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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111434
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04701 20160101AFI20220725BHJP
   H01M 8/0267 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/1009 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220725BHJP
【FI】
H01M8/04701
H01M8/0267
H01M8/0258
H01M8/04 Z
H01M8/1009
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006852
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】河内 達磨
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】久保 厚
(72)【発明者】
【氏名】武田 恭英
(72)【発明者】
【氏名】古橋 資丈
(72)【発明者】
【氏名】仲曽根 歩
(72)【発明者】
【氏名】中根 淳志
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA10
5H126BB06
5H126BB08
5H126DD02
5H126DD05
5H126EE11
5H126EE24
5H127AA08
5H127AC15
5H127BA01
5H127BA03
5H127BA21
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127DC06
(57)【要約】
【課題】電極構造体における電極反応に適した温度域となるように、液体燃料の温度を制御することができる燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】燃料電池システムは、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11において液体燃料を加熱するヒータ50を備える。ヒータ50は、燃料供給流路11に沿って、第一ヒータ51(第一高温ヒータ51a及び第一低温ヒータ51b)と、第二ヒータ52(第二高温ヒータ52a及び第二低温ヒータ52b)と、第三ヒータ53とに分割される。第一ヒータ51、第二ヒータ52及び第三ヒータ53は、燃料供給流路11に対する液体燃料の燃料供給口12側における液体燃料の温度が電極反応に適する温度になるように入熱量が制御され、燃料供給流路11を流れる液体燃料を加熱する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜、アノード電極及びカソード電極を有する電極構造体と、
前記アノード電極に液体燃料を供給する燃料供給流路を有するアノード側セパレータと、
前記カソード電極に酸化剤を供給する酸化剤供給流路を有するカソード側セパレータと、を有して、一対の前記アノード側セパレータ及び前記カソード側セパレータの間に前記電極構造体が配置された単セルを形成し、前記電極構造体における電極反応によって発電する燃料電池と、
前記アノード側セパレータの前記燃料供給流路において前記液体燃料を加熱するヒータと、
前記ヒータの作動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記燃料供給流路に対する前記液体燃料の供給側における前記液体燃料の温度が前記電極反応に適する温度域になるように前記ヒータによる加熱を制御し、前記ヒータが前記燃料供給流路を流れる前記液体燃料を加熱する、燃料電池システム。
【請求項2】
前記ヒータは、前記燃料供給流路において分割して配置され、
前記制御装置は、
前記供給側における前記液体燃料の温度が前記電極反応に適する温度域に加熱されて前記燃料供給流路を流れる場合、
前記燃料供給流路における前記供給側から前記液体燃料の排出側に沿って、前記ヒータから前記液体燃料に対する単位面積当たりの入熱量が徐々に小さくなるように、前記ヒータの作動を制御する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料供給流路は、直線部と屈曲部とを有する蛇行形状に形成されており、
前記ヒータは、前記燃料供給流路における屈曲部ごとに分割される、請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記屈曲部は、前記燃料供給流路における直線部に対して、前記液体燃料の流れる方向を90度以上変更する、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記ヒータは、前記燃料供給流路において分割して配置され、
前記制御装置は、
分割された前記ヒータの各々の前記燃料供給流路に対する位置と、前記電極構造体における前記電極反応による発電に伴って発生する発生電流量に応じたジュール熱とに基づいて、分割された前記ヒータの各々の作動を制御する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御装置は、
分割された前記ヒータの各々に供給される作動電流を制御するものであり、
分割された前記ヒータの各々の面積における前記ジュール熱の大きさに応じて、各々の前記ヒータに供給される前記作動電流を増減させて決定する、請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御装置は、更に、
前記燃料供給流路における所定位置を流れる前記液体燃料の温度を参照し、
参照した前記温度に応じて前記作動電流を決定する、請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記ヒータは、前記アノード側セパレータに設けられる、請求項1-7の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記液体燃料は、ギ酸(HCOOH)である、請求項1-8の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、特に、固体高分子型燃料電池は、一般に、電解質膜の一面側に形成されたアノード電極と、他面側に形成されたカソード電極とからなる電極構造体を備えている。そして、固体高分子型燃料電池においては、アノード電極に燃料が供給され且つカソード電極に酸化剤が外部から供給されることにより、電極構造体にて電極反応が生じて発電される。
【0003】
近年、アノード電極に供給される燃料として、メタノールやギ酸等の液体燃料を直接用いる直接型の燃料電池が開発されている。液体燃料を用いる場合、水素ガスを燃料として用いる場合に比べて、取り扱いが容易であり、体積当たりのエネルギー密度が高く、極めて有用である。
