(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111192
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20220722BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16C17/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090132
(22)【出願日】2022-06-02
(62)【分割の表示】P 2019529773の分割
【原出願日】2018-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2017137916
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】井村 忠継
(72)【発明者】
【氏名】谷島 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】前谷 優貴
(57)【要約】
【課題】漏れ側から摺動面への吸い込み特性の向上を図ることにより、密封性の優れた摺動部品を提供する。
【解決手段】互いに摺動する摺動面Sを有する一対の摺動部品であって、少なくとも一方側の摺動面Sは複数のディンプルを配置してなるディンプル群を備え、ディンプル群は、摺動部品の外周側から内周側に亘る軸に沿って前記ディンプルを整列配置してなる整列ディンプル群からなり、いずれの整列ディンプル群においても軸に沿って整列配置されたディンプル同士の間隔が漏れ側から被密封流体側に向かって徐々に広くなるように配置され、また、ディンプル群は、角度方向標準偏差が1未満になるようにディンプルを配置してなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺動する摺動面を有する摺動部品であって、少なくとも一方側の前記摺動面は複数のディンプルを配置してなるディンプル群を備え、
前記摺動部品の外周側及び内周側のうち、一方が被密封流体側、他方が漏れ側であり、
前記ディンプル群は、前記摺動部品の外周側から内周側に亘る軸に沿って前記ディンプルを整列配置してなる整列ディンプル群からなり、
いずれの前記整列ディンプル群においても前記軸に沿って整列配置された前記ディンプル同士の間隔が前記漏れ側から前記被密封流体側に向かって徐々に広くなるように配置され、
前記ディンプル群は、前記ディンプルの前記摺動面の中心からの角度方向の標準偏差を、前記ディンプルを均一配置した場合の前記ディンプルの前記摺動面の中心からの角度方向の標準偏差で除した値である角度方向標準偏差が1未満になるように前記ディンプルを配置してなることを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記ディンプル群は、前記角度方向標準偏差が0.8未満になるように前記ディンプルを配置してなることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記摺動面の前記漏れ側には、前記ディンプル群の前記ディンプルの中心座標の半径方向座標平均が前記摺動面の摺動半径より小さくなるように前記ディンプルが配置され、且つ、ランド部で囲まれて形成されるポンピング形ディンプル群が配設され、
前記摺動面の前記被密封流体側には、前記角度方向標準偏差が少なくとも1未満になるように前記ディンプルが配置され、且つ、ランド部で囲まれて形成される潤滑形ディンプル群が配設されることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記摺動面は、前記ポンピング形ディンプル群と前記潤滑形ディンプル群との間に配設される環状溝と、前記環状溝と前記被密封流体側とを連通する連通溝と、をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、メカニカルシール、すべり軸受、その他、摺動部に適した摺動部品に関する。特に、摺動面に流体を介在させて摩擦を低減させるとともに、摺動面から流体が漏洩するのを防止する必要のある密封環または軸受などの摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部品の一例である、メカニカルシールにおいて、密封性を維持しつつ、回転中の摺動摩擦を極限まで下げることが求められている。低摩擦化の手法としては、摺動面に多様なテクスチャリングを施すことで、これらの実現を図ろうとしており、例えば、テクスチャリングのひとつとして摺動面にディンプルを配列したものが知られている。
【0003】
