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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111427
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20220725BHJP
   A61M 1/34 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
A61M1/16 117
A61M1/16 111
A61M1/34 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006839
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】豊田 将弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 聡
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077CC03
4C077DD14
4C077HH02
4C077HH03
4C077HH12
4C077HH21
4C077JJ08
4C077JJ19
(57)【要約】
【課題】血液浄化治療が適切に行われた場合に治療を終了させることができる血液浄化装置を提供する。
【解決手段】ダイアライザ2及び血液回路1を通じて患者の血液を体外循環させ、前記血液を浄化する血液浄化装置であって、血液ポンプ3と、配管部と、配管部の透析液及び排液を送液させる複式ポンプ5及び除水ポンプ6と、血液回路1を体外循環する血液からダイアライザ2を介して水分及び溶質を除去して排出させる血液浄化治療工程を実行する制御部11と、制御部11が血液浄化治療工程を実行している過程において、血液回路1を体外循環する血液の濃度、及び、排液排出ラインL2にて排出される排液の濃度の少なくとも一方を検出する濃度検出部と、濃度検出部で検出された濃度又は濃度に相関する指標値に基づいて、血液浄化治療工程が終了したか否かを判定する判定部10とを具備したものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器及び血液回路を通じて患者の血液を体外循環させ、前記血液を浄化する血液浄化装置であって、
前記血液回路の血液を送液させる血液ポンプと、
前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ライン、及び前記血液浄化器から排液を排出する排液排出ラインを有する配管部と、
前記配管部の透析液及び排液を送液させる送液部と、
前記血液ポンプ及び送液部を制御することによって、前記血液回路を体外循環する血液から前記血液浄化器を介して水分及び溶質を除去するとともに、前記血液浄化器を介して除去された水分及び溶質を前記排液排出ラインを介して排出させる血液浄化治療工程を実行する制御部と、
前記制御部が前記血液浄化治療工程を実行している過程において、前記血液回路を体外循環する血液の濃度、及び、前記排液排出ラインにて排出される排液の濃度の少なくとも一方を検出する濃度検出部と、
前記濃度検出部で検出された濃度又は前記濃度に相関する指標値に基づいて、前記血液浄化治療工程が終了したか否かを判定する判定部と、
を具備した血液浄化装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記判定部により前記血液浄化治療工程が終了したと判定したことを条件として、前記血液浄化治療工程の後に前記血液回路に残存する血液を患者に戻す返血工程を実行する請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記濃度検出部で検出される濃度又は前記濃度に相関する指標値を目標値として予め設定する設定部を具備するとともに、前記判定部は、前記濃度検出部で検出された濃度又は前記濃度に相関する指標値が前記設定部で設定された目標値に到達したことを条件として、前記血液浄化治療工程が終了したと判定することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記血液浄化治療工程における治療時間又は除水量を設定治療時間又は設定除水量として予め設定するとともに、前記判定部は、前記濃度検出部で検出された濃度又は前記濃度に相関する指標値が前記設定部で設定された目標値に到達する前に治療時間又は除水量が前記設定治療時間又は設定除水量に達した場合、前記血液浄化治療工程が終了したと判定することを特徴とする請求項3記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記透析液導入ラインは、A剤原液及びB剤原液を収容する収容部と接続され、前記A剤原液及びB剤原液を清浄水と混合して透析液が作製されて前記血液浄化器に導入される個人透析装置に適用されたことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液を浄化して血液浄化治療を施すための血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透析治療などで用いられる血液浄化装置としての透析装置は、通常、血液浄化器に導入する透析液及び血液浄化器から排出された排液を流通させる配管部と、配管部内の液体を送液するための送液部とを有し、患者の血液を体外循環させる血液回路を血液浄化器に接続して構成されており、血液回路にて患者の血液を体外循環させつつ血液浄化器にて透析治療(血液浄化治療)を行わせるものとされている。
