(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111519
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】液体組成物、非水電解質二次電池の製造方法、および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20220725BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220725BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220725BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220725BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/058
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021006982
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永谷 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕太
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM01
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM06
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ13
(57)【要約】
【課題】充放電に関与するキャリアイオンを補給する液体組成物を提供すること。
【解決手段】液体組成物は、非水電解質二次電池にキャリアイオンを補給するために使用される。液体組成物は溶媒と溶質とを含む。溶質はイオン化合物を含む。イオン化合物は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、金属カチオンとからなる。芳香族化合物はポリフェナセンである。金属カチオンは、キャリアイオンと同種のイオンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池にキャリアイオンを補給するために使用される、液体組成物であって、
溶媒と溶質とを含み、
前記溶質はイオン化合物を含み、
前記イオン化合物は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、金属カチオンとからなり、
前記芳香族化合物はポリフェナセンであり、
前記金属カチオンは、前記キャリアイオンと同種のイオンである、
液体組成物。
【請求項2】
前記芳香族化合物はフェナントレンである、
請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記溶媒はエーテルを含む、
請求項1または請求項2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記溶媒は、テトラヒドロフランおよび1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項3に記載の液体組成物。
【請求項5】
前記金属カチオンはリチウムイオンを含む、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項6】
電解液を含む前記非水電解質二次電池を準備すること、
および、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の前記液体組成物を、前記非水電解質二次電池内の前記電解液に追加することにより、前記非水電解質二次電池に前記キャリアイオンを補給すること、
を含む、
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記非水電解質二次電池は、初期容量に比して小さい容量を有する、
請求項6に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項8】
正極と負極と電解液とを含み、
前記電解液は溶媒と溶質とを含み、
前記溶質は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、キャリアイオンとを含み、
前記芳香族化合物はポリフェナセンである、
非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、液体組成物、非水電解質二次電池の製造方法、および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-076358号公報(特許文献1)は、第3極を備えるリチウム(Li)イオン電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-076358号公報
【特許文献2】特開2000-299125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非水電解質二次電池(以下「電池」と略記され得る。)においては、正極と負極との間をキャリアイオンが行き来することにより、充放電が行われる。
【0005】
電池の使用に伴って、充放電に関与するキャリアイオンが減少することがある。例えば、電池の使用中、負極の表面に皮膜が形成されることがある。皮膜がキャリアイオンを取り込むことにより、キャリアイオンが減少し得る。充放電に関与するキャリアイオンが減少することにより、電池の容量が減少すると考えられる。
