(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111135
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】炉内落下物防護装置及びその設置方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20220722BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
F27D1/16 V
F27D1/16 Z
E04G21/32 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083270
(22)【出願日】2022-05-20
(62)【分割の表示】P 2018029900の分割
【原出願日】2018-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506000128
【氏名又は名称】日鉄環境エネルギーソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上杉 直大
(72)【発明者】
【氏名】杉永 愼一
(57)【要約】
【課題】炉内上部より落下する落下物を確実に受け止めることができる炉内落下物防護装置及びその設置方法を提供する。
【解決手段】炉内でバルーン21の内部に圧縮空気を供給することにより膨張させ、この圧縮空気の供給により発生する張力によって当該バルーンを炉内で自己保持させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に設置されて落下物を受け止める炉内落下物防護装置であって、
内部に圧縮空気を供給することにより膨張し、この圧縮空気の供給により発生する張力によって炉内で自己保持されるバルーンを有する、炉内落下物防護装置。
【請求項2】
前記バルーンはその上面及び下面にそれぞれ、当該バルーンの膨張時の外郭形状に倣うように配列された外側ハトメ列と、この外側ハトメ列より内側で前記外郭形状に倣うように配列された少なくとも1つの内側ハトメ列とを備え、隣接するハトメ列を括ることによりバルーンの膨張時の外郭形状の大きさを調整可能である、請求項1に記載の炉内落下物防護装置。
【請求項3】
前記バルーンは膨張時、中央部に貫通孔が形成される形状であり、前記貫通孔にネットが設けられている、請求項1又は2に記載の炉内落下物防護装置。
【請求項4】
前記バルーンの材質は、上面がターポリン、外側面が前記ターポリンより薄くて軽量な軽量ターポリン、下面がナイロン布地である、請求項1から3のいずれかに記載の炉内落下物防護装置。
【請求項5】
前記バルーンの内部に、下面側に向けて照明する照明手段を設置している、請求項1から4のいずれかに記載の炉内落下物防護装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の炉内落下物防護装置を炉内に設置する炉内落下物防護装置の設置方法であって、
炉内で前記バルーンの内部に圧縮空気を供給することにより膨張させ、この圧縮空気の供給により発生する張力によって当該バルーンを炉内で自己保持させる、炉内落下物防護装置の設置方法。
【請求項7】
前記バルーンを膨張させる前に、隣接するハトメ列を括ることにより当該バルーンの膨張時の外郭形状の大きさを、炉内形状の大きさに対して1.05倍以上1.25倍以下の範囲となるように調整する、請求項6に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。
【請求項8】
前記バルーンを膨張させる前に当該バルーンを炉内でワイヤロープにて吊り下げ、前記ワイヤロープの巻上げ又は巻下げにより当該バルーンの炉内での高さ位置を調整後、当該バルーンを膨張させる、請求項6又は7に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。
【請求項9】