【0003】
従来の血液浄化装置においては、血液浄化治療を行う際、治療時間及び除水量が設定治療時間及び設定除水量として予め設定されるとともに、治療開始から設定治療時間が経過したことを条件として血液浄化治療が終了するよう構成されていた(例えば、特許文献1参照)。そして、血液浄化治療が行われた後の血液検査及び体重測定、並びに2週間乃至1ヶ月に1回行われるレントゲン診断等に基づいて、医師により治療の適否が判断され、その後行われる血液浄化治療の設定治療時間及び設定除水量に反映させるものとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-174235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、血液浄化治療の適否を血液検査や体重測定等により事後的に行うものであるため、現在行われている血液浄化治療の適否を判断することができなかった。そのため、血液浄化治療が適切でなかった場合であっても、設定された治療時間や除水量が達成された後に治療を終了し、その後の血液浄化治療において治療時間や除水量等の治療条件を変更する必要があるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、血液浄化治療が適切に行われた場合に治療を終了させることができる血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一実施形態の血液浄化装置は、血液浄化器及び血液回路を通じて患者の血液を体外循環させ、前記血液を浄化する血液浄化装置であって、前記血液回路の血液を送液させる血液ポンプと、前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ライン、及び前記血液浄化器から排液を排出する排液排出ラインを有する配管部と、前記配管部の透析液及び排液を送液させる送液部と、前記血液ポンプ及び送液部を制御することによって、前記血液回路を体外循環する血液から前記血液浄化器を介して水分及び溶質を除去するとともに、前記血液浄化器を介して除去された水分及び溶質を前記排液排出ラインを介して排出させる血液浄化治療工程を実行する制御部と、前記制御部が前記血液浄化治療工程を実行している過程において、前記血液回路を体外循環する血液の濃度、及び、前記排液排出ラインにて排出される排液の濃度の少なくとも一方を検出する濃度検出部と、前記濃度検出部で検出された濃度又は前記濃度に相関する指標値に基づいて、前記血液浄化治療工程が終了したか否かを判定する判定部とを具備したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、濃度検出部で検出された濃度又は濃度に相関する指標値に基づいて、血液浄化治療工程が終了したか否かを判定するので、血液浄化治療が適切に行われた場合に治療を終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
図2】同血液浄化装置による制御内容を示すフローチャート
図3】本発明の他の実施形態に係る血液浄化装置による制御内容を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、患者の血液を体外循環させつつ浄化するためのもので、血液透析治療で使用される血液透析装置に適用されたものである。本実施形態に係る血液透析装置は、所謂個人用透析装置に適用されたもので、図1に示すように、患者の血液を体外循環させるための血液回路1と、血液浄化器としてのダイアライザ2と、血液回路1の血液を送液させる血液ポンプ3と、透析液導入ラインL1、排液排出ラインL2及びバイパスラインL3を有した配管部と、送液部としての複式ポンプ5及び除水ポンプ6と、濃度検出部としてのヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2と、設定部9と、判定部10と、制御部11とを有して構成されている。
【0011】