【0006】
電池内でキャリアイオンが減少した際に、キャリアイオンを電池に補給する技術が検討されている。例えば、正極および負極に加えて、第3極を電池に組み込むことが提案されている。第3極は通常の充放電に関与しない。第3極は、キャリアイオンが減少した際に、電池内にキャリアイオンを補給する。しかしながら、第3極が組み込まれることにより、電池の構造が複雑になる可能性がある。さらに電池の操作が複雑になる可能性もある。
【0007】
本技術の目的は、充放電に関与するキャリアイオンを補給する液体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本技術の構成および作用効果が説明される。ただし本技術の作用メカニズムは、推定を含んでいる。作用メカニズムの正否は、本技術の範囲を限定しない。
【0009】
〔1〕液体組成物は、非水電解質二次電池にキャリアイオンを補給するために使用される。液体組成物は溶媒と溶質とを含む。溶質はイオン化合物を含む。イオン化合物は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、金属カチオンとからなる。芳香族化合物はポリフェナセンである。金属カチオンは、キャリアイオンと同種のイオンである。
【0010】
例えば電池の容量が減少した時、キャリアイオンの塩(例えばLiPF6等)を含む電解液を電池内に補給することが考えられる。電解液の補給により、キャリアイオンが補給され、電池の容量が回復することが期待される。しかし実際のところ、容量は殆ど回復しない。詳細なメカニズムは不明であるが、単純にキャリアイオンが増加しても、充放電に関与するキャリアイオンが増加するとは限らないようである。
【0011】
本技術の新知見によると、特定のイオン化合物が、電池内の電解液に追加されることにより、容量の回復が期待される。本技術のイオン化合物は、芳香族化合物(ポリフェナセン)のラジカルアニオンと、キャリアイオンとからなる。下記式(I)の化合物は、フェナントレンである。フェナントレンはポリフェナセンの一例である。
【0012】
【0013】
下記式(II)の化合物は、アントラセンである。アントラセンはポリアセンの一例である。
【0014】
【0015】
ポリフェナセンとポリアセンとはベンゼン環の縮合物である点で共通する。しかしキャリアイオンの補給に関して、それらの挙動は大幅に異なる。すなわち芳香族化合物がフェナントレンである時、容量の回復がみられる。他方、芳香族化合物がアントラセンである時、容量の回復がみられない。この結果は、二重結合の配置と関係があると考えられる。ポリフェナセン〔上記式(I)〕は、3個以上のベンゼン環がジグザグに縮合することにより形成されている。ポリアセン〔上記式(II)〕は、3個以上のベンゼン環が直線状に縮合することにより形成されている。ポリアセンに比してポリフェナセンにおいては、二重結合が非局在化していると考えられる。二重結合が非局在化することにより、電解液中においてキャリアイオンが安定な錯体を形成し得ると考えられる。キャリアイオンの錯体が安定であることが、充放電に関与するキャリアイオンの増加に寄与していると考えられる。
【0016】
なお、特開2000-299125号公報(特許文献2)は、9,10-ジヒドロフェナントレンが添加された電解液を開示している(段落0009参照)。9,10-ジヒドロフェナントレンは、下記式(III)により表される。
【0017】
【0018】
ポリフェナセンはヒュッケル則を満たす。ポリフェナセンは芳香族性を示すと考えられる。他方、9,10-ジヒドロフェナントレンは、ヒュッケル則を満たさない。9,10-ジヒドロフェナントレンは全体として芳香族性を示さないと考えられる。9,10-ジヒドロフェナントレンはポリフェナセンに含まれない。9,10-ジヒドロフェナントレンにおいては、中央の環がベンゼン環ではない。そのため9,10-ジヒドロフェナントレンにおいては、二重結合が局在化していると考えられる。9,10-ジヒドロフェナントレンの骨格は、2,2’-ジメチルビフェニル〔下記式(IV)〕に近い。9,10-ジヒドロフェナントレンにおいては、キャリアイオンの補給作用が期待できないと考えられる。
【0019】
【0020】
〔2〕上記〔1〕の液体組成物において、芳香族化合物は、例えばフェナントレンであってもよい。
【0021】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕の液体組成物において、溶媒は例えばエーテルを含んでいてもよい。
【0022】
エーテルは、ポリフェナセンのラジカルアニオンおよびキャリアイオンと共に、安定な錯体を形成することが期待される。エーテル結合の酸素原子(O)がキャリアイオンへの配位に適するためと考えられる。
【0023】
〔4〕上記〔3〕の液体組成物において、溶媒は、例えばテトラヒドロフラン(THF)および1,2-ジメトキシエタン(DME)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0024】
〔5〕上記〔1〕から〔4〕の液体組成物において、金属カチオンは例えばリチウムイオンを含んでいてもよい。
【0025】
すなわち非水電解質二次電池はリチウムイオン電池であってもよい。なお、本技術の非水電解質二次電池はリチウムイオン電池に限定されない。非水電解質二次電池は、例えば、ナトリウムイオン電池等であってもよい。
【0026】
〔6〕非水電解質二次電池の製造方法は、下記(A)および(B)を含む。
