(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111885
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】環境温度計測装置及び環境温度計測方法。
(51)【国際特許分類】
G01K 11/24 20060101AFI20220725BHJP
G01K 1/024 20210101ALI20220725BHJP
G01K 13/024 20210101ALI20220725BHJP
【FI】
G01K11/24
G01K1/024
G01K13/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021007560
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】516341095
【氏名又は名称】株式会社諏訪三社電機
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
(72)【発明者】
【氏名】大西 衛
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056AE01
2F056AE05
2F056AE07
2F056VS03
2F056VS04
2F056VS06
2F056VS10
2F056WF05
2F056WF08
(57)【要約】
【課題】農場で水や肥料をかけられても、日光の照射を受けても、湿度変化があっても、乾電池で動作して正確な温度を計測できる環境温度計測装置を提供する。
【解決手段】装置周辺の空気の温度を計測する環境温度計測装置1であって、計測する空気が通過する通気路18と、通気路18を通過する空気に超音波を照射する超音波照射手段13と、超音波照射手段13が照射した超音波を受波する超音波受波手段14と、通気路18内における超音波の伝搬速度を求める伝搬速度計測装置16と、通気路18内の気圧を計測する気圧センサ12と、通気路18を通過する空気の相対湿度を求める湿度センサ11と、演算手段19とを備え、演算手段19は、通気路18内における超音波の伝搬速度、通気路18を通過する空気の相対湿度及び通気路18内の気圧から、通気路18を通過する空気の温度(環境温度)を求める環境温度計測装置。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置周辺の空気の温度を計測する環境温度計測装置1であって、
計測する空気が通過する通気路18と、
前記通気路18内にあって、前記通気路18を通過する空気に超音波を照射する超音波照射手段13と、
前記通気路18内にあって、前記超音波照射手段13が照射した超音波を受波する超音波受波手段14と、
前記通気路18内における前記超音波の伝搬速度を求める伝搬速度計測装置16と、
前記通気路18内の気圧を計測する気圧センサ12と、
前記通気路18を通過する空気の相対湿度を求める湿度センサ11と、
演算手段19とを備え、
前記演算手段19は、前記通気路18内における超音波の伝搬速度、前記通気路18を通過する空気の相対湿度及び前記通気路18内の気圧から、前記通気路18を通過する空気の温度(環境温度)を求めることを特徴とする環境温度計測装置。
【請求項2】
前記通気路18に外気を導入する電動ファン15をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の環境温度計測装置。
【請求項3】
前記通気路18に雨水が侵入することを防ぐように前記通気路の上部が覆われていることを特徴とする請求項1に記載の環境温度計測装置。
【請求項4】
前記通気路18は、上方開口部から前記超音波照射手段13の設置部位に向かって漏斗状、かつ、下方開口部から前記超音波照射手段13の設置部位から向かって漏斗状の形状を有することを特徴とする請求項1に記載の環境温度計測装置。
【請求項5】
前記通気路18の内壁には超音波吸収体181が施されていることを特徴とする請求項1に記載の環境温度計測装置。
【請求項6】
前記伝搬速度計測装置16は、狭帯域フィルター173,174及び位相検出手段175を備え、検出した前記超音波の位相を用いて前記超音波の伝搬速度を求めることを特徴とする請求項1に記載の環境温度計測装置。
【請求項7】
前記環境温度計測装置への電力供給が電池105により行われることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の環境温度計測装置。
【請求項8】
計測対象の空気に超音波を照射することにより超音波伝搬速度Svを求める工程SP5と、
前記計測対象の空気の相対湿度RHを計測する工程SP6と、
前記計測対象の空気の気圧Pvを計測する工程SP7と、
前記相対湿度RHを前記気圧Pvで除することにより湿度気圧パラメターRpを求める工程SP8と、
前記湿度気圧パラメターRpと前記超音波伝搬速度Svを用いて数値演算することにより前記計測対象の空気の温度(環境温度)Tempを求める工程(SP9)とを含むことを特徴とする環境温度計測方法。