炉内にある前記ワイヤロープの先端を、炉に設けられている作業用の開口部から炉外に出し、このワイヤロープの先端と前記バルーンとを連結し、前記開口部から前記バルーンを炉内に装入し、この装入時、前記バルーンに圧縮空気を供給するために当該バルーンに連結されている圧縮空気供給ダクトの先端は炉外に残したままとし、この圧縮空気供給ダクトの先端側から圧縮空気を供給する、請求項8に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉や燃焼室などの炉内で作業を行う際に、剥離した耐火材等の落下物から作業者を防護するために設置される炉内落下物防護装置とその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炉内で作業を行う際、炉内上部より劣化して剥離した耐火材や炉内付着物(クリンカ、ダスト塊等)が落下し、これら耐火材等の落下物が作業者にあたることが危惧される。そこで従来一般的には、作業者が炉内に入る前に落下しそうな物がないか目視確認し、必要に応じて長尺物や圧縮空気を利用して除去した上で、炉内に進入して落下物養生として仮設足場を組む作業を行っていた。しかし、この従来の手法では、炉内点検・整備作業に着手するまでに時間を要することに加え、仮設足場を組む作業中の安全面に一抹の不安もあった。
【0003】
一方、落下物養生として仮設足場を組むことに代えて炉内にバルーン(エアバック)を設置する技術も知られている(例えば特許文献1,2)。しかし、これら従来のバルーンはいずれも支持部材に載置した状態で膨張させるようにしており、膨張時、バルーンの外側面は炉内壁に密着するものの、その密着力(張力)は小さい。この場合、炉内上部より重い落下物が落下すると、その落下物は一旦バルーンで受け止められるがバルーンの上面形状に従いバルーンの外側面側に移動する。そうすると、バルーンの外側面と炉内壁との密着力が小さいため、この密着力が落下物の重力に負けて、この落下物がバルーンの外側面と炉内壁との間を滑り落ちるようにしてバルーンの下方に落下するおそれがある。炉内上部より落下する耐火材や炉内付着物などの落下物には10kgを超える重量物もあり、このような重量物が落下すると、上述のとおり従来のバルーンでは受け止めきれずバルーンの下方に落下することが危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-113293号公報
【特許文献2】特開2014-136892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、炉内上部より落下する落下物を確実に受け止めることができる炉内落下物防護装置及びその設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、次の(1)から(5)の炉内落下物防護装置及び(5)から(9)の炉内落下物防護装置の設置方法が提供される。
(1)
炉内に設置されて落下物を受け止める炉内落下物防護装置であって、
内部に圧縮空気を供給することにより膨張し、この圧縮空気の供給により発生する張力によって炉内で自己保持されるバルーンを有する、炉内落下物防護装置。
(2)
前記バルーンはその上面及び下面にそれぞれ、当該バルーンの膨張時の外郭形状に倣うように配列された外側ハトメ列と、この外側ハトメ列より内側で前記外郭形状に倣うように配列された少なくとも1つの内側ハトメ列とを備え、隣接するハトメ列を括ることによりバルーンの膨張時の外郭形状の大きさを調整可能である、(1)に記載の炉内落下物防護装置。
(3)
前記バルーンは膨張時、中央部に貫通孔が形成される形状であり、前記貫通孔にネットが設けられている、(1)又は(2)に記載の炉内落下物防護装置。
(4)
前記バルーンの材質は、上面がターポリン、外側面が前記ターポリンより薄くて軽量な軽量ターポリン、下面がナイロン布地である、(1)から(3)のいずれかに記載の炉内落下物防護装置。
(5)
前記バルーンの内部に、下面側に向けて照明する照明手段を設置している、(1)から(4)のいずれかに記載の炉内落下物防護装置。
(6)
(1)から(5)のいずれかに記載の炉内落下物防護装置を炉内に設置する炉内落下物防護装置の設置方法であって、
炉内で前記バルーンの内部に圧縮空気を供給することにより膨張させ、この圧縮空気の供給により発生する張力によって当該バルーンを炉内で自己保持させる、炉内落下物防護装置の設置方法。
(7)
前記バルーンを膨張させる前に、隣接するハトメ列を括ることにより当該バルーンの膨張時の外郭形状の大きさを、炉内形状の大きさに対して1.05倍以上1.25倍以下の範囲となるように調整する、(6)に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。
(8)