(A)電解液を含む非水電解質二次電池を準備する。
(B)上記〔1〕から〔5〕の液体組成物を、非水電解質二次電池内の電解液に追加することにより、非水電解質二次電池にキャリアイオンを補給する。
【0027】
本技術においては、例えば、キャリアイオンが補給された電池が製造され得る。キャリアイオンの補給により、例えば、容量の回復が期待される。キャリアイオンの補給により、例えば出力の向上、寿命の延伸等が起こる可能性もある。
【0028】
〔7〕上記〔6〕の非水電解質二次電池の製造方法において、非水電解質二次電池は、例えば、初期容量に比して小さい容量を有していてもよい。
【0029】
容量が減少した電池(使用済み電池)に対して、キャリアイオンが補給されることにより、容量の回復が期待される。
【0030】
〔8〕非水電解質二次電池は正極と負極と電解液とを含む。電解液は溶媒と溶質とを含む。溶質は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、キャリアイオンとを含む。芳香族化合物はポリフェナセンである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本実施形態における非水電解質二次電池の製造方法の概略フローチャートである。
【
図2】
図2は、本実施形態における非水電解質二次電池の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本技術の実施形態(本明細書においては「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、本技術の範囲を限定しない。
【0033】
本明細書において、「含む、備える(comprise,include)」、「有する(have)」およびこれらの変形〔例えば「から構成される(be composed of)」、「包含する(emcopass,involve)」、「含有する(contain)」、「担持する(carry,support)」、「保持する(hold)」等〕の記載は、オープンエンド形式である。すなわち、ある構成を含むが、当該構成のみを含むことに限定されない。「からなる(consist of)」との記載はクローズド形式である。「実質的に・・・からなる(consist essentially of)」との記載はセミクローズド形式である。すなわち「実質的に・・・からなる」との記載は、本技術の目的を阻害しない範囲で、必須成分に加えて、追加の成分が含まれ得ることを示す。例えば、本技術の属する分野において通常想定される成分(例えば不可避不純物等)が、追加の成分として含まれていてもよい。
【0034】
本明細書において、方法に含まれる2個以上のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その記載された順序に限定されない。例えば、2個以上のステップが同時進行することもあり得る。
【0035】
本明細書において、単数形(「a」、「an」および「the」)は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も含み得る。
【0036】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。
【0037】
本明細書における幾何学的な用語(例えば「垂直」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「垂直」は、厳密な意味での「垂直」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0038】
本明細書において、例えば「0.5%から11%」および「0.5~11%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「0.5%から11%」および「0.5~11%」は、「0.5%以上11%以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値および下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0039】
<液体組成物>
液体組成物は、電池にキャリアイオンを補給するために使用される。電池の詳細は後述される。キャリアイオンの補給により、容量の回復が期待される。キャリアイオンの補給により、その他の性能改善(例えば出力の向上、寿命の延伸等)が起こることも考えられる。液体組成物は、例えば「キャリアイオン補給剤」、「Liイオン補給剤」、「容量回復剤」、「性能改善剤」等とも称され得る。
【0040】
液体組成物は溶質と溶媒とを含む。液体組成物は、実質的に溶質と溶媒とからなっていてもよい。
【0041】
《溶質》
溶質は溶媒に溶解している。溶質は特定のイオン化合物を含む。溶質は1種のイオン化合物を単独で含んでいてもよい。溶質は2種以上のイオン化合物を含んでいてもよい。
【0042】
(イオン化合物)
イオン化合物は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、金属カチオンとからなる。溶媒中においてイオン化合物は、解離していてもよいし、会合していてもよい。金属カチオンは、電池のキャリアイオンと同種のイオンである。液体組成物が電池の電解液に追加されることにより、金属カチオンはキャリアイオンの一部になると考えられる。例えば電池がリチウムイオン電池である時、金属カチオンはLiイオンである。例えば電池がナトリウムイオン電池である時、金属カチオンはナトリウム(Na)イオンである。例えば、電池がマグネシウムイオン電池である時、金属カチオンはマグネシウム(Mg)イオンである。
