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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111747
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20220725BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20220725BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20220725BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220725BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20220725BHJP
   B60K 6/365 20071001ALI20220725BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20220725BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20220725BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20220725BHJP
   B60K 6/38 20071001ALI20220725BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20220725BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20220725BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20220725BHJP
   F16H 59/46 20060101ALI20220725BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20220725BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20220725BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20220725BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/52 ZHV
B60W20/20
B60W10/06 900
B60W10/02 900
B60K6/365
B60K6/387
B60K6/442
B60K6/40
B60K6/38
B60W20/40
B60L50/16
B60L15/20 M
B60L15/20 T
F16H59/46
F16H61/02
F16H63/50
F16H61/66
B60K17/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021007378
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】草部 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】中矢 文平
【テーマコード(参考)】
3D039
3D202
3J552
5H125
【Fターム(参考)】
3D039AA02
3D039AA04
3D039AB27
3D039AC03
3D039AC04
3D039AC39
3D202AA02
3D202BB00
3D202BB01
3D202BB11
3D202BB16
3D202BB37
3D202BB64
3D202CC02
3D202CC31
3D202DD16
3D202DD18
3D202DD24
3D202DD26
3D202DD33
3D202EE09
3D202EE16
3D202EE23
3D202FF02
3D202FF08
3J552MA06
3J552NA01
3J552NB08
3J552PA02
3J552RA26
3J552SA02
3J552SA26
3J552SB02
3J552SB35
3J552UA08
3J552UA09
3J552VA05W
3J552VA32W
3J552VC01W
3J552VC02W
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125BE05
5H125CA01
5H125CA08
5H125EE08
(57)【要約】
【課題】電気トルクコンバータモードからハイブリッドモードへの動作モードの遷移に際して円滑に係合装置を係合させる。
【解決手段】分配用差動歯車機構は、入力部材に駆動連結された第1回転要素、出力部材に駆動連結された第2回転要素、回転電機に駆動連結された第3回転要素を備える。出力部材の回転速度の上昇によって第2回転要素の回転速度と第1回転要素の回転速度との回転速度差が同期しきい値以下となった場合には、内燃機関に目標トルクを出力させると共に、第2回転要素の回転速度に合わせて回転電機の回転速度制御を行うことにより、回転速度差を同期しきい値以下に維持する同期維持制御を実行し、同期維持制御の実行中に、第2係合装置を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
回転電機と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記回転電機のロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
少なくとも前記第2回転要素と前記出力部材との間の動力伝達を行う伝達機構と、
前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達経路に配置されて前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、
を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用駆動装置の制御装置であって、
前記第1係合装置を係合状態とし、前記第2係合装置を解放状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第1モードと、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を係合状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第2モードと、を実行可能であり、
前記出力部材の回転速度を上昇させている状態で、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、
前記第2回転要素の回転速度が前記第1回転要素の回転速度よりも低く、且つ、前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が規定の同期しきい値より大きい間は、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第3回転要素の回転速度を前記第1回転要素の回転速度及び前記第2回転要素の回転速度に従動させるように前記回転電機を制御する非同期制御を実行し、
前記出力部材の回転速度の上昇によって前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が前記同期しきい値以下となった場合には、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第2回転要素の回転速度に合わせて前記回転電機の回転速度制御を行うことにより、前記回転速度差を前記同期しきい値以下に維持する同期維持制御を実行し、
当該同期維持制御の実行中に、前記第2係合装置を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行する、車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記同期維持制御の実行中、前記同期しきい値以下に設定された規定差回転を持たせるように前記回転電機の回転速度制御を行う、請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記第2係合装置は、噛み合い式の係合装置であり、
前記第2係合装置は、前記解放状態から前記係合状態への状態移行に伴って移動する係合駆動部材と、前記係合駆動部材の移動量を検出する動作検出センサと、を備え、
前記動作検出センサによる検出結果に基づいて、前記係合駆動部材の噛み合い開始位置を基準とした規定範囲内で前記同期維持制御を終了し、
前記同期維持制御の終了後、前記回転電機の制御方式を、目標トルクに合わせてトルクを出力するトルク制御に移行する、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機を第1回転電機とし、前記第1回転電機に加えて第2回転電機を備え、
前記第2回転電機は、前記出力部材を介することなく前記車輪とは別の車輪に駆動連結されている回転電機、又は、前記伝達機構を介することなく前記出力部材に駆動連結されている回転電機であり、
