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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111970
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】操舵システム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220725BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220725BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20220725BHJP
   B62D 103/00 20060101ALN20220725BHJP
   B62D 111/00 20060101ALN20220725BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20220725BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20220725BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D5/04
B62D101:00
B62D103:00
B62D111:00
B62D119:00
B62D137:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067039
(22)【出願日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2021007249
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 康佑
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】須田 理央
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA29
3D232DA33
3D232DA63
3D232DA64
3D232DA76
3D232DA84
3D232DC01
3D232DC08
3D232DC10
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD03
3D232DE02
3D232DE06
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB44
3D333CE50
3D333CE54
3D333CE55
(57)【要約】
【課題】運転支援による転舵角制御が行われている場合に、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されるのを抑えつつ、運転者の意図する操舵操作を転舵角制御に反映されやすくするステアバイワイヤ方式の操舵システムを提供する。
【解決手段】本操舵システムは、トルクセンサ値が介入閾値以下の場合、運転支援目標転舵角(第1目標転舵角)のみを最終目標転舵角に反映する。トルクセンサ値が介入閾値を超える場合、本操舵システムは、トルクセンサ値が増大するにつれて、ドライバ目標転舵角(第2目標転舵角)の最終目標転舵角への反映率(配分比)を上昇させ、トルクセンサ値が減少するにつれて、ドライバ目標転舵角の最終目標転舵角への反映率を低下させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと機械的に切り離され、第1アクチュエータによって操向輪を転舵させる転舵機構と、
ステアリングシャフトを介して前記ステアリングホイールを回転させる第2アクチュエータと、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記第1アクチュエータに与える転舵角指令値によって転舵角を制御する転舵制御装置と、を備え、
前記転舵制御装置は、
運転支援のための第1目標転舵角を当該転舵制御装置の外部から受信する処理と、
前記第1目標転舵角の操舵角への変換である操舵角指令値に従って前記第2アクチュエータを駆動する処理と、
前記操舵角センサで検出される実操舵角の転舵角への変換である第2目標転舵角を演算する処理と、
前記操舵トルクセンサで検出される実操舵トルクの大きさが閾値以下の場合、前記第1目標転舵角のみを最終目標転舵角に反映し、前記実操舵トルクの大きさが前記閾値を超える場合、少なくとも前記第2目標転舵角を前記最終目標転舵角に反映する処理と、
前記最終目標転舵角に基づいて前記転舵角指令値を決定する処理と、
前記運転支援による転舵操作の緩急に応じて前記閾値の大きさを変化させる処理と、を実行する
ことを特徴とする操舵システム。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵システムにおいて、
前記転舵制御装置は、
前記運転支援のモードに応じて前記閾値の大きさを変化させる
ことを特徴とする操舵システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操舵システムにおいて、
前記転舵制御装置は、
前記実操舵トルクの大きさが前記閾値を超える場合、前記実操舵トルクの大きさが増大するにつれて前記第2目標転舵角の前記最終目標転舵角への反映率を上昇させ、前記実操舵トルクの大きさが減少するにつれて前記反映率を低下させる
ことを特徴とする操舵システム。
【請求項4】
ステアリングホイールと機械的に切り離され、第1アクチュエータによって操向輪を転舵させる転舵機構と、
ステアリングシャフトを介して前記ステアリングホイールを回転させる第2アクチュエータと、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記第1アクチュエータに与える転舵角指令値によって転舵角を制御する転舵制御装置と、を備え、
前記転舵制御装置は、
運転支援のための第1目標転舵角を当該転舵制御装置の外部から受信する処理と、
前記第1目標転舵角の操舵角への変換である操舵角指令値に従って前記第2アクチュエータを駆動する処理と、
前記操舵角センサで検出される実操舵角の転舵角への変換である第2目標転舵角を演算する処理と、
前記操舵トルクセンサで検出される実操舵トルクの大きさが閾値以下の場合、前記第1目標転舵角のみを最終目標転舵角に反映し、前記実操舵トルクの大きさが増大するにつれて前記第2目標転舵角の前記最終目標転舵角への反映率を上昇させ、前記実操舵トルクの大きさが減少するにつれて前記反映率を低下させる処理と、
前記最終目標転舵角に基づいて前記転舵角指令値を決定する処理と、を実行する
