(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111273
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】キメラタンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220722BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20220722BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220722BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220722BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220722BHJP
C12N 9/50 20060101ALI20220722BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220722BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20220722BHJP
C12N 15/64 20060101ALI20220722BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220722BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220722BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220722BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220722BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20220722BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220722BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220722BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220722BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/57
C12N15/12
C07K19/00
C07K14/47
C12N9/50
C12N15/13
C12N9/90
C12N15/64 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/61
A61K47/68
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61K38/48
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022092922
(22)【出願日】2022-06-08
(62)【分割の表示】P 2020038667の分割
【原出願日】2016-02-23
(31)【優先権主張番号】1503133.9
(32)【優先日】2015-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】マーティン プーレ
(72)【発明者】
【氏名】ライアン トローブリッジ
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ホジキン
(57)【要約】
【課題】キメラタンパク質の提供。
【解決手段】本発明は、式:Casp-Ht1-Ht2(式中、Caspは、カスパーゼドメインであり;Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインである)を有するキメラタンパク質であって、一方のキメラタンパク質由来のHt1が、他方のキメラタンパク質由来のHt2とヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、相同対の前記キメラタンパク質が相互作用する、キメラタンパク質を提供する。本発明はまた、このようなタンパク質を含む細胞、および養子細胞療法におけるその使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、養子細胞療法(ACT)に有用なキメラタンパク質に関する。キメラタンパク質は、自殺遺伝子として作用して、キメラタンパク質を発現する細胞を排除することを可能にし得る。本発明はまた、このようなキメラタンパク質をコードする核酸、このような核酸を含む細胞、およびその治療的用途を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
養子細胞療法
養子免疫療法は、確立された発展的治療アプローチである。同種異系造血幹細胞移植(HSCT)の状況では、血液学的悪性腫瘍の再発を処置するために、ドナーリンパ球注入(DLI)が頻繁に行われる。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は、転移性メラノーマの処置に有効である。T細胞の遺伝子工学は、T細胞療法の範囲および効力を大きく増加させる:T細胞受容体移入は、細胞内癌抗原の標的化を可能にする一方、キメラ抗原受容体(CAR)は、表面癌抗原または系統特異的抗原の標的化を可能にする。臨床的応答は、両方のアプローチで観察されており、多数のさらなる試験が進行中である。
【0003】
養子免疫療法後に、急性有害事象が起こり得る。移植片対宿主病(GvHD)は、DLIの一般的かつ深刻な合併症である。操作されたT細胞の投与はまた、毒性をもたらした。例えば、メラノーマ抗原に対する天然T細胞受容体移入研究では、オンターゲットオフ腫瘍毒性が報告されている;腎細胞癌腫抗原炭酸脱水酵素IX(CAIX)に再指向されたT細胞は、予想外の肝毒性をもたらした。CD19 CAR治療後には、免疫活性化症候群が報告されている。最後に、ベクター誘導性挿入突然変異誘発は、リンパ増殖性障害の理論上のリスクをもたらす。これらの毒性の発生率および重症度は、予測不可能である。さらに、治療用タンパク質または小分子(これらの有害事象は、通常、治療薬の半減期を減少させる)とは対照的に、T細胞は生着および複製し、急激な毒性の増大をもたらす可能性がある。
【0004】
自殺遺伝子
自殺遺伝子は、許容され得ない毒性に面して、養子移入された細胞(例えば、T細胞)の選択的な破壊を可能にする、遺伝的にコードされた機構である。臨床研究では、2つの自殺遺伝子:単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)および誘導性カスパーゼ9(iCasp9)が試験されている。
【0005】
単純ヘルペスウイルスI由来チミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子は、造血幹細胞移植後の再発性悪性腫瘍およびエプスタインバーウイルス(EBV)リンパ球増殖を処置するためのドナーT細胞注入において、インビボ自殺スイッチとして使用されている。しかしながら、移植片対宿主病を引き起こすT細胞の破壊は不完全であり、HSV-TKを活性化するためのプロドラッグとしてのガンシクロビル(または類似体)の使用は、サイトメガロウイルス感染に対する抗ウイルス薬としてのガンシクロビルの投与を妨げる。また、免疫抑制されたヒト免疫不全ウイルス患者および骨髄移植患者においても、HSV-TK指向性の免疫応答は、HSV-TK形質導入細胞の除去をもたらし、注入されたT細胞の持続性を損ない、したがって注入されたT細胞の効力を損なう。
【0006】
元のiCasp9分子では、カスパーゼ9の背後にある活性化機構が利用された。カスパーゼ9の活性化に最も必要なことは、カスパーゼ9がホモ二量体化するためのエネルギー障壁を克服することである。ホモ二量体は構造変化を受け、一対の二量体の一方のタンパク質分解ドメインが活性化する。生理学的には、これは、APAF-1へのカスパーゼ9のCARDドメインの結合によって起こる。iCasp9では、APAF-1ドメインは、二量体化化学誘導剤(CID)に選択的に結合するように突然変異された改変FKBP12で置き換えられている。CIDの存在は、ホモ二量体化および活性化をもたらす。iCasp9は、ヒトFK506結合タンパク質(FKBP)に融合した改変ヒトカスパーゼ9に基づく(Straathofら、(2005)Blood 105:4247-4254)。これは、AP1903として公知の小分子CIDの存在下で、条件付きの二量体化を可能にする。AP1903は実験薬物であり、野生型FKBP12と相互作用しないので、生物学的に不活性であると考えられる。しかしながら、この薬剤を用いた臨床経験は、非常に少数の患者に限定されている(Di Stasi,Aら、(2011)N.Engl.J.Med.365,1673-1683;およびIuliucci,J.Dら、(2001)J.Clin.Pharmacol.41,870-879)。AP1903はまた、比較的大きな極性分子であり、血液脳関門を通過する可能性が低い。
【0007】
代替的なアプローチでは、エクセキューショナーカスパーゼは、タバコエッチウイルス(TeV)タンパク質分解部位をカスパーゼ3または6または7に導入すること、およびラパマイシンの存在下で組換えられるスプリットTEVプロテアーゼと共発現させることを伴う複雑な戦略を使用して、小分子によって活性化され得る(Morganら、(2014)Methods Enzymol.544:179-213)。多くの理由により、これは、臨床的に有用な自殺スイッチのための不十分な戦略である:第1に、非常に複雑な3つの別個のタンパク質が必要である:それぞれ、改変カスパーゼおよびスプリットTeVプロテアーゼの2つの成分;第2に、TeV成分は異種であり、免疫原性である可能性がある;最後に、この戦略は、下流にあるアピカルカスパーゼよりも低感受性のプロテアーゼ感受性カスパーゼ分子しか活性化することができない。
【0008】
FASのCID活性化に基づく自殺遺伝子が記載されている(Amaraら、(1999)Hum.Gene Ther.10,2651-2655)。これも活性化をこのCIDに依存しており、アポトーシスカスケードを直接活性化しないので、(FAS耐性を介した)回避が可能である。
【0009】
実験的CIDの必要性に取って代わる標準医薬品に基づくホモ二量体化系は、魅力的な代替手段であろう。しかしながら、利用可能なホモ二量体化小分子医薬品はない。
【0010】
他の自殺遺伝子が提案されており、例えば、全長CD20は、T細胞において発現された場合、T細胞を治療用抗CD20抗体リツキシマブによる溶解に対して感受性にし得る(Introna,Mら、(2000)Hum.Gene Ther.11,611-620)。抗体認識に関するこのテーマでは、さらなる自殺遺伝子も記載されており、例えば、RQR8は、T細胞をCD20に対して感受性にするが、全長CD20分子よりもコンパクトである(Philip,Bら、(2014)Blood doi:10.1182/blood-2014-01-545020);短縮型EGFR(huEGFRt)は、細胞を抗EGFR mAbによる溶解に対して感受性にする(Wang,Xら、(2011)Blood 118,1255-1263);細胞表面上において発現されたmycエピトープタグは、細胞を抗myc抗体による溶解に対して感受性にする(Kiebackら、(2008)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.105,623-628)。これらの抗体依存性アプローチの主な限界は、作用する高い局所濃度における治療用抗体のバイオアベイラビリティへの依存性である。例えば、溶解抗体は、巨大病変に対して特に有効ではないことが公知であり、抗体に基づく自殺遺伝子の限界は、高い抗体濃度に達しない場所に常在する細胞が逃れることである。さらに、特定の状況(例えば、CAR T細胞によって誘導される重症マクロファージ活性化症候群またはサイトカインストーム)では、モノクローナル抗体によって誘導されるさらなる免疫活性化は、自殺遺伝子の活性化が処置しようとしている臨床状況に対して有害であり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Straathofら、(2005)Blood 105:4247-4254