前記第2回転電機が、前記同期維持制御の開始による前記内燃機関の回転速度の変化に伴う前記内燃機関のイナーシャ分のトルクを補うようにトルクを出力する、請求項1から3の何れか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記回転速度差が前記同期しきい値以下の状態が、予め規定された規定期間継続した後に、前記係合制御を開始する、請求項1から4の何れか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、回転電機と、複数の回転要素の内のそれぞれが入力部材及び回転電機に駆動連結された分配用差動歯車機構と、分配用差動歯車機構と出力部材との間の動力伝達を行う伝達機構と、入力部材と分配用差動歯車機構との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、分配用差動歯車機構の複数の回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置とを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置には、第1係合装置を係合状態とし、第2係合装置を解放状態とし、分配用差動歯車機構により、回転電機のトルクを反力として内燃機関のトルクを増幅して出力部材側に伝達し、車両を走行させる電気トルクコンバータモード(eTCモード)と、第1係合装置及び第2係合装置を係合状態とし、内燃機関及び回転電機のトルクを出力部材に伝達させるハイブリッドモードとを選択可能なものがある。特開2005-176481号公報には、そのような車両用駆動装置が開示されている。この車両用駆動装置は、eTCモードからハイブリッドモードへの遷移に際して、目標回転速度に維持されている内燃機関の回転速度に回転電機の回転速度が一致又はほぼ一致したら第2係合装置に相当するクラッチを締結して、内燃機関と回転電機とが駆動連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-176481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、eTCモードからハイブリッドモードへの遷移に際して、内燃機関の回転速度と回転電機の回転速度とに差がある場合、第2係合装置が円滑に係合できない可能性がある。特に、eTCモードでは、分配用差動歯車機構が差動状態で動作しているが、eTCモードからハイブリッドモードへの遷移は、差動状態ではなく、各回転要素が等速回転している状態で第2係合装置が係合される。しかし、そのような係合タイミングは長い期間ではなく、第2係合装置を円滑に係合することは容易ではない。
【0005】
上記背景に鑑みて、電気トルクコンバータモードからハイブリッドモードへの動作モードの遷移に際して円滑に係合装置を係合させる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の制御装置は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、回転電機と、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記回転電機のロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、少なくとも前記第2回転要素と前記出力部材との間の動力伝達を行う伝達機構と、前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達経路に配置されて前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用駆動装置の制御装置であって、前記第1係合装置を係合状態とし、前記第2係合装置を解放状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第1モードと、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を係合状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第2モードと、を実行可能であり、前記出力部材の回転速度を上昇させている状態で、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、前記第2回転要素の回転速度が前記第1回転要素の回転速度よりも低く、且つ、前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が規定の同期しきい値より大きい間は、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第3回転要素の回転速度を前記第1回転要素の回転速度及び前記第2回転要素の回転速度に従動させるように前記回転電機を制御する非同期制御を実行し、前記出力部材の回転速度の上昇によって前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が前記同期しきい値以下となった場合には、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第2回転要素の回転速度に合わせて前記回転電機の回転速度制御を行うことにより、前記回転速度差を前記同期しきい値以下に維持する同期維持制御を実行し、当該同期維持制御の実行中に、前記第2係合装置を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行する。
【0007】
この構成によれば、第2回転要素の回転速度(車両の速度)が第1回転要素の回転速度(内燃機関の回転速度)よりも低い場合には、第3回転要素の回転速度(回転電機の回転速度)を第1回転要素の回転速度及び第2回転要素の回転速度に従動させることで、第1モードで適切に車両を加速させることができる。また、車両の速度が上昇して、第2回転要素の回転速度(車両の速度)と第1回転要素の回転速度(内燃機関の回転速度)との回転速度差が規定の同期しきい値以下となった後は、第2回転要素の回転速度に合わせて内燃機関及び回転電機の回転速度制御を行うことにより、分配用差動歯車機構の3つの回転要素の回転速度差が同期しきい値以下に維持される。よって、分配用差動歯車機構の3つの回転要素の回転速度差を小さく維持しつつ、適切に車両を加速させることができる。そして、同期維持制御の実行中に、第2係合装置を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行するので、第2係合装置の係合動作を円滑に行うことができる。即ち、本構成によれば、電気トルクコンバータモードからハイブリッドモードへの動作モードの遷移に際して円滑に係合装置を係合させることができる。
【0008】
さらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両用駆動装置の第1駆動部のスケルトン図
図2】車両用駆動装置の第2駆動部のスケルトン図
図3】車両用駆動装置の制御ブロック図
図4】第1モード(eTCモード)における分配用差動歯車機構及び伝達機構の速度線図
図5】第2モード(第1HVモード及び第2HVモード)における分配用差動歯車機構及び伝達機構の速度線図
図6】eTCモードから第1HVモードへの遷移時のタイムチャート
図7】eTCモードから第1HVモードへの遷移時のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動装置の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように、車両用駆動装置100は、第1駆動部100Aと、第2駆動部100Bと、を備えている。第1駆動部100Aは一対の第1車輪W1を駆動対象とし、第2駆動部100Bは一対の第2車輪W2を駆動対象としている。本実施形態では、第1車輪W1は車両の前輪であり、第2車輪W2は車両の後輪である。
【0011】
図1に示すように、第1駆動部100Aは、内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、第1車輪W1に駆動連結される第1出力部材O1と、第1ステータSt1及び第1ロータRo1を備えた第1回転電機MG1と、分配用差動歯車機構SPと、伝達係合装置CLtを備えた伝達機構Tと、第1係合装置CL1と、第2係合装置CL2と、を備えている。本実施形態では、第1駆動部100Aは、第1出力用差動歯車機構DF1を更に備えている。
【0012】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。尚、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、遊星歯車機構における複数の回転要素が、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0013】
入力部材I、分配用差動歯車機構SP、第1係合装置CL1、及び第2係合装置CL2は、第1ロータRo1の回転軸心としての第1軸X1上に配置されている。第1回転電機MG1は、その回転軸心としての第2軸X2上に配置されている。伝達機構Tの伝達係合装置CLtは、その回転軸心としての第3軸X3上に配置されている。本実施形態では、第1出力部材O1及び第1出力用差動歯車機構DF1は、それらの回転軸心としての第4軸X4上に配置されている。
【0014】
図2に示すように、第2駆動部100Bは、第2ステータSt2及び第2ロータRo2を備えた第2回転電機MG2と、第2車輪W2に駆動連結される第2出力部材O2と、を備えている。本実施形態では、第2駆動部100Bは、第2カウンタギヤ機構CG2と、第2出力用差動歯車機構DF2と、を更に備えている。
【0015】
本実施形態では、第2回転電機MG2は、第2ロータRo2の回転軸心としての第5軸X5上に配置されている。更に、本実施形態では、第2カウンタギヤ機構CG2は、その回転軸心としての第6軸X6上に配置されている。また、本実施形態では、第2出力部材O2及び第2出力用差動歯車機構DF2は、それらの回転軸心としての第7軸X7上に配置されている。
【0016】
本実施形態では、上述した第1軸X1~第7軸X7の各軸は、互いに平行に配置されている。以下の説明では、これら第1軸X1~第7軸X7に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、図1に示すように、軸方向Lにおいて、内燃機関EGに対して入力部材Iが配置される側を「軸方向第1側L1」とし、その反対側を「軸方向第2側L2」とする。また、これら第1軸X1~第7軸X7のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。尚、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合やどの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0017】