【請求項9】
前記数値演算は、第1の多項式群に前記湿度気圧パラメターRpを作用させることにより第2の多項式を求め、前記第2の多項式に前記超音波伝搬速度Svに基づく数値を代入することにより環境温度Tempを求めることを特徴とする請求項8に記載の環境温度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウス内や室内、屋外などの空気温度(環境温度)を計測する環境温度計測装置及び環境温度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業用ハウスの環境温度を計測し、ネットワークでクラウドコンピュータに集積し、さらにビッグデータ解析することで生育条件を最適化して収益を高める取り組み等が行われている。 このとき環境温度を市販の温度計で計測しようとすると以下に説明する4つの問題が存在する。
【0003】
第1の問題は液体(水)である。 水や農薬などを散布するので、温度計が濡れて温度計が壊れ、または正確に計測できない可能性がある。 そこで耐水性を得るために温度計をケースに収納する。 しかしケースに入れると、第2の問題が発生する。
【0004】
第2の問題は日照による計測誤差である。農作物には日照が届くようになっているが、日照が温度計測装置のケースを照射すると、ケースの温度が上昇し、測定したい環境温度よりも遥かに高い値が計測されてしまう。
【0005】
第3の問題は電源である。 農場内において電源が供給される場所は限られているので電池駆動で動作することが求められる。
【0006】
上記の問題のうち第1の問題及び第2の問題を解決することのできる技術(気象観測用温度計)がある(例えば、特許文献1参照。)。 また、上記の問題のうち第2の問題及び第3の問題を解決することのできる技術(超音波を用いた温度センサ)が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭61-92843号公報
【特許文献2】実開昭63-39646号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lukas Ondraczka著、Portable Ultrasonic Thermometer with Humidity Correction and Audible Sound Thermometry
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の気象観測用温度計は、温度センサをケースに搭載して雨水を避ける
構造となっている。また電動のファンを搭載して外部の空気を取り入れるように構成されているため、直射日光を受けてケースが温度上昇しても、正しい温度を計測できる。 特許文献1に記載の気象観測用温度計は、上記した第1の問題及び第2の問題を解決することができる。
【0010】
しかしファンを連続して駆動するためには電力が必要であり、市販されている強制通風型の温度計はいずれも交流電源への接続を前提としている。つまり第3の問題が解決されていない。
【0011】
特許文献2に記載されている温度測定装置は、超音波をその送波部から一定距離にある受波部に向けて送波し、この超音波が送波部から受波部に到達するまでの伝播時間を測定することによって媒体の平均温度を測定する温度測定装置である。 超音波を使った伝搬時間測定装置は低消費電力で動作するので、上記した第3の問題(電池駆動)を解決できる。 しかし、雨を防ぐために超音波伝搬部をケースで覆う必要があり、そのケースに日照を受けるとケース内に閉じ込めた空気が温まるので計測誤差が発生する。 つまり上記した第2の問題を解決できない。
【0012】
また超音波を用いて計測された温度は、「仮温度」と呼ばれ、空気が湿り気を帯びていた場合には正しい温度とはならない。 超音波を使う場合は、湿度により影響を受けて誤差を生じる問題(第4の問題)を生じる。
【0013】
そこで本発明は、上記した第1の問題、第2の問題、第3の問題、そして第4の問題のすべてを解決する環境温度計測装置及び環境温度計測方法を提供することを目的とする。 すなわち、農場で水や肥料をかけられても、日光の照射を受けても、湿度変化があっても、乾電池で動作して正確な温度を計測できる環境温度計測装置及び環境温度計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意努力を重ねた結果、温度計測装置内に通気路を設け、通気路を伝播する超音波の伝播速度、通気路の気圧、そして通気路の相対湿度の3つの情報を得て、これら3つの情報をコンピュータで演算することにより、上記した4つの問題を回避して環境温度を測定できる環境温度計測装置及び環境温度計測方法に想到した。
【0015】