【非特許文献2】Di Stasi,Aら、(2011)N.Engl.J.Med.365,1673-1683
【非特許文献3】Iuliucci,J.Dら、(2001)J.Clin.Pharmacol.41,870-879
【非特許文献4】Morganら、(2014)Methods Enzymol.544:179-213
【非特許文献5】Amaraら、(1999)Hum.Gene Ther.10,2651-2655
【非特許文献6】Introna,Mら、(2000)Hum.Gene Ther.11,611-620
【非特許文献7】Philip,Bら、(2014)Blood doi:10.1182/blood-2014-01-545020
【非特許文献8】Wang,Xら、(2011)Blood 118,1255-1263
【非特許文献9】Kiebackら、(2008)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.105,623-628
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、上記欠点を伴わない代替的な自殺遺伝子が必要である。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
式:
Ht1-Ht2-Casp
(式中、
Caspは、カスパーゼドメインであり;
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインである)を有するキメラタンパク質であって、一方のキメラタンパク質由来のHt1が、他方のキメラタンパク質由来のHt2とヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、相同対の前記キメラタンパク質が相互作用する、キメラタンパク質。
(項目2)
Ht1が、同じキメラタンパク質内のHt2とヘテロ二量体化しない、項目1に記載のキメラタンパク質。
(項目3)
前記カスパーゼドメインが、以下の群:カスパーゼ-8、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-10から選択されるイニシエーターカスパーゼを含む、項目1または2に記載のキメラタンパク質。
(項目4)
前記カスパーゼドメインが、カスパーゼ-3およびカスパーゼ-7から選択されるエクセキューショナーカスパーゼを含む、項目1または2に記載のキメラタンパク質。
(項目5)
一方のヘテロ二量体化ドメインがFK506結合タンパク質(FKBP)を含み、他方のヘテロ二量体化ドメインがmTORのFRBドメインを含む、先行する項目のいずれかに記載のキメラタンパク質。
(項目6)
Ht1がFRBを含み、Ht2がFKBPを含む、項目5に記載のキメラタンパク質。(項目7)
前記CIDがラパマイシンまたはラパマイシン類似体である、項目5または6に記載のキメラタンパク質。
(項目8)
カスパーゼドメインと、mTORのFRBドメインを含むヘテロ二量体化ドメインとを含む、キメラタンパク質。
(項目9)
先行する項目のいずれかに記載のキメラタンパク質をコードする、核酸配列。
(項目10)
1つまたはそれを超える項目9に記載の核酸配列(複数も可)と、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列とを含む、核酸構築物。
(項目11)
カスパーゼドメインとFK506結合タンパク質(FKBP)を含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質をコードする核酸配列と、項目8に記載のキメラタンパク質をコードする核酸配列とを含む、核酸構築物。
(項目12)
構造:
Ht1-Casp-coexpr-Ht2-Ht2
(式中:
Caspは、カスパーゼドメインをコードする核酸配列であり;
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインをコードする核酸配列であり;
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、Ht1-CaspおよびHt2-Ht2の共発現を可能にする核酸配列である)を有する核酸構築物であって、
前記核酸構築物の発現が、キメラタンパク質Ht1-Caspおよびインターフェースタンパク質Ht2-Ht2の生産をもたらし、各キメラタンパク質由来のHt1が、前記インターフェースタンパク質由来のHt2ドメインとヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、一対の前記キメラタンパク質Ht1-Casp9が相互作用する、核酸構築物。(項目13)
Ht1がFK506結合タンパク質(FKBP)を含み、Ht2がmTORのFRBドメインを含む、項目12に記載の核酸構築物。
(項目14)
T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列も含む、項目11~13のいずれかに記載の核酸構築物。
(項目15)
項目9に記載の核酸配列または項目10~14のいずれかに記載の核酸構築物を含む、ベクター。
(項目16)
目的のヌクレオチドも含む項目9に記載の核酸配列を含む、ベクター。
(項目17)
前記ベクターを標的細胞の形質導入に使用する場合、前記標的細胞が、項目1~8のいずれかに記載のキメラタンパク質およびキメラ抗原受容体またはT細胞受容体を共発現するように、前記目的のヌクレオチドがキメラ抗原受容体またはT細胞受容体をコードする、項目16に記載のベクター。
(項目18)
項目1~8のいずれかに記載のキメラタンパク質を発現する、細胞。
(項目19)
項目7に記載のキメラタンパク質および項目8に記載のキメラタンパク質を含む、項目16に記載の細胞。
(項目20)
2つのタンパク質:
Ht1-CaspおよびHt2-Ht2
(式中、Ht1-Caspは、カスパーゼドメイン(Casp)および第1のヘテロ二量体化ドメイン(Ht1)を含むキメラタンパク質であり;Ht2-Ht2は、2つの第2のヘテロ二量体化ドメイン(Ht2)を含むインターフェースタンパク質である)を発現する細胞であって、
各キメラタンパク質由来のHt1が、前記インターフェースタンパク質由来のHt2ドメインとヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、一対の前記キメラタンパク質Ht1-Casp9が相互作用する、細胞。
(項目21)
項目9に記載の核酸配列を含む、項目18~20のいずれかに記載の細胞。
(項目22)
造血幹細胞、リンパ球またはT細胞である、項目18~21のいずれかに記載の細胞。(項目23)
項目18~22のいずれかに記載の細胞を作製するための方法であって、項目15~17のいずれかに記載のベクターを細胞に形質導入またはトランスフェクトする工程を含む、方法。
(項目24)
項目18~22のいずれかに記載の細胞を排除するための方法であって、前記細胞を二量体化化学誘導剤(CID)に曝露する工程を含む、方法。
(項目25)
前記CIDがラパマイシンまたはラパマイシン類似体である、項目24に記載の方法。(項目26)
被験体における疾患を予防または処置するための方法であって、項目18~22のいずれかに記載の細胞を前記被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目27)
以下:
(i)項目15~17のいずれかに記載のベクターを、被験体から単離された細胞の試料に形質導入またはトランスフェクトする工程、および
(ii)前記形質導入/トランスフェクト細胞を患者に投与する工程
を含む、項目26に記載の方法。
(項目28)
癌を処置するための、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記被験体への項目18~22のいずれかに記載の細胞の投与によって引き起こされる、前記被験体における病理学的免疫反応を予防および/または処置するための方法であって、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体を前記被験体に投与する工程を含む、方法。(項目30)
前記病理学的免疫反応が、以下の群:移植片対宿主病;オンターゲットオフ腫瘍毒性;免疫活性化症候群;およびリンパ増殖性障害から選択される、項目29に記載の方法。
(項目31)
以下:
(i)項目18~22のいずれかに記載の細胞を前記被験体に投与する工程;
(ii)病理学的免疫反応の発症について、前記被験体をモニタリングする工程;および(iii)前記被験体が、病理学的免疫反応を発症するまたは発症した兆候を示す場合、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体を前記被験体に投与する工程
を含む、項目26に記載の被験体における疾患を処置するための方法。
(項目32)
造血幹細胞移植、リンパ球注入または養子細胞移入に使用するための、項目18~22のいずれかに記載の細胞。
(項目33)
被験体への項目18~22のいずれかに記載の細胞の投与によって引き起こされる病理学的免疫反応の予防または処置に使用するための、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】RapCasp9に対する異なるアプローチを示す図案。(a)2つの分子を別個に発現させる二重構築物(double construct)。各分子は、それぞれFKBP12またはFRBのいずれかと融合したCasp9の触媒ドメインを有する。(b)FKBP12およびFRBを互いに直接融合し、次いで、フレキシブルリンカーによってCasp9の触媒ドメインに融合した単一構築物(single construct)。この方向では、自己ヘテロ二量体化は不可能であるはずである。(c)カスパーゼ9の触媒ドメインがFRBおよびFKBP12に隣接する単一構築物。ここでは、自己ヘテロ二量体化が起こり得るので、この反復が十分に機能するとは予想されない。(d)FKBP12に融合したカスパーゼ9の触媒ドメインおよび別個の小タンパク質(これは、FRBの2つのコピーの融合物である)を共発現させる二重構築物。
【0014】
【
図2】ヘテロ二量体化剤を用いてカスパーゼ9を活性化することが可能であることの実証。T細胞にeGFPのみを形質導入し(
図2a)、または(eGFPを共発現する)FKBP12-dCasp9および(eBFP2を共発現する)FRB-dCasp9を同時形質導入した(
図2b)。非形質導入T細胞が内部対照として作用するように、意図的に、T細胞を部分的にのみ形質導入した。次いで、T細胞を漸減濃度のラパマイシンに曝露した。48時間後、細胞をアネキシンVおよび7AADで染色し、フローサイトメトリーによって分析して、蛍光タンパク質を発現する生存細胞の割合を調べた。最低濃度のラパマイシンの存在下であっても、eGFPおよびeBFP2の両方を発現するT細胞は、非常に有効に排除された。
【0015】
【
図3】RapCasp9変異体の機能。T細胞に(a)eGFPのみを形質導入し;(b)それぞれeGFPおよびeBFP2と共発現するFKBP12-Casp9およびFRB-Casp9を二重形質導入し;(c)FRB-FKBP12-Casp9を形質導入し;(d)FRB-Casp9-FKBP12および(e)FBP12-Casp9-2A-FRB-FRBwを形質導入した。一定割合の細胞のみが形質導入され、陰性細胞は内部陰性対照として作用した。T細胞を2.5nMラパマイシンに48時間曝露した。次いで、T細胞をアネキシンVおよび7AADで染色し、フローサイトメトリーによって分析した。アネキシンVおよび7AAD染色によって決定した場合の生存細胞におけるeGFPとeBFP2との対比を示す。
【0016】
【
図4】ラパマイシンおよびラパログ。A)ラパマイシン;B)C-20-メチルアリルラパマイシン(methyllyrlrapamycin)(MaRap);C)C16(S)-ブチルスルホンアミドラパマイシン(C16-BS-Rap);D)C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン(mehylindolerapamycin)(C16-iRap);およびE)C16-(S)-7-メチルインドールラパマイシン(AP21976/C16-AiRap)。
【0017】
【0018】
【0019】
【
図7-1】
図5に示されている構築物をトランスフェクトしたJurkat細胞の、様々な濃度のラパマイシンと共にインキュベートした後の殺滅を示す研究。
【
図7-2】
図5に示されている構築物をトランスフェクトしたJurkat細胞の、様々な濃度のラパマイシンと共にインキュベートした後の殺滅を示す研究。
【
図8-1】