本実施形態では、入力部材Iは、軸方向Lに沿って延在する入力軸1である。入力軸1は、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置DPを介して、内燃機関EGの出力軸Eoに駆動連結されている。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。
【0018】
第1回転電機MG1は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、第1回転電機MG1は、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置BT(図3参照)と電気的に接続されている。そして、第1回転電機MG1は、蓄電装置BTに蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、第1回転電機MG1は、内燃機関EGの駆動力、又は第1出力部材O1の側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置BTを充電する。
【0019】
第1回転電機MG1の第1ステータSt1は、非回転部材(例えば、第1回転電機MG1等を収容するケース)に固定されている。第1回転電機MG1の第1ロータRo1は、第1ステータSt1に対して回転自在に支持されている。本実施形態では、第1ロータRo1は、第1ステータSt1に対して径方向Rの内側に配置されている。
【0020】
分配用差動歯車機構SPは、第1分配用回転要素Es1と、第2分配用回転要素Es2と、第3分配用回転要素Es3と、を備えている。第1分配用回転要素Es1は、入力部材Iに駆動連結されている。第3分配用回転要素Es3は、第1ロータRo1に駆動連結されている。
【0021】
本実施形態では、分配用差動歯車機構SPは、第1サンギヤS1と第1キャリヤC1と第1リングギヤR1とを備えた遊星歯車機構である。本例では、分配用差動歯車機構SPは、第1ピニオンギヤP1を支持する第1キャリヤC1と、第1ピニオンギヤP1に噛み合う第1サンギヤS1と、当該第1サンギヤS1に対して径方向Rの外側に配置されて第1ピニオンギヤP1に噛み合う第1リングギヤR1と、を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0022】
本実施形態では、第1分配用回転要素Es1は、第1サンギヤS1である。更に、本実施形態では、第2分配用回転要素Es2は、第1キャリヤC1である。また、本実施形態では、第3分配用回転要素Es3は、第1リングギヤR1である。したがって、本実施形態に係る分配用差動歯車機構SPの各回転要素の回転速度の順は、第1分配用回転要素Es1、第2分配用回転要素Es2、第3分配用回転要素Es3の順となっている。
【0023】
ここで、「回転速度の順」とは、各回転要素の回転状態における回転速度の順番のことである。各回転要素の回転速度は、遊星歯車機構の回転状態によって変化するが、各回転要素の回転速度の高低の並び順は、遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。尚、各回転要素の回転速度の順は、各回転要素の速度線図(図4図5等参照)における配置順に等しい。ここで、「各回転要素の速度線図における配置順」とは、速度線図における各回転要素に対応する軸が、当該軸に直交する方向に沿って配置される順番のことである。速度線図における各回転要素に対応する軸の配置方向は、速度線図の描き方によって異なるが、その配置順は遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。
【0024】
本実施形態では、第1駆動部100Aは、第1ロータRo1と一体的に回転する第1ギヤG1と、第1ギヤG1に駆動連結された第2ギヤG2と、を備えている。
【0025】
本実施形態では、第1ギヤG1は、第2軸X2上に配置されている。そして、第1ギヤG1は、軸方向Lに沿って延在する第1ロータ軸RS1を介して、第1ロータRo1と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2ギヤG2は、第1ギヤG1に噛み合っている。また、第2ギヤG2は、第1軸X1上に配置されている。また、本実施形態では、第2ギヤG2は、第1リングギヤR1と一体的に回転するように連結されている。本例では、第1軸X1を軸心とする筒状のギヤ形成部材2が設けられている。そして、ギヤ形成部材2の外周面に第2ギヤG2が形成され、ギヤ形成部材2の内周面に第1リングギヤR1が形成されている。
【0026】
伝達機構Tは、分配用差動歯車機構SPから伝達された回転を第1出力部材O1に伝達する。伝達機構Tの伝達係合装置CLtは、動力伝達の状態を切り替えるための係合装置である。本実施形態では、伝達機構Tは、変速比が異なる複数の変速段を形成し得る変速機TMである。
【0027】
変速機TMは、分配用差動歯車機構SPから伝達された回転を、伝達係合装置CLtによって形成された変速段に応じた変速比で変速して第1出力部材O1に伝達する。尚、変速機TMは、伝達係合装置CLtによって形成された変速段に応じた変速比が1の場合、分配用差動歯車機構SPから伝達された回転をそのまま第1出力部材O1に伝達する。伝達係合装置CLtは、変速比が異なる少なくとも2つの変速段の何れかを形成する。本実施形態では、伝達係合装置CLtは、比較的変速比が大きい第1変速段(低速段)ST1と、当該第1変速段ST1よりも変速比が小さい第2変速段(高速段)ST2との何れかを形成する。
【0028】
本実施形態では、変速機TMは、第3ギヤG3と、第4ギヤG4と、第5ギヤG5と、第6ギヤG6と、変速出力ギヤ3と、を備えている。第3ギヤG3と第4ギヤG4とは、同軸上に配置されている。本実施形態では、第3ギヤG3と第4ギヤG4とは、第1軸X1上に配置されている。第3ギヤG3は、分配用差動歯車機構SPの第1キャリヤC1と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第3ギヤG3は、分配用差動歯車機構SPに対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0029】
第4ギヤG4は、分配用差動歯車機構SPの第1リングギヤR1と一体的に回転するように連結されている。また、本実施形態では、第4ギヤG4は、第2ギヤG2としても機能する。換言すれば、第2ギヤG2と第4ギヤG4とが、1つのギヤとしてギヤ形成部材2の外周面に形成されている。これにより、第2ギヤG2と第4ギヤG4とが独立して設けられた構成と比較して、車両用駆動装置100(第1駆動部100A)の製造コストを低減することができる。
【0030】
第5ギヤG5は、第3ギヤG3に噛み合っている。第6ギヤG6は、第4ギヤG4に噛み合っている。本実施形態では、第6ギヤG6は、第4ギヤG4(第2ギヤG2)の周方向における第1ギヤG1とは異なる位置で、第4ギヤG4に噛み合っている。変速出力ギヤ3は、第5ギヤG5及び第6ギヤG6に対して相対的に回転可能に構成されている。第5ギヤG5、第6ギヤG6、及び変速出力ギヤ3は、第3軸X3上に配置されている。本実施形態では、第5ギヤG5、第6ギヤG6、及び変速出力ギヤ3は、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2に向けて、記載の順に軸方向Lに並んで配置されている。
【0031】
第3ギヤG3の歯数と第4ギヤG4の歯数とは異なっている。つまり、第3ギヤG3の外径と第4ギヤG4の外径とが異なっている。そして、上述したように、第3ギヤG3と第4ギヤG4とが同軸上に配置されていると共に、第3ギヤG3に噛み合う第5ギヤG5と第4ギヤG4に噛み合う第6ギヤG6とが同軸上に配置されている。そのため、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも小さい場合には、第5ギヤG5の外径が第6ギヤG6の外径よりも大きい。一方、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも大きい場合には、第5ギヤG5の外径が第6ギヤG6の外径よりも小さい。したがって、第3ギヤG3に対する第5ギヤG5の歯数比と、第4ギヤG4に対する第6ギヤG6の歯数比とが異なっている。本実施形態では、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも小さく、第3ギヤG3の歯数は第4ギヤG4の歯数よりも少ない。そのため、本実施形態では、第5ギヤG5の外径が第6ギヤG6の外径よりも大きく、第5ギヤG5の歯数は第6ギヤG6の歯数よりも多い。したがって、第3ギヤG3に対する第5ギヤG5の歯数比は、第4ギヤG4に対する第6ギヤG6の歯数比よりも大きい。
【0032】
本実施形態では、伝達係合装置CLtは、第5ギヤG5及び第6ギヤG6の何れかを、変速出力ギヤ3に連結するように構成されている。上述したように、本実施形態では、第3ギヤG3に対する第5ギヤG5の歯数比は、第4ギヤG4に対する第6ギヤG6の歯数比よりも大きい。そのため、伝達係合装置CLtが第5ギヤG5を変速出力ギヤ3に連結させた場合には、第2変速段ST2よりも変速比が大きい第1変速段(低速段)ST1が形成される。一方、伝達係合装置CLtが第6ギヤG6を変速出力ギヤ3に連結させた場合には、第1変速段ST1よりも変速比が小さい第2変速段(高速段)ST2が形成される。
【0033】
更に、本実施形態では、伝達係合装置CLtは、伝達機構Tに動力伝達を行わせないニュートラル状態に切り替え可能に構成されている。伝達係合装置CLtがニュートラル状態の場合、伝達機構Tが分配用差動歯車機構SPから伝達された回転を第1出力部材O1に伝達しない状態、つまり、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のいずれの駆動力も第1車輪W1に伝達されない状態となる。本例では、伝達係合装置CLtは、ソレノイド、電動機、油圧シリンダ等のアクチュエータによって、係合駆動部材(ドグスリーブ)を移動させて、係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)である。当然ながら、伝達係合装置CLtが摩擦係合装置によって構成されることを妨げるものではない。