血液回路1は、同図に示すように、可撓性チューブから成る動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bから主に構成されており、これら動脈側血液回路1aと静脈側血液回路1bの間にダイアライザ2が接続されている。動脈側血液回路1aには、その先端に動脈(脱血又は採血)側穿刺針aが接続されるとともに、途中にしごき型の血液ポンプ3が配設されている。一方、静脈側血液回路1bには、その先端に静脈側(返血側)穿刺針bが接続されるとともに、途中に除泡のためのエアトラップチャンバ4が接続されている。
【0012】
そして、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ3を駆動させると、患者の血液は、動脈側血液回路1aを通ってダイアライザ2に至り、該ダイアライザ2によって血液浄化及び除水が施された後、エアトラップチャンバ4で除泡されつつ静脈側血液回路1bを通って患者の体内に戻る。このように、患者の血液を血液回路1にて体外循環させる過程でダイアライザ2にて浄化するのである。なお、本明細書においては、血液を脱血(採血)する穿刺針の側を「動脈側」と称し、血液を返血する穿刺針の側を「静脈側」と称しており、「動脈側」及び「静脈側」は、穿刺の対象となる血管が動脈及び静脈の何れかによって定義されるものではない。
【0013】
また、動脈側血液回路1aには、収容バッグCから延設された供給ラインLaが接続されている。この収容バッグC(所謂「生食バッグ」と称されるもの)は、生理食塩液等の置換液が所定容量収容されており、例えば透析装置本体Bに突設されたポール(不図示)の先端に取り付けられている。そして、供給ラインLaは、動脈側血液回路1における動脈側穿刺針aと血液ポンプ3の間の部位に接続され、収容バッグC内の生理食塩液(置換液)を血液回路1内に任意タイミングで供給し得るようになっている。
【0014】
ダイアライザ2(血液浄化器)は、その筐体部に、血液導入ポート2a、血液導出ポート2b、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dが形成されており、このうち血液導入ポート2aには動脈側血液回路1aの基端が、血液導出ポート2bには静脈側血液回路1bの基端がそれぞれ接続されている。また、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dは、透析装置本体Bから延設された透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2の先端とそれぞれ接続されている。
【0015】
ダイアライザ2内には、複数の中空糸が収容されており、該中空糸内部が血液の流路とされるとともに、中空糸外周面と筐体部の内周面との間が透析液の流路とされている。中空糸には、その外周面と内周面とを貫通した微少な孔(ポア)が多数形成されて中空糸膜を形成しており、該膜を介して血液中の老廃物(溶質)や余剰水分等が透析液内に透過し得るよう構成されている。
【0016】
濃度検出部としてのヘマトクリットセンサD1は、動脈側血液回路1aに配設されたセンサから成り、血液回路1で体外循環する患者の血液の濃度を経時的(リアルタイム)に検出するものである。かかるヘマトクリットセンサD1は、例えばLED等の発光素子及びフォトダイオード等の受光素子を備え、発光素子から血液に光を照射するとともに、その透過した光或いは反射した光を受光素子にて受光することにより、体外循環する血液の濃度を示すヘマトクリット値を検出するようになっている。
【0017】
しかるに、本実施形態においては、ヘマトクリットセンサD1で検出された血液の濃度に基づいて、その血液の濃度に相関する指標値である循環血液量変化率(ΔBV)が求められるようになっている。具体的には、ヘマトクリットセンサD1にて得られるヘマトクリット値をHtとおくと、循環血液量変化率(ΔBV)は、(透析開始時のHt-測定時のHt)/測定時のHt×100なる演算式から求めることができる。これにより、血液浄化治療時間の経過に伴って患者の循環血液量変化率(ΔBV)を逐次得ることができる。
【0018】
一方、透析装置本体Bは、ダイアライザ2に透析液を導入する透析液導入ラインL1、ダイアライザ2から排液を排出する排液排出ラインL2及びバイパスラインL3を有した配管部と、送液部としての複式ポンプ5及び除水ポンプ6と、透析液作製部Aとを有して構成されている。複式ポンプ5は、透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2に跨って配設され、透析液導入ラインL1からダイアライザL2に対して透析液を導入させるとともに、ダイアライザ2に導入された透析液を血液中の老廃物や余剰水分と共に排液排出ラインL2から排出させるためのものである。なお、かかる複式ポンプ5以外の手段(例えば所謂バランシングチャンバ等を利用するもの)を用いてもよい。
【0019】