前記バルーンを膨張させる前に当該バルーンを炉内でワイヤロープにて吊り下げ、前記ワイヤロープの巻上げ又は巻下げにより当該バルーンの炉内での高さ位置を調整後、当該バルーンを膨張させる、(6)又は(7)に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。
(9)
炉内にある前記ワイヤロープの先端を、炉に設けられている作業用の開口部から炉外に出し、このワイヤロープの先端と前記バルーンとを連結し、前記開口部から前記バルーンを炉内に装入し、この装入時、前記バルーンに圧縮空気を供給するために当該バルーンに連結されている圧縮空気供給ダクトの先端は炉外に残したままとし、この圧縮空気供給ダクトの先端側から圧縮空気を供給する、(8)に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。
【発明の効果】
【0007】
前記(1)の炉内落下物防護装置によれば、バルーンが炉内で自己保持されるほどの強い密着力をもって炉内壁に密着するから、落下物がバルーンの外側面と炉内壁との間を滑り落ちることを防止でき、その落下物を確実に受け止めることができる。
【0008】
前記(2)の炉内落下物防護装置によれば、バルーンの膨張時の外郭形状の大きさを、このバルーンを設置する炉内形状の大きさに対して適切な大きさとなるように調整可能であるので、炉内上部より落下する落下物をより確実に受け止めることができる。
バルーンの膨張時の外郭形状の大きさは当然、このバルーンを設置する炉内形状の大きさより大きいものとするが、これが大きすぎると、炉内でバルーンを膨張させたときにいびつな外郭形状となって、バルーンの外側面と炉内壁との間に隙間が生じたり部分的に密着力の弱い部分が生じたりするおそれがある。これに対して、前記(2)の炉内落下物防護装置によれば、隣接するハトメ列を括ることによりバルーンの膨張時の外郭形状の大きさを小さくすることができるので、バルーンの外側面と炉内壁とを強い密着力をもって確実に密着させることができる。これにより、炉内上部より落下する落下物をより確実に受け止めることができる。
【0009】
前記(3)の炉内落下物防護装置によれば、中央部の貫通孔を通じ、既設又は仮設の送風機等により、バルーン下方の作業空間の換気を行うことができる。また、中央部の貫通孔にはネットが設けられているので、換気性を損なうことなく、この貫通孔から落下物が下方に落下することを防止できる。
なお、この貫通孔は、バルーンの膨張時の外郭形状の大きさが炉内形状の大きさより大きくなるほど、膨張時に潰れて縮小する傾向となるが、前記(3)のように隣接するハトメ列を括ることによりバルーンの膨張時の外郭形状の大きさを小さくすることができるようにしておけば、貫通孔の大きさも十分に確保できる。
【0010】
前記(4)の炉内落下物防護装置によれば、バルーンの材質を使い分けることで、落下物を確実に受け止めるために必要な強度を確保しつつ、軽量化を図ることができる。すなわち、落下物を直接受け止める上面については高強度の材質であるターポリンとし、外側面については炉内壁と密着するものの落下物を直接受け止めることはないので、上面に使用したターポリンより薄くて軽量な軽量ターポリンとし、落下物を直接受け止めることも炉内壁と密着することもない下面については高い強度は必要ないので、軽量ターポリンより軽量なナイロン布地とすることで、落下物を確実に受け止めるために必要な強度を確保しつつ、軽量化を図ることができる。
なお、前記(3)のようにバルーンが中央部に貫通孔を有する場合、このバルーンの内側面の材質は下面と同じナイロン布地とすることが好ましい。
【0011】
前記(5)の炉内落下物防護装置によれば、バルーン下方の作業空間を照明することができるので、この作業空間が暗い場合には特に有効である。また、照明手段はバルーンの内部に設置されているので、この照明手段が炉内で損傷することを防止できる。
なお、照明手段をバルーンの内部に設置してバルーン下方の作業空間を照明する場合、バルーンの下面の少なくとも一部は透光性の材質とする必要があるが、前記(3)のようにバルーンの下面の材質をナイロン布地としておけば、軽量化を図りつつ下方の作業空間を問題なく照明することができる。
【0012】
前記(6)の炉内落下物防護装置の設置方法によれば、前記(1)と同様にバルーンが炉内で自己保持されるほどの強い密着力をもって炉内壁に密着するから、落下物がバルーンの外側面と炉内壁との間を滑り落ちることを防止でき、その落下物を確実に受け止めることができる。
【0013】
