(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111438
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ベルト伝動装置及びベルト伝動装置を備えたステアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/02 20060101AFI20220725BHJP
F16H 55/38 20060101ALI20220725BHJP
F16H 19/02 20060101ALI20220725BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20220725BHJP
F16D 1/09 20060101ALI20220725BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
F16H7/02 A
F16H55/38 A
F16H19/02 D
F16D1/06 210
F16D1/09 500
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006858
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕人
【テーマコード(参考)】
3D333
3J031
3J049
3J062
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB19
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD14
3D333CD16
3D333CD17
3D333CD20
3D333CD21
3D333CD37
3D333CD38
3D333CE07
3D333CE12
3J031AA03
3J031AC07
3J031BA09
3J031BC02
3J031CA04
3J049AA03
3J049BE02
3J049BH01
3J049CA04
3J062AA07
3J062AB12
3J062AC01
3J062BA26
3J062BA31
3J062CA34
3J062CG83
(57)【要約】
【課題】電動モータの出力軸に固定される駆動プーリの設備軸用孔に設備入力軸を嵌合させ電動モータの性能を計測しても外歯が変形しない駆動プーリを備えたベルト伝動装置を提供する。
【解決手段】駆動プーリ36は、出力軸37の軸線方向においてモータM側の端部から所定の第一範囲Ar1に亘って形成され、出力軸37が一体回転可能となるよう嵌合される第一孔36aと、モータM側とは反対側の端部から所定の第二範囲Ar2に亘って形成される第二孔36bと、を備え、第二孔36bの内周面には、凸形状Sが周方向全周に亘って等間隔で複数形成され、第二孔36bの周方向における凸形状Sの頂部Tの位相である第一位相β1と、外周面において歯溝36gの底部の周方向における位相である第二位相β2と、は全く一致しないか又は1箇所のみ一致する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに固定され、少なくとも先端側が前記ハウジングの内部に収容される出力軸を備えるモータと、
前記ハウジングの内部において前記出力軸の前記先端側の端部に固定され、前記出力軸と一体で軸線周りに回転する筒状の駆動プーリと、
前記ハウジングの内部において軸線周りに回転可能に支持される筒状の従動プーリと、
前記駆動プーリが備える外歯と前記従動プーリが備える外歯とに内歯が噛合するよう前記駆動プーリと前記従動プーリとに巻き掛けられる環状の歯付ベルトと、
を備え、
前記駆動プーリは、
前記出力軸の軸線方向において前記モータ側の端部から所定の第一範囲に亘って形成され、前記出力軸の前記先端側の端部が一体回転可能となるよう嵌合される第一孔と、
前記出力軸の前記軸線方向において前記モータ側とは反対側の端部から所定の第二範囲に亘って形成される第二孔と、を備え、
前記第二孔の内周面には、径方向外方に向かい形成される凸形状が周方向全周に亘って等間隔で複数形成され、
前記第二孔の前記内周面の周方向における前記凸形状の頂部の位相である第一位相と、前記駆動プーリの外周面において隣り合う前記外歯の歯すじ間で形成される歯溝の底部の前記周方向における位相である第二位相と、は全く一致しないか又は1箇所のみ一致する、ベルト伝動装置。
【請求項2】
前記周方向全周における前記第二孔の前記凸形状の数、及び前記駆動プーリの前記外周面における前記歯溝の数は、相互に素の関係にあるか又は同数である、請求項1に記載のベルト伝動装置。
【請求項3】
前記第二孔の前記凸形状は、インボリュートスプラインで形成される、請求項1又は2に記載のベルト伝動装置。
【請求項4】
前記駆動プーリの前記第一孔は円筒孔であり、前記モータの前記出力軸は、前記第一孔に圧入されて嵌合される、請求項1-3の何れか1項に記載のベルト伝動装置。
【請求項5】
前記第一孔の内周面には、前記径方向外方に向かい形成される凸形状が周方向全周に亘って等間隔で複数形成され、
前記第一孔に嵌合される前記出力軸の外周面には、前記第一孔に形成される前記凸形状と嵌合するよう凸部が周方向全周に亘って形成される、請求項1-3の何れか1項に記載のベルト伝動装置。
【請求項6】