図5に示されている構築物をトランスフェクトしたJurkat細胞の、様々な濃度のラパマイシンと共にインキュベートした後の殺滅を示す研究。
【
図8-2】
図5に示されている構築物をトランスフェクトしたJurkat細胞の、様々な濃度のラパマイシンと共にインキュベートした後の殺滅を示す研究。
【
図9-1】
図5に示されている構築物をトランスフェクトしたJurkat細胞の、様々な濃度のラパマイシンと共にインキュベートした後の殺滅を示す研究。
【
図9-2】
図5に示されている構築物をトランスフェクトしたJurkat細胞の、様々な濃度のラパマイシンと共にインキュベートした後の殺滅を示す研究。
【0020】
【
図10】
図7、8および9に示されているFACSデータを要約したグラフ。
【0021】
【
図11】ラパマイシン対テムシロリムスの存在下におけるJurkat細胞の殺滅を比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の態様の要約
本発明者らは、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などの二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で二量体化する新たな自殺遺伝子を開発した。
【0023】
ラパマイシンおよびラパマイシン類似体は、mTORのFRBドメインとFKBP12との間のインターフェースを生成することによって、ヘテロ二量体化を誘導する。この会合は、mTOR活性部位へのFKBP12のアクセスの遮断をもたらし、その機能を阻害する。mTORは非常に大きなタンパク質である一方、ラパマイシンとの相互作用に必要なmTORの正確な小セグメントが公知であり、使用され得る。
【0024】
本発明者らは、ラパマイシンによって媒介されるヘテロ二量体化を使用して、カスパーゼのホモ二量体化を誘導することが可能であることを示した。特に、本発明者らは、驚くべきことに、(i)mTORのFRBドメイン(ii)FKBP12;および(iii)カスパーゼを含むマルチドメイン分子を作製し、前記分子の一方のコピーのFRBドメインと、前記分子の別のコピーのFKB12ドメインとの間のヘテロ二量体化を使用して、カスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすことが可能であることを示した。
【0025】
したがって、本発明の第1の態様の第1の実施形態では、本発明は、式:
Ht1-Ht2-Casp
(式中、
Caspは、カスパーゼドメインであり;
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインである)を有するキメラタンパク質であって、一方のキメラタンパク質由来のHt1が、他方のキメラタンパク質由来のHt2とヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、相同対の前記キメラタンパク質が相互作用するキメラタンパク質を提供する。
【0026】
構成は、Ht1が同じキメラタンパク質内のHt2と有意な程度にヘテロ二量体化しないようなものである。
【0027】
カスパーゼドメインは、以下の群:カスパーゼ-8、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-10から選択されるイニシエーターカスパーゼ、またはカスパーゼ-3およびカスパーゼ-7から選択されるエクセキューショナーカスパーゼを含み得る。
【0028】
本発明の第1の態様のこの第1の実施形態のマルチドメインタンパク質では、一方のヘテロ二量体化ドメインはFK506結合タンパク質(FKBP)を含み得、他方のヘテロ二量体化ドメインはmTORのFRBドメインを含み得る。
【0029】
このヘテロ二量体化ドメインの組み合わせでは、適切なCIDは、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体である。
【0030】
本発明の第1の態様の第2の実施形態では、カスパーゼドメインと、FK506結合タンパク質(FKBP12)を含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質、およびカスパーゼドメインと、mTORのFRBドメインを含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質が提供される。
【0031】
本発明のこの態様の第3の実施形態では、2つのタンパク質:
Ht1-CaspおよびHt2-Ht2
(式中、Ht1-Caspは、カスパーゼドメイン(Casp)および第1のヘテロ二量体化ドメイン(Ht1)を含むキメラタンパク質であり;Ht2-Ht2は、2つまたはそれを超える第2のヘテロ二量体化ドメイン(Ht2)を含むインターフェースタンパク質である)であって、
各キメラタンパク質由来のHt1が、前記インターフェースタンパク質由来のHt2ドメインとヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、一対の前記キメラタンパク質Ht1-Casp9が相互作用する2つのタンパク質が提供される。
【0032】
本発明のこの態様の第4の実施形態では、式:
Ht1-Casp-Ht2
(式中、
Caspは、カスパーゼドメインであり;
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインである)を有するキメラタンパク質であって、一方のキメラタンパク質由来のHt1が、他方のキメラタンパク質由来のHt2とヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、相同対の前記キメラタンパク質が相互作用するキメラタンパク質が提供される。
【0033】
本発明の第1の態様のこの第4の実施形態では、一方のヘテロ二量体化ドメインがFK506結合タンパク質(FKBP)を含み、他方のヘテロ二量体化ドメインがmTORのFRBドメインを含み、CIDがラパマイシンまたはその誘導体である場合には、2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすために、5nm未満(less that)、例えば1~3nmまたは約1nmの濃度が使用され得る。
【0034】
キメラタンパク質は、FKBP12に融合したカスパーゼドメインを含み得、インターフェースタンパク質は、2つまたはそれを超えるFRBドメインの融合物であり得る。これらの2つまたはそれを超えるFRBドメインは、インターフェースとして作用して、2つのFKBP12-Caspドメインを互いに結合する(brining)。
【0035】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質をコードする核酸配列を提供する。
【0036】
核酸は、複数の核酸配列を含む核酸構築物の形態であり得る。例えば、構築物は、1つまたはそれを超える本発明の第2の態様にしたがう核酸配列(複数も可)と、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列とを含み得る。
【0037】
核酸構築物は、
i)カスパーゼドメインと、FK506結合タンパク質(FKBP)を含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質をコードする第1の核酸配列;
ii)カスパーゼドメインと、mTORのFRBドメインを含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質をコードする第2の核酸配列
を含み得る。
【0038】
構造:
Ht1-Casp-coexpr-Ht2-Ht2
(式中:
Caspは、カスパーゼドメインをコードする核酸配列であり;
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインをコードする核酸配列であり;
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインをコードする核酸配列であり;ならびに
coexprは、Ht1-CaspおよびHt2-Ht2の共発現を可能にする核酸配列である)を有する核酸構築物であって、
前記核酸構築物の発現が、キメラタンパク質Ht1-Caspおよびインターフェースタンパク質Ht2-Ht2の生産をもたらし、各キメラタンパク質由来のHt1が、前記インターフェースタンパク質由来のHt2ドメインとヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、一対の前記キメラタンパク質Ht1-Caspが相互作用する核酸構築物も提供される。
【0039】
Ht1はFK506結合タンパク質(FKBP)を含み得、Ht2はmTORのFRBドメインを含み得る。
【0040】
核酸構築物はまた、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み得る。
【0041】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様にしたがう核酸配列または核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0042】
ベクターを標的細胞の形質導入に使用する場合、標的細胞が、本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質およびキメラ抗原受容体またはT細胞受容体を共発現するように、ベクターはまた、目的のヌクレオチド(例えば、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体をコードするヌクレオチド配列)を含み得る。
【0043】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質を発現する細胞を提供する。
【0044】
細胞は、
i)カスパーゼドメインと、FK506結合タンパク質(FKBP)を含むヘテロ二量体化ドメインとを含む第1のキメラタンパク質;および
ii)カスパーゼドメインと、mTORのFRBドメインを含むヘテロ二量体化ドメインとを含む第2のキメラタンパク質
を含み得る。
【0045】
2つのタンパク質:
Ht1-CaspおよびHt2-Ht2
(式中、Ht1-Caspは、カスパーゼドメイン(Casp)および第1のヘテロ二量体化ドメイン(Ht1)を含むキメラタンパク質であり;Ht2-Ht2は、2つの第2のヘテロ二量体化ドメイン(Ht2)を含むインターフェースタンパク質である)を発現する細胞であって、
各キメラタンパク質由来のHt1が、前記インターフェースタンパク質由来のHt2ドメインとヘテロ二量体化して、前記2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、一対の前記キメラタンパク質Ht1-Casp9が相互作用する細胞も提供される。
【0046】
細胞は、本発明の第2の態様にしたがう核酸配列または構築物を含み得る。
【0047】
細胞は、例えば、造血幹細胞、リンパ球またはT細胞であり得る。
【0048】
本発明の第4の態様にしたがう細胞を作製するための方法であって、本発明の第3の態様にしたがうベクターを細胞に形質導入またはトランスフェクトする工程を含む方法も提供される。
【0049】
本発明の第4の態様の細胞を排除するための方法であって、前記細胞を二量体化化学誘導剤(CID)に曝露する工程を含む方法も提供される。
【0050】
CIDは、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体であり得る。
【0051】
被験体における疾患を予防または処置するための方法であって、本発明の第4の態様の細胞を前記被験体に投与する工程を含む方法も提供される。
【0052】
前記方法は、以下:
(i)本発明の第2の態様にしたがうベクターを、被験体から単離された細胞の試料に形質導入またはトランスフェクトする工程、および
(ii)前記形質導入/トランスフェクト細胞を患者に投与する工程
を含み得る。
【0053】
前記方法は、癌を処置するためのものであり得る。
【0054】
被験体への本発明の第4の態様の細胞の投与によって引き起こされる、前記被験体における病理学的免疫反応を予防および/または処置するための方法であって、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体を前記被験体に投与する工程を含む方法も提供される。
【0055】