ことを特徴とする操舵システム。
【請求項5】
請求項4に記載の操舵システムにおいて、
前記転舵制御装置は、
前記反映率の時間当たり変化量に対して上限を設けている
ことを特徴とする操舵システム。
【請求項6】
請求項5に記載の操舵システムにおいて、
前記転舵制御装置は、
前記反映率が増大する場合の前記反映率の時間当たり増大量に対する上限値を、前記反映率が減少する場合の前記反映率の時間当たり減少量に対する上限値よりも高くする
ことを特徴とする操舵システム。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の操舵システムにおいて、
前記転舵制御装置は、
前記実操舵トルクの大きさが所定の閾値を超えた時点で前記最終目標転舵角が前記第2目標転舵角に達していない場合、前記反映率の時間当たり増大量に対する上限に関わらず、前記最終目標転舵角を前記第2目標転舵角まで変化させる
ことを特徴とする操舵システム。
【請求項8】
請求項7に記載の操舵システムにおいて、
前記転舵制御装置は、
前記最終目標転舵角を前記第2目標転舵角まで変化させる際の前記最終目標転舵角の時間当たり変化量に対して上限を設けている
ことを特徴とする操舵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ方式の操舵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、運転者による車両の運転を支援する運転支援装置が知られている。運転支援装置では、運転支援が行われている最中に、運転者による操作への介入が行われる場合がある。特許文献1に記載の従来技術では、運転支援の最中に運転者がステアリングホイールを操作する操作力が閾値を超えたとき、運転支援を中止させ、手動運転に切り替えることが行われる。
【0003】
昨今、上記のような運転支援装置をステアバイワイヤ方式の操舵システムに適用することが検討されている。ステアバイワイヤ方式の操舵システムでは、ステアリングホイールと転舵機構とが機械的に切り離されている。このため、運転支援装置からの信号によって転舵アクチュエータを制御することによって、運転者による意図しないステアリングホイールの操作の影響を受けることなく、運転支援装置が意図する転舵角制御を実現することができる。
【0004】
しかし、運転支援が行われている中での運転者による転舵角制御への介入は、必ずしも運転者の意図によらないものではなく、運転者の意図によるものも含まれる。運転者が意図的に転舵角制御へ介入しようとしているにも関わらず、それを拒絶してしまうと、運転者の心証を損ねてしまうおそれがある。だからと言って、運転者が意図していない転舵角制御への介入までも許容してしまうと、運転者に対して十分な運転支援が行えなくなるおそれがある。ゆえに、運転支援装置による転舵角制御をステアバイワイヤ方式の操舵システムにおいて実施する場合、運転者による転舵角制御への介入を如何に許容し、また、如何に拒否するかは重要な課題であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6451674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、運転支援による転舵角制御が行われている場合に、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されるのを抑えつつ、運転者の意図する操舵操作を転舵角制御に反映されやすくするステアバイワイヤ方式の操舵システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る操舵システム、以下、第1の操舵システムは、ステアリングホイールと機械的に切り離され、第1アクチュエータによって操向輪を転舵させる転舵機構を備える。また、第1の操舵システムは、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールを回転させる第2アクチュエータと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサとを備える。さらに、第1の操舵システムは、第1アクチュエータに与える転舵角指令値によって転舵角を制御する転舵制御装置を備える。
【0008】
第1の操舵システムに係る転舵制御装置は、少なくとも次の第1処理から第6処理までの各処理を実行する。第1処理は、運転支援のための第1目標転舵角を転舵制御装置の外部から受信する処理である。第2処理は、第1目標転舵角の操舵角への変換である操舵角指令値に従って第2アクチュエータを駆動する処理である。第3処理は、操舵角センサで検出される実操舵角の転舵角への変換である第2目標転舵角を演算する処理である。第4処理は、操舵トルクセンサで検出される実操舵トルクの大きさが閾値以下の場合、第1目標転舵角のみを最終目標転舵角に反映し、実操舵トルクの大きさが閾値を超える場合、少なくとも第2目標転舵角を最終目標転舵角に反映する処理である。第5処理は、最終目標転舵角に基づいて転舵角指令値を決定する処理である。そして、第6処理は、運転支援による転舵操作の緩急に応じて閾値の大きさを変化させる処理である。
【0009】
このように構成された第1の操舵システムによれば、以下のような作用及び効果が得られる。
【0010】
運転者によるステアリングホイールの操作が行われていない場合、例えば、運転者がステアリングホイールに手を添えているだけの場合、第2アクチュエータによるステアリングホイールの回転は妨げられない。このため、操舵角センサによって検出されるステアリングホイールの実操舵角から得られる第2目標転舵角は、第2アクチュエータを駆動する操舵角指令値の基礎となる第1目標転舵角と略等しくなる。また、この場合、ステアリングシャフトに操舵トルクは作用しないか、作用したとしても、極めて低い操舵トルクのみが作用する。操舵トルクの大きさが閾値以下の場合、第1目標転舵角のみが最終目標転舵角に反映されることから、運転支援のための転舵制御が行われる。
【0011】
また、運転者からステアリングホイールへの入力があったとしても、ステアリングホイールの操舵角と第2アクチュエータによるステアリングシャフトの回転角との差が小さければ、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクも小さい。ステアリングシャフトに作用する操舵トルクは、運転者に対しては反力として作用する。運転者が意図的に転舵角制御に介入しようとするならば、反力に打ち勝つようにステアリングホイールを操舵し、結果、より大きな操舵トルクが発生する。よって、運転者によって操舵操作が行われたとしても、その操舵操作に伴い検出される実操舵トルクが大きくないのであれば、その操舵操作は運転者の意図したものではないと言える。検出された実操舵トルクが閾値を越えなければ、運転支援のための第1目標転舵角のみが最終目標転舵角に反映される。つまり、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されることは抑えられる。