本発明の環境温度計測装置は、装置周辺の空気の温度を計測する環境温度計測装置1であって、計測する空気が通過する通気路18と、前記通気路18内にあって、前記通気路18を通過する空気に超音波を照射する超音波照射手段13と、前記通気路18内にあって、前記超音波照射手段13が照射した超音波を受波する超音波受波手段14と、前記通気路18内における前記超音波の伝搬速度を求める伝搬速度計測装置16と、前記通気路18内の気圧を計測する気圧センサ12と、前記通気路18を通過する空気の相対湿度を求める湿度センサ11と、演算手段19とを備え、前記演算手段19は、前記通気路18内における超音波の伝搬速度、前記通気路18を通過する空気の相対湿度及び前記通気路18内の気圧から、前記通気路18を通過する空気の温度を求めることを特徴とする環境温度計測装置である。
【0016】
また本発明の環境温度計測方法は、計測対象の空気に超音波を照射することにより超音波伝搬速度Sv'を求める工程SP5と、前記計測対象の空気の相対湿度RHを計測する工程SP6と、前記計測対象の空気の気圧Pvを計測する工程SP7と、前記相対湿度RHを前記気圧Pvで除することにより湿度気圧パラメターRpを求める工程SP8と、前記湿度気圧パラメターRpと前記超音波伝搬速度Sv'を用いて数値演算することにより前記計測対象の空気の温度(環境温度)Tempを求める工程SP9とを含むことを特徴とする環境温度計測方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、雨、日照、気圧、湿度などの影響を受けることが無く、安定した環境温度の計測が可能である。 また超音波を用いることにより計測時間が短いので、低消費電力動作が可能となる。つまり、本発明によれば、上記した第1の問題、第2の問題、第3の問題、第4の問題のすべてを解決できる環境温度計測装置及び環境温度計測方法、すなわち農場で水や肥料をかけられても、日光の照射を受けても、湿度変化があっても、乾電池で動作して正確な温度を計測できる環境温度計測装置及び環境温度計測方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の環境温度計測装置1の外観を示す図である。
【
図2】本発明の環境温度計測装置1を用いたシステムの全体構成を示す図である。
【
図3】本発明の環境温度計測装置1の断面構造を模式的に示す図である。
【
図4】通気ダクト18の断面構造を示す模式的に示す図である。
【
図5】本発明の環境温度計測装置1のシステム構成を示す図である。
【
図6】CPU19の動作アルゴリズム全体を示すフローチャートである。
【
図7】CPU19の環境温度計算手法を示すフローチャートである。
【
図8】超音波伝搬速度と環境温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0020】
図1は本発明の環境温度計測装置1の外観を示す図である。 環境温度計測装置1はケース10で全体がカバーされ、水や農薬を掛けられても故障しないように構成されている。環境温度計測装置1は内蔵バッテリー(電池)105により駆動されるので、コンセントへの接続は不要である。 また環境温度計測装置1は無線送信アンテナ101を搭載し、計測されたデータが無線でネットワークに伝送される。 接続ケーブルの引き回し等が不要となり、農場でも簡単に使うことができる。無線伝送手段としては低消費電力・長距離無線LPWA(Low Power Wide Area)を用いることができ、電池駆動を実現することができる。
【0021】
図2は本発明の環境温度計測装置1を用いたシステムの全体構成を示す図である。 同図において環境温度計測装置1で計測された環境温度(空気温度)は、無線送信アンテナ101から無線送信される。 この電波は無線基地局7で受信され、インターネットに伝送され、計測結果はクラウドサーバ20に蓄積され、ビッグデータ解析を行うことができる。 また、環境温度やビックデータ解析の結果をスマートフォン8に表示することができる。
【0022】
<環境温度計測装置1の構成>
図3は本発明の環境温度計測装置1の断面構造を模式的に示す図である。 環境温度計測装置1はケース10で雨水を防ぐ防水機能が与えられ、2本の内蔵バッテリー105で駆動される。 中央部には通気ダクト(通気路)18が設けられ、底部の吸気口102から導入された外気(装置周辺の空気)は、通気ダクト18を通って上部のファン15を通過し、排気口103から排気される。
【0023】
超音波スピーカ(超音波照射手段)13は、一定周波数Fcの超音波を放射する。 通気ダクト18を通過する外気により、超音波には伝搬遅延が発生し、超音波マイク(超音波受波手段)14により受信される。伝搬速度計測装置16は、超音波スピーカ13と超音波マイク14への入出力信号から、通気ダクト18を伝搬する超音波の超音波伝搬速度Svを求める。
【0024】
湿度センサ11と気圧センサ12はそれぞれ、通気ダクト18を通過する空気の相対湿度RH、及び気圧Pvを計測する。このようにして得られる3つの計測値(Sv,RH,Pv)を用いて、環境温度(空気温度)Tempを計測する。
【0025】
通気ダクト18の最上部には電動ファン15が設置され、通気ダクト18を強制的に換気する。 電子回路は回路基板17に取り付けられ、遮蔽板104によって通気ダクト18を通過する外気を遮蔽し、外部からのゴミの侵入を防ぐ構成となっている。