前記病理学的免疫反応は、以下の群:移植片対宿主病;オンターゲットオフ腫瘍毒性;免疫活性化症候群;およびリンパ増殖性障害から選択され得る。
【0056】
被験体における疾患を処置または予防するための方法は、以下:
(i)本発明の第4の態様にしたがう細胞を前記被験体に投与する工程;
(ii)病理学的免疫反応の発症について、前記被験体をモニタリングする工程;および(iii)前記被験体が、病理学的免疫反応を発症するまたは発症した兆候を示す場合、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体を前記被験体に投与する工程
を含み得る。
【0057】
造血幹細胞移植、リンパ球注入または養子細胞移入に使用するための本発明の第4の態様にしたがう細胞も提供される。
【0058】
被験体への本発明の第4の態様にしたがう細胞の投与によって引き起こされる病理学的免疫反応の予防または処置に使用するためのラパマイシンまたはラパマイシン類似体も提供される。
【0059】
したがって、本発明は、許容され得ない毒性に面して、養子移入された細胞の選択的な破壊を可能にする自殺遺伝子であって、ラパマイシンおよび/またはその類似体によって活性化される自殺遺伝子を提供する。
【0060】
ラパマイシンは、十分に理解されている特性、優れたバイオアベイラビリティ、および分布容積を有する標準的な医薬品であって、広く利用可能な標準的な医薬品である。ラパマイシンはまた、処置されている状態を悪化させず、実際にそれは免疫抑制剤であるので、その自殺遺伝子機能だけではなく、望ましくない毒性に対する有益な効果を有する可能性が高い。
【0061】
詳細な説明
キメラタンパク質
本発明は、自殺遺伝子として作用するキメラタンパク質に関する。キメラタンパク質を発現する細胞は、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などの二量体化化学誘導剤(CID)の投与によって、インビボまたはインビトロで排除され得る。
【0062】
キメラタンパク質は、式:
Ht1-Ht2-Casp
(式中、
Caspは、カスパーゼドメインであり;
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;および
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインである)を有し得る。
【0063】
キメラタンパク質は、式:
Ht1-Ht2-L-Casp
(式中、Casp、Ht1およびHt2は、上記に定義される通りであり、Lは、任意選択のリンカーである)を有し得る。
【0064】
構成は、Ht1が同じキメラタンパク質分子内のHt2と有意にヘテロ二量体化しないが、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で2つのキメラタンパク質が一緒になると、一方のキメラタンパク質由来のHt1が他方のキメラタンパク質由来のHt2とヘテロ二量体化して、2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすようなものであるべきである。
【0065】
構成は、Ht1が同じキメラタンパク質内のHt2と有意な程度にヘテロ二量体化しないようなものである。例えば、本発明の第1の態様にしたがうこの実施形態のキメラタンパク質を発現する細胞では、CIDの存在は、同じキメラタンパク質内のヘテロ二量体化よりも大きな割合の、2つのキメラタンパク質間の二量体化を引き起こすべきである。細胞もしくは細胞集団では、または溶液中では、同じ分子内においてヘテロ二量体化されるキメラタンパク質の量は、CIDの存在下で別個のキメラタンパク質分子においてヘテロ二量体化されるキメラタンパク質の量の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満または1%未満であり得る。
【0066】
キメラタンパク質は、配列番号1として示されている配列を含み得る。
【化1-1】
【化1-2】
【0067】
上記配列では、「FKBP12」は、FKBP12の配列を指す;「dCasp9」は、Casp9の触媒ドメインを指す;「L1」は、1リピートリンカーである;「FMD-2A」は、口蹄疫2A様ペプチドERAVである;「FRB」は、mTORのFRBドメインである;「L3」は、2リピートリンカーである;「FRBw」は、コドンゆらぎ処理されたFRBである。
【0068】
第2の実施形態では、本発明は、CIDがラパマイシンまたはラパマイシン類似体である「二分子」自殺遺伝子系を提供する。
【0069】
したがって、本発明はまた、i)カスパーゼドメインと、FK506結合タンパク質(FKBP12)を含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質;およびii)カスパーゼドメインと、mTORのFRBドメインを含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質を提供する。
【0070】
T細胞などの細胞がこれらのキメラタンパク質の両方を発現する場合、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体の存在は、i)のFKBP含有ドメインと、ii)のFRB含有ドメインとのヘテロ二量体化を引き起こし、それにより、i)およびii)由来のカスパーゼドメインホモ二量体化を引き起こす。
【0071】
本発明のこの実施形態では、キメラタンパク質は、配列番号2または3として示されている配列を含み得る。
【化2-1】
【化2-2】
【0072】
第3の実施形態では、本発明は、第2の実施形態よりも小さいフットプリントを用いる代替的「二分子」アプローチを提供する。ここでは、Ht1はカスパーゼと融合され、Ht2-Ht2融合物から構成される第2の分子が共発現される。CIDの存在下では、Ht2-Ht2は、2つのHt1-Casp分子を同時に伴う。実際、これは、FRB-FRBとFKBP12-Casp9を共発現させ、ラパマイシンで活性化することによって実行され得る。好都合には、これらの成分は、口蹄疫2A様ペプチドと共発現され得る。第2のHt2(例えば、FRB)コード配列は、組換えを防止するためにコドンゆらぎ処理され得る。
【化3-1】
【化3-2】
【0073】
上記配列では、「FKBP12」は、FKBP12を指す;「dCasp9」は、Casp9の触媒ドメインである;「L1」は、1リピートリンカーである;「FMD-2A」は、口蹄疫2A様ペプチドERAVである;「FRB」は、mTORのFRBドメインである;「L2」は、2リピートリンカーである;「FRBw」は、コドンゆらぎ処理されたFRBである。
【0074】
カスパーゼ
カスパーゼ、またはシステイン-アスパラギン酸プロテアーゼまたはシステイン依存性アスパラギン酸特異的プロテアーゼ(cysteine-dependent aspartate-directed protease)は、アポトーシスにおいて本質的な役割を果たすシステインプロテアーゼファミリーである。
【0075】
ヒトでは、12種のカスパーゼが同定されている。2種類のアポトーシスカスパーゼ:イニシエーターカスパーゼおよびエクセキューショナーカスパーゼがある。カスパーゼ-2、カスパーゼ-8、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-10などのイニシエーターカスパーゼは、不活性な前駆型のエフェクターカスパーゼを切断し、それにより、それらを活性化する。次いで、カスパーゼ-3、カスパーゼ-6およびカスパーゼ-7などのエクセキューショナーカスパーゼは、細胞内の他のタンパク質基質を切断して、アポトーシス過程を引き起こす。
【0076】
本発明の第1の態様のキメラタンパク質のカスパーゼドメインは、カスパーゼ-2;カスパーゼ-8、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-10から選択されるイニシエーターカスパーゼ;またはカスパーゼ-3、カスパーゼ-6およびカスパーゼ-7から選択されるエクセキューショナーカスパーゼを含み得る。
【0077】
特に、本発明の第1の態様のキメラタンパク質のカスパーゼドメインは、カスパーゼ-9を含み得る。カスパーゼ9は、重要なイニシエーターカスパーゼであるので、その活性化は、アポトーシス誘導の非常に鋭敏なトリガーである。さらに、活性化に必要なものは、ホモ二量体化およびタンパク質分解切断ではなく、ホモ二量体化のみである。
【0078】
全長カスパーゼ-9は、配列番号5として示されている配列を有する。
【化4】
【0079】
カスパーゼ9は、例えば、カスパーゼリクルートドメインを取り除くために短縮化され得る。短縮型カスパーゼ-9は、配列番号6として示されている。
【化5】
【0080】
本発明の第1の態様のキメラタンパク質は、配列番号5もしくは配列番号6、またはホモ二量体化能力を保持し、したがってアポトーシスを引き起こす、それらの断片もしくは変異型を含み得る。
【0081】
変異型カスパーゼ-9配列は、配列番号5または6と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有し得る。
【0082】
2つのポリペプチド配列間の同一性の割合は、BLAST(これは、http://blast.ncbi.nlm.nih.govにおいて無料で利用可能である)などのプログラムによって容易に決定され得る。
【0083】
インビボでは、プロテアーゼカスパーゼ9は、アポトソームとして公知の多成分経路の中心的関与物であり、胚形成中の細胞の排除、ならびに細胞死を引き起こす生理的学的応答および電離放射線または化学療法薬などの致死的細胞傷害を制御する。カスパーゼ9の機能は、限定的なタンパク質分解によって、活性型のカスパーゼ3および7を生成し、それにより、アポトーシスシグナルを実行段階に伝達することである。しかしながら、大型サブユニットと小型サブユニットとの間のタンパク質分解が、潜在チモーゲンを触媒型に変換しないという点において、カスパーゼ9は、その類縁物質の中では異例である。実際、活性化には、ホモ二量体化が必要である。
【0084】
ヘテロ二量体化ドメイン
マクロライドラパマイシンおよびFK506は、細胞タンパク質のヘテロ二量体化を誘導することによって作用する。各薬物は、高親和性でFKBP12タンパク質に結合して薬物-タンパク質複合体を作り、続いてこれが、それぞれmTOR/FRAPおよびカルシニューリンに結合し、不活性化する。mTORのFKBP-ラパマイシン結合(FRB)ドメインは、目的のタンパク質に融合され得る単離された89アミノ酸のタンパク質部分として定義され、適用されている。次いで、ラパマイシンは、FKBP12またはFKBP12と融合したタンパク質へのFRB融合物の接近を誘導し得る。
【0085】
本発明の文脈では、ヘテロ二量体化ドメインの一方(Ht1またはHt2)は、FRBもしくはその変異型であり得るか、またはFRBもしくはその変異型を含み得、ヘテロ二量体化ドメインの他方(Ht2またはHt1)は、FKBP12もしくはその変異型であり得るか、またはFKBP12もしくはその変異型を含み得る。
【0086】
ラパマイシンは、理想的な二量体化剤のいくつかの特性を有する:これは、FKBP12に結合すると、FRBに対して高い親和性(KD<1nM)を有し、mTORのFRBドメインに対して高特異的である。ラパマイシンは、哺乳動物において好ましい薬物動態学的および薬力学的プロファイルを有する有効な治療用免疫抑制剤である。異なる薬物動態学的および力学的特性を有するラパマイシンの薬理学的類似体、例えばエベロリムス、テムシロリムスおよびデフォロリムス(Benjaminら、Nature Reviews,Drug Discovery,2011)もまた、臨床状況に応じて使用され得る。
【0087】
ラパマイシンの結合および内因性mTORの不活性化を防止するために、FRBと接触するラパマイシンの表面は改変され得る。「隆起した」ラパマイシンに適合するバーフェイス(burface)を形成するためのFRBドメインの代償的変異は、内在性mTORタンパク質ではなくFRB変異型のみとの二量体化相互作用を修復する。
【0088】
Bayleら(Chem Bio;2006;13;99-107)には、様々なラパマイシン類似体または「ラパログ」およびそれらの対応する改変FRB結合ドメインが記載されている。例えば、それぞれの各相補的結合ドメインと組み合わせて
図3に示されているように、Bayleら(2006)には、C-20-メチルアリルラパマイシン(MaRap)、C16(S)-ブチルスルホンアミドラパマイシン(C16-BS-Rap)およびC16-(S)-7-メチルインドールラパマイシン(AP21976/C16-AiRap)が記載されている。他のラパマイシン/ラパグログとしては、シロリムスおよびタクロリムスが挙げられる。