従来、密封と潤滑という相反する条件を両立させるため、摺動面にディンプルを設ける場合、複数のディンプルを整列に配置するのが一般的である。例えば、特開2003-343741号公報(以下、「特許文献1」という。)に記載の発明は、摺動面の摩擦係数を低減すると共に、シール能力を向上させることを目的として、摺動面に境界基準線Xを境に外周側と内周側とが傾斜方向を異にする複数の細長いディンプルを規則的に整列して設け、外周側のディンプルの回転方向先端を外周側へ向かって傾斜させると共に、内周側のディンプルの回転方向先端を内周側へ向かって傾斜させるようにしたものである。
【0004】
また、従来、潤滑性の向上のため、複数のディンプルをランダムに配置することも知られている。例えば、特開2001-221179号公報(以下、「特許文献2」という。)に記載の発明は、ロータリ圧縮機のシリンダの内壁と摺動するベーンの先端面及び両側端面に、複数個のディンプルをランダム配列したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-343741号公報
【特許文献2】特開2001-221179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の発明は、漏れ側から摺動面への吸い込み効果及び被密封流体側から摺動面への流入効果が少ないため、外周側のディンプルの回転方向先端を外周側へ向かって傾斜させると共に、内周側のディンプルの回転方向先端を内周側へ向かって傾斜させるという複雑な構成をとる必要があり、また、摺動面の径方向の中心部に流体が集中するため摺動面全体を均一に潤滑することができないという問題があった。
また、特許文献2に記載の発明は、潤滑性の向上のため、複数のディンプルをランダムに配置したというに過ぎず、密封性の向上に関しての考察はされていない。
【0007】
複数のディンプルを配置することで潤滑性能の向上がみられるが、低圧流体側に漏れようとする流体を吸い込む効果、いわゆる、ポンピング効果が得られにくいことから漏れが生じるという問題がある。また、どのような配置がどのように潤滑性能に影響しているか不明瞭であるという問題もあった。
【0008】
本発明は、第一に、複数のディンプルを配置する場合のディンプル配置特性とポンピング特性との関係を解明し、漏れ側から摺動面への流体の吸い込み特性の向上を図ることにより、密封性の優れた摺動部品を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、第二に、上記第一の目的に加えて、被密封流体側から摺動面への流体の流入特性の向上を図ることにより、密封と潤滑という相反する条件を両立させることができる摺動部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔本発明の原理〕
本願発明の発明者は、摺動面にディンプルを複数配置した摺動部品において、ラテン超方格法による実験計画を用いた配置条件の数値実験を行った結果、ディンプルの配置とポンピング特性及び潤滑特性との間には以下の関係があるという知見を得た。
(1)漏れ側から摺動面への吸い込み量(以下、ポンピング量ということもある。)は、ディンプルの摺動面の半径方向座標の平均値と相関がある。すなわち平均半径方向座標rmeanが0.5より小さくなると摺動面の内周側(漏れ側)から摺動面内に流体を吸い込む量が多くなる。ここで、平均半径方向座標rmeanは次の式により表される。
rmean=(ディンプル群を構成するディンプルの中心座標の半径方向座標の平均値-摺動面の内半径Ri)/(摺動面の外半径Ro-摺動面の内半径Ri)
(2)相対摺動する摺動面のトルクは、均一な分布によって正規化されたディンプルの角度方向座標の標準偏差(以下「角度方向標準偏差σθ」といい、ディンプル群の角度方向の分散度合を意味する。)と相関があり、角度方向標準偏差σθが1より小さく、より好ましくは、0.8より小さくなると、大きなトルクが発生しにくくなる。
本願発明は、上記の知見に基づき、第一に、ディンプルの中心座標の半径方向座標平均値が摺動半径より小さくなるようにディンプルを配置して、漏れ側から摺動面への吸い込み特性の向上を図ることにより密封性を向上させるものであり、第二に、ディンプルの角度方向標準偏差σθが1より小さく、より好ましくは0.8より小さくなるようにディンプルを配置して、潤滑性を向上させ、大きなトルクの発生を防止するものである。
【0010】
〔解決手段〕
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、
互いに摺動する摺動面を有する一対の摺動部品であって、少なくとも一方側の前記摺動面は複数のディンプルを配置してなるディンプル群を備え、
前記ディンプル群の前記ディンプルの中心座標の半径方向座標平均が前記摺動面の摺動半径より小さくなるように前記ディンプルが配置されることを特徴としている。
この特徴によれば、漏れ側から摺動面への流体の吸い込み特性を向上することができ、密封性の優れた摺動部品を提供することができる。