【0012】
運転者からステアリングホイールに大きな入力があり、ステアリングホイールの操舵角と第2アクチュエータによるステアリングシャフトの回転角との差が大きくなれば、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクも大きくなる。発生している操舵トルクの大きさが大きいほど、運転者の意図的な操舵操作が行われている可能性は高い。検出された実操舵トルクが閾値を越えた場合、第2目標転舵角が最終目標転舵角に反映される。操舵角センサで検出される操舵角から計算される第2目標転舵角は、運転者が要求する目標転舵角を意味している。第2目標転舵角が最終目標転舵角に反映されることで、運転者の意図する操舵操作が転舵操作に反映されるようになる。
【0013】
運転支援ではその役割や機能によって転舵操作の緩急が変化する。運転支援による転舵操作の緩急は第1目標転舵角に現れるので、運転支援による転舵操作の緩急によって第2アクチュエータからステアリングシャフトに作用する駆動力は変化する。第2アクチュエータによってステアリングシャフトが駆動される場合、例えば、運転者がステアリングホイールに手を添えているだけでも、ステアリングホイールから運転者には反力が作用する。運転者には作用する反力は、ステアリングシャフトに作用する駆動力が大きいほど大きくなる。結果、運転支援による転舵操作の緩急によって、運転者が意図していない場合であっても大きな操舵トルクが発生する場合がある。
【0014】
第1の操舵システムによれば、第1目標転舵角のみを最終目標転舵角に反映させるか、或いは、少なくとも第2目標転舵角を最終目標転舵角に反映させるかの判断基準である操舵トルクの閾値は、運転支援による転舵操作の緩急に応じて変えられる。このように、操舵トルクの閾値が運転支援による転舵操作の緩急に応じて変えられることで、役割や機能が異なる運転支援が行われる状況において、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されるのを抑えることができる。また、操舵トルクの閾値が運転支援による転舵操作の緩急に応じて変えられることで、役割や機能が異なる運転支援が行われる状況において、運転者の意図する操舵操作を転舵角制御に反映されやすくすることができる。
【0015】
第1の操舵システムにおいて、転舵制御装置は、運転支援のモードに応じて閾値の大きさを変化させてもよい。例えば、転舵制御装置は、運転支援のモードが急な転舵操作が行われるモードの場合、緩やかな転舵操作が行われるモードに比較して閾値を大きくしてもよい。運転支援のモードに応じて閾値を変化させることで、突然の急激な操舵トルクの変化に対しても適切に対応することができる。
【0016】
また、第1の操舵システムにおいて、転舵制御装置は、操舵トルクの大きさが閾値を超える場合、操舵トルクの大きさに応じて、第2目標転舵角を最終目標転舵角に反映させるようにしてもよい。詳しくは、転舵制御装置は、操舵トルクの大きさが増大するにつれて第2目標転舵角の最終目標転舵角への反映率を上昇させ、操舵トルクの大きさが減少するにつれて反映率を低下させてもよい。これによれば、第1目標転舵角に基づく転舵制御から第2目標転舵角に基づく転舵制御への切り替えに連続性を持たせることができ、切り替え時に車両の挙動が急変することを抑えることができる。また、これによれば、運転者がステアリングホイールに加える操舵トルクに応じてステアリングホイールの操舵角が転舵角に反映される。このため、運転者が意図的に操舵操作を行う場合に、その程度に応じて意図通りの挙動を車両に発生させることができる。
【0017】
本発明の第2の態様に係る操舵システム、以下、第2の操舵システムは、ステアリングホイールと機械的に切り離され、第1アクチュエータによって操向輪を転舵させる転舵機構を備える。また、第1の操舵システムは、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールを回転させる第2アクチュエータと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサとを備える。さらに、第1の操舵システムは、第1アクチュエータに与える転舵角指令値によって転舵角を制御する転舵制御装置を備える。
【0018】
第2の操舵システムに係る転舵制御装置は、少なくとも次の第1処理から第5処理までの各処理を実行する。第1の処理は、運転支援のための第1目標転舵角を転舵制御装置の外部から受信する処理である。第2処理は、第1目標転舵角の操舵角への変換である操舵角指令値に従って第2アクチュエータを駆動する処理である。第3処理は、操舵角センサで検出される実操舵角の転舵角への変換である第2目標転舵角を演算する処理である。第4処理は、操舵トルクセンサで検出される実操舵トルクの大きさが閾値以下の場合、第1目標転舵角のみを最終目標転舵角に反映し、実操舵トルクの大きさが閾値を超える場合、実操舵トルクの大きさの増大に応じて、第2目標転舵角を最終目標転舵角に反映させる処理である。詳しくは、第4処理は、実操舵トルクの大きさが閾値を超える場合、実操舵トルクの大きさが増大するにつれて第2目標転舵角の最終目標転舵角への反映率を上昇させ、実操舵トルクの大きさが減少するにつれて上記反映率を低下させる処理である。そして、第5処理は、運転支援による転舵操作の緩急に応じて閾値の大きさを変化させる処理である。
【0019】
このように構成された第2の操舵システムによれば、以下のような作用及び効果が得られる。
【0020】
第2の操舵システムにおいても、第1の操舵システムの場合と同様、運転者の操舵操作に伴い検出される実操舵トルクが大きくないのであれば、その操舵操作は運転者の意図しないものであると言える。第2の操舵システムによれば、検出された実操舵トルクが閾値を越えなければ、運転支援のための第1目標転舵角のみが最終目標転舵角に反映されるので、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されることは抑えられる。
【0021】
また、第2の操舵システムにおいても、第1の操舵システムの場合と同様、発生している操舵トルクの大きさが大きいほど、運転者の意図的な操舵操作が行われている可能性は高い。第2の操舵システムによれば、検出された実操舵トルクが閾値を越えた場合、第2目標転舵角が最終目標転舵角に反映されることで、運転者の意図する操舵操作が転舵操作に反映されるようになる。
【0022】