【0034】
第1出力用差動歯車機構DF1は、第1出力部材O1の回転を一対の第1車輪W1に分配するように構成されている。本実施形態では、第1出力用差動歯車機構DF1は、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、第1出力用差動歯車機構DF1は、中空の第1差動ケースと、当該第1差動ケースと一体的に回転するように支持された第1ピニオンシャフトと、当該第1ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された一対の第1ピニオンギヤと、当該一対の第1ピニオンギヤに噛み合って分配出力要素として機能する一対の第1サイドギヤと、を備えている。第1差動ケースには、第1ピニオンシャフト、一対の第1ピニオンギヤ、及び一対の第1サイドギヤが収容されている。本実施形態では、第1差動ケースには、第1出力部材O1としての第1差動入力ギヤ4が、当該第1差動ケースの径方向Rの外側に突出するように連結されている。そして、一対の第1サイドギヤのそれぞれには、第1車輪W1に駆動連結された第1ドライブシャフトDS1が一体的に回転可能に連結されている。こうして、第1出力用差動歯車機構DF1は、一対の第1ドライブシャフトDS1を介して、第1出力部材O1(第1差動入力ギヤ4)の回転を一対の第1車輪W1に分配する。
【0035】
第1係合装置CL1は、入力部材Iと分配用差動歯車機構SPの第1分配用回転要素Es1との間の動力伝達経路に配置されている。本実施形態では、第1係合装置CL1は、入力部材Iと第1サンギヤS1との間の動力伝達を断接するように構成されている。本例では、第1係合装置CL1は、一対の摩擦部材を備え、当該一対の摩擦部材同士の係合の状態が油圧によって制御される摩擦係合装置である。これにより、第1係合装置CL1を滑り係合状態として、第1係合装置CL1の伝達トルク容量を制御することができる。したがって、第1回転電機MG1の駆動力を利用して内燃機関EGを始動する場合に、第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達されるトルクを制御することができるため、第1回転電機MG1を一旦停止する必要がない。ここで、「滑り係合状態」とは、摩擦係合装置の一対の摩擦部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態である。
【0036】
第2係合装置CL2は、分配用差動歯車機構SPの第1分配用回転要素Es1、第2分配用回転要素Es2、及び第3分配用回転要素Es3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接するように構成されている。本実施形態では、第2係合装置CL2は、第2分配用回転要素Es2としての第1キャリヤC1と、第3分配用回転要素Es3としての第1リングギヤR1との間の動力伝達を断接するように構成されている。本例では、第2係合装置CL2は、ソレノイド、電動機、油圧シリンダ等のアクチュエータによって、係合駆動部材(ドグスリーブ)を移動させて、係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)である。本実施形態では、第2係合装置CL2は、軸方向Lにおける第1係合装置CL1と分配用差動歯車機構SPとの間に配置されている。当然ながら、第2係合装置CL2が摩擦係合装置によって構成されることを妨げるものではない。
【0037】
図2に示すように、本実施形態では、第2回転電機MG2は、第2車輪W2の駆動力源として機能する。つまり、本実施形態では、第2回転電機MG2は、第1出力部材O1を介することなく、第2出力部材O2に駆動連結されている。
【0038】
第2回転電機MG2は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、第2回転電機MG2は、蓄電装置BTと電気的に接続されている。そして、第2回転電機MG2は、蓄電装置BTに蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、第2回転電機MG2は、回生中には、第2出力部材O2の側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置BTを充電する。
【0039】
第2回転電機MG2の第2ステータSt2は、非回転部材(例えば、第2回転電機MG2等を収容するケース)に固定されている。第2回転電機MG2の第2ロータRo2は、第2ステータSt2に対して回転自在に支持されている。本実施形態では、第2ロータRo2は、第2ステータSt2に対して径方向Rの内側に配置されている。
【0040】
本実施形態では、第2駆動部100Bは、第2ロータRo2と一体的に回転するロータギヤ5を備えている。ロータギヤ5は、第5軸X5上に配置されている。そして、ロータギヤ5は、軸方向Lに沿って延在する第2ロータ軸RS2を介して、第2ロータRo2と一体的に回転するように連結されている。
【0041】
第2カウンタギヤ機構CG2は、第2カウンタ入力ギヤ61と、第2カウンタ出力ギヤ62と、これらのギヤ(第2カウンタ入力ギヤ61、第2カウンタ出力ギヤ62)が一体的に回転するように連結する第2カウンタ軸63と、を備えている。第2カウンタ入力ギヤ61は、第2カウンタギヤ機構CG2の入力要素である。第2カウンタ入力ギヤ61は、ロータギヤ5に噛み合っている。第2カウンタ出力ギヤ62は、第2カウンタギヤ機構CG2の出力要素である。本実施形態では、第2カウンタ出力ギヤ62は、第2カウンタ入力ギヤ61よりも軸方向第2側L2に配置されている。また、本実施形態では、第2カウンタ出力ギヤ62は、第2カウンタ入力ギヤ61よりも小径に形成されている。本実施形態では、第2出力部材O2は、第2カウンタギヤ機構CG2の第2カウンタ出力ギヤ62に噛み合う第2差動入力ギヤ7である。
【0042】
第2出力用差動歯車機構DF2は、第2出力部材O2の回転を一対の第2車輪W2に分配するように構成されている。本実施形態では、第2出力用差動歯車機構DF2は、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、第2出力用差動歯車機構DF2は、中空の第2差動ケースと、当該第2差動ケースと一体的に回転するように支持された第2ピニオンシャフトと、当該第2ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された一対の第2ピニオンギヤと、当該一対の第2ピニオンギヤに噛み合って分配出力要素として機能する一対の第2サイドギヤと、を備えている。第2差動ケースには、第2ピニオンシャフト、一対の第2ピニオンギヤ、及び一対の第2サイドギヤが収容されている。本実施形態では、第2差動ケースには、第2出力部材O2としての第2差動入力ギヤ7が、当該第2差動ケースの径方向Rの外側に突出するように連結されている。そして、一対の第2サイドギヤのそれぞれには、第2車輪W2に駆動連結された第2ドライブシャフトDS2が一体的に回転可能に連結されている。こうして、第2出力用差動歯車機構DF2は、一対の第2ドライブシャフトDS2を介して、第2出力部材O2(第2差動入力ギヤ7)の回転を一対の第2車輪W2に分配する。
【0043】
図3に示すように、車両用駆動装置100は、当該車両用駆動装置100が搭載される車両の各部の制御を行うための制御装置10を備えている。本実施形態では、制御装置10は、主制御部11と、内燃機関EGを制御する内燃機関制御部12と、第1回転電機MG1を制御する第1回転電機制御部13と、第2回転電機MG2を制御する第2回転電機制御部14と、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び伝達係合装置CLtの係合の状態を制御する係合制御部15と、を備えている。
【0044】
主制御部11は、内燃機関制御部12、第1回転電機制御部13、第2回転電機制御部14、及び係合制御部15のそれぞれに対して、各制御部が担当する装置を制御する指令を出力する。内燃機関制御部12は、内燃機関EGが、主制御部11から指令された目標トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された目標回転速度となるように内燃機関EGを制御する。内燃機関制御部12は、出力軸Eoの回転速度を検出する内燃機関センサSe10の検出結果を用いて内燃機関EGを制御する。
【0045】
第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1が、主制御部11から指令された目標トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された目標回転速度となるように第1回転電機MG1を制御する。第1回転電機制御部13は、第1ロータRo1の回転速度及び回転位置を検出する回転センサやステータコイルに流れる電流を検出する電流センサ等の第1回転電機センサSe11の検出結果に基づいて第1回転電機MG1を制御する。第2回転電機制御部14は、第2回転電機MG2が、主制御部11から指令された目標トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された目標回転速度となるように第2回転電機MG2を制御する。第2回転電機制御部14は、第2ロータRo2の回転速度及び回転位置を検出する回転センサやステータコイルに流れる電流を検出する電流センサ等の第2回転電機センサSe12の検出結果に基づいて第2回転電機MG2を制御する。
【0046】