【0011】
本発明の摺動部品は、
前記ディンプル群は、ランド部を介して前記摺動面の周方向に独立して複数形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、ディンプル群を流れる流体はランド部により堰き止められ動圧を発生して潤滑性能を向上させることができる。
【0012】
本発明の摺動部品は、
前記ディンプル群の前記ディンプルの中心座標の角度方向標準偏差が1未満になるように前記ディンプルが配置されることを特徴としている。
この特徴によれば、被密封流体側から摺動面への流体の流入特性を向上させ、厚い液膜を得ることができ、潤滑性の優れたと摺動部品を提供することができる。
【0013】
本発明の摺動部品は、
前記ディンプル群の前記ディンプルの中心座標の角度方向標準偏差が0.8未満になるように前記ディンプルが配置されることを特徴としている。
この特徴によれば、より一層、被密封流体側から摺動面への流体の流入特性を向上させ、厚い液膜を得ることができ、潤滑性の優れた摺動部品を提供することができる。
【0014】
本発明の摺動部品は、
前記摺動面の漏れ側には、前記ディンプル群の前記ディンプルの中心座標の半径方向座標平均が前記摺動面の摺動半径より小さくなるように前記ディンプルが配置されてなるポンピング形ディンプル群が配設され、
前記摺動面の被密封流体側には、前記ディンプル群の前記ディンプルの中心座標の角度方向標準偏差が少なくとも1未満になるように前記ディンプルが配置されてなる潤滑形ディンプル群が配設されることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面の密封性を向上させると共に、潤滑性を、より一層、向上させることができる。
【0015】
本発明の摺動部品は、
前記摺動面は、前記ポンピング形ディンプル群と前記潤滑形ディンプル群との間に配設される環状溝と、前記環状溝と前記被密封流体側とを連通する連通溝と、をさらに備えることを特徴としている。
この特徴によれば、連通溝と環状溝を介して摺動面に被密封流体側から流体を供給できるので摺動面の潤滑性を向上することができると共に、環状溝によりポンピング形ディンプル群と潤滑形ディンプル群との相互干渉を防止して、ポンピング形ディンプル群及び潤滑形ディンプル群の有するそれぞれの機能を十分に発揮させることができる。
【0016】
本発明の摺動部品は、
前記整列ディンプル群は、複数の前記ディンプルを円環状に配置してなるサブディンプル群を同心状に複数配置してなることを特徴としている。
この特徴によれば、密封性能を高めた配列を有するディンプル群を容易に形成できる。
【0017】
本発明の摺動部品は、
同心状に配置される前記サブディンプル群の径方向の間隔は径方向外側に向かって徐々に広くなるように配置されることを特徴としている。
この特徴によれば、複数のディンプルの半径方向座標平均が摺動面の摺動半径より小さいディンプル群を容易に構成して、密封性能を高めたディンプル群とすることができる。
【0018】
本発明の摺動部品は、
前記整列ディンプル群を構成する複数の前記ディンプルは、径方向軸に対して傾斜する軸に沿って配置されることを特徴としている。
この特徴によれば、整列ディンプル群は、漏れ側から摺動面に効率良く漏れ側流体を取り込んで密封性を向上させることができる。
【0019】
前記摺動面は、前記ディンプルが周方向に密に配列された部分と周方向に疎に配列された部分とが交互に配置されることを特徴としている。
この特徴によれば、潤滑性能を高めた整列ディンプル群を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1に係るメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面のディンプルの配置例を示す平面図である。
【
図3】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面のデ ィンプルの配置の変形例を示す平面図である。
【
図4】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面のディンプルの配置の他の変形例を示す平面図である。
【
図5】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例2に係る摺動部品の摺動面のディンプルの配置例を示す平面図である。
【
図6】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例2に係る摺動部品の摺動面のディンプルの配置の変形例を示す平面図である。
【
図7】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例2に係る摺動部品の摺動面のディンプルの配置の他の変形例を示す平面図である。