【0026】
図4は通気ダクト18の断面構造を示す模式的に示す図である。 通気ダクト18は上下に広がる漏斗状になっている。 超音波スピーカ13から照射された超音波のうち、超音波マイク14に向かわない不要な超音波成分(
図4において破線矢印で示した成分)は、通気ダクト18の内壁で反射されながら上下に伝搬する。 通気ダクト18の内壁に超音波吸音材181(ゴムなど)を施すことにより、不要成分の超音波を速やかに減衰させることができる。
【0027】
図5は本発明の環境温度計測装置1のシステム構成を示す図である。 図上部に示した通気ダクト18には湿度センサ11、気圧センサ12、超音波スピーカ13、超音波マイク14及び電動ファン15が設置される。 伝搬速度計測装置16は、通気ダクト18を通過する外気に関して、超音波伝送速度Svを計測してCPU(演算手段)19に伝送する。 CPU19は電動ファン15を制御し外気を通気ダクト18に導入する。 CPU19はまた、3つの計測値(Sv,RH,Pv)から環境温度Tempを求めて無線送信機177に伝送する。無線送信機177は環境温度Tempを電波に乗せて無線アンテナ101から放射する。
【0028】
内蔵バッテリー105より、各電気回路へは電力が供給される。回路基板17には伝搬速度計測装置16、CPU19及び無線送信機177が搭載される。
【0029】
伝搬速度計測装置16は、発振器171、駆動回路172、バンドパスフィルタ(狭帯域フィルタ)173,174、位相検出器(位相検出手段)175、速度計算装置176で構成される。ここで発振器171は、一定周波数Fcの単一キャリア信号を発生して駆動回路172に供給する。 駆動回路172は、発振信号を増幅して超音波スピーカ13を駆動し、周波数Fcの超音波を通気ダクト18内に照射する。 駆動回路172の出力は、バンドパスフィルタ174にも接続され、単一周波数Fcの基準信号として位相検出器175に提供される。 超音波マイク14により受波された超音波の受信信号はバンドパスフィルタ173により不要な周波数成分が除去された後、上記した位相検出器175により位相が検出され、速度計算装置176により超音波の伝搬速度が算出される。
【0030】
<CPU19による全体制御>
図6はCPU19の動作アルゴリズム全体を示すフローチャートである。
図6では5分ごとに環境温度を計測する場合を想定して、CPU19の制御アルゴリズムを説明する。ステップSP1において、CPU19はスリープ状態にあり、消費電力を極力削減する。5分経過する毎にステップSP2以降を実行する。
【0031】
ステップSP2において、各回路に電源が投入される。ステップSP3においてCPU19は電動ファン15に電源を供給し、通気ダクト18内部に溜まった空気を追い出す。
【0032】
ステップSP4において待機時間だけ待つことにより、通気ダクト18内部の空気温度を環境温度に一致させる。 ステップSP5において、超音波伝搬速度Svを求める。 ステップSP6において、湿度センサ11により通気ダクト18内の相対湿度RHを求める。 ステップSP7において、気圧センサ12により通気ダクト18内の気圧Pvを求める。
【0033】
ステップSP8において、相対湿度RHを気圧Pvで割り算することにより、湿度気圧パラメターRpを求める。 ステップSP9において、後述する演算を実行して環境温度Tempを求める。
【0034】
ステップSP10において、無駄な消費電力を抑えるために電動ファン15が停止され、ステップSP11においてセンサ回路に供給される電源が遮断される。
【0035】
ステップSP12においては、環境温度Tempがペイロードデータとしてセットされ、ステップSP13においてLPWA無線を用いて無線送信アンテナ101により送信される この無線信号は、市街地などに設置された受信基地局7により受信され、環境温度Tempがクラウドコンピュータ20に伝送される。 この結果、例えばスマートフォン8を使うことで、環境温度計測装置1が計測した環境温度Tempを知ることができる。
【0036】
<環境温度Temp演算方法>
本発明では以下に説明する方法で、環境温度Tempを求める。
【0037】
通気ダクト18を通過した超音波は、超音波マイク14により電気信号に変換され、バンドパスフィルタ173に供給される。 バンドパスフィルタ173は、送信された単一周波数Fcと同じ周波数成分だけを抽出し、雑音を除去して位相検出器175に供給する。
【0038】
位相検出器175は、二つのバンドパスフィルタ(173と174)を通過した信号の位相を比較し、位相差φを出力する 速度計算装置176は、位相差φから通気ダクト18内を伝わる超音波伝搬速度Svを以下の式1により求める。
[式1]Sv=(Dx x Fc) ÷ ((φ ÷ 2π) + N)
ここでDxは通気路17の長さであり、Nは通気路17の長さで定まる整数である。 説明を簡略化するため、Nは既知定数であるものとして説明する。
【0039】