【0004】
液体燃料を直接用いる燃料電池においては、発電動作を通じて、電極構造体のアノード電極側が電極反応に適した温度域に維持されることが必要である。このため、従来から、例えば、特許文献1には、燃料電池と燃料収容部の温度を適切に制御可能な燃料電池システムの構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-49345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
直接型の燃料電池においては、電極構造体における電極反応を促進して効率良く発電を行うために、アノード電極に対して電極反応に適した温度域とした液体燃料を供給することが好ましい。この場合、例えば、液体燃料を貯留する供給タンクにおいて、電極反応に適した温度域まで液体燃料を予め加熱して供給することが考えられる。しかし、供給タンクにて液体燃料を加熱してアノード電極に供給する場合、供給の途中において温度変化が生じると共に、多量の液体燃料を加熱して温度を維持するために多くのエネルギーが必要になる。
【0007】
又、電極構造体における電極反応によって発電された場合、発電に伴って発生した電流によってジュール熱が生じ、その結果、電極構造体の温度が高まる。従って、燃料電池においては、電極反応に適した温度域を維持するために、生じたジュール熱に応じてアノード電極に供給される液体燃料の温度を調整することが必要になる。
【0008】
本発明は、電極構造体における電極反応に適した温度域となるように、液体燃料の温度を制御することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
燃料電池システムは、電解質膜、アノード電極及びカソード電極を有する電極構造体と、アノード電極に液体燃料を供給する燃料供給流路を有するアノード側セパレータと、カソード電極に酸化剤を供給する酸化剤供給流路を有するカソード側セパレータと、を有して、一対のアノード側セパレータ及びカソード側セパレータの間に電極構造体が配置された単セルを形成し、電極構造体における電極反応によって発電する燃料電池と、アノード側セパレータの燃料供給流路において液体燃料を加熱するヒータと、ヒータの作動を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、燃料供給流路に対する液体燃料の供給側における液体燃料の温度が電極反応に適する温度になるようにヒータによる加熱を制御し、ヒータが燃料供給流路を流れる液体燃料を加熱する。
【0010】
これによれば、燃料電池システムは、制御装置によって制御されて、アノード側セパレータの燃料供給流路において液体燃料を加熱するヒータを備えることができる。従って、制御装置がヒータを制御することにより、燃料供給流路を流れる液体燃料を加熱して、電極反応に適した温度域に液体燃料の温度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】燃料電池システムの構成を示す図である。
図2】積層された単セルによって形成された燃料電池スタックの構成を示す図である。
図3】アノード側セパレータの構成を示す図である。
図4】カソード側セパレータの対向面側の構成を示す図である。
図5】シール部材の構成を示す図である。
図6】MEAの構成を示す図である。
図7図6のVII-VIIにおけるMEAの断面を示す断面図である。
図8】ヒータの構成を示す図である。
図9】ヒータの作動を説明するための断面図である。
図10】第一別例に係り、燃料供給流路の位置に対する電流発生量の関係を説明するための図である。
図11】第二別例に係るヒータの構成を示す図である。
図12】第三別例に係る燃料供給流路を説明するための図である。
図13】第三別例に係るヒータの構成を示す図である。
図14】第三別例に係るヒータの他の構成を示す図である。
図15】第三別例に係るヒータの他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.燃料電池システムの概要)
本例においては、燃料電池として固体高分子型燃料電池を例示する。即ち、本例の燃料電池は、電解質膜の一面側にアノード電極が形成され、電解質膜の他面側にカソード電極が形成される。ここで、電解質膜、アノード電極及びカソード電極は、電極構造体であるMEA(Membrane-Electrode-Assembly:膜―電極接合体)を形成する。
【0013】
又、本例の燃料電池は、アノード電極に燃料を供給するアノード側セパレータ(コレクタ(集電機能)を含む)及びカソード電極に酸化剤(酸化剤ガス)を供給するカソード側セパレータ(コレクタ(集電機能)を含む)が設けられる。そして、本例の燃料電池は、MEA、アノード側セパレータ及びカソード側セパレータを含む1つのセル(以下、単セルと称呼する。)が形成され、単セルが複数積層されることによって燃料電池スタックが形成される。
【0014】
本例においては、燃料電池のアノード電極に対して供給される燃料としては、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)等の液体燃料を例示することができる。ここで、以下に説明する燃料電池においては、供給される液体燃料として、ギ酸を直接用いる場合を例示する。即ち、本例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池であって、直接ギ酸型燃料電池(DFAFC)を例示する。又、本例においては、燃料電池のカソード電極に対して供給される酸化剤(酸化剤ガス)としては、酸素(O)ガス、空気等を例示することができる。ここで、以下に説明する燃料電池においては、供給される気体の酸化剤即ち酸化剤ガスとして、空気を用いる場合を例示する。
【0015】
直接ギ酸型燃料電池の場合、MEAのアノード電極に液体燃料であるギ酸が直接供給され、MEAのカソード電極に酸化剤(酸化剤ガス)である空気(O)が供給されると、MEAにて電極反応が生じて発電する。この場合、MEAにおける電極反応は、MEAのアノード電極に供給される液体燃料であるギ酸の温度が電極反応に適した温度域に維持されることによって促進され、その結果、効率よく発電することができる。
【0016】
そこで、本例の燃料電池システムは、アノード電極に供給される液体燃料であるギ酸の温度を、電極反応に適した温度域に加熱して維持するため、アノード側セパレータに形成された燃料供給流路に沿って配置されて、燃料供給流路を流れる液体燃料を加熱するヒータを備える。
【0017】
本例のヒータは、燃料供給流路に対するギ酸の供給側におけるギ酸の温度が電極反応に適する温度域になるように作動が制御され、燃料供給流路を流れるギ酸を加熱する。又、本例のヒータは、燃料供給流路において分割して配置され、燃料供給流路のギ酸の供給側からギ酸の排出側に沿って、ギ酸に対する単位面積当たりの入熱量が徐々に小さくなるように制御される。従って、MEAのアノード電極に供給されるギ酸の温度が電極反応に適した温度域に加熱されて維持されるため、MEAにおける電極反応が促進され、効率良く発電することが可能となる。