【0043】
本明細書においては、芳香族化合物のラジカルアニオンが単に「芳香族化合物」と記される場合もある。芳香族化合物はポリフェナセンである。ポリフェナセンは、3個以上のベンゼン環がジグザグに縮合することにより形成されている。ポリフェナセンはヒュッケル則を満たす。ポリフェナセンは芳香族性を示すと考えられる。ポリフェナセンは、例えば、フェナントレン(3個)、クリセン(4個)、ピセン(5個)、およびフェナセン(6個)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここで、例えば「フェナントレン(3個)」等の記載において、括弧内の個数はベンゼン環の個数を示す。イオン化合物は、例えば下記式(V)により表されてもよい。
【0044】
【0045】
上記式(V)中、「n」は0から3の整数を示す。「x」は任意の数である。「x」は例えば1から4であってもよい。「My+」は金属カチオンを示す。「y」は金属カチオンの価数を示す。「My+」は、例えばLi+であってもよい。各ベンゼン環は、その環上に任意の置換基を有していてもよい。
【0046】
《溶媒》
溶媒はイオン化合物を溶解する。溶媒はイオン化合物を溶解し得る限り、任意の成分を含み得る。溶媒は例えばエーテルを含んでいてもよい。エーテルは、ポリフェナセンのラジカルアニオンおよびキャリアイオンと共に、安定な錯体を形成することが期待される。エーテル結合の酸素原子がキャリアイオンへの配位に適するためと考えられる。錯体が安定であることにより、キャリアイオンの補給効率が向上することが期待される。溶媒は、例えば、THF、1,4-ジオキサン(DX)、DME、および1,2-ジエトキシエタン(DEE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、THFおよびDMEからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0047】
《追加成分》
上記成分を含む限り、液体組成物は追加成分を含んでいてもよい。追加成分の体積分率は、例えば1%から70%であってもよい。追加成分は、例えば、補給対象である電池の電解液に含まれる成分であってもよい。液体組成物が、補給対象である電池の電解液に含まれる成分を含むことにより、液体組成物が電解液に混和しやすくなることが期待される。追加成分は、例えば、電解液における支持電解質を含んでいてもよい。追加成分は、例えば、LiPF6、LiBF4、およびLiN(FSO2)2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。追加成分は、電解液における溶媒を含んでいてもよい。追加成分は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0048】
《芳香族化合物の質量分率》
液体組成物における芳香族化合物の質量分率が高い程、キャリアイオンの補給効率が向上することが期待される。ただし芳香族化合物の質量分率が過度に上昇すると、液体組成物の粘度が上昇し、キャリアイオンの拡散が阻害される可能性がある。液体組成物における芳香族化合物の質量分率は、例えば0.5%から11%であってもよい。液体組成物における芳香族化合物の質量分率は、例えば0.5%から7.5%であってもよい。液体組成物における芳香族化合物の質量分率は、例えば7.5%から11%であってもよい。
【0049】
本明細書において、芳香族化合物の質量分率は、芳香族化合物以外の成分の合計に対する値である。例えば液体組成物が、実質的に芳香族化合物と金属カチオンと溶媒と追加成分とからなる時、芳香族化合物の質量分率は、下記式(VI)により求まる。
【0050】
芳香族化合物の質量分率(%)={m1/(m2+m3+m4)}×100…(VI)
【0051】
上記式(VI)中、「m1」は芳香族化合物の質量を示す。本明細書においては、液体組成物に溶解した芳香族化合物の質量が「m1」とみなされる。「m2」は金属カチオンの質量を示す。本明細書においては、液体組成物に溶解した金属の質量が「m2」とみなされる。「m3」は溶媒の質量を示す。「m4」は追加成分(例えば電解液等)の質量を示す。
【0052】
<非水電解質二次電池の製造方法>
図1は、本実施形態における非水電解質二次電池の製造方法の概略フローチャートである。電池の製造方法は「(A)電池の準備」および「(B)キャリアイオンの補給」を含む。本実施形態の製造方法は、例えば「(a1)第1容量測定」、「(a2)第1判定」、「(b1)第2容量測定」、「(b2)第2判定」、「(C)リユース」および「(D)リサイクル」等をさらに含んでいてもよい。
【0053】
《(A)電池の準備》
電池の製造方法は、電池を準備することを含む。電池は電解液を含む。電池は新品電池であってもよい。電池は使用済み電池であってもよい。例えば、市場から使用済み電池が回収されてもよい。例えば電池を搭載する車両等の検査時等に、使用済み電池が回収されてもよい。
【0054】
《(a1)第1容量測定》
電池の製造方法は、電池の容量を測定することにより、第1容量減少率を求めることを含んでいてもよい。容量測定は、一般的な充放電装置により実施され得る。第1容量減少率は、下記式(VII)により求まる。
【0055】
第1容量減少率(%)={(C0-C1)/C0}×100 …(VII)
【0056】