さらに、第2の操舵システムでは、実操舵トルクの大きさが閾値を超える場合、操舵トルクの大きさが増大するにつれて第2目標転舵角の最終目標転舵角への反映率は上昇し、操舵トルクの大きさが減少するにつれて第2目標転舵角の最終目標転舵角への反映率は低下する。これによれば、第1目標転舵角に基づく転舵制御と第2目標転舵角に基づく転舵制御との間での切り替えに連続性を持たせることができ、切り替え時に車両の挙動が急変することを抑えることができる。また、これによれば、運転者がステアリングホイールに加える操舵トルクに応じてステアリングホイールの操舵角が転舵角に反映される。このため、運転者が意図的に操舵操作を行う場合に、その程度に応じて意図通りの挙動を車両に発生させることができる。
【0023】
第2の操舵システムにおいて、転舵制御装置は、第2目標転舵角の最終目標転舵角への反映率の時間当たり変化量に対して上限を設けてもよい。運転者の操舵の仕方によっては実操舵角から計算される第2目標転舵角に急変が生じる場合がある。しかし、反映率の時間当たり変化量に対して上限が設けられることで、最終目標転舵角の急変により車両の挙動が急変することは抑えられる。この場合、反映率が増大する場合の反映率の時間当たり増大量に対する上限値を、反映率が減少する場合の反映率の時間当たり減少量に対する上限値よりも高くしてもよい。これによれば、運転者の意図的な操舵を速やかに車両の挙動に反映しつつ、運転中に運転者がステアリングホイールから手を離した場合の車両の挙動の急変を抑えることができる。
【0024】
また、第2の操舵システムにおいて、転舵制御装置は、実操舵トルクの大きさが所定の閾値を超えた時点で最終目標転舵角が第2目標転舵角に達していない場合、反映率の時間当たり増大量に対する上限に関わらず、最終目標転舵角を第2目標転舵角まで変化させてもよい。操舵トルクが一定以上大きくなった場合には、操舵トルクの増大は運転者の意図的な操舵によるものと判断することができる。よって、実操舵トルクの大きさが所定値を超えた場合には、反映率の時間当たり増大量に対する上限に関わらず、最終目標転舵角を第2目標転舵角まで変化させることで、運転者の意図的な操舵を速やかに車両の挙動に反映することができるようになる。この場合、最終目標転舵角を第2目標転舵角まで変化させる際の最終目標転舵角の時間当たり変化量に対して上限を設けてもよい。これによれば、最終目標転舵角が第2目標転舵角に向けて急変することを抑えることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように、本発明によれば、運転支援による転舵角制御が行われている場合に、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されるのを抑えつつ、運転者の意図する操舵操作を転舵角制御に反映されやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態に係るステアバイワイヤ方式の操舵システムの構成を示す図である。
図2図1に示す操舵システムの機能を示すブロック図である。
図3】配分比マップの例を示す図であって、図3Aは車線追従支援時の転舵角制御で用いられる配分比マップの例を示す図、図3Bは緊急回避時の転舵角制御で用いられる配分比マップの例を示す図である。
図4】車線追従支援援時の転舵角制御が行われている場合の最終目標転舵角の計算例その1を示す図である。
図5】車線追従支援援時の転舵角制御が行われている場合の最終目標転舵角の計算例その2を示す図である。
図6】緊急回避時の転舵角制御が行われている場合の最終目標転舵角の計算例を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る配分比制御部の機能を示すブロック図である。
図8図7に示す配分比制御部による配分比の時系列変化のイメージを示す図である。
図9】配分比の時間当たり増加量が上限値によってガードされた場合の配分比の時系列変化のイメージを示す図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る配分比制御部の機能を示すブロック図である。
図11図10に示す配分比制御部による最終目標転舵角の時系列変化のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0028】
1.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る操舵システム2の構成を示す図である。操舵システム2は、操舵装置4と転舵制御装置10と運転支援装置20とを備える。ただし、運転支援装置20を操舵システム2の外部の装置とみなし、操舵装置4と転舵制御装置10とを操舵システム2の構成要素とみなしてもよい。操舵装置4は、操舵機構40と転舵機構30とからなる。操舵装置4は、操舵機構40と転舵機構30とが機械的に切り離されているステアバイワイヤ方式の操舵装置である。
【0029】
操舵機構40について説明する。操舵機構40は、ステアリングホイール41と、ステアリングシャフト42を介してステアリングホイール41に連結されているステアリングモータ(第2アクチュエータ)45とを備える。ステアリングホイール41は、運転者による操舵操作が入力される操舵部材である。ステアリングモータ45は、運転者による手動操舵時と運転支援装置20による自動操舵時とで異なる機能を果たす。運転者による手動操舵時、ステアリングモータ45は、操向輪33の転舵角に応じた反力をステアリングホイール41に付与するための反力モータとして機能する。運転支援装置20による自動操舵時、ステアリングモータ45は、運転支援装置20による目標転舵角(以下、運転支援目標転舵角)に応じた操舵角になるようにステアリングホイール41を回転駆動する。ステアリングモータ45に供給されるモータ駆動電流Imsは、転舵制御装置10によって制御される。ステアリングシャフト42には、ステアリングホイール41の回転角度、すなわち操舵角θsに応じた信号を出力する操舵角センサ43が設けられている。また、ステアリングシャフト42には、ステアリングシャフト42に作用するトルク、すなわち操舵トルクTsに応じた信号を出力する操舵トルクセンサ44が設けられている。
【0030】
次に、転舵機構30について説明する。転舵機構30は、操向輪33を転舵させる転舵モータ(第1アクチュエータ)34を備える。転舵モータ34は、減速機構35を介してラックシャフト31に取り付けられている。ラックシャフト31はステアリングシャフト42には機械的に連結されていない。操向輪33は、タイロッド32を介してラックシャフト31に連結されている。転舵モータ34を回転させてラックシャフト31をその軸方向に直線運動させることにより、タイロッド32を介して操向輪33の転舵角が変更される。転舵モータ34には、操向輪33の転舵角θtに応じた信号を出力する転舵角センサ36が取り付けられている。転舵制御装置10は、転舵角センサ36からフィードバックされる転舵角θtに基づいて転舵モータ34に供給するモータ駆動電流Imtを制御する。