【0018】
(2.直接ギ酸型燃料電池FCの構成の詳細)
以下、本例の直接ギ酸型燃料電池FC(以下、単に「燃料電池FC」と称呼する。)の構成について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本例の燃料電池FCは、燃料電池スタックSを形成する。燃料電池スタックSは、複数の単セルUが積層された状態とされ、積層された複数の単セルUがホルダH及びボルトBによって保持される。本例の燃料電池スタックSは、鉛直方向に配置した複数の単セルUを水平方向に沿って積層した横置きとされる。
【0019】
燃料電池スタックSには、供給タンクTに貯留された液体燃料であるギ酸を加圧して供給する燃料ポンプP1が配管(図示省略)を介して接続部K1に接続される。又、燃料電池スタックSには、酸化剤(酸化剤ガス)として空気を加圧して供給するブロアP2(加圧ポンプ)が配管(図示省略)を介して接続部K2に接続される。
【0020】
単セルUは、図2に示すように、アノード側セパレータ10及びカソード側セパレータ20を備える。そして、本例の単セルUは、アノード側セパレータ10及びカソード側セパレータ20の間に配置されて積層されるシール部材30及びMEA40を含んで構成される。
【0021】
又、本例の単セルUは、アノード側セパレータ10に対して液体燃料であるギ酸を加熱するためのヒータ50が組み付けられる。尚、本例においては、ヒータ50をアノード側セパレータ10とホルダH(図1を参照)との間に配置する場合を例示する。しかし、ギ酸を電極反応に適した温度域に加熱することが可能であれば、ヒータ50の配置は限定されず、例えば、ホルダHのアノード側セパレータ10と対向する面の反対面にヒータ50を配置することも可能である。
【0022】
アノード側セパレータ10は、図3に示すように、板状に形成される。そして、本例のアノード側セパレータ10は、MEA40における電極反応によって発電された電気を集電する集電機能(所謂、コレクタ)を有しており、金属製の素材、例えば、SUS316等のステンレスの薄板等に対して金メッキ等の導電処理が施される。尚、本例においては、アノード側セパレータ10を金属製の素材を用いて形成するが、導電性を有する非金属材料(例えば、カーボン或いはカーボンとの複合材等)を素材にして形成することも可能である。
【0023】
アノード側セパレータ10の中央部分、即ち、MEA40(より詳しくは、後述するアノード電極であるアノード電極層AE)に対向する位置には、液体燃料であるギ酸をアノード電極層AEに供給するための燃料供給流路11が形成される。本例の燃料供給流路11は、図3に示すように、屈曲部11a及び直線部11bを有して、蛇行するように形成される場合を例示する。ここで、屈曲部11aは、燃料供給流路11を流れる液体燃料であるギ酸の流れる方向を90度以上(本例においては、180度)変更する。
【0024】
又、アノード側セパレータ10の周縁部分には、燃料供給流路11にギ酸を供給するための燃料供給口12と、燃料供給流路11を通過したギ酸を排出するための燃料排出口13が設けられる。
【0025】
燃料供給口12は、燃料供給流路11に対する液体燃料であるギ酸の供給側に対応し、燃料電池スタックSの外部に設けられた燃料ポンプP1(図1を参照)によって加圧されたギ酸が供給される。燃料ポンプP1は、供給タンクT(図1を参照)に貯留されたギ酸を加圧して供給する。燃料排出口13は、燃料供給流路11における液体燃料であるギ酸の排出側に対応し、燃料電池スタックSの外部に設けられた図示省略の回収タンクに接続されており、排出されたギ酸を回収タンクに排出する。尚、本例のアノード側セパレータは、燃料電池スタックSが設置された状態において、鉛直方向にて上方側に燃料供給口12設け、鉛直方向にて下方側に燃料排出口13を設ける場合を例示する。但し、必要に応じて、鉛直方向にて下方側に燃料供給口12設け、鉛直方向にて上方側に燃料排出口13を設けても良い。
【0026】
これにより、本例の単セルUにおいては、供給タンクTから燃料ポンプP1によって加圧されたギ酸が燃料供給口12から燃料供給流路11に供給され、燃料供給流路11を流れるギ酸はアノード電極層AEに接触しながら燃料排出口13に到達する。即ち、本例においては、燃料供給口12から供給されたギ酸は、燃料供給流路11を鉛直方向にて上方側から下方側に向けて流れ、燃料排出口13に到達する。そして、燃料排出口13に到達した、即ち、未反応のギ酸は、回収タンクに回収される。
【0027】
又、アノード側セパレータ10の周縁部分には、単セルUを構成するカソード側セパレータ20に空気を供給すると共に未反応の空気を排出するための貫通孔14及び貫通孔15が設けられる。尚、貫通孔14,15は、燃料供給口12及び燃料排出口13に対して、例えば、90度ずれた位置に設けられる。更に、アノード側セパレータ10の周縁部分には、ホルダHのボルトBを挿通するための大径の挿通孔16が複数(図3においては、8箇所)設けられると共に、外部に電気を取り出すための電極部17が設けられる。尚、電極部17については、燃料電池スタックSの形成時において、例えば、端部に位置する単セルUを構成するアノード側セパレータ10にのみ設けることも可能である。
【0028】
カソード側セパレータ20は、図4に示すように、板状に形成される。そして、本例のカソード側セパレータ20も、MEA40における電極反応によって発電された電気を集電する集電機能(所謂、コレクタ)を有しており、金属製の素材、例えば、SUS316等のステンレスの薄板等に対して金メッキ等の導電処理が施される。尚、本例においては、カソード側セパレータ20も、アノード側セパレータ10と同様に、金属製の素材を用いて形成するが、導電性を有する非金属材料(例えば、カーボン或いはカーボンとの複合材等)を素材にして形成することも可能である。
【0029】
カソード側セパレータ20は、中央部分において、酸化剤(酸化剤ガス)である空気をカソード電極層CEに供給するための酸化剤供給流路21が形成される。本例の酸化剤供給流路21は、図4に示すように、蛇行形状として形成される場合を例示する。
【0030】
又、カソード側セパレータ20の周縁部分には、酸化剤供給流路21に空気即ち酸素(O)を供給するための酸化剤供給口22と、酸化剤供給流路21を通過した空気を排出するための酸化剤排出口23が設けられる。酸化剤供給口22は、燃料電池スタックSの外部に設けられたブロアP2(図1を参照)によって加圧された空気が供給される。尚、本例においては、燃料電池FCがブロアP2を備え、空気をブロアP2によって加圧して供給するようにする。しかし、必要に応じて、ブロアP2を省略することも可能である。
【0031】