バイパスラインL3は、排液排出ラインL2における複式ポンプ5の排液側のポンプ室を迂回して接続された流路から成り、このバイパスラインL3には、除水ポンプ6が取り付けられている。かかる除水ポンプ6は、ダイアライザ2中を流れる患者の血液から水分(余剰水分)を除去するためのものである。すなわち、除水ポンプ6を駆動させると、透析液導入ラインL1から導入される透析液量よりも排液排出ラインL2から排出される排液の容量が多くなり、その多い容量分だけ血液中から水分が除去されるのである。
【0020】
透析液導入ラインL1の一端は、ダイアライザ2(透析液導入ポート2c)に接続されるとともに、他端が清浄水を導入し得る給水ポートP1に接続されている。また、排液排出ラインL2の一端は、ダイアライザ2(透析液導出ポート2d)に接続されるとともに、他端が排液ポートP2に接続されている。さらに、透析液導入ラインL1には、透析液を作製するための透析液作製部Aが取り付けられている。
【0021】
この透析液作製部Aは、作製過程の透析液を所定量収容しつつ撹拌するための撹拌チャンバ(7a、7b)と、透析液の原液であるA剤原液及びB剤原液を導入し得る導入ライン(L4、L5)及び導入ポンプ(8a、8b)とから主に構成されている。A剤原液は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムなどを含有する混合水溶液から成り、導入ラインL4と連通された容器T1内に収容されている。また、B剤原液は、炭酸水素ナトリウムの水溶液から成り、導入ラインL5連通された容器T2内に収容されている。
【0022】
そして、給水ポートP1から導かれた清浄水と導入ポンプ8aの駆動により容器T1から導入されたA剤原液とを撹拌チャンバ7aにて撹拌して溶解させた後、その溶液と導入ポンプ8bの駆動により容器T2から導入されたB剤原液とを撹拌チャンバ7bにて撹拌して溶解させることにより、所定濃度の透析液が作製される。このように作製された透析液は、複式ポンプ5の駆動により送液されてダイアライザ2に導入されることとなる。
【0023】
濃度検出部としての排液センサD2は、透析装置本体B内における排液排出ラインL2に配設されたセンサから成り、ダイアライザ2の血液浄化に伴って流れる排液中の溶質の濃度(例えば、排液に含まれる尿素、尿酸等の溶質濃度)を検出し得るものである。かかる排液センサD2は、例えばLED等の発光素子及びフォトダイオード等の受光素子を備え、発光素子から血液に光を照射するとともに、その透過した光或いは反射した光を受光素子にて受光することにより、排液中の溶質の濃度を検出するようになっている。
【0024】
しかるに、本実施形態においては、排液センサD2で検出された溶質の濃度に基づいて、その溶質の濃度に相関する指標値である標準化透析量(Kt/V)が求められるようになっている。具体的には、標準化透析量(Kt/V)は、血液透析治療開始時と現時点(監視時点)の排液中における尿素窒素の濃度変化と、血液浄化治療における除水量と、血液浄化治療時間とを、所定の演算式に代入して算出することにより得られる指標であり、-ln(C(e)/C(s)-0.008t)+(4-3.5×C(e)/C(s))×(VUF/DW)なる演算式(但し、C(s)は、血液透析治療開始時における尿素窒素濃度(初期値)、C(e)は、現時点(監視時点)における尿素窒素濃度、VUFは、除水量、DWは、患者のドライウェイトを示している)から求めることができる。
【0025】
設定部9は、タッチパネル等の入力手段等から成り、血液浄化治療工程における治療時間又は除水量を設定治療時間又は設定除水量として予め設定するものである。制御部11は、透析装置本体Bに配設されたマイコン等から成るもので、血液ポンプ3並びに送液部を構成する複式ポンプ5及び除水ポンプ6を制御することによって、血液回路1を体外循環する血液からダイアライザ2を介して水分(余剰水分)及び溶質(老廃物)を除去するとともに、ダイアライザ2を介して除去された水分及び溶質を排液排出ラインL2を介して排出させる血液浄化治療工程を実行するよう構成されている。
【0026】
そして、本実施形態においては、制御部11が血液浄化治療工程を実行している過程において、ヘマトクリットセンサD1により血液回路1を体外循環する血液の濃度が経時的(リアルタイム)に検出され、循環血液量変化率(ΔBV)が逐次得られるとともに、排液センサD2により排液排出ラインL2にて排出される排液中の溶質の濃度が経時的(リアルタイム)に検出され、標準化透析量(Kt/V)が逐次得られるようになっている。
【0027】
判定部10は、透析装置本体Bに配設されたマイコン等から成るもので、濃度検出部としてのヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2で検出された濃度又は濃度に相関する指標値に基づいて、血液浄化治療工程が終了したか否かを判定するものである。具体的には、制御部11が血液浄化治療工程を実行している過程で検出されたヘマトクリット値及び溶質濃度に基づいて、循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)なる指数値を求めるとともに、かかる指数値に基づいて、判定部10にて血液浄化治療工程が終了したか否か判定するよう構成されている。