前記第一孔に形成される前記凸形状は、前記出力軸の前記軸線と直交する面で切断した断面形状が前記第二孔に形成される前記凸形状と同じであるとともに、前記駆動プーリの前記軸線方向において、前記第二孔の前記凸形状と連続的に接続されて形成される、請求項5に記載のベルト伝動装置。
【請求項7】
前記駆動プーリの前記外歯ははす歯であり、前記はす歯の歯すじが前記出力軸の前記軸線との間で所定の角度を有して形成される場合、
前記駆動プーリの前記第二孔では、前記凸形状で形成される歯溝の前記軸線に対する角度が、前記駆動プーリの前記外歯の前記歯すじの角度と同じになるよう、又は前記軸線と平行になるよう前記凸形状が形成される、請求項1-6の何れか1項に記載のベルト伝動装置。
【請求項8】
前記駆動プーリの前記第二孔には、前記第二孔の前記内周面と隙間を有して挿入可能な性能測定装置の設備入力軸が挿入されて嵌合され、
前記第二孔に前記設備入力軸が挿入された状態で、前記モータの性能が前記性能測定装置によって計測される、請求項1-7の何れか1項に記載のベルト伝動装置。
【請求項9】
請求項1-8の何れか1項に記載の前記ベルト伝動装置を備えたステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト伝動装置及びベルト伝動装置を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータの回転駆動力を、電動モータの出力軸から駆動プーリ、歯付ベルト、及び従動プーリを介して他の軸に伝達するベルト伝動装置がある。ベルト伝動装置が適用される装置の一例としては、例えば、電動パワーステアリング装置がある。電動パワーステアリング装置は、電動モータの回転駆動力を、ベルト伝動装置によってボールねじ装置に伝達し、ボールねじ装置によって軸方向推力に変換して、ラックシャフトの作動を補助する。
【0003】
通常、ベルト伝動装置は、主に製造時において、電動モータの出力軸に駆動プーリが固定された状態で、電動モータに係る様々な性能が性能測定装置によって計測される。このため、駆動プーリには、軸線方向において電動モータの出力軸が嵌合される側と反対の側に、軸直交断面が、例えば内六角形状等となるよう形成された設備軸用孔が形成されている。設備軸用孔には、電動モータの性能計測時において、例えば外六角で形成された性能測定装置の設備入力軸が挿入され電動モータの回転駆動トルク等の性能が計測される。
【0004】
このとき、嵌合された設備入力軸と設備軸用孔との間には隙間がある。このため、電動モータの出力軸に回転トルクが生じる性能計測時には、設備軸用孔の内六角の面に設備入力軸の外六角の角部が当接し大きな応力を生じさせ、内六角の面の当接部周辺及び当接部近傍における駆動プーリの外歯を変形させる虞がある。
【0005】
駆動プーリの外歯が変形すると、ベルト伝動装置の作動時において、歯付ベルトに発生する応力が出力軸の回転方向においてアンバランスとなり、作動音を発生させる虞がある。また、駆動プーリの外歯の変形により、電動モータの回転駆動力を従動プーリ側に効率よく伝達できない虞もある。
【0006】
これに対し、例えば、特許文献1に示すような、自転車に適用されるベルト伝動装置がある。このベルト伝動装置では、ペダルの回転軸に連結される内側伝動車8(設備入力軸に相当)が、複数の凹凸により形成される外歯を外周面全周に備えている。そして、その外歯の一部が、内周面全周に凹凸により形成されるベルトプーリ9(駆動プーリに相当)の内歯の一部と噛み合っている。これにより、内側伝動車の外歯とベルトプーリの内歯とは比較的大きな面積で接触可能であるので、内六角孔と外六角柱とが点又は線で接触した場合と比較して接触位置における発生応力を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、
図1に示す、内側伝動車8の外歯とベルトプーリ9の内歯との噛み合い状態を見ると、周方向における内側伝動車8の外歯の凸部の周方向における位相(即ち、ベルトプーリ9の内歯の凹部の位相)とベルトプーリ9の外歯の凹部(谷)の周方向における位相とが一致している部分がある。両者の位相が一致している当該部分は、一致していない他の部分と比べて肉厚が薄く変形しやすい。このため、両者の位相が一致している部分では、内側伝動車8の外歯の凸部がベルトプーリ9の内歯の凹部を変形させ、延いては、同じ位相にあるベルトプーリ9の外歯も同時に変形させる虞がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電動モータの出力軸に固定される駆動プーリの設備軸用孔に性能測定装置の設備入力軸を嵌合させ電動モータの性能を計測しても外歯が変形しない駆動プーリを備えたベルト伝動装置及びベルト伝動装置を備えたステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1.ベルト伝動装置)
本発明に係るベルト伝動装置は、ハウジングと、前記ハウジングに固定され、少なくとも先端側が前記ハウジングの内部に収容される出力軸を備えるモータと、前記ハウジングの内部において前記出力軸の前記先端側の端部に固定され、前記出力軸と一体で軸線周りに回転する筒状の駆動プーリと、前記ハウジングの内部において軸線周りに回転可能に支持される筒状の従動プーリと、前記駆動プーリが備える外歯と前記従動プーリが備える外歯とに内歯が噛合するよう前記駆動プーリと前記従動プーリとに巻き掛けられる環状の歯付ベルトと、を備える。
【0011】