酸化剤排出口23は、排出された空気を燃料電池スタックSの外部に排出する。これにより、本例の単セルUにおいては、ブロアP2によって加圧された空気即ち酸素(O)が酸化剤供給口22から酸化剤供給流路21に供給され、酸化剤供給流路21を流れる空気即ち酸素(O)はカソード電極層CEに接触しながら酸化剤排出口23に到達する。そして、酸化剤排出口23に到達した、即ち、未反応の空気(酸素(O))は、燃料電池スタックSの外部に排出される。
【0032】
又、カソード側セパレータ20の周縁部分には、単セルUを構成するアノード側セパレータ10にギ酸を供給すると共に未反応のギ酸を排出するための貫通孔24及び貫通孔25が設けられる。尚、貫通孔24,25は、酸化剤供給口22及び酸化剤排出口23に対して、例えば、90度ずれた位置に設けられる。
【0033】
更に、カソード側セパレータ20の周縁部分にも、ホルダHのボルトBを挿通するための大径の挿通孔26が複数(図4及び図5においては、8箇所)設けられると共に、外部に電気を取り出すための電極部27が設けられる。尚、電極部27については、燃料電池スタックSの形成時において、例えば、端部に位置する単セルUを構成するカソード側セパレータ20にのみ設けることが可能である。
【0034】
ここで、アノード側セパレータ10の燃料供給口12はカソード側セパレータ20の貫通孔24と連通可能とされ、アノード側セパレータ10の燃料排出口13はカソード側セパレータ20の貫通孔25と連通可能とされる。又、カソード側セパレータ20の酸化剤供給口22はアノード側セパレータ10の貫通孔14と連通可能とされ、カソード側セパレータ20の酸化剤排出口23はアノード側セパレータ10の貫通孔15と連通可能とされる。即ち、アノード側セパレータ10の貫通孔14,15はカソード側セパレータ20の酸化剤供給口22及び酸化剤排出口23に対応して形成され、カソード側セパレータ20の貫通孔24,25はアノード側セパレータ10の燃料供給口12及び燃料排出口13に対応して形成される。
【0035】
シール部材30は、図5に示すように、板状に形成されている。ここで、シール部材30は、弾性材料、例えば、EPDM等のゴム材料やエラストマー材料等から形成される。シール部材30は、2枚一対で用いられ、各々のシール部材30がMEA40を挟持すると共にアノード側セパレータ10及びカソード側セパレータ20によって挟持される。
【0036】
シール部材30は、中央部分にMEA40のアノード電極層AE及びカソード電極層CEを収容するように貫通した収容部31を有する。これにより、シール部材30がMEA40を挟持した状態において、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11を介して供給されたギ酸は、収容部31の内部を流れることにより、アノード電極層AEに供給される。又、シール部材30がMEA40を挟持した状態において、カソード側セパレータ20の酸化剤供給流路21を介して供給された空気は、収容部31の内部を流れることにより、カソード電極層CEに供給される。
【0037】
又、シール部材30の周縁部分には、単セルUを形成した状態で、アノード側セパレータ10に設けられた燃料供給口12(カソード側セパレータ20の貫通孔24に対応)、及び、燃料排出口13(カソード側セパレータ20の貫通孔25に対応)に対応する位置に貫通孔32,33が形成される。これにより、単セルUを形成した状態で、燃料供給口12(貫通孔24)は貫通孔32と連通し、燃料排出口13(貫通孔25)は貫通孔33と連通する。
【0038】
又、シール部材30の周縁部分には、単セルUを形成した状態で、カソード側セパレータ20に設けられた酸化剤供給口22(アノード側セパレータ10の貫通孔14に対応)及び酸化剤排出口23(アノード側セパレータ10の貫通孔15に対応)に対応する位置に貫通孔34,35が形成される。これにより、単セルUを形成した状態で、酸化剤供給口22(貫通孔14)は貫通孔34と連通し、酸化剤排出口23(貫通孔15)は貫通孔35と連通する。更に、シール部材30の周縁部分には、ホルダHのボルトBを挿通するように形成された挿通孔36が形成される。
【0039】
電極構造体としてのMEA40は、図6及び図7に示すように、電解質膜EFと、電解質膜EF上にて所定の触媒を層状に積層することにより形成されて、ギ酸が供給されるアノード電極としてのアノード電極層AEと、空気が供給されるカソード電極としてのカソード電極層CEとを主要構成部品としている。尚、これら電解質膜EF、アノード電極層AE及びカソード電極層CEの電極反応については、広く知られているため、以下の記載においてその詳細な説明を省略する。
【0040】
本例の電解質膜EFは、カチオン(より具体的には、水素イオン(H))を選択的に透過するイオン交換膜(例えば、デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」や、旭硝子株式会社製の「Flemion(登録商標)」及び「Aciplex(登録商標)」、ゴア社製の「Gore Select(登録商標)」等)から形成される。そして、電解質膜EFの周縁部分には、図6に示すように、単セルUを形成した状態で、アノード側セパレータ10に設けられた燃料供給口12(カソード側セパレータ20の貫通孔24に対応)、燃料排出口13(カソード側セパレータ20の貫通孔25に対応)及びシール部材30の貫通孔32,33に対応する位置に貫通孔41,42が形成される。これにより、単セルUを形成した状態で、燃料供給口12(貫通孔24,32)は貫通孔41と連通し、燃料排出口13(貫通孔25,33)は貫通孔42と連通する。
【0041】
又、電解質膜EFの周縁部分には、単セルUを形成した状態で、カソード側セパレータ20に設けられた酸化剤供給口22(アノード側セパレータ10の貫通孔14に対応)、酸化剤排出口23(アノード側セパレータ10の貫通孔15に対応)及びシール部材30の貫通孔34,35に対応する位置に貫通孔43,44が形成される。これにより、単セルUを形成した状態で、酸化剤供給口22(貫通孔14,34)は貫通孔43と連通し、酸化剤排出口23(貫通孔15,35)は貫通孔44と連通する。更に、電解質膜EFの周縁部分には、ホルダHのボルトBを挿通するように形成された挿通孔45が形成される。
【0042】
電極層としてのアノード電極層AE及びカソード電極層CEは、触媒粒子を担持したカーボン(担持カーボン)を主成分とするものであり、図7に示すように、電解質膜EFの中央部分における表面に対して層状に形成される。ここで、触媒粒子としては、例えば、白金(Pt)、白金合金、非白金係金属化合物等を挙げることができる。尚、白金合金としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択される少なくとも一種の金属と白金との合金等を挙げることができる。
【0043】
ここで、層状に形成されるアノード電極層AE及びカソード電極層CEは、厚みがシール部材30の厚みに比べて僅かに大きくなるように形成される。又、層状に形成されるアノード電極層AE及びカソード電極層CEは、シール部材30の収容部31の大きさに比べて僅かに小さい外形寸法とされている。
