに置換した。その後、注射器を用いて模擬ガス1Lをインピンジャー内部に注入し、インピンジャー内の薬液を通過した後の気体を容量3Lのポリエチレンテレフタレート製のにおい袋(商品名「におい袋 3L」、近江オドエアーサービス株式会社製)に捕集した。その後、小型ポンプ(商品名「ミニポンプ MP-W5P型」、柴田科学株式会社製)を用いて0.5L/minの条件でにおい袋内の気体を吸引してTenax吸着管に吸着させ、Tenax吸着管に吸着させた気体をGC-MSにより測定した。また、ブランク試験4Aとして、インピンジャー内部を空にし、上記と同様の手法にて、模擬ガス1Lを通気させ、GC-MSにより測定した試験を行った。さらに、ブランク試験4Bとして、インピンジャー内に水性液の代わりに純水200mLを充填し、上記と同様の手法にて、模擬ガス1Lを通気させ、GC-MSにより測定した試験を行った。試験例4の各試験において、GC-MSによる測定で得られたピークを使用し、ブランク試験4A及び4Bのそれぞれの結果を基準とした場合について、検出された各成分(芳香族化合物)の除去率(%)を、試験例2で述べた式により算出した。
【0118】
[使用薬剤及び薬液]
(試験例4-1~3)
試験例4では、薬剤として試験例2B-1で用いたジオレイン酸PEG-8(n=8、HLB値=8.4)を用い、これを水で所定濃度に調製した水性液を上記薬液として用いた。具体的には、試験例4-1では、ジオレイン酸PEG-8の濃度が1.0質量%である水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。試験例4-2では、ジオレイン酸PEG-8の濃度が0.1質量%である水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。試験例4-3では、ジオレイン酸PEG-8の濃度が0.02質量%である水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を用いた。試験例4では、250mLの容器に、200mLの薬液を充填させて、その200mLの薬液内を通過させた模擬ガス量は1Lである。したがって、試験例4における、模擬ガス1Lに対する界面活性剤(ジオレイン酸PEG-8)としての使用量は、試験例4-1では2000mg/L、試験例4-2では200mg/L、試験例4-3では40mg/Lである。
【0119】
[試験結果]
試験例4の各シリーズにおける、ブランク試験4Aを基準とした芳香族化合物の除去率(%)の結果を表9に示す。また、試験例4の各シリーズにおける、ブランク試験4Bを基準とした芳香族化合物の除去率(%)の結果を表10に示す。
【0120】
【0121】
【0122】
試験例1~4の結果より、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液は、当該界面活性剤の使用量が少ない場合でも、模擬ガス中のいずれの多環式芳香族化合物の除去率も60%以上と高いことが示された(表9参照)。この結果から、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液(消臭剤)は、多環式芳香族化合物を含有する排出ガスに用いられた際に、多環式芳香族化合物に起因する臭気をより効果的に除去し得ることが確認された。
【0123】
また、前述の試験例2では、ジオレイン酸PEG-8は、単環式芳香族化合物であるトルエン、及びキシレンの除去能はほとんど確認されなかったが(表7参照)、試験例4では、トルエン及びキシレンの除去能を有するように見られた。しかし、薬液の代わりに純水を用いたブランク試験4Bにおいても、トルエン及びキシレンの除去能が認められたことから、それらの単環式芳香族化合物は水に溶解したと考えられる(表10参照)。
【0124】
ジオレイン酸PEG-8の濃度が0.1質量%以上の試験例4-1及び4-2では、ブランク試験4Bと比べ、多環式芳香族化合物の除去能が高いといえる(表10参照)。このことから、水量を多く使用できる湿式スクラバーを用いた消臭方法では、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液を消臭剤として使用することで、多環式芳香族化合物のほか、単環式芳香族化合物に起因する臭気に対しても、効果的な消臭が期待できることがわかった。
【0125】
<試験例5>
試験例5では、試験例2で使用した模擬ガスを以下に述べる模擬ガスに変更したこと、及び試験例2で使用した薬液を後述する薬液に変更したこと以外は、前述の試験例2と同様の試験を行った。