【0031】
転舵制御装置10は、少なくとも1つのプロセッサ10aと少なくとも1つのメモリ10bとを有するECU(Electronic Control Unit)である。メモリ10bには、転舵制御に用いるマップを含む各種のデータや各種のプログラムが記憶されている。プロセッサ10aがメモリ10bからプログラムを読みだして実行することにより、転舵制御に関係する様々な機能が転舵制御装置10において実現される。なお、転舵制御装置10を構成するECUは、複数のECUの集合であってもよい。
【0032】
運転支援装置20は、少なくとも1つのプロセッサ20aと少なくとも1つのメモリ20bとを有するECUである。メモリ20bには、運転支援に用いるマップを含む各種のデータや各種のプログラムが記憶されている。プロセッサ20aがメモリ20bからプログラムを読みだして実行することにより、運転支援、特に転舵角制御に関係する様々な機能が運転支援装置20において実現される。なお、運転支援装置20を構成するECUは、複数のECUの集合であってもよい。また、運転支援装置20と転舵制御装置10とは別々のECUでなく、同一のECUにおいてソフトウェアによる機能として実現される存在であってもよい。
【0033】
図2は、操舵システム2の機能を示すブロック図である。以下、図2を用いて操舵システム2の機能、特に、運転支援による転舵角制御が行われる場合の転舵制御装置10及び運転支援装置20の各機能について説明する。
【0034】
運転支援装置20は、運転支援モード決定部21と運転支援目標転舵角演算部22とを備える。これらは、メモリ20bに記憶されたプログラムがプロセッサ20aで実行されたときに、運転支援装置20の機能として実現される。
【0035】
運転支援モード決定部21は、外部センサ6からの情報、内部センサ7からの情報、及びHMI8からの情報を取得する。外部センサ6は、車両の外部状況に関する情報を取得するセンサである。外部センサ6は、カメラ、ミリ波レーダ、及びLiDARのうち少なくとも一つを含む。内部センサ7は、車両の走行状態を検出するセンサである。内部センサ7は、車速センサ、加速度センサ、及びヨーレートセンサのうち少なくとも一つを含む。HMI8は、運転者による情報入力手段であり、例えば、タッチパネル及びスイッチがこれに該当する。運転支援モードは、運転者によるHMI8に操作によって運転者自身により選択される場合と、外部センサ6からの情報と内部センサ7からの情報とに基づき自動で決定される場合がある。
【0036】
運転支援モード決定部21で決定される運転支援モードは、転舵角制御に係る運転支援のモードである。運転支援モードの例としては、車線の中央を走行させる車線追従支援、障害物との衝突を回避する緊急回避、車線変更、駐車支援等があげられる。これら運転支援モードには優先順位が付けられ、安全への影響が大きい運転支援モードが常に優先される。例えば、運転者により選択された車線追従支援の実行中に緊急回避の条件が成立した場合、運転支援モードは車線追従支援モードから緊急回避モードに自動的に切り替えられる。
【0037】
運転支援目標転舵角演算部22は、運転支援モード決定部21で決定された運転支援モードに応じて、運転支援のための目標転舵角である運転支援目標転舵角(第1目標転舵角)を演算する。目標転舵角の演算には、外部センサ6からの情報や、内部センサ7からの情報が利用される。例えば、運転支援モードが車線追従支援モードである場合、外部センサ6で取得された車線の中央位置に沿った走行軌跡が描かれるように運転支援目標転舵角が演算される。また、運転支援モードが緊急回避モードである場合、外部センサ6で取得された障害物の位置及び速度に基づいて、障害物を回避する走行軌跡が描かれるように運転支援目標転舵角が演算される。運転支援目標転舵角演算部22で演算された運転支援目標転舵角は、運転支援モード決定部21で決定された運転支援モードとともに、転舵制御装置10に送信される。
【0038】
転舵制御装置10は、ステアリングモータ駆動電流制御部11、転舵角変換演算部12、配分比制御部13、及び、転舵モータ駆動電流制御部14を備える。これらは、メモリ10bに記憶されたプログラムがプロセッサ10aで実行されたときに、転舵制御装置10の機能として実現される。
【0039】
ステアリングモータ駆動電流制御部11は、運転支援装置20から受信した運転支援目標転舵角に基づいて、ステアリングモータ45に供給するステアリングモータ駆動電流Imsを生成する。詳しくは、ステアリングモータ駆動電流制御部11は、転舵角と操舵角との間で一義的に成立する相関関係に基づき、運転支援目標転舵角を操舵角に変換する。次に、ステアリングモータ駆動電流制御部11は、変換で得られた操舵角を実現するためにステアリングモータ45に与えるステアリングモータ駆動電流Ims(操舵角指令値)を演算する。ステアリングモータ駆動電流Imsがステアリングモータ45に与えられることで、ステアリングモータ45は、運転支援目標転舵角に応じた操舵角になるようにステアリングホイール41を回転駆動する。
【0040】
転舵角変換演算部12は、転舵角と操舵角との間で一義的に成立する相関関係に基づき、操舵角センサ43で検出された操舵角(実操舵角)θsを転舵角に変換する。この変換で得られる転舵角を、運転者が要求する目標転舵角という意味で、ドライバ目標転舵角と定義する。運転者がステアリングホイール41に手を添えているだけのような場合、ステアリングモータ45によるステアリングホイール41の回転は妨げられない。このため、ステアリングホイール41の実操舵角θsから計算されるドライバ目標転舵角は、ステアリングモータ45を駆動するモータ駆動電流Imsの基礎となる運転支援目標転舵角と略等しくなる。しかし、運転者からステアリングホイール41への入力があった場合は、ステアリングホイール41のステアリングモータ45に対する相対的な回転が生じる。このため、ステアリングホイール41の実操舵角θsから計算されるドライバ目標転舵角と運転支援目標転舵角との間にも差が生じる。
【0041】
転舵角変換演算部12で演算されたドライバ目標転舵角は、運転支援装置20から受信した運転支援目標転舵角とともに配分比制御部13に入力される。配分比制御部13には、さらに、操舵トルクセンサ44で検出された操舵トルクTsと、運転支援装置20で決定された運転支援モードに関する情報とが入力される。
【0042】