係合制御部15は、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び伝達係合装置CLtのそれぞれが、主制御部11から指令された係合の状態となるように、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び伝達係合装置CLtを動作させるためのアクチュエータ(図示を省略)を制御する。第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び伝達係合装置CLtのそれぞれには、位置検出センサや油圧センサなどにより構成され、それぞれの係合状態を検出するための第1係合装置センサSe13、第2係合装置センサSe14、伝達係合装置センサSe15が備えられている。例えば、第2係合装置CL2や伝達係合装置CLtが上述したように噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)により構成されている場合、第2係合装置センサSe14及び伝達係合装置センサSe15は、解放状態から係合状態への状態移行に伴って移動する係合駆動部材(ドグスリーブなど)の位置や油圧によって当該係合駆動部材の移動量を検出する動作検出センサ(スリーブ位置検出センサ、油圧検出センサ)である。
【0047】
また、主制御部11は、車両用駆動装置100が搭載される車両の各部の情報を取得するために、当該車両の各部に設けられたセンサからの情報を取得可能に構成されている。
本実施形態では、主制御部11は、SOCセンサSe1、車速センサSe2、アクセル操作量センサSe3、及びシフト位置センサSe4からの情報を取得可能に構成されている。
【0048】
SOCセンサSe1は、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2と電気的に接続された、蓄電装置BTの状態を検出するためのセンサである。SOCセンサSe1は、例えば、電圧センサや電流センサ等により構成されている。主制御部11は、SOCセンサSe1から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、蓄電装置BTの充電量(SOC:State of Charge)を算出する。
【0049】
車速センサSe2は、車両用駆動装置100が搭載される車両の走行速度(車速)を検出するためのセンサである。本実施形態では、車速センサSe2は、第1出力部材O1の回転速度を検出するためのセンサである。主制御部11は、車速センサSe2から出力される上記回転速度の情報に基づいて、第1出力部材O1の回転速度(角速度)を算出する。第1出力部材O1の回転速度は車速に比例するため、主制御部11は、車速センサSe2の検出信号に基づいて車速を算出する。
【0050】
アクセル操作量センサSe3は、車両用駆動装置100が搭載される車両に設けられたアクセルペダルの運転者による操作量を検出するためのセンサである。主制御部11は、アクセル操作量センサSe3の検出信号に基づいて、運転者によるアクセルペダルの操作量を算出する。
【0051】
シフト位置センサSe4は、車両用駆動装置100が搭載される車両の運転者により操作されるシフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。主制御部11は、シフト位置センサSe4の検出信号に基づいてシフト位置を算出する。シフトレバーは、パーキングレンジ(Pレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)等を選択可能に構成されている。
【0052】
主制御部11は、上記のセンサからの情報に基づいて、後述する車両用駆動装置100における複数の動作モードの選択を行う。主制御部11は、係合制御部15を介して、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び伝達係合装置CLtのそれぞれを、選択した動作モードに応じた係合の状態に制御することにより、当該選択した動作モードへの切り替えを行う。更に、主制御部11は、内燃機関制御部12、第1回転電機制御部13、及び第2回転電機制御部14を介して、内燃機関EG、第1回転電機MG1、及び第2回転電機MG2の動作状態を協調制御することにより、選択した動作モードに応じた適切な車両の走行を可能とする。
【0053】
下記の表1は、車両用駆動装置100の各動作モードにおける係合装置の状態を示している。表1には、本実施形態の車両用駆動装置100の各動作モードにおける、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び伝達係合装置CLtの状態を示している。尚、表1の第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の欄において、「〇」は対象の係合装置が係合状態であることを示し、「×」は対象の係合装置が解放状態であることを示している。また、表1の伝達係合装置CLtの欄において、「Lo」は伝達係合装置CLtが第1変速段(低速段)ST1を形成していることを示し、「Hi」は伝達係合装置CLtが第2変速段(高速段)ST2を形成していることを示し、「N」は伝達係合装置CLtがニュートラル状態となっていることを示している。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、動作モードとして、電気式トルクコンバータモード(以下、「eTCモード」と記す)と、第1EVモード(EV Lo)と、第2EVモード(EV Hi)と、第1HVモード(HV Lo)と、第2HVモード(HV Hi)と、充電モードと、を備えている。
【0056】
eTCモードは、分配用差動歯車機構SPにより、第1回転電機MG1のトルクを反力として内燃機関EGのトルクを増幅して第1出力部材O1側に伝達し、車両を走行させるモードである。このモードは、内燃機関EGのトルクを増幅して第1出力部材O1に伝達することができるため、所謂、電気式トルクコンバータモードと称される。eTCモードは、車両の発進時等、車速が比較的低い場合に選択される。本実施形態のeTCモードでは、第1回転電機MG1は、負回転しつつ正トルクを出力して発電し、分配用差動歯車機構SPは、第1回転電機MG1のトルクと内燃機関EGのトルクとを合わせて、内燃機関EGのトルクよりも大きいトルクを第2分配用回転要素Es2(第1キャリヤC1)から出力する。そして、第2分配用回転要素Es2の回転は、変速機TMにおいて第1変速段ST1に応じた変速比で変速されて変速出力ギヤ3に伝達される(図4参照)。そのため、蓄電装置BTの充電量が比較的低い場合であってもeTCモードを選択可能である。
【0057】
表1に示すように、eTCモードでは、第1係合装置CL1が係合状態であり、第2係合装置CL2が解放状態であり、伝達係合装置CLtが伝達機構Tに動力伝達を行わせる状態となるように制御される。本実施形態では、伝達係合装置CLtは、第1変速段(低速段)ST1を形成した状態となるように制御される。そして、eTCモードでは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1がトルクを出力するように制御される。よって、eTCモードは、第1係合装置CL1を係合状態とし、第2係合装置CL2を解放状態とし、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のトルクを第1出力部材O1に伝達させる「第1モード」に相当する。
【0058】
第1EVモード(EV Lo)は、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、第1回転電機MG1のみの駆動力により、相対的に低速で車両を走行させるモードである。第2EVモード(EV Hi)は、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、第1回転電機MG1のみの駆動力により、相対的に高速で車両を走行させるモードである。第1HVモード(HV Lo)は、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の双方の駆動力により、相対的に低速で車両を走行させるモードである。第2HVモード(HV Hi)は、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の双方の駆動力により、相対的に高速で車両を走行させるモードである。第1EVモード及び第2EVモード、並びに、第1HVモード及び第2HVモードは、車速及び蓄電装置BTの充電量のそれぞれが規定値以上である場合に選択される。
【0059】
第1EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態であり、第2係合装置CL2が係合状態であり、伝達係合装置CLtが伝達機構Tに動力伝達を行わせる状態となるように制御される。本実施形態では、伝達係合装置CLtは、第1変速段(低速段)ST1を形成した状態となるように制御される。一方、第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態であり、第2係合装置CL2が係合状態であり、伝達係合装置CLtが伝達機構Tに動力伝達を行わせる状態となるように制御される。本実施形態では、伝達係合装置CLtは、第2変速段(高速段)ST2を形成した状態となるように制御される。そして、第1EVモード及び第2EVモードでは、内燃機関EGが停止し、第1回転電機MG1がトルクを出力するように制御される。
【0060】
第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態とされることによって内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPから分離されると共に、第2係合装置CL2が係合状態とされることによって分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素(Es1~Es3)が互いに一体的に回転する状態となる。その結果、第1ギヤG1から第2ギヤG2に伝達された第1回転電機MG1の回転は、そのまま変速機TMの第3ギヤG3及び第4ギヤG4に伝達される。変速機TMに伝達された回転は、伝達係合装置CLtの状態に応じて、第1EVモードでは第1変速段ST1の変速比、第2EVモードでは第2変速段ST2の変速比で変速されて変速出力ギヤ3に伝達される。
【0061】
