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特開2022-111110養殖カンパチ及びカンパチの養殖方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111110
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】養殖カンパチ及びカンパチの養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20220722BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20220722BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K20/158
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065144
(22)【出願日】2022-04-11
(62)【分割の表示】P 2021005992の分割
【原出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 義宣
(72)【発明者】
【氏名】小川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】椎名 康彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勤
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005LA06
2B005LB06
2B150AA08
2B150AB05
2B150DA37
(57)【要約】
【課題】可食部の不飽和脂肪酸の脂肪酸組成比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖カンパチを提供する。
【解決手段】可食部の脂質における多価不飽和脂肪酸及びその誘導体、一価不飽和脂肪酸及びその誘導体、並びに、飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で、それぞれ35%以下、30%以上及び30%以下であり、かつ、オレイン酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で18%以上である、養殖カンパチ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食部の脂質における多価不飽和脂肪酸及びその誘導体、一価不飽和脂肪酸及びその誘導体、並びに、飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で、それぞれ35%以下、30%以上及び30%以下であり、かつ、オレイン酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で18%以上である、養殖カンパチ。
【請求項2】
可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で0.1%以上である、請求項1に記載の養殖カンパチ。
【請求項3】
前記多価不飽和脂肪酸及びその誘導体におけるn-3/n-6比が1.0以上である、請求項1又は2に記載の養殖カンパチ。
【請求項4】
飼育管理条件下でカンパチを養殖することで、請求項1~3のいずれか一項に記載の養殖カンパチを育成する、カンパチの養殖方法。
【請求項5】
炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が脂肪酸組成比で7.0%以上の餌をカンパチに与える工程を含む、請求項4に記載のカンパチの養殖方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価不飽和脂肪酸(Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)、および飽和脂肪酸(Saturated Fatty Acid:SFA)の含有量が少なく、一価不飽和脂肪酸(Mono Unsaturated Fatty Acid:MUFA)の含有量、特に長鎖一価不飽和脂肪酸(Long Chain Mono Unsaturated Fatty Acid:LCMUFA)の含有量が高い養殖カンパチ、及び当該養殖カンパチを得るためのカンパチの養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に魚は、脂質が多い方が、脂乗りが良いとして好まれる傾向にある。しかし、脂質の過剰摂取は肥満を招くため、健康増進のためには質の良い適切な脂質の摂取が望まれる。脂質は、その構造から飽和脂肪酸(SFA)と不飽和脂肪酸(UFA)に分類され、一般にSFAよりUFAの方が健康機能に良いとされている。魚は特に高度に不飽和化された多価不飽和脂肪酸(PUFA)を多く含み、特に中性脂肪低減効果が期待できるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といったn-3系PUFAが多いことが知られる。これらn-3系PUFAは、アラキドン酸(ARA)やリノール酸(LA)といったn-6系PUFAとのバランスで、よりn-3系PUFAを多く摂取することが推奨され、n-3/n-6比は健康機能をはかるうえで重要な指標となっている。しかし、PUFAは、酸化安定性が悪く、特有の魚臭を放つ要因となり、魚の摂取を控える要因の一つになっている。