配分比制御部13は、予め用意された配分比マップを用いて、ドライバ目標転舵角と運転支援目標転舵角とから最終目標転舵角を演算する。配分比とは、最終目標転舵角における運転支援目標転舵角とドライバ目標転舵角との配分比を意味する。配分比がゼロのとき、最終目標転舵角は運転支援目標転舵角に一致し、配分比が1のとき、最終目標転舵角はドライバ目標転舵角に一致する。また、例えば、配分比が0.5のとき、最終目標転舵角はドライバ目標転舵角と運転支援目標転舵角との平均値となる。よって、配分比は、ドライバ目標転舵角の最終目標転舵角への反映率ということもできる。配分比マップの詳細については後述するが、配分比マップは運転支援モード毎に用意されている。また、配分比マップでは、操舵トルクTsに応じて配分比が変更される。
【0043】
転舵モータ駆動電流制御部14は、配分比制御部13で演算された最終目標転舵角に基づいて、転舵モータ34に供給する転舵モータ駆動電流Imt(転舵角指令値)を演算する。最終目標転舵角から転舵モータ駆動電流Imtを演算するにあたっては、転舵モータ駆動電流Imtの急変を抑えるためのフィルタ処理を施しても良い。転舵モータ駆動電流Imtが転舵モータ34に与えられることで、転舵モータ34は、最終目標転舵角を実現するように転舵機構30を動作させる。
【0044】
次に、図3を用いて配分比マップの詳細について説明する。配分比マップでは、操舵トルクセンサ44で検出される操舵トルクの大きさ(以下、トルクセンサ値ともいう)に対してドライバ目標転舵角と運転支援目標転舵角との配分比が設定されている。トルクセンサ値には2つの閾値、すなわち、介入閾値と切替閾値とが設定されている。切替閾値は介入閾値よりも大きい値である。
【0045】
配分比マップによれば、トルクセンサ値がゼロから介入閾値までの間は、配分比がゼロに設定される。これは、トルクセンサ値が介入閾値に達するまでは、トルクセンサ値の増減によらず、運転支援目標転舵角がそのまま最終目標転舵角として設定されることを意味する。よって、仮に、運転者によって操舵操作が行われたとしても、その操舵操作に伴い操舵トルクセンサ44で検出される操舵トルクの大きさが介入閾値以下であるなら、運転者の操舵操作は転舵操作には反映されない。
【0046】
操舵トルクセンサ44で検出される操舵トルクは、運転者に対しては反力として作用している。運転者が意図的に転舵角制御に介入しようとするならば、反力に打ち勝つようにステアリングホイール41を操舵し、結果、より大きな操舵トルクが発生するはずである。よって、運転者によって操舵操作が行われたとしても、その操舵操作に伴い検出される操舵トルクが大きくないのであれば、その操舵操作は運転者の意図しないものであると言える。配分比マップによれば、トルクセンサ値が介入閾値を越えなければ、運転支援目標転舵角のみが最終目標転舵角に反映される。つまり、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されることは抑えられる。
【0047】
また、配分比マップによれば、トルクセンサ値が切替閾値よりも大きい場合、配分比は1に固定される。これは、トルクセンサ値が切替閾値よりも大きければ、ドライバ目標転舵角がそのまま最終目標転舵角として設定されることを意味する。
【0048】
運転者からステアリングホイール41に大きな入力があり、ステアリングホイール41の操舵角とステアリングモータ45によるステアリングシャフト42の回転角との差が大きくなれば、ステアリングシャフト42に作用する操舵トルクも大きくなる。発生している操舵トルクの大きさが大きいほど、運転者の意図的な操舵操作が行われている可能性は高い。配分比マップによれば、トルクセンサ値が切替閾値を越えると、ドライバ目標転舵角のみが最終目標転舵角に反映される。ドライバ目標転舵角は、操舵角センサ43で検出される操舵角から計算され、運転者が要求する転舵角を表している。ドライバ目標転舵角が最終目標転舵角に反映されることで、運転者の意図する操舵操作が転舵操作に反映されるようになる。
【0049】
トルクセンサ値が介入閾値より大きく且つ切替閾値以下の場合、配分比マップによれば、配分比はトルクセンサ値の増大に比例するように設定される。このような配分比の設定によれば、トルクセンサ値が2つの閾値の間にあるときに設定される最終目標転舵角は、ドライバ目標転舵角と運転支援目標転舵角とトルクセンサ値とをパラメータとして、以下の式によって計算することができる。
最終目標転舵角=ドライバ目標転舵角×配分比+運転支援目標転舵角×(1-配分比)
配分比=(トルクセンサ値-介入閾値)/(切替閾値-介入閾値)
【0050】
上記の計算式から分かるように、トルクセンサ値が介入閾値を超える場合、トルクセンサ値が増大するにつれて、運転支援目標転舵角の最終目標転舵角への反映率は次第に低下する一方、ドライバ目標転舵角の最終目標転舵角への反映率は上昇する。これにより、運転支援目標転舵角に基づく転舵制御からドライバ目標転舵角に基づく転舵制御への切り替えに連続性を持たせることができ、切り替え時に車両の挙動が急変することを抑えることができる。また、上記の計算式から分かるように、運転者がステアリングホイール41に加える操舵トルクに応じてステアリングホイール41の操舵角が転舵角に反映される。このため、運転者が意図的に操舵操作を行う場合に、その程度に応じて意図通りの挙動を車両に発生させることができる。
【0051】
以上のように作成された配分比マップは、運転支援モード毎に用意されている。例えば、図3Aは、車線追従支援時の転舵角制御で用いられる配分比マップの例を示し、図3Bは、緊急回避時の転舵角制御で用いられる配分比マップの例を示している。2つの配分比マップの間には、介入閾値及び切替閾値の大きさに違いがある。
【0052】
図3Aに示す配分比マップでは、介入閾値及び切替閾値は相対的に低い値に設定されている。車線追従支援時の転舵角制御によれば、転舵操作は穏やかであり、運転支援目標転舵角に基づき制御されるステアリングホイール41の操舵角の変化も穏やかである。ゆえに、車線追従支援が行われている際に発生する操舵トルクは、運転者の意図的な操作によるものである可能性が高い。ゆえに、車線追従支援用の配分比マップでは、切替閾値は低く設定されている。また、介入閾値は、車体の振動等による操舵角の微小入力が転舵角に反映されない程度のトルクセンサ値に設定されている。
【0053】
図3Bに示す配分比マップでは、介入閾値及び切替閾値は相対的に高い値に設定されている。緊急回避時の転舵角制御では、急激な転舵操作が行われ、運転支援目標転舵角に基づき制御されるステアリングホイール41の操舵角も急激に変化する。このため、運転者がステアリングホイール41に手を添えているだけでも、ステアリングホイール41から運転者には大きな反力が作用する。運転者に作用する反力は、ステアリングシャフトに作用する駆動力が大きいほど大きくなる。結果、緊急回避に伴う急激な転舵操作によって、運転者が意図していない場合であっても大きな操舵トルクが発生する場合がある。ゆえに、緊急回避用の配分比マップでは、運転者が意図していない操舵操作が転舵角制御に反映されるのを防止するため、介入閾値と切替閾値とは相対的に高い値に設定されている。
【0054】