【0126】
[模擬ガス]
試験例5で用いた模擬ガスは、試験例2で使用した模擬ガスとは成分の構成比が異なる。具体的には、試験例2で使用した模擬ガスは、芳香族化合物中、多環式芳香族化合物(主成分はナフタレン)が8割以上を占めていたのに対し、試験例5で使用した模擬ガスは、芳香族化合物中、単環式芳香族化合物(主成分はベンゼン)が8割以上を占めているものである。
【0127】
試験例5で用いた模擬ガスについて、検知管(商品名「検知管 芳香族炭化水素 120」、株式会社ガステック製)を用いて芳香族化合物の総量を検出したところ、芳香族化合物の総量は、160vol.ppmであった。そして、試験例2で述べた方法と同様にして、模擬ガス中の各芳香族化合物の推定濃度(vol.ppm)を求めた。その結果を表11に示す。
【0128】
【0129】
[使用薬剤及び薬液]
試験例5では、薬剤としてジオレイン酸PEG-8(n=8、HLB値=8.4)を用い、これを水で1.0質量%濃度に調製した水性液(pH:6.5、粘度:20mPa・s未満)を薬液として用いた。また、ブランク試験も試験例2で述べたブランク試験と同様、薬液の代わりに純水を用いた試験とした。
【0130】
[試験結果]
試験例5における芳香族化合物の除去率(%)の結果を表12に示す。
【0131】
【0132】
試験例5の結果より、芳香族化合物中の単環式芳香族化合物の占める割合が、多環式芳香族化合物の占める割合よりも多い排出ガスに対しても、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤を含有する水性液を用いることで、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して、効果的に消臭することが可能であることが確認された。
【0133】
<試験例6>
[模擬ガス]
以下の模擬ガス1及び2を用いた。
・模擬ガス1:ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、トリメチルベンゼン、メチルスチレン、エチルトルエン、インダン、インデン、ベンゾフラン、メチルインデン、ナフタレン、ベンゾチオフェン、2-メチルナフタレン、1-メチルナフタレンを含有する模擬ガス。模擬ガス1について、上記検知管で測定した芳香族化合物の総量は、検知管による検出上限値の200vol.ppm以上であった(上限を振り切った)。
・模擬ガス2:インデン及びナフタレンを含有する模擬ガス。模擬ガス2について、上記検知管で測定した芳香族化合物の総量は、10vol.ppmであった。
【0134】
[試験方法]
活性炭を充填した9方分配活性炭槽と無臭空気用ポンプ60L型(近江オドエアーサービス株式会社製)を用いて無臭空気を作製し、2.7Lの無臭空気を充填した3Lガス採取袋(容量3Lのポリエチレンテレフタレート製のにおい袋(商品名「におい袋 3L」、近江オドエアーサービス株式会社製))にガラス製注射器で模擬ガスを300mL注入し、試験ガスを調整した。試験ガスに薬剤を添加しないものをブランクとした。同様に作製した3Lの試験ガス袋に消臭剤(水性液)を1mL添加し、密封後、200回撹拌し、消臭剤添加試料とした。消臭剤として、HLB値が8.4のジオレイン酸PEG-8(0.01質量%)とマスキング香料(0.01質量%)を混合した水性液を用いた。撹拌後、各ガス試料を用いて、以下に述べる嗅覚官能評価試験を行った。
【0135】
嗅覚官能評価試験は、9段階快・不快表示法(-4:極端に不快、-3:非常に不快、-2:不快、-1:やや不快、0:快でも不快でもない、1:やや快、2:快、3:非常に快、4:極端に快)によるヒトの嗅覚による評価を行った。官能試験は6名のパネラー(A~F)にて行い、6名のうちの最高点と最低点を除いた4名の値の平均値を評点として算出し、評点の小数点以下を切上げた値を快・不快度として判定した。その結果を表13に示す。
【0136】
【0137】
模擬ガス1の快・不快度は-2であり、不快と判定された。それに対し、模擬ガス1に消臭剤を添加したガスの快・不快度は-1であり、やや不快と判定され、消臭効果が確認された。また、模擬ガス2の快・不快度は-4であり、極端に不快と判定された。それに対して、模擬ガス2に消臭剤を添加したガスの快・不快度は-1であり、やや不快と判定され、消臭効果が確認された。同じ試料を用いて上記検知管による測定を行ったところ、模擬ガス1については、無添加及び消臭剤添加のいずれの場合も、検出上限値200vol.ppm以上(上限を振り切った)であり、変色域を読み取ることができなかった。模擬ガス2については、無添加の試料が10vol.ppmであったのに対し、消臭剤添加試料は3vol.ppmとなり、消臭剤添加による芳香族化合物の総量の低減が確認された。