前記(7)の炉内落下物防護装置の設置方法によれば、バルーンの膨張時の外郭形状の大きさを、このバルーンを設置する炉内形状の大きさに対して適切な大きさ、具体的には炉内形状の大きさに対して1.05倍以上1.25倍以下の範囲となるように調整することで、前記(2)で説明したように、炉内上部より落下する落下物をより確実に受け止めることができる。
【0014】
前記(8)の炉内落下物防護装置の設置方法によれば、バルーンを炉内の任意の高さ位置に設置することができるので、炉内落下物防護装置の有用性が向上する。なお、本発明ではバルーンを炉内で自己保持させるから、支持部材を伴うことなくバルーンを炉内の任意の高さ位置に容易に設置することができる。
【0015】
前記(9)の炉内落下物防護装置の設置方法によれば、作業者が一切炉内に入ることなく、バルーンを炉内に設置することができる。
【0016】
以上のとおり本発明によれば、炉内上部より落下する落下物を確実に受け止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態である炉内落下物防護装置を炉内に設置した状態を概念的に示す縦断面図。
【
図2】
図1に示した本発明の一実施形態である炉内落下物防護装置の平面図。
【
図5】
図2に示した炉内落下物防護装置の概略斜視図。
【
図6】
図2に示した炉内落下物防護装置のバルーンの膨張時の外郭形状の大きさを調整する要領を示す説明図で、(a)は大きさの調整前、(b)は大きさの調整後。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、本発明の一実施形態である炉内落下物防護装置を炉内に設置した状態を縦断面によって概念的に示している。
炉10は円筒状の直胴部11と逆円錐台状の炉底部12とを有し、直胴部11の内径(炉内直径)は3000~6500mm程度である。この炉10の内壁(炉内壁)には耐火材が施工され、この炉内壁にはクリンカ、ダスト塊等の炉内付着物13が付着している。
そしてこの炉10の内部(炉内)に本発明の一実施形態である炉内落下物防護装置20が設置されている。
【0019】
図2~5にこの炉内落下物防護装置20を示しており、
図2は平面図、
図3は正面図、
図4は
図3のA-A矢視図、
図5は概略斜視図である。なお、
図5では後述するハトメ(ハトメ列)については省略ないし簡略化して示している。
この炉内落下物防護装置20は、圧縮空気を供給することにより膨張するバルーン21を有する。なお、
図2~5はいずれもこのバルーン21を膨張させた状態を示している。
【0020】
バルーン21の上面には圧縮空気を供給するために2本の圧縮空気供給ダクト22が連結されている。この圧縮空気供給ダクト22はバルーン21から空気を抜いてこのバルーン21を収縮させるときの空気排出ダクトにもなる。圧縮空気供給ダクト22の本数は1本でもよいが、圧縮空気供給ダクト22を複数本設けておけば、
図1に示すように炉10の上部に設けられている作業用の開口部(上部マンホール14)に近い1本又は複数本の圧縮空気供給ダクト22を用いることで、炉外にある圧縮空気供給ファン30から供給される圧縮空気をバルーン21に簡単に供給することができる。なお、この圧縮空気供給時に使用しない圧縮空気供給ダクト22については止め具などにより密閉しておけばよい。
【0021】
このバルーン21は膨張時、中央部に貫通孔23が形成されてドーナッツ型となるが、この貫通孔23にはネット24が設けられている。このネット24は貫通孔23の高さ方向のいずれの箇所に設けてもよく、1枚に限らず複数枚設けてもよい。ネット24の素材(材質)は、例えば直径2mmのポリエチレンとすることができ、メッシュサイズは例えば□25mmとすることができる。
【0022】
バルーン21の内部には照明手段としてLEDライト25が設置されている。この実施形態では
図4に示すように、バルーン21内部の外側面に円周方向に沿って等間隔で8個のLEDライト25が、いずれもバルーン21の下面側に向けて照明するように設置されている。これら8個のLEDライト25は例えば直列に接続したうえで、バルーン21の内側面にあるチャック26を開け、その開口からバルーン21の内部に入れることができる。なお、各LEDライト25へ電力を供給する電線(図示省略)は、チャック26部分から引き出すことができる。
【0023】
バルーン21はその上面及び下面にそれぞれ、外側ハトメ列27Aと、3つの内側ハトメ列27B~Cを備えている。