以上のように、運転支援モードが急な転舵操作が行われるモードの場合、緩やかな転舵操作が行われるモードに比較して、配分比マップにおける介入閾値及び切替閾値は高い値に設定されている。このことは、車線追従支援と緊急回避との間に限らず、他の運転支援モード間にも当てはまる。つまり、配分比マップにおける介入閾値及び切替閾値は、運転支援による転舵操作の緩急に応じて変えられている。介入閾値及び切替閾値が運転支援による転舵操作の緩急に応じて変えられることで、役割や機能が異なる運転支援が行われる状況において、運転者の意図しない操舵操作が転舵角制御に反映されるのを抑えることができる。また、介入閾値及び切替閾値が運転支援による転舵操作の緩急に応じて変えられることで、役割や機能が異なる運転支援が行われる状況において、運転者の意図する操舵操作を転舵角制御に反映されやすくすることもできる。
【0055】
最後に、上記の配分比マップを用いた最終目標転舵角の計算例を紹介する。図4乃至図6の各図において、上段のグラフには、運転支援目標転舵角の時間による変化が二点鎖線で描かれ、ドライバ目標転舵角の時間による変化が破線で描かれ、最終目標転舵角の時間による変化が実線で描かれている。また、図4乃至図6の各図において、下段のグラフには、トルクセンサ値の時間による変化が介入閾値と切替閾値ともに描かれている。
【0056】
図4は、車線追従支援時の転舵角制御が行われている場合の最終目標転舵角の計算例その1を示す図である。図4に示す例は、車線追従支援が実行されている中で運転者による意図的な操舵操作が行われた場合の例である。運転者による意図的な操舵操作によって、ドライバ目標転舵角は運転支援目標転舵角から乖離していき、それに伴い操舵トルクセンサ44で検出される操舵トルクの大きさも増大していく。操舵トルクの大きさが介入閾値を越えるまでは、運転支援目標転舵角が最終目標転舵角として算出される。やがて、操舵トルクの大きさが介入閾値を超えると、ドライバ目標転舵角が最終目標転舵角に反映されるようになる。そして、操舵トルクの大きさがさらに大きくなるにつれて、最終目標転舵角はドライバ目標転舵角に近づいていき、操舵トルクの大きさが切替閾値を超えると、ドライバ目標転舵角がそのまま最終目標転舵角として算出される。これにより、運転者の意図どおりに転舵操作を行えるようになる。
【0057】
図5は、車線追従支援時の転舵角制御が行われている場合の最終目標転舵角の計算例その2を示す図である。図5に示す例は、車線追従支援が実行されている中で運転者の意図しない操舵操作が行われた場合の例である。車体の振動等によって運転者の意図していない操舵がステアリングホイール41に入力された場合、操舵角から計算されるドライバ目標転舵角は振動的になる。しかし、運転者の意図していない操舵操作であるため、大きな操舵トルクは発生せず、運転支援目標転舵角に対するドライバ目標転舵角の乖離は微小な範囲に収まる。そして、発生する操舵トルクが小さく、その大きさが介入閾値の範囲に収まることで、運転支援目標転舵角がそのまま最終目標転舵角として算出される。これにより、車体の振動等の外乱によって車線追従支援時の転舵角制御が妨げられることは抑えられる。
【0058】
図6は、緊急回避時の転舵角制御が行われている場合の最終目標転舵角の計算例を示す図である。図6に示す例では、運転支援装置20による緊急回避のための転舵操作が2度行われている。最初の緊急回避のための転舵操作時には、運転者はステアリングホイール41を動かないように保持しており、反力としての操舵トルクが発生している。しかし、緊急回避の場合、介入閾値は大きな値に設定されるため、操舵トルクが介入閾値を超えることは抑えられている。よって、最初の緊急回避のための転舵操作では、運転支援目標転舵角がそのまま最終目標転舵角として算出される。これにより、運転者の意図しない操舵トルクの入力によって、運転者の意図しない操舵操作によって緊急回避時の転舵角制御が妨げられることは抑えられる。二回目の緊急回避のための転舵操作時には、運転者は意図的に操舵操作を行っている。この場合、操舵トルクの大きさが介入閾値を超えることで、ドライバ目標転舵角が最終目標転舵角に反映されるようになる。これにより、運転者の意図するような挙動を車両に発生させることができる。
【0059】
2.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態と第1実施形態との違いは配分比制御部13の機能にある。図7は、第2実施形態に係る配分比制御部13の機能を示すブロック図である。このブロック図に示す機能のうち変化量ガード部136が第2実施形態の特徴的な機能であり、他の機能は第1実施形態と共通する。以下、第2実施形態に係る配分比制御部13の機能について説明する。
【0060】
第2実施形態に係る配分比制御部13は、配分比演算部131、ドライバ目標転舵角配分部132、運転支援配分比演算部133、運転支援目標転舵角配分部134、配分後目標転舵角演算部135、及び変化量ガード部136を備える。これらは、転舵制御装置10のメモリ10bに記憶されたプログラムがプロセッサ10aで実行されることによって実現される機能である。
【0061】
配分比演算部131は、第1実施形態で説明した配分比マップを用いて、運転支援モード及び操舵トルクの大きさに応じた配分比を演算する。配分比は、ドライバ目標転舵角の最終目標転舵角への反映率を意味している。配分比演算部131で演算された配分比は、後述する変化量ガード部136でガード処理された後、ドライバ目標転舵角配分部132と運転支援配分比演算部133とに入力される。
【0062】
ドライバ目標転舵角配分部132は、ドライバ目標転舵角に配分比を乗じることで得られる値を計算する。運転支援配分比演算部133は、配分比を1から差し引くことにより、運転支援配分比を演算する。運転支援配分比は、運転支援目標転舵角の最終目標転舵角への反映率を意味している。運転支援配分比は、運転支援目標転舵角配分部134に入力される。運転支援目標転舵角配分部134は、運転支援目標転舵角に運転支援配分比を乗じることで得られる値を計算する。
【0063】
ドライバ支援目標転舵角配分部132の出力と運転支援目標転舵角配分部134の出力とは、配分後目標転舵角演算部135に入力される。配分後目標転舵角演算部135は、入力された2つの値を合算することによって配分後目標転舵角を演算する。配分後目標転舵角は、配分比演算部131から最終目標転舵角として出力される。
【0064】
第2実施形態に係る配分比制御部13の特徴部分である変化量ガード部136は、配分比演算部131で演算された配分比の時間当たり変化量に対して上限を設ける。設定される上限値は、配分比が増大する場合と減少する場合とで異ならされている。詳しくは、操舵トルクの増大によって配分比が増大する場合にその時間当たり増大量に対して設定される上限値(増大ガード値)は、比較的高い値に設定されている。一方、操舵トルクの減少によって配分比が減少する場合にその時間当たり減少量に対して設定される上限値(減少ガード値)は、比較的低い値に設定されている。つまり、変化量ガード部136では、配分比の比較的速い増大は許容されているものの、配分比の急速な低下は許容されていない。