一方、オレイン酸(OA)に代表されるMUFAは、主に植物や魚に含まれる脂肪酸であるが、ヒトが摂取した場合に、血中のLDL-コレステロールを下げる等の健康増進効果があることが知られている。MUFAの中でも、特に長鎖一価不飽和脂肪酸(Long Chain Mono Unsaturated Fatty Acid:LCMUFA)と呼ばれる炭素数20以上のものは、アテローム性動脈硬化症(非特許文献1)、糖尿病(特許文献1)、メタボリックシンドローム(特許文献2)などの予防、治療への効果が報告されている。特許文献3には、水産物原料から、炭素数20及び/又は22の遊離一価不飽和脂肪酸(LCMUFA)又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法が開示されている。この方法は、主に、LCMUFAを高濃度で含む医薬品、健康食品等の材料を製造することを目的としている。
【0003】
MUFAのうち、オレイン酸は、n-9系脂肪酸として知られ、ヒトが摂取した場合、血中のHDL-コレステロールを下げることなく、LDL-コレステロールを下げる効果があるとされる。また、酸化に対する安定性があるため、LDL-コレステロールの酸化を抑制する、体内における過酸化物の発生を抑制する、という効果を有することも知られる。オレイン酸は、植物油、特にオリーブオイルに多く含まれ、例えば、調理油として使用される場合、他の脂肪酸と比較して食品の風味を損ないにくい、という特性を有する(非特許文献2)。また、オレイン酸は、牛肉に多く含まれる場合、その風味を良好なものとすることが報告されている(非特許文献3)。
【0004】
多価不飽和脂肪酸(Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)は、主に魚類に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が知られ、これらは、ヒトが摂取した場合に、中性脂肪の低減等の健康増進効果があることが報告されている。一方で、これらのPUFAは、酸化されやすい性質を有し、魚類を使用した食品においては、いわゆる「魚臭さ」の要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-294525号公報
【特許文献2】国際公開2012/121080
【特許文献3】国際公開2016/002868
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yang, et al., Mol. Nutr. Food Res., 60(10): 2208-2218 (2016)
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌第64巻 第6号 302-311(2017)
【非特許文献3】Westerling and Hedrick, Journal of Animal Science 48, 1343-1348 (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、健康増進効果の高い不飽和脂肪酸の脂肪酸組成比の高い食品が求められる一方、単にPUFAの脂肪酸組成比を高くしても酸化の影響による風味の劣化が生じやすい、という問題が生じ得る。不飽和脂肪酸の脂肪酸組成比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい食品が求められる。
【0008】
本発明は、可食部の不飽和脂肪酸の脂肪酸組成比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖カンパチを提供することを目的とする。また、可食部の不飽和脂肪酸の脂肪酸組成比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖カンパチを安定的に取得するための、カンパチの養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下を提供するものである。
(1)可食部の脂質における多価不飽和脂肪酸及びその誘導体、一価不飽和脂肪酸及びその誘導体、並びに、飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で、それぞれ35%以下、30%以上及び30%以下であり、かつ、オレイン酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で18%以上である、養殖カンパチ。
(2)可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で0.1%以上である、(1)の養殖カンパチ。
(3)前記多価不飽和脂肪酸及びその誘導体におけるn-3/n-6比が1.0以上である、(1)又は(2)の養殖カンパチ。
(4)飼育管理条件下でカンパチを養殖することで、(1)~(3)のいずれかの養殖カンパチを育成する、カンパチの養殖方法。
(5)炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が脂肪酸組成比で7.0%以上の餌をカンパチに与える工程を含む、(4)のカンパチの養殖方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可食部の不飽和脂肪酸の脂肪酸組成比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖カンパチを提供することが可能となる。また、可食部の不飽和脂肪酸の脂肪酸組成比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖カンパチを安定的に取得するための、カンパチの養殖方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<養殖カンパチ>