第1HVモードでは、第1係合装置CL1が係合状態であり、第2係合装置CL2が係合状態であり、伝達係合装置CLtが伝達機構Tに動力伝達を行わせる状態となるように制御される。本実施形態では、伝達係合装置CLtは、第1変速段(低速段)ST1を形成した状態となるように制御される。一方、第2HVモードでは、第1係合装置CL1が係合状態であり、第2係合装置CL2が係合状態であり、伝達係合装置CLtが伝達機構Tに動力伝達を行わせる状態となるように制御される。本実施形態では、伝達係合装置CLtは、第2変速段(高速段)ST2を形成した状態となるように制御される。そして、第1HVモード及び第2HVモードでは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1がトルクを出力するように制御される。よって、第1HVモード及び第2HVモードは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2を係合状態とし、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のトルクを第1出力部材O1に伝達させる「第2モード」に相当する。第2モードは、所謂、パラレルハイブリッドモードと称される。
【0062】
第1HVモード及び第2HVモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされることによって内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPに連結されると共に、第2係合装置CL2が係合状態とされることによって分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素(Es1~Es3)が互いに一体的に回転する状態となる。その結果、入力部材Iを介して伝達される内燃機関EGの回転、及び、第1ギヤG1から第2ギヤG2に伝達された第1回転電機MG1の回転は、そのまま変速機TMの第3ギヤG3及び第4ギヤG4に伝達される。変速機TMに伝達された回転は、伝達係合装置CLtの状態に応じて、第1HVモードでは第1変速段ST1の変速比、第2HVモードでは第2変速段ST2の変速比で変速されて変速出力ギヤ3に伝達される。
【0063】
充電モードは、内燃機関EGの駆動力により第1回転電機MG1に発電を行わせて、蓄電装置BTを充電するモードである。充電モードは、蓄電装置BTの充電量が規定値未満である場合に選択される。
【0064】
充電モードでは、第1係合装置CL1が係合状態であり、第2係合装置CL2が係合状態であり、伝達係合装置CLtがニュートラル状態となるように制御される。そして、充電モードでは、内燃機関EGがトルクを出力し、第1回転電機MG1が内燃機関EGのトルクによって回転する第1ロータRo1の回転方向とは反対方向のトルクを出力することにより発電するように制御される。尚、充電モードでは、車両を停車させていても良いし、第1回転電機MG1が発電した電力により第2回転電機MG2を力行させ、当該第2回転電機MG2の駆動力を第2車輪W2に伝達することで車両を走行させても良い。このように充電モードとしつつ第2回転電機MG2の駆動力によって車両を走行させるモードは、所謂、シリーズハイブリッドモードと称される。
【0065】
図4は、本実施形態のeTCモードにおける分配用差動歯車機構SP及び変速機TMの速度線図を示している。図4の速度線図において、縦軸は、分配用差動歯車機構SP及び変速機TMの各回転要素の回転速度に対応している。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれは、分配用差動歯車機構SP及び変速機TMの各回転要素に対応している。また、図4の速度線図において、複数本の縦線の上方に示された符号は、対応する回転要素の符号である。そして、複数本の縦線の下方に示された符号は、上方に示された符号に対応する回転要素に駆動連結された要素の符号である。このような速度線図の記載方法は、図5等の他の速度線図においても同様である。
【0066】
上述したように、本実施形態のeTCモードでは、第1係合装置CL1が係合状態で、第2係合装置CL2が解放状態である。図4に示すように、本実施形態のeTCモードでは、内燃機関EGが正回転しつつ正トルクを出力し、第1回転電機MG1が負回転しつつ正トルクを出力して発電する。これにより、内燃機関EGのトルクよりも大きいトルクが分配用差動歯車機構SPの第1キャリヤC1に伝達される。このトルクによって回転する第1キャリヤC1の回転が、変速機TMの第3ギヤG3に伝達される。そして、第3ギヤG3と第5ギヤG5との間で、第1変速段ST1に応じた変速比で減速された回転が、変速出力ギヤ3に伝達される。
【0067】
図5は、本実施形態の第1HVモード及び第2HVモードにおける、分配用差動歯車機構SP及び変速機TMの速度線図を示している。上述したように、第1HVモード及び第2HVモードでは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2を係合状態である。尚、第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1は解放状態であるが、第2係合装置CL2が係合状態であるため、分配用差動歯車機構SPの回転状態は同じである。
【0068】
図5に示すように、本実施形態の第1EVモード及び第2EVモード、並びに、第1HVモード及び第2HVモードでは、第2係合装置CL2が係合状態とされることによって分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素(Es1~Es3)が互いに一体的に回転する状態となる。このように一体回転する分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素(Es1~Es3)に対して、第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態であるため、第1回転電機MG1のトルクが伝達される。一方、第1HVモード及び第2HVモードでは、図5に示すように、第1係合装置CL1が解放状態であるため、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のトルクが伝達される。
【0069】
これらのトルクによって回転する分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素(Es1~Es3)のうち、第2分配用回転要素Es2である第1キャリヤC1から出力された回転が、変速機TMの第3ギヤG3に伝達される。一方、第3分配用回転要素Es3である第1リングギヤR1から出力された回転が、変速機TMの第4ギヤG4に伝達される。そして、第1EVモード及び第1HVモードでは、第3ギヤG3と第5ギヤG5との間で、第1変速段ST1に応じた変速比で減速された回転が、変速出力ギヤ3に伝達される。一方、第2EVモード及び第2HVモードでは、第4ギヤG4と第6ギヤG6との間で、第2変速段ST2に応じた変速比で減速された回転が、変速出力ギヤ3に伝達される。
【0070】
ところで、eTCモードから第1HVモードへの遷移に際しては、内燃機関EGの回転速度(第1サンギヤS1(第1分配用回転要素Es1)の回転速度)と、第1回転電機MG1の回転速度(第1リングギヤR1(第3分配用回転要素Es3)の回転速度)が一致した状態で、解放状態の第2係合装置CL2が係合されることが好ましい。しかし、本実施形態のように、第2係合装置CL2が噛み合い式係合装置の場合には、摩擦係合装置の場合に比べて第2係合装置CL2が弾かれやすく、いわゆるラチェッティングを生じてしまう可能性がある。図4に示すように、eTCモードでは、分配用差動歯車機構SPは、各回転要素に回転差がある差動状態である。しかし、第1HVモードでは、図5に示すように、分配用差動歯車機構SPは、各回転要素に回転差が無い状態で一体回転する。
【0071】
制御装置10は、図4に示すように、第1キャリヤC1(第2分配用回転要素Es2)と第1リングギヤR1(第3分配用回転要素Es3)とに回転速度差がある状態から、第1回転電機MG1の回転速度を上昇させて、図5に示すようにこれら2つの分配用回転要素の回転速度を一致させ、第2係合装置CL2を係合させる。しかし、eTCモードからハイブリッドモードへの遷移に際して、これらの回転速度がうまく整合できていないと、第2係合装置CL2が円滑に係合できない可能性がある。そこで、第2係合装置CL2を円滑に係合するためには、第1キャリヤC1(第2分配用回転要素Es2)の回転速度と第1リングギヤR1(第3分配用回転要素Es3)との回転速度を適切に制御することが必要である。本実施形態の制御装置10は、第2係合装置CL2を係合させる前に、内燃機関EGの回転速度及び第1回転電機MG1の回転速度が第1キャリヤC1(第2分配用回転要素Es2)の回転速度と同等となるように第1回転電機MG1を制御して、第2係合装置CL2が安定して係合できる状態を作り、第2係合装置CL2の係合中にラチェッティングが生じることを抑制する。
【0072】
制御装置10は、第1出力部材O1の回転速度を上昇させている状態、即ち加速中で、eTCモード(第1モード)から第1HVモード(第2モード)に移行する場合に、以下のような制御を実行する。制御装置10は、第1キャリヤC1(第2分配用回転要素Es2(第2回転要素))の回転速度が第1サンギヤS1(第1分配用回転要素Es1(第1回転要素))の回転速度よりも低く、且つ、第1キャリヤC1の回転速度と第1サンギヤS1の回転速度との回転速度差が規定の同期しきい値より大きい間は、内燃機関EGに目標トルクを出力させると共に、第1リングギヤR1(第3分配用回転要素Es3(第3回転要素))の回転速度を第1サンギヤS1の回転速度及び第1キャリヤC1の回転速度に従動させるように第1回転電機MG1を制御する非同期制御を実行する。非同期制御において、制御装置10は、第1回転電機MG1が目標トルクを出力するように、第1回転電機MG1をトルク制御する。非同期制御は、分配用差動歯車機構SPの制御モードということができ、図6に示すように非同期制御においては、内燃機関EGの回転速度(第1サンギヤS1の回転速度)と第1キャリヤC1の回転速度とは同期していない。