上記式(VII)中「C0」は電池の初期容量を示す。「C1」は、その時点の電池の容量を示す。例えば、電池の定格容量が初期容量とみなされてもよい。例えば、使用済み電池においては、第1容量減少率が0%よりも大きくなり得る。すなわち本実施形態における電池は、初期容量に比して小さい容量を有していてもよい。第1容量減少率は、例えば1%から99%であってもよい。第1容量減少率は、例えば10%から90%であってもよい。第1容量減少率は、例えば20%から80%であってもよい。第1容量減少率は、例えば30%から70%であってもよい。
【0057】
《(a2)第1判定》
電池の製造方法は、第1容量減少率により、キャリアイオンの補給の要否を判定することを含んでいてもよい。すなわち、第1容量減少率が基準値以上である時、電池に対してキャリアイオンの補給が必要であると判定されてもよい。基準値は、電池の用途、電池の使用環境等に応じて、任意に設定され得る。
【0058】
なお容量に代えて、その他の電池特性が測定されてもよい。例えば、抵抗測定等が実施されてもよい。抵抗測定の結果から、キャリアイオンの補給の要否が判定されてもよい。例えば容量測定の結果と、抵抗測定の結果とから、キャリアイオンの補給の要否が総合的に判定されてもよい。
【0059】
《(B)キャリアイオンの補給》
電池の製造方法は、液体組成物を電池の電解液に追加することにより、電池にキャリアイオンを補給することを含む。
【0060】
例えば、所定の手段により、電池の外装体が開封される。外装体に注液口が設けられている場合は、注液口が開封される。注液口から、電池内に液体組成物が注入される。これにより、電池内において、液体組成物と電解液とが混合され得る。混和が促進されるように、例えば電池が軽く振とうされてもよい。
【0061】
液体組成物と電解液との混合後、電池が放置される。これにより、電池内においてキャリアイオンが欠損した部分に、液体組成物中の金属カチオンが補給され得る。その結果、充放電に関与するキャリアイオンが増加することが期待される。すなわち、簡便な操作により、キャリアイオンが補給され得る。キャリアイオンの増加により、例えば、容量の回復が期待される。キャリアイオンの増加により、例えば、その他の性能改善も期待される。例えば出力の向上、寿命の延伸等が起こる可能性もある。すなわちキャリアイオンの補給により、新たな電池が製造される。
【0062】
例えば0℃から80℃の温度環境下において、電池が放置されてもよい。例えば室温環境下において、電池が放置されてもよい。放置時間は、例えば1時間から1カ月であってもよい。放置時間は、例えば1日から10日であってもよい。放置開始時の電池のSOC(state of charge)は、例えば10%から90%であってもよい。放置開始時の電池のSOCは、例えば50%から70%であってもよい。本明細書におけるSOCは、電池の定格容量に対する、その時点の充電容量の百分率を示す。
【0063】
《(b1)第2容量測定》
電池の製造方法は、液体組成物の追加後、電池の容量を測定することにより、第2容量減少率を求めることを含んでいてもよい。第2容量減少率は、第1容量減少率と同様に求められる。容量が回復している場合、第2容量減少率は第1容量減少率に比して低くなると考えられる。
【0064】
《(b2)第2判定》
電池の製造方法は、第2容量減少率により、リサイクルの要否を判定することを含んでいてもよい。例えば、第2容量減少率が基準値以上である時、リサイクルが実施されてもよい。例えば、第2容量減少率が基準値未満である時、リユースが実施されてもよい。
【0065】
《(C)リユース》
上記「(a2)第1判定」において、例えば第1容量減少率が基準値未満である時、補給処理が実施されずに、電池がそのまま再使用されてもよい。上記「(b2)第2判定」において、例えば第2容量減少率が基準値未満である時、補給処理後の電池が再使用されてもよい。
【0066】
電池は、例えば回収時の用途において再使用されてもよい。電池は、例えば回収時の用途と異なる用途において再使用されてもよい。
【0067】
《(D)リサイクル》
上記「(b2)第2判定」において、例えば第2容量減少率が基準値以上である時、電池の再使用が困難とみなされ得る。電池が解体されることにより、再利用可能な材料(例えばレアメタル等)が回収されてもよい。
【0068】
<非水電解質二次電池>
図2は、本実施形態における非水電解質二次電池の構成の一例を示す概略図である。
電池100は、上記「電池の製造方法」により製造され得る。電池100は、任意の用途で使用され得る。電池100は、例えば電動車両において、主電源または動力アシスト用電源として使用されてもよい。複数個の電池100が連結されることにより、電池モジュールまたは組電池が形成されてもよい。電池100は所定の定格容量を有する。電池100は、例えば1Ahから50Ahの定格容量を有していてもよい。
【0069】
電池100は外装体90を含む。外装体90は、角形(扁平直方体状)である。ただし角形は一例である。外装体90は任意の形態を有し得る。外装体90は、例えば円筒形であってもよいし、パウチ形であってもよい。外装体90は、例えばアルミニウム(Al)合金製であってもよい。外装体90は、電極体50と電解液(不図示)とを収納している。外装体90は、例えば封口板91と外装缶92とを含んでいてもよい。封口板91は、外装缶92の開口部を塞いでいる。例えばレーザ溶接により、封口板91と外装缶92とが接合されていてもよい。
【0070】
封口板91に、正極端子81と負極端子82とが設けられている。封口板91に、注液口と、ガス排出弁とがさらに設けられていてもよい。注液口から外装体90内に液体組成物が注入され得る。電極体50は、正極集電部材71によって正極端子81に接続されている。正極集電部材71は、例えばAl板等であってもよい。電極体50は、負極集電部材72によって負極端子82に接続されている。負極集電部材72は、例えば銅(Cu)板等であってもよい。