【0028】
例えば、本実施形態に係る設定部9は、ヘマトクリットセンサD1又は排液センサD2で検出される濃度又は濃度に相関する指標値(循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V))を目標値として予め設定し得るとともに、判定部10は、設定部9で設定された目標値に到達したことを条件として、血液浄化治療工程が終了したと判定するよう構成することができる。
【0029】
また、本実施形態に係る設定部9は、上記目標値に加え、既述のように設定治療時間及び設定除水量を設定することができるものとされている。これにより、判定部10は、ヘマトクリットセンサD1又は排液センサD2で検出された濃度又は濃度に相関する指標値が設定部9で設定された目標値に到達する前に治療時間又は除水量が設定治療時間又は設定除水量に達した場合、血液浄化治療工程が終了したと判定するよう構成することができる。
【0030】
さらに、本実施形態に係る制御部11は、判定部10と電気的に接続されて制御信号を送受信可能とされており、判定部10により血液浄化治療工程が終了したと判定したことを条件として、血液浄化治療工程の後に血液回路1に残存する血液を患者に戻す返血工程を実行するよう制御可能とされている。かかる返血工程は、例えば制御部11により実行される第1返血工程及び第2返血工程により行われる。
【0031】
具体的には、第1返血工程は、動脈側血液回路1aにおける供給ラインLaとの連結部から静脈側血液回路1bの先端までの血液を供給ラインLaから供給した生理食塩液(置換液)で置換させることにより、連結部から静脈側血液回路1bの先端までの血液を患者に返血させるとともに、血液回路1(動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1b)に置換液を充填させる工程とされ、第2返血工程は、第1返血工程の後、ダイアライザ2における透析液流路から血液流路に透析液を逆濾過させ、その透析液にて第1返血工程で充填された生理食塩液を流動させ、連結部から動脈側血液回路1aの先端までの血液を患者に返血させる工程とされている。
【0032】
次に、本実施形態に係る血液浄化装置の制御について、図2のフローチャートを用いて説明する。
先ず、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが取り付けられる前の動脈側血液回路1aの先端部と静脈側血液回路1bの先端部を接続して閉回路を形成し、収容バッグCの生理食塩液を血液回路1に供給しつつ血液ポンプ3を駆動させることにより、プライミング工程S1を行う。このプライミング工程S1により、血液回路1の流路に生理食塩液が充填されることとなる。
【0033】
そして、S2に進んで設定部9に対する治療条件の入力を行って、個々の患者に応じた治療時間及び除水量を設定する。このとき、設定部9に対する入力によって、ヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2で検出される濃度又は濃度に相関する指標値を目標値として予め設定するようになっている。本実施形態においては、ヘマトクリットセンサD1で検出される濃度に基づく指標値としての循環血液量変化率(ΔBV)と、排液センサD2で検出される濃度に基づく指標値としての標準化透析量(Kt/V)とが目標値として設定される。例えば循環血液量変化率(ΔBV)の目標値を-10%、標準化透析量(Kt/V)の目標値を1.2とすることができる。
【0034】
その後、動脈側血液回路1aの先端及び静脈側血液回路1bの先端にそれぞれ動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを取り付けて患者に穿刺し、S3にて血液ポンプ3及び複式ポンプ5を駆動させることにより血液浄化治療工程を開始するとともに、循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)を監視する。そして、S4により、下限の治療時間が経過したか否か判断され、下限の治療時間が経過した場合、S5に進む。これにより、治療初期において、循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)が不安定な挙動を示した場合であっても、必要最小限の治療時間を確保することができる。なお、下限の治療時間は、予め固定値として設定されたもの、或いはS2で入力された設定治療時間に基づき設定されたものであってもよい。
【0035】
S5においては、上限の治療時間が経過したか否か判断され、上限の治療時間が経過した場合、S6をスキップし、S7に進んで返血工程が行われる。これにより、治療時間が必要以上に長時間となってしまうのを防止することができる。なお、上限の治療時間は、予め固定値として設定されたもの、或いはS2で入力された設定治療時間に基づき設定されたものであってもよい。