【0073】
さらに、制御装置10は、第1出力部材O1の回転速度の上昇によって第1キャリヤC1の回転速度と第1サンギヤS1の回転速度との回転速度差が同期しきい値以下となった場合には、内燃機関EGに目標トルクを出力させると共に、第1キャリヤC1の回転速度に合わせて第1回転電機MG1の回転速度制御を行うことにより、回転速度差を同期しきい値以下に維持する同期維持制御を実行する。即ち、制御装置10は、非同期制御において第1回転電機MG1をトルク制御するのと異なり、同期維持制御においては、第1回転電機MG1が目標回転速度となるように、第1回転電機MG1を回転速度制御する。そして、制御装置10は、同期維持制御の実行中に、第2係合装置CL2を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行する。
【0074】
尚、上記においては、非同期制御において、第1回転電機MG1が目標トルクを出力するように、制御装置10が第1回転電機MG1をトルク制御する形態について例示したが、制御装置10はトルク制御に加えて第1回転電機MG1を回転速度制御してもよい。具体的には、制御装置10は、当該トルク制御に加えて、内燃機関EG(第1サンギヤS1)の回転速度の所定の一定回転速度からのずれを補正するように第1回転電機MG1の出力トルクを調整する回転速度制御を実施してもよい。即ち、内燃機関EGの回転速度は、所定の一定回転速度からずれる場合があり、当該ずれを第1回転電機MG1の回転速度によって補正するために、第1回転電機MG1がトルク制御に加えて回転速度制御されることも好適である。
【0075】
以下、eTCモードから第1HVモードへの遷移時のタイムチャート(図6)、及びフローチャート(図7)も参照して説明する。図6に示すように、eTCモードにおいて、内燃機関EGの回転速度を一定に保った状態で、第1回転電機MG1の回転速度を上昇させる。図4及び図5に示すように、第1回転電機MG1(第1リングギヤR1)の回転方向は、最初は負であるが、図5に示すように時刻t1以降は正となる。内燃機関EGの回転速度が一定に保たれているため、第1回転電機MG1(第1リングギヤR1)の回転速度の上昇に伴って第1キャリヤC1の回転速度が上昇していく。図7に示すように、第1キャリヤC1の回転速度が規定回転速度以上となるまで、eTCモードが継続される(#1、#10)。規定回転速度は、第1分配用回転要素Es1(第1回転要素)としての第1サンギヤS1(内燃機関EG)の回転速度に対して予め規定された同期しきい値だけ小さい値に設定されている。
【0076】
図6に示すように、時刻t2において、第1キャリヤC1の回転速度が規定回転速度以上となると(第1キャリヤC1の回転速度と第1サンギヤS1の回転速度との回転速度差が同期しきい値以下となると)、制御装置10は、トルク制御に代えて、第1回転電機MG1を回転速度制御により制御する(図7:#2)。即ち、当該回転速度差を同期しきい値以下に維持する同期維持制御が実行される。
【0077】
制御装置10は、この同期維持制御の実行中、同期しきい値以下に設定された規定差回転を持たせるように第1回転電機MG1の回転速度制御を行う。第1回転電機MG1が第1サンギヤS1(内燃機関EG)の回転速度を超えないように制御されることによって、同期維持制御の実行中に実行される係合制御において、第2係合装置CL2を円滑に係合させることができる。
【0078】
本実施形態のように、第2係合装置CL2がドグクラッチの場合、第1キャリヤC1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度とが完全に一致していると、ドグスリーブのチャンファとギヤのドグ歯とが係合できない場合がある。このため、第1キャリヤC1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度とに差を持たせることが好ましい。この時、第1キャリヤC1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との何れを低くしてもよい。但し、車両が加速中の場合には、第1リングギヤR1の回転速度(第1回転電機MG1の回転速度)の方が第1キャリヤC1よりも高くなると係合時に加速方向への係合ショックを生じ易い。従って、eTCモードから第1HVモードへと、車両を加速させながら第2係合装置CL2を係合させる場合には、第1リングギヤR1の回転速度(第1回転電機MG1の回転速度)の方が第1キャリヤC1の回転速度よりも低くなるように、同期しきい値が設定されると好適である。
【0079】
また、第2係合装置CL2は、本実施形態のように噛み合い式係合装置に限らず、摩擦係合装置によって構成されていてもよい。摩擦係合装置では、滑り係合状態とすることによって、伝達トルク容量を制御することができるため、噛み合い式係合装置のように係合時にラチェッティングが生じることは少なく、相対的に円滑に係合させ易い。しかし、第2係合装置CL2が摩擦係合装置の場合であっても、上記のように第1リングギヤR1の回転速度と第1キャリヤC1の回転速度とが回転速度差を有するように制御することによって、より円滑に解放状態から係合状態に遷移させることができる。
【0080】
この回転速度制御の実行中は、eTCモードとは異なり、内燃機関EGの回転速度が分配用差動歯車機構SPの回転変化(第1サンギヤS1、第1キャリヤC1、第1リングギヤR1の回転変化)と共に上昇することとなる。即ち、イナーシャトルク変動によって駆動力(車両システムトルク)が、図6に破線で示すように減少する。本実施形態では、この車両システムトルクの減少は、図6に示すように、例えば第2回転電機MG2のトルクによって補償することができる。
【0081】
上述したように、本実施形態では、第1回転電機MG1に加えて第2回転電機MG2を備えている。本実施形態の第2回転電機MG2は、第1出力部材O1を介することなく第1車輪W1とは別の車輪である第2車輪W2に駆動連結されている回転電機である。この第2回転電機MG2が、同期維持制御の開始による内燃機関EGの回転速度の変化に伴う内燃機関EGのイナーシャ分のトルクを補うようにトルクを出力する。これにより、同期維持制御の実行によって減少する車両の駆動力が補償され、安定した車両の走行を継続することができる。
【0082】
図7に示すように、第1回転電機MG1の回転速度制御の実行(#2)に続いて、第2回転電機MG2によるイナーシャトルク補償制御が実行される(#3)。これにより、図6に示すように、時刻t2から第2回転電機MG2によるトルク(補償トルク)が出力され、実線で示すように、車両システムトルクが維持される。
【0083】
尚、第2回転電機MG2は、第1出力部材O1に伝達機構T(変速機TM)を介することなく駆動連結される形態であってもよい。また、第2回転電機MG2ではなく、内燃機関EGによって補償トルクが出力され、車両システムトルクが維持される構成であってもよい。
【0084】
時刻t2において同期維持制御が開始された後、規定期間T1が経過するまで第1回転電機MG1の回転速度制御が継続される(図7:#4,#12)。即ち、制御装置10は、回転速度差が同期しきい値以下の状態が、予め規定された規定期間T1継続した後に、係合制御を開始する。規定期間T1経過後の時刻t4になると、第2係合装置CL2の係合制御が開始される。本実施形態では、第2係合装置CL2は、噛み合い式係合装置であり、図6に示すように、時刻t4より噛み合い式係合装置のスリーブのストロークが開始される(図7:#5)。この規定期間T1は、第1回転電機MG1の回転速度と目標回転速度との差が最初に同期しきい値以下となった後に、第1回転電機MG1を安定して回転速度制御できるように制御が収束する時間に設定される。規定期間T1が経過するまで第1回転電機MG1の回転速度制御を継続することによって、第1回転電機MG1の回転速度が安定し、第2係合装置CL2を円滑に係合させることができる。
【0085】
尚、実験やシミュレーション等によって、予め制御の収束時間が一定範囲内に絞り込める場合には、制御装置10は、同期維持制御を開始して予め規定した同期維持制御継続時間が経過した後に、係合制御を開始してもよい。
【0086】
時刻t4より第2係合装置CL2の係合を開始し、時刻t5においてストローク量が規定値を超えると、分配用差動歯車機構SPの制御モードは、同期維持制御から直結移行制御へと移る。制御装置10は、第1回転電機MG1の回転速度制御を終了し、再びトルク制御によって第1回転電機MG1を制御する(図7:#6,#7,#15)。上述したように、第2係合装置CL2は、解放状態から係合状態への状態移行に伴って移動するドグスリーブ(係合駆動部材)と、ドグスリーブの移動量を検出するスリーブ位置検出センサや油圧検出センサなどの第2係合装置センサSe14(動作検出センサ)とを備えている。制御装置10は、第2係合装置センサSe14による検出結果に基づいて、ドグスリーブの噛み合い開始位置を基準とした規定範囲内で同期維持制御を終了する(図6:時刻t5、図7:#6,#7,#15)。この規定範囲は、ドグスリーブの移動の誤差を考慮して、ドグスリーブに形成されたチャンファが、ギヤのドグ歯に接触する前に同期維持制御が終了されるように設定されている。制御装置10は、同期維持制御の終了後、第1回転電機MG1の制御方式を、目標トルクに合わせてトルクを出力するトルク制御に移行する。
【0087】
第1回転電機MG1の制御方式がトルク制御に戻った後も、第2係合装置CL2が完全に係合するまでドグスリーブの移動は継続する。図6に示す時刻t6でドグスリーブが所定の位置までの移動を完了すると、分配用差動歯車機構SPの制御モードは、直結移行制御から直結制御に移る。第2係合装置CL2は、完全な係合状態となって第1HVモード(HV Lo)によって車両用駆動装置100が駆動される(図7:#8)。第2係合装置CL2の係合によって、内燃機関EGのトルクの全てを車両システムトルクとして用いることができるので、イナーシャ補償トルクは必要がなくなる。時刻t7において第2回転電機MG2によるイナーシャトルク補償制御が終了される。
【0088】