【
図8】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例3に係る摺動部品の摺動面のディンプルの配置例を示す平面図である。
【
図9】
図1のW-W矢視図であり、本発明の実施例4に係る摺動部品の摺動面のディンプルの配置例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例0022】
図1ないし
図4を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明するが、これに限定されることなく、例えば、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
なお、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(漏れ側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0023】
図1は、メカニカルシール1の一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、回転軸9側にスリーブ2を介してこの回転軸9と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転側密封環3と、ハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定側密封環5とが設けられ、固定側密封環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって、摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシール1は、回転側密封環3と固定側密封環5との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸9の外周側から内周側へ流出するのを防止するものである。
なお、
図1では、回転側密封環3の摺動面の幅が固定側密封環5の摺動面の幅より広い場合を示しているが、これに限定されることなく、逆の場合においても本発明を適用出来ることはもちろんである。
【0024】
回転側密封環3及び固定側密封環5の材質は、耐摩耗性に優れた炭化ケイ素(SiC)及び自己潤滑性に優れたカーボンなどから選定されるが、例えば、両者がSiC、あるいは、回転側密封環3がSiCであって固定側密封環5がカーボンの組合せが可能である。
相対摺動する回転側密封環3あるいは固定側密封環5の少なくともいずれか一方の摺動面には、ディンプルが配設される。
【0025】
本発明において、「ディンプル」とは、平坦な摺動面S(ランド部)に囲まれた開口部を有し、摺動面Sよりへこんだ底部を有する窪みのことであり、その形状は特に限定されるものではない。例えば、くぼみの開口部の形状は円形、三角形、楕円形、長円形、もしくは矩形が包含され、くぼみの断面形状も円錐状、円錐台状、半円状、お椀状、または、方形など種々の形が包含される。また、各ディンプルは重ならないように配置されている。
【0026】
摺動面の摩擦係数を低減させるためには、流体潤滑状態で作動させることが望ましい。ディンプルは窪み形状により流体潤滑作用が得られるものであり、ディンプルにおける流体潤滑のメカニズムは次のとおりである。
相手側摺動面が相対移動すると、ディンプルの穴部のくさび作用によって、穴部の上流側の部分では負圧、下流側の部分で正圧が発生する。その際、ディンプル10の上流側の負圧部分ではキャビテーションが発生し、キャビテーション領域では流体の蒸気圧に依存した圧力となるので負圧P1のピークが小さくなる。この結果、ディンプル10内では正圧P2の影響が支配的となり、負荷能力が発生して摺動面Sが持ち上がる。そして摺動面Sが持ち上がると、相対摺動する2つの摺動面の間隙が大きくなり、摺動面Sに流体が流入し、潤滑機能が得られる。
【0027】
本例では、固定側密封環5の摺動面Sに複数のディンプルが整列配置されてなるディンプル群20を設ける場合について説明する。この場合、回転側密封環3にはディンプルは設けられなくても、設けられてもよい。
【0028】
図2において、ディンプル群20は、複数のディンプル10が、固定側密封環5の漏れ側周面5bから被密封流体側周面5aに亘りかつ全周に亘って、整列配置されて構成される。ディンプル群20は、複数のディンプル10を半径R1、R2、R3、……、R9、R10を有する円環状に配置してなるサブディンプル群20a、20b、20c、……、20i、20jを同心状に配置して構成される。各サブディンプル群20a、20b、20c、……、20i、20jには、ディンプル10が等角度ピッチで配置(