【0036】
一方、S5において、上限の治療時間が経過していない場合は、S6に進み、監視している循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)の少なくとも一方が目標値に到達したか否かが判断される。そして、環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)の少なくとも一方が目標値に到達した場合、判定部10にて血液浄化治療工程が終了したと判定し、S7に進んで返血工程に移行する。
【0037】
次に、他の実施形態に係る血液浄化装置の制御について、図3のフローチャートを用いて説明する。
先ず、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが取り付けられる前の動脈側血液回路1aの先端部と静脈側血液回路1bの先端部を接続して閉回路を形成し、収容バッグCの生理食塩液を血液回路1に供給しつつ血液ポンプ3を駆動させることにより、プライミング工程S1を行う。このプライミング工程S1により、血液回路1の流路に生理食塩液が充填されることとなる。
【0038】
そして、S2に進んで設定部9に対する治療条件の入力を行って、個々の患者に応じた治療時間及び除水量を設定する。このとき、設定部9に対する入力によって、ヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2で検出される濃度又は濃度に相関する指標値を目標値として予め設定するようになっている。本実施形態においては、ヘマトクリットセンサD1で検出される濃度に基づく指標値としての循環血液量変化率(ΔBV)と、排液センサD2で検出される濃度に基づく指標値としての標準化透析量(Kt/V)とが目標値として設定される。例えば循環血液量変化率(ΔBV)の目標値を-10%、標準化透析量(Kt/V)の目標値を1.2とすることができる。
【0039】
その後、動脈側血液回路1aの先端及び静脈側血液回路1bの先端にそれぞれ動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを取り付けて患者に穿刺し、S3にて血液ポンプ3及び複式ポンプ5を駆動させることにより血液浄化治療工程を開始するとともに、循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)を監視する。そして、S4により、下限の治療時間が経過したか否か判断され、下限の治療時間が経過した場合、S5に進む。これにより、治療初期において、循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)が不安定な挙動を示した場合であっても、必要最小限の治療時間を確保することができる。なお、下限の治療時間は、予め固定値として設定されたもの、或いはS2で入力された設定治療時間に基づき設定されたものであってもよい。
【0040】
S5においては、血液浄化治療工程が開始されてから経過した時間がS2で設定された設定治療時間に達したか(条件1)、除水量がS2で設定された設定除水量に到達したか(条件2)が判断され、条件1及び条件2の何れか一方が満たされた場合、或いは条件1及び条件2の両方が満たされた場合、S6をスキップし、S7に進んで返血工程が行われる。
【0041】
一方、S5において、条件1及び条件2の何れか一方が満たさない場合、或いは条件1及び条件2の両方が満たされない場合は、S6に進み、監視している循環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)の少なくとも一方が目標値に到達したか否かが判断される。そして、環血液量変化率(ΔBV)及び標準化透析量(Kt/V)の少なくとも一方が目標値に到達した場合、判定部10にて血液浄化治療工程が終了したと判定し、S7に進んで返血工程に移行する。
【0042】
本実施形態によれば、ヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2で検出された濃度又は濃度に相関する指標値に基づいて、血液浄化治療工程が終了したか否かを判定するので、血液浄化治療が適切に行われた場合に治療を終了させることができる。特に、定期的に行われる血液検査やレントゲン検査等を不要とすることができ、医療従事者及び患者の負担を軽減させることができる。また、制御部11は、判定部10により血液浄化治療工程が終了したと判定したことを条件として、血液浄化治療工程の後に血液回路1に残存する血液を患者に戻す返血工程を実行するので、血液浄化治療工程の後、返血工程に円滑に移行させることができる。
【0043】