【0089】
キメラタンパク質のヘテロ二量体化ドメインは、配列番号7~配列番号11として示されている配列もしくはそれらの変異型の1つであり得るか、またはこれを含み得る。
【化6】
【0090】
変異型配列は、有効な二量体化系を提供する限り、配列番号7~11と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有し得る。すなわち、配列が、2つのキメラタンパク質の十分な共局在化を促進して、2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を可能にする限り。
【0091】
配列番号8として示されている「野生型」FRBドメインは、ヒトmTORのアミノ酸2025~2114を含む。ヒトmTORのアミノ酸ナンバリングシステムを使用すれば、本発明のキメラタンパク質のFRB配列は、以下の位置:2095位、2098位、2101位の1つまたはそれより多く(one of more)においてアミノ酸置換を含み得る。
【0092】
本発明のキメラタンパク質に使用される変異型FRBは、2095位、2098位および2101位において以下のアミノ酸の1つを含み得る:
2095:K、P、TまたはA2098:T、L、HまたはF
2101:WまたはF
【0093】
Bayleら(上記)には、2095位、2098位および2101位のアミノ酸にしたがってアノテーションされた以下のFRB変異体:KTW、PLF、KLW、PLW、TLW、ALW、PTF、ATF、TTF、KLF、PLF、TLF、ALF、KTF、KHF、KFF、KLFが記載されている(表1を参照のこと)。Bayleらの表1および
図5Aに示されているように、これらの変異体は、ラパマイシンおよびラパログに様々な程度に結合することができる。本発明のキメラタンパク質は、これらのFRB変異体の1つを含み得る。
【0094】
リンカー
リンカーは、カスパーゼドメインおよびヘテロ二量体化ドメイン(複数も可)を空間的に分離するために含められ得る。
【0095】
本発明の第1の態様の第1の実施形態では、キメラタンパク質は、単一分子中では、CIDの存在下で互いにヘテロ二量体化し得ないような構成で保持された2つのヘテロ二量体化ドメインを含むが、一方の分子上のHt1は、同じヘテロ二量体化ドメインを有する別のキメラ分子上のHt2とヘテロ二量体化し得る(
図1B)。Ht1およびHt2がカスパーゼドメインに隣接する設計(Ht1-Casp-Ht2)では、活性化は、Ht1およびHt2が互いに連結された設計よりも劣っていたが、これは、単一CIDに対する単一分子由来のHt1およびHt2の非生産的結合を防止することの重要性を示している。
【0096】
この実施形態では、リンカー(L1)は、触媒ドメインがホモ二量体化し得るような十分なフレキシビリティを提供するべきであるが、ホモ二量体化のエネルギー障壁が克服されない程のフレキシビリティを提供するべきではない(
図1)。例えば、リンカーは、15アミノ酸長未満、10アミノ酸長未満または5~15もしくは5~10アミノ酸長であり得る。
【0097】
本発明の第1の態様の第2の実施形態では、キメラタンパク質は、CIDの存在下で第2のキメラタンパク質上の相補的ヘテロ二量体化ドメインとヘテロ二量体化することができる単一ヘテロ二量体化ドメインを含む。
【0098】
代替構成では、2つのヘテロ二量体化ドメインは、長いリンカー(L2)を有する単一分子上に提供され得、式:
Ht1-Casp1-L2-Ht2-Casp2
を有する構築物を提供する。
【0099】
HTおよびCaspドメインは、いずれかの順序でリンカーの両側にあり得る。
【0100】
この実施形態では、リンカーL2は、第1のヘテロ二量体化ドメインが第2のヘテロ二量体化ドメインとヘテロ二量体化し得、;「第1のキメラタンパク質」に対応する分子の一部のカスパーゼドメインが「第2のキメラタンパク質」に対応する分子の一部のカスパーゼドメインとホモ二量体化し得るような十分なフレキシビリティを付与し得る。
【0101】
本発明の第1の態様の第3の実施形態では、Caspは、他方のヘテロ二量体化ドメインの2つまたはそれを超えるコピーの融合物である第2の分子ではなく、単一ヘテロ二量体化ドメインに融合される。2つの分子は、共発現され得る。この場合、第2の分子は、CIDの存在下で2つまたはそれを超えるCaspドメインを互いに伴うインターフェースとして作用する。この場合、ヘテロ二量体化ドメインの2つまたはそれを超えるコピーは、それらを活性化するのに十分な程度にCasp9ドメインの接近を可能にするように融合されなければならない。
【0102】
インターフェースタンパク質は、2つを超えるHt2ドメインを含む多量体であり得る。例えば、コイルドコイルドメインなどの多量体化リンカーを使用して、単一インターフェースタンパク質中の複数のHt2ドメインを結合させることが可能である。
【0103】
この実施形態では、インターフェースタンパク質は、式Ht2-L2-Ht2、またはHt2-L2(式中、L2は、コイルドコイルドメインである)を有し得る。
【0104】
コイルドコイルは、2~7本のα-ヘリックスがロープの縄のように互いに巻き付いた構造モチーフである。コイルドコイルドメインの構造は、当技術分野で周知である。例えば、Lupas&Gruber(Advances in Protein Chemistry;2007;70;37-38)に記載されている。
【0105】
コイルドコイルは、通常、疎水性(h)および荷電(c)アミノ酸残基の反復パターンhxxhcxc(ヘプタッドリピートと称される)を含有する。ヘプタッドリピートにおける位置は、通常、abcdefg(aおよびdは疎水性の位置であり、イソロイシン、ロイシンまたはバリンによって占有されることが多い)と表示される。この反復パターンを有する配列がα-ヘリックス二次構造にフォールディングされると、疎水性残基が左回りにヘリックス周囲にゆるやかに巻き付いた「ストライプ」として提示される両親媒性構造の形成を引き起こす。2本のこのようなヘリックスが細胞質中でそれら自体を配列する最も好ましい方法は、親水性アミノ酸間に挟まれた互いに対して疎水性鎖を巻き付けることである。したがって、それは、オリゴマー化のための熱力学的推進力を提供する疎水性表面の埋没である。コイルドコイルインターフェースのパッキングは非常に堅固であり、残基およびd残基の側鎖間のほぼ完全なファンデルワールス接触を伴う。
【0106】
コイルドコイルドメインを含有するタンパク質の例としては、限定されないが、キネシンモータータンパク質、D型肝炎デルタ抗原、古細菌ボックスC/D sRNPコアタンパク質、軟骨-オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)、マンノース結合タンパク質A、コイルドコイルセリンリッチタンパク質1、ポリペプチド放出因子2、SNAP-25、SNARE、Lacリプレッサーまたはアポリポタンパク質Eが挙げられる。
【0107】
二量体化化学誘導剤(CID)
二量体化化学誘導剤(CID)は、同じHt1およびHt2ドメインを有する別個のキメラ分子上のHt1とHt2との間のヘテロ二量体化を誘導する任意の分子であり得る。
【0108】
CIDは、ラパマイシンに対する改善されたまたは異なる薬物力学的特性または薬物動態学的特性を有するが、同じ広範な作用機序を有するラパマイシンまたはラパマイシン類似体(「ラパログ」)であり得る。(例えば、
図4に示されているように)CIDは、相補的FKBP12またはFRBに対する操作された特異性を有する変化したラパマイシンであり得る。Bayleら(2006、上記)には、C16および/またはC20において官能化された様々なラパログが記載されている。
【0109】
第1のカテゴリーのこのようなラパログの例としては、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムスおよびデフォロリムスが挙げられる。第2のカテゴリーのラパログの例としては、C-20-メチルアリルラパマイシン(MaRap);C16(S)-ブチルスルホンアミドラパマイシン(C16-BS-Rap);C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン(C16-iRap);およびC16-(S)-7-メチルインドールラパマイシン(AP21976/C16-AiRap)が挙げられる。
【0110】
CIDの存在下におけるカスパーゼドメインのホモ二量体化は、CIDの非存在下で生じるカスパーゼ活性よりも2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、1,000倍または10,000倍高いカスパーゼ活性化をもたらし得る。
【0111】
ラパマイシンは、強力な免疫抑制剤である。ラパマイシンの類似体(ラパログ)は、毎日臨床使用されている。現代のラパログは、優れたバイオアベイラビリティおよび分布容積を有する。それらは強力な免疫抑制剤であるが、(自殺遺伝子を活性化するための)低用量は、副作用が最小であるはずである。さらに、mAbの投与とは異なり、ラパマイシンおよび類似体の薬理学的効果は、自殺遺伝子が活性化を必要とする臨床状況(例えば、オフ腫瘍毒性または免疫過活性化症候群)において非常に有利であり得る。
【0112】
核酸配列
本発明の第2の態様は、本発明にしたがうキメラタンパク質をコードする核酸配列を提供する。
【0113】
本明細書で使用される用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」および「核酸」は、互いに同義語であることを意図する。
【0114】
当業者であれば、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が、遺伝コードの縮重の結果として同じポリペプチドをコードし得ることを理解する。加えて、当業者であれば、ポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するために、ルーチンな技術を使用して、本明細書記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を与えないヌクレオチド置換を行い得ると理解されよう。
【0115】
本発明の第2の態様にしたがう核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。それらは、単鎖または二本鎖であり得る。それらはまた、その中に合成ヌクレオチドまたは改変ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであり得る。オリゴヌクレオチドに対するいくつかの異なる種類の改変が当技術分野で公知である。これらとしては、メチルホスホネート骨格およびホスホロチオエート骨格、分子の3’および/または5’末端におけるアクリジンまたはポリリシン鎖の付加が挙げられる。本明細書記載の使用の目的のために、ポリヌクレオチドは、当技術分野で利用可能な任意の方法によって改変され得ると理解すべきである。このような改変は、目的のポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を増強するために行われ得る。
【0116】
ヌクレオチド配列に関して、用語「変異体」、「相同体」または「誘導体」は、配列からのまたは配列への1つ(またはそれを超える)核酸の任意の置換、変異、改変、置き換え、欠失または付加を含む。
【0117】
本発明のこの態様の第1の実施形態では、式:
Ht1-Ht2-L-Casp
(式中、
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインであり、
Lは、任意選択のリンカーであり;
Caspは、カスパーゼドメインである)を有するキメラタンパク質をコードする核酸が提供される。
【0118】
核酸配列は、配列番号1として示されているキメラタンパク質配列またはその変異体をコードし得る。
【0119】
例えば、ヌクレオチド配列は、配列番号12として示されている配列を含み得る。
【化7-1】
【化7-2】
【0120】
本発明のこの態様の第2の実施形態では、式:Ht1-L-Casp
(式中、
Ht1は、ヘテロ二量体化ドメインであり、
Lは、任意選択のリンカーであり;
Caspは、カスパーゼドメインである)を有するキメラタンパク質をコードする核酸配列が提供される。
【0121】
核酸配列は、配列番号2もしくは3として示されているキメラタンパク質配列またはその変異体をコードし得る。
【0122】