【0065】
図8は、配分比演算部131による配分比の時系列変化のイメージを示す図である。図8には、第2実施形態による配分比の時系列変化と併せて、比較例としての第1実施形態による配分比の時系列変化が表されている。図8に示す例では、配分比が増大している場合の配分比の時間当たり増大量は上限値(増大ガード値)で制限されておらず、第1実施形態による配分比の変化と同じ変化を示している。一方、配分比が減少している場合の配分比の時間当たり減少量は上限値(減少ガード値)で制限され、第1実施形態による配分比の変化よりも緩やかな変化を示している。
【0066】
第2実施形態によれば、操舵トルクが増大する場合、配分比の時間当たり増大量に対して設けられる上限値は比較定高い値とされる。このように配分比のある程度の急増は許容することにより、最終目標転舵角をドライバ目標転舵角に速やかに近づけ、運転者の意図的な操舵を速やかに車両の挙動に反映することが可能となる。また、第2実施形態によれば、操舵トルクが減少する場合、配分比の時間当たり減少量に対して設けられる上限値は比較定低い値とされる。このように配分比の急減を許容しないことにより、最終目標転舵角を運転支援目標転舵角に緩やかに漸近させ、運転者がステアリングホイールから手を離した場合の車両の挙動の急変を抑えることが可能となる。
【0067】
3.第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態に関し、第3実施形態が解決する第2実施形態の課題から説明する。第2実施形態では、配分比演算部131の後段に変化量ガード部136が設けられている。変化量ガード部136において配分比の時間当たり増加量が上限値でガードされなかった場合、変化量ガード部136から出力される配分比は、操舵トルクが切替閾値に達したときに1になる。ところが、変化量ガード部136において配分比の時間当たり増加量が上限値によってガードされた場合、操舵トルクが切替閾値に達したときの配分比は1よりも小さい値になる。このため、操舵トルクが切替閾値に達した場合でも、最終目標転舵角はドライバ目標転舵角に到達しない。操舵トルクがある程度の大きさまで増大した場合、運転者の意図的な操舵が行われていると判断することができる。しかし、配分比の時間当たり増加量が上限値でガードされた場合、運転者の意図的な操舵は完全には車両の挙動に反映されない。
【0068】
上記の課題を解決するため、第3実施形態では、配分比制御部13に新たな機能が付加されている。図10は、第3実施形態に係る配分比制御部13の機能を示すブロック図である。このブロック図に示す機能のうち目標転舵角切替演算部137及びオフセット処理部138が第3実施形態の特徴的な機能であり、他の機能は第2実施形態と共通する。目標転舵角切替演算部137及びオフセット処理部138は、転舵制御装置10のメモリ10bに記憶されたプログラムがプロセッサ10aで実行されることによって実現される機能である。以下、第3実施形態に係る配分比制御部13の機能について説明する。
【0069】
目標転舵角切替演算部137には、ドライバ目標転舵角と配分後目標転舵角演算部135から出力される配分後目標転舵角とが入力される。また、参照情報として操舵トルクが目標転舵角切替演算部137に入力される。目標転舵角切替演算部137は、操舵トルクが切替閾値を越えるまでは配分後目標転舵角を出力する。そして、操舵トルクが切替閾値に達したとき、車両の操舵を運転者による操舵に完全に切り替えると判定し、ドライバ操舵判定フラグをオンにする。ドライバ操舵判定フラグがオンになると、目標転舵角切替演算部137は、出力値を配分後目標転舵角からドライバ目標転舵角まで変化させる。これにより、変化量ガード部136による配分比の時間当たり増大量に対する上限に関わらず、最終目標転舵角はドライバ目標転舵角まで急速に変化する。
【0070】
ただし、ドライバ操舵判定フラグがオンになった時点において配分後目標転舵角に対するドライバ目標転舵角のオフセットが大きい場合、目標転舵角の急激な変化によって車両の挙動が急変する虞がある。そこで、オフセット処理部138は、目標転舵角切替演算部137の出力値に対して図11に例示されるようなオフセット処理を行う。
【0071】
図11は、オフセット処理による最終目標転舵角の時系列変化のイメージを示す図である。ドライバ操舵判定フラグがオンになるまでは、目標転舵角切替演算部137からオフセット処理部138には配分後目標転舵角が入力されている。そして、ドライバ操舵判定フラグがオンになった時点で、目標転舵角切替演算部137からオフセット処理部138に入力される目標転舵角はドライバ目標転舵角に切り替えられる。
【0072】
オフセット処理部138によるオフセット処理では、ドライバ操舵判定フラグがオンになった時点での配分後目標転舵角からドライバ目標転舵角へ向けて、最終目標転舵角を徐々に変化させることが行われる。このとき、オフセット処理部138は、最終目標転舵角を変化させることで発生する横加速度の時間当たり変化量が一定となるように最終目標転舵角の時間当たり変化量を制限する。これにより、車両の挙動の急変を抑えることができる。
【0073】
4.その他の実施形態
第2実施形態及び第3実施形態における変化量ガード部136をローパスフィルタに代えてもよい。具体的には、カット周波数が可変のローパスフィルタか、カット周波数が異なる2種類のローパスフィルタを配分比演算部131の後段に設ける。このような構成によれば、操舵トルクが増大している場合には、ローパスフィルタのカット周波数を高くすることで配分比の速い変化を許容することができる。そして、操舵トルクが低下している場合には、ローパスフィルタのカット周波数を低くすることで配分比の急変を許容することができる。
【符号の説明】
【0074】
2 操舵システム
4 操舵装置
10 転舵制御装置
11 ステアリングモータ駆動電流制御部
12 転舵角変換演算部
13 配分比制御部
14 転舵モータ駆動電流制御部
20 運転支援装置
21 運転支援モード決定部
22 運転支援目標転舵角演算部
30 転舵機構
33 操向輪
34 転舵モータ(第1アクチュエータ)
40 操舵機構
41 ステアリングホイール
42 ステアリングシャフト
43 操舵角センサ
44 操舵トルクセンサ
45 ステアリングモータ(第2アクチュエータ)
131 配分比演算部
136 変化量ガード部
137 目標転舵角切替演算部
138 オフセット処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11