【0044】
又、アノード電極層AE及びカソード電極層CEは、図7に示すように、各々の表面側が導電性を有する繊維から形成された拡散層としてのカーボンクロス(又はカーボンペーパー)CCで覆われる。カーボンクロスCCは、アノード電極層AEに供給されるギ酸及びカソード電極層CEに供給される空気を拡散させると共に、電極反応によって発電された電気をアノード側セパレータ10及びカソード側セパレータ20に効率良く供給するものである。
【0045】
即ち、カーボンクロスCCは繊維状であるため、繊維間を導通することによって、供給されたギ酸及び空気は一様に拡散される。又、カーボンクロスCCは導電性を有しているため、発電された電気を効率良くアノード側セパレータ10及びカソード側セパレータ20に流すことができる。
【0046】
ヒータ50は、図2に示すように、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11の形成面とは反対の面に組み付けられており、制御装置100によって作動が制御されてアノード側セパレータ10の燃料供給流路11を流れる液体燃料であるギ酸を加熱する。本例のヒータ50は、図8に示すように、蛇行する燃料供給流路11の上流部、中流部及び下流部に配置され、燃料供給口12から燃料排出口13に向けて流れるギ酸を加熱する。これにより、MEA40のアノード電極層AEにギ酸を供給する際には、燃料供給流路11を流れるギ酸の温度が電極反応に適した温度域まで加熱されて維持されており、MEA40における電極反応を促進、換言すれば、発電効率を向上させることができる。
【0047】
ヒータ50は、例えば、面状ヒータであり、燃料供給流路11に沿って分割されている。具体的に、ヒータ50は、燃料供給流路11の屈曲部11aごと、つまり、燃料供給流路11における直線部11bに対してギ酸の流れる方向を90度以上(本例においては、180度)変更する屈曲部11aごとに分割される。
【0048】
ヒータ50は、燃料供給流路11の上流部に対応して配置された第一ヒータ51と、燃料供給流路11の中流部に対応して配置された第二ヒータ52と、燃料供給流路11の下流部に対応して配置された第三ヒータ53とに分割される。ヒータ50を形成する第一ヒータ51、第二ヒータ52及び第三ヒータ53は、燃料供給流路11の燃料供給口12側から燃料排出口13に沿って、ギ酸に対する単位面積当たりの入熱量が徐々に小さくなるように配置される。
【0049】
このため、第一ヒータ51は、制御装置100により、ギ酸に対する単位面積当たりの入熱量がヒータ50のうちで最も大きくなるように作動が制御される。第二ヒータ52は、制御装置100により、第一ヒータ51よりも入熱量が小さくなるように作動が制御される。第三ヒータ53は、制御装置100により、入熱量がヒータ50のうちで最も小さくなるように作動が制御される。
【0050】
これにより、本例においては、第一ヒータ51は、燃料供給流路11の上流部において、供給タンクTから供給される低温のギ酸を最も大きな入熱量により加熱する。第二ヒータ52は、燃料供給流路11の中流部において、第一ヒータ51によって加熱されて温度上昇したギ酸を中程度の入熱量により加熱する。第三ヒータ53は、燃料供給流路11の下流部において、第一ヒータ51及び第二ヒータ52によって加熱されて更に温度上昇したギ酸を最も小さな入熱量により加熱する。
【0051】
ここで、上流部に供給されるギ酸は、上述したように、供給タンクTから供給されるため、電極反応に適した温度域に対して低温である。そして、中流部及び下流部の順に、供給されるギ酸の温度は上昇する。このため、燃料供給流路11の上流部に対向するMEA40にて早期に電極反応を促進するためには、早期にギ酸を電極反応に適した温度域となるように、ギ酸を加熱して早期の温度を上昇させる必要がある。
【0052】
そこで、本例の第一ヒータ51は、図8に示すように、最上流に配置された第一高温ヒータ51aと最上流よりも下流に配置された第一低温ヒータ51bとを有する。第一高温ヒータ51aは、燃料供給口12に最も近接した位置に配置されており、供給タンクTから供給される低温のギ酸を早期に加熱するために、制御装置100によって最も入熱量が大きくなるように制御される。又、第一低温ヒータ51bは、第一高温ヒータ51aの入熱量よりも小さく且つ第二ヒータ52の入熱量よりもが大きくなるように、制御装置100によって入熱量が制御される。
【0053】
又、中流部においては、上流部の第一ヒータ51によって加熱されたギ酸が、上流部と中流部を繋ぐ屈曲部11a(上流側の屈曲部11a)を通過し、中流部の直線部11bを介して中流部と下流部を繋ぐ屈曲部11a(下流側の屈曲部11a)を通過する。即ち、中流部を流れるギ酸は、上流側の屈曲部11a及び下流側の屈曲部11aにて発生する圧損の影響を受ける。このため、中流部を流れるギ酸の流速は、相対的に低下する傾向を有する。
【0054】
このため、中流部を流れるギ酸においては、例えば、アノード側セパレータ10に向けた熱移動が生じやすくなる。従って、中流部を流れるギ酸の温度を、電極反応に適した温度域に維持するためには、中流部の上流と下流とで入熱量を異ならせることができる。
【0055】
具体的に、本例の第二ヒータ52は、図8に示すように、中流部の上流に配置された第二高温ヒータ52aと下流に配置された第二低温ヒータ52bとを有する。第二高温ヒータ52aは、上流側の屈曲部11aに近接した位置に配置されており、上流側の屈曲部11aを介して上流部から供給されるギ酸を加熱するために、制御装置100によって入熱量が大きくなるように制御される。又、第二低温ヒータ52bは、下流側の屈曲部11aに近接した位置に配置されている。そして、第二低温ヒータ52bは、第二高温ヒータ52aの入熱量よりも小さく且つ第三ヒータ53の入熱量よりも大きくなるように、制御装置100によって入熱量が制御される。
【0056】
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、インターフェース等を主要構成部品とするマイクロコンピュータである。制御装置100は、主に、ヒータ50、即ち、第一ヒータ51、第二ヒータ52及び第三ヒータ53の各々の作動を制御する。具体的に、制御装置100は、第一ヒータ51、第二ヒータ52及び第三ヒータ53の各々に供給する作動電流Iを制御する(図1を参照)。
【0057】
本例の単セルUは、図2に示すように、ヒータ50が組み付けられたアノード側セパレータ10、シール部材30、MEA40、シール部材30、及び、カソード側セパレータ20を水平方向にて順次積層することによって形成される。ここで、単セルUを形成する場合には、必要に応じて、各部材同士を、例えば、導電性接着剤等を用いて気密的に接着することが可能である。
【0058】