【0071】
図3は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略図である。
電極体50は巻回型である。電極体50は、正極10、セパレータ30および負極20を含む。すなわち電池100は、正極10と負極20と電解液とを含む。正極10、セパレータ30および負極20は、いずれも帯状のシートである。電極体50は複数枚のセパレータ30を含んでいてもよい。電極体50は、正極10、セパレータ30および負極20がこの順に積層され、渦巻状に巻回されることにより形成されている。正極10または負極20の一方がセパレータ30に挟まれていてもよい。正極10および負極20の両方がセパレータ30に挟まれていてもよい。電極体50は、巻回後に扁平状に成形されていてもよい。なお巻回型は一例である。電極体50は、例えば積層(スタック)型であってもよい。
【0072】
《正極》
正極10は、例えば正極基材11と正極活物質層12とを含んでいてもよい。正極基材11は導電性シートである。正極基材11は、例えばAl合金箔等であってもよい。本明細書における各部材の「厚さ」は、定圧厚さ測定器(厚さゲージ)により測定され得る。正極基材11は、例えば10μmから30μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層12は、正極基材11の表面に配置されていてもよい。正極活物質層12は、例えば正極基材11の片面のみに配置されていてもよい。正極活物質層12は、例えば正極基材11の表裏両面に配置されていてもよい。正極10の幅方向(
図3のX軸方向)において、一方の端部に正極基材11が露出していてもよい。正極基材11が露出した部分には、正極集電部材71が接合され得る。
【0073】
正極活物質層12は、例えば10μmから200μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層12は正極活物質を含む。正極活物質は任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここで、例えば「Li(NiCoMn)O2」等の組成式においては、括弧内(NiCoAl)の組成比の合計が1である。組成比の合計が1である限り、各元素(Ni、Co、Mn)の組成比は任意である。
【0074】
正極活物質層12は正極活物質に加えて、例えば導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。正極活物質層12は、例えば質量分率で、80%から99%の正極活物質と、1%から10%の導電材と、残部のバインダとを含んでいてもよい。導電材およびバインダは、それぞれ任意の成分を含み得る。導電材は例えばカーボンブラック等を含んでいてもよい。バインダは例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を含んでいてもよい。
【0075】
《負極》
負極20は、例えば負極基材21と負極活物質層22とを含んでいてもよい。負極基材21は導電性シートである。負極基材21は、例えばCu合金箔等であってもよい。負極基材21は、例えば5μmから30μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層22は、負極基材21の表面に配置されていてもよい。負極活物質層22は、例えば負極基材21の片面のみに配置されていてもよい。負極活物質層22は、例えば負極基材21の表裏両面に配置されていてもよい。負極20の幅方向(
図3のX軸方向)において、一方の端部に負極基材21が露出していてもよい。負極基材21が露出した部分には、負極集電部材72が接合され得る。
【0076】
負極活物質層22は、例えば10μmから200μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層22は負極活物質を含む。負極活物質は任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、珪素、酸化珪素、珪素基合金、錫、酸化錫、錫基合金、およびチタン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0077】
負極活物質層22は負極活物質に加えて、例えばバインダ等をさらに含んでいてもよい。負極活物質層22は、例えば質量分率で、95%から99.5%の負極活物質と、残部のバインダとを含んでいてもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0078】
《セパレータ》
セパレータ30の少なくとも一部は、正極10と負極20との間に介在している。セパレータ30は、正極10と負極20とを分離している。セパレータ30は、例えば10μmから30μmの厚さを有していてもよい。
【0079】
セパレータ30は多孔質シートである。セパレータ30は電解液を透過する。セパレータ30は、例えば200s/100mLから400s/100mLの透気度を有していてもよい。本明細書における「透気度」は、「JIS P 8117:2009」に規定される「透気抵抗度(Air Resistance)」を示す。透気度はガーレー試験法により測定される。
【0080】