上述したように、制御装置10は、ドグスリーブの噛み合い開始位置を基準とした規定範囲内で同期維持制御を終了することで、第2係合装置CL2が係合状態となった後に円滑に第1回転電機MG1をトルク制御により駆動制御して、第1HVモードを開始することができる。
【0089】
制御装置10が同期維持制御を終了する条件は、ドグスリーブの噛み合い開始位置を基準とした規定範囲に限らず、ドグスリーブの移動開始からの経過時間(ストローク経過時間T2)であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
10:制御装置、100:車両用駆動装置、CL1:第1係合装置、CL2:第2係合装置、E:内燃機関、EG:内燃機関、Es1:第1分配用回転要素(第1回転要素)、Es2:第2分配用回転要素(第2回転要素)、Es3:第3分配用回転要素(第3回転要素)、I:入力部材、MG1:第1回転電機(回転電機)、MG2:第2回転電機、O2:第2出力部材(出力部材)、Ro1:第1ロータ(第1回転電機のロータ)、SP:分配用差動歯車機構、T:伝達機構、T1:規定期間、T2:ストローク経過時間、W1:第1車輪(車輪)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-01-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
回転電機と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記回転電機のロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
少なくとも前記第2回転要素と前記出力部材との間の動力伝達を行う伝達機構と、
前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達経路に配置されて前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用駆動装置の制御装置であって、
前記第1係合装置を係合状態とし、前記第2係合装置を解放状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第1モードと、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を係合状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第2モードと、を実行可能であり、
前記出力部材の回転速度を上昇させている状態で、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、
前記第2回転要素の回転速度が前記第1回転要素の回転速度よりも低く、且つ、前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が規定の同期しきい値より大きい間は、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第3回転要素の回転速度を前記第1回転要素の回転速度及び前記第2回転要素の回転速度に従動させるように前記回転電機を制御する非同期制御を実行し、
前記出力部材の回転速度の上昇によって前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が前記同期しきい値以下となった場合には、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第2回転要素の回転速度に合わせて前記回転電機の回転速度制御を行うことにより、当該回転速度差を前記同期しきい値以下に設定された規定差回転に維持する同期維持制御を実行し、
当該同期維持制御の実行中に、前記第2係合装置を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行する、車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記第2係合装置は、噛み合い式の係合装置である、請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
記第2係合装置は、前記解放状態から前記係合状態への状態移行に伴って移動する係合駆動部材と、前記係合駆動部材の移動量を検出する動作検出センサと、を備え、
前記動作検出センサによる検出結果に基づいて、前記係合駆動部材の噛み合い開始位置を基準とした規定範囲内で前記同期維持制御を終了し、
前記同期維持制御の終了後、前記回転電機の制御方式を、目標トルクに合わせてトルクを出力するトルク制御に移行する、請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記回転速度差が前記同期しきい値以下の状態が、予め規定された規定期間継続した後に、前記係合制御を開始する、請求項1からの何れか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記回転電機を第1回転電機とし、前記第1回転電機に加えて第2回転電機を備え、
前記第2回転電機は、前記出力部材を介することなく前記車輪とは別の車輪に駆動連結されている回転電機、又は、前記伝達機構を介することなく前記出力部材に駆動連結されている回転電機であり、
前記第2回転電機が、前記同期維持制御の開始による前記内燃機関の回転速度の変化に伴う前記内燃機関のイナーシャ分のトルクを補うようにトルクを出力する、請求項1からの何れか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の制御装置は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、回転電機と、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記回転電機のロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、少なくとも前記第2回転要素と前記出力部材との間の動力伝達を行う伝達機構と、前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達経路に配置されて前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用駆動装置の制御装置であって、前記第1係合装置を係合状態とし、前記第2係合装置を解放状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第1モードと、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を係合状態とし、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記出力部材に伝達させる第2モードと、を実行可能であり、前記出力部材の回転速度を上昇させている状態で、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、前記第2回転要素の回転速度が前記第1回転要素の回転速度よりも低く、且つ、前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が規定の同期しきい値より大きい間は、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第3回転要素の回転速度を前記第1回転要素の回転速度及び前記第2回転要素の回転速度に従動させるように前記回転電機を制御する非同期制御を実行し、前記出力部材の回転速度の上昇によって前記第2回転要素の回転速度と前記第1回転要素の回転速度との回転速度差が前記同期しきい値以下となった場合には、前記内燃機関に目標トルクを出力させると共に、前記第2回転要素の回転速度に合わせて前記回転電機の回転速度制御を行うことにより、当該回転速度差を前記同期しきい値以下に設定された規定差回転に維持する同期維持制御を実行し、当該同期維持制御の実行中に、前記第2係合装置を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
この構成によれば、第2回転要素の回転速度(車両の速度)が第1回転要素の回転速度(内燃機関の回転速度)よりも低い場合には、第3回転要素の回転速度(回転電機の回転速度)を第1回転要素の回転速度及び第2回転要素の回転速度に従動させることで、第1モードで適切に車両を加速させることができる。また、車両の速度が上昇して、第2回転要素の回転速度(車両の速度)と第1回転要素の回転速度(内燃機関の回転速度)との回転速度差が規定の同期しきい値以下となった後は、第2回転要素の回転速度に合わせて内燃機関及び回転電機の回転速度制御を行うことにより、分配用差動歯車機構の3つの回転要素の回転速度差が同期しきい値以下に設定された規定差回転に維持される(同期維持制御)。よって、分配用差動歯車機構の3つの回転要素の回転速度差を小さく維持しつつ、適切に車両を加速させることができる。そして、同期維持制御の実行中に、第2係合装置を解放状態から係合状態に移行させる係合制御を実行するので、第2係合装置の係合動作を円滑に行うことができる。即ち、本構成によれば、電気トルクコンバータモードからハイブリッドモードへの動作モードの遷移に際して円滑に係合装置を係合させることができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0090
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0090】
10:制御装置、100:車両用駆動装置、CL1:第1係合装置、CL2:第2係合装置、EG:内燃機関、Es1:第1分配用回転要素(第1回転要素)、Es2:第2分配用回転要素(第2回転要素)、Es3:第3分配用回転要素(第3回転要素)、I:入力部材、MG1:第1回転電機(回転電機)、MG2:第2回転電機、O:第出力部材(出力部材)、Ro1:第1ロータ(第1回転電機のロータ)、Se14:第2係合装置センサ(動作検出センサ)、SP:分配用差動歯車機構、T:伝達機構、T1:規定期間、T2:ストローク経過時間、W1:第1車輪(車輪)