本発明の養殖カンパチは、可食部の脂質における多価不飽和脂肪酸及びその誘導体、一価不飽和脂肪酸及びその誘導体、並びに、飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で、それぞれ35%以下、30%以上及び30%以下であり、かつオレイン酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で18%以上であることを特徴とする。
【0012】
本明細書において、「カンパチ」とは、スズキ目アジ科に分類される海水魚であり、学名Seriola dumeriliで表される魚を指す。カンパチは、地域、齢数、大きさ等によって、アカハナ、アカバラ、ヒラソ、シオ、シオッコ、ショッコ等とも称される。本明細書における「カンパチ」は、これらのいずれも包含するが、特に1年齢以上及び/または魚体が1kg以上のものが好ましい。
【0013】
本明細書において、「養殖カンパチ」とは、期間の長短に関わらず、出荷前に生簀等の飼育管理条件下で給餌、育成されたカンパチを指す。「養殖カンパチ」は天然種苗のカンパチも人工孵化のカンパチも含む。これに対して、「天然カンパチ」は、漁獲されるまで飼育管理条件下での給餌、育成が行われていないカンパチを指す。ここでいう「飼育管理条件下」とは、人工的に各種条件を管理した環境下であることを示す。具体的な条件については、「カンパチの養殖方法」の項に記載する。
【0014】
本明細書において「可食部」とは、通常、ヒトが摂食する部分全てを指し、主に、筋肉組織であり、そのほか眼球周り、内臓などが挙げられる。カンパチの可食部の多くは筋肉組織が占める。本明細書において「筋肉組織」は、通常の筋肉組織、血合肉、及びこれらの混合物のいずれをも示す。なお、本明細書の実施例において、筋肉組織の各種分析を行っているが、本発明における「可食部」は、これに限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、脂肪酸は、「C18:1(n-9)」のように表記する。C18:1(n-9)は、炭素数18で、不飽和結合を1つ有し、かつ、炭素鎖のメチル末端から数えて9番目の炭素-炭素結合に二重結合が存在する脂肪酸を示す。すなわち、C18:1(n-9)はオレイン酸である。
【0016】
本明細書において脂肪酸の「誘導体」とは、脂肪酸の骨格を保持した状態で、エステル、金属塩等としたものを指す。エステルの例としては、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドといったグリセリルエステルに加えて、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルが挙げられる。
【0017】
本明細書において「脂肪酸組成比」とは、試料に含まれる脂肪及び脂肪分解物に含まれる各種脂肪酸の量を、総脂肪酸100gあたりの重量比(%)で示したものを指す。測定方法は特に限定されないが、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」に従って測定することが好ましい。すなわち、三フッ化ホウ素・メタノール法(BF-MeOH法)を用いて、脂質をケン化して不ケン化物を除き、遊離脂肪酸とした後、エステル化し、ガスクロマトグラフィーで測定する方法である。
【0018】
本明細書において「一価不飽和脂肪酸」とは、モノエン酸、MUFAとも称される炭素鎖に一つの不飽和結合を有する脂肪酸を指し、多価不飽和脂肪酸(ポリエン酸、Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)、飽和脂肪酸(Saturated Fatty Acid:SFA)と区別される。本明細書において、MUFAには、デセン酸(C10:1)、ミリストレイン酸(C14:1)、ペンタデセン酸(C15:1)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデセン酸(C17:1)、オレイン酸(C18:1)、バクセン酸(C18:1)、エイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(ネルボン酸)(C24:1)等が含まれる。特に魚類に含まれる代表的なMUFAとしては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、ドコセン酸及びテトラコセン酸が挙げられる。
【0019】
本発明の養殖カンパチにおいて、可食部のMUFA及びその誘導体の含有量は、脂肪酸組成比で30%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは38%超である。MUFAの中でも、オレイン酸(C18:1)又はその誘導体の含有量が、可食部における脂肪酸組成比で18%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは22%以上である。本発明の養殖カンパチは、MUFA、特にオレイン酸を多く含むことで、摂取時のLDL-コレステロール低下作用、抗酸化作用に加え、カンパチの食肉としての風味が良好に維持されやすい。
【0020】