【0138】
<試験例7>
[消臭剤の調製]
表14(表14-1及び表14-2)の上段に示す各成分(単位:質量%)を混合し、消臭剤(希釈前の消臭剤)を調製した。具体的には、表14の上段に示す割合(質量%)で水、ジオレイン酸PEG-8(n=8、HLB値=8.4)、調合香料(A~Cのいずれか)、及び溶媒(2-フェノキシエタノール、エタノール、及びアセトニトリルのいずれか)を容器に入れ、室温(約25℃)にて上下振盪50回程度で撹拌し、溶液状の消臭剤を調製した。表14に示す調合香料A~Cは、以下の通りである。
【0139】
・調合香料A(石鹸の香り);
アルコール類(フェネチルアルコール、ゲラニオール、シトロネロール等)20.0質量%、エステル類(酢酸ベンジル、酢酸リナリル、p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート等)13.0質量%、アルデヒド類(ヘキシルシンナムアルデヒド等)6.4質量%、その他の類(クマリン、インドール、及びγデカラクトン)8.0質量%、及び溶媒(ジプロピレングリコール)52.6質量%からなる。
・調合香料B(ハーバル・グリーンの香り);
アルコール類(テルピネオール等)12.0質量%、エステル類(酢酸イソボルニル等)15.0質量%、炭化水素テルペン類(d-リモネン等)20.0質量%、天然香料(ユーカリ油等)9.0質量%、その他の類(クマリン、dl-カンファー等)6.0質量%、及び溶媒(エチルアルコール、ジプロピレングリコール)38.0質量%からなる。
・調合香料C(香調がAとは異なる石鹸の香り);
アルコール類(フェネチルアルコール、ゲラニオール、シトロネロール、リナロール等)50.2質量%、エステル類(p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、酢酸ベンジル、酢酸リナリル等)26.3質量%、アルデヒド類(ヘキシルシンナムアルデヒド等)4.5質量%、その他の類(クマリン、γ-メチルイオノン)8.4質量%、及び溶媒(ジプロピレングリコール等)10.6質量%からなる。
【0140】
[混合時の溶液の安定性]
上述の通り調製した溶液状の消臭剤を上記の撹拌後2時間静置させた後、その溶液の状態を目視にて確認し、以下の評価基準にしたがって、各成分の混合時の溶液の安定性を評価した。その結果を表14の下段に示す。
○:分離せずに一様な状態である。
×:分離した状態である。
【0141】
[試験方法]
消臭の対象として、ナフタレン及びインデンを含有する模擬ガスを用いた。この模擬ガスは、試験例3で使用した模擬ガスと同じである。上述の通り調製した各消臭剤(希釈前の消臭剤)を水で100倍に希釈し、表14の中段に示す各希釈消臭剤(希釈後の消臭剤)を得た。この希釈消臭剤を、1Lの模擬ガスに対して1mL添加する条件にて、試験例1及び3と同様の方法により、試験及び検知管を用いた芳香族化合物総量の測定を行った。その結果を表14の下段に示す。表14の下段には、使用した模擬ガスについて上記検知管を用いて芳香族化合物の総量を測定した結果、10vol.ppmであったブランク試験の結果を基準とした、芳香族化合物の除去率(%)もあわせて示した。なお、使用した希釈消臭剤と同量の水(純水1mL)を使用した場合の試験結果と、上記ブランク試験の結果とを比較すると、差が確認されなかったことから、何も添加しなかった場合の試験をブランク試験(対照試験)とした。
【0142】
【0143】
【0144】
[官能試験]
上記の模擬ガスを空気で約50倍に希釈したガスを用いた。試験例7.4及び7.6で調製した消臭剤(希釈前の消臭剤)を水で5000倍に希釈し、各希釈消臭剤を得た。この希釈消臭剤を、1Lの模擬ガスに対して1mL添加する条件にて、試験例6と同様の方法により、嗅覚官能評価試験を行った。ただし、評価は4名のパネラー(A~D)によって行い、その平均値を求めた。模擬ガス1Lに対し、何も添加しなかった試料をブランクとした。結果を表15に示す。
【0145】
【0146】
試験例7の結果より、HLB値が4~10のノニオン性界面活性剤、香料、及び特定の溶剤(分離抑制剤)を含有する水性液は、安全性が高く、かつ、分離し難く良好な安定性を有すること、排出ガス中の多環式芳香族化合物に起因する臭気に対して消臭効果を有することが確認された。