例えば、ヌクレオチド配列は、配列番号13または14として示されている配列を含み得る。
【化8-1】
【化8-2】
【0123】
この第2の実施形態では、核酸配列は、両キメラタンパク質をコードする構築物の形態で提供され得る。
【0124】
構築物は、式:
Ht1-L2-Casp-coexpr-Ht2-L2-Casp
(式中、
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;
L1およびL2は、任意選択のリンカー(これは同じものでもよいし、または異なるものでもよい)であり;
Coexprは、2つのタンパク質:Ht1-L1-CaspおよびHt2-L2-Caspの共発現を可能にする配列であり;
Ht2は、第2のヘテロ二量体化ドメインであり;
Caspは、カスパーゼドメインである)を有するポリタンパク質をコードし得る。
【0125】
同じまたは類似の配列(例えば、2つのカスパーゼドメイン)をコードする核酸配列が存在する場合、配列の一方は、相同組換えを回避するために、コドンゆらぎ処理され得る。
【0126】
第3の実施形態では、以下の式:
Ht1-Casp-coexpr-Ht2-Ht2
(式中、
Caspは、カスパーゼドメインであり;
Ht1は、第1のヘテロ二量体化ドメインであり;
Coexprは、タンパク質Ht1-CaspおよびHt2-Ht2の共発現を可能にする配列、例えば切断部位であり;
Ht2は、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下でHt1とヘテロ二量体化する第2のヘテロ二量体化ドメインである)を有する配列をコードする核酸配列が提供される。
【0127】
第2のタンパク質Ht2-Ht2をコードする配列では、Ht2をコードする配列の一方は、相同組換えを回避するために、コドンゆらぎ処理され得る。
【0128】
第3の実施形態にしたがう核酸構築物は、配列番号15に示されている配列を有し得る。
【化9-1】
【化9-2】
【0129】
高度の類似性を有する核酸配列、例えばカスパーゼ配列(複数も可)またはFRB配列は、組換えを回避するために、コドンゆらぎ処理され得る。
【0130】
核酸構築物
本発明はまた、
i)カスパーゼドメインと、FK506結合タンパク質(FKBP)を含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質をコードする第1の核酸配列;および
ii)カスパーゼドメインと、mTORのFRBドメインを含むヘテロ二量体化ドメインとを含むキメラタンパク質をコードする第2の核酸配列
を含む核酸構築物を提供する。
【0131】
本発明はまた、1つまたはそれを超えるキメラタンパク質(複数も可)をコードする核酸配列と、さらなる目的の核酸配列(NOI)とを含む核酸構築物を提供する。NOIは、例えば、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードし得る。
【0132】
核酸配列は、2つまたはそれを超える核酸配列の共発現を可能にする配列によって接続され得る。例えば、構築物は、内部プロモーター、内部リボソームエントリー配列(IRES)配列、または切断部位をコードする配列を含み得る。ポリペプチドが産生されたら、切断部位は自己切断され得、いかなる外部切断活性も必要とせずに、個別のタンパク質へと即時に切断される。
【0133】
配列番号16または17として示されている配列を有する口蹄疫ウイルス(FMDV)2a自己切断ペプチドを含む様々な自己切断部位が公知である:
【化10】
【0134】
共発現配列は、内部リボソームエントリー配列(IRES)であり得る。共発現配列は、内部プロモーターであり得る。
【0135】
T細胞受容体(TCR)
T細胞受容体またはTCRは、T細胞の表面に見られる分子であって、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与する分子である。TCRと抗原との間の結合は、比較的低い親和性であり、変性する:多くのTCRは同じ抗原を認識し、多くの抗原は同じTCRによって認識される。
【0136】
TCRは、2本の異なるタンパク質鎖から構成される(すなわち、それは、ヘテロ二量体である)。T細胞の95%では、これは、アルファ(α)およびベータ(β)鎖からなるのに対して、T細胞の5%では、これは、ガンマおよびデルタ(γ/δ)鎖からなる。この比率は、個体発生中および疾患状態で変化する。
【0137】
TCRが抗原ペプチドおよびMHC(ペプチド/MHC)と係合すると、Tリンパ球は、関連酵素、共受容体、専門化されたアダプター分子、および活性化または放出された転写因子によって媒介される一連の生化学的事象によって活性化される。
【0138】
本発明の核酸構築物またはベクターは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖またはTCRδ鎖をコードする核酸配列を含み得る。それは、例えば、TCRα鎖をコードする核酸配列およびTCRβ鎖をコードする核酸配列;またはTCRγ鎖をコードする核酸配列またはTCRδ鎖をコードする核酸配列を含み得る。2つの核酸配列は、2つのTCR鎖の共発現を可能にする配列、例えば内部プロモーター、IRES配列または切断部位、例えば自己切断部位によって接続され得る。
【0139】
キメラ抗原受容体(CAR)
目的の核酸配列(NOI)は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードし得る。
【0140】
古典的なCARは、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)を細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に結び付けるキメラI型膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的にはモノクローナル抗体(mAb)に由来する1本鎖可変フラグメント(scFV)であるが、リガンドなどの抗原結合部位を含む他のフォーマットに基づくことも可能である。スペーサードメインは、膜からバインダーを単離し、好適な配向をもたせるのに必要であり得る。使用される一般的なスペーサードメインは、IgG1のFcである。より小型のスペーサー、例えば、抗原によっては、CD8αからのストーク、さらにはIgG1ヒンジ単独でも十分であり得る。膜貫通ドメインは、細胞膜にタンパク質をつなぎ止め、スペーサーを、細胞内シグナル伝達ドメインを含む、または細胞内シグナル伝達ドメインに関連するエンドドメインに結び付ける。
【0141】
初期のCAR設計は、FcεR1またはCD3ζのγ鎖のどちらかの細胞内部分に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを有していた。したがって、これらの第一世代受容体は、免疫学的シグナル1を伝達するもので、同種標的細胞のT細胞による致死を誘発するのに十分ではあったが、T細胞を十分に活性化して増殖および生存をもたらすことはなかった。この限界を克服するため、複合シグナル伝達ドメインが構築された:T細胞共刺激分子の細胞内部分とCD3ζの細胞内部分の融合により、抗原認識後活性化シグナルおよび共刺激シグナルを同時に伝達することができる第二世代受容体がもたらされる。最も一般的に使用される共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これは、T細胞増殖を誘発する最も強力な共刺激シグナル、すなわち免疫学的シグナル2を供給する。また、生存シグナルを伝達する密接に関連したOX40および41BBなど、TNF受容体ファミリーのエンドドメインを含む一部の受容体も記載されている。活性化シグナル、増殖シグナルおよび生存シグナルを伝達することができる細胞内シグナル伝達ドメインを有するさらにいっそう強力な第三世代CARが現在記載されている。
【0142】
CARをコードする核酸は、例えば、レトロウイルスベクターを用いてT細胞に移入され得る。こうして、多数の抗原特異的T細胞が、養子細胞移入のために生成され得る。CARが標的抗原と結合したとき、これにより、活性化シグナルの、それが発現されるT細胞への伝達がもたらされる。すなわち、CARは、標的抗原を発現する細胞に向けたT細胞の特異性および細胞傷害性を誘導する。
【0143】
ベクター
第3の態様では、本発明は、本発明の核酸配列または核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0144】
本発明はまた、1つまたはそれを超える本発明の核酸配列(複数も可)または核酸構築物(複数も可)と、場合により1つまたはそれを超える(one of more)さらなる目的の核酸配列(NOI)とを含むベクターまたはベクターのキットを提供する。このようなベクターは、それが、1つまたはそれを超える本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質(複数も可)と、場合により1つまたはそれを超える他の目的のタンパク質(POI)とを発現するように、核酸配列(複数も可)または核酸構築物(複数も可)を宿主細胞に導入するために使用され得る。キットはまた、CIDを含み得る。
【0145】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターまたはトランスポゾンベースのベクターまたは合成mRNAであり得る。
【0146】
ベクターは、T細胞をトランスフェクトまたは形質導入することができるものであり得る。
【0147】
ベクターを標的細胞の形質導入に使用する場合、標的細胞がキメラタンパク質およびキメラ抗原受容体またはT細胞受容体を共発現するように、NOIは、例えば、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体をコードし得る。
【0148】
細胞
本発明はまた、本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質を含む細胞に関する。
【0149】
細胞は、本発明の第1の態様の第1の実施形態にしたがう2つのヘテロ二量体化ドメインを有するキメラタンパク質を発現し得る。
【0150】
細胞は、本発明の第1の態様の第2の実施形態にしたがう2つのキメラタンパク質(カスパーゼドメインと、FK506結合タンパク質(FKBP)を含むヘテロ二量体化ドメインとを含むもの;およびカスパーゼドメインと、mTORのFRBドメインを含むヘテロ二量体化ドメインとを含むもの)を発現し得る。
【0151】
各キメラタンパク質由来のHt1が、インターフェースタンパク質由来のHt2ドメインとヘテロ二量体化して、2つのカスパーゼドメインのホモ二量体化を引き起こすように(
図1dを参照のこと)、二量体化化学誘導剤(CID)の存在下で、一対のキメラタンパク質Ht1-Casp9が相互作用するように、2つのタンパク質:
Ht1-CaspおよびHt2-Ht2
(式中、Ht1-Caspは、カスパーゼドメイン(Casp)および第1のヘテロ二量体化ドメイン(Ht1)を含むキメラタンパク質であり;Ht2-Ht2は、2つの第2のヘテロ二量体化ドメイン(Ht2)を含むインターフェースタンパク質である)を発現する細胞も提供される。
【0152】
細胞は、例えば、T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞であり得る。
【0153】
細胞は、造血幹細胞などの幹細胞であり得る。
【0154】
T細胞またはTリンパ球は、細胞媒介性免疫において中心的役割を担うリンパ球のタイプである。それらは、細胞表面におけるT細胞受容体(TCR)の存在により、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)など、他のリンパ球とは区別することができる。下記で概説する通り、様々なタイプのT細胞がある。
【0155】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、形質細胞および記憶B細胞へのB細胞の成熟、ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む、免疫学的プロセスで他の白血球を補助する。TH細胞は、それらの表面でCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面でMHCクラスII分子によりペプチド抗原と共に提示されたときに活性化される。これらの細胞は、種々のサイトカインを分泌することにより、種々のタイプの免疫応答を促進する、TH1、TH2、TH3、TH17、Th9、またはTFHを含む、幾つかのサブタイプのうちの1つに分化し得る。