形成された単セルUは、要求出力に応じて複数積層されることにより、燃料電池スタックSを構成する。このように構成された燃料電池スタックSにおいては、積層された単セルU間で各々のアノード側セパレータ10の燃料供給口12及び燃料排出口13がカソード側セパレータ20の貫通孔24,25等を介して連通した状態になる。又、燃料電池スタックSにおいては、積層された単セルU間で各々のカソード側セパレータ20の酸化剤供給口22及び酸化剤排出口23がアノード側セパレータ10の貫通孔14,15等を介して連通した状態になる。
【0059】
尚、以下の説明においては、アノード側セパレータ10の燃料供給口12及びカソード側セパレータ20の貫通孔24等によって形成されて、ギ酸が流れる連通路を「燃料側マニホールド」と称呼する。又、カソード側セパレータ20の酸化剤供給口22及びアノード側セパレータ10の貫通孔14等によって形成されて、空気が流れる連通路を「酸化剤側マニホールド」と称呼する。
【0060】
(3.燃料電池システム1の作動)
次に、上述した燃料電池システム1の作動を説明する。燃料電池システム1においては、供給タンクTから燃料ポンプP1によって加圧されたギ酸は、燃料側マニホールドを介して各々の単セルUのアノード電極層AEに供給される。又、燃料電池FCにおいては、ブロアP2からの空気は、酸化剤側マニホールドを介して各々の単セルUのカソード電極層CEに供給される。
【0061】
即ち、各々の単セルUにおいては、アノード側セパレータ10の燃料供給口12を介して供給されたギ酸が燃料供給流路11を燃料排出口13に向けて流れる。これにより、液体燃料であるギ酸は、MEA40のアノード電極層AEに供給される。又、各々の単セルUにおいては、カソード側セパレータ20の酸化剤供給口22を介して供給された空気は、酸化剤供給流路21を酸化剤排出口23に向けて流れる。これにより、酸化剤供給流路21を流れる酸化剤(酸化剤ガス)である空気は、MEA40のカソード電極層CEに供給される。
【0062】
ところで、各々の単セルUのMEA40は、周知の通り、ギ酸(HCOOH)と空気(酸素(O))とを用いた電極反応が生じることによって発電する。具体的に、本例においては、MEA40の電解質膜EFがカチオンを選択的に透過するイオン交換膜から形成されている。このため、MEA40においては、下記化学反応式1,2に従い、電極反応が生じる。
アノード電極層AE:HCOOH→2H+2e+CO …化学反応式1
カソード電極層CE:2H+2e+(1/2)O→HO …化学反応式2
【0063】
ここで、本例の燃料電池システム1においては、制御装置100がアノード側セパレータ10に組み付けられたヒータ50、即ち、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11の上流部に対応して配置された第一ヒータ51、中流部に対応して配置された第二ヒータ52、及び、下流部に対応して配置された第三ヒータ53の各々の入熱量を制御する。より詳しく、制御装置100は、図9に示すように、第一ヒータ51を形成する第一高温ヒータ51a、第一低温ヒータ51b、第二ヒータ52を形成する第二高温ヒータ52a、第二低温ヒータ52b、第三ヒータ53の順で徐々に小さくなるように、各々の入熱量を制御する。尚、図9においては、梨地の濃さが薄くなる程、入熱量が小さくなることを示す。
【0064】
即ち、制御装置100は、燃料供給流路11に沿って、換言すれば、燃料供給口12から燃料排出口13に向けたギ酸の流れる方向にて、第一高温ヒータ51a、第一低温ヒータ51b、第二高温ヒータ52a、第二低温ヒータ52b、第三ヒータ53の順で小さくなるように、各々に供給する作動電流Iの大きさを制御する。これにより、供給タンクTから燃料供給口12を介して燃料供給流路11に到達した低温のギ酸は、先ず、最も入熱量の大きい第一高温ヒータ51aによって早期に電極反応に適した温度域まで加熱(昇温)される。
【0065】
続いて、燃料供給流路11を流れるギ酸の温度は、以下、順に入熱量が小さくなる第一低温ヒータ51b、第二高温ヒータ52a、第二低温ヒータ52bによって加熱されることにより、電極反応に適した温度域に維持される。そして、燃料供給流路11の下流部まで流れたギ酸の温度は、最も入熱量の小さい、換言すれば、最も供給される電流の小さい第三ヒータ53によって加熱されることにより、電極反応に適した温度域に維持され、燃料排出口13から回収タンクに排出される。
【0066】
このように、燃料電池システム1においては、供給タンクTからアノード側セパレータ10の燃料供給流路11に供給される液体燃料であるギ酸は、ヒータ50によって、MEA40における電極反応に適した温度域に維持される。従って、MEA40のアノード電極、即ち、アノード電極層AEにおいては、燃料供給流路11の上流部、中流部及び下流部に対向する全面で上記化学反応式1に従う電極反応が均一に生じる。その結果、燃料電池システム1の燃料電池スタックSは、電力を効率良く発電することができる。
【0067】
以上の説明からも理解できるように、本例の燃料電池システム1によれば、制御装置100によって制御されて、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11においてギ酸を加熱するヒータ50を備えることができる。従って、制御装置100がヒータ50に供給する作動電流Iを制御することにより、燃料供給流路11を流れるギ酸を加熱して、MEA40における電極反応に適した温度域にギ酸の温度を加熱して維持することができる。
【0068】
又、燃料電池システム1においては、ヒータ50を、第一ヒータ51(第一高温ヒータ51a及び第一低温ヒータ51b)と、第二ヒータ52(第二高温ヒータ52a及び第二低温ヒータ52b)と、第三ヒータ53とに分割し、燃料供給流路11に沿って配置することができる。そして、制御装置100は、燃料供給口12から燃料排出口13に向けて配置された各々について、入熱量が徐々に小さくなるように、作動電流Iを制御することができる。
【0069】
これにより、効率良く燃料供給流路11を流れるギ酸の温度を電極反応に適した温度域まで加熱して維持することができるため、無駄な電力の消費を抑制できる。又、ギ酸の温度を電極反応に適した温度域に加熱して維持することができるため、MEA40において、電極反応を促進することができると共に、均一な電極反応を生じさせることができる。従って、燃料電池システム1においては、効率良く電力を発電することが可能となる。
【0070】
(4.第一別例)
上述した本例においては、制御装置100は、ヒータ50、即ち、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11の燃料供給口12(上流側)から燃料排出口13(下流側)に沿って順に配置された第一ヒータ51、第二ヒータ52及び第三ヒータ53に供給する作動電流Iが順に小さくなるように制御するようにした。これにより、燃料供給口12に最も近い第一ヒータ51は、最も大きな入熱量によりギ酸の温度をMEA40における電極反応に適した温度まで加熱するようにした。又、入熱量が徐々に小さくなる第二ヒータ52及び第三ヒータ53は、ギ酸の温度を電極反応に適した温度域に維持するようにした。
【0071】