本明細書において「長鎖一価不飽和脂肪酸」とは、LCMUFAとも称され、炭素数20以上の炭素鎖を含むMUFAを指す。エイコセン酸としては、例えばn-11、n-9(ガドレイン酸)、n-7(ゴンドイン酸)等が挙げられる。また、ドコセン酸としては、例えば、n-11(セトレイン酸)、n-9(エルカ酸)等が挙げられる。テトラコセン酸としては、n-9(ネルボン酸)等が挙げられる。本発明の養殖カンパチは、エイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(C24:1)等の長鎖一価不飽和脂肪酸及びその誘導体を、可食部の脂肪酸組成比で0.1%以上、特に1.0%以上、さらに4.0%以上含むことが好ましい。
【0021】
本明細書において、「多価不飽和脂肪酸(PUFA)」とは、不飽和結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸を指す。食品に含まれる代表的なPUFAとしては、n-6系脂肪酸であるリノール酸(C18:2)、γ-リノレン酸(C18:3)及びアラキドン酸(C20:4)、並びにn-3系脂肪酸であるα-リノレン酸(C18:3)、エイコサペンタエン酸(EPA)(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(DHA)(C22:6)などが知られる。本発明の養殖カンパチにおいて、可食部のPUFA及びその誘導体の含有量は、脂肪酸組成比で35%以下、好ましくは20~33%、より好ましくは23~32%である。PUFAの含有量を一定量以下とすることで、可食部の酸化による魚臭さを低減することができる。
【0022】
本明細書において、「飽和脂肪酸(SFA)」とは、炭素鎖に二重結合又は三重結合を有しない脂肪酸を指す。一般に、不飽和脂肪酸よりも融点が高く、ヒトが多量に摂取することで、心血管疾患のリスクが高まるといわれる。食品に含まれる代表的なSFAとしては、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)等が知られる。本発明の養殖カンパチにおいて、可食部のSFA及びその誘導体の含有量は、脂肪酸組成比で30%以下、好ましくは28%以下、より好ましくは26%以下である。SFAの組成比が低く抑えられることで、カンパチの食感を口どけのよいものとすることができる。
【0023】
本明細書において、「n-3系脂肪酸」及び「n-6系脂肪酸」とは、それぞれ不飽和脂肪酸のうち、脂肪酸のメチル末端から3番目及び6番目の炭素に不飽和結合を有するものを指す。また、「n-3/n-6比」とは、可食部の脂肪に占めるn-3系脂肪酸含有量の、n-6系脂肪酸含有量の割合を指す。PUFAの健康増進効果は、特にn-3系脂肪酸で高く評価されており、一般にn-3/n-6比が高い食品ほど、その健康増進効果が高いとされる。本発明の養殖カンパチにおける、PUFAのn-3/n-6組成比は、1.0以上、特に1.5~9.0、さらに2.0~7.0であることが好ましい。一般的に、養殖魚の脂肪酸組成比において、MUFAの含有量が高い場合、n-3/n-6組成比は低くなる傾向があるが、本発明の養殖カンパチの好適な態様においては、MUFAの含有量も高く、かつ、一定上のn-3/n-6組成比を有する、という利点を有する。
【0024】
本明細書において「HH比」とは、(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)は、脂質に含まれる脂肪酸に占める多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸との重量組成比であり、下記式で求められる値をいう。
HH比=(C18:1(n-9)+C18:2(n-6)+C20:4(n-6)+C18:3(n-3)+C20:5(n-3)+C22:5(n-3)+C22:6(n-3))/(C14:0+C16:0)
【0025】
本発明の養殖カンパチにおいて、可食部の脂肪酸におけるHH比は2.0以上、特に2.3以上、さらに2.5以上であることが好ましい。
【0026】
<カンパチの養殖方法>
本発明のカンパチの養殖方法は、飼育管理条件下でカンパチを養殖することにより、上記の養殖カンパチを育成する、ことを特徴とする。
【0027】
1.養殖対象のカンパチ
本発明の養殖方法で養殖されるカンパチは、人工孵化カンパチであっても、天然種苗カンパチであってもよい。カンパチの齢数は特に限定されないが、魚体重が1kg以上であることが好ましい。
【0028】
2.飼育管理条件下での養殖
上記の養殖対象となるカンパチを、専用の生簀や水槽に移して、飼育管理条件下で養殖する。養殖時の条件として、給餌、水温、魚の密度などを調整し、管理することを要する。
【0029】
(1)給餌
カンパチへの給餌は、少なくとも1日1回、生簀内に散布して行うことが好ましい。餌は、MUFA、特に、オレイン酸及びLCMUFAを多く含むものを与えることが好ましい。n-3/n-6比の高い餌を与えることが好ましい。一方で、SFAの低い餌を与えることが好ましい。餌は、サンマ、サバ、イワシ等の生餌であってもよく、また、ペレット等の配合飼料であってもよい。あるいは、生餌を粉砕してモイストペレット用配合飼料と混合して使用してもよい。配合飼料の原料は特に限定されないが、通常は、動物質性飼料、穀類、植物性油かす類、油脂、各種ビタミン、ミネラル類等を含む。
【0030】
餌に含まれる脂肪酸のMUFAの組成比は、30%以上、特に32%以上とすることが好ましい。特にオレイン酸の組成比は、15%以上、特に20%以上とすることが好ましい。さらに、LCMUFAの組成比は、2.0%以上、特に7.0%以上とすることが好ましい。