外側ハトメ列27Aは、膨張時のバルーン21の外郭形状(以下、単に「バルーン21の外郭形状」という。)に倣うように、具体的にはバルーン21の外郭形状(最外郭)に沿って複数のハトメ27を配列したものである。
内側ハトメ列27B(以下「第一の内側ハトメ列27B」という。)は、外側ハトメ列27Aより内側でバルーン21の外郭形状に倣うように複数のハトメ27を配列したものである。
内側ハトメ列27C(以下「第二の内側ハトメ列27C」という。)は、第一の内側ハトメ列27Bより内側でバルーン21の外郭形状に倣うように複数のハトメ27を配列したものである。
内側ハトメ列27D(以下「第三の内側ハトメ列27D」という。)は、第二の内側ハトメ列27Cより内側でバルーン21の外郭形状に倣うように複数のハトメ27を配列したものである。
【0024】
このように各ハトメ列27A~Dはいずれもバルーン21の外郭形状に倣うように複数のハトメ27を配列したもので、この実施形態ではバルーン21の外郭形状は円であるから各ハトメ列27A~Dは同心円状に配置されている。また、この同心円状の配置において各ハトメ列27A~Dの直径は、外側ハトメ列27A、第一の内側ハトメ列27B、第二の内側ハトメ列27C、第三の内側ハトメ列27Bの順に小さく、一例としてこの実施形態では、外側ハトメ列27Aの直径はバルーン21の外郭形状の直径と同じで6800mm、第一の内側ハトメ列27Bの直径は6000mm、第二の内側ハトメ列27Cの直径は5000mm、第三の内側ハトメ列27Dの直径は4000mmである、
なお、バルーン21の上面の各ハトメ列27A~Dの直径とバルーン21の下面の各ハトメ列27A~Dの直径とはそれぞれ同一である。言い換えればバルーン21の上面の各ハトメ列27A~Dとバルーン21の下面の各ハトメ列27A~Dとは、上下方向から見たときにそれぞれ重なるように配置されている。
また、この実施形態において各ハトメ列27A~Dでは、各64個のハトメ27が等間隔(約5.6°間隔)で配列されている。
【0025】
このようにこの実施形態のバルーン21は、外側ハトメ列27Aと3つの内側ハトメ列27B~Dを備えることで、バルーン21の膨張時の外郭形状の大きさ(直径)を4段階に調整可能である。
すなわち、各ハトメ列27A~Dを全く括らないときは、
図2や
図6(a)に示しているように最も直径が大きくなる(このときの直径は上述のとおり6800mm。)。
次に、
図6(b)に示しているように、外側ハトメ列27Aと第一の内側ハトメ列27Bとを括ることにより、バルーン21の膨張時の外郭形状の大きさ(直径)は第一の内側ハトメ列27Bの直径(6000mm)まで小さくなる。
また、外側ハトメ列27Aと第一の内側ハトメ列27Bと第二の内側ハトメ列27Cとを括れば、バルーン21の膨張時の外郭形状の大きさ(直径)は第二の内側ハトメ列27Cの直径(5000mm)まで小さくなる。さらに、外側ハトメ列27Aと第一の内側ハトメ列27Bと第二の内側ハトメ列27Cと第三の内側ハトメ列27Dとを括れば、バルーン21の膨張時の外郭形状の大きさ(直径)は第三の内側ハトメ列27Dの直径(4000mm)まで小さくなる。
このようにこの実施形態のバルーン21は、隣接するハトメ列27A~Dを括る組合せを変えることにより、膨張時の外郭形状の大きさ(直径)を6800mm、6000mm、5000mm、4000mmの4段階に変更可能である。なお、このバルーン21の膨張時の厚み(高さ)は1000mmである。
【0026】
ここで、隣接するハトメ列27A~Dを括るときは、例えば
図6(b)に拡大して示しているように、外側ハトメ列27Aのハトメ27とこれと隣接する第一の内側ハトメ列27Bのハトメ27とをロープ28で縛りまとめるようにすればよい。ただし、隣接するハトメ列を括る方法はこれに限定されず、例えば
図6(b)のように一対のハトメ単位で縛るのではなく、複数対のハトメ単位で縛るようにしてもよい。また、この実施形態では外側のハトメ列から順次内側のハトメ列へと括るようにしたが、隣接するハトメ列を括る順番はこの実施形態には限定されない。
【0027】
上述のとおり、この実施形態においてバルーン21は膨張時の外郭形状の大きさ(直径)を6800mm、6000mm、5000mm、4000mmの4段階に変更可能であるが、本発明者らがこのバルーン21の外郭形状の直径を変えながら、炉内直径4180mmの炉内に設置する試験を重ねたところ、バルーンの膨張時の外郭形状の直径を「炉内直径+300~1000mm」の範囲に設定することが好ましいことがわかった。これを大きさの比として換算すると、バルーンの膨張時の外郭形状の大きさは炉内形状の大きさに対して、4480/4180≒1.05倍以上、5180/4180≒1.25倍以下の範囲に設定することが好ましいといえる。