セパレータ30は電気絶縁性である。セパレータ30は、例えばポリオレフィン系樹脂等を含んでいてもよい。セパレータ30は、例えば、実質的にポリオレフィン系樹脂からなっていてもよい。ポリオレフィン系樹脂は、例えばポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。セパレータ30は、例えば単層構造を有していてもよい。セパレータ30は、例えば、実質的にPE層からなっていてもよい。セパレータ30は、例えば多層構造を有していてもよい。セパレータ30は、例えばPP層とPE層とPP層とがこの順に積層されることにより形成されていてもよい。セパレータ30の表面に、例えば耐熱層等が形成されていてもよい。
【0081】
《電解液》
電解液には液体組成物が追加されている。電解液は溶媒と溶質とを含む。溶質は支持電解質を含む。すなわち溶質はキャリアイオンを含む。支持電解質は、例えばLiPF6、LiBF4、およびLiN(FSO2)2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。支持電解質のモル濃度は、例えば0.5mоl/Lから2.0mоl/Lであってもよい。
【0082】
溶質はイオン化合物をさらに含む。イオン化合物は液体組成物に由来する成分であり得る。イオン化合物の詳細は前述のとおりである。イオン化合物は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、金属カチオン(キャリアイオン)とからなる。すなわち溶質は芳香族化合物のラジカルアニオンを含む。
【0083】
溶媒は非プロトン性である。溶媒は任意の成分を含み得る。溶媒は、例えばカーボネート系成分とエーテル系成分とを含んでいてもよい。エーテル系成分は液体組成物に由来する成分であり得る。エーテル系成分は、例えばTHFおよびDMEからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。カーボネート系成分は、当初電解液に由来する成分であり得る。カーボネート系成分は、例えば、EC、PC、BC、FEC、DMC、EMCおよびDECからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0084】
電解液は任意の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば電解液は、質量分率で0.01%から5%の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えばビニレンカーボネート(VC)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、フルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)、およびリチウムビスオキサラトボラート(LiBOB)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【実施例0085】
以下、本技術の実施例(本明細書においては「本実施例」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、本技術の範囲を限定しない。
【0086】
<液体組成物の調製>
以下のように試料1から試料5に係る液体組成物が調製された。
【0087】
《試料1》
芳香族化合物としてフェナントレン(結晶粉末)が準備された。フェナントレンはポリフェナセンである。フェナントレンが容器に入れられた。ピペットによりDMEが容器に滴下された。DMEとフェナントレンとの混合物が攪拌されることにより、フェナントレンがDMEに溶解した。
【0088】
Li箔が準備された。上記で得られた溶液にLi箔が浸漬された。溶液が攪拌されることにより、Li箔が溶解した。これにより錯体溶液が調製された。錯体溶液においては、Liイオンと、フェナントレンのラジカルアニオンと、DMEとが錯体を形成していると考えられる。錯体溶液は、1mоl/Lのフェナントレンと、1mоl/LのLiイオンとを含んでいた。
【0089】
追加成分として電解液が準備された。電解液は下記成分を含んでいた。
支持電解質:LiPF6(1.0mоl/L)
溶媒:EC/EMC/DMC=3/3/4(体積比)
【0090】
錯体溶液と追加成分(電解液)とが混合されることにより、液体組成物が調製された。混合比は「錯体溶液/追加成分=5/5(体積比)」であった。
【0091】
《試料2、3》
錯体溶液におけるLiイオンの濃度が変更されることを除いては、試料1と同様に液体組成物が調製された(下記表1参照)。
【0092】
《試料4》
芳香族化合物がアントラセンに変更されることを除いては、試料1と同様に液体組成物が調製された。アントラセンはポリアセンである。
【0093】
《試料5》
試料5においては、上記電解液(追加成分)のみが液体組成物とされた。試料1、試料4および試料5において、液体組成物中のLiイオンの合計濃度は、いずれも1mоl/Lであった。
【0094】
<試験電池の準備>
正極が準備された。正極は正極基材と正極活物質層とを含んでいた。正極活物質はLi(NiCoMn)O2を含んでいた。正極基材はAl箔であった。正極基材にタブリードが接合された。
【0095】
負極が準備された。負極は負極基材と負極活物質層とを含んでいた。負極活物質は黒鉛を含んでいた。負極活物質層は、正極活物質層に比して大きい面積を有していた。負極基材はCu箔であった。負極基材にタブリードが接合された。
【0096】
セパレータが準備された。セパレータは3層構造を有していた。すなわちセパレータは、PP層とPE層とPP層とが積層されることにより形成されていた。セパレータを挟んで、正極活物質層と負極活物質層とが互いに対向するように、正極とセパレータと負極とが積層された。これにより電極体が形成された。
【0097】