前記駆動プーリは、前記出力軸の前記軸線方向において前記モータ側の端部から所定の第一範囲に亘って形成され、前記出力軸の前記先端側の端部が一体回転可能となるよう嵌合される第一孔と、前記出力軸の前記軸線方向において前記モータ側とは反対側の端部から所定の第二範囲に亘って形成される第二孔と、を備え、前記第二孔の内周面には、径方向外方に向かい形成される凸形状が周方向全周に亘って等間隔で複数形成され、前記第二孔の前記内周面の周方向における前記凸形状の頂部の位相である第一位相と、前記駆動プーリの前記外周面において隣り合う前記外歯間で形成される歯溝の底部の前記周方向における位相である第二位相と、は全く一致しないか又は一箇所のみ一致する。
【0012】
このように、駆動プーリの第二孔は、内周面に、径方向外方に向かい形成される凸形状が周方向全周に亘って等間隔で複数形成されている。このため、第二孔に対し隙間嵌めにて嵌合可能な外形形状で形成された設備入力軸が、第二孔に挿入され嵌合された状態では、設備入力軸と駆動プーリの第二孔とは大きな接触面積で接触可能である。これにより、性能計測時に、モータが作動し駆動プーリが設備入力軸に回転力を付与しても、設備入力軸と駆動プーリの第二孔との間に大きな応力は生じず、接触部の変形が効果的に抑制される。
【0013】
さらに、凸形状の頂部の位相である第一位相と歯溝の底部の位相である第二位相と、は全く一致しないか又は一箇所のみ一致する。換言すると、駆動プーリにおいて最も径方向における肉厚が薄くなる状態が全く存在しないか、若しくは一箇所のみ存在する。このため、第二孔の凸形状位置において、仮に変形が生じても凸形状の近傍に駆動プーリの外周の歯溝が全くないか、若しくは一箇所しかないため、外周面との間には十分な肉厚が確保され、外周面の変形を効果的に抑制できる。このように、第二孔の形状の工夫、及び凸形状および歯溝の配置位置の工夫によって、駆動プーリの外周の変形は効果的に抑制され、ベルト伝動装置の作動時における作動音が効果的に抑制できる。また、モータMの回転駆動力を従動プーリ側に効率よく伝達できる。
【0014】
(2.ステアリング装置)
本発明に係るステアリング装置は、上記ベルト伝動装置を備える。これにより、作動音が抑制されたステアリング装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置を示す概略図である。
【
図2】第一実施形態に係る
図1のベルト伝道装置及びボールねじ装置部分の拡大断面図である。
【
図4】駆動プーリの第二孔に性能測定装置の設備入力軸を挿入した図である。
【
図7】変形例3を説明する、
図5のP視
図1に対応する図である。
【
図8】変形例4を説明する、
図5のP視
図1に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1.第一実施形態>
以下、本発明にかかる第一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るベルト伝動装置が車両の電動パワーステアリング装置(ステアリング装置に相当)に適用された態様を例示する電動パワーステアリング装置の全体を示す図である。
【0017】
電動パワーステアリング装置は、操舵補助力によって操舵力を補助するステアリング装置である。なお、本発明に係るベルト伝動装置は、電動パワーステアリング装置の他に、4輪操舵装置、後輪操舵装置、ステアバイワイヤ装置など、ベルト伝動装置の適用が可能な様々な装置に適用できる。
【0018】
(1-1.ステアリング装置10)
電動パワーステアリング装置(以後、ステアリング装置10と称する)は、車両の転舵輪(図略)に連結される転舵シャフト20を転舵シャフト20の軸線方向と一致するA方向(
図1の左右方向)に往復移動させることにより、転舵輪の向きを変える装置である。
【0019】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ハウジング11と、ステアリングホイール12と、ステアリングシャフト13と、トルク検出装置14と、前述の転舵シャフト20と、ベルト伝動装置30と、ボールねじ装置40と、を備える。
【0020】
ハウジング11は、車両に固定される固定部材である。ハウジング11は、筒状に形成され、転舵シャフト20(ねじ軸に相当)をA方向に相対移動可能に挿通する。ハウジング11は、第一ハウジング11aと、第一ハウジング11aのA方向他端側(
図1中、左側)に固定された第二ハウジング11bとを備える。
【0021】
ステアリングホイール12は、ステアリングシャフト13の端部に固定され、車室内において回転可能に支持される。ステアリングシャフト13は、運転者の操作によってステアリングホイール12に加えられるトルクを転舵シャフト20に伝達する。
【0022】
ステアリングシャフト13の転舵シャフト20側の端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン13aが形成される。トルク検出装置14は、ステアリングシャフト13の捩れ量に基づいて、ステアリングシャフト13に加えられるトルクを検出する。
【0023】
転舵シャフト20は、A方向に延伸している。転舵シャフト20には、ラック22が形成される。ラック22は、ステアリングシャフト13のピニオン13aに噛合し、ピニオン13aとともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックアンドピニオン機構は、ステアリング装置10の用途に基づいて、ステアリングシャフト13と転舵シャフト20との間で伝達可能な最大軸力が設定される。
【0024】
また、転舵シャフト20は、ラック22とは異なる位置にボールねじ部23が形成される。ボールねじ部23は、後述するボールナット21とともにボールねじ装置40を構成する。なお、詳細については後述するが、ボールねじ装置40は、ベルト伝動装置30により操舵補助力を伝達される。転舵シャフト20の両端は、図略のタイロッドおよびナックルアーム等を介して左右の転舵車輪(図略)に連結され、転舵シャフト20のA方向への軸動によって転舵車輪が左右方向に操舵される。
【0025】
ベルト伝動装置30は、ベルト伝動装置30を構成する電動モータM(以後、モータMと称す)を駆動源として、ボールねじ装置40を介し転舵シャフト20に操舵補助力を付与する機構である。電動モータMは、制御部ECUによって回転を制御される。制御部ECUは、トルク検出装置14の出力信号に基づいて、操舵補助力を決定し、モータMの出力を制御する。そして、モータMの出力は、ベルト伝動装置30を介して、後述するボールねじ装置40に伝達される。なお、本発明に係るベルト伝動装置30については、後に詳述する。
【0026】
(1-2. ボールねじ装置)
図2に示すように、ボールねじ装置40は、主に第二ハウジング11b内に収容される。ボールねじ装置40は、転舵シャフト20のボールねじ部23,ボールナット21,及び複数の転動ボール24を備える。転舵シャフト20のボールねじ部23には、外周面に螺旋状に形成された外周転動溝20aが形成される。外周転動溝20aは、複数巻き巻回されて形成される。
【0027】
ボールナット21は、筒状に形成され、ボールねじ部23の外周側にボールねじ部23(転舵シャフト20)と同軸に配置される。ボールナット21は、第二ハウジング11bに対して相対回転可能となるよう、他端側(
図2において左側)を、ボールベアリング33を介して第二ハウジング11bの内周面11b1に支持される。
【0028】
このとき、ボールナット21は、軸線が転舵シャフト20の軸線L2と同軸となるよう、ボールベアリング33を介して第二ハウジング11b(ハウジング11)の内周面11b1に支持され、モータMの出力軸37の軸線L1と平行に配置される。
【0029】
ボールナット21の内周面は、螺旋状に形成された内周転動溝21aを備える。内周転動溝21aは、複数巻き巻回され形成される。そして、ボールねじ部23の外周転動溝20aとボールナット21の内周転動溝21aとが対向して配置され、外周転動溝20aと内周転動溝21aとの間で複数の転動ボール24が転動する転動路R1が形成される。
【0030】
複数の転動ボール24は、転動路R1内に転動可能に配列される。これにより、ボールねじ部23(転舵シャフト20)の外周転動溝20aと、ボールナット21の内周転動溝21aとが、複数の転動ボール24を介して螺合する。そして、モータMの出力軸37が回転駆動され、ボールナット21がベルト伝動装置30を介して回転駆動されると、転舵シャフト20(転舵軸)が複数の転動ボール24を介して軸方向に移動される。
【0031】
なお、転動路R1を転動する複数の転動ボール24は、ボールナット21に設けられる図略の一対のデフレクタ(図略)によって無限循環される。ただし、デフレクタによる転動ボール24を無限循環させる技術は公知であるので、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0032】
(1-3.ベルト伝動装置30)
図1、
図2に示すように、ベルト伝動装置30は、ケース31及び前述した第二ハウジング11b(いずれもハウジング)と、モータMと、モータMを制御し駆動する制御部ECUと、ボールベアリング32,32と、筒状の駆動プーリ36と、筒状の従動プーリ34と、環状の歯付ベルト35と、を備える。
【0033】
図2に示すように、ケース31は、ハウジング11の第一ハウジング11aに一体的に固定される。ケース31は、概ね円筒状に形成される。ケース31は、モータM、及びモータMを制御し駆動する制御部ECU(
図1参照)を円筒内部に収容する。制御部ECUは、トルク検出装置14の出力信号に基づいて、操舵補助力を決定し、モータMの出力を制御する制御部である。
【0034】
モータMは、
図2に示すように、ステータStとロータRtと、を備える。ステータStは、円筒状に形成される。ステータStは、外周面がケース31の内周面31aに所定の手段によって固定される。このとき、所定の固定手段はどのようなものでもよい。ロータRtは、円筒状に形成される。ロータRtは、外周面がステータStの内周面と一定の隙間(ギャップ)を有して対向し、且つ出力軸37と一体回転可能となるよう内周面が出力軸37の外周面に所定の手段で固定される。所定の固定手段はどのようなものでもよい。
【0035】
また、出力軸37は、ロータRtの軸方向両外側部分が、ケース31に設けられるボールベアリング32,32を介してケース31の内周面31aに支持される。このとき、出力軸37は、軸線L1が転舵シャフト20の軸線L2と平行となるよう配置される。また、出力軸37の軸線L1は、ステータStの軸線と同軸となるよう配置される。
【0036】
このように、出力軸37は、軸線方向全長に亘って円柱状に形成され、ボールベアリング32,32に一端側(
図2において右側)を片持ち支持されて、軸線周りに回転可能に支承される。また、出力軸37は、他端側(先端側)が第二ハウジング11b(ハウジング)の内部に収容され、モータMで発生する回転駆動力を出力する。なお、
図2において、ボールベアリング32,32は、深溝玉軸受を例示している。しかし、ボールベアリング32,32は、アンギュラ玉軸受やその他の玉軸受であっても良い。
【0037】
駆動プーリ36は、筒状に形成され、出力軸37の他端側(
図2において左側)である先端側の端部に、出力軸37と軸線周りに一体回転可能に固定される。駆動プーリ36は、例えば鉄系の金属材料によって焼結又は切削加工等により形成される。また、駆動プーリ36は、外周面にはす歯の外歯36eが形成されている。なお、本発明に係る駆動プーリ36の詳細については、後に述べる。
【0038】
従動プーリ34は、第二ハウジング11b(ハウジング)の内部において軸線L2周りに回転可能に支持される。詳細には、従動プーリ34は、略円筒形状に形成され、上述したボールナット21の一端側(
図2における右側)である自由端側の外周側に、ボールナット21と一体回転可能に配置される。従動プーリ34の外周面には、はす歯の外歯34aが形成される。従動プーリ34は、例えば鉄系の金属によって形成される。
【0039】
従動プーリ34が備える外歯34aと駆動プーリ36が備える外歯36eとの間には、環状の歯付ベルト35が巻き掛けられる。また、従動プーリ34の軸方向両端には、従動プーリ34に歯付ベルト35を巻き掛けられた後、歯付ベルト35が軸方向に移動して従動プーリ34から脱落することを防止する鍔付円環部材38,38が固定されている。ただし、鍔付円環部材38,38は、なくてもよい。
【0040】
図4,
図5に示す歯付ベルト35は、伸長可能なゴム等の材料(材質)によって環状に形成される。
図4に示すように、歯付ベルト35は、環状の内周面に、はす歯で形成される内歯35aを備える。内歯35aは、歯のピッチが歯付ベルト35の幅方向に亘って一定に形成される。内歯35aの形状は、JIS B 6372(一般用歯付ベルト)に基づき形成される。内歯35aは、駆動プーリ36の外歯36e、及び従動プーリ34の外歯34aと良好に噛合可能となるよう形成される。
【0041】
歯付ベルト35は、例えば、背ゴム(クロロプレンゴム等),歯ゴム(クロロプレンゴム等),心線(グラスファイバー、アラミド等)及び歯布(ナイロン帆布等)によって形成される。ただし、この態様には限らず、歯付ベルト35は、伸長可能であればどのような材料を用いて形成してもよい。
【0042】
(1-4.駆動プーリ36)
次に、本発明に係る駆動プーリ36の形状について詳細に説明する。
図2及び
図3の断面図に示すように、本実施形態において、駆動プーリ36は、出力軸37の軸線方向において、第一孔36aと第二孔36bとを備える。
【0043】
(1-4-1.第一孔36a)
図3に示すように、第一孔36aは、出力軸37の軸線方向においてモータM側の端面(端部)から所定の第一範囲Ar1に亘って円筒形状で形成される。第一孔36aには、出力軸37と駆動プーリ36とが一体回転可能となるよう出力軸37の先端側の端部が圧入され嵌合される。
【0044】
(1-4-2.第二孔36b)
また、第二孔36bは、出力軸37の軸線方向においてモータM側とは反対側の端面(端面)から所定の第二範囲Ar2に亘って形成される。第二範囲Ar2の軸方向長さは、第一範囲Ar1の軸方向長さよりも短い。詳細には、第一範囲Ar1は、駆動プーリ36の軸線方向における全長の大半を占め、第二範囲Ar2の長さは、例えば、2mm以下であり、好ましくは1.5mm程度である。但し、この態様に限らず、第二範囲Ar2の長さは、2mmを超えていてもよい。
【0045】
第二孔36bは、第一孔36aに出力軸37の先端部が圧入され、駆動プーリ36がモータMの出力軸37の先端部に固定された状態において、
図4に示す性能測定装置Zの設備入力軸Z1を駆動プーリ36と同軸になるよう挿入し嵌合させてモータMの性能を計測するための孔である。性能測定装置Zにより計測するモータMの性能の種類は限定しないが、例えば、電動モータMの回転トルク等が計測される。
【0046】
図3におけるP視図である
図5,6に示すように、本実施形態において、第二孔36bの内周面は、径方向外方に向かい形成される凸形状Sが周方向全周に亘り、等間隔で16個(複数に相当)形成されている。つまり、第二孔36bの内周面では、凸形状Sは第二孔36bの内周面における凹部であり、凸形状Sによって歯溝36cが形成される。そして、本実施形態では、軸線に沿って形成される歯溝36cは軸線と平行に形成されている。
【0047】
また、凸形状S(歯溝36c)は、JISB1603に基づきインボリュート曲線で形成されたインボリュートスプラインで形成される(
図5、
図6参照)。なお、第二孔36bの内周面に形成されたインボリュートスプラインは、以降においては、内歯36b1とも称する。従って、内歯36b1は、周方向全周に亘り等間隔で形成された16個の凸形状Sからなる歯溝36cと、隣り合う凸形状S(歯溝36c)の間に形成される歯である歯すじ36dと、で形成されている。歯すじ36dも歯溝36cと同様、軸線と平行に形成される。
【0048】
なお、上記において、第二孔36bの内歯36b1における凸形状Sの数は16個であると説明したが、これはあくまで一例である。凸形状Sの数は、後に説明する駆動プーリ36の外周面に形成される外歯36eにおける歯の数との関係において、所定の条件を満たしさえすれば、16個以外であってもよい。所定の条件については、後に説明する。
【0049】
上述したように、設備入力軸Z1の外周面の外歯Z2は、インボリュートスプライン(図略)によって形成され、内歯36b1と隙間嵌めによって嵌合可能である。つまり、第二孔36bには、性能測定装置Zの設備入力軸Z1の端部の外周面が、第二範囲Ar2の範囲内の深さで嵌合する。そして、設備入力軸Z1の外歯Z2と第二孔36bの内歯36b1とは、インボリュートスプラインの歯面同士が接触する「歯面合わせ」(JISB1603)にて嵌合される。これにより、設備入力軸Z1の外歯Z2と内歯36b1とは、嵌合時において歯面同士が十分な面積で接触可能となる。
【0050】
(1-4-3.外歯)
次に、駆動プーリ36の外周面に形成される外歯36eについて説明する。
図5,
図6に示すように、駆動プーリ36の外周面には、周方向全周に亘って、径方向外方に突設される複数の凸部Wにより外歯36eの歯である歯すじ36fが形成される。このとき、周方向において隣り合う、歯すじ36f同士の間には、複数の歯溝36gが形成されている。
【0051】
また、上述したように、外歯36eは、はす歯であり、複数の歯すじ36fは、駆動プーリ36の軸線に対して所定の角度を有して形成される(図略)。外歯36eの歯形の形状等は、基本的にJISB1856(歯付プーリの規格)に基づき形成される。
【0052】
即ち、外歯36eは、複数の歯すじ36fと、周方向で隣り合う、歯すじ36fの間で形成される複数の歯溝36gとによって、環状の歯付ベルト35の内歯35aと噛み合う歯面が形成される。そして、本実施形態では、歯すじ36f及び歯溝36gは、周方向全周に亘って、それぞれ37個(複数に相当)形成される。このとき、第二孔36bの内歯36b1の凸形状Sの数(16)と、歯溝36gの数(37)とは、1以外の公約数を有さない「素の関係」にある。
【0053】
(1-4-4. 内歯36b1と外歯36eとの関係)
このように、内歯36b1の凸形状Sの数と、外歯36eの歯溝36gの数とは、「素の関係」にあればよく、この関係を満たすことが条件となる。このため、内歯36b1の凸形状Sの数と、外歯36eの歯溝36gの数との組み合わせは、この関係を満たせばどのような組み合わせであってもよい。
【0054】
さらに、本実施形態では、第二孔36bの内周面の周方向における凸形状Sの頂部Tの位相である第一位相β1と、駆動プーリ36の外周面の周方向における歯溝36gの底部Qの位相である第二位相β2と、は全く一致しないことが条件となる。なお、凸形状Sの頂部Tの第一位相β1とは、凸形状Sの頂点における位相である。
【0055】
但し、この態様に限らず、頂部Tの第一位相β1は、周方向において所定の幅を有していてもよい。この場合、頂部Tの位相は、a°~b°という幅を有する。この場合において、第一位相β1と第二位相β2とが「一致しない」とは、位相の所定の幅が全く重複しない状態であると定義してもよい。また、位相の所定の幅のうち、一部同士が重複した状態であっても、すべての幅同士が完全に重複しない状態を、「一致しない」状態であると定義してもよい。このように、所定の幅は、各自で設定すればよい。
【0056】
具体的には、駆動プーリ36を設計する際、
図5、
図6に示すように、第二孔36bの内周面の周方向における凸形状Sの第一位相β1及び駆動プーリ36の外周面における歯溝36gの第二位相β2と、が周方向において全く一致しない位置を探り、外周面の歯溝36gの位相(位置)に対する第二孔36bの内周面の周方向における凸形状Sの位相(位置)を設定すればよい。本実施形態では、凸形状Sの数(37)と、外歯36eの歯溝36gの数(16)とは、1以外の公約数を有さない「素の関係」にあるため、そのような位置関係は容易に探索可能である。
【0057】
このように設定することにより、駆動プーリ36の内周面と外周面との間において、最も肉厚が薄くなる、凸形状Sの第一位相β1と歯溝36gの第二位相β2とが一致した状態を容易に回避することができる。
【0058】
(1-5.作用)
上述したように、ベルト伝動装置30では、性能測定装置Zによって、モータMの性能を計測する際、インボリュートスプラインによって形成された駆動プーリ36の第二孔36bに、外周がインボリュートスプラインによって形成された性能測定装置Zの設備入力軸Z1が隙間嵌めにて嵌合される。そして、モータMの出力軸37が回転作動され、出力軸37の端部に固定された駆動プーリ36を軸線周りに回転させる。このとき、設備入力軸Z1の外歯Z2と内歯36b1の凸形状Sとは、上述したように歯面同士が十分大きな面積で接触する。
【0059】
これにより、設備入力軸Z1の外歯Z2と内歯36b1との接触部において接触面圧が抑制され、第二孔36bが、設備入力軸Z1から受ける応力が低減される。従って、設備入力軸Z1から受ける応力によって、第二孔36bにおける設備入力軸Z1との接触部が変形し、延いては変形した接触部近傍の駆動プーリ36の外周面が変形する虞はなく、ベルト伝動装置30が作動した際、作動音が生じる虞を抑制できる。
【0060】
また、上述したように、設備入力軸Z1の外歯Z2と内歯36b1の凸形状Sとは、歯面同士が十分大きな面積で接触することで接触部における面圧を低減させることができる。このため、従来と比べ、設備入力軸Z1を第二孔36bに挿入し嵌合させる深さを短くすることができる。これにより、駆動プーリ36の全長を短縮できるので搭載性の向上や、軽量化を図ることもできる。
【0061】
また、上記に加え、第二孔36bの内周面の周方向における凸形状Sの第一位相β1及び駆動プーリ36の外周面の歯溝36gの第二位相β2は、周方向において全く一致しないよう設定される。なお、駆動プーリ36において、第一位相β1と第二位相β2とが一致する位置は、径方向において駆動プーリ36の肉厚が最も薄くなる位置である。
【0062】
上記を実現させるため、本実施形態においては、第二孔36bの内周面の凸形状の数(16)と、外歯36eの歯溝36gの数(37)とは、「素の関係」とした。これにより、肉厚が最も薄くなる第一位相β1と第二位相β2とが一致する状態を容易に回避でき、駆動プーリ36の外周面の変形をさらに効果的に抑制できる。
【0063】
従って、ステアリング装置10の作動に応じて、ベルト伝動装置30が作動しても、歯付ベルト35に発生する応力が出力軸37の回転方向においてアンバランスとはならず、駆動プーリ36の外歯と歯付ベルト35との噛み合い状態が不安定となって作動音が生じる虞はない。また、モータMの回転駆動力を従動プーリ側に効率よく伝達できる。
【0064】
<2.その他の実施形態>
(2-1.変形例1)
なお、上記第一実施形態では、第一位相β1と第二位相β2とが周方向全周において、一箇所も一致しないよう設定する態様について述べたが、この態様には限らない。変形例1(図略)として、第一位相β1と第二位相β2とが周方向全周において、一箇所だけ一致するよう設定してもよい。このときも、第二孔36bの凸形状Sの数(例えば、16)と、外歯36eの歯溝36gの数(例えば、37)とは、「素の関係」にある。
【0065】
このため、位相を一点のみ一致させても、他の位相は一切一致しない。但し、第一位相β1と第二位相β2とを一致させた位置のみ、駆動プーリ36の径方向における肉厚が薄くなり、外歯36eに若干の変形が生じる虞はある。しかしながら、変形は、駆動プーリ36の外周において一箇所だけである。このため、たとえ、ベルト伝動装置30の作動時において、歯付ベルト35に発生する応力が出力軸37の回転方向の一箇所において変動しても、複数の変形により共振的に振動するようなモードは生じないため、作動音の発生を十分抑制できる。
【0066】
(2-2.変形例2)
また、上記第一実施形態では、第二孔36bの内周面の凸形状Sの数と、外歯36eの歯溝36gの数とは、「素の関係」にあるものとした。しかしこの態様には限らない。変形例2(図略)として、凸形状Sの数と、外歯36eの歯溝36gの数とは、同数であってもよい。この場合、第一位相β1と第二位相β2とが周方向において一点でも一致するとすべての位相が一致してしまう。しかしながら、一箇所ずらせば、全ての位相が一致することはない。このように、全ての位相をずらす設定が容易にできる。これにより、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0067】
(2-3.変形例3、4)
また、上記第一実施形態では駆動プーリ36の第二孔36bの内周面の凸形状Sはインボリュートスプラインによって形成されるものとして説明したが、この態様には限らない。
図7に示すように、変形例3として、凸形状Sは、周方向において、単なる矩形の凹凸形状であるローレット形状で形成されていてもよい。また、
図8に示すように、変形例4として、凸形状Sは、単なる三角形形状であってもよい。これらによっても、設備入力軸の外周面が六角形で形成された従来技術に対し、第二孔36bと設備入力軸Z1とが相互に接触する面積を大きくできるので、接触部の面圧が低減でき、駆動プーリ36の外周面の変形が相応に抑制できる。
【0068】
(2-4.変形例5)
また、上記第一実施形態では、駆動プーリ36の第一孔36aは、出力軸37の軸線方向においてモータM側の端面から所定の第一範囲Ar1に亘って円筒形状で形成され、出力軸37の先端側の端部が圧入され嵌合されると説明した。しかしながら、この態様には限らない。変形例6として、駆動プーリ36の第一孔36aの内周面の周方向全周においては、第二孔36bの内周面に形成された凸形状Sと同様の凸形状が等間隔で、且つ所定の第一範囲Ar1に亘り形成されていてもよい。
【0069】
換言すると、第一孔36a及び第二孔36bにおいて、軸線と直交する面で切断した凸形状の断面形状が同じであってもよい。また、上記の凸形状は、インボリュートスプラインであってもよいし、ローレット形状や三角形形状であってもよい。そして、このとき、第一孔36aの凸形状と、第二孔36bの凸形状Sとは駆動プーリ36の軸方向における全長に亘って連続的に接続されて形成されることが好ましい。
【0070】
そして、出力軸37の先端側の端部が隙間嵌めによって第一孔36aに嵌合される。このとき、駆動プーリ36が出力軸37に対して軸線方向に移動しないよう所定の固定手段を設けてもよい。これによって、駆動プーリ36が出力軸37に容易に固定できる。なお、出力軸37は、第一孔36aに圧入によって嵌合されてもよい。
【0071】
(2-5.変形例6)
また、上記第一実施形態では、駆動プーリ36の第二孔36bでは、凸形状Sで形成される歯溝36cの軸線に対する角度が平行になるよう形成されたが、この態様には限らない。変形例6(図略)として、第二孔36bにおける歯溝36cの軸線に対する角度は、はす歯である駆動プーリ36の外歯36eの歯すじ36fと平行であってもよい。このようにすることにより、例えば、第二孔36bにおいて凸形状Sで形成される歯溝36cの延在長さが比較的長く設定された場合に、凸形状Sで形成される歯溝36cの第一位相β1と、軸線に対する角度が異なる外周面の歯溝36gの第二位相β2とが交差して一致することを回避できる。
【0072】
また、上記実施形態によれば、ステアリング装置10が、上記実施形態のベルト伝動装置30を備える。これにより、作動音が抑制されたステアリング装置が得られる。
【0073】
(3.第一実施形態による効果)
上記第一実施形態によれば、ベルト伝動装置30の駆動プーリは、出力軸37の軸線方向においてモータ側の端部から所定の第一範囲に亘って形成され、出力軸37の先端側の端部が一体回転可能となるよう嵌合される第一孔36aと、出力軸37の軸線方向においてモータM側とは反対側の端部(端面)から所定の第二範囲Ar2に亘って形成される第二孔36bと、を備え、第二孔36bの内周面には、径方向外方に向かい形成される凸形状Sが周方向全周に亘って等間隔で複数(16)形成され、第二孔36bの内周面の周方向における凸形状Sの頂部Tの位相である第一位相β1と、駆動プーリ36の外周面において隣り合う、歯すじ36f間で形成される歯溝36gの底部の周方向における位相である第二位相β2と、は全く一致しないか又は1箇所のみ一致する。
【0074】
このように、駆動プーリ36の第二孔36bは、内周面に、径方向外方に向かい形成される凸形状Sが周方向全周に亘って等間隔で複数形成されている。このため、第二孔36bに対し隙間嵌めにて嵌合可能に形成された設備入力軸Z1が、第二孔36bに挿入され嵌合された状態では、設備入力軸Z1と駆動プーリ36の第二孔36bとは大きな接触面積で接触可能である。これにより、性能測定時に、モータMが作動し駆動プーリ36が設備入力軸Z1に回転力を付与しても、設備入力軸Z1と駆動プーリ36の第二孔36bとの間に大きな応力は生じず、接触部の変形が効果的に抑制される。
【0075】
さらに、凸形状Sの頂部Tの位相である第一位相β1と歯溝36gの底部の位相である第二位相β2と、は全く一致しないか又は一箇所のみ一致する。換言すると、駆動プーリ36において最も径方向における肉厚が薄くなる状態が全く存在しないか、若しくは一箇所のみ存在する。このため、第二孔36bの凸形状位置において、仮に変形が生じても凸形状Sの近傍に駆動プーリ36の外周の歯溝36gが全くないか、若しくは一箇所しかないため、外周面との間には十分な肉厚が確保され、外周面の変形を効果的に抑制できる。なお、一箇所のみ近傍に歯溝36gがある場合には、外周面に変形が生じる虞はあるが、周方向において一箇所にのみ生じた変形によりベルト伝動装置30の作動時における作動音が大きくなる虞が低いことはわかっているため問題ない。このように、第二孔36bの形状の工夫、及び凸形状Sおよび歯溝36gの配置位置の工夫によって、駆動プーリ36の外周の変形は効果的に抑制され、ベルト伝動装置30の作動時における作動音が効果的に抑制できる。
【0076】
また、上記第一実施形態では、周方向全周における第二孔36bの凸形状Sの数、及び駆動プーリ36の外周面における歯すじ36f間の歯溝36gの数は、相互に素の関係にある。このため、肉厚が最も薄くなる第一位相β1と第二位相β2とが一致する状態を容易に回避でき、駆動プーリ36の外周面の変形をさらに効果的に抑制できる。
【0077】
また、上記第一実施形態では、第二孔36bの凸形状Sは、インボリュートスプラインで形成される。第二孔36bは、第一孔36aに出力軸37の先端部が圧入され、駆動プーリ36がモータMの出力軸37の先端部に固定された状態において、
図4に示す性能測定装置Zの設備入力軸Z1を駆動プーリ36と同軸になるよう挿入し嵌合させてモータMの性能を計測するための孔である。このため、設備入力軸Z1の外周面形状をインボリュートスプラインで形成された第二孔36bの凸形状Sと隙間嵌めにて嵌合可能に形成すれば、設備入力軸Z1と第二孔36bとは大きな接触面積で良好に嵌合できる。これにより、モータMの性能測定時に、モータMが作動し駆動プーリ36が設備入力軸Z1に回転力を付与しても、設備入力軸Z1と駆動プーリ36の第二孔36bとの間に大きな応力は生じず、接触部の変形が効果的に抑制される。
【0078】
また、上記第一実施形態では、駆動プーリ36の外歯36e、従動プーリ34の外歯34a及び歯付ベルト35の内歯35aはいずれも相互に噛合可能なように、はす歯で形成されている。しかしながらこの態様には限らない。外歯36e、外歯34a及び内歯35aは各回転軸と平行な歯によって形成されてもよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0079】
また、上記第一実施形態では、駆動プーリ36の第一孔36aは円筒孔であり、モータMの出力軸37は、第一孔36aに圧入されて嵌合される。これにより、駆動プーリ36及び出力軸37が安価に製造できる。
【符号の説明】
【0080】
10;ステアリング装置、 11;ハウジング、 11a;第一ハウジング、 11b;第二ハウジング、 21;ボールナット、 30;ベルト伝動装置、 31;ケース、 31a;内周面、 35;歯付ベルト、 35a;内歯、 36;駆動プーリ、 36a;第一孔、 36b;第二孔、 36b1;内歯、 36c;歯溝、 36e;外歯、 36g;歯溝、 37;出力軸、 Ar1;第一範囲、 Ar2;第二範囲、 L1;軸線、 L2;軸線、 M;電動モータ(モータ)、 Q;底部、 S;凸形状、 T;頂部、 W;凸部、 Z;性能測定装置、 Z1;設備入力軸、 Z2;外歯、 β1;第一位相、 β2;第二位相。