すなわち、バルーンの膨張時の外郭形状の大きさは炉内形状の大きさに対して小さすぎると上述の「自己保持」の実現が難しくなる。一方、バルーンの膨張時の外郭形状の大きさは炉内形状の大きさに対して大きすぎると、上述のとおり、炉内でバルーンを膨張させたときにいびつな外郭形状となって、バルーンの外側面と炉内壁との間に隙間が生じたり部分的に密着力の弱い部分が生じたりするおそれがある。
【0028】
なお、この実施形態では、内側ハトメ列を3つ設けたが、本発明において内側ハトメ列は少なくとも1つあればよい。すなわち、内側ハトメ列が1つあれば、この内側ハトメ列と外側ハトメ列とを括ることにより、バルーンの膨張時の外郭形状の大きさ(直径)を少なくとも2段階に調整可能である。このとき、内側ハトメ列と外側ハトメ列とを完全に括るのではなく、内側ハトメ列と外側ハトメ列とを所定の間隔を残して括るようにし、その所定の間隔を調整するようにすれば、より多くの段階にバルーンの膨張時の外郭形状の大きさ(直径)を調整可能である。ただし、内側ハトメ列と外側ハトメ列とを所定の間隔を残して括るようにすることには手間がかかるので、簡単な作業でバルーンの膨張時の外郭形状の大きさ(直径)を多くの段階に調整可能とするには、内側ハトメ列は複数設けることが好ましい。
【0029】
また、この実施形態では、バルーン21の外郭形状は炉内形状に合わせて円としたが、炉内形状が異なればこれに合わせて適宜変更され、例えば楕円や四角形とすることもできる。この場合、外側ハトメ列と内側ハトメ列もバルーンの外郭形状に倣って楕円や四角形とする。
【0030】
次にバルーン21の材質について説明すると、この実施形態ではバルーン21の上面をターポリン、外側面を軽量ターポリン、下面及び内側面をナイロン布地としている。各材質の詳細は表1に示すとおりである。なお、ターポリン(軽量ターポリン)とは繊維の布を軟質の合成樹脂フィルムでサンドイッチした複合シートのことであり、表1にはその厚さ、重量及び引裂強力を示している。
【0031】
【0032】
このように、バルーン21の材質を使い分けることで、落下物を確実に受け止めるために必要な強度を確保しつつ、軽量化を図ることができる。すなわち、落下物を直接受け止める上面については高強度の材質であるターポリンとし、外側面については炉内壁と密着するものの落下物を直接受け止めることはないので、上面に使用したターポリンより薄くて軽量な軽量ターポリンとし、落下物を直接受け止めることも炉内壁と密着することもない下面及び内側面については高い強度は必要ないので、軽量ターポリンより軽量なナイロン布地とすることで、落下物を確実に受け止めるために必要な強度を確保しつつ、軽量化を図ることができる。軽量化の具体例を示すと、全面を表1のターポリンで形成したバルーンの重量は100kgを超えていたのに対し、上述のように材質を使い分けることで、その重量は約60kgまで減少し40%以上の軽量化が図られている。
【0033】
次に、このバルーン21(炉内落下物防護装置20)を炉内に設置する方法について説明する。
【0034】
この実施形態においてバルーン21は
図1に示す上部マンホール14から炉内に装入するが、装入前にバルーン21を収縮させた状態で、このバルーン21の膨張時の外郭形状直径が炉内直径に対して適切な範囲内(「炉内直径+300~1000mm」)となるように調整する。このバルーン21の膨張時の外郭形状の直径の調整は、上述のとおり隣接するハトメ列27A~Dを括る組合せを変えることにより行う。一例として炉内直径が4180mmの場合、バルーン21の膨張時の外郭形状の直径の適切な範囲は4480~5180mmであるから、外側ハトメ列27Aと第一の内側ハトメ列27Bと第二の内側ハトメ列27Cとを括ることにより、バルーン21の膨張時の外郭形状の直径を5000mmに設定する。
【0035】
一方、
図1に示すように炉10の炉頂部には、バルーン21の炉内での高さ位置を調整するためにウィンチ40が設置されており、このウィンチ40からワイヤロープ41が炉内に垂下されている。そこで、長尺物等を用いて、炉内にあるワイヤロープ40の先端を上部マンホール14から炉外に出し、このワイヤロープ41の先端とバルーン21とを連結具等(図示せず)で連結する。その後、上部マンホール14からバルーン21を炉内に装入する。このとき、バルーン21に圧縮空気を供給するために連結されている圧縮空気供給ダクト22の先端は炉外に残したままとし、この圧縮空気供給ダクト22の先端と圧縮空気供給ファン30から伸びる圧縮空気ダクト31の先端とを連結具32等によって連結する。