ところで、燃料電池スタックSを形成する単セルUにおいては、アノード電極層AEに液体燃料であるギ酸が供給されると共にカソード電極層CEに空気が供給されると、上述した電極反応が生じて発電することができる。そして、発電に伴って発生した電流は、集電機能を有するアノード側セパレータ10によって集電されて、外部に出力される。
【0072】
ここで、電極反応により発電された電流は、集電に伴ってアノード側セパレータ10を通電する際にジュール熱を発生させる。ジュール熱は、発生した電力の大きさ(以下、「発生電流量」と称呼する)に依存し、発生電流量が大きい程、大きくなる。即ち、電極反応が顕著な場所である程、発生電流量が大きくなり、その結果、大きなジュール熱が発生する。そして、発生したジュール熱は、アノード側セパレータ10、ひいては、燃料供給流路11を流れるギ酸を加熱する。
【0073】
単セルUにおける電極反応が顕著な場所、換言すれば、発生電流量が大きくなる場所については、図10に示すように、燃料供給流路11を流れるギ酸を加熱することなく流量を一定とした場合、アノード側セパレータ10において燃料供給口12に近い程発生電流量が大きく、燃料排出口13に近い程発生電流量が小さくなる傾向を有する。つまり、電極反応が生じた場合、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11の上流部においては、発生電流量が大きくなり、その結果、発生するジュール熱が大きくなる。又、燃料供給流路11の中流部においては、発生電流量が上流部よりも小さくなり、その結果、発生するジュール熱は上流部よりも小さくなる。更に、燃料供給流路11の下流部においては、発生電流量が中流部よりも小さくなり、その結果、発生するジュール熱は中流部よりも小さくなる。
【0074】
このため、ギ酸が積極的に加熱されることなく電極反応が継続している状態では、アノード側セパレータ10の燃料供給流路11を流れるギ酸は、上流部にて発生したジュール熱によって加熱され易くなる。一方、燃料供給流路11の中流部及び下流部、特に、燃料排出口13の近傍では発生するジュール熱が小さくなるため、ギ酸はジュール熱によっては加熱され難くなる。
【0075】
そこで、第一別例においては、制御装置100が、燃料供給流路11の位置、具体的には、上流部、中流部及び下流部に対応して発生するジュール熱の大きさの違いを考慮し、下記式1に従ってヒータ50に供給する作動電流Iを増減して決定することによって制御する。
I=Ip-Ij …式1
ここで、上記式1における「Ip」は、第一電流を表し、上述した本例のように、燃料供給流路11に沿って配置される各々のヒータ50の位置に応じて決定される電流である。即ち、第一電流Ipは、燃料供給流路11に沿って、換言すれば、燃料供給口12から燃料排出口13に向けたギ酸の流れる方向にて、第一高温ヒータ51a、第一低温ヒータ51b、第二高温ヒータ52a、第二低温ヒータ52b、第三ヒータ53の順で小さくなるように決定される電流である。
【0076】
又、上記式1における「Ij」は、第二電流を表し、発生したジュール熱に基づいて決定される電流である。第二電流Ijは、更に、下記式2に示すように、液体燃料であるギ酸の温度に依存して決定される第三電流Ij1とヒータの面積のおけるジュール熱に依存して決定される第四電流Ij2とを加算して決定される。
Ij=Ij1+Ij2 …式2
ここで、上記式2における第三電流Ij1は、図10に示すように、燃料供給流路11の所定位置Pにおいて取得されるギ酸の温度を参照温度RTとし、参照温度RTに依存して決定される電流である。即ち、第三電流Ij1は、参照温度RTが大きい程大きな電流として決定され、参照温度RTが小さい程小さな電流として決定される。
【0077】
又、上記式2における第四電流Ij2は、燃料供給流路11に沿って配置される、第一高温ヒータ51a、第一低温ヒータ51b、第二高温ヒータ52a、第二低温ヒータ52b、第三ヒータ53の各々の面積において、例えば、発生したジュール熱を積分した値に依存して決定される電流である。即ち、面積が大きい又は発生したジュール熱が大きい程大きな電流として決定され、面積が小さい又は発生したジュール熱が小さい程小さな電流として決定される。
【0078】
従って、第一別例においては、制御装置100は、上述した本例と同様に、第一ヒータ51を形成する第一高温ヒータ51a及び第一低温ヒータ51bと、第二ヒータ52を形成する第二高温ヒータ52a及び第二低温ヒータ52bと、第三ヒータ53とについて、各々の配置に応じて順に小さくなる第一電流Ipを決定する。又、制御装置100は、参照温度RTに基づく第三電流Ij1及び各々のヒータ50の面積に応じたジュール熱に基づく第四電流Ij2を用いて第二電流Ijを決定する。そして、制御装置100は、上記式1に従い、第一電流Ipから第二電流Ijを減算することにより、作動電流Iを決定する。
【0079】
ここで、第一別例の作動について、燃料供給流路11の最上流に配置される第一ヒータ51の第一高温ヒータ51aと燃料供給流路11の下流部に配置される第三ヒータ53とを例に挙げて説明しておく。第一ヒータ51の第一高温ヒータ51aは、上述した本例のように、供給タンクTから供給される低温のギ酸を早期に加熱する必要がある。このため、例えば、燃料電池システム1の稼働直後においては、制御装置100は、第一電流Ipを大きな電流に決定する。一方、燃料電池システム1の稼働直後においては、例えば、電極反応が安定せず、発生するジュール熱が小さく、又、参照温度RTも低い。従って、制御装置100は、第二電流Ijを小さな電流に決定する。
【0080】
従って、燃料電池システム1の稼働直後においては、制御装置100は、上記式1に従い、大きな第一電流Ipから小さな第二電流Ijを減算して、第一高温ヒータ51aに供給する作動電流Iを決定する。即ち、燃料電池システム1の稼働直後においては、主に、第一電流Ipが作動電流Iとして第一高温ヒータ51aに供給されるため、第一高温ヒータ51aは大きな入熱量でギ酸を加熱し、ギ酸の温度を電極反応に適した温度域まで昇温する。
【0081】
そして、例えば、燃料電池システム1が稼働を開始して時間が経過すると、第一高温ヒータ51aに対応する場所においては電極反応が顕著になる。その結果、第一高温ヒータ51aに対応する場所においては、大きなジュール熱が発生する。又、燃料電池システム1が稼働を開始して時間が経過すると、第一高温ヒータ51aからの入熱量によってギ酸が加熱され所定位置Pにおける参照温度RTも上昇する。
【0082】
このため、上記式2に従って算出される第二電流Ijは、第三電流Ij1及び第四電流Ij2が増大することによって大きな電流として決定される。これにより、制御装置100は、上記式1に従い、第一電流Ipから大きな第二電流Ijを減算して作動電流Iを決定する。つまり、第一高温ヒータ51aにおいては、発生したジュール熱が大きく、ジュール熱によってギ酸が加熱されるため、入熱量を小さくすることができる。即ち、この場合には、上述した本例の場合に比べて、第一高温ヒータ51aに供給される作動電流Iを低減することができる。