さらに、ヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2で検出される濃度又は濃度に相関する指標値を目標値として予め設定する設定部9を具備するとともに、判定部10は、ヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2で検出された濃度又は濃度に相関する指標値が設定部9で設定された目標値に到達したことを条件として、血液浄化治療工程が終了したと判定するので、患者に応じた血液浄化治療工程を実行させることができる。
【0044】
またさらに、他の実施形態によれば、設定部9は、血液浄化治療工程における治療時間又は除水量を設定治療時間又は設定除水量として予め設定するとともに、判定部10は、ヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2で検出された濃度又は濃度に相関する指標値が設定部9で設定された目標値に到達する前に治療時間又は除水量が設定治療時間又は設定除水量に達した場合、血液浄化治療工程が終了したと判定するので、設定治療時間又は設定除水量を考慮した血液浄化治療工程を実行させることができる。
【0045】
また、透析液導入ラインL1は、A剤原液及びB剤原液を収容する容器T1、T2と接続され、A剤原液及びB剤原液を清浄水と混合して透析液が作製されてダイアライザ2に導入される個人透析装置に適用されたので、例えば在宅治療における血液浄化治療を効果的に行わせることができる。なお、本実施形態に適用された個人透析装置に代えて、所定濃度の透析液を一括して作製し、複数の監視装置にそれぞれ導入する透析システムに適用してもよい。
【0046】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えばヘマトクリットセンサD1及び排液センサD2の何れか一方を濃度検出部とし、その濃度検出部にて検出された濃度又は濃度に相関する指標値に基づいて、血液浄化治療工程が終了したか否か判定部10が判定するようにしてもよい。また、血液回路1を体外循環する血液の濃度を検出する濃度検出部として、ヘマトクリットセンサD1以外のセンサを用いてもよく、排液排出ラインL2にて排出される排液中の溶質の濃度を検出する濃度検出部として、排液センサD2以外のセンサを用いるようにしてもよい。濃度検出部は、排液排出ラインL2にて排出される排液の濃度を検出するものであれば、排液中の溶質の濃度に代えて溶媒の濃度を検出するものであってもよい。さらに、例えば、血液回路を体外循環する血液について、酵素センサ等を用いて溶質濃度(血球成分量に基づく濃度)を測定することができる。
【0047】
さらに、血液回路1にて体外循環する血液の濃度に相関する指数値として、本実施形態においては循環血液量変化率(ΔBV)が用いられているが、他の指数値であってもよく、例えば循環血漿量変化率と体重増加率の比(PWI)を用いることができる。かかるPWIは、患者に対する除水による体重変化(減少)が血液濃度に対してどの程度影響するかの指数であり、PWI=ΔCPV%/ΔBW%なる演算式(但し、ΔCPV%は、循環血漿量変化率、ΔBW%は、患者の体重変化率)で求めることができる。
【0048】
またさらに、排液排出ラインL2に流通する排液における溶質の濃度に相関する指数値として、本実施形態においては標準化透析量(Kt/V)が用いられているが、他の指数値であってもよく、例えばクリアスペースCSを用いることができる。かかるクリアスペースは、血液浄化治療による患者の浄化量の指標であり、以下の演算式で求めることができる(但し、Cdeqは、記憶手段で記憶された平衡値、Cd(t)は、溶質の濃度、Qd(t)は、透析液流量、tは、血液浄化治療における任意の経過時間、teは、血液浄化治療終了時間)。
【0049】
【数1】
【0050】
加えて、血液回路1にて体外循環する血液の濃度として、ヘマトクリット値の他、ヘモグロビン濃度、水分量、総蛋白量等であってもよく、排液排出ラインL2に流通する排液における溶質の濃度として、尿素、尿酸の他、クレアチニン、β2MG等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の趣旨と同等の血液浄化装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 血液回路
1a 動脈側血液回路
1b 静脈側血液回路
2 ダイアライザ(血液浄化器)
3 血液ポンプ
4 エアトラップチャンバ
5 複式ポンプ
6 除水ポンプ
7a、7b ミキシングチャンバ
8a、8b 導入ポンプ
9 設定部
10 判定部
11 制御部
L1 透析液導入ライン
L2 排液排出ライン
L3 バイパスライン
L4、L5 導入ライン
La 供給ライン
A 透析液作製部
B 透析装置本体
C 収容バッグ
D1 ヘマトクリットセンサ(濃度検出部)
D2 排液センサ(濃度検出部)
a 動脈側穿刺針
b 静脈側穿刺針
P1 給水ポート
P2 排液ポート
T1、T2 容器(収容部)
図1
図2
図3