【0031】
餌の脂肪酸のn-3/n-6比は、1.0以上、特に2.5~9.0であることが好ましい。一方で、餌に含まれる脂肪酸のDHAの組成比は、12.5%以下、特に10.0%以下、さらに9.0%以下とすることが好ましい。また、餌に含まれる脂肪酸のPUFAの組成比は、40%以下、特に38%以下、さらに35%以下とすることが好ましい。
【0032】
(2)水温
カンパチを養殖するための生簀や水槽内の水温は、15~28℃、特に、18~27℃、さらに20~25℃とすることが好ましい。カンパチの生簀は、通常海上に設置されるため、設置後の生簀内の水温を人為的に調節することは困難であるが、例えば、生簀の設置箇所を適切に選択することで、所望の温度条件下での養殖を行うことが可能である。
【0033】
(3)飼育密度
生簀や水槽内のカンパチの飼育密度は、3~25kg/m、特に、7~20kg/mとすることが好ましい。生簀や水槽の大きさは、カンパチの各個体が他の個体と接触することなく遊泳可能であれば、特に限定されないが、例えば、縦及び横が8~60m、深さ8~25m程度の大きさとすることができる。
【0034】
(4)期間
上記の養殖条件における養殖を、出荷前の7日間以上、より好ましくは30日間以上、より好ましくは60日以上、より好ましくは90日以上行い、上記養殖条件における養殖の期間後の養殖カンパチは、直ちに出荷されることが好ましい。
【0035】
本発明の方法は、上記の飼育管理条件下でカンパチを養殖することにより、MUFA、特にLCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む養殖カンパチを得ることが可能となる。
【実施例0036】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0037】
<実施例1.複数の養殖場におけるカンパチに対する給餌試験>
3ヶ所の養殖場、養殖場A、Bで、それぞれカンパチに対する給餌試験を行った。各養殖場において餌としては配合飼料を与えた。各養殖場における飼育管理条件を、表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
<実施例2.餌の脂肪酸組成分析>
各養殖場で使用した配合飼料について、含まれる脂肪分の脂肪酸組成比を求めた。各飼料(試料として使用)100~200mgに内部標準として10mg/mLトリコサン酸メチル50μLを添加した後、蒸留水1mLを添加し、クロロホルム:メタノール=1:1溶液を5mL加えて攪拌した。遠心分離(3000rpm、10分、10℃)を行った後、下層部を綿栓ろ過して減圧乾燥して脂質を抽出した。得られた脂質に0.5M水酸化ナトリウム・メタノール溶液300μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、9分間加熱してけん化した。冷却後、三フッ化ホウ素メタノール溶液(ALDRICH製)400μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、7分間加熱してメチルエステル化した。冷却後、蒸留水600μL、ヘキサン600μLを加えて攪拌した後、遠心分離を行い、上層部を回収して無水硫酸ナトリウムにて脱水後、減圧乾燥して、脂肪酸のメチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルのヘキサン溶液について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行った。
カラム(充填剤、サイズ):DB-WAX(長さ30m×内径250mm、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー製)
カラム温度:170℃で5分間保持し、1.5℃/分で240℃まで昇温後、10分保持
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム
流速:1.07mL/分
【0040】
脂肪酸の同定は、予め脂肪酸標準品の各成分の保持時間を求めることにより行った。また、濃度既知の標準品のピーク面積を基準として、試料の各ピークから各脂肪酸の量を算出した。各養殖場の配合飼料に含まれる脂肪酸の組成比を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
<実施例3.各養殖場の養殖カンパチの脂肪酸組成分析>
各養殖場で4月~9までの期間養殖されたカンパチを水揚げし、〆機にかけた。各養殖場のカンパチについて、筋肉組織を200g切り出して試料とした。得られた試料について、それぞれ15gずつ切り分けて、実施例2と同様の方法で脂肪酸組成分析を行った。各養殖場の試料の測定結果を表3に示す。表3では、組成比をいずれも平均値±標準偏差(SD)及び最高値/最低値で示す。表中の「HUFA」(High Unsaturated Fatty Acid)は、高度多価不飽和脂肪酸であり、その構造の炭素鎖に二重結合が4つ以上あるものを指す。
【0043】
【表3】
【0044】
いずれの養殖場においても、養殖カンパチの可食部のPUFA、MUFA及びSFAの脂肪酸組成比の平均値は、それぞれ35%以下、30%以上及び30%以下となった。また、オレイン酸の含有量の平均値が、脂肪酸組成比で18%以上となった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の養殖カンパチ及びカンパチの養殖方法は、食品産業分野等で利用可能である。