【0156】
細胞溶解性T細胞(TC細胞またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、また移植拒絶にも関与する。CTLは、それらの表面でCD8を発現する。これらの細胞は、全有核細胞の表面に存在する、MHCクラスIに関連した抗原に結合することにより標的を認識する。調節性T細胞により分泌されるIL-10、アデノシンおよび他の分子を通じて、CD8+細胞はアネルギー状態に不活化され得、実験的自己免疫脳脊髄炎などの自己免疫疾患を防止する。
【0157】
記憶T細胞は、感染の消散後長期にわたって持続する抗原特異的T細胞のサブセットである。それらは、それらの同種抗原に再曝露されると、迅速に多数のエフェクターT細胞に拡大し、過去の感染に対する「記憶」をもつ免疫系を提供する。記憶T細胞は、3つのサブタイプ:セントラル記憶T細胞(TCM細胞)および2タイプのエフェクター記憶T細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)を含む。記憶細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。記憶T細胞は、典型的には細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0158】
以前にはサプレッサーT細胞として知られていた、調節性T細胞(Treg細胞)は、免疫寛容の維持に非常に重要である。それらの主たる役割は、免疫反応の終末に向けてT細胞媒介性免疫を制止し、胸腺での負の選択のプロセスを逃れた自己反応性T細胞を抑制することである。
【0159】
CD4+Treg細胞の2つの主なクラス-天然に存在するTreg細胞および適応Treg細胞については記載されている。
【0160】
天然に存在するTreg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても知られている)は、胸腺で生じ、TSLPで活性化された骨髄性(CD11c+)樹状細胞および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方と発達中のT細胞との間の相互作用に関連付けられている。天然に存在するTreg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分子の存在により他のT細胞からは区別され得る。FOXP3遺伝子の変異は、調節性T細胞の発達を防止し得るため、致命的な自己免疫疾患IPEXが引き起こされ得る。
【0161】
適応Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても知られている)は、正常な免疫応答中に生じ得る。
【0162】
ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)は、先天性免疫系の一部を形成する細胞溶解性細胞の1タイプである。NK細胞は、MHC非依存的にウイルス感染細胞からの内生シグナルに対して、迅速な応答を提供する。
【0163】
NK細胞(自然リンパ球の群に属する)は、大顆粒リンパ球(LGL)として定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生じる共通のリンパ性前駆細胞から分化した第3の種類の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃および胸腺で分化および成熟し、次いでそこから循環系に入ることが知られている。
【0164】
幹細胞は、専門化された細胞に分化し得る未分化細胞である。哺乳動物では、大きく2種類の幹細胞:胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚性幹細胞、および様々な組織に見られる成体幹細胞がある。成体生物では、幹細胞および前駆細胞は、体の修復系として作用して、成体組織を補充する。発生中の胚では、幹細胞は、すべての専門化された細胞(外胚葉、内胚葉および中胚葉(人工多能性幹細胞を参照のこと))に分化し得るが、血液、皮膚または腸組織などの再生器官の正常な代謝回転も維持する。
【0165】
ヒトでは、3つの公知の利用可能な自己成体幹細胞源がある:
1.採取による抽出(すなわち、骨穿孔)を必要とする骨髄。
2.脂肪吸引による抽出を必要とする脂肪組織。
3.アフェレーシスによる抽出を必要とする血液(血液をドナーから採血し、幹細胞を抽出して血液の他の部分をドナーに戻す機械に通す)。
【0166】
成体幹細胞は、医学療法、例えば骨髄移植において頻繁に使用される。現在、幹細胞は人工的に増殖され、筋肉または神経などの様々な組織の細胞と一致する特徴を有する専門化された細胞型に変換(分化)され得る。体細胞核移植または脱分化によって生成された胚性細胞株および自己胚性幹細胞もまた、細胞療法のための専門化された細胞型を生成するために使用され得る。
【0167】
造血幹細胞(HSC)は、すべての他の血液細胞を生じさせる血液細胞であり、中胚葉に由来する。それらは、ほとんどの骨のコアに含まれる赤色骨髄に存在する。
【0168】
それらは、骨髄(単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)およびリンパ系(T細胞、B細胞、NK細胞)を生じさせる。造血組織は、長期および短期の再生能を有する細胞、ならびにコミットした多能性、複能性および単能性の前駆細胞を含有する。
【0169】
HSCは、異種集団である。血中におけるリンパ球と骨髄子孫との比(L/M)によって区別される3つのクラスの幹細胞が存在する。骨髄偏向型(My-bi)HSCは、低いL/M比(0~3)を有するのに対して、リンパ偏向型(Ly-bi)HSCは、大きな比(>10)を示す。第3のカテゴリーは、L/M比が3~10であるバランス型(Bala)HSCからなる。骨髄偏向型HSCおよびバランス型HSCのみが、持続的な自己複製特性を有する。
【0170】
本発明のキメラタンパク質発現細胞は、上記で挙げた細胞タイプのいずれでもよい。
【0171】
本発明の第1の態様にしたがう1つまたはそれを超えるキメラタンパク質を発現するT細胞またはNK細胞は、患者自身の末梢血から(第1団)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状況において(第2団)、または非関連ドナーからの末梢血(第3団)からエキソビボで作製され得る。
【0172】
あるいは、本発明の第1の態様にしたがう1つまたはそれを超えるキメラタンパク質を発現するT細胞またはNK細胞は、T細胞への誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞のエキソビボ分化から誘導され得る。あるいは、溶解機能を保持し、治療薬として作用することができる不死化T細胞系も使用され得る。
【0173】
すべてのこれらの実施形態では、キメラタンパク質(複数も可)発現細胞は、ウイルスベクターの形質導入、またはDNAもしくはRNAのトランスフェクションなどの手段によって、前記キメラタンパク質または各キメラタンパク質をコードするDNAまたはRNA、および場合によりNOIを導入することによって生成される。
【0174】
本発明の細胞は、被験体由来のエキソビボT細胞またはNK細胞であり得る。T細胞またはNK細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)試料に由来し得る。T細胞またはNK細胞は、例えば、抗CD3モノクローナル抗体による処理によって、本発明の第1の態様にしたがう1つまたはそれを超えるキメラタンパク質をコードする核酸を形質導入される前に、活性化および/または増殖され得る。
【0175】
本発明のT細胞またはNK細胞は、
(i)上記被験体または他の供給源から、T細胞またはNK細胞含有試料を単離すること;ならびに
(ii)本発明の第2の態様にしたがう1つまたはそれを超える核酸配列(複数も可)をT細胞またはNK細胞に形質導入またはトランスフェクトすることによって作製され得る。
【0176】
本発明はまた、1つまたはそれを超える本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質(複数も可)を含むT細胞またはNK細胞と、CIDとを含むキットを提供する。
【0177】
医薬組成物
本発明はまた、本発明の第4の態様にしたがう複数の細胞を含有する医薬組成物に関する。医薬組成物は、薬学的に許容され得る担体、希釈剤または賦形剤をさらに含み得る。医薬組成物は、1つまたはそれを超えるさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を場合により含み得る。このような製剤は、例えば、静脈内注入に適切な形態であり得る。
【0178】
方法
本発明はまた、本発明の第4の態様にしたがう細胞を作製するための方法であって、本発明の第3の態様にしたがうベクターを細胞に形質導入またはトランスフェクトする工程を含む方法を提供する。
【0179】
ベクターは、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターであり得る。
【0180】
本発明はまた、本発明の第4の態様にしたがう細胞を排除するための方法であって、前記細胞をCID(例えば、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体)に曝露する工程を含む方法を提供する。細胞は、インビボまたはインビトロでCIDに曝露され得る。細胞の排除は、CIDによって誘導されるカスパーゼドメインのホモ二量体化後に、カスパーゼの活性化によって誘導されるアポトーシスによって引き起こされ得る。
【0181】
CIDは、医薬組成物の形態で投与され得る。医薬組成物は、薬学的に許容され得る担体、希釈剤または賦形剤をさらに含み得る。医薬組成物は、1つまたはそれを超えるさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を場合により含み得る。このような製剤は、例えば、静脈内注入に適切な形態であり得る。
【0182】
本発明はまた、被験体への本発明の第4の態様にしたがう細胞の投与によって引き起こされる、前記被験体における病理学的免疫反応を予防および/または処置するための方法であって、CID(例えば、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体)を前記被験体に投与する工程を含む方法を提供する。
【0183】
病理学的免疫反応は、以下の群:移植片対宿主病;オンターゲットオフ腫瘍毒性;免疫活性化症候群;およびリンパ増殖性障害から選択され得る。
【0184】
本発明はまた、被験体における疾患を処置または予防するための方法であって、本発明の第4の態様にしたがう細胞を前記被験体に投与する工程を含む方法を提供する。細胞は、上記に定義される医薬組成物の形態であり得る。
【0185】
前記方法は、以下:
(i)本発明の第3の態様にしたがうベクターを、被験体から単離された細胞の試料に形質導入またはトランスフェクトする工程、および
(ii)前記形質導入/トランスフェクト細胞を患者に投与する工程
を含み得る。
【0186】
疾患を処置するための方法は、本発明の細胞の治療用途に関する。本明細書では、疾患に関連する少なくとも1つの症候を緩和、軽減もしくは改善するために、および/または疾患進行を遅延、軽減もしくは阻止するために、前記細胞は、既存の疾患または症状を有する被験体に投与され得る。
【0187】
疾患を予防するための方法は、本発明の免疫細胞の予防用途に関する。本明細書では、疾患の原因を予防もしくは弱めるために、または疾患に関連する少なくとも1つの症候の発症を軽減もしくは予防するために、このような細胞は、疾患をまだ罹っていない被験体、および/または疾患のいずれの症候も示していない被験体に投与され得る。被験体は、疾患を発症する素因を有し得るか、または疾患を発症するリスクを有すると考えられ得る。
【0188】
本発明によって提供される疾患を処置するための方法は、疾患進行をモニタリングすること、および任意の毒性活性をモニタリングすること、ならびに被験体に投与されるCIDの用量を調整して、許容され得るレベルの疾患進行および毒性活性を提供することを含み得る。
【0189】
疾患進行のモニタリングは、それらが軽減/改善または増加/悪化しているかを決定するために、疾患に関連する症候を経時的に評価することを意味する。
【0190】
毒性活性は、被験体への投与後に本発明の細胞によって引き起こされる有害効果に関する。毒性活性としては、例えば、免疫学的毒性、胆汁毒性および呼吸窮迫症候群が挙げられ得る。