図2の例では1°ごと360個配置)され、サブディンプル群20a、20b、20c、……、20i、20jの半径R1、R2、R3、……、R9、R10の大きさは、径方向外側に向かって徐々に大きくなる。このように、同心状に配置されるサブディンプル群20a、20b、20c、……、20i、20j同士の径方向の間隔が径方向外側に向かって徐々に広くなるように配置されることにより、ディンプル群20の半径方向座標の平均が、摺動半径Rm=(Ri+Ro)/2より小さくなるように配置できる。これにより、ディンプル群20は、摺動面Sの内周側(漏れ側)から摺動面内に流体の吸い込み量が多くなり、ディンプル群20の密封性が向上する。ここで、Riは摺動面の内半径、Roは摺動面の外半径である。
【0029】
なお、円環状のサブディンプル群20a、20b、20c、……、20i、20jの半径R1、R2、R3、……、R9、R10の大きさは、径方向外側に向かって一定の割合で線形に大きくしたが、これに限らない。たとえば、サブディンプル群20a、20b、20c、……、20i、20jの半径R1、R2、R3、……、R9、R10の大きさは、非線形に徐々に大きくなるように配置して、密封性を向上してもよい。
【0030】
(式1)のように正規化した平均半径方向座標rmeanを使って、平均半径方向座標rmeanが0.5より小さくなるように、複数のディンプル10を摺動面Sに配置することによって、ディンプル群20の密封性を向上できる。
rmean=(ディンプル群を構成するディンプルの中心座標の半径方向座標の平均値-摺動面の内半径Ri)/(摺動面の外半径Ro-摺動面の内半径Ri) (式1)
【0031】
なお、摺動面Sに配置された複数のディンプル10の平均半径方向座標rmeanが0.5より小さくして、漏れ側から摺動面内への流体の吸い込み量を多くしたものを「ポンピング形ディンプル群」と呼ぶ。
【0032】
これに対し、(式2)のように正規化した角度方向標準偏差σθを使って、複数のディンプル10の中心座標の角度方向標準偏差σθが1未満となるように、複数のディンプル10を摺動面Sに配置することにより、摺動面Sの潤滑性が向上することができる。
角度方向標準偏差σθ=ディンプル群の角度方向標準偏差σ/均一配置の整列ディンプル群の角度方向標準偏差σr (式2)
【0033】
角度方向標準偏差σθが1未満となるように、複数のディンプル10が配置されると、被密封流体側から摺動面Sへの流体の流れ込む量が増加して潤滑性が向上し、大きなトルク(摺動の抵抗)の発生が防止される。また、角度方向標準偏差σθが0.8未満であるように配置されると、より一層、摺動面Sの潤滑性が向上され、摺動トルクが低下する。本発明において、角度方向標準偏差σθが1未満であるように配置されてなるディンプル群を「潤滑形ディンプル群」と呼ぶ。
【0034】
ディンプル群の角度方向標準偏差σθは次のように求めることができる。
(1)たとえば、
図5において、ディンプル群21は摺動面Sの周方向に36等配で配設されているため、まず、36等配の場合の均一配置の整列ディンプル群のディンプルの中心座標の角度方向標準偏差σrを求める。36等配の場合の均一配置の整列ディンプル群の区画16の角度は10°であり、区画16の中心位置17からの均等位置は2.5°の位置になる。よって、36等配の場合の均一配置の整列ディンプル群の角度方向標準偏差σrは2.5°となる。
(2)区画16の中心位置17からディンプル群21を構成するディンプル10の中心座標の角度方向標準偏差σを算出する。
(3)上記の式2に基づいて、ディンプル群21の角度方向標準偏差σを均一配置の整列ディンプル群の角度方向標準偏差σrによって正規化して、角度方向標準偏差σθが求められる。
【0035】
図2のディンプル群20を構成するディンプル10は径方向軸rに沿って配列されているが、これに限らない。たとえば、
図3に示すように、円環状のサブディンプル群30a、30b、30c、……、30i、30jを同心状に配置したディンプル群30において、複数のディンプル10を径方向軸rに対して、回転側密封環3の回転方向(
図3では回転側密封環3の回転方向は時計方向)の遅れ側(下流側)に角度θ傾いた軸RSに沿って配置してもよい。これにより、ディンプル群30は、漏れ側から摺動面内へ流体を低圧力損失で吸い込むことができ、さらに密封性能を向上させることができる。
【0036】
また、ディンプル群20、ディンプル群30を構成する複数のディンプル10は周方向に等ピッチで配設されているが、これに限らない。たとえば、
図4に示すように、摺動面Sを所定の角度(
図4の例では20°)を有する複数の区画26に分けて、複数の区画のそれぞれにディンプル群40が配置される。そして、ディンプル群40は、複数のディンプルを円環状に配列したサブディンプル群40a、40b、40c、……、40i、40jを同心状に配置して構成され、サブディンプル群40a、40b、40c、……、40i、40j同士の径方向の間隔が径方向内側で狭く、径方向外側に向かって徐々に広くなるように配置される。これにより、ディンプル群40の半径方向座標の平均が、摺動半径Rm=(Ri+Ro)/2より小さくなり、摺動面Sの内周側(漏れ側)から摺動面内に流体の吸い込み量が多くなり、ディンプル群20の密封性が向上する。
