(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111343
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】グラウト
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220722BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20220722BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20220722BHJP
C04B 24/30 20060101ALI20220722BHJP
C04B 22/04 20060101ALI20220722BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20220722BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/06 Z
C04B24/02
C04B24/30 A
C04B22/04
C04B24/38 D
C04B22/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093878
(22)【出願日】2022-06-09
(62)【分割の表示】P 2018049242の分割
【原出願日】2018-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 亮太
(57)【要約】
【課題】高温環境下であっても可使時間を十分に確保することができ、且つ硬化時の初期膨張性に優れるグラウト組成物及びグラウトを提供すること。
【解決手段】セメント成分、膨張材、発泡剤、減水剤、及び増粘剤を含むグラウト組成物と、水とを含み、セメント成分において、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、混合セメント及びエコセメントからなる群から選択される少なくとも一種のセメント類の含有率が、セメント成分全質量を基準として85質量%以上であり、且つ早強セメント、超早強セメント、速硬性セメント、及び/又はアルミナセメントの含有率が、セメント成分全質量を基準として10質量%以下であり、セメント成分の含有率が、グラウト組成物全質量を基準として90~98質量%であり、発泡剤の含有量が、セメント成分100質量部に対して0.0001~0.005質量部であり、骨材の含有量が、セメント成分100質量部に対して10質量部以下であり、水の含有量が、セメント成分100質量部に対して28~40質量部であり、30℃環境下において、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に基づく練り混ぜ後60分の静置フローが212mm以上であり、且つ、練り上がり直後と練り混ぜ後60分とのフロー値の差が50mm以内である、グラウト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント成分、膨張材、発泡剤、減水剤、及び増粘剤を含むグラウト組成物と、水とを含み、
前記セメント成分において、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、混合セメント及びエコセメントからなる群から選択される少なくとも一種のセメント類の含有率が、前記セメント成分全質量を基準として85質量%以上であり、且つ早強セメント、超早強セメント、速硬性セメント、及び/又はアルミナセメントの含有率が、セメント成分全質量を基準として10質量%以下であり、
前記セメント成分の含有率が、前記グラウト組成物全質量を基準として90~98質量%であり、
前記発泡剤の含有量が、前記セメント成分100質量部に対して0.0001~0.005質量部であり、
骨材の含有量が、前記セメント成分100質量部に対して10質量部以下であり、
前記水の含有量が、前記セメント成分100質量部に対して28~40質量部であり、
30℃環境下において、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に基づく練り混ぜ後60分の静置フローが212mm以上であり、且つ、練り上がり直後と練り混ぜ後60分とのフロー値の差が50mm以内である、グラウト。
【請求項2】
前記膨張材が生石灰系膨張材であり、該膨張材の含有量が前記セメント100質量部に対し、1~4.5質量部である、請求項1に記載のグラウト。
【請求項3】
前記減水剤がメラミン系減水剤であり、該減水剤の含有量が前記セメント100質量部に対し、0.11~0.97質量部である、請求項1又は2に記載のグラウト。
【請求項4】
前記増粘剤がセルロース系増粘剤であり、該増粘剤の含有量が前記セメント100質量部に対し、0.01~0.1質量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載のグラウト。
【請求項5】
消泡剤を更に含み、該消泡剤の含有量が前記セメント100質量部に対し、0.001~0.08質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載のグラウト。
【請求項6】
しまり材を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のグラウト。
【請求項7】
間隙充填用である、請求項1~6のいずれか一項に記載のグラウト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト組成物及びグラウトに関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野において、構造物の隙間に対して流動性が良好なグラウトモルタル等のセメント系グラウト材を充填することが行われている。この際、充填する隙間の大きさによって、グラウト材に求められる流動性が異なる。
【0003】
例えば10cm以上の広い隙間にグラウト材を充填するときは、ある程度の流動性(例えば、JSCE-F 541-1999「充てんモルタルの流動性試験方法」に規定されるJ14漏斗を用いた流下時間で6~10秒)であれば、充填可能である。一方で、より狭い隙間、例えば3cm以下の隙間に充填する場合は、上述したグラウト材よりも高い流動性のグラウト材が使用される(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-051741号公報