【0083】
一方、第三ヒータ53については、上述した本例のように、第一ヒータ51及び第二ヒータ52によってギ酸が加熱されているため、必要な入熱量は小さい。しかしながら、燃料供給流路11の下流部においては、例えば、燃料電池システム1の稼働直後及び稼働を開始して時間が経過した場合であっても、上流部に比べて相対的に電極反応が顕著ではないため、発生するジュール熱は小さい。即ち、第三ヒータ53については、例えば、第一高温ヒータ51aの面積よりも大きな面積を有していても、発生するジュール熱が小さいため、上記式2に従って決定される第二電流Ijは小さい。
【0084】
従って、制御装置100は、上記式1に従い、上述した本例と同様に決定された第一電流Ipから小さな第二電流Ijを減算して、第三ヒータ53に供給する作動電流Iを決定する。即ち、燃料供給流路11の下流部に配置された第三ヒータ53については、主に、第一電流Ipが作動電流Iとして供給されるため、上述した本例と同等の入熱量でギ酸を加熱し、ギ酸の温度を電極反応に適した温度域を維持する。即ち、第一別例においては、第三ヒータ53に供給される作動電流Iは、上述した本例に比べて、若干低減することができる。
【0085】
従って、第一別例の場合においては、発生するジュール熱の影響を考慮することができるため、発生したジュール熱に応じて作動電流Iを低減することができて省エネルギーを実現することができる。そして、第一別例においても、上述した本例と同様に、ヒータ50が無駄な電力を消費することを防止することができる。又、第一別例の場合においても、アノード電極層AEに供給される液体燃料であるギ酸を電極反応に適した温度域に維持することができるため、燃料電池FCは効率よく発電することができる。
【0086】
(5.第二別例)
上述した本例及び第一別例においては、ヒータ50を、アノード側セパレータ10に形成された燃料供給流路11に沿って、上流部に第一ヒータ51、中流部に第二ヒータ52及び下流部に第三ヒータ53を配置するようにした。ところで、ヒータ50を分割する場合、燃料供給流路11の上流部、中流部及び下流部に応じて分割することに限られず、例えば、図11に示すように、燃料供給流路11の屈曲部11aにおいて、曲率の大きい箇所ごとにヒータ50を分割することも可能である。
【0087】
(6.第三別例)
上述した本例、第一別例及び第二別例においては、アノード側セパレータ10に形成された燃料供給流路11が燃料供給口12から燃料排出口13まで均一の流路幅を有するようにした。しかしながら、図12に示すように、アノード側セパレータ10に形成された燃料供給流路18は、燃料供給口12から燃料排出口13までの間で、流路幅が変化する流路幅変化部18cを有することができる。又、燃料供給流路18は、複数の流路に分岐する分岐部18dを有することができる。尚、燃料供給流路18も、蛇行形状に形成されており、屈曲部18a及び直線部18bを有する。
【0088】
そして、流路幅変化部18cを有する燃料供給流路18の場合には、図13に示すように、ヒータ60を、流路幅変化部18cに基づいて、分割することが可能である。この場合、燃料供給流路18の上流部に配置された第一ヒータ61と、中流部において流路幅変化部18cよりも上流(流路幅が大きい側)に配置された第二ヒータ62と、流路幅変化部18cよりも下流(流路幅が小さい側)に配置された第三ヒータ63と、燃料供給流路18の下流部に配置された第四ヒータ64とに分割される。尚、図13においても、梨地の濃さが薄くなる程、入熱量が小さくなることを示している。従って、制御装置100は、上述した本例及び第一別例におけるヒータ50の場合と同様に、燃料供給流路18に沿った必要な入熱量に応じてヒータ60の作動(より詳しくは、作動電流I)を制御する。
【0089】
ここで、アノード側セパレータ10に燃料供給流路18が形成される場合、図14に示すように、ヒータ70を、分岐部18dに基づいて、分割することも可能である。この場合、燃料供給流路18の燃料供給口12近傍(図14において右側)にて分岐部18dに対応して配置された第一ヒータ71と、第一ヒータ71に隣接して配置された第二ヒータ72と、燃料供給流路18の燃料排出口13近傍(図14において左側)にて分岐部18dに対応して配置された第三ヒータ73とに分割される。尚、図14においても、梨地の濃さが薄くなる程、入熱量が小さくなることを示している。従って、制御装置100は、上述した本例及び第一別例におけるヒータ50の場合と同様に、燃料供給流路18に沿った必要な入熱量に応じてヒータ70の作動(より詳しくは、作動電流I)を制御する。
【0090】
更に、アノード側セパレータ10に燃料供給流路18が形成される場合、図15に示すように、燃料供給口12からの距離L1に応じて燃料供給流路18の上流部に配置された第一ヒータ81と、燃料供給流路18の上流部から下流部まで配置された第二ヒータ82と、燃料排出口13からの距離L1に応じて燃料供給流路18の下流部に配置された第三ヒータ83とに分割することも可能である。尚、図15においても、梨地の濃さが薄くなる程、入熱量が小さくなることを示している。従って、この場合においても、制御装置100は、上述した本例及び第一別例におけるヒータ50の場合と同様に、燃料供給流路18に沿った必要な入熱量に応じてヒータ80の作動(より詳しくは、作動電流I)を制御する。
【符号の説明】
【0091】
1…燃料電池システム、10…アノード側セパレータ、11…燃料供給流路、11a…屈曲部、11b…直線部、12…燃料供給口、13…燃料排出口、14,15…貫通孔、16…挿通孔、17…電極部、18…燃料供給流路、18a…屈曲部、18b…直線部、18c…流路幅変化部、18d…分岐部、20…カソード側セパレータ、20a…対向面、20b…裏面、20c…排出部、21…酸化剤供給流路、22…酸化剤供給口、23…酸化剤排出口、24,25…貫通孔、26…挿通孔、27…電極部、30…シール部材、31…収容部、32~35…貫通孔、36…挿通孔、40…MEA(電極構造体)、41…貫通孔、41~44…貫通孔、45…挿通孔、50…ヒータ、51…第一ヒータ、51a…第一高温ヒータ、51b…第一低温ヒータ、52…第二ヒータ、52a…第二高温ヒータ、52b…第二低温ヒータ、53…第三ヒータ、60…ヒータ、61…第一ヒータ、62…第二ヒータ、63…第三ヒータ、64…第四ヒータ、70…ヒータ、71…第一ヒータ、72…第二ヒータ、73…第三ヒータ、80…ヒータ、81…第一ヒータ、82…第二ヒータ、83…第三ヒータ、AE…アノード電極層、CE…カソード電極層、EF…電解質膜、CC…カーボンクロス、FC…直接ギ酸型燃料電池(燃料電池)、S…燃料電池スタック、U…単セル、H…ホルダ、B…ボルト、P1…燃料ポンプ、P2…ブロア、T…供給タンク、L1…(燃料供給口からの)距離、L2…(燃料排出口からの)距離、P…所定位置、RT…参照温度
図1
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