外装体が準備された。外装体はAlラミネートフィルム製のパウチであった。外装体に電極体が収納された。外装体に電解液が注入された。外装体が密封された。以上より試験電池(非水電解質二次電池)が準備された。電池に注入された電解液は、液体組成物の追加成分(電解液)と同一組成を有していた。
【0098】
<試料の評価>
試験電池が十分に充放電された。1/3Itの電流により、100%のSOCから0%のSOCまで、試験電池が放電された。これにより初期容量が測定された。「It」は、電流の時間率を表す記号である。1Itの電流は、電池の定格容量を1時間で放電する電流と定義される。
【0099】
初期容量の測定後、試験電池が高温環境で保存された。保存条件は、保存後容量が初期容量に対して40%から70%程度になるように調整された。ここで保存後容量は、下記表1の投入前容量に相当する。投入前容量は、液体組成物が電池に投入される前の容量を示す。
【0100】
保存後、試験電池の外装体が開封された。外装体内に試料(液体組成物)が投入された。液体組成物の投入後、外装体が再び密封された。
【0101】
外装体の密封後、試験電池のSOCが60%に調整された。SOCの調整後、試験電池が室温環境下で1週間放置された。
【0102】
1週間放置後、所定の充放電が行われた。続いて1/3Itの電流により、100%のSOCから0%のSOCまで、試験電池が放電された。これにより投入後容量が測定された。投入後容量から投入前容量が減算されることにより回復量が求められた。下記表1において、投入前容量、投入後容量および回復量は、初期容量により正規化されている。ここでは初期容量が100%と定義されている。
【0103】
【0104】
<評価結果>
試料1(フェナントレン)においては、回復量が正の値である。すなわち試料1(フェナントレン)においては、容量の回復がみられる。他方、試料4(アントラセン)においては、回復量が負の値である。試料4(アントラセン)においては、容量の回復がみられない。
【0105】
フェナントレン(ポリフェナセン)においては、ベンゼン環がジグザグに縮合している〔上記式(I)参照〕。アントラセン(ポリアセン)においては、ベンゼン環が直線状に縮合している〔上記式(II)参照〕。フェナントレンは、アントラセンに比して、二重結合が非局在化し得る構造を有すると考えられる。そのため、試料1(フェナントレン)における錯体は、試料4(アントラセン)における錯体に比して安定であると考えられる。
【0106】
液体組成物の色は、錯体の安定性を反映していると考えられる。試料4(アントラセン)においては、錯体溶液(暗青色)と電解液(無色)とが混合されることにより、液体組成物(乳黄色)が生成された。色の変化は、液体の混合によりLiイオンの活性が大幅に低下したことを表していると考えられる。試料4においては、液体組成物中のLiイオンの活性が低いため、液体組成物が試験電池に投入されることにより、電極からLiイオンが引き抜かれる反応が起こったと推察される。
【0107】
試料1(フェナントレン)においては、錯体溶液(暗緑色)と電解液(無色)とが混合されることにより、液体組成物(暗橙色)が生成された。試料1においては、色の変化が小さいため、Liイオンの活性がある程度維持されていると考えられる。試料1においては、Liイオンがある程度活性であるため、液体組成物が試験電池に投入されることにより、Liイオンが電極に供給される反応が起こったと推察される。
【0108】
試料1から試料3の結果において、Liイオンの濃度が高くなる程、回復量が大きくなる傾向がみられる。フェナントレンのラジカルアニオンは、ベンゼン環の個数から、最大で2当量のLiイオンと会合できると考えられる。ポリフェナセンにおいてベンゼン環の個数が増加する程、高濃度のLiイオンに対して有利になる可能性がある。
【0109】
なお、試料5(ブランク試験)においては、電解液の投入前後で容量が殆ど変化していない。単純に電解液が補充されても、充放電に関与するキャリアイオンは実質的に増加しないと考えられる。
【0110】
<付記>
本技術においては、液体組成物の使用方法も提供される。
〔1〕液体組成物の使用方法は、
液体組成物を準備すること、
および、
非水電解質二次電池にキャリアイオンを補給するために、液体組成物を使用すること、
を含む。
液体組成物は溶媒と溶質とを含む。溶質はイオン化合物を含む。イオン化合物は、芳香族化合物のラジカルアニオンと、金属カチオンとからなる。芳香族化合物はポリフェナセンである。金属カチオンは、キャリアイオンと同種のイオンである。
【0111】
〔2〕非水電解質二次電池は、初期容量に比して小さい容量を有していてもよい。
【0112】
〔3〕液体組成物の使用方法は、非水電解質二次電池の電解液に液体組成物を追加することにより、非水電解質二次電池の容量を回復させること、を含んでいてもよい。
【0113】
本実施形態および本実施例は全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は制限的ではない。本技術の範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも、当初から予定されている。本実施形態および本実施例において、ある構成の作用効果に言及する場合、本技術の範囲は、全ての作用効果を奏する範囲に拘束されない。
10 正極、11 正極基材、12 正極活物質層、20 負極、21 負極基材、22 負極活物質層、30 セパレータ、50 電極体、71 正極集電部材、72 負極集電部材、81 正極端子、82 負極端子、90 外装体、91 封口板、92 外装缶、100 電池(非水電解質二次電池)。