【特許文献2】特開2012-136403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セメントを主体とするグラウト材はセメントの特性に影響を受けやすいため、セメントの品質によっては25℃以上の高温環境下で使用した場合、しまりやすくなり、可使時間が確保しにくいという課題があった。また、グラウト材は間隙に対して用いられることもあるため、硬化後に隙間ができないように初期膨張性も求められている。
【0006】
したがって、本発明は、高温環境下であっても可使時間を十分に確保することができ、且つ硬化時の初期膨張性に優れるグラウト組成物及びグラウトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、特定のセメント及び発泡剤の含有量を調整することで、可使時間を十分に確保しつつ、硬化時の初期膨張性に優れるグラウト組成物及びグラウトが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は例えば以下のとおりである。
[1]セメント成分と、膨張材と、発泡剤とを含み、セメント成分において、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、混合セメント及びエコセメントからなる群から選択される少なくとも一種のセメント類の含有率が、セメント成分全質量を基準として85質量%以上であり、発泡剤の含有量が、セメント成分100質量部に対して0.0001~0.005質量部である、グラウト組成物。
[2]骨材の含有量が、セメント成分100質量部に対して10質量部以下である、[1]のグラウト組成物。
[3]セメント成分の含有率が、グラウト組成物全質量を基準として90~98質量%である、[1]又は[2]のグラウト組成物。
[4]増粘剤を更に含み、増粘剤の含有量が、セメント成分100質量部に対して0.01~0.1質量部である、[1]~[3]のいずれかのグラウト組成物。
[5]消泡剤を更に含み、消泡剤の含有量が、セメント成分100質量部に対して0.001~0.08質量部である、[1]~[4]のいずれかのグラウト組成物。
[6][1]~[5]のいずれかのグラウト組成物と、水とを含み、水の含有量が、セメント成分100質量部に対して28~40質量部である、グラウト。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温環境下であっても可使時間を十分に確保することができ、且つ硬化時の初期膨張性に優れるグラウト組成物及びグラウトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態のグラウト組成物は、セメント成分と、膨張材と、発泡剤とを含む。
【0012】
セメント成分は、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを含む混合セメント;エコセメント;速硬性セメント等が挙げられる。セメント成分は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0013】
本実施形態のセメント成分において、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、混合セメント及びエコセメントからなる群から選択される少なくとも一種のセメント類の含有率が、セメント成分全質量を基準として85質量%以上である。当該セメント類の含有率が上記範囲外であると、25℃以上の高温条件下において可使時間を確保しにくくなる。当該セメント類の含有率は、より可使時間を確保しやすくするという観点から、セメント成分全質量を基準として90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、98質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0014】
本実施形態のセメント成分において、早強セメント、超早強セメント、速硬性セメント、及び/又はアルミナセメントの含有率は、セメント成分全質量を基準として15質量%未満であってもよく、10質量%以下であってもよく、5質量以下であってもよく、2質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。早強セメント、超早強セメント、速硬性セメント、及び/又はアルミナセメントの含有率が上記範囲内であれば、25℃以上の高温条件下において可使時間を更に確保しやすくなる傾向にある。
【0015】
セメント成分は、グラウト組成物全質量を基準として90~98質量%であることが好ましく、92~98質量%であることがより好ましく、95~98質量%であることが更に好ましい。セメント成分の含有量が上記範囲内であれば、より良好な流動性を得やすくなる。
【0016】
膨張材は、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)であれば、何れの膨張材でもかまわない。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アーウィンを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が挙げられる。膨張材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。膨張材はブレーン比表面積が2000~6000cm2/gのものを使用することが好ましい。
【0017】
膨脹材の含有量は、セメント成分100質量部に対して1~4.5質量部であることが好ましく、1.2~4質量部であることが好ましく、1.5~3質量部であることが更に好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内であれば、可使時間を確保しつつ、硬化後にひび割れを起こしにくい傾向にある。
【0018】
発泡剤は特に限定されず、例えば水と混練後に気体を発生する物質であればよい。発泡剤としては、アルミニウムや亜鉛等の両性金属の粉末、過酸化物質等が挙げられる。発泡剤としては、効果的に発泡し、膨張作用をより一層発揮することができるという観点から、アルミニウム粉末が好ましい。
【0019】