【0191】
特に、本発明は、被験体における疾患を処置するための方法であって、以下:
(i)本発明の第4の態様にしたがう細胞を前記被験体に投与する工程;
(ii)病理学的免疫反応の発症について、前記被験体をモニタリングする工程;および(iii)前記被験体が、病理学的免疫反応を発症するまたは発症した兆候を示す場合、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体を前記被験体に投与する工程
を含む方法を提供する。
【0192】
本発明は、疾患の処置および/または予防において使用するための本発明の細胞を提供する。
【0193】
細胞は、例えば、造血幹細胞移植、リンパ球注入または養子細胞移入に使用するためのものであり得る。
【0194】
本発明はまた、疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における本発明の細胞の使用に関する。
【0195】
本発明はまた、毒性活性を処置および/または予防するための、本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質の二量体化を誘導することができるCID剤を提供する。
【0196】
本発明はまた、細胞における本発明の第1の態様にしたがうキメラタンパク質の一対のカスパーゼドメインの活性化に使用するためのCID剤を提供する。
【0197】
本発明の細胞および方法によって処置ならびに/または予防すべき疾患は、ウイルス感染症などの感染症であり得る。
【0198】
本発明の方法はまた、例えば自己免疫疾患、アレルギーおよび移植片対宿主拒絶における、病的免疫応答の制御に関するものであり得る。
【0199】
本発明の細胞がTCRまたはCARを発現する場合、それらは、膀胱癌、乳癌、結腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌(腎細胞)、白血病、肺癌、メラノーマ、非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、前立腺癌および甲状腺癌などの癌性疾患の処置に有用であり得る。
【0200】
本発明のTCR/CAR発現細胞は、標的細胞、例えば癌細胞を殺滅させることができる。
【0201】
本発明はまた、被験体への本発明の第4の態様にしたがう細胞の投与によって引き起こされる病理学的免疫反応の予防または処置に使用するためのラパマイシンまたはラパマイシン類似体を提供する。
【0202】
本発明の細胞は、改変細胞または非改変細胞を患者に投与する任意の細胞療法に使用され得る。細胞療法の例は、CD34+幹細胞移植後の養子T細胞移入である。幹細胞移入後におけるT細胞の投与は、患者レシピエントにおける免疫系の再構成を促進するのに役立つ。適合関連または非関連ドナーが利用不可能であるか、または広範なドナー探索のために疾患が過度に攻撃的である場合、HLAハプロタイプ一致家族ドナーの使用が有効であり得る。このようなドナーは、親、兄弟姉妹または二等親血縁者であり得る。このような注入は免疫回復を増強し、それにより、ウイルス感染を軽減し、再発性白血病細胞を除去し得る。しかしながら、ドナー幹細胞移植片におけるアロ反応性T細胞の共存は、ドナー細胞がレシピエントに対して反応する移植片対宿主病(GvHD)(これは、レシピエントの皮膚、腸、肝臓および他の器官を徐々に損傷し得る)を引き起こし得る。
【0203】
細胞療法の他の例としては、天然細胞または異種遺伝子を発現するように遺伝子操作された細胞の使用が挙げられる。これらの処置は、血液障害を含む多くの障害に使用されるが、これらの治療は、負の副作用を有し得る。別の方法では、罹患細胞の機能を代替することによって障害を処置するために、例えば間葉系間質細胞などの多くの種類の成熟細胞に分化し得る未成熟前駆細胞が使用され得る。本発明は、細胞療法に使用されるドナー細胞の考えられる負の効果を取り除くための迅速で有効な機構を提供する。
【0204】
本発明は、ドナーT細胞移植後のヒト患者における移植片対宿主病の効果を軽減する方法であって、本発明にしたがうベクターを、ドナー細胞培養物中のヒトドナーT細胞にトランスフェクトまたは形質導入する工程;形質導入またはトランスフェクトされたドナーT細胞を前記患者に投与する工程;続いて、前記患者における移植片対宿主病の存在または非存在を検出する工程;および二量体化化学誘導剤(CID)を、移植片対宿主病の存在が検出される患者に投与する工程を含む方法を提供する。T細胞は、アロ反応性除去がされていないもの(non-allodepleted)であり得る。
【0205】
本発明は、幹細胞移植の方法であって、ハプロタイプ一致幹細胞移植物をヒト患者に投与する工程;およびハプロタイプ一致ドナーT細胞を前記患者に投与する工程を含み、ハプロタイプ一致ドナー細胞培養物中で、本発明にしたがうベクターを前記T細胞にトランスフェクトまたは形質導入する方法を提供する。
【0206】
細胞は、ドナー細胞培養物中のアロ反応性除去がなされていないヒトドナーT細胞であり得る。
【0207】
本発明はまた、幹細胞移植の方法であって、ハプロタイプ一致幹細胞移植物をヒト患者に投与する工程;およびアロ反応性除去したハプロタイプ一致ドナーT細胞を前記患者に投与する工程を含み、ハプロタイプ一致ドナー細胞培養物中で、本発明にしたがうベクターを前記T細胞にトランスフェクトまたは形質導入する方法を提供する。
【0208】
ハプロタイプ一致幹細胞移植物は、CD34+ハプロタイプ一致幹細胞移植物であり得る。ヒトドナーT細胞は、患者のT細胞とハプロタイプ一致であり得る。患者は、幹細胞移植によって緩和され得る任意の疾患または障害であり得る。患者は、固形腫瘍または血液もしくは骨髄の癌などの癌を有し得る。患者は、血液または骨髄疾患を有し得る。患者は、鎌状赤血球貧血または異染性白質ジストロフィーを有し得る。
【0209】
ドナー細胞培養物は、骨髄試料または末梢血から調製され得る。ドナー細胞培養物は、ドナー末梢血単核細胞から調製され得る。いくつかの実施形態では、ドナーT細胞は、トランスフェクションまたは形質導入の前に、ドナー細胞培養物からアロ反応性除去される。形質導入またはトランスフェクトされたT細胞は、患者への投与前に、IL-2の存在下で培養され得る。
【0210】
実施例により本発明をさらに記載するが、これは、本発明を実施する上で当業者を助ける役割を果たすことを意味するもので、本発明の範囲をいかなる意味にせよ限定する意図はない。
【実施例0211】
実施例1-キメラタンパク質を発現するT細胞の生産
異なる構築物をT細胞に形質導入した。二分子rapCasp9(
図1a)については、2つのベクター(一方は、内部リボソームエントリー配列によって緑色蛍光タンパク質eGFPと共発現されるFKBP12-Casp9をコードし、他方は、青色蛍光タンパク質eBFP2と共発現されるFRB-Casp9をコードする)をT細胞に形質導入した。一分子rapCasp9(
図1b)については、eGFPと共発現される各rapCasp9をコードする1つのベクターのみをT細胞に形質導入した。FKB12-Casp9およびFRB-FRBwを提供した構築物は、トリシストロン性カセットでコードされ、それにより、FMD-2A様ペプチドを使用してFKBP12-Casp9およびFRB-FRBwを共発現させ、eGFPをIRESと共発現させた。意図的に、T細胞を部分的にのみ形質導入したので、細胞培養内では、一定割合の細胞が依然として非形質導入状態であり、内部陰性対照として作用した。さらなる対照として、eGFPのみをコードするベクターをT細胞に形質導入して、形質導入細胞に対するラパマイシンの非特異的効果を除いた。
【0212】
実施例2-ラパマイシンを用いたキメラタンパク質発現細胞の排除試験
T細胞を異なる濃度のラパマイシンに曝露し、48時間インキュベートした。この後、T細胞をアネキシンVおよび7AADで染色し、フローサイトメトリーによって分析した。生存細胞をゲーティングし、蛍光タンパク質を発現する細胞の集団を調べることによって、形質導入集団および非形質導入集団の生存を明確に測定することができた。予想通り、二重FRB-Casp9およびFKBP12-Casp9アプローチは、二重陽性細胞のみの有効な排除をもたらした。FKBP12-FRB-Casp9構築物は、単一陽性細胞の有効な排除をもたらした。FKBP12-Casp9-FRB構築物は、最小の排除をもたらした。FKBP12-Casp9/FRB-FRBwは、単一陽性細胞の有効な排除をもたらした。対照は、特異的な排除をもたらさなかった(
図2および3)。
【0213】
実施例3-幅広い構築物の試験
図5に示されている構築物を生成し、Jurkat細胞に形質導入した。形質導入細胞を非形質導入(NT)細胞と混合して、構築物陽性細胞および構築物陰性細胞の両方が集団内に含まれるようにした。ラパマイシンを0、1、10、100および1000nMの濃度で添加し、細胞を24時間インキュベートした。回収後、細胞をPIおよびアネキシンVで染色し、FACSによって分析した。結果を
図6~9に示し、
図10に要約する。
【0214】
本発明の第1の態様の第1の実施形態にしたがって定義される構成を有する構築物(すなわち、MP20244)は、このアッセイにおいて非常に良好なパフォーマンスを示し、1nMを超えるおよびそれを含むすべての濃度のラパマイシンでトランスフェクト細胞の非常に効率的な殺滅をもたらした。
【0215】
本発明の第1の態様の第2の実施形態にしたがって定義される構成を有する一対の構築物(すなわち、MP20206およびMP20207)も非常に良好なパフォーマンスを示し、1nMを超えるおよびそれを含むすべての濃度のラパマイシンでトランスフェクト細胞の非常に効率的な殺滅をもたらした。
【0216】
本発明の第1の態様の第3の実施形態にしたがって定義される構成を有する構築物(すなわち、MP20265)も良好なパフォーマンスを示し、1nMラパマイシンではいくらかの殺滅をもたらし、10nMおよびそれを超える濃度のラパマイシンでは効率的な殺滅をもたらした。
【0217】
本発明の第1の態様の第4の実施形態にしたがって定義される構成を有する構築物(すなわち、MP20263、MP20264およびMP21067)は、1nMラパマイシンでは良好なパフォーマンスを示したが、より高濃度のラパマイシンでは、殺滅があまり効率的ではなかった。
【0218】
実施例4-テムシロリムスを用いた構築物の試験
実施例3に記載されているものと同等の実験において、
図5に示されている構築物を発現する細胞を、ラパマイシンおよびテムシロリムス(ラパマイシン類似体)の両方で処理した。
【0219】
実施例3に概説されている実験と同様に、形質導入Jurkat細胞を非形質導入(NT)と混合して、構築物を発現する細胞および非形質導入細胞の両方を含有する集団を得た。
【0220】
2×105個の細胞/ウェルの濃度の細胞を処理しないでおくか、または以下の濃度のラパマイシンもしくはテムシロリムスで処理した:0.01、0.1、1、10nM(のラパマイシンまたはテムシロリムスのいずれか)。
【0221】
細胞を24時間インキュベートし、次いで、アネキシンVおよびPIで染色し、FACSによって分析した。結果を
図11に示す。
【0222】
図5に示されている様々な構築物を用いたところ、テムシロリムスの存在下では、ラパマイシンの存在下で先に観察されたのと同等のJurkat細胞殺滅パターンが観察された。
【0223】
特に、本発明の第1の態様の第1の実施形態にしたがって定義される構成を有する構築物MP20244;ならびに本発明の第1の態様の第2の実施形態にしたがって定義される構成を有する一対の構築物MP20206およびMP20207は両方とも、良好なパフォーマンスを示した。両方とも、1nMを超えるおよびそれを含むすべての濃度のテムシロリムスでトランスフェクト細胞の効率的な殺滅をもたらした。
【0224】
上記の明細書で挙げた出版物は全て、参照により本明細書に援用する。本発明の記載された方法および系の様々な改変および変形は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者には明らかである。本発明を特定の好ましい実施形態と共に記載したが、請求されている本発明は、かかる特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解するべきである。事実、分子生物学または関連分野における専門家にとって明白な、本発明を実施するために記載された方法の様々な改変も以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものとする。