(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111511
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】水草繁茂抑制具
(51)【国際特許分類】
A01M 21/00 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
A01M21/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006972
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】500500446
【氏名又は名称】松江土建株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】増木 新吾
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】古島 剛
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA19
2B121BB27
2B121BB30
2B121BB32
2B121EA30
2B121FA01
2B121FA12
(57)【要約】
【課題】効率的かつ効果的な防藻、水草繁茂抑制技術を提供すること。
【解決手段】 枝状に分岐する糸状体からなるシオグサその他の藻を着床させるための網目121の形成された網シート12が山条同士を平行として所定周期の波形に曲げられた形状を有する、堀や湖沼の水底に敷設する防藻シート10により構成され、波形の起伏方向にもこれに垂直な山条方向にも防藻シートの一部を重ねて延設可能にしたことを特徴とする、水底から生えるツツイトモその他の水草の繁茂を抑制する水草繁茂抑制具1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枝状に分岐する糸状体からなるシオグサその他の藻を着床させるための網目の形成された平板体が山条同士を平行として所定周期の波形に曲げられた形状を有する、堀や湖沼の水底に敷設するユニットにより構成され、波形の起伏方向にもこれに垂直な山条方向にもユニットの一部を重ねて延設可能にしたことを特徴とする、水底から生えるツツイトモその他の水草の繁茂を抑制する水草繁茂抑制具。
【請求項2】
波形における谷から山までの高さは5cm以上25cm以下、波の周期は20cm以上70cm以内であることを特徴とする請求項1に記載の水草繁茂抑制具。
【請求項3】
ユニットは、樹脂製であり予め波形に成形されたものであること、または、樹脂製の矩形の平板体の対向する端辺を前記波形の周期をもつ鋼棒に沿わせて取り付けたものであること、を特徴とする請求項1または2に記載の水草繁茂抑制具。
【請求項4】
枝状に分岐する糸状体からなるシオグサその他の藻を着床させるための網目の形成された平板体の一方向とこれに直交する方向とにそれぞれ所定周期にて同一形状のくぼみを有する、堀や湖沼の水底に敷設するユニットにより構成され、いずれの方向にもくぼみを重ねて延設可能にしたことを特徴とする、水底から生えるツツイトモその他の水草の繁茂を抑制する水草繁茂抑制具。
【請求項5】
くぼみの深さは5cm以上25cm以下、周期は二方向とも20cm以上70cm以内であることを特徴とする請求項4に記載の水草繁茂抑制具。
【請求項6】
編目は、直径9mmの球は通過し直径40mmの球は通過しない形状ないし大きさであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の水草繁茂抑制具。
【請求項7】
ユニットは、略矩形であり縦幅と横幅とが1m以上3m以下、重量が20kg以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載の水草繁茂抑制具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類の特性を利用して水底から生える水草の繁茂を抑制する防藻技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、堀まわりや湖沼の浅瀬では、夏になると水草が繁茂し、水の流れが緩やかなため、大量発生した後は腐って悪臭を放ち、また、ヘドロ化して底質環境を悪化させていた。
また、堀めぐりのような遊覧船については、藻がスクリューに絡み、夏場の運行に支障が生じる場合があった。
従って、藻刈船を使ったり、水際から重機を使ったりすることで除草し、環境改善が図られていた。
【0003】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
重機を用いることができる場所は限られており、本質的な改善につながらないという問題点があった。
藻刈船を用いる場合も、水草のほとんどが水分であって、すぐ船が満杯になり、捨て場との往復もあるため、効果的な除草とならないという問題点があった。多数の藻刈船があればよいが、夏場しか稼働せず、保管場所も必要なため、たとえば、地方自治体では複数艘の導入をしづらいという問題点があった。また、動力を用いるため船の大きさがある程度大きくならざるを得ず、船が入っていけない浅瀬や狭い場所、曲がっている場所などでは刈り残しなどが生じ、ここから水草が勢いよく伸びるため、いたちごっことなりやすいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-120115
【特許文献2】特開2017-175963
【特許文献3】特開2006-110536
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、効率的かつ効果的な防藻、水草繁茂抑制技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の水草繁茂抑制具は、枝状に分岐する糸状体からなるシオグサその他の藻を着床させるための網目の形成された平板体が山条同士を平行として所定周期の波形に曲げられた形状を有する、堀や湖沼の水底に敷設するユニットにより構成され、波形の起伏方向にもこれに垂直な山条方向にもユニットの一部を重ねて延設可能にしたことを特徴とする、水底から生えるツツイトモその他の水草の繁茂を抑制する水草繁茂抑制具である。
【0007】
すなわち、請求項1にかかる発明は、容易に設置でき水際を含めて任意形状を事実上被覆可能であって、網目に着床して広がる藻により遮光性をたかめ、底からの水草の生長を抑制することができる。これにより、効率的かつ効果的に水草の繁茂を抑制できる。
水底近くに事実上浮かせることで、ユニット下も溶存酸素濃度の低下を招来せず底質環境を悪化させない。
なお、環境改善が必要な水域は、堀や湖沼といった水の流れが緩やかな場所であることが大半で、このような水域には、シオグサ等の綿のような芥のようなふわふわした藻も流されず繁茂する。本発明は、この手の藻の成長特性を利用して、水底付近で遮光し、ツツイトモのように水底に根や地下茎を張り水面を覆うほど水中に大量に広がっていくタイプの水草の発芽および成長を抑制する。
【0008】
ユニットが波形であることにより構造的な強度を持たせることができ、ねじれたりたわんだりしにくくなる。また、ユニットそれぞれは、波形の周期が同一であるため、事実上重ね合わせるだけで簡便に連結できる。波形は正弦関数のような山と谷が同じ形であるほか、山領域の幅が広く、谷領域の幅が狭いような形でもよい。
網目の形状は、三角形(正三角形を含む)、長方形(正方形を含む)、平行四辺形(菱形を含む)、正六角形などを挙げることができる。また、パンチメタルのような円形孔であってもよい。網は、充填成形や打抜きのように平面基調に形成されていてもよく、また、金網の様に立体的な交差により形成されていてもよい。
平板体は、取扱性や敷設面積、コストの観点から樹脂製とする例を挙げることができるがこれに限定されない。
枝状に分岐する糸状体からなる藻の例としては、スティゲオクロニウムやツルギミドロの例を挙げることができる。なお、シオグサは網目を塞ぐ例として観念しやすい例として挙げたものであって、本願請求項にいう藻は、網目を充填して遮光性を高めるものであれば特に限定されず、分枝しないがアオミドロ等も含まれるものとする。
【0009】
請求項2に記載の水草繁茂抑制具は、請求項1に記載の水草繁茂抑制具において、波形における谷から山までの高さは5cm以上25cm以下、波の周期は20cm以上70cm以内であることを特徴とする。
【0010】
すなわち、請求項2にかかる発明は、敷設安定性を維持しつつ効果的な繁茂抑制を実現する。
【0011】
波の周期(波の間隔)が70cmを超えると水流によりあおられる(めくれる)可能性が高まり、20cm未満であると、水底に着いている谷面積が相対的に大きくなり通水性が悪くなる(底質環境を悪化させる可能性が出てくる)。また、高さが25cmをこえると水流によりあおられる可能性が高まり、また、水際では水面から露出して遮光効果が得られなくなる。高さが5cm未満であると通水性が悪くなる。
【0012】
請求項3に記載の水草繁茂抑制具は、請求項1または2に記載の水草繁茂抑制具において、ユニットは、樹脂製であり予め波形に成形されたものであること、または、樹脂製の矩形の平板体の対向する端辺を前記波形の周期をもつ鋼棒に沿わせて取り付けたものであること、を特徴とする。
【0013】
すなわち、請求項3にかかる発明は、簡単に製造することができる。また、市販品を組み合わせて作ることもできる。また、安価に大量生産することもできる。
【0014】
波形の鋼棒は必要箇所を説明したものであり、枠として形成し平板体を組み合わせて波板形状のユニットとしても当然よい。
【0015】
請求項4に記載の水草繁茂抑制具は、枝状に分岐する糸状体からなるシオグサその他の藻を着床させるための網目の形成された平板体の一方向とこれに直交する方向とにそれぞれ所定周期にて同一形状のくぼみを有する、堀や湖沼の水底に敷設するユニットにより構成され、いずれの方向にもくぼみを重ねて延設可能にしたことを特徴とする、水底から生えるツツイトモその他の水草の繁茂を抑制する水草繁茂抑制具である。
【0016】
すなわち、請求項4にかかる発明は、水底の曲面等にも追従して容易に設置でき水際を含めて任意形状を事実上被覆可能であって、網目に着床して広がる藻により遮光性をたかめ、底からの水草の生長を抑制することができる。これにより、効率的かつ効果的に水草の繁茂を抑制できる。
水底近くに事実上浮かせることで、ユニット下も溶存酸素濃度の低下を招来せず底質環境を悪化させない。
【0017】
ユニットそれぞれは、縦横の周期がそれぞれ一定であるため、事実上重ね合わせるだけで簡便に連結できる。
網目の形状は、三角形(正三角形を含む)、長方形(正方形を含む)、平行四辺形(菱形を含む)、正六角形などを挙げることができる。また、パンチメタルのような円形孔であってもよい。網は、打抜きや充填成形のように平面基調に形成されていてもよく、また、金網の様に立体的な交差により形成されていてもよい。
平板体は、取扱性や敷設面積の観点から樹脂製とする例を挙げることができるがこれに限定されない。
くぼみの形状は、スタック可能にへこんでいれば特に限定されないが、たとえば、水底に向けて縮径する有底四角錐や有底円錐とすることができる。また、網目の平板体には孔だけを空けておき、別途、くぼみ部分をはめて一体化してもよい。このとき、ところどころでコンクリート等の中実のくぼみ体を嵌め込み、敷設作業の際に現場に即したユニットないし水草繁茂抑制具を形成してもよい。
【0018】
請求項5に記載の水草繁茂抑制具は、請求項4に記載の水草繁茂抑制具において、くぼみの深さは5cm以上25cm以下、周期は二方向とも20cm以上70cm以内であることを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項5にかかる発明は、敷設安定性を維持しつつ効果的な繁茂抑制を実現する。
【0020】
周期(くぼみの間隔)が70cmを超えると水流によりあおられる(めくれる)可能性が高まり、20cm未満であると、水底に着いている面積が大きくなり通水性が悪くなる(底質環境を悪化させる可能性が出てくる)。また、高さが25cmをこえると水流によりあおられる可能性が高まり、また、水際では水面から露出して遮光効果が得られなくなる。高さが5cm未満であると通水性が悪くなる。
【0021】
請求項6に記載の水草繁茂抑制具は、請求項1~5のいずれか1つに記載の水草繁茂抑制具において、編目は、直径9mmの球は通過し直径40mmの球は通過しない形状ないし大きさであることを特徴とする。
【0022】
すなわち、請求項6にかかる発明は、適度な網目とすることで、ユニット下の溶存酸素濃度の低下もたらすことなく、網目を好適に塞ぎ遮光性を高めることが可能となる。
【0023】
なお、網目が複数種の形状ないし大きさの目により形成される場合は、最大の形状ないし大きさの目について規定されるものとする。
9mmより小さい球も通過させる目であると敷設位置より下の層の溶存酸素濃度の低下を招来し底質環境が悪くなり、40mmより大きな球も通過させる目であると目の中央部分の藻が薄くなり遮光性が弱まる。
【0024】
請求項7に記載の水草繁茂抑制具は、請求項1~6のいずれか1つに記載の水草繁茂抑制具において、ユニットは、略矩形であり縦幅と横幅とが1m以上3m以下、重量が20kg以下であることを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項7にかかる発明は、人力による敷設を可能とする。特に掘などは機械を入れることができない場合が多く、この大きさ・重さとすることにより、人力による好適な作業を実現する。なお、人力による敷設とは、抱えて水の中を進んでおこなう態様の他、ユニット群を船に乗せ、船から投げ込むことも含まれる。
ユニットの最低重量は特に制限はないが、5kgとすることができる。ユニットは、水に沈降していく比重であることはいうまでもない。適宜押さえ用の重りや石を上から投下してもよく、場合により、かすがい様の止めを底にむけて打ち込んでも良い。
なお、請求項4のようなくぼみがある場合は、このくぼみと同形のコンクリート部材を重しとして適当な間隔ではめるようにしてもよい。また、くぼみの底に孔をあけ、ここに有頭くいを刺すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、底質環境を悪化させることなく、効率的かつ効果的な防藻、水草繁茂抑制技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の水草繁茂抑制具の構成単位であるユニットの十氏の形態の説明図である。
【
図3】ユニット群を組み合わせて延設した水草繁茂抑制具の例である。
【
図5】水草繁茂抑制具の防藻効果を検証した写真である。
【
図6】網目の大きさによる水底のDO値の推移を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の水草繁茂抑制具の構成単位であるユニットの説明図である。
図2は、波形状と網目の他の例を示す説明図である。
図3は、ユニット群を組み合わせて延設した水草繁茂抑制具の例である。
【0029】
以降では、水草繁茂抑制具の構成単位を防藻シートと適宜称するものとする(防藻シートは請求項にいうユニットである)。また、特に断らない限り、防藻シートは総て同一であるものとする。
【0030】
水草繁茂抑制具1は、防藻シート10を重なりを持たせて縦横任意に延設したものであって、湖沼等の水底を所定の高さ浮かせて覆い、水底から生えるツツイトモその他の水草の繁茂を抑制する。
構成単位である防藻シート10は、枠11と網シート12とにより構成される。
【0031】
網シート12は、縦幅800mm×横幅2500mm×厚み3.5mmのPVC素材の編目板である。網目121は一辺10mmの正六角形の孔である。網目121間の網の太さは厚みと同じく3.5mmである。色は濃灰色である。
【0032】
枠11は、直径20mmの丸鋼棒を曲げて形成しており、縦枠111は長さ800mm、横枠112は高低差12cm×周期35cmのサインカーブ様に波打たせている(横幅は約1750mmの直進棒である)。
網シート12は、各辺が複数箇所にて結束バンド13により枠11に沿って固定され、縦枠111に従って全体が波打ち防藻シート10が形成される。重さは約17kgである。
【0033】
なお、枠11は、防錆加工が施されており、また、結束バンド13が滑らないように凹凸が設けられている(図示せず)。
【0034】
防藻シート10は、以上の構成に限定されない。たとえば、枠11を用いず予め網シート12が波板状に成形されたものを用いることもできる。波形状も山と谷が対称的でなく、山の波長を長くしてもよい。網目も種々の形状を採用することができる。波形状および網目の他の例を
図2に示した。
仕様の態様により、波板を生物分解性プラスチックにより成形してもよく、反対に、金網を用いてもよい。立体的に交差した網としてもよい。このほか、後述の着床性が高まるのであれば網表面に微細な凹凸を設けてもよい。
また、使用環境に応じて、防藻シート10の大きさを変えることもできる。周期を変えず、大きさの異なる防藻シートのセットを用いてもよい。
【0035】
次に、水草繁茂抑制具1の敷設方法について説明する。
本発明の水草繁茂抑制具1は、堀まわりや湖沼といった、比較的浅くまた水の流れが弱く、藻刈船も入りにくい場所にも適用しやすいものとなっている(このような場所の水草が問題になりやすくまた除去しにくい)。
【0036】
敷設に際しては、船に防藻シート10を平積みし、所望ポイントまで運行する。作業者は、船の上から防藻シート10を順次投げ入れれば自重で沈降し、水底に谷条が触れ山条は浮いた形で敷設できる。なお、向きとしては、水の流れに沿う方向に山条(谷条)が向くようにするのが好ましい。
防藻シート10は同形であるので、波長に合わせて端部を重ね合わせることができ、作業性に優れる。投げ込みの際に重ならなかった場合は上からカギ棒などを使って容易に修正できる。防藻シート10は、作業者が持ち上げられる大きさおよび重さであり、小舟を用いた浅瀬の作業も可能であって稠密な敷設が可能となる。すなわち、波形の起伏方向にもこれに垂直な山条方向にも防藻シート10の一部を重ねて、水辺を含めて様々に水底を被覆できる。
図3に、ユニット群を組み合わせて延設した水草繁茂抑制具の例を示した。
なお、水流等によるめくれ上がりが心配な場合は、上から適宜石で押さえをしてもよいし、水底に向けて、番線その他くさびを打ち込むこともできる。
【0037】
次に、水草の繁茂の抑制の原理について説明する。
本発明の水草繁茂抑制具1は、堀まわりや湖沼といった、比較的水の流れが弱い場所に敷設されるが、このような水の流れが弱い場所には、たとえば、シオグサといった綿のようにふわふわした藻も石や岩そして水底につく(流されたりちぎれたりせずその場で密に成長する)。
このような藻は、種属で分類されるものでないが、枝状に分岐していくことの多い糸状体からなり、成長していく(ここでは説明の便宜上、糸状体様藻と称することとする。糸一本の太さは概ね1mm未満である)。
【0038】
一方、水底からは、ツツイトモのように根や地下茎を張り成長する水草が存在する。このような水草も、種属で分類されるものではないが、流れが強くてもよく成長し、水面を覆うほど水中に大量に広がり問題となる(ここでは説明の便宜上、根張水草と称することとする。茎一本の太さは概ね1.5mm以上である)。
【0039】
本願発明者は、根張水草の発芽期に水底の光量を落とすことでその成長を効果的に抑制できることを発見し、鋭意検討の結果、底質環境を悪化させないことを前提として、その減光機構を糸状体様藻の生育コントロールに求め、本発明を完成させた。
すなわち、防藻シート10では、網目121により糸状体様藻が活着・成長・充填して遮光性を高め(結果として糸状体様藻の成長を抑制・阻害し)、かつ、全体を波形にすることで、水底から事実上浮かせた敷設として、防藻シート10の上はもとより、下の水環境の溶存酸素濃度も維持可能とした。
なお、網目121の中央部は、周縁部(活着部)に比べれば糸状体様藻の厚みが相対的には薄いものの、網目121全体としてある程度遮光できれば根張水草の発芽・伸張は十分抑制される(遮光100%でなくても根張水草の繁茂は抑制できる)。
〔実施の形態2〕
実施の形態1では、防藻シートの山条の延伸方向に垂直な方向に波の周期が形成されていたが、実施の形態は、直交する二方向すなわち縦方向にも横方向にも周期的な波(凹凸)が形成された態様を説明する。
【0040】
図4は実施の形態2の防藻シートの説明図である。
水草繁茂抑制具2は、防藻シート20を重なりを持たせて縦横任意に延設したものであって、湖沼等の水底を所定の高さ浮かせて覆い、水底から生える根張水草の繁茂を抑制する。
構成単位である防藻シート20は、平板基調の網シート22により構成され、縦幅1600mm×横幅2500mm×厚み4.0mmのPVC素材の編目板である。実施の形態1のように枠はない。網目221は一辺35mmの正方形の孔である。網目221間の網の太さは5.0mmである。色は黒色である。
【0041】
網シート22には、図示したように、有底円錐のくぼみ222が形成されている。このくぼみ222は、直径10cmの円形穴であって、深さが15cm、底は直径7cmの円形である。くぼみ222の間隔は、縦に40cm(よって縦方向は50cm周期となる)、横に50cmである(よって横方向は60cm周期となる)。
【0042】
伸設の際は端部のくぼみ222を重ね合わせればよい。また、所々に、くぼみ222と同形のコンクリート製の有底円錐体をはめ込み、水草繁茂抑制具2の設置安定性を高めるようにする。
【0043】
なお、網シートとくぼみ体とを別々に形成し、現場にて網の目を押し広げるなどしてくぼみ体を挿嵌固定してから敷設するようにしてもよい。このとき、適宜コンクリート製のくぼみ体を散在させ、水草繁茂抑制具の固定性・姿勢安定性を高めるようにすることもできる。
【0044】
次に、防藻効果を検証した。
図5は、本出願人の管理する敷地内の水路にて、防藻シート20を敷設したエリアとそうでない近接したエリアの防藻効果の検証写真である。用いた防藻シート20は一辺1cm角の正方形の網目221とし、水底から10cm浮かせて敷設した(5月15日)。写真は約2ヶ月経過した7月20日の様子である。
【0045】
写真から明らかなように、網目には糸状体様藻(ツツイトモと同定)が膜を張るように成長し(a)、対象区では、粘張水草(シオグサと同定)が繁茂していた(b)。何カ所か同様に試験をおこない概ね同様の結果を得た。
【0046】
次に、網目の大きさを1cm角のままのものと3mm角と細かくしたものとで、水底直上の一の溶存酸素濃度(DO値)の推移を測定した。結果を
図6に示す。対象区(敷設せずのエリア)の推移と比較すると、網目が1cm角であれば対象区のDO値と事実上の差異は認められないが、網目が3mmとなるとDO値が顕著に小さくなる日もあり、底質環境の悪化を招来しうることを確認した。
【0047】
なお、敷設水域により糸状体様藻と根張水草との組合せは様々であり、これに合わせて用いる防藻シート(10,20)の網目の形状および大きさ、周期、高さを選べばよい。種々の知見から、概ね網目は、直径9mmの球は通過し直径40mmの球は通過しない形状・大きさがよく、波の谷から山までの高さは5cm以上25cm以下、波の周期は20cm以上70cm以内が好ましいと判断できた。
また、人力で敷設しやすいように、防藻シートは矩形とし、縦幅と横幅とが1m以上3m以下、重量が20kg以下とするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、湖沼の他、公園の池、クリーク、競艇場などに実装することもできる。基本的に、一度敷設すればそのまま数年間放置してもよいが、たとえば、多くの水草が発芽し始める時期である2月下旬から出水期前の6月上旬までとしてもよい。回収も容易であって、カギ棒等を使って適宜船へと引き上げ、順次スタックする例を挙げることができる。
【符号の説明】
【0049】
1,2 水草繁茂抑制具
10,20 防藻シート
11 枠
12,22 網シート
13 結束バンド
111 縦枠
112 横枠
121,221 網目
222 くぼみ