ところで乾燥空気であれば、超音波伝搬速度Svから簡単な式で温度を求めることができる。ただし乾燥大気を前提にして計算した温度は「仮温度」と呼ばれ、環境温度とは異なることに注意されたい。本発明では仮温度では無く、相対湿度や気圧による影響を補正して、正しい環境温度を求める。
【0040】
物理法則によれば超音波伝搬速度Svは、気圧Pv、気体定数γと密度ρによって以下の式2で表される。
[式2]Sv=SQRT(γPv ÷ ρ)
ここでSQRTは平方根の演算を表す。 また密度ρは非特許文献1によれば以下の式3で求めることができる。
[式3]ρ=((Pv-RH x Psat) ÷ (Rair x Tk)) + ((RH x Psat) ÷ (Rwv x Tk))
ここで Psatは飽和蒸気圧、Rair と Rwvは定数、Tkは求める環境温度を絶対温度に変換した値である。
【0041】
式3で使われる飽和蒸気圧Psatは、以下の式4で表される。
[式4]Psat(Temp)=0.61121 x exp{ (18.678-(Temp÷234.5)x(Temp÷257.14+Temp)) }
【0042】
ここで、式3に登場する飽和蒸気圧Psatが環境温度Tempの関数になっていることに注意されたい。 このため式2及び式3を環境温度Tempについて解くことができない。
【0043】
本発明ではステップSP8において、相対湿度RHを気圧Pvで除することにより、湿度気圧パラメターRpを求める。 未知のパラメターが1つ減り2個になるので、演算量を減らすことができる。
【0044】
ステップSP9において湿度気圧パラメターRpと超音波伝搬速度Svから環境温度Tempを求めるが、この詳細を
図7のSP91~SP93に示した。
図7はCPU19の環境温度計算手法を示すフローチャートである。
【0045】
ステップSP91において、以下の式5に示す第1の多項式群に湿度気圧パラメターRpを適用し、第2の多項式の係数(K3, K2, K1, K0)を求める。
【数1】
【0046】
ここで Pow(x, y)はべき乗(xのy乗)を表す関数であり、多項式係数α(n, m)は表1に示した値を用いる。表1は、第1の多項式群を構成する係数テーブルである。
【表1】
【0047】
ステップSP92において、伝搬速度Svから定数(318.19)を減ずることにより座標原点を移動したSv’ を求める。 ステップSP93において、以下の式6に示す第2の多項式に伝搬速度Sv’を代入し、環境温度Tempを求めることができる。
[式6]Temp=K3 x Pow(Sv',3) + K2 x Pow(Sv',2) + K1 x Sv' + K0
【0048】
図8は超音波伝搬速度と環境温度との関係を示すグラフである。
図8中「a」のカーブはRp=0の場合であり、相対湿度がゼロでの特性(乾燥空気の特性)を表している。
図8中「b」のカーブは Rp=0.005の場合のカーブであり、 例えば気圧Pvが標準大気圧の値(101.35kPa)、相対湿度 RH=50.6%の場合のカーブである。 同様に
図8中「c」のカーブ(Rp=0.01)は、標高100m(気圧Pv=100kPa)の場所で相対湿度RH=100%である場合のカーブである。
【0049】
図8の3つのカーブが大きく異なることで解るように、超音波の伝搬速度特性は温度だけでなく、湿度や気圧によって大きく変動する。 本発明を適用することにより、乾電池で動作する省電力のCPUを用いても正しい環境温度を計測することが可能となる。
【0050】
本発明によれば、空気に対して3つの測定(超音波伝搬速度、相対湿度及び気圧)を行い、得られた3つの測定値に対して演算を行うことにより、正確な環境温度を計測することができる。また、本発明によれば、相対湿度を気圧で除することにより湿度気圧パラメターを得て、この湿度気圧パラメターにより超音波伝搬速度に作用させることにより、湿度や気圧の影響を除去して正しい環境温度を計測することができる。
【0051】
以上の実施例においては、超音波スピーカ13と超音波マイク14の2種類を用いた例について示した。本発明はこれに限定されることなく、スピーカとマイクを兼用できる超音波素子を使うことも可能である。
【0052】
また本発明の実施例においては超音波の伝送方向を一方向としたが、本発明はこれに限定されることなく、超音波伝送方向を順方向と逆方向に切り替えながら超音波伝搬速度を2回計測し、計測結果の平均を求めることにより空気の揺らぎをキャンセルし、より高精度の計測を行うこともできる。
【符号の説明】
【0053】
1 環境温度計測装置、7 無線基地局、8 スマートフォン、10 ケース、11 湿度センサ、12 気圧センサ、13 超音波照射手段(超音波スピーカ)、14 超音波受波手段(超音波マイク)、15電動ファン、16 伝搬速度演算装置、17 回路基板、18 通気路(通気ダクト)、19 演算手段(CPU)、20 クラウドサーバ、101 無線送信アンテナ、104 遮蔽板、105 電池(内蔵バッテリー)、171 発振器、172 駆動回路、173 バンドパスフィルタ、174 バンドパスフィルタ、175 位相検出器、176 速度計算装置、177 無線通信機、181 超音波吸音材