発泡剤の含有量は、セメント成分100質量部に対して0.0001~0.005質量部である。発泡剤の含有量が上記範囲外であると、硬化時の初期膨張性に乏しい恐れや過度に膨張して強度低下を招く恐れがある。発泡剤の含有量は、硬化時においてより適切な膨張性能を発揮しやすくするという観点から、セメント成分100質量部に対して0.0002~0.002質量部であることが好ましく、0.0003~0.001質量部であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態のグラウト組成物は、消泡剤を含有してもよい。消泡剤は、一般のコンクリートに使用される消泡剤であれば特に限定されず、例えば、鉱油系消泡剤、エステル系消泡剤、アミン系消泡剤、アミド系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、シリコン系消泡剤が挙げられる。
【0021】
消泡剤の含有量は、セメント成分100質量部に対して0.001~0.08質量部であることが好ましく、0.002~0.05質量部であることがより好ましく、0.003~0.02質量部であることが更に好ましい。消泡剤の含有量が上記範囲内であれば、より良好な流動性が得られやすく、硬化時の強度発現性も優れたものになりやすい。
【0022】
本実施形態のグラウト組成物は、増粘剤を含有してもよい。増粘剤の種類は特に限定されず、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤が挙げられる。増粘剤としてはセルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。増粘剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0023】
増粘剤の含有量は、セメント成分100質量部に対して0.01~0.1質量部であることが好ましく、0.015~0.08質量部であることがより好ましく、0.02~0.06質量部であることが更に好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、より良好な流動性が得られやすく、ブリーディングが発生しにくい傾向にある。
【0024】
本実施形態のグラウト組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で細骨材を含んでもよい。細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0025】
細骨材の含有量は、セメント成分100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることが更に好ましい。また、本実施形態のグラウト組成物において、細骨材は実質的に含まれなくてもよい。本明細書において「細骨材は実質的に含まれない」とは、セメント成分100質量部に対して0~0.5質量部であるものを指す。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、より小さな間隙に対しての充填性が向上しやすくなる。
【0026】
本実施形態のグラウト組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、しまり剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維、ポリマーが挙げられる。
【0027】
本実施形態のグラウト組成物は、通常用いられる混練器具により上記した各成分を混合することで調製でき、その器具は特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、ハンドミキサ、傾胴ミキサ、二軸ミキサ等が挙げられる。
【0028】
本実施形態のグラウト組成物は、水と混合してグラウトとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、セメント成分100質量部に対して28~40質量部であることが好ましく、30~38質量部であることがより好ましく、32~36質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、硬化体の収縮の増加及び初期強度発現性の低下を抑制しやすい。
【0029】
本実施形態のグラウトの調製は、通常のグラウトと同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば上述したものを用いることができる。
【0030】
本実施形態のグラウト組成物及びグラウトは、25℃以上といった高温環境下であっても可使時間を十分に確保することができ、且つ硬化時の初期膨張性に優れるものである。そのため、本実施形態のグラウト組成物及びグラウトは、狭い間隙や空洞等への補修・補強・充填材料としての間隙充填用グラウトとしても使用でき、また高温条件下であっても長時間流動性を確保することができるため、トンネル内等の高温環境下での使用にも適している。本実施形態のグラウトの使用方法は適宜選択することができ、例えば、間隙部に流し込み充填する方法等が選択できる。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
・セメント
普通ポルトランドセメント
早強セメント
・膨張材(生石灰系膨張材)
・しまり材(カルシウムアルミネート系)
・減水剤(メラミン系減水剤)
・消泡剤(ポリエーテル系消泡剤)
・発泡剤(アルミニウム粉末)
【0033】
[グラウトの調製]
各材料を表1に示す割合とし、グラウト組成物を配合設計した。30℃又は25℃環境下において、表1で配合設計したグラウト組成物の各材料及び水を円筒容器に添加し、ハンドミキサで90秒間混練して、グラウトを約13L作製した。水は、セメント100質量部に対して34質量部(30℃環境品)又は35質量部(25℃環境品)添加した。
【0034】
【0035】
[評価方法]
・流動性保持性状確認試験
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験で15回落下運動を行わない静置フロー(0打)を測定した。測定は30℃又は25℃で行った。練り上がり直後と練り混ぜ後60分とのフロー値の差を求め差が50mm以内ものを良好とした。なお、練り上がり後15分毎にハンドミキサで5秒間撹拌を行った。
試験結果を表2に示す。
・圧縮強度
土木学会基準JSCE-G 505-2010「円柱供試体を用いたモルタル又はセメントペーストの圧縮強度試験方法(案)」に準じて、材齢8時間におけるグラウト硬化体の圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。調製及び養生は常に30℃又は25℃の恒温槽内で行った。試験結果を表3に示す。
・初期膨張試験
土木学会基準のJSCE-F-533-2013「PCグラウトのブリーディング率および膨張率試験方法」に準じて、30℃又は25℃環境下で硬化体の初期膨張率を測定した。試験結果を表4に示す。
【0036】
【0037】
【0038】