【0037】
また、ディンプル群40は、それぞれの区画26の中心軸27に対し左右対称に配置され、区画26の中央部を密に、区画26の中央部から周方向端部に向かった徐々に疎になるようにディンプル10が配置され、複数の区画26のそれぞれにディンプル10が周方向に密に配列された部分と周方向に疎に配列された部分が形成される。すなわち、サブディンプル群40a、40b、40c、……、40i、40jを構成する各ディンプル10は径方向軸r1、r2、…、r10に沿って放射状に配置され、かつ、径方向軸r1、r2、…、r10同士の周方向間隔は区画26の中央部で狭く、区画26の中央部から周方向端部に向かって徐々に広くなるように配置される。これにより、摺動面S全体としてディンプル10が周方向に密に配列された部分と周方向に疎に配列された部分が連続して形成され、ディンプル群40の角度方向標準偏差σθが1より小さくなり、被密封流体側からディンプル群40内へ流体の流れ込む量が増加して流体潤滑性能を向上でき、大きなトルク(摺動の抵抗)の発生を防止することができる。
【0038】
以上の説明によれば、本発明の実施例1に係る摺動部品は以下のような格別顕著な効果を奏する。
【0039】
一対の摺動部品の互いに相対摺動する少なくとも一方側の環状の摺動面にディンプルが複数配置される摺動部品において、複数のディンプル10の中心座標の半径方向座標平均が摺動面Sの摺動半径Rmより小さくなるようにディンプル10が配置されるディンプル群20を備えることにより、漏れ側から摺動面への流体の吸い込み特性を向上することができ、密封性の優れた摺動部品を提供することができる。
【0040】
ディンプル群30を構成するディンプル10を径方向軸rに対して、相手側摺動面の回転方向の遅れ側に角度θ傾けることにより、ディンプル群30は、漏れ側から摺動面内へ効率よく流体を吸い込むことができ、さらに密封性能を向上させることができる。
【0041】
ディンプル群40は、ディンプル10の半径方向座標の平均を摺動半径Rm=(Ri+Ro)/2より小さくなるように配置されるので、密封性能を向上できる。さらに摺動面Sにディンプル10が周方向に密に配列された部分と周方向に疎に配列された部分とが交互に配置することにより、ディンプル群40の角度方向標準偏差σθが1より小さくなり、被密封流体側からディンプル群40内へ流体の流れ込む量が増加して流体潤滑性能を向上でき、大きなトルク(摺動の抵抗)の発生を防止することができる。
すなわち、摺動面Sに一種類のディンプル群40を配置することにより、密封性能と潤滑性能の両方を向上させることができる。
ディンプル群21を構成するディンプル10の中心座標の半径方向座標の平均が摺動面Sの摺動半径Rmより小さくなるように、すなわち平均半径方向座標rmeanが0.5以下になるように配置されているので、摺動面Sの内周側(漏れ側)から摺動面内へ吸い込まれる流体量が増加して、メカニカルシール1の密封性能が向上する。
また、ディンプル群21は、ランド部Rによって周方向に分離されているので、摺動面Sに流入した流体の周方向の移動がランド部によって堰き止められ正圧が発生し、この正圧により相対摺動する2つの摺動面の間隙が大きくなり、摺動面Sに潤滑性の流体が流入し、流体潤滑作用が向上する。
さらに、ディンプル群31は、ランド部Rを介して周方向に分離されているので、ディンプル群41内を流れる流体は、ランド部Rによって堰き止められ、ランド部Rにおいて動圧発生効果が増大して、相対摺動する2つの摺動面の間隙が大きくなり、摺動面Sに潤滑性の流体が流入し、流体潤滑作用が一層向上させることができる。
ディンプル群41を構成するディンプル10は、半径方向座標の平均が摺動半径Rm=(Ri+Ro)/2より小さくなるように配列されているので、漏れ側から摺動面内に流体の吸い込み量が多くなり密封性が向上する。さらに、区画26に配置されるディンプル群41の中央部を密に、区画26の中央部から周方向に離れるにしたがって疎になるようにディンプル10を配置することにより、摺動面Sにディンプル10が周方向に密に配列された部分と周方向に疎に配列された部分とが交互に配置される。これにより、ディンプル群41の角度方向標準偏差σθが1より小さくなり、被密封流体側からディンプル群41内へ流体の流れ込む量が増加して流体潤滑性能を向上でき、大きなトルク(摺動の抵抗)の発生を防止することができる。
加えて、ディンプル群41は、ランド部Rを介して周方向に分離されているので、ディンプル群41内を流れる流体は、ランド部Rによって堰き止められ動圧が発生して、流体潤滑作用が一層向上させることができる。