【0036】
この状態において炉内ではバルーン21はワイヤロープ41で吊り下げられているので、ウィンチ40によりワイヤロープ41の巻上げ又は巻下げを行い、これによりバルーン21の炉内での高さ位置を所望の位置に調整する。その後、圧縮空気供給ファン30から圧縮空気ダクト31及び圧縮空気供給ダクト22を介して、バルーン21の内部に圧縮空気を供給することによりバルーン21を膨張させ、この圧縮空気の供給により発生する張力によってバルーン21を炉内で自己保持させる。このようにバルーン21は所望の高さ位置に自己保持されるので、この自己保持後はワイヤロープ41で吊り下げておく必要はなく、このワイヤロープ41は弛ませておくこともできる。なお、バルーン21の自己保持中はバルーン21への圧縮空気の供給を継続する
【0037】
このようにこの実施形態によれば、作業者が一切炉内に入ることなく、バルーン21を炉内に設置することができる。そして炉内で作業する作業者はバルーン21を設置後、例えば
図1に示す下部マンホール15から炉内に入って作業を行うことができる。
【0038】
炉内での作業が終わってバルーン21を撤去するときは、圧縮空気供給ファン30からバルーン21への圧縮空気の供給を停止し、圧縮空気供給ダクト22と圧縮空気ダクト31との連結を外し、バルーン21内の圧縮空気を抜くことで炉内にてバルーン21を収縮させる。その後、ウィンチ40によりワイヤロープ41の巻上げ又は巻下げを行い、収縮したバルーン21を上部マンホール14の近傍まで移動させ、収縮したバルーン21を上部マンホール14から取り出し、ワイヤロープ41の先端とバルーン21との連結を外す。
このようにこの実施形態によれば、作業者が一切炉内に入ることなく、バルーン21を炉外に取り出すこともできる。
【実施例0039】
図2~5に示したバルーン21を炉内直径4180mmの炉内に設置し、落下物を模擬して20kgの重りを受け止める試験を行った。試験条件として、バルーン21の膨張時の外郭形状の直径は5000mmに設定し、バルーン21に供給する圧縮空気の圧力は1.67kPaとしてこの圧力の圧縮空気を供給し続けた。これによりバルーン21は炉内で問題なく自己保持された。
【0040】
試験では、5mの落差から20kgの重りを投げ込み、バルーン21の上面部又はネット24部分に落下させた。その結果、バルーン21の上面部及びネット24部分共に問題なく20kgの重りを受け止めることができた。
すなわち、この試験においてバルーン21は自重(約60kg)に加え、5mの落差から落下する20kgの重りの重量分を支えることができる程度の密着力をもって炉内壁に密着していることが確認された。
なお、この密着力については、バルーンに供給する圧縮空気の圧力とバルーンが炉内壁と接する面積(バルーンの厚み)を調整することにより、調整可能である、
前記バルーンはその上面及び下面にそれぞれ、当該バルーンの膨張時の外郭形状に倣うように配列された外側ハトメ列と、この外側ハトメ列より内側で前記外郭形状に倣うように配列された少なくとも1つの内側ハトメ列とを備え、隣接するハトメ列を括ることによりバルーンの膨張時の外郭形状の大きさを調整可能である、請求項1に記載の炉内落下物防護装置。
前記バルーンの材質は、上面がターポリン、外側面が前記ターポリンより薄くて軽量な軽量ターポリン、下面がナイロン布地である、請求項1から3のいずれかに記載の炉内落下物防護装置。
前記バルーンを膨張させる前に当該バルーンを炉内でワイヤロープにて吊り下げ、前記ワイヤロープの巻上げ又は巻下げにより当該バルーンの炉内での高さ位置を調整後、当該バルーンを膨張させる、請求項6又は7に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。
炉内にある前記ワイヤロープの先端を、炉に設けられている作業用の開口部から炉外に出し、このワイヤロープの先端と前記バルーンとを連結し、前記開口部から前記バルーンを炉内に装入し、この装入時、前記バルーンに圧縮空気を供給するために当該バルーンに連結されている圧縮空気供給ダクトの先端は炉外に残したままとし、この圧縮空気供給ダクトの先端側から圧縮空気を供給する、請求項8に記載の炉内